説明

エステル合成油

【課題】 高純度かつ高引火点で、熱安定性および酸化安定性に優れたエステル合成油を提供すること。
【解決手段】 脂肪酸アルキルエステルとネオペンチルポリオールとのエステル交換反応を選択し、脂肪酸アルキルエステル過剰の条件下でフルエステル選択率が97.0%以上になるまで反応し、続けて未反応の原料脂肪酸アルキルエステルの残存率が、0.5%以下になるまでトッピング除去を行うことで得られるポリオール脂肪酸エステルを含むことを特徴とするエステル合成油。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネオペンチルポリオールと脂肪酸アルキルエステルから合成したポリオール脂肪酸エステルからなる合成油に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境意識の高まりにより、環境にやさしい植物由来の原料を用いたり、環境に放出されても容易に生分解されたりする素材に注目が集まっている。中でも脂肪酸部位と、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のネオペンチルポリオール部位とのエステル構造を持つヒンダード型のポリオール脂肪酸エステルからなる合成油は、石油を原料とする鉱油に比べて生分解性に優れ、低粘度・低流動点で、引火点が高くなる特徴を持つことから、その活用が期待されている。
【0003】
これらのポリオール脂肪酸エステルは、通常、ネオペンチルポリオールと脂肪酸とをエステル化反応させることにより製造されるが、合成工程において未反応の脂肪酸を除去することは難しく、反応率は95%程度に留まり、未反応のネオペンチルポリオールや脂肪酸が残存してしまい、純度を高められないという問題があった。また、この未反応の脂肪酸の残存により、引火点が下がったり、熱安定性や酸化安定性が悪くなったりしてしまう問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来における問題点を解決し、高純度かつ高引火点で熱安定性、酸化安定性に優れたポリオール脂肪酸エステルからなる合成油を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、ヒンダード型のポリオール脂肪酸エステルの合成方法とその性状について鋭意研究を重ねた結果、脂肪酸アルキルエステルとネオペンチルポリオールとのエステル交換反応を選択し、脂肪酸アルキルエステル過剰の条件下でネオペンチルポリオールの水酸基すべてに脂肪酸基が結合したエステル、即ち、フルエステルの選択率が97.0%以上になるまで反応し、未反応の脂肪酸アルキルエステルの残存量を0.5%以下になるまでトッピングして得られるポリオール脂肪酸エステルを含むことを特徴とするエステル合成油が、上記課題を解決することを見出した。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、高純度かつ高引火点で熱安定性、酸化安定性に優れたエステル合成油を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、脂肪酸アルキルエステルとネオペンチルポリオールを合成原料とする。脂肪酸アルキルエステルとしては、炭素数が6から22の直鎖または分岐の飽和または不飽和の脂肪酸と炭素数が1から4の直鎖または分岐の低級アルコールとのアルキルエステルから選ばれる1種または2種以上からなる。
前記脂肪酸アルキルエステルの例としては、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、イソブチルエステルが挙げられる。
より具体的には、カプロン酸メチル、カプロン酸エチル、カプリル酸メチル、カプリル酸エチル、カプリル酸プロピル、カプリル酸イソプロピル、カプリル酸ブチル、カプリン酸メチル、カプリン酸エチル、カプリン酸プロピル、カプリン酸イソプロピル、カプリン酸ブチル、ラウリン酸メチル、ラウリン酸エチル、ラウリン酸プロピル、ラウリン酸イソプロピル、ラウリン酸ブチル、ラウリン酸イソブチル、ミリスチン酸メチル、ミリスチン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸ブチル、ミリスチン酸イソブチル、ミリスチン酸tertブチル、パルミチン酸メチル、パルミチン酸エチル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸メチル、ステアリン酸エチル、イソステアリン酸メチル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、ベヘン酸メチル、リノール酸メチル、リノレン酸メチル、アラキジン酸メチル、エルカ酸メチル等が挙げられる。
これらの中でも、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸の中鎖飽和脂肪酸のメチルエステルが熱安定性や酸化安定性に優れる点で好ましい。
【0008】
前記ネオペンチルポリオールとしては、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。これらの中でもトリメチロールプロパンがポリオール脂肪酸エステルを合成した際に低温流動性を確保できる点で好ましい。
【0009】
本発明で得られるヒンダード型のポリオール脂肪酸エステルは、ネオペンチルポリオールの水酸基すべてに脂肪酸基が結合したフルエステルの構造である。水酸基の一部が残っている構造を部分エステルと呼ぶ。ガスクロマトグラフィーによる合成物分析により得られたピーク面積において、合成されたフルエステルおよび部分エステルの総量のうち、フルエステルの面積割合を選択率と定義するが、この選択率が97.0%以上であることが求められる。好ましくは、98.0%以上である。選択率が97.0%未満では、反応部位となる水酸基を持つ部分エステルが残っているため、熱安定性や酸化安定性が悪くなる。
脂肪酸アルキルエステルの残存率については、同じくガスクロマトグラフィーによる生成物の分析により得られたピーク面積において、フルエステル分、部分エステル分、未反応の脂肪酸アルキルエステル分を合算したもののうち、脂肪酸アルキルエステル分の面積割合を脂肪酸アルキルエステル残存率と定義する。この残存率が0.5%以下であることが求められる。好ましくは、0.4%以下、更に好ましくは0.3%以下である。0.5%より多いと、引火点が低下し、更に熱安定性や酸化安定性が悪くなる。
【0010】
脂肪酸アルキルエステルとネオペンチルポリオールとの反応は、エステル交換反応によって行われる。脂肪酸アルキルエステル過剰量となるように、脂肪酸アルキルエステルとネオペンチルポリオールを反応容器内に仕込み、窒素雰囲気下、アルカリ触媒存在下で、所定の温度、所定の圧力条件のもと、脂肪酸アルキルエステルを還流させると同時に副生するアルコールを系外に留出させながら、フルエステルの選択率が97.0%以上になるまでポリオール脂肪酸エステルの合成反応を行う。その後、未反応の脂肪酸アルキルエステルを減圧下トッピングにより0.5%以下になるまで系外に除去し、固体触媒を使用した場合は、適宜、触媒を濾過除去することによって、あるいは均一系触媒を使用した場合は、中和処理することによって、所望のポリオール脂肪酸エステルが得られる。反応容器としては、還流管を備え付けたガラス製、グラスライニング製、またはステンレス製の反応釜を用いることができる。
脂肪酸アルキルエステルとネオペンチルポリオールとの仕込み比は、ネオペンチルポリオールの水酸基のモル数に対して、フルエステル製造のための脂肪酸アルキルエステルの必要モル量の1.05〜1.30倍当量であることが好ましい。1.05より小さいと反応が十分に進行せず、1.30より大きいとトッピング操作で取り除かなければならない脂肪酸アルキルエステルが大量になり非効率である。
【0011】
アルカリ触媒としては、通常のエステル交換反応で用いられる触媒を使用すればよく、固体触媒であれば、例えば、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、均一系触媒であれば、ナトリウムメチラートが挙げられる。反応後の除去が容易である点で固体触媒が好ましく、中でも、炭酸水素ナトリウムが好ましい。触媒の添加量は、脂肪酸アルキルエステルとネオペンチルポリオールとの合計重量に対して、0.05〜5.0質量%が好ましい。0.05質量%より小さいと反応が十分進行しない場合があり、5.0質量%より大きいと除去あるいは中和処理すべき触媒量が多くなり、製造工程への負荷が高くなってしまう。
【0012】
反応は、窒素雰囲気下で行われるが、減圧下でも常圧の窒素ガス流通下で行っても良い。副生するアルキルアルコールが効率的に留去できる条件が好ましい。減圧下であれば、133Pa(1torr)〜53320Pa(400torr)が好ましく、133Pa〜33325Pa(250torr)がより好ましい。減圧度はこれらの範囲で一定条件のもとで、あるいは、段階的に減圧度を高める条件でもかまわない。窒素ガス流通下であれば、ガス流量が0.1〜50L/min程度であることが好ましい。
反応温度は、通常のエステル交換反応が進行する温度であればよく、50〜250℃が好ましく、100〜230℃がより好ましい。50℃より低いと反応が進行しない場合があり、250℃より高いと反応生成物の色調が劣化したり、臭気が悪くなったりすることがある。
反応時間は、エステル交換反応の進行によりフルエステル生成量が所定の量になるまでの時間になるが、通常、1〜20時間である。
【0013】
反応後に過剰に仕込んだ脂肪酸アルキルエステルを系外に除去するためにトッピング操作を行うが、トッピング時の減圧度は、1330Pa(10torr)以下であることが好ましい。減圧度が高いほど、脂肪酸アルキルエステルを除去する時間が短くて済む。トッピング時間は、0.5〜6時間であることが好ましい。
【0014】
反応、トッピング操作後には、触媒の除去あるいは不活化を行うことが好ましい。固体触媒を使用した場合は、触媒をリーフ濾過器やフィルタープレス機等を用いて、濾過除去することが好ましい。この際、濾過を効率的に行うために、凝集促進剤やプレコート処理を行ってもよい。
均一系触媒を使用した場合は、触媒の中和あるいはイオン交換による吸着処理することが好ましい。中和においては、酸性化合物を添加することでアルカリ触媒を中和させる。酸性化合物としては、塩酸、硫酸、酢酸、クエン酸、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等が挙げられる。また、イオン交換による吸着処理剤としては、協和化学工業製のキョーワードシリーズが挙げられる。
【0015】
脂肪酸とネオペンチルポリオールとのエステル化反応においても同様のヒンダード型ポリオールを合成することはできるが、脂肪酸メチルエステルに比べて脂肪酸の沸点が高いため、トッピング工程において脂肪酸の除去が十分できず、1%以上残ってしまう。脂肪酸が残存していると、エステル油の酸価が高くなり、熱安定性が悪くなる。脂肪酸の残存量を低減するために、脂肪酸とネオペンチルポリオールを当量で反応を行うことも考えられるが、この方法では反応後のフルエステルの選択率が93%程度までしか高めることができず、熱安定性および酸化安定性が悪くなる。
【0016】
本発明のポリオール脂肪酸エステルは、高純度かつ高引火点で、酸化安定性、熱安定性に優れるため、それ自体単品であるいは他の潤滑油と混合することで、金属加工油、エンジン油、ギヤ油、油圧作動油、冷凍機油、冷媒、熱媒として使用できる。更には、より耐久性を高める目的で必要に応じて任意の酸化防止剤や潤滑油添加剤と混合して使用することもできる。酸化防止剤としては、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)等のフェノール系酸化防止剤、ジオクチルジフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン等のアミン系酸化防止剤、アスコルビン酸(ビタミンC)、トコフェロール(ビタミンE)等が挙げられ、中でも、フェノール系酸化防止剤、トコフェロールが好ましく、BHT、BHA、トコフェロールがより好ましい。潤滑油添加剤としては、極圧剤、清浄分散剤、流動点降下剤、防錆剤、消泡剤が挙げられる。
【実施例】
【0017】
以下に、実施例及び比較例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0018】
本発明の実施例および比較例においては、下記の原料を使用した。
<原料>
・トリメチロールプロパン: 三菱ガス化学株式会社製
・ペンタエリスリトール: 関東化学株式会社製
・カプリル酸メチル: ライオンケミカル株式会社製 パステルM−08
・カプリン酸メチル: ライオンケミカル株式会社製 パステルM−10
・炭酸水素ナトリウム: 旭硝子株式会社製
・カプリル酸: 東京化成工業株式会社製
・酸化すず: 純正化学株式会社製
【0019】
(実施例1)
攪拌機、冷却管、温度計を取り付けた5Lの四つ口丸底フラスコに、カプリル酸メチル(ライオンケミカル株式会社製、パステルM−08、分子量158.24)2889g、トリメチロールプロパン(三菱ガス化学株式会社製、分子量134.18)682gおよび触媒として炭酸水素ナトリウム(旭硝子株式会社製、分子量84.01)7.1gを添加した。この時、カプリル酸メチルとトリメチロールプロパンのモル比は、3.6/1である。また、触媒仕込み量は、原料に対して0.2質量%である。系内を窒素ガスで置換後、常圧で窒素ガス流通条件下、230℃まで昇温し、12時間反応させた。その後、過剰量のカプリル酸メチルを、温度230℃、フルバキューム(133Pa)の減圧下で4時間トッピング留去した。冷却後、触媒を加圧濾過器を用いて除去し、生成物のトリメチロールプロパントリカプリレートを得た。
【0020】
生成物のトリメチロールプロパントリカプリレートについて、下記に示す条件にてガスクロマトグラフィーによる分析を行った。
<ガスクロマトグラフィー条件>
カラム:J&W DB−1HT
オーブン温度:80〜390℃、10℃/min
気化室温度:390℃
検出器温度:390℃(FID)
キャリアガス:ヘリウム
線速度:30cm/min
スプリット比:50:1
試料溶液:試料20μL、無水酢酸500μL、ピリジン500μLを混合し、80℃で20分間加熱処理する
【0021】
ガスクロマトグラフィーの分析結果より、フルエステルの選択率および脂肪酸アルキルエステルの残存率を下記の式(1)および(2)を用いて算出した。
(式1)

フルエステルの選択率[%]=F/(F+P)×100
F:フルエステル分の面積
P:部分エステル分の面積

(式2)
脂肪酸アルキルエステルの残存率[%]=A/(A+N+F+P)×100
A:脂肪酸アルキルエステル分の面積
N:ネオペンチルポリオール分の面積
FおよびPは、式(1)と同

その結果、フルエステル選択率は、99.1%、脂肪酸アルキルエステル残存率は、0.2%であった。結果を表1に示した。
【0022】
次に、生成物のトリメチロールプロパントリカプリレートの物性測定を行った。引火点の測定は、JIS−K2265クリーブランド開放法にて、酸価の測定は、JIS−K2501に従い実施した。結果を合わせて表1に示すが、引火点は258℃と高く、酸価は、0.01mgKOH/gと低い値であった。
【0023】
生成物の熱安定性および酸化安定性評価としては、以下の項目を評価した。
ホットチューブテストにおいては、試験温度300℃にて16時間ガラス管内に少量ずつサンプルを流し、生成したガム質の量で0点〜10点の11段階で評価を行った。空気流量は、10±0.5cc/hr、サンプル流量は、0.31±0.01cc/hrの条件で行った。評点が高いほど、耐熱性、清浄性に優れ、スラッジの生成が少なくなる。
示差熱分析(5%減量温度)においては、示差熱分析装置を用い、空気中で温度を10℃/minの割合で昇温し、初期質量から5%減少した温度を測定した。5%減量温度が高いほど、耐蒸発性、耐熱性に優れている。
酸化安定度試験は、JIS−K2514−4内燃機関用潤滑油酸化安定度試験に準拠した方法で酸化劣化試験を行い、酸化油の動粘度と全酸価とを測定して、未酸化油のそれらと比較し、粘度比および全酸価の増加を求めた。酸化劣化条件は温度165.5℃,時間24時間である。
結果を表1に示すが、ホットチューブテストの結果は、10点と良好であり、示差熱分析(5%減量温度)の結果は、248℃と高く、酸化安定性の評価では、増酸価8.9、粘度比1.3という結果であり、熱安定性および酸化安定性に優れたものであると言える。
【0024】
(実施例2)
実施例1と同様の方法で、カプリン酸メチル(ライオンケミカル株式会社製、パステルM−10、分子量186.29)2940g、トリメチロールプロパン588g、炭酸水素ナトリウム14.1gを仕込み、反応を行い、生成物のトリメチロールプロパントリカプレートを得た。
生成物については、実施例1と同様の方法で、ガスクロマトグラフィー分析、物性測定、安定性評価を行い、結果を表1に併記した。
【0025】
(実施例3)
実施例1と同様の方法で、カプリル酸メチル1994g、カプリン酸メチル997g(カプリル酸メチルとカプリン酸メチルの重量比は2対1)、トリメチロールプロパン669g、炭酸水素ナトリウム14.6gを仕込み、反応を行い、生成物のトリメチロールプロパンカプリル酸/カプリン酸トリエステルを得た。
生成物については、実施例1と同様の方法で、ガスクロマトグラフィー分析、物性測定、安定性評価を行い、結果を表1に併記した。
【0026】
(実施例4)
実施例1と同様の方法で、カプリル酸メチル2848g、ペンタエリスリトール(関東化学株式会社製、分子量136.15)511g、炭酸水素ナトリウム20.2gを仕込み、反応を行った。なお、反応時間は、18時間、トッピング時間は、5時間とし、その他の条件は実施例1に従った。
生成物のペンタエリスリトールペンタカプリレートについて、実施例1と同様の方法で、ガスクロマトグラフィー分析、物性測定、安定性評価を行い、結果を表1に併記した。
【0027】
(比較例1)
実施例1と同様の原料、配合比、方法にて反応を行ったが、フルエステル選択率が95%となったところで反応を止めて、トッピングを行った。トッピング時間も短縮し、フルエステル選択率が95.9%、脂肪酸アルキルエステル残存率が0.7%のサンプルを得た。このサンプルについて、実施例1と同様の方法で、物性測定、安定性評価を行い、結果を表1に併記した。
【0028】
(比較例2)
攪拌機、冷却管、温度計を取り付けた5Lの四つ口丸底フラスコに、カプリル酸(東京化成工業株式会社製、分子量144.21)2596g、トリメチロールプロパン732gおよび触媒として酸化すず(純正化学株式会社製、分子量134.71)3.3gを添加した。この時、カプリル酸とトリメチロールプロパンのモル比は、3.3/1である。また、触媒仕込み量は、原料に対して0.1質量%である。系内を窒素ガスで置換後、常圧で窒素ガス流通条件下、230℃まで昇温し、12時間反応させた。その後、過剰量のカプリル酸を、温度230℃、フルバキューム(133Pa)の減圧下で4時間トッピング留去した。冷却後、触媒を加圧濾過器を用いて除去し、生成物のトリメチロールプロパントリカプリレートを得た。
生成物については、実施例1と同様の方法で、ガスクロマトグラフィー分析、物性測定、安定性評価を行い、結果を表1に併記した。ただし、本比較例の場合、脂肪酸アルキルエステルの替わりに脂肪酸を用いたので、式(3)により脂肪酸残存率を算出した。
(式3)
脂肪酸の残存率[%]=B/(B+N+F+P)×100
B:脂肪酸分の面積
N、FおよびPは、式(1)と同









【0029】
【表1】



【0030】
表1に示したように、実施例1〜4のポリオール脂肪酸エステルは、高引火点であり、酸価も低く、熱安定性および酸化安定性が良好であった。フルエステル選択率が97.0%に届かず、脂肪酸アルキルエステル残存率が0.5%より多い比較例1では、実施例1と比べると、引火点が低くなり、酸価の値も高くなり、熱安定性や酸化安定性が悪くなった。また、脂肪酸から合成した比較例2においては、脂肪酸残存率が1.8%と高く、引火点が低くなり、酸価の値も高くなった。更には、熱安定性や酸化安定性が悪くなった。
以上の結果から、本発明のポリオール脂肪酸エステルは、フルエステル選択率が97.0%以上と高く、脂肪酸アルキルエステル残存率が0.5%以下と低いため、高引火点で酸価が極めて低く、熱安定性および酸化安定性が良好なものであり、それ自体単品であるいは他の潤滑油と混合することで、金属加工油、エンジン油、ギヤ油、油圧作動油、冷凍機油、冷媒、熱媒として好適に使用することができる。



































【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸アルキルエステルとネオペンチルポリオールとのエステル交換反応において、脂肪酸アルキルエステル過剰の条件下でフルエステル選択率が97.0%以上になるまで反応し、続けて未反応の原料脂肪酸アルキルエステルの残存率が0.5%以下になるまでトッピング除去を行うことで得られるポリオール脂肪酸エステルを含むことを特徴とするエステル合成油。
【請求項2】
上記脂肪酸アルキルエステルがカプリン酸メチル、カプリル酸メチル、もしくはこれらの混合物であり、ネオペンチルポリオールがトリメチロールプロパンである、請求項1記載のエステル合成油。


























【公開番号】特開2012−201833(P2012−201833A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69168(P2011−69168)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】