説明

エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物成形物の製造方法

【課題】 EVOH樹脂を主成分とし、ガスバリア性と酸素吸収性の双方を兼ね備えた成形物を製造する方法、並びに当該方法により製造される成形物及び多層構造体を提供する。
【解決手段】 溶融成形法によりエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物の成形物を製造する方法において、(A)エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物に対し、1〜30重量%の(B)酸素吸収剤及び1〜50重量%の(C)水和物形成性の塩の水和物の完全脱水物又は部分脱水物の存在下で、溶融成形することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性を有し、且つ微量に漏入する酸素を捕捉することにより高度な酸素バリア性を発揮できるエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物(以下「EVOH樹脂」と表記することがある)成形物の製造方法、並びに当該方法により製造されるEVOH樹脂成形物及び多層構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、医療品、化粧品、金属製品、電子製品等の包装において、内容物である食品等が酸素の影響を受けて変質、劣化することを防止し、長期保存できるようにすることを目的として、脱酸素剤が従来より用いられている。初期に開発された脱酸素剤は、粉状又は粒状の鉄粉やアスコルビン酸などの酸素吸収剤を通気性の小袋に詰めたものであったが、近年、脱酸素性能を有する層を包装材として用いる技術が注目されている。
【0003】
中でも、フィルム状脱酸素材としては、例えば、特開2004−99732号(特許文献1)では、水添スチレンブタジエンゴムと、金属塩又は金属酸化物からなる遷移金属触媒からなる酸素吸収性組成物が提案されている。ここで、遷移金属触媒とは、遷移金属の塩や酸化物等で、具体的には、マンガン、コバルト、鉄、ニッケルの塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、高級脂肪酸塩とあり(段落番号0012)、これらの遷移金属触媒は、ゼオライト等の担体に担持されていてもよいとされている(段落番号0013)。
【0004】
また、包装フィルム自体に酸素吸収性を付与したものも検討されている。例えば、食品等の包装容器の材料となるフィルム又はシートとして、酸素吸収性組成物からなる層(酸素吸収性層)を含む積層体が提案されている。
このような積層体における酸素吸収性層を形成する組成物としては、例えば、特開2002−201360号公報(特許文献2)に、鉄系酸素吸収剤と酸化チタン又は酸化チタン系複合体(光触媒)と熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物が開示されている。鉄系酸素吸収剤としては、鉄粉、第一鉄塩、アスコルビン酸及びその塩類、カテコールなどが挙げられている(段落番号0018)。酸化チタンのような光触媒は、酸素吸収剤の酸化反応を促進し、酸素吸収速度の向上及び酸素吸収量の向上に寄与していると考えられていて、鉄系酸素吸収剤と光触媒を含んだ酸素吸収性組成物は、包装袋内の空気中の水分を利用したり、包装袋内の含水食品からの水蒸気を利用することなどにより活性化され、周囲の分子状酸素と反応し、酸素を迅速かつ多量に吸収すると考えられている(段落番号0042)。
【0005】
特許文献2で開示されている酸素吸収性層の主成分となる熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂などが用いられており、酸素吸収性樹脂組成物層の一面に酸素透過性層、他面にガスバリア層(EVOH、ポリアミド系、塩化ビニリデン系樹脂層、段落番号0056)を積層した積層体を、包装用フィルムとして用いている。尚、特開2002−201360号公報では、酸素吸収助剤として、電解質(塩類)を用いることが記載されており、電解質としては、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、臭化ナトリウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属のハロゲン化物が挙げられる。
【0006】
また、特開2005−104064号公報(特許文献3)では、熱可塑性樹脂(実施例では、ポリオレフィン系樹脂を使用)と、酸素吸収剤となる還元処理を施した無機酸化物と、水分を保持可能な無機化合物とを含有する酸素吸収性層を有する積層体が提案されている。特許文献3における「還元処理を施した無機酸化物」とは、酸素欠陥を有する無機酸化物のことで、具体的には、二酸化チタン、酸化亜鉛、および酸化セリウムを還元処理した化合物である(段落番号0013)。還元処理した無機酸化物は、水分をトリガーとして酸素吸収能を発揮することから(段落番号0009)、水分保持可能な無機酸化物(硫酸マグネシウム等の硫酸塩、粘土鉱物、ゼオライト、活性炭、活性アルミナ、シリカゲルなど)との共存により、水分に依存することなく、酸素吸収能を発揮できると説明されている(段落番号0026)。
【0007】
また、特開2009−78520号公報(特許文献4)には、イージーピール性を有するフィルムを最表層とし、シートに強度を付与するベース層との間の中間層として酸素吸収性層を介在させた積層フィルムが開示されている。ここで用いられている酸素吸収性層は、エチレン性不飽和炭化水素ポリマー、ポリアミド樹脂、酸変性ポリブタジエン等の被酸化樹脂と、遷移金属触媒を含む樹脂組成物である。
【0008】
また、ポリアミド系フィルムについて、酸素吸収反応の開始が早く、且つゲルフィッシュアイが少ない透明性に優れた多層フィルム用の酸素吸収性ポリアミド系樹脂組成物として、ポリアミドと無水マレイン化ポリブタジエンとの反応生成物、遷移金属、及び融点が80℃以下の低融点のリン系酸化防止剤及び/又はフェノール系酸化防止剤を添加した樹脂組成物が提案されている。遷移金属触媒は、食品等の内容物による酸素吸収速度よりも酸素吸収性樹脂の酸素吸収速度を速くするための添加されるもので、コバルト等の遷移金属のカルボン酸塩、スルホン酸塩等の有機塩が用いられる(実施例ではステアリン酸コバルト)。また、酸化防止剤としては、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ジ−トリデシルフォスファイト−5−t−ブチルフェニル)ブタン等のリン系酸化防止剤、トコフェノール等のフェノール系酸化防止剤が挙げられている。高温での成形加工時にリン系酸化防止剤が酸化防止作用を発揮し、包装材として使用される環境では、フェノール系酸化防止剤がラジカル補足剤として酸素吸収反応を抑制すると説明されている(段落番号0018)。
【0009】
一方、酸素吸収剤を含有させた酸素吸収性層の主成分となる熱可塑性樹脂として、ガスバリア性を有する樹脂を用いることで、ガスバリア層を別途設けなくても、ガスバリア性と酸素吸収性の双方を兼ね備えることができる積層体も検討されている。
例えば、特開2011−869号(特許文献5)では、ガスバリア性多層フィルムとして、EVOH樹脂又はポリアミド系樹脂を主成分とし、さらに被酸化樹脂と遷移金属系触媒を含有する酸素吸収性樹脂層が開示されている。被酸化性樹脂(キシリレン基含有ポリアミド樹脂、エチレン系不飽和基含有重合体、ポリエーテル含有重合体など)は、遷移金属触媒の作用により空気中の酸素で酸化されるもので、この被酸化性樹脂の酸化により酸素吸収性が発揮できると考えられている(段落番号0026)。具体的には、EVOH樹脂にステアリン酸コバルトを含有させたペレットに、エポキシ官能化ポリブタジエンを加え、ペレット化したものを酸素吸収性組成物として用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−99732号
【特許文献2】特開2002−201360号公報
【特許文献3】特開2005−104064号公報
【特許文献4】特開2009−78520号公報
【特許文献5】特開2011−869号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上のように、食品等の包装材料に好適な酸素吸収性を有する積層体としては、酸素吸収剤の種類、酸素吸収剤の作用効果を有効に発揮するために共存させる成分など、種々検討提案されているが、ガスバリア層と酸素吸収性層を兼用する場合には、主成分となる樹脂の特殊性のために、特許文献2−4に開示されているような技術を容易に転用できるとは限らない。
【0012】
すなわち、EVOH樹脂は、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等の一般的な熱可塑性樹脂と異なり、分子鎖中に多数のOH基を有しているという特殊性がある。EVOH樹脂に酸素吸収剤を添加した樹脂組成物を溶融成形し、酸素吸収性と酸素バリア性を有する成形物の製造を試みたところ、共存させた酸素吸収剤とEVOH樹脂のOH基とが反応するためか、樹脂組成物の溶融粘度が減少し、成形性に改善の余地があることがわかった。
【0013】
本発明の目的は、EVOH樹脂を主成分とし、ガスバリア性と酸素吸収性の双方を兼ね備えた成形物を製造する方法、並びに当該方法により製造される成形物及び多層構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、EVOH樹脂に酸素吸収剤を添加した樹脂組成物の組成について、特定の成分を配合することにより、酸素吸収性を損なうことなく、成形性を改善できる組成を見出し、酸素吸収性を有するEVOH樹脂成形物を製造する方法に到達した。
【0015】
すなわち、本発明のEVOH樹脂成形物の製造方法は、溶融成形法によりエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物の成形物を製造する方法において、(A)エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物に対し、1〜30重量%の(B)酸素吸収剤及び1〜50重量%の(C)水和物形成性の塩の水和物の完全脱水物又は部分脱水物の存在下で、溶融成形することを特徴とする。
【0016】
前記(B)酸素吸収剤は、鉄又は鉄化合物であることが好ましい。また、前記(C)成分は、(C1)多価金属硫酸塩水和物の完全脱水物又は部分脱水物、あるいは(C2)カルボン酸塩水和物の完全脱水物又は部分脱水物であることが好ましい。また、前記(C)成分と前記(B)成分の配合重量比は、(B)/(C)にて10/90〜90/10であることが好ましい。
【0017】
(A)エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物;並びに該(A)エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物に対し、1〜30重量%の(B)酸素吸収剤及び1〜50重量%の(C)水和物形成性の塩の水和物の完全脱水物又は部分脱水物を含有する樹脂組成物の、荷重2160g、210℃におけるメルトフローレートは、2.0〜6.5g/10分であることが好ましい。
【0018】
上記本発明の製造方法は、EVOH樹脂薄膜の製造方法として好適である。
【0019】
本発明の成形物は、(A)エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物に対して、1〜30重量%の(B)酸素吸収剤、及び1〜50重量%の(C)水和物形成性の塩の水和物の完全脱水物又は部分脱水物の存在下で、前記(A)エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物を溶融成形することにより得られる成形物であり、薄膜であってもよい。
【0020】
また、本発明は、上記本発明の成形物からなる層を少なくとも1層有する多層構造体も包含する。
【発明の効果】
【0021】
通常、EVOH樹脂が一般的熱可塑性樹脂と比べて、分子鎖中に多数のOH基を有しており、酸素吸収剤とEVOH樹脂のOH基とが反応するためか、EVOH樹脂に上記(B)成分を含有させた場合、EVOH樹脂の溶融粘度が減少する。一方、EVOH樹脂に(C)成分のみを含有させても、溶融粘度の増加効果は認められない。しかしながら、(B)成分と(C)成分が共存する場合、(B)成分の配合による溶融粘度の減少効果が抑制され、EVOH樹脂の溶融粘度が安定化するという、予想外の効果が得られた。
【0022】
本発明の製造方法によれば、酸素吸収剤を含有するにもかかわらず、安定的に溶融成形して、EVOH樹脂に酸素吸収剤を含有させた薄膜等の成形物、当該成形物を少なくとも1層有する多層構造体を安定的に溶融成形することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定されるものではない。
本発明のEVOH樹脂成形物の製造方法は、溶融成形法によりエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物の成形物を製造する方法において、(A)エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物に対し、1〜30重量%の(B)酸素吸収剤及び1〜50重量%の(C)水和物形成性の塩の水和物の完全脱水物又は部分脱水物を存在下で、溶融成形することを特徴とする。具体的には、(A)エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物(EVOH樹脂)に対して、(B)酸素吸収剤及び(C)多価金属硫酸塩水和物の完全脱水物又は部分脱水物を、それぞれ所定割合で含有するEVOH樹脂組成物を溶融成形することにより、EVOH樹脂の成形物を製造することになる。
【0024】
<EVOH樹脂組成物>
はじめに、本発明の製造方法に使用するEVOH樹脂組成物について説明する。
【0025】
〔(A)EVOH樹脂〕
本発明で用いるEVOH樹脂は、非水溶性の熱可塑性樹脂である。エチレンとビニルエステル系モノマーを共重合させた後にケン化させることにより得られる樹脂であり、一般的に食品包装用の包装材などとして用いられる、公知のものである。上記ビニルエステル系モノマーは、一般的には酢酸ビニルである。重合法も公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合などにより製造され、得られたエチレン−ビニルエステル系共重合体のケン化も公知の方法で行い得る。
【0026】
上記ビニルエステル系モノマーは、一般的に酢酸ビニルであるが、他のビニルエステル系モノマー、例えばギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル、安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等が挙げられる。通常、炭素数3〜20、好ましくは炭素数4〜10、特に好ましくは炭素数4〜7の脂肪族ビニルエステルである。これらは通常単独で用いるが、必要に応じて複数種を同時に用いてもよい。
【0027】
本発明で用いるEVOH樹脂におけるエチレン構造単位の含有量は、ISO14663に基づいて計測した値で、通常20〜60モル%、好ましくは25〜50モル%、特に好ましくは28〜48モル%である。かかる含有量が低すぎた場合は、高湿時のガスバリア性、溶融成形性が低下する傾向があり、逆に高すぎた場合は、ガスバリア性が不足する傾向がある。
【0028】
前記EVOH樹脂におけるビニルエステル成分のケン化度は、JIS K6726(ただし、EVOH樹脂は水/メタノール溶媒に均一に溶解した溶液にて)に基づいて計測した値で、通常80〜100モル%、好ましくは90〜100モル%、特に好ましくは95〜100モル%である。かかるケン化度が低すぎた場合にはガスバリア性、熱安定性、耐湿性等が低下する傾向がある。
【0029】
前記EVOH樹脂のメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2,160g)は、通常1〜30g/10分であり、好ましくは2〜15g/10分、特に好ましくは3〜10g/10分である。EVOH樹脂単独のMFRを上記範囲とすることが、より溶融成形性が高められる点で好ましい。
【0030】
(A)成分としてのEVOH樹脂は、本発明の効果を阻害しない範囲で共重合可能なエチレン性不飽和単量体を例えば10モル%以下にて共重合していてもよい。かかる単量体としては、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等のオレフィン類、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1,2−ジオール等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類やそのエステル化物、アシル化物などの誘導体、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいは炭素数1〜18のモノまたはジアルキルエステル類、アクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、2−アクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のアクリルアミド類、メタアクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、2−メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のメタクリルアミド類、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド等のN−ビニルアミド類、アクリルニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類、炭素数1〜18のアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル化合物類、トリメトキシビニルシラン等のビニルシラン類、酢酸アリル、塩化アリル等のハロゲン化アリル化合物類、アリルアルコール、ジメトキシアリルアルコール等のアリルアルコール類、トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロリド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。
【0031】
特に、ヒドロキシ基含有α−オレフィン類を共重合したEVOH樹脂は、溶融成形性が良好になる点で好ましく、中でも1,2−ジオールを側鎖に有するEVOH樹脂が好ましい。
【0032】
1,2−ジオールを側鎖に有するEVOH樹脂とは、具体的には下記構造単位(1)を有するEVOH樹脂である。
【化1】

【0033】
[一般式(1)において、R1、R2、及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示す。]
【0034】
〜Rに用いることができる有機基としては、特に限定されず、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の飽和炭化水素基、フェニル基、ベンジル基等の芳香族炭化水素基、ハロゲン原子、水酸基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、スルホン酸基等が挙げられる。
【0035】
〜Rは、いずれも通常炭素数1〜30、特には炭素数1〜15、さらには炭素数1〜4の飽和炭化水素基または水素原子であることが好ましく、水素原子が最も好ましい。従って、R1〜R6がすべて水素であるものが最も好ましい。
【0036】
また、一般式(1)で表わされる構造単位中のXは、代表的には単結合である。従って、上記一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位における最も好ましい構造は、R〜Rがすべて水素原子であり、Xが単結合である。すなわち、下記構造式(1a)で示される構造単位が最も好ましい。
【0037】
【化1a】

【0038】
尚、一般式(1)におけるXは、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、結合鎖であってもよい。結合鎖としては、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素鎖(これらの炭化水素はフッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていても良い)の他、−O−、−(CH2O)m−、−(OCH2m−、−(CH2O)mCH2−等のエーテル結合部位を含む構造、−CO−、−COCO−、−CO(CH2)mCO−、−CO(C64)CO−等のカルボニル基を含む構造、−S−、−CS−、−SO−、−SO−等の硫黄原子を含む構造、−NR−、−CONR−、−NRCO−、−CSNR−、−NRCS−、−NRNR−等の窒素原子を含む構造、−HPO−等のリン原子を含む構造などのヘテロ原子を含む構造、−Si(OR)−、−OSi(OR)2−、−OSi(OR)2O−等の珪素原子を含む構造、−Ti(OR)−、−OTi(OR)−、−OTi(OR)O−等のチタン原子を含む構造、−Al(OR)−、−OAl(OR)−、−OAl(OR)O−等のアルミニウム原子を含む構造などの金属原子を含む構造等が挙げられる(Rは各々独立して任意の置換基であり、水素原子、アルキル基が好ましく、またmは自然数であり、通常1〜30、好ましくは1〜15、さらに好ましくは1〜10である。)。これらの結合鎖のうち、製造時あるいは使用時の安定性の点から、−CHOCH−、および炭素数1〜10の炭化水素鎖が好ましく、より好ましくは炭素数1〜6の炭化水素鎖、特に好ましくは炭素数1である。
【0039】
なお、本発明の樹脂組成物は、マトリックスがEVOH樹脂(A)である組成物である。従って、樹脂組成物全体におけるEVOH樹脂(A)の含有率は、通常50〜99重量%であり、好ましくは60〜95重量%であり、特に好ましくは70〜90重量%である。EVOH樹脂の量が少なすぎる場合には、ガスバリア性が十分とならない傾向がある。
【0040】
〔(B)酸素吸収剤〕
本発明で用いられる(B)酸素吸収剤は、包装される内容物よりも素早く酸素を捕捉する化合物または化合物系である。具体的には、(B1)無機系の酸素吸収剤、(B2)有機系の酸素吸収剤、(B3)無機触媒と有機化合物を組み合わせて用いる複合型酸素吸収剤等が挙げられる。以下、各酸素吸収剤について詳述する。
【0041】
(B1)無機系酸素吸収剤
上記無機系酸素吸収剤は、金属及び金属化合物が挙げられ、これらと酸素が反応することにより酸素を吸収する。
(B1)成分として用いることができる金属としては、常温で固体の金属が挙げられ、中でも、水素よりもイオン化傾向の大きい金属(Fe、Zn、Mg、Al、K、Ca、Ni、Snなど)が好ましく、代表的には鉄である。これらの金属は、粉末状で用いられることが好ましい。鉄粉としては、還元鉄粉、アトマイズ鉄粉、電解鉄粉等、その製法等に依らず、従来より公知のものを特に限定されることなく何れも使用可能である。また、使用する鉄は、一旦酸化された鉄を還元処理したものであってもよい。
【0042】
上記金属化合物としては、上記金属の金属塩や水素化物、酸化物、酸素欠損型金属化合物、有機金属錯体などが挙げられる。
ここで、酸素欠損型金属化合物としては、酸化セリウム(CeO2)や、酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)等が挙げられ、これらの酸化物が還元処理により結晶格子中から酸素が引き抜かれて酸素欠損状態となり、雰囲気中の酸素と反応することにより酸素吸収能を発揮するものである。金属錯体としては、ビス−サリチルアルデヒド−イミンコバルト、テトラエチレンペンタミンコバルト、コバルト−シッフ塩基錯体、ポルフィリン類、大環状ポリアミン錯体、ポリエチレンイミン−コバルト錯体等の含窒素化合物と遷移金属との配位結合体等が挙げられる。
【0043】
以上のような金属および金属化合物は、反応促進剤としてハロゲン化金属等を含有することも好ましい。
以上のような金属又は金属化合物は、単独で用いてもよいが、2種以上混合して用いてもよい。さらに、鉄粉のような粉末の場合、適宜有機溶媒に分散させて用いてもよいし、熱可塑性樹脂に分散させた樹脂ペレットとして用いてもよい。好ましくは金属又は金属化合物を熱可塑性樹脂に分散させてなるペレット(以下、「金属(化合物)含有ペレット」と略称する)である。金属(化合物)含有ペレットとして用いることにより、樹脂組成物調製時に、あるいは溶融成形時に、主成分であるEVOH樹脂との溶融混練が容易になり、金属又は金属化合物をEVOH樹脂中に均一に分散させることが容易となる。なお、金属(化合物)含有ペレットに用いられる熱可塑性樹脂としては、特に限定しないが、溶融混練性の観点から、融点200℃以下の熱可塑性樹脂が好ましく、具体的にはポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂が好ましく用いられる。
【0044】
なお、金属(化合物)含有ペレットとして用いる場合、金属又は金属化合物と分剤媒として用いる熱可塑性樹脂との混合比率(質量比)は、通常、10:90〜80:20であり、好ましくは20:80〜70:30であり、より好ましくは30:70〜60:40である。
【0045】
(B2)有機系酸素吸収剤
(B2)有機系酸素吸収剤としては、水酸基含有化合物、キノン系化合物、二重結合含有化合物、被酸化性樹脂が挙げられる。これらに含まれる水酸基や二重結合に酸素が反応することにより、酸素を吸収することができる。
【0046】
上記水酸基含有化合物としては、水酸基を含有する低分子化合物が挙げられ、アスコルビン酸等の水酸基含有脂肪酸や、そのエステルおよび金属塩;没食子酸、カテコール、ハイドロキノン、水酸基含有フェノールアルデヒド樹脂等の多価フェノール類、グルコース等の水酸基含有糖類、グリセリンのポリオール等が挙げられる。
【0047】
キノン系化合物としては、ベンゾキノン、アントラキノン等のキノン系化合物が挙げられる。
【0048】
二重結合含有化合物としては、二重結合を含有する低分子化合物が挙げられ、イソプレン、リモネン、ミルセン等のテルペン化合物、ソルビン酸、リノレン酸等の不飽和脂肪酸等が挙げられる。その他、アミノ酸類とヒドロキシル基含有還元性物質の反応物等も使用可能である。
【0049】
上記被酸化性樹脂としては、炭素−炭素不飽和結合含有樹脂が挙げられる。例えば、ブタジエン、イソプレン、ペンタジエン、ヘキサジエン、オクタジエン等共役二重結合含有モノマーのポリマー、およびブタジエン/イソプレンコポリマー等これらの共重合体;ポリ(α−ピネン)、ポリ(β−ピネン)、ポリ(ジペンテン)等のポリテルペンの共役二重結合含有樹脂;スチレン/ブタジエンコポリマー、スチレン/イソプレンコポリマー、ブタジエン/イソプレン/スチレンターポリマー、アクリロニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体、メタクリル酸メチル/スチレン/ブタジエン共重合体、アクリロニトリル/メタクリル酸メチル/スチレン−/ブタジエン共重合体(以下MABS樹脂という)、スチレン/ブタジエン/スチレンブロック共重合体等、ブタジエン重合体やジエン系重合体と芳香族またはアクリル系モノマー成分との共重合物;エチレン及び環状アルキレンのコポリマー、シクロヘキセン基含有樹脂等の環状炭化水素基含有炭化水素樹脂;イソプレン2量体水添開環重合物、ポリペンテニレン、ポリヘキセニレン、ポリヘプテニレン、炭素数7以上の環状オレフィン(シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロノネン、シクロデセン、ノルボルネン等のシクロモノエン類;シクロオクタジエン、シクロデカジエン、ノルボルナジエン、ジシクロペンタジエン等のシクロジエン類;およびシクロドデカトリエン等のシクロトリエン類等)の開環重合体(ポリオクテニレン等)、ブタジエン、イソプレン、ペンタジエン、ヘキサジエン、オクタジエン等共役ジエン重合体環化物等の環状炭素−炭素不飽和結合含有樹脂;等が挙げられる
【0050】
さらに、分散剤としてイソパラフィン系オイル、ナフテン系オイル、流動パラフィン等の炭化水素オイル; ポリブテン等のオレフィン重合体; ポリイソプレンやポリブタジエン等の共役ジエン重合体の水素化物; スチレン− 共役ジエン重合体の水素化物等を併用することも好ましい。
【0051】
(B3)複合型酸素吸収剤
複合型酸素吸収剤とは、遷移金属触媒と有機化合物の組合せをいい、遷移金属触媒によって酸素を励起し、有機化合物と酸素が反応することにより酸素を吸収するものである。包装の内容物である食品等よりも早く、複合型酸素吸収剤中の有機化合物が酸素と反応することにより、酸素を捕捉、吸収する化合物系である。
【0052】
遷移金属系触媒を構成する遷移金属としては、例えば、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、ルテニウム、パラジウムから選ばれる少なくとも一種であり、中でも樹脂との相溶性、触媒としての機能性、安全性の点でコバルトが好ましい。このような遷移金属の形態としては、特に限定するものではなく、酸化物や塩化物、有機酸塩、錯体等として用いられることができる。樹脂への練り混みを考慮すると、有機酸塩が好ましく、中でも脂肪族カルボン酸, 芳香族カルボン酸,飽和カルボン酸, 不飽和カルボン酸等のカルボン酸塩が好ましく、溶融混合性が良好である点でステアリン酸、パルチミン酸、ラウリン酸、デカン酸、オクタン酸、オレイン酸、ネオデカン酸、リノール酸等の炭素数8以上、好ましく10以上の長鎖アルキル脂肪酸塩が好ましく、更にはステアリン酸、ネオデカン酸が好ましい。
【0053】
遷移金属系触媒とともに用いられる有機化合物は、酸素と反応して酸化される化合物であり、(B2)有機系酸素吸収剤で列挙したような有機化合物を利用することができる。また、(B2)有機系酸素吸収剤以外にも、MXDナイロン等の窒素含有樹脂;ポリプロピレン等の三級水素含有樹脂;ポリメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリ(1,2−及び1,3−)プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコール等の直鎖状及び分岐状の脂肪族エーテルの他、シクロヘキサンジオールの縮合体やシクロヘキサンジメタノールの縮合体等の脂環状エーテルの単一重合体または共重合体、芳香族ポリエステルとポリアルキレンエーテルを用いたポリエステルエーテルブロック共重合体、脂肪族ポリエステルとポリアルキレンエーテルを用いたブロック共重合体や短鎖グリコールとジイソシアネートとの重合体からなるユニットとジイソシアネートとポリアルキレンエーテルとの重合体からなるユニットを有するポリウレタン系共重合体、ポリアミドとポリアルキレンエーテルを用いたポリアミドポリエーテル共重合体等のポリアルキレンエーテルユニットを有するブロック共重合体等のポリアルキレンエーテル結合含有樹脂;光酸化崩壊性樹脂( 例: ポリケトン);アントラキノン重合体( 例: ポリビニルアントラキノン)などを用いることができる。
【0054】
このような有機化合物は、遷移金属触媒の共存により、不飽和結合や官能基、結合鎖部分が酸素と反応して酸化されることにより酸素を捕捉するため、内容物よりも先に酸素を捕捉することができる。すなわち、内容物が酸素により劣化することを防止できる。
【0055】
(B3)複合型酸素吸収剤において、遷移金属系触媒と有機化合物との含有比率(質量比)は、特に限定しないが、有機化合物の質量を基準として、金属元素換算で0.0001〜5重量%、より好ましくは0.0005〜1重量%、より好ましくは0.001〜0.5重量%の範囲で含有される。かかる含有量が0.0001重量%より少なすぎると、有機化合物の酸素吸収効果が不足する傾向にあり、かかる含有量が5重量%より多すぎると、有機化合物の酸化劣化が強くなり分解ガスの発生やフィッシュアイなどによる成形物外観の悪化が起こる場合がある
【0056】
以上のような酸素吸収剤(B)は、EVOH樹脂(A)に対して1〜50重量%含有され、好ましくは3〜40重量%、より好ましくは5〜30重量%含有される。EVOH樹脂(A)に対して酸素吸収剤(B)の含有量が多くなりすぎると、後述のC成分との共存によっても減粘を抑制することが困難となるため、安定な溶融成形が困難となる傾向にある。逆に、酸素吸収剤(B)の含有量が少なすぎると、酸素吸収剤(B)の添加効果が得られにくくなる。
【0057】
〔(C)水和物形成性の塩の水和物の完全脱水物又は部分脱水物〕
本発明で使用する水和物形成性の塩の水和物の完全脱水物又は部分脱水物は、水分子を結晶水として取り込む性質を有する塩である。具体的には、(C1)多価金属硫酸塩の水和物の完全脱水物又は部分脱水物、及び/又は(C2)カルボン酸塩水和物の完全脱水物又は部分脱水物、(C3)リン酸塩水和物の完全脱水物又は部分脱水物や、炭酸塩水和物の完全脱水物又は部分脱水物等が挙げられる。
以下、各順に説明する。
【0058】
(C1)多価金属硫酸塩水和物の完全脱水物又は部分脱水物
本発明で用いる(C1)多価金属硫酸塩水和物の完全脱水物又は部分脱水物は、多価金属硫酸塩水和物を乾燥脱水した化合物を意味する。つまり、水分子を結晶水として取り込む性質を有する多価金属硫酸塩であればよい。(C1)多価金属硫酸塩水和物の完全脱水物又は部分脱水物は、多価金属硫酸塩の飽和水和物として安定な状態となるまで、結晶水を取り込むことができるので、飽和水和物になるまで取り込める結晶水の量が多いほど、乾燥能力に優れる。
また、(C1)多価金属硫酸塩水和物の完全脱水物又は部分脱水物は、通常、常温常圧において固体である。
【0059】
(C1)成分は、具体的には、Mm(SO4)n・xH2Oで表わされる。金属Mは多価金属であるが、好ましくは2価又は3価の金属であり、より好ましくは2価の金属であり、さらに好ましくはアルカリ土類金属であり、もっとも好ましくはマグネシウムである。よって、式中、mは好ましくは1または2であり、m=1のときはn=1、m=2のときはn=3である。xは、各々の化合物の飽和水和物よりも小さい正の値であり、金属Mの種類により異なる。なお、xが0の場合が無水物(完全脱水物)に該当する。
【0060】
具体的には、上記金属塩を形成する2価の金属Mとしては、ベリリウム(硫酸ベリリウム(BeSO4・4H2O))、マグネシウム(硫酸マグネシウム(MgSO4・7H2O))、カルシウム(硫酸カルシウム(CaSO4・2H2O))等のアルカリ土類金属の他、銅(硫酸銅(CuSO4)・5H2O))、亜鉛(硫酸亜鉛(ZnSO4・7H2O))、鉄(硫酸鉄(FeSO4・7H2O))などの2価イオンを形成できる遷移金属などが挙げられる。また、3価の金属Mとしては、アルミニウム(硫酸アルミニウム(Al2(SO4)3・16H2O))、鉄などが挙げられる。なお、括弧内に示す化合物は、各金属の飽和水和物の化学式である。
【0061】
(C1)成分として用いられる、多価金属硫酸塩水和物の部分脱水物は、上記に示す飽和水和物の結晶水の一部が脱水されたものであればよく、通常、飽和水和物が有する結晶水量を100重量%とした場合、結晶水量が90重量%未満の結晶水を有する水和物が該当する。常温で、飽和水和物の方が安定に存在できるような部分脱水物を用いることが好ましいことから、結晶水量の70%未満が脱水された部分水和物を用いることが好ましく、より好ましくは完全脱水物である。
【0062】
具体的には、例えば、硫酸カルシウムでは、半水和物(x=1/2)、二水和物(x=2)などが知られており、半水和物は吸水して二水和物を形成しやすい。従って、xは2未満の数である。
【0063】
硫酸第一鉄は、湿潤環境中では、7水和物が安定であることから、7水和物の脱水物、すなわちx<7が好ましい。また、硫酸第二鉄では、6水和物、7水和物などが安定して存在することができることから、これらの脱水物、すなわちx<7が好ましい。
硫酸銅は、5水和物が安定して存在し、完全脱水(x=0)又は部分脱水物(x<5)では、吸湿性がある。従って、xは5未満の数である。
硫酸マグネシウムでは、6水和物、7水和物などが常温で安定である。従って、xは7未満が好ましく、より好ましくは6未満、さらに好ましくは1未満であり、最も好ましくは無水物(x=0)である。
【0064】
上記多価金属硫酸塩水和物の完全脱水物又は部分脱水物を製造する場合、脱水温度は、100℃以上である化合物が好ましい。100℃以下で脱水しやすい金属塩を、一部結晶水を有している状態(部分脱水物)で使用した場合、EVOH樹脂との溶融混練時に、加熱により結晶水が蒸発し、これにより発泡が生じる場合がある。
【0065】
このような(C1)成分である部分脱水物又は完全脱水物の化合物全体に対する含水量は、例えば、硫酸マグネシウムの完全脱水物又は部分脱水物の場合、熱重量測定装置(パーキンエルマー社製、熱重量測定装置「Pyris 1 TGA」)を用いて、550?、30分にて測定した値で、通常0〜50重量%であり、好ましくは0〜40重量%、特に好ましくは0〜10重量%である。ここで、測定値としての含水率は、化合物全体に対する水分量の割合であり、550℃で30分間保持後の重量変化量を含水量として測定し、測定開始時の化合物重量に対する含水率として算出した値である。
【0066】
なお、完全脱水物(無水物に相当)の場合、理論的には含水量が0であることから、上記含水率も0重量%であるが、吸湿等により、上記熱重量測定装置で測定される値が0重量%より多くなる場合がある。例えば、硫酸マグネシウムの完全脱水物(無水物)の場合、上記熱重量測定装置で測定される値は、0〜10重量%程度となる場合がある。これらは、1水和物(理論上の含水率13重量%)よりも含水量が少なく、吸湿したためと考えられる。吸湿した場合であっても、完全脱水物としては、上記熱重量測定装置で測定される値が0〜5重量%であることが好ましい。
【0067】
以上のような多価金属硫酸塩水和物の完全脱水物又は部分脱水物は、いずれも常温で完全水和物が安定に存在できるので、無水物、部分脱水物として樹脂組成物に含有させた場合、組成物中に含まれる水を吸収して水和物を形成し、EVOH樹脂中に水分子が取り込まれることを防止、ないしは一旦EVOH樹脂中に取り込まれた水分子を捕獲することが可能である。従って、EVOH樹脂が、水の混入によりガスバリア性が低下することを抑制できる。尚、多価金属硫酸塩の飽和水和物として安定な状態となるまで、結晶水を取り込むことができるので、飽和水和物になるまで取り込める結晶水の量が多いほど、乾燥能力に優れる。
【0068】
(C2)カルボン酸塩水和物の完全脱水物又は部分脱水物
(C2)カルボン酸塩水和物の部分脱水物または完全脱水物とは、カルボン酸塩の水和物を乾燥脱水した化合物を意味する。つまり、水分子を結晶水として取り込む性質を有するカルボン酸塩であればよい。
また、(C2)カルボン酸塩水和物の部分脱水物または完全脱水物は、通常、常温常圧において固体である。
【0069】
(C2)カルボン酸塩水和物の部分脱水物または完全脱水物は、カルボン酸塩水和物の飽和水和物として安定な状態となるまで、結晶水を取り込むことが出来る。したがって、かかる飽和水和物になるまで取り込める結晶水の量が多いほど、乾燥能力に優れる。
上記(C2)カルボン酸塩水和物の部分脱水物または完全脱水物におけるカルボン酸塩は、飽和水和物にて通常1〜15水和物となるカルボン酸塩であり、好ましくは2〜15水和物となるカルボン酸塩であり、特に好ましくは3〜10水和物となるカルボン酸塩である。
本発明で用いられる(C2)カルボン酸塩水和物の部分脱水物または完全脱水物は、結晶水を飽和量未満に含有する上記カルボン酸塩水和物の脱水物であればよく、好ましくは結晶水量が飽和量の70〜0%であるカルボン酸塩水和物の脱水物であり、特に好ましくはカルボン酸塩水和物の完全脱水物(無水カルボン酸塩)である。
【0070】
カルボン酸塩水和物の部分脱水物または完全脱水物(C2)におけるカルボン酸塩の種類としては、通常、芳香族カルボン酸塩、脂肪族カルボン酸塩、アミノ酸塩等が挙げられる。かかる脂肪族カルボン酸塩やアミノ酸塩は、熱可塑性樹脂とグラフト反応等を起こさないものが好ましいと考えられるため、飽和脂肪族化合物であることが好ましい。
上記カルボン酸塩は、通常金属塩またはアンモニウム塩であり、好ましくはナトリウムやカリウム等のアルカリ金属塩およびマグネシウムやカルシウム等のアルカリ土類金属塩であり、特に好ましくはアルカリ金属塩であり、最も好ましくはカリウム塩、ナトリウム塩である。
【0071】
上記カルボン酸塩の炭素数は、通常1〜12であり、好ましくは2〜10であり、特に好ましくは2〜6である。また、上記カルボン酸塩のカルボキシルイオンの価数は通常1価〜4価であり、好ましくは1価〜3価であり、特に好ましくは1〜2価である。
【0072】
カルボン酸塩水和物の部分脱水物または完全脱水物(C2)における、カルボン酸塩水和物の重量平均分子量は通常50〜1000であり、好ましくは50〜600であり、特に好ましくは50〜400である。
【0073】
上記カルボン酸塩水和物は具体的には、例えば1価カルボン酸塩として酢酸ナトリウム(CH3COONa・3H2O)、酢酸カルシウム((CH3COO)2Ca・H2O)等の酢酸塩、乳酸カルシウム((CH3CH(OH)COO)2Ca・5H2O)等の乳酸塩、グルコン酸亜鉛((CH(OH)CH(OH)CH(OH)CH(OH)CH(OH)COO)2Zn・3H2O)、グルコン酸カルシウム((CH(OH)CH(OH)CH(OH)CH(OH)CH(OH)COO)2Ca・H2O)等のグルコン酸塩、安息香酸マグネシウム((C65COO)2Mg・4H2O)、安息香酸カルシウム((C65COO)2Ca・3H2O)等の安息香酸塩、リンゴ酸ナトリウム(NaOOCCH(OH)CHCOONa)・3H2O)、リンゴ酸カルシウム(OOCCH(OH)CHCOO)Ca・H2O)等のリンゴ酸塩;2価カルボン酸塩としてシュウ酸カリウム((COONa)2・H2O)、シュウ酸アンモニウム((COONH2・H2O)等のシュウ酸塩、コハク酸二ナトリウム((CH2COONa)2・6H2O)、コハク酸二カリウム((CH2COOK)2・3H2O)等のコハク酸塩、L-グルタミン酸水素カリウム(HOOCCH(NH2)CH2CH2COOK・H2O)、L-グルタミン酸水素ナトリウム(HOOCCH(NH2)CH2CH2COONa・H2O)、L-グルタミン酸マグネシウム((OOCCH(NH2)CH2CH2COO)Mg・4H2O)等のグルタミン酸塩、L−アスパラギン酸ナトリウム(HOOCCH2CH(COOH)NH2・H2O)等のアスパラギン酸塩、L−酒石酸水素ナトリウム(HOOCCH(OH)CH(OH)COONa・H2O)等の酒石酸塩;3価カルボン酸塩としてクエン酸三カリウム(KOCOCH2C(OH)(COOK)CH2COOK・H2O)、クエン酸三ナトリウム((C35O(COO)3)Na3・2H2O)等のクエン酸塩;4価カルボン酸塩としてエチレンジアミン四酢酸カルシウムニナトリウム(Ca(OOCCH2)2NCH2CH2N(CH2COONa)2・2H2O)、エチレンジアミン四酢酸ニナトリウム((HOOCCH2)2NCH2CH2N(CH2COONa)2・2H2O)、等のEDTA四酢酸塩等のEDTAカルボン酸塩等が挙げられる。
なお、上記カッコ内で示した化学式は、最も多く水和水を有する水和物の化学式を表わす。
【0074】
上記の中で、シュウ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、乳酸塩、グルコン酸塩、リンゴ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、EDTAカルボン酸塩は脂肪族カルボン酸塩であり、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩はアミノ酸塩である。
【0075】
生産性や安全性の点から、好ましくは1〜4価のカルボン酸の塩であり、重量平均分子量が50〜600の飽和脂肪族カルボン酸塩およびアミノ酸塩であり、特に好ましくは酢酸塩、乳酸塩、グルコン酸塩、リンゴ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩である。
【0076】
カルボン酸塩水和物の部分脱水物または完全脱水物(C2)は、通常粉体であり、その粒子径はASTM E11−04に基づいて測定した値で、通常100メッシュパスが50体積%以上であり、好ましくは100メッシュパスが60体積%以上、特に好ましくは100メッシュパスが100体積%以上である。かかる粒子径は、(A)EVOH樹脂への分散性が良好となる点から、小さいことが好ましい。粒子径が大きすぎる場合、(A)EVOH樹脂に入り込んだ水分を除去する効果が不足し、熱水処理(すなわちレトルト処理)後のガスバリア性が不足する傾向がある。
これらのカルボン酸塩水和物の部分脱水物または完全脱水物(C2)は、通常は単独で用いるが、2種以上を混合して使用することもできる。
以上のようなカルボン酸塩水和物の完全脱水物又は部分脱水物は、C1成分と同様に、樹脂組成物中に水分があると、積極的に水分を捕捉することが可能である。
【0077】
(C3)リン酸塩水和物の完全脱水物又は部分脱水物
リン酸塩水和物の完全脱水物または部分脱水物(C3)としては、通常、リン酸の金属塩が用いられる。前記金属は、通常、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩であり、好ましくはアルカリ金属塩であり、特に好ましくはカリウム、ナトリウムである。
【0078】
リン酸塩水和物の完全脱水物又は部分脱水物無機塩(C3)の具体例としては、リン酸ナトリウム(リン酸二水素一ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム)、リン酸カリウム等のリン酸のアルカリ金属塩、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム等のリン酸のアルカリ土類金属塩、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム等のピロリン酸のアルカリ金属塩、ピロリン酸マグネシウム、ピロリン酸カルシウム等のピロリン酸のアルカリ土類金属塩が挙げられる。生産性や安全性の点から、好ましくはピロリン酸のアルカリ金属塩であり、特に好ましくはピロリン酸ナトリウムである。これらは単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0079】
以上のような(C)水和物形成性の塩の水和物の完全脱水物又は部分脱水物は、いずれも常温で、完全水和物が安定に存在できるので、無水物、部分脱水物として樹脂組成物に含有させた場合、組成物中に含まれる水を吸水して水和物を形成し、EVOH樹脂中に水分子が取り込まれることを防止、ないしは一旦EVOH樹脂中に取り込まれた水分子を捕獲することが可能である。
【0080】
以上のような(C)水和物形成性の塩の水和物の完全脱水物又は部分脱水物は、B成分との共存下において、EVOH樹脂の溶融粘度を安定させる作用がある。すなわち、EVOH樹脂にB成分を含有させた場合、EVOH樹脂の溶融粘度が減少することがわかった。これは、EVOH樹脂が一般熱的可塑性樹脂と比べて、分子鎖中に多数のOH基を有しており、酸素吸収剤とEVOH樹脂のOH基とが反応するためと推測される。一方、EVOH樹脂にC成分を含有させても、粘度増加効果は認められない。しかしながら、B成分とC成分が共存する場合には、B成分の添加による粘度減少効果が抑制されるという、予想外の効果が得られた。
【0081】
さらに、一部のB成分には、酸素捕捉のために水分が必要と考えられているが、水分捕捉作用があるC成分を配合しても、B成分の酸素吸収作用は損なわれることがなかった。また、C成分は、水分を吸収しやすいという性質から、EVOH樹脂中に取り込まれた水分子を捕捉するという、いわゆる乾燥剤としての役割も果たすことができるが、このC成分による水分捕捉作用も、B成分との共存により損なわれることはない。従って、本発明のEVOH樹脂組成物を用いた成形物では、吸水によりEVOH樹脂本来のガスバリア性が低下することも抑制できる。
【0082】
(C)水和物形成性の塩の水和物の完全脱水物又は部分脱水物の含有量は、EVOH樹脂(A)との混合重量比率(C/A)で、EVOH樹脂の方が多ければよい。具体的には、前記(C)成分が完全脱水物としての重量にて、通常、50未満/50超〜1/99、より好ましくは30/70〜1/99、さらに好ましくは20/80〜5/95である。換言すると、(A)EVOH樹脂100重量部あたり、(C)成分は1重量部以上、100重量部未満が好ましく、より好ましくは1〜43重量部、さらに好ましくは5〜25重量部含有される。さらにまた、樹脂組成物の粘度安定化効果という点からは、(C1)多価金属硫酸塩の完全脱水物又は部分脱水物の場合には、(A)EVOH樹脂100重量部あたり1〜50重量部が好ましく、より好ましくは5〜30重量部、(C2)カルボン酸塩水和物の完全脱水物又は部分脱水物の場合には、(A)EVOH樹脂100重量部あたり1〜50重量部が好ましく、より好ましくは5〜30重量部であることが好ましい。
【0083】
(C)成分の含有量が多すぎる場合、透明性が損なわれたり、凝集により成形時に成型機のスクリーンメッシュが閉塞しやすくなるなどの傾向がある。一方、少なすぎる場合にはEVOH樹脂(A)に侵入した水分を除去する効果が不足し、レトルト処理、ボイル処理等の熱水処理を行った場合のガスバリア性回復効果が不十分となる傾向があり、B成分含有による粘度減少を抑制する効果が不十分となる傾向にある。
【0084】
なお、B成分とC成分との含有比率(重量比)は、(B)/(C)=40/60〜99/1であることが好ましく、より好ましくは50/50〜95/5であり、さらに好ましくは60/40〜90/10である。
【0085】
〔(D)他の熱可塑性樹脂〕
本発明で使用するEVOH樹脂組成物には、上記(A)成分、(B)成分、(C)成分以外に(D)他の熱可塑性樹脂が含有されていてもよい。
【0086】
(D)成分としての他の熱可塑性樹脂としては、例えば具体的には、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、エチレン−α−オレフィン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体等のポリプロピレン系樹脂、ポリブテン、ポリペンテン、ポリ環状オレフィン系樹脂(環状オレフィン構造を主鎖および/または側鎖に有する重合体)等の(未変性)ポリオレフィン系樹脂や、これらのポリオレフィン類を不飽和カルボン酸又はそのエステルでグラフト変性した不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等の変性オレフィン系樹脂を含む広義のポリオレフィン系樹脂、アイオノマー、エチレン−酢酸ビニル共重合体などのビニルエステル系樹脂、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体等のアクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂(共重合ポリアミドも含む)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどの塩素系樹脂、ポリスチレン等の芳香族炭化水素系樹脂、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー等のエラストマー類、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等のハロゲン化ポリオレフィン、芳香族または脂肪族ポリケトン類等が挙げられる。
【0087】
また、酸素吸収剤が樹脂を含有する場合に、EVOH樹脂との相溶性を向上させる目的で、極性基を含有する炭化水素系重合体を配合することも好ましい。かかる炭化水素系重合体とは、例えばポリオレフィン、オレフィン系熱可塑性エラストマー、脂肪族系ゴム、オレフィン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アイオノマー等が挙げられ、極性基を含有する炭化水素系重合体は、これらを構成するモノマーの一部を、α,β―不飽和カルボン酸又はその無水物モノマーに代えて共重合することにより、あるいはグラフト反応等により側鎖の一部にα,β―不飽和カルボン酸又はその無水物モノマーを導入することにより得られる。
例えば相溶化剤が極性基を含有する炭化水素系重合体の場合には、重合体のベースとなる炭化水素重合体部分により、該相溶化剤とEVOH樹脂との親和性が良好となる傾向がある。さらに、該相溶化剤の極性基により、該相溶化剤とEVOH樹脂との親和性が良好となる傾向がある。その結果、得られる樹脂組成物に安定したモルフォロジーを形成させることができる。
【0088】
(D)他の熱可塑性樹脂の含有量は、通常(A)EVOH樹脂の30重量%以下とする。但し、B成分として、(B3)複合型酸素吸収剤を使用した場合において、当該複合型酸素吸収剤の有機化合物として樹脂を使用した場合、又は(B1)無機系酸素吸収剤を使用した場合において、金属(化合物)含有ペレットを用いた場合のように、B成分の一部として熱可塑性樹脂が添加される場合、(D)他の熱可塑性樹脂は、B成分の一部として添加される熱可塑性樹脂との合計量が、EVOH樹脂に対して30重量%以下となるようにする。
【0089】
尚、レトルト食品などのように、熱水処理される包装体の包装用材料を製造する場合、(D)他の熱可塑性樹脂として、ポリアミド系樹脂を含有したEVOH樹脂組成物を用いることが好ましい。ポリアミド系樹脂は、アミド結合がEVOH樹脂のOH基及び/又はエステル基との相互作用によりネットワーク構造を形成することが可能であり、これにより、熱水処理時のEVOH樹脂の溶出を防止することができる。
【0090】
該ポリアミド系樹脂としては、公知のものを用いることができる。
例えば具体的には、ポリカプラミド(ナイロン6)、ポリ−ω−アミノヘプタン酸(ナイロン7)、ポリ−ω−アミノノナン酸(ナイロン9)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリラウリルラクタム(ナイロン12)等のホモポリマーが挙げられる。また共重合ポリアミド系樹脂としては、ポリエチレンジアミンアジパミド(ナイロン26)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリオクタメチレンアジパミド(ナイロン86)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン108)、カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ナイロン6/12)、カプロラクタム/ω−アミノノナン酸共重合体(ナイロン6/9)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン6/66)、ラウリルラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン12/66)、エチレンジアミンアジパミド/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン26/66)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン66/610)、エチレンアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン6/66/610)等の脂肪族ポリアミドや、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド、ポリメタキシリレンアジパミド、ヘキサメチレンイソフタルアミド/テレフタルアミド共重合体、ポリ−p−フェニレンテレフタルアミドや、ポリ−p−フェニレン・3−4’ジフェニルエーテルテレフタルアミド等の芳香族ポリアミド、非晶性ポリアミド、上記のポリアミド系樹脂をメチレンベンジルアミン、メタキシレンジアミン等のカルボキシル基やアミノ基で末端を変性した末端変性ポリアミド等が挙げられる。
【0091】
〔(E)その他の添加物〕
本発明の製造方法に供される樹脂組成物には、(A)EVOH樹脂、(B)酸素吸収剤、(C)水和物形成性の塩の水和物の完全脱水物又は部分脱水物、(D)他の熱可塑性樹脂の他に、必要に応じて、エチレングリコール、グリセリン、ヘキサンジオール等の脂肪族多価アルコール等の可塑剤;飽和脂肪族アミド(例えばステアリン酸アミド等)、不飽和脂肪酸アミド(例えばオレイン酸アミド等)、ビス脂肪酸アミド(例えばエチレンビスステアリン酸アミド等)、低分子量ポリオレフィン(例えば分子量500〜10000程度の低分子量ポリエチレン、又は低分子量ポリプロピレン)等の滑剤;アンチブロッキング剤;酸化防止剤;着色剤;帯電防止剤;紫外線吸収剤;抗菌剤;不溶性無機塩(例えば、ハイドロタルサイト等);充填材(例えば無機フィラー等);界面活性剤、ワックス;分散剤(ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等);軟化剤(流動パラフィン等)などの公知の添加剤を適宜配合することができる。
かかる添加剤は、樹脂組成物全体に対して、通常30重量%以下、好ましくは10重量%以下にて配合される。
【0092】
<樹脂組成物の調製方法>
(A)成分、(B)成分、(C)成分、さらに所望により配合される(D)成分(E)成分を混合し、本発明の製造方法に供される樹脂組成物を得る。かかる樹脂組成物は、溶融混錬により混合してペレット状の樹脂組成物を得、かかる樹脂組成物を後述する溶融成形に供することも可能であるし、バンバリーミキサー等を用いて機械的混合法(ペレットドライブレンド)にて混合を行い、ドライブレンド物としてそのまま後述する溶融成形に供することも可能である。好ましくは溶融混練法にて混合する方法である。
【0093】
溶融混練法における配合順序は、EVOH樹脂に、(B)成分及び(C)成分を一括に溶融混練する方法;まず(B)成分をEVOH樹脂と溶融混練した後、(C)成分を配合して溶融混練する方法;まず(C)成分をEVOH樹脂と溶融混練した後、(B)成分を配合して溶融混練する方法等が挙げられる。溶融混練に用いる機械は特に限定せず、公知の混練機を用いることができる。例えば、押出機の場合、単軸または二軸の押出機等が挙げられ、本発明の樹脂組成物をストランド状に押出し、カットしてペレット化する方法が採用され得る。かかる溶融混練温度は、通常150〜300℃、好ましくは170〜250℃である。
【0094】
さらに、製造段階において、含水状態にあるEVOH樹脂ペレットに(B)成分及び(C)成分を添着させた後、乾燥させる方法も挙げられる。
尚、場合によっては、(B)成分の水溶液に(A)成分および/又は(C)成分を浸漬することにより(B)成分を含有させ、乾燥することによって製造する方法も採用可能であるが、(B)成分としての硫酸の金属塩は、樹脂組成物を成形した成形物中において、水和物形成能を保持していることが必要であることから、例えば、特開2000−136281号公報に開示の調製方法、すなわち、硫酸の金属塩の水溶液に、EVOH樹脂を浸漬することによって、硫酸の金属塩を含有させる方法は、硫酸の金属塩の水和物形成能を低下させる傾向があるため採用し難い。
また、場合によっては、(A)成分および/又は(C)成分と(B)成分の飽和水和物を混合し、(A)成分および/又は(C)成分が溶融するような高温で溶融混練することで、(B)成分の飽和水和物が有する水和水を蒸発させて本発明の樹脂組成物を得る方法も採用可能であるが、かかる方法では樹脂組成物中に発泡が起こる傾向があるため採用しがたい。
【0095】
<溶融成形>
本発明の製造方法では、上記のようにして調製されるEVOH樹脂組成物ペレットまたはドライブレンド物を溶融成形する方法、予め(B)成分をEVOH樹脂と溶融混練した後、サイドフィード等により(C)成分を配合して溶融成形する方法、予め(C)成分をEVOH樹脂と溶融混練した後、サイドフィード等により(B)成分を配合して溶融成形する方法等が挙げられる。
【0096】
いずれの場合も、溶融成形に供される樹脂組成物のメルトフローレートは、EVOH樹脂単独のメルトフローレートの50〜160%範囲内、好ましくは60〜150%範囲内、より好ましくは70〜140%範囲内にある。具体的には、荷重2160g、210℃におけるMFRは、EVOH樹脂単独では3.4〜4.3g/10分であり、本発明の製造方法で使用するEVOH樹脂組成物では2.0〜6.5g/10分、好ましくは2.3〜6.0g/10分である。従って、(A)EVOH樹脂に(B)酸素吸収剤が配合された成形物の製造方法について、本発明の製造方法を採用することにより、EVOH樹脂単独の場合と同様にして溶融成形することができる。
【0097】
溶融成形方法としては、押出成形法(T−ダイ成形、インフレーション成形、ブロー成形、溶融紡糸、異型押出等)、射出成形法が主として採用される。溶融成形温度は、通常150〜300℃の範囲から選ぶことが多い。
【0098】
<成形物>
本発明のEVOH樹脂成形物は、上記本発明の製造方法により得られるものである。EVOH樹脂本来の性質に基づくガスバリア性だけでなく、B成分の配合による酸素吸収性も備えている。従って、EVOH樹脂成形物を一旦透過した酸素であっても、B成分が酸素捕捉することにより、包装体内容物が酸素により劣化されることを抑制できる。よって、本発明のEVOH樹脂成形物は、高度なガスバリア性、特に酸素による変質、品質劣化を防止する必要がある食品、医薬品、化粧品、電子部品等の包装用材料として好適に用いることができる。
【0099】
本発明のEVOH樹脂成形物は、フィルム、シート等の膜状、カップ、トレイ等の広口容器、ボトル等の中空容器、パイプ等、任意の形状である。これらの成形物の層は、EVOH樹脂単独層であってもよいが、好ましくは、他の樹脂層を積層した多層構造体とすることが好ましい。
【0100】
<多層構造体>
本発明の多層構造体は、本発明のEVOH樹脂成形物からなる層(以下「EVOH樹脂層」という)を少なくとも1層含むものである。好ましくは、EVOH樹脂層をガスバリア兼酸素吸収性層として、その片面又は両面にEVOH樹脂以外の樹脂層を設けたものである。
【0101】
EVOH樹脂以外の樹脂層に使用する樹脂としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、エチレン−α−オレフィン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体等のポリプロピレン系樹脂、ポリブテン、ポリペンテン、ポリ環状オレフィン系樹脂(環状オレフィン構造を主鎖および/または側鎖に有する重合体)等の(未変性)ポリオレフィン系樹脂や、これらのポリオレフィン類を不飽和カルボン酸又はそのエステルでグラフト変性した不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等の変性オレフィン系樹脂を含む広義のポリオレフィン系樹脂、アイオノマー、エチレン−酢酸ビニル共重合体などのビニルエステル系樹脂、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体等のアクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂(共重合ポリアミドも含む)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどの塩素系樹脂、ポリスチレン等の芳香族炭化水素系樹脂、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー等のエラストマー類、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等のハロゲン化ポリオレフィン、芳香族または脂肪族ポリケトン類等が挙げられる。
これらは多層構造体を使用する目的、用途により、適宜選択される。機械的強度を付与するためには、経済的な点からポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂等の安価な樹脂が好ましく、耐熱水性を向上させるためには、ポリ環状オレフィン系樹脂が好ましい。特にポリ環状オレフィン系樹脂は疎水性樹脂として好ましく用いられる。
【0102】
これら樹脂には、本発明の趣旨を阻害しない範囲(例えば、30重量%以下、好ましくは10重量%以下)において、従来知られているような可塑剤、フィラー、クレー(モンモリロナイト等)、着色剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、核材、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、ワックス、乾燥剤、酸素吸収剤等を含んでいても良い。
【0103】
多層構造体の層構成は、ガスバリア層となるEVOH樹脂層をa(a1、a2、・・・)、他の樹脂層をb(b1、b2、・・・)とするとき、a/b、b/a/b、a/b/a、a1/a2/b、a/b1/b2、b2/b1/a/b1/b2、b2/b1/a/b1/a/b1/b2等任意の組み合わせが可能である。本発明で使用するEVOH樹脂組成物と熱可塑性樹脂の混合物を含むリサイクル層をRとするとき、b/R/a、b/R/a/b、b/R/a/R/b、b/a/R/a/b、b/R/a/R/a/R/b等とすることも可能である。多層構造体の層の数はのべ数にて通常2〜15、好ましくは3〜10層である。多層構造体の層の数は、のべ数にて通常2〜15、好ましくは3〜10層である。
【0104】
なお、上記の層構成において、それぞれの層間には、必要に応じて接着性樹脂層を設けることができ、かかる接着性樹脂としては、公知ものを使用すればよい。かかる接着性樹脂はbの樹脂の種類によって異なるため、適宜選択すればよいが、代表的には不飽和カルボン酸またはその無水物をポリオレフィン系樹脂に付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシル基を含有する変性オレフィン系重合体を挙げることができる。例えば、無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン−プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン−エチルアクリレート共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン−酢酸ビニル共重合体等であり、これらから選ばれた1種または2種以上の混合物が好ましい。
【0105】
多層構造体の層構成としては、EVOH樹脂が周囲の水分を吸湿するとガスバリア性が低下することから、EVOH樹脂層を中間層として有し、その両外層に他の熱可塑性樹脂層を設ける構成が好ましく用いられる。
【0106】
本発明の多層構造体の製造方法は、公知の方法を採用できる。例えば、本発明の製造方法で用いるEVOH樹脂組成物のフィルム、シート等に他の樹脂組成物を溶融押出ラミネートする方法、逆に他の樹脂層に、本発明の製造方法で使用するEVOH樹脂組成物を溶融押出ラミネートする方法、EVOH樹脂組成物と他の樹脂組成物とを共押出又は共射出する方法、EVOH樹脂フィルムと他の樹脂フィルムとを有機チタン化合物、イソシアネート化合物、ポリエステル系化合物、ポリウレタン化合物等の公知の接着剤を用いてドライラミネートする方法、他の樹脂フィルム上にEVOH樹脂組成物の溶液を塗工してから溶媒を除去する方法等が挙げられる。これらの中でも、コストや環境の観点から考慮して共押出しする方法が好ましい。
【0107】
本発明の多層構造体は、次いで必要に応じて(加熱)延伸処理が施される。延伸処理は、一軸延伸、二軸延伸のいずれであってもよく、二軸延伸の場合は同時延伸であっても逐次延伸であってもよい。また、延伸方法としてはロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法、延伸ブロー法、真空圧空成形等のうち延伸倍率の高いものも採用できる。延伸温度は、多層構造体近傍の温度で、通常40〜170℃、好ましくは60〜160℃程度の範囲から選ばれる。延伸温度が低すぎた場合は延伸性が不良となり、高すぎた場合は安定した延伸状態を維持することが困難となる。
【0108】
なお、延伸後に寸法安定性を付与することを目的として、次いで熱固定を行ってもよい。熱固定は周知の手段で実施可能であり、例えば上記延伸フィルムを緊張状態を保ちながら通常80〜180℃、好ましくは100〜165℃で通常2〜600秒間程度熱処理を行う。
【0109】
多層構造体(延伸したものを含む)におけるEVOH樹脂層、他の樹脂層および接着性樹脂層の厚みは、層構成、積層する樹脂層の種類、接着性樹脂の種類、用途や包装形態、要求される物性などにより一概に言えないが、通常1〜100000μm、好ましくは5〜50000μm、特に好ましくは10〜10000μmである。
また、EVOH樹脂層は通常1〜5000μm、好ましくは5〜4000μm、特に好ましくは10〜3000μmであり、さらに好ましくは10〜1000μmである。他の樹脂層は通常10〜40000μm、好ましくは20〜30000μm、特に好ましくは50〜20000μmであり、接着性樹脂層は、通常1〜5000μm、好ましくは2〜4000μm、特に好ましくは3〜3000μmである。
【0110】
さらに、多層構造体におけるEVOH樹脂層と他の樹脂層との厚みの比(EVOH樹脂層/樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常1/99〜50/50、好ましくは10/90〜45/55、特に好ましくは20/80〜40/60である。また、多層構造体におけるEVOH樹脂層と接着性樹脂層の厚み比(EVOH樹脂層/接着性樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常10/90〜99/1、好ましくは20/80〜95/5、特に好ましくは50/50〜90/10である。
【0111】
本発明の多層構造体は、フィルム、シート等の膜状、カップ、トレイなどの広口容器、タンク、ボトル等の中空容器として各種用途に用いられ、特に好ましくは広口容器である。
かかる用途としては、スープ、デザート、一般的な食品の他、醤油、ソース、ケチャップ、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌、食酢等の発酵食品、サラダ油等の油脂品、清酒、ビール、みりん、ウィスキー、焼酎、ワイン等の酒類、炭酸飲料、ジュース、スポーツドリンク、牛乳、コーヒー飲料、ウーロン茶、紅茶、ミネラルウォーター等の清涼飲料水、ペットフード、化粧品、医薬品、洗剤、香粧品、工業薬品、農薬等各種の容器として有用であるが、特に、スープ、デザート、ビール、ワイン、炭酸飲料、ジュース、お茶、牛乳、コーヒー飲料等の飲料や、ソース、ドレッシング等の調味料、ペットフードの容器の用途に有用である。
特に、本発明の多層構造体は、ボイル処理やレトルト処理等の熱水処理後のガスバリア性が優れるため、熱水処理に供される包装材料として有用である。
【実施例】
【0112】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、実施例の記載に限定されるものではない。
尚、例中「部」、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0113】
〔溶融成形性の評価方法〕
荷重2160g、210℃におけるMFRを測定し、溶融成形性の指標として用いた。
【0114】
〔樹脂組成物ペレットの調製及び多層構造体の製造〕
(A)EVOH樹脂として、エチレン構造単位含有率29モル%、ケン化度99.7モル%、MFR4g/10分(210℃、荷重2160g)のエチレン−酢酸ビニル系共重合体ケン化物を用いた。また、(C)水和形成性の塩の水和物の完全脱水物として、硫酸マグネシウムの無水物又はコハク酸2ナトリウム無水物を使用し、(B)酸素吸収剤として、チバスペシャリティケミカルズ社製のShelfplus(登録商標)2400又はShelfplus(登録商標)2500を用い、これらを表1に示す量だけ配合して樹脂組成物を調製した。尚、Shelfplus2400は、鉄系酸素吸収剤をポリエチレン中に分散させたもので、ポリエチレン/鉄系酸素吸収剤=50/50(質量比)である。Shelfplus2500は、鉄系酸素吸収剤をポリプロピレン中に分散させたもので、ポリプロピレン/鉄系酸素吸収剤=50/50(質量比)である。No.1,2,7はShelfplus2400を使用し、No.2−6,8−10はShelfplus2400を使用した。表1には、鉄系酸素吸収剤量(配合したShelfplusの半分量に該当)を示す。
【0115】
上記の(A)EVOH樹脂と(B)酸素吸収剤をドライブレンドし、ミキシングゾーン2箇所を有する二軸押出機(φ30mm、L/D=43)のホッパーに仕込み、上記各(C)成分をパウダーフィーダーにて同ホッパーに供給し、溶融混練(押出機設定温度:C1/C2/C3/C4/C5/C6/C7/H/D=200/210/230/230/230/230/230/230℃)後、ストランド状に押出し、カットして、No.1〜10それぞれについて、EVOH樹脂組成物の円柱形ペレットを得た。上記で製造した組成物No.1〜10の各ペレットの溶融成形性を測定した。測定結果を併せて表1に示す。
【0116】
参考のために、EVOH樹脂単独(参考例1)のMFR、B成分を配合しない場合(参考例2,3)のMFRの測定結果を併せて示す。
【0117】
【表1】

【0118】
用いたEVOH樹脂(エチレン含有率29モル%)単独の荷重2160g、210℃におけるMFRは4.0g/10分であった。
【0119】
表1からわかるように、B成分を含有し、C成分を含有しない場合(No.7−10)では、いずれもMFRが7.0を超え、溶融押出が困難であった。一方、No.1−6のMFRは、EVOH樹脂単独の場合と大差がなく、溶融押出が安定していた。また、C成分は含有するが、B成分を含有しない場合(参考例2,3)についても、EVOH樹脂単独の場合と大差がなく、溶融押出が安定していた。
従って、酸素吸収性を付与するために、EVOH樹脂に鉄粉を含有させる場合には、C成分を共存させることで、溶融成形の安定化を図ることが有用であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明のEVOH樹脂成形物の製造方法によれば、安定して、酸素吸収剤を含有させたEVOH樹脂成形物を製造することができるので、高度な酸素バリア性が要求されるEVOH樹脂成形物の製造方法に好適である。かかる成形物は、フィルム、シート等の膜状、カップ、トレイなどの広口容器、タンク、ボトル等の中空容器として各種用途に用いられ、特に熱水処理に供される包装材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融成形法により、エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物の成形物を製造する方法において、
(A)エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物に対し、1〜30重量%の(B)酸素吸収剤及び1〜50重量%の(C)水和物形成性の塩の水和物の完全脱水物又は部分脱水物を存在下で、溶融成形することを特徴とするエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物成形物の製造方法。
【請求項2】
前記(B)酸素吸収剤は、鉄又は鉄化合物である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記(C)成分は、(C1)多価金属硫酸塩水和物の完全脱水物又は部分脱水物である請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記(C)成分は、(C2)カルボン酸塩水和物の完全脱水物又は部分脱水物である請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記(C)成分と前記(B)成分の配合重量比は、(B)/(C)にて10/90〜90/10であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
(A)エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物;並びに該(A)エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物に対し、1〜30重量%の(B)酸素吸収剤及び1〜50重量%の(C)水和物形成性の塩の水和物の完全脱水物又は部分脱水物を含有する樹脂組成物の、荷重2160g、210℃におけるメルトフローレートは、2.0〜6.5g/10分である請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記成形物が薄膜である、請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
(A)エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物に対して、1〜30重量%の(B)酸素吸収剤、及び1〜50重量%の(C)水和物形成性の塩の水和物の完全脱水物又は部分脱水物の存在下で、前記(A)エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物を溶融成形することにより得られる成形物。
【請求項9】
前記成形物が薄膜である請求項8に記載の成形物。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の成形物からなる層を少なくとも1層有する多層構造体。

【公開番号】特開2012−179723(P2012−179723A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42148(P2011−42148)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】