説明

エストロゲン様作用剤

【課題】骨粗鬆症、婦人科疾患、前立腺癌又は前立腺肥大症等の予防・治療のためのエストロゲン様作用剤の提供。
【解決手段】一般式(I):


[式中、Arは、ハロゲン原子、ヒドロキシ基及びC1-C6アルコキシ基からなる群より選択された1から3個の置換基で置換されていてもよいC6-C14アリール基、Aは、置換されていてもよいC1-C4アルキレン基、C2-C4アルケニレン基又はC2-C4アルキニレン基、R1は、水素原子、置換されていてもよいC1-C6アルキル基、置換されていてもよいC3-C6シクロアルキル基又は置換されていてもよいC6-C14アリール基である]で表される化合物又はその塩を含有するエストロゲン様作用剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物由来の下記式(I)の化合物又はその塩を含有するエストロゲン様作用剤に関する。さらに骨粗鬆症、婦人科疾患、前立腺癌又は前立腺肥大症等の治療・予防のための当該エストロゲン様作用剤、当該エストロゲン様作用剤を含有する医薬品および食品に関する。
【背景技術】
【0002】
エストロゲンはコレステロールから合成されるステロイドホルモンの一種であり、エストロゲンが欠乏すると更年期障害や骨粗鬆症になる可能性が高くなる。特に閉経後の女性は急激にエストロゲンの分泌が少なくなるため人為的にエストロゲンを体内に取り入れる必要がある。現在ホルモン補充療法(HRT)というものが盛んに行われているが、エストロゲンを大量に摂取することで、子宮癌や乳癌にかかりやすくなるというデータもあり、その是非が問われている。
【0003】
近年、大豆等に含まれているイソフラボン等の植物エストロゲンが注目されている。植物エストロゲンはエストロゲンが欠乏している時にはエストロゲン様作用を示し、エストロゲンが過剰にあるときはエストロゲンを抑制する効果がある。そのため、植物エストロゲンはHRTの代替手段になるのではないかと考えられている。
【0004】
植物エストロゲンを探索する研究は多くなされている。例えばコーヒー抽出物にはエストロゲン作用があることが知られているが、その活性成分は解明されていない(非特許文献1)。またコーヒー抽出物の成分の1つであるカフェ酸エステルには、高レトロウイルス剤(特許文献1、2)、α−グルコシダーゼ阻害剤(非特許文献2)、抗酸化剤(非特許文献3)としての用途が知られているが、エストロゲン様活性については知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】欧州特許公報1166782号
【特許文献2】特開2002−020283号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Journal of Toxicology and Environmental Health, 20: 37-49, 1987
【非特許文献2】Biosci. Biotechnol. Biochem. 74(4), 741-745, 2010
【非特許文献3】Biosci. Biotechnol. Biochem. 60(7), 1093-1095, 1996
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、骨粗鬆症、婦人科疾患、前立腺癌又は前立腺肥大症等の治療・予防のために用いる、子宮癌や乳癌にかかるリスクが低い植物由来のエストロゲン様作用剤、医薬品および食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究を行った結果、滋賀県の伝統野菜であるアブラナ科の鮎河菜(あいがな)のメタノール抽出物の酢酸エチル可溶性画分中にエストロゲン活性を有する成分があることを見出し、骨粗鬆症、婦人科疾患、前立腺癌又は前立腺肥大症等の治療・予防に有用である当該成分(後述の式(I)の化合物)を含むエストロゲン様作用剤、医薬品および食品を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は下記の通りである。
[1]一般式(I):
【0010】
【化1】

【0011】
[式中、Arは、ハロゲン原子、ヒドロキシ基及びC1-C6アルコキシ基からなる群より選択された1から3個の置換基で置換されていてもよいC6-C14アリール基、Aは、置換されていてもよいC1-C4アルキレン基、置換されていてもよいC2-C4アルケニレン基又は置換されていてもよいC2-C4アルキニレン基、R1は、水素原子、置換されていてもよいC1-C6アルキル基、置換されていてもよいC3-C6シクロアルキル基又は置換されていてもよいC6-C14アリール基である]で表される化合物又はその塩を含有するエストロゲン様作用剤。
[2]Arがハロゲン原子、ヒドロキシ基及びC1-C6アルコキシ基からなる群より選択された1から3個の置換基で置換されていてもよいフェニル、AがC2-C4アルケニレン基、かつR1が、水素原子又はC1-C6アルキル基である[1]記載のエストロゲン様作用剤。
[3]前記式(I)で表される化合物又はその塩が、カフェ酸メチル、カフェ酸エチル、カフェ酸プロピル及びカフェ酸ブチルからなる群より選択される少なくとも1種である、[1]に記載のエストロゲン様作用剤。
[4]前記式(I)で表される化合物又はその塩が、鮎河菜由来である[1]〜[3]のいずれかに記載のエストロゲン様作用剤。
[5]骨粗鬆症又は婦人科疾患の治療及び/又は予防に用いる[1]〜[4]のいずれかに記載のエストロゲン様作用剤。
[6]前立腺癌又は前立腺肥大症の治療及び/又は予防に用いる[1]〜[4]のいずれかに記載のエストロゲン様作用剤。
[7][1]〜[6]のいずれかに記載のエストロゲン様作用剤を含む医薬品。
[8][1]〜[6]のいずれかに記載のエストロゲン様作用剤を含む食品。
[9]食品が保健機能食品又はダイエタリーサプリメントである、[8]記載の食品。
[10]保健機能食品が特定保健用食品又は栄養機能食品である、[9]記載の食品。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、式(I)の化合物が、体内の広い範囲に存在するエストロゲンβ細胞に特異的に活性を示すことから、本発明のエストロゲン様作用剤は、生殖器官だけでなく、骨や脳等の体内の広い範囲でエストロゲン様作用を発揮できる。また式(I)の化合物は抗酸化作用も有するため、動脈硬化や癌等の治療・予防にも有用である。さらに有効成分が鮎河菜という天然物由来であるため、安全に長期間使用することができ、HRTの代替手段として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、鮎河菜から有効成分を抽出するためのスキームを示す。
【図2】図2は、鮎河菜の酢酸エチル可溶性画分(EtOAc ext)をカラムクロマトグラフィーに供し得られたフラクションのエストロゲン活性(α細胞)を示す。
【図3】図3は、鮎河菜の酢酸エチル可溶性画分(EtOAc ext)をカラムクロマトグラフィーに供し得られたフラクションのエストロゲン活性(β細胞)を示す。
【図4】図4は、カフェ酸エステルのエストロゲン活性(α細胞)を示す。横軸は、溶媒(エタノール)のみを加えて活性試験を行ったときの発光強度を1としたとき(ネガティブコントロール)の相対発光強度を示す。
【図5】図5は、カフェ酸エステルのエストロゲン活性(β細胞)を示す。横軸は、溶媒(エタノール)のみを加えて活性試験を行ったときの発光強度を1としたとき(ネガティブコントロール)の相対発光強度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明は、一般式(I):
【0016】
【化2】

【0017】
[式中、Arは、ハロゲン原子、ヒドロキシ基及びC1-C6アルコキシ基からなる群より選択された1から3個の置換基で置換されていてもよいC6-C14アリール基、Aは、置換されていてもよいC1-C4アルキレン基、置換されていてもよいC2-C4アルケニレン基又は置換されていてもよいC2-C4アルキニレン基、R1は、水素原子、置換されていてもよいC1-C6アルキル基、置換されていてもよいC3-C6シクロアルキル基又は置換されていてもよいC6-C14アリール基である]で表される化合物又はその塩を含有するエストロゲン様作用剤である(以下本発明のエストロゲン様作用剤ともいう)。
【0018】
本明細書中の「ハロゲン原子」としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。
【0019】
本明細書中の「C1-C6アルコキシ(基)」としては、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec-ブトキシ、tert-ブトキシ、ペンチルオキシ、イソペンチルオキシ、ネオペンチルオキシ、tert-ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、1−エチルプロポキシ等が挙げられる。
【0020】
本明細書中の「C6-C14アリール(基)」としては、例えば、フェニル、ナフチル(例、1−ナフチル、2−ナフチル)、アントリル、フェナントリル等が挙げられ、好ましくはフェニル又はナフチルであり、更に好ましくはフェニルである。
本明細書中の「C1-C4アルキレン(基)」としては、直鎖又は分枝状のいずれであってもよく、例えば、-CH2-、-(CH2)2-、-(CH2)3-、-(CH2)4-、-CH(CH3)-、-C(CH3)2-、-CH(CH3)-CH2-、-CH2-CH(CH3)-、-C(CH3)2-CH2-、-CH2-C(CH3)2-等が挙げられる
本明細書中の「C2-C4アルケニレン(基)」としては、直鎖又は分枝状のいずれであってもよく、例えば、-CH=CH-、-CH=CH(CH2)-、-CH=C=CH-、-CH=CH(CH2)2-、- CH2CH=CH(CH2)-等が挙げられる。
本明細書中の「C2-C4アルキニレン(基)」としては、直鎖又は分枝状のいずれであってもよく、例えば、-C≡C-、-C≡C(CH2)-、-C≡C(CH2)2-、-CH2-C≡C-CH2-等が挙げられる。
本明細書中の「C1-C6アルキル(基)」としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert-ペンチル、ヘキシル、3,3‐ジメチルプロピル等が挙げられ、好ましくは、C1-C4アルキル基である。
本明細書中の「C3-C6シクロアルキル(基)」としては、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルが挙げられる。
【0021】
本明細書中の「置換されていてもよいC1-C4アルキレン基」、「置換されていてもよいC2-C4アルケニレン基」、「置換されていてもよいC2-C4アルキニレン基」、「置換されていてもよいC1-C6アルキル基」、「置換されていてもよいC3-C6シクロアルキル基」及び「置換されていてもよいC6-C14アリール基」としては、例えば、
(1)ハロゲン原子、
(2)ヒドロキシ基、
(3)アミノ基、
(4)ニトロ基、
(5)シアノ基、
(6)C1-C6アルキル基、
(7)C1-C6アルコキシ基、
(8)C3-C6シクロアルキル基、
(9)C6-C14アリール基、
(10)複素環基;
等からなる群から選択された1から5個、好ましくは1から3個の置換基でそれぞれ置換されていてもよい、「C1-C4アルキレン基」、「C2-C4アルケニレン基」、「C2-C4アルキニレン基」、「C1-C6アルキル基」、「C3-C6シクロアルキル基」及び「C6-C14アリール基」が挙げられる。
【0022】
本明細書中の「複素環基」としては、特に断りのない限り、例えば、環構成原子として、炭素原子以外に窒素原子、硫黄原子および酸素原子からなる群から選択された1または2種のヘテロ原子を1から4個含む4から14員(好ましくは5から10員)の(単環、2環式または3環式)複素環基、好ましくは(i)5から14員(好ましくは5から10員)芳香族複素環基、(ii)4から10員(好ましくは5から10員)非芳香族複素環基等が挙げられる。
「芳香族複素環基」としては、例えば、フリル、チエニル、ピロリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、1,2,3−オキサジアゾリル、1,2,4−オキサジアゾリル、1,3,4−オキサジアゾリル、フラザニル、1,2,3−チアジアゾリル、1,2,4−チアジアゾリル、1,3,4−チアジアゾリル、1,2,3−トリアゾリル、1,2,4−トリアゾリル、テトラゾリル、ピリジル、ピリダジニル、ピリミジニル、ピラジニル、トリアジニル等の単環式芳香族複素環基;例えば、ベンゾフリル、イソベンゾフリル、ベンゾ[b]チエニル、インドリル、イソインドリル、1H−インダゾリル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾ[d]イソオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾ[d]イソチアゾリル、1H−ベンゾトリアゾリル、キノリル、イソキノリル、シンノリニル、キナゾリニル、キノキサリニル、フタラジニル、ナフチリジニル、プリニル、プテリジニル、カルバゾリル、α−カルボリニル、β−カルボリニル、γ−カルボリニル、アクリジニル、フェノキサジニル、フェノチアジニル、フェナジニル、フェノキサチイニル、チアントレニル、フェナトリジニル、フェナントロリニル、インドリジニル、ピロロ[1,2−b]ピリダジニル、ピラゾロ[1,5−a]ピリジル、イミダゾ[1,2−a]ピリジル、イミダゾ[1,5−a]ピリジル、イミダゾ[1,2−a]ピリダジニル、イミダゾ[1,2−a]ピリミジニル、1,2,4−トリアゾロ[4,3−a]ピリジル、1,2,4−トリアゾロ[4,3−b]ピリダジニル等の芳香族縮合複素環基が挙げられる。
「非芳香族複素環基」としては、例えば、アゼチジニル、オキセタニル、チエタニル、ピロリジニル、テトラヒドロフリル、チオラニル、イミダゾリジニル、ピラゾリジニル、オキサゾリジニル、チアゾリジニル、ピペリジル、テトラヒドロピラニル、モルホリニル、チオモルホリニル、ピペラジニル等の単環式非芳香族複素環基;イソクロマニル、ジヒドロベンゾピラニル、イソクロメニル、クロメニル(2H−クロメニル、4H−クロメニル)、1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリル、1,2,3,4−テトラヒドロキノリル、2,3−ジヒドロベンゾフラニル、ベンゾ[1,3]ジオキソリル等の非芳香族縮合複素環基が挙げられる。
【0023】
Arで表される「置換されていてもよいC6-C14アリール基」は、好ましくは、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、C1-C6アルコキシ基からなる群から選択された1から3個の置換基で置換されていてもよいフェニルである。より好ましくは、ヒドロキシ基及びC1-C6アルコキシ基からなる群から選択された1から3個の置換基で置換されていてもよいフェニルであり、更に好ましくは、1から3個のヒドロキシ基で置換されていてもよいフェニルであり、特に好ましくは1から3個のヒドロキシ基で置換されたフェニルであり、とりわけ好ましくは2個のヒドロキシ基で置換されたフェニルである。
Aは、好ましくは、C1-C4アルキレン基、C2-C4アルケニレン基又はC2-C4アルキニレン基であり、より好ましくは、C2-C4アルケニレン基である。
R1は、好ましくは、置換されていてもよいC1-C6アルキル基であり、より好ましくは、C1-C6アルキル基であり、さらに好ましくはC1-C4アルキル基である。
【0024】
式(I)で表される化合物の好適な態様としては、
Arがハロゲン原子、ヒドロキシ基及びC1-C6アルコキシ基からなる群より選択された1から3個の置換基で置換されていてもよいフェニル、AがC2-C4アルケニレン基、かつR1が、水素原子又はC1-C6アルキル基であり、より好ましくは、Arがヒドロキシ基で置換されたフェニル、AがC2-C4アルケニレン基かつR1がC1-C6アルキル基である化合物又はその塩が挙げられる。
【0025】
式(I)で表される化合物の特に好適な具体例としては、カフェ酸メチル、カフェ酸エチル、カフェ酸プロピル又はカフェ酸ブチル等が挙げられる。
【0026】
式(I)で表される化合物又はその塩は、化学合成法、動物や植物に由来する天然のもの、発酵法又は遺伝子組換法によって得られるもののいずれを使用してもよい。
【0027】
式(I)で表される化合物又はその塩の製造のための出発物質は、J. Med. Chem. 1997, 40, 1186-1194やChem. Biol. Interaction, 84(1992) 277-290等に記載される方法や公知の工程によって調製できる。すなわち式(I)で表される化合物の基本骨格あるいは置換基の種類に基づく特徴を利用し、種々の公知の合成方法を適用して製造することができる。例えばアルキル化、アシル化、アミノ化、イミノ化、ハロゲン化、還元、酸化、縮合等が挙げられ、通常当分野で用いられる反応又は方法が利用できる。
【0028】
式(I)で表される化合物の塩としては、薬理学的に許容しうる塩等が挙げられ、例えば、トリフルオロ酢酸、酢酸、乳酸、コハク酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、グルコン酸、アスコルビン酸、安息香酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ケイ皮酸、フマル酸、ホスホン酸、塩酸、硝酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、スルファミン酸、硫酸等の酸との酸付加塩;例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等の金属塩;例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、N−メチルピロリジン、N−メチルピペリジン、N−メチルモルホリン等の有機塩基との塩等が挙げられる。
【0029】
式(I)で表される化合物が、光学異性体、立体異性体、位置異性体、回転異性体等の異性体を有する場合には、これらも式(I)で表される化合物として含有されるとともに、自体公知の合成手法、分離手法によりそれぞれを単品として得ることができる。例えば、式(I)で表される化合物に光学異性体が存在する場合には、該化合物から分割された光学異性体も式(I)で表される化合物に包含される。ここで、光学異性体は自体公知の方法により製造することができる。
【0030】
式(I)で表される化合物は、結晶であってもよい。
式(I)で表される化合物の結晶は、式(I)で表される化合物に自体公知の結晶化法を適用して結晶化することによって製造することができる。式(I)で表される化合物が結晶である場合、結晶形が単一であっても結晶形混合物であっても式(I)で表される化合物に包含される。
【0031】
式(I)で表される化合物は、同位元素(例、3H、14C、35S、125I等)等で標識されていてもよい。
さらに式(I)で表される化合物は、水和物であっても、非水和物であっても、無溶媒和物であっても、溶媒和物であってもよい。
さらに、1Hを2H(D)に変換した重水素変換体も、式(I)で表される化合物に包含される。
【0032】
式(I)で表される化合物又はその塩(本発明の化合物と称することもある)は、鮎河菜由来である態様も本発明に含まれる。
鮎河菜は、滋賀の伝統野菜であるアブラナ科の野菜であり、滋賀県甲賀市土山町の鮎河でしか育てられていない鮎河土着の在来種である。鮎河菜由来の上記式(I)で表される化合物は鮎河菜からは以下のようにして得られる。
【0033】
鮎河菜は、通常10月中旬に播種、3月から4月に薹立ちした株の中央の茎と葉を食用とする。鮎河菜の葉をメタノールで抽出・濃縮してメタノール抽出物を得る。得られたメタノール抽出物を、ヘキサン、酢酸エチルで順次溶媒分画する。得られた酢酸エチル可溶性画分をODSを詰めたカラムで分画し、エストロゲン活性を示すフラクションをさらに慣用の精製等を行い本発明の化合物を得る。
【0034】
本発明の化合物はエストロゲン様作用を有することから、本発明の化合物を含有するエストロゲン様作用剤は、哺乳動物(例、ヒト、サル、ネコ、ブタ、ウマ、ウシ、マウス、ラット、モルモット、イヌ、ウサギ等)に対し、エストロゲンが関与する疾患の治療又は予防、特にエストロゲンの減少又はホルモンバランスの失調に起因する疾患又は症状の予防、改善又は治療に有用である。
【0035】
エストロゲンの減少又はホルモンバランスの失調に起因する疾患又は症状としては、骨粗鬆症、婦人科疾患又は脂質代謝異常等が挙げられる。婦人科疾患としては、更年期障害、若年性更年期障害、無月経、月経異常、月経症候群、乳がん、無排卵性子宮出血等が挙げられる。
【0036】
脂質代謝異常としては、高脂血症や、心筋梗塞、狭心症、脳梗塞等の動脈硬化性疾患等が挙げられる。
【0037】
なかでも、本発明のエストロゲン様作用剤は、骨粗鬆症や更年期障害の治療及び/又は予防に好適である。
【0038】
またエストロゲンの減少に対するホルモン補充療法(HRT)に対して、本発明のエストロゲン様作用剤は好適である。
【0039】
さらにエストロゲンには男性ホルモンの働きを抑える作用があるため、本発明のエストロゲン様作用剤は、主に男性ホルモンのテストステロンにより増殖が促進される前立腺癌、前立腺肥大症等に適用できる。なかでも前立腺癌及び前立腺肥大症の治療及び/又は予防に好適である。
【0040】
本発明のエストロゲン様作用剤は、エストロゲン受容体(ER)β細胞に特異的な活性を有する。
エストロゲンが作用するためには、エストロゲン受容体(ER)への結合が必要である。ERにはERαとERβの2種類が存在し、ERαは主に肝臓や生殖器官に発現し、ERβは生殖器官だけでなく、骨や脳等といった体内の広い範囲で発現している。したがってβ細胞に特異的な活性を持つ本発明のエストロゲン様作用剤は、体内の広い範囲でエストロゲンの減少やホルモンの失調に起因する症状や疾患に有効である。
【0041】
本発明の化合物は抗酸化作用を有することから、本発明のエストロゲン様作用剤は、心筋梗塞、狭心症、脳梗塞等の動脈硬化性疾患、がん等の予防及び治療に適用できる。
【0042】
本発明のエストロゲン様作用剤を含む医薬品も本発明に包含される(以下本発明の医薬品ともいう)。
【0043】
本発明の医薬品は、本発明のエストロゲン様作用剤をそのままあるいは薬理学的に許容される担体を配合し、経口的又は非経口的に投与することができる。
【0044】
本発明の医薬品は、経口投与する場合の剤形としては、例えば錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤、マイクロカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等が挙げられ、また、非経口投与する場合の剤形としては、例えば注射剤、注入剤、点滴剤、坐剤等が挙げられる。また、適当な基剤と組み合わせ、徐放性製剤とすることも有効である。
【0045】
本発明の医薬品を上記の剤形に製造する方法としては、当該分野で一般的に用いられている公知の製造方法を適用することができる。また、上記の剤形に製造する場合には、必要に応じて、その剤形に製する際に製剤分野において通常用いられる賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、甘味剤、界面活性剤、懸濁化剤、乳化剤等を適宜、適量含有させて製造することができる。
【0046】
例えば、本発明の医薬品を錠剤に製する場合には、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等を含有させて製造することができ、丸剤及び顆粒剤に製する場合には、賦形剤、結合剤、崩壊剤等を含有させて製造することができる。また、散剤及びカプセル剤に製する場合には賦形剤等を、シロップ剤に製する場合には甘味剤等を、乳剤又は懸濁剤に製する場合には懸濁化剤、界面活性剤、乳化剤等を含有させて製造することができる。
【0047】
賦形剤の例としては、乳糖、白糖、ブドウ糖、でんぷん、蔗糖、微結晶セルロース、カンゾウ末、マンニトール、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム等が挙げられる。
【0048】
結合剤の例としては、5ないし10重量%でんぷんのり液、10ないし20重量%アラビアゴム液又はゼラチン液、1ないし5重量%トラガント液、カルボキシメチルセルロース液、アルギン酸ナトリウム液、グリセリン等が挙げられる。
【0049】
崩壊剤の例としては、でんぷん、炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0050】
滑沢剤の例としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、精製タルク等が挙げられる。
【0051】
甘味剤の例としては、ブドウ糖、果糖、転化糖、ソルビトール、キシリトール、グリセリン、単シロップ等が挙げられる。
【0052】
界面活性剤の例としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリソルベート80、ソルビタンモノ脂肪酸エステル、ステアリン酸ポリオキシル40等が挙げられる。
【0053】
懸濁化剤の例としては、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ベントナイト等が挙げられる。
【0054】
乳化剤の例としては、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン、ポリソルベート80等が挙げられる。
【0055】
更に、本発明の医薬品を上記の剤形に製造する場合には、所望により、製剤分野において通常用いられる着色剤、保存剤、芳香剤、矯味剤、安定剤、粘稠剤等を適量、添加することができる。
【0056】
本発明の医薬品を経口投与する場合の投与量は、投与する患者の性別、症状、年齢、投与方法によって異なるが、通常、成人(体重60kg)1日あたりの本発明の化合物の投与量が、1mg〜500mgであり、好ましくは1mg〜70mgである。上記1日あたりの量を一度にもしくは数回に分けて投与することができる。食前、食後、食間を問わない。また投与期間は特に限定されない。
【0057】
本発明の医薬品を非経口的に投与する場合は、通常、液剤(例えば注射剤)の形で投与する。その1回投与量は投与対象、対象臓器、症状、投与方法等によっても異なるが、例えば注射剤の形にして、通常体重1kgあたり約1μg〜約1mg、好ましくは約1μg〜約200μg、より好ましくは約1μg〜約100μgを静脈注射により投与するのが好都合である。注射剤としては、静脈注射剤のほか、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤等が含まれ、また持続性製剤としては、イオントフォレシス経皮剤等が含まれる。かかる注射剤は自体公知の方法、すなわち、本発明の化合物を無菌の水性液もしくは油性液に溶解、懸濁又は乳化することによって調製される。注射用の水性液としては生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液(例えば、D−ソルビトール、D−マンニトール、塩化ナトリウム等)等が挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール(例えばエタノール)、ポリアルコール(例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤(例えばポリソルベート80、HCO−50)等と併用してもよい。油性液としては、ゴマ油、大豆油等が挙げられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等と併用してもよい。また、緩衝剤(例えば、リン酸緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカイン等)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコール等)、保存剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノール等)等と配合してもよい。
【0058】
本発明の医薬品を経皮吸収型外用剤として投与(適用)する場合には、必要に応じて公知の添加剤等を混合して常法により、クリーム剤、液剤、ローション剤、乳剤、チンキ剤、軟膏剤、水性ゲル剤、油性ゲル剤、エアゾール剤、パウダー剤、シャンプー、石鹸等の外用製剤等とすることができる。
本発明の化合物は、そのままであるいは適当な添加剤を加えて化粧品又は医薬部外品等とすることができる。
【0059】
上記外用剤には、上記成分の他に水溶性成分、油性成分、粉末成分、界面活性剤、高分子成分、増粘剤、粘着性改良剤、被膜形成剤、pH調整剤、抗酸化剤、防腐剤、保存剤、賦形剤、保湿剤、皮膚保護剤、清涼化剤、香料、着色剤、キレート剤、潤沢剤、鎮痒剤、血行促進剤、収斂剤、組織修復促進剤、制汗剤、植物抽出成分、動物抽出成分、化粧品や医薬部外品等に必要な添加剤等を必要に応じて配合することができる。
【0060】
上記外用剤として投与(適用)する場合、投与する患者の性別、症状、投与部位、目的、年齢、投与方法等によって異なるが、投与量は成人1日当たり、有効成分である本発明の化合物を通常1μg/kg〜10mg/kg/day程度、好ましくは1μg/kg〜1mg/kg/day程度である。適用する回数は特に制限されないが、通常1日1〜5回、好ましくは3〜5回である。
【0061】
本発明の医薬品は、エストロゲン製剤、黄体ホルモン製剤、前立腺肥大症治療剤、男性ホルモン製剤、骨粗鬆症治療剤、抗高脂血症剤、抗動脈硬化剤等の薬剤と組み合せて用いることができる。
【0062】
本発明のエストロゲン様作用剤を含む食品も本発明に包含される(以下本発明の食品ともいう)。本発明の食品においては、鮎河菜由来成分のみからなる食品であってもよい。
【0063】
本発明における食品は、本発明の化合物を含む一般的な食品形態であれば如何なるものでもよい。例えば、それ自体、またはそれに適当な風味を加えてドリンク剤、例えば清涼飲料、粉末飲料とすることもできる。具体的には、ジュース、牛乳、菓子、ゼリー等に混ぜて飲食することができる。また、このような食品を保健機能食品として提供することも可能である。この保健機能食品には、エストロゲン低下に起因する症状の改善等の本発明の用途に用いるものであるという表示を付した飲食品、特に、特定保健用食品、栄養機能食品等も含まれる。
【0064】
さらに、本発明における食品を食品補助剤として利用することも可能である。食品補助剤として使用する場合、例えば錠剤、カプセル、散剤、顆粒、懸濁剤、チュアブル剤、シロップ剤等の形態に調製することができる。本発明における食品補助剤とは、食品として摂取されるもの以外に栄養を補助する目的で摂取されるものをいい栄養補助剤、ダイエタリーサプリメント等もこれに含まれる。
【0065】
本発明の化合物を食品として摂取する場合、成人(体重60kg)1日当たりの本発明の化合物の摂取量は、通常1mg〜300mg程度、好ましくは1mg〜30mg程度である。
上記の量を1日1回から数回に分けて摂取することが好ましい。この場合、1日あたり摂取量、または1回あたりの摂取量を1単位包装とすることができる。
【実施例】
【0066】
以下、参考例、実施例及び試験例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、実施例は本発明の説明のために記載するものであり、本発明を限定するものではない。
【0067】
(試薬・機器)
メタノール(和光純薬工業 MeOHと略記)、エタノール(和光純薬工業 EtOHと略記)クロロホルム(和光純薬工業 CHCl3と略記)、ヘキサン(和光純薬工業 Hexaneと略記)、酢酸エチル(和光純薬工業 EtOAcと略記)、アセトニトリル(和光純薬工業 CH3CNと略記)、重水素メタノール(日本酸素CD3ODと略記)、エストラジオール(和光純薬工業 E2と略記)、FCS入りステロイドフリーDMEM(DULBECCO’S MODIFIED EAGLE’S MEDIUM Modified without phenol red)、基質としてpromega社のSteady-Glo(登録商標) Luciferase Assay Systemを使用した。カフェ酸(東京化成工業)、トリメチルシリルジアゾメタン(東京化成工業)、カラムクロマトグラフィーはWako製Wakogel 50C18を使用した。薄層クロマトグラフィー(Thin layer chromatography,TLCと略記)プレートはMerck製Silica gel 60F254,ODSプレートはMerck製RP-18F254sを使用した。バニリン硫酸(バニリン10mg、硫酸1mL)、13C- 及び1H-核磁気共鳴(nuclear magnetic resonance, NMRと略記)はJEOL GSX-500核磁気共鳴装置で測定した。ルミノメーターはLuminescencer-JNR II AB-2300 ATTAを使用した。吸光度計はJASCO製V-630 BIO spectrophotometerを使用した。高速液体クロマトグラフ質量分析計(LCMSと略記)は、SIMADZU LIQUID CHROMATOGRAPH MASS SPECTROMETER LCMS-IT-TOF を使用した。ガスクロマトグラフ質量分析計(GCMSと略記)はSIMADZU GC-2010 GCMS-QP 2010 plusを使用した。
【0068】
(参考例1)
<鮎河菜抽出物中の活性成分の調製>
1.抽出・精製
(1)メタノール抽出
鮎河菜の葉(3125g)をメタノール8.2Lで抽出・濃縮してメタノール抽出物(83g)を得た。
【0069】
(2)溶媒分画
図1のスキームに示すように、鮎河菜のメタノール抽出物を、ヘキサン、酢酸エチルで順次溶媒分画し、ヘキサン可溶性画分(Hexane ext)、酢酸エチル可溶性画分(EtOAc ext)、水溶性画分(H2O ext)を得た。
【0070】
(3)エストロゲンアッセイ
細胞はhuman embryonic kidney 293 (HEK293)細胞にルシフェラーゼ遺伝子とエストロゲン受容体α及びβが組み込まれているものを使用した。培地は5%FCS入りステロイドフリーDMEMを使用した。
細胞に培地を加え、サンプルの終濃度が原液濃度の100分の1になるように加えた。37℃で24時間培養し、Steady-Glo(登録商標) Luciferase Assay Systemに従って基質を加え、ルミノメーターで発光値を測定した。ポジティブコントロールはE2(エストラジオール)、ネガティブコントロールはEtOH、サンプルは4倍希釈を4段階行った。
得られた各画分についてエストロゲンアッセイを行った。この結果から、酢酸エチル可溶性画分が最も強いエストロゲン様活性を示すことが分かった。
【0071】
2.酢酸エチル可溶性画分からのエストロゲン様活性成分の探索
(1)カラムクロマトグラフィー
最も強いエストロゲン様活性を示した酢酸エチル可溶性画分 (200mg)をODS約10gを詰めたカラムで分画した。溶媒は、MeOH-H2O(MeOH:50→60→70→80→90→100 %)で行なった。
【0072】
(2)フラクションのTLC分析
カラムクロマトグラフィーを行い得られたフラクションについて、シリカゲルTLC分析を行った。
【0073】
(3)エストロゲンアッセイ
得られたフラクションのエストロゲンアッセイを行った。
【0074】
3.活性成分の大量分画
(1)カラムクロマトグラフィー
上記2.(3)においてエストロゲン活性が見られたのは、メタノール濃度50%の辺りで得られたフラクションであった。酢酸エチル可溶性画分に含まれる活性成分を大量に集めるために繰り返しカラムクロマトグラフィーを行なった。酢酸エチル可溶性画分(400mgずつ)は、ODS約10gを詰めたカラムで分画した。溶媒は、MeOH:H2O=1:1で、この操作を5回行った。
【0075】
(2)フラクションのTLCチェック
カラムクロマトグラフィーを行い得られた4つのフラクションAからDについてTLCチェックを行った。
【0076】
(3)エストロゲンアッセイ
上記フラクションにおいてエストロゲンアッセイを行った。この結果から、フラクションC[B112-6-3-2o frC]に活性があることが分かった(図2、図3)。
【0077】
4.[B112-6-3-2o frC] からのエストロゲン様活性成分の探索
(1)カラムクロマトグラフィー
エストロゲン活性の見られた[B112-6-3-2o frC](70mg)をODS約10gを詰めたカラムで分画した。溶媒は、MeOH-H2O(MeOH:20→25→30→35→40→45→50%)で行った。
【0078】
(2)フラクションのTLCチェック
カラムクロマトグラフィーを行い得られたフラクションについてTLCチェックを行った。
【0079】
(3)エストロゲンアッセイ
カラムクロマトグラフィーで得られたフラクションについてエストロゲンアッセイを行った。その結果フラクションC-2に活性が確認できた。そこでフラクションC-2の構造解析を行った。
【0080】
5.エストロゲン様活性成分C-2の構造解析
(1)NMR・LCMS測定
活性成分C-2のLCMS測定の結果、m/z 193に[M-H]- イオンピークが観測されたことから、活性成分C-2の分子量は194であることがわかった。
ついで、活性成分C-2を、CD3ODで溶解し、一次元NMRを用いて測定した。データは 500 MHz (1H) 及び 125 MHz (13C)(27 ℃)において記録し、多重度はDEPT法により決定した。
活性成分C-2の1H及び13C NMRのスペクトルデータは以下に示す通りである。
【0081】
【表1】

【0082】
表1より、活性成分C-2の構造としてカフェ酸メチルが推定された。
【0083】
そこでカフェ酸をトリメチルシリルジアゾメタンを用いてメチル化した。
カフェ酸(5mg)をナスフラスコに取り、メタノール(2mL)に溶かし、10%トリメチルシリルジアゾメタンのヘキサン溶液(2mL)を溶液が黄色になるまで加えた。その後エバポレーターで溶媒を除き、ODSカラムで精製した。これをカフェ酸メチル(methyl caffeate)の標品として用いた。
【0084】
標品を、上記と同様の条件でNMR測定を行なったところ、活性成分C-2のNMRスペクトルと一致することが確認できた。よって、活性成分C-2は、カフェ酸メチルであることが明らかとなった。
【0085】
【化3】

【0086】
(2)カフェ酸メチルの最小有効濃度の算定
カフェ酸メチルの最小有効濃度を求めるために、カフェ酸メチル標品を用いてエストロゲンアッセイを行なった。図5にβ細胞での活性を示した。この結果より、カフェ酸メチルのエストロゲンアッセイにおける最小有効濃度は、6.25ppm(0.0322mM)であることが明らかとなった。
【0087】
(実施例1)
カフェ酸(15mg)を、メタノール(2mL)に溶かし、10%トリメチルシリルジアゾメタンのヘキサン溶液(2mL)を溶液が黄色になるまで加えた。その後溶媒を除去し、カラムクロマトグラフィー(溶離液;酢酸エチル−ヘキサン、1:1)で精製し、カフェ酸メチル(10mg)を得た。
【0088】
(実施例2)
カフェ酸(50mg)を、エタノール(2mL)に溶かし、Dowex 50 (H+ form)(50mg)を加え、暗所60℃で3日間撹拌した。その後反応液を濾過した後、溶媒を除去し、カラムクロマトグラフィー(溶離液;酢酸エチル−ヘキサン、1:1)で精製し、カフェ酸エチル(20mg)を得た。
【0089】
(実施例3)
カフェ酸(50mg)を、1−プロパノール(2mL)に溶かし、Dowex 50 (H+ form)(50mg)を加え、暗所60℃で3日間撹拌した。その後反応液を濾過した後、溶媒を除去し、カラムクロマトグラフィー(溶離液;酢酸エチル−ヘキサン、1:1)で精製し、カフェ酸プロピル(25mg)を得た。
【0090】
(実施例4)
カフェ酸(50mg)を、1−ブタノール(2mL)に溶かし、Dowex 50 (H+ form)(50mg)を加え、暗所60℃で3日間撹拌した。その後反応液を濾過した後、溶媒を除去し、カラムクロマトグラフィー(溶離液;酢酸エチル−ヘキサン、1:1)で精製し、カフェ酸ブチル(30mg)を得た。
【0091】
(試験例1)
細胞はhuman embryonic kidney 293 (HEK293)細胞にルシフェラーゼ遺伝子とエストロゲン受容体α及びβが組み込まれているものを使用した。培地は5%FCS入りステロイドフリーDMEMを使用した。
細胞に培地を加え、上記のカフェ酸エステルの終濃度が原液濃度の100分の1になるように加えた。37℃で24時間培養し、Steady-Glo(登録商標) Luciferase Assay Systemに従って基質を加え、ルミノメーターで発光値を測定した。ポジティブコントロールはE2(エストラジオール)、ネガティブコントロールはEtOH、実施例1〜4のカフェ酸エステルは4倍希釈を4段階行った。
横軸は、溶媒(エタノール)のみを加えて活性試験を行ったときの発光強度を1としたとき(ネガティブコントロール)の相対発光強度を示す。また、ネガティブコントロールに対する有意差検定を行った。
【0092】
図4及び図5に示すように、いずれのカフェ酸エステルも、β細胞に特異的なエストロゲン活性を示した。また最小有効濃度は、いずれのカフェ酸エステルも6.25ppmであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I):
【化1】

[式中、Arは、ハロゲン原子、ヒドロキシ基及びC1-C6アルコキシ基からなる群より選択された1から3個の置換基で置換されていてもよいC6-C14アリール基、Aは、置換されていてもよいC1-C4アルキレン基、置換されていてもよいC2-C4アルケニレン基又は置換されていてもよいC2-C4アルキニレン基、R1は、水素原子、置換されていてもよいC1-C6アルキル基、置換されていてもよいC3-C6シクロアルキル基又は置換されていてもよいC6-C14アリール基である]で表される化合物又はその塩を含有するエストロゲン様作用剤。
【請求項2】
Arがハロゲン原子、ヒドロキシ基及びC1-C6アルコキシ基からなる群より選択された1から3個の置換基で置換されていてもよいフェニル、AがC2-C4アルケニレン基、かつR1が、水素原子又はC1-C6アルキル基である請求項1記載のエストロゲン様作用剤。
【請求項3】
前記式(I)で表される化合物又はその塩が、カフェ酸メチル、カフェ酸エチル、カフェ酸プロピル及びカフェ酸ブチルからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のエストロゲン様作用剤。
【請求項4】
前記式(I)で表される化合物又はその塩が、鮎河菜由来である請求項1〜3のいずれか1項に記載のエストロゲン様作用剤。
【請求項5】
骨粗鬆症又は婦人科疾患の治療及び/又は予防に用いる請求項1〜4のいずれか1項に記載のエストロゲン様作用剤。
【請求項6】
前立腺癌又は前立腺肥大症の治療及び/又は予防に用いる請求項1〜4のいずれか1項に記載のエストロゲン様作用剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のエストロゲン様作用剤を含む医薬品。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のエストロゲン様作用剤を含む食品。
【請求項9】
食品が保健機能食品又はダイエタリーサプリメントである、請求項8記載の食品。
【請求項10】
保健機能食品が特定保健用食品又は栄養機能食品である、請求項9記載の食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−158574(P2012−158574A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21226(P2011−21226)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(503303466)学校法人関西文理総合学園 (26)
【Fターム(参考)】