説明

エステル交換反応によるエステルの製造方法

【課題】 エステル交換反応を、触媒分離が不要なプロセスにおいて、しかも高い収率で実行して、ディーゼル燃料に使用可能なエステルを製造する。
【解決手段】 エステルの製造方法は、非晶質ジルコニウム酸化物をジルコニウム元素として30〜70重量%と、チタン酸化物をチタン元素として1〜30重量%を含有する複合酸化物を硫酸化して得られた、硫黄元素として1〜10質量%含有する複合酸化物を含む固体触媒に、原料エステルとアルコールを接触させてエステル交換反応させることを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂類の原料エステルから、エステル交換反応により脂肪酸エステルなどのエステルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エステル交換反応は、例えば、脂肪酸とグリセリンのエステルである油脂を原料として、脂肪酸エステルを製造するために用いられる。このようなエステル交換反応の触媒として、苛性ソーダなどのアルカリ触媒、亜鉛触媒、リパーゼなどの酵素などが用いられている。特許文献1及び特許文献2には、廃食用油とメタノールを苛性ソーダの存在下でエステル交換反応をさせてディーゼル燃料を製造する方法が開示されている。また、特許文献3では、油脂とアルコールから脂肪酸エステルを製造する際に、触媒を添加せずに、油脂および/またはアルコールが超臨界状態になる条件で反応させることが提案されている。
また、特許文献4には、アルカリ金属を触媒に用いた二段反応が開示されている。この場合、アルカリ金属を洗浄した水分を除去するために、吸水樹脂を使用している。
【特許文献1】特開平9−235573号公報
【特許文献2】特開平7−197047号公報
【特許文献3】特開2000−143586号公報
【特許文献4】特再WO2003/070859号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
主にアルカリ金属を触媒としている均一系反応では高収率で反応が進むものの、反応生成物と触媒を分離するプロセスが必要であり、アルカリ洗浄工程など、複雑なプロセスとなっていた。これに加えて、アルカリ金属の製品への流出や遊離脂肪酸の鹸化等も問題であった。また、亜鉛触媒を用いた場合や超臨界状態での反応では、一般に、高圧下での反応が必要であり、反応途中で副生するグリセリンを除去する二段反応が必要であった。
本発明は、こうした状況の下で、触媒の分離が不要でありかつ温和な条件で高い製品収率をもってエステル交換反応を行うことができる、エステル製造用触媒組成物を提供し、またその触媒を用いたエステルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、適切な固体触媒を用い、その固体酸性を制御し、かつ、適当な反応系を設定することにより、触媒分離プロセスが不要、かつ温和で、さらには製品収率が高い、エステル製造用触媒組成物を得るに至った。
即ち、本発明は、
[1]原料エステルにアルコールを接触させて行うエステル交換反応に用いる、ジルコニウム、チタン、および硫黄を含有する複合酸化物を含むエステル製造用触媒組成物、
[2]該複合酸化物が非晶質ジルコニウム酸化物をジルコニウム元素として30〜70質量%と、チタン酸化物をチタン元素として1〜30質量%を含有する複合酸化物を硫酸化処理して得られた複合酸化物であり、かつそれに硫黄を元素として1〜10質量%含有することを特徴とする[1]に記載のエステル製造用触媒組成物、
[3]原料エステルとアルコールを触媒の存在下に接触させてエステルを製造するエステル交換反応において、原料エステルに対するアルコールのモル比が5〜15mol/molであり、該触媒組成物として[1]または[2]に記載の触媒を使用することを特徴とするエステルの製造法、
[4]原料エステルが油脂類であり、アルコールがメタノールまたはエタノールである[3]に記載のエステルの製造方法、
[5]反応温度が200〜300℃である[3]または[4]に記載のエステルの製造方法、
[6]反応圧力が0.5〜3.0MPaである[3]〜[5]のいずれかに記載のエステルの製造方法、に関する。
【発明の効果】
【0005】
本発明の触媒組成物によれば、原料エステルの前処理や触媒分離プロセスが不要で、かつ反応圧力が比較的低く、反応途中での副生グリセリン除去を必要とする二段反応を用いない条件においても高収率でエステル交換反応を行うことができる、エステル交換反応によるエステルの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
〔原料エステル〕
本発明に用いられる原料油脂は、飽和又は不飽和の脂肪族カルボン酸(カルボン酸の炭素数が8〜24程度)のグリセリドであればよい。具体的には油脂類といわれるトリグリセリドが好ましく用いられる。このような油脂類としては、大豆油、ヤシ油、オリーブ油、ラッカセイ油、棉実油、ゴマ油、パーム油、ひまし油などの植物性油脂や、牛脂、豚脂、馬脂、鯨油、イワシ油、サバ油などの動物性油脂があげられる。また、これらの混合物や、使用済み廃油も用いられる。原料エステル中に遊離脂肪酸を0.1重量%〜30重量%、特には1重量%〜20重量%含んでいてもよい。
【0007】
〔アルコール〕
本発明に用いられるアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールのような炭素数が1から3のアルコールを用いることができ、特には、メタノールが好ましい。
【0008】
〔触媒〕
本発明によるエステル製造用触媒組成物における複合酸化物は、非晶質ジルコニウム酸化物をジルコニウム元素として30〜70質量%とチタン酸化物をチタン元素として1〜30質量%を含む複合酸化物を硫酸化処理して得られたものである。
本発明の触媒組成物に用いる原料複合酸化物は、非晶質ジルコニウム酸化物をジルコニウム元素として30〜70質量%含有する複合酸化物である。また、ジルコニウムを元素として、特に好ましくは40〜65質量%、さらには45〜62質量%が好ましい。ここでジルコニウム酸化物とは、水和酸化物の形態の場合も含む。硫酸化後も非晶質の状態にある。また、ジルコニウム酸化物および硫酸化して調製した触媒が非晶質であることは、X線回折(XRD)により、回折ピークが実質的にないことで確認することができる。具体的には、回折ピークの強度が検出限界以下であるか、または、結晶性ジルコニウム酸化物による回折強度を100とした場合に、2以下のピークしか検出されないときにそのジルコニウム酸化物が「非晶質」であるとみなすことができる。ジルコニウム酸化物の含有量がジルコニウム元素として30質量%未満または70質量%を超える場合は触媒活性が低下する。
【0009】
本発明の触媒組成物に用いる原料複合酸化物は、更に酸化チタンをチタン元素として1〜30質量%含有するものであり、特に好ましくは2〜20質量%、さらには5〜15質量%が好ましい。エステル交換反応は、通常、100℃〜300℃の高温下で行われるために反応に関与しているジルコニウム酸化物が結晶化しないようにする必要がある。本発明の触媒では、チタン酸化物がジルコニウム酸化物の結晶成長を抑制していると考えられる。このため、チタン酸化物の含有量が1質量%未満であるとジルコニウム酸化物の結晶成長が促進し、触媒活性は低下することになる。一方チタン酸化物がチタン元素として30質量%を超えるとジルコニウム酸化物の多くの表面がチタン酸化物で覆われてしまうため触媒活性は低下する。ここでジルコニウム酸化物の結晶化温度は、チタン酸化物を含むことにより、450℃以上、特には500℃以上にすることができる。ジルコニウム酸化物の結晶化温度は、通常、900℃以下である。結晶化温度は熱天秤−示差熱(TG−DTA)分析において、室温から加熱し、重量変化が生じない状態で現れる発熱ピークのピーク温度として測定することができる。
【0010】
本発明で用いる触媒の原料である、非晶質のジルコニウム酸化物をジルコニウム元素として30〜70質量%、チタン酸化物をチタン元素として1〜30質量%含む複合酸化物は、粉体として一般に入手可能であり、例えば、第一稀元素化学工業株式会社から入手することができる。
この複合酸化物を硫酸根含有化合物と接触させて、硫酸化処理する。
硫酸根含有化合物は、硫酸根を含有する化合物、または、その後の焼成などにより硫酸根に変換されうる硫黄分を含んだ化合物であり、硫酸根含有化合物としては、硫酸、硫酸アンモニウム、亜硫酸、亜硫酸アンモニウム、塩化チオニル、ジメチル硫酸などが挙げられる。硫酸根含有化合物の使用量は、硫酸化処理して最終的に得られる複合酸化物中に含有される硫黄が硫黄元素として1〜10質量%となるよう用いることが好ましい。硫酸根含有化合物は水溶液のような溶液を用いて複合酸化物と接触させても良いし、硫酸根含有化合物と複合酸化物とを乳鉢で粉砕しながら物理混合することにより接触させても良い。
また、非晶質ジルコニウム酸化物と硫酸根化合物とを接触させたのち酸化チタンと混合しても良い。非晶質ジルコニウム酸化物と酸化チタンとをそれぞれ硫酸根化合物と接触させた後、両者を混合させることもできる。
上記のように硫酸根含有化合物を含む複合酸化物を熱処理して安定化させ、本発明の触媒組成物を得る。熱処理は、空気または窒素などのガス雰囲気中で行われるが、特には空気中で行うことが好ましい。熱処理温度は、処理時間、ガス流量など他の熱処理条件によっても異なるが、通常300〜800℃、好ましくは400〜600である。熱処理時間は、熱処理温度、ガス流量など他の熱処理条件によっても異なるが、通常1〜5時間、好ましくは2〜3時間である。なお、熱処理に先立ち、100〜300℃で乾燥しても良く、熱処理を省き乾燥工程だけ行うこともできる。
触媒中の硫酸根の含有量は、硫黄元素として1〜10質量%、特に好ましくは2〜8質量%、さらには3〜5質量%が好ましい。ここで、硫黄含有量が1質量%未満または10質量%を超える場合は十分な触媒活性が得られない。
【0011】
本発明で用いる触媒粒子の平均粒径は2〜200μmが好ましく、比表面積は100〜500m/g、特には150〜400m/gが好ましく、さらに好ましくは180〜350m/gである。また、触媒の中央細孔直径D50は2〜100nmが好ましく、より好ましくは2〜15nm、さらに好ましくは5〜10nmである。2nm以下の場合は、触媒粒子の細孔内での原料および生成物の拡散が阻害されるため好ましくない。100nm以上の場合は、比表面積が低下してしまうため好ましくない。また、触媒粒子の全細孔容積が0.3cc/g以上、特に細孔径が2〜15nmの細孔の容積が0.1cc/g以上であることが好ましい。なお、比表面積及び中央細孔直径は、それぞれ窒素吸脱着法によるBET法及びBJH法により測定できる。また、触媒を成形する際にはバインダーとしてγ等の結晶性を有するアルミナ等を使用しても良い。
【0012】
〔エステル交換反応〕
本発明の製造方法に用いられるトリグリセリドのエステル交換反応の一例を以下に示す。
【化1】

式中、R1、R2、R3は炭化水素基を示す。反応温度は、原料エステルが液相状態にあり、アルコールが気相状態となる温度であり、具体的には100℃以上、好ましくは200〜300℃であり、より好ましくは230〜270℃である。また、反応圧力は、0.5〜3MPaが好ましく、さらに好ましくは0.8〜2MPaである。流通式反応においては、WHSV(重量空間速度)0.5〜3/時程度で生成物を十分に得ることができる。さらに、原料油脂に対するアルコールの比率を5〜15mol/molとなるように、アルコールを導入することが好ましい。反応温度が200℃以下の場合は、十分な転化率、収率が得られないため好ましくない。300℃以上の場合は、製品エステルが異性化を起こし、低温流動性が悪くなるため好ましくない。また、反応圧力が0.5MPa以下の場合は、十分な転化率、収率が得られないため好ましくない。3MPa以上の場合は、装置が大規模となるため好ましくない。
【0013】
本反応により製造されたエステルは、触媒との分離の容易さから、液相で得られることが好ましい。反応形式は、バッチ式、流動式などを用いることができる。本発明の触媒は、固定床として用いることが好ましく、これにより触媒が生成物には含まれることなく、分離回収される。なお、本反応は一段で行うこともできるが、二段で反応させ、途中、副生するグリセリンを除去しても良い。
実施例
【0014】
以下、本発明のエステル製造方法を実施例により詳細に説明する。
実施例1〜3
【0015】
触媒の原料として、第一稀元素化株式会社製酸化ジルコニウム(ZrO2)−酸化チタン(TiO2)からなる複合酸化物(触媒A)を用いた。これにS/Zr比が0.2mol/molとなる割合で硫酸アンモニウム(関東化学製)を、乳鉢を用いて粉砕しながら物理混合し、空気中で550℃で3時間焼成することによって、触媒Bを得た。この触媒の組成、比表面積及び中央細孔径を表1に示す。触媒が非晶質であることはX線回折により確認した。X線回折ピークの有無は、理学電子製RAD−1C(CuKα、管電圧30KV、管電流20mA)でスキャン速度4°/分、スキャン幅0.02°で回折ピークが検出限界を超えるピークが検出されたかの有無で決定した。検出限界を超えるピークがない場合、または、結晶性ジルコニウム酸化物のピーク強度を100として、2以下のピークしかない場合は、ピークはないものとした。
【0016】
【表1】

【0017】
上記触媒B 2gを、上下方向長さ50cm、内径1cmの固定床流通式反応器中に充填した。この反応器に原料エステルとしてトリオレイン酸グリセリド(東京化成製)とアルコールとしてメタノールを、それぞれ、1.5g/時、0.5g/時の原料供給量で、上端から導入した。このときのWHSVは0.75/時であり、メタノール/油比は9.2mol/molであった。反応温度は230〜270℃であり、反応圧力は1.0MPaであった。
【0018】
反応器下端(出口)から取り出された液体中のモノオレイン酸グリセリド、ジオレイン酸グリセリド、トリオレイン酸グリセリド、オレイン酸メチルをゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により、実験開始後24時間の時点で測定した。ここでは、4種の化合物がトリオレイン酸グリセリドからできたものとみなし、トリオレイン酸グリセリドの残量から転化率を、オレイン酸メチルの生成量から収率を計算した。転化率、収率は表2に示すように、それぞれ、95〜98%、89〜97%であった。
同様に、比較例として、硫酸化処理を行っていない触媒Aを用いて反応を施したところ、転化率、収率はそれぞれ92%、84%となった。
以上のことから、硫酸化処理を行うことで、非常に高い転化率及び収率で脂肪酸エステルが製造できることがわかる。
【0019】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明の硫酸化したジルコニウム酸化物−チタン酸化物触媒を用いたエステル交換反応によるエステルの製造方法によると、高い収率でエステルを製造することができる。それゆえ、本発明は、廃油などを用いたディーゼル燃料の製造に好適であり、CO2の排出量削減による地球環境の保護に貢献する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料エステルにアルコールを接触させて行うエステル交換反応に用いる、ジルコニウム、チタン、および硫黄を含有する複合酸化物を含むエステル製造用触媒組成物。
【請求項2】
該複合酸化物が非晶質ジルコニウム酸化物をジルコニウム元素として30〜70質量%と、チタン酸化物をチタン元素として1〜30質量%を含有する複合酸化物を硫酸化処理して得られた複合酸化物であり、かつそれに硫黄を元素として1〜10質量%含有することを特徴とする請求項1に記載のエステル製造用触媒組成物。
【請求項3】
原料エステルとアルコールを触媒の存在下に接触させてエステルを製造するエステル交換反応において、原料エステルに対するアルコールのモル比が5〜15mol/molであり、該触媒として請求項1または請求項2に記載の触媒組成物を使用することを特徴とするエステルの製造法。
【請求項4】
原料エステルが油脂類であり、アルコールがメタノールまたはエタノールである請求項3記載のエステルの製造方法。
【請求項5】
反応温度が200〜300℃である請求項3または請求項4に記載のエステルの製造方法。
【請求項6】
反応圧力が0.5〜3.0MPaである請求項3〜請求項5のいずれかに記載のエステルの製造方法。


【公開番号】特開2007−190450(P2007−190450A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−8329(P2006−8329)
【出願日】平成18年1月17日(2006.1.17)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】