説明

エタノールアミンおよびヒドラジン含有排水の処理方法ならびに処理装置

【課題】エタノールアミンおよびヒドラジンを含有する排水において、ヒドラジン分解工程の後段の硝化工程における硝化活性の低下を抑制し、効率的にエタノールアミンを分解することができる処理方法を提供する。
【解決手段】実質的に銅が存在しない条件下において、活性炭およびマンガン化合物から選択される少なくとも1つの触媒と酸化剤とを用いてエタノールアミンおよびヒドラジン含有排水中のヒドラジンを分解するヒドラジン分解工程と、ヒドラジン分解工程で生じた分解処理液を好気性微生物と接触させ、残存するエタノールアミンを分解し、さらにエタノールアミンの分解により生じたアンモニアを亜硝酸イオンまたは硝酸イオンへと変化させ、脱窒菌と接触させて亜硝酸イオンまたは硝酸イオンを窒素ガスへと変化させる生物処理工程と、を含む処理方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所や火力発電所等において熱交換器等から排出されるエタノールアミンおよびヒドラジンを含有する排水の処理方法ならびに処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、原子力発電所や火力発電所等のプラント等で使用される熱交換器用の冷却剤中には、防錆剤としてヒドラジン(N24)とアンモニウムイオン(NH4+)が併用され添加されていた。近年、これらの用途に、より防錆効果の大きいエタノールアミンが注目され始めており、エタノールアミンとヒドラジンが併用されることが主流となることも予想される。熱交換器内を通過する冷却剤中に、エタノールアミンおよびヒドラジンを含む防錆剤を添加した場合には、熱交換器から定常的または非定常的に排出されるブロー水中にエタノールアミンやヒドラジンが含まれてくる。しかし、エタノールアミンやヒドラジンは環境上の規制物質であるCOD(化学的酸素要求量)濃度を高めることになるため、排出前に何らかの方法で処理しておくことが望ましい。
【0003】
エタノールアミンの処理方法としては微生物により好気条件下で処理する方法などが知られている。エタノールアミンは好気条件下では微生物によりアンモニアと炭酸ガス、水まで分解される。しかし、エタノールアミン含有排水中にヒドラジンが共存する場合、ヒドラジンが還元剤であることにより、その濃度が高くなると微生物、特に好気性微生物の活性を大きく阻害するおそれがある。したがって、微生物により排水中のエタノールアミンを分解処理する場合は、あらかじめヒドラジンの濃度を所定値以下にしておくことが望ましい。ヒドラジンの除去方法としては、硫酸銅などの銅化合物を触媒として添加し、曝気または過酸化水素の添加を行うことにより酸化分解する方法が提示されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0004】
特許文献1〜3のような処理方法によれば、ヒドラジンを分解した後に、好気性微生物の働きでエタノールアミンを分解することができる。
【0005】
ここで、エタノールアミンの分解によってアンモニアが生じ、また、防錆剤としてヒドラジン(N24)とアンモニウムイオン(NH4+)が併用添加されるケースも多いため、該処理水中には高濃度のアンモニアが残留することとなる。したがって、処理水放流先の窒素規制に準じて、残留アンモニアを除去する工程が必要になる。
【0006】
アンモニアの除去方法としては生物処理方法を採用することができる。すなわち、好気条件下で硝化細菌と接触させ、アンモニアを硝酸イオンへと変化させる硝化工程と、前記硝化工程で生じた処理液を嫌気条件下で脱窒細菌と接触させ、脱窒細菌のエネルギー源として例えばメタノールなどの有機物を添加しながら反応させ、硝酸イオンを窒素ガスへと変化させる脱窒工程と、を組み合わせて、残留アンモニアを窒素ガスとして除去することができる。
【0007】
しかしながら、本発明者らが、従来の方法にのっとり、銅化合物を触媒とし、曝気または過酸化水素を添加してヒドラジンを分解した処理水について、生物処理を試みたところ、エタノールアミンは分解するものの、硝化活性が著しく低くなるという、従来示唆されていない課題を見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−062597号公報
【特許文献2】特開平10−235392号公報
【特許文献3】特開2004−351419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、エタノールアミンおよびヒドラジンを含有する排水において、ヒドラジン分解工程の後段の硝化工程における硝化活性の低下を抑制し、効率的にエタノールアミンを分解することができる処理方法および処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、エタノールアミンおよびヒドラジンを含有する排水の処理方法であって、実質的に銅が存在しない条件下、具体的には銅濃度0.1mg/L未満の条件下において、活性炭およびマンガン化合物から選択される少なくとも1つの触媒と酸化剤とを用いて前記排水中のヒドラジンを分解するヒドラジン分解工程と、前記ヒドラジン分解工程で生じた分解処理液を好気性微生物と接触させ、残存するエタノールアミンを分解し、さらにエタノールアミンの分解により生じたアンモニアを亜硝酸イオンまたは硝酸イオンへと変化させ、脱窒菌と接触させて前記亜硝酸イオンまたは硝酸イオンを窒素ガスへと変化させる生物処理工程と、を含むエタノールアミンおよびヒドラジン含有排水の処理方法である。
【0011】
また、前記エタノールアミンおよびヒドラジン含有排水の処理方法において、前記ヒドラジン分解工程において、使用する酸化剤が酸素または過酸化水素であることが好ましい。
【0012】
また、前記エタノールアミンおよびヒドラジン含有排水の処理方法において、前記排水中の銅を除去する銅除去工程、前記排水中の銅を不溶化する銅不溶化工程および前記排水中の銅を不活性化する銅不活性化工程の少なくともいずれかを行った後に、前記ヒドラジン分解工程に供給することが好ましい。
【0013】
また、前記エタノールアミンおよびヒドラジン含有排水の処理方法において、前記銅不活性化工程は、キレート剤を添加して前記排水中の銅を不活性化することが好ましい。
【0014】
また、前記エタノールアミンおよびヒドラジン含有排水の処理方法において、前記キレート剤は、エチレンジアミンテトラ酢酸であることが好ましい。
【0015】
また、前記エタノールアミンおよびヒドラジン含有排水の処理方法において、銅は生物処理に必須の元素であることから、前記ヒドラジン分解工程で生じた分解処理液に少なくとも銅化合物を添加することが好ましい。
【0016】
また、本発明は、エタノールアミンおよびヒドラジンを含有する排水の処理装置であって、実質的に銅が存在しない条件下において、活性炭およびマンガン化合物から選択される少なくとも1つの触媒と酸化剤とを用いて前記排水中のヒドラジンを分解するヒドラジン分解手段と、前記ヒドラジンの分解により生じた分解処理液を好気性微生物と接触させ、残存するエタノールアミンを分解し、さらにエタノールアミンの分解により生じたアンモニアを亜硝酸イオンまたは硝酸イオンへと変化させ、脱窒菌と接触させて前記亜硝酸イオンまたは硝酸イオンを窒素ガスへと変化させる生物処理手段と、を有するエタノールアミンおよびヒドラジン含有排水の処理装置である。
【0017】
また、前記エタノールアミンおよびヒドラジン含有排水の処理装置における前記ヒドラジン分解手段において、使用される酸化剤が酸素または過酸化水素であることが好ましい。
【0018】
また、前記エタノールアミンおよびヒドラジン含有排水の処理装置において、前記ヒドラジン分解手段の前段側に、前記排水中の銅を除去する銅除去手段、前記排水中の銅を不溶化する銅不溶化手段および前記排水中の銅を不活性化する銅不活性化手段の少なくともいずれかを有することが好ましい。
【0019】
また、前記エタノールアミンおよびヒドラジン含有排水の処理装置において、前記銅不活性化手段は、キレート剤を添加して前記排水中の銅を不活性化するものであることが好ましい。
【0020】
また、前記エタノールアミンおよびヒドラジン含有排水の処理装置において、前記キレート剤は、エチレンジアミンテトラ酢酸であることが好ましい。
【0021】
また、前記エタノールアミンおよびヒドラジン含有排水の処理装置において、前記ヒドラジン分解手段で生じた分解処理液に銅化合物を添加する銅化合物添加手段を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、実質的に銅が存在しない条件下において、活性炭およびマンガン化合物から選択される少なくとも1つの触媒と酸化剤とを用いてエタノールアミンおよびヒドラジン含有排水中のヒドラジンを分解することにより、ヒドラジン分解工程の後段の硝化工程における硝化活性の低下を抑制し、効率的にエタノールアミンを分解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態に係る排水処理装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】本発明の実施例における処理水のアンモニア濃度の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0025】
本発明者らが鋭意検討した結果、エタノールアミンとヒドラジンが共存する排水を銅の存在下で処理すると硝化阻害物質が生成することを知得した。この現象は、銅が触媒となり、エタノールアミンとヒドラジンから硝化阻害性の強い副生成物が生じているためと考えられる。
【0026】
これらのことから、本発明者らは、実質的に銅が存在しない条件下において、活性炭およびマンガン化合物から選択される少なくとも1つの触媒と酸化剤とをエタノールアミンおよびヒドラジン含有排水に添加してヒドラジンを分解することにより、ヒドラジン分解工程の後段の硝化工程における硝化活性の低下を抑制し、効率的にエタノールアミンを分解することができることを見出し、本発明に至った。
【0027】
本発明の実施形態に係る排水処理装置の一例の概略を図1に示し、その構成について説明する。排水処理装置1は、ヒドラジン分解手段として、ヒドラジン分解槽10と、生物処理手段として、第一好気分解槽14、硝化槽16および脱窒槽18とを備える。また、生物処理手段として、第二好気分解槽20を備えてもよい。さらに、排水処理装置1は、凝集手段として、第一凝集槽22、第二凝集槽24および沈殿槽26を有する凝集装置12を備えていてもよい。
【0028】
図1の排水処理装置1において、ヒドラジン分解槽10、凝集装置12、第一好気分解槽14、硝化槽16、脱窒槽18および第二好気分解槽20のそれぞれの出口と入口とがこの順序で配管等により接続されている。ヒドラジン分解槽10には、酸化剤添加手段としての酸化剤添加装置11が設置されている。第一好気分解槽14、硝化槽16および第二好気分解槽20には曝気装置28がそれぞれ設置されている。凝集装置12の第一凝集槽22および第二凝集槽24、ならびに脱窒槽18には撹拌手段としての撹拌装置30がそれぞれ設置されている。
【0029】
本実施形態に係る排水処理方法および排水処理装置1の動作について図1を参照しながら説明する。
【0030】
原子力発電所や火力発電所等のプラント等で使用される熱交換器の二次系冷却水は循環使用するうちに不純物が流入して蓄積し、熱交換性能が低下することを防止するため、定期的にイオン交換樹脂によって冷却水を浄化する。そして性能が低下したイオン交換樹脂を再生する際の再生排液として、NaOHベースおよびHClベースのヒドラジンとエタノールアミンを含有する排水が排出される。
【0031】
このイオン交換樹脂の再生排液には、エタノールアミンおよびヒドラジンがそれぞれ数百〜数千mg/L含有されている。一方、銅が流入する経路が存在しない場合、この再生排液中の銅の含有量は0.1mg/L未満であり、この時点で実質的に銅を含有しないと言える。
【0032】
そしてこの再生排水(被処理水)は、本発明の実施形態に係る排水処理装置1におけるヒドラジン分解槽10へと導入される。ヒドラジン分解槽10では、銅が実質的に存在しない状態が保たれつつ、触媒として活性炭およびマンガン化合物から選択される少なくとも1つが図示しないポンプ等の触媒添加手段により添加され、酸化剤添加装置11により酸化剤が供給され、反応させることで、ヒドラジン分解が行われる(ヒドラジン分解工程)。
【0033】
触媒として、ヒドラジン分解活性や後段の生物処理における微生物への影響が少ない等の点から、活性炭およびマンガン化合物から選択される少なくとも1つが用いられるが、ヒドラジン分解活性等の点から、活性炭が好ましい。
【0034】
活性炭としては、粉末活性炭や粒状活性炭、球状活性炭など任意の形態のものを用いることができる。活性炭として粒状活性炭や球状活性炭を用いる場合は、粒状活性炭や球状活性炭を活性炭塔に充填したものをヒドラジン分解手段として用い、酸化剤として過酸化水素等を添加した被処理水を通液させることもでき、これらの方法に限るものではない。
【0035】
マンガン化合物としては、酸化マンガン、塩化マンガン、硫酸マンガン等のマンガンの無機塩が挙げられ、酸化マンガン粉末や、塩化マンガン、硫酸マンガンの水溶液の形態で添加することができる。
【0036】
活性炭およびマンガン化合物から選択される少なくとも1つの触媒の添加量は、10〜1,000mg/Lの範囲が好ましく、100〜1,000mg/Lの範囲がより好ましい。触媒の添加量が多いほどヒドラジン分解が速やかに進行するが、多すぎると汚泥発生量が多くなる場合がある。
【0037】
酸化剤としては、酸素または過酸化水素を使用することが好ましく、酸素を使用することがより好ましい。過酸化水素は酸化剤として有効であるが、後段の生物処理に影響を及ぼすおそれがあるために添加量の管理が必要となる。酸素を使用すれば、その必要はなく、また、曝気処理で簡単に添加が可能となる。
【0038】
ヒドラジン分解工程において、実質的に銅が存在しない条件でヒドラジンの分解が行われる。ここで、本明細書において「実質的に銅が存在しない条件」とは、銅が副生成物の触媒として機能しない程度の濃度であり、例えば被処理水中の銅の濃度が0.1mg/L未満である。ここでいう、銅は主にイオン性の銅である。被処理水中の銅の濃度は、ICP質量分析装置(Perkin Elmer社製、ELAN DRC−e型)を用いて、ICP質量分析法(JIS K 0102)で測定することができる。
【0039】
ヒドラジン分解槽10における反応時間は、例えば、2時間〜24時間である。
【0040】
ヒドラジン分解工程において、水酸化ナトリウム等の中和剤を添加し、pHを5〜10の範囲に調整することが好ましく、pHを8〜9の範囲に調整することがより好ましい。この操作によりヒドラジンは窒素ガスおよび水に分解される。
【0041】
次に、ヒドラジン分解槽10から排出されたヒドラジン分解処理液中には触媒が残留している場合があるので、その場合には、ヒドラジン分解処理液は凝集装置12に導入され、残留触媒と分解処理液の固液分離が行われてもよい(固液分離工程)。固液分離工程において、ヒドラジン分解処理液は第一凝集槽22へ導入され、無機凝集剤である塩化第二鉄(III)、ポリ塩化アルミニウム(PAC)等が添加され混合されることで、微細な残留触媒が凝集されてフロックが形成される(フロック形成工程)。さらにヒドラジン分解処理液は第二凝集槽24へ導入され、高分子凝集剤が添加され混合されることで、第一凝集槽22で形成された残留触媒を含むフロックがさらに増大される(フロック成長工程)。次に第二凝集槽24から排出されたヒドラジン分解処理液は沈殿槽26へ導入され、重力沈降等により残留触媒を含む汚泥と分解処理液の固液分離が行われる(固液分離工程)。または、第二凝集槽24から排出されたヒドラジン分解処理液は加圧浮上槽へ導入され、圧縮空気を混合させた加圧水を注入することで微細気泡を生成させ、その微細気泡とフロックを結合させフロックを浮上させることで、残留触媒を含む汚泥と分解処理液の固液分離が行われてもよい。
【0042】
ここで、固液分離された汚泥の一部もしくは全量は、ヒドラジン分解槽10へ返送されてもよく(返送工程)、汚泥中の残留触媒を再利用して触媒の添加量を削減することもできる。
【0043】
本実施形態に係る排水処理装置1において、例えば、熱交換器などに銅が用いられている場合には、溶出した銅がイオン交換樹脂などに付着し、イオン交換樹脂の再生廃液に銅が含有することになる。このように、被処理水中に実質的に銅が存在する場合には、ヒドラジン分解槽10の前段側に、被処理水中の銅を除去する銅除去手段、被処理水中の銅を不溶化する銅不溶化手段および被処理水中の銅を不活性化する銅不活性化手段の少なくともいずれかを有することが好ましい。被処理水中の銅の除去(銅除去工程)、不溶化(銅不溶化工程)および不活性化(銅不活性化工程)の少なくともいずれかを行い、銅除去工程による銅除去処理水、銅不溶化工程による銅不溶化処理水、および銅不活性化工程による銅不活性化処理水の少なくともいずれかをヒドラジン分解槽10に供給することが好ましい。
【0044】
実質的に銅が存在する場合、例えば、被処理水中の銅の濃度が0.1mg/L以上の場合には、ヒドラジン分解工程の前に、あらかじめ銅の除去、不溶化および不活性化の少なくともいずれかを行っておくことで、実質的に銅が存在しない条件とすることができる。
【0045】
銅の除去方法としては、アルカリ凝集沈殿法を一般的に用いることができる。アルカリ凝集沈殿法では、例えば、凝集槽において被処理水に苛性ソーダや消石灰等がアルカリ剤として添加されてpH10付近に調整されることで、水酸化銅等の無機塩が形成され不溶化されて、生成した銅の無機塩が沈殿槽において沈殿分離等により固液分離される。
【0046】
また、重金属補集剤として、例えば、オルフロックCL−1(オルガノ(株)製)等の高分子凝結剤を添加して銅を不溶化することもできる。さらに、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)等のキレート剤を添加して銅を不活性化してもよい。
【0047】
次に、このようにして得られたヒドラジン分解後の分解処理液に対して、生物処理が行われる(生物処理工程)。
【0048】
生物処理工程は、ヒドラジン分解工程で生じた分解処理液を好気性微生物と接触させ、残存するエタノールアミンを分解する第一好気分解工程と、第一好気分解工程で生じた第一好気分解処理液を硝化菌と接触させ、エタノールアミンの分解により生じたアンモニアを亜硝酸イオンまたは硝酸イオンへと変化させる硝化工程と、硝化工程で生じた硝化処理液を脱窒菌と接触させ、亜硝酸イオンまたは硝酸イオンを窒素ガスへと変化させる脱窒工程とを含む。また、脱窒工程で生じた脱窒処理液を再度、好気性微生物と接触させる第二好気分解工程を含んでもよい。
【0049】
まず、ヒドラジン分解後の分解処理液は、BOD分解菌などの好気性微生物が優占種として生息する第一好気分解槽14へと導入される。第一好気分解槽14において、例えば、中和剤によりpHが6.0〜8.5の範囲に調整され、曝気装置28により曝気が行われることで、好気性微生物の働きによりエタノールアミンや他の有機物は、アンモニアと二酸化炭素と水に分解される(第一好気分解工程)。
【0050】
次に第一好気分解槽14から排出された第一好気分解処理液は、硝化菌や亜硝酸菌が生息する硝化槽16へと導入される。硝化槽16において、例えば、中和剤によりpHが6.0〜8.5の範囲に調整され、曝気装置28により曝気が行われることで、硝化菌または亜硝酸菌の働きにより第一好気分解槽14で生成されたアンモニウムイオンは、亜硝酸イオンまたは硝酸イオンへと酸化される(硝化工程)。
【0051】
次に硝化槽16から排出された硝化処理液は、脱窒菌などの通性嫌気性微生物が優占種として生息する脱窒槽18へと導入される。脱窒槽18において、例えば、中和剤によりpHが6.0〜8.5の範囲に調整され、脱窒反応の水素供与体としてメタノールなどの有機物が添加され混合されることで、硝化槽16で生成された亜硝酸イオンまたは硝酸イオンは、生物学的還元反応により窒素ガスへと分解され(脱窒工程)、大気中へ放出される。
【0052】
次に脱窒槽18から排出された脱窒処理液は、第一好気分解槽14と同じく好気性微生物が優占種として生息する第二好気分解槽20へと導入されてもよい。第二好気分解槽20において、脱窒槽18にて添加された有機物中の微生物による代謝に使用されずに液中に残存する有機物等の分解が行われる。第二好気分解槽20において、例えば、曝気装置28により曝気が行われることにより、好気性微生物の働きによって有機物は二酸化炭素と水に分解される(第二好気分解工程)。また、第二好気分解槽20内の混合液中に浸漬型精密膜ろ過装置32等のろ過装置が浸漬され、処理液と汚泥の固液分離が行われてもよい。
【0053】
生物処理後、処理液は必要に応じて精密ろ過膜等のろ過膜等を介して吸引または減圧されることで固形物が除去され、ろ過膜を透過した後は放流または再利用される。固液分離後の残った汚泥は、少なくとも一部が引抜かれて返送汚泥として第一好気分解槽14へと返送されてもよい(返送工程)。汚泥を第一好気分解槽14へと返送させることで、第一好気分解槽14内の汚泥濃度をできるだけ一定の濃度に保ちつつ、残部の汚泥は余剰汚泥として系外へと排出すればよい。
【0054】
なお、本実施形態では第二好気分解槽20の中に浸漬型精密膜ろ過装置32を設置したものを例示したが、第二好気分解槽20の槽外に設置したものや、第二好気分解槽20の後段に沈殿槽等を設置して処理液と汚泥を固液分離してもよく、これらの方法に限るものではない。
【0055】
生物処理工程の第一好気分解工程、硝化工程、脱窒工程、第二好気分解工程等における処理条件としては、従来のエタノールアミンを含有する排水等の生物処理条件を適宜適用すればよい。
【0056】
本実施形態に係る排水処理装置1において、ヒドラジン分解工程で生じた分解処理液に銅化合物を添加する銅化合物添加手段を有することが好ましい。
【0057】
窒素やリン以外に微生物の増殖に必要な元素としては、カルシウム、マグネシウム、カリウムなどに加え、銅も微量ながら存在することが望ましい。ヒドラジン分解工程で生じた分解処理液中にこれらの元素が不足する場合には、必要量を添加することが望ましい。特に、ヒドラジン分解工程では実質的に銅が存在しない条件でヒドラジンの分解が行われるため、ヒドラジン分解工程で生じた分解処理液に、生物処理工程における好気性微生物に必須の微量元素のうち、少なくとも銅を、図示しないポンプ等の銅化合物添加手段によりヒドラジン分解工程の後に添加することが好ましい。
【0058】
また、生物処理工程おいてリンが不足する場合は、例えば、BOD:リン(重量比)=100:1となるようにリン酸などのリン化合物が添加されてもよい。
【0059】
銅を含め、微生物に必要な微量元素が過不足なく配合されたものとして、例えば、オルガミン10(オルガノ製)等の微生物処理性能向上特殊栄養剤が挙げられる。これらの微量元素は、第一好気分解槽14および第二好気分解槽20の少なくとも1つへ直接添加されてもよい。本実施形態では、微生物に必要な微量元素の添加をヒドラジン分解工程後とすることで、ヒドラジン分解工程において実質的に銅が存在しない条件とすることができる。
【0060】
以上の工程により、エタノールアミンおよびヒドラジンを含有する排水中のヒドラジンおよびエタノールアミン等のCOD成分のほぼ全てを分解除去することができ、また硝化槽等の硝化工程、脱窒工程等においても阻害がほとんど起こることなく、分解処理液中の全窒素についても除去することができ、処理液のCODおよび全窒素を排水基準以下にすることができる。
【0061】
本実施形態に係る排水処理方法および排水処理装置は、エタノールアミンおよびヒドラジンを含有する排水に適用することができるが、特に、原子力発電所や火力発電所等において熱交換器等から排出されるエタノールアミンおよびヒドラジンを含有する排水に好適に適用することができる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0063】
[ヒドラジン分解活性試験]
純水にヒドラジン200mg/L、触媒濃度が表1の濃度となるように添加した系に対し、空気曝気を行い、24時間後にヒドラジン濃度を測定した。ヒドラジン濃度は、分光光度計(HITACHI製、U−2000A型)を用いて、p−ジメチルアミノベンズアルデヒド吸光光度法で測定した。特に活性炭、マンガン、コバルト、銅を触媒とした系のヒドラジン分解活性が高いことが確認された。
【0064】
【表1】

【0065】
<実施例1>
触媒として活性炭、マンガン、コバルト、銅を用いたものと、対照系としてヒドラジンを含有しない排水の5種類を比較し、触媒によるヒドラジン分解処理液の硝化阻害性の有無を確認した。
【0066】
(ヒドラジン分解条件)
・供試排水:発電所のイオン交換樹脂再生排水(排水水質は表2参照)
・対照系排水:ヒドラジン以外の物質が供試排水と同等の値(表2参照)となるように、純水にエタノールアミン、アンモニウムイオン、銅を加えたものを対照系排水とした。銅そのものによる硝化阻害影響を確認するために、銅触媒系と同濃度の銅を添加している。
・触媒濃度:活性炭 200mg/L
マンガン 10mg/L(となるように酸化マンガン添加)
コバルト 1mg/L(となるように塩化コバルト添加)
銅 1mg/L(となるように硫酸銅添加)
・ヒドラジン分解pH:9.0
・空気曝気を24時間行い、ヒドラジンを分解させた。ヒドラジン濃度が10mg/L以下になったことを確認した後、水道水にて4倍希釈を行い、栄養塩を添加したものを下記硝化阻害性確認試験の通水原水とした。
【0067】
【表2】

【0068】
(硝化阻害性確認試験)
MBR(膜分離活性汚泥法)試験装置へと上記ヒドラジン分解処理水を通水し、硝化阻害物質の有無を確認した。処理水中のNH4−N濃度(mg/L)は、分光光度計(HITACHI製、U−2000A型)を用いて、インドフェノール青吸光光度法(JIS K 0102)で測定した。結果を図2に示す。
・反応槽容量:2L
・PVDF中空糸膜
・通水流量:5.0L/day
・反応槽pH:7.5〜8.0
・水温:20〜25℃
【0069】
また、各触媒について、ヒドラジン分解活性と分解処理水の硝化活性についての評価結果のまとめを表3に示す。
【0070】
【表3】

【0071】
図2に示すように、銅またはコバルト触媒によりヒドラジン分解を行った系では、硝化性能の低下が起こり、最終的に処理水にアンモニアが200mg/L以上残留した。一方活性炭またはマンガンを触媒としてヒドラジン分解を行った系では、処理水のアンモニア濃度は1mg/Lと良好であり、対照系と同等の硝化性能を維持していた。図2および表3に示すように、活性炭またはマンガンを触媒としてヒドラジンを分解する処理方法では、後段の硝化処理に対して硝化阻害性物質を生成せずにヒドラジン分解を行うことが可能であることが判明した。
【符号の説明】
【0072】
1 排水処理装置、10 ヒドラジン分解槽、11 酸化剤添加装置、12 凝集装置、14 第一好気分解槽、16 硝化槽、18 脱窒槽、20 第二好気分解槽、22 第一凝集槽、24 第二凝集槽、26 沈殿槽、28 曝気装置、30 撹拌装置、32 浸漬型精密膜ろ過装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタノールアミンおよびヒドラジンを含有する排水の処理方法であって、
実質的に銅が存在しない条件下において、活性炭およびマンガン化合物から選択される少なくとも1つの触媒と酸化剤とを用いて前記排水中のヒドラジンを分解するヒドラジン分解工程と、
前記ヒドラジン分解工程で生じた分解処理液を好気性微生物と接触させ、残存するエタノールアミンを分解し、さらにエタノールアミンの分解により生じたアンモニアを亜硝酸イオンまたは硝酸イオンへと変化させ、脱窒菌と接触させて前記亜硝酸イオンまたは硝酸イオンを窒素ガスへと変化させる生物処理工程と、
を含むことを特徴とするエタノールアミンおよびヒドラジン含有排水の処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載のエタノールアミンおよびヒドラジン含有排水の処理方法であって、
前記ヒドラジン分解工程において、使用する酸化剤が酸素または過酸化水素であることを特徴とするエタノールアミンおよびヒドラジン含有排水の処理方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のエタノールアミンおよびヒドラジン含有排水の処理方法であって、
前記排水中の銅を除去する銅除去工程、前記排水中の銅を不溶化する銅不溶化工程および前記排水中の銅を不活性化する銅不活性化工程の少なくともいずれかを行った後に、前記ヒドラジン分解工程に供給することを特徴とするエタノールアミンおよびヒドラジン含有排水の処理方法。
【請求項4】
請求項3に記載のエタノールアミンおよびヒドラジン含有排水の処理方法であって、
前記銅不活性化工程は、キレート剤を添加して前記排水中の銅を不活性化することを特徴とするエタノールアミンおよびヒドラジン含有排水の処理方法。
【請求項5】
請求項4に記載のエタノールアミンおよびヒドラジン含有排水の処理方法であって、
前記キレート剤は、エチレンジアミンテトラ酢酸であることを特徴とするエタノールアミンおよびヒドラジン含有排水の処理方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のエタノールアミンおよびヒドラジン含有排水の処理方法であって、
前記ヒドラジン分解工程で生じた分解処理液に少なくとも銅化合物を添加することを特徴とするエタノールアミンおよびヒドラジン含有排水の処理方法。
【請求項7】
エタノールアミンおよびヒドラジンを含有する排水の処理装置であって、
実質的に銅が存在しない条件下において、活性炭およびマンガン化合物から選択される少なくとも1つの触媒と酸化剤とを用いて前記排水中のヒドラジンを分解するヒドラジン分解手段と、
前記ヒドラジンの分解により生じた分解処理液を好気性微生物と接触させ、残存するエタノールアミンを分解し、さらにエタノールアミンの分解により生じたアンモニアを亜硝酸イオンまたは硝酸イオンへと変化させ、脱窒菌と接触させて前記亜硝酸イオンまたは硝酸イオンを窒素ガスへと変化させる生物処理手段と、
を有することを特徴とするエタノールアミンおよびヒドラジン含有排水の処理装置。
【請求項8】
請求項7に記載のエタノールアミンおよびヒドラジン含有排水の処理装置であって、
前記ヒドラジン分解手段において、使用される酸化剤が酸素または過酸化水素であることを特徴とするエタノールアミンおよびヒドラジン含有排水の処理装置。
【請求項9】
請求項7または8に記載のエタノールアミンおよびヒドラジン含有排水の処理装置であって、
前記ヒドラジン分解手段の前段側に、前記排水中の銅を除去する銅除去手段、前記排水中の銅を不溶化する銅不溶化手段および前記排水中の銅を不活性化する銅不活性化手段の少なくともいずれかを有することを特徴とするエタノールアミンおよびヒドラジン含有排水の処理装置。
【請求項10】
請求項9に記載のエタノールアミンおよびヒドラジン含有排水の処理装置であって、
前記銅不活性化手段は、キレート剤を添加して前記排水中の銅を不活性化するものであることを特徴とするエタノールアミンおよびヒドラジン含有排水の処理装置。
【請求項11】
請求項10に記載のエタノールアミンおよびヒドラジン含有排水の処理装置であって、
前記キレート剤は、エチレンジアミンテトラ酢酸であることを特徴とするエタノールアミンおよびヒドラジン含有排水の処理装置。
【請求項12】
請求項7〜11のいずれか1項に記載のエタノールアミンおよびヒドラジン含有排水の処理装置であって、
前記ヒドラジン分解手段で生じた分解処理液に銅化合物を添加する銅化合物添加手段を有することを特徴とするエタノールアミンおよびヒドラジン含有排水の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−232243(P2012−232243A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101228(P2011−101228)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】