説明

エチルゲラノニトリルの製造方法

本発明は、エチルヘプテノンを脱プロトン化ニトリル(アセトニトリル、シアノ酢酸またはシアノ酢酸エステル)で変換し、ついで適切であれば、加水分解および脱カルボキシル化を行うことによるエチルゲラノニトリル(3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリル)の製造方法に関する。また、本発明は、3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリルと、化合物3,7-ジメチル-3,6-ノナジエンニトリルおよび3-メチレン-7-メチル-6-ノネンニトリルの群から選択される少なくとも1つの化合物とを含む混合物、ならびにそれらを含む香料組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチルヘプテノンと脱保護化またはエノール化ニトリルとの反応、ならびに適切であれば、それに続く鹸化および脱カルボキシル化によるエチルゲラノニトリルの製造方法に関する。さらに、本発明は、3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリルと、化合物3,7-ジメチル-3,6-ノナジエンニトリルおよび3-メチレン-7-メチル-6-ノネンニトリルの群から選択される少なくとも1つの化合物とを含む混合物に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪族ニトリルは、特にニトリル基の化学的安定性により、非中性条件下(例えば、塩基性または強酸性条件下)での使用に適した価値ある香気性化合物である。したがって、興味ある香気(香り)を有する新規脂肪族ニトリルまたはその混合物、そしてまた、そのような物質もしくはその混合物の安価な製造方法が依然として必要とされている。
【0003】
特別な香料特性により最も需要の高い脂肪族ニトリルの1つとして、苦味やクミン酸(cuminic)のような、さらには新鮮な藁のような様相を伴う、非常に強力なシトラス様の香気プロファイルを有するゲラノニトリル(3,7-ジメチル-2,6-オクタジエンニトリル)が挙げられる。これに代わるものとしては、3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリル、すなわちエチルゲラノニトリル(Lemonile(登録商標)としても販売されている)が挙げられ、これは、重要な態様において、同等またはより一層優れた香気特性を有する。この製品は、より長く持続する効果および軽減された苦味様相を伴う、より自然な揮散をもたらし、したがって、ゲラノニトリルの代用物として非常に好適である。
【0004】
ゲラノニトリルは、最近の毒物学的知見に基づいて、いわゆるcmr2物質として指定されているため、将来、その工業生産は中止されることが検討されている。
【0005】
α,β-不飽和ニトリルの製造方法は当業者に公知である。例えば、DE 21 35 666は、触媒量のアルカリ金属またはアルカリ土類金属アルコキシドの存在下、液相中でシクロアルカノンをアセトニトリルと反応させることによる、シクロアルキリデン-アセトニトリルの製造方法を開示している。
【0006】
US 3,960,923は、強塩基の存在下、ケトンをアセトニトリルと反応させることによるα,β-不飽和ニトリルの製造方法に関する。メチルヘプテノンを含む脂肪族ケトンが好適なケトンとして明示されている。
【0007】
EP 0 074 253は、特定の不飽和α-またはβ-置換芳香族ニトリル、香料としてのそれらの使用、およびそれらの製造方法を開示している。例えば、ジグリム中のメチルアルキルケトンとトシルメチルイソシアニドおよびカリウムtert-ブトキシドとの反応が記載されている。別の方法においては、酢酸アンモニウムの存在下、メチルアルキルケトンをシアノ酢酸と反応させる。
【0008】
US 4,361,702は、強塩基の存在下で、対応するアセタール化メチルケトンをアセトニトリルと反応させることによる、3-ホルミル-2-ブテンニトリルの製造方法に関する。
【0009】
S. DiBiaseらは、Org. Synth. Coll. Vol. 7, 1990, 108-112およびOrg. Synth. Vol. 62, 1984, 179-185において、水酸化カリウムの存在下で、シクロヘキサノンまたはベンズアルデヒドをアセトニトリルと反応させて、対応するα,β-不飽和ニトリルを得ることを記載している。
【0010】
さらに、S. DiBiaseらは、J. Org. Chem., Vol. 44, 1979, 4640-4649において、塩基、および適切であればクラウンエーテルの存在下で、カルボニル化合物をアセトニトリルと反応させることによる、α,β-不飽和ニトリルの製造を記載している。
【0011】
A. Vallaらは、Synthetic Communications, Vol. 33, No. 7, 2003, pp. 1195-1201において、水酸化カリウムの存在下で、6-メチル-5-ヘプテン-2-オンをアセトニトリルと反応させて、ゲラノニトリルを65%の収率で得ることを記載している。
【0012】
US 3,655,722は、7-メチル-3-メチレン-6-オクテンニトリルおよび3,7-ジメチル-2,6-オクタジエンニトリル(ゲラノニトリル)に関するものであり、また、ゲラノニトリルのシスおよびトランス異性体、さらには3,7-ジメチルオクタジエンニトリルの二重結合異性体の混合物に関する。該化合物は、トリエタノールアミンまたはシクロヘキシルアミンの存在下で、2-メチル-2-ヘプテン-6-オンをシアノ酢酸と反応させることにより得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】独国特許第 21 35 666号明細書
【特許文献2】米国特許第 3,960,923号明細書
【特許文献3】欧州特許第0 074 253号明細書
【特許文献4】米国特許第4,361,702号明細書
【特許文献5】米国特許第3,655,722号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】S. DiBiaseら、Org. Synth. Coll., 第7巻, 1990年, p. 108-112
【非特許文献2】S. DiBiaseら、Org. Synth., 第62巻, 1984年, p. 179-185
【非特許文献3】S. DiBiaseら、J. Org. Chem., 第44巻, 1979年, p. 4640-4649
【非特許文献4】A. Vallaら、Synthetic Communications, 第33巻, 第7号, 2003年, pp. 1195-1201
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、エチルゲラノニトリルの製造方法を提供することであった。本方法は、エチルゲラノニトリルまたはその異性体混合物の製造を可能にするものであり、工業的規模での製造の点で、出来る限り最も簡便な方法で実施可能なものである。安価でかつ容易に入手可能な出発物質から出発することにより、この方法は、望ましくない副生成物の生成を回避しつつ、可能な限り高い収率で所望の生成物を製造する。さらに、その生成物は、ゲラノニトリルの代替物として好適な形態(すなわち、異性体混合物の形態)で製造される。特に、その生成物は、出来る限りゲラノニトリルに匹敵し、そして好ましくはより心地よく、あるいはより魅力的な香気プロファイルを有し、それによりゲラノニトリルの代わりに容易に使用されうることを保証する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的は、3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリルの製造方法であって、
a)式(II)
【化1】

【0017】
[式中、基
R1は水素または基-C(O)OR2であり、ここで、
R2は、適切であれば、水素または直鎖状、分枝状もしくは環状C1-C6-アルキルである]
のニトリルを活性化試薬と反応させて、脱プロトン化またはエノール化形態の式(II)のニトリルを得、
b)脱プロトン化またはエノール化形態の式(II)のニトリルを6-メチル-5-ノネン-2-オンと反応させて、3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリル、またはそのエチレン性二重結合に関する異性体混合物の形態の式(IV)
【化2】

【0018】
[式中、基
R1'は-C(O)OR2であり、
R2は水素または直鎖状、分枝状もしくは環状C1-C6-アルキルである]
の化合物を得、
式(IV)の化合物の異性体混合物が得られる場合、
c)適切であれば、得られた式(IV)の化合物を鹸化して、対応する遊離カルボン酸を得、ついでそれを脱カルボキシル化して、3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリルを得る
工程を含む前記方法の提供により達成された。
【0019】
本発明の方法は、式(I)
【化3】

【0020】
の3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリルの製造に適しており、この場合、該化合物は通常、2つのエチレン性二重結合に関する幾何配置異性体(すなわち、E/Z異性体)の混合物の形態、およびニトリル基に対してα,βまたはβ,γ位の二重結合に関する構造異性体を含有する混合物の形態で製造される。
【0021】
式(I)の異性体以外に通常得られる可能な幾何配置異性体は、化合物(Ia)〜(Ic)
【化4】

【0022】
であり、これらは、そのエチレン性二重結合に関するE/Z配置のみにおいて互いに異なる。3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリル、すなわち、式(I)および(Ia)〜(Ic)の化合物は、ニトリル基に対してα,β位にエチレン性二重結合を有するものであり、本発明の範囲において、これらの化合物は共役異性体とも称される。
【0023】
主生成物として通常得られる3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリル以外に得ることの出来る可能な構造異性体は、化合物3,7-ジメチル-3,6-ノナジエンニトリルおよび3-メチレン-7-メチル-6-ノネンニトリルである。3,7-ジメチル-3,6-ノナジエンニトリルおよび3-メチレン-7-メチル-6-ノネンニトリルは同様に、幾何配置異性体、すなわちE/Z異性体の混合物の形態で得ることが出来る。それ故、3-メチレン-7-メチル-6-ノネンニトリルは通常、式(V)および(Va)の2つの異性体の混合物の形態で得られる。
【化5】

【0024】
3,7-ジメチル-3,6-ノナジエンニトリルは通常、式(VI)および(VIa)〜(VIc)の全部で4つの幾何配置異性体の混合物の形態で得られる。
【化6】

【0025】
3,7-ジメチル-3,6-ノナジエンニトリルおよび3-メチレン-7-メチル-6-ノネンニトリルは、ニトリル基に対してβ,γ位にエチレン性二重結合を有するものであり、本発明の範囲において、これらの化合物は非共役異性体とも称される。
【0026】
本発明により入手可能な混合物は通常、式(I)、(V)および(VI)の化合物、並びにそれらの異性体を含む、得られる異性体混合物に対して、一般には約40〜約100重量%、好ましくは50〜100重量%、特に好ましくは60〜100重量%の割合で、3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリル(すなわち、式(I)の化合物および式(Ia)〜(Ic)のその異性体)を主成分として含む。
【0027】
明示されている非共役異性体、すなわち、3,7-ジメチル-3,6-ノナジエンニトリルおよび3-メチレン-7-メチル-6-ノネンニトリルはそれぞれ、通常、反応条件の選択に応じて、より低い度合で、すなわち、得られる混合物に対して、合計で約60重量%以下、好ましくは50重量%以下、特に好ましくは40重量%以下の度合で生成されるか、あるいは条件に応じて、ほんの僅かだけ生成されるか又は全く生成されない。
【0028】
本発明の方法を行うための出発物質として使用するのは、式(II)
【化7】

【0029】
[式中、基R1は水素または基-C(O)OR2であり、ここで、R2は水素または直鎖状、分枝状もしくは環状、好ましくは直鎖状もしくは分枝状C1-C6-アルキルでありうる]
のニトリルである。基R1が水素である場合には、それに応じてアセトニトリルが式(II)の出発物質として使用される。R1が基-C(O)OR2である場合には、シアノ酢酸またはそのエステルが式(II)の出発物質として使用され、この場合、上記のエステルは直鎖状、分枝状または環状、好ましくは直鎖状または分枝状C1-C6-アルキル基であって、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、シクロペンチル、n-ヘキシルまたはシクロヘキシル、好ましくはメチル、エチル、イソプロピル、特に好ましくはメチルおよびエチルでありうる。
【0030】
本発明の方法の好ましい実施形態の範囲においては、基R1は水素である。したがって、本発明において好ましい式(II)のニトリルは、アセトニトリルである。本発明において好ましい式(II)の他のニトリルは、シアノ酢酸、メチルシアノアセテートおよびエチルシアノアセテートであり、これらはまとめて式(IIa)により表すことが可能であり、ここで、基R2は前記の意味を有しうる。
【化8】

【0031】
選択された式(II)のニトリルを、本発明の方法の工程a)により活性化試薬と反応させて、脱プロトン化またはエノール化形態の式(II)のニトリルを得る。本明細書において、「活性化試薬」なる語は、脱プロトン化、あるいは式(IIa)のシアノ酢酸またはシアノ酢酸エステルを使用する場合には、使用するニトリル、好ましくはアセトニトリル、シアノ酢酸またはシアノ酢酸エステル(好ましくは、メチルまたはエチルエステル)のα位、すなわち、ニトリル基に隣接する炭素原子上をエノール化しうる試薬を意味し、好ましくは、4以上のpKa値を有する試薬、すなわち、弱酸または塩基、好ましくは塩基(ブレンステッド塩基)を意味すると理解されるべきである。これは、例えば式(IIb):
【化9】

【0032】
[この場合、使用される活性化試薬は塩基であり、M+は、使用される塩基の対イオンである]
により表される脱プロトン化またはエノール化形態の式(II)のニトリルを与える。
【0033】
本発明の式(IIa)の出発物質の場合、すなわち、シアノ酢酸またはシアノ酢酸エステルを使用する場合、エノール化形態、すなわちM+がプロトン(H+)または選択された塩基の対イオンである式(IIc):
【化10】

【0034】
のエノールまたはエノラートの形態の中間体と同じものが、少なくとも僅かに得られる。
【0035】
本発明において、水酸化ナトリウム(NaOH)または水酸化カリウム(KOH)のようなアルカリ金属の水酸化物を活性化試薬または塩基として使用する場合、それに対応して、前記式(IIa)および(IIb)における対イオンM+は、Na+またはK+を意味すると理解されるであろう。
【0036】
本発明の方法の好ましい実施形態の範囲においては、使用される活性化試薬は、塩基または種々の塩基の混合物である。これに関して、挙げられうる好適な塩基は、約5〜約50、好ましくは約9〜約25のpKa値(ここで、pKa値なる語は、Organikum 21st edition, Weinheim, Wiley-VCH, 2001, pp.156-159において定義されているとおりである)を有する塩基である。本発明において、好ましく使用される塩基の具体例としては、以下のものが挙げられる:アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、例えばLiOH、NaOH、KOH、Ba(OH)2;水酸化アンモニウム; 1〜6個、好ましくは1〜4個の炭素原子を有することが好ましい短鎖アルコールのアルカリ金属またはアルカリ土類金属のアルコキシド、例えばナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムプロポキシド、カリウムプロポキシド、ナトリウムイソプロポキシド、カリウムイソプロポキシド、ナトリウムブトキシド、カリウムブトキシド、ナトリウムイソブトキシド、カリウムイソブトキシド。
【0037】
シアノ酢酸またはシアノ酢酸エステルの反応のために、本発明において使用されうる他の活性化試薬としては、第1級、第2級および第3級アミン、ならびにアミノ酸およびアンモニウム塩、例えば:ピペリジン、ピリジン、イミダゾールおよびそれらの誘導体、ジアザビシクロウンデカン(DBU)、ジアザビシクロノナン(DBN)、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、N,N-ジメチルアミノピリジン(DMAP)、キノリン、p-アミノフェノール、β-アラニン、リシン、酢酸アンモニウムが挙げられる。これらは単独で又は混合物の形態で使用されうる。適切であれば、さらに、酸、例えば氷酢酸の存在下で反応を行うことが有利であり得る。さらに、アセトニトリルの反応のために、有機金属化合物、例えばブチルリチウム、またはアミド、例えばリチウムアミドもしくはナトリウムアミドが一般に使用されうる。
【0038】
本発明において、好ましいニトリルであるアセトニトリルを使用する場合、使用される活性化試薬は、12〜50のpKa値、好ましくは15〜45のpKa値を有する塩基であることが有利である。
【0039】
選択した活性化試薬は、カルボニル化合物(6-メチル-5-オクテン-2-オン)に対して0.01〜10mol/mol、好ましくは0.1〜5mol/mol、特に好ましくは0.5〜1.5mol/molの比で化学量論的または触媒的に使用されうる。
【0040】
また、使用される活性化試薬に応じて、添加物、例えばクラウンエーテル、相間移動触媒または酸(例えば氷酢酸)を反応混合物に加えることが有利であり得る。
【0041】
明示されている活性化試薬は、そのまま固体形態で、適切であれば液体形態もしくは適当な溶媒中の溶液の形態で、またはそれらの混合物として使用されうる。本発明の方法の工程a)における反応は、通常、まず、選択された式(II)のニトリルを、そのまま、または反応条件下で不活性な適当な溶媒(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、ジエチルエーテル、石油エーテル、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、塩化メチレンまたはクロロホルム)中の溶液の形態で導入し、選択された活性化試薬(すなわち、好ましくは、選択された塩基)を加えることにより行われる。本発明の好ましい1つの実施形態においては、反応は溶媒としてのアセトニトリル中で行われる。ついで、これを式(II)の出発物質として使用することも可能である。溶媒としてのアセトニトリルのもう1つの利点は、それが、アセトアミドを形成することにより、反応中に生じる水を該混合物から除去しうることである。同様に、他の捕捉剤(スカベンジャー)、例えばモレキュラーシーブを加えることも可能である。
【0042】
本発明の方法の工程b)においては、前記のとおりに得られた式(II)のニトリルを、脱プロトン化またはエノール化形態で、6-メチル-5-オクテン-2-オンと反応させる。ここで、本発明の範囲において、6-メチル-5-オクテン-2-オンはエチルヘプテノンとも称され、式(III)および(IIIa)のE/Z異性体の混合物の形態で使用される。
【化11】

【0043】
本発明における反応工程a)およびb)は、別々に連続的に、または選択された式(II)のニトリル、選択された活性化試薬およびエチルヘプテノンの反応混合物中で行われうる。後者の方法が、氷酢酸の存在下で、バッファー系、例えば酢酸アンモニウムまたはピペリジン、β-アラニンを使用するシアノ酢酸との反応に特に有用であることが判明した。
【0044】
本発明の方法の範囲において、出発物質として使用する式(II)のニトリル、特に式(IIa)のシアノ酢酸およびそのエステルと、エチルヘプテノンとは、通常、ほぼ等しいモル比で一緒に反応させる。この場合、特に、より簡便に入手可能なシアノ酢酸またはそのエステルを若干過剰に、通常、使用されるエチルヘプテノンに対して例えば1.05:1〜約2:1、好ましくは約1.1:1〜約1.5:1のモル比で使用することが可能である。この場合の1つの例外はアセトニトリルであり、これは大過剰で溶媒としても使用することが出来る。
【0045】
この反応は、使用する塩基の強度に応じて、そしてまた、式(II)の出発物質の選択に応じて、触媒的または化学量論的形態で行われうるため、加える塩基の量は広い範囲で様々な値をとりうる。
【0046】
好ましい実施形態の範囲においては、本発明の方法は、まず、本発明における工程a)において、ほぼ等モル量、通常は約0.9〜約1.2mol当量、好ましくは約0.95〜約1.1mol当量の適当な塩基(前記のとおり)との反応により、使用する式(II)のニトリルを完全に又は顕著に脱プロトン化して対応するアニオンを得、ついで工程b)において、それをエチルヘプテノンと反応させることを含む。もう1つの好ましい実施形態の範囲においては、本発明の方法は、まず、工程a)で得られる反応混合物を、エチルヘプテノン中に、好ましくはゆっくりと、計量供給することにより行われる。
【0047】
本発明の方法の好ましい実施形態の範囲においては、工程a)においてアセトニトリルを使用する。これは、[工程b)において使用されるエチルヘプテノンに対して]約0.95〜1.2mol当量の、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、水酸化アンモニウム、およびアルカリ金属またはアルカリ土類金属のアルコキシドを含む塩基の群から選択される強塩基により、完全に又は大部分が、まず、対応する脱プロトン化アセトニトリルに変換される。この場合、アセトニトリルは(大)過剰で溶媒としても使用されうる。反応は通常、選択した塩基および反応温度に応じて迅速に進行し、アルカリ金属アルコキシド、例えばナトリウムメトキシドを室温で使用した場合や、アルカリ金属水酸化物、例えばKOHを、適切であれば約80℃以下の若干高温で使用した場合には、通常、数分〜約1時間以内にほぼ完了する。
【0048】
このようにして得られた脱プロトン化ニトリルの溶液を、その後、工程b)においてエチルヘプテノンと反応させることが出来る。この工程は、望ましくない副次的反応を可能な限り避けるために、ケトンをゆっくりと計量添加することにより行うことが有利である。
【0049】
エチルヘプテノンと、脱プロトン化またはエノール化した式(II)のニトリルとの反応も、同様に迅速に実施され、通常、約20〜約180℃の温度で約1〜約24時間後にほぼ完了する。反応手法のタイプに応じて、また使用される溶媒に応じて、エチルヘプテノンとの本発明の反応は、反応中に化学量論的に生じる水を除去しながら行うことが有利であり得る。この目的のためには、場合により、反応で生じる水の共沸剤として働くもう1つの不活性溶媒、例えばトルエンまたはキシレンを加えることも有利であり得る。
【0050】
脱プロトン化した式(II)のニトリルとエチルヘプテノンとの反応は、アセトニトリルとの反応の場合、本発明の方法により3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリルを直接与え、あるいは3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリルを含む異性体混合物を与える。式(IIa)のシアノ酢酸またはそのエステル(すなわち、式(II)における基R1が水素以外である場合)を使用する方法の実施は、工程b)において、まず、式(IV)
【化12】

【0051】
[式中、基R1'はヒドロキシ-またはアルコキシカルボニル基-C(O)OR2であり、R2は水素または直鎖状、分枝状もしくは環状、好ましくは直鎖状もしくは分枝状C1-C6-アルキル(前記のとおり)であり、ここで、R1'は、各場合において使用される式(II)または(IIa)の化合物の基R1と同義である]
の中間体を生成する。この場合、式(IV)の化合物は通常、その他のE/Z二重結合異性体との混合物の形態としても得られる。
【0052】
使用される式(II)のニトリルの基R1が水素以外である場合、まず、本発明の方法の工程b)において、式(IV)のエステルまたはカルボン酸、あるいはまた、エチレン性二重結合に関するそれらの幾何配置異性体を、それに応じて、まず、少なくとも中間体として得、追加的な工程c)において、適切であればこれを鹸化して遊離カルボン酸を得、ついでこれを脱カルボキシル化して、3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリルまたはこれを含む異性体混合物を得る。これに関連して、適当な反応条件の選択により、化学量論量の塩基を使用する場合には特に、明示されている鹸化および脱カルボキシル化は、本発明の方法の工程b)の反応中に、その場で(in situ)実施することが出来る。別の場合には、明示されている鹸化および脱カルボキシル化は、当業者に公知の方法により実施することが出来る。
【0053】
本発明に従い得られる反応混合物は、当業者に公知の方法により、例えば抽出法により、更に後処理され、ついで例えば蒸留法により精製されうる。
【0054】
もう1つの好ましい実施形態の範囲においては、本発明に従い得られる生成物混合物、特に、本発明の方法による式(IIa)の化合物の反応(すなわち、シアノ酢酸またはシアノ酢酸エステルを使用する場合)において得られる生成物混合物または粗生成物混合物を、塩基、好ましくは強塩基での処理またはそれと接触させることにより、下流の異性化に供する。下流のさらなる異性化の目的に適する塩基としては、アルカリ金属のアルコキシドおよび水酸化物(ヒドロキシド)やアルカリ土類金属のアルコキシド、例えばナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムプロポキシド、ナトリウムブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシドなどが挙げられる。これらは触媒量もしくは化学量論量で、または過剰で使用することができ、通常は、該異性体混合物に対して0.01mol〜10mol/mol、好ましくは0.1〜1mol/mol量で使用することが出来る。使用される出発物質または試薬に対してその反応条件下で不活性である適当な溶媒の具体例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールが挙げられる。異性化を行うための適当な反応温度は、-80℃〜120℃、好ましくは0〜50℃の範囲の温度である。異性化は通常、迅速に進行し、通常、約1〜約48時間、しばしば、約1〜約5時間の反応時間の後に、少なくとも大部分が完了する。
【0055】
本発明の方法は3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリル(エチルゲラノニトリル)の製造を可能にし、これは通常、式(I)、(Ia)、(Ib)および(Ic)の幾何配置異性体の混合物の形態で製造される。明示されている共役異性体のほかに、本発明により入手可能な混合物は通常、式(V)および(Va)ならびに/または(VI)、(VIa)、(VIb)および(VIc)の非共役構造異性体化合物、3,7-ジメチル-3,6-ノナジエンニトリルおよび3-メチレン-7-メチル-6-ノネンニトリルをも含む。したがって、本発明は、本発明の方法により入手可能な3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリルを含む混合物に関する。
【0056】
本発明の方法は、特に、エチルヘプテノンとの反応のための式(II)の出発物質としてアセトニトリルを使用する好ましい実施形態として記載されている方法を行う場合、あるいはシアノ酢酸または式(IIa)のそのエステルを使用する場合、特に、明示されている非共役異性体3,7-ジメチル-3,6-ノナジエンニトリルおよび/または3-メチレン-7-メチル-6-ノネンニトリルを特に低い含有量で含む混合物または粗生成物混合物を製造する前記の下流の異性化の場合に対して、可能性を広げるものである。
【0057】
したがって、さらなる態様において、本発明は、3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリルと、化合物3,7-ジメチル-3,6-ノナジエンニトリルおよび3-メチレン-7-メチル-6-ノネン-ニトリルから選択される少なくとも1つの化合物とを含む混合物に関するものであり、この場合、該混合物中の3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリルの量に対する3,7-ジメチル-3,6-ノナジエンニトリルおよび3-メチレン-7-メチル-6-ノネン-ニトリルの合計含有量は10重量%以下である。本明細書においては、各場合で明示される化合物は、エチレン性二重結合に関する可能なE/Z二重結合異性体を含む。
【0058】
好ましくは、本発明の混合物中の3,7-ジメチル-3,6-ノナジエンニトリルおよび3-メチレン-7-メチル-6-ノネンニトリルの含有量は、合計で0.01〜10重量%、特に好ましくは0.05〜9重量%、好ましくは8重量%以下、同様に好ましくは7重量%以下、さらにより好ましくは6重量%以下である。特に好ましくは、3,7-ジメチル-3,6-ノナジエンニトリルおよび3-メチレン-7-メチル-6-ノネンニトリルの合計含有量は、各場合において該混合物中の3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリルの量に対して0.75〜5重量%、好ましくは1〜5重量%である。
【0059】
本発明の混合物は、明示される化合物3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリル、3,7-ジメチル-3,6-ノナジエンニトリルおよび/または3-メチレン-7-メチル-6-ノネンニトリルを、通常は80〜100重量%、好ましくは85または90〜99.9重量%、特に好ましくは95〜99.5重量%、特に好ましくは99重量%以下、または98重量%以下の合計比率(全混合物に対する値)で含む。本発明において好ましい混合物は、少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%、特に好ましくは少なくとも98重量%、とりわけ特に好ましくは少なくとも99重量%の、化合物3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリル、3,7-ジメチル-3,6-ノナジエンニトリルおよび/または3-メチレン-7-メチル-6-ノネンニトリル、ならびに少量、好ましくは、0.1〜2重量%、好ましくは0.5〜1重量%の量の他の成分および/または不純物から、本質的になる。
【0060】
本発明において特に好ましい混合物は、化合物3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリルおよび3,7-ジメチル-3,6-ノナジエンニトリルから本質的になる、前記のような混合物であり、この場合、3,7-ジメチル-3,6-ノナジエンニトリルの比率は、混合物中の3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリルの量に対して、10重量%以下、好ましくは0.01〜10重量%、特に好ましくは0.05〜9重量%、好ましくは8重量%以下、また、好ましくは7重量%以下、より好ましくは6重量%以下である。これらの混合物中の3,7-ジメチル-3,6-ノナジエンニトリルの含有量は、0.75重量%〜5重量%、好ましくは1重量%〜5重量%であることが特に好ましい。
【0061】
したがって、本発明は、3,7-ジメチル-3,6-ノナジエンニトリルおよび/または3-メチレン-7-メチル-6-ノネンニトリルを、それらの2つの化合物の総和である混合物の総重量に対して、10重量%以下、好ましくは8重量%以下、また、好ましくは7重量%以下、より好ましくは6重量%以下の量で含む3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリル(エチルゲラノニトリル)に関する。特に好ましくは、該3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリル中の3,7-ジメチル-3,6-ノナジエンニトリルおよび/または3-メチレン-7-メチル-6-ノネンニトリルの含有量は、0.75重量%〜5重量%、好ましくは1重量%〜5重量%である。
【0062】
本発明の混合物は、自然に揮散する強力なレモン様の香気を有する。本発明の混合物は、(E,Z)-2,6-幾何配置二重結合異性体に関して、すなわち共役異性体に関して高純度の混合物である場合には特に、ゲラノニトリル(3,7-ジメチル-2,6-オクタジエンニトリル)の有利な代替物である。したがって、本発明の混合物は、香料ゲラノニトリルの代替物または置換物として特に好適である。
【0063】
したがって、本発明はまた、前記混合物、特に、3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリルと、化合物3,7-ジメチル-3,6-ノナジエンニトリルおよび3-メチレン-7-メチル-6-ノネンニトリルの群から選択される少なくとも1つの化合物とを含む混合物の、香料としての使用であって、該混合物中の3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリルの量に対する3,7-ジメチル-3,6-ノナジエンニトリルおよび3-メチレン-7-メチル-6-ノネンニトリルの合計含有量が10重量%以下である前記使用に関する。
【0064】
特に、本発明の混合物は、前記のように特徴づけられるようなシトラス調の香りを生成させる香料として適している。したがって、さらなる態様においては、本発明は、レモンの香りを生成させる香料としての本発明の混合物の使用に関する。
【0065】
本発明に従い前記のように入手可能な混合物を、香り付けのために、小売商品(consumer article)または日用品に配合し、又は塗ることが可能であり、それにより、心地よいレモン様の香りをそれらに付与しうる。本発明の混合物により香り付けしうる小売商品または日用品の具体例としては:清掃用組成物、例えば研磨用組成物、クリーナー、例えば家具、床、台所器具、ガラス鏡板および窓、さらには風防ガラスの表面を手入れするための手入れ用組成物、洗剤、柔軟剤、洗濯処理用組成物、織物処理用組成物(例えばアイロンかけ用補助剤、さらには漂白剤および漂白液)、トイレブロック、水垢除去剤、芳香剤(エアケア)、香料組成物(例えば香水)、化粧品組成物だけでなく、また、肥料、建築用材料、カビ除去剤、消毒剤、自動車の手入れ用製品などが挙げられる。
【0066】
本発明の混合物は、香料ゲラノニトリルに対するその化学的類似性のため、特に、ゲラノニトリルの通常の用途に好適である。そしてまた、その化学的安定性のため、酸もしくはアルカリ、または漂白液のような侵襲性の媒体(例えばトイレ用洗浄剤またはブロック、そしてまた、例えば排水または管洗浄剤、そしてまた、例えばグリルまたはオーブン洗浄剤、あるいは他の金属洗浄剤)中においても有利に使用することが出来る。
【0067】
したがって、さらなる態様において、本発明はまた、3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリルと、化合物3,7-ジメチル-3,6-ノナジエンニトリルおよび3-メチレン-7-メチル-6-ノネンニトリルの群から選択される少なくとも1つの化合物とを含む、官能的に有効な量の本発明の混合物を含む小売商品もしくは日用品または組成物であって、該混合物中の3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリルの量に対する3,7-ジメチル-3,6-ノナジエンニトリルおよび3-メチレン-7-メチル-6-ノネンニトリルの合計含有量が10重量%以下である、前記小売商品もしくは日用品または組成物に関する。
【0068】
さらに、本発明に従い入手可能なエチルゲラノニトリル(3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリル)、そして特に、3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリルと、化合物3,7-ジメチル-3,6-ノナジエンニトリルおよび3-メチレン-7-メチル-6-ノネンニトリルの群から選択される少なくとも1つの化合物とを含む本発明の混合物(ここで、該混合物中の3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリルの量に対する3,7-ジメチル-3,6-ノナジエンニトリルおよび3-メチレン-7-メチル-6-ノネンニトリルの合計含有量は10重量%以下である)は、香料である式(VII)
【化13】

【0069】
のシトロネリルニトリル(3,7-ジメチル-6-オクテンニトリル)および/または式(VIII)
【化14】

【0070】
のジヒドロシトロネリルニトリル(3,7-ジメチルオクタンニトリル)と混合する(ここで、一般に、任意の所望の混合比が用いられうる)のに特に適していることが判明した。
【0071】
したがって、さらなる態様において、本発明は、3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリルと、香料ジヒドロシトロネリルニトリル(3,7-ジメチルオクタンニトリル)およびシトロネリルニトリル(3,7-ジメチル-6-オクテンニトリル)から選択される少なくとも1つの他の成分とを含む香料組成物に関する。このタイプの香料組成物は、香料ゲラノニトリルの代用物に特に適している。したがって、本発明の香料組成物は、エチルゲラノニトリル(3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリル)と、所望により、シトロネリルニトリルまたはジヒドロシトロネリルニトリル、好ましくはシトロネリルニトリルおよびジヒドロシトロネリルニトリル、あるいは、特に好ましくはシトロネリルニトリルのみを含む。これに関連して、好ましい実施形態の範囲においては、エチルゲラノニトリルを、3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリルと、化合物3,7-ジメチル-3,6-ノナジエンニトリルおよび3-メチレン-7-メチル-6-ノネンニトリルの群から選択される少なくとも1つの化合物とを含む、本発明に従い入手可能な混合物(ここで、該混合物中の3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリルの量に対する3,7-ジメチル-3,6-ノナジエンニトリルおよび3-メチレン-7-メチル-6-ノネンニトリルの合計含有量は10重量%以下である)の形態で使用することも出来る。
【0072】
本発明のこの態様の範囲においては、特に好ましい香料組成物は、各場合において最終的な香料組成物の総重量に対して、1もしくは好ましくは2〜20重量%、好ましくは5〜10重量%のジヒドロシトロネリルニトリル、20〜60重量%、好ましくは35〜45重量%のシトロネリルニトリル、および35〜75重量%、好ましくは50〜60重量%の3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリル、または、3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリルと、化合物3,7-ジメチル-3,6-ノナジエンニトリルおよび3-メチレン-7-メチル-6-ノネンニトリルの群から選択される少なくとも1つの化合物との混合物(ここで、該混合物中の3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリルの量に対する3,7-ジメチル-3,6-ノナジエンニトリルおよび3-メチレン-7-メチル-6-ノネンニトリルの合計含有量は10重量%以下である)を含むものである。そのような香料組成物は、微妙な違いに関して、ゲラノニトリルの香りに類似する印象を有しており、代用されるゲラノニトリルとほぼ等しい濃度で同様に使用することが出来る。
【0073】
本発明の香料組成物は、必要に応じて、この用途分野における通常の溶媒で希釈されうる。適当な溶媒の具体例としては、エタノール、ジプロピレングリコールもしくはそのエーテル、フタラート、プロピレングリコール、またはジオールのカーボネート、好ましくはエタノールが挙げられる。水も、本発明の香料組成物を希釈するための溶媒として適しており、適当な乳化剤と共に有利に使用することが出来る。
【0074】
本発明の香料組成物の好ましい実施形態は、それが、3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリルと、化合物3,7-ジメチル-3,6-ノナジエンニトリルおよび3-メチレン-7-メチル-6-ノネンニトリルの群から選択される少なくとも1つの化合物とを含む混合物(ここで、該混合物中の3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリルの量に対する3,7-ジメチル-3,6-ノナジエンニトリルおよび3-メチレン-7-メチル-6-ノネンニトリルの合計含有量は10重量%以下である)の形態で、エチルゲラノニトリルを含むことにより特徴づけられる。
【0075】
前記のような本発明の範囲内のそのような混合物およびそれらの好ましい実施形態は、本発明の香料組成物への配合に特に適している。
【0076】
成分の構造的および化学的類似性により、本発明の香料組成物は、高い安定性および耐久性を有しており、新鮮なレモン様の香りにより特徴づけられることから、同様に香料ゲラノニトリルの適当な代替物の1つである。これに関連して、香料組成物の2つの成分であり得るシトロネリルニトリルおよびジヒドロシトロネリルニトリルは、いずれも、工業的規模で容易に入手可能な安価な化合物であり、したがって、本発明に従い入手可能なエチルゲラノニトリルまたは本発明の混合物に対する必要性を軽減しうることに寄与することが、利点として強調されるべきである。したがって、さらなる態様において、本発明は、シトラス調の香りを生成させるための、本発明の香料組成物の使用に関する。
【0077】
前記の混合物と同様に、本発明の香料組成物も、明示される混合物に関して前記で例示により説明したとおり、小売商品および日用品または組成物への配合に適している。したがって、本発明のさらなる態様は、明示される物品に配合または塗布しうる、官能的に有効な量の本発明の香料組成物を含む小売商品または日用品に関する。本明細書において、官能的に有効な量は、本発明全体の目的において、意図されるとおりに使用される場合に、使用者または消費者に、香りの印象、具体的には強力なシトラス調の香りの印象をもたらすのに十分な量を意味すると理解されるべきである。
【実施例】
【0078】
以下の実施例は本発明を例示するものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0079】
実施例1:
84.8 g (1.0 mol)のシアノ酢酸、280 g (2.0 mol)のエチルヘプテノンおよび192 g (2.4mol)のピリジンを、まず、360 mlのトルエン中に導入した。6.6 g (0.08 mol)の酢酸アンモニウムを加え、該混合物を水分離器において還流下で加熱した。1時間の反応時間の後、さらに1時間当たり42.4 g (0.5 mol)のシアノ酢酸を7時間にわたって加え、その後、水を共沸除去しながら該反応混合物を攪拌した。12時間の実施時間の後、約250mlの溶媒を留去し、該混合物を還流温度で更に3時間攪拌した。
【0080】
ついで有機相を200 mlの飽和NaHCO3溶液で2回洗浄し、溶媒を真空中で除去した。これにより297gの粗生成物を得て、これをガスクロマトグラフィーにより分析した。
【0081】
GC法:
カラム: 50 m CP-SIL 13 CB。
【0082】
ID: 0.32 mm FD: 1.2μm, 90℃; 2℃/分〜200℃; 6℃/分; 290℃, 20分の等温。
【0083】
粗生成物は、表1に示す組成を有していた(全データはGC面積%で示されている)。ここでは、それぞれのエチレン性二重結合に関して、各場合において可能性のある、帰属されていない幾何配置(E/Z)異性体の含有量が示されている。
【表1】

【0084】
このようにして得られた粗生成物を、106〜135℃の底温度および3mbarの絶対圧力で分別蒸留に付した。これにより、二重結合異性体の混合物の形態の210.2 g (理論値の64.5%にあたる1.29 mol)のエチルゲラノニトリルを得た。
【0085】
実施例2:
84.8 g (1.0 mol)のシアノ酢酸、280 g (2.0 mol)のエチルヘプテノンおよび192 g (2.4mol)のピリジンを、まず、360 mlのトルエン中に導入した。6.6 g (0.08 mol)の酢酸アンモニウムを加え、該混合物を水分離器において還流下で加熱した。1時間の反応時間の後、さらに1時間当たり42.4 g (0.5 mol)のシアノ酢酸を7時間にわたって加え、その後、水を共沸除去しながら該反応混合物を攪拌した。12時間の実施時間の後、約250mlの溶媒を留去し、該混合物を還流温度で更に3時間攪拌した。
【0086】
この時間の経過後、有機相を200 mlの飽和NaHCO3溶液で2回洗浄した。ついで180 g (1.0 mol)のナトリウムメトキシド(メタノール中の濃度30%の溶液)を室温で粗溶液に滴下した。反応混合物を室温で1時間攪拌し、ついで100mlの酢酸(水中の濃度50%溶液)を加えることにより中和した。溶媒を真空中で除去した。これにより、317gの粗生成物を得て、これをガスクロマトグラフィーにより分析した。
【0087】
粗生成物は、表2に示す組成を有していた(全データはGC面積%で示されている)。ここでは、それぞれのエチレン性二重結合に関して、各場合において可能性のある、帰属されていない幾何配置(E/Z)異性体の含有量が示されている。
【表2】

【0088】
このようにして得られた粗生成物を、112〜129℃の底温度および3〜4mbarの絶対圧力で分別蒸留に付した。これにより、二重結合異性体の混合物の形態の216 g (理論値の65%にあたる1.3 mol)のエチルゲラノニトリルを得た。
【0089】
実施例3:
148.5 g (1.5 mol)のメチルシアノアセテートを、まず、750 mlのメタノール中に導入した。270 g (1.5 mol)のナトリウムメトキシド(メタノール中の濃度30%の溶液)を加え、1時間にわたって、150mlのメタノール中の210.3 g (1.5 mol)のエチルヘプテノンをその混合物に滴下した。ついで反応混合物を、還流温度で22時間加熱した。
【0090】
この時間の経過後、混合物を90 g (1.5 mol)の酢酸で中和し、溶媒を真空中で除去した。残渣を500mlの水および500mlのトルエンと混合し、相を分離した。水相を3×100mlのトルエンで抽出した。合わせた有機相を3×100mlの水で洗浄した。溶媒を真空中で除去した。これにより、247gの粗生成物を得て、これをガスクロマトグラフィーにより分析した。
【0091】
粗生成物は、表3に示す組成を有していた(全データはGC面積%で示されている)。ここでは、それぞれのエチレン性二重結合に関して、各場合において可能性のある、帰属されていない幾何配置(E/Z)異性体の含有量が示されている。
【表3】

【0092】
このようにして得られた粗生成物を、135〜210℃の底温度および3〜5mbarの絶対圧力で分別蒸留に付した。これにより、二重結合異性体の混合物の形態の148.4 g (理論値の60.6%にあたる0.91mol)のエチルゲラノニトリルを得た。
【0093】
実施例4:
180 g (1 mol)のナトリウムメトキシド(メタノール中の濃度30%の溶液)を、まず、410 g (10 mol)のアセトニトリル中に導入し、混合物を80℃に加熱した。1時間にわたって、200 mlのアセトニトリル中の140 g (1 mol)のエチルヘプテノンを滴下し、反応混合物を還流下で一晩加熱した。ついで60 g (1 mol)の酢酸を滴下し、該混合物を200mlの水と混合した。相を分離し、水相を3×100mlのトルエンで抽出した。有機相を合わせ、溶媒を真空中で除去した。これにより、159gの粗生成物を得て、これをガスクロマトグラフィーにより分析した。
【0094】
粗生成物は、表4に示す組成を有していた(全データはGC面積%で示されている)。ここでは、それぞれのエチレン性二重結合に関して、各場合において可能性のある、帰属されていない幾何配置(E/Z)異性体の含有量が示されている。
【表4】

【0095】
このようにして得られた粗生成物を、120〜190℃の底温度および3〜5mbarの絶対圧力で分別蒸留に付した。これにより、二重結合異性体の混合物の形態の92 g (理論値の56%にあたる0.56mol)のエチルゲラノニトリルを得た。
【0096】
実施例5:
224g (4mol)のKOHペレットを、まず、580g (14mol)のアセトニトリル中に導入し、混合物を80℃に加熱した。2時間にわたって、561g (4mol)のエチルヘプテノンを滴下し、反応混合物を還流下で4時間加熱した。反応混合物を室温に冷却し、ついで600mlの水および300mlのトルエンと混合した。相を分離し、有機相を3×500mlの濃度25%の硫酸溶液で洗浄した。有機相を硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を真空中で除去した。これにより、674gの粗生成物を得て、これをガスクロマトグラフィーにより分析した。
【0097】
粗生成物は、表5に示す組成を有していた(全データはGC面積%で示されている)。ここでは、それぞれのエチレン性二重結合に関して、各場合において可能性のある、帰属されていない幾何配置(E/Z)異性体の含有量が示されている。
【表5】

【0098】
このようにして得られた粗生成物から、まず、サムベイ(Sambay)エバポレーターにより140〜150℃の温度および5mbarの絶対圧力で高沸点成分を除去し、ついで粗生成物を120〜160℃の底温度および10mbarの絶対圧力で分別蒸留に付した。これにより、二重結合異性体の混合物の形態の352g (理論値の54%にあたる2.16mol)のエチルゲラノニトリルを得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリルの製造方法であって、
a)式(II)
【化1】

[式中、基
R1は水素または基-C(O)OR2であり、ここで、
R2は、適切であれば、水素または直鎖状、分枝状もしくは環状C1-C6-アルキルである]
のニトリルを活性化試薬と反応させて、脱プロトン化またはエノール化形態の式(II)のニトリルを得、
b)脱プロトン化またはエノール化形態の式(II)のニトリルを6-メチル-5-オクテン-2-オンと反応させて、3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリルまたはそのエチレン性二重結合に関する異性体混合物の形態の式(IV)
【化2】

[式中、基
R1'は-C(O)OR2であり、
R2は水素または直鎖状、分枝状もしくは環状C1-C6-アルキルである]
の化合物を得、
式(IV)の化合物の異性体混合物が得られる場合、
c)適切であれば、得られた式(IV)の化合物を鹸化して、対応する遊離カルボン酸を得、ついでそれを脱カルボキシル化して、3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリルを得る
工程を含む、前記方法。
【請求項2】
エチレン性二重結合に関する幾何配置異性体および構造異性体の混合物の形態の3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリルを製造する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
基R1が水素である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
活性化試薬として塩基を使用する、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
溶媒としてのアセトニトリル中で実施される、請求項3記載の方法。
【請求項6】
5〜50のpKa値を有する活性化試薬を使用する、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物およびアルコキシド、水酸化および酢酸アンモニウム、ならびに第1級、第2級および第3級アミンの群から選択される活性化試薬を使用する、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
まず、工程a)により得られる反応混合物を導入し、そして6-メチル-5-オクテン-2-オンを計量供給する、請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
工程b)またはc)により得られる生成物を塩基と接触させることにより、該生成物を異性化に供する、請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項記載の方法により得ることが出来る3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリルを含む混合物。
【請求項11】
3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリルと、化合物3,7-ジメチル-3,6-ノナジエンニトリルおよび3-メチレン-7-メチル-6-ノネンニトリルの群から選択される少なくとも1つの化合物とを含む混合物であって、該混合物中の3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリルの量に対する3,7-ジメチル-3,6-ノナジエンニトリルおよび3-メチレン-7-メチル-6-ノネンニトリルの合計含有量が10重量%以下である、前記混合物。
【請求項12】
少なくとも90%の、3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリルと、化合物3,7-ジメチル-3,6-ノナジエンニトリルおよび3-メチレン-7-メチル-6-ノネンニトリルの群から選択される少なくとも1つの化合物とからなる、請求項10および11のいずれか1項記載の混合物。
【請求項13】
請求項10〜12のいずれか1項記載の混合物の、香料としての使用。
【請求項14】
シトラス調の香りを生成させるための、請求項13記載の使用。
【請求項15】
官能的に有効な量の請求項10〜12のいずれか1項記載の混合物を含む、小売商品または日用品。
【請求項16】
3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリルと、香料3,7-ジメチルオクタンニトリルおよび3,7-ジメチル-6-オクテンニトリルから選択される少なくとも1つの他の成分とを含む香料組成物。
【請求項17】
各場合において最終的な香料組成物の総重量に対して、5〜10重量%のジヒドロシトロネリルニトリル、35〜45重量%のシトロネリルニトリルおよび50〜60重量%の3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリルを含む、請求項16記載の香料組成物。
【請求項18】
請求項10〜12のいずれか1項記載の混合物の形態のエチルゲラノニトリルを含む、請求項16または17記載の香料組成物。
【請求項19】
シトラス調の香りを生成させるための、請求項16〜18のいずれか1項記載の香料組成物の使用。
【請求項20】
官能的に有効な量の請求項16〜18のいずれか1項記載の香料組成物を含む、小売商品または日用品。

【公表番号】特表2010−534630(P2010−534630A)
【公表日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−517362(P2010−517362)
【出願日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【国際出願番号】PCT/EP2008/059290
【国際公開番号】WO2009/013199
【国際公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】