説明

エタンジニトリルからシアン化水素を除去する方法

シアン化水素を含有するエタンジニトリルを有機試薬と接触させ共有結合を形成させてエタンジニトリルからシアン化水素を除去する方法。

【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
本発明はエタンジニトリルからシアン化水素を除去する方法に関する。
【0002】
ジシアンとしても知られるエタンジニトリルは無色で有毒なガスであり、甘い刺激臭と−21℃の沸点を有する。化学的には、その挙動はハロゲンのものに似ており、従って擬ハロゲンと称される。エタンジニトリルは多くの市販用最終製品の調製、たとえば肥料やニトリルの合成における重要な中間体である。加えて、エタンジニトリルは溶接技術における使用も見出す。これは最も高温と知られる炎(4640K)を上げて酸素と燃えるためである。さらにエタンジニトリルの使用分野は高性能燃料としての、ニトロセルロースの調製における安定剤としての、またはたとえば農地土壌の寄生生物を殺すためのとりわけ農業における若しくは物品の貯蔵における燻蒸剤としてのその使用である(WO 2005/037332, US 6,001,383)。
【0003】
エタンジニトリルを研究室ではシアン化水銀(II)を加熱することにより調製することができる。工業目的では、活性化二酸化ケイ素触媒上で塩素をまたは銅塩上で二酸化窒素を典型的に用いて、シアン化水素を酸化することにより通常得ている。あるいは、エタンジニトリルを銅(II)および鉄(II)塩の存在下での過酸化水素によるシアン化水素の触媒的酸化により製造することができ、たとえば DE 2 012 509, DE 2 022 454, DE 2 022 455 および DE 2 118 819 に記載されている。
【0004】
たとえばシアン化水素を酸化する上記方法のうちの1つにより得られたエタンジニトリルは、一般的に未変換のシアン化水素と、酸素、二酸化炭素または水のような副生成物をも含んでいる。エタンジニトリルの精製、特にシアン化水素の選択的で定量的な除去は、エタンジニトリルとシアン化水素との非常によく似た化学挙動のために極めて難しい。
【0005】
US 3,135,582 は酸素および酸化窒素を用いるシアン化水素の触媒的酸化によりエタンジニトリルを調製する方法を開示している。この反応は粗生成物として、エタンジニトリル、水、一酸化窒素、二酸化窒素、酸素およびシアン化水素の混合物を生じる。これらの成分のいくつかは非常に近似した融点と沸点を有し、単純な凝縮や蒸留により純粋なエタンジニトリルを得ることは難しい。従って、二酸化窒素とシアン化水素は溶け、一酸化窒素、酸素およびエタンジニトリルは同時には本質的に溶けない抽出溶媒とガス状の生成混合物をまず接触させる。続いて得られるガス混合物から凝縮によりエタンジニトリルを得る。
【0006】
US 3,135,582 に記載されている方法における純粋なエタンジニトリルの収率は比較的低い。さらに、シアン化水素を含有する抽出溶媒の環境に配慮した処分はかなり複雑である。特に、エタンジニトリルからのシアン化水素の十分な除去を保証するためには比較的大量の抽出溶媒を用いる必要があるためである。
【0007】
US 4,073,862 はガスからアンモニア、硫化水素およびシアン化水素を除去する方法を開示している。この方法では、ガスをまず塩基性溶液で洗浄して硫化水素とシアン化水素とを除去する。続いて硫化水素を硫黄元素にまで酸化して除去し、一方でシアン化物を含有する塩基性溶液を処理する必要がある。しかしこれらの塩基性条件下では、エタンジニトリルの加水分解は避けられないだろうから、記載されている方法はエタンジニトリルの精製には適さない。
【0008】
従って、エタンジニトリルからシアン化水素を除去するための環境に配慮しおよび高価でない方法であり、純粋なエタンジニトリルの収率が最高となる方法を提供することが本発明の目的である。
【0009】
この目的を請求項1に記載の方法により達成する。さらに好ましい実施形態が従属請求項の対象である。
【0010】
本発明は、シアン化水素を含有するエタンジニトリルを有機試薬と接触させることにより、エタンジニトリルからシアン化水素を除去する方法に関する。シアン化水素は有機試薬と共有結合する、すなわち適切な溶媒に単に溶けるだけでなく、用いた試薬と化学的に結合する。
【0011】
本発明によれば、用いる有機試薬は以下の一般式の化合物の1種以上である
【化1】

【0012】
ここでXはオキソ基またはイミノ基である;Rはアリール基、1ないし3個の炭素原子を有する直鎖若しくは分枝アルキル基、水素、カルボキシ基、カルボキシラート基またはホルミル基であり、およびRは水素、アリール基または1ないし3個の炭素原子を有する直鎖若しくは分枝アルキル基であり、但しRとRとは両方が水素ではない;またはRとRおよびこれらの間の炭素原子とは5ないし7員炭素環を形成し、これは任意に1つ以上の二重結合を有していてもよい。
【0013】
以下、「アリール」基という語は芳香族基またはヘテロ芳香族基、好ましくはフェニル基を意味し、これは置換されていないか、1つ以上のハロゲン原子および/または1ないし3個の炭素原子を有する直鎖若しくは分枝アルキル基若しくはアルコキシ基の1つ以上により置換されている。
【0014】
エタンジニトリルからのシアン化水素の除去は、シアン化水素に由来するシアン化物イオンの、有機試薬の求電子性C=X基への付加反応に基づく。これは炭素−炭素共有結合を形成する。対照的に、エタンジニトリルは上記有機試薬とは反応しない。この理由のため、本発明に従う方法によるシアン化水素の除去は非常に選択的であり、純粋なエタンジニトリルの収率は非常に高い。加えて、有機試薬を化学量論量用いればよい。つまり、溶媒を用いる吸着除去の場合のように過剰量は必要ではない。エタンジニトリルは本発明に従って用いられる有機試薬と反応しないので、固有の飽和に至るまでの溶媒の場合に起こるであろう製品損失もない。典型的に、精製しようとするエタンジニトリルはガス状であるが、液体または部分的に液体形態に冷やして精製することもできる。
【0015】
本発明に従って用いられる有機試薬は市販されており、比較的毒性がない。物質の状態によって、これらを液体として、溶かした形態で、または固体として用いることができる。有機試薬を液体として、または溶かした形態で用いる場合には、状況に応じて有機塩基または無機塩基を加えることもさらにできる。適切な塩基は、たとえばアミン、例としてトリエチルアミン、または他のアルカリ金属シアン化物、例としてシアン化ナトリウムである。塩基は除去されるべきシアン化水素をプロトン化し、生じるシアン化物イオンは一般式Iの化合物と反応してアニオン性付加生成物を生じた後、これは次々に塩基として反応する。塩基の添加を伴う反応の場合に、塩基の量は望み通りに選択してよいが、触媒量でも十分である。
【0016】
シアン化水素との反応は非常に速く通常は実質的に完了するため、シアン化水素を含有するエタンジニトリルが有機試薬を単に通過すれば十分である。このことは、本発明による方法を非常に迅速に、安価で、かついかなる煩雑さを伴うことなく行うことを可能にする。
【0017】
極めて毒性であるシアン化水素を有機試薬との反応により、はるかに毒性が低くほとんど有害でない生成物の形態に、とりわけシアノヒドリンまたはα−アミノニトリルにすることは本発明による方法のさらなる利点である。つまり、シアン化水素を選択的に洗い流すだけでなく、同時に無害な化合物に変換する。このことは環境に配慮した処分をかなり容易にする。生じるシアノヒドリンまたはアミノニトリルをたとえば焼却する、またはたとえば高圧下および/若しくは高温でのアルカリ加水分解において、ギ酸ナトリウムおよびアンモニアに変換することができる。あるいは、たとえば塩基の添加により、シアノヒドリンを、その生成反応とは逆にシアン化物およびカルボニル化合物に分解することもできる。所望する場合は、その後の酸性化によりシアン化水素および/またはカルボニル化合物を回収することができる。
【0018】
好ましい実施形態において、用いる有機試薬はカルボニル化合物、すなわちXがオキソ基である一般式Iの化合物である。
【0019】
がカルボキシ基(たとえばIaおよびId)、カルボキシラート基(たとえばIb)またはホルミル基(たとえばIc)であり、かつRが水素(たとえばIa−c)またはメチル基(たとえばId)であるカルボニル化合物が、有機試薬として特に好ましい。
【化2】

【0020】
化合物IaないしIdはシアン化物イオンに対して特に反応するため、付加反応は非常に迅速にかつ定量的に進行する。さらに、これら有機試薬は調製が非常に容易であるし、購入するにも安価である。化合物IaないしIdはその低い分子量にもかかわらず非揮発性であるため、輸送と貯蔵の間または本発明による方法を行う間のいずれでも、冷却手段を必要としない。よって予想される生成物のいかなる汚染もない。加えて、これら化合物は比較的毒性がなく、環境に配慮した方法で低レベルの複雑さで処理することができる。
【0021】
有機試薬としてシクロヘキサノンも特に好ましい。さらに塩基を加えてもよい。適切な塩基は、たとえばアミン、例としてトリエチルアミン、またはアルカリ金属シアン化物、例としてシアン化ナトリウムである。シクロヘキサノンは室温で液体であるため、希釈しない状態で容易に用いることができる。シクロヘキサノンはシアン化物イオンに対して特に反応性を有するため、付加反応は、塩基の添加を伴っても伴わずとも、非常に迅速にかつ定量的に進行する。さらに、毒性がなく、比較的安価で、輸送、貯蔵および処理はほとんど問題とならない。シクロヘキサノンは比較的高い沸点と低い蒸気圧を有するため、シクロヘキサノンによるエタンジニトリルの汚染は起こらない。
【0022】
最も好ましい実施形態において、用いる有機試薬はグリオキシル酸Ia若しくはグリオキシル酸の塩Ib、またはIaおよびIbの混合物である。グリオキシル酸の好ましい塩はグリオキシル酸アルカリ金属塩またはグリオキシル酸アルカリ土類金属塩であり、グリオキシル酸ナトリウムまたはグリオキシル酸カリウムが非常に好ましい。
【0023】
これら有機試薬は好ましくは水溶液状態で用い、この場合に塩基、好ましくは水酸化ナトリウムをさらに加えてもよい。グリオキシル酸およびグリオキシラートへのシアン化水素の付加は、とりわけグリオキシラートについて非常に迅速でかつ定量的である。グリオキシル酸と付加生成物との両方は容易に水に溶けるため、反応容器に沈殿が生じず、これは信頼できる方法を保証する。グリオキシル酸は比較的高い融点(半水和物:70〜75℃;無水物:98℃)を有しかつ水溶性であるため、本発明による方法を比較的広い温度範囲で、有機試薬による生成ガスの汚染のいかなるリスクを伴うことなく行うことができる。揮発性有機溶媒を用いる既知の方法と対照的に、冷却または加熱を必要としない。さらに、シアン化水素と反応する試薬のpHを反応中に制御する必要がないため、本発明による方法は、pH調節の煩雑さなしに行うことができる。エタンジニトリルからシアン化水素を除去するために本発明による方法においてグリオキシル酸を用いる場合は、純粋なエタンジニトリルの収率はとりわけ高い。
【0024】
さらに最も好ましい実施形態において、用いる有機試薬はグリオキサールIcである。グリオキサールは市販されていて、安価で、および非常に良好な求電子物質として、シアン化物イオンの付加に適した基質を構成する。反応は迅速にかつ高変換で進行する。シアノヒドリンはグリオキサールにより加水分解を通じてギ酸ナトリウムとアンモニアに十分に変換されるため、この化合物は加水分解による処理に特に適する。
【0025】
同様に最も好ましい実施形態において、用いる有機試薬はピルビン酸Idである。ピルビン酸を塩基の添加を伴っても伴わずとも用いることができる。適切な塩基は、たとえば、アミン、例としてトリエチルアミン、またはアルカリ金属シアン化物である。これらは同様にシアン化物イオンに対して高い反応性を有し、従って付加反応は迅速にかつ高変換で進行する。ピルビン酸は市販されており、安価で毒性がない。その貯蔵、輸送および処理に必要とされる特別な要件はない。
【0026】
上記したカルボニル化合物の代わりに、化学的にシアン化水素を結合させるのに用いる有機試薬はイミン、すなわちXがイミノ基である一般式Iの化合物であってもよい。RとRはより好ましくはそれぞれアリール基であり、ベンゾフェノンイミン(X=NH,R=R=フェニル)で、任意に有機溶媒に溶解させたものの使用が最も好ましい。ベンゾフェノンイミンは高い沸点を有する液体であり、従って広い温度範囲内で、予想される生成物のあらゆる汚染を伴わずに作用することができる。ベンゾフェノンイミンは市販されており、毒性がない。必要とされるその貯蔵、輸送および処理についての特別な要件はない。
【0027】
好ましい実施形態において、式Iの有機試薬を水溶液の形態で用いる。このことは、本発明による方法を行う温度よりも高い融点を有する有機試薬の場合にとりわけ有利である。水溶液を用いると、シアン化水素と有機試薬との間の接触を最適にし、よってエタンジニトリルからのシアン化水素の定量的な除去を保証する。加えて、水を使用すると安価で環境を考慮した処理を可能とする。
【0028】
さらに好ましい実施形態において、式Iの有機試薬を有機溶媒中の、とりわけ高い沸点と高い蒸気圧とを有する有機溶媒中の溶液の形態で用いる。用いる有機溶媒は、たとえば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、メシチレン、イソプロピルトルエン、ヘプタン、デカリン、ベンゾニトリル、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ジメチルスルホキシド、ブチロニトリル、イソブチロニトリル、ジクロロエタン、ジオキサン、クメン、メチルシクロヘキサン、プロパンニトリル、ジブチルエーテル、ジ−tert−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテルまたは高沸点石油エーテルであってよい。ベンゼン、トルエン、キシレンおよび高沸点石油エーテルが特に適している。有機溶媒の使用は、本発明による方法を行う温度よりも融点が高い有機試薬の場合にとりわけ有利である。溶液を用いると、シアン化水素と有機試薬との間の接触を最適にし、従ってエタンジニトリルからのシアン化水素の定量的な除去を保証する。
【0029】
本発明はさらに、エタンジニトリルからシアン化水素を除去するためのグリオキシル酸、グリオキシル酸の塩またはこれらの混合物の使用にも関する。上記した通り、グリオキシル酸またはグリオキシル酸のアルカリ金属塩若しくはアルカリ土類金属塩、好ましくはグリオキシル酸カリウムまたはグリオキシル酸ナトリウムが特に適している。シアン化水素の付加が非常に速く定量的であるためである。グリオキシル酸および/またはグリオキシラートと付加生成物との両方は良好な水溶性を有するため、反応はいかなる沈殿をも生じない。グリオキシル酸は比較的高い融点(半水和物:70〜75℃;無水物:98℃)を有するので、本発明による方法を比較的広い温度範囲内で、有機試薬による生成ガスの汚染のあらゆるリスクを伴わずに行うことができる。さらに、反応中にシアン化水素と反応する試薬のpHを制御する必要はなく、その結果本発明による方法をあらゆる非常に煩雑なpH調節を伴うことなく行うことができる。グリオキシル酸および/またはグリオキシラートを本発明による方法で用いる場合に、エタンジニトリルの収率は特に高い。
【0030】
好ましい実施形態において、本発明による方法により得られるシアン化水素を除去したエタンジニトリルを乾燥および/または凝縮若しくは逆昇華する。
【0031】
乾燥、すなわち水の除去については、シアン化水素を除去したエタンジニトリルを好ましくは収着剤と接触させる。適切な収着剤は、たとえば、シリカゲル、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、酸化カルシウム、ソーダ石灰、酸化バリウム、炭酸カリウム、五酸化リンまたはモレキュラーシーブである。あるいは、エタンジニトリルから水を凍結することにより除去することもできる。
【0032】
エタンジニトリルの凝縮または逆昇華(desublimation)はとりわけ二酸化炭素を除去するために用いる。この目的のため、シアン化水素を除去し、必要ならば乾燥させたエタンジニトリルを、エタンジニトリルは液化または凝固するが、二酸化炭素は液化または凝固しない温度に冷やす。こうして、相の単純な分離は二酸化炭素をエタンジニトリルから分離することを可能とする。凝縮または凍結は好ましくは標準圧力または高圧で、たとえば約1ないし15barの間で、および−78℃から30℃までの温度、とりわけ−78℃から20℃までの温度で行う。
【0033】
本発明による方法においては、シアノヒドリンまたはアミノニトリルを置換基Xの種類によって生じる、すなわちXがオキソ基である場合にはシアノヒドリンが、Xがイミノ基である場合にはアミノニトリルが生じる。
【0034】
好ましい実施形態において、生成して除去されたシアノヒドリンまたはアミノニトリルは、その後のアルカリ加水分解において、ギ酸塩およびアンモニアに変換される。好ましくは、アルカリ加水分解を、その後ギ酸のナトリウム塩を生じる水酸化ナトリウムを用いて行う。
【0035】
同様に好ましい実施形態において、生じたシアノヒドリンは、その後の工程において、カルボニル化合物へ、並びにシアン化水素および/またはシアン化物へ改質される。
【0036】

例1:エタンジニトリルの調製およびグリオキシル酸ナトリウムでの精製
温度制御ジャケット、スターラー、還流冷却器、pHメーターおよび2つの投薬システムを有する2Lの撹拌器(Labmax)にて、25.3gの硫酸鉄(III)水和物と24.7gの硫酸銅(II)五水和物を308mLの水に溶かした。120分以内で、100gのシアン化水素(100%)と209gの過酸化水素(30%)を同時に20℃の温度で滴下して加えた。
【0037】
反応中に生じたガスは以下の組成を有した(ガス−クロマトグラフ分析):
エタンジニトリル: 90.0%
シアン化水素: 1.00%
水: 0.60%
二酸化炭素: 8.40%。
【0038】
水酸化ナトリウム水溶液とグリオキシル酸水溶液から調製した10%グリオキシル酸ナトリウム水溶液を含むガス洗浄器にガス混合物を通した後、乾燥のため、モレキュラーシーブ(3Å)を備えるガス洗浄瓶に通した。これらの洗浄および乾燥工程後に、エタンジニトリルガスは以下の組成を有した(ガス−クロマトグラフ分析による):
エタンジニトリル: 90.0%
シアン化水素: −
水: −
二酸化炭素: 10.0%。
【0039】
このように得られたエタンジニトリルを−78℃にて冷却トラップにおいて選択的に凍結させた。20%水酸化カリウム水溶液を含む下流の吸収器にてガス状二酸化炭素の流出を監視した。
純粋なエタンジニトリルの収量は71g(66%)であった。
【0040】
例2:エタンジニトリルの調製およびグリオキシル酸での精製
温度制御ジャケット、スターラー、還流冷却器、pHメーターおよび2つの投薬システムを有する2Lの撹拌器(Labmax)にて、7.5gの硫酸鉄(III)水和物と7.5gの硫酸銅(II)五水和物を308mLの水に溶かした。120分以内で、136gのシアン化水素(100%)と288gの過酸化水素(30%)を同時に20℃の温度で滴下して加えた。
【0041】
反応中に生じたガスは以下の組成を有した(ガス−クロマトグラフ分析による):
エタンジニトリル: 90.40%
シアン化水素: 4.40%
水: 0.58%
二酸化炭素: 4.60%。
【0042】
10%グリオキシル酸水溶液を含むガス洗浄器にガス混合物を通した後、乾燥のため、モレキュラーシーブを備えたガス洗浄瓶に通した。これら洗浄および乾燥工程後に、エタンジニトリルガスは以下の組成を有した(ガス−クロマトグラフ分析による):
エタンジニトリル: 93.20%
シアン化水素: 0.80%
水: −
二酸化炭素: 6.00%。
【0043】
このように得られたエタンジニトリルを−78℃にて冷却トラップにおいて選択的に凍結させた。20%水酸化カリウム水溶液を含む下流の吸収器にてガス状二酸化炭素の流出を監視した。
純粋なエタンジニトリルの収量は103g(76%)であった。
【0044】
例3:エタンジニトリルの調製およびシクロヘキサノンでの精製
温度制御ジャケット、スターラー、還流冷却器、pHメーターおよび2つの投薬システムを有する2L撹拌器(Labmax)にて、25.3gの硫酸鉄(III)水和物および24.7gの硫酸銅(II)五水和物を308mLの水に溶かした。120分以内に、100gのシアン化水素(100%)と251gの過酸化水素(30%)を同時に15℃の温度にて滴下して加えた。
【0045】
38.3mLのシクロヘキサノンと0.5gのシアン化ナトリウムを含むガス洗浄器に反応で生じたガス混合物を通した後、−10℃に冷却した還流冷却器に通した。これら洗浄および乾燥工程後、エタンジニトリルを60%の収率で、以下の組成(ガスクロマトグラフ分析による)にて得た:
エタンジニトリル: 79.71%
シアン化水素: 0.68%
水: −
二酸化炭素: 19.58%。
【0046】
例4:エタンジニトリルの調製およびシクロヘキサノンでの精製
温度制御ジャケット、スターラー、還流冷却器、pHメーターおよび2つの投薬システムを有する2L撹拌器(Labmax)にて、25.3gの硫酸鉄(III)水和物と24.7gの硫酸銅(II)五水和物を308mのL水に溶かした。120分以内に、100gのシアン化水素(100%)と251gの過酸化水素(30%)を同時に15℃の温度で滴下して加えた。
【0047】
38.3mLのシクロヘキサノンと1.1gのトリエチルアミンを含むガス洗浄器に反応で生じたガス混合物を通した後、−10℃に冷却した還流冷却器に通した。これらの洗浄および乾燥工程後、エタンジニトリルを66%の収率で以下の組成(ガス−クロマトグラフ分析による)にて得た:
エタンジニトリル: 83.84%
シアン化水素: 0.06%
水: −
二酸化炭素: 16.10%。
【0048】
例5:エタンジニトリルの調製およびグリオキサールでの精製
温度制御ジャケット、スターラー、還流冷却器、pHメーターおよび2つの投薬システムを有する2L撹拌器(Labmax)にて、2.5gの硫酸鉄(III)水和物と2.5gの硫酸銅(II)五水和物を308mLの水に溶かした。90分以内で、100gのシアン化水素(100%)と126.4gの過酸化水素(50%)を同時に20℃の温度で滴下して加えた。
【0049】
反応中に生じたガスは以下の組成を有した(ガス−クロマトグラフ分析による):
エタンジニトリル: 89.00%
シアン化水素: 3.50%
水: 0.60%
二酸化炭素: 6.80%。
【0050】
40%グリオキサール水溶液を含むガス洗浄器にガス混合物を通した後、乾燥のため、モレキュラーシーブを備えた乾燥塔に通した。これらの洗浄および乾燥工程後、エタンジニトリルを66%収率で以下の組成(ガス−クロマトグラフによる)にて得た:
エタンジニトリル: 95.00%
シアン化水素: 0.70%
水: −
二酸化炭素: 4.30%。
【0051】
例6:エタンジニトリルの調製およびピルビン酸による精製
温度制御ジャケット、スターラー、還流冷却器、pHメーターおよび2つの投薬システムを有する2L撹拌器(Labmax)にて、2.5gの硫酸鉄(III)水和物と2.5gの硫酸銅(II)五水和物を308mLの水に溶かした。150分以内で、100gのシアン化水素(100%)と126gの過酸化水素(50%)を同時に20℃の温度で滴下して加えた。
【0052】
反応中に生じたガスは以下の組成を有した(ガス−クロマトグラフ分析による):
エタンジニトリル: 92.00%
シアン化水素: 1.70%
水: 1.00%
二酸化炭素: 5.30%。
【0053】
ピルビン酸を含むガス洗浄器にガス混合物を通した後、乾燥のため、モレキュラーシーブを備えた乾燥塔に通した。洗浄および乾燥工程後、エタンジニトリルを71%収率で以下の組成(ガス−クロマトグラフ分析による)にて得た:
エタンジニトリル: 97.50%
シアン化水素: 0.30%
水: −
二酸化炭素: 2.20%。
【0054】
例7:エタンジニトリルの調製およびピルビン酸での精製
温度制御ジャケット、スターラー、還流冷却器、pHメーターおよび2つの投薬システムを有する2L撹拌器(Labmax)にて、2.5gの硫酸鉄(III)水和物と2.5gの硫酸銅(II)五水和物を308mLの水に溶かした。120分以内で、100gのシアン化水素(100%)と126gの過酸化水素(50%)を同時に20℃の温度で滴下して加えた。
【0055】
反応中で生じたガスは以下の組成を有した(ガス−クロマトグラフ分析による):
エタンジニトリル: 85.00%
シアン化水素: 2.20%
水: 0.80%
二酸化炭素: 12.00%。
【0056】
250gのピルビン酸と20gのトリエチルアミンを含むガス洗浄器にガス混合物を通した後、乾燥のため、モレキュラーシーブを備えた乾燥塔に通した。これらの洗浄および乾燥工程後、エタンジニトリルを54%収率で以下の組成(ガス−クロマトグラフ分析による)にて得た:
エタンジニトリル: 94.40%
シアン化水素: 0.30%
水: −
二酸化炭素: 5.20%。
【0057】
例8:エタンジニトリルの調製およびベンゾフェノンイミンでの精製
温度制御ジャケット、スターラー、還流冷却器、pHメーターおよび2つの投薬システムを有する2L撹拌器(Labmax)にて、2.5gの硫酸鉄(III)水和物と2.5gの硫酸銅(II)五水和物を308mLの水に溶かした。150分以内で、100gのシアン化水素(100%)と126gの過酸化水素(50%)を同時に20℃の温度で滴下して加えた。
【0058】
反応中で生じたガスは以下の組成を有した(ガス−クロマトグラフ分析による):
エタンジニトリル: 95.30%
シアン化水素: 1.70%
水: 0.55%
二酸化炭素: 2.45%。
【0059】
25gのベンゾフェノンイミンと260mLの石油エーテルを含むガス洗浄器にガス混合物を通した後、乾燥のため、モレキュラーシーブを備えた乾燥塔に通した。これらの洗浄および乾燥工程後、エタンジニトリルは微量の石油エーテルと共に得られ、以下の組成を有した(ガス−クロマトグラフ分析による):
エタンジニトリル: 96.50%
シアン化水素: 1.30%
水: −
二酸化炭素: 2.20%。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアン化水素を含有するエタンジニトリルを有機試薬と接触させることによりエタンジニトリルからシアン化水素を除く方法であり、シアン化水素が前記有機試薬と共有結合すること、および前記有機試薬は以下の一般式の化合物の1種以上を含むことを特徴とする方法。
【化1】

(ここで
Xはオキソ基またはイミノ基である;
はアリール基、1ないし3個の炭素原子を有する直鎖若しくは分枝アルキル基、水素、カルボキシ基、カルボキシラート基またはホルミル基であり、および
は水素、アリール基または1ないし3個の炭素原子を有する直鎖若しくは分枝アルキル基であり、但しRとRとは両方が水素ではない;または
とRおよびこれらの間の炭素原子とは5ないし7員炭素環を形成し、これは任意に1つ以上の二重結合を有していてもよい。)
【請求項2】
Xがオキソ基であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
がカルボキシ基、カルボキシラート基またはホルミル基であり、Rが水素またはメチル基であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記有機試薬がシクロヘキサノンであることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記有機試薬がグリオキシル酸、グリオキシル酸の塩またはこれら上記試薬の混合物であることを特徴とする請求項2または3に記載の方法。
【請求項6】
前記有機試薬がグリオキサールであることを特徴とする請求項2または3に記載の方法。
【請求項7】
前記有機試薬がピルビン酸であることを特徴とする請求項2または3に記載の方法。
【請求項8】
Xがイミノ基であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
およびRそれぞれがアリール基であることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記有機試薬を水溶液の形態で、任意に塩基を添加して用いることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記有機試薬を有機溶媒中の溶液の形態で、任意に塩基を添加して用いることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
シアン化水素を除いたエタンジニトリルを乾燥および/または凝縮若しくは逆昇華することを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
生じたシアノヒドリンまたはアミノニトリルを、その後のアルカリ加水分解において、ギ酸塩およびアンモニアに変換することを特徴とする請求項1ないし12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
生じたシアノヒドリンを、その後の工程において、カルボニル化合物へ、並びにシアン化水素および/またはシアン化物へ改質することを特徴とする請求項1ないし7および請求項10ないし12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
エタンジニトリルからシアン化水素を除くための、グリオキシル酸、グリオキシル酸の塩またはこれら上記試薬の混合物の使用。

【公表番号】特表2012−506358(P2012−506358A)
【公表日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−532508(P2011−532508)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【国際出願番号】PCT/EP2009/006658
【国際公開番号】WO2010/046004
【国際公開日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【出願人】(398075600)ロンザ アーゲー (58)