説明

エチレン−α−オレフィン系共重合体の成形品、その成形品を得るための組成物及び成形品を用いた繊維−ゴム複合材料

【課題】 接合対象物に対する接着性を向上させることができると共に、強度の向上を図ることができるエチレン−α−オレフィン系共重合体の成形品、その成形品を得るための組成物及び成形品を用いた繊維−ゴム複合材料を提供する。
【解決手段】 エチレン−α−オレフィン系共重合体組成物の成形品は、水酸基変性エチレン−α−オレフィン系共重合体(A)、充填剤(B)及び架橋剤(C)を配合してなるエチレン−α−オレフィン系共重合体組成物を成形することにより得られる。水酸基変性エチレン−α−オレフィン系共重合体は、エチレン−α−オレフィン系共重合体をヒドロペルオキシ基を有する過酸化物を用いて水酸基変性されることにより製造される。このゴム成形品であるEPDMと繊維成形品とを密着させ、その状態で加熱、架橋することにより繊維−ゴム複合材料が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばエチレン−プロピレン共重合ゴムの成形品と繊維成形品とが良好に接着された繊維−ゴム複合材料を与えることができるエチレン−α−オレフィン系共重合体の成形品、その成形品を得るための組成物及び成形品を用いた繊維−ゴム複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エチレン−α−オレフィン系共重合体としては、エチレン−プロピレン共重合ゴム(以下、EPMと略記する。)及びエチレン−プロピレン−非共役ジエン三元共重合ゴム(以下、EPDMと略記する。)が代表例として知られている。このエチレン−α−オレフィン系共重合ゴムは、各種成形性、機械的物性、耐水性、耐候性、耐熱性、耐薬品性等に優れるため、自動車部品、家電製品、事務機器等多くの分野において架橋ゴムとして使用されている。更に、環境に負荷を与える物質の含有量が少ないという特長があることから、ハロゲン化ゴム等が主に用いられてきた分野でもエチレン−α−オレフィン系共重合ゴムへの置き換えが進められている。
【0003】
しかし、エチレン−α−オレフィン系共重合ゴムは極性官能基や不飽和結合を持たない不活性なゴムであるため他材料との接着性が低く、複合材料の製造が難しいという欠点を有している。特に、ポリアミドやポリエステル等の難接着性繊維を原料として製造された芯線や帆布等の繊維成形品とエチレン−α−オレフィン系共重合体とを接着する場合、従来のゴムでは十分な接着強度が得られず、使用中に繊維とゴムとの界面での剥離が起こり実用上の耐久性が不足するという問題があった。
【0004】
この問題を解決する方法として様々な接着方法が提案されている。現在最も一般的に用いられている方法は、予めイソシアネート化合物或はエポキシ化合物等のプライマーを塗布した繊維成形品に、レゾルシン−ホルムアルデヒド初期縮合物とゴムラテックスとからなる接着剤組成物(以下、RFLと略記する。)を塗布したものを未架橋のゴム組成物に密着させ、加熱、架橋して接着するものである。
【0005】
しかし、この接着方法はRFLの原料が高価なうえ、工程が増えるため生産性が低いという問題を有していた。更に、高温下で長期間繰り返しての屈曲及び圧縮に曝される自動車用伝動ベルトのような過酷な使用条件下での接着強度の耐久性については、未だ十分とは言えず、さらなる改良が望まれている。
【0006】
これらの課題を解決する手段として、例えばゴム組成物中に末端に水酸基を有する低分子量の液状ポリブタジエンを配合して接着強度を高める方法が提案されている(特許文献1)。この方法では、イソシアネート基を保護したブロック化イソシアネートと呼ばれる化合物群をRFLに添加してなるディップ液を調製し、このディップ液を塗布した繊維成形品を水酸基含有ポリブタジエンを配合したゴム組成物と密着させ、加熱、架橋して接着するものである。この方法の特徴は、ブロック化イソシアネートが有する保護されたイソシアネート基を、加熱、架橋時の熱によって活性化させ、それを水酸基含有ポリブタジエンの水酸基と反応させて、ウレタン結合を形成させることによって接着強度を向上させることにある。
【特許文献1】特開平8−92386号公報(第2頁及び第3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、この従来方法では接着強度を高める成分として液状の末端水酸基含有ポリブタジエンを用いるため、接着強度を一層上げようと末端水酸基含有ポリブタジエンの配合量を増やすと、架橋後にゴム自体が軟らかくなってその強度が低下するという問題があった。
【0008】
本発明は、上記の従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。即ち本発明の目的は、接合対象物に対する接着性を向上させることができると共に、強度の向上を図ることができるエチレン−α−オレフィン系共重合体の成形品、その成形品を得るための組成物及び成形品を用いた繊維−ゴム複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明における第1の発明のエチレン−α−オレフィン系共重合体組成物の成形品は、エチレン−α−オレフィン系共重合体をヒドロペルオキシ基を有する過酸化物を用いて変性した水酸基変性エチレン−α−オレフィン系共重合体(A)、充填剤(B)及び架橋剤(C)を配合してなるエチレン−α−オレフィン系共重合体組成物を成形して得られることを特徴とするものである。
【0010】
第2の発明のエチレン−α−オレフィン系共重合体組成物は、エチレン−α−オレフィン系共重合体をヒドロペルオキシ基を有する過酸化物を用いて変性した水酸基変性エチレン−α−オレフィン系共重合体(A)、充填剤(B)及び架橋剤(C)を配合してなることを特徴とするものである。
【0011】
第3の発明のエチレン−α−オレフィン系共重合体組成物は、第2の発明において、前記水酸基変性エチレン−α−オレフィン系共重合体(A)が、エチレン−α−オレフィン系共重合体100質量部に対してヒドロペルオキシ基含有過酸化物を0.1〜20質量部の割合で用い、該ヒドロペルオキシド基含有過酸化物の10時間半減期温度から1分間半減期温度の間の温度で加熱して得られるものである。
【0012】
第4の発明のエチレン−α−オレフィン系共重合体組成物は、第3の発明において、前記水酸基変性エチレン−α−オレフィン系共重合体(A)が、エチレン−α−オレフィン系共重合体100質量部に対してヒドロペルオキシ基含有過酸化物を0.1〜20質量部の割合で用い、更に前記ヒドロペルオキシ基含有過酸化物より低い10時間半減期温度を有するラジカル発生剤を、ヒドロペルオキシ基含有過酸化物のヒドロペルオキシ基1モルに対してラジカル発生官能基の基準で0.001〜1モルの範囲で用い、該ラジカル発生剤の10時間半減期温度から前記ヒドロペルオキシ基含有過酸化物の1分間半減期温度の間で加熱して得られるものである。
【0013】
第5の発明のエチレン−α−オレフィン系共重合体組成物は、第3又は第4の発明において、前記ヒドロペルオキシ基を有する過酸化物がt−ブチルヒドロペルオキシド、t−アミルヒドロペルオキシド、t−ヘキシルペルオキシド、t−オクチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド又はジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシドである。
【0014】
第6の発明のエチレン−α−オレフィン系共重合体組成物は、第2から第5のいずれかの発明において、前記充填剤がカーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、クレー、水酸化アルミニウム、アルミナ又はハイドロタルサイト、ナイロン繊維又は炭素繊維である。
【0015】
第7の発明の繊維−ゴム複合材料は、第1の発明のエチレン−α−オレフィン系共重合体組成物の成形品としてのエチレン−α−オレフィン系共重合ゴム組成物の成形品と繊維成形品とを密着させ、その状態で架橋して得られることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
第1の発明のエチレン−α−オレフィン系共重合体組成物の成形品は、水酸基変性エチレン−α−オレフィン系共重合体(A)、充填剤(B)及び架橋剤(C)を配合してなるエチレン−α−オレフィン系共重合体組成物を成形して得られるものである。このため、(A)成分中水酸基に基づいて接合対象物に対する接着性が高められると共に、(B)成分の充填剤に基づいて成形品の強度及び接着性が発現され、かつ(C)成分の架橋剤により架橋構造が形成されて成形品の強度が高められる。従って、エチレン−α−オレフィン系共重合体組成物の成形品によれば、接合対象物に対する接着性を向上させることができると共に、強度の向上を図ることができる。
【0017】
第2の発明のエチレン−α−オレフィン系共重合体組成物は、水酸基変性エチレン−α−オレフィン系共重合体(A)、充填剤(B)及び架橋剤(C)を配合してなるものである。よって、このエチレン−α−オレフィン系共重合体組成物を所定形状に成形して成形品にすることにより、第1の発明の効果を発揮させることができる。
【0018】
第3の発明のエチレン−α−オレフィン系共重合体組成物は、(A)成分が、エチレン−α−オレフィン系共重合体100質量部に対してヒドロペルオキシ基含有過酸化物を0.1〜20質量部の割合で用い、該ヒドロペルオキシド基含有過酸化物の10時間半減期温度から1分間半減期温度の間の温度で加熱して得られるものである。このため、エチレン−α−オレフィン系共重合体に対し、過度な架橋や減成を引き起こすことなく効率的かつ十分に水酸基変性を行うことができ、第2の発明の効果を向上させることができる。
【0019】
第4の発明のエチレン−α−オレフィン系共重合体組成物は、(A)成分が、第3の発明で用いるヒドロペルオキシ基含有過酸化物に加え、ヒドロペルオキシ基含有過酸化物より低い10時間半減期温度を有するラジカル発生剤を用いて得られる。即ち、そのラジカル発生剤をヒドロペルオキシ基含有過酸化物のヒドロペルオキシ基1モルに対してラジカル発生官能基の基準で0.001〜1モルの範囲で用い、該ラジカル発生剤の10時間半減期温度からヒドロペルオキシ基含有過酸化物の1分間半減期温度の間で加熱する。このため、第3の発明の効果に加え、(A)成分をより低い加熱温度で容易に得ることができる。
【0020】
第5の発明のエチレン−α−オレフィン系共重合体組成物は、前記ヒドロペルオキシ基を有する過酸化物がt−ブチルヒドロペルオキシド、t−アミルヒドロペルオキシド、t−ヘキシルペルオキシド、t−オクチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド又はジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシドである。このため、第3又は第4の発明の効果に加え、エチレン−α−オレフィン系共重合体に対して上記のヒドロペルオキシ基を有する過酸化物が溶融又は溶解し易く、エチレン−α−オレフィン系共重合体への水酸基の導入効率を高くすることができる。
【0021】
第6の発明のエチレン−α−オレフィン系共重合体組成物は、前記(B)成分の充填剤がカーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、クレー、水酸化アルミニウム、アルミナ、ハイドロタルサイト、ナイロン繊維又は炭素繊維である。このため、第2から第5のいずれかの発明の効果に加え、(A)成分に対する補強性及び強度の改良効果を向上させることができる。
【0022】
第7の発明の繊維−ゴム複合材料は、第1の発明によるエチレン−α−オレフィン系共重合ゴム組成物の成形品と繊維成形品とを密着させ、その状態で架橋して得られるものである。このため、エチレン−α−オレフィン系共重合ゴム組成物の成形品と繊維成形品との間の接着性に優れ、繊維−ゴム複合材料の強度にも優れている。従って、この繊維−ゴム複合材料は自動車部品、建築資材、機械部品等様々な分野で好適に使用することができ、本発明の工業的な利用価値は極めて大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を具体化した実施形態について詳細に説明する。
エチレン−α−オレフィン系共重合体組成物の成形品は、水酸基変性エチレン−α−オレフィン系共重合体(A)、充填剤(B)及び架橋剤(C)を配合してなるエチレン−α−オレフィン系共重合体組成物を成形して得られるものである。水酸基変性エチレン−α−オレフィン系共重合体(A)は、エチレン−α−オレフィン系共重合体をヒドロペルオキシ基を有する過酸化物を用いて水酸基変性されたものである。
【0024】
このエチレン−α−オレフィン系共重合体は、エチレンとα−オレフィンとを含み、必要によりその他の単量体を含む単量体混合物を共重合して得られる共重合体で、エチレンとα−オレフィンとの二元共重合体及びエチレンとα−オレフィンと非共役ジエンとの三元共重合体が好ましい。ポリエチレンは、変性反応と同時に架橋されることによって粘度が上昇し、加工性が著しく低下することから不適当である。ポリプロピレンは、変性反応と同時に分子鎖の切断が進行して粘度が低下し、加工性や強度が著しく低下することから不適当である。
【0025】
α−オレフィンとしては、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、2−メチルブテン−1、3−メチルブテン−1、ヘキセン−1、3−メチルペンテン−1、4−メチルペンテン−1、3,3−ジメチルブテン−1、ヘプテン−1、メチルヘキセン−1、ジメチルペンテン−1、トリメチルブテン−1、エチルペンテン−1、オクテン−1、メチルペンテン−1、ジメチルヘキセン−1、トリメチルペンテン−1、エチルヘキセン−1、メチルエチルペンテン−1、ジエチルブテン−1、プロピルペンテン−1、デセン−1、メチルノネン−1、ジメチルオクテン−1、トリメチルヘプテン−1、エチルオクテン−1、メチルエチルヘプテン−1、ジエチルヘキセン−1、ドデセン−1、テトラデセン−1、ヘキサデセン−1、オクタデセン−1、エイコサン−1等の、炭素数3〜20のα−オレフィンが挙げられる。これらのα−オレフィンは単独又は2種以上を組み合わせて使用される。これらのα−オレフィンの中で、水酸基を効率良く導入でき、接着性の改良効果が高まる点からプロピレンが好ましい。
【0026】
また、その他の単量体である非共役ジエンとしては、5−エチリデン−2−ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、トリシクロペンタジエン、5−メチル−2,5−ノルボナジエン、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−イソプロペニル−2−ノルボルネン、5−(1−ブテニル)−2−ノルボルネン、シクロオクタジエン、ビニルシクロヘキセン、1,5,9−シクロドデカトリエン、6−メチル−4,7,8,9−テトラヒドロインデン、2,2'−ジシクロペンテニル、トランス−1,2−ジビニルシクロブタン、2−メチル1,4−ヘキサジエン、1,6−オクタジエン、1,7−オクタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,8−ノナジエン、1,9−デカジエン、3,6−ジメチル−1,7−オクタジエン、4,5−ジメチル−1,7−オクタジエン、1,4,7−オクタトリエン、5−メチル−1,8−ノナジエン、ジシクロオクタジエン、メチレンノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネンサン等が挙げられる。これらの非共役ジエンは、1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることもできる。
【0027】
これら非共役ジエンの中で、5−エチリデン−2−ノルボルネン、ジシクロペンタジエン及び1,9−デカジエンが好ましく、5−エチリデン−2−ノルボルネン及びジシクロペンタジエンが特に好ましい。その他の単量体として、非共役ジエン以外の単量体を用いることもできる。
【0028】
このようなエチレン−α−オレフィン系共重合体の中では、水酸基を効率良く導入でき、接着性の改良効果が高まる点からエチレン−プロピレン共重合体及びエチレン−プロピレン−5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合体が好ましい。
【0029】
また、エチレン−α−オレフィン系共重合体中の各成分の使用割合は特に限定されないが、各成分の質量分率(エチレン/α−オレフィン/非共役ジエンの順に表示)が、0.2〜0.8/0.2〜0.8/0〜0.2であるものは、架橋反応や減成反応が起こる割合が小さくなる点から好ましい。特に、非共役ジエンの質量分率が0.2を越える場合には、エチレン−α−オレフィン系共重合体における活性点が多くなり過ぎて架橋反応等の副反応が起き易くなり、接着性の改良効果が小さくなる傾向にある。
【0030】
エチレン−α−オレフィン系共重合体のムーニー粘度(ML1+4、100℃)は、10〜250が好ましく、15〜200がより好ましい。ムーニー粘度が10未満の場合には、水酸基の導入効率が低下する傾向にあり、一方、250を越える場合には、架橋反応や減成反応が起り易くなる傾向にあり、何れも接着性の改良効果が小さくなる傾向にある。
【0031】
前記のヒドロペルオキシ基含有過酸化物は、分子中に−OOH基を有する過酸化物であり、例えば、過酸化水素;メチルエチルケトンペルオキシド(109℃、171℃)、シクロヘキサノンペルオキシド(97℃、174℃)、メチルシクロヘキサノンペルオキシド等のケトンペルオキシド;t−ブチルヒドロペルオキシド(167℃、261℃)、t−アミルヒドロペルオキシド(164℃、258℃)、t−ヘキシルヒドロペルオキシド(160℃、251℃)、t−オクチルヒドロペルオキシド(153℃、247℃)、2,5−ジメチル−2,5−ジヒドロペルオキシヘキサン(154℃、248℃)、クメンヒドロペルオキシド(158℃、254℃)、ジイソプロピルベンゼンモノヒドロペルオキシド(145℃、233℃)、ジイソプロピルベンゼンジヒドロペルオキシド(154℃、253℃)、パラメンタンヒドロペルオキシド(128℃、200℃)、ピナンヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド;過安息香酸、メタクロロ過安息香酸等の有機過酸化物等が挙げられる。
【0032】
上記( )内の温度は、前者が10時間半減期温度で、後者が1分間半減期温度であり、それぞれ10時間及び1分間で初期濃度の半分の濃度になる温度であり、ベンゼン等の希薄溶液中で求めることができる。これら過酸化物は、それぞれ単独で、又は2種以上が組み合わせて用いられる。
【0033】
これらの中で、ヒドロペルオキシドが好ましく、特にt−ブチルヒドロペルオキシド、t−アミルヒドロペルオキシド、t−ヘキシルヒドロペルオキシド、t−オクチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシドは、エチレン−α−オレフィン系共重合体に対して溶融又は溶解し易く、水酸基の導入効率が高くなるので好ましい。
【0034】
上述のヒドロペルオキシ基含有過酸化物の配合量は、エチレン−α−オレフィン系共重合体100質量部に対して、通常0.1〜20質量部、好ましくは0.5〜10質量部である。ヒドロペルオキシ基含有過酸化物の配合量が0.1質量部未満の場合には、水酸基の導入量が少なくなるため接着性の改良効果が小さくなる傾向にある。一方、ヒドロペルオキシ基含有過酸化物の配合量が20質量部を越える場合には、エチレン−α−オレフィン系共重合体の架橋反応や減成反応が起こりやすくなるため、接着性の改良効果が小さくなる傾向にある。このヒドロペルオキシ基含有過酸化物は、純品形態の他にトルエン、クメン、水等の溶媒や、シリカ等の不活性固体で希釈した状態で使用することができる。
【0035】
過酸化物として、前述のヒドロペルオキシ基含有過酸化物と、そのヒドロペルオキシ基含有過酸化物の10時間半減期温度以下の10時間半減期温度を有するラジカル発生剤とを併用することにより、加熱処理温度を低くできる利点がある。このようなラジカル発生剤は、1分間半減期温度が195℃以下であることが好ましく、90〜190℃であることがより好ましい。
【0036】
1分間半減期温度が195℃以下のラジカル発生剤の具体例としては、例えば、ジ−t−ブチルペルオキシド(124℃、186℃)、ジ−t−ヘキシルペルオキシド(116℃、177℃)、t−ブチルクミルペルオキシド(120℃、173℃)、ジクミルペルオキシド(116℃、175℃)、α,α'−ビス(t−ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼン(119℃、175℃)、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン(118℃、180℃)、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3(128℃、194℃)等のジアルキルペルオキシド;n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルペルオキシ)バレレート(105℃、173℃)、2,2−ビス(t−ブチルペルオキシ)ブタン(103℃、160℃)、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン(91℃、154℃)、1,1−ビス(t−ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン(87℃、149℃)、1,1−ビス(t-ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(90℃、149℃)、1,1−ビス(t-ヘキシルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(87℃、147℃)、等のペルオキシケタール;t-ブチルペルオキシベンゾエート(104℃、167℃)、t−ヘキシルペルオキシベンゾエート(99℃、160℃)、t−ブチルペルオキシアセテート(102℃、160℃)、2,5−ジメチル−2,5−ビス(m−トリルペルオキシ)ヘキサン(99℃、156℃)、t−ブチルペルオキシラウレート(98℃、159℃)、t−ブチルペルオキシ−3,3,5−トリメチルヘキサノエート(97℃、166℃)、t−ブチルペルオキシマレイックアシッド(96℃、168℃)、t−ブチルペルオキシイソブチレート(77℃、136℃)、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート(72℃、134℃)、t−ブチルペルオキシピバレート(55℃、110℃)、t−ブチルペルオキシネオデカノエート(46℃、104℃)、クミルペルオキシネオデカノエート(37℃、94℃)等のペルオキシエステル;t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート(99℃、161℃)、t−ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート(99℃、159℃)、t−ヘキシルペルオキシイソプロピルモノカーボネート(95℃、155℃)等のペルオキシモノカーボネート;ベンゾイルペルオキシド(74℃、130℃)、4−メチルベンゾイルペルオキシド(71℃、128℃)、ラウロイルペルオキシド(62℃、116℃)、3,3,5−トリメチルヘキサノイルペルオキシド(59℃、113℃)等のジアシルペルオキシド;ビス(2−エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネート(44℃、91℃)、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート(41℃、92℃)、ジシクロヘキシルペルオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルペルオキシジカーボネート(41℃、92℃)、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート(41℃、88℃)等のペルオキシジカーボネート;2,2'−アゾビス(イソブチロニトリル)(64℃)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(52℃)、1,1'−アゾビス(シクロヘキサンカーボニトリル)(88℃)、2−(t−ブチルアゾ)−2−メチルブタンニトリル(82℃)等のアゾ化合物が挙げられる。上記( )内の温度は、前者が10時間半減期温度で、後者が1分間半減期温度である。但し、アゾ化合物についての( )内の温度は、10時間半減期温度である。これらは、それぞれ単独で、又は2種以上が組合せて使用される。
【0037】
これらラジカル発生剤の中では有機過酸化物が好ましく、特にラジカル発生効率(ラジカル中の有効に作用するラジカルの割合)が高く、かつ水素引抜き能の高い有機過酸化物がより好ましい。そのようなラジカル発生剤としては、例えば、ジ−t−ブチルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、α,α'−ビス(t−ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t-ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t-ブチルペルオキシベンゾエート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、ベンゾイルペルオキシド、4−メチルベンゾイルペルオキシド、ビス(2−エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート、ジシクロヘキシルペルオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルペルオキシジカーボネート、ジイソプロピルペルオキシジカーボネートが挙げられる。
【0038】
上述のラジカル発生剤の配合量は、ヒドロペルオキシ基含有過酸化物のヒドロペルオキシ基1モルに対してラジカル発生官能基の基準で1モル以下が好ましく、0.8モル以下がより好ましい。その配合量が1モルを越えると、エチレン−α−オレフィン系共重合体の架橋反応や減成反応が起りやすくなる傾向にある。ここで、ラジカル発生官能基とは、ラジカル発生剤が有機過酸化物の場合にはペルオキシ結合を示し、またアゾ化合物の場合にはアゾ結合を示す。
【0039】
エチレン−α−オレフィン系共重合体を水酸基変性する方法は、ヒドロペルオキシ基を有する過酸化物(ヒドロペルオキシ基含有過酸化物)が分解してラジカルを発生するような条件で行われ、加熱処理する方法、紫外線等の活性エネルギー線を照射する方法、ナフテン酸コバルト、ジメチルアニリン等の還元剤を作用させる方法等が挙げられる。これらの中で、特にエチレン−α−オレフィン系共重合体とヒドロペルオキシ基含有過酸化物、又はエチレン−α−オレフィン系共重合体とヒドロペルオキシ基含有過酸化物及び該ヒドロペルオキシ基含有過酸化物の10時間半減期温度以下の10時間半減期温度を有するラジカル発生剤を混合し、加熱処理する方法が好ましい。そのような加熱処理する方法は、エチレン−α−オレフィン系共重合体に対する水酸基の導入効率が高くなるので好ましい。
【0040】
前記(A)成分、(B)成分及び(C)成分を混合する方法は特に限定されず、公知の全ての方法が含まれる。その具体例としては、例えばヘンシェルミキサーのような物理的に混合する装置を使用する方法、溶媒を使用して溶液状態にする方法、一軸或は二軸押出機、ロール、ニーダー、ニーダールーダー、バンバリーミキサー、押出機等を用いて混練する方法等が挙げられる。上記の溶媒としては例えば、n−ヘキサン、n−ヘプタン、イソオクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン等の飽和脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;クロロベンゼン、ジクロロメタン、メチレンクロライド等のハロゲン化炭化水素が挙げられる。
【0041】
これらの方法の中では、経済性、均一混合性、及び溶媒への水酸基導入反応等の溶媒が関与する副反応を回避できる点から、混練して混合物を調製する方法が好ましい。加熱処理する方法は特に限定されないが、例えば加熱プレスを利用する方法、混練装置を利用する場合には混練手段と加熱手段とを組み合わせる方法等が挙げられる。尚、その際加熱する時期としては混練と同時、混練後等、いずれも採用される。また、混練時に多量のせん断熱が発生する場合には、その熱を加熱手段として利用することもできる。
【0042】
ヒドロペルオキシ基含有過酸化物を単独で使用する場合における加熱温度は、使用するヒドロペルオキシ基含有過酸化物の種類に依存するが、通常ヒドロペルオキシ基含有過酸化物の10時間半減期温度からヒドロペルオキシ基含有過酸化物の1分間半減期温度の間である。但し、加熱温度が300℃を越えるとエチレン−α−オレフィン系共重合体の分解が起こる可能性があるので、加熱温度は300℃以下が好ましい。より好ましい加熱温度は、ヒドロペルオキシ基含有過酸化物が効率良く分解し、かつエチレン−α−オレフィン系共重合体の流動性が高まり、水酸基導入反応が効率良く進行する140〜250℃である。
【0043】
加熱温度がヒドロペルオキシ基含有過酸化物の10時間半減期温度より低い場合には、ヒドロペルオキシ基含有過酸化物の分解速度が遅いため、水酸基の導入効率が低くなるおそれがある。一方、加熱温度がヒドロペルオキシ基含有過酸化物の1分間半減期温度を越える場合には、ヒドロペルオキシ基含有過酸化物が急激に分解するため、同様に水酸基の導入効率が低くなるおそれがある。
【0044】
また、ヒドロペルオキシ基含有過酸化物と前記ラジカル発生剤とを併用する場合における加熱温度は、使用するヒドロペルオキシ基含有過酸化物及びラジカル発生剤の種類に依存するが、通常ラジカル発生剤の10時間半減期温度からヒドロペルオキシ基含有過酸化物の1分間半減期温度の間の温度である。好ましい加熱温度は、ラジカル発生剤の10時間半減期温度からヒドロペルオキシ基含有過酸化物の1分間半減期温度よりも10℃低い温度の間の温度である。
【0045】
加熱温度がラジカル発生剤の10時間半減期温度より低い場合には、ラジカル発生剤のラジカル発生速度が遅いため、エチレン−α−オレフィン系共重合体への水酸基の導入効率が低くなるおそれがある。一方、加熱温度がヒドロペルオキシ基含有過酸化物の1分間半減期温度を越える場合には、ラジカル発生剤が急激に分解するため、同様に水酸基の導入効率が低くなるおそれがある。
【0046】
水酸基変性エチレン−α−オレフィン系共重合体は、1kg当りの水酸基が0.001〜1モルであることが好ましく、0.005〜1モルであることがより好ましく、0.01〜0.5モルであることが特に好ましい。水酸基の含有量をこのような範囲に設定することにより、水酸基変性エチレン−α−オレフィン系共重合体の接着性の改良効果を高めることができる。また、水酸基変性エチレン−α−オレフィン系共重合体の粘度はムーニー粘度(ML1+4、100℃)で10〜250が好ましく、15〜200がより好ましく、20〜100が特に好ましい。ムーニー粘度をこのような範囲に設定することにより、水酸基変性エチレン−α−オレフィン系共重合体の接着性の改良効果を高めることができる。
【0047】
次に、(B)成分の充填剤は、架橋ゴムの製造時に一般的に用いられるものであり、水酸基変性エチレン−α−オレフィン系共重合体を補強し、強度を向上させる目的で加えられる。これら充填剤としては、カーボンブラック、シリカ(ホワイトカーボン)、クレー、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、ハイドロタルサイト、ナイロン繊維、炭素繊維等が挙げられる。これらの充填剤は、単独又は2種以上混合して用いられる。これらの充填剤のうち、補強性及び強度の改良効果に優れるカーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、クレー、水酸化アルミニウム、アルミナ、ハイドロタルサイト、ナイロン繊維及び炭素繊維が好ましい。とりわけ、水酸基との相互作用が小さく、水酸基変性エチレン−α−オレフィン系共重合体の接着強度向上効果を最大限に発現させることができる点から、カーボンブラックが特に好ましい。
【0048】
充填剤の配合量は、(A)成分の水酸基変性エチレン−α−オレフィン系共重合体100質量部に対して5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、20質量部以上が特に好ましい。充填剤の配合量の上限は、水酸基変性エチレン−α−オレフィン系共重合体100質量部に対して300質量部程度である。配合量が5質量部未満では、充填剤の補強効果が十分に現れず、水酸基変性エチレン−α−オレフィン系共重合体の強度が不足する。一方、配合量が300質量部を越える場合には、エチレン−α−オレフィン系共重合体組成物の成形性が損なわれる場合がある。
【0049】
続いて、(C)成分の架橋剤は、エチレン−α−オレフィン系共重合体組成物を硬化させてエチレン−α−オレフィン系共重合体組成物の成形品に架橋構造を形成するためのものである。この架橋剤は、ゴムの分野において加硫剤と称されるものであり、エチレン−α−オレフィン系共重合体組成物の成形品にゴム状弾性を発現させることができる。そのような架橋剤としては、有機過酸化物、硫黄系加硫剤、キノイド加硫剤、樹脂加硫剤、金属酸化物加硫剤、含硫黄有機化合物、アミン系加硫剤、トリアジン系加硫剤、ポリオール系加硫剤、金属石けん系加硫剤、マレイミド系加硫剤等が挙げられる。これらの架橋剤は、1種又は2種以上が適宜選択して用いられる。これらの中で、架橋反応を効率良く行なうことができる有機過酸化物及び硫黄系加硫剤が好ましい。
【0050】
架橋剤の配合量は、(A)成分の水酸基変性エチレン−α−オレフィン系共重合体100質量部に対して0.1〜20質量部が好ましく、0.2〜10質量部がより好ましい。この配合量が0.1質量部未満では(A)成分の架橋度が低く、十分な弾性が得られない傾向にあり、一方20質量部を越えると過度に架橋が進行し、架橋物が硬く脆くなる傾向にある。
【0051】
有機過酸化物としては、例えば、ジ−t−ブチルペルオキシド、ジ−t−ヘキシルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、t−ヘキシルクミルペルオキシド、イソプロピルクミル−t−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3、α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼン等のジアルキルペルオキシド;1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t-ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t-ヘキシルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルペルオキシ)バレレート、2,2−ビス(t−ブチルペルオキシ)ブタン、エチル−3,3−ビス(t−ブチルペルオキシ)ブチレート、6,6,9,9−テトラメチル−3,3−ジメチル−1,2,4,5−テトラオキシシクロノナン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロドデカノン、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルペルオキシシクロヘキシル)プロパン等のペルオキシケタール;t−ブチルペルオキシベンゾエート、t−ヘキシルペルオキシベンゾエート、t−ブチルペルオキシラウレート、t−ブチルペルオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ヘキシルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ブチルペルオシマレイン酸等のペルオキシエステルが挙げられる。
【0052】
これらの有機過酸化物のうち、ジアルキルペルオキシド、ペルオキシケタールであり、ジクミルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼン、1,1−ビス(t-ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン及び1,1−ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサンが好ましい。これらの有機過酸化物は、架橋効率が高く、かつ揮発性が少ないからである。上記有機過酸化物は、それぞれ単独で、又は2種以上が組合せて用いられる。
【0053】
有機過酸化物を架橋剤として使用する場合には、架橋助剤を併用することもできる。そのような架橋助剤として例えば、エチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、ジアリルフタレート、ジビニルベンゼン、ジイソプロペニルベンゼン、ポリブタジエン等が挙げられる。これらの架橋助剤は、単独で、又は2種以上を組合せて使用することができる。架橋助剤の配合量は、水酸基変性エチレン−α−オレフィン系共重合体100質量部に対して通常1〜5質量部である。
【0054】
硫黄系加硫剤としては、例えば粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄等の硫黄、塩化硫黄、セレン、テルル等の無機系加硫剤、モルホリンジスルフィド、アルキルフェノールジスルフィド類、チウラムジスルフィド類、ジチオカルバミン酸塩類等の含硫黄有機化合物等が挙げられる。これらの硫黄系加硫剤は、単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。
【0055】
上記加硫剤と共に、加硫促進剤を併用することもできる。このような加硫促進剤としては、例えばアルデヒドアンモニア類、グアニジン類、チオウレア類、チアゾール類、スルフェンアミド類、チウラム類、カルバミン酸塩類、キサントゲン酸塩類等が挙げられる。これら加硫促進剤は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。加硫促進剤の配合量は、水酸基変性エチレン−α−オレフィン系共重合体100質量部に対して、通常0.1〜20質量部、好ましくは0.2〜10質量部である。
【0056】
また、上記の加硫剤及び加硫促進剤に加え、必要に応じて活性剤を配合することもできる。このような活性剤としては、例えば酸化マグネシウム、酸化亜鉛、リサージ、鉛丹、鉛白等の金属酸化物、ステアリン酸、オレイン酸、ステアリン酸亜鉛等の有機酸(塩)類等が挙げられ、特に酸化亜鉛及びステアリン酸が好ましい。これらの活性剤は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。上記活性剤の配合量は、水酸基変性エチレン−α−オレフィン系共重合体100質量部に対して、通常0.5〜20質量部である。
【0057】
エチレン−α−オレフィン系共重合体組成物には、本発明の目的を損なわない範囲において、エラストマー及び通常のゴム組成物に使用されている各種添加剤、例えば、老化防止剤、発泡剤、軟化剤、滑剤、顔料等を配合することができる。
【0058】
エラストマーとしては、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、水添スチレン−ブタジエンゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、水添アクリロニトリル−ブタジエンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、ポリイソプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩素化ポリエチレン、多硫化ゴム、エピクロロヒドリンゴム、エピクロロヒドリン−エチレンオキシドゴム、ポリエーテルウレタンゴム、ポリエステルウレタンゴム、メチルシリコーンゴム、ビニル−メチルシリコーンゴム、フェニル−メチルシリコーンゴム、フッ素ゴム等が挙げられる。これらのエラストマーは、1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0059】
老化防止剤としては、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾールの亜鉛塩等のイミダゾール系老化防止剤;ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート等の硫黄系老化防止剤;4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン等のフェノール系老化防止剤;N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、フェニル−β−ナフチルアミン等のアミン系老化防止剤;トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニルホスファイト)等のリン系老化防止剤が挙げられる。老化防止剤の配合量は、水酸基変性エチレン−α−オレフィン系共重合体100質量部に対して通常0.1〜5質量部である。
【0060】
発泡剤としては、例えば、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロにトリル、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、p,p’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、p−トルエンスルホニルヒドラジド、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。発泡剤の配合量は、水酸基変性エチレン−α−オレフィン系共重合体100質量部に対して通常0.5〜50質量部である。発泡剤の使用に際しては、尿素等の発泡助剤を併用することもできる。
【0061】
軟化剤としては、例えばアロマティク系オイル、ナフテン系オイル、パラフィン系オイル等の石油系軟化剤;ヒマシ油、綿実油、アマニ油、ナタネ油、大豆油、パーム油、やし油、落花生油、木ロウ油等の植物系軟化剤等が挙げられる。軟化剤の配合量は、水酸基変性エチレン−α−オレフィン系共重合体100質量部に対して通常10〜150質量部である。
【0062】
滑剤としては、流動パラフィン等の炭化水素系、ステアリン酸等の脂肪酸系、ステアリン酸アミド等の脂肪酸アミド系、ステアリン酸ブチル等のエステル系、ステアリルアルコール等のアルコール系等の化合物又は混合物、金属石鹸等を挙げることができる。滑剤の配合量は、水酸基変性エチレン−α−オレフィン系共重合体100質量部に対して通常0.5〜20質量部である。
【0063】
顔料としては、二酸化チタン、酸化亜鉛、群青、ベンガラ、リトポン、鉛、カドミウム、鉄、コバルト、アルミニウム、塩酸塩、硝酸塩等の無機顔料;アゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、キナクリドンキノン顔料、ジオキサジン顔料、アントラピリミジン顔料、アンサンスロン顔料、インダンスロン顔料、フラバンスロン顔料、ペリレン顔料、ぺリノン顔料、ジケトピロロピロール顔料、キノナフタロン顔料、アントラキノン顔料、チオインジゴ顔料、ベンズイミダゾロン顔料、イソインドリン顔料、カーボンブラック等の有機顔料が挙げられる。これらの顔料は、1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0064】
シランカップリング剤としては、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニル・トリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、ビス[3−(トリエトキシシリル)プロピル]テトラスルフィド等が挙げられる。
【0065】
前記のエチレン−α−オレフィン系共重合体組成物は、(A)成分、(B)成分、(C)成分及びその他の成分をロール、バンバリーミキサー、ニーダー等の通常のゴム混練装置を用いて調製することができる。このようにして調製されたエチレン−α−オレフィン系共重合体組成物を、通常のゴム加工や樹脂加工で使用されているプレス成形法、押出成形法、射出成形法、トランスファー成形法、カレンダー成形法等により加熱、架橋することにより、エチレン−α−オレフィン系共重合体組成物の成形品が得られる。この成形品は、シート状、板状、柱状、筒状等の所望とする形状に成形される。
【0066】
次に、上記のようなエチレン−α−オレフィン系共重合体組成物の成形品を用いた複合材料、特に繊維−ゴム複合材料について説明する。この複合材料は、前記成形品を接合対象物と接合させることにより製造される。具体的には、前記成形品を接合対象物に密着させた状態で加熱して架橋させることにより製造される。接合対象物としては、繊維成形品、樹脂成形品等が用いられる。繊維成形品とエチレン−α−オレフィン系共重合体組成物としてのエチレン−α−オレフィン系共重合ゴム組成物の成形品とを接合させることにより、繊維−ゴム複合材料が得られる。
【0067】
この繊維−ゴム複合材料は、接着したい繊維成形品と前記のエチレン−α−オレフィン系共重合ゴム組成物の成形品とを密着、固定した状態で加熱、架橋することによって得ることができる。このようにして得られた繊維−ゴム複合材料は、繊維成形品とエチレン−α−オレフィン系共重合ゴム組成物の成形品とが良好に接着されており、Vベルト、タイヤ等の自動車部品、伝動ベルト、コンベアベルト、ホース、ゴム防堰等の建築・工業部品や日用品等として使用することができる。
【0068】
繊維成形品の材質や形状は特に限定されず、ゴムと複合化して通常用いられるものであって、加熱、架橋時の温度や圧力に耐え得るものであれば問題なく使用することができる。繊維の種類としては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル繊維、ナイロン66やアラミド等のポリアミド繊維、又は綿等が挙げられる。繊維成形品の形状としては帆布、不織布、コード等が挙げられる。これらの繊維成形品には、接着強度を高める目的で予め下地処理を施しておくことが好ましい。
【0069】
繊維成形品に施す下地処理の方法は、通常用いられる方法の中から目的や繊維成形品の材質・形状に応じて選択することができる。例えば、高温処理、火焔処理、コロナ放電処理のような表面改質、或はプライマーの塗布等による方法が挙げられる。これらの中から1種又は2種以上の方法を組合せて用いることができる。これらの中では、繊維成形品の物性を低下させることなく下地処理が可能であり、尚かつ安定した処理効果が期待できることから、プライマーの塗布による方法が好ましい。
【0070】
そのようなプライマーとしては、例えばソルビトールグリシジルエーテルやクレゾールノボラック型ポリエポキシド等のエポキシ化合物;ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート等のイソシアネート化合物が挙げられる。これらの中では、エチレン−α−オレフィン系共重合体組成物に含まれる水酸基含有エチレン−α−オレフィン系共重合体中の水酸基と反応し、ウレタン結合を形成して接着強度を高める効果があることから、イソシアネート化合物が好ましい。その中でも、ポリエステルやポリアミド等の難接着性繊維との親和性が高い点からポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート及びトリレンジイソシアネートが特に好ましい。これらのプライマーは単独で用いてもよいし、又は接着強度を更に高める目的で、後述の他の接着剤組成物と組み合わせて用いてもよい。
【0071】
プライマーを塗布する方法は特に限定されず、公知の全ての方法を用いることができるが、プライマーとして用いられる化合物の溶液又は分散液に繊維成形品を浸漬し、引き上げた後乾燥、熱処理して溶媒又は分散媒を除去するのが最も簡便で、しかも均一な塗布が可能なため好ましい。このとき使用する溶媒又は分散媒は、用いるプライマーに対して化学的に不活性なものであって、乾燥、熱処理によって除去可能なものであれば特に限定されない。通常はキシレン、トルエン等の不活性な有機溶媒を用いるが、例えばイソシアネート基がフェノール系化合物やアミン系化合物でブロックされたブロック型イソシアネート化合物と呼ばれるものを利用すれば、水系の分散媒中に分散させて同様に塗布することもできる。
【0072】
乾燥、熱処理の温度は150〜250℃が好ましく、190〜230℃がより好ましい。この温度が150℃未満では乾燥が不十分であり、繊維成形品とプライマー塗膜とが十分に密着せず、繊維−ゴム複合材料を製造した際に十分な接着強度が得られない場合がある。一方、250℃を越えると、ポリアミド等の特に耐熱性の高い繊維以外を用いる場合、繊維成形品が熱劣化を起こし、強度が低下するため好ましくない。乾燥、熱処理の時間は好ましくは1〜30分、より好ましくは2〜10分である。この時間が1分未満ではプライマーの定着が不十分となり、安定した処理効果が得られない。一方、30分を越えると繊維成形品が熱劣化して繊維−ゴム複合材料の強度が低下し、また生産効率も低下するため好ましくない。
【0073】
前記プライマーには、接着力を更に高める目的で、その他の接着剤組成物を組み合わせて用いることができる。プライマーと組み合わせて用いる接着剤組成物としては、例えばポリエポキシド化合物、フェノール−ホルムアルデヒド初期縮合物、レゾルシン−ホルムアルデヒド初期縮合物等の樹脂初期縮合物;天然ゴムラテックス、スチレン−ブタジエンゴムラテックス、ニトリル−ブタジエンゴムラテックス、クロロプレンゴムラテックス、クロルスルホン化ポリエチレンラテックス、及びビニルピリジン−スチレン−ブタジエンラテックス等のゴムラテックス等が挙げられる。これらの接着剤組成物は1種を単独で用いることもできるが、樹脂初期縮合物群から1種、ゴムラテックス群から1種又は2種以上を組み合わせて用いることにより接着強度が高まり好ましい。
【0074】
これら接着剤組成物は、繊維成形品に前記プライマーを塗布し、乾燥熱処理した後に上塗りして再度乾燥、熱処理してもよいし、又は前記プライマーと混合して同時に塗布したうえで乾燥、熱処理してもよい。これら下地処理を施した繊維成形品を、エチレン−α−オレフィン系共重合体組成物の成形品と密着させた状態で加熱・架橋させることにより、繊維成形品とエチレン−α−オレフィン系共重合体組成物の成形品とが良好に接着された繊維−ゴム複合材料を得ることができる。
【0075】
エチレン−α−オレフィン系共重合体組成物の成形品と繊維成形品とを加熱・架橋して接着するときの温度は、通常100〜250℃、好ましくは120℃〜230℃である。この温度が100℃未満では架橋及び接着が不十分となり、繊維−ゴム複合材料について十分な強度が得られない。一方、250℃を越えるとエチレン−α−オレフィン系共重合体組成物の成形品や繊維の劣化に起因する強度の低下が見られ好ましくない。加熱・架橋する時間は、通常0.5〜120分、好ましくは、1〜60分である。加熱・架橋する時間が0.5分未満では架橋も接着も不十分となり、繊維−ゴム複合材料の強度が不足する。一方、120分を越えるような条件では、エチレン−α−オレフィン系共重合体組成物の成形品や繊維の劣化に起因する強度の低下が見られ、また生産性の点からも好ましくない。
【0076】
さて、エチレン−α−オレフィン系共重合体組成物の成形品を調製する場合には、まず(A)成分の水酸基変性エチレン−α−オレフィン系共重合体、(B)成分の充填剤、(C)成分の架橋剤及びその他の成分を用意し、それらの成分を例えば混練装置を用いて混練する。その後、この混練物を射出成形法等の成形法によりシート状等の形状に成形することによって目的とするエチレン−α−オレフィン系共重合体組成物の成形品が得られる。この成形品は、(A)成分の水酸基変性エチレン−α−オレフィン系共重合体に(B)成分の充填剤及び(C)成分の架橋剤が均一に分散され、かつ(A)成分に基づく水酸基を有している。従って、この成形品を加熱、架橋することにより、強度が高められると同時に、接合対象物に対する接着性が高められた製品が得られる。
【0077】
この成形品を用い、接合対象物との複合材料を調製する場合には、成形品を接合対象物に密着させた状態で加熱して架橋させることにより行われる。接合対象物として繊維成形品を用いる場合には、繊維成形品にプライマー処理を施しておくことが望ましい。例えば、プライマーとしてイソシアネート化合物の溶液中に繊維成形品を浸漬した後、乾燥して溶媒を除去する。このようにしてプライマー処理された繊維成形品を前記のエチレン−α−オレフィン系共重合体組成物の成形品に密着させ、その状態で加熱して架橋させることにより、繊維−ゴム複合材料が得られる。得られた繊維−ゴム複合材料は、前記エチレン−α−オレフィン系共重合体組成物の成形品の特性に基づき、該成形品と繊維成形品との間に優れた接着性が発現されると共に、繊維−ゴム複合材料の優れた強度も発現される。
【0078】
以上の実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
・ 本実施形態のエチレン−α−オレフィン系共重合体組成物の成形品は、(A)成分の水酸基変性エチレン−α−オレフィン系共重合体、(B)成分の充填剤及び(C)成分の架橋剤を配合してなるエチレン−α−オレフィン系共重合体組成物を成形して得られるものである。このため、(A)成分中の水酸基による水素結合、親和性等に基づいて接合対象物に対する接着性が高められる。更に、(B)成分の充填剤に基づいて成形品の強度及び接着性が高められる。その上、(C)成分の架橋剤により架橋構造が形成されて成形品の強度が高められる。従って、エチレン−α−オレフィン系共重合体組成物の成形品によれば、接合対象物に対する接着性を向上させることができると共に、強度の向上を図ることができる。
【0079】
この水酸基変性エチレン−α−オレフィン系共重合体は通常用いられるエチレン−α−オレフィン系共重合体と同等の物理的性質を有しているため、配合しても架橋後の成形品の強度や物理的性質に影響を及ぼすことなく、接着性のみを改善することができる。このエチレン−α−オレフィン系共重合体組成物を用いれば、RFLを用いる従来の接着方法よりも強固に接着された複合材料を製造することができるだけでなく、RFL等の接着剤組成物を用いない簡便な方法によっても従来と同等の接着強度を有する繊維−ゴム複合材料を得ることが可能となる。
【0080】
・ また、上記の(A)成分は、エチレン−α−オレフィン系共重合体100質量部に対してヒドロペルオキシ基含有過酸化物を0.1〜20質量部の割合で用い、該ヒドロペルオキシド基含有過酸化物の10時間半減期温度から1分間半減期温度の間の温度で加熱して得られるものである。このような条件下では、エチレン−α−オレフィン系共重合体に対し、過度な架橋や減成を引き起こすことなく効率的かつ十分に水酸基変性が行われ、第2の発明の効果を向上させることができる。
【0081】
・ 更に、(A)成分は、ヒドロペルオキシ基含有過酸化物に加え、ヒドロペルオキシ基含有過酸化物より低い10時間半減期温度を有するラジカル発生剤を用いて得られる。即ち、そのラジカル発生剤をヒドロペルオキシ基含有過酸化物のヒドロペルオキシ基1モルに対してラジカル発生官能基の基準で0.001〜1モルの範囲で用い、該ラジカル発生剤の10時間半減期温度からヒドロペルオキシ基含有過酸化物の1分間半減期温度の間で加熱する。このため、(A)成分をより低い加熱温度で容易に得ることができる。
【0082】
・ 繊維−ゴム複合材料は、エチレン−α−オレフィン系共重合ゴム組成物の成形品と繊維成形品とを密着させ、その状態で架橋することにより得られる。このため、エチレン−α−オレフィン系共重合ゴム組成物の成形品と繊維成形品との間の接着性に優れ、繊維−ゴム複合材料の強度にも優れている。従って、この繊維−ゴム複合材料は自動車部品、建築資材、機械部品、日用品、電線等様々な分野で好適に使用することができる。
【実施例】
【0083】
以下に、参考例、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態を更に具体的に説明する。尚、各例中の部、%は特に断らない限り質量部及び質量%を示す。また、各例中の略号は以下の化合物を示す。
(有機過酸化物)
CHP:クメンヒドロペルオキシド〔日本油脂(株)製、商品名:パークミルH−80、純度:80%、10時間半減期温度:158℃、1分間半減期温度:254℃〕
TBHP:t−ブチルヒドロペルオキシド〔日本油脂(株)製、商品名:パーブチルH−69、純度:69%、10時間半減期温度:167℃、1分間半減期温度:261℃〕
HC:1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン〔日本油脂(株)製、商品名:パーヘキサC、純度:90%、10時間半減期温度:91℃、1分間半減期温度:154℃〕
(ビニル系単量体)
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
(エチレン−α−オレフィン共重合体)
EPDM:エチレン−プロピレン−5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合体〔JSR(株)製、商品名:JSR EP21、ムーニー粘度(ML1+4、100℃):38〕
EPDM−P:エチレン−プロピレン−5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合体〔(株)デュポン・ダウ・エラストマーズ製、商品名:ノーデルIP4725P〕
(末端水酸基含有ポリブタジエン)
PB−OH:α,ω−ポリブタジエングリコール〔日本曹達(株)製、G−1000〕
(充填剤)
カーボンブラック〔東海カーボン(株)製、HAFカーボンブラック、商品名:シースト3〕
(繊維成形品)
PET帆布:ポリエチレンテレフタレート製織布
(プライマー)
スミジュール44V20:ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート〔固形分64.4%、住化バイエルウレタン(株)製〕
(RFL)
CSMラテックス450:クロルスルホン化ポリエチレンラテックス〔固形分40.0%、住友精化(株)製〕
スミカノール700(S):レゾルシン−ホルマリン初期縮合物〔住友化学(株)製〕
〔評価方法〕
(繊維−ゴム複合材料の接着強度評価)
(帆布剥離試験)
加熱、架橋して得られた帆布−ゴム複合材料を、JIS K 6854−3に記載の剥離試験に準じ、長さ120mm、幅25mmの短冊状に切り出して試験片を作製した。ゴムと帆布を長辺方向に約30mm剥離させ、ゴムの端部を引張試験機のつかみ具に保持させてT型の剥離試験を行った(引張速度:50mm/min、雰囲気温度:23℃)。このときの最大荷重(単位:Kgf/cm)を剥離強度として記録した。また、破壊状態を、剥離された帆布とゴムの表面の状態を目視にて観察し、以下の基準で評価した。
【0084】
(破壊状態)
ゴム破壊:試験後にゴム層が破壊され、帆布の表面にゴムが付着していたもの。
界面破壊:試験後にゴム層が破壊されず、ゴム層と帆布との界面から剥離し、帆布の表面が露出したもの。
【0085】
(参考例1、変性EPDM−1の製造)
200℃に予熱した加圧型ニーダー〔モリヤマ(株)、容量3.5リットル〕にEPDM100部を入れた後、混練しながらCHP3.8部を添加し、ゴムの温度が180℃に達するまで混練を継続した。次いで、混練物をシリンダー温度180℃に設定された押出機に供給した。押出物を水で冷却してペレット化した後、乾燥することにより水酸基変性エチレン−プロピレン−5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合ゴム(以下、変性EPDM−1と略記)を製造した。この変性EPDM−1について、100℃でムーニー粘度を測定した。また、下記手順で水酸基導入量を求めた。その結果を表1に示す。
【0086】
水酸基導入量の測定方法:加熱フラスコにキシレン20ミリリットル、変性EPDM−1のサンプル(ゴム)0.5g、無水酢酸0.4g、ジメチルアミノピリジン0.2gを入れた後、攪拌下、約30分間、加熱還流させて、サンプルの溶解及びアセチル化処理を行った。次に、そのキシレン溶液を多量のメタノール中に入れてゴムを再沈殿させた。再沈殿したゴムを再び熱キシレンに溶解後、メタノール中に投じて再沈殿させた。再沈殿したゴムを乾燥した後、フィルム化して、赤外吸収スペクトル(IR)を測定した。水酸基がエステル化されたことに由来する1740cm-1のシグナルを定量することにより、ゴムへの水酸基導入量を求めた。
【0087】
(参考例2、変性EPDM−2の製造)
参考例1においてCHP3.8部の代わりにTBHP2.6部を使用した他は、参考例1に準じて実施し、水酸基変性エチレン−プロピレン−5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合ゴム(以下、変性EPDM−2と略記)を製造した。その結果を表1に示す。
【0088】
(参考例3、変性EPDM−3の製造)
150℃に予熱した加圧型ニーダー〔モリヤマ(株)、容量3.5リットル〕にEPDM100部を入れた後、混練しながらCHP3.8部とHC0.5部を添加し、ゴムの温度が150℃に達するまで混練を継続した。次いで、混練物をシリンダー温度180℃に設定された押出機に供給した。押出物を水で冷却しペレット化した後、乾燥することにより水酸基変性エチレン−プロピレン−5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合ゴム(以下、変性EPDM−3と略記)を製造した。この変性EPDM−3について、ムーニー粘度(ML1+4、100℃)を測定した。また、前記した手順で水酸基導入量を求めた。その結果を表1に示す。
【0089】
(参考例4、変性EPDM−Cの製造)
参考例3においてCHP3.8部の代わりに水酸基を有するビニル系単量体であるHEMAを2.6部使用した他は参考例3に準じて実施し、水酸基変性エチレン−プロピレン−5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合ゴム(以下、変性EPDM−Cと略記)を製造した。その結果を表1に示す。尚、水酸基導入量は、アセチル化処理工程を省略し、HEMAグラフトに由来する1725cm-1(IR)のシグナルを定量することにより求めた。
【0090】
【表1】

表1において、配合量はエチレン−α−オレフィン系共重合ゴム100質量部に対する質量部を示す。
【0091】
表1の結果より、ビニル単量体(HEMA)を使用する方法は、架橋反応のような副反応が起こるため、ムーニー粘度が上昇し、水酸基の導入効率が低いことが明らかとなった。
【0092】
(参考例5、帆布のプライマー処理)
PET帆布を、スミジュール44V20の20%トルエン溶液に20秒間浸漬し、引き上げた後200℃の送風オーブン中で5分間乾燥熱処理して、プライマー処理PET帆布を得た。
【0093】
(参考例6、帆布のRFL処理)
スミカノール700(S)90gを1.5%水酸化ナトリウム水溶液240gに溶解し、そこにCSMラテックス450を337g加えた。これを室温で12時間熟成させ、ディップ液を調製した。ディップ液に参考例5により得られたプライマー処理PET帆布を20秒間浸漬し、引き上げて200℃の送風オーブン中で1分間乾燥熱処理した。浸漬・乾燥を再度行い、RFL処理されたPET帆布を得た。
【0094】
(参考例7、帆布の一浴RFL処理)
レゾルシン10.5gとホルマリン(37%)7.0g,水酸化ナトリウム0.5gを水82.0gに溶解し、25℃で6時間熟成した。次いで、これにポリブタジエンラテックス〔日本ゼオン(株)製,Nipol LX111A〕65gと予め調整したトリレンジイソシアネートのブロック化合物〔日本ポリウレタン(株)製,コロネートAP〕の水分散液を、最終的なトリレンジイソシアネート量が全RFL中2.8%となるよう加えてよく撹拌した。その後、25℃で12時間熟成して目的の一浴処理用RFLを得た。このようにして得られた一浴処理用RFLにPET帆布を20秒間浸漬処理した後、200℃の送風オーブン中で1分間乾燥熱処理を行なった。
【0095】
(実施例1)
参考例1により得られた水酸基変性EPDM(変性EPDM−1)100部、カーボンブラック40部、ステアリン酸0.5部及びジクミルパーオキサイド(DCP)2部を6インチロール上で混練することにより、厚さ2mmの配合ゴムシートを2枚作製した。
【0096】
得られた配合ゴムシート2枚の間に、参考例5によって得られたプライマー処理PET帆布を所定の大きさに裁断したものを挟み込み、金型に入れて固定した。これを10MPaの圧力下、180℃で30分間架橋し、帆布−ゴム複合材料を製造した。得られた帆布−ゴム複合材料を切り出して試験片を作製し、前記の帆布剥離試験を行うことによって帆布と架橋ゴムとの接着強度を評価した。その結果を表2に示す。
【0097】
(実施例2〜8及び比較例1〜5)
実施例1において、ゴムシートの配合や帆布の処理方法を表2の通りに変えた他は、実施例1に準じて実施した。その結果を表2及び表3に示す。
【0098】
【表2】

表2において、配合量は質量部を示す。
【0099】
【表3】

表3において、配合量は質量部を示す。
【0100】
表2及び表3に示したように、実施例1〜8においては、接着強度の評価で全てゴム破壊であり、それらの剥離強度が3.14〜4.88Kgf/cmであって、EPDMのみの比較例1において界面破壊で剥離強度が0.86Kgf/cmである場合に比べて優れているという結果が得られた。
【0101】
また、実施例1〜3と比較例1との比較により、変性EPDM−1を用いることで、プライマー処理PET帆布と架橋ゴムとの剥離強度が高く、良好に接着された繊維−ゴム複合材料が得られることが明らかになった。即ち、ヒドロペルオキシ基を用いて変性した水酸基変性エチレン−α−オレフィン系共重合体を配合したゴム組成物とプライマー処理PET帆布とを架橋接着した場合(実施例1〜3)、ゴム成分としてEPDMのみを用いた場合(比較例1)よりも接着性が向上した。
【0102】
実施例1を比較例3と比較すると、プライマー処理のみでも高い接着強度が得られることが明らかになった。即ち、ゴム成分として変性EPDM−1を100質量部用いたゴム組成物とプライマー処理PET帆布とを架橋接着させた実施例1の場合、ゴム成分としてEPDMのみを用いたゴム組成物とRFL処理PET帆布とを架橋接着させた比較例3の場合と同等の剥離強度を示した。
【0103】
実施例6を比較例3と比較すると、より良好に接着された繊維−ゴム複合材料が得られることが明らかになった。即ち、ゴム成分として変性EPDM−1を100質量部用いたゴム組成物とRFL処理PET帆布とを架橋接着させた実施例6の場合、ゴム成分としてEPDMのみを用いたゴム組成物とRFL処理PET帆布とを架橋接着させた比較例3の場合よりもPET帆布とゴムとの剥離強度が向上した。
【0104】
実施例6を比較例4と比較すると、より良好に接着した繊維−ゴム複合材料が得られることが明らかになった。即ち、ゴム成分として変性EPDM−1を含有するゴム組成物と、RFL処理を施したPET帆布とを架橋接着させた実施例6の場合、ゴム成分として水酸基含有ポリブタジエンを配合したゴム組成物と、RFL一浴処理を施したPET帆布とを架橋接着した比較例4の場合よりもPET帆布とゴムとの剥離強度が向上した。更に、実施例1〜5と比較例4との比較により、実施例1〜5のゴム組成物を用いればプライマーのみの一浴処理によって従来のRFL一浴処理と同等の接着強度を有する繊維−ゴム複合材料を得ることが可能となり、工程の簡便さにおいても優れていることが明らかになった。
【0105】
更に、比較例4及び比較例5に示すように、EPDMに対して水酸基含有ポリブタジエンを配合し、その配合量を増大させた場合、ゴム自体の強度が低下することがわかった。
尚、本実施形態を、次のように変更して実施することも可能である。
【0106】
・ (B)成分である充填剤に表面処理を施し、(A)成分に対する親和性を高めたり、分散性を高めたりすることもできる。
・ エチレン−α−オレフィン系共重合体組成物を調製するに当り、(A)成分である水酸基変性エチレン−α−オレフィン系共重合体と(B)成分である充填剤とを混合した後、(C)成分である架橋剤を配合して混合することもできる。或は、(A)成分である水酸基変性エチレン−α−オレフィン系共重合体と(C)成分である架橋剤とを混合した後、(B)成分である充填剤を混合することもできる。
【0107】
・ エチレン−α−オレフィン系共重合体組成物の成形品を、金属成形品、セラミック成形品等と接合して複合材料を形成することができる。
更に、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
【0108】
・ 前記架橋剤は、有機過酸化物又は硫黄系加硫剤である請求項2から請求項6のいずれか一項に記載のエチレン−α−オレフィン系共重合体組成物。このように構成した場合、架橋反応を効率良く行なうことができる。
【0109】
・ 前記エチレン−α−オレフィン系共重合体は、エチレン−α−オレフィンの二元共重合ゴム又はエチレン−α−オレフィン−非共役ジエンの三元共重合ゴムである請求項2から請求項6のいずれか一項に記載のエチレン−α−オレフィン系共重合体組成物。このように構成した場合、これらの二元共重合ゴム又は三元共重合ゴム組成物の成形品について、強度及び接着性を向上させることができる。
【0110】
・ 前記ラジカル発生剤は、1分間半減期温度が195℃以下である請求項4から請求項6のいずれか一項に記載のエチレン−α−オレフィン系共重合体組成物。このように構成した場合、加熱処理温度をより低くすることができる。
【0111】
・ 水酸基変性エチレン−α−オレフィン系共重合体は、1kg当りの水酸基が0.001〜1モルである請求項2から請求項6のいずれか一項に記載のエチレン−α−オレフィン系共重合体組成物。このように構成した場合、水酸基変性エチレン−α−オレフィン系共重合体の接着性の改良効果を高めることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−α−オレフィン系共重合体をヒドロペルオキシ基を有する過酸化物を用いて変性した水酸基変性エチレン−α−オレフィン系共重合体(A)、充填剤(B)及び架橋剤(C)を配合してなるエチレン−α−オレフィン系共重合体組成物を成形して得られることを特徴とするエチレン−α−オレフィン系共重合体組成物の成形品。
【請求項2】
エチレン−α−オレフィン系共重合体をヒドロペルオキシ基を有する過酸化物を用いて変性した水酸基変性エチレン−α−オレフィン系共重合体(A)、充填剤(B)及び架橋剤(C)を配合してなることを特徴とするエチレン−α−オレフィン系共重合体組成物。
【請求項3】
前記水酸基変性エチレン−α−オレフィン系共重合体(A)が、エチレン−α−オレフィン系共重合体100質量部に対してヒドロペルオキシ基含有過酸化物を0.1〜20質量部の割合で用い、該ヒドロペルオキシド基含有過酸化物の10時間半減期温度から1分間半減期温度の間の温度で加熱して得られるものである請求項2に記載のエチレン−α−オレフィン系共重合体組成物。
【請求項4】
前記水酸基変性エチレン−α−オレフィン系共重合体(A)が、エチレン−α−オレフィン系共重合体100質量部に対してヒドロペルオキシ基含有過酸化物を0.1〜20質量部の割合で用い、更に前記ヒドロペルオキシ基含有過酸化物より低い10時間半減期温度を有するラジカル発生剤を、ヒドロペルオキシ基含有過酸化物のヒドロペルオキシ基1モルに対してラジカル発生官能基の基準で0.001〜1モルの範囲で用い、該ラジカル発生剤の10時間半減期温度から前記ヒドロペルオキシ基含有過酸化物の1分間半減期温度の間で加熱して得られるものである請求項3に記載のエチレン−α−オレフィン系共重合体組成物。
【請求項5】
前記ヒドロペルオキシ基を有する過酸化物がt−ブチルヒドロペルオキシド、t−アミルヒドロペルオキシド、t−ヘキシルペルオキシド、t−オクチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド又はジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシドである請求項3又は請求項4に記載のエチレン−α−オレフィン系共重合体組成物。
【請求項6】
前記充填剤がカーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、クレー、水酸化アルミニウム、アルミナ、ハイドロタルサイト、ナイロン繊維又は炭素繊維である請求項2から請求項5のいずれか1項に記載のエチレン−α−オレフィン系共重合体組成物。
【請求項7】
請求項1に記載のエチレン−α−オレフィン系共重合体組成物の成形品としてのエチレン−α−オレフィン系共重合ゴム組成物の成形品と繊維成形品とを密着させ、その状態で架橋して得られることを特徴とする繊維−ゴム複合材料。

【公開番号】特開2006−8949(P2006−8949A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−191773(P2004−191773)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【出願人】(000004341)日本油脂株式会社 (896)
【Fターム(参考)】