説明

エタノール及び油の回収・製造方法

【課題】食品廃棄物中に含まれる熱エネルギーの回収率を向上させるとともに、処理時に発生する残渣である固形分の処理が容易であるエタノール製造方法を提供する。
【解決手段】食品廃棄物を糖化、発酵、および、蒸留してエタノールを製造する方法であって、糖化液、発酵液、または、蒸留廃液のうちいずれかの固液分離工程において、油分、水溶液分、および、固形分の3相に分離する3相式遠心分離装置を用いることを特徴とするエタノール及び油の回収・製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品廃棄物を糖化、発酵、および、蒸留してエタノールを製造するエタノール及び油を回収して製造する方法に関する。
【0002】
ここでいう食品廃棄物には、家庭から出る生ゴミ、食品工場から出る食品系産業廃棄、流通段階で廃棄される廃食品(廃菓子、コンビニ等から回収された賞味期限切れの食材、レストラン等から排出される食べ残し)、給食や病院等での廃食材、需給調整や生産の段階で糖度を上げる為に除去された果実など、人間が食用に生産・加工・調理・飲食する段階で発生したあらゆる廃棄物を含むものである。
【0003】
具体的には、食品廃棄物からエタノール及び油を回収して製造する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
生ごみなどの食品廃棄物中には、ご飯、パン、麺類などの炭水化物、六単糖、五単糖などが存在し、これをエタノール発酵させて液体燃料であるエタノールを製造するリサイクルシステムが構築できることが知られている。
【0005】
その方法はデンプンなどの糖源を含む有機廃棄物を回収し、糖化することにより単糖化して、エタノール発酵酵母を添加し、数時間から数ヵ月後程度で糖がすべて消費されてから、エタノール発酵液を蒸留してエタノールを分離精製する。エタノール純度を99%以上にするためには、共沸や無水化膜を利用する。
【0006】
食品廃棄物からエタノールを製造する方法については従来から種々の提案がなされている。
【0007】
例えば、特開2007-111590号公報(下記特許文献1)には、生ゴミを粉砕して粉砕物を生成するステップと、粉砕物のデンプン濃度を調整し糖化酵素を加え糖化処理水を生成するステップと、糖化処理水に予め培養したZymomonas mobilisの種菌を接種してアルコール発酵させ、もろみを生成するステップと、もろみを蒸留してエタノールを回収するステップとを含む。45%を超える対ブドウ糖転換率が得られ、生ゴミから効率よくエタノールを生産でき、我が国におけるガソリン添加用エタノール生産に資することにより、生ゴミを原料とし、しかも高い効率でエタノールを回収できる方法が記載されている。
【0008】
また、特開2005-65695号公報(下記特許文献2)には、デンプン質を含む原料を用い、発酵によりエタノールを製造する方法において、前記原料からペレットを形成するペレット形成工程と、前記ペレットに麹菌を接種して糖化ペレットを得る糖化工程と、前記糖化ペレットと酵母と水とから構成される発酵もろみの発酵開始時の水分含量を30〜60重量%に調整して固体発酵を行う固体発酵工程と、を備えたことにより、固体発酵法による新規アルコール生成方法およびシステムを開発し、アルコール生成過程において廃液を排出しないエタノールの製造方法及びエタノール製造システムが記載されている。
【0009】
また、特開2006-325577号公報(下記特許文献3)には、アルコール生産部および廃液処理・利用部を備え、アルコール生産部、糖化部、濃縮部、第1発酵部、蒸留部および脱水部を有し、バイオマス原料(生ごみ)からアルコール(燃料用アルコール)を生成する。糖化部では、生ごみ中に生息する微生物により乳酸が生成して糖化液のpHが低くなる。濃縮部では、濃縮糖化液の全糖濃度が100g/l以上300g/l以下の範囲に濃縮されると共に濃縮糖化液のpHが乳酸の濃縮により4.0近辺になることにより、生ごみを有効利用すると共に、酒製造で使用されているSaccharomyces cerevisiaeに属する酵母を用いても殺菌、pH調整および酵母への栄養源の添加等が不要であり、かつ、効率良くアルコールを生成することができるシステムが記載されている。
【0010】
しかし、上記の特許文献1〜3に記載された従来のエタノール製造方法ではは、糖化液中に含まれる油分によって配管が詰まる場合があり、生ごみに含まれるでんぷんの熱回収率が低下するという問題点があった。
【0011】
また、従来のエタノール化リサイクルでは有機廃棄物中の糖分をエタノールの原料とするため、糖分以外の物質はすべて残渣として排出されるという問題点があった。
【特許文献1】特開2007-111590号公報
【特許文献2】特開2006-325577号公報
【特許文献3】特開2006-325577号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前述のような従来技術の問題点を解決し、食品廃棄物中に含まれる熱エネルギーの回収率を向上させるとともに、処理時に発生する残渣である固形分の処理が容易であるエタノール製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、前述の課題を解決するために鋭意検討の結果、糖化液、発酵液、または、蒸留廃液のうちいずれかの固液分離工程において、油分、水溶液分、および、固形分の3相に分離する3相式遠心分離装置を用いることにより食品廃棄物中に含まれる熱エネルギーの回収率を向上させるとともに、処理時に発生する残渣である固形分の処理が容易であるエタノール製造方法を提供するものであり、その要旨とするところは特許請求の範囲に記載したとおりの下記内容である。
(1)食品廃棄物を糖化、発酵、および、蒸留してエタノール及び油を回収・製造する方法であって、糖化液、発酵液、または、蒸留廃液のうちいずれかの固液分離工程において、油分、水溶液分、および、固形分の3相に分離する3相式遠心分離装置を用いることを特徴とするエタノール及び油の回収・製造方法。
(2)前記水溶液分から3相分離により油分、及び固形分を分離回収し、液分を発酵部に送ることを特徴とする(1)に記載のエタノール及び油の回収・製造方法。
(3)原料として、食品廃棄物に廃油を寒天状に固めたものや新聞紙に吸わせたものを加えて用い、糖化部で60℃以上の温度で12時間以上保持・攪拌することにより、廃油を糖化液中に回収することを特徴とする(1)または(2)に記載のエタノール及び油の回収・製造方法。
(4)糖化部に、酵素としてリパーゼを添加することにより固形物中に残留した油分を分解し、前記3相分離での回収油量を増加することを特徴とする(1)〜(3)いずれか一項に記載のエタノール及び油の回収・製造方法。
(5)前記固液分離工程で分離しなかった水溶液中に含まれる固形物を、メッシュが0.1mm〜10mmのスクリーンを用いて除去することを特徴とする(1)〜(4)のいずれか一項に記載のエタノール及び油の回収・製造方法。
(6)前記固液分離工程の前段で、フィルター式の圧搾機、振動ふるい装置、パンチングメタル及び網を用いてプラスチック、紙、袋、割り箸、金属、甲殻類などの夾雑物を分離することを特徴とする(1)〜(5)のいずれか一項に記載のエタノール及び油の回収・製造方法。
(7)複数種類の糖分、塩分、SS分(懸濁固形物分)を含む前記糖化液の濃度を、Brix計(屈折計)を用いて測定し、該濃度が規定値の範囲に制御することを特徴とする(1)〜(6)のいずれか一項に記載のエタノール及び油の回収・製造方法。
(8)前記固液分離工程等で固形分として分離した残渣を、食品廃棄物以外の廃棄物を焼却または溶融する廃棄物処理設備にて処理し、その際に発生する廃熱を回収した蒸気を、前記食品廃棄物の濃縮工程、蒸留工程に利用することを特徴とする(1)〜(7)のいずれか一項に記載のエタノール及び油の回収・製造方法。
(9)前記固液分離工程等で固形分として分離した残渣中の水分を温風通気乾燥、好気発酵熱を用いた乾燥装置にて乾燥処理した後、前記廃棄物処理装置にて焼却もしくは溶融処理することを特徴とする(1)〜(8)のいずれか一項に記載のエタノールおよび油の回収・製造方法。
(10)前記固液分離工程等で固形分として分離した残渣を、嫌気発酵し、回収した可燃ガスを前記廃棄物処理装置の焼却もしくは溶融熱源、またはエタノールプラントの加熱蒸気源として用いることを特徴とする(1)〜(9)のいずれか一項に記載のエタノールおよび油の回収・製造方法。
(11)前記蒸留工程でエタノールと分離された水溶液を、前記糖化工程に用いる加水液として再利用し、残りの水溶液を前記廃棄物処理装置の焼却もしくは溶融工程で噴霧処理することを特徴とする(1)〜(10)のいずれか一項に記載のエタノール及び油の回収・製造方法。
(12)前記3相式遠心分離装置にて分離して得られた油分を油水分離、ろ過のいずれか若しくは双方の工程により処理した後に再生油燃料として利用することを特徴とする(1)〜(11)のいずれか一項に記載のエタノール及び油の回収・製造方法。
(13)前記再生油燃料を隣接する廃棄物を焼却または溶融する廃棄物処理設備の燃料として利用し、前記廃棄物処理設備で使用する化石燃料を削減することを特徴とする(1)〜(12)のいずれか一項に記載のエタノール及び油の回収・製造方法。
(14)前記3相式遠心分離装置にて分離して得られた油分をエステル交換反応、亜臨界処理、熱処理等によってバイオディーゼル燃料の原料として利用することを特徴とする(1)〜(12)のいずれか一項に記載のエタノール及び油の回収・製造方法。
(15)前記油分に混入している遊離脂肪酸を、触媒として濃硫酸を添加しアルコールと反応させることによりエステル化するか、もしくはイオン交換樹脂を触媒としてアルコールと反応させることによりエステル化し、遊離脂肪酸濃度を低減することを特徴とする(1)〜(14)のいずれか一項に記載のエタノール及び油の回収・製造方法。
(16)前記エステル交換および/または前記エステル化工程に用いるアルコールとして前記プロセスで精製したエタノールを用いることを特徴とする(14)または(15)に記載のエタノール及び油の回収・製造方法。
<作用>
(1)の発明によれば、食品廃棄物は一般に数%の油分を含み、配管閉塞や発酵阻害などの原因となるが、これを回避できる。回収した油分は、植物油を主成分とする高発熱量の燃料であり、燃料等に有効利用することができる。
(2)の発明によれば、例えば糖化工程と発酵工程の間で水溶液分から3槽分離により油分、及び固形分を分離回収し、液分を発酵部に送ることにより、糖化槽は一般に60℃以上の高温で保持されるために、油の粘度が低く、回収が容易であること、後工程の発酵工程で油分がエタノール発酵をエタノール発酵を阻害するため、その阻害要因を事前に除去できること、以降の工程での配管閉塞を防止できることにより、メリットがより大きくなる。
【0014】
また、一般家庭では天ぷらや炒め物に使用した植物油は、新聞紙・キッチンペーパーで吸収された後、もしくは脂肪酸を主成分とする固化材を添加して寒天状に固めたあと、可燃ごみとして捨てられているのが大部分で有り、家庭からの回収は一部ステーションでの回収に留まっており、廃油としての回収率は低い。
(3)の発明によれば、その従来回収できなかった廃油を食品廃棄物と同一の回収ルートに乗せることができ、回収の手間を大幅に省くことができ、回収率が大幅に向上する。さらに、糖化部で60℃以上の温度で12時間以上攪拌・保持することにより、新聞紙に溶け込んだ植物油は糖化液中に大部分が溶け出し、また寒天上に固めた油は60℃程度で液状に変換することができるので、以後の工程で簡単に油として回収することが可能となる。
(4)の発明によれば、固形物に付着した油分や、固体状の油分を酵素としてリパーゼを添加することにより分解できるので、油の回収率を更に上げることが可能となる。
(5)の発明によれば、液分離工程で分離しなかった固形物を、メッシュが0.1mm〜10mmのスクリーンを用いて除去するので後工程の濃縮、発酵、蒸留工程等の運転阻害要因とならない。
(6)の発明によれば、固液分離工程の前段で、フィルター式の圧搾機、振動ふるい装置、パンチングメタル及び網を用いてプラスチック、紙、袋、割り箸、金属、甲殻類などの夾雑物を分離するので破砕選別機では完全に除去することのできない夾雑物を分離することができる。
(7)の発明によれば、複数の種類の糖分、塩分、SS分(懸濁固形物分)等を含む前記糖化液の濃度を、Brix計(屈折計)を用いて測定・管理するので、複数原料の混合比率の調整や、糖化液の濃縮工程を設ける場合にはその濃縮度を変化させることにより、濃度管理を正確に行うことができる。それにより、発酵状況を安定的に継続することが可能となる。
(8)の発明によれば、前記固液分離工程や各部設けたスクリーン、脱水機等で固形分として分離した残渣を、食品廃棄物以外の廃棄物を焼却または溶融する廃棄物処理設備にて併せて処理し、その際に発生する廃熱を回収した蒸気を、前記食品廃棄物の濃縮工程、蒸留工程に利用することができる。廃棄物発電においては、蒸気の持つ熱エネルギーを利用し、電気に変換しているがその発電効率は高々35%程度と低く、その大部分は蒸気を水に凝縮するときに凝縮水として熱ロスする。しかしながら、本発明で濃縮や蒸留工程で必要な熱レベルは100℃程度であり、従来熱ロスするしかなかった廃熱を用いて、取り扱いが容易で保存のしやすい液体燃料として取り出すことが出来るのでエネルギー効率的に非常に優れている。
【0015】
また、前記残渣は例え脱水機を用いて機械的に絞ったとしても含水率は70%以上であり、そのままでは焼却・溶融する場合に別途外部燃料が必要となったり、廃熱回収する蒸気比率が低く留まる。
(9)の発明によれば、60℃以上の低レベル廃熱を用いた通気乾燥や、食品廃棄物中に含まれる微生物(新たに種菌を加えても当然良いが)の発酵熱を用いた好気乾燥を組み合わせることにより、外部燃料を新たに加えることなく、水分を大幅に低減することができる。よって、隣接した焼却もしくは溶融設備で新たな外部燃料を使用する必要が無く、また廃熱回収する蒸気比率を高くすることができる。
(10)の発明によれば、前記残渣を嫌気状態に保った状態で、食品廃棄物に含まれる微生物(新たに種菌を加えても当然良いが)の働きで、メタンを主成分とする可燃性ガスを回収することができる。この技術は、可溶化された原料を固形分濃度が10%程度で、35℃以上の温度に保持し、タンク内で攪拌することにより微生物の活動が活発化するが、本発明の残渣は既に可溶化しており、蒸留廃液等を添加することにより新たな水・燃料を加えることなく容易に発酵を行うことができる。また、回収したメタン等の可燃性ガスは、隣接した焼却もしくは溶融設備の外部燃料代替として用いることができる。更には、可燃ガスを用いた独立のガスエンジン発電機やガスタービン発電機、蒸気発生器による廃熱蒸気のスーパヒート等を用いることにより、所内の電力や蒸気の一部をまかなうことが可能となる。
(11)の発明によれば、蒸留廃液の一部を糖化工程に加水液として再利用することにより、廃液を少なくすることができ、更には糖化工程に必要な熱(60℃)をまかなうことができる。また、さらに廃液は有機分を含み処理せずそのまま廃水として流すことはできないが、隣接する焼却炉や溶融炉の高温部分に噴霧することにより、有機分は燃焼無害化することが可能となる。
(12)の発明によれば、前記3相式遠心分離装置にて分離して得られた油分を油水分離、ろ過のいずれか若しくは双方の工程により処理した後に再生油燃料として利用することができる。
(13)の発明によれば、前記再生油燃料を隣接する廃棄物を焼却または溶融する廃棄物処理設備の燃料として利用し、前記廃棄物処理設備で使用する化石燃料を削減する。また、焼却処理し、燃焼によって発生する廃熱を蒸気として回収後、蒸気タービンを用いて発電する時の例えば抽気蒸気を用いて、前記食品廃棄物の濃縮工程、蒸留工程に利用することができる。
(14)の発明によれば、前記3相式遠心分離装置にて分離して得られた油分は、植物油を主成分とする油であり、以下の処理を行うことによりディーゼル油相当として使用することが可能となることがわかった。(a)一つの方法はアルカリ処理法であり、KOH、NaOHを触媒として、アルコールを本発明で得られた原料である油分に添加することによって、脂肪酸とグリセリンに分解できる。(エステル交換反応)。得られた脂肪酸は、グリセリンとアルカリ触媒を除去した後、ディーゼル油相当として使用可能である。(b)もう一つの方法として亜臨界法がある。亜臨界法は、原料の油分を亜臨界状態にすることにより、油分は分解されてグリセリンと脂肪酸に分解される。この方法によれば原料が比較的汚い場合でも特段の前処理無く分解可能なことである。
(15)の発明によれば、本発明で得られた油分には遊離脂肪酸が混入しており、そのままではアルカリ触媒によってセッケンを生成するため、エステル交換反応を行う前に事前除去が必要である。濃硫酸を触媒としてアルコールと反応させることにより、遊離脂肪酸はエステル化することができる。そのうえで(14)で示すようにアルカリ触媒でアルコールと反応させることにより、セッケン成分を生じることなくディーゼル油を作ることができる。同様に、イオン交換樹脂を用いて遊離脂肪酸をエステル化することも可能である。また、イオン交換樹脂の組合せにより、エステル交換まで行うことも技術的には可能である。
【0016】
エステル化反応および/またはエステル交換反応に用いるアルコールについては、一般的にメタノールが知られている。メタノールは、石油から合成することが一般的であり、バイオマスから作成する(バイオマスをガス化し合成ガスから触媒によりメタノール合成する)ことは技術的には可能であるが、高圧条件化で技術的困難性も高い。
(16)の発明によれば、食品廃棄物から製造されたエタノールをバイオディーゼル精製の副原料として用いることが可能となり、バイオマス由来の原料で全てディーゼル油を製造することが可能となる。
【0017】
上記反応は、一般的に水分の混入により効率が低下するが、蒸留後に無水化(膜分離、PSA、もしくは共沸蒸留による)した無水エタノールを用いることが可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、糖化液、発酵液、または、蒸留廃液のうちいずれかの固液分離工程において、油分、水溶液分、および、固形分の3相に分離する3相式遠心分離装置を用いることにより食品廃棄物中に含まれる熱エネルギーの回収率を向上させるとともに、処理時に発生する残渣である固形分の処理が容易であるエタノール及び油を回収して製造する方法を提供することができる。
【0019】
また、焼却(溶融)炉の回収蒸気を有効に利用することで、エタノール製造コストを下げることができる。
【0020】
さらに残渣の焼却熱をエタノール製造に利用することができるうえ、再生油燃料として利用できるなど、産業上有用な著しい効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明を実施するための最良の形態および実施例について図1〜図6を用いて詳細に説明する。
【0022】
図1〜図4において、1は生ごみ、2は破砕選別器、3は糖化器、4はスクリーン、5は3相遠心分離装置、6はスクリーン、7は濃縮器、8は発酵器、9は蒸留器、10は膜分離器、11はエタノール、12は残渣(固形分)、13は油分、14は蒸気、15はガス化溶融炉、16は廃液、17は再生油化処理、18は燃料化処理を示し、同じ要素については同じ記号を用いることにより説明の重複を避ける。
<第1の実施形態>
図1は、本発明のエタノール製造方法の第1の実施形態を例示する図である。
【0023】
まず、生ごみ1を破砕選別器2を用いて砕き、固形分を残渣12として除去した後、糖化器3にてグリコールアミラーゼなどの酵素を添加して約60℃に保持することにより、デンプンをブドウ糖にして水に溶ける状態にする。
【0024】
次に、スクリーン4にて、フィルター式の圧搾機、振動ふるい装置、パンチングメタル及び網を用いてプラスチック、紙、袋、割り箸、金属、甲殻類などの夾雑物を分離し残渣12として除去した後、3相式遠心分離装置5にて、油分、水溶液分、および、固形分の3相に分離し、固形分を残渣12として除去する。分離された油分13はガス化溶融炉15の燃料として使用することができるうえ、水溶液分には油分が含まれていないので、配管に油分が付着して水溶液の配管が詰まる心配がなく、エタノール製造設備の熱効率の低下を防止することができる。なお、糖化器3の直後における糖化液の温度は28℃以上であるので、油分の流動性を高めて分離回収を容易にすることができる。
【0025】
次に、スクリーン6にて、固液分離工程で分離しなかった固形物を、メッシュ(目開き)が0.1mm〜10mmのスクリーンを用いて除去し、残渣12として除去した後、濃縮器7にて約160℃に加熱して濃度約15WT%のブドウ糖水溶液を生成した後、発酵器8にて酵母菌がブドウ糖を食べて濃度約7.5WT%のエタノールを生成することができる。
【0026】
本発明においては、濃縮器7の有無・熱源は問わないが、ガス化溶融炉15の発電設備に用いる約200℃の中低温の抽気蒸気14を用いることによりエネルギー効率を向上させることができる。
【0027】
また、例えば糖化工程と発酵工程の間で水溶液分から3槽分離により油分、及び固形分を分離回収し、液分を発酵部に送ることにより、糖化層は一般に60℃以上の高温で保持されるために、油の粘度が低く、回収が容易であること、後工程の発酵の阻害要因を事前に除去できること、以降の工程での配管閉塞を防止できることにより、メリットがより大きくなる。
また、古米や木質系糖化物などの糖源を付加して、エタノール発酵を利用することが可能である。これは一般的なエタノール発酵において原材料費の半分を占めると言われる窒素源を安価に確保することができる。例えば、原料として、食品廃棄物に廃油を寒天状に固めたものや新聞紙に吸わせたものを加えて用い、糖化部で60℃以上の温度で12時間以上保持・攪拌することにより、従来回収できなかった廃油を食品廃棄物と同一の回収ルートに乗せることができ、回収の手間を大幅に省くことができ、回収率が大幅に向上する。さらに、糖化部で60℃以上の温度で12時間以上攪拌・保持することにより、新聞紙に溶け込んだ植物油は糖化液中に大部分が溶け出し、また寒天上に固めた油は60℃程度で液状に変換することができるので、以後の工程で簡単に油として回収することが可能となる。
【0028】
また、固形物に付着した油分をリパーゼを添加することにより分解することができるので、油の回収率を更に上げることが可能となる。
【0029】
また、前記固液分離工程等で固形分として分離した残渣中の水分を温風通気乾燥、好気発酵熱を用いた乾燥装置にて乾燥処理した後、前記廃棄物処理装置にて焼却もしくは溶融処理して、60℃以上の低レベル廃熱を用いた通気乾燥や、食品廃棄物中に含まれる微生物(新たに種菌を加えても当然良いが)の発酵熱を用いた好気乾燥を組み合わせることにより、外部燃料を新たに加えることなく、水分を大幅に低減することができる。よって、隣接した焼却もしくは溶融設備で新たな外部燃料を設ける必要が無く、廃熱回収する蒸気比率を高くすることができる。
【0030】
また、前記固液分離工程等で固形分として分離した残渣を、嫌気発酵し、回収した可燃ガスを前記廃棄物処理装置の焼却もしくは溶融熱源、またはエタノールプラントの加熱蒸気源として用いることにより、前記残渣を嫌気状態に保った状態で、食品廃棄物に含まれる微生物(新たに種菌を加えても当然良いが)の働きで、メタンを主成分とする可燃性ガスを回収することができる。この技術は、可溶化された原料を固形分濃度が10%程度で、35℃以上の温度に保持し、タンク内で攪拌することにより微生物の活動が活発化するが、本発明の残渣は既に可溶化しており、蒸留廃水等を添加することにより新たな水・燃料を加えることなく容易に発酵を行うことができる。また、回収したメタン等の可燃性ガスは、隣接した焼却もしくは溶融設備の外部燃料代替として用いることができる。更には、可燃ガスを用いた独立のガスエンジン発電機や、蒸気発生器等を用いることにより、所内の電力や蒸気の一部をまかなうことが可能となる。
【0031】
また、前記蒸留工程で濃縮した回収したエタノールと分離された水溶液を、前記糖化工程に用いる加水液として再利用し、残りの前記廃棄物処理装置の焼却もしくは溶融工程で噴霧処理することにより、廃液を少なくすることができ、更には糖化工程に必要な熱(60℃)をまかなうことができる。また、さらに廃液は有機分を含み処理せずそのまま廃水として流すことはできないが、隣接する焼却炉や溶融炉の高温部分に噴霧することにより、有機分は燃焼無害化することが可能となる。
【0032】
また、エタノール発酵においては食品廃棄物からの糖化液から効率的にエタノール発酵を行うために、濃縮器7の出側に図示されていないBrix計(屈折計)を設置して複数種類の糖分、塩分、SS分(懸濁固形物分)を含む前記糖化液の濃度を測定し、該濃度が規定範囲に収まる様に原料の混合比率を変化させたり、濃縮度を調整することにより、糖化液の濃度管理を行い効率的な発酵を維持することができる。
【0033】
エタノール発酵により糖をエタノールに変換させたあと、そのエタノール発酵液から蒸留器8によりエタノールを分離した後、膜分離装置10により約99.5%以上の無水エタノールを精製することができる。
【0034】
また、生ごみを利用することで、このとき有機系廃棄物は糖源だけでなく、窒素源やビタミン、ミネラルなどの栄養源も含んでおり、エタノール発酵に際して新たな栄養源を添加する必要はない。また、製造したエタノールは消毒液、液体燃料、自動車燃料として利用できる。
【0035】
なお、ガス化溶融炉15の代わりに焼却炉を用いることができ、また焼却炉や溶融炉は既設の炉を利用することも可能である。
<第2の実施形態>
図2は、本発明のエタノール製造方法の第2の実施形態を例示する図である。
【0036】
第2の実施形態は、第1の実施形態におけるスクリーン4、3相遠心分離装置5、および、スクリーン6を、発酵器8と蒸留器9の間に設置したものであり、固形分の一部を発酵器8に供給することにより発酵効率を向上させることができる。なお、糖化器3の直後における糖化液の温度は28℃以上であるので、油分の流動性を高めて分離回収を容易にすることができる。
【0037】
また、スクリーン4、スクリーン6、および、Brix計(屈折計)の特徴については第1の実施形態と同様である。
<第3の実施形態>
図3は、本発明のエタノール製造方法の第3の実施形態を例示する図である。
【0038】
第3の実施形態は、第1の実施形態におけるスクリーン4を発酵器8と蒸留器9の間に設置し、3相遠心分離装置5、および、スクリーン6を、膜分離器10の後段に設置することにより、固形分の一部を発酵器8、蒸留器9、および、膜分離器10に供給してエタノール生成効率を向上させることができる。なお、蒸留器9の直後における糖化液の温度は40℃以上であるので、油分の流動性を高めて分離回収を容易にすることができる。
【0039】
また、スクリーン4、スクリーン6、および、Brix計(屈折計)の特徴については第1の実施形態と同様である。
【実施例】
【0040】
本発明のエタノール製造方法を図4〜図6に示す、ガス化溶融炉に隣接するエタノール製造設備に適用する試験を行った。
【0041】
エタノール製造設備から発生する残渣12をガス化溶融炉15にて処理する一方で、ガス化溶融炉15で発生する約200℃の中低温の抽気蒸気を、エタノール製造設備の濃縮器4および蒸留器9の熱源として使用することにより熱効率を向上させることができることが確認できた。
【0042】
10t/日の生ごみを用いてエタノール400リットル/日を製造したところ、生ごみ中に含まれる熱エネルギーの90%をエタノールとして回収することができ、本発明の効果が確認できた。
【0043】
図5および図6は、3相遠心分離装置を用いて分離した油分を再生処理する実施例を示す図である。
【0044】
図5および図6に示すように、3相式遠心分離装置5にて分離して得られた油分を油水分離、ろ過のいずれか若しくは双方の工程からなる再生油化処理17によって処理することにより、再生油燃料として利用することができることが判明した。
【0045】
また、前記再生油燃料を隣接する廃棄物を焼却または溶融する廃棄物処理設備の燃料として利用し、前記廃棄物処理設備で使用する化石燃料を削減する、若しくは、焼却処理し、燃焼によって発生する廃熱を用いて発電する時の抽気蒸気を、前記食品廃棄物の濃縮工程、蒸留工程に利用できることが判明した。
【0046】
さらに、3相式遠心分離装置5にて分離して得られた油分をエステル交換反応、亜臨界処理等からなる燃料化処理18によって脂肪酸メチルエステルを含むバイオディーゼル燃料の原料として利用できることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、エタノール製造設備にて発生する残渣をガス化溶融炉にて処理することにより容易に処理することができるうえ、エタノール製造設備で必用な熱源として、ガス化溶融炉の発電に用いる抽気蒸気を用いることにより熱効率をたかめることができるので、ガス化溶融炉とエタノール製造設備を近接して設置する場合に極めて有用であり、今後のエタノール製造設備の計画を行ううえで将来性が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明のエタノール及び油の回収・製造方法の第1の実施形態を例示する図である。
【図2】本発明のエタノール及び油の回収・製造方法の第2の実施形態を例示する図である。
【図3】本発明のエタノール及び油の回収・製造方法の第3の実施形態を例示する図である。
【図4】本発明のエタノール及び油の回収・製造方法の実施例を示す図である。
【図5】本発明のエタノール及び油の回収・製造方法の実施例を示す図である。
【図6】本発明のエタノール及び油の回収・製造方法の実施例を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
1 生ごみ
2 破砕選別器
3 糖化器
4 スクリーン
5 3相遠心分離装置
6 スクリーン
7 濃縮器
8 発酵器
9 蒸留器
10 膜分離器
11 エタノール
12 残渣(固形分)
13 油分
14 蒸気
15 ガス化溶融炉
16 廃液
17 再生油化処理
18 燃料化処理

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品廃棄物を糖化、発酵、および、蒸留してエタノール及び油を回収・製造する方法であって、糖化液、発酵液、または、蒸留廃液のうちいずれかの固液分離工程において、油分、水溶液分、および、固形分の3相に分離する3相式遠心分離装置を用いることを特徴とするエタノール及び油の回収・製造方法。
【請求項2】
前記水溶液分から3相分離により油分、及び固形分を分離回収し、液分を発酵部に送ることを特徴とする請求項1に記載のエタノール及び油の回収・製造方法。
【請求項3】
原料として、食品廃棄物に廃油を寒天状に固めたものや新聞紙に吸わせたものを加えて用い、糖化部で60℃以上の温度で12時間以上保持・攪拌することにより、廃油を糖化液中に回収することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のエタノール及び油の回収・製造方法。
【請求項4】
糖化部に、酵素としてリパーゼを添加することにより固形物中に残留した油分を分解し、前記3相分離での回収油量を増加することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のエタノール及び油の回収・製造方法。
【請求項5】
前記固液分離工程で分離しなかった水溶液中に含まれる固形物を、メッシュが0.1mm〜10mmのスクリーンを用いて除去することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のエタノール及び油の回収・製造方法。
【請求項6】
前記固液分離工程の前段で、フィルター式の圧搾機、振動ふるい装置、パンチングメタル及び網を用いてプラスチック、紙、袋、割り箸、金属、甲殻類などの夾雑物を分離することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載のエタノール及び油の回収・製造方法。
【請求項7】
複数種類の糖分、塩分、SS分(懸濁固形物分)を含む前記糖化液の濃度を、Brix計(屈折計)を用いて測定し、該濃度が規定値の範囲に制御することを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載のエタノール及び油の回収・製造方法。
【請求項8】
前記固液分離工程等で固形分として分離した残渣を、食品廃棄物以外の廃棄物を焼却または溶融する廃棄物処理設備にて処理し、その際に発生する廃熱を回収した蒸気を、前記食品廃棄物の濃縮工程、蒸留工程に利用することを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載のエタノール及び油の回収・製造方法。
【請求項9】
前記固液分離工程等で固形分として分離した残渣中の水分を温風通気乾燥、好気発酵熱を用いた乾燥装置にて乾燥処理した後、前記廃棄物処理装置にて焼却もしくは溶融処理することを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載のエタノールおよび油の回収・製造方法。
【請求項10】
前記固液分離工程等で固形分として分離した残渣を、嫌気発酵し、回収した可燃ガスを前記廃棄物処理装置の焼却もしくは溶融熱源、またはエタノールプラントの加熱蒸気源として用いることを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれか一項に記載のエタノールおよび油の回収・製造方法。
【請求項11】
前記蒸留工程でエタノールと分離された水溶液を、前記糖化工程に用いる加水液として再利用し、残りの水溶液を前記廃棄物処理装置の焼却もしくは溶融工程で噴霧処理することを特徴とする請求項1〜請求項10のいずれか一項に記載のエタノール及び油の回収・製造方法。
【請求項12】
前記3相式遠心分離装置にて分離して得られた油分を油水分離、ろ過のいずれか若しくは双方の工程により処理した後に再生油燃料として利用することを特徴とする請求項1〜請求項11のいずれか一項に記載のエタノール及び油の回収・製造方法。
【請求項13】
前記再生油燃料を隣接する廃棄物を焼却または溶融する廃棄物処理設備の燃料として利用し、前記廃棄物処理設備で使用する化石燃料を削減することを特徴とする請求項1〜請求項12のいずれか一項に記載のエタノール及び油の回収・製造方法。
【請求項14】
前記3相式遠心分離装置にて分離して得られた油分をエステル交換反応、亜臨界処理、熱処理等によってバイオディーゼル燃料の原料として利用することを特徴とする請求項1〜請求項12のいずれか一項に記載のエタノール及び油の回収・製造方法。
【請求項15】
前記油分に混入している遊離脂肪酸を、触媒として濃硫酸を添加しアルコールと反応させることによりエステル化するか、もしくはイオン交換樹脂を触媒としてアルコールと反応させることによりエステル化し、遊離脂肪酸濃度を低減することを特徴とする請求項1〜請求項14のいずれか一項に記載のエタノール及び油の回収・製造方法。
【請求項16】
前記エステル交換および/または前記エステル化工程に用いるアルコールとして前記プロセスで精製したエタノールを用いることを特徴とする請求項14または請求項15に記載のエタノール及び油の回収・製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−106932(P2009−106932A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−260489(P2008−260489)
【出願日】平成20年10月7日(2008.10.7)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【出願人】(390022873)日鐵プラント設計株式会社 (275)
【Fターム(参考)】