説明

エストロゲン作用剤および皮膚化粧料

【課題】新規なエストロゲン様作用物質を天然物より見いだし、エストロゲン不足に伴う障害の防止と改善のための手段として提供する。
【解決手段】イチョウ葉抽出物より分離されたギンゴライド類(特にギンゴライドAおよびギンゴライドB)が有するエストロゲン様作用を皮膚化粧料に配合して利用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エストロゲン様作用剤および皮膚化粧料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エストロゲンは女性ホルモンの一種であって成人女性の健康維持に深くかかわっている。このホルモンの分泌不足は、種々の内科的疾患を招くほか、肌の過敏症、弾力性低下、潤いの低下など、好ましくない肌の変化の原因ともなることが知られている。
【0003】
そこで、エストロゲンの分泌が減少する更年期以後の女性に対し、エストロゲンと同様の作用をする物質を経皮的に投与することによって上記好ましくない肌の変化を防止することが行われており、そのためのエストロゲン様作用剤としては、従来、ステロイド系エ
ストロゲン、非ステロイド系エストロゲン、フラボン系化合物を主とする植物性エストロゲン等が使われている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、新規なエストロゲン様作用物質を天然物より見いだし、前記エストロゲン不足に伴う障害の防止と改善のための手段として提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、イチョウ葉抽出物に含まれる生理活性物質の研究中に見いだされた新規な知見に基づくものであり、イチョウ葉抽出物から分離されたギンゴライドAまたはBを有効成分とするエストロゲン様作用剤、および、該エストロゲン様作用剤を配合してなる皮膚化粧料を提供するものである。
【0006】
イチョウ葉抽出物は血管障害の治療や血流改善等のために、医薬品として、あるいは飲食品添加成分として、内外で利用されている。その場合の主たる有効成分は、量的にも最も多いフラボン配糖体であることが確認されている。フラボン配糖体と共にイチョウ葉抽
出物中に含まれているテルペンラクトンのギンゴライド類については、PAF(血小板活性化因子)により誘発される疾患の処置に有効であることが確認されているが、この物質がエストロゲン様作用を有することは知られていなかった。
【発明を実施するための形態】
【0007】
ギンゴライド類のエストロゲン様作用は、通常のイチョウ葉抽出物のままでは確認することができない。これは、イチョウ葉抽出物には上記2成分のほかにもビロバライド(セスキテルペンラクトン)、アルキルフェノール類等、多種多様な成分が含まれていてギンゴライド類はその中で3〜5重量%程度しか含まれていない少量成分であるためかと思われるが、ギンゴライド類のエストロゲン様作用の発現を阻害する成分がイチョウ葉抽出物中に含まれている可能性もあり、したがって、いずれにせよ、ギンゴライド類のエストロゲン様作用を利用するにはギンゴライド類の含有率を高めるための精製処理をイチョウ葉抽出物に施すことが必要である。
【0008】
イチョウ葉抽出物が含有するギンゴライド類にはギンゴライドA、同B、同C、同J等があるが、エストロゲン様作用が強いのは、ギンゴライドAおよびギンゴライドBである。したがって、イチョウ葉抽出物の精製は全ギンゴライド類の含有率が高くなるだけでなくギンゴライド類の中でのギンゴライドAおよび(または)ギンゴライドBの含有率が高くなるように行われることが望ましい。
【0009】
通常、ギンゴライド類による有意義なレベルのエストロゲン様作用が確認できるのは、ギンゴライド類が約25重量%以上になるまで精製されたものである。したがって、エストロゲン様作用剤とするのに適当なものはイチョウ葉抽出物を精製してギンゴライド類含
有率を約25重量%以上、好ましくは約50重量%以上に高めたものであり、特に好ましいのは、ギンゴライドAおよびギンゴライドBの合計量が全ギンゴライド類の約30重量%以上になるまで精製したものである。
【0010】
なお、イチョウ葉抽出物が含有するアルキルフェノール類は強いアレルギー原因物質であるから、ギンゴライド類含有率を上記のようにすることとは別に、エストロゲン様作用剤として利用するギンゴライド類がアルキルフェノール類を含まないように精製することは重要である。
【0011】
イチョウ葉抽出物からギンゴライド類含有率の高い精製物を得る方法、中でもギンゴライドAおよびギンゴライドBを高率で含有しアルキルフェノール類は完全に除去されたものを得るための精製法の一例は、後記実施例1のように、吸着樹脂を用い含水脂肪族アル
コールを溶媒としたクロマトグラフィー的な分画と含水アルコールを用いた結晶化処理を繰り返す方法である。このとき用いる脂肪族アルコールとしては、たとえばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブチレングリコール等、炭素数1〜4のものが適当であり、吸着樹脂としては、芳香族系または芳香族系修飾型のものが適当である。使用可能な吸着樹脂の具体例としては、ダイヤイオンHP10、同20、同21、同30、同40、同50、セパビーズSP207、同825、同850(以上、三菱化学社製品)、アンバーライトXAD2、同4、同7(以上、オルガノ社製品)等がある。
【0012】
上述のようにして得られた精製物をさらにシリカゲルカラムクロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、結晶化処理等により分画すれば、ギンゴライドAおよびギンゴライドBの各単品を得ることもできる。
【0013】
なお、ギンゴライド類を濃縮するための精製に付するイチョウ葉抽出物は、ギンゴライド類を含有するものであればいかなる抽出法によるものでもよく、またなんらかの精製処理を既に受けたものであっても差し支えない。
【0014】
上述の方法によって精製されたギンゴライド類は、ほとんど無色かつ無臭であり、またイチョウ葉抽出物よりもアルコールによく溶ける。したがって、クリーム、乳液、ローション、パック、軟こう、浴用剤等、任意の皮膚化粧料に配合してそのエストロゲン様作用を活用することができる。皮膚化粧料に対する好適配合量は、ギンゴライド類として約0.005〜10重量%である。
【実施例】
【0015】
実施例1(ギンゴライド類の精製例)
イチョウ葉100kgを80重量%エタノール2000リットルにて1時間還流抽出し、抽出残渣に80重量%エタノール1500リットルを加えて同様の抽出処理を行なった。得られた抽出液3200リットルを減圧下に180リットルまで濃縮したのち不溶化した色素類を珪藻土濾過により濾別し、濾液210kgを得た。
【0016】
上記濾液を多孔性吸着樹脂(ダイヤイオンHP−21)100リットルのカラムに通液し、30重量%エタノール500リットルで洗浄後、80重量%エタノール500リットルを用いて脱着処理を行なった。得られた脱着液を減圧下に濃縮し、凍結乾燥した。得られた乾燥物(収量2.46kg;以下、精製物aという)は、ギンゴライド類含有率10.3重量%、その内2.1重量%がギンゴライドA、1.0重量%がギンゴライドBであった。
【0017】
加熱した20重量%エタノール15リットルに精製物aを溶解し、溶液を多孔性吸着樹脂(セパビーズSP−850)50リットルのカラムに通液し、20重量%エタノール200リットルで洗浄後、60重量%エタノール250リットルを用いて脱着処理を行なった。得られた脱着液を減圧下に濃縮し、凍結乾燥した。得られた乾燥物(収量1.54kg;以下、精製物bという)は、ギンゴライド類含有率15.8重量%、その内3.3重量%がギンゴライドA、1.48重量%がギンゴライドBであった。
【0018】
加熱した10重量%エタノール10リットルに精製物bを溶解し、室温に冷却後、5℃の冷蔵庫内に1週間静置した。生じた沈殿物をデカンテーションで回収し、減圧下に乾燥して得られた乾燥物(収量226g;以下、精製物cという)は、ギンゴライド類含有率
79.8重量%、その内51.2重量%がギンゴライドA、25.6重量%がギンゴライドBであった。
【0019】
加熱した80重量%エタノール1.5リットルに精製物cを溶解し、活性炭を加えて還流下に1時間加熱し、室温に冷却後、濾過し、濾液を減圧下に濃縮、乾燥した。得られた乾燥物(収量211g;以下、精製物dという)は、ギンゴライド類含有率85.1重量%、その内54.6重量%がギンゴライドA、26.9重量%がギンゴライドBであった。
【0020】
加熱した20重量%エタノール8リットルに精製物dを溶解し、室温に冷却後、生じた結晶を濾別し減圧下に乾燥した。乾燥物(収量98g;以下、精製物eという)は、ギンゴライド類含有率93.6重量%、その内38.1重量%がギンゴライドA、52.0重量%がギンゴライドBであった。
【0021】
精製物eについてさらに含水アルコール溶液から結晶化させる処理を繰り返すことによりギンゴライドAとギンゴライドBを分離し、いずれも純度95%以上のギンゴライドAおよびギンゴライドBを得た。
【0022】
実施例2(エストロゲン様作用の試験)
実施例1で得られた精製物a〜eおよびギンゴライドA,Bについて、エストロゲン依存性細胞の増殖に対する影響を調べるThomasらの方法(In Vitro Cell.Dev.Biol.28A,595−602,1992)によりエストロゲン様作用の試験を行なった。結果を表1に示す(コントロール値を100とする)。
【0023】
【表1】

【0024】
実施例3(皮膚化粧料への配合例)
実施例1による精製物a、精製物c、精製物dまたは精製物eを配合して下記組成のローションを常法により製造した。
実施例1によるギンゴライド精製物 0.5g
グリセリン 4g
1,3−ブチレングリコール 4g
エタノール 7g
メチルパラベン 0.05g
クエン酸 0.01g
クエン酸ソーダ 0.1g
香料 0.05g
精製水 残部(全量を100mlとする)
【0025】
対照品として、ギンゴライド精製物を配合しないほかは同様組成のローションを製造した。
【0026】
得られたローションについて、下記の方法による使用試験を行なった。
試験法:25歳から42歳の女性40名を無作為に4群に分け、ギンゴライド精製物配合ローションを右の二の腕に、対照品を左の二の腕に、それぞれ朝夕2回、2週間塗布させる。その後、使用結果について回答させる。
【0027】
試験結果は表2〜表5のとおりで、ギンゴライド類配合化粧料の使用感および使用効果が優れていることを確認した。
【0028】
【表2】

【0029】
【表3】

【0030】
【表4】

【0031】
【表5】

【0032】
実施例4
下記組成の乳液を常法により製造した。
ギンゴライドA(実施例1) 0.2g
セチルアルコール 0.5g
ミツロウ 2g
POE(10)モノオレイン酸エステル 1g
グリセリンモノステアリン酸エステル 1g
ヒアルロン酸ナトリウム 0.1g
プロピレングリコール 5g
エタノール 3g
エチルバラベン 0.3g
香料 0.03g
精製水 残部(全量を100mlとする)
【0033】
実施例5
下記組成のパックを常法により製造した。
ギンゴライドB(実施例1) 0.3g
ポリビニルアルコール 15g
ポリエチレングリコール 3g
プロピレングリコール 7g
エタノール 10g
メチルパラベン 0.05g
香料 0.05g
精製水 残部(全量を100mlとする)
【0034】
実施例6
下記組成のクリームを常法により製造した。
ギンゴライド精製物b(実施例1) 0.8g
セトステアリルアルコール 3.5g
スクワラン 40g
ミツロウ 3g
還元ラノリン 5g
エチルバラベン 0.3g
ポリオキシエチレン 2g
ステアリン酸モノグリセリド 2g
1,3−ブチレングリコール 5g
香料 0.03g
グリセリン 5g

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イチョウ葉抽出物より分離されたギンゴライドAまたはギンゴライドBを有効成分とするエストロゲン様作用剤。

【公開番号】特開2011−32289(P2011−32289A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257166(P2010−257166)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【分割の表示】特願平11−272870の分割
【原出願日】平成11年8月23日(1999.8.23)
【出願人】(591082421)丸善製薬株式会社 (239)
【Fターム(参考)】