説明

エストロゲン様作用剤およびそれを含む皮膚外用剤

【課題】 エストロゲン様作用剤に関するものであり、さらに詳しくは、ツバキ科ツバキ属のヤブツバキ(Camellia japonica)の抽出物からなるエストロゲン様作用剤を提供することを目的とし、皮膚外用剤、雑貨類、衣類または食品などに応用される。
【解決手段】 ツバキ科ツバキ属のヤブツバキ(Camellia japonica)の抽出物からなるエストロゲン様作用剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エストロゲン様作用剤に関する。さらに詳しくはツバキ科ツバキ属のヤブツバキ(Camellia japonica)の抽出物からなる、低濃度においても高い効果を発揮するエストロゲン様作用剤、およびそれを含む皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
エストロゲン(卵胞ホルモン)は、女性ホルモンの一種であり、発情作用を示すホルモンおよび類似の作用を有する物質の総称として用いられている。天然のエストロゲンとして、エストロン、エストラジオール、エストリオール等が知られており、特にエストラジオールが主要なものである。また、それらと同等の生物活性を有する合成エストロゲンも知られている。エストロゲンは主に卵巣の卵胞および黄体から分泌されるが、妊娠時の胎児胎盤系、副腎、卵巣などからも分泌される。卵巣からのエストロゲンの分泌は、脳の視床下部や下垂体前葉を介してフィードバック調節されており、性周期が成立する。エストロゲンはその受容体を介して作用し、標的組織である生殖器や乳腺のみならず、種々の組織に受容体を有しており、その作用は全身に及ぶ。従って、エストロゲンは生殖機能に作用するだけでなく、脳、心血管、骨格、皮膚、その他の組織に作用し、成人女性の健康に深く関わっている。エストロゲンの主な生理作用として、子宮内膜の増殖、子宮筋の発育、第二次性徴の発現、月経周期の成立の媒介、妊娠時の母体変化の惹起、乳腺管の増殖分泌促進などが挙げられる。また、男性においても、脳、心血管、骨格、皮膚、その他の組織にエストロゲン受容体が存在し、代謝酵素アロマターゼの働きで男性ホルモン(テストステロン)から変換されたエストロゲンが作用する。従って、男性においてもエストロゲンは健康に深くかかわっている。エストロゲンの分泌不足あるいはホルモンバランスの失調は、女性において特に顕著な影響を及ぼし、月経前症候群(PMS)、月経異常、更年期障害などを生じさせ、さらに内因性エストロゲンの低下が続くと、肌の弾力性低下、泌尿生殖器の萎縮による性交痛や尿失禁、高脂血症(脂質代謝の変化)、骨粗鬆症等を発症すると言われている。また、20〜40歳代の女性において、社会進出に伴う過度のストレスやダイエットのためホルモンバランスが崩れ、更年期障害に類似した症状を呈する若年性更年期障害が増えている。このように、エストロゲンの分泌不足あるいはホルモンバランスの失調は、女性の生活の質を向上させる上で非常に大きな問題となっている。PMSや更年期障害等のエストロゲンの分泌不足あるいはホルモンバランスの失調に伴う症状の治療は、利尿剤、精神安定剤、鎮痛剤、ビタミン剤等の投与による対処療法や、エストロゲン作用剤等のホルモン剤を直接投与するホルモン補充療法等により行われている。しかしながら、ホルモン療法はその調整が非常に難しく、また他のホルモンにも悪影響を及ぼし、かえって生体の恒常性を乱す恐れがある。また、現在使用されているエストロゲン作用剤は、胃腸障害、血栓症、子宮出血、肝障害などの副作用を有することが分かっており、また長期投与すると子宮癌や乳癌などが発現する場合もあることが知られている。
そこで近年、特許文献1〜5に開示されているように、エストロゲン様作用を有する動植物の抽出物を用いて女性ホルモンバランスを調整することにより、皮膚などの老化防止を試みる提案がなされている。しかしながら、これら成分においても安定して十分な効果を得られるものが無いのが現状であり、また、皮膚の老化防止と肌質改善を実感するのは困難であった。
【特許文献1】特開2001−103931号公報
【特許文献2】特開2003−277274号公報
【特許文献3】特開2004−155779号公報
【特許文献4】特開2006−241044号公報
【特許文献5】特開2007−191452号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、皮膚の老化防止と肌質を改善することに有効な、エストロゲン様作用剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決する為に研究を重ねたところ、特定の植物の特定部位から抽出したエキスに高いエストロゲン様作用とそれを補助する抗老化作用があることを見出し、目的のエストロゲン様作用剤を得るに至った。
【0005】
すなわち、本発明は、
(1)ツバキ科ツバキ属のヤブツバキ(Camellia japonica)の抽出物からなるエストロゲン様作用剤、
である。
(2)(1)記載のエストロゲン様作用剤を含有する皮膚外用剤、
である。
【発明の効果】
【0006】
本発明のエストロゲン様作用剤は、低濃度から高い効果を発揮し、皮膚外用剤、雑貨類、衣類または食品などに応用される。また、エストロゲン様作用剤を含有する皮膚外用剤は、安定性に優れるとともに、肌の老化防止効果として、肌荒れ改善効果、シワ防止・改善効果、美肌効果に優れ、かつ肌へのなじみ性、べたつき等が無く使用感に優れたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に、更に詳細に発明の説明をする。
本発明のエストロゲン様作用剤は、ツバキ科ツバキ属のヤブツバキ(Camellia japonica)の種子または花弁より各種溶媒で抽出することで得られるものであり、主成分はサポニンである。サポニンとは、トリテルペンやステロイドにオリゴ糖が結合した配糖体の一種であり、シャボン玉のシャボンと語源は同じ「泡立つ」という意味である。すなわち、構造的に親水性部と疎水性部の両方を有しており、界面活性作用を有する。そのことから、ヒトの食物中でコレステロールの吸収を抑制するなど健康上有用な物質の一つである。一般的に大豆、小豆、ウーロン茶、アスパラガス、高麗人参などに含有されていることが知られており、ツバキ種子にもツバキサポニンが含有され、昔から害虫の駆除等にツバキ種子粕(ツバキ油を搾油した残り粕)が使用されている。また、ツバキの花弁にもツバキ花サポニンが含有されており、抗酸化作用やアルコール吸収作用等が報告されている(特開2002−371092号公報)。
【0008】
本発明に使用されるヤブツバキ抽出物に使用されるヤブツバキは、ツバキ科ツバキ属に属する植物であり、学名はCamellia japonicaと呼ばれている。ヤブツバキは常緑高木であり、日本の照葉樹林を代表する樹種で、本州(青森県以南)、四国、九州の丘陵帯に分布する。
【0009】
本発明のヤブツバキ抽出物とは、ヤブツバキの種子から抽出したヤブツバキ種子抽出物、ヤブツバキの花弁から抽出したヤブツバキ花抽出物である。ヤブツバキ抽出物は、通常次のようにして調製する。すなわち、ヤブツバキの種子から抽出物を得るには、種子に含有される油分(ツバキ油)をヘキサン等の溶剤抽出、もしくは、蒸してから圧搾して絞り出した後に得られる種子カスを天日または乾燥機にて乾燥処理を行った後に、水または水溶性の溶媒、もしくはそれら混液にて加熱還流あるいは、浸漬して抽出することにより得る。また、ヤブツバキの花弁から抽出物を得るには、花弁を必要に応じて、そのまま、あるいは破砕後、もしくは乾燥処理を行った後に、炭化水素、エステル類、ケトン類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素類、アルコール類および水から選ばれる1種または2種以上の溶媒と共に、加熱還流あるいは浸漬して抽出することにより得られる。中でも好ましいのは、水、エタノール、プロピレングリコール、イソプロピルアルコール、1,3−ブチレングリコール、グリセリンの1種または2種以上の溶媒で抽出したものであり、更に好ましくは、水、1,3−ブチレングリコールまたはグリセリンの1種または2種以上の溶媒で抽出したものである。
【0010】
本発明においては、ヤブツバキ抽出物のエストロゲン様作用をより発揮させるために、皮膚外用剤、雑貨類、衣服、食品などに応用することができる。また、その際のヤブツバキ抽出物の配合量は、乾燥残留物として0.0001質量%以上であることが好ましく、特に皮膚外用剤に使用する場合には、乾燥残留物として0.0001〜0.5質量%であることがより好ましい。
【0011】
本発明において、「エストロゲン様作用」とは、エストロゲン受容体との結合を介したエストロゲンの様々な生理作用(各種細胞における代謝活性の制御等)を意味する。
【実施例】
【0012】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明する。尚、表中の%は質量%を表す。
(実施例1〜2)
ヤブツバキの花弁および種子から以下のようにしてヤブツバキ抽出物を得た。
(1)ヤブツバキ花抽出物の調製
ヤブツバキの花弁を天日にて乾燥後、質量比で4倍量の50質量%1,3−ブチレングリコール水溶液を添加し、70℃で3日間加熱還流してから、ろ過することによりヤブツバキ花抽出物を得た。このヤブツバキ花抽出物の乾燥残留物を測定したところ、1.2%であった。
【0013】
(2)ヤブツバキ種子抽出物の調製
ヤブツバキの種子を蒸した後、圧搾してツバキ油を搾油し、残渣として残ったツバキ種子カスを天日にて乾燥後、粉砕機にて1mm程度に粉砕した。さらに、粉砕物に対し、質量比で5倍量の水を添加し、70℃で3日間加熱還流してから、水と同等量の1,3−ブチレングリコールを添加し、ろ過することによりヤブツバキ種子抽出物を得た。このヤブツバキ種子抽出物の乾燥残留物を測定したところ、0.3%であった。
上記、(1)、(2)で得られたヤブツバキの抽出物について、下記の方法によりエストロゲン様作用の評価を行った。そして、作用率120%以上をエストロゲン様作用の活性があると評価し、比較としてプエラリラミリフィカ根エキス(乾燥残留物2%)も同時に評価した。結果を表1に示す。
【0014】
[エストロゲン様作用の評価方法]
抽出物について、エストロゲン様作用活性を、エストロゲン依存性細胞の増殖に対する影響を調べる方法(In vitro cell.Dev.Biol.28A,595−602,1992)で測定した。すなわち、ヒト乳がん細胞由来MCF−7細胞(JCRB0134)を5%FBS(チャコール・デキストラン処理)、1mMピルビン酸ナトリウムを含有するEagle‘s MEM(フェノールレッド除去)を用いて、5×10cell/mLの密度で浮遊させた細胞けん濁液0.1mLを96穴マイクロプレートに播種し、37℃、5%CO下で24時間培養した。その後、各濃度の試料をカルチャープレートに添加し、6日間培養を行った。培養後、MTT還元法にて細胞濃度の測定を行い、エストロゲン様作用とした。尚、試料無添加下で培養した細胞を対照とし、この細胞のエストロゲン様作用を100%とした。
【0015】
【表1】

【0016】
表1より、ヤブツバキ花抽出物、ヤブツバキ種子抽出物とも女性ホルモン様作用が高いとされているプエラリラミリフィカ根エキスと比較しても非常に低濃度から、高い活性が確認された。
【0017】
(実施例3〜5)
上記、(1)、(2)で得られたヤブツバキ花抽出物とヤブツバキ種子抽出物とを使用し、表2に示す化粧水である皮膚外用剤を調製し、6項目について下記評価基準により評価を行なった。結果を表2に示す。
<評価項目及び評価基準>
【0018】
(1)肌へのなじみ性
20名の女性(28才〜61才)をパネラーとし、洗顔した後に皮膚外用剤を使用した時の感触について下記のように判定し、20名の平均値を求めて、平均値1.5点以上を使用時の感触の良好な皮膚外用剤であると評価した。
2点:使用時に肌へのなじみが良いと感じた場合。
1点:使用時にやや肌へのなじみが悪いと感じた場合。
0点:使用時に明らかに肌へのなじみが悪いと感じた場合。
【0019】
(2)使用後のべたつき
20名の女性(28才〜61才)をパネラーとし、洗顔した後に皮膚外用剤を使用して10分後の肌の感触について下記のように判定し、20名の平均値を求めて、平均値1.5点以上を使用後のべたつきがない皮膚外用剤であると評価した。
2点:べたつきが無いと感じた場合。
1点:肌がややべたつくと感じた場合。
0点:肌が非常にべたつくと感じた場合。
【0020】
(3)肌荒れ改善効果
肌荒れを生じている10名の女性(32才〜50才)をパネラーとし、皮膚外用剤を一日2回ずつ連日2週間に至って使用した時の肌の状態について官能検査し、下記のように判定し、10名の平均値を求めて、平均値1.5点以上を肌荒れ改善効果のある皮膚外用剤であると評価した。
2点:肌荒れが明らかに治ってきたと感じた場合。
1点:肌荒れがやや治ってきたと感じた場合。
0点:肌荒れ改善効果が全く見られないと感じた場合。
【0021】
(4)シワ防止・改善効果
肌荒れを生じている20名の女性(28才〜61才)をパネラーとし、皮膚外用剤を一日2回ずつ連日4週間に至って使用した時の肌の状態について官能検査し、下記のように判定し、20名の平均値を求めて、平均値1.5点以上を肌荒れ改善効果のある皮膚外用剤であると評価した。
2点:シワが明らかに少なくなったと感じた場合。
1点:シワがやや少なくなってきたと感じた場合。
0点:シワが減少しない、もしくは増えたと感じた場合。
【0022】
(5)美肌効果
20名の女性(28才〜61才)をパネラーとし、皮膚外用剤を一日2回ずつ連日2週間に至って使用した時の肌の状態について官能検査し、下記のように判定し、20名の平均値を求めて、平均値1.5点以上を肌にはりと透明感を与える効果のある皮膚外用剤であると評価した。
2点:明らかに肌にはりがでて若々しくなったと感じた場合。
1点:やや肌にはりがでて肌がやや若々しくなったと感じた場合。
0点:肌にはりもでなく、美肌効果が弱いと感じた場合。
【0023】
(6)経時安定性
化粧料を透明ガラス容器に密封して0℃、25℃、40℃で3ヶ月間保存し、その外観を観察して、下に示す3段階で評価した。
○:安定性良好(いずれの温度においても外観の変化がない。)
△:安定性やや不良(いずれかの温度において若干のおり、沈殿を生じるまたは若干変色を生じる。)
×:安定性不良(いずれかの温度においており、沈殿を生じるまたは分離する。もしくは変色が著しい。)
【0024】
【表2】

【0025】
実施例1〜3より、本発明の成分であるヤブツバキの抽出物を用いた化粧水はいずれも肌荒れ改善効果、シワ防止・改善効果に優れ、美肌効果に優れ、かつ肌のなじみ性、べたつき等の使用感にも優れるとともに安定性にも優れていた。一方、比較例1、2では十分な性能が得られていなかった。つまり、比較例1では本発明の成分が配合されていなく、比較例2では本発明の成分に代えて、異なる植物エキスを使用していることから、肌荒れ改善効果、シワ防止・改善効果、美肌効果が弱くなっている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ツバキ科ツバキ属のヤブツバキ(Camellia japonica)の抽出物からなるエストロゲン様作用剤。
【請求項2】
請求項1記載のエストロゲン様作用剤を含有する皮膚外用剤。

【公開番号】特開2010−105970(P2010−105970A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−281119(P2008−281119)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】