説明

エタネルセプトを含む線維筋痛症の治療剤

【課題】 本発明は,線維筋痛症の治療に有効な医薬を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は,基本的には,エタネルセプトを線維筋痛症に罹患した患者に投与したところ,症状に改善が見られたという実験に基づくものである。エタネルセプトは関節リウマチの治療薬として知られているところ,本実施例ではリウマチに罹患していない患者のJFIQスコアが著しく改善した。すなわち,本発明は,エタネルセプトを有効成分として有効量含む線維筋痛症の治療剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,エタネルセプトを有効成分として含む線維筋痛症の治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
線維筋痛症は,例えば,原因不明の疼痛,不眠,精神神経症状,過敏性大腸炎,及び膀胱炎を主症状とする疾患である。近年,粘膜系の障害(ドライアイやドライマウス)や腱付着部炎を伴う線維筋痛症も見出された。一方,線維筋痛症の原因は,明確にされていない。そこで,現在,線維筋痛症の治療剤が望まれる。
【0003】
たとえば,国際公開WO2008−041751号パンフレットには,サラゾスルファピリジンを有効成分とする腱付着部炎を伴う線維筋痛症の治療剤が開示されている。
【0004】
国際公開WO2007−052125号パンフレットには,プレガバリンを有効成分とする筋緊張亢進型線維筋痛症の治療剤が開示されている。
【0005】
国際公開WO2009−139470号パンフレットには,塩酸ピロカルピンを有効成分とする筋緊張亢進型線維筋痛症の治療剤が開示されている。
【0006】
一方,エタネルセプトは,エンブレル(登録商標)という名称の関節リウマチの治療剤として製造販売されている(エンブレル(登録商標)皮下注射用の添付文書)。エタネルセプトは,可溶性TNFレセプターである(特許2721745号,特許2728968号,特許第2960039号)。
【0007】
下記非特許文献2(ORTEGA,E.
et al,Aquatic
exercise improves the monocyte pro- and anti -inflammatory
cytokine production balance in fibromyalgia patients,Scand
J Med Sci Sports,2010年,Vol.1193, No.1,p.1-9)では,線維筋痛症患者(リウマチ患者を含まない)において、TNFα等の炎症性サイトカイン量が上昇するとする仮説が開示されている。しかしながら,上記はあくまで仮説であって,ある線維筋痛症患者において,TNFα等の炎症性サイトカイン量が上昇している理由が,線維筋痛症由来であることは記載されていない。非特許文献2には,TNFα等の炎症性サイトカインが,線維筋痛症における疼痛の原因であることを証明していない。非特許文献2には,TNFα値の増減と線維筋痛症に関する知見については何ら言及されていない。さらには,非特許文献2には,TNFα等の炎症性サイトカインを阻害することで,線維筋痛症の疼痛改善に有効であることなどなんら実証されていない。
【0008】
ワイス株式会社,エンブレル皮下注射用25mg,医薬品インタビューフォーム,2007年,第6版,1-57(下記非特許文献3)には,エタネルセプトがTNFα阻害活性を有すること,エタネルセプトがリウマチにおける炎症依存的な痛み等の治療に効果を有すること,及び,エタネルセプトを含有する注射用製剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開WO2008−041751号パンフレット
【特許文献2】国際公開WO2007−052125号パンフレット
【特許文献3】国際公開WO2009−139470号パンフレット
【特許文献4】特許2721745号
【特許文献5】特許2728968号
【特許文献6】特許第2960039号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】エンブレル(登録商標)皮下注射用の添付文書
【非特許文献2】ORTEGA,E. et al,Aquatic exercise improvesthe monocyte pro- and anti -inflammatory cytokineproduction balance in fibromyalgia patients,Scand J MedSci Sports,2010年,Vol.1193, No.1,p.1-9
【非特許文献3】.ワイス株式会社,エンブレル皮下注射用25mg,医薬品インタビューフォーム,2007年,第6版,1-57
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は,線維筋痛症の治療に有効な医薬を提供することを目的とする。本発明は,腱附着部炎型の線維筋痛症の治療に有効な医薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は,基本的には,エタネルセプトを線維筋痛症に罹患した患者に投与したところ,症状に改善が見られたという実験に基づくものである。
【0013】
すなわち,本発明は,エタネルセプトを含む線維筋痛症の治療剤に関する。この治療剤は,有効成分としてのエタネルセプトを有効量含む。
【0014】
本発明は,線維筋痛症の治療において用いられるエタネルセプトを有効成分として含む医薬をも提供する。この医薬は,有効成分と薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物であってもよい。また本発明は,エタネルセプトを有効成分として含む医薬をヒト又はヒト以外の哺乳動物に投与することによる線維筋痛症の治療方法をも提供する。
【0015】
実施例における剤型が注射剤であったことから,本発明の治療剤は,注射剤であることが好ましい。また,実施例により実証された通り,本発明の治療剤は,リウマチ(特に関節リウマチ)に罹患していない患者の線維筋痛症の治療に有効であった。よって,本発明は,リウマチ(特に関節リウマチ)に罹患していない患者に,エタネルセプトを有効成分として含む医薬を投与することによる線維筋痛症の治療方法をも提供する。
【0016】
本発明は,特に,線維筋痛症に伴う,易疲労感,睡眠障害,体温異常,手足の冷感,手足のしびれ感,発汗多過,うつ状態,車酔い,及び生理不順のうちいずれか一つ以上の改善に用いられる治療剤として特に有効である。すなわち,本発明は,エタネルセプトを有効成分として含む医薬を投与することによる,線維筋痛症に伴う,易疲労感,睡眠障害,体温異常,手足の冷感,手足のしびれ感,発汗多過,うつ状態,車酔い,及び生理不順のうちいずれか一つ以上の改善方法をも提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の治療剤は,実施例により実証された通り,エタネルセプトを有効成分として含むため,線維筋痛症の症状を改善できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は,エタネルセプトを有効成分として有効量含む線維筋痛症の治療剤(以下,「本発明の医薬」という)に関する。線維筋痛症単独で発症するものを一時性線維筋痛症(primary fibromyalgia)とよび,他の疾患に伴って発症するものを二次性(secondary)線維筋痛症とよぶ。二次性線維筋痛症の基礎疾患の例は,関節リウマチ,リウマチ性疾患(シェーグレン症候群,全身性エリテマトーデスを含む),間質性膀胱炎,及び変形性関節症である。
【0019】
本発明の医薬は,線維筋痛症の各種症状を緩和できる。本発明の医薬は,線維筋痛症の各種症状のうち,腱附着部炎型の線維筋痛症,筋緊張亢進型の線維筋痛症又はうつ型の線維筋痛症の治療に有効である。
【0020】
本発明の医薬は,特に炎症の改善ではなく,線維筋痛症によって惹き起される各種症状の改善に有効である。したがって,本発明の医薬は,炎症を伴っていない線維筋痛症患者の治療に特に有効である。そのような線維筋痛症の例は,筋緊張亢進型の線維筋痛症又はうつ型の線維筋痛症である。本発明の医薬は,たとえば,線維筋痛症にともなうしびれ,めまい,浮遊感,睡眠障害,不安感,抑うつ,焦燥感,集中力低下,健忘,睡眠時無呼吸,及び意識障害の改善に有効である。また,後述する実施例により示された通り,本発明の医薬は,線維筋痛症と関連した,易疲労感,睡眠障害,体温異常,手足の冷感,手足のしびれ感,発汗多過,うつ状態,車酔い,及び生理不順の改善に特に有効であった。したがって,本発明の医薬は,線維筋痛症に伴うこれらの少なくとも一つ以上の症状の改善に有効である。
【0021】
エタネルセプトは,エンブレル(登録商標)として既に市販されている。よって,本発明の医薬の有効成分であるエタネルセプトは公知である。また,本発明の医薬は,公知の技術を用いて製剤化できる。また,本発明の医薬は,エンブレル(登録商標)と同様の薬剤であってもよい。
【0022】
エタネルセプトは,特許第2960039号に開示された遺伝子組換TNF−Rタンパク質である。エタネルセプトは,特許第2960039号に開示された方法に従って製造できる。エタネルセプトは,467個のアミノ酸を含む単量体が2量化して934個のアミノ酸を含むポリペプチドである(以下,「本発明のペプチド」ともよぶ。)。なお,本発明の医薬の有効成分は,本発明のペプチドから1又は数個のアミノ酸が欠失,置換,挿入,又は付加したポリペプチドであって,線維筋痛症の治療効果を発揮するものを用いてもよい。また,本発明の医薬の有効成分は,本発明のペプチドの薬学的に許容される塩であってもよい。また,本発明の医薬の有効成分は,本発明のペプチドと他の物質との結合物であってもよい。
【0023】
本発明の医薬の製剤形態(剤型)は,有効成分を患部に到達させ得る形態であれば公知の剤型を採用できる。本発明の医薬の剤型の例は,経口剤及び注射剤である。本発明の医薬は,固形剤でも液剤でもよい。経口剤の例は,錠剤である。錠剤は,有効成分を含む原料を打錠機で加圧することで製造できる。注射剤の場合,注射用水,糖アルコール(たとえば,D−マンニトール),有機アミン(たとえば,トロメタモール)及び緩衝剤(たとえば,塩酸)を含んでもよい。本発明の医薬は,薬学的に許容される担体を含んでいてもよい。薬学的に許容される担体の例は,徐放性担体,糖類,糖アルコール及び水である。本発明の医薬は,薬学的に許容される添加剤を含んでもよい。薬学的に許容される添加剤の例は,賦形剤,希釈剤,増量剤,崩壊剤,安定剤,保存剤,緩衝剤,乳化剤,芳香剤,着色剤,甘味剤,粘稠剤,矯味剤,溶解補助剤,コーティング剤,及び結合剤である。
【0024】
本発明の医薬の投与量は,例えば,投与経路,患者の年齢及び体重を考慮して決定できる。本発明の医薬の投与量は経口薬剤であれば,一日あたりのエタネルセプト量として,例えば,10mg以上10g以下である。本発明の医薬の投与量は注射剤の場合,1回あたりの投与量の例は,1mg以上100mg以下であり,5mg以上50mg以下でもよい。
【0025】
本発明における線維筋痛症状の症状及び治療効果は,J−FIQ(日本版FIQ;Fibromyalgia Impact Questionaive)に基づいて判定すればよい(厚生労働研究班「線維筋痛症診察ガイドライン2009」財団法人日本リウマチ財団2010年3月31日発行58頁参照)。
【実施例1】
【0026】
エタネルセプトによる線維筋痛症の治療(投与量10mg)
線維筋痛症と診断された患者A(62歳,女性,診察開始時のJFIQスコア48.9),患者B(38歳,男性,圧痛点右半身,診察開始時のJFIQスコア81.8),患者C(49歳,女性,圧痛点5点,診察開始時のJFIQスコア78.7)及び患者D(59歳,女性,圧痛点4点,診察開始時のJFIQスコア56.6)に,市販のエタネルセプト製剤であるエンブレル(登録商標)を皮下注射することにより,投与して,経過を観察した。なお,これらの患者は,リウマチには罹患していなかった。これらの患者へのエタネルセプトの投与量は,10mgであった。
【0027】
エンブレル(登録商標)を1度投与した後,4週間経過後に再度JFIQスコアを測定した。その結果,患者A,患者B,患者C及び患者DのJFIQスコアは,それぞれ16.9,31.8,46.7及び27.0であった。表1は,これらの患者のJFIQスコアの変化をまとめた表である。
【0028】
【表1】

【0029】
表1に示されるように,エタネルセプトを投与された患者には,線維筋痛症について明らかに改善がみられた。線維筋痛症には,関節リウマチやシェーグレン症候群を含めリウマチを伴う場合がある。しかしながら,これらの患者はリウマチには罹患していない。したがって,本実験により,エタネルセプトは,リウマチを伴う線維筋痛症以外の線維筋痛症の治療にも有効であることが明らかとなった。
【0030】
特にJJFIQスコアの改善は,易疲労感,睡眠障害,体温異常,手足の冷感,手足のしびれ感,発汗多過,うつ状態,車酔い,及び生理不順の改善によるところが大きかった。このため,本発明の医薬は,これらの改善に有効であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は,線維筋痛症の治療剤として,製薬業界において利用されうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタネルセプトを有効成分として有効量含む線維筋痛症の治療剤。
【請求項2】
注射剤である,請求項1に記載の線維筋痛症の治療剤。
【請求項3】
前記線維筋痛症が,リウマチに罹患していない患者の線維筋痛症である,請求項1に記載の線維筋痛症の治療剤。
【請求項4】
請求項1に記載の線維筋痛症の治療剤であって,
線維筋痛症に伴う易疲労感,睡眠障害,体温異常,手足の冷感,手足のしびれ感,発汗多過,うつ状態,車酔い,及び生理不順のうちいずれか一つ以上の改善に用いられる治療剤。

【公開番号】特開2012−31136(P2012−31136A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101672(P2011−101672)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(510028143)AXIS株式会社 (4)
【Fターム(参考)】