説明

エチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物

【課題】
本発明の目的は、従来のエチル−2−シアノアクリレート系接着剤が有しているこれらの問題点、すなわち刺激臭、白化現象を従来よりも大幅に改善したエチル−2−シアノアクリレート系接着剤組成物を提供することにある。
【解決手段】
アクリロニトリルの含有量が、50ppm以下であることを特徴とするエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物により、刺激臭、白化現象を従来よりも大幅に改善したエチル−2−シアノアクリレート系接着剤組成物を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白化現象及び臭気の少ないエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エチル−2−シアノアクリレートを主成分とするシアノアクリレート接着剤組成物は、その高いアニオン重合性により、被着体表面や空気中の水分等のアニオン種によって短時間で重合硬化し各種材料を接着させるため、瞬間接着剤として電子、電気、自動車などの各種産業界、レジャー分野及び一般家庭で広く用いられている。しかし、これらのエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物を使用した時に、被着体からはみ出した未硬化のエチル−2−シアノアクリレートが揮発し、接着部周辺で白化を伴う重合をしながら再付着するいわゆる白化現象を発生させる事がある。この白化現象により、被着体の外観を損ねるという問題が生ずる。また、白化現象以外にも揮発したエチル−2−シアノアクリレートによる刺激臭も長時間、大量に使用した場合に問題となることが多い。
【0003】
上記課題を解決する方法として、アルコキシアルキル−2−シアノアクリレート、例えばメトキシエチル−2−シアノアクリレート、エトキシエチル−2−シアノアクリレートなどを用いるという試みが報告されているが(特許文献1)、刺激臭、白化現象共に改善は、見られてはいるものの十分ではないうえにエチル−2−シアノアクリレートと比べて非常に高価であるという欠点がある。また、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート由来の2−シアノアクリレート等、不飽和エステルをもつモノマーを用いる方法も提案されているが(特許文献2)、この不飽和エステルをもつモノマーは無臭、無白化の特性を有するが、重合性の高い官能基を有することから、熱や光などで重合が起きやすく生産性および貯蔵性に問題があり、さらにこれらの化合物は皮膚等に対し刺激性が強いので、原料及び製品を取扱うときに格別な注意を払わなければならないという別の問題を発生させている。加えて、このものもエチル−2−シアノアクリレートと比べて非常に高価であるという欠点がある。経済的に優位なエチル−2−シアノアクリレートを主成分とするシアノアクリレート接着剤組成物においては、いまだ、刺激臭、白化現象の改善において満足の得られる性能を持つものは見出されていない。
【0004】
【特許文献1】昭55−151074号公報
【特許文献2】特表平8−505383号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、従来のエチル−2−シアノアクリレート系接着剤が有しているこれらの問題点、すなわち刺激臭、白化現象を従来よりも大幅に改善したエチル−2−シアノアクリレート系接着剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑み、エチル−2−シアノアクリレートの製造過程で生じる分解物が白化現象及び臭気に与える影響について鋭意検討した結果、ある特定の有機低沸点化合物の含量が多い場合は、刺激臭及び白化現象が増大することを突き止め、当該有機低沸点化合物の含量を規定量以下にすることで、刺激臭及び白化現象が著しく低減することを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち本発明は、下記(1)を提供するものである。
(1)アクリロニトリルの含有量が、50ppm以下であることを特徴とするエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物は、エチル−2−シアノアクリレート中に存在する特定の有機低沸点化合物の含有量を制御することにより、刺激臭や白化現象を従来よりも大幅に改善したエチル−2−シアノアクリレート系接着剤組成物を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の特定の有機低沸点化合物とは、アクリロニトリルである。アクリロニトリルは、エチル−2−シアノアクリレートの製造過程において発生する分解物であり、この分解物であるアクリロニトリルの含有量を低減した場合に刺激臭や白化現象を改善する効果が大きい。アクリロニトリルの含有量としては、50ppm以下であり、20ppm以下であれば、より好ましい。また、アクリロニトリルの含有量を工業的に1ppm未満にする事は難しく、1ppmまで減少すれば充分な効果が得られる。
【0010】
ここでいうアクリロニトリルとの含有量とは、以下の方法によって測定、算出される数値を指す。
[エチル−2−シアノアクリレート中のエタノールとアクリロニトリルの含有量の測定方法]
測定方法としてはエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物をバイアル瓶に封入し、気化させたものを採取し、エタノールとアクリロニトリルを標準物質に用いた絶対検量線法により、定量したものである。
ガスクロマトグラフィー測定条件
装置:島津製作所製GC−14A
カラム:ガラスカラム 外径5mm、内径2.6mm、長さ3.1m
GC充填剤:PEG6000
温度条件:70℃
注入口温度:180℃、検出器温度:180℃
キャリアーガス:ヘリウム
検量線作成方法:流動パラフィンに任意の量のアクリロニトリル、エタノールを秤量したサンプルを調整し、20mLバイアル瓶にサンプルを1g封入する。100℃恒温槽内で15分間暴露し、気相部1mLを上記条件のガスクロマトグラフィーに供する。得られたピーク面積からエタノールとアクリロニトリルの検量線を作成した。
エチル−2−シアノアクリレート中のエタノールとアクリロニトリルの含有量の測定方法:
エチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物をバイアル瓶に封入し、
検量線作成時と同じ条件である100℃恒温槽内で15分間暴露し、気相部1mLを上記条件のガスクロマトグラフィーに供する。
エタノールとアクリロニトリルのピークは、得られたピークからGCMSにより同定を行い決定される。エタノールとアクリロニトリルのピーク面積を検量線に照らし合わせてそれぞれの含有量を算出する。
【0011】
エチル−2−シアノアクリレート中の有機低沸点化合物を低減させる方法としては、一般的に蒸留精製を行う方法が挙げられるが、単蒸留による方法では有機低沸点化合物の除去は困難である。棚段塔や充填塔を用いて行う蒸留方法では、高温で長時間暴露されることにより、蒸留中にエチル−2−シアノアクリレートの分解反応を生じ、結果としてエタノールやアクリロニトリルが増加する傾向がある。従って、本発明の特定の有機低沸点化合物であるアクリロニトリルを低減させるには、分解物が生じしにくい方法をとる必要がある。例えば、熱暴露の小さい、減圧下で窒素を吹き込み、バブリングを行いながら脱気し、エチル−2−シアノアクリレートの分解物である有機低沸点化合物を効果的に除去する方法、蒸留時に有機低沸点化合物を含む初留分を除去して得たエチル−2−シアノアクリレートに前記バブリングを行いながら脱気する方法、等が挙げられる。
【0012】
脱気方法としては、通常、減圧度100〜10000Pa、好ましくは、減圧度200〜5000Pa、さらに好ましくは、減圧度300〜2000Paで不活性ガスを吹込み、バブリングをさせながら行う。減圧度が100Paより低い場合は、脱気温度を5℃以下に設定しないとシアノアクリレートモノマーが留出するおそれがあり、減圧度が10000Paより高い場合は、脱気温度を50℃以上に設定しないとバブリングが少なくなり、アクリロニトリルを除去する能力が低減する傾向がある。脱気温度としては、通常5〜50℃、好ましくは10〜45℃、さらに好ましくは、15〜40℃で行う。脱気温度を5℃未満にした場合は、温度制御に時間を要するため経済性を損ない、脱気温度を50℃より高くした場合は、脱気中に分解反応を生じ、結果としてアクリロニトリルを除去する能力が低減する傾向がある。脱気時間及び不活性ガスの流量は、スケールによって異なるが、蒸留時に有機低沸点化合物を含む初留分を除去して得たエチル−2−シアノアクリレート1kg当りの脱気時間及び不活性ガスの流量については減圧下でバブリングさせながら、窒素ガスのような不活性ガスを通常0.01〜100L/分、好ましくは0.05〜50L/分、さらに好ましくは、0.1〜20L/分吹き込んで行う。脱気時間としては通常1〜50時間行う。好ましくは、3〜30時間行う。さらに好ましくは5〜24時間行う。不活性ガスの流量や脱気時間が通常より少なければ、アクリロニトリルを除去する能力が低減する傾向がある。また、不活性ガスの流量や脱気時間が通常より多ければ、脱気中に分解反応を生じ、結果としてアクリロニトリルを除去する能力が低減する傾向がある。上記の脱気方法により、エチル−2−シアノアクリレート中に含まれる(1)アクリロニトリルの含有量が、50ppm以下に抑えることができ、その事により、エチル−2−シアノアクリレートの刺激臭及び白化現象を著しく低減することができたのである。
【0013】
また、本発明のエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物には、主成分であるエチル−2−シアノアクリレートの他に従来、エチル−2−シアノアクリレート接着剤に添加して用いられている増粘剤を目的に応じ、本発明のエチル−2−シアノアクリレート接着剤の特性を阻害しない範囲で適宜、添加配合して使用することができる。増粘剤としては、例えば、ポリメタクリル酸アルキル単独重合体、異種のメタクリル酸エステルの共重合体、メタクリル酸エステルとアクリル酸エステルの共重合体、アクリルゴム、ウレタンゴム、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、セルロースエステル、ポリアルキル−α−シアノアクリレート、エチレン−酢酸ビニル共重合体等が挙げられ、これらは1種又は2種以上を併用しても良い。
【0014】
また、エチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物には、従来、エチル−2−シアノアクリレート接着剤に添加して用いられている速硬化添加剤を目的に応じ、本発明のエチル−2−シアノアクリレート接着剤の特性を阻害しない範囲で適宜、添加配合して使用することができる。速硬化添加剤としては、多価アルコール類、ポリアルキレンオキサイド誘導体、クラウンエーテル類、カリックスアレン誘導体等が挙げられる。
【0015】
また、本発明のエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物には、従来、エチル−2−シアノアクリレート接着剤に添加して用いられている安定剤(例えば、二酸化イオウ、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、三弗化ホウ素ジエチルエーテル、HBF4 、トリアルキルボレート等のアニオン重合禁止剤や、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、t−ブチルカテコール、カテコール、ピロガロール等のラジカル重合禁止剤等)、可塑剤(フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジイソデシル、アセチルクエン酸トリブチル等)、着色剤、香料、溶剤、強度向上剤、脂肪族多価カルボン酸、芳香族多価カルボン酸等、目的に応じ、本効果を阻害しない範囲で適宜、添加配合して使用することができる。
(実施例)
【0016】
以下、実施例及び比較例により、さらに詳しく本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0017】
(合成例1)
(粗エチル−2−シアノアクリレートの合成)
攪拌機、温度計、水分離器、滴下ロートを備えた三ツ口フラスコにパラホルムアルデヒド60部、トルエン200部、ピペリジン0.2部を仕込み、80〜90℃の温度に保ち、攪拌しながらシアノ酢酸エチルエステル226部を60分かけて滴下した。滴下終了後、生成水を共沸分離しながら還流させ、理論量の水が留出するまで約6時間反応させ、ポリマーのトルエン溶液を得た。この溶液を常圧脱溶媒後、リン酸トリクレジル30部、五酸化リン6部、ハイドロキノン3部を加えて、充分混合した。減圧脱溶媒した後、続いて400Paの減圧下で、170〜200℃に加熱して解重合を行い、エチル−2−シアノアクリレートの粗製品212部を得た。得られた粗エチル−2−シアノアクリレート100部に対して、重合禁止剤としてハイドロキノン0.5部及び五酸化リン0.1部、BF錯体0.005部をそれぞれ添加し、133〜400Paの減圧下、35〜90℃で蒸留した。低沸成分を除く為に初留分として粗エチル−2−シアノアクリレートの重量に対して3重量%をカットし、その後、主留分として90重量%を留出させ、精製エチル−2−シアノアクリレートモノマーを得た。この精製エチル−2−シアノアクリレートモノマー100重量部に対し、0.001重量部のホウフッ化水素酸と0.1重量部のハイドロキノンを添加したエチル−2−シアノアクリレート系接着剤組成物を調製した。
【実施例1】
【0018】
合成例1で得られたエチル−2−シアノアクリレート1kgを666Paの減圧下で窒素を吹き込みながら(2L/分)、30℃で24時間脱気を行った後にサンプルを採取し、白化試験、臭気感度試験及びアクリロニトリルの含有量の測定を行い、表1に示した。
【実施例2】
【0019】
合成例1で得られたエチル−2−シアノアクリレート1kgを1330Paの減圧下で窒素を吹き込みながら(2L/分)、30℃で24時間脱気を行った後にサンプルを採取し、白化試験、臭気感度試験及びアクリロニトリルの含有量の測定を行い、表1に示した。
【実施例3】
【0020】
合成例1で得られたエチル−2−シアノアクリレート1kgを666Paの減圧下で窒素を吹き込みながら(2L/分)、45℃で24時間脱気を行った後にサンプルを採取し、白化試験、臭気感度試験及びアクリロニトリルの含有量の測定を行い、表1に示した。
【実施例4】
【0021】
合成例1で得られたエチル−2−シアノアクリレート1kgを666Paの減圧下で窒素を吹き込みながら(2L/分)、30℃で4時間脱気を行った後にサンプルを採取し、白化試験、臭気感度試験及びアクリロニトリルの含有量の測定を行い、表1に示した。
【実施例5】
【0022】
合成例1で得られたエチル−2−シアノアクリレート1kgを1330Paの減圧下で窒素を吹き込みながら(2L/分)、40℃で4時間脱気を行った後にサンプルを採取し、白化試験、臭気感度試験及びアクリロニトリルの含有量の測定を行い、表1に示した。
【0023】
(比較例1)
合成例1で得られたエチル−2−シアノアクリレートを白化試験、臭気感度試験及びアクリロニトリルの含有量の測定を行い、表1に示した。
【0024】
(比較例2)
実施例1の脱気処理を施したエチル−2−シアノアクリレートにエタノールを280ppm、アクリロニトリルを190ppm、加えた後に白化試験、臭気感度試験及びアクリロニトリルの含有量の測定を行い、表1に示した。
【0025】
[白化現象の評価方法]
50mLのポリエチレン製容器にエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物を0.1g入れ、NBR板で蓋をして、1日養生後NBR板の白化度合いを目視にて確認した。
白化がほとんどない・・・○、薄い白化が認められる・・・△
濃い白化が認められる・・・×
【0026】
[臭気感度試験]
50mLのポリエチレン製容器にエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物を0.1g入れ、ポリエチレン製容器で蓋をし、10分後に蓋を開けて、被験者5人により臭気を判定し、最も多い度合いを採用した。
臭気をほとんど感じない・・・○、臭気をやや感じる・・・△
臭気がかなりきつい・・・×
【0027】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロニトリルの含有量が、50ppm以下であることを特徴とするエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物。

【公開番号】特開2011−137131(P2011−137131A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111528(P2010−111528)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【分割の表示】特願2009−295368(P2009−295368)の分割
【原出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000216243)田岡化学工業株式会社 (115)
【Fターム(参考)】