説明

エストロゲン依存性増殖障害の処置のためのアロマターゼインヒビターの膣内投与

【課題】患者の子宮のエストロゲン依存性増殖障害(例えば、子宮内膜症および子宮類線維症)の処置方法を提供すること。
【解決手段】患者にアロマターゼインヒビターを膣内投与することによって、アロマターゼインヒビターの高い局所レベルを達成し、従って、アロマターゼインヒビターを経口送達した場合に観察されるいくつかの有害反応を回避する。さらに、膣内送達は、卵巣により精製された循環レベルに有意に影響を及ぼすことなく、局所病巣生成の阻害を可能にする。このことは、最小の副作用しか生じず、そして現在の治療よりも長期間の処置を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者における子宮のエストロゲン依存性増殖障害の処置方法に関し、この方法は、患者の膣内にアロマターゼインヒビターを投与することによる。
【0002】
本明細書中で引用される全ての刊行物、特許および特許出願は、その全体が参考として援用される。
【背景技術】
【0003】
子宮の増殖障害の発生率は、出産可能な年齢の女性において非常に高い。特に、子宮内膜症および子宮類線維症として知られている状態は、西洋諸国の女性の4人に1人までが発症する。
【0004】
子宮内膜症は、女性に発症する良性(非癌性)の慢性状態である。それは、子宮内膜腺組織と子宮の外側に位置する間質細胞の両方の存在として規定される。この移動した組織は、異所性子宮内膜として公知である。この疾患は、出産可能な年齢の間の女性に、有害な社会的結果、性的結果および生殖的結果を伴って影響を与える。子宮内膜症は、婦人科の最も頻繁に起こる疾患の1つとして提唱されており、一般的な集団における子宮内膜症の発生率は、約5%であると推定されているが、子宮内膜症は、20〜45歳の年齢の女性の10%〜15%に発症すると考えられる。北米において、550万人の女性が、その状態に罹ることが予測される。日本において、1997年に厚生省によって行なわれた大規模な調査によって、約130,000人の女性が、どこかの時点でその状態のための病院治療を受けていること、そして子宮内膜症の発症率は、癌および糖尿病の発症率よりも高かったことが見出された。イギリスにおいては、子宮内膜症は、毎年、平均して、患者毎に45日の労働の損失を引き起こし、そして11%の患者が、その状態の直接的な結果としての国庫給付金を要求する(データ元:PharmaVentures,Eurotech Capital and Bridgehead Technologies)。
【0005】
子宮内膜症は、その症状が、罹患した患者が、医療アドバイスを求めるのに十分に重篤になるまで、長年にわたって進展する。この状態は、腹腔鏡検査を使用して子宮内膜の沈着物を可視化することによって診断される。最も一般的で重篤な症状は、慢性骨盤痛、および月経困難症(一定期間の背側および下腹部における痛み)ならびに性交疼痛症(性交の間の痛み)である。子宮内膜症と不妊症との間の関連は明らかであり、子宮内膜症を有する女性のうち30%〜40%が不妊症であるが、この機構の関連は、明らかになっていない。
【0006】
子宮内膜症の発症は、異所性部位(最も一般的には、骨盤腹膜、卵巣および直腸腟中隔(rectovaginal septum))での子宮内膜細胞の確立および増殖、その後の逆行性月経を包含するThomas & Prentice(1992),Repro.Med.Rev.,(1):21−36,およびSampson,1927,Am.J.Obstet.Gynecol.,14:422−469を参照のこと)。この子宮内膜症病巣の持続性の増殖は、新血管の形成に依存する。確かに、脈管形成因子(血管内皮増殖因子(VEGF)を含む)が、子宮内膜症を有する女性の腹水中で検出されている(例えば、Oosterlynckら,1993,Fertil.Steril.,59:778−782;欧州特許出願EP−A−0 771 192;McLarenら,1996,Hum.Reprod.,11:200−223;およびNisolle. & Donez,1997,Fertil.Steril.,68,575−596を参照のこと)。
【0007】
自己非悪性異所性組織の移植は、異常な宿主応答が、この疾患を発症する女性に存在し得ることを示唆する独特な表現型である。この理論は、子宮内膜組織の供給源として逆行性月経の一般的な発症にもかかわらず、ごく少数の女性のみしか、この疾患を発症しないという事実によって支持される。
【0008】
子宮内膜症は、現在、子宮内膜症対する女性の感受性を決定し得る遺伝因子および環境因子によって引き起こされる多因子性疾患として認識されている。罹患している個体の第1親等は、一般的な集団と比較して、子宮内膜症を発症する危険性が高いことが報告されている(例えば、Kennedyら,1995,J.Assist.Reprod.Genetic.,12(1):32−34;Treolarら,1999,Fertil.Steril.,71(4):701−710;およびMalinalら,1980,Am.J.Obstet.Gynecol.,137(3):332−337を参照のこと)。
【0009】
この疾患の原因について多くの理論が存在し、そして腹水の種々の細胞成分および生化学成分が、この疾患の病因において重要な役割を果たすことが報告されている。体液性免疫と細胞媒介性免疫の両方の複数の局面における変化もまた、罹患している個体において報告されている(Understanding and Managing Endometriosis.Advances in Research and Practise(編)A.Lemay & R.Maheux Parthenon Publishing London New York 1999)。
【0010】
子宮内膜組織の増殖および発症は、エストロゲンの存在に依存するようである。GnRHの効果を減少させる薬物(アゴニストおよびアンタゴニストの両方がこの効果を有する)は、エストロゲンレベルおよびプロゲステロンのレベルを減少させる。これらの薬物は、発症したエストロゲン依存性腫瘍を処置するために最初に開発された。これらの薬物は、子宮内膜症においていくらかの症状の緩和を提供する。妊娠薬およびいくつかの経口避妊薬もまた、症状の緩和をもたらす。さらに、現在までに記載された全ての薬物は、この疾患の症状を緩和させることによって作用し、そしていかなる意味においても治療的ではない。このことは、疾患の症状が窮地にあり続ける場合、患者をその薬物に永久に依存させる。
【0011】
現在、長期間有効な子宮内膜症の唯一の処置は、手術を包含するが、この疾患の再発は、しばしば、術後5年以内に起こる。子宮内膜症の処置における特定の開発(例えば、子宮内膜症の樹立および発達の部分的な原因であると考えられる脈管形成増殖因子(例えば、VEGF)の同定)は、新たな治療剤の開発のための道を部分的に開いている。さらに、子宮内膜症病巣からのアロマターゼ発現の発見は、子宮内膜症を処置するためのアロマターゼインヒビターの使用を示唆している(Bulunら,1999,Endocrine Related Cancer,6:293−301)。実際に、閉経後の子宮内膜症の、1つの異常に積極的な症例が、アロマターゼインヒビターを用いて首尾よく処置されている(Bulunら,2000,Hum Reprod Update,6(5):413−8)。しかし、この初期の研究を超えて進行するために、臨床治験は、明らかに、アロマターゼインヒビターが子宮内膜症の医療管理において重要な役割を有するか否かを確立することを必要としている。
【0012】
子宮類線維(平滑筋腫、線維筋腫、線維腫、筋線維腫および筋腫としてもまた公知;これらの用語は、交換可能に使用され得る)は、多数の女性を苦しめる子宮の増殖性障害の第二の形態である。子宮筋層からのこれらの良性の増殖は、平滑筋線維および白色線維組織の塊からなり、これは、小さな種から1kgもの重量の塊までの範囲の大きさであり得る。これらは、子宮の内部または子宮の表面において生じ、そして女性の約20%〜40%(一般に、35歳と45歳との間)を冒す。米国、欧州および日本において、毎年推定340万人の女性が、類線維に罹患すると診断され、そのうちのかなりの数が、治療を受ける。Society of Cardiovascular and Interventional Radiology in the USAによれば、女性の20%〜40%が有意な大きさの類線維を有し、そして米国黒人女性のうちで、その発生数は、50%もの高さである。
【0013】
子宮類線維を罹患する多くの女性は、無症候性であるが、多くが、異常な子宮出血(月経過多)、骨盤の疼痛、骨盤の圧力、尿の頻度または圧縮性の腸の症状を経験する。いくらかの女性は、妊娠することが困難であるようであり、または/そして流産の危険性が高いようである。
【0014】
子宮類線維の原因は未知であるが、一旦形成されると、これらは、血液供給を提供する新たな血管のネットワークを確立し、これらの大きさを増加させる。
【0015】
子宮類線維は、保存的手術(例えば、子宮鏡検査法の間の粘膜下の類線維の子宮内膜切除)またはより侵襲性の手術(例えば、筋腫摘出(類線維の外科的除去)および子宮摘出)によって処置され得る。米国において、毎年200,000人を超える女性が、類線維に起因して、子宮摘出を受けている。より侵襲性の低い種類の手術は、子宮検査法のように、光ファイバースコープが膣を通して挿入されて小さい類線維を除去する場合、小さい類線維を除去するために利用可能である。しかし、約10%の女性は、類線維が再増殖する場合に手術を繰り返す必要がある。
【0016】
類線維の医学的処置は、疼痛および重度の失血の症状を減少させ得る種々の薬剤ならびに避妊薬およびプロゲストゲンを利用する。多数の女性は、GnRHアゴニストを使用して、類線維を収縮させるが、この処置は、6ヶ月まで有用であるのみであり得、そして類線維は、処置後に再増殖し得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
従って、子宮の増殖性障害(例えば、子宮内膜症および子宮類線維)に対して有効な予防価値または治療価値を有する薬剤を発見することに対する、大きな必要性がまた残っている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
(発明の要旨)
本発明によれば、子宮のエストロゲン依存性の増殖障害を、アロマターゼインヒビターを患者に膣内投与することによって処置または予防する方法が提供される。
上記に加えて、本発明は、以下の手段を提供する:
(項目1)
患者の子宮のエストロゲン依存性増殖障害を処置または予防する方法であって、アロマターゼインヒビターを該患者に膣内投与する工程を包含する、方法。
(項目2)
前記子宮のエストロゲン依存性増殖障害が、子宮内膜症である、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記子宮のエストロゲン依存性増殖障害が、子宮類線維症である、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記アロマターゼインヒビター化合物が、膣内送達デバイスを用いて膣内送達される、項目1〜3のいずれか1項に記載の方法。
(項目5)
前記アロマターゼインヒビター化合物が、薬学的処方物の一部として投与される、項目1〜4のいずれか1項に記載の方法。
(項目6)
前記薬学的処方物が、生体接着剤および/または吸収増強剤を含む、項目5に記載の方法。
(項目7)
前記アロマターゼインヒビターが、アロマターゼ酵素による、前駆体からのエストロゲンの形成を阻害する化合物である、項目1〜6のいずれか1項に記載の方法。
(項目8)
前記アロマターゼインヒビターが、アナストロゾール(Armimidex);レトロゾール;エキセメスタン;ボロゾール;YM 511(山之内製薬);YM 553(山之内製薬);[(4−ブロモベンジル)(4−シアノフェニル)アミノ]アゾールおよびそれらのアジンアナログ;4−N−置換アミノ−4H−1,2,4−トリアゾール誘導体;3−[N−(2−クロロベンジル)アミノ]−6−(1H−イミダゾール−1−イル)ピリダジンジヒドロクロリド(CAS 124070−28−3、MFT−279);アミノグルテチミド;4−ヒドロキシ−アンドロステンジオン;4−ヒドロキシ−4−アンドロステン−3,17−ジオン;4−アセトキシ−4−アンドロステン−3,17−ジオン;塩酸ファドロゾール(CGS 16949A)(Bonzol;三菱東京製薬);ホルメスタン;1−メチルアンドロスタ−1,4−ジエン−3,17−ジオン;1−メチルアンドロスタ−1,4−ジエン−3,17−ジオン(ドイツ国特許出願3,322,285に記載);テストラクトン(17a−オキサ−D−ホモアンドロスタ−1,4−ジエン−3,17−ジオン)(「Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism」,(1979)49:672に記載);アンドロスタ−4,6−ジエン−3,17−ジオン;アンドロスタ−4,6−ジエン−17β−オール−3−オンアセテート;アンドロスタ−1,4,6−トリエン−3,17−ジオン;4−アンドロステン−19−クロロ−3,17−ジオン;4−アンドロステン−3,6,17−トリオン;「Endocrinology」(1973),vol.92(3):874に記載の化合物;ドイツ国特許出願3,124,780に開示される19−アルキル化ステロイド;ドイツ国特許出願3,124,719に記載される10−(1,2−プロパジエニル)ステロイド;EP−A−0,100,566に記載される19−チオアンドロスタン誘導体;4−アンドロステン−4−オール−3,17−ジオン(「Endocrinology」1977,100(6):1684およびUS4235893に記載)、およびそのエステル;ドイツ国特許出願3,539,244に記載される1−メチル−15α−アルキル−アンドロスタ−1,4−ジエン−3,17−ジオン;ドイツ国特許出願3,644,358に記載される10β−アルキニル−4,9(11)−エストラジエン誘導体;1,2β−メチレン−6−メチレン−4−アンドロステン−3,17−ジオン(EP−A−0250262に記載);またはこれらのアロマターゼインヒビター化合物のいずれかの混合物からなる群より選択される、項目7に記載の方法。
(項目9)
1回の投薬で投与される前記アロマターゼインヒビターの量が、100μgと1gとの間、好ましくは、100μgと10mgとの間である、項目1〜8に記載の方法。
(項目10)
前記投薬の頻度が、毎日、毎週、毎月、または四半期毎(3月毎)のいずれかである、項目9に記載の方法。
(項目11)
膣内投与による子宮のエストロゲン依存性増殖障害の処置における使用のための、項目1〜10のいずれか1項に記載のアロマターゼインヒビター化合物を含む、薬学的処方物。
(項目12)
膣内投与による子宮のエストロゲン依存性増殖障害の処置における使用のための医薬の製造における、項目1〜11のいずれか1項に記載のアロマターゼインヒビター化合物の使用。
(項目13)
治療有効量のアロマターゼインヒビター化合物を含む、膣内デバイス。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1A】図1Aは、子宮内膜症に罹患している11人の患者での、ヒトの正常(eutopic)子宮内膜および異所性子宮内膜におけるアロマターゼ転写物レベルの比較。正常子宮内膜のアロマターゼレベルを黒色の棒で示し、そして子宮内膜症の病変におけるそのレベルを縦線の棒で示す。
【図1B】図1Bは、子宮内膜症に罹患している11人の患者での、ヒトの正常(eutopic)子宮内膜および異所性子宮内膜におけるアロマターゼ転写物レベルの比較。正常子宮内膜のアロマターゼレベルを黒色の棒で示し、そして子宮内膜症の病変におけるそのレベルを縦線の棒で示す。
【図1C】図1Cは、子宮内膜症に罹患している11人の患者での、ヒトの正常(eutopic)子宮内膜および異所性子宮内膜におけるアロマターゼ転写物レベルの比較。正常子宮内膜のアロマターゼレベルを黒色の棒で示し、そして子宮内膜症の病変におけるそのレベルを縦線の棒で示す。
【図2】図2は、ヒト子宮内膜および子宮内膜症組織におけるアロマターゼ転写物の比較(QPCR TaqManデータ)。
【図3】図3は、ヒヒモデルでの、放射性標識アロマターゼインヒビターの膣内投与後の子宮内膜の病変における放射活性計数のレベルを示す。
【図4】図4Aは、ヒヒPAN2615の膀胱の内側前部における病変5の腹腔鏡外観である。図4Bは、ヒヒPAN2615の子宮の後部における病変10の腹腔鏡外観である。
【図5】図5Aは、ヒヒPAN2615の病変13における子宮内膜腺の存在の組織学的確証である。図5Bは、ヒヒPAN2615の病変13における子宮内膜腺の存在の組織学的確証である。図5Cは、ヒヒPAN2615の正常子宮内膜における腺の存在の組織学的確証である。らせん動脈の存在もまた示される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明者らは、膣が、子宮のエストロゲン依存性増殖障害(例えば、子宮内膜症および子宮類線維)の処置または発生を予防するための、アロマターゼインヒビターの優れた投与経路を提供することを発見した。
【0021】
子宮内膜の病巣および子宮類線維の生検を介して、アロマターゼをコードする核酸の特異的増殖が後に続いて、定量的PCR(QPCR)を実施することによって、有意に上昇したレベルのアロマターゼは、子宮内膜病巣および類線維において発現されることがわかった。アロマターゼ活性は、正常な(正常位置の(eutopic))子宮内膜および子宮筋層においてかろうじて検出可能である。
【0022】
この不適切なアロマターゼ活性は、エストロゲンの局所的生合成を生じる。VEGFのアップレギュレーションは、増加したエストロゲンから生じる。これは、子宮内膜症組織におけるエストロゲンおよびVEGFの蓄積を支持し、これは、エストロゲンにより誘導されるVEGF増殖を介して、病巣の脈管構造の確立および増殖に寄与し得る。
【0023】
さらに、シクロオキシゲナーゼのエストロゲン依存性誘導は、プロスタグランジンE(PGE)の上昇した濃縮を生じる。PGEは、子宮内膜症間質細胞におけるアロマターゼ発現の強力な刺激因子であることが示されている(Noble,L.S.ら.1997 J.Clin.Endocrinol.Metab.82 No.2 600−606)。従って、正のフィードバックループが形成され、そしてこれは、子宮内膜症組織におけるエストロゲンの連続的な産生を支持する。アロマターゼインヒビターは、子宮内膜症におけるエストロゲンの局所的産生をブロックすることによって、このサイクルを破壊すると考えられる。しかし、これらのインヒビターはまた、他の組織(例えば、卵巣および皮下脂肪)におけるエストロゲン形成を減少またはブロックする。
【0024】
上昇したレベルのPGEは、子宮内膜症のいくつかの症状(例えば、疼痛)の原因であり得る。アロマターゼインヒビターでのエストロゲン産生の阻害は、Bulunらによって、ある患者における子宮内膜病巣の大きさの減少を生じることが注目されている(Takayama,K.ら 1998 Fertil Steril.69 No.4 709−713)。
【0025】
骨盤子宮内膜症移植物における内因性分子の異常は、以前に、子宮内膜症の発達に有意に寄与すると提唱されている。例えば、アロマターゼ、特定のサイトカインおよび組織メタロプロテイナーゼの異常な発現、17β−ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ(17β−HSD)2型の欠損、ならびにプロゲステロンの保護作用に対する耐性は、これらの分子異常のうちのいくつかである(Khorramら,1993,American Journal of Obstetrics and Gynecology,169:1545−1549;Sharpe−Timmsら,1995,Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism,80:3784−3787;Nobleら,1996,Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism,81:174−179;Osteenら,1996,Seminars in Reproductive Endocrinology,15:301−308;Brunerら,1997,Journal of Clinical Investigation,99:2851−2857;Zeitounら,1998,Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism,83:4474−4480;およびZeitounら,1999,Molecular Endocrinology,13:239−253を参照のこと)。
【0026】
多数の研究が、骨盤および他の部位における子宮内膜症移植物において、アロマターゼ酵素の発現を介して、エストロゲンが産生されることを実証している(TakayamaおよびBulun,2001,Nippon Rinsho;59 補遺1:157−60;Kudohら,1997,J Steroid Biochem Mol Biol;63(1−3);75−80;Bulunら,2000,Hum Reprod Update;6(5):413−8;Kitawakiら,2000,J Clin Endocrinol Metab;85(9):3292−6;Bulunら,2000,J Mol Endocrinol;25(1):35−42;Bulunら,1999,Endocr Relat Cancer;6(2):293−301;Bulunら,2000,Trends Endocrinol Metab;11(1):22−7;Zeitounら,1999,Fertil Steril;72(6):961−9;Zeitounら,1999,Mol Endocrinol;13(2):239−53;Takayamaら,1998 Fertil Steril;69(4):709−13;ならびにBulunら,1997,J Steroid Biochem Mol Biol;61(3−6):133−9を参照のこと)。子宮内膜症細胞中のプロスタグランジンは、アロマターゼ活性を刺激してエストロゲン生合成を増加させると提唱されている。次に、エストロゲンは、プロスタグランジン形成および子宮内膜症移植物の成長を刺激する。
【0027】
子宮内膜損傷がエストロゲン依存性であることもまた公知である。損傷の発達の初期段階の間、エストロゲンは、体循環によって供給され、ホルモンの供給源は、主に卵巣であり;わずかであり変動量のエストロゲンは、脂肪組織によって産生され得る。損傷の発達は、初期段階の間、比較的ゆっくりであると考えられるが、後に、多くの細胞性変化および分子性変化が詳述される。特に重要なことは、エストロゲンの局所的損傷産生である。このことは、子宮内膜損傷の間葉性要素が、特定の酵素の異常な合成を開始するときに、生じる。エストロゲンの局所的産生は、腺組織の増殖を刺激し、そしてまた、疼痛伝達物質(特に、プロスタグランジン)の合成を促進する。やがて、エストロゲンの局所的産生は、卵巣合成循環ホルモンよりも重要になる。
【0028】
エストロゲンの卵巣産生の減少は、子宮内膜症の症状を改善することが、確立される。しかし、このことを達成する現在の方法は、多くのエストロゲン依存性器官が易感染性になる循環レベルに対して、非常に重大な卵巣抑制を伴う。例えば、骨増量(bone mineral density)は、十分なレベルのエストロゲンに決定的に依存する。この理由および他の理由のために、性腺刺激ホルモン放出ホルモンアゴニストのような薬剤での処置は、6ヶ月間のみ使用され得る。
【0029】
ここで、本発明者らは、かなりの割合で存在する子宮内膜損傷は、アロマターゼインヒビターの経腟的送達によって標的化され得ることを理解した。これは、局所的に、アロマターゼインヒビターの高い局所レベルを達成し、それによって、アロマターゼインヒビターが経口的に送達される場合に観察される有害反応のいくつかを回避する。経膣的送達は、アロマターゼインヒビター分子の、膣腔からの単純な拡散プロセスによる周囲組織への移動を意味する。
【0030】
本発明は、膣粘膜組織の高度な脈管化特性(これは豊富な血液供給を導く)を利用し、病気にかかった局所的領域およびその基底組織に、アロマターゼインヒビター組成物を送達する。従って、組織壁を介するアロマターゼインヒビターの送達は、迅速であり、この投与経路は、障害を処置または予防するために有効な薬物の濃縮の達成を容易にする。本発明の重要な効果は、経膣的送達が卵巣によって生成される循環レベルに有意に影響することなしに、局所的損傷生成の阻害を可能にすることである。このことによって、最小限の副作用が生じ、現在の療法より長期間の治療を可能にする。エストロゲンの、局所的に高レベルの低下は、損傷の発達を低下し、主要な疼痛の症状を導く炎症性伝達物質の産生速度も減少する。
【0031】
雌性生殖管の脈管構造は、多くの異なる起源の脈管叢からなり、多くの主要な管(膣、卵巣および子宮動脈を含む)の間、ならびに子宮と外陰部動脈の会陰深枝との間に吻合が存在する。例えば、膣への動脈的供給は、子宮動脈の膣枝、内腸骨動脈の補助膣枝、おそらく中直腸動脈からの小枝、および内陰部動脈からの枝からである。これらの腟動脈は、腟側壁を沿って進み、子宮壁を沿って進み、そして卵巣動脈と吻合する。子宮動脈の上行枝は、管状動脈枝に通じ、卵巣動脈と吻合する。膣静脈叢からの静脈還流は、内腸骨静脈に流れ、子宮静脈還流は、子宮静脈に沿い、これは、動脈供給に一般的に平行する。膣のリンパ排液は、外腸骨節および内腸骨節、ならびに浅鼡径節に流れる。子宮のリンパ排液は、子宮血液供給と平行する。
【0032】
膣粘膜を介する全身脈管系への薬物の吸収は、公知であり、「子宮初回通過効果」が生じ、それによって、例えば、膣的に与えられたいくつかの薬物の卵巣組織レベルおよび子宮組織レベルが、経口投与の同一投薬量から期待されるこれらのレベルより高いことは、他の研究者らによって観察されている。この「初回子宮通過」効果の正確な機構は、未だ十分に理解されていない。以下の4つの仮説が、子宮初回通過効果を示され得る:(1)経膣的に投与された薬物は、局所的循環系を通して、子宮および他の局所的組織に移動し得るか;(2)子宮および他の局所的組織への薬物の直接的な拡散が存在し得るか;(3)薬物は、リンパ管を通って、子宮に到達し得るか;または(4)薬物の「逆流型」再分配は、動脈と静脈との間に生じ得る。
【0033】
「子宮のエストロゲン依存性増殖性障害」は、子宮組織に由来する、雌において生じる、任意のエストロゲン依存性非悪性障害を意味する。本発明の用語に包含される、子宮のエストロゲン依存性増殖障害の特定の例は、子宮内膜症および子宮フィブロイドである。ヒトは、処置に関して好ましい患者であるが、非ヒト哺乳動物(例えば、家畜動物および伴侶動物)もまた処置され得る。
【0034】
子宮内膜症は、身体の異所部位において見出される子宮内膜組織の発生について与えられた名称である。子宮内膜の病変は、マーカーを使用して組織学的に、または異所部位における組織中の子宮内膜腺および間質要素を調べることによって、決定され得る。この組織型は、任意の解剖学的位置に存在し得るが、この組織型は一般に、卵巣、腹膜または直腸腟の領域において見出され、そしてこれは、本発明の方法に従って特に有利に処置され得る、これらの位置における子宮内膜の病変である。
【0035】
子宮類線維症または子宮平滑筋腫は、子宮壁に見出される結合組織および筋肉から構成されることが見出される1つ以上の良性腫瘍の存在によって特徴付けられる、子宮の第2のエストロゲン依存性増殖性障害である。類線維腫は、子宮内層のすぐ下または子宮の外側被覆の付近に存在し得、一方、他のものは、頸部付近、またはファローピウス管の開口部に接近して位置する。これらは通常、腹部および骨盤の検査、ならびに内診で検出され、この検査は、子宮が拡大していることを示し得、そして/または類線維腫を、滑らかな硬い塊として検出し得る。超音波は、類線維腫を診断するために最も有用な試験である。なぜなら、これらの腫瘍は、この腫瘍を骨盤嚢腫と区別する特徴的な外観を有するからである。
【0036】
本発明によると、アロマターゼインヒビターが、膣内送達されるべきである。「膣内」とは、アロマターゼインヒビターが、膣を介して投与されることを意味し、その結果、このインヒビターは、膣粘膜を横切って、この領域の高度に血管新生化した組織を通る局所的な吸収によって、血液および/またはリンパ系に入る。
【0037】
子宮内膜症および類線維腫の処置のためのアロマターゼインヒビターの膣投与は、経口治療と比較して、改善された効力および減少した有害な効果のプロフィールの両方をもたらすことが予測される。
【0038】
有効濃度のアロマターゼインヒビターは、罹患組織自体(すなわち、子宮内膜の病変または子宮類線維症(この両方の障害は、膣組織、子宮、卵巣およびファローピウス管中のような、膣に、直腸膣領域およびダグラス窩に、ならびに腹腔内の他の組織および器官に接近した組織または器官中に一般に存在する))に効率的に送達され得るという事実は、非常に意味のあることである。さらに、このようなレベルのアロマターゼインヒビターは、ファローピウス管内を腹膜まで移動する新たに剥離した内皮細胞に影響を与え、その増殖速度および着床の可能性を減少すると推定される。
【0039】
アロマターゼインヒビターのような薬物の経口送達は、胃の中で遭遇する条件のような局所的条件によるアロマターゼインヒビターの崩壊を伴い得る。
【0040】
肝臓による初回通過代謝もまた、経口送達経路により被る問題である。さらに、罹患組織において有効な濃度のアロマターゼインヒビターを達成するために、インヒビター化合物の高い全身レベルを次いで生じる大用量を投与しなければならない。転移性乳癌を処置するためのアロマターゼの経口使用は、顔面潮紅、めまい感、浮腫、発汗、悪心、嘔吐、胸部または背中の痛み、疲労、頭痛、不眠症、呼吸困難、無力症、情緒不安定、および鬱病を含む種々の有害な現象を伴っていた。
【0041】
膣経路を介してアロマターゼインヒビターを投与することによって、このインヒビターを、例えば、経口経路によって、非経口投与する場合に必要な濃度(例えば、経口経路によって)よりもはるかに低い濃度のインヒビター化合物しか使用する必要がない。本発明の方法は、ほとんどの所望しない副作用を回避するのに十分な循環血液レベルを維持しつつ、アロマターゼインヒビターの有意な局所レベルを生じる。このことは、感受性の組織が、他のいずれの投与方法を使用して達成されるよりもはるかに低い濃度のインヒビターに曝露され、一方で、罹患領域が、他のいずれの投与方法を使用して達成されるよりもはるかに高い濃度のインヒビターに曝露されることを意味する。
【0042】
経口経路もまた、特定のタイプの薬物化合物には適切ではない−血液に効率的に吸収させるために、経口送達薬物化合物は、経口活性でなければならず、このことは、この薬物化合物が、受動的に輸送されるかまたは能動的に輸送されるかのいずれかであることを意味する。薬物分子のうちわずかなものしか、これら全ての基準を満たさず、従って、この基準は、子宮のエストロゲン依存性増殖性障害を処置するために使用され得る薬物化合物の数を制限する。経口経路はまた、嘔吐が生じた場合、もしくは生じそうな場合、または患者が首尾良く嚥下し得ない場合、できなくなる。
【0043】
本発明の方法に従ってアロマターゼインヒビターを膣内送達するのに適切な膣内デバイスが、公知である。適切なデバイスとしては、医薬がこのデバイスに含浸されたタイプのデバイス、およびカプセル化された医薬を保有するタイプのデバイスが挙げられる。
【0044】
膣腔から周辺組織への薬学的分子の移動は、一般に、単純な拡散プロセスを介して生じる。正味の拡散は、以下の式により与えられ得る:
正味の拡散=k.D.(Cvag−Ctiss);
ここで、kは、定数であり、Dは、この分子の拡散定数であり、Cvagは、粘膜表面における膣内での分子の濃度であり、そしてCtissは、膣周辺の組織における分子の濃度である。膣腔から膣粘膜を横切り周辺組織および体液までの医薬の最大取込み速度を達成するために、Cvagは、可能な限り高レベルで維持されなければならない。
【0045】
アロマターゼインヒビターの膣内送達のために適切なデバイスの例としては、以下に記載される例が挙げられる:米国特許第4,309,997号、米国特許第4,318,405号、米国特許第5,273,521号、米国特許第5,299,581号、英国特許1,581,474号、米国特許第5,954,688号、米国特許第4,402,693号、米国特許第3,948,265号、米国特許第6,086,909号、米国特許第3,545,439号、米国特許第3,902,493号、米国特許第2,739,593号、米国特許第3,521,637号、米国特許第3,884,233号、米国特許第4,286,596号、米国特許第6,197,327号、米国特許第5,527,534号、欧州特許出願公開第0,703,802号,英国特許第2,069,336号、米国特許第4,601,714号、米国特許第5,299,581号、米国特許第6,159,174号、WO99/18884、WO99/40966、WO00/48539および共有に係る、同時係属中の国際特許出願PCT/GB01/01789。適切なデバイスの他の例は、当業者の例に明らかである。
【0046】
アロマターゼインヒビターはまた、生体接着性処方物(例えば、ゲル形態、クリーム形態、錠剤形態で、丸剤形態で、カプセル形態、座薬形態、フィルム形態、または任意の他の薬学的に受容可能な形態で)として膣内に投与され得、この処方物は膣腔内に維持され、そして容易には洗い流されない。生体接着性処方物として適用する場合、その処方物は、十分な期間(例えば、最短で約30分〜24時間)、膣粘膜の上皮表面に接触したまま維持されるべきである。この生体接着性の好ましいレベルは、薬学的処方物中への生体接着性薬剤(例えば、架橋剤)の含有によって、有利に達成され得、その結果、適切なレベルの生体接着性が得られる。適切な処方物は、例えば、米国特許第4,615,697号に記載される。
【0047】
本発明の方法において使用するのに適切なアロマターゼインヒビターは、アロマターゼ酵素によるエストロゲン前駆体からのエストロゲン形成を阻害する任意の化合物を含む。このような化合物は、単独または他のアロマターゼインヒビター化合物との組合せのいずれかで使用され得る。適切なアロマターゼインヒビターの特定のクラスとしては、非ステロイドアロマターゼインヒビター、弱ステロイドアロマターゼインヒビターおよびステロイドアロマターゼインヒビターが挙げられる。
【0048】
本発明において使用するのに適切なアロマターゼインヒビターの実例としては、以下が挙げられる:
アナストロゾール(anastrozole)(Armimidex);レトロゾール(letrozole);エキセメスタン(exemestane);ボロゾール(vorozole);YM 511(Yamanouchi Pharmaceutical);YM 553(Yamanouchi Pharmaceutical);[(4−ブロモベンジル)(4−シアノフェニル)アミノ]アゾールおよびそれらのアジンアナログ;4−N−置換アミノ−4H−1,2,4−トリアゾール誘導体;3−[N−(2−クロロベンジル)アミノ]−6−(1H−イミダゾール−1−イル)ピリダジンジヒドロクロリド(CAS 124070−28−3,MFT−279);アミノグルテチミド;4−ヒドロキシ−アンドロステンジオン;4−ヒドロキシ−4−アンドロステン−3,17−ジオン;4−アセトキシ−4−アンドロステン−3,17−ジオン;ファブロゾール(fadrozole)ヒドロクロリド(CGS 16949A)(Bonzol;Mitsubishi−Tokyo Pharmaceuticals Inc);ホルメスタン(formestane);1−メチルアンドロスタ−1,4−ジエン−3,17−ジオン;1−メチルアンドロスタ−1,4−ジエン−3,17−ジオン(ドイツ特許出願3,322,285に記載);テストラクトン(testolactone)(17a−オキサ−D−ホモアンドロスタ−1,4−ジエン−3,17−ジオン)(「Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism」(1979)49:672に記載);アンドロスタ−4,6−ジエン−3,17−ジオン;アンドロスタ−4,6−ジエン−17β−オール−3−オンアセテート;アンドロスタ−1,4,6−トリエン−3,17−ジオン;4−アンドロステン−19−クロロ−3,17−ジオン;4−アンドロステン−3,6,17−トリオン;「Endocrinology」(1973),vol.92(3):874に記載される化合物;ドイツ特許出願3,124,780に開示される19−アルキニル化ステロイド;ドイツ特許出願3,124,719に記載される10−(1,2−プロパジエニル)ステロイド;欧州特許出願公開0,100,566に記載される19−チオアンドロスタン誘導体;4−アンドロステン−4−オール−3,17−ジオン(「Endocrinology」1977,100(6):1684および米国特許第4 235 893号に記載される),およびそのエステル;ドイツ特許出願3,539,244に記載される1−メチル−15α−アルキル−アンドロスタ−1,4−ジエン−3,17−ジオン;ドイツ特許出願3,644,358に記載される10β−アルキニル−4,9(11)−エストラジエン誘導体;1,2β−メチレン−6−メチレン−4−アンドロステン−3,17−ジオン(欧州特許出願公開0 250 262に記載);またはこれらのアロマターゼインヒビター化合物の任意の混合物。
【0049】
エストロゲン生成の阻害におけるアロマターゼインヒビター(例えば、上記に列挙したアロマターゼインヒビター)の有効性を詳細に記載する多数の参考としては、以下が挙げられる:Kudohら,1997,J Steroid Biochem Mol Biol,63(1−3):75−80;Okadaら,1997,Chem Pharm Bull(Tokyo),45(8):1293−9;Okadaら,1997,Chem Pharm Bull(Tokyo),45(3):482−6;Okadaら,1996,Chem Pharm Bull(Tokyo),44(10):1871−9;Kudohら,1996,J Steroid Biochem Mol Biol, 58(2):189−94;Kudohら,1995,J Steroid Biochem Mol Biol,54(5−6):265−71。
【0050】
投与されるアロマターゼインヒビターの用量は、治療的に有効である(すなわち、子宮のエストロゲン依存性増殖障害を処置する、改善する、または予防する、あるいは検出可能な治療的効果または予防効果を達成するのに必要な投与量)べきである。この用量は、種々の要因(例えば、インヒビター化合物の効力、患者の治療におけるその化合物の毒性、全身の健康状態、患者の年齢および体重、患者のホルモンレベル、患者の食餌、投与の時間および頻度、薬物の組み合せ、応答感受性、治療に対する耐性/応答、疾患の段階、疾患組織の広がりの程度、インヒビター化合物の活性状態の寿命、化合物の溶解性、膣粘膜への吸収特性、到達する最終的な組織濃度など)に依存して変化する。[この投与量は、慣習的な実験法で決定され得、および医者の判断の範囲内である]。
【0051】
任意のアロマターゼインヒビター化合物に関して、治療的に有効な投薬量が、細胞培養アッセイ(例えば、類線維腫の新生細胞由来の子宮内膜細胞または平滑筋細胞)または動物モデル(通常マウス、ウサギ、イヌ、またはブタ、霊長類(例えば、ヒヒ、マカクザルなど))のいずれかにおいて最初に見積られ得る。動物モデルはまた、投与のための適切な濃度範囲を決定するために使用され得る。次いで、このような情報は、ヒトに対する有用な投薬量を決定するために使用され得る。
【0052】
一般的に、一回の用量で投与される量は、100μgと1gとの間、好ましくは100μgと10mgとの間のアロマターゼインヒビター(例えば、1−メチルアンドロスタ−1,4−ジエン−3,17−ジオン)、または上記に列挙した任意の他のアロマターゼインヒビターの生物学的に等価な用量である。選択される量は、当然、処方される投薬量に依存するが、望ましくない高い投薬量は、膣内送達を使用することによって有利に回避され得る。なぜなら、膣組織壁の近傍におけるインヒビター化合物の濃度が、高いレベルで維持されるからである。
【0053】
投薬の頻度はまた、アロマターゼインヒビターを最も効果的に投与するために、変動され得る。用量は、毎日、毎週、毎月または1/4年毎(3ヶ月毎)のいずれかで、都合よく繰り返され得る。当然、投与される実際の量は、投薬頻度を考慮して変えられる。
【0054】
膣内に投与されるために、アロマターゼインヒビターは、好ましくは薬学的処方物(薬学的に受容可能なキャリアを含む)の部分として投与されるべきである。このようなキャリアとしては、大きな、緩徐に代謝される高分子(例えば、タンパク質、ポリサッカリド、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリマーのアミノ酸、アミノ酸コポリマー、ポリエチレングリコール、PDMS、ミクロスフェア、ヒドロゲル、および不活性ウイルス粒子)が挙げられるが、但し、キャリアは、それ自体、この組成物を受ける個体に有害な抗体の産生を誘導せず、そして過度の毒性を伴わずに投与され得る。薬学的に受容可能な塩(例えば、鉱酸塩(例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩など);および有機酸の塩(例えば、酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩など))がまた、使用され得る。薬学的に受容可能なキャリアの詳細な考察が、Remington’s Pharmaceutical Sciences(Mark Pub.Co.,N.J.1991)において利用可能である。
【0055】
本発明の薬学的処方物中の薬学的に受容可能なキャリアは、水、生理食塩水、グリセロールおよびエタノールのような液体をさらに含み得る。さらに、補助物質(例えば、湿潤剤または乳化剤)、pH緩衝化物質、滑沢剤、可塑剤、保存剤、ゲル形成剤、錠剤形成剤、丸薬形成剤、坐薬形成剤、薄膜形成剤、クリーム形成剤、崩壊剤、コーティング、結合剤、ビヒクル、着色剤、味覚および/または芳香調節剤、湿潤剤、粘度調節剤、pH−調節剤、吸収増強剤などが、このような組成物中に存在し得る。
【0056】
本発明のさらなる局面に従い、膣内投与による子宮のエストロゲン依存性増殖障害の処置における使用のための、アロマターゼインヒビター化合物を含む薬学的処方物が提供される。
【0057】
本発明はまた、膣内投与による子宮のエストロゲン依存性増殖障害の処置のための医薬の製造におけるアロマターゼインヒビター化合物の使用を提供する。
【0058】
本発明はまた、上記の本発明の実施形態のいずれか1つに従う、治療有効量のアロマターゼインヒビター化合物を含む膣内デバイスを提供する。このインヒビター化合物は、膣内デバイスにコーティングされ得るか、このデバイス中に浸透または吸収され得るか、あるいは化合物を、デバイスに接着または結合させることを可能にし、さらにこの化合物を、膣粘膜への吸収に関して利用可能にする、当業者に明白であるような任意の適切な手段によってデバイスに適用され得る。適切な膣内デバイスの、特定の好ましい例は、同時係属の、共有に係る国際特許出願PCT/GB01/01789に記載される例である。
【0059】
本発明の種々の局面および実施形態が、ここに例として、より詳細に記載される。本発明の範囲から逸脱することなく、細部の改変がなされ得ることが認識される。
【実施例】
【0060】
(実施例1:ヒト子宮筋層および子宮類線維組織におけるアロマターゼ転写物の検出)
新鮮な組織からのRNA単離を、子宮筋層サンプルおよび類線維サンプルについてTRIZOL試薬法を使用し、すべての子宮内膜サンプルについてQIAGEN Midi RNeasyキットを使用して、実施した。子宮筋層サンプルおよび類線維サンプルについて、1μgのRNAを、Superscipt First Strand Synthesis Kit(GIBCO BRL,Life Technologies)およびランダムプライマーを使用して、cDNAへと逆転写した。0.1μgおよび2μgのRNAを、その子宮内膜サンプルの逆転写のために使用した。そのcDNAの品質を、GAPDH遺伝子の増幅によって確認した。そしてゲノムDNAが存在しないことを、カルビンジン遺伝子のエキソン1およびエキソン2におけるカルビンジン特異的プライマーを使用して確認した。(CALB−FOR:GACACACACCCCGCTGTAC;CALB−REV:TGCTGGAGCTCCTGGATC)。
【0061】
子宮内膜サンプルおよび子宮内膜症サンプルについて、未希釈cDNAを、Q−PCR実験のために使用し、一方、cDNAの1:10希釈物を、子宮筋層サンプルおよび類線維サンプルすべてについて使用した。
【0062】
アロマターゼ遺伝子に特異的なプライマーおよびプローブを、Primer Express Softwareを使用して設計した。そのプローブを、FAM色素(λmax=518nm)を用いて標識した。プライマーおよびプローブの配列を、以下に示す:
アロマターゼ順方向 CCCCGGCCTTGTTCGT
アロマターゼ逆方向 CCTCCAACCTGTCCAGATGTGT
アロマターゼプローブ TGGTCACAGTCTGTGCTGAATCCCTCAA。
【0063】
そのプライマー濃度を、最大のシグナルを得るための最小プライマー濃度を決定するために最適化した。プライマー最適化に使用したPCR反応混合物は、25μlのTaqMan Universal PCR Master Mix(2×)、5μlの順方向プライマー(50〜900nM)、5μlの逆方向プライマー(50〜900nM)、5μlの2μM TaqManプローブ、5μlのDNAサンプルおよび5μlの水からなった。プライマーおよびプローブの最適化のためのサーマルサイクリング条件を、以下に示す。
【0064】
50℃ 2分間 1サイクル
95℃ 10分間 1サイクル
95℃ 15秒間 40サイクル
60℃ 1分間。
【0065】
そのプローブ濃度を、プライマー最適化について記載された条件を使用することによって最適化した。ここで、順方向プライマーおよび逆方向プライマーは、その最適濃度で使用する。その後、最適なプライマー濃度およびプローブ濃度と、下記に示すサーマルサイクリング条件とを使用して、すべてのアッセイを実施した。
【0066】
(PCR反応混合物)
AmpliTaq Master Mix 12.5μl
順方向プライマー 300nM
逆方向プライマー 300nM
プローブ(1μMストック) 2.5μl。
【0067】
(熱サイクリング条件)
50℃ 2分間 1サイクル
95℃ 10分間 1サイクル
95℃ 15秒間 35サイクル
60℃ 1分間。
【0068】
すべての実験を3連で実施した。すべてのサンプルを、各反応に添加した全RNAの量の差異を計上するための内部コントロールとして18S mRNAを使用することによって正規化した。この18S Q−PCRを、アロマターゼQ−PCRについて使用したのと正確に同じcDNAの希釈物および量を使用すること、およびPE Biosystemの以前に開発されたアッセイに記載されたプロトコルに従うことによって、実施した。ヒト胎盤RNAを、異なるサンプル間の比較を可能にするための参照サンプルとして使用した。
【0069】
アロマターゼの2つの転写物改変体(改変体1(GeneBank登録番号NM−000103)および改変体2(GeneBank登録番号NM−031226))が存在した。改変体2は、改変体1よりも長い5’UTRを有する。両方の改変体は、同じタンパク質をコードする。本発明において使用したPCRプライマーは、両方の改変体に共通する領域に特異的であった。
【0070】
アロマターゼ転写物のレベルの上昇が、試験した11人すべての子宮内膜症患者の子宮内膜炎病変において観察された。アロマターゼ転写物の相対量は、患者依存性であった。いく人かの患者からの子宮内膜炎病変が、同じ患者(例えば、患者Sおよび患者Q)からの異所性(eutopic)子宮内膜(H)と比較した場合に、数千倍高いレベルを有した。アロマターゼ転写物は、試験したすべての患者の異所性(eutopic)子宮内膜においてほとんど検出可能ではなかった。
【0071】
最も興味深いことに、アロマターゼ転写物は、直腸子宮ひだ(SU)において、直腸膣隔壁(RFS)において、卵巣(V)において、または/および骨盤細胞壁(PSWL)において、見出されるかに関わらず、患者の腹腔の異なる領域に位置する病変においてアップレギュレートされた(図1)。
【0072】
高レベルのアロマターゼ転写物はまた、試験したすべての類線維検体において観察された。アロマターゼは、同じ患者由来の適合した子宮筋層においてほとんど検出可能ではなかった。試験した類線維のうちの40%が、その対応する子宮筋層と比較した場合に50倍を超えるレベルを有した(図2)。表1は、これらの図中で使用される専門語の解説を提供する。
【0073】
【表1】


(実施例2:ヒヒにおける子宮内膜病巣の処置)
ヒトにおける子宮内膜症を非常に模倣する状態を、ヒヒにおいて生成し得る。このモデルにおいて、子宮内膜組織を、月経の間の生検により取り出す。次いで、この組織を、腹腔鏡手順を用いて、同一の動物の腹膜に導入する。子宮内膜病巣は、発達し始め得る。この手順を、同一の動物において、その後の月経の時に繰返す場合、全てではないにしてもほとんどが、進行した病巣を発達させる。基礎的な技術は、D’Hooghe T.M.(1997)Fertil.Steril.68(4):613−625およびFazleabas A.T.(2002)Ann.N.Y.Acad.Sci.955:308−317)により詳細に記載される。
【0074】
子宮内膜症は、月経過程の間に減少する子宮内膜組織の断片が、膣を通過するのではなく、ファローピウス管に沿って後方に移動し、そして最終的に、腹腔に侵入する場合に発達すると考えられる。本明細書中で使用される動物モデルは、腹膜に子宮内膜組織を直接導入することにより、このプロセスを模倣する。
【0075】
子宮内膜症を、以下の通り、3匹のヒヒに導入した。3匹全てのヒヒを、病巣および癒着の非存在について、腹腔鏡により最初に評価した。動物が疾患を有さないことを明らかにした後、子宮内膜を、各動物から掻爬によって月経の最初の2日間に得、そしてその動物の腹腔に戻し接種した(第1接種)。次の月経にて、第2評価腹腔鏡を実施し、病巣および癒着の存在を実証し、そして動物に、月経子宮内膜の、2回目の注射をした(第2接種)。第2注射の1ヶ月後、3匹全ての動物を、病巣および癒着の存在について、腹腔鏡により評価し、そして疾患を、3匹全ての動物において確認した。図4は、パネルAにおいて、ヒヒPAN2615の内側前膀胱(medial anterior bladder)における特定の病巣(病巣5)の腹腔鏡による局面を示す。パネルBは、同一ヒヒの後子宮における病巣10の腹腔鏡による局面を示す。図5は、ヒヒPAN2615の病巣13における子宮内膜腺の存在の組織学的確認(パネルAおよびパネルB)、ならびにこのヒヒの正常子宮内膜における腺の存在の確認(パネルC)を示す。らせん動脈の存在を示す。全ての手順の時期を、以下に示す。
【0076】
【表2】


この研究において使用したアロマターゼインヒビターは、C14標識アミノグルテチミドであった。“D,L”−3−“4−アミノフェニル”−3−エチル−2,6−ピペリジンジオン[フェニル−14C“U”](アミノグルテチニン)を、最小量のジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解した。比活性は57.8mCi/mmolであり、放射化学的純度は、HPLPにおいて>99%であった。この溶液を、グリセロール中に希釈して、必要な濃度を得、そしてこれらの得られた混合物を、麻酔した動物に膣内投与した。全血サンプルを、時間差で、および3時間で採取し、子宮内膜病巣(および他の組織)の生検を、放射活性計数で摘出した。
【0077】
組織学は、個々の病巣の間の有意な変動を明らかにし、そして驚くべきことではないが、個々の病巣に見出された放射活性のレベルに差が存在する。いくつかの病巣は、それらの解剖学的位置に起因して検出されないだろう。この研究において、0.3、0.6、および0.9mCiの用量を、個々の動物に投与し、そして同定した明らかな病巣の数は、それぞれ、1、3、および4個であった。
【0078】
図3に示される結果は、膣から子宮内膜病巣へとアロマターゼインヒビターの移動があったことをはっきりと示す。血液レベルは検出可能であり、そして用量応答関係が存在したが、レベルは、2c.p.m./mgを超えなかった。このことにより、子宮内膜病巣の標識が、全身循環を介してではなく腟粘膜からの直接的な排液を介して起こったことが確認される。アロマターゼインヒビターがこれらの病巣に標的化されたという事実は、これらの部位における処置が成功したことを意味する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−102429(P2009−102429A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−26799(P2009−26799)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【分割の表示】特願2003−520824(P2003−520824)の分割
【原出願日】平成14年8月16日(2002.8.16)
【出願人】(507268879)アレス トレイディング ソシエテ アノニム (1)
【Fターム(参考)】