説明

エタノール及び甘蔗由来の有価物を含む画分を並列して製造する方法

【課題】糖蜜あるいは甘蔗の圧搾汁から有価物を抽出することと並列してエタノールを製造し、製造したエタノールを有価物の抽出に利用することによって、糖蜜あるいは甘蔗の圧搾汁の有効利用と有価成分の経済的な抽出を可能とする方法を提供する。
【解決手段】製糖工場又は甘蔗を原料とするエタノール製造工場において、a)甘蔗由来の糖蜜を水で希釈し芳香族系樹脂である合成吸着剤と接触させて含有成分の一部を吸着させる工程、b)前記の非吸着画分を発酵させエタノールを製造する工程、及びc)得られたエタノールを前記a)の吸着成分の溶出に使用する工程を含む、エタノール及び甘蔗由来の有価物を含む画分を並列して製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、甘蔗からエタノール及び甘蔗由来の有価物を含む画分を並列して製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エタノールの製造は、とうもろこし、甜菜などとともに、甘蔗からショ糖の結晶(粗糖)を得た後に残存する糖蜜を原料とする製造方法が従来から行われている。糖蜜を原料とするエタノールの製造においては、まず糖蜜を水で希釈し適度の糖濃度の液とした後酵母を作用させて発酵し、エタノールを含む発酵液を得る。次いで蒸留によりエタノールを濃縮し、さらに共沸蒸留、PSA法吸着又は膜分離によってエタノール中から水を分離するいわゆる脱水工程を経て無水エタノールを得ている。
【0003】
蒸留工程に供給される発酵液の中には、発酵で生成したエタノールの他に、未発酵の糖分、非発酵製の有機物、ミネラル分を含むが、エタノール以外のこれらの成分は蒸留工程の廃水中に移行する。蒸留廃水はそのまま肥料として畑地に散布するか、あるいは排水処理装置で浄化したのち灌漑用水としての利用又は放流が行われる。廃水浄化の際に有機物が分解して発生するメタンガスをエネルギー源として利用することも行われている。
【0004】
近年はガソリン等の代替液体燃料として植物由来の燃料用エタノールの需要が増えたことから、甘蔗の圧搾汁から粗糖をとることなく直接発酵させるエタノールの製造も行われている。この場合甘蔗汁は糖濃度の調整を行うことなく発酵させ、次いで糖蜜からエタノールを製造する場合と同様の方法で濃縮、無水化が行われる。蒸留廃水の処理も糖蜜を原料とする場合と同様である。
【0005】
一方で、甘蔗には、糖分の他に多くの有価物が含有されていることが知られている。例えば、甘蔗ワックス分に含まれるテトラコサノール、オクタコサノール等の高級アルコール(特許文献2)、甘蔗外皮に含まれる油分、サポニン成分などの殺菌、防臭、防黴、防錆、強壮等の作用を有する薬効成分(特許文献3)、トコフェロール(特許文献4)、呈味改良剤(特許文献5及び6)、ガン免疫賦活剤及びアレルギー免疫抑制剤(特許文献7)、放射線障害抑制剤(特許文献8)、及び感染予防治療剤、抗エンドトキシン剤、ワクチンアジュバント剤及び成長促進剤(特許文献9)が報告されている。
【0006】
このような有価物の抽出方法としては、特許文献2においては、甘蔗汁の搾り滓であるバガスに、アルコール濃度が50重量%以上となるようにエタノールを添加し、加圧下、エタノールの沸点以上に加熱した後、熱時に固形分を濾別し、濾液から結晶物を析出させる方法が示されている。また、特許文献3においては、製糖工程からのバガスを、水が満たされた水槽内に投下し、これら処理物を水に浸漬して所定日数間経過後、この処理物の養分を水内に抽出するとともに発酵によって発生した有用微生物を含有する抽出液を得る方法が、特許文献4においては、バガスをアルコール、エーテル、ケトン、低級酸等の有機溶媒で抽出分離後、カラムクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、分子蒸留等によって精製する方法が、特許文献5においては、バガスを50〜100℃程度に加温した水又はエタノール等の親水性溶媒で抽出する方法が、特許文献6においては、甘蔗汁を蒸留して得られる蒸留物を、固定担体を用いたカラムクロマトグラフィーで処理し、吸着させた成分を水又はエタノールで溶出させる方法が、特許文献7においては、甘蔗汁を固定担体を用いたカラムクロマトグラフィーで処理し、吸着させた成分を水、エタノール又はこれらの混合物で溶出させるか、あるいはバガスを水又はエタノール等の親水性溶媒で抽出する方法が、特許文献8及び9においては、甘蔗汁、糖蜜あるいは、バガスを
水又はエタノール等の親水性溶媒で抽出した溶媒抽出液を、液体クロマトグラフィーで処理し、吸着させた成分を水、メタノール及びエタノールからなる群より選ばれる少なくとも1つの溶媒で溶出させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−321174号公報
【特許文献2】特開平7−11284号公報
【特許文献3】特開平11−292776号公報
【特許文献4】特開昭58−180480号公報
【特許文献5】特開2000−217540号公報
【特許文献6】特開2001−299264号公報
【特許文献7】特開2000−297045号公報
【特許文献8】特開2005−75750号公報
【特許文献9】特開2000−297046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記に示したように、従来技術における甘蔗の有価物の抽出方法としては、製糖あるいはエタノール製造工程の一種の廃物であるバガスを原料として用いるものが多いが、特許文献6〜9においては、原料として圧搾汁や糖蜜を利用することが開示されている。
【0009】
しかしながら有価物をクロマトグラフィーで吸着させた後の原料としての圧搾汁や糖蜜をどのように扱うかについては、特許文献8において、糖蜜を原料として利用した場合にクロマトグラフィーで分画されたスクロース画分を圧搾汁(清浄汁)に混合して、精糖工程に戻して再びショ糖回収に用いることが記載されているのみである。
【0010】
さらに、有価物の抽出方法においては、その抽出溶媒として、メタノールやエタノールなどのアルコール類あるいはこれらアルコールと水との混合溶媒を用いることが示されているが、これらのアルコールは有価物の抽出のために別途調達する必要があり、有価物の抽出にかかるコストの上昇を招くものであった。
【0011】
上記したように従来技術においては、糖蜜あるいは甘蔗の圧搾汁からエタノールを製造する際には甘蔗が含有する糖分以外の有価物は回収されることはなく、エタノールを蒸留した後の廃水に含有され、灌漑用水として畑地に散布されるかあるいは廃水処理において分解されていた。
【0012】
本発明は糖蜜あるいは甘蔗の圧搾汁から有価物を抽出することと並列してエタノールを製造し、製造したエタノールを有価物の抽出に利用することによって、糖蜜あるいは甘蔗の圧搾汁の有効利用と有価成分の経済的な抽出を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、製糖工場又は甘蔗を原料とするエタノール製造工場において、a)甘蔗由来の糖蜜を水で希釈し芳香族系樹脂である合成吸着剤と接触させて含有成分の一部を吸着させる工程、b)前記の非吸着画分を発酵させエタノールを製造する工程、及びc)得られたエタノールを前記a)の吸着成分の溶出に使用する工程を含む、エタノール及び甘蔗由来の有価物を含む画分を並列して製造する方法である。
【0014】
本発明はまた、製糖工場又は甘蔗を原料とするエタノール製造工場において、a)甘蔗の圧搾汁を芳香族系樹脂である合成吸着剤と接触させて含有成分の一部を吸着させる工程
、b)前記の非吸着画分から砂糖を製造した後に残る糖蜜を発酵させてエタノールを製造する工程、c)得られたエタノールを前記a)の吸着成分の溶出に使用する工程を含む、エタノール及び甘蔗由来の有価物を含む画分を並列して製造する方法である。
【0015】
本発明はまた、製糖工場又は甘蔗を原料とするエタノール製造工場において、a)甘蔗
の圧搾汁を芳香族系樹脂である合成吸着剤と接触させて含有成分の一部を吸着させる工程、b)前記の非吸着画分を発酵させてエタノールを製造する工程、c)得られたエタノールを前記a)の吸着成分の溶出に使用する工程を含む、エタノール及び甘蔗由来の有価物を含む画分を並列して製造する方法である。
【0016】
本発明では、エタノール製造のための発酵原料として、甘蔗由来の有価物を含む画分を除いた糖蜜又は圧搾汁を用いる。
【0017】
当該圧搾汁は、甘蔗(さとうきび)を圧搾して得られる圧搾汁のみならず、甘蔗を水で浸出して得られる浸出汁、又は原糖製造工場における石灰処理した清浄汁若しくは濃縮汁を含む。
【0018】
当該糖蜜は、結晶化工程で得られた砂糖結晶と母液の混合物を遠心分離にかけ、砂糖結晶と分離して得られる振蜜を意味し、例えば、原糖製造工場における1番蜜、2番蜜、製糖廃蜜、又は、精製糖製造工程における洗糖蜜、1〜7番蜜、精糖廃蜜等が挙げられる。
【0019】
当該芳香族系樹脂である合成吸着剤は、芳香族系樹脂の多孔質吸着剤が用いられ、例えば、スチレン−ジビニルベンゼン系樹脂からなる多孔質吸着剤が挙げられる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、製糖工場又は甘蔗原料とするエタノール製造工場において、製糖、エタノール製造、及び甘蔗由来の有価物製造を並列して、又はエタノール製造及び甘蔗由来の有価物製造を並列して行うことができる。
【0021】
本発明によれば、エタノール製造のみ、又は甘蔗由来の有価物の製造のみではなく、両者を並列して製造するため効率的な製造を行うことができる。具体的には、後の実施例で述べるように、有価物を含む画分から有価物を濃縮し、分離したエタノールをエタノール製造における蒸留又は脱水工程に戻して精製することができる。また、甘蔗由来の有価物を得る工程で合成吸着剤が充填されたカラムを水洗する際に発生する濃度の低い糖液及び水をエタノール製造工程の原料糖液の希釈に利用することにより、有効な糖の回収及び節水を行うことができる。
【0022】
また、本発明によれば、製糖工場においてエタノール製造及び甘蔗由来の有価物を製造することにより、製糖廃蜜又は廃液として廃棄されていた成分から有価物を含む画分を製造することにより、経済的な有価物の抽出が可能となる。
【0023】
さらに本発明によれば、エタノール製造と同時に糖蜜あるいは甘蔗の圧搾汁に含まれるエタノールに転換しない有価物が抽出されるので甘蔗が従来よりもより有効に活用され、かつエタノール製造工程で製造したエタノール又は製造工程の中間で得られるエタノール水溶液を用いるため、経済的な有価物の抽出が可能となる。
【0024】
さらに本発明によれば、後の実施例により説明するように、エタノール製造における酵母の生育に影響を及ぼすポリフェノール類が有価物を含む画分の製造工程で除かれるため、エタノールの発酵効率が改善され、エタノール製造工程の効率が改善する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の方法により糖蜜から有価物を回収後エタノールを製造する一実施形態における各工程を説明する図面である。(1)糖蜜から有価物回収
【図2】本発明の方法により甘蔗の圧搾汁から有価物を回収後、製糖し、得られた糖蜜からエタノールを製造する一実施形態における各工程を説明する図面である。(2)甘蔗汁から有価物回収して製糖後の糖蜜からエタノール生産
【図3】本発明の方法により甘蔗の圧搾汁から有価物を回収後エタノールを製造する一実施形態における各工程を説明する図面である。(3)甘蔗汁から有価物回収して製糖せずにそのままエタノール生産
【図4】本発明の方法により得られた有価物の濃度依存的なチロシナーゼ活性阻害を示すグラフである。
【図5】本発明の方法により得られた有価物の濃度依存的なB16メラノーマ細胞のメラニン産生抑制効果を示すグラフである。
【図6】本発明の方法により得られた有価物を生イーストに添加した場合におけるパン生地発酵能を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下本発明を実施形態に基づきより詳細に説明する。
【0027】
本発明の方法は、効率的なエタノールの製造、及び効率的な甘蔗由来の有価物を含む画分の製造を並列して行う。
【0028】
具体的には、第一に、製糖工場又は甘蔗を原料とするエタノール製造工場において、a)甘蔗由来の糖蜜を水で希釈し芳香族系樹脂である合成吸着剤と接触させて含有成分の一部を吸着させる工程、b)前記の非吸着画分を発酵させエタノールを製造する工程、及びc)得られたエタノールを前記a)の吸着成分の溶出に使用する工程を含む、エタノール及び甘蔗由来の有価物を含む画分を並列して製造する実施形態が挙げられる。
【0029】
また第二に、製糖工場又は甘蔗を原料とするエタノール製造工場において、a)甘蔗の圧搾汁を芳香族系樹脂である合成吸着剤と接触させて含有成分の一部を吸着させる工程、b)前記の非吸着画分から砂糖を製造した後に残る糖蜜を発酵させてエタノールを製造する工程、c)得られたエタノールを前記a)の吸着成分の溶出に使用する工程を含む、エタノール及び甘蔗由来の有価物を含む画分を並列して製造する実施形態が挙げられる。
【0030】
さらに第三に、製糖工場又は甘蔗を原料とするエタノール製造工場において、a)甘蔗
の圧搾汁を芳香族系樹脂である合成吸着剤と接触させて含有成分の一部を吸着させる工程、b)前記の非吸着画分を発酵させてエタノールを製造する工程、c)得られたエタノールを前記a)の吸着成分の溶出に使用する工程を含む、エタノール及び甘蔗由来の有価物を含む画分を並列して製造する実施形態が挙げられる。
【0031】
本発明の方法において、原料となる甘蔗としては、砂糖および/またはエタノールの製造が可能なものであれば、特に限定されるものではなく、種々の品種のものを用いることが可能である。具体的には、甘蔗には、一般には、イネ科(Gramineae)、キビ亜科(Panic oideae)、オガルカヤ族(Andropogoneae)、サトウキビ属(Saccharum L.)に属する多年生草本でSaccharum spontaneum L.、Saccharum officinarum L.、Saccharum robustum Jeswiet、Saccharum Barberi Jeswiet、Saccharum sinense Roxb.、Saccharum eduleの6種と、それら相互の種間雑種が含まれるが、さらに近縁属植物(Miscanthus属、Sorghum属、Erianthus属、Ripidium属等)との属間雑種で、可製糖(スクロース)を5%以上含有しているもの、及び及びそれらの3系交雑によって作出された雑種などを用いることも可能である。なお、種間雑種、属間雑種はSaccharum hybridsと総称されている。
【0032】
本発明の方法において用いられる圧搾汁としては、上記したような甘蔗を圧搾して得られる圧搾汁のみならず、甘蔗を水で浸出して得られる浸出汁、又は原糖製造工場における石灰処理した清浄汁若しくは濃縮汁を含ものである。
【0033】
例えば、甘蔗を圧搾して圧搾汁を得る場合、特に限定されるものではないが、甘蔗からの砂糖の製造法あるいはエタノールの製造法において、通常行われるように、甘蔗から圧搾汁及びバガスを調製する。甘蔗から圧搾汁とバガスに分離する工程は、当業者に公知の方法、例えば圧搾工程により行うことができる。具体的には、刈り取ったサトウキビの蔗茎部をカッターで約15〜30cm程度に裁断し、シュレッダーで細かく砕き、ミルロールで糖汁を搾り出す。搾出率をよくするために最終ロールに注水し、好ましくは、約95〜97%程度の糖分を搾り出す。
【0034】
上記のようにして分離した圧搾汁を、次いで、必要に応じ、不純物を除去するために、加熱、例えば、ジュースヒーター等で約80〜100℃に加熱し、石灰混和槽において、石灰を添加して不純物を石灰塩として沈殿させ、上澄液を回収し清浄汁とすることも可能である。なお、不純物の除去方法としては、食品工業で広く使用されているスクリーン濾過、ケイソウ土濾過、精密濾過、限外濾過等を採択することも可能である。
【0035】
なお、特に限定されるものではないが、上記のようにして圧搾汁を調製する際に分離された、バガスは、本発明に係る製造工程において消費される熱ないし電気エネルギーを得るために燃焼工程にかけられることが好ましい。また、必要に応じて、燃焼工程に先立ち、バガスの全量あるいはその一部を水、アルコール等の親水性溶媒、あるいは水と親水性溶媒との混合溶媒等、好ましくは、本発明に係る製造工程の最終製品であるエタノールあるいはその中間製品であるアルコール水溶液、に浸漬等して、バガス中に含まれる高級アルコール、トコフェロール、サポニン等の成分を抽出回収することも可能である。
【0036】
一方、本発明の方法において用いられる糖蜜とは、甘蔗からの砂糖の製造法における公知の結晶化工程で得られる、砂糖結晶と母液の混合物を遠心分離にかけ、砂糖結晶と分離して得られる振蜜を意味し、例えば、原糖製造工場における1番蜜、2番蜜、製糖廃蜜、又は、精製糖製造工程における洗糖蜜、1〜7番蜜、精糖廃蜜等が挙げられる。
【0037】
前記砂糖の結晶化の回数としては、特に限定されるものではないが、回数を経ることによって得られる砂糖の量が減少し、エネルギー的にも効率が低下する。また、結晶化回数に比例して、糖蜜中に含有されるエタノール発酵阻害物質の割合が増加するため、砂糖製造後に、エタノールの製造を行う場合には、特に限定されるものではないが、結晶化の回数は、例えば、3回以下、より好ましくは2回程度とすることが好ましい。
【0038】
図1は、本発明の方法により糖蜜から有価物を回収後エタノールを製造する場合の本発明の実施形態を説明する図面である。
【0039】
まず糖蜜を水で希釈し、糖分が発酵に適した濃度以上であり、かつ固体の吸着体による有価物の吸着に適した濃度範囲となるように調整する。(S−1)
【0040】
糖分を調整した液は含有する固形分を分離(S−2)した後、後述するような合成吸着剤と接触させて有価物を吸着させる(S−3)。固形分の分離は、重力による沈降、遠心分離あるいは濾過器を用いて行う。合成吸着剤は、例えば、縦型の容器内に充填層を形成させ、糖液を上向流あるいは下向流として接触させる。このような吸着工程にかけることによって、糖液中に含まれていた有価物は合成吸着剤に吸着分離され、一方糖分はそのままの形で吸着カラムを通過した糖液中に残る。
【0041】
使用される芳香族系樹脂である合成吸着剤としては、疎水性置換基を有する芳香族系樹脂、無置換基型の芳香族系樹脂、無置換基型に特殊処理を施した芳香族系樹脂等の多孔性樹脂が挙げられるが、無置換基型に特殊処理を施した芳香族系樹脂が好ましい。芳香族系樹脂で市販のものとしては、ダイヤイオン(商標)HP−10、HP−20、HP−21、HP−30、HP−40、HP−50(以上、無置換基型の芳香族系樹脂、いずれも商品名、三菱化学株式会社製);SP−825、SP−800、SP−850、SP−875、SP−70、SP−700(以上、無置換基型に特殊処理を施した芳香族系樹脂、いずれも商品名、三菱化学株式会社);SP−900(芳香族系樹脂、商品名、三菱化学株式会社製);アンバーライト(商標)XAD−2、XAD−4、XAD−16、XAD−2000(以上、芳香族系樹脂、いずれも商品名、株式会社オルガノ製);ダイヤイオン(商標)SP−205、SP−206、SP−207(以上、疎水性置換基を有する芳香族系樹脂、いずれも商品名、三菱化学株式会社製);HP−2MG、EX−0021(以上、疎水性置換基を有する芳香族系樹脂、いずれも商品名、三菱化学株式会社製)が挙げられる。
【0042】
しかして、本発明においては、この合成吸着剤に吸着保持された有価物を抽出するために、後述するエタノール製造工程により製造されたエタノール又は当該製造工程の中間で得られるエタノール水溶液を使用し、合成吸着剤に吸着された成分を溶出させる。
【0043】
このため、有価物の抽出に使用する抽出溶媒を、別途に系外より調達する必要がなく製造コストの低減化が可能となる。さらに任意の濃度の溶媒を製造工程から直接取り出すことができるので、抽出用の最適濃度とするために希釈するというような無駄を省くこともできる。
【0044】
合成吸着剤によって有価物を抽出された糖液は、水を加えて発酵に適した糖濃度、例えば約10〜20%程度、好ましくは約15%程度に調整(S−4)した後、発酵槽(S−5)に送る。なお、エタノールの原料にする糖蜜の一部分について有価物の回収を行う場合には、残部の糖蜜と合わせて発酵に適した濃度に調整しても良い。
【0045】
発酵槽では酵母などの発酵性微生物の作用によって糖分がエタノールに転化する。エタノールを含む発酵液は次いで蒸留工程に送られ、エタノールの濃縮が行われる。特に限定されるものではないが、例えば、蒸留の工程はまず発酵液からストリッパー(S−6)で40〜50%のエタノールを得た後、さらにこれを濃縮塔(S−7)で90%以上に濃縮する2段階で行われる。無水エタノールを得るには蒸留工程で得られた90%以上のエタノールをさらに共沸蒸留やPSA法吸着あるいは膜分離による脱水工程(S−8)を経て水分の含有率を0.5%以下とする。
【0046】
発酵液に含まれる水分は、第1段階及び第2段階の蒸留塔の塔底から廃水として排出される。排水中には未発酵の糖分、発酵の副生成物、非発酵性の有機分、無機塩類、発酵液に同伴された酵母が含まれる。廃水は肥料として甘蔗の畑地に還元するかあるいは廃水処理装置(S−9)で清浄化を行う。廃水処理の工程で発生するメタンガスは燃料として有効利用することができる。
【0047】
一方、糖蜜の有価物を吸着した合成吸着剤はエタノールと接触させ、吸着した成分をエタノール中に溶出させる(S−10)。溶出にはエタノール製造工程からの製品エタノールの一部又は中間製品であるエタノール水溶液を用いる。このエタノール又はエタノール水溶液としては、特に限定されるものではないが、エタノール製造工程で得られるエタノール−水混合質量割合が40/60〜99.9/0.1のエタノール液であることが望ましい。エタノール又はエタノール水溶液は、吸着剤の充填層に上向流又は下向流として流
しながら合成吸着剤と接触させる。
【0048】
このようにして、エタノール水溶液又はエタノールを合成吸着剤に流すことで、吸着体に保持されていた有価物は溶出され、有価物抽出液として回収される。回収された有価物抽出液から溶剤を分離して有価物の製品を得る(S−11)。溶剤の分離方法としては、特に限定されるものではないが、例えば溶媒成分であるエタノール水溶液ないしエタノールを適度な温度に加熱して蒸発させることによって分離することができる。この工程において分離されたエタノール分は回収し、蒸留ないし脱水工程にもどして精製することで有価物抽出に用いることによるエタノールの収率の低下を防止することができる。
【0049】
なお、このようにして、糖液を吸着工程にかけた後に、吸着体の充填層にエタノール製造工程からのエタノール水溶液ないしエタノールを流して抽出処理を行うと、充填層内には、抽出処理に使用されたエタノール分が一部残留する。このため、その後再び糖液を充填層内に流し吸着工程にかけた際に、吸着塔より流出する糖液中に先の抽出処理によって充填層内に残留するエタノール分が一緒に混入して、糖液のアルコール発酵を阻害するおそれがある。
【0050】
そこで、充填層に糖液とエタノール又はエタノール水溶液を交互に通液する間に、水による押し出しの工程を介在させる。押し出し工程に使用して充填層より流出した水は少量のエタノール分を含有するため、エタノール製造の蒸留工程に戻すことでエタノールの製造収率をさらに高めることが可能である。
【0051】
吸着体の充填層は有価物を吸着させる吸着工程、有価物を脱着させる溶出工程、水による溶剤の押し出し工程を順次繰り返しながら運転できるように配管及び切替バルブを設ける。充填層を複数設け、1層が吸着工程にある間に他の層が溶出、押し出しの工程を行いながら順次工程を進めるメリーゴーラウンド方式によれば連続的に糖液を処理することもできる。
【0052】
図2は、本発明の方法により甘蔗の圧搾汁から有価物を回収後、製糖し、得られた糖蜜からエタノールを製造する場合の本発明の実施形態を説明する図面である。
【0053】
甘蔗の圧搾汁から有価物を回収する場合には、圧搾汁が、一般的に固体の吸着体による有価物の吸着に適した濃度範囲にあることから、図1に示すような吸着用濃度調整(S−1)及び固形分分離(S−2)を行う必要はなく、圧搾汁を前記したと同様な合成吸着剤と接触させて有価物を吸着させる(S−3)。なお、必要に応じて、吸着工程(S−3)に先立ち、圧搾汁を、吸着用濃度調整(S−1)および/または固形分分離(S−2)の工程にかけることももちろん可能である。
【0054】
そして、この合成吸着剤に吸着保持された有価物を抽出するために、図1に示す実施形態におけると同様に、後述するエタノール製造工程により製造されたエタノール又は当該製造工程の中間で得られるエタノール水溶液を使用し、合成吸着剤に吸着された成分を溶出させ(S−10)、有価物抽出液として回収し、さらに回収された有価物抽出液から溶剤を分離して有価物の製品を得る(S−11)。溶出工程(S−10)および溶剤分離(S−10)における詳細な条件および手順等は、上記図1に示した実施形態のものと同様のものとすることができる。また、このようにして、甘蔗の圧搾汁を吸着工程にかけた後に、吸着体の充填層にエタノール製造工程からのエタノール水溶液ないしエタノールを流して抽出処理を行うと、充填層内には、抽出処理に使用されたエタノール分が一部残留する。このため、その後再び圧搾汁を充填層内に流し吸着工程にかけた際に、吸着塔より流出する圧搾汁中に先の抽出処理によって充填層内に残留するエタノール分が一緒に混入して、圧搾汁からの精糖工程ならびにその後アルコール発酵において問題を生じるおそれが
あるため、図1に示した実施形態におけると同様に、充填層に糖液とエタノール又はエタノール水溶液を交互に通液する間に、水による押し出しの工程を介在させる。押し出し工程に使用して充填層より流出した水は少量のエタノール分を含有するため、エタノール製造の蒸留工程に戻すことでエタノールの製造収率をさらに高めることが可能である。
【0055】
一方、合成吸着剤によって有価物を抽出された圧搾汁は、次いで、甘蔗からの砂糖の製造法における先に述べたような公知の精糖工程(結晶化工程)にかけられ、砂糖が製造され、砂糖結晶と分離された糖蜜を回収する。
【0056】
得られた糖蜜からのその後のエタノール製造工程は、図1に示した実施形態におけるものと同様にして行われ、そのエタノール製造工程途中より抜出されたエタノール水溶液ないし最終製品のエタノールの一部が、前記したように、有価物の溶出工程(S−10)に
おいて使用される。
【0057】
なお、図2においては、図1と同じ処理工程に関しては同じ符番を付しており、重複を避けるためにその詳細な説明については省略する。
【0058】
図3は、本発明の方法により甘蔗の圧搾汁から有価物を回収後エタノールを製造する場合の本発明の実施形態を説明する図面である。
【0059】
甘蔗の圧搾汁からエタノールを製造する場合、圧搾汁の糖分含有率がエタノール発酵にちょうど適したものであるから沈降槽などで清澄化した後、水で希釈することなく発酵工程に供給することができる。この場合図1に示す吸着用濃度調整(S−1)、固形分分離(S−2)、及び発酵用濃度調整(S−4)を行う必要はなく、その他の工程は図1に示す糖蜜からエタノールを製造する場合と同様に行う。
【0060】
なお、図3においては、図1と同じ処理工程に関しては同じ符番を付しており、重複を避けるためにその詳細な説明については省略する。
【0061】
図1、図2、及び図3に示すいずれの実施形態においても、有価物抽出液と溶剤を分離する工程(S−11)に於いて、限外ろ過膜、ナノフィルトレーション膜あるいは逆浸透膜を用いて有価分抽出液を分子量の大きい有価物を含む液と分子量の小さい有価物を含む液にあらかじめ分けた後、それぞれの液について溶剤分離を行うことによって、得られる有価物の分画を行うことも可能である。
【0062】
さらに、図1、図2、及び図3に示すいずれの実施形態においても、溶出工程(S−10)に用いるエタノールの濃度を工程の途中変化させ、エタノール濃度の異なる溶出液について各々別個の溶剤回収を行い、特性の異なる複数種類の有価物を得ることも可能である。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。
【0064】
[実施例1]
(糖蜜から有価物を回収後にエタノールを製造)
図1に示すような工程に従い、糖分含有率40%の糖蜜500kgからエタノール80kgと有価物(乾物)2kgを製造した。
【0065】
糖蜜はまず500kgの水を加えて糖分20%に調整した(S−1)。次いで遠心分離機によりスラッジ分50kgを分離し(S−2)、芳香族系樹脂吸着体の充填層を通して
有価物を吸着させた(S−3)。吸着を終えた糖液950kgに水310kgを加えて糖分濃度を15%に調整し(S−4)、調整した糖液1,260kgを発酵槽(S−5)に於いて発酵させ、エタノール濃度7%の発酵液1,150kgを得た。
【0066】
この液を第1段階の蒸留(S−6)にかけ、塔頂より濃度45%のエタノール液180kgを留出させ、塔底から廃水970kgを排出した。排水中のエタノール含有率は100ppm以下であった。
【0067】
塔頂からの留出液は、有価物抽出液の溶剤分離工程から戻ってくる45%エタノール液65kgと合わせて第2段階の蒸留塔(S−7)に供給し、第2段階蒸留塔の塔頂から得られるエタノール濃度90%の蒸気をゼオライト膜を用いる脱水工程(S−8)に送って水分を分離し、濃度99.5%の無水エタノール110kgを得た。膜脱水器で分離された水分は第2段階蒸留塔に返送し、塔底から廃水として排出した。第2段階の蒸留塔の廃水は125kgで、エタノールの含有率は100ppm以下であった。
【0068】
膜脱水器で得られた無水エタノールのうち80kgを製品として取り出し、30kgを有価物の溶出のために溶出工程(S−10)に送った。有価物を溶出したエタノールは分離工程(S−11)において蒸発させ、有価物を乾分50%の状態で取り出し、蒸発したエタノールは冷却して回収、溶出工程(S−10)で用いる押し出し水35kgと合わせてエタノール濃度45%の水溶液として第2段階蒸留塔(S−7)に戻した。
【0069】
[実施例2]
(有価物を回収した糖蜜のエタノール発酵性向上効果確認試験)
糖分含有率40%の糖蜜10kgに水を加えて糖分20%に調整し、遠心分離機によりスラッジ分1kgを分離後、芳香族系樹脂吸着体の充填層を通して有価物を吸着させた糖液(抽残と呼ぶ)と、有価物の吸着除去を行っていない原糖蜜についてエタノール発酵の特性を比較した。抽残は、一部に水を加えて糖分濃度を15%に調整し、硫酸アンモニウムを3g/Lの割合で加え、加熱滅菌して発酵の原液1リットルを作った。原糖蜜は糖分が15%になるよう水を加えて調整し、2時間静置して上澄み液に硫酸アンモニウムを3g/Lの割合で加え加熱滅菌して発酵原液1リットルを作った。
【0070】
それぞれの原液各100mLを容積500mLのバッフルフラスコに入れ、エタノール発酵用酵母BA11を植菌して21時間振とうながら発酵させ、3時間静置して酵母を沈降させ、上澄み液を取り出し、新たに発酵原液100mLを加えて発酵させるバッチ操作を5回繰り返した。各バッチの発酵終了時における生成エタノールの濃度、残留糖分の濃度、増殖した酵母の菌数、生菌率の比較を表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
表1に示されるように、抽残から作った液を発酵させる方が、糖蜜から作った液を発酵させるよりも生成するエタノールの濃度が高く、酵母の増殖が活発で、発酵バッチを重ねても死滅する酵母が少ないことが明らかとなった。
【0073】
[実施例3]
図2に示すような工程に従い、甘蔗の圧搾汁から有価物を回収後、製糖し、得られた糖蜜からエタノールを製造した。この場合において、圧搾汁から有価物を回収した後に得られた糖蜜と、圧搾汁から有価物の吸着除去を行なうことなく製糖した後に得られた糖蜜とのエタノール発酵の特性を、実施例2と同様に比較したところ、実施例2における結果と同様に、有価物を回収した後に得られた糖蜜を発酵させる方が、有価物を回収することなく得られた糖蜜を発酵させるよりも生成するエタノールの濃度が高く、酵母の増殖が活発で、発酵バッチを重ねても死滅する酵母が少ないことが明らかとなった。
【0074】
[実施例4]
図3に示すような工程に従い、糖分含有率14%の甘蔗圧搾汁500kgから無水エタノール29kgと有価物(乾物)0.5kgを製造した。
【0075】
圧搾汁は、芳香族系樹脂吸着体の充填層を通して有価物を吸着させた(S−3)。吸着を終えた液495kgを発酵槽(S−5)に於いて発酵させ、エタノール濃度6.2%の発酵液470kgを得た。
【0076】
この液を第1段階の蒸留(S−6)にかけ、塔頂より濃度40%のエタノール液72kgを留出させ、塔底から廃水400kgを排出した。排水中のエタノール含有率は100ppm以下であった。
【0077】
塔頂からの留出液は、有価物抽出液の溶剤分離工程から戻ってくる45%エタノール液65kgと合わせて第2段階の蒸留塔(S−7)に供給し、第2段階蒸留塔の塔頂から得られるエタノール濃度90%の蒸気64kgを脱水工程(S−8)に送って水分を分離し、濃度99.5%の無水エタノール58kgを得た。膜脱水器で分離された水分は第2段階蒸留塔に返送し、塔底から廃水として排出した。第2段階の蒸留塔の廃水は79kgで、エタノールの含有率は100ppm以下であった。
【0078】
膜脱水器で得られた無水エタノールのうち29kgを製品として取り出し、29kgを有価物の溶出のために溶出工程(S−10)に送った。有価物を溶出したエタノールは分
離工程(S−11)において蒸発させ、有価物を乾分50%の状態で取り出し、蒸発したエタノールは冷却して回収、溶出工程(S−10)で用いる押し出し水と合わせてエタノール濃度45%の水溶液として第2段階蒸留塔(S−7)に戻した。
【0079】
[試験例1] 有価物画分の美白効果−チロシナーゼ活性阻害
正常ヒトメラノサイト(MC)を0.5%TritonX-100含有リン酸緩衝液(100mM
,pH6.8)で6.0×105 cells/mlの濃度となるよう溶解し、これをチロシナーゼ粗酵素溶液とした。
【0080】
粗酵素溶液のドーバオキシダーゼ活性を測定することにより有価物画分のチロシナーゼ活性に与える作用を評価した。陽性コントロールとしては5mMコウジ酸を用いた。ドーバオキシダーゼ活性は、96穴マイクロプレートに粗酵素溶液を50μLずつ分注し、L−ドーパ(0.5mMinリン酸緩衝液(100mM,(pH6.8))および所定の濃度の試験試料を添加して反応を開始した。開始直後および37℃、2時間インキュベート後の405nmにおける吸光度をマイクロプレートリーダーにて測定した。市販の合成メラニンで作成した検量線を用いて生成したメラニン量を算出した。チロシナーゼ活性は、単位時間および酵素液の単位タンパク質量あたりのメラニン生成量として算出した。それぞれのチロシナーゼ活性はStudent-t検定を用いて有意差検定を行ない、コントロールと
の差を評価した。
【0081】
なお、試験試料の着色が著しかったため、L−ドーパ未添加の粗酵素・試料混合液の吸光度をブランクとして差し引いた。
【0082】
結果を表2および図4に示した。試料処理濃度0.003%以上で濃度依存的なチロシナーゼ活性の有意な減少が認められた。
【0083】
有価物画分は、濃度依存的なチロシナーゼ活性阻害作用を示すことが明らかとなった。
【0084】
【表2】

【0085】
[試験例2] 有価物画分の美白効果−B16メラノーマ細胞を用いたメラニン産生抑制作用
B16マウスメラノーマを、5%FBS含有DMEMを用いて6穴プレートに播種した。24時間培養後に所定浪度の試料を含有した5%FBS含有DMEMと交換した。陽性標準試料(P.C.)として乳酸ナトリウムを用い、同様の処理を行った。6日間培養後、トリプシンにて細胞を剥離させ細胞ペレットを作成した。このとき目視判定で細胞ペレットの色調をスコア化(5段階スコア:1白−5黒)した。メラニン生成量を、アルカリ可溶化法を用いて簡易定量した。細胞ペレットを5%トリクロロ酢酸、エタノール/ジエチルエーテル溶液、ジエチルエーテルで洗浄後、1M水酸化ナトリウム水溶液を添加して加熱溶解(100℃、10分)させ、マイクロプレートリーダーを用いて405nmの吸光度を測定した。このとき同時に合成メラニン(シグマ)を標準品として検量線を作成し、各々の細胞ペレットのメラニン量を算出した。また、タンパク質量をBCA法(PIERCE)で測定し、単位タンパク質あたりのメラニン量として試料の作用を評価した。結果を表3および図5に示した。
【0086】
結果は、平均値±標準偏差で表した。有意差検定はStudent-t検定を用いた。P<0.
05の場合、有意であると判定した。
【0087】
また、単位タンパク当たりのメラニン量に関しても、有価物画分の処理濃度依存的な低下が認められた。
【0088】
本検討により、有価物画分は、濃度依存的なメラニン産生抑制作用を示すことが明らかとなった。このメラニン産生抑制の作用点の一つとして、上記試験で確認されたチロシナーゼ活性阻害の関与が示唆された。
【0089】
【表3】

【0090】
[試験例3] パン生地発酵用の生イースト調製とパン生地発酵能評価
パン生地発酵用の生イースト調製は坂口フラスコによるバッチ式の培養方法で行った。有価物画分添加量は、上記増殖試験の結果と製パン用の生イーストに求められる耐ストレス性付与するため、0 g/g-sugar(糖蜜抽出物無し)0.1 g/g-sugar添加(有価物画分X1)と0.5 g/g-sugar添加(有価物画分X5)した。また、陽性対照として糖蜜培地でも培
養を行った。これら培地で培養した時の生イーストの菌体収量を表4に示した。この結果、有価物画分X1は糖蜜培地よりは少し低いが、有価物画分無添加よりも大幅に高い菌体収量を示した。有価物画分X5は有価物画分無添加よりも1割程度菌体収量が多い程度で
増殖抑制が強かった。
【0091】
有価物画分X1は糖蜜培地よりも着色が少ないが、5倍量添加の有価物画分X5では強い着色が見られ、パン生地に着色の影響が出る可能性が考えられた。
【0092】
【表4】

【0093】
次に、上記で調製した生イーストを使用して、パン酵母発酵時にストレス負荷が強い高糖生地を使用してパン生地発酵能を評価した。なお、高糖生地とは小麦粉100gに対して砂糖30g添加した菓子パン用の生地である。通常の食パン等は小麦粉100gに対して砂糖5〜10g添加した低糖生地であるため、パン酵母へのストレス負荷(浸透圧ストレス)が弱く発酵能の差が出にくいからである。
【0094】
パン生地の発酵開始時の容量は140〜150ml程度であり、約3倍まで生地は膨らんだ。
【0095】
図6の結果から、有価物画分X1は有価物画分無添加より明らかに高い発酵能を示した。糖蜜培地よりは若干劣るものの、メスシリンダーによる膨張力測定は誤差が大きいため、ほぼ同程度の発酵力と思われる。一方、有価物画分無添加はほとんど発酵が進んでいないが、有価物画分X5では僅かに発酵能が上昇していた。しかしながら、有価物画分X1と比較して明らかに発酵力が劣っており、表3の菌体収量の結果も考慮すると、有価物画分X5はストレス耐性付与よりも、パン酵母の増殖や発酵能を抑制する効果が強いと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製糖工場又は甘蔗を原料とするエタノール製造工場ににおいて、a)甘蔗由来の糖蜜を水で希釈し芳香族系樹脂である合成吸着剤と接触させて含有成分の一部を吸着させる工程、b)前記の非吸着画分を発酵させエタノールを製造する工程、及びc)得られたエタノールを前記a)の吸着成分の溶出に使用する工程を含む、エタノール及び甘蔗由来の有価物を含む画分を並列して製造する方法。
【請求項2】
製糖工場又は甘蔗を原料とするエタノール製造工場において、a)甘蔗の圧搾汁を芳香族系樹脂である合成吸着剤と接触させて含有成分の一部を吸着させる工程、b)前記の非吸着画分から砂糖を製造した後に残る糖蜜を発酵させてエタノールを製造する工程、c)得られたエタノールを前記a)の吸着成分の溶出に使用する工程を含む、エタノール及び甘蔗由来の有価物を含む画分を並列して製造する方法。
【請求項3】
製糖工場又は甘蔗を原料とするエタノール製造工場において、a)甘蔗の圧搾汁を芳香
族系樹脂である合成吸着剤と接触させて含有成分の一部を吸着させる工程、b)前記の非吸着画分を発酵させてエタノールを製造する工程、c)得られたエタノールを前記a)の吸着成分の溶出に使用する工程を含む、エタノール及び甘蔗由来の有価物を含む画分を並列して製造する方法。
【請求項4】
成分の吸着及び溶出を、カラム温度20〜40℃にて行う請求項1乃至3記載の方法。
【請求項5】
エタノール製造工程で得られるエタノール−水混合質量割合が40/60〜99.9/0.1のエタノール液を吸着成分の溶出に用いるものである請求項1乃至4記載の方法
【請求項6】
甘蔗由来の有価物が、美白効果を示す請求項1乃至5記載の方法。
【請求項7】
美白効果がチロシナーゼ活性阻害効果である請求項6記載の方法。
【請求項8】
甘蔗由来の有価物が、パン酵母の高糖生地発酵能を促進させる効果を示す請求項1乃至5記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−229404(P2011−229404A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99806(P2010−99806)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(504180882)株式会社りゅうせき (2)
【出願人】(501190941)三井製糖株式会社 (52)
【Fターム(参考)】