説明

エステル型デンドリマー、その製造方法、及びエステル型デンドリマー合成用モノマー

【課題】合成過程において転位反応が生ずることがなく、製造が容易で、製造コストの低廉なエステル型デンドリマー、その製造方法、及びエステル型デンドリマー合成用モノマーを提供する。
【解決手段】本発明のエステル型デンドリマーは、ジカルボン酸等のコア分子の官能基を起点として、一般式(a)(式中Rは水素原子又は炭素数が1〜5のアルキル基を示す)で示されるトリオールとジカルボン酸とが交互にエステル結合して規則的な分岐構造をなしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エステル結合によって多分岐構造が形成される、エステル型デンドリマー及びその製造方法、並びにそれらの製造原料となるエステル型デンドリマー合成用モノマー
に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高度に分岐した構造を有するデンドリティック高分子が注目されている。デンドリティック高分子は、その特異な分子構造から、非晶質である、有機溶媒への溶解性が高い、粘度が極端に小さい、機能性基を導入可能な鎖末端が多く存在する等、線状高分子とは異なる特徴があり、様々な分野での応用が期待され、近年盛んに研究が行われている。
【0003】
デンドリティック高分子には、多官能基を有するモノマーを一段階ずつ化学反応させ、規則的な分岐構造を形成させるデンドリマーと、ABx型モノマーを重縮合させて一気に分岐構造を形成する高分岐ポリマーとが知られている。この中でも、デンドリマーは、多官能基を有するモノマーを一段階ずつ化学反応させて製造するため、分子量を正確に規定することができ、単分散性に優れた高分子とすることができる。例えば、非特許文献1では、グリセロールとコハク酸からなるポリエステル型デンドリマーが報告されている。この合成経路を以下に示す。
【0004】
【化1】

【非特許文献1】M.A.Carnahan,M.W.Grinstaff, Macromolecules,34,7648(2001).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記非特許文献1に記載のエステル型デンドリマーでは、合成経路における脱保護過程で下記の化学反応式に示す末端の転位反応が併発し、均質なデンドリマーを合成するのが困難であるという問題があった。
【化2】

【0006】
また、出発物質である1,3-O-ベンジリデングリセロール(d)はベンズアルデヒドとグリセリンとの反応で合成可能ではあるが、副生成物として次式で示す4−ヒドロキシメチル−2−フェニル−1、3−ジオキソラン(e)が生じるため精製に手間がかかり、製造コストが高くなるという問題があった。
【化3】

【0007】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、合成過程において転位反応が生ずることがなく、製造が容易で、製造コストの低廉なエステル型デンドリマー、その製造方法、及びエステル型デンドリマー合成用モノマーを提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、上記エステル型デンドリマーの合成において転位反応が起こるのは、下記反応式に基づくものと推測した。
【化4】

【0009】
そしてさらに、この推測が正しいならば、原料としてのグリセリンの代わりに、三つの等価の水酸基を有する対称型トリオールを用いれば、転位しても結果として全く同じ化合物となり、均質なエステル型デンドリマーを容易かつ高収率で得られると考え、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明のエステル型デンドリマーは、コア分子の官能基を起点として、一般式(a)(式中Rは水素原子又は炭素数が1〜5のアルキル基を示す)で示されるトリオールとジカルボン酸とが交互にエステル結合して規則的な分岐構造をなすことを特徴とする。
【化5】

【0011】
本発明のエステル型デンドリマーは、一般式(a)(式中Rは水素原子又は炭素数が1〜5のアルキル基を示す)で示されるトリオールとジカルボン酸とが交互にエステル結合して規則的な分岐構造をなしている。このトリオールの水酸基は互いに等価関係にあるため、本発明のデンドリマーを合成する際のベンジリデン保護基の脱離の際に転位が起こったとしても、結果として全く同じ化合物となる。例えば、ジカルボン酸がコハク酸であり、トリオールが1,1,1−トリス(ヒドロキシメチル)エタンである場合の反応式を示せば、次のとおりである。このため、均質な本発明のエステル型デンドリマーを容易かつ高収率で得ることができる。
【化6】

【0012】
本発明のデンドリマーは、次のようにして製造することができる。
すなわち、本発明のエステル型デンドリマーの製造方法は、コア分子に、トリオールの3つの水酸基の内の2つにベンジリデン保護基を導入したベンジリデン保護トリオール誘導体の水酸基を介して修飾するコア分子修飾工程と、
該コア分子修飾工程によって導入されたベンジリデン保護基を脱離させて複数の水酸基を生成させるコア分子脱保護工程と、
該コア分子脱保護工程によって生成した複数の水酸基を起点としてトリオールとジカルボン酸とを交互にエステル結合させて規則的な分岐構造を有するデンドリマーとするデンドリマー工程とを備え、
該デンドリマー工程は、トリオールの3つの水酸基の内の2つにベンジリデン保護基を導入したベンジリデン保護トリオール誘導体とジカルボン酸とのモノエステルであるベンジリデン保護モノエステルを水酸基にエステル結合させるエステル化工程と、該エステル化工程によって導入されたベンジリデン保護基を脱離させて複数の水酸基を形成させる脱保護工程とからなり、該エステル化工程と該脱保護工程とを各1回又は繰り返すことによってエステル型デンドリマーを得るデンドリマーの製造方法において、
前記トリオールは一般式(a)(式中Rは水素原子又は炭素数が1〜5のアルキル基を示す)で示されることを特徴とする。
【0013】
ここで、ベンジリデン保護基とは、下記構造の保護基をいう。
【化7】

【0014】
また、本発明のエステル型デンドリマーの原料となるジカルボン酸は、例えばアルキレン基の両末端にカルボキシル基が結合したジカルボン酸のコハク酸やマロン酸、フェニレン基の両末端にカルボキシル基が結合したフタル酸のようなジカルボン酸を用いることができる。
【0015】
本発明のエステル型デンドリマーの原料となるエステル型デンドリマー合成用モノマーは、ジカルボン酸の一方のカルボキシル基と、一般式(c)で示されるベンジリデン保護トリオール誘導体の水酸基とがエステル結合していることを特徴とする(式中Rは水素原子又は炭素数が1〜5のアルキル基を示し、φは置換されてもよいアリール基を示す)。
【化8】

このようなモノマーを原料としてデンドリマーを合成した場合、ベンジリデン保護基の脱離に際して転位反応が生じたとしても、結果として転位前と同じ化合物となるため、転位反応による副生成物は生じることがない。このため、均質なエステル型デンドリマーが容易かつ高収率で得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
<ベンジリデン保護トリオール誘導体(1)の合成>
下式に示すように、1,1,1-トリス(ヒドロキシメチル)エタンをベンズアルデヒドと反応させてベンジリデン保護トリオール誘導体(1)を合成した。
【化9】

【0017】
すなわち、ジムロート冷却器、Dean-Stark水分離器、マグネティックスターラーを装備した200mLナスフラスコに5.00 g (47.1 mmol) のベンズアルデヒド、5.77 g(48.0 mmol) の1,1,1-トリス(ヒドロキシメチル)エタン、および50 mLのトルエンを取り、4時間加熱還流攪拌した。反応終了後、反応混合物にジエチルエーテルを加え、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、淡黄色透明オイルを得た。クロロホルム / ヘキサンで再結晶することにより白色固体としてベンジリデン保護トリオール誘導体(1)を9.51g(収率97%)得た。ベンジリデン保護トリオール誘導体(1)はcis体とtrans体が5.8:1の混合物であった。このものはデンドリマー合成過程において保護基を導入する為の化合物であって、デンドリマー生成時にはベンジリデン保護基が脱離して立体異性がなくなる為、cis,transの混合物のまま次工程に用いる事が出来る。
1H NMR
(CDCl3,δppm)
cis体:7.53〜7.46 (m, 2H, Ph-)、7.41〜7.33 (m, 3H, Ph-)、5.44 (s, 1H, -O-CH(Ph)-O-)、4.06 (d, J = 11.88 Hz, 2H, -O-CH2-C(Me)(CH2OH)-CH2-O-)、3.91 (d, J = 5.61 Hz, 2H, -CH2-OH)、3.66 (d, J = 11.88 Hz, 2H, -O-CH2-C(Me)(CH2OH)-CH2-O-)、1.76 (t, J = 5.61 Hz, 1H, -OH)、0.81 (s, 3H, -Me)
trans体:7.53〜7.46 (m, 2H, Ph-)、7.41〜7.33 (m, 3H, Ph-)、5.42 (s, 1H, -O-CH(Ph)-O-)、3.92 (d, J = 11.22 Hz, 2H, -O-CH2-C(Me)(CH2OH)-CH2-O-)、3.84 (d, J = 10.89 Hz, 2H, -O-CH2-C(Me)(CH2OH)-CH2-O-)、3.41 (d, J = 5.27 Hz, 2H, -CH2-OH)、1.46 (t, J = 5.28 Hz, 1H, -OH)、1.31 (s, 3H, -Me)
【0018】
<コア分子修飾工程>
ベンジリデン保護ジカルボン酸ジエステル(2)の合成
次に、ベンジリデン保護トリオール誘導体(1)とコハク酸とを反応させて、ベンジリデン保護ジカルボン酸ジエステル(2)を得た(下記反応式参照)。
【化10】

【0019】
すなわち、ベンジリデン保護トリオール誘導体(1)(3.02g,14.5mmol)と、コハク酸(0.9g,7.6mmol)と4-ジメチルアミノピリジン(0.18g,1.5mmol)を60mLのジクロロメタンにマグネティックスターラーにて撹拌しながら溶解し、さらに、1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide
Hydrochloride(3.05g,15.9mmol)を加え、反応容器を窒素置換した。0℃(氷冷)で3時間撹拌した後、室温で一晩撹拌した。反応液を1/20Nの塩酸で3回洗浄し、次いで飽和炭酸ナトリウム水溶液100mLで2回洗浄し、さらに水100mLで1回洗浄した後、有機溶媒相を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、デカンテーションで硫酸ナトリウムを除去し、減圧下で溶媒を留去させた。こうして得られた白色固体をクロロホルム/メタノール混合溶液にて再結晶精製した。析出した白色結晶を吸引濾過で取り出し、真空乾燥し、第一晶を得た。さらに濾液を溶媒留去し、得られた白色固体を繰り返し同様に再結晶精製し、第二晶〜第四晶を得た。更に残留物をシリカゲルカラムクロマトで精製し、合計3.1gの白色結晶からなるベンジリデン保護ジカルボン酸ジエステル(2)を収率87.0%で得た。(1)がcis,transの混合物であった為、生成した(2)は両末端がcis体のもの、一方がcis体でもう一方がtrans体のもの、両末端がtrans体のものの3種の混合物として得られた。各晶で明確に立体異性体を分けることはできず、cis-cis体が主成分で、次いでcis-trans体、trans-trans体の順であった。ベンジリデン保護ジカルボン酸ジエステル(2)を再結晶により精製する際に得られた第一晶〜第四晶のメチル基に係る部分の1HNMRスペクトルを図1に示す。
1H NMR(CDCl3,δppm)
cis-cis体:7.57〜7.42 (m, 4H, Ph-)、7.41〜7.30 (m, 6H, Ph-)、5.4122 (s, 2H, -O-CH(Ph)-O-)、4.40 (s, 4H, -CH2-OCOCH2CH2COO-CH2-)、
4.04 (d, J = 11.94 Hz,4H, -O-CH2-C(Me)(CH2COO-)-CH2-O-)、3.65 (d, J = 11.94 Hz, 4H, -O-CH2-C(Me)(CH2COO-)-CH2-O-)、2.69 (s, 4H, -OCO-CH2CH2-COO-)、0.79 (s, 6H, -Me)
cis-trans体:7.57〜7.42 (m, 4H, Ph-)、7.41〜7.30 (m, 6H, Ph-)、5.4263 (s, 1H, -O-CH(Ph)-O-,cis or trans)、5.3951 (s, 1H, -O-CH(Ph)-O-, cis ortrans)、4.05 (d, J = 11.94 Hz, 2H, -O-CH2-C(Me)(CH2COO-)-CH2-O-, cis)、3.67 (d, J = 11.94 Hz, 2H, -O-CH2-C(Me)(CH2COO-)-CH2-O-, cis)、
3.89〜3.83 (m, 4H, -O-CH2-C(Me)(CH2COO-)-CH2-O-, trans)、
2.69 (s, 4H, -OCO-CH2CH2-COO-)、1.33 (s, 3H, -Me, trans)、0.82 (s, 3H, -Me, cis)
trans-trans体:7.57〜7.42 (m, 4H, Ph-)、7.41〜7.30 (m, 6H, Ph-)、5.4153 (s, 2H, -O-CH(Ph)-O-)、3.91〜3.84 (m, 8H, -O-CH2-C(Me)(CH2COO-)-CH2-O-)、2.69 (s, 4H, -OCO-CH2CH2-COO-)、1.34 (s, 6H, -Me)
【化11】

【0020】
<コア分子脱保護工程>
こうして得られたベンジリデン保護ジカルボン酸ジエステル(2)からベンジリデン保護基を脱離させてジカルボン酸ジエステル(3)を得た。
【化12】

すなわち、吸引栓を備えたナス型フラスコに、ベンジリデン保護ジカルボン酸ジエステル(2)を0.25g(0.50mmol)入れ、脱水テトラヒドロフラン10mLを加えて溶解した。次いでこの溶液に10%Pd/Cを0.05g加え、さらに、濃塩酸50μLをメタノール2mLに溶解させた溶液を20μL加えた。そして、窒素を満たしたバルーンを三方コックを介してナス型フラスコに接続し、三方コックの残った口をアスピレーターに接続した。アスピレーターでフラスコ内を減圧した後、窒素を導入する操作を3回繰り返し、フラスコ内を窒素で置換した。次に窒素バルーンを水素で満たしたバルーンと交換し、同様の操作によってフラスコ内を水素で置換した。その後、室温下、マグネティックスターラーで溶液を1.5時間激しく撹拌した。その後、吸引濾過によってPd/Cを除去し、濾液の溶媒を減圧下留去し、真空ポンプで乾燥させることにより、白色固体のジカルボン酸ジエステル(3)を定量的に得た。H-NMRは以下の通りであり、芳香族プロトンが消失している事からベンジリデン保護基が脱離している事が容易に確認できた。それによって生成したヒドロキシル基のプロトンは溶媒などの影響で観察できないが、このものは転位が起こっても同じ構造をとる為、4種類のプロトンしか示さない非常に単純なスペクトルとなった。
1H NMR
(CD3OD,δppm)
4.00 (s, 4H, -CH2-OCOCH2CH2COO-CH2-)、3.46〜3.42 (m, 8H, -CH2OH)、2.65 (s, 4H, -OCO-CH2CH2-COO-)、0.90 (s, 6H, -Me)
【0021】
<エステル型デンドリマー合成用モノマーの合成>
ベンジリデン保護ジカルボン酸モノエステル(4)の合成
ベンジリデン保護トリオール誘導体(1)と無水コハク酸とを反応させることにより、エステル型デンドリマー合成用モノマーとしてのベンジリデン保護ジカルボン酸モノエステル(4)を得た(下記反応式参照)。
【化13】

すなわち、ジムロート冷却器およびマグネティックスターラーを装備した50 ml二口ナスフラスコに5.00 g (27.7mmol)のベンジリデン保護トリオール誘導体(1)、ピリジン24 mL、無水コハク酸2.76 g (27.6 mmol)の順に取り、窒素下室温で一晩攪拌した。反応終了後、溶媒を減圧留去し、淡黄色オイルを得た。酢酸エチル/ヘキサン混合溶媒で再結晶することにより白色固体としてベンジリデン保護ジカルボン酸モノエステル(4)を6.17g(収率83.4%)得た。
1H NMR
(CDCl3,δppm)
cis体:7.52〜7.42 (m, 2H, Ph-)、7.41〜7.32 (m, 3H, Ph-)、5.42 (s, 1H, -O-CH(Ph)-O-)、
4.42 (s, 2H, -CH2-OCOCH2CH2COOH)、
4.04 (d, J = 11.87Hz, 2H, -O-CH2-C(Me)(CH2COO-)-CH2-O-)、3.66 (d, J = 11.88 Hz, 2H, -O-CH2-C(Me)(CH2COO-)-CH2-O-)、2.68 (s, 4H, -OCOCH2CH2COOH)、0.80 (s, 3H,-Me)
trans体:7.52〜7.42 (m, 2H, Ph-)、7.41〜7.32 (m, 3H, Ph-)、5.41 (s,1H, -O-CH(Ph)-O-)、3.89 (s, 2H, -CH2-OCOCH2CH2COOH)、
3.86〜3.84 (m, 4H, -O-CH2-C(Me)(CH2COO-)-CH2-O-)、2.68 (s, 4H, -OCOCH2CH2COOH)、1.33 (s, 3H, -Me)
【0022】
<エステル化工程>
ベンジリデン保護デンドリマー(5)の合成
上記ジカルボン酸ジエステル(3)の4つの水酸基に上記ベンジリデン保護ジカルボン酸モノエステル(4)のカルボキシル基をエステル結合させてベンジリデン保護デンドリマー(5)を得た(下記反応式参照)。
【化14】

すなわち、ジカルボン酸ジエステル(3)(0.1g,0.31mmol)と、ベンジリデン保護ジカルボン酸モノエステル(4)(0.40g,1.3mmol)と、4-ジメチルアミノピリジン(0.016g,0.13mmol)とを12mLのジクロロメタンに加え、マグネティックスターラーにて撹拌して溶解させた。さらに、1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide
Hydrochloride(0.27g,1.4mmol)を加え、反応容器内を窒素置換した。そして、0℃(氷冷)で1時間撹拌した後、室温で一晩撹拌した後、反応液を1/20Nの塩酸で3回洗浄し、次いで飽和炭酸ナトリウム水溶液100mLで2回洗浄し、さらに水100mLで1回洗浄した後、有機溶媒相を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、デカンテーションで硫酸ナトリウムを除去し、減圧下で溶媒留去し、無色透明粘性固体のベンジリデン保護デンドリマー(5)を0.43g(収率92%)得た。
1H NMR
(CDCl3,δppm)
7.51〜7.41 (m, 8H, k)、7.39〜7.30 (m, 12H, j)、5.44 (s, 4H, i, trans)、5.41 (s, 4H, i, cis)、4.42 (bs, 8H, f, trans)、4.40 (bs, 8H, f, cis)、4.03 (d, J= 11.76 Hz, 8H, h, cis)、4.00 (s, 4H, b, 8H, d)、3.88〜3.82 (m, 16H, h, trans)、3.65 (d, J = 11.76 Hz, 8H, h, cis)、2.69〜2.58 (m, 16H, e, 4H, a)、1.32 (s, 12H, g, trans)、0.99 (s, 6H, c)、0.80 (s, 12H, g, cis)
【化15】

【0023】
<脱保護工程>
デンドリマー(6)の合成
そして、このベンジリデン保護デンドリマー(5)からベンジリデン保護基を脱離させて、エステル型デンドリマー(6)を得た。
【化16】

すなわち、吸引栓を備えたナス型フラスコにベンジリデン保護デンドリマー(5)(0.25g,0.17mmol)を脱水テトラヒドロフラン10mLに溶解し、10%Pd/Cを0.05g加え、さらに濃塩酸50μLをメタノール2mLに溶解させた溶液を20μL加えた。窒素を満たしたバルーンを三方コックを介してナス型フラスコに接続し、三方コックの残った口をアスピレーターに接続した。アスピレーターにてフラスコ内を減圧、その後窒素を導入する操作を3回繰り返し、フラスコ内を窒素で置換した。次に水素で満たしたバルーンに置き換え、同様の操作によってフラスコ内を水素で置換した。その後室温で反応液をマグネティックスターラーで1.5時間激しく撹拌した。反応後、吸引濾過でPd/Cを除去し、濾液を減圧下で溶媒留去し、真空ポンプで乾燥させ、無色粘性液体のエステル型デンドリマー(6)を定量的に得た。
1H NMR
(CD3OD,δppm)
4.03 (s, 4H, b, 8H, d)、4.00 (s, 8H, f)、3.43 (s, 16H, h)、2.64 (s, 16H, e, 4H, a)、1.02 (s, 6H, c)、0.88 (s, 12H, g)
【化17】

【0024】
<エステル化工程>
ベンジリデン保護デンドリマー(7)の合成
デンドリマー(6)(0.13g,0.11mmol)と、ベンジリデン保護ジカルボン酸モノエステル(4)(0.35g,1.14mmol)と、4-ジメチルアミノピリジン(0.014g,0.11mmol)とを15mLのジクロロメタンに加え、マグネティックスターラーにて撹拌して溶解させた。さらに、1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide
Hydrochloride(0.26g,1.4mmol)を加え、反応容器内を窒素置換した。そして、0℃(氷冷)で1時間撹拌した後、室温で一晩撹拌した後、反応液を1/20Nの塩酸で3回洗浄し、次いで飽和炭酸ナトリウム水溶液50mLで3回洗浄し、有機溶媒相を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、デカンテーションで硫酸ナトリウムを除去し、減圧下で溶媒留去し、白色固体のベンジリデン保護デンドリマー(7)を0.38g(収率97%)得た。
1H NMR
(CDCl3,δppm)
7.51〜7.42 (m, 16H, o)、7.40〜7.31 (m, 24H, n)、5.42 (bs, 8H, m, cis
and trans)、4.42 (bs, 16H, j, trans)、4.40 (bs, 16H, j, cis)、4.04 (d, J
= 11.94 Hz, 16H, l, cis)、4.00 (s, 4H, b, 8H, d,8H, f, 16H, h)、3.89〜3.83 (m, 32H, l, trans)、3.66 (d, J = 11.94 Hz, 16H, l, cis)、2.74〜2.57 (m, 32H, i, 16H, e, 4H, a)、1.33 (s, 24H, k, trans)、1.08〜0.94 (m, 6H, c, 12H, g)、0.80 (s, 24H, k, cis)
【化18】

<脱保護工程>
デンドリマー(8)の合成
吸引栓を備えたナス型フラスコにベンジリデン保護デンドリマー(7)(0.13g,0.038mmol)を脱水テトラヒドロフラン10mLに溶解し、10%Pd/Cを0.03g加え、さらに濃塩酸50μLをメタノール2mLに溶解させた溶液を40μL加えた。窒素を満たしたバルーンを三方コックを介してナス型フラスコに接続し、三方コックの残った口をアスピレーターに接続した。アスピレーターにてフラスコ内を減圧、その後窒素を導入する操作を3回繰り返し、フラスコ内を窒素で置換した。次に水素で満たしたバルーンに置き換え、同様の操作によってフラスコ内を水素で置換した。その後室温で反応液をマグネティックスターラーで1.5時間激しく撹拌した。反応後、吸引濾過でPd/Cを除去し、濾液を減圧下で溶媒留去し、真空ポンプで乾燥させ、無色粘性液体を定量的に得た。
1H NMR
(CD3OD,δppm)
4.05 (bs, 4H, b, 8H, d, 8H, f, 16H, h)、4.00 (s, 16H, j)、3.47〜3.43 (m, 32H, l)、2.70〜2.64 (m, 32H, i, 16H, e,4H, a)、1.03(s, 6H, c, 12H, g)、0.90 (s, 24H, k)
【化19】

<エステル化工程>
ベンジリデン保護デンドリマー(9)の合成
デンドリマー(8)(0.079g,0.029mmol)と、ベンジリデン保護ジカルボン酸モノエステル(4)(0.18g,0.58mmol)と、4-ジメチルアミノピリジン(0.0071g,0.058mmol)とを15mLのジクロロメタンに加え、マグネティックスターラーにて撹拌して溶解させた。さらに、1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide
Hydrochloride(0.13g,0.69mmol)を加え、反応容器内を窒素置換した。そして、0℃(氷冷)で1時間撹拌した後、室温で一晩撹拌した後、反応液を1/20Nの塩酸で3回洗浄し、次いで飽和炭酸ナトリウム水溶液50mLで3回洗浄し、有機溶媒相を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、デカンテーションで硫酸ナトリウムを除去し、減圧下で溶媒留去し、白色固体のベンジリデン保護デンドリマー(9)を0.22g(定量的)得た。
1H NMR
(CDCl3,δppm)
7.52〜7.41 (m, 32H, s)、7.40〜7.29 (m, 48H, r)、5.42 (s, 16H, q, trans)、5.41 (s, 16H, q, cis)、4.41 (s, 32H,n, trans)、4.39 (s, 32H, n, cis)、4.03 (d, J = 11.94 Hz, 32H, p, cis)、4.00 (s, 4H, b, 8H, d, 8H, f, 16H, h, 16H, j, 32H, l)、3.90〜3.82 (m, 64H, p, trans)、3.65 (d, J = 11.94 Hz, 32H, p, cis)、2.71〜2.56 (m, 64H, m, 32H, i, 16H, e, 4H, a)、1.32 (s, 48H, o, trans)、0.99 (bs, 6H,c, 12H, g, 24H, k)、0.80 (s, 48H, o, cis)
【化20】

<脱保護工程>
デンドリマー(10)の合成
吸引栓を備えたナス型フラスコにベンジリデン保護デンドリマー(9)(0.19g,0.026mmol)を脱水テトラヒドロフラン10mLに溶解し、10%Pd/Cを0.04g加え、さらに濃塩酸50μLをメタノール2mLに溶解させた溶液を80μL加えた。窒素を満たしたバルーンを三方コックを介してナス型フラスコに接続し、三方コックの残った口をアスピレーターに接続した。アスピレーターにてフラスコ内を減圧、その後窒素を導入する操作を3回繰り返し、フラスコ内を窒素で置換した。次に水素で満たしたバルーンに置き換え、同様の操作によってフラスコ内を水素で置換した。その後室温で反応液をマグネティックスターラーで1.5時間激しく撹拌した。反応後、吸引濾過でPd/Cを除去し、濾液を減圧下で溶媒留去し、真空ポンプで乾燥させ、無色粘性固体を定量的に得た。
1H NMR
(CD3OD,δppm)
4.04 (bs, 4H, b, 8H, d, 8H, f, 16H, h, 16H,j, 32H, l)、4.01(s, 32H, n)、3.45(bs, 64H, p)、2.71〜2.63 (m, 64H, m,32H, i,16H, e, 4H, a)、1.04 (s, 6H, c, 12H, g, 24H, k)、0.90 (s, 48H, o)
【化21】

【0025】
<エステル化工程>
ベンジリデン保護デンドリマー(11)の合成
デンドリマー(10)(0.12g,0.021mmol)と、ベンジリデン保護ジカルボン酸モノエステル(4)(0.26g,0.83mmol)と、4-ジメチルアミノピリジン(0.010g,0.083mmol)とを15mLのジクロロメタンに加え、マグネティックスターラーにて撹拌して溶解させた。さらに、1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide
Hydrochloride(0.19g,1.0mmol)を加え、反応容器内を窒素置換した。そして、0℃(氷冷)で1時間撹拌した後、室温で一晩撹拌した後、反応液を1/20Nの塩酸で3回洗浄し、次いで飽和炭酸ナトリウム水溶液50mLで3回洗浄し、有機溶媒相を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、デカンテーションで硫酸ナトリウムを除去し、減圧下で溶媒留去し、白色固体のベンジリデン保護デンドリマー(11)を0.30g(収率96%)得た。
1H NMR
(CDCl3,δppm)
7.51〜7.42 (m, 64H, w)、7.40〜7.30 (m, 96H, v)、5.43〜5.40 (m, 32H, u, cis and trans)、4.43 (s, 64H, r, trans)、4.39 (s, 64H, r, cis)、4.03 (d, J
= 11.94 Hz, 64H, t, cis)、4.00 (s, 4H, b, 8H, d,8H, f, 16H, h, 16H, j, 32H, l, 32H, n, 64H, p)、3.88〜3.82 (m, 128H, t, trans)、3.65 (d, J = 11.94 Hz, 64H, t, cis)、2.71〜2.59 (m, q, 128H, 64H, m, 32H, i, 16H, e, 4H, a)、1.32 (s, 96H, s, trans)、1.05〜0.95 (m, 6H, c, 12H, g, 24H, k, 48H, o)、0.79 (bs, 96H, s, cis)
【化22】

【0026】
<脱保護工程>
デンドリマー(12)の合成
吸引栓を備えたナス型フラスコにベンジリデン保護デンドリマー(11)(0.28g,0.018mmol)を脱水テトラヒドロフラン10mLに溶解し、10%Pd/Cを0.10g加え、さらに濃塩酸50μLをメタノール2mLに溶解させた溶液を80μL加えた。窒素を満たしたバルーンを三方コックを介してナス型フラスコに接続し、三方コックの残った口をアスピレーターに接続した。アスピレーターにてフラスコ内を減圧、その後窒素を導入する操作を3回繰り返し、フラスコ内を窒素で置換した。次に水素で満たしたバルーンに置き換え、同様の操作によってフラスコ内を水素で置換した。その後室温で反応液をマグネティックスターラーで1.5時間激しく撹拌した。反応後、吸引濾過でPd/Cを除去し、濾液を減圧下で溶媒留去し、真空ポンプで乾燥させ、無色粘性固体を定量的に得た。
1H NMR
(CD3OD,δppm)
4.05 (bs, 4H, b, 8H, d, 8H, f, 16H, h, 16H,
j, 32H, l, 32H, n, 64H, p)、4.01 (s, 64H, r)、3.44 (s, 128H, t)、2.71〜2.63 (m, 128H, q, 64H, m,32H, i, 16H, e, 4H, a)、1.04 (s, 6H, c, 12H, g,
24H, k, 48H, o)、0.89 (s, 96H, s)
【化23】

【0027】
この発明は、上記発明の実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は機能性高分子であるエステル型デンドリマー及びその製造方法に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】ベンジリデン保護ジカルボン酸ジエステル(2)を再結晶により精製する際に得られた第一晶〜第四晶のメチル基に係る部分の1H NMRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア分子の官能基を起点として、一般式(a)(式中Rは水素原子又は炭素数が1〜5のアルキル基を示す)で示されるトリオールとジカルボン酸とが交互にエステル結合して規則的な分岐構造をなすことを特徴とするエステル型デンドリマー。
【化1】

【請求項2】
前記Rは水素原子、メチル基及びエチル基のいずれかであることを特徴とする請求項1記載のエステル型デンドリマー。
【請求項3】
前記ジカルボン酸は一般式(b)で示されることを特徴とする請求項1又は2記載のエステル型デンドリマー(式中R2は炭素数0〜10のアルキレン基又はフェニレン基を示す)。
【化2】

【請求項4】
コア分子に、トリオールの3つの水酸基の内の2つにベンジリデン保護基を導入したベンジリデン保護トリオール誘導体の水酸基を介して修飾するコア分子修飾工程と、
該コア分子修飾工程によって導入されたベンジリデン保護基を脱離させて複数の水酸基を生成させるコア分子脱保護工程と、
該コア分子脱保護工程によって生成した複数の水酸基を起点としてトリオールとジカルボン酸とを交互にエステル結合させて規則的な分岐構造を有するデンドリマーとするデンドリマー工程とを備え、
該デンドリマー工程は、トリオールの3つの水酸基の内の2つにベンジリデン保護基を導入したベンジリデン保護トリオール誘導体とジカルボン酸とのモノエステルであるベンジリデン保護モノエステルを水酸基にエステル結合させるエステル化工程と、該エステル化工程によって導入されたベンジリデン保護基を脱離させて複数の水酸基を形成させる該脱保護工程とからなり、該エステル化工程と該脱保護工程とを各1回又は繰り返すことによってエステル型デンドリマーを得るデンドリマーの製造方法において、
前記トリオールは一般式(a)(式中Rは水素原子又は炭素数が1〜5のアルキル基を示す)で示されることを特徴とするエステル型デンドリマーの製造方法。
【化3】

【請求項5】
ジカルボン酸の一方のカルボキシル基と、一般式(c)で示されるベンジリデン保護トリオール誘導体の水酸基とがエステル結合していることを特徴とするエステル型デンドリマー合成用モノマー(式中Rは水素原子又は炭素数が1〜5のアルキル基を示し、φは置換されてもよいアリール基を示す)。
【化4】


【図1】
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【公開番号】特開2008−81725(P2008−81725A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−121769(P2007−121769)
【出願日】平成19年5月2日(2007.5.2)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【出願人】(000234166)伯東株式会社 (135)
【Fターム(参考)】