説明

エステル交換体の製造方法及びそれを用いたアルキド樹脂の製造方法

【課題】エステル交換金属触媒を実質的に含有しないエステル交換体を提供する。また、そのエステル交換体を使用して、エステル交換金属触媒を実質的に含有しないアルキド樹脂を製造する方法を提供する。
【解決手段】(1)油脂と、多価アルコールとを、エステル交換金属触媒の存在下で反応させて、エステル交換体1を生成し、(2)エステル交換金属触媒を使用することなく、得られたエステル交換体1の存在下に、油脂と、多価アルコールとを反応させて、エステル交換体2を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、エステル交換金属触媒を実質的に含有しないエステル交換体、及びそれを使用する、エステル交換金属触媒を実質的に含有しないアルキド樹脂の製造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塗料の分野においては、近年様々な新たな樹脂が開発され、その用途及び要求性能により使い分けられている。アルキド樹脂は、このような樹脂の中でも旧来から用いられてきたものであり、原料となる油脂の入手が比較的容易である点、及び使用する油脂の油長(含有量)により、製造したアルキド樹脂の性能をコントロールできる利便性を有し、未だにその利用範囲は広い。また、アルキド樹脂は、他の樹脂、例えば、メラミン樹脂や、フェノール樹脂、シリコーン樹脂等の他の樹脂によって変性することにより、その用途を広げることが出来るというメリットを有する。
【0003】
これまで、アルキド樹脂の製造方法については、種々の方法が検討されてきている。アルキド樹脂は、多価アルコールと、多塩基酸との縮合反応によって得られるポリエステル樹脂の内、特に油変性したものを指す。これらアルキド樹脂を製造する方法としては、例えば、油脂、多塩基酸、及び多価アルコールを、鉛や、スズ、亜鉛などの酸化物や、有機酸塩、水酸化物などのエステル交換金属触媒の存在下で反応させる方法(例えば、特許文献1参照)や、エステル交換金属触媒の存在下で、多価アルコールによりエステル交換した油脂に、多塩基酸を加え、更にエステル化反応させる方法(例えば、特許文献2参照)がある。
【0004】
【特許文献1】特開昭57−126号公報
【特許文献2】特開昭51−63803号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまでのアルキド樹脂の製造においては、鉛化合物を代表としたエステル交換金属触媒により、製造時の反応を促進させる手法が取られてきた。
しかしながら、近年の環境問題に対する意識の向上により、このような金属触媒を用いることは困難な状態である。また、鉛化合物のような金属触媒化合物に代替するものとして、ナトリウム化合物や、リチウム化合物のようなアルカリ金属触媒化合物も存在する。しかしながら、これらアルカリ金属化合物は、鉛化合物を始めとした金属触媒化合物と比較すると、その触媒効果が低く、反応を促進するためには、これら化合物を大量に配合する必要がある。一方、アルキド樹脂を製造する際に、大量のアルカリ金属触媒を配合すると、触媒化合物を核として、樹脂原料が反応することにより、ブツが発生するなど問題となる。また、アルカリ金属触媒を大量に配合すると、製造したアルキド樹脂の貯蔵安定性や、製造した樹脂を塗装した際の乾燥性の低下、更には得られた塗膜の耐水性能が低下する問題が生じる。
従って、環境に悪影響を及ぼす金属触媒化合物を用いることなく、性能の良いアルキド樹脂を製造する方法、そのためのエステル交換金属触媒に代わる又はエステル交換金属触媒を実質的に含有しない触媒又は促進剤が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記アルキド樹脂の製造方法のうち、エステル交換金属触媒に代わり得るエステル交換体又はエステル交換反応促進剤を使用する方法に着目した。エステル交換体を製造する際のエステル交換反応において、その反応の初期段階では、油脂と多価アルコールとが分離した状態にあり、反応を促進するためにエステル交換金属触媒を添加する必要がある又は非常に好ましい。一方で、エステル交換体と、多塩基酸とをエステル化反応させる際には、触媒を特に添加する必要がない。これは、エステル交換体には、多価アルコールの水酸基が分子中に1つ又は2つ残っており(逆にいえば、2個又は1個の油脂由来の脂肪酸残基が残っている)、エステル交換体は、多価アルコールに対して親和性を有しているからである。従って、エステル交換体を、無触媒、若しくは低量の触媒系にて製造することが出来れば、実質的に触媒を含まないアルキド樹脂を製造することが可能となるとの考えに基づいている。
【0007】
本発明者らは、実質的に、触媒を含まないエステル交換体を調製するために、鋭意検討を重ねた結果、反応の初期段階では分離状態にある油脂と、多価アルコールとが、一旦反応が始まると、その反応が一気に進行するというエステル交換反応の特質を見出した。そして、得られたエステル交換体を、今度は、エステル交換金属触媒を使用することなく、エステル交換触媒として、順次、油脂と、多価アルコールとのエステル交換反応にそのまま使用し(エステル交換体は、多価アルコールにも、油脂に対しても親和性を有する)、必要により、このエステル交換触媒として使用する反応を繰り返すことにより、最終的には、実質的に、エステル交換金属触媒を含まないエステル交換体が得られることを見出した。更に、このエステル交換金属触媒の実質的に存在しないエステル交換体を使用して、これと、多価アルコールと、多塩基酸とを反応させることにより、エステル交換金属触媒を実質的に含有しないアルキド樹脂が得られことを見出した。
【0008】
本発明は、これらの新たな知見に基づいてなされたものである。
即ち、本発明は、以下の発明に関するものである。
1.エステル交換金属触媒の濃度が、0.01質量%以下であることを特徴とする油脂と、多価アルコールとのエステル交換体。
2.請求項1に記載のエステル交換体の製造方法であって、
(1)油脂と、多価アルコールとを、エステル交換金属触媒の存在下で反応させて、エステル交換体1を生成する工程、
(2)エステル交換金属触媒を使用することなく、得られたエステル交換体1の存在下に、油脂と、多価アルコールとを反応させて、エステル交換体2を生成する工程、
を特徴とする方法。
3.(3)工程(2)を更に繰り返す工程を有する、上記2に記載の方法。
4.上記1に記載されたエステル交換体の存在下に、多価アルコールと、多塩基酸とを反応させることを特徴とする、エステル交換金属触媒を含有しないアルキド樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により得られるエステル交換体は、実質的にエステル交換金属触媒を含有していないことから、これを用いて製造したアルキド樹脂は、環境に対して悪影響を与えることはない。また、エステル交換金属触媒を実質的に含有していないことから、本発明により製造したアルキド樹脂は、良好な貯蔵安定性、乾燥性、得られた被膜の耐水性などの優れた特性を有する。
以下、本発明について、更に詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
エステル交換体の調製
【0011】
本発明のエステル交換体は、まず、油脂及び多価アルコールを、エステル交換金属触媒の存在下にエステル交換反応を行なって調製する。
前記油脂としては、アルキド樹脂を調製する場合に通常使用される油脂を特に制限されることなく、各種の油脂を使用することができる。このような油脂としては、例えば、桐油や、脱水ひまし油、アマニ油、サフラワー油、ひまわり油、菜種油、大豆油、米ぬか油、棉実油、パーム油、椰子油、椰子核油などを使用することができる。これらの油脂は、単独でも、又は組合せて使用してもよい。
多価アルコールとしては、同様に、アルキド樹脂の製造の際に使用されている多価アルコールであれば、特に制限されることなく、各種の多価アルコールを使用することができる。このような多価アルコールとしては、例えば、ペンタエリスリトールや、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、ネオペンチルグリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,5−ペンタンジオールなどが好適に挙げられる。これらの多価アルコールは、単独で、又は組合せて使用してもよい。
【0012】
油脂と、多価アルコールとの配合比率は、モル比にて、例えば、油脂:多価アルコール=1:1.5〜1:2.5の範囲にあることが好ましく、特に、1.0:1.8〜2.2の範囲にあることが更に好ましい。上記範囲外では、未反応の多価アルコール又は油脂が大量に残存し易く、後にアルキド樹脂を製造する際の製造効率及び製造したアルキド樹脂の性能を低下させる等の傾向がある。
エステル交換金属触媒としては、従来より、エステル交換金属触媒として使用されているエステル交換金属触媒を特に制限されることなく、各種のものを使用することができる。このようなエステル交換金属触媒としては、例えば、塩化リチウムや、水酸化リチウム等のリチウム化合物:水酸化ナトリウム、ギ酸ナトリウム等のナトリウム化合物:酢酸鉛、ナフテン酸鉛等の鉛化合物、その他リサージ、水酸化カルシウム、ナフテン酸カルシウム等の化合物等の触媒を使用することができる。これらの内でも、特にリチウム、ナトリウム化合物等の触媒を用いることが、環境の観点から見て望ましい。また、触媒を使用する際には、使用量の範囲にとどめておくことが、後に得られるアルキド樹脂の乾燥性、耐水性等の性能に与える影響を少なくできる。
【0013】
エステル交換金属触媒は、エステル交換体を最初に調製するのに必要である。その後は、得られたエステル交換体がエステル交換反応触媒として使用できるので、エステル交換金属触媒を使用する必要がない。むしろ、得られたエステル交換体を使用して、大量のエステル交換体を調製するのに、エステル交換金属触媒を使用することは、そのような金属触媒を低減させることを目的とする本発明とは反するものである。
本発明では、初めに得られたエステル交換体を、以降は、エステル交換金属触媒を使用しないで、エステル交換体のみで、油脂と、多価アルコールとのエステル交換反応のエステル交換触媒又は促進剤として使用することにより、得られるエステル交換体におけるエステル交換金属触媒の含有量を低減されることを目的とするものである。
触媒として使用するので、大量の多価アルコールと油脂と野エステル交換反応に使用することにより、得られるエステル交換体中には、相対的に初期に使用した金属触媒の量は、大幅に低減している。
【0014】
本発明のエステル交換体は、その分子内に、水酸基と、エステル基とを有するものであるから、初期において分離した状態にある油脂と、多価アルコールとが、エステル交換体を添加することにより、混合しやすい状態となる。即ち、エステル交換体が、前記両成分に対する界面活性剤のような働きをすることにより、触媒を用いることなく、若しくは触媒を使用するとしてもその使用量を極力低減させて反応させることが出来る。ただし、環境に対する影響及び後に得られるアルキド樹脂被膜の乾燥性、耐水性能等を低下させることが無いため、金属触媒を全く添加していない方が好ましいことは言うまでもない。
【0015】
触媒量で使用されるエステル交換体は、エステル交換体を製造する前に予め作成しておくことが出来るし、一旦製造したエステル交換体をストックしておき、次にエステル交換体を製造する際にその一部を使用することも可能である。なお、本発明において「実質的に金属触媒を含有しない」とは、金属触媒が全く含まれていないか、若しくは含まれていたとしても反応系全体中で、0.01質量%以下、より好ましくは0.005質量%以下の範囲にとどまっていることを指す。また、最初にエステル交換体を製造する際に上記範囲を越えて触媒を添加した場合においても、製造したエステル交換体(1)を、新たにエステル交換体(2)を製造する際に用い、当該製造したエステル交換体(2)を更に新たなエステル交換体(3)を製造する際に添加する、と言ったサイクルを繰り返すことで、金属触媒の含有量を低減させ、その含有量を限りなく0に近づけることができる。
【0016】
初めにエステル交換体を調製する場合、油脂と、多価アルコールとのエステル交換反応に使用されるエステル交換金属触媒の配合量は、従来程度の量で十分である。通常、エステル交換金属触媒は、例えば、0.005〜0.04質量%の量で配合される。
次いで、得られたエステル交換体(「エステル交換体1」という。その後に得られるエステル交換体は、2以降の番号が付される。)は、次の、よりエステル交換金属触媒の含有量の低減したエステル交換体2以降を調製するために使用される。
エステル交換金属触媒の含有量をできるだけ低減されるためには、エステル交換体1の配合割合は、エステル交換触媒として機能できる範囲で、できるだけ少ないことが好ましい。
【0017】
2回目以降のエステル交換反応においては、エステル交換体1は、例えば、2〜30質量%、好ましくは、5〜20質量%の範囲内で使用することが望ましい。エステル交換体1の添加量が、2質量%より少ないと、エステル交換反応の効率が悪くなり易い。また、2質量%以上であれば、添加量の上限は特にないが、30質量%以下することが、エステル交換体の製造効率の観点から好ましい。
エステル交換反応は、例えば、230〜260℃、好ましくは、240〜250℃で、一般に、20〜60分、好ましくは、20〜30分、撹拌することにより行なわれる。反応の終了点は、反応系の一部を取りだし、例えば、メタノール等のアルコール系溶媒に溶解するか否かを判断して、フリーの油脂が残存しているかどうかを確認して決めることが出来る。即ち、フリーの油脂が残存していなければ、エステル交換体の製造が終了したことになり、その時点で加熱撹拌反応を終了させることが出来る。なお、エステル交換体製造工程においては、加熱により油脂の酸化を防止し、反応によって生成する水分を除去するため、反応容器を窒素置換し、更に反応中は窒素ガスを吹き込みながら反応させることが、有効な手段となる。
2回目以降のエステル交換反応を繰り返すことにより、エステル交換金属触媒の含有量を、2回目には、0.01質量%以下に低減することができる。
このようにして生成したエステル交換体は、実質的に金属触媒を含有していないので、アルキド樹脂の製造に使用することにより、金属触媒を実質的に含有していないアルキド樹脂を製造することができる。
【0018】
アルキド樹脂の製造方法
アルキド樹脂は、得られたエステル交換体を、多価アルコール及び多塩基酸とを反応させることにより製造することができる。
多価アルコールの範囲は、上記の通りである。
多塩基酸としては、従来より、アルキド樹脂を製造する際に用いられている多塩基酸であれば、特に制限されることなく、各種の多塩基酸を随時使用することができる。このような多塩基酸としては、特に、無水フタル酸や、イソフタル酸、テレフタル酸、アジピン酸、無水トリメリット酸、マレイン酸、フマル酸等を使用することができる。これらの多塩基酸は、単独で使用してもよいし、これらの多塩基酸の混合物として使用することもできる。
【0019】
エステル交換体と多塩基酸との混合比率は、目的とするアルキド樹脂が最終的に必要とする性能によって変わり得る。例えば、アルキド樹脂の油長が15〜70%の範囲にあるように設計することが好ましい。また、水酸基価は、例えば、20〜270KOHmg/g、特に、20〜200KOHmg/gとなるように設計することが好ましい。更に、酸価は、例えば、0〜50KOHmg/g、特に、5〜20KOHmg/gとすることが好ましい。これら各パラメーターを、このような範囲とすることで、得られるアルキド樹脂の耐候性や、乾燥性、付着性等の諸特性が向上する。
【0020】
アルキド樹脂の製造においても、金属触媒をできるだけ使用しないことが望ましい。そのため、2回目以降のエステル交換反応で得られたエステル交換体を触媒として使用することが最適である。
ここで、「金属触媒を実質的に含まない」とは、エステル交換体の製造で述べたと同様の意味である。アルキド樹脂の製造においては、アルキド樹脂の製造のために添加する場合の金属触媒(添加する場合には)と、エステル交換体の製造時に配合した金属触媒の合計量となる。即ち、エステル交換体由来の触媒と、新たに加えた触媒の合計量が、反応系全体中において、0〜0.02質量%の範囲、好ましくは、0〜0.01質量%の範囲であることが必要である。
使用可能な触媒としては、前述の触媒を用いることが可能である。但し、アルキド樹脂の製造時においても、全く触媒を含まない方が良いことは、言うまでもない。
【0021】
なお、必要に応じて、アルキド樹脂の調製においては、ベンゼンや、トルエン、キシレン等の溶媒を加えてもよい。このような添加により、エステル化反応によって生成する水分を共沸除去することができる。
アルキド樹脂の調製において、反応温度は、例えば、200〜260℃、好ましくは、220〜240℃であり、反応時間は、例えば、5〜15時間、好ましくは、8〜12時間であることが望ましい。
アルキド樹脂の調製における反応は、反応系をサンプリングし、その酸価を測定し、酸価が、例えば、0〜50KOHmg/g、好ましくは、5〜20KOHmg/gの範囲となった時点で終了する。なお、エステル交換体に対して加熱を行った場合、エステル交換体の酸化が起こり、アルキド樹脂の製造効率が低下する場合がある。このような場合には、反応容器を窒素置換し、更に撹拌の際には窒素ガスを反応容器に吹き込みながら反応を行うことが有効な手段である。
【0022】
アルキド樹脂の調製において、反応終了後、室温まで戻した後に、製造したアルキド樹脂を、必要に応じて溶媒で希釈することも可能である。これら溶媒としては、樹脂を希釈する際に使用されている溶媒を適宜使用することができ、例えば、アルコール系や、エステル系、ケトン系、芳香族系の各溶媒が使用できる。
得られたアルキド樹脂に対して、その用途によって、シリコン変性や、アクリル変性、エポキシ変性、メラミン変性等の、各変性処理を行うことが出来る。本発明により製造したアルキド樹脂、及びこの変性樹脂は、塗料や接着剤の結合剤として用いることが可能である。
以下、実施例に基づき、本発明を更に詳細に説明する。
【実施例】
【0023】
エステル交換体の製造
参考例1(エステル交換体1の調製)
下記表1の参考例1に示すように、アマニ油と、グリセリンとを、ナフテン酸亜鉛の存在下にエステル交換反応を行なった。この反応では、アマニ油及びグリセリンを添加し、次いで、ナフテン酸亜鉛を添加した後、撹拌しながら、2時間かけて250℃まで昇温し、この温度を維持しながら、撹拌を継続することにより行なった。
なお、反応させる際に使用するフラスコは、原料を入れる前に窒素置換を行い、窒素ガスを吹き込みながら、上記手順を行った。また、反応中、適宜反応系のサンプリング(20ml)を行い、サンプリングした反応液が20℃の環境下において、40mlのメタノールに溶解(濁りがない状態)しなくなった時点を終点として反応を終了させた。
得られたエステル交換体1は、ナフテン酸亜鉛を約0.04質量%含有していた。
【0024】
参考例2(エステル交換体2の調製)
エステル交換金属触媒として、水酸化リチウムを使用することを除いて、参考例1を繰り返し、水酸化リチウムを約0.04質量%含有するエステル交換体2を調製した。
参考例3(エステル交換体3の調製)
参考例3は、エステル交換触媒を一切使用しないでエステル交換反応を行なった場合の例である。
結果を、以下の表1に示す。
【0025】
表1

【0026】
実施例1(エステル交換体4の調製)
実施例1は、参考例1のエステル交換体1をエステル交換触媒として使用した例を示す。この例では、残存するエステル交換金属触媒の量は、0.002質量%となっている。
実施例2〜5(エステル交換体5〜8の調製)
実施例1と同様にして、エステル交換体5〜8を調製した。
結果を、以下の表2に示す。














【0027】
表2

【0028】
実施例1〜3では、参考例1で作成したエステル交換体1を、反応促進用のエステル交換体として添加している。これにより、反応系中におけるエステル交換体の添加量が、反応に及ぼす影響を確認することが可能となる。
実施例4では、実施例1で作成したエステル交換体4を反応促進用のエステル交換体として、実施例5では、実施例4で作成したエステル交換体7を反応促進用のエステル交換体として添加している。これにより、一旦作成したエステル交換体をストックして、これを反応用エステル交換体として使用したときの、反応に与える影響を確認することが可能となる。
【0029】
結果の評価
実施例1〜3の結果から、触媒の含有量が、参考例1が0.04質量%であるのに対し、実施例1〜3の触媒含有量がそれぞれ0.002、0.04、0.001質量%と遙かに触媒の添加量が少ない状態でエステル交換反応を実施できることが分かる。また、実施例1では、触媒の添加量が遙かに少ないにもかかわらず、参考例1と比較して遜色のない反応効率を有していることが確認できる。
更に、実施例4及び5のように、本発明の方法により製造したエステル交換体7及び8を、反応用エステル交換体として添加した場合では、金属触媒配合量が、実質的に0.0001質量%及び0.0質量%となり、金属触媒の影響をなくすことができる。これにより、本発明の製造方法が、金属触媒に依存することなく、エステル交換体を製造することが可能となる。更に、実施例5で得られたエステル交換金属触媒を実質的に含まないエステル交換体8を使用してエステル交換体9のみで、エステル交換反応が、エステル交換金属触媒を使用し場合と同様な効率で有効に実施できることが分かる。
【0030】
このような効果は、参考例1にあるような鉛系触媒だけでなく、参考例2において使用する水酸化リチウムに代表される、アルカリ金属触媒、その他触媒化合物を用いた場合においても、同様に得られることは言うまでもない。
なお、金属触媒及びエステル交換体などのエステル交換反応触媒を使用していない参考例3では、反応自体が進まず、エステル交換体を得ることが出来なかった。
【0031】
応用例1(アルキド樹脂の製造)
上記の実施例で得られたエステル交換体を用いて、実際にアルキド樹脂を製造した。
下記表3に示すように、エステル交換体、グリセリン、無水フタル酸、共沸溶剤としてのソルベッソ100をフラスコに入れ、撹拌しながら、生成水を取り除きつつ、エステル化反応を行った。脱水から3時間後かけて、230℃まで昇温させ、当該温度を維持しつつ反応を行った。なお、反応の終点は、反応系のサンプリングを行い、当該サンプリングした反応系の酸価を測定し、その酸価が12迄下がった時点を反応の終点とした。酸価は、フェノールフタレインを指示薬とし、1/10規定水酸化カリウムのメタノール溶液で手規定することにより測定した。反応させる際に使用するフラスコは、原料を入れる前に窒素置換を行い、窒素ガスを吹き込みながら上記手順を行った。
【0032】
表3

【0033】
表3(続き)

【0034】
評価試験
ワニス外観:
製造したアルキド樹脂の外観を、目視により観察した。
○:ワニスの透明度が高く、濁りのない状態
×:ワニスの透明度が低く、濁りのある状態
【0035】
貯蔵安定性:
製造したワニスを、70℃の恒温槽にて60日貯蔵し、その状態を確認した。
○:ワニスのゲル化、粘度上昇等無く良好な状態
△:ワニスの粘度が上昇しているが、使用に問題のない程度である状態
×:ワニスの粘度が実使用上問題のある程度にまで粘度上昇、若しくはゲル化した状態
【0036】
被膜の耐水性:
上記製造した各ワニスを以下の配合により塗料化し、2×70×150mmのガラス板に対して、4milアプリケーターで塗布し、24時間常温乾燥させた後、20℃の水に6時間浸漬した後の塗膜の変化を、目視により確認した。
【0037】
ワニス 100質量部
5%コバルトドライヤー 1質量部
5%カルシウムドライヤー 1質量部
ミネラルターペン 20質量部
【0038】
○:塗膜に変化が無く、良好な状態
△:塗膜に若干の濁りが生じているが、実使用上問題のない程度である状態
×:塗膜に濁りが生じている状態
【0039】
本発明によれば、従来のエステル交換金属触媒を含有量を著しく低減したエステル交換体を使用することにより、それをエステル交換の触媒として使用できるため、少ないエステル交換体により、大量のエステル交換体を調製することができ、その過程で、当初使用したエステル交換金属触媒の量を実質的に0.01質量%以下とすることができる。更に、得られたエステル交換体を、アルキド樹脂の調製における原料として使用することにより、得られるアルキド樹脂における金属触媒の量をも大幅に、実質的に0%にまで低減することができ、従来残存していた金属触媒によるアルキド樹脂塗料の問題点を大幅に改善することが可能となった。特に、鉛触媒を用いて製造したエステル交換体を用いた参考応用例1では、鉛系触媒の含有量が0.0265質量%と、触媒含有量が高くなっているため、鉛化合物による、環境に対して悪影響を及ぼす可能性が高い。また、水酸化リチウムを用いて製造したエステル交換体を用いた参考応用例2では、触媒の含有量が0.0265質量%であり、ワニスは、濁りが発生じ、貯蔵安定性及び被膜耐水性が低下した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エステル交換金属触媒の濃度が、0.01質量%以下であることを特徴とする、油脂と多価アルコールとのエステル交換体。
【請求項2】
請求項1に記載のエステル交換体の製造方法であって、
(1)油脂と、多価アルコールとを、エステル交換金属触媒の存在下で反応させて、エステル交換体1を生成する工程、
(2)エステル交換金属触媒を使用することなく、得られたエステル交換体1の存在下に、油脂と、多価アルコールとを反応させて、エステル交換体2を生成する工程、
を特徴とする方法。
【請求項3】
(3)工程(2)を更に繰り返す工程を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1に記載されたエステル交換体の存在下に、多価アルコールと、多塩基酸とを反応させることを特徴とする、エステル交換金属触媒を含有しないアルキド樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2007−308658(P2007−308658A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−141681(P2006−141681)
【出願日】平成18年5月22日(2006.5.22)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【Fターム(参考)】