説明

エステル合成触媒及びその製造方法並びに該触媒を用いたバイオ燃料の製造方法

【課題】高い触媒活性を示し、且つ高い触媒活性を持続して示すエステル合成触媒を提供する。
【解決手段】BET比表面積が20乃至380m/g、細孔半径が25Å以上及び導電率が2000μS/cm以下のシリカ粒子にリパーゼを担持させてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエステル合成触媒に関するものであり、より詳細にはバイオ燃料の製造に適したエステル合成触媒及びその製造方法、並びに、該触媒を用いたバイオ燃料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油脂を利用した環境に優しい燃料が、バイオ燃料、バイオディーゼル燃料(BDF)などの名称で知られている。このバイオディーゼル燃料の典型的な製造例は、植物油に苛性ソーダ等のアルカリとメタノールとを作用させてメチルエステルとしたものである。即ち、エステル交換反応により、脂肪酸トリグリセリドをメチルエステルに転換させることによりバイオ燃料となるメチルエステルを合成するというものであり、アルカリはエステル交換触媒として作用する。
【0003】
上記のような触媒として、酵素をシリカ等の多孔質担体に担持させた酵素固定化触媒も広く知られており、例えば特許文献1や2には、リパーゼをシリカ等に担持させた固定化リパーゼを触媒として用いてのエステル交換反応により、油脂から脂肪酸エステルを合成することが開示されている。
【特許文献1】特開平5−268952号公報
【特許文献2】特開昭64−85089号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リパーゼは、エステル交換或いはエステル化に対して極めて大きな活性作用を有するものであり、特許文献1や2では、極めて大きな転換効率でバイオ燃料となる脂肪酸エステルを合成できることが期待される。
【0005】
しかしながら、特許文献1や2で開示されている固定化リパーゼでは、予想されるほど高い転換効率を得ることが困難であり、また、高い転換効率を示すものでも、活性寿命が極めて短く、実際にエステル合成を行うと、短時間で触媒活性が損なわれてしまうという問題がある。
【0006】
従って、本発明の目的は、高い触媒活性を示し且つ高い触媒活性を持続して示すエステル合成触媒及びその製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、上記エステル合成触媒を用いて油脂もしくは脂肪酸からバイオ燃料を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、BET比表面積が20乃至380m/g以下、細孔半径が25Å以上及び導電率が2000μS/cm以下のシリカ粒子にリパーゼを担持させてなることを特徴とするエステル合成触媒が提供される。
【0008】
上記エステル合成触媒においては、
(1)前記シリカ粒子は、170℃〜900℃での温度領域での加熱減量が、170℃乾燥品当り3.5重量%未満であること、
(2)前記シリカ粒子は、バーミキュライトの酸処理により得られたSiOの薄層が積層された劈開性積層体粒子からなること、
(3)シリカ粒子の中位径が0.5μm乃至2mmであること、
(4)110℃の乾燥物に換算したシリカ粒子100重量部当り1乃至30重量部のリパーゼを担持させてなること、
(5)加水分解活性が2×10IU/g以上のリパーゼを用いること、
が好ましい。
【0009】
本発明によれば、また、BET比表面積が20乃至380m/g、細孔半径が25Å及以上及び導電率が2000μS/cm以下のシリカ粒子を、濃度が0.1乃至15重量%のリパーゼ水分散液に混合し、該混合液をリパーゼの失活温度未満で乾燥することを特徴とするエステル化触媒の製造方法が提供される。
【0010】
本発明の製造方法によれば、
(1)前記混合液のpHが6乃至8の範囲であること、
(2)前記製造方法において、混合液に溶解している塩類が、110℃の乾燥物に換算したシリカ粒子100重量部に対して0.5重量部以下であること、
が好ましい。
本発明によれば、さらに上記エステル合成触媒の存在下に、低級アルコールと油脂もしくは脂肪酸とを反応させて脂肪酸エステルとすることを特徴とするバイオ燃料の製造方法が提供される。
【0011】
上記の製造方法においては、
(1)低級アルコールと油脂もしくは脂肪酸とを有機溶媒と共に、前記エステル合成触媒が充填された固定床に連続的に供給すること、
(2)油脂として植物油を使用すること、
が好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のエステル合成触媒は、リパーゼを多孔質担体に保持せしめたものであるが、特に重要な特徴は、リパーゼを担持する多孔質担体として、BET比表面積が20乃至380m/g、細孔半径が25Å以上及び導電率が2000μS/cm以下のシリカ粒子を用いた点にある。即ち、従来公知の固定化リパーゼについて検討した結果、本発明者等は、リパーゼを担持させる多孔質担体の物性がリパーゼの触媒活性に大きな影響を与え、上記のように特定の性状を示すシリカ粒子にリパーゼを担持させることにより、高い触媒活性を確保し且つ高い触媒活性を持続して維持させることに成功したものである。
【0013】
本発明において、上記のような性状の担体を用いることにより、高い触媒活性とその持続性が得られることの理由は正確に解明されたわけではないが、本発明者等は次のように推定している。即ち、担体のBET比表面積及び細孔半径が上記範囲内にあるものは、十分な量のリパーゼが強固に担持され且つ担体表面に適度に存在しており、この結果、リパーゼの高い触媒活性が有効に発現し、且つリパーゼの脱落が抑制され、長期間にわたって高い触媒活性が持続して発現するものと考えられる。また、このような担体は、エステル交換により副生するグリセリンやアルコール、エステル化により副生する水を吸着保持することができ、グリセリン、アルコールや水によるリパーゼの活性低下を抑制できることも、高い触媒活性を持続して維持できる一因と考えられる。例えば後述する実施例及び比較例に示されているように、担体のBET比表面積及び細孔半径が上記範囲外にあるものは、高い触媒活性が発現せず、例えばエステル変換率がかなり低下してしまうし、また高い触媒活性を示したとしても、その活性寿命が短く、短時間で失活してしまい、高い変換効率でエステル交換反応を持続させることができない。
【0014】
また、導電率は、担体に含まれる可溶性塩類含量を示すパラメータであり、導電率が上記範囲よりも高いものでは、高い触媒活性を発揮することができない。即ち、導電率の高いものは可溶性塩類含量が多く、この可溶性塩類によってリパーゼが失活してしまうのである(後述の比較例2参照)。例えば、シリカは、一般にケイ酸アルカリと鉱酸とを反応することにより製造されるが、不純物として可溶性塩類を含有しているものもある。従って、本発明において、担体としてシリカを用いるためには、洗浄等を繰り返して行い、導電率が上記範囲内となるように可溶性塩類を除去しておく必要がある。
【0015】
また、本発明においては、170℃〜900℃での温度領域での加熱減量が、170℃乾燥品当り3.5重量%未満を用いることが好適である。この加熱減量は、シリカ粒子中のOH基量に相当するものであり、このようなOH基量は、後述する実施例から理解されるように、触媒活性と密接な関係があり、OH基量が上記範囲内に抑制されているシリカ粒子にリパーゼを担持することにより、極めて高い触媒活性を安定して確保することができる。この理由は、明確ではないが、OH基量が多いものでは、リパーゼの触媒活性が失活しやすく、また、リパーゼ自体が疎水性であるため、これをシリカ粒子に安定に担持させることが困難になるためと思われる。
【0016】
本発明においては、さらに、上記のようにOH基量が一定範囲内に抑制されたもののシリカ粒子の中でも、バーミキュライトを酸処理して得られる非晶質シリカ粒子を用いることが、触媒活性が長く、長期にわたって繰り返してエステル合成を行うことができるという点で好ましい。即ち、このような非晶質シリカ粒子は、SiOの薄層が積層されて劈開性の積層体粒子構造を有しており、このような粒子構造に関連して、エステル合成に際して油脂の加水分解により生じたグリセリンが外部に放出されず、シリカ粒子の内部に安定に保持されるため、繰り返しエステル合成を行った場合にも、グリセリンによる反応阻害を回避し、安定してエステル合成を行うことができるものと思われる。
【0017】
また、本発明において、上記のエステル合成触媒は、担体として用いるシリカ粒子を、所定濃度のリパーゼ水分散液に混合し、リパーゼの失活温度未満で乾燥することにより製造される。このような方法でリパーゼを担持させることができ、上述した高い触媒活性とその持続性を実現できる。例えば、シリカ粒子とリパーゼとを単に混合したのみでは、リパーゼを担持することができず、たとえ初期の触媒活性が高い場合があったとしても、同じシリカ粒子にリパーゼを担持した触媒と比べると活性の持続は短い(後述の実施例1及び比較例3)。
【0018】
また、リパーゼの失活を最小限に抑えるには担持処理液のpHを6乃至8の範囲に保持することが重要であり、そのために酸、アルカリまたは塩類を添加することもできるが、それらは担体粒子から溶出した塩類と同様にリパーゼの失活を招く。したがって、担持処理液に溶解している塩類の量が、担体粒子100重量部に対して0.5重量部以下となるようにしなければならない。
【0019】
上述したように、固定化リパーゼからなる本発明のエステル合成触媒は、高い触媒活性を示し、その持続性にも優れていることから、油脂などを原料としたエステル交換反応によるバイオ燃料の製造に有効に適用される。また、脂肪酸と水とのエステル化反応に対しても高い活性を示すため、脂肪酸を原料としたバイオ燃料の製造にも適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
<リパーゼ>
本発明において、リパーゼとしては、油脂を加水分解し、脂肪酸エステルを生成するものであれば、何れをも用いることができ、その由来等は特に限定されず、微生物由来のリパーゼ、植物由来のリパーゼ、動物膵臓由来のリパーゼ等が使用される。
【0021】
リパーゼの具体的な例として、Candida cylindracea由来のリパーゼOF(名糖産業)、Alcaligenes sp由来のリパーゼQLM(名糖産業)、Candida rugosa由来のリパーゼTypeVII(シグマ)、Rhizopus arrhizus由来のリパーゼType11(シグマ)、Rhizopus oryzae由来のリパーゼF−AP15(天野エンザイム)、Rhizopus japonicus NR400由来のリリパーゼA−10FG(ナガセ)、Aspergillus niger由来のSumizymeNLS(新日本化学)、Phycomyces nitens NRRL 2444由来のリパーゼPN(和光)、Porcine pancreas由来のリパーゼTypeII(シグマ)、Pseudomonas cepacia由来のリパーゼ(シグマ)、Mucor javanicus由来のリパーゼ(シグマ)、アルカリリパーゼ(NOVO)等を挙げることができるが、これらの中でも加水分解活性が2×10IU/g以上のリパーゼ(例えば、リパーゼQLM、リパーゼOF)が高い触媒活性を示し、最も好適に使用される。即ち、本発明においては、このような高活性のリパーゼを使用すれば、その高い触媒活性が有効に発現し、例えば後述する実施例1に示されているように、ナタネ油とメタノールによるエステル交換反応では変換率80%以上という高い触媒活性を示すだけでなく、反応終了後に遠心分離により触媒を回収して次の反応に供する方法で繰り返し反応を行った場合には高い変換率を保持することができ、総積算変換量が多くなることから、工業的に最も有用である。
【0022】
本発明において、上記のリパーゼは、以下に述べる担体粒子100重量部(110℃乾燥物換算)当り1乃至30重量部、特に5乃至20重量部の量で担持される。即ち、この量が、上記範囲よりも少ないと、十分な触媒活性を得ることが困難となり、また、上記範囲よりも多量に担持させたとしても、それ以上に触媒活性が向上することはなく、経済的に不利となり、またエステル合成に際して副生するグリセリンの除去機能が低下することもある。
【0023】
<担体粒子>
本発明において、上記のリパーゼを担持する担体粒子としては、シリカ(SiO)を用いるが、このような担体粒子は、BET比表面積が20乃至380m/g、細孔半径が25Å以上、及び導電率が2000μS/cm以下、好ましくは1800μS/cm以下、さらに好ましくは300μS/cm以下の範囲にあるものが使用される。即ち、先にも述べたように、BET比表面積、細孔半径及び導電率が上記範囲内にあるシリカ粒子を用いることにより、リパーゼを失活させることなく、且つ適当量のリパーゼが表面に存在し、常に高い触媒活性が長期間にわたって発現するようにリパーゼを担持することが可能となる。シリカ粒子のBET比表面積あるいは細孔半径が上記範囲外にある場合は、高い加水分解活性を示すリパーゼを担持したとしても高い触媒活性が発現しない。例えば後述する比較例6に示されているように、初期段階からエステル変換率が低いままである。また、後述する比較例1に示されているように、初期段階において80%以上の高い触媒活性を示したとしても、その寿命は短く、繰り返し反応においても少ない繰り返し反応回数で失活してしまい、高い変換効率でエステル交換反応を保持することができない。
【0024】
また、このような担体粒子は、一般に、その中位径が0.5μm乃至2mm、特に1乃至700μm程度の範囲にあることが好ましい。この粒径があまり小さいと、担体粒子の凝集が生じ易く、リパーゼを安定に担持させることが困難となり、仮に担持させることができたとしても、触媒活性やその持続性にバラツキが生じ易くなってしまう。また、あまり粒径が大きなものを使用したときにも、担持量にバラツキが生じ易くなり、触媒活性が不均一となり易い。
【0025】
さらに、本発明においては、上記のようなシリカ粒子の中でも、170℃〜900℃での温度領域での加熱減量が、170℃乾燥品当り、3.5重量%未満、特に3.0重量%以下であるものを用いることが好ましい。この加熱減量は、シリカ粒子中のOH基量に相当するものであり、吸着した水分量を除いたOH基量である。図1は、種々の加熱減量を有するシリカ粒子にリパーゼを担持したときのエステル変換率を加熱減量(上記OH基量)に対してプロットした図を示すものであり、この図によれば、OH基量が大きいほどエステル変換率が小さくなり、OH基量が少なくなるほど、エステル変換率が大きくなることが判る。即ち、エステル変換率(触媒活性)とシリカ粒子の加熱減量との間には相関関係があり、本発明では、加熱減量が上記範囲に調整されたシリカ粒子を用いることにより、安定して高いエステル変換率を確保することができるのである。先にも述べたように、加熱減量が上記範囲内となるように小さく調整されたシリカ粒子を用いることにより高いエステル変換率を確保できるのは、この加熱減量(OH基量)が多いものでは、リパーゼの触媒活性が失活しやすく、また、リパーゼ自体が疎水性であるため、リパーゼのシリカ粒子への担持を有効に行うことが困難になるためと思われる。
【0026】
本発明において、シリカ粒子の加熱減量の上記範囲内への抑制は、例えばシリカ粒子を170℃以上の温度で焼成することにより容易に行うことができる。例えば、この焼成温度が高いほど、また焼成時間が長いほど、OH基量を大きく低減させ、加熱減量を上記範囲に調整することができる。
【0027】
また、本発明においては、上記のようにOH基量が一定範囲内に抑制されたもののシリカ粒子の中でも、バーミキュライトを酸処理して得られる非晶質シリカ粒子を用いることが、触媒活性が長く、長期にわたって繰り返してエステル合成を行うことができるという点で好ましい。
【0028】
即ち、バーミキュライトを酸処理して得られる非晶質シリカは、SiOの薄層が積層された劈開性積層体粒子からなる葉片状、鱗片状または板状と呼ばれる形状を有しており、多数積層されているシリカの薄層が層として独立した挙動を示しうるという特性即ち劈開性を示す。このようなシリカ粒子(以下、劈開性積層シリカ粒子と呼ぶことがある)は、その劈開性積層粒子構造に関連して、エステル合成に際して油脂の加水分解により生じたグリセリンを速やかに内部に吸収保持し、これを外部に放出しないという性質を有しており、この結果、グリセリンによるエステル交換反応の妨害を回避し、安定してエステル合成を行うことができるものと思われる。例えば、このようなバーミキュライトを酸処理して得られる非晶質シリカを用いた場合には、後述する実施例に示されているように(図2参照)、極めて多数回にわたって繰り返しエステル化反応を行うことができ、他のシリカ粒子に比しても、その積算変換量(総エステル変換量)が著しく高いことが判る。
【0029】
<劈開性積層シリカ粒子の製造>
このような劈開性シリカ粒子の製造原料として用いるバーミキュライト(vermiculite)は、バーミキュライト群粘土鉱物あるいは雲母群粘土鉱物に分類される加水雲母を主成分とする鉱物であり、蛭石とも呼ばれている。この鉱物を一定温度以上に急熱すると、面指数(001)の面に垂直な方向(C軸方向)に著しく延び、蛭に似た形態になるのが名前の由来となっている。このバーミキュライトには、基本的に下記式(1)で表わされる化学構造を有する3八面体型のものと、下記式(2)で表わされる化学構造を有する2八面体型のものとがあり、何れも使用することができる。
【0030】
{E0.6〜0.8・4〜5HO}(Mg,Fe3+,Fe2+,Al)
・[Si,Al]10(OH) …(1)
{E0.6〜0.8・nHO}(Al,Fe,Mg)・[Si,Al]
・O10(OH) …(2)
尚、上記式中、Eは層間イオンであり、主としてKやMgからなる。
【0031】
また、バーミキュライトの化学的組成は、産地等によっても相違するが、代表的な組成は以下の通りである。
SiO:35〜45重量%
Al:10〜20重量%
MgO:7〜30重量%
Fe:5〜22重量%
CaO:0〜3重量%
NaO:0〜1重量%
O:0〜10重量%
Fe以外の重金属含量(Pb,Cr,Cd等):0.2重量%以下
灼熱減量(1050℃):3〜25重量%
【0032】
本発明で好適に使用される劈開性積層シリカ粒子は、上記のようなバーミキュライトを酸処理することにより製造される。このような酸処理を行うことにより、結晶構造が破壊され、且つ有色成分が除去され、白色性が向上する。
【0033】
酸処理に使用される酸としては、硫酸、塩酸、硝酸等の鉱酸が使用され、その使用量は、バーミキュライト中のFeを含む塩基性成分に対して過剰量である。また、酸濃度は、一般に、15乃至40重量%、特に20乃至35重量%とするのがよく、酸処理温度は、10乃至110℃の範囲とするのがよい。特に処理温度の高いほうが酸濃度を低くしても処理が短時間で行える。酸処理時間は、酸濃度や酸の使用量、温度等によっても異なり、一概に規定することはできないが、酸処理によって、シリカ(SiO換算)含量が、82重量%以上、特に85重量%以上、白色度が85%以上、特に88%以上に高められる程度の時間、酸処理を行うのがよく、通常、6乃至48時間程度である。
【0034】
また、酸処理に先立って、必要により、200乃至500℃の温度で加熱処理を行うこともできる。この加熱処理は、膨積処理と呼ばれるものであり、バーミキュライトの層状構造をバラバラにするために行われ、特にアスペクト比の高い粒子を得るために有効である。
【0035】
尚、上記のような酸処理に先立って、必要により、夾雑する脈石の分離を行うのが好ましい。この分離は、水簸、液体サイクロンなどによる湿式分級方法および風簸、サイクロン、ミクロンセパレータなどによる乾式分級方法が一般に適用できる。
【0036】
本発明においては、上記で得られたバーミキュライトの酸処理物からなる劈開性積層シリカ粒子を、そのままリパーゼの担持に使用することもできるが、通常は、これを、さらにpH5.0乃至10.0での水熱反応に供することが好ましい(以下、このような水熱反応により得られた劈開性積層シリカ粒子を、高活性劈開性積層シリカ粒子と呼ぶ)。即ち、このような水熱反応により、非晶質シリカの各粒子で、小さい粒子のSiO成分が溶解し大きい粒子の表面にOH基同士の縮合等を介して再配列して析出することにより、バーミキュライトに由来する特有の層状ケイ酸構造や劈開性を維持したまま、OH基量(加熱減量)を大きく低減させると同時に、水銀圧入法により測定した0.024乃至8.70μmの細孔直径での空間容積を2.2ml/g以上と極めて高くすることが出来る。即ち、粒子間距離が大きく、嵩密度が著しく低減し、少量であってもエステル化反応に際して多量のグリセリンを吸収保持することが可能となり、この結果、触媒寿命が向上し、多数回にわたって繰り返しエステル化反応を行うことができるのである。
【0037】
このようなpH下での水熱反応は、得られたバーミキュライト酸処理物(非晶質シリカ)の水分散液を調製し(水分散液調製工程)、次いで、該水分散液をpH調整する(pH調整工程)ことにより行われる。
【0038】
酸処理物の水分散液は、バーミキュライトの酸処理によって得られた酸処理物をろ過し、水洗し、余剰の酸を除去することにより得られた酸処理物のろ過ケーキを、必要により粉砕して再度水に分散することにより調製される。
【0039】
このようにして調製される酸処理物の水分散液の酸処理物濃度は、通常、15 乃至25重量%の範囲にあることが好適である。この濃度が低いと、生産性が低下してしまうし、また必要以上に高濃度であると、以後の工程で分散液の撹拌が困難となるおそれがある。
【0040】
分散液のpHは、pHを5.0乃至10.0の範囲に調整すれば良い。用いるpH調整に用いるものは、特に制限されないが、pH調整が容易であることなどの観点から、NHOH水溶液、ケイ酸ソーダ水溶液或いはMg(OH)スラリーを用いるのがよい。
【0041】
また、pHを上記範囲とすることは極めて重要であり、pHが上記範囲よりも高いと、酸処理物の多くが溶解してしまい、バーミキュライトに由来する層状ケイ酸構造や劈開性が消失してしまう。また、pHが上記範囲よりも低いと、酸処理物であるシリカ表面に存在するSiOの溶解が有効に生ぜず、この結果、前述した空間容積や嵩密度等の物性を得ることができなくなってしまう。
【0042】
上記のようなアルカリ前処理工程は、pHが上記範囲内で安定し、酸処理物が均一に分散する程度に行えばよく、通常、pH調整剤との攪拌下の混合を30乃至60分程度行えばよい。
【0043】
かくして得られたpH調整した分散液を、80℃以上、好ましくは80乃至180℃の温度で水熱処理することにより、リパーゼの担持に好適に使用され、特性の著しく向上した高活性の劈開性積層シリカ粒子を得ることができる。即ち、かかる水熱反応により、SiOの溶解及び再配列が生じ、各種物性の改質が行われるのである。水熱処理温度が、上記範囲よりも低いと、SiOの溶解及び再配列が不十分となり、例えば加熱減量の低減が不十分となり、また、空間容積が小さくなり、また嵩密度も大きくなってしまう。また、水熱処理温度が上記範囲よりも高いと、バーミキュライトに由来する層状ケイ酸構造や劈開性が損なわれてしまう。
【0044】
また、上記の水熱処理は、オートクレーブにより加圧下で行うことが好ましく、例えば1気圧以上、好ましくは2気圧以上の圧力下で行うことが、SiOの溶解や再配列を促進させ、水熱処理を短時間で行う上で好適である。
【0045】
本発明において、上述した水熱処理は、圧力によっても異なるが、一般的には、1乃至10時間程度行えばよい。水熱処理後は、得られた処理液をろ過し、必要に応じて水洗した後に乾燥し、適度な粒度に粉砕することにより、目的とする高活性劈開性積層シリカ粒子が得られる。
【0046】
このようにして得られる高活性劈開性積層シリカ粒子は、原料バーミキュライトに由来して、非晶質シリカ薄層の劈開性積層体粒子構造を有している。図3は、この高活性劈開性積層シリカ粒子の粒子構造を示す電子顕微鏡写真を示す。
【0047】
即ち、図3から理解されるように、かかる粒子は、板状粒子形状を有しており、非晶質シリカ薄層が積層した劈開性積層体粒子構造を有している。かかる高活性劈開性積層シリカ粒子は、レーザ回折法で測定して中位径(D50)が1乃至20μm、特に1乃至15μmの範囲にあり、その面方向最大径/厚みで表されるアスペクト比は、15乃至40の範囲にあり、且つその厚みは、0.15乃至0.50μm程度と極めて薄い。即ち、バーミキュライトを単に酸処理して得られた非晶質シリカは、同様の板状粒子形状を有しているが、加熱減量(OH基量)が多いばかりか、その厚みも厚い。
【0048】
このような高活性劈開性積層シリカ粒子は、水銀圧入法により測定した0.024乃至8.70μmの細孔直径での空間容積が2.2ml/g以上、特に2.2乃至3.0ml/gの範囲にある。即ち、かかる空間容積は、粒子内の細孔容積ではなく、粒子間空隙の大きさを示すものであり、単にバーミキュライトの酸処理によって得られた非晶質シリカに比して、この空間容積が増大している。従って、かかる非晶質シリカ粒子は、大きな粒子間空隙を有しているため、その嵩密度は、0.19g/ml以下、特に0.10乃至0.18g/mlの極めて小さな範囲にある。即ち、極めて軽量性に富んでおり、少ない使用量で多量のグリセリンを吸収保持することができる。
【0049】
<エステル合成触媒の製造>
上述した担体粒子にリパーゼを担持してなる本発明のエステル合成触媒は、リパーゼの水分散液に担体粒子を混合して攪拌し、得られた混合液を乾燥して水を除去することにより製造される。即ち、担体粒子とリパーゼとを溶媒を介在させずに混合する場合には、リパーゼが担体粒子の細孔に保持されず、エステル合成に際してリパーゼが脱落してしまう結果、高い触媒活性を維持させることができない。
【0050】
また、用いるリパーゼの水分散液は、その濃度を0.1乃至15重量%、好ましくは1乃至10重量%の範囲とすべきである。即ち、リパーゼの濃度がこの範囲よりも希薄なときには、リパーゼと担体粒子が分離してしまい、均一な担持ができなくなるだけでなく、所定量のリパーゼを担体粒子に担持させるためには、多量の水分散液を使用しなければならず、効率が悪く、乾燥にも長時間を要し、工業的生産には不適当となってしまう。また、リパーゼが上記範囲よりも高濃度の水分散液を使用すると、リパーゼが担体粒子の細孔に有効に浸透せず、その担持が不十分となってしまう。従って、濃度が上記範囲にある水分散液を使用し、これに所定量の担体粒子を混合攪拌することにより、前述した適当量のリパーゼを担体粒子に担持させることができる。
【0051】
また、担体粒子をリパーゼの水分散液に添加しての混合攪拌に際しては、必要に応じて界面活性剤や分散助剤を用いることもできるが、その種類や使用量は、混合液のpHが6乃至8の範囲内となるように選択すべきである。即ち、混合液のpHが上記範囲外であると、リパーゼの失活を生じてしまうからである。
【0052】
混合攪拌は、攪拌の剪断力等にもよるが、一般的には、1乃至60分程度で十分である。また、混合攪拌後の乾燥は、用いるリパーゼの失活温度未満で加温或いは風乾することにより行われる。因みに、本発明において最も好適に使用されるリパーゼQLMの失活温度は、65℃以上であり、リパーゼOFの失活温度は、45℃以上である。
【0053】
<バイオ燃料の製造>
本発明において、上記のようにして得られたエステル合成触媒は、エステル合成によるバイオ燃料の製造に使用される。例えば、低級アルコールと油脂とを、上記エステル合成触媒の存在下でエステル交換反応させることにより、バイオ燃料となる脂肪酸エステルが製造される。
【0054】
低級アルコールは、エステル化剤として使用されるものであり、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール等の炭素数5以下のアルコールを挙げることができるが、反応性の点でもコストの点でもメタノールが好ましい。このような低級アルコールは、油脂に対して当量以上の量で用いるのがよい。
【0055】
また、油脂としては、天然界に広く存在する各種の動植物油脂を用いることができるが、一般には、脂肪酸とグリセリンとのエステルを主成分とする植物油、例えばサフラワー油、大豆油、菜種油、パーム油、パーム核油、綿実油、ヤシ油、米糠油、ゴマ油、ヒマシ油、亜麻仁油、オリーブ油、桐油、椿油、落花生油、カポック油、カカオ油、木蝋、ヒマワリ油、コーン油などが好適に使用される。
【0056】
リパーゼを用いたエステル交換反応は、比較的低温で反応が進行し、エステル交換によって脂肪酸の低級エステルが生成し、同時に遊離脂肪酸やグリセリンも副生する。しかるに、この遊離脂肪酸は、リパーゼによりメチルエステル化されるため、アルカリ触媒を用いてのエステル合成と異なり、石けんが生成しない。従って、ケン化等による精製処理が不必要であるという利点がある。また、本発明のエステル合成触媒を用いた場合には、リパーゼを担持している担体粒子(シリカ)がグリセリン吸着能を有しているため、この担体粒子にグリセリンが捕捉される。このようにエステル交換により副生するグリセリンが捕捉されることも、本発明において、高い触媒効果(高いエステル変換率)が保持され且つこの触媒効果が持続して発揮されることの一因と思われる。
【0057】
また、本発明において、油脂の代わりに脂肪酸、例えば不飽和脂肪酸等も使用することができ、その際にはエステル化により副生する水が担体粒子に吸着される。即ち、本発明で用いるエステル合成触媒中のリパーゼは、脂肪酸とアルコールとのエステル化反応に対しても高い触媒効果を示すため、油脂の代わりに脂肪酸を用いた場合にも、バイオ燃料となる脂肪酸エステルを製造することができる。
【0058】
上述した油脂或いは脂肪酸と低級アルコールとの反応は、水分散系及び有機溶媒系の何れでも行うことが可能であるが、本発明では、有機溶媒系で反応を行うことが好ましい。即ち、水分散系で反応を行うと、担体粒子に担持されているリパーゼが担体粒子から脱落してしまい、反応物からのリパーゼの回収などが必要となり、また反応を長時間にわたって継続して行うことも困難となってしまうが、有機溶媒系では、担体粒子に担持されているリパーゼが脱落せず、安定に保持されているため、触媒活性が持続し、長時間にわたって反応を続行させることができ、またリパーゼの回収なども不要となり、極めて効率よく、バイオ燃料を製造することができる。尚、有機溶媒としては、リパーゼを失活させないものであれば特に制限なく使用することができるが、一般には、ヘキサン等の炭化水素系溶媒がコスト等の点から好適に使用される。
【0059】
また、反応は、所謂バッチ式で行われるが、触媒を適当な配管等の固定床に充填し、この固定床に油脂或いは脂肪酸や低級アルコール等の反応成分を有機溶媒に分散乃至溶解させて連続的に供給する連続式で反応を行うことも可能となる。
【0060】
尚、反応は、リパーゼが活性を保つ温度(即ち、失活温度未満)に加温して行うのがよい。
【0061】
油脂と低級アルコールとの反応により得られた脂肪酸エステルは、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド或いはグリセリンや低級アルコールを含み、脂肪酸と低級アルコールとの反応により得られた脂肪酸エステルは、脂肪酸あるいは水や低級アルコールを含むが、蒸留、抽出、油水分離等のそれ自体公知の手段で分離回収することができる。
【実施例】
【0062】
本発明の優れた効果を、次の実施例及び比較例により説明する。なお、測定は以下の方法で行った。
【0063】
(1)標準メチルエステル調製方法
ナタネ油1gにメタノール0.3g、水酸化ナトリウム0.015g添加して、振とう器を用いて150rpmで撹拌しながら90℃で1時間加熱した。加熱後、水50ml、ヘキサン50ml加えて撹拌し、液をコニカルチューブに移して8000rpmで遠心分離した。遠心分離後、一番上の透明な液層をガラス管に移し、70℃に加熱してヘキサンを除去し、標準メチルエステルとした。
【0064】
(2)エステル変換率測定方法
試料2.5μgを測り取り、クロロホルム1.5gと混合して試料液とした。ガスクロマトグラフGC−14A(島津製作所製)を用いて、検出器:FID、ガラスカラム:内径3.2mm長さ2.1m、カラム充填剤:Advance−DS Chromosorb W 80/100meshes(島津製作所製)、キャリアーガス:N、キャリアーガス流量:40ml/分、カラム温度:190℃、注入口温度:240℃、検出器温度:240℃の条件に設定した。マイクロシリンジで試料液2μlを取り、注入口から注入して測定し、得られたチャートから試料のピーク面積を得た。同様にして標準メチルエステルのピーク面積を得て、標準メチルエステルのピーク面積を100%として試料のピーク面積の比率を求め、エステル変換率を算出した。
【0065】
(3)総積算変換量測定方法
繰り返し反応で得られた反応1回毎のエステル変換率から、次の式により反応1回毎の変換量を求め、得られた変換量の総和を総積算変換量とした。
反応1回毎の変換量(g)=1.4x846/842xエステル変換率/100
1.4:反応に使用したナタネ油重量(g)
842:ナタネ油分子量
846:ナタネ油が完全にメチルエステルに変換した場合のメチルエステル分子量
【0066】
(4)粒径(中位径)測定
Malvern社製Mastersizer2000を使用して、レーザ回折散乱法で測定した。
【0067】
(5)比表面積および細孔半径測定
Micromeritics社製TriStar3000を使用し、窒素吸着等温線を測定した。比表面積S(m/g)は比圧が0.05から0.35以下の吸着枝側窒素吸着等温線からBET法で求めた。比圧0.96において吸着した窒素の容積を細孔容積V(cm/g)とし、細孔半径r(Å)は、以下の式を用いて求めた。
r=2(V/S)×10
【0068】
(6)導電率
110℃で2時間乾燥したシリカ5gを95gの脱イオン水に分散し、5分煮沸後25℃に調整し、カスタニーLAB導電率計DS-14(堀場製作所製)を用い、電極#3551−10Dを使用して測定した。
【0069】
(7)加熱減量(OH基量)
セイコーインスツルメンツ(株)製TG/DTA6300を用いて、熱重量分析を行った。標準物質α−Al 、昇温速度10℃/min、空気雰囲気で測定し、170乃至900℃迄の範囲での試料の加熱減量(OH基量)を求めた。
【0070】
(8)空間容積
Micromeritics社製Auto Pore IVを用い、水銀圧入法により細孔容積を測定し、0.024乃至8.70μmの細孔直径での細孔容積より空間容積を求めた。
【0071】
(9)嵩密度
JIS K 6220−1 7.7:2001に準拠して測定した。
【0072】
(実施例1)
Alcaligenes sp.由来のリパーゼQLM(名糖産業製)(加水分解活性2.68×10IU/g)3.5gを蒸留水31.5gに30分間撹拌しながら分散して、110℃で2時間乾燥した表1に示す物性のシリカ粒子(水澤化学工業製ミズカシルP−803)25gおよび蒸留水43gを混合し(混合液のpHは7.1)、50℃で12時間乾燥して、ミズカシルP−803を担体としてリパーゼ14重量部を担持させたエステル合成触媒28.5gを得た。
【0073】
30mlのガラス製遠心沈降管に、上記で得られたエステル合成触媒4g、ヘキサン12g、ナタネ油1.4g、メタノール0.18g添加して蓋をかけ、シェーカーを用いて37℃、100rpmで撹拌し4時間エステル交換反応を行った。エステル交換反応終了後3000rpmで10分間遠心分離して上澄み液を回収し、70℃に加熱してヘキサンを除去し、エステル変換率を求めた。
【0074】
また、遠心分離により得られた固形分に、ヘキサン1.6g、ナタネ油1.4g、メタノール0.18g添加して蓋をかけ、シェーカーを用いて37℃、100rpmで撹拌し6時間反応させた後、1回目の反応と同様の操作でエステル変換率を求めた。また、エステル変換率が10%未満となるまで遠心分離以降の操作を反復して、繰り返し反応を行い、総積算変換量を求めた。
エステル変換率及び総積算量、及びリパーゼの担持に用いたシリカ粒子の物性を表1に示した。
【0075】
エステル変換率については、その加熱減量(OH基量)に対してプロットして図1に示し、繰り返し反応の各回における積算変換量を図2に示した。
【0076】
(実施例2)
実施例1のシリカ粒子を、表1に示す物性のシリカ粒子(ミズカシルP−707;水澤化学工業製)に置き換え、それ以外は実施例1と同様にして行い(混合液のpHは6.9)、ミズカシルP−707を担体としてリパーゼ14重量部を担持させたエステル合成触媒28.5gを得た。
【0077】
このエステル合成触媒について、実施例1と同様に、エステル変換率及び総積算量を測定し、その結果を表1に示した。また、エステル変換率については、その加熱減量(OH基量)に対してプロットして図1に示した。
【0078】
(実施例3)
実施例1のシリカ粒子を、表1に示す物性のシリカ粒子(ミズカシルP−73;水澤化学工業製)に置き換え、それ以外は実施例1と同様にして行い(混合液のpHは7.2)、ミズカシルP−73を担体としてリパーゼ14重量部を担持させたエステル合成触媒28.5gを得た。
【0079】
このエステル合成触媒について、実施例1と同様に、エステル変換率及び総積算量を測定し、その結果を表1に示した。また、エステル変換率については、その加熱減量(OH基量)に対してプロットして図1に示した。
【0080】
(比較例1)
実施例1のシリカを、表1に示す物性の合成シリカA(水澤化学工業製)に置き換え、それ以外は実施例1と同様にして行い、合成シリカAを担体としてリパーゼ14重量部を担持させたエステル合成触媒28.5gを得た。
【0081】
このエステル合成触媒について、実施例1と同様に、エステル変換率及び総積算量を測定し、その結果を表1に示した。また、エステル変換率については、その加熱減量(OH基量)に対してプロットして図1に示し、繰り返し反応の各回における積算変換量を図2に示した。
【0082】
(比較例2)
実施例1のシリカを、表1に示す物性の合成シリカB(水澤化学工業製)に置き換え、それ以外は実施例1と同様にして行い、合成シリカBを担体としてリパーゼ14重量部を担持させたエステル合成触媒28.5gを得た。
【0083】
このエステル合成触媒について、実施例1と同様に、エステル変換率及び総積算量を測定し、その結果を表1に示した。また、エステル変換率については、その加熱減量(OH基量)に対してプロットして図1に示した。
【0084】
(比較例3)
Alcaligenes sp.由来のリパーゼQLM(名糖産業製)3.5gと、実施例1で用いたシリカ粒子(ミズカシルP−803;水澤化学工業製)25gを混合し、ミズカシルP−803を100重量部とリパーゼ14重量部の混合物28.5gを得た。
【0085】
この混合物(エステル合成触媒)について、実施例1と同様に、エステル変換率及び総積算量を測定し、その結果を表1に示した。また、エステル変換率については、その加熱減量(OH基量)に対してプロットして図1に示した。
【0086】
【表1】

【0087】
(実施例4)
高活性劈開性積層シリカ粒子の製造:
南アフリカ産バーミキュライト原石1.0kgに水5.2kgと98%硫酸2.3kgを加え、95℃で20時間加熱した。ろ過、水洗を行い、水洗後のケーキ500gを水500gに分散、撹拌しバーミキュライト酸処理物の水分散液を調製した。次に前記水分散液に、6mol/Lに調整したNHOH水溶液を滴下、良く撹拌し分散液を調製した。分散液のpHは8.57/23.7℃であった。pH調整した分散液をオートクレーブに移し、300rpm攪拌下160℃で6hr水熱処理を行った。処理後の液をろ過、乾燥、粉砕、分級を行い、高活性劈開性積層シリカ粒子を得た。
【0088】
上記で得られた高活性劈開性積層シリカ粒子は、中位径が5.6μm、BET比表面積が48m/g、細孔半径が122Å、導電率が46μS/cm、加熱減量が2.1重量%、空間容積が2.88ml/g、嵩密度が0.13g/mlであった。また、このシリカ粒子の電子顕微鏡写真を図3に示した(倍率1000倍)。
【0089】
実施例1のシリカを、上記で得られた高活性劈開性積層シリカ粒子に代えた以外は実施例1と同様にして行い(混合液のpHは7.0)、該シリカ粒子を担体としてリパーゼ14重量部を担持させたエステル合成触媒28.5gを得た。
【0090】
このエステル合成触媒について、実施例1と同様に、エステル変換率及び総積算量を測定したところ、エステル変換率は、100%であり、総積算量は80gであった。また、エステル変換率については、その加熱減量(OH基量)に対してプロットして図1に示した。また、繰り返し反応の各回における積算変換量を図2に示した。
【0091】
(実施例5)
分散液のpH調整を8.53/23.7℃にし、水熱処理を140℃で3hrに代えた以外は、実施例4と同様にして高活性劈開性積層シリカ粒子を得た。このシリカ粒子は、中位径が5.5μm、BET比表面積が70m/g、細孔半径が52Å、加熱減量が2.5重量%、空間容積が2.67ml/g、嵩密度が0.15g/mlであった。
【0092】
実施例1のシリカを、上記で得られた高活性劈開性積層シリカ粒子に代えた以外は実施例1と同様にして行い、該シリカ粒子を担体としてリパーゼ14重量部を担持させたエステル合成触媒28.5gを得た。
【0093】
このエステル合成触媒について、実施例1と同様に、エステル変換率及び総積算量を測定したところ、エステル変換率は、90%であった。また、エステル変換率については、その加熱減量(OH基量)に対してプロットして図1に示した。
【0094】
(実施例6)
分散液のpH調整を8.45/20.7℃にし、水熱処理を120℃で3hrに代えた以外は、実施例4と同様にして高活性劈開性積層シリカ粒子を得た。このシリカ粒子は、中位径が5.6μm、BET比表面積が84m/g、細孔半径が50Å、加熱減量が2.6重量%、空間容積が2.77ml/g、嵩密度が0.14g/mlであった。
【0095】
実施例1のシリカを、上記で得られた高活性劈開性積層シリカ粒子に代えた以外は実施例1と同様にして行い、該シリカ粒子を担体としてリパーゼ14重量部を担持させたエステル合成触媒28.5gを得た。
【0096】
このエステル合成触媒について、実施例1と同様に、エステル変換率及び総積算量を測定したところ、エステル変換率は、90%であった。また、エステル変換率については、その加熱減量(OH基量)に対してプロットして図1に示した。
【0097】
(比較例4)
実施例4と同様のバーミキュライトの酸処理によって得られ、pH調整下での水熱反応を行わなかった劈開性積層シリカ粒子を担体として使用し、実施例4と同様にしてリパーゼ14重量部を担持させたエステル合成触媒28.5gを得た。
【0098】
上記のシリカ粒子は、中位径が5.4μm、BET比表面積が374m/g、細孔半径が20Å、導電率が77μS/cm 、加熱減量が3.7重量%、空間容積が2.05ml/g、嵩密度が0.21g/mlであった。
【0099】
このエステル合成触媒について、実施例1と同様に、エステル変換率及び総積算量を測定したところ、エステル変換率は、54%であった。また、エステル変換率については、その加熱減量(OH基量)に対してプロットして図1に示した。
【0100】
(実施例7〜9、比較例5〜7)
表2に示す物性を有する市販のシリカ粒子を使用し、実施例4と同様にしてリパーゼ14重量部を担持させたエステル合成触媒28.5gを得た。
【0101】
このエステル合成触媒について、実施例1と同様に、エステル変換率及び総積算量を測定し、その結果を表2に併せて示した。また、エステル変換率については、その加熱減量(OH基量)に対してプロットして図1に示した。
【0102】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】実施例及び比較例で調製されたエステル合成触媒について、エステル変換率をその加熱減量(OH基量)に対してプロットした線図である。
【図2】実施例1、4及び比較例1の繰り返し反応の各回における積算変換量を示す図である。
【図3】実施例4で調製された高活性劈開性積層シリカ粒子の電子顕微鏡写真(倍率10000倍)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BET比表面積が20乃至380m/g、細孔半径が25Å以上及び導電率が2000μS/cm以下のシリカ粒子にリパーゼを担持させてなることを特徴とするエステル合成触媒。
【請求項2】
前記シリカ粒子は、170℃〜900℃での温度領域での加熱減量が、170℃乾燥品当り3.5重量%未満である請求項1に記載のエステル合成触媒。
【請求項3】
前記シリカ粒子は、バーミキュライトの酸処理により得られたSiOの薄層が積層された劈開性積層体粒子からなる請求項2に記載のエステル合成触媒。
【請求項4】
シリカ粒子の中位径が0.5μm乃至2mmであることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のエステル合成触媒。
【請求項5】
110℃の乾燥物に換算したシリカ粒子100重量部当り1乃至30重量部のリパーゼを担持させてなる請求項1乃至4の何れかに記載のエステル合成触媒。
【請求項6】
加水分解活性が2×10IU/g以上のリパーゼを用いる請求項1乃至5の何れかに記載のエステル合成触媒。
【請求項7】
BET比表面積が20乃至380m/g、細孔半径が25Å以上及び導電率が2000μS/cm以下のシリカ粒子を、濃度が0.1乃至15重量%のリパーゼ水分散液に混合した混合液を調整し、該混合液をリパーゼの失活温度未満で乾燥することを特徴とするエステル化触媒の製造方法。
【請求項8】
前記混合液のpHが6乃至8の範囲であることを特徴とする請求項7に記載のエステル化触媒の製造方法。
【請求項9】
請求項7に記載の製造方法において、混合液に溶解している塩類が、110℃の乾燥物に換算したシリカ粒子100重量部に対して0.5重量部以下であることを特徴とする請求項7または8に記載のエステル化触媒の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至6の何れかに記載のエステル合成触媒の存在下に、低級アルコールと油脂もしくは脂肪酸とを反応させて脂肪酸エステルとすることを特徴とするバイオ燃料の製造方法。
【請求項11】
低級アルコールと油脂もしくは脂肪酸とを有機溶媒と共に、前記エステル合成触媒が充填された固定床に連続的に供給する請求項10に記載のバイオ燃料の製造方法。
【請求項12】
油脂として植物油を使用する請求項10または11に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−272326(P2006−272326A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−58026(P2006−58026)
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【出願人】(000193601)水澤化学工業株式会社 (50)
【Fターム(参考)】