説明

エステル型デンドリマー

【課題】粘度が低くて取扱いやすく、かつ粘度を調整することができ、粘度調整剤に好適に用いることのでき、幅広い性質の種々の材料との相溶性も調整することができるポリエステル型デンドリマーを提供する。
【解決手段】本発明のエステル型デンドリマーは、コア分子となるジカルボン酸のカルボキシル基を起点として、一般式(a)又は一般式(b)(式中Rは水素原子又は炭素数が1〜5のアルキル基を示す)で示されるトリオールとジカルボン酸とが交互にエステル結合して規則的な分岐構造をなし、末端水酸基の一部がカルボン酸のエステルとされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、末端水酸基の一部がエステル化されたエステル型デンドリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高度に分岐した構造を有するデンドリティック高分子が注目されている。デンドリティック高分子は、その特異な分子構造から、非晶質である、有機溶媒への溶解性が高い、粘度が極端に小さい等、線状高分子とは異なる特徴があり、様々な分野での応用が期待され、近年盛んに研究が行われている。
【0003】
デンドリティック高分子には、多官能基を有するモノマーを一段階ずつ化学反応させ、規則的な分岐構造を形成させるデンドリマーと、ABx型モノマーを重縮合させて一気に分岐構造を形成する高分岐ポリマーとが知られている。この中でも、デンドリマーは、多官能基を有するモノマーを一段階ずつ化学反応させて製造するため、分子量を正確に規定することができ、単分散性に優れた高分子とすることができる。例えば、非特許文献1では、グリセロールとコハク酸からなるエステル型デンドリマーが報告されている。この合成経路を以下に示す。
【0004】
【化1】

【0005】
また、発明者らは、グリセロールの替わりに対称型トリオールを用いたエステル型デンドリマーについてすでに開発を行なっている(特許文献1)。このエステル型デンドリマーは対称型トリオールを用いているため、合成経路において転位反応が起こらず、均質なエステル型デンドリマーを得ることができるという利点を有する。
【非特許文献1】M.A.Carnahan, M.W.Grinstaff, Macromolecules,34,7648(2001).
【特許文献1】特開2008−81725号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来の末端が水酸基とされたポリエステル型デンドリマーでは、水酸基による水素結合が形成されるため、粘度が高くなりがちであり、その粘度を調整することもできなかった。このため、粘度調整剤として使用することが困難であり、粘性が高いことからハンドリングも容易でなかった。また、疎水性や親水性の調整をすることも困難であるため、
幅広い性質の種々の材料との相溶性を調整することが困難であった。本発明は、このような従来の実情に鑑みてなされたものであり、粘度が低くて取扱いやすく、かつ粘度を調整することができ、粘度調整剤に好適に用いることのでき、幅広い性質の種々の材料との相溶性も調整することができるポリエステル型デンドリマーを提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のエステル型デンドリマーは、コア分子となるジカルボン酸のカルボキシル基を起点として、一般式(a)又は一般式(b)(式中Rは水素原子又は炭素数が1〜5のアルキル基を示す)で示されるトリオールとジカルボン酸とが交互にエステル結合して規則的な分岐構造をなし、末端水酸基の一部がカルボン酸のエステルとされていることを特徴とする。
【化2】

【0008】
本発明のエステル型デンドリマーでは、末端水酸基の一部がカルボン酸のエステルとされているため、水酸基による水素結合の効果が低下して粘度が小さくなり、取り扱いが容易となる。また、カルボン酸の炭素数を変えたり、末端水酸基のエステル化率を変えることにより、高い粘度から低い粘度まで容易に調節することができる。このため、粘度調整剤に好適に用いることができる。
【0009】
特に、一般式(b)(式中Rは水素原子又は炭素数が1〜5のアルキル基を示す)で示されるトリオールとジカルボン酸とが交互にエステル結合して規則的な分岐構造をなすエステル型デンドリマーであれば、トリオールの対称性により、合成時においてトリオールとジカルボン酸とを交互にエステル結合させる際、たとえ転位反応が起こっても、同一の中間体化合物となるため、均質なエステル型デンドリマーを得ることができるという利点を有する。例えば、図1に示すように、トリオールとしてグリセリンを構成要素とする場合には、転位によって異性体が生ずるが、トリオールが1,1,1-トリス(ヒドロキシメチル)エタンの場合には、転位が起こっても同じ中間体化合物となる。
【0010】
コア分子となるジカルボン酸としては、下記一般式(c)(式中Rは炭素数0〜10のアルキレン基、炭素数0〜10のアルキレン基の炭素−炭素結合の一部が二重結合となった置換基及び炭素数0〜10のフェニレン基のいずれか)で示されるカルボン酸を用いることができる。具体的には、例えばアルキレン基の両末端にカルボキシル基が結合したジカルボン酸のコハク酸やマロン酸、炭素−炭素の二重結合を有するマレイン酸等のジカルボン酸、フェニレン基の両末端にカルボキシル基が結合したフタル酸等が挙げられる。
【化3】

【0011】
また、末端水酸基のエステル化を行なうためのアルキルカルボン酸としては脂肪酸であれば特に限定はないが、例えば酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、オレイン酸等の飽和、あるいは不飽和の脂肪酸等が挙げられる。また、不飽和脂肪酸以外のアルケニルカルボン酸としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、4−ペンテン酸などが挙げられる。
【0012】
なお、本発明においてデンドリマーとは、高度に分岐した規則性の高い多分岐化合物をいい、規則性の低いハイパーブランチ(hyper -branched)化合物は含まない概念である。
【0013】
エステル型デンドリマーの末端水酸基のエステル化は、カルボキシル基を除いた鎖長部分の炭素数が1〜30のモノカルボン酸によってなされていることが好ましい。炭素数が30を超えると、エステル化の反応性が悪くなり所望のエステルが得にくくなるからである。
【0014】
一般に規則性の正しいデンドリマーの場合、コア分子と呼ばれる分子構造の中心となる多官能基化合物から、基本単位となる枝分かれ分子構造が繰り返し結合した分岐構造を有する。基本単位となる枝分かれ分子構造の規則的な繰り返しの数は世代(ジェネレーション)という概念用語で表される。この世代の数え方について一般的に広く認められた定義はないが、ここではコア分子を中心として基本単位となる枝分かれ分子構造がn回結合したデンドリマーを(n−1)世代のデンドリマーと定義する。デンドリマーの世代数が大きくなると、デンドリマーの合成経路が多工程になって複雑化するため、製造コストが高くなる。また、発明者らはデンドリマーの世代数が0世代であっても粘度が低く、十分な粘度調整剤となることを見出している。このため、世代数は第0世代〜第4世代が好ましく、第0世代〜第2世代がさらに好ましい。
【0015】
末端水酸基のエステル化率は1〜99%の範囲であることが好ましく、さらに好ましいのは25〜95%の範囲である。末端水酸基のエステル化率が1%未満であると、残存する水酸基の割合が多くなり、水素結合によって粘性が高くなり、取り扱いが難しくなるとともに、残存する水酸基により水への溶解性が高まり、合成時に分液処理ができなくなったりする。また、末端水酸基のエステル化率が1%未満であると、油溶性材料との相溶性が悪くなることは勿論のこと、水溶性材料に対してもその材質によっては相溶性が悪くなる。一方、末端水酸基のエステル化率が99%を超えると、水溶性材料、特に水酸基を有するような材料との相溶性が悪くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明のエステル型デンドリマーをさらに具体化した実施例1〜10について述べる。
【0017】
<第0世代のエステル型デンドリマーの合成>
実施例1〜10は第0世代のエステル型デンドリマーであり、共通の中間原料となるテトラヒドロキシ化合物(3)を各種のカルボン酸で部分的にエステル化したものである。下式にテトラヒドロキシ化合物(3)の合成ルートを示す。すなわち、cis-1,3-O-Benzylideneglycerol(1)をコア分子となるコハク酸と反応させてベンジリデン保護基で水酸基が保護されたベンジリデン保護テトラヒドロキシ化合物(2)を合成した後、ベンジリデン保護テトラヒドロキシ化合物(2)のベンジリデン保護基を脱離させてテトラヒドロキシ化合物(3)とした。そして、さらにテトラヒドロキシ化合物(3)の4つの水酸基のうち3つを各種のカルボン酸(実施例1では酢酸、実施例2ではプロピオン酸、実施例3では酪酸、実施例4では吉草酸、実施例5では4−ペンテン酸、実施例6ではヘキサン酸、実施例7ではヘプタン酸、実施例8ではオクタン酸、実施例9ではノナン酸、実施例10ではデカン酸)でエステル化した。詳細は以下に示すとおりである。
【化4】

【0018】
<テトラヒドロキシ化合物(3)の合成>
まず、実施例1〜10で合成するエステル型デンドリマーの中間原料となるテトラヒドロキシ化合物(3)を以下の方法で合成した。
すなわち、cis-1,3-O-Benzylideneglycerol(1)(5.0g,27.7mmol)とコハク酸(1.55g,13.1mmol)と4-ジメチルアミノピリジン(以下「DMAP」という)(0.36g,2.9mmol)とを60mLのジクロロメタンにマグネティックスターラーで撹拌しながら溶解し、更に1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide Hydrochloride(以下「WSC」という)(5.8g,30.3mmol)を加え、反応容器を窒素置換した。0℃(氷冷)で3時間撹拌した後、室温で一晩撹拌し、反応液を1/20Nの塩酸で3回洗浄し、次いで飽和炭酸ナトリウム水溶液100mLで2回洗浄し、さらに水100mLで1回洗浄した後、有機溶媒層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、デカンテーションで硫酸ナトリウムを除去し、減圧下で溶媒を留去させた。こうして得られた白色固体をクロロホルム/メタノール混合溶液にて再結晶精製した。析出した白色結晶を吸引濾過で取り出し、真空乾燥し、第一晶を得た。さらに濾液を溶媒留去し、得られた白色固体を繰り返し同様に再結晶精製し、第二晶〜第四晶を得た。こうして第一晶〜第四晶までの合計5.05gの白色結晶を収率90%で得た。このものの1H−NMRは次の通りであり、ベンジリデン保護基で水酸基が保護されたベンジリデン保護テトラヒドロキシ化合物(2)の構造を有すると同定された。
1H-NMR (CDCl3) δ(ppm)
2.81(s,4H,-CH2-CH2-),4.06〜4.14(m,4H,-CH2-CH-CH2-),
4.24〜4.30(m,4H,-CH2-CH-CH2-), 4.70〜4.73(m,2H,-CH2-CH-CH2-),
5.53(s,2H,O-CH-O),7.30〜7.40(m,6H,Ph),7.47〜7.52(m,4H,Ph)
【0019】
さらに、吸引栓を備えたナス型フラスコに、上記ベンジリデン保護テトラヒドロキシ化合物(2)を0.75g(1.70mmol)入れ、脱水テトラヒドロフラン12mLを加えて溶解した。次いでこの溶液に10%Pd/Cを0.15g加え、さらに、濃塩酸50μLをメタノール2mLに溶解させた溶液を20μL加えた。そして、窒素を満たしたバルーンを三方コックを介してナス型フラスコに接続し、三方コックの残った口をアスピレーターに接続した。アスピレーターでフラスコ内を減圧した後、窒素を導入する操作を3回繰り返し、フラスコ内を窒素で置換した。次に窒素バルーンを水素で満たしたバルーンと交換し、同様の操作によってフラスコ内を水素で置換した。その後、室温下、マグネティックスターラーで溶液を1.5時間激しく撹拌した。その後、吸引濾過によってPd/Cを除去し、濾液の溶媒を減圧下留去し、真空ポンプで乾燥させることにより、無色粘性液体のテトラヒドロキシ化合物(3)を定量的に得た。このものの1H−NMRは次の通りであり、上記テトラヒドロキシ化合物(3)の構造を有すると同定された。
1H-NMR(CD3OD)δ(ppm)
2.69(s,4H,-CH2-CH2-), 3.61〜3.73(m,8H,-CH2-CH-CH2-),
4.85〜4.94(m,2H,-CH2-CH-CH2-)
【0020】
以上のようにして得られたテトラヒドロキシ化合物(3)を原料とし、4つの末端水酸基の内3つを各種のカルボン酸でエステル化した。以下にその詳細を述べる。
【0021】
(実施例1)
実施例1では、テトラヒドロキシ化合物(3)の4つの末端水酸基のうち3つを以下の方法によって酢酸エステルとした。
等圧滴下ロートと窒素バルーンと撹拌子を備えた200mlナスフラスコにテトラヒドロキシ化合物(3)(3.0g,11mmol)、DMAP(0.41g,3.4mmol)及びジクロロメタン(100ml)を入れた。さらに窒素雰囲気下でWSC (7.1g,37mmol)を加え、反応容器を窒素置換した。反応容器を0℃(氷冷)とした後、等圧滴下ロートから酢酸(2.0g,34mmol)のジクロロメタン(8.0ml)溶液をゆっくりと滴下し、さらに0°Cで3時間撹拌し、その後室温で一晩撹拌した。反応溶液を希塩酸(濃塩酸0.5mL/水100mL)100mLで3回洗浄した。次に溶媒をジエチルエーテル(70 ml)に換え、飽和炭酸ナトリウム水溶液100mLで3回洗浄した。これを硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で溶媒留去、真空乾燥することにより、1.81gの無色透明液体を得た(収率42%)。このもののスペクトル測定結果は以下のとおりであり、下記化5に示す酢酸エステル化デンドリマー(4)であると同定された。
【化5】

1H-NMR (CDCl3) δ(ppm)
5.30−5.20(m,2H,Ha) 4.35−4.10(m,8H,Hb) 2.65(s,4H,Hc) 2.09(s,3H,Hd) 2.07(s,6H,He)
FT-IR(NEAT)(cm-1)
3700-3200cm-1(O-H伸縮) 1743cm-1(C=O伸縮) 1228cm-1(C-O伸縮)
【0022】
(実施例2)
実施例2では、テトラヒドロキシ化合物(3)の4つの末端水酸基のうち3つを以下の方法によってプロピオン酸エステルとした。
等圧滴下ロートと窒素バルーンと撹拌子を備えた100mlナスフラスコにテトラヒドロキシ化合物(3)(0.5g,1.9mmol)、DMAP(0.069g, 0.56mmol)及びジクロロメタン(30ml)を入れた。さらに窒素雰囲気下でWSC(1.2g,6.2mmol)を加え、反応容器を窒素置換した。反応容器を0℃(氷冷)とした後、等圧滴下ロートからプロピオン酸(0.418g,5.6mmol)のジクロロメタン(6.0ml)溶液をゆっくりと滴下し、さらに0°Cで3時間撹拌し、その後室温で一晩撹拌した。反応溶液を希塩酸(濃塩酸0.5mL/水100mL)50mLで3回洗浄、次いで飽和炭酸ナトリウム水溶液50mLで3回洗浄した。これを硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で溶媒留去、真空乾燥することにより、0.69gの無色透明液体を得た(収率83%)。このもののスペクトル測定結果は以下のとおりであり、下記化6に示すプロピオン酸エステル化デンドリマー(5)であると同定された。
【化6】

1H-NMR(CDCl3) δ(ppm)
5.30−5.25(m,2H,Ha) 4.35−4.10(m,8H,Hb) 2.66(s,4H,Hc) 2.35(q,J = 7.53Hz,6H,Hd)
1.14(t,J =7.63Hz,9H,He)
FT-IR(NEAT)(cm-1)
3700-3200cm-1(O-H伸縮) 1743cm-1(C=O伸縮) 1175cm-1(C-O伸縮)
【0023】
(実施例3)
実施例3では、テトラヒドロキシ化合物(3)の4つの末端水酸基のうち3つを以下の方法によって酪酸エステルとした。
等圧滴下ロートと窒素バルーンと撹拌子を備えた200mlナスフラスコにテトラヒドロキシ化合物(3)(3.6g,13mmol)、DMAP(0.49g,4.0mmol)及びジクロロメタン(70ml)を入れた。さらに窒素雰囲気下でWSC(8.5g,44mmol)を加え、反応容器を窒素置換した。反応容器を0℃(氷冷)とした後、等圧滴下ロートから酪酸(3.6g,40mmol)のジクロロメタン(10ml)溶液をゆっくりと滴下し、さらに0°Cで3時間撹拌し、その後室温で一晩撹拌した。反応溶液を希塩酸(濃塩酸0.5mL/水100mL)100mLで3回洗浄した。次に溶媒をジエチルエーテル(100ml)に換え、飽和炭酸ナトリウム水溶液100mLで3回洗浄した。これを硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で溶媒留去、真空乾燥することにより、5.45gの薄黄色液体を得た(収率88%)。このもののスペクトル測定結果は以下のとおりであり、下記化7に示すプロピオン酸エステル化デンドリマー(6)であると同定された。
【化7】

1H-NMR (CDCl3) δ(ppm)
5.30−5.20(m,2H,Ha) 4.38−4.10(m,8H,Hb) 2.64(s,4H,Hc) 2.31(t,J= 7.44Hz,6H,Hd)
1.65(q,J =7.35Hz,6H,He) 0.95(t,J =7.44Hz,9H,Hf)
FT-IR(NEAT)(cm-1)
3700-3200cm-1(O-H伸縮) 1742cm-1(C=O伸縮) 1172cm-1(C-O伸縮)
【0024】
(実施例4)
実施例4では、テトラヒドロキシ化合物(3)の4つの末端水酸基のうち3つを以下の方法によって吉草酸エステルとした。
等圧滴下ロートと窒素バルーンと撹拌子を備えた200mlナスフラスコにテトラヒドロキシ化合物(3)(6.2g,23mmol)、DMAP(0.86g,7.0mmol)及びジクロロメタン(100ml)を入れた。さらに窒素雰囲気下でWSC(15g,77mmol)を加え、反応容器を窒素置換した。反応容器を0℃(氷冷)とした後、等圧滴下ロートから吉草酸(7.2g,70mmol)のジクロロメタン(15ml)溶液をゆっくりと滴下し、さらに0 °Cで3時間撹拌し、その後室温で一晩撹拌した。反応溶液を希塩酸 (濃塩酸0.5mL/水100mL)100mLで3回洗浄した。次に溶媒をジエチルエーテル(100ml)に換え、飽和炭酸ナトリウム水溶液100mLで3回洗浄した。これを硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で溶媒留去、真空乾燥することにより、10.7gの薄黄色液体を得た(収率90%)。このもののスペクトル測定結果は以下のとおりであり、下記化8に示す吉草酸エステル化デンドリマー(7)であると同定された。
【化8】

1H-NMR (CDCl3) δ(ppm)
5.30−5.23(m,2H,Ha) 4.38−4.10(m,8H,Hb) 2.65(s,4H,Hc) 2.33(t,J=7.44Hz,6H,Hd)
1.70−1.55(m,6H,He) 1.43−1.35(m,6H,Hf) 0.92(t,J= 7.26Hz,9H,Hg)
FT-IR (NEAT)(cm-1)
3700-3200cm-1(O-H伸縮) 1743cm-1(C=O伸縮) 1166cm-1(C-O伸縮)
【0025】
(実施例5)
実施例5では、テトラヒドロキシ化合物(3)の4つの末端水酸基のうち3つを以下の方法によって4-ペンテン酸エステルとした。
等圧滴下ロートと窒素バルーンと撹拌子を備えた200mlナスフラスコにテトラヒドロキシ化合物(3)(6.2g,23mmol)、DMAP(0.86g,7.0mmol)及びジクロロメタン(100ml)を入れた。さらに窒素雰囲気下でWSC(15g,77mmol)を加え、反応容器を窒素置換した。反応容器を0℃(氷冷)とした後、等圧滴下ロートから4-ペンテン酸(7.0g,70mmol)のジクロロメタン(15ml)溶液をゆっくりと滴下し、さらに0°Cで3時間撹拌し、その後室温で一晩撹拌した。反応溶液を希塩酸(濃塩酸0.5mL/水100mL)150mLで3回洗浄した。次に溶媒をジエチルエーテル(110ml)に換え、飽和炭酸ナトリウム水溶液150mLで3回洗浄した。これを硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で溶媒留去、真空乾燥することにより、11.4gの薄黄色液体を得た(収率97%)。このもののスペクトル測定結果は以下のとおりであり、下記化9に示す4-ペンテン酸エステル化デンドリマー(8)であると同定された。
【化9】

1H-NMR (CDCl3) δ(ppm)
5.90−5.70(m,3H,Ha) 5.35−5.20(m,2H,Hb) 5.15−4.90(m,6H,Hc) 4.40−4.10(m,8H,Hd)
2.65(s,4H,He) 2.50−2.30 (m,12H,Hf)
FT-IR(NEAT)(cm-1)
3700-3200cm-1(O-H伸縮) 3080cm-1(アルケンC-H伸縮) 1743cm-1(C=O伸縮)
1161cm-1 (C-O伸縮)
【0026】
(実施例6)
実施例6では、テトラヒドロキシ化合物(3)の4つの末端水酸基のうち3つを以下の方法によってヘキサン酸エステルとした。
等圧滴下ロートと窒素バルーンと撹拌子を備えた100mlナスフラスコにテトラヒドロキシ化合物(3)(2.1g,8.0mmol)、DMAP(0.29g,2.4mmol)及びジクロロメタン(50ml)を入れた。さらに窒素雰囲気下でWSC(5.1g,26mmol)を加え、反応容器を窒素置換した。反応容器を0℃(氷冷)とした後、等圧滴下ロートからヘキサン酸(2.8g,24mmol)のジクロロメタン(6.0ml)溶液をゆっくりと滴下し、さらに0°Cで3時間撹拌し、その後室温で一晩撹拌した。反応溶液を希塩酸(濃塩酸0.5mL/水100mL)100mLで3回洗浄した。次に溶媒をジエチルエーテル(80ml)に換え、飽和炭酸ナトリウム水溶液50mLで3回洗浄した。これを硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で溶媒留去、真空乾燥することにより、3.95gの無色透明液体を得た(収率88%)。このもののスペクトル測定結果は以下のとおりであり、下記化10に示すヘキサン酸エステル化デンドリマー(9)であると同定された。
【化10】

1H-NMR (CDCl3) δ(ppm)
5.30−5.05(m,2H,Ha) 4.38−4.10(m,8H,Hb) 2.65(s,4H,Hc) 2.32(t,J=7.53Hz,6H,Hd)
1.70−1.55(m,6H,He) 1.35−1.25(m,12H,Hf) 0.90(t,J=6.89Hz,9H,Hg)
FT-IR(NEAT)(cm-1)
3700-3200cm-1(O-H伸縮) 1743cm-1(C=O伸縮) 1163cm-1(C-O伸縮)
【0027】
(実施例7)
実施例7では、テトラヒドロキシ化合物(3)の4つの末端水酸基のうち3つを以下の方法によってヘプタン酸エステルとした。
等圧滴下ロートと窒素バルーンと撹拌子を備えた100mlナスフラスコにテトラヒドロキシ化合物(3)(2.0g,7.5mmol)、DMAP(0.28g,2.3mmol)及びジクロロメタン(50ml)を入れた。さらに窒素雰囲気下でWSC(4.8g,25mmol)を加え、反応容器を窒素置換した。反応容器を0℃(氷冷)とした後、等圧滴下ロートからヘプタン酸(2.9g,23mmol)のジクロロメタン(6.0ml)溶液をゆっくりと滴下し、さらに0°Cで3時間撹拌し、その後室温で一晩撹拌した。反応溶液を希塩酸(濃塩酸0.5mL/水100mL)50mLで3回洗浄した。次に溶媒をジエチルエーテル(80ml)に換え、飽和炭酸ナトリウム水溶液50mLで3回洗浄した。これを硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で溶媒留去、真空乾燥することにより、3.98gの無色透明液体を得た(収率88%)。このもののスペクトル測定結果は以下のとおりであり、下記化11に示すヘプタン酸エステル化デンドリマー(10)であると同定された。
【化11】

1H-NMR (CDCl3) δ(ppm)
5.30−5.05(m,2H,Ha) 4.35−4.10(m,8H,Hb) 2.65(s,4H,Hc) 2.32(t,J=7.63Hz,6H,Hd)
1.70−1.55(m,6H,He) 1.40−1.25(m,18H,Hf) 0.88(t,J=6.70Hz,9H,Hg)
FT-IR(NEAT)(cm-1)
3700-3200cm-1(O-H伸縮) 1743cm-1(C=O伸縮) 1159cm-1(C-O伸縮)
【0028】
(実施例8)
実施例8では、テトラヒドロキシ化合物(3)の4つの末端水酸基のうち3つを以下の方法によってオクタン酸エステルとした。
等圧滴下ロートと窒素バルーンと撹拌子を備えた100mlナスフラスコにテトラヒドロキシ化合物(3)(1.6g,5.8mmol)、DMAP(0.21g,1.8mmol)及びジクロロメタン(50ml)を入れた。さらに窒素雰囲気下でWSC(3.7g,19mmol)を加え、反応容器を窒素置換した。反応容器を0℃(氷冷)とした後、等圧滴下ロートからオクタン酸(2.5g,18mmol)のジクロロメタン(6.0ml)溶液をゆっくりと滴下し、さらに0°Cで3時間撹拌し、その後室温で一晩撹拌した。反応溶液を希塩酸(濃塩酸0.5mL/水100mL)100mLで3回洗浄した。次に溶媒をジエチルエーテル(50ml)に換え、飽和炭酸ナトリウム水溶液50mLで3回洗浄した。これを硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で溶媒留去、真空乾燥することにより、3.52gの白色固体を得た(収率94%)。このもののスペクトル測定結果は以下のとおりであり、下記化12に示すオクタン酸エステル化デンドリマー(11)であると同定された。
【化12】

1H-NMR (CDCl3) δ(ppm)
5.30−5.05(m,2H,Ha) 4.50−4.10(m,8H,Hb) 2.65(s,4H,Hc) 2.32(t,J=7.53Hz,6H,Hd)
1.68−1.55(m,6H,He) 1.50−1.25(m,24H,Hf) 0.88(t,J= 6.89Hz,9H,Hg)
FT-IR(NEAT)(cm-1)
3700-3200cm-1(O-H伸縮) 1743cm-1(C=O伸縮) 1158cm-1(C-O伸縮)
【0029】
(実施例9)
実施例9では、テトラヒドロキシ化合物(3)の4つの末端水酸基のうち3つを以下の方法によってノナン酸エステルとした。
等圧滴下ロートと窒素バルーンと撹拌子を備えた100mlナスフラスコにテトラヒドロキシ化合物(3)(1.3g,5.0mmol)、DMAP(0.18g,1.5mmol)及びジクロロメタン(50 ml)を入れた。さらに窒素雰囲気下でWSC(3.2g,17mmol)を加え、反応容器を窒素置換した。反応容器を0℃(氷冷)とした後、等圧滴下ロートからノナン酸(2.4g,15mmol)のジクロロメタン(6.0ml)溶液をゆっくりと滴下し、さらに0°Cで3時間撹拌し、その後室温で一晩撹拌した。反応溶液を希塩酸(濃塩酸0.5mL/水100mL)100mLで3回洗浄した。次に溶媒をジエチルエーテル(80ml)に換え、飽和炭酸ナトリウム水溶液50mLで3回洗浄した。これを硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で溶媒留去、真空乾燥することにより、3.16gの白色固体を得た(収率92%)。このもののスペクトル測定結果は以下のとおりであり、下記化13に示すノナン酸エステル化デンドリマー(12)であると同定された。
【化13】

1H-NMR (CDCl3) δ(ppm)
5.30−5.05(m,2H,Ha) 4.35−4.05(m,8H,Hb) 2.65(s,4H,Hc) 2.32(t,J=7.53Hz,6H,Hd)
1.70−1.55(m,6H,He) 1.40−1.25(m,30H,Hf) 0.88(t,J=6.71Hz,9H,Hg)
FT-IR(NEAT)(cm-1)
3700-3200cm-1(O-H伸縮) 1736,1725 cm-1 (C=O伸縮) 1153cm-1 (C-O伸縮)
【0030】
(実施例10)
実施例10では、テトラヒドロキシ化合物(3)の4つの末端水酸基のうち3つを以下の方法によってデカン酸エステルとした。
等圧滴下ロートと窒素バルーンと撹拌子を備えた100mlナスフラスコにテトラヒドロキシ化合物(3)(1.3g,5.0mmol)、DMAP(0.18g,1.5mmol)及びジクロロメタン(50ml)を入れた。さらに窒素雰囲気下でWSC(3.2g,17mmol)を加え、反応容器を窒素置換した。反応容器を0℃(氷冷)とした後、等圧滴下ロートからデカン酸(2.6g,15mmol)のジクロロメタン(8.0ml)溶液をゆっくりと滴下し、さらに0°Cで3時間撹拌し、その後室温で一晩撹拌した。反応溶液を希塩酸(濃塩酸0.5mL/水100mL)50mLで3回洗浄した。次に溶媒をジエチルエーテル(80ml)に換え、飽和炭酸ナトリウム水溶液50mLで3回洗浄した。これを硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で溶媒留去、真空乾燥することにより、3.13gの白色固体を得た(収率86%)。このもののスペクトル測定結果は以下のとおりであり、下記化14に示すデカン酸エステル化デンドリマー(13)であると同定された。
【化14】

1H-NMR (CDCl3) δ(ppm)
5.30−5.20(m,2H,Ha) 4.35−4.10(m,8H,Hb) 2.65(s,4H,Hc) 2.32(t,J=7.53Hz,6H,Hd)
1.70−1.55(m,6H,He) 1.45−1.25 (m,36H,Hf) 0.88(t,J= 6.71Hz,9H,Hg)
FT-IR(NEAT)(cm-1)
3700-3200cm-1 (O-H伸縮) 1736,1725 cm-1 (C=O伸縮) 1154cm-1 (C-O伸縮)
【0031】
<粘度測定>
上記実施例1〜10のエステル型デンドリマーについて粘度を測定した。粘度の測定は振動式粘度計(山一電機製 ビスコメイトVM-100A)を用いた。結果を表1に示す。また、末端水酸基を部分エステル化したカルボン酸のアルキル鎖炭素数と粘度との関係を示すグラフを図2に示す。
【表1】

【0032】
表1及び図1に示すように、カルボン酸のアルキル鎖炭素数が5のときに粘度が極小となり、それより炭素数が大きくても小さくても、粘度は大きくなり、カルボン酸のアルキル鎖炭素数を選択することにより、粘度を制御することができることが分かった。また、異なる炭素数のカルボン酸でエステル化されたエステル型デンドリマーをブレンドすることによって、さらに細かい粘度の調整が可能となる。
上記実施例1〜10では、テトラヒドロキシ化合物(3)の4つの水酸基のうち3つの水酸基をエステル化したが、エステル化する水酸基の割合を変化させることによっても(すなわち、残存する末端水酸基の割合を変化させることによっても)、粘度の調整を行うことができる。なぜならば、残存する水酸基の割合が多いほど、水素結合の形成によって粘度は高くなるからである。
【0033】
以上の粘度測定の結果から、本発明のエステル型デンドリマーでは、末端水酸基の一部がカルボン酸のエステルとされているため、水酸基による水素結合の効果が低下して粘度が小さくなり、取り扱いが容易となる。また、カルボン酸の炭素数を変えたり、末端水酸基のエステル化率を変えることにより、高い粘度から低い粘度まで容易に調節することができる。このため、粘度調整剤に好適に用いることができる。
【0034】
上記実施例1〜10は中間原料としてテトラヒドロキシ化合物(3)を用いており、構成要素としてのトリオールはグリセリンであるが、このグリセリンに替えて1,1,1-トリス(ヒドロキシメチル)エタンをトリオールとする中間原料を用いることもできる。以下にその中間原料の合成方法を述べる。
【0035】
<ベンジリデン保護トリオール誘導体(14)の合成>
1,1,1-トリス(ヒドロキシメチル)エタンをベンズアルデヒドと反応させて下式に示すベンジリデン保護トリオール誘導体(14)を合成した。
【化15】

【0036】
すなわち、ジムロート冷却器、Dean-Stark水分離器及びマグネティックスターラーを装備した200 mlナスフラスコに5.00g(47.1mmol)のベンズアルデヒド、5.77g (48.0mmol)の1,1,1-トリス(ヒドロキシメチル)エタン、0.08g(0.48mmol)のp-トルエンスルホン酸、及び50 mlのトルエンを取り、4時間加熱還流攪拌した。反応終了後、反応混合物にジエチルエーテルを加え、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、淡黄色透明オイルを得た。クロロホルム / ヘキサンで再結晶することにより白色固体としてベンジリデン保護トリオール誘導体(14)を9.51g(収率97%)得た。ベンジリデン保護トリオール誘導体(14)はcis体とtrans体が5.8:1の混合物であった。
1H-NMR (CDCl3,δppm)
cis体:7.53〜7.46 (m, 2H, Ph-)、7.41〜7.33 (m, 3H, Ph-)、5.44 (s, 1H, -O-CH(Ph)-O-)、4.06 (d, J = 11.88 Hz, 2H, -O-CH2-C(Me)(CH2OH)-CH2-O-)、3.91 (d, J = 5.61 Hz, 2H, -CH2-OH)、3.66 (d, J = 11.88 Hz, 2H, -O-CH2-C(Me)(CH2OH)-CH2-O-)、1.76 (t, J = 5.61 Hz, 1H, -OH)、0.81 (s, 3H, -Me)
trans体:7.53〜7.46 (m, 2H, Ph-)、7.41〜7.33 (m, 3H, Ph-)、5.42 (s, 1H, -O-CH(Ph)-O-)、3.92 (d, J = 11.22 Hz, 2H, -O-CH2-C(Me)(CH2OH)-CH2-O-)、3.84 (d, J = 10.89 Hz, 2H, -O-CH2-C(Me)(CH2OH)-CH2-O-)、3.41 (d, J = 5.27 Hz, 2H, -CH2-OH)、1.46 (t, J = 5.28 Hz, 1H, -OH)、1.31 (s, 3H, -Me)
【0037】
<コア分子修飾工程>
次に、ベンジリデン保護トリオール誘導体(14)とコハク酸とを反応させて、ベンジリデン保護テトラヒドロキシ化合物(15)を得た(下記反応式参照)。
【化16】

【0038】
すなわち、ベンジリデン保護トリオール誘導体(14)(3.02g,14.5mmol)と、コハク酸(0.9g,7.6mmol)とDMAP (0.18g,1.5mmol)を60mLのジクロロメタンにマグネティックスターラーにて撹拌しながら溶解し、さらに、WSC (3.05g,15.9mmol)を加え、反応容器を窒素置換した。0℃(氷冷)で3時間撹拌した後、室温で一晩撹拌した。反応液を1/20Nの塩酸で3回洗浄し、次いで飽和炭酸ナトリウム水溶液100mLで2回洗浄し、さらに水100mLで1回洗浄した後、有機溶媒層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、デカンテーションで硫酸ナトリウムを除去し、減圧下で溶媒を留去させた。こうして得られた白色固体をクロロホルム/メタノール混合溶液にて再結晶精製した。析出した白色結晶を吸引濾過で取り出し、真空乾燥し、第一晶を得た。さらに濾液を溶媒留去し、得られた白色固体を繰り返し同様に再結晶精製し、第二晶〜第四晶を得た。更に残留物をシリカゲルカラムクロマトで精製し、合計3.1gの白色結晶からなるベンジリデン保護テトラヒドロキシ化合物(15)を収率87.0%で得た。(14)がcis,transの混合物であった為、生成した(15)は両末端がcis体のもの、一方がcis体でもう一方がtrans体のもの、両末端がtrans体のものの3種の混合物として得られた。各晶で明確に立体異性体を分けることはできず、cis-cis体が主成分で、次いでcis-trans体、trans-trans体の順であった。
1H-NMR (CDCl3,δppm)
cis-cis体:7.57〜7.42 (m, 4H, Ph-)、7.41〜7.30 (m, 6H, Ph-)、5.4122 (s, 2H, -O-CH(Ph)-O-)、4.40 (s, 4H, -CH2-OCOCH2CH2COO-CH2-)、
4.04 (d, J = 11.94 Hz, 4H, -O-CH2-C(Me)(CH2COO-)-CH2-O-)、3.65 (d, J = 11.94 Hz, 4H, -O-CH2-C(Me)(CH2COO-)-CH2-O-)、2.69 (s, 4H, -OCO-CH2CH2-COO-)、0.79 (s, 6H, -Me)
cis-trans体:7.57〜7.42 (m, 4H, Ph-)、7.41〜7.30 (m, 6H, Ph-)、5.4263 (s, 1H, -O-CH(Ph)-O-, cis or trans)、5.3951 (s, 1H, -O-CH(Ph)-O-, cis or trans)、4.05 (d, J = 11.94 Hz, 2H, -O-CH2-C(Me)(CH2COO-)-CH2-O-, cis)、3.67 (d, J = 11.94 Hz, 2H, -O-CH2-C(Me)(CH2COO-)-CH2-O-, cis)、
3.89〜3.83 (m, 4H, -O-CH2-C(Me)(CH2COO-)-CH2-O-, trans)、
2.69 (s, 4H, -OCO-CH2CH2-COO-)、1.33 (s, 3H, -Me, trans)、0.82 (s, 3H, -Me, cis)
trans-trans体:7.57〜7.42 (m, 4H, Ph-)、7.41〜7.30 (m, 6H, Ph-)、5.4153 (s, 2H, -O-CH(Ph)-O-)、3.91〜3.84 (m, 8H, -O-CH2-C(Me)(CH2COO-)-CH2-O-)、2.69 (s, 4H, -OCO-CH2CH2-COO-)、1.34 (s, 6H, -Me)
【0039】
<コア分子脱保護工程>
こうして得られたベンジリデン保護テトラヒドロキシ化合物(15)からベンジリデン保護基を脱離させてテトラヒドロキシ化合物(16)を得た。
【化17】

すなわち、吸引栓を備えたナス型フラスコに、ベンジリデン保護テトラヒドロキシ化合物(15)を0.25g(0.50mmol)入れ、脱水テトラヒドロフラン10mLを加えて溶解した。次いでこの溶液に10%Pd/Cを0.05g加え、さらに、濃塩酸50μLをメタノール2mLに溶解させた溶液を20μL加えた。そして、窒素を満たしたバルーンを三方コックを介してナス型フラスコに接続し、三方コックの残った口をアスピレーターに接続した。アスピレーターでフラスコ内を減圧した後、窒素を導入する操作を3回繰り返し、フラスコ内を窒素で置換した。次に窒素バルーンを水素で満たしたバルーンと交換し、同様の操作によってフラスコ内を水素で置換した。その後、室温下、マグネティックスターラーで溶液を1.5時間激しく撹拌した。その後、吸引濾過によってPd/Cを除去し、濾液の溶媒を減圧下留去し、真空ポンプで乾燥させることにより、白色固体のテトラヒドロキシ化合物(16)を定量的に得た。H-NMRは以下の通りであり、芳香族プロトンが消失している事からベンジリデン保護基が脱離している事が容易に確認できた。このものは、4種類のプロトンしか示さない非常に単純なスペクトルとなった。以下にそのデータを示す。
1H NMR (CD3OD,δppm)
4.01(s,4H)、3.45〜3.43(m,8H)、2.65(s,4H)、0.90(s,6H)
【0040】
上記のようにして得られたテトラヒドロキシ化合物(16)を中間原料とし、4つの水酸基を上記と同様の方法によりエステル化することにより、本発明のエステル型デンドリマーを得ることができる。
【0041】
<第N世代のエステル型デンドリマーの合成>
上記実施例1〜10のエステル型デンドリマーは第0世代のエステル型デンドリマーであったが、さらに分岐を延ばした第N世代のエステル型デンドリマーは、次のようにして合成することができる。すなわち、図3に示すように、上記実施例における中間原料となったテトラヒドロキシ化合物(3)とベンジリデン保護コハク酸モノエステル(17)とのエステル化反応によってベンジリデン保護化合物(18)とする。さらに脱保護とベンジリデン保護コハク酸モノエステル(17)によるエステル化を繰り返すことにより、樹枝状に分子鎖が繋がり、末端に水酸基を有するデンドリマー(例えば第3世代のデンドリマー(19))を得る。こうして得られたデンドリマーを原料とし、実施例1〜10と同様にDMAPとWSCを触媒として、カルボン酸と反応させて、第N世代のエステル型デンドリマーを得ることができる。
【0042】
この発明は、上記発明の実施形態の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のエステル型デンドリマーは、末端水酸基の一部がカルボン酸のエステルとされているため、水酸基による水素結合が緩和され粘度が低くなり、取り扱いが容易となる。また、カルボン酸の炭素数を変えたり、末端水酸基のエステル化率を変えることにより、高い粘度から低い粘度まで容易に調節することができる。更にエステル化率を変えることにより、幅広い性質の種々の材料との相溶性を調整することができる。この性質を利用して、塗料やコーティング分野における樹脂組成物の流動性や軟化点の制御のための粘度調整剤等に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】トリオールがグリセリンの場合及び1,1,1-トリス(ヒドロキシメチル)エタンの場合における転位反応の結果を示す図である。
【図2】末端水酸基を部分エステル化したカルボン酸のアルキル鎖炭素数と粘度との関係を示すグラフである。
【図3】第N世代のエステル型デンドリマーの合成経路を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア分子となるジカルボン酸のカルボキシル基を起点として、一般式(a)又は一般式(b)(式中Rは水素原子又は炭素数が1〜5のアルキル基を示す)で示されるトリオールとジカルボン酸とが交互にエステル結合して規則的な分岐構造をなし、末端水酸基の一部がカルボン酸のエステルとされていることを特徴とするエステル型デンドリマー。
【化1】

【請求項2】
前記エステル型デンドリマーの末端水酸基のエステル化はカルボキシル基を除いた鎖長部分の炭素数が1〜30のモノカルボン酸によってなされていることを特徴とする請求項1記載のエステル型デンドリマー。
【請求項3】
デンドリマーの繰り返しの分子構造の数を示す世代数は第0世代〜第4世代であることを特徴とする請求項1又は2記載のエステル型デンドリマー。
【請求項4】
コア分子となるジカルボン酸は下記一般式(c)(式中Rは炭素数0〜10のアルキレン基、炭素数0〜10のアルキレン基の炭素−炭素結合の一部が二重結合となった置換基及び炭素数0〜10のフェニレン基のいずれか)で示されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のエステル型デンドリマー。
【化2】

【請求項5】
末端水酸基のエステル化率は1〜99%の範囲であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載のエステル型デンドリマー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−37291(P2010−37291A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−203586(P2008−203586)
【出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【出願人】(000234166)伯東株式会社 (135)
【Fターム(参考)】