説明

エダラボン液剤

【課題】 従来のエダラボン製剤に比べ、より有効に類縁物質の生成を抑制しうる液剤を提供すること。
【解決手段】 エダラボンと、メチオニン及び/又はポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールとを含有することを特徴とするエダラボン液剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエダラボン液剤に関し、更に詳細には、安定性が高く類縁物質が発生しにくいエダラボン液剤に関する。
【背景技術】
【0002】
エダラボン(3−メチル−1−フエニル−2−ピラゾロン−5−オン)は、脳保護剤(フリーラジカルスカベンジャー)として、脳卒中、脳腫瘍、頭部外傷の急性期にしばしば見られる脳虚血、脳浮腫等の脳血管障害の治療薬として用いられている化合物である。
【0003】
しかしこのエダラボンは、水溶液とした場合、溶存酸素により容易に酸化をうけ、ピラゾロン誘導体の3量体やフェニルヒドラジン等の類縁物質を生成することが知られており、このような類縁物質の生成を防止した製剤がいくつか報告されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、システインを使用したエダラボン製剤の安定化が開示されており、現在、非特許文献1に記載されているように、市場で流通しているエダラボン注射剤(商品名:ラジカット注30mg(田辺三菱製薬株式会社製))について利用されている。またそのほか、特許文献2には、エタノールやキレート剤を利用した高含量エダラボン製剤がそれぞれ開示されている。
【0005】
また、特許文献3や4にはエタノール及び亜硫酸塩を使用した高含量エダラボン製剤、特許文献5には亜硫酸イオン及び等張化剤のみを使用したエダラボン製剤、特許文献6にはポリエチレングリコール、システイン、EDTAを含有したエダラボン製剤がそれぞれ開示されている。
【0006】
更に特許文献7には、バッグ化されたエダラボン製剤が開示されている。
【0007】
しかしながら、これらの技術でも完全に類縁物質の生成を防止したものとは言い難く、より優れたエダラボン製剤の提供が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平7−121861号
【特許文献2】再公表2002/092082号
【特許文献3】特開2006−257020号
【特許文献4】特開2008−1606号
【特許文献5】特開2008−1607号
【特許文献6】特開2008−280253号
【特許文献7】再公表2007/055312号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】ラジカット注30mg インタビューフォーム
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来のエダラボン製剤に比べ、より有効に類縁物質の生成を抑制しうる液剤の提供をその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、水溶液中においてエダラボンから類縁物質の生成を防止しうる物質について種々検討を行っていたところ、アミノ酸であるメチオニンや界面活性剤であるポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールが類縁物質の生成の防止に有効であることを見いだし、本発明を完成した。
【0012】
すなわち本発明は、エダラボンと、メチオニン及び/又はポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールとを含有することを特徴とするエダラボン液剤である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のエダラボン液剤は、従来の液剤であるエダラボン製剤よりも類縁物質が生成しにくく、より安定で安全な医薬として利用しうるものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のエダラボン液剤において、主剤として使用されるエダラボンは、下式(I)
【化1】

で表される公知化合物である。
【0015】
本発明の液剤においては、上式(I)で表される遊離形態の化合物のほか、その生理学的に許容される塩を用いてもよい。生理学的に許容される塩の例としては、その水和物塩や、塩酸、硫酸、臭化水素塩、リン酸等の鉱酸との塩、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸、リンゴ酸、フマル酸等の有機酸との塩、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩、マグネシウム等のアルカリ土類金属との塩、アンモニア、エタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール等のアミンとの塩が挙げられる。
【0016】
一方、類縁物質の生成を抑制する添加成分として用いられる成分のうちメチオニンは、周知のアミノ酸であり、L−メチオニン等市販されているもの等を適宜使用することができる。
【0017】
また、添加成分として用いられる成分のうちポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールは、主にオキシエチレンとオキシプロピレンが共重合して得られる化合物である。この共重合におけるオキシエチレンとオキシプロピレンの割合は、オキシエチレン1モルに対し、オキシプロピレン0.001ないし10モル程度であり、好ましくは0.05ないし1モルであり、更に好ましくは0.1ないし0.5モル程度である。更に、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールの分子量は、2,000ないし20,000であり、7,500ないし10,000程度であることが好ましい。
【0018】
このポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールは、ポロクサマーもしくはプルロニックとして市販されているので、これらを用いても良い。より具体的には、ポロクサマー188、ポロクサマー237、ポロクサマー238、ポロクサマー338、ポロクサマー403、ポロクサマー407、プルロニックF68、プルロニックF127、プルロニックP123、プルロニックL31、プルロニックL44、プルロニックP85、プルロニックF87等が使用できる。
【0019】
本発明のエダラボン液剤は、常法に従い、主剤であるエダラボンと、添加成分であるメチオニン及び/又はポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールとを精製水中に加え、エダラボンが完全に溶解するまで攪拌することにより調製される。
【0020】
この液剤中におけるエダラボンの濃度は、0.01ないし100mg/ml、好ましくは、0.05ないし50mg/ml、更に好ましくは、0.15ないし30mg/mlであり、最良の形態としては、1ないし5mg/mlが挙げられる。また、添加成分であるメチオニンの濃度は、0.0005ないし1mg/ml、好ましくは、0.001ないし0.5mg/ml、更に好ましくは、0.003ないし0.2mg/mlであり、最良の形態としては、0.005ないし0.02mg/mlが挙げられる。更に、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールの濃度は、0.001ないし10mg/ml、好ましくは、0.005ないし5mg/ml、更に好ましくは0.01ないし2mg/mlであり、最良の形態としては、0.05ないし0.5mg/mlである。
【0021】
また、本発明の液剤には、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で一般的に利用しうる添加剤を加えることができる。この添加剤の例としては、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩等が挙げられる。このうち、亜硫酸塩としては、亜硫酸水素ナトリウム(NaHSO)、亜硫酸ナトリウム(NaSO)、亜硫酸カリウム(KSO)、亜硫酸カルシウム(CaSO)等が、亜硫酸水素塩としては、亜硫酸水素カリウム(KHSO),亜硫酸水素アンモニウム(NHSO)等が、ピロ亜硫酸塩としては、ピロ亜硫酸ナトリウム(Na)、ピロ亜硫酸カリウム(K)等をそれぞれ挙げることができる。
【0022】
また、添加剤の別の例として、リン酸、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム等のリン酸系物質や、pH調整剤等を挙げることができる。
【0023】
かくして得られるエダラボン液剤は、酸素を極力除去した密閉容器に充填することにより製品とすることができる。具体的にはガラス、金属性容器、遮断性のよいプラスチック容器等が使用できる。また、酸素を除去させるためには、一般的に使用されている方法であれば特段問題ないが、具体的には窒素で置換する方法、脱酸素剤を使用する方法などが挙げられる。
【実施例】
【0024】
以下に実施例及び試験例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例等により何ら制約されるものではない。
【0025】
実 施 例 1
表1に示す処方および下記製法により、本発明品および比較品のエダラボン液剤を製造した。
【0026】
( 処 方 )
【表1】

【0027】
( 製 法 )
表1に示す量のエダラボン及び他の成分を注射用水に溶解させた後、ろ過滅菌を行った。その後、20ml容のガラス製アンプルに充填、封入してエダラボン液剤を調製した。
【0028】
試 験 例 1
実施例1で得た各液剤について、60℃で保存し、それぞれ7日後及び21日後の類縁物質を下記の条件の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて測定した。また、この試験には現在市販されているエダラボン液剤(対照品1)についても類縁物質量を測定した。保存7日後の結果を表2に、保存21日後の結果を表3に示す。なお、各表において総類縁物質含量は、以下のようにして求めた。
総類縁物質含量(%) = A / B × 100
A:異種ピークの総面積(エダラボンを含む液剤と含まない液剤について、保存
実験を行った際に、エダラボン含有液剤には認められ、エダラボン非含有液
剤には認められないエダラボン類縁物のピークの総面積)
B:エダラボンの面積(1%エダラボンのみをHPLCにて測定した際のピーク
面積)
【0029】
(HPLC条件)
検出器: 紫外吸光光度計(測定波長:240nm)
カラム: オクタデシルシリル化シリカゲル(4mm×15cm)
移動相: 酢酸(100)1.72mLを水3000mLに溶かした水溶液/メタノー
ル混液(3:1)をアンモニア水(28)でpH5.5に調整した溶液
【0030】
( 結 果 )
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
これらの結果から明らかなように、従来安定化剤として用いられていたシステインを配合した比較品1や、市販品である対照品1に比べ、メチオニンを配合した本発明品1、2やポロクサマー(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール)を配合した本発明品3、4は、明らかに類縁物質の生成が少なかった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明のエダラボン液剤は、従来のものに比べ、類縁物質の生成量がより少ないものである。
【0034】
従って、より安全性の高い脳保護剤として有利に利用しうるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エダラボンと、メチオニン及び/又はポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールとを含有することを特徴とするエダラボン液剤。
【請求項2】
エダラボンが完全に溶解したものである請求項1記載のエダラボン液剤。
【請求項3】
エダラボンを1ないし5mg/mlで含有する請求項1または2記載のエダラボン液剤。
【請求項4】
メチオニンを0.005ないし0.02mg/mlで含有する請求項1ないし3のいずれかの項記載のエダラボン液剤。
【請求項5】
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールを0.05ないし0.5mg/mlで含有する請求項1ないし4のいずれかの項記載のエダラボン液剤。
【請求項6】
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールが、1モルのオキシエチレンに対し、0.1ないし0.5モルのオキシプロピレンを共重合させることにより得られたものである請求項5記載のエダラボン液剤。
【請求項7】
更に、亜硫酸イオン生成物質を配合する請求項1ないし6のいずれかの項記載のエダラボン液剤。
【請求項8】
更に、リン酸イオン生成物質を配合する請求項1ないし7のいずれかの項記載のエダラボン液剤。


【公開番号】特開2011−32220(P2011−32220A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−180432(P2009−180432)
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【出願人】(000208145)大洋薬品工業株式会社 (29)
【Fターム(参考)】