説明

エタノールの生成方法

【課題】有機物質中に比較的多く含まれるセルロース、へミセルロース、リグニン等を利用でき、二酸化炭素、硫酸化合物や窒素化合物などを大気圏や水中に放出することのないようなエタノールの生成方法を提供する。
【解決手段】有機物質を準備する第1の工程;並びに、好気性条件もしくは嫌気性条件下で、アルコール生成能を有する真菌、ザイモモナス菌及びへテロ型乳酸菌からなる群より選択される一種以上を用いてエタノール発酵を行うことにより、前記有機物質からエタノールを抽出し、肥料前駆成分を得る段階(a)と、好気性条件下で、前記肥料前駆成分を微生物に分解させることにより、有機物質を得るとともに、場合によりエタノールを抽出しうる段階(b)と、微生物の同化作用によって無機物質から有機物質を得るとともに、場合によりエタノール抽出しうる段階(c)と、からなる群より選択されるいずれか2種以上の段階を1回以上有する、第2の工程;を含む、エタノールの生成方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エタノールの生成方法に関する。より詳細には、本発明は、有機廃棄物質より化学的、微生物学的処理サイクルを用いてエタノールを抽出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、生ゴミ、動物排泄物、廃棄木材や落葉などからなる家庭廃棄物質または産業廃棄物質など(以下、「有機物質」ともいう)の再利用は、有機物質のうちのごく一部の成分を肥料とする程度に留まっている。そして、前記有機物質の大部分は、焼却廃棄や埋立て廃棄などの手法により廃棄されている。そこで、生ゴミからエタノールを生産する方法として、生ゴミからのエタノール生産法(特許文献1)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−1590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されている発明は、生ゴミ中の澱粉質を利用しエタノールを抽出するものであり、有機物質中に比較的多く含まれるセルロース、へミセルロース、リグニン等を利用、すなわち分解できない。また、かかる発明は糖化酵素を要求し、エタノール抽出後の残渣(残余物質)は破棄するものである。焼却廃棄は、一般にその段階中で重油などの燃料を別途必要とし、資源を濫用するとともに、二酸化炭素、硫酸化合物や窒素化合物などを大気圏や水中に放出することになるため、地球環境破壊の一因となっている。さらに、埋め立てによる処理も悪臭問題、立地の確保、水循環に対する汚染、微生物による疫学的衛生問題など、数多くの問題を抱えている。
【0005】
そこで本発明の目的は、有機物質中に比較的多く含まれるセルロース、へミセルロース、リグニン等を利用でき、二酸化炭素、硫酸化合物や窒素化合物などを大気圏や水中に放出することのないようなエタノールの生成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、微生物による上記有機物質の同化作用及び異化作用を主体とすることにより、エタノールの生成段階において従来大量に使用されている重油をはじめとする化石資源などの有効資源の濫用を極力避けつつ、有効な資源であるエタノールを効率的に抽出できることを見出した。さらに、エタノールの生成に伴って得られる副生物を肥料などに加工しうるとともに、二酸化炭素を微生物に同化させることにより、環境問題の解決、特に産業廃棄物及び二酸化炭素の有効利用による減少を工業レベルで達成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、上記目的を達成するための本発明は、有機物質を準備する第1の工程;並びに、好気性条件もしくは嫌気性条件下で、アルコール生成能を有する真菌、ザイモモナス菌及びへテロ型乳酸菌からなる群より選択される一種以上を用いてエタノール発酵を行うことにより、前記有機物質からエタノールを抽出し、肥料前駆成分を得る段階(a)と、好気性条件もしくは嫌気性条件下で、前記肥料前駆成分を微生物に分解させることにより、有機物質を得るとともに、場合によりエタノールを抽出しうる段階(b)と、微生物の同化作用によって無機物質から有機物質を得るとともに、場合によりエタノール抽出しうる段階(c)と、からなる群より選択されるいずれか2種以上の段階を1回以上有する、第2の工程;を含む、エタノールの生成方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、生ゴミ、動物排泄物、廃棄木材や落葉などからなる家庭廃棄物質または産業廃棄物質などを原材料として、中間の段階で発生する残渣(残余物質)や二酸化炭素なども含めて微生物に利用(資化、分解)させることにより、エタノール及び肥料を生成することができる。これにより、二酸化炭素及び産業廃棄物などを顕著に減少させることができ、さらに水汚染や大気汚染に対しても有意な防止効果を発揮でき、環境問題に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の方法における各工程を示した概略的なフローチャートである。
【図2】本発明による第1工程のうち、藍色細菌を用いてアンモニウムイオンを有機物質中に固定させるために用いられる装置の概略図である。
【図3】本発明による第1工程のうち、嫌気性の光合成細菌を用いてアンモニウムイオンを有機物質中に固定させるために用いられる装置の概略図である。
【図4】本発明による第1工程のうち、炭酸水素カルシウムなどの固体状成分を用いて、アンモニウムイオンを有機物質中に固定させるために用いられる容器の概略図である。
【図5】本発明による第1工程のうち、塩酸などの液体状成分を用いて、アンモニウムイオンを有機物質中に固定させるために用いられる容器の概略図である。
【図6】本発明による第1工程のうち、二酸化炭素などの気体状成分を用いて、アンモニウムイオンを有機物質中に固定させるために用いられる容器の概略図である。
【図7】本発明による第1のサイクル中の段階(a)であって、嫌気性条件下でエタノール発酵を行うための装置の概略図である。
【図8】本発明による第1のサイクル中の段階(b)であって、好気性条件下で段階(a)において資化されなかった残渣から、微生物の分解作用によりエタノールを抽出するために用いられる装置の概略図である。
【図9】本発明による第2のサイクル中の段階(c)であって、好気性及び嫌気性のいずれの条件下でも利用可能な装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、有機物質を準備する第1の工程;並びに、好気性条件もしくは嫌気性条件下で、アルコール生成能を有する真菌、ザイモモナス菌及びへテロ型乳酸菌からなる群より選択される一種以上を用いてエタノール発酵を行うことにより、前記有機物質からエタノールを抽出し、肥料前駆成分を得る段階(a)と、好気性条件もしくは嫌気性条件下で、前記肥料前駆成分を微生物に分解させることにより、有機物質を得るとともに、場合によりエタノールを抽出しうる段階(b)と、微生物の同化作用によって無機物質から有機物質を得るとともに、場合によりエタノール抽出しうる段階(c)と、からなる群より選択されるいずれか2種以上の段階を1回以上有する、第2の工程;を含む、エタノールの生成方法である。
【0011】
本発明は、生ゴミ、動物排泄物、廃棄木材や落葉などからなる家庭廃棄物質または産業廃棄物質など、すなわち「有機物質」からのエタノール抽出を本質的な特徴とする。そして、かかる有機物質を原材料として用い、微生物学的処理サイクルの段階を設け、前記段階を適宜循環させつつ、その循環段階中にセルロース、へミセルロース、リグニン等を含む高分子有機化合物を分解しつつ適宜エタノールを抽出するとともに、最終物質を肥料として利用可能とすることを特徴とする。したがって、本発明に係る方法は、廃棄物質からエタノールを効率的に抽出することを第一の特徴とし、その段階中に有機物質を循環させるサイクルを有しうることを第二の特徴とし、エタノール抽出の際に発生する副生物を産業廃棄物として廃棄することなく、肥料として再利用しうることを第三の特徴とする。
【0012】
本発明は主に、上記第1工程及び第2工程に大別される。そして、所望により第3の工程をさらに設けてもよく、該工程によって、微生物を用いて、前記段階(a)で得られる前記肥料前駆成分から肥料を生成することも可能である。以下、各工程について、添付した図面、特に図1を参照しつつ、本発明を適用した最良の実施形態を説明する。図1は、本発明に係るエタノールの生成方法における各工程及び後述する段階を示したフローチャートである。なお、必要な場合には、上記のいずれか一以上の工程(または後述する段階)において、1回以上の加熱殺菌、酸もしくはアルカリ投与による菌増殖の阻止、または滅菌処理などを行ってもよい。また、有機物質が容積の大きな固形物を含む場合には、処理速度を大きくするために粉砕または細断するのが通常である。しかし、本発明においては必須の処理工程ではないため、本発明に係る方法の実施に要するエネルギーを有意に節約することができうる。
【0013】
なお、本明細書で挙げられる微生物の分類(門、目、属、種など)については、本願の出願時における分類に従って記載している。将来において、かかる微生物の分類が変更になった場合には、変更後の分類もまた、本発明の範囲に含まれる。
【0014】
[第1工程]
本発明の第1工程(有機物質を準備する工程)は、有機物質の種類や組成によっては本工程における下記の操作の一部または全部を省略してもよい。すなわち、単に有機物質を後工程のために「用意」するだけであってもよい(以下、「未処理の有機物質」ともいう)。具体的には、有機化合物が比較的低分子である場合には、次工程の段階(b)にそのまま進んでもよい。
【0015】
一方、有機物質が高分子の有機化合物を含む場合には、かかる有機物質を「前処理」しておくことが必要となりうる。前記有機物質中の前記高分子の有機化合物の含有率は、有機化合物の種類によって様々であり、特に限定されることはない
前記高分子の有機化合物を含む有機物質として、以下に限定されることはないが、例えば植物、動物排泄物、生ゴミまたは鉱物などが挙げられる。前記植物の例として枯葉、木材、紙などが挙げられ、前記動物排泄物の例として鶏糞や馬糞などが挙げられる。なかでも、後述する微生物群が好適に利用(資化)できるという観点より、鶏糞などの動物排泄物が好ましい。具体的にいえば、前記有機物質が、好ましくはセルロースを構成する2分子のグルコースからなる二糖類の分子量より大きな高分子有機化合物、より好ましくはオリゴ糖の分子量より大きな高分子有機化合物を含む場合には、微生物及び/または二酸化炭素、酸溶液もしくは酸性塩溶液を用いてアンモニウムイオンを前記高分子有機化合物中に固定し、場合によってpHを調節した後、麹菌及び/または麹菌由来の酵素を用いて前記高分子有機化合物を分解することを含むのが好ましい。また、第1工程である前処理を行うことにより、例えば、有機物質が微生物によって汚染されているような場合であっても、腐敗を防止し、アンモニアや有機ガス等の状態で、エタノール生成に必要となる水素、酸素及び炭素が大気中へ放出することを防ぐこと、並びに、反応に必要な自由エネルギーを反応系中に保存することができる。
【0016】
このようにして、本工程は、第2の工程に必要な物質(元素やイオン等)、並びに自由エネルギーの確保及び第2工程に必要な環境条件を整えることを目的とする。以下、より具体的に、上記の好ましい前処理について詳細に説明する。
【0017】
1.アンモニウムイオンの有機物質中への固定化、及び腐敗菌の不活性化
一般に、有機物質は微生物学的に汚染されていることが多いため、腐敗によってアンモニアガスや有機ガス等が発生し易い環境にある。本過程は、アンモニウムイオンを有機物質中に固定すると共に、腐敗菌を不活性化させることによって腐敗菌による有機ガスの発生を防止することを目的とする。なお、以下の(1)微生物学的方法及び(2)化学的方法は、いずれか一方のみにより前処理を施してもよいし、両方により前処理を施してもよい。
【0018】
(1)微生物学的方法
微生物を用いてアンモニウムイオンを前記高分子有機化合物中に固定することができる。前記微生物は、窒素同化作用を有する光合成細菌であることが好ましい。なかでも、アンモニア及び尿酸を同化可能な菌株であることがより好ましい。このような光合成細菌としては、特に限定されることはないが、例えば、藍色細菌、紅色光合成細菌、紅色硫黄細菌、緑色硫黄細菌、糸状光合成細菌(緑色非硫黄細菌)及びヘリオバクテリアからなる群より選択される1種以上の細菌が挙げられる。その際、有機物質における水分含有率などの条件に応じて、1種単独または2種以上を併用することができる。上記した菌の培養条件については、藍色細菌など好気性細菌の場合には好気性条件、及びその他の嫌気性細菌の場合には嫌気性条件とする必要がある。具体的な好気性条件または嫌気性条件、すなわち温度やpHなどについては、使用する菌の種類によって様々であると共に、当業者であれば適宜、適切な条件の設定が可能であるため、ここでは特に制限されることはない。
【0019】
光合成細菌に光合成を好適に行わせるため、非遮光容器または建造物中に有機物質を収納し、前記光合成細菌を前記有機物質中に投入してもよい。藍色細菌など好気性の光合成細菌を用いる場合には、有機物質中に必要量の酸素(空気を含む酸素含有気体または純酸素)が供給可能となるように非遮光容器または建造物を利用し、必要により攪拌装置を併設してもよい。このような装置の例を図2に示す。
【0020】
図2に示された一例としての装置は、好気性の光合成細菌を用いて非遮光下で空気などを供給しつつ、有機物質中に酸素を供給し、アンモニア固定を行わせることができる構成となっている。図2に示された一例としての装置は、ガラス等製の透明固形体1、逆流防止弁3、ダクト4、空気をダクト4に供給するためのコンプレッサー5、及び開放式の投入口6を備える。装置の壁面を透明(透明固形体1)としたのは、好気性の光合成細菌などが効率良く光合成を行うことができるようにするためである。投入口6から有機物質、好気性の光合成細菌、及び必要な栄養培地などを投入することができる。これらが投入されてなる培養液2へ、コンプレッサー5により、ダクト4を通じて空気を供給することができ、好気性条件を所定の範囲内で調整しながらアンモニア固定を行わせることができる。また、このように空気を液中に供給することにより、装置中の培養液2が攪拌されるという利点も有する。なお、次過程への移送経路(配管)については、図2に示された一例としての装置中では表示を省略しているが、任意の場所に設置させることができる。
【0021】
一方、主に藍色細菌以外の光合成細菌を用いる場合には、これらの菌は一般に嫌気性であることが多いため、内部に有機物質を収納可能な非遮光容器または建造物を利用し、必要により攪拌装置を併設してもよい。このような装置の例を図3に示す。
【0022】
図3に示された一例としての装置は、嫌気性の光合成細菌を用いて非遮光下でアンモニウムイオンを有機物質中に固定させることができる構成となっている。図3に示された一例としての装置は、ガラス等製の透明固形体7、逆流防止弁付きの注入口9、逆流防止弁付きのガス排出口10、攪拌用シャフト11、及び残渣排出口12を備える。装置の壁面を透明(透明固形体7)としたのは、光合成細菌などが効率良く光合成を行うことができるようにするためである。注入口9から有機物質、微生物(嫌気性細菌)、及び必要な栄養培地などを投入することができる。これらが投入されてなる培養液8を攪拌用シャフト11で攪拌しつつ、アンモニア固定を行わせるが、その際に発生するガス、及び微生物に利用(資化)されない残渣についてはそれぞれ、逆流防止弁付きのガス排出口10、及び残渣排出口12を通じて排出され、次工程へ移送される。そのため、アンモニア固定を効率良く行わせることができるとともに、残渣が効果的に排除して、有機物質、微生物(嫌気性細菌)、及び必要な栄養培地を逐次的に供給できるという利点がある。このようにして、好気性条件を所定の範囲内で調整しながらアンモニア固定を行わせることができる。なお、攪拌速度については、装置の容量などによって異なり、当業者であれば適宜調節することができるため、ここでは特に制限されることはない。なお、図には示していないが、残渣排出口12の入口(装置側)には開閉バルブ(シャッター)が設けられている。
【0023】
さらに、アンモニア固定(アンモニウムイオンの有機物質中への固定)後、腐敗菌の不活性化、及び後述の「2.」を実行する前に、あらかじめ酸溶液または酸性塩溶液を投入しておき、有機物質(前処理後の有機物質)を弱酸性に調整しておくことが好ましい。前記酸溶液または酸性塩溶液に用いられる酸または酸性塩の具体例については、後述の「(2)」で挙げるものと同様である。
【0024】
さらに、光合成細菌の代わりに、例えば、特開2002−335952号公報に開示されている酵母が参照により本願に引用されうる。また、一般に、光合成細菌は、酸性環境を好む菌が多いため、酸溶液または水中で酸性塩を投入し、前処理後の有機物質を弱酸性に保った後、光合成細菌を投入することもできる。ただし、例えば、特開2005−168508号公報に開示されているような、塩基性下で機能を発揮する光合成細菌を使用することも場合によってはありうることである。かかる場合に、原材料用の細菌を弱酸性下に置くことは不利となりうるので、あらかじめ塩基性溶液または塩基性塩溶液を投入しておき、有機物質(前処理後の有機物質)を弱塩基性に調整しておくとよい。
【0025】
(2)化学的方法
酸性や塩基性の溶液などを用いてアンモニウムイオンを前記高分子有機化合物中に固定できる。前記有機物質中でのアンモニアは、アンモニア、アンモニウムイオンまたは錯イオン、あるいはこれらの塩もしくは化合物の形態で存在している。これらのアンモニアに対して、二酸化炭素、酸もしくは酸性塩の化合物、塩基性もしくは塩基性塩の化合物、またはそれらのイオン化合物を前記有機物質に投入することによって、アンモニアの気化蒸発を防止することができる。このような観点より、アンモニウム塩とアンモニウムイオンとの間で化学平衡状態を作り出すことのできる化合物またはそのイオンを使用することが好ましい。具体的には、炭酸、リン酸、塩酸、硝酸、硫酸、有機酸、亜硫酸、亜硝酸、酸性及び塩基性アミノ酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、炭酸カリウムまたはリン酸カリウムなどが挙げられる。なかでも固体状の炭酸水素カルシウムを用いることがより好ましい。炭酸水素カルシウムなどの固体状成分を用いた場合の容器(構造物)の例を図4に示し、塩酸などの液体状成分を用いた場合の容器(構造物)の例を図5に示す。また、二酸化炭素などの気体状成分を用いた容器(構造物)の例を図6に示す。前記酸性塩化合物またはそのイオンは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、投入後の有機物質(前処理後の有機物質)は複雑な緩衝溶液系に含まれることとなる。前記緩衝溶液系を概説すると、内部に存在する陽イオン及び/または陰イオンが主体となり、さらにそれらがイオン結合した塩もしくは錯イオン、または、錯イオンとイオンもしくは錯イオンとが結合した塩よりなる。
【0026】
前記陽イオンとして、以下に限定されることはないが、例えばナトリウムイオン、カリウムイオン、水素イオンもしくはカルシウムイオン等が挙げられる。一方、前記陰イオンとして、以下に限定されることはないが、例えば塩素イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオンもしくは炭酸イオン等が挙げられる。
【0027】
以下、図4〜図6に示された一例としての装置について説明する。まず、図4に示された一例としての装置は、コンクリート等製の外壁13、攪拌用シャフト15、及び開放式の投入口16を備える。かかる装置の投入口16から有機物質、炭酸水素カルシウムなどの固体状成分及び水などを投入し、有機物質及び固体状成分の混合溶液14とする。混合溶液14の調製手段としては、特に制限されることはないが、酸溶液の生成過程で発熱しうるため、0℃を越えて14℃程度まで(好ましくは0℃を越えて10℃程度まで)の水などをあらかじめ投入しておき、攪拌用シャフト15で攪拌しながら固体状成分を少しずつ投入することが好ましい。また、温度を確認しながら、固体状成分と水とを同時に投入することも好ましい。固体状成分の使用割合は、腐敗を効果的に防止する観点より、混合溶液14の全質量に対して、20〜30質量%であることが好ましい。また、有機物質の使用割合は、特に限定されることはないが、混合溶液14の全質量に対して、50〜80質量%であることが好ましく、55〜65質量%であることがより好ましい。なお、次過程への移送経路(配管)については、図4に示された一例としての装置中では表示を省略しているが、任意の場所に設置させることができる。
【0028】
次に、図5に示された一例としての装置は、ジュラルミン等製の外壁17、脱気弁19、酸溶液が通過する配管20、酸(液体状成分)溶液の液体注入口21、支柱22、及び残渣排出口23を備える。天蓋(図中に付号なし)を開けて上部から投入された有機物質、及び液体注入口21から投入された酸溶液からなる混合溶液18を静置させることにより、アンモニウムイオンが有機物質中に固定される。その際に発生するガス、及び不要な残渣についてはそれぞれ、脱気弁19、及び残渣排出口23を通じて排出され、次過程へ移送される。そのため、アンモニア固定を効率良く行わせることができるとともに、残渣が効果的に排除して、有機物質及び新鮮な酸溶液を逐次的に供給できるという利点がある。前記酸溶液中の液体状成分の使用割合は、特に限定されない。
【0029】
次に、図6に示された一例としての装置は、ジュラルミン等製の外壁24、有機物質の投入口26、残渣の排出口27、逆流防止弁28、及び二酸化炭素などの気体状成分30の気体注入用ダクト29を備える。投入された有機物質及び二酸化炭素酸溶液からなる混合溶液25により、炭酸イオンが有機物質中に固定される。その際、二酸化炭素を逐次的に混合溶液25へ供給することにより、一種の攪拌効果が生じうる。また、不要となった残渣については、排出口27を通じて排出され、次過程へ移送される。そのため、炭素固定を効率良く行わせることができるとともに、残渣が効果的に排除して、有機物質及び新鮮な酸溶液を逐次的に供給できるという利点がある。前記気体状成分の使用割合は、特に限定されない。
【0030】
2.麹菌及び/または麹菌由来の酵素を用いた、前記高分子有機化合物の分解
本明細書における「麹菌」とは、アスペルギウス属、モナスカス属(紅麹菌など)、リゾープス属(テンペ等)、ノイロスポア属(オンジョム等)、及び麦芽を意味する。麹菌を上記した前処理後の有機物質に直接加えてもよいし、または麹菌を繁殖させた、主に有機物からなる物質を前記前処理後の有機物質に加えてもよい。後者の場合、麹菌は生存していても生存していなくてもよい。さらに、麹菌より抽出した麹菌由来の酵素を使用してもよい。
【0031】
場合によっては、麹菌に必要な環境を整えてもよい。その際、例えば、水分含有量の調節を目的として、前処理後の有機物質に水分含有率の低い有機物質、例えばバーク材や落葉などを任意に加えてもよい。このように、麹菌を用いて、セルロース、へミセルロース、リグニン、澱粉及び蛋白質などの高分子有機化合物を低分子の糖類などに分解させた後、後述の第2工程に進むことができる。
【0032】
なお、上述した手法以外の手法によって、高分子有機化合物を前処理してもよい。例えば、前処理として酵素処理が用いられてもよい。具体的には、例えば、α−アミラーゼ(EC3.2.1.1)、β−アミラーゼ(EC3.2.1.2)、アミログルコシダーゼ(EC3.2.1.3)などを用いた前処理を行うと、有機物質中に含まれている高分子有機化合物である澱粉が、より低分子のスクロースなどのオリゴ糖やグルコースなどの単糖へと分解されうる。なお、これらの酵素処理の具体的な形態について特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。また、上述した酵素は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0033】
さらに、後述する第2工程の前に、上述したような前処理を実施するか否かにかかわらず、当初準備した有機物質に対して、乾燥・粉砕等の処理を別途施してもよい。これらの処理の具体的な形態についても特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。
【0034】
[第2工程]
本工程は、様々な実施形態がありうる。
【0035】
本発明の一実施形態は、段階(a)と段階(b)と段階(c)とからなる群より選択されるいずれか2種以上の段階を1回以上有し、前記選択された段階のうち任意の2種の段階を1回以上反復して行うことを特徴とする。このような任意の2種の段階を1回以上反復して行う過程を、本明細書において「サイクル」と称することもある。
【0036】
前記サイクルとしては、いくつかの種類が挙げられる。すなわち、前記段階(a)及び前記段階(b)からなるサイクル経路(以下、「第1のサイクル」とも称する)、前記段階(a)及び前記段階(c)からなるサイクル経路(以下、「第2のサイクル」とも称する)、並びに前記段階(b)及び前記段階(c)からなるサイクル経路である(以下、「第3のサイクル」とも称する)。
【0037】
なかでも、前記段階(a)及び前記段階(b)を1回以上反復して行うことが好ましい。その際、所望により、前記段階(a)及び前記段階(c)、並びに/または前記段階(b)及び前記段階(c)を1回以上反復して行ってもよい。より好ましくは、前記段階(a)及び前記段階(b)を1回以上反復して行い、且つ前記段階(a)及び前記段階(c)を1回以上反復して行う。また、前記段階(a)及び前記段階(b)を1回以上反復して行い、且つ前記段階(b)及び前記段階(c)を1回以上反復して行うこともより好ましい。特に好ましくは、前記段階(a)及び前記段階(b)、前記段階(a)及び前記段階(c)、且つ前記段階(b)及び前記段階(c)を1回以上反復して行うことである。これらのサイクルは、互いに独立的に機能してもよいし、複数のサイクルが従属的に(同時に)機能してもよい。特に、上記サイクルが2種以上存在するような第2工程の場合には、効率化の観点より、これらのサイクルが従属的に機能することが好ましい。なお、サイクル経路に属さない段階については、1回終了型の「直線状」経路でありうる。
【0038】
また、本発明の他の実施形態は、段階(a)と段階(b)とを含み、段階(a)及び段階(b)を1回以上反復して行うことを特徴とする。本実施形態においては、段階(a)及び段階(b)のサイクル経路を含んでいればよく、第2工程中、他に存在しうる段階については何ら制限されることはない。所望により任意の段階を付加してもよい。
【0039】
また、本発明の他の実施形態は、段階(a)と段階(b)と段階(c)とからなる群より選択される1種以上の段階を有し、該段階を2回以上行うことを特徴とする。本実施形態においては、段階(a)、段階(b)及び段階(c)はサイクル経路を有していてもよいし、全く有していなくてもよい。サイクル経路を全く有していなくてもよい場合には、1回終了型の「直線状」経路のみからなりうる。第2工程中、他に存在しうる段階については何ら制限されることはない。所望により任意の段階を付加してもよい。
【0040】
なお、上記の各段階に用いられる微生物は、サイクルの初発にのみ投入されてもよく、サイクルの継続中、すなわち中途の過程でさらに投入されてもよい。
【0041】
以下、上記した3種類のサイクルについて、構成する段階を説明しつつ詳細に説明する。
【0042】
<第1のサイクル>
本サイクルは、好気性条件もしくは嫌気性条件下で、アルコール生成能を有する真菌、ザイモモナス菌及びへテロ型乳酸菌からなる群より選択される一種以上を用いてエタノール発酵を行うことにより、前記有機物質からエタノールを抽出し、肥料前駆成分を得る段階(a)と、好気性条件もしくは嫌気性条件下で、前記肥料前駆成分を微生物に分解させることにより、有機物質を得るとともに、場合によりエタノールを抽出しうる段階(b)と、を反復して行う段階である。
【0043】
本サイクルは、本発明の生成方法において中心的な部分を構成しうる。概略についていえば、上記段階(a)と段階(b)とからなる環状の反応経路であって、前記反応経路を用いて微生物学的なエタノール抽出処理が行われる。なお、エタノールの抽出に伴い、微生物による異化反応は、より段階(b)側にシフトすることとなりうるが、段階(b)の処理中にエタノール抽出を行うこともありうる。さらに、エタノール抽出は、段階(b)終了後で段階(a)開始前もありうる。また、本段階は通常、段階(a)から開始されるが、場合によっては段階(b)から開始してもよい。さらに、後述のように、段階(a)及び段階(b)は共に、好気性条件及び嫌気性条件のいずれのパターンも採りうるため、計4パターンが存在しうる。以下、段階(a)及び段階(b)について詳細に説明する。
【0044】
1.段階(a)
段階(a)を実行するための装置の例を図7に示す。当該装置中で、アルコール生成能を有する真菌、ザイモモナス菌及びへテロ型乳酸菌からなる群より選択される一種以上を投入し、適宜必要により攪拌を加えながら、エタノール発酵を行わせることにより、有機物質(未処理及び/または前処理後)からエタノールを抽出する。段階(a)において用いられる真菌は、エタノール発酵を行うことのできる菌であれば特に制限されることはないが、酵母及びRhizopus oryzaeよりなる群から選択される1種以上であることが好ましい。酵母の属としては、エタノール発酵を効率的に行えるという点より、Saccharomyces属、Candida属、Zygosaccharomyces属、Schizosaccharomyces属、Kluyveromyces属、Pastoris属、Saccharomycopsi属、Pastoris属、Pachysolen属などが挙げられる。より具体的には、サッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)、Saccharomyces exiguous、Kluyveromyces lactis、Kluyveromyces fragilis、Zygosaccharomyces rouxii、Schizosaccharomyces japonicus、Schizosaccharomyces optosporus、Schizosaccharomyces pombe、Pastoris Pichia、Candida albicansが好ましい。なお、アルコール生成能を有する酵母は、一般には嫌気性菌(通性嫌気性菌、偏性嫌気性菌)である。また、へテロ型乳酸菌としては、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus.reuteri)(好気性菌)、及びラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus.fermentum)(通性嫌気性菌)等が挙げられ、なかでもラクトバチルス・ロイテリが好ましい。また、糸状菌であるRhizopus oryzaeは、好気性菌である。具体的な好気性条件または嫌気性条件については、菌ごとに様々であり、当業者であれば適宜最適条件(温度やpHなど)を設定可能であるため、ここでは説明を省略する。
【0045】
図7に示された一例としての装置は、特に、嫌気性条件下でのエタノール発酵に適している。ジュラルミン等製の嫌気培養装置31、鉄骨構造の台33、逆流防止弁の付いた有機物質(未処理及び/または前処理後)の注入口(ダクト付)34、逆流防止弁の付いた気体排出口(ダクト付)35、残渣が移送される、逆流防止弁の付いたダクト36、ジュラルミン等製の分留槽37、逆流防止弁の付いた気体排出口(ダクト付)38、炉39、及び逆流防止弁の付いた内圧調節用の気体流入口40を備える。有機物質(未処理及び/または前処理後)、並びにアルコール生成能を有する真菌、ザイモモナス菌及びへテロ型乳酸菌からなる群より選択される一種以上を投入して、混合溶液32とし、エタノール発酵を行わせる。なお、好気性条件下でのエタノール発酵を行う場合には、上記装置に別途、酸素などの気体を供給するための気体流入口を設けることが好ましい。また、後述する図8に示すような装置を使用することも好ましい。
【0046】
本段階中で混合溶液32に含まれる有機化合物のうち、低分子化合物は、アルコール生成能を有する真菌、ザイモモナス菌及びへテロ型乳酸菌からなる群より選択される一種以上の微生物の栄養要求に起因してエタノールに変換する結果、減少する。かかる低分子化合物として、単糖類、二糖類、ペプチド、アミノ酸などが挙げられる。
【0047】
その結果、アルコール生成能を有する真菌、ザイモモナス菌及びへテロ型乳酸菌からなる群より選択される一種以上に利用(資化)されずに残る残渣(前記有機物質の一部)については、段階(b)において微生物により分解されることとなる。生成されたエタノールは、段階(a)における蒸発物を回収するか、段階(a)の一回終了後に分留するか、または段階(b)中に蒸発した物を回収する。前記分留については、図7に示すように、気体状のエタノールを気体排出口(ダクト付)35を通じてエタノール分留を行う経路と、嫌気培養装置31中の残渣を、ダクト36を通して分留槽37に一旦貯蔵し、空気、水蒸気、または窒素もしくはアルゴン等の不活性ガス、あるいは二酸化炭素などの気体を内圧調節用の気体流入口40から投入した後にエタノール分留を行う経路とがありうる。かかる気体は、エタノールと反応せず、エタノールと親和性がよいため好適であり、さらに二酸化炭素の場合には原料としての菌にとって有利であるため好ましい。
【0048】
なお、段階(b)に移行する前段階として、必要な場合には、例えば、納豆菌を用いる場合、塩基性化合物(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等)または塩基性塩(例えば炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カルシウム等)を投与し有機物質(未処理及び/または前処理後)のpHを塩基性としておくことが好ましい。工程上、段階(a)を行った装置から段階(b)を行う装置へ移送する場合に、段階(b)における好ましいpHの範囲内にあらかじめ調節しておくためである。一方、酸性下で活性を有する枯草菌を用いる場合には、上記のような前処理は不要となりうる。pHとしては、用いる菌によって異なるため、特に限定されない。なお、移送方法については、単に配管やポンプを介した移送であってもよいし、一旦別の装置に移しておいてから段階(b)を行う装置へと移送してもよい。このうち、一旦別の装置に移しておく手段は、かかる装置においてpHや温度などの調節を行えるという点で好ましい。特に、段階(a)と段階(b)との間で、好気性条件及び嫌気性条件の「切り替え」を行うことを必須とするような場合に、上記の一旦別の装置に移しておく手段は好適なものとなりうる。後述するその他のサイクル間での移送手段についても基本的には同様である。一方で、移送をせずに段階(a)及び段階(b)を同一の装置内で実施することも可能である。その際、場合によっては上記の「切り替え」操作などを行うことにより条件を適宜変えてもよい。
【0049】
また、段階(a)により、エタノール以外に、無機物質、及び異化されなかった(異化反応により分解されなかった)有機物質も得られる。前記無機物質は、アンモニア、窒素化合物、炭素化合物(二酸化炭素など)、リン酸、硫化物、硫化水素、無機酸、無機アルカリ及び無機塩(硫酸塩、亜硫酸塩など)よりなる群から選択される1種以上でありうる。上記した無機物質のほとんどは、外界に排出されると地球環境破壊が進行することが一般に知られており、深刻な問題となっている。しかし、本発明では、このような無機物質を後述する段階(c)において微生物に同化させることにより、外界に放出することなく、かつ、エタノールや後述の肥料を一層大量に得ることができる。かかる点において、本発明は、生ゴミ、動物排泄物、廃棄木材や落葉などからなる家庭廃棄物質または産業廃棄物質などを出発物質として、二酸化炭素や硫化水素などの大気中への排出を防ぎつつ、エタノールを高い収率で生成することができる点で、地球環境の保護などに大いに貢献できるのである。
【0050】
一方、本発明では、従来残渣として廃棄されていたような有機物質を、微生物を用いて肥料にすることもできる。すなわち、上記した異化されなかった(異化反応により分解されなかった)有機物質は、炭水化物(セルロース、ヘミセルロース、リグニン等)、脂質、グリセリン、高級アルコール、脂肪酸、アミノ酸、ペプチド及びタンパク質等が挙げられるが、これらの有機物質は肥料前駆成分となりうる。肥料の生成については、以下の段階(b)において詳述する。なお、次段階への移送経路(配管)については、図7に示された一例としての装置中では表示を省略しているが、任意の場所に設置させることができる。
【0051】
なお、段階(a)と段階(b)とがサイクルとして反復する場合、本段階(a)中に段階(b)で投入された微生物が生きて存在する場合がある。かかる場合には、本段階(a)において、後述の段階(b)で本来行われうる分解反応(異化)が起こりうる。
【0052】
2.段階(b)
段階(b)を実行するための装置の例を図8に示す。好気性条件もしくは嫌気性条件の装置中で、前記段階(a)で用いられた微生物によって資化されなかった残渣をもとに、段階(a)から段階(b)へと移送されてきた生きた酵母によってエタノールが抽出されうる。一方、段階(a)から移動してきた抽出液中の酵母がほぼ死滅しているような場合には、段階(b)でのエタノール抽出はほとんど行われない。なお、本発明における前記残渣は、図1で示したように、段階(b)によって分解される場合と、肥料前駆成分として前記成分から肥料が生成される場合とがある。ここで、前記残渣とは、前記有機物質(前処理後の有機物質)の構成成分の一部に相当する。前記有機物質としては、使用する菌種や環境条件によっても様々であるが、上述の通り、炭水化物(セルロース、ヘミセルロース、リグニン等)、脂質、グリセリン、高級アルコール、脂肪酸、アミノ酸、ペプチド及びタンパク質等が挙げられ、主にセルロース、へミセルロース及びリグニンが挙げられる。また、段階(b)に使用可能な微生物は、好気性菌の中では、偏性好気性菌もしくはラクトバチルス属が好ましい。より具体的には、好気性菌の中で、特にセルロースを分解する微生物として、枯草菌(Bacillus subtilis)、納豆菌(枯草菌の亜種)、ペニシリウム属、グオクラディウム属または木材腐朽菌(褐色腐朽菌、白色腐朽菌や軟腐菌)が好ましい。また、好気性菌の中で、特にリグニンを分解する微生物として、ケトミウム属が好ましい。さらに好ましくはバチルス属であり、特に好ましくは、枯草菌または納豆菌であり、最も好ましくは納豆菌である。一方、嫌気性菌の中で、特にセルロースを分解する微生物として、Clostridium thermocellum、Clostridium cellulovorans、Clostridium josui、Clostridium cellulolyticum、Acetivibrio cellulolyticus、Bacteroices cellulosolvens、Rumonococcus flavefaciensまたはClostridium acetobutylicum、あるいはセルロース分解能を有するツボカビ門(Chitridiomycota)またはTrichoderma reeseiが好ましい。より好ましくは、Clostridium thermocellum、Clostridium cellulovorans、Clostridium josui、Clostridium cellulolyticum、Acetivibrio cellulolyticus、Bacteroices cellulosolvensまたはRumonococcus flavefaciens、あるいはセルロース分解能を有するツボカビ門(Chitridiomycota)である。また、嫌気性菌の中でリグニン分解能を有する微生物(細菌、真菌)もまた、好適に使用できうる。
【0053】
なお、具体的な好気性条件もしくは嫌気性条件については、使用する微生物によって様々であり、当業者であれば適宜最適条件(温度やpHなど)を設定可能であるため、ここでは説明を省略する。
【0054】
図8に示された一例としての装置は、特に、好気性条件下での異化反応に適している。ジュラルミン等製の好気培養層41、逆流防止弁の付いた気体排出口(ダクト付)43、逆流防止弁の付いた気体注入口(ダクト付)44、有機物質(段階(a)で得られた残渣)を含む混合溶液42の注入口(ダクト付)45、気体注入ダクト46、逆流防止弁の付いた酸素、二酸化炭素及び窒素のいずれか1種以上を含む気体注入口47、酸素、二酸化炭素及び窒素のいずれか1種以上を含む気体48を備える。なお、次段階への移送経路(配管)については、図8に示された一例としての装置中では表示を省略しているが、任意の場所に設置させることができる。なお、嫌気性条件下で異化反応を行う場合には、気体注入ダクト46、気体注入口47及び気体48は不要であり、はじめからこれらのパーツを設けていなくてもよい。また、前述した図7に示すような装置を使用することも好ましい。
【0055】
図8に示された一例としての装置において、酸素、二酸化炭素及び窒素のいずれか1種以上を含む気体48を注入しながら混合溶液42を攪拌させるか、または別途の攪拌用シャフトなどを取り付けることによって適宜攪拌しながら、必要な場合には、空気を含む酸素含有気体または純酸素を前記残渣(有機物質)に投入してもよい。かような環境下で、上記した段階(b)で投入される微生物が、段階(a)において異化(分解)されなかったセルロース、へミセルロースやリグニン等を栄養分として異化を進める。ここで、前記微生物が異化により無機物質を大量に作り出す前に、段階(b)に使用される装置をあらかじめ嫌気化(無気化)しておくことで、前記微生物の活動を一時的に不活性化にさせること、換言すれば休止状態とすることができる。なお、段階(b)を実行する前に再度活性化することができうる。次いで、段階(a)用の装置におけるpHを調整しつつ、有機物質(未処理及び/または前処理後)及び段階(b)で得られた低分子有機物を段階(a)に移行させて、段階(a)においてエタノール抽出を再度行う。なお、段階(b)でもエタノール抽出が行われうることは上述した通りである。このように、段階(a)と段階(b)とを反復して行う「サイクル」段階によって、経時的にエタノールを抽出することができる。
【0056】
一般に、段階(b)に使用される微生物が前記残渣を分解する過程において、前記残渣が高温となるため、段階(b)においてエタノールを分留して回収してもよい。
【0057】
有機物質(前処理後の有機物質)のうち、微生物が栄養要求する物質が枯渇した時点で本サイクルは停止する。しかし、かかる場合に、栄養要求する物質が異なる微生物を投入することによって、本サイクルを維持継続することができる。また、微生物に栄養要求されている物質を補給することによっても本サイクルの維持継続が可能となる。
【0058】
また、これまで説明してきた第1のサイクルを効率的に維持継続させる手段として、別途、第2のサイクルを設けることもできる。この第2のサイクルは、第1のサイクルの継続維持が不能となった時点、またはエタノールの抽出量が第1のサイクルを維持させるのに十分な量でなくなった時点で初めて使用してもよい。また、第1のサイクルと第2のサイクルとを同時に機能させてもよい。地球環境の保護の観点などからいえば、第1のサイクルと第2のサイクルとを同時に機能させることが好ましい。以下、第2のサイクルについて詳細に説明する。
【0059】
<第2のサイクル>
本段階は、前記段階(a)と、無機物質を微生物に同化させることにより、前記有機物質を得る段階(c)と、を反復して行う段階である。なお、前記無機物質として、後述するように、例えば、前記段階(a)で得られる無機物質や、自然界に存在する無機物質などが挙げられる。
【0060】
1.段階(a)
段階(a)については上記第1のサイクルにおいて既に詳説したため、ここでは説明を省略する。すなわち、段階(a)は、第1のサイクルと本第2のサイクルの双方に含まれるという特徴を有する。
【0061】
2.段階(c)
段階(c)は、エタノールの抽出に伴って生成された無機物質、すなわち第1のサイクルのうちの段階(a)で用いられる微生物による異化作用によって生じた無機物質を再度同化させ、有機物質を生成する。これにより、得られた有機物質を段階(a)に供給し、上記第1のサイクルの系内に投入することを特徴とする。本段階が存在することにより、二酸化炭素や硫化水素などの大気中への排出を防ぎつつ、エタノールを高い収率で生成することができる点で、地球環境の保護などに大いに貢献できるのである。段階(c)を実行するための装置の例を図9に示す。
【0062】
前記微生物は、好気性菌及び嫌気性菌のいずれであってもよい。別の観点からいえば、独立栄養生物であっても従属栄養生物であってもよい。前記独立栄養生物は、光合成独立栄養生物及び化学合成独立栄養生物に大別され、前記従属栄養生物は、光合成従属栄養生物及び化学合成従属栄養生物に大別される。これらの生物については、従来より公知の真菌や細菌であれば特に限定されない。なお、前記化学合成独立栄養生物としては、無機化合物(硫化水素、アンモニアなど)を酸化してエネルギーを得る、公知の真菌または細菌(独立栄養細菌)が挙げられる。なかでも、光合成細菌、窒素固定細菌、酵母、硝酸還元菌及び亜硝酸還元菌のうちのいずれか1種を含むことが好ましく、光合成細菌、窒素固定細菌のうちのいずれか1種を含むことがより好ましい。好気性菌として、特に限定されることはないが、Cyanophita門 Chroococcales目、Pleurocapsales目、scillatoriales目、ostocales目、Stigonematales目、Prochlorales目などが挙げられる。これらの属・種については特に限定されることはないが、例えば、Acetobacteraceae Acidiphilium、Rhodobacteraceae Roseobacter、Sphingomonadaceae Erythrobacterなどが挙げられる。一方、嫌気性菌として、特に限定されることはないが、Rhodospirillum Rhodocista、Acetobacteraceae Rhodopila、Rhodobacter Rhodovulum、Bradyrhizobiaceae hodopseudomonas、Hyphomicrobiaeceae Rshodomicrobiuum、Blastochloris Rhodoplanes、Rhodobiaceae Rhodobium、Comamonasdaceae Rhodoferax、Rhodocyclaceae Rhodocyclus、Chromatium okenii、Lamprocystis denticulata、Lamprocystis fastigata、Lamprocystis hahajimana、Lamprocystis hornbosteli、Lamprocystis misella、Chlorobaculum tepidum、Chloronema giganteum、Heliothrix oregonensis、Roseiflexus castenholzii、Oscillochloris chrysea、Oscillochloris trichoides、Heliobacterium chlorum、Heliobacterium gestii、Heliobacterium modesticaldum、Heliobacterium sulfidophilum、Heliobacterium undosumなどが挙げられる。
【0063】
前記好気性菌として、窒素固定能を有するという観点より、好ましくはシアノバクテリアであるCyanophita門 Chroococcales目、Pleurocapsales目、scillatoriales目、ostocales目、Stigonematales目、Prochlorales目である。より好ましくは、硫黄粒を生じないという観点より、Rhodospirillaceae Rhodospirillum、Rhodospirillaceae Rhodocistaである。一方、嫌気性菌として、好ましくはHeliobacterium chlorum、Heliobacterium gestii、Heliobacterium modesticaldum、Heliobacterium sulfidophilum、Heliobacterium undosumである。一般に、通性嫌気性菌は、有酸素下で光合成をせずに呼吸してしまい、消費してしまうものが多い。その中で、上記の菌は、酸素下では光合成をせず異化もせず不活性化しているため、光合成の効率が有意に優れているからである。
【0064】
図9に示された一例としての装置は、嫌気性条件、好気性条件のいずれの培養にも適した構成となっている。具体的には、ジュラルミン等製の培養層49、開閉口51、逆流防止弁の付いた微生物投入口52、逆流防止弁の付いた有機化合物の投入口(ダクト付)53、酸素、二酸化炭素及び窒素のいずれか1種以上を含む気体注入ダクト54、逆流防止弁の付いた、酸素、二酸化炭素及び窒素のいずれか1種以上を含む気体注入口55を備える。ここで、開閉口51は、好気性条件下での使用の場合には開放し、嫌気性条件下の場合には閉鎖することを特徴とする。また、好気性条件下で本装置を使用する場合には、気体注入ダクト54を通じて、有機化合物を含む混合溶液50へ酸素、二酸化炭素及び窒素のいずれか1種以上を含む気体を送り込むことができる。なお、次段階への移送経路(配管)については、図9に示された一例としての装置中では付号での表示を省略しているが、例えば下部(右側)に設置させることができる。
【0065】
一方、上記のような同化作用が進むにつれて、次第に無機物質、特に窒素や炭素といった成分が欠乏してくる場合がある。このような場合に、一般に、段階(c)において用いられる上記の微生物は、窒素ガス等に由来の窒素及び/または二酸化炭素などに由来の炭素を同化することができる。かかる窒素源や炭素源は、大気中など自然界に存在するものを使用することもできる。そして、かかる同化作用により、再度、単糖などの有機物質を得ることが可能になり、段階(a)で用いられる微生物が得られた有機物質を原料としてエタノール発酵を行う結果、さらにエタノールが抽出される。その際生成される無機物質より、再度、段階(c)において有機物質を生成(同化)することができる。このように、段階(a)と段階(c)とを反復して行う第2の「サイクル」段階によって、経時的に、段階(a)で発生する無機物質の外界への放出を抑制するとともにエタノールを一層大量に抽出することができる。
【0066】
段階(c)に用いられる微生物が窒素や炭素以外の微量元素を要求する場合には、かかる元素を種々の形態で補給してもよい。なお、段階(c)に用いられる微生物の培養条件については、上述の通り、好気性菌、嫌気性菌のいずれもあり得、また、使用する菌の種類によって様々であるため、特に限定されることはない。さらに、嫌気性条件や好気性条件については、使用する菌の種類によって、当業者であれば適宜最適条件(温度やpHなど)を設定可能であるため、ここでは説明を省略する。
【0067】
段階(c)の原料である無機物質については、上記した段階(a)で得られる無機物質と、自然界に存在する無機物質とを共に用いてもよいし、いずれか一方のみを用いてもよい。
【0068】
なお、段階(a)と段階(c)とがサイクルとして反復する場合、例えば、段階(a)中に段階(c)で投入された微生物が生きて存在する場合がある。かかる場合には、段階(a)において、段階(c)で本来行われうる同化が起こりうる。逆の場合、すなわち段階(c)において、段階(a)で本来行われうるエタノール発酵が起こる場合もありうる。
【0069】
<第3のサイクル>
上記した段階(b)と段階(c)とを反復することを特徴とする。これにより、段階(b)において段階(a)の酵母が残存するか残存させたような場合に、段階(c)において生成されたグルコースなどを原料として該酵母がエタノール抽出することが可能となる。
【0070】
好ましくは、第1のサイクルと同時に、より好ましくは第1及び第2のサイクルと同時に機能させることにより、地球環境の保護の観点で非常に優れたエタノールの生産システムを構築することができる。
【0071】
なお、段階(b)と段階(c)とがサイクルとして反復する場合、例えば、段階(b)中に段階(c)で投入された微生物が生きて存在する場合がある。かかる場合には、段階(b)において、段階(c)で本来行われうる同化が起こりうる。逆の場合、すなわち段階(c)において、段階(b)で本来行われうる異化が起こる場合もありうる。
【0072】
[第3工程]
本発明の方法は、微生物を用いて、前記段階(a)で得られる前記肥料前駆成分から肥料を生成する第3工程をさらに含んでもよい。本発明は、上述した通り、段階(a)により、エタノール以外に、異化されなかった(異化反応により分解されなかった)有機物質(未処理及び/または前処理後)も得られる。従来から、かかる有機物質(未処理及び/または前処理後)は大量に廃棄されているが、本発明では、このような有機物質を原料として微生物を用いて肥料を生成する。本段階が存在することによって、生ゴミ、動物排泄物、廃棄木材や落葉などからなる家庭廃棄物質または産業廃棄物質などを有効利用するのみならず、これらの物質をほとんど余すところなく利用して、最終的にエタノールに加えて肥料をも効率良く生成することができるのである。
【0073】
段階(a)で得られる残渣(肥料前駆成分)中に、窒素分及び/または炭素分が肥料の生成に適さない程しか存在しない場合、本段階において用いられる微生物は、大気中など自然界に存在する窒素ガス等に由来の窒素及び/または二酸化炭素などに由来の炭素を同化することができる。これは、上記段階(c)と同様の同化作用(反応)が使用可能であることを意味する。特に、ジアゾ栄養生物のうち硝化細菌を用いると、硝酸塩を反応系内に取り込ませることができ、肥料の品質上好ましいものとなりうる。得られる肥料の炭素分と窒素分との比率を考慮し、場合によっては光合成細菌及び窒素固定細菌のいずれか一方のみを使用してもよい。なお、肥料を生成することは、他のサイクルなしに、第1のサイクルのみ存在している系でも可能であり、さらにいえば、段階(a)からなるエタノール生成系でも可能である。このような場合、簡易なプロセスであることに起因して、肥料を迅速に生産することができる点で有利である。
【0074】
前記肥料前駆成分中の有機態窒素分及び/または有機態炭素分が、肥料の生成に適する程度に存在する場合には、肥料前駆成分から肥料への生成にそのまま移行することができる。
【0075】
したがって、本段階は、前記肥料前駆成分中の有機態窒素分及び/または有機態炭素分に応じて、用いる微生物の種類が変化しうる。なお、前記肥料前駆成分の水分含有率が高い場合、本段階の最初に、加熱などによって水分含有率を減少させてもよい。
【0076】
前記肥料前駆成分中の有機態窒素分及び/または有機態炭素分に応じた好適に用いられる微生物の種類を、有機態窒素分及び/または有機態炭素分の多い順から挙げる。
【0077】
前記肥料前駆成分中の有機態窒素分及び/または有機態炭素分が余分な場合、枯草菌、乳酸菌、光合成細菌、酵母、放線菌及び腐朽菌よりなる群から選択される1種以上を用いることが好ましく、枯草菌、放線菌を用いることがより好ましい。なお、腐朽菌(木材腐朽菌)としては、セルロース、へミセルロースやリグニン等を分解できることを特徴としており、褐色腐朽菌、白色腐朽菌や軟腐菌が挙げられる。腐朽菌は、リグニン等が非常に大量に残存しているような場合に特に好適に用いられうる。次に、前記肥料前駆成分中の有機態窒素分及び/または有機態炭素分が適度な場合、放線菌を必須に用いると共に、光合成細菌及び/または放線菌を併用することが好ましく、放線菌のみを用いることがより好ましい。そして、前記肥料前駆成分中の有機態窒素分及び/または有機態炭素分が欠乏している場合、光合成細菌、酵母及び放線菌を必須に用いると共に、窒素固定細菌を併用することが好ましく、光合成細菌、酵母及び放線菌を用いることがより好ましい。上記の場合、用いられる微生物は主に太陽光線をエネルギーとして使用し、化石燃料からのエネルギーをほとんど必要としないため、地球上の貴重な天然資源の消費を抑えつつ、肥料を生産することが可能となる。
【0078】
以上の微生物を1種ずつまたは複数種を同時に本段階に投入することにより、所望の肥料を生成することができる。
【実施例】
【0079】
[実施例1]
<第1の工程>
有機物質として、10gの生鶏糞を6セット準備した。準備した生鶏糞の各セットを水洗した後、デカンテーションにより固形分を分離し、60℃にて120分間乾燥させて、それぞれ乾燥微粉末150mgを得た。
【0080】
得られた乾燥微粉末を各セット100mgずつ量り取り、それぞれに対して以下の手法により酵素処理を行い、スクロース及びグルコースを得た。
【0081】
まず、乾燥微粉末(100mg)にMOPS緩衝液を加えて、全量3mL(pH7.0)とした。これに耐熱性α−アミラーゼ(EC3.2.1.1)(300units)を添加し、100℃にて6分間加熱処理を施した。これにより、乾燥微粉末中に含まれる高分子有機化合物である澱粉を切断した。
【0082】
続いて、上記で得られたアミラーゼ処理液に酢酸ナトリウム緩衝液5mLを添加して、処理液のpHを4.5に調節した後、アミログルコシダーゼ(EC3.2.1.3)(20units)を添加し、50℃にて30分間加熱処理を施した。これにより、上記でα−アミラーゼにより澱粉が切断されて生じた多糖・オリゴ糖をスクロースやグルコースへとさらに切断した。6セットの乾燥微粉末のそれぞれから得られたスクロース及びグルコースの質量を、下記の表1に示す。なお、スクロース量及びグルコース量の定量は、酵素処理液をそれぞれ20mLに定容した後、高速液体クロマトグラフィを用いて行った。
【0083】
【表1】

【0084】
<第2の工程>
1.第1のサイクル
上記で得られた6セットの酵素処理液のそれぞれに対して、段階(a)及び段階(b)をこの順に行い、エタノールを抽出した。
【0085】
(1)段階(a)
以下の手法により、エタノール発酵を実施した。
【0086】
まず、酵母(Saccharomyces cerevisiae)を、サブロー寒天培地に一白金耳播種し、37℃にて24時間、好気条件下で前培養したものを滅菌PBSに浮遊させた。
【0087】
一方、内容積100mLのフラスコに上記第1の工程で得られた酵素処理液(40mL)を投入し、得られた混合溶液のpHを7.0に調節した。このフラスコに上記で得られた培養液0.1mLを投入し、37℃にてエタノール発酵を4日間実施した。
【0088】
生成されたエタノールの測定は、光学測定用検査キット(NANOCOLOR;株式会社セントラル科学貿易社製)を用いて実施した。これにより得られたエタノール量(体積・質量)を下記の表2に示す。
【0089】
【表2】

【0090】
(2)段階(b)
段階(a)における菌株によっては異化されなかった(異化反応により分解されなかった)、有機物質中の高分子有機化合物を、主に段階(a)において異化できるようにするため、低分子に分解する異化反応を実施した。
【0091】
まず、段階(a)により得られたエタノール発酵後の発酵液を、別途準備した内容積15mLの試験管にデカンテーションにより移し、滅菌処理を施した。
【0092】
一方、凍結乾燥処理したクロストリジウム(Clostridium thermocellum)を、滅菌PBSに浮遊させた。
【0093】
続いて、液温を55℃に制御した試験管に、上記で得られた培養液0.1mLを投入し、55℃にて嫌気培養を8日間実施した。これにより、段階(a)では異化されなかった高分子有機化合物を低分子へと分解した。最終的に、得られた発酵液のそれぞれについて、上記と同様に高速液体クロマトグラフィによりスクロース量及びグルコース量を測定したところ、乾燥微粉末3及び4由来の発酵液からはスクロース及びグルコースの双方が検出され、また、乾燥微粉末5及び6由来の発酵液からはグルコースが検出された。本実施例では行っていないものの、これら発酵液を段階(a)に戻すというサイクルを実施することで、より効率的なエタノールの生成が可能となるものと考えられる。
【0094】
本実施例では、生鶏糞を出発物質とし、酵素処理及び微生物による処理を経て、エタノールが抽出されうることを確認した。かかる結果は、本発明に係る方法によれば、産業廃棄物となっている有機物質から、極めて効率良く、しかも地球環境を害することなく、エタノールという有用な物質のみを得ることができることを示すものである。そして、本明細書により、本発明が、早急に求められている地球環境破壊の抑止を、工業上実現しうるものであることを実証したのである。
【符号の説明】
【0095】
1 透明固形体、
2 培養液、
3 逆流防止弁、
4 ダクト、
5 コンプレッサー、
6 投入口、
7 透明固形体、
8 培養液、
9 注入口、
10 ガス排出口、
11 攪拌用シャフト、
12 残渣排出口、
13 外壁、
14 混合溶液、
15 攪拌用シャフト、
16 投入口、
17 外壁、
18 混合溶液、
19 脱気弁、
20 配管、
21 液体注入口、
22 支柱、
23 残渣排出口、
24 外壁、
25 混合溶液、
26 投入口、
27 排出口、
28 逆流防止弁、
29 気体注入用ダクト、
30 気体状成分、
31 嫌気培養装置、
32 混合溶液、
33 台、
34 注入口(ダクト付)、
35 気体排出口(ダクト付)、
36 ダクト、
37 分留槽、
38 気体排出口(ダクト付)、
39 炉、
40 気体流入口、
41 好気培養層、
42 混合溶液、
43 気体排出口(ダクト付)、
44 気体注入口(ダクト付)、
45 注入口(ダクト付)、
46 気体注入ダクト、
47 気体注入口、
48 気体、
49 培養層、
50 混合溶液、
51 開閉口、
52 微生物投入口、
53 投入口(ダクト付)、
54 気体注入ダクト、
55 気体注入口、
56 気体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物質を準備する第1の工程;並びに、
好気性条件もしくは嫌気性条件下で、アルコール生成能を有する真菌、ザイモモナス菌及びへテロ型乳酸菌からなる群より選択される一種以上を用いてエタノール発酵を行うことにより、前記有機物質からエタノールを抽出し、肥料前駆成分を得る段階(a)と、
好気性条件もしくは嫌気性条件下で、前記肥料前駆成分を微生物に分解させることにより、有機物質を得るとともに、場合によりエタノールを抽出しうる段階(b)と、
微生物の同化作用によって無機物質から有機物質を得るとともに、場合によりエタノール抽出しうる段階(c)と、からなる群より選択されるいずれか2種以上の段階を1回以上有する、第2の工程;
を含む、エタノールの生成方法。
【請求項2】
前記第2の工程において、前記選択された段階のうち任意の2種の段階を1回以上反復して行う、請求項1に記載のエタノールの生成方法。
【請求項3】
前記第2の工程は、前記段階(a)及び前記段階(b)を1回以上反復して行い、所望により、前記段階(a)及び前記段階(c)、並びに/または前記段階(b)及び前記段階(c)を1回以上反復して行ってもよいことを特徴とする、請求項2に記載のエタノールの生成方法。
【請求項4】
前記第2の工程は、前記段階(a)及び前記段階(b)を1回以上反復して行い、且つ前記段階(a)及び前記段階(c)を1回以上反復して行うことを特徴とする、請求項2または3に記載のエタノールの生成方法。
【請求項5】
前記第2の工程は、前記段階(a)及び前記段階(b)を1回以上反復して行い、且つ前記段階(b)及び前記段階(c)を1回以上反復して行うことを特徴とする、請求項2〜4のいずれか1項に記載のエタノールの生成方法。
【請求項6】
前記第1の工程は、前記有機物質がセルロースを構成する2分子のグルコースからなる二糖類よりも分子量の大きな高分子有機化合物を含む場合には、微生物学的方法及び/または化学的方法を用いてアンモニウムイオンを前記高分子有機化合物中に固定した後、麹菌及び/または麹菌由来の酵素を用いて前記高分子有機化合物を分解することを含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載のエタノールの生成方法。
【請求項7】
前記微生物は、窒素同化作用を有する光合成細菌である、請求項6に記載のエタノールの生成方法。
【請求項8】
前記段階(a)において用いられる真菌は、酵母よりなる群から選択される1種以上である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のエタノールの生成方法。
【請求項9】
前記段階(a)において得られる無機物質は、アンモニア、窒素化合物、炭素化合物、リン酸、硫化物、無機酸、無機アルカリ及び無機塩よりなる群から選択される1種以上である、請求項1〜8のいずれか1項に記載のエタノールの生成方法。
【請求項10】
前記肥料前駆成分は、炭水化物、脂質、グリセリン、高級アルコール、脂肪酸、アミノ酸、ペプチド及びタンパク質よりなる群から選択される1種以上である、請求項1〜9のいずれか1項に記載のエタノールの生成方法。
【請求項11】
前記段階(b)において用いられる微生物は、好気性菌である、請求項1〜10のいずれか1項に記載のエタノールの生成方法。
【請求項12】
前記段階(c)において用いられる微生物は、光合成細菌、窒素固定細菌、酵母、硝酸還元菌及び亜硝酸還元菌よりなる群から選択される1種以上である、請求項1〜11のいずれか1項に記載のエタノールの生成方法。
【請求項13】
有機物質を準備する第1の工程;並びに、
好気性条件もしくは嫌気性条件下で、アルコール生成能を有する真菌、ザイモモナス菌及びへテロ型乳酸菌からなる群より選択される一種以上を用いてエタノール発酵を行うことにより、前記有機物質からエタノールを抽出し、肥料前駆成分を得る段階(a)と、
好気性条件もしくは嫌気性条件下で、前記肥料前駆成分を微生物に分解させることにより、有機物質を得るとともに、場合によりエタノールを抽出しうる段階(b)とを含む、第2の工程;
を含み、
前記第2の工程中、段階(a)及び段階(b)を1回以上反復して行うことを特徴とする、エタノールの生成方法。
【請求項14】
有機物質を準備する第1の工程;並びに、
好気性条件もしくは嫌気性条件下で、アルコール生成能を有する真菌、ザイモモナス菌及びへテロ型乳酸菌からなる群より選択される一種以上を用いてエタノール発酵を行うことにより、前記有機物質からエタノールを抽出し、肥料前駆成分を得る段階(a)と、
好気性条件もしくは嫌気性条件下で、前記肥料前駆成分を微生物に分解させることにより、有機物質を得るとともに、場合によりエタノールを抽出しうる段階(b)と、
微生物の同化作用によって無機物質から有機物質を得るとともに、場合によりエタノール抽出しうる段階(c)と、からなる群より選択される1種以上の段階を有し、該段階を2回以上行う、第2の工程;
を含む、エタノールの生成方法。
【請求項15】
微生物を用いて、前記段階(a)で得られる前記肥料前駆成分から肥料を生成する第3の工程をさらに含む、請求項1〜14のいずれか1項に記載のエタノールの生成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−261390(P2009−261390A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91512(P2009−91512)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(508104570)旭川ポートリー株式会社 (4)
【出願人】(508104581)株式会社久保組 (4)
【出願人】(507060642)医療法人社団瓔玉会 (4)
【出願人】(508103986)
【出願人】(508104592)
【出願人】(508104606)
【Fターム(参考)】