説明

エステル化合物の製造方法

【課題】 廃水等の廃棄物がわずかであり、且つ反応後の濾過工程が、従来技術に比べてほとんど不要もしくは短時間で行える、生産性に優れた、エステル化合物の製造方法を提供すること。
【解決手段】 ブレンステッド酸イオン液体(A)の存在下、超臨界状態の二酸化炭素(B)中で、有機酸(C)と分子内に水酸基を有する化合物(D)とを脱水縮合反応させるエステル化合物の製造方法。有機酸(C)はカルボン酸が好ましい。またブレンステッド酸イオン液体(A)は、特定の一般式(1)〜(3)で表されるものが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生産性に優れた、エステル化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エステル化合物の製造法については種々の方法が提案されている。例えば、酸触媒の存在下にカルボン酸とアルコールとを反応させ、生成する水を系外に除去する方法(脱水縮合反応)、及びカルボン酸と低級アルコールのエステルとアルコールとを反応させ、副生する低級アルコールを除去する方法(エステル交換反応)などが一般的である。
【0003】
脱水縮合反応による方法は、反応後に触媒の硫酸やパラトルエンスルホン酸等の強酸及び過剰の有機酸を除去するため、中和・水洗による多量の廃水が生じ、また工程も長くなるという欠点がある。
【0004】
エステル交換反応による方法は、脱水反応に比べると廃水は少ないが、通常触媒に使用されるチタンアルコキシド等を除去するため加水分解により不溶化濾過することが一般的であり、触媒の加水分解物の濾過性が悪く工程が長い欠点があった。これに対し、チタンアルコキシド等の触媒の迅速な除去を目的として、脱水能力を有する無機物及び高分子凝集剤を添加する方法が提案されている(例えば特許文献1)。しかし脱水させる為に加えた多量の無機物及び高分子凝集剤の濾過工程が必要となる上、廃水等の廃棄物の量が多少軽減される程度であり、好ましい方法とは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−037762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、廃水等の廃棄物がわずかであり、且つ反応後の濾過工程がほとんど不要もしくは短時間で行える、生産性に優れた、エステル化合物の製造方法を提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく検討を行った結果、本発明に到達した。即ち本発明は、ブレンステッド酸イオン液体(A)の存在下、超臨界状態の二酸化炭素(B)中で、有機酸(C)と分子内に水酸基を有する化合物(D)とを脱水縮合反応させるエステル化合物の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のエステル化合物の製造方法は、わずかな沈殿物を濾過するのみで濾過工程が短時間で行え、生成する水を系外に除去する事無く、廃棄物がわずかな廃水のみであり、生産性に優れるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のエステル化合物の製造方法は、ブレンステッド酸イオン液体(A)の存在下、超臨界状態の二酸化炭素(B)中で、有機酸(C)と分子内に水酸基を有する化合物(D)とを脱水縮合反応させることを特徴とする。
【0010】
本発明におけるブレンステッド酸イオン液体(A)は、分子内にブレンステッド酸基(例えば置換されてもよいスルホン酸基、リン酸基及びホウ酸基等)を有し、40℃以下で液体となる有機塩のことであり、その構造は特に限定されないが、例えば下記一般式(1)〜(3)等が挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。
【0011】
【化1】

【0012】
式中、R1〜R5、R7〜R10及びR12〜R26はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の1価のアシル基、炭素数1〜20の1価のアルキル基、炭素数1〜20の1価のアルコキシ基、炭素数1〜20の1価のアルキルチオ基、炭素数1〜20の1価のアルキルシリル基、ニトロ基、カルボキシル基、水酸基、メルカプト基、アミノ基、シアノ基、フェニル基及びナフチル基からなる群から選ばれる原子又は置換基であって、R6、R11及びR27は、炭素数1〜20の2価のアルキレン基及び/又は炭素数1〜30の2価のアルキレンオキシド基であり、(X1)-〜(X3)-は、それぞれ陰イオンを表す。
【0013】
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素が挙げられ、フッ素及び塩素が好ましい。
【0014】
炭素数1〜20の1価のアシル基としては、例えばホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、イソブチリル基、バレリル基及びシクロヘキシルカルボニル基等が挙げられる。
【0015】
炭素数1〜20の1価のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−又はiso−プロピル基、n−、sec−又はtert−ブチル基、n−、iso−又はneo−ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基及びオクチル基等が挙げられる。
【0016】
炭素数1〜20の1価のアルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−又はiso−プロポキシ基、n−、sec−又はtert−ブトキシ基、n−、iso−、又はneo−ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基及びオクチルオキシ基等が挙げられる。
【0017】
炭素数1〜20の1価のアルキルチオ基としては、例えばメチルチオ基、エチルチオ基、n−又はiso−プロピルチオ基、n−、sec−又はtert−ブチルチオ基、n−、iso−又はneo−ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、ヘプチルチオ基及びオクチルチオ基等が挙げられる。
【0018】
炭素数1〜20の1価のアルキルシリル基としては、例えばトリメチルシリル基及びトリイソプロピルシリル基等のトリアルキルシリル基等が挙げられる。ここでアルキルは直鎖構造でも分岐構造でも構わない。
【0019】
炭素数1〜20の2価のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、n−又はiso−プロピレン基、n−、sec−又はtert−ブチレン基、n−、iso−又はneo−ペンチルレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基及びオクチレン基等が挙げられる。
【0020】
炭素数1〜30の2価のアルキレンオキシド基としては,ジエチレンオキシド基、トリエチレンオキシド基、ヘキサエチレンオキシド基及びオクタプロピレンオキシド基等が挙げられる。
【0021】
これらの内、触媒能の観点より、一般式(1)において、R1〜R5は水素原子、R6は炭素数3又は4のアルキレン基であることが好ましく、一般式(2)において、R7は水素原子又はメチル基、R8は炭素数1〜4のアルキル基、R9、R10は水素原子、R11は炭素数3又は4のアルキレン基であることが好ましく、一般式(3)において、R12〜R26は水素原子、R27は炭素数3又は4のアルキレン基であることが好ましい。
【0022】
一般式(1)〜(3)において、(X1)-〜(X3)-で表される陰イオンとしては、ハロゲン化物アニオン、水酸化物アニオン、チオシアナートアニオン、炭素数1〜4のジアルキルジチオカルバメートアニオン、炭酸アニオン、炭酸水素アニオン、硫酸アニオン、硫酸水素アニオン、ハロゲンで置換されていてもよい脂肪族又は芳香族カルボキシアニオン(安息香酸アニオン、トリフルオロ酢酸アニオン、パーフルオロアルキル酢酸アニオン、及びフェニルグリオキシル酸アニオン等)、ハロゲンで置換されていてもよい脂肪族又は芳香族スルホキシアニオン(トリフルオロメタンスルホン酸アニオン及びp−トルエンスルホン酸アニオン等)、6フッ化アンチモネートアニオン(SbF6-)、ホスフィンアニオン[6フッ化ホスフィンアニオン(PF6-)及び3フッ化トリス(パーフルオロエチル)ホスフィンアニオン(PF3(C253-)等]及びボレートアニオン(テトラフェニルボレート及びブチルトリフェニルボレートアニオン等)等が挙げられ、これらの内、触媒能の観点から、ハロゲンで置換されていてもよい脂肪族又は芳香族スルホキシアニオン及び/又はハロゲンで置換されていてもよい脂肪族又は芳香族カルボキシアニオンが好ましく、ハロゲンで置換されていてもよい脂肪族又は芳香族スルホキシアニオンが更に好ましい。
【0023】
本発明におけるブレンステッド酸イオン液体(A)の添加量は、触媒能の観点から、有機酸(C)と分子内に水酸基を有する化合物(D)の合計重量に対して、好ましくは0.05〜300重量%、更に好ましくは0.1〜200重量%である。
【0024】
本発明におけるブレンステッド酸イオン液体(A)の製造方法は特に限定されないが、例えば、ピリジン、エチルイミダゾール及びトリフェニルホスフィン等のいずれか1モルに、例えば1,3−プロパンスルトン及び1,4−ブチレンスルトン等のいずれか1モルを反応させて塩構造を形成させた後、例えばp−トルエンスルホン酸を1モル加える事により得られる。
【0025】
ブレンステッド酸イオン液体(A)を用いる事で、生成する水を系外に除去する工程を経る事無く、脱水縮合反応によるエステル化合物の製造が可能となる。
【0026】
本発明における超臨界状態の二酸化炭素(B)は、例えば、臨界温度(31.0℃)及び臨界圧力(7.4MPa)以上の条件を満たした時に見受けられる圧縮性流体の事である。更に、超臨界流体は物質に固有の気液臨界温度、圧力を超えた非凝縮性流体と定義される。臨界温度を超えているために分子の熱運動が激しく、かつ密度を理想気体に近い希薄な状態から液体に対応するような高密度な状態まで圧力を変える事によって連続的に変化させる事ができる。
【0027】
また、超臨界状態の二酸化炭素(B)を用いる事で、通常よりも短時間で反応が進行する。その理由として、1つ目は、反応系の遷移状態を安定化し活性化エネルギーを下げるためであり、2つ目は、ルイス酸性場であるが故に脱水縮合反応によるエステル化合物の生成を促進する為であり、超臨界状態の窒素等ではこのような反応を促進する効果は見受けられない。
【0028】
本発明における二酸化炭素(B)中での反応時の温度は、二酸化炭素の超臨界領域温度の範囲であり、脱水縮合反応の反応速度の観点から31℃〜180℃ が好ましく、更に好ましくは40℃〜150℃である。
【0029】
本発明における反応時の圧力は、二酸化炭素の超臨界領域圧力の範囲であり、反応速度、副反応、装置の簡便性の観点から、7.4MPa〜30MPaが好ましく、更に好ましくは10MPa〜20MPaである。
超臨界状態の二酸化炭素(B)は、ブレンステッド酸イオン液体(A)、有機酸(C)、分子内に水酸基を有する化合物(D)、及び必要により後述する溶剤を含む反応系が、反応温度で上記の圧力となる量用いるのが好ましい。
【0030】
本発明における反応時間は反応温度に応じて調整すればよいが、生産性の観点から0.1〜20時間が好ましく、更に好ましくは0.3〜20時間である。
【0031】
本発明における有機酸(C)は、特に限定されないが、カルボン酸、リン酸及びそれらの無水物が挙げられ、例えば以下の(i)〜(x)のものが挙げられる。これらの内、反応効率の観点より、好ましくはカルボン酸である。これらは、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0032】
(i) 炭素数(COOH基中の炭素を除く、以下同様)1〜30又はそれ以上の脂肪族モノカルボン酸;
飽和脂肪族モノカルボン酸(酢酸、プロピオン酸、オクチル酸、ステアリン酸等)及び不飽和脂肪族モノカルボン酸(アクリル酸、メタクリル酸及びラウリル酸等)。
【0033】
(ii) 炭素数1〜30又はそれ以上の脂肪族多価(好ましくは2〜8価)カルボン酸;
飽和脂肪族多価カルボン酸(コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等)及び不飽和脂肪族多価カルボン酸(マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸及びグルタコン酸等)。
【0034】
(iii) 炭素数6〜30又はそれ以上の芳香族モノカルボン酸;
安息香酸、トルイル酸、キノリンカルボン酸及びp−クロロ安息香酸等。
【0035】
(iv) 炭素数6〜30又はそれ以上の芳香族多価(好ましくは2〜8価)カルボン酸;
イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸及びジフェニルジカルボン酸等。
【0036】
(v) 炭素数3〜30の脂環式モノカルボン酸;
シクロプロパンカルボン酸及びシクロブタンカルボン酸等。
【0037】
(vi) 炭素数7〜15又はそれ以上の芳香脂肪族カルボン酸;
2−フェニルエタン酸、モノベンジル酢酸及び1,2−ジフェニルヘキサン酸等。
【0038】
(vii) (i)〜(vi)の無水物;
無水マレイン酸、無水アクリル酸、無水メタクリル酸、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラブロモ無水フタル酸、ヘキサブロモ無水フタル酸、無水ハイミック酸及び無水ヘット酸等。
【0039】
(viii) 炭素数1〜30又はそれ以上の脂肪族リン酸、亜リン酸、ホスホン酸;
脂肪族リン酸(メチルリン酸、エチルリン酸、ジメチルリン酸、ジエチルリン酸、メチルエチルリン酸、ジブチルリン酸、ジヘキシルリン酸及びジ(2−エチルヘキシル)リン酸等)、脂肪族亜リン酸(メチル亜リン酸、エチル亜リン酸等)及び脂肪族ホスホン酸(メチルホスホン酸及びエチルホスホン酸等)。
【0040】
(ix) 炭素数6〜30又はそれ以上の芳香族リン酸、亜リン酸、ホスホン酸;
芳香脂肪族リン酸(フェニルリン酸、ピリジルリン酸、p−クレシルリン酸ジ及びジフェニルリン酸等)、芳香族亜リン酸(フェニル亜リン酸及びピリジル亜リン酸等)及び芳香族ホスホン酸(フェニルホスホン酸、ピリジルホスホン酸等)。
【0041】
(x) (viii)〜(ix)の無水物;
メチルリン酸、エチルリン酸、フェニルリン酸等の上記リン酸の無水物。
【0042】
本発明における分子内に水酸基を有する化合物(D)は、特に限定されないが、低分子アルコール及びポリエーテルアルコール等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0043】
1価の低分子アルコールとしては、炭素数1〜30の脂肪族飽和アルコール(メタノール、エタノール、ブタノール、オクタノール及びステアリルアルコール等)、脂肪族不飽和アルコール(アリルアルコール、プロペニルアルコール、プロパルギルアルコール及びオレイルアルコール等)及び芳香脂肪族アルコール(ベンジルアルコール等)等が挙げられる。
【0044】
多価の低分子アルコールとしては、炭素数2〜30の2価アルコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチルペンタンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシエチル)ベンゼン及び2,2−ビス(4,4’−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン等)、炭素数2〜30の3価アルコール(グリセリン及び、トリメチロールプロパン等)及び炭素数2〜30の4〜8価のアルコール(ペンタエリスリトール、ジグリセリン、α−メチルグルコシド、ソルビトール、キシリット、マンニット、ジペンタエリスリトール、グルコース、フルクトース及びショ糖等)等が挙げられる。
【0045】
ポリエーテルアルコールとしては、水、上記1価及び多価の低分子アルコール、炭素数6〜30のフェノール類(フェノール、クレゾール、ピロガロ―ル、カテコール及びヒドロキノン等)、ビスフェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールF及びビスフェノールS等)、炭素数1〜30のアミノ基含有化合物〔アンモニア、アルキルアミン(ブチルアミン等)、アニリン、アルキレンジアミン(エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等)、ポリアルキレンポリアミン(ジエチレントリアミン等)、ピペラジン、N−アミノエチルピペラジン、ジクロヘキシルメタンジアミン、イソホロンジアミン、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、ジエチルトリレンジアミン、キシリレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン、ジフェニルエーテルジアミン、ポリフェニルメタンポリアミン、ポリアミドポリアミン[例えば多価カルボン酸(ダイマー酸等)と過剰の(酸1モル当たり2モル以上の)ポリアミン(上記アルキレンジアミン、ポリアルキレンポリアミン等)との縮合により得られる低分子量ポリアミドポリアミン];ポリエーテルポリアミン[ポリエーテルアルコール(ポリアルキレングリコール等)のシアノエチル化物の水素化物];シアノエチル化ポリアミン[例えばアクリロニトリルとポリアミン(上記アルキレンジアミン、ポリアルキレンポリアミン等)との付加反応により得られるシアノエチル化ポリアミン、例えばビスシアノエチルジエチレントリアミン等]、ヒドラジン類(ヒドラジン、モノアルキルヒドラジン等)、ジヒドラジット(コハク酸ジヒドラジット、アジピン酸ジヒドラジット、イソフタル酸ジヒドラジット、テレフタル酸ジヒドラジット等)、グアニジン類(ブチルグアニジン、1−シアノグアニジン等)、ジシアンジアミド、モノエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、モノブタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−ブチルジエタノールアミン及びこれらのジメチル硫酸あるいはベンジルクロリド等の4級化剤による窒素原子4級化物等〕、前記(i)〜(vii)で例示したカルボン酸及びその無水物、炭素数1〜30のチオール基含有化合物(エチレンジチオール、プロピレンジチオール、1,3−ブチレンジチオール、1,4−ブタンジチオール、1、6−ヘキサンジチオール及び3−メチルペンタンジチオール等)、並びに前記(viii)〜(x)で例示したリン酸化合物及びその無水物からなる群から選択された活性水素化合物の、アルキレンオキシド付加物等が挙げられる。
アルキレンオキシドは炭素数2〜4のものが好ましく、より好ましくはエチレンオキシド(EO)、プロピレンオキシド(PO)である。付加モル数(1分子あたり)は特に限定されないが、好ましくは2〜100モルである。
【0046】
本発明における分子内に水酸基を有する化合物(D)の使用量は、廃棄物低減の観点から、有機酸(C)のカルボキシル基1当量に対する(D)の水酸基の当量が、好ましくは0.5〜2、更に好ましくは0.9〜1.1である。
【0047】
本発明のエステル化合物の製造方法においては、必要により溶剤を使用する事ができる。溶剤としては、ヘキサン、デカン、クロロホルム、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、シクロヘキサノン、及びシクロペンタノン等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0048】
溶剤の使用量は、有機酸(C)と分子内に水酸基を有する化合物(D)の合計重量を基準として0〜96重量%であることが好ましく、更に好ましくは3〜95重量%、特に好ましくは5〜90重量%である。
【0049】
本発明の製造方法においては、耐圧容器中の有機酸(C)、分子内に水酸基を有する化合物(D)、ブレンステッド酸イオン液体(A)、及び必要により溶剤の混合物中に、二酸化炭素を超臨界状態となるように導入し、前記の温度、圧力及び時間で脱水縮合反応させるのが好ましい。
反応後の容器内は、生成したエステル化合物の層とブレンステッド酸イオン液体(A)の層(生成水、未反応原料等を含む)の2層に分離しているため、分液操作により、2層を分離する。エステル化合物の層には、通常少量のブレンステッド酸イオン液体(A)が溶解しているため、シリカ等の吸着剤を加えて(A)を吸着し濾別して、目的とするエステル化合物を得るのが好ましい。なお、ブレンステッド酸イオン液体(A)の層は、必要により、蒸留等により、(A)、生成水、未反応原料をそれぞれ分離して、(A)及び未反応原料を再利用してもよい。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、%は重量%、部は重量部を示す。
【0051】
製造例1
<ブレンステッド酸イオン液体(A−1)[下記化学式(4)で示される化合物]の合成>
撹拌機、ガス導入管、冷却管及び温度計を備えたフラスコに、ピリジン79部、1,4−ブタンスルトン136部及びトルエン500部を仕込み、25℃で3時間撹拌した後、析出物215部を濾取した。その析出物215部に、トリフルオロメタンスルホン酸150部を加え、混練する事で、目的とするブレンステッド酸イオン液体(A−1)[下記化学式(4)で示される化合物]365部を得た(収率100%)。
【0052】
【化2】

【0053】
製造例2
<ブレンステッド酸イオン液体(A−2)[下記化学式(5)で示される化合物]の合成>
撹拌機、ガス導入管、冷却管及び温度計を備えたフラスコに、エチルイミダゾール96部、1,3−プロパンスルトン122部、及びトルエン500部を仕込み、25℃で3時間撹拌した後、析出物218部を濾取した。その析出物218部に、p−トルエンスルホン酸190部を加え、混練する事で、目的とするブレンステッド酸イオン液体(A−2)[下記化学式(5)で示される化合物]390部を得た(収率100%)。
【0054】
【化3】

【0055】
製造例3
<ブレンステッド酸イオン液体(A−3)[下記化学式(6)で示される化合物]の合成>
撹拌機、ガス導入管、冷却管及び温度計を備えたフラスコに、トリフェニルホスフィン262部、1,3−プロパンスルトン122部及びトルエン500部を仕込み、25℃で3時間撹拌した後、析出物384部を濾取した。その析出物384部に、トリフルオロ酢酸114部を加え、混練する事で、目的とするブレンステッド酸イオン液体(A−3)498部[下記化学式(6)で示される化合物]を得た(収率100%)。
【0056】
【化4】

【0057】
実施例1
撹拌機、ガス導入管、冷却管及び温度計を備えた耐圧反応釜に、有機酸(C)として酢酸120部、分子内に水酸基を有する化合物(D)としてジエチレングリコール106部及び製造例1で製造したブレンステッド酸イオン液体(A−1)10部を仕込み、45℃まで昇温した後、液化二酸化炭素をポンプで送り込み、反応釜内を12MPaとし、超臨界状態とした。撹拌しつつ、3時間反応させた後、室温まで冷却し、大気圧まで減圧した。反応釜内は生成したエステル化合物の層とブレンステッド酸イオン液体(A−1)を含む層の2層に分離している為、分液操作により、エステル化合物とブレンステッド酸イオン液体(A−1)を含む混合物を分離した。エステル化合物には約3%のブレンステッド酸イオン液体(A−1)が溶けている為、シリカ粉末[和光純薬(株)製「ワコーゲルC−200」]10部を加え、25℃で1時間撹拌した後、濾過によりブレンステッド酸イオン液体(A−1)をシリカに吸着除去する事で、目的とするエステル化合物(Q−1;ジエチレングリコールジアセテート)188部を得た(収率97%)。
分液操作により回収されたブレンステッド酸イオン液体(A−1)を含む混合物48部の内訳は、ブレンステッド酸イオン液体(A−1)が6部、未反応の原料が6部、生成水が36部であったが、蒸留操作により「廃水36部」と「ブレンステッド酸イオン液体(A−1)6部と未反応原料6部」に分ける事ができ、「ブレンステッド酸イオン液体(A−1)6部と未反応原料6部」は次回反応に再使用できる。つまり、実施例1における廃棄物は「廃水36部」と「精製に使用したシリカ由来の固形物14部」の合計50部のみであった。
【0058】
実施例2
「酢酸120部」を「アクリル酸432部」に、「ジエチレングリコール106部」を「ジペンタエリスリトール254部」に、「ブレンステッド酸イオン液体(A−1)」を「ブレンステッド酸イオン液体(A−2)」に変更する以外は実施例1と同様にして、エステル化合物(Q−2;ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)555部を得た(収率96%)。
実施例2における廃棄物は、実施例1と同様に、「廃水108部」と「精製に使用したシリカ由来の固形物13部」の合計121部のみであった。
【0059】
実施例3
「酢酸120部」を「トリメリット酸210部」に、「ジエチレングリコール106部」を「アリルアルコール174部」に、「ブレンステッド酸イオン液体(A−1)」を「ブレンステッド酸イオン液体(A−3)」に変更する以外は実施例1と同様にして、エステル化合物(Q−3;トリメリット酸トリアリルエステル)380部を得た(収率99%)。
実施例3における廃棄物は、実施例1と同様に、「廃水54部」と「精製に使用したシリカ由来の固形物14部」の合計68部のみであった。
【0060】
実施例4
「酢酸120部」を「メタクリル酸172部」に、「ジエチレングリコール106部」を「ポリエチレングリコール(数平均分子量=200;三洋化成工業製「PEG−200」)200部」に変更する以外は実施例1と同様にして、エステル化合物(Q−4;ポリエチレングリコールジメタクリレート)326部を得た(収率97%)。
実施例4における廃棄物は、実施例1と同様に、「廃水36部」と「精製に使用したシリカ由来の固形物15部」の合計51部のみであった。
【0061】
比較例1(超臨界窒素中での反応)
「液化二酸化炭素」を「液化窒素」に変更する以外は実施例1と同様にして、超臨界状態にて反応した所、エステル化合物(Q−1;ジエチレングリコールジアセテート)は生成しておらず、原料回収のみであった(原料回収率100%)。
【0062】
比較例2(ブレンステッド酸基の無いイオン液体での反応)
「ブレンステッド酸イオン液体(A−1)」を「1−エチル−3−メチルイミダゾリウム硫酸水素塩[東京化成(株)製]」に変更する以外は実施例1と同様にして反応した所、エステル化合物(Q−1;ジエチレングリコールジアセテート)は生成しておらず、原料回収のみであった(原料回収率100%)。
【0063】
比較例3(液化二酸化炭素中での反応)
「12MPa」を「5MPa」に変更し、液化二酸化炭素中で反応させる以外は実施例1と同様にして反応した所、エステル化合物(Q−1;ジエチレングリコールジアセテート)は生成しておらず、原料回収のみであった(原料回収率100%)。
【0064】
比較例4(イオン液体では無いブレンステッド酸での反応)
「ブレンステッド酸イオン液体(A−1)」を「p−トルエンスルホン酸」に変更する以外は実施例1と同様にして反応した所、エステル化合物(Q−1;ジエチレングリコールジアセテート)14部を得た(収率7%)。
【0065】
比較例5(通常の脱水エステル化反応)
撹拌機、ガス導入管、冷却管及び温度計を備えたフラスコに、有機酸(C)として酢酸120部、分子内に水酸基を有する化合物(D)としてジエチレングリコール106部、p−トルエンスルホン酸1水和物10部及びトルエン500部を仕込み、120℃まで昇温した後、生成水を系外に除去しながら24時間反応させた。室温まで冷却し、5%水酸化ナトリウム水溶液500部で水洗、分液した。減圧留去によりトルエンを除去する事で、エステル化合物(Q−1;ジエチレングリコールジアセテート)188部を得た(収率97%)。
比較例5における廃棄物は「廃水516部」であり(減圧留去したトルエンは回収、再使用可能)、実施例1の10倍以上の廃棄物が副産された。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のエステル化合物の製造方法は、わずかな沈殿物を濾過するのみでよく濾過行程が短時間で済み、且つ生成する水を系外に除去する事無く、廃棄物がわずかな廃水のみであり、生産性に優れている為、得られるエステル化合物の構造に限定される事なく使用でき、有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレンステッド酸イオン液体(A)の存在下、超臨界状態の二酸化炭素(B)中で、有機酸(C)と分子内に水酸基を有する化合物(D)とを脱水縮合反応させるエステル化合物の製造方法。
【請求項2】
前記有機酸(C)が、カルボン酸である請求項1記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項3】
前記ブレンステッド酸イオン液体(A)が、下記一般式(1)〜(3)で表される1種以上の化合物である請求項1または2記載のエステル化合物の製造方法。
【化1】

[式中、R1〜R5、R7〜R10及びR12〜R26はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の1価のアシル基、炭素数1〜20の1価のアルキル基、炭素数1〜20の1価のアルコキシ基、炭素数1〜20の1価のアルキルチオ基、炭素数1〜20の1価のアルキルシリル基、ニトロ基、カルボキシル基、水酸基、メルカプト基、アミノ基、シアノ基、フェニル基及びナフチル基からなる群から選ばれる原子又は置換基であって、R6、R11及びR27は、炭素数1〜20の2価のアルキレン基及び/又は炭素数1〜30の2価のアルキレンオキシド基であり、(X1)-〜(X3)-は、それぞれ陰イオンを表す。]
【請求項4】
前記一般式(1)におけるR1〜R5が水素原子であり、R6が炭素数3又は4のアルキレン基である請求項3記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項5】
前記一般式(2)におけるR7が水素原子又はメチル基であり、R8が炭素数1〜4のアルキル基であり、R9、R10が水素原子であり、R11が炭素数3又は4のアルキレン基である請求項3記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項6】
前記一般式(3)におけるR12〜R26が水素原子であり、R27が炭素数3又は4のアルキレン基である請求項3記載のエステル化合物の製造方法。

【公開番号】特開2012−250915(P2012−250915A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122583(P2011−122583)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】