説明

エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物の製造方法

【課題】 着色が抑制され外観の優れたエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物を得る方法を提供すること。
【解決手段】 (工程1)エチレン−酢酸ビニル共重合体のアルコール溶液に、該溶液に対して0.0001〜0.03モル/lの範囲でアルカリ触媒を加えて混合した後;
(工程2)前記エチレン−酢酸ビニル共重合体のアルコール溶液をアセタール化触媒に接触させ;
(工程3)前記工程2でアセタール化触媒に接触を終えた後のエチレン−酢酸ビニル共重合体のアルコール溶液を、アルカリ触媒を用いてケン化すること;
を特徴とするエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(以下、EVOHと略すことがある)は酸素遮蔽性、耐油性、非帯電性、機械強度等に優れた有用な高分子材料であり、フィルム、シート、容器など各種包装材料として広く用いられている。EVOHの分野において、成形時に発生する外観上の問題、例えば着色やフィッシュアイなどは克服すべき重要な課題の一つである。特に内容物が目で確認できる透明包装材料の用途においては、EVOHの着色は内容物の変色を連想させるため、より着色の少ない、高品質のEVOHが近年求められるようになってきている。
【0003】
EVOHは、エチレン−酢酸ビニル共重合体(以下、EVAcと略することがある)をアルカリ触媒などで加水分解または加アルコール分解処理(以下、ケン化と称することがある)して製造することが従来から実施されており、かかるEVOHの品質を向上させるため、特にEVOHの着色を抑制するため、当該ケン化工程を改良する方法が提案されている。
【0004】
特許文献1には、塔式反応器を用いて、メタノール溶媒中でエチレン含量15〜60モル%のEVAcをアルカリ触媒にて酢酸ビニル成分のケン化度が70〜98モル%になるまでケン化を行い、得られるエチレン−酢酸ビニル共重合体部分ケン化物溶液に、続いて沸点下で水又は水/メタノールを加えて混合溶液を形成させ、アルカリ触媒の存在下に再ケン化を行い、酢酸ビニル成分のケン化度が99.4モル%以上の高ケン化度EVOH溶液を得、該高ケン化度EVOH溶液を、凝固浴中に押し出し析出させ、酸処理する工程を順次行なうことで、形状が均一で、尚且つ溶融成形性の優れたEVOHのペレットが得られるとされている。
【0005】
特許文献2には、EVAcを、アルカリ触媒を含有するメタノール溶液を用いてケン化するEVOHの製造方法であって、第1反応器内で所定圧力下においてケン化して得た前記共重合体の部分ケン化物を含む溶液を、第1反応器から第2反応器へと供給し、第1反応器内の圧力よりも高い圧力の下に、前記部分ケン化物をさらにケン化することで、高ケン化度のEVOHを製造することが記載されている。特許文献2には、EVAcのケン化に使用されるアルカリ触媒は、苛性焼けと称されるポリマーの劣化や着色の原因となること、また副生成物である酢酸化合物が製造物中に残存すると熱安定性が低下し、着色やゲル状ブツの発生の原因となるので、使用するアルカリ触媒は少ないほうが好ましいと記載されている。そして、特許文献2の発明では、ケン化時のアルカリ触媒の使用量を低減して高いケン化度のEVOHを効率的に製造でき、着色などの外観不良も抑制されたEVOHが得られるとされている。
【0006】
特許文献3には、EVAcを、アルカリ触媒の存在下、アルコール系溶媒中でケン化するEVOHの製造方法であって、前記アルコール溶媒中に、エチレン−酢酸ビニル共重合体に対して100ppm以上15000ppm以下の水を供給することを特徴とするEVOHの製造方法が記載されている。この発明によれば、EVOHの着色が抑制され、外観特性を向上させたEVOHが得られるとされている。
【0007】
【特許文献1】特許第4046245号公報
【特許文献2】国際公開第2002/050137号パンフレット
【特許文献3】特開2002−69123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、EVOHの品質を向上させるために、EVAcの改良されたケン化方法がいくつか提案されている。しかしながら、上述の方法においては、近年ますます高まっているEVOHの品質、特にEVOHの着色の抑制という点においては効果が十分とは未だ言い難いのが現状であり、更に着色の少ないEVOHが求められている。
【0009】
上述した製造方法でEVOHの十分な着色の抑制効果が得られない理由を本発明者らが詳細に検討したところ、エチレンと酢酸ビニルを重合してEVAcを得る工程において原料として使用する酢酸ビニルの無視できない残存量や、副生成物として発生するアセトアルデヒドの反応系中での存在を考慮していない点にあるとの結論に到達した。
【0010】
一般に、EVAcは酢酸ビニルとエチレンをアルコールなどの溶媒の存在下で共重合した後に、未反応のエチレンや酢酸ビニルを除去することで製造されるが、かかる除去後のEVAc溶液は、依然として原料の酢酸ビニルや重合反応で発生する酢酸ビニル誘導体(以下、これら両者をあわせて酢酸ビニルエステル類と称する)を不純物として、無視できない量含有している。酢酸ビニルエステル類はアルカリ性条件下で容易に加水分解または加アルコール分解反応を起こし、酢酸とアセトアルデヒドに分解する。生じたアセトアルデヒドは反応性に富むため、アルカリ触媒を用いたケン化反応条件下では多様な反応を引き起こす。例えば、アセトアルデヒド同士が縮合反応を起こしてクロトンアルデヒドやソルブアルデヒドのようなアルデヒドを形成する。このようなアセトアルデヒド由来の副生成物が残存することで、製造したEVOHの着色やその他の品質不良の原因となる。そのため、未反応の酢酸ビニルは、EVAcを製造した段階で完全に除去されることが望ましいが、そのためには多大なエネルギーを必要とするため、工業的生産の観点からは完全な除去は非常に困難であった。
【0011】
しかして、本発明の目的は、上記課題を解決するためになされたものであり、EVAc溶液中の不純物である酢酸ビニルエステル類や、その加水分解または加アルコール分解により生ずるアセトアルデヒドを予め不活性化した後にケン化反応を行う、着色が抑制され外観の優れたEVOHの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題の達成に向けて鋭意検討した結果、EVAcのアルコール溶液を希薄な濃度のアルカリ性溶液にすることで、EVAc溶液中に残存する酢酸ビニルエステル類を予め酢酸とアセトアルデヒドに変換してから、アセタール化触媒を用いてアセトアルデヒドを不活性化したのち、アルカリ触媒でケン化することにより着色のない品質に優れたEVOHが製造できることを見出した。
すなわち、本発明は、
(工程1)エチレン−酢酸ビニル共重合体のアルコール溶液に、該溶液に対して0.0001〜0.03モル/lの範囲でアルカリ触媒を加えて混合した後;
(工程2)前記エチレン−酢酸ビニル共重合体のアルコール溶液をアセタール化触媒に接触させ;
(工程3)前記工程2でアセタール化触媒に接触を終えた後のエチレン−酢酸ビニル共重合体のアルコール溶液を、アルカリ触媒を用いてケン化すること;
を特徴とするエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物の製造方法である。
【0013】
好適には、前記工程1で用いるエチレン−酢酸ビニル共重合体のアルコール溶液中の酢酸ビニルの含有量が0.015モル/l以下である。
また、好適には、前記アルコールはメタノールである。
さらに、好適には、前記アセタール化触媒は、無機酸、有機スルホン酸、カルボン酸、ルイス酸または酸性陽イオン交換樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である。
そして、好適には、工程2に付した後のエチレン−酢酸ビニル共重合体のケン化度が5モル%以下である。
好適には、本発明の製造方法における前記工程3において、前記工程2でアセタール化触媒に接触を終えた後のエチレン−酢酸ビニル共重合体のアルコール溶液を塔式反応器の塔上部に供給し、塔下部からアルコール溶媒を蒸気として供給して、塔頂部からアルコール溶媒および酢酸エステルを蒸気として排出するとともに、塔内にアルカリ触媒を供給してエチレン−酢酸ビニル共重合体をケン化する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、エチレン−酢酸ビニル共重合体中の不純物である酢酸ビニルエステル類の加水分解による副生成物であるアセトアルデヒドを、アセタール化反応によって不活性化した後にケン化反応に供することで、得られるエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物の着色を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物の製造方法では、(工程1)EVAcのアルコール溶液に、該溶液に対して、0.0001〜0.03モル/lの範囲でアルカリ触媒を加えて混合した後;(工程2)前記EVAcのアルコール溶液をアセタール化触媒に接触させ、(工程3)前記工程2でアセタール化触媒に接触を終えた後のEVAcのアルコール溶液を、アルカリ触媒を用いてケン化すること;が必須である。以下に各工程の詳細について記載する。
【0016】
工程1は、EVAcのアルコール溶液を希薄な濃度のアルカリ性溶液とすることで、EVAc中に残存する酢酸ビニルエステル類を酢酸とアセトアルデヒドに加水分解または加アルコール分解する工程である。
EVAc溶液中に残存する酢酸ビニルエステル類を酢酸とアセトアルデヒドに変換しつつも、アセトアルデヒドの副反応が進行しないようにアルカリ触媒の濃度を調整することが肝要である。一般に、酢酸ビニルエステル類の加水分解または加アルコール分解は、EVAcの酢酸エステル基のケン化よりも反応性が高く、希薄な濃度のアルカリ性溶液で反応が進行する。本発明はこの点に着目したものであり、EVAcのアルコール溶液を希薄な濃度のアルカリ性溶液にすることで、EVAcの酢酸エステル基のケン化を行う前に、酢酸ビニルエステル類の加水分解または加アルコール分解のみを行うことを特徴としている。
【0017】
工程1におけるアルカリ触媒の濃度は0.0001〜0.03モル/lであることが必要である。工程1におけるアルカリ触媒の濃度が0.0001モル/lよりも低い場合には、酢酸ビニルエステル類の加水分解または加アルコール分解が十分に進行せず、残留した酢酸ビニルエステル類が後述する工程3で加水分解または加アルコール分解を起こすとともに、生成したアセトアルデヒド同士が後述のとおり縮合するため、EVOHの着色を引き起こすおそれがある。一方、工程1におけるアルカリ触媒の濃度が0.03モル/lよりも高すぎると、アセトアルデヒドが発生するに留まらず、アセトアルデヒド同士が縮合してクロトンアルデヒドやソルブアルデヒドなどを生成する。これらのアセトアルデヒド縮合物は、後述する工程2でアセタール化されるが、アセトアルデヒドのアセタール化物に比べて沸点が高く、水への溶解性に乏しい。このため、製造されたEVOHを洗浄や乾燥するなどして不純物除去を施したとしても、アセトアルデヒド縮合物のアセタールを除去することが困難となり、EVOHが着色するなど品質に悪影響を及ぼす。また、アルカリ触媒の濃度が高すぎると、EVAcのケン化反応が進行するため、EVAcのアルコール溶液が高粘度化し、工程通過性が悪くなるおそれもある。
工程1におけるより好適なアルカリ触媒の濃度の範囲は0.0002〜0.02モル/lであり、さらに好適には0.0004〜0.01モル/lである。
【0018】
EVAcはエチレンと酢酸ビニルとが共重合されたものを使用するが、その単量体組成は特に制限されない。成形時の加工特性や酸素遮断性などの樹脂性能が良好なEVOHを得るためには、エチレン含有量が15〜60モル%の範囲のEVAcを使用することが好適である。なお、エチレンと酢酸ビニル以外の単量体、例えば、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどの脂肪族ビニルエステル;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトキシ)シラン、γ−メタクリルオキシプロピルメトキシシランなどのビニルシラン;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテルなどの脂肪族ビニルエーテル;酢酸アリル、塩化アリルなどのアリル化合物;プロピレン、イソブチレン、1−オクテン、1−ドデセン等のα−オレフィン;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸又はその無水物、塩、あるいはモノ又はジアルキルエステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸などのスルホン酸又はその塩;ビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデンなどが少量(通常は5モル%以下)共重合されていてもよい。
【0019】
工程1は、酢酸ビニルに限らず、ビニルエステル構造を有するものであれば加水分解あるいは加アルコール分解によって化学構造に対応したカルボン酸とアセトアルデヒドを生じるため、本発明の効果を奏することができる。例えば、プロピオン酸ビニルと共重合されたEVAcであって、プロピオン酸ビニルを不純物として含有するEVAcのアルコール溶液を本発明の方法によって処理する場合、プロピオン酸ビニルは加水分解あるいは加アルコール分解によってプロピオン酸とアセトアルデヒドに変換される。また、EVAcのポリマー鎖にビニルエステル構造を有する場合においても同様である。
【0020】
本発明の方法では、EVAc溶液の溶媒としてアルコールを使用する。後述するように、工程2においてアセトアルデヒドを不活性化するためにはアルコールが必須である。アルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブチルアルコールなどが挙げられ、中でもメタノールが最適である。
【0021】
また、EVAcのアルコール溶液中におけるEVAcの濃度は特に限定されないが、工程通過性や、各工程で使用する触媒との混合性を良好にするためには、EVAcの濃度を5〜80質量%の範囲とすることが好適であり、より好適には20〜60質量%の範囲である。
【0022】
工程1で用いるアルカリ触媒は特に限定されず、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt−ブトキシドなどのアルカリ金属アルコキシド;炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩;酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウムなどのアルカリ金属カルボン酸塩;ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネン、トリエチルアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、エチレンジアミン、アニリンなどのアミン;アンモニアなどが挙げられる。これらの中でも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドが好ましい。これらのアルカリ触媒は1種類を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
工程1の反応温度は、30℃〜溶媒として用いるアルコールの沸点の範囲であるのが好ましい。例えば、溶媒としてメタノールを使用する場合、好適な溶液の温度の範囲は30℃〜65℃であり、より好適には50〜60℃である。
【0024】
工程1の反応時間は、用いる溶媒の種類、アルカリ触媒の種類及び量、反応温度などにも依存するが、例えば、溶媒としてメタノール、アルカリ触媒としてナトリウムメトキシドを0.01モル/lとなるように使用して、反応温度を60℃とした場合には、反応時間は0.5〜15分の範囲とすることが好適である。一般に、工程1の反応時間は0.1分以上であるのが好ましく、0.2分以上であるのがより好ましい。ただし、反応時間をいたずらに長くすることは、本発明の方法の工程1においては上述したアセトアルデヒドの副反応抑制およびEVAcの酢酸エステル基のケン化反応抑制の観点から避けるべきであり、通常30分以下であるのが好ましく、20分以下であるのがより好ましい。
【0025】
工程1で用いるEVAcのアルコール溶液中の酢酸ビニルの含有量は0.015モル/l以下であることが好ましい。酢酸ビニルの含有量が0.015モル/lを超える場合、工程1において酢酸ビニルエステル類の加水分解または加アルコール分解が十分に進行しない傾向となり、残存する酢酸ビニルが、後述する工程3で加水分解または加アルコール分解を起こすとともに、アセトアルデヒド同士が縮合するため、EVOHの着色を引き起こすおそれがある。なお、EVAcのアルコール溶液から酢酸ビニルを追い出す方法としては、例えば、棚段塔の上部からEVAcのアルコール溶液を30℃〜溶媒として用いるアルコールの沸点の範囲で一定速度で連続的に供給し、塔下部より、供給するEVAcのアルコール溶液に用いられているのと同一種類のアルコールを蒸気として、EVAc量1質量部に対して0.1〜10質量部吹き込み、塔頂部よりアルコールと未反応酢酸ビニルの混合蒸気を留出させ、塔底部より未反応酢酸ビニルを除去したEVAcのアルコール溶液を取り出す方法などを採用することができる。
【0026】
本発明の方法における工程2は、工程1において発生したアセトアルデヒドを含むEVAcのアルコール溶液を直ちにアセタール化触媒に接触させて、アセトアルデヒドを不活性化する工程である。アセトアルデヒドは、溶媒として存在するアルコールとアセタール触媒存在下で反応してアセタール化合物へと変換される。アセタール化合物はアセトアルデヒドに比べ、アルカリ性条件下においても安定であり該アセタール化合物を含有するEVAcのアルコール溶液を引き続き工程3でアルカリ触媒下でケン化を行なっても、得られるEVOHの着色が進行しにくくなる。
【0027】
工程2で用いるアセタール化触媒は特に限定されず、例えば硫酸、塩酸、リン酸などの無機酸;ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸などの有機スルホン酸;トリフルオロ酢酸などのカルボン酸;三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、塩化アルミニウム、塩化鉄(III)、四塩化チタンなどのルイス酸が挙げられる。また、酸性陽イオン交換樹脂を用いることも可能である。酸性陽イオン交換樹脂の触媒活性を示す官能基はスルホン酸であることが好ましく、例としては、アンバーリスト15、アンバーリスト16、アンバーリスト31(商品名、以上、ロームアンドハース社製);ダイヤイオンPK、ダイヤイオンRCP(商品名、以上、三菱化学社製)、DowexG26、DowexMONOSPHERE M31(商品名、以上、ダウ・ケミカル社製)などが挙げられる。これらのアセタール化触媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、硫酸、有機スルホン酸、酸性陽イオン交換樹脂が好ましい。
【0028】
工程2において、アセタール化触媒の使用量は特に限定されないが、工程1で生じたアセトアルデヒドを十分に不活性化する(アセタール化する)ためには、工程1で添加したアルカリ触媒に対して1モル当量以上であることが好ましい。なお、不必要に過剰な量のアセタール化触媒を使用すると、製造後のEVOH中にかかるアセタール化触媒が残存し、溶融成形時にゲルが発生したり着色が発生する傾向となる。アセタール化触媒の使用量の上限は、工程1で添加したアルカリ触媒の10モル当量以下とすることが好適であり、より好適には5モル当量以下である。ただし、酸性陽イオン交換樹脂を使用して、触媒を容易に除去することができる工程とした場合はその限りではない。
【0029】
工程2の反応温度は、工程1と同等に設定すればよく、30℃〜溶媒として用いるアルコールの沸点の範囲とすることが好適である。
【0030】
また、工程2の反応時間は、アセタール化触媒の種類や使用量、溶媒の種類や反応温度にも依存するが、十分にアセタール化を進行させるために、アセタール化触媒と接触させる時間を1分以上とすることが好適である。より好適な反応時間は5分以上であり、さらに好適には10分以上である。ただし、反応時間をいたずらに長くすることは、本発明の方法の工程2においてはアセタール化触媒がEVAcの酢酸エステル基のケン化触媒としても作用してケン化度が高くなり、EVAcのアルコール溶液の流動性が悪くなる傾向にあるため避けるべきであり、通常300分以下であるのが好ましく、150分以下であるのがより好ましい。
【0031】
工程1あるいは工程2において、EVAcのアルコール溶液にアルカリ触媒またはアセタール化触媒を接触させる方法は特に限定されない。一般的な方法として、プロペラ羽根やパドル羽根などを備えた一般的な攪拌槽を用いて、EVAcのアルコール溶液とアルカリ触媒またはアセタール化触媒とを混合する方法が挙げられる。アルカリ触媒またはアセタール化触媒がEVAcのアルコール溶液へ十分に分散するかまたは溶解する場合は、例えばスタティックミキサーのような各種インライン連続混合機を用いれば、効率よくEVAcのアルコール溶液とアルカリ触媒またはアセタール化触媒とを混合し、連続的に反応を行なうことができる。また、工程2のアセタール化触媒として、酸性陽イオン交換樹脂を使用する場合は、酸性陽イオン交換樹脂を充填した容器中にEVAcのアルコール溶液を通過させる方法も好適に用いることができる。本発明の方法では、工程1と工程2をそれぞれ独立した反応器や混合機で行っても良いし、一つの反応器を使用して工程1と工程2を逐次実施しても良いし、一つの反応器や混合器を2つ以上の区分に分けて、工程1と工程2を連続して実施しても良い。
【0032】
また、工程2を終えた後のEVAcのアルコール溶液中におけるEVAcのケン化度は、5モル%以下であることが好ましい。ここまで記載したように、工程1のアルカリ触媒の量や反応時間が適切ではない場合や工程2の反応時間が適切ではない場合には、EVAcの酢酸エステル基のケン化が進行する傾向にある。ケン化度が5モル%以上になると、EVAcのアルコール溶液が高粘度化し、流動性が悪くなるため、工程3において効率良くケン化することが困難になる傾向となる。
【0033】
上記した工程1および工程2を経たEVAcのアルコール溶液は、工程3においてケン化される。
【0034】
工程3で使用するアルカリ触媒は特に限定されず、工程1で使用できるアルカリ触媒と同様のものを用いることができる。ただし、高ケン化度のEVOHを得るためには、強アルカリ性の触媒を用いるのが好適であり、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt−ブトキシドなどのアルカリ金属アルコキシドなどが挙げられる。中でも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドを用いるのが特に好ましい。
【0035】
工程3におけるケン化反応の方式は特に限定されない。反応器に、工程2を終えたEVAcのアルコール溶液を仕込み、攪拌しながらアルカリ触媒を添加してケン化する方法;棚段塔のような塔式反応器に、工程2を終えたEVAcのアルコール溶液を導入し、アルカリ触媒と混合する方法などが挙げられる。効率よくケン化反応を行うためには、溶媒であるアルコールとEVAcが含有する酢酸エステル基とのエステル交換反応によって発生する酢酸エステルを反応系外に追い出しながらケン化することが好ましい。好適には、工程2を終えたEVAcのアルコール溶液を塔式反応器の塔上部に供給し、塔下部から、供給するEVAcのアルコール溶液に用いられているのと同一種類のアルコールを蒸気として供給して、塔頂部からアルコールと発生した酢酸エステルの混合蒸気を排出するとともに、塔内にアルカリ触媒を供給してエチレン−酢酸ビニル共重合体をケン化する方法を採用することができる。アルコール蒸気の吹き込み量は、例えば、EVAc1質量部に対して0.1〜10質量部程度が好適である。
【0036】
一般に、ケン化反応が進行すると生成するEVOHのアルコールへの溶解性が低下するため、工程3は加圧して、かつ加温して反応を行うことが好ましい。好適な圧力範囲は0.1MPa〜1.0MPaであり、好適な反応温度の範囲は60℃〜180℃である。また、EVOHの溶解性やケン化度を制御することを目的として、ケン化反応の効率を損なわない程度に水;グリセリン、エチレングリコール等の脂肪族多価アルコール;ギ酸、酢酸、アセト酢酸等のカルボン酸などを添加しても良い。
【0037】
工程3におけるアルカリ触媒の使用量は、EVAcのエチレン含有率、目的とするケン化度などに応じて調節することができる。一般に、90モル%以上のケン化度を得ようとする場合は、EVAcが含有する酢酸エステル基の量に対して0.1〜100モル%が好適である。上述のように、溶媒にアルコールを使用して発生する酢酸エステルを追い出す工程とした場合には、0.1〜10モル%程度の少ないアルカリ触媒の使用量でも、効率的に高いケン化度のEVOHを製造することが可能となる。
【0038】
本発明の方法により製造されるEVOHのケン化度の範囲は特に限定されないが、EVOHの樹脂性能を引き出す上でも99.0〜100モル%の高ケン化度のEVOHとすることが好適である。用途に応じて、99.0モル%よりもケン化度が低いEVOHを製造することもできる。
【0039】
ケン化して得られたEVOHのアルコール溶液の後処理方法として、例えば、EVOHが析出しない程度の量の水を添加してEVOHのアルコール/水混合溶液を製造し、これを水または前記混合溶液よりもアルコール濃度の低いアルコール/水混合溶液中に押出して、ストランド状に析出させてから切断する方法などが採用される。こうして得られるペレットは多孔質であり、ケン化触媒残渣を水洗除去しやすく、その後の洗浄乾燥工程でも取り扱いやすい。
【0040】
このようにして得られた多孔質ペレットは、洗浄、脱液され、適宜、ホウ素化合物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などの微量成分が添加される。これらの微量成分を添加したEVOHペレットを得る方法としては、(1)EVOHペレットに微量成分の水溶液をスプレーし、ヘンシェルミキサーで混合後乾燥する方法、(2)EVOHペレットに粉末状の微量成分を混合し、スーパーミキサーでドライブレンドする方法、(3)EVOHペレットを、微量成分を含有する水溶液に浸漬し脱液後乾燥する方法、(4)EVOHペレットを含水状態で微量成分とともに溶融混練して押出機から吐出後、乾燥する方法、などを採用することができる。
【0041】
上記のようにして得られたEVOHのメルトインデックス(MI)は、0.1〜200g/10分が好ましい。本明細書では、MIとして、190℃、2160g荷重下での測定値を採用する。ただし、融点が190℃付近または190℃を超えるものは、上記荷重下、融点以上の温度における複数の測定値を、絶対温度の逆数を横軸、MIを縦軸(対数目盛)とする片対数グラフとしてプロットし、190℃に外挿した値を用いることとする。
【0042】
本発明の方法で得られたEVOHに、重合度、エチレン含有量及びケン化度の異なるEVOHをブレンドし溶融成形することも可能である。また、他の各種可塑剤、酸化防止剤、色剤、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、スリップ剤、帯電防止剤、硼酸等の架橋剤、無機充填剤、無機乾燥剤、各種繊維などの補強材などを適量添加することも可能である。
【0043】
本発明で得られたEVOHはフィルム、シート、容器、パイプ、繊維等、各種の成形物に成形することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。以下「%」、「部」とあるのは特に断わりのない限り質量基準である。また、特に断わりのない限り、メタノールは純度99%以上、水分率0.1%以下のものを使用し、水はすべてイオン交換水(伝導度:1.0〜2.0μS/cm)を使用した。なお、水の伝導度は東亜電波工業製CM−30ETで測定した。
【0045】
(1)アルカリ触媒溶液の調製
水酸化ナトリウム(NaOH:純度97%以上)またはナトリウムメトキシド(NaOMe:純度95%以上)を室温でメタノールに溶解させて、各実施例および比較例で用いる所定濃度のメタノール溶液を調製した。
【0046】
(2)アセタール化触媒溶液の調製
硫酸(純度95%以上)、トリフルオロ酢酸(TFA:純度98%以上)またはp−トルエンスルホン酸1水和物(TsOH:純度99%以上)を室温でメタノールに溶解させて、各実施例および比較例で用いる所定濃度のメタノール溶液を調製した。
【0047】
(3)EVAc溶液中の酢酸ビニルの定量
分析するEVAc溶液5mlをヘキサン100ml中に投入して、EVAcを析出させて、ろ別した後、回収した溶液について島津製作所製ガスクロマトグラフGC−14B(カラム:J&W Scientific DB−1710(30m)、注入口温度:150℃、分析温度:100℃(8分保持)→20℃/分で昇温→250℃(5分保持)、キャリアガス:ヘリウム)で酢酸ビニルの含有量を定量した。なお、定量に際しては、濃度の異なる酢酸ビニルのヘキサン溶液を標準液として上記分析条件で予め検量線を作成した。
【0048】
(4)EVOH中のアルデヒド類の定量
乾燥したEVOH0.5gに、1000mg/lの2,4−ジニトロフェニルヒドラジン(DNPH)を含有する1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール/酢酸混合溶液(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール/酢酸=9:1(質量比))を10ml加えて、50℃で1時間攪拌した。当該溶液を50mlのアセトニトリル中に投入して、EVOHを析出させた後、孔径0.45μmのフィルターでろ過した。引き続き、ロータリーエバポレーターで溶液を濃縮した後、アセトニトリルで希釈して全容量を10mlとした。当該溶液を島津製作所製高速液体クロマトグラフ(カラム:資生堂CAPCELL PAK C18 MGタイプ、カラム温度45℃、溶媒:アセトニトリル/水(アセトニトリル/水=70/30(質量比))、流量1ml/分、UV検出器(360nm))を用いて分析し、アセトアルデヒド、クロトンアルデヒド、ソルブアルデヒドをDNPH化物として、その合計含有量(単位:ppm)を定量した。なお、定量に際しては、市販のアルデヒド−DNPH化物で作成した検量線を用いた。
【0049】
(5)EVAcのケン化度の測定
各実施例および比較例における工程2終了後のEVAc溶液をロータリーエバポレーターで濃縮した後、40℃の真空乾燥機で10時間乾燥させて乾燥EVAcを得た。当該EVAc20mgを重クロロホルム0.6mlに溶解した後、下記の測定条件でH−NMRの測定を行い、3.1〜4.1ppmに観測されるビニルアルコール単位のメチン水素(ケン化された部位)の積分値と4.5〜5.2ppmに観測される酢酸ビニル単位のメチン水素(未ケン化部位)の積分値の比からケン化度を求めた。
測定条件 装置名:日本電子製 超伝導核磁気共鳴装置Lambda 500、観測周波数:500MHz、測定温度:25℃、積算回数:1024回
【0050】
(6)EVOHのケン化度の測定
各実施例および比較例で得られた乾燥EVOHのペレットを粉砕し、その粉末20mgを重ジメチルスルホキシド/重トリフルオロ酢酸の混合溶液(質量比:重ジメチルスルホキシド/重トリフルオロ酢酸=95/5)0.6mlに溶解した後、下記の測定条件でH−NMRの測定を行い、3.1〜4.1ppmに観測されるビニルアルコール単位のメチン水素の積分値(ケン化された部位)と1.9〜2.0ppmに観測される酢酸ビニル単位のメチル基水素(未ケン化部位)の積分値の比からケン化度を求めた。
測定条件 装置名:日本電子製 超伝導核磁気共鳴装置Lambda 500、観測周波数:500MHz、測定温度:80℃、積算回数:128回
【0051】
実施例1
〔工程1〕
攪拌翼を供えた容量10lの反応容器に、エチレン含有量35モル%のEVAc含有量が48質量%、未反応の残存酢酸ビニルの濃度が0.014モル/lのメタノール溶液を8.5l仕込み、液温を60℃に調整した。次に、1.3モル/lの水酸化ナトリウムのメタノール溶液を一括添加して、反応容器内の水酸化ナトリウム濃度を0.023モル/lにして、10分間攪拌を続けた。反応後、EVAc溶液中の酢酸ビニル濃度を測定したところ、検出されず0モル/lであった。
〔工程2〕
引き続き、2.0モル/lの硫酸のメタノール溶液を少しずつ添加して、反応容器内の硫酸濃度を工程1で添加した水酸化ナトリウムの1.5モル当量に調整した。液温を60℃に保持したまま、30分間攪拌した。反応後のEVAcのケン化度は、2.4モル%であった。
〔工程3〕
続いて、攪拌翼、ガス吹込み口および冷却コンデンサを備えた容量15lの反応器に、前記工程2を終了したEVAc溶液を仕込んでメタノールを加えて混合し、EVAc含有量を20%とした。なお、冷却コンデンサで凝結した液体は、反応系外に除去・回収できるような装置とした。反応器内に窒素を5l/分で吹き込みながら、液温を60℃とした。そこへ、2モル/lのナトリウムメトキシドを含むメタノール溶液をEVAcの残存酢酸エステル基に対して、0.4モル当量(エチレン含有量および工程2の後のケン化度より算出)添加した。ケン化反応中は、反応効率を上げるために、反応系内に副生成物として発生する酢酸メチルを、反応系内のメタノールと一緒に反応系外に追い出すために、反応器内に窒素を吹き込み続けた。これを冷却コンデンサを用いて凝縮させて回収した。反応開始から6時間後、ナトリウムメトキシドと当モル量の酢酸を添加して中和し、ケン化反応を停止させた。
【0052】
〔EVOHペレットの製造〕
上記で得られた中和後の反応液100質量部あたり水50質量部を加えて、溶液中のEVOHをケーキ状に固化させた。その後、遠心分離機を用いて、前記ケーキ状のEVOHからの脱液操作を行なった。次に、遠心分離機の上方より水を60l/分で供給しながら10分間脱液し、前記EVOHを水洗した。
このようにして得られた塊状のEVOHを、真空乾燥機を用いて60℃で10時間乾燥した。続いて、水/メタノールの混合溶媒(水/メタノール=35/65(質量比))に80℃で5時間、撹拌しながら溶解させて35質量%のEVOH溶液を得た。次に、撹拌を止めて温度を65℃に下げて5時間放置し、前記EVOH溶液を脱泡した。このEVOH溶液を、直径3.5mmの円形の開口部を有する金板から、5℃の水/メタノール=9/1(質量比)の混合液中に押出してストランド状に析出させ、切断することで円柱状のペレットを得た。得られたEVOHペレットの水分率は70質量%(湿質量基準)であった。
このようにして得られた含水状態のEVOHペレット1.5kgに20lの水を加え、25℃で2時間撹拌しながら洗浄しては脱液する操作を2回繰り返した。次に、1.0g/lの酢酸水溶液で、25℃で2時間撹拌しながら洗浄しては脱液する操作を2回繰り返し、さらに、20Lの水で、25℃で2時間撹拌しながら洗浄しては脱液する操作を6回繰り返した。次に、5.4mmol/lの酢酸ナトリウムおよび12mmol/lの酢酸を含有する水溶液15lに上記EVOHペレットを投入し、25℃で5時間、浸漬及び撹拌を行った。処理後のEVOHペレットを脱液した後、80℃にて3時間、引き続き120℃にて30時間、窒素雰囲気下の乾燥機で乾燥し、乾燥したEVOHペレットを得た。得られたEVOHペレットのケン化度は99.5モル%であり、MIは2.0g/10分(190℃、2160g荷重下)であった。また、アルデヒド類の含有量は15ppmであった。
【0053】
〔単層製膜後の着色性評価〕
得られたEVOHペレットを(株)東洋精機製作所製20mm押出機D2020(D(mm)=20、L/D=20、圧縮比=2.0、スクリュー:フルフライト)を用いて単層製膜を以下の条件で行い、単層フィルムを得た。
押出温度:C1/C2/C3/Die=180/200/220/220℃
スクリュー回転数:80rpm
吐出量 :2.5kg/hr
引取りロール温度:80℃
引取りロール速度:6.1m/min.
フィルム厚み :20μm
上記方法で作製された単層フィルムを紙管に巻き取り、フィルム端面の着色度を肉眼で以下のように判定したところ、A判定であった。
判定基準 A:着色なし
B:やや黄変
C:黄変
【0054】
実施例2
実施例1において、工程2で添加したアセタール化触媒を2.0モル/lのトリフルオロ酢酸のメタノール溶液とし、添加量を工程1で添加した水酸化ナトリウムの1.5モル当量とした以外は、実施例1と同様にしてEVOHペレットを得た。なお、工程1を終了したときのEVAc溶液中に酢酸ビニルは検出されず(0モル/l)、工程2を終了したときのEVAcのケン化度は2.3モル%であった。得られたEVOHペレットのケン化度は99.5モル%であり、MIは1.9g/10分(190℃、2160g荷重下)であった。また、アルデヒド類の含有量は12ppmであり、単層製膜後の耐着色性評価の判定結果はA判定であった。
【0055】
実施例3
〔工程1〕
攪拌翼を供えた容量10lの反応容器に、エチレン含有量35モル%のEVAc含有量が48質量%、未反応の残存酢酸ビニルの濃度が0.014モル/lのメタノール溶液を8.5l仕込み、液温を60℃に調整した。次に、1.3モル/lの水酸化ナトリウムのメタノール溶液を一括添加して、反応容器内の水酸化ナトリウム濃度を0.023モル/lにして、10分間攪拌を続けた。反応を終了したときのEVAc溶液中に酢酸ビニルは検出されなかった(0モル/l)。
〔工程2〕
引き続いて、予め酸性型に活性化した酸性陽イオン交換樹脂(IER;Dowex MONOSPHERE M31(商品名、ダウケミカル社製))100g(乾燥重量基準)を1lのメタノールに膨潤させた後、工程1で得られたEVAc溶液に添加して、30分間攪拌した。反応後のEVAc溶液を孔径100μmのスクリーンメッシュでろ過し、酸性陽イオン交換樹脂を除去した。反応後のEVAcのケン化度は、2.0モル%であった。
工程3以降の操作は、実施例1と同様にしてEVOHペレットを得た。EVOHペレットのケン化度は99.6モル%であり、MIは2.1g/10分(190℃、2160g荷重下)であった。また、アルデヒド類の含有量は10ppmであり、単層製膜後の耐着色性評価の判定結果はA判定であった。
【0056】
実施例4
実施例1の工程1において、反応容器内の水酸化ナトリウム濃度を0.019モル/lとして、反応時間を2分とした以外は、実施例1と同様にしてEVOHペレットを得た。なお、工程1を終了したときのEVAc溶液中に酢酸ビニルは検出されず(0モル/l)、工程2を終了したときのEVAcのケン化度は1.2モル%であった。得られたEVOHペレットのケン化度は99.6モル%であり、MIは2.1g/10分(190℃、2160g荷重下)であった。また、アルデヒド類の含有量は10ppmであり、単層製膜後の耐着色性評価の判定結果はA判定であった。
【0057】
実施例5
〔工程1〕
攪拌翼を供えた容量10lの反応容器に、エチレン含有量35モル%のEVAc含有量が50質量%、未反応の残存酢酸ビニルの濃度が0.002モル/lのメタノール溶液を8.2l仕込み、液温を60℃に調整した。次に、1.3モル/lの水酸化ナトリウムのメタノール溶液を一括添加して、反応容器内の水酸化ナトリウム濃度を0.008モル/lにして、2分間攪拌を続けた。反応を終了したときのEVAc溶液中に酢酸ビニルは検出されなかった(0モル/l)。
〔工程2〕
引き続き、2.0モル/lの硫酸のメタノール溶液を少しずつ添加して、反応容器内の硫酸濃度を工程1で添加した水酸化ナトリウムの1.5モル当量に調整した。液温を60℃に保持したまま、30分間攪拌した。反応後のEVAcのケン化度は、0.4モル%であった。
工程3以降の操作は、実施例1と同様にしてEVOHペレットを得た。EVOHペレットのケン化度は99.5モル%であり、MIは2.1g/10分(190℃、2160g荷重下)であった。また、アルデヒド類の含有量は5ppmであり、単層製膜後の耐着色性評価の判定結果はA判定であった。
【0058】
実施例6
〔工程1〕
スタティックミキサーを内蔵した管式反応器2機を配管で接続し、エチレン含有量29モル%のEVAc含有量が47質量%、未反応の残存酢酸ビニルの濃度が0.002モル/lのメタノール溶液(液温60℃)を1.0kg/時の速度で第一の管式反応器に供給した。同時に、第一の管式反応器に2.0モル/lのナトリウムメトキシドのメタノール溶液を供給することで、反応器内のナトリウムメトキシドの濃度を0.008モル/lにした。なお、ナトリウムメトキシドとEVAcが混合されてから、工程2に至るまでの反応時間は0.5分であった。
〔工程2〕
引き続き、第二の管式反応器内で2.0モル/lのp−トルエンスルホン酸のメタノール溶液と混合して、p−トルエンスルホン酸濃度がナトリウムメトキシドの1.5モル当量となるように調整した。このようにして、混合された液を10lの容器に導出し、液温60℃で30分間攪拌した。反応後のEVAcのケン化度は、0.4モル%であった。反応を終了したときのEVAc溶液中の酢酸ビニルは検出されなかった(0モル/l)。
〔工程3〕
続いて、上記のEVAc溶液を棚段塔(ケン化塔、総段数10)の9段目の棚板に0.9kg/時の速度で導入し、さらに、2モル/lの水酸化ナトリウムのメタノール溶液を8段目より供給して、当該EVAcの残存酢酸エステル基に対して0.05当量(エチレン含有量および工程2の後のケン化度より算出)とした。一方、2段目より4.0kg/時の速度でメタノールの蒸気を供給して、搭頂部からケン化反応により生成した酢酸メチルを含むメタノール蒸気を追い出した。塔内温度は112℃、塔圧は0.51MPaであった。塔底より得られたEVOH溶液(EVOH濃度:36%)に供給した水酸化ナトリウムと等モル量の酢酸を逐次添加することで中和した。
以降の工程は、実施例1と同様にしてEVOHペレットを得た。EVOHペレットのケン化度は99.8モル%であり、MIは2.0g/10分(190℃、2160g荷重下)であった。また、アルデヒド類の含有量は0.7ppmであり、単層製膜後の耐着色性評価の判定結果はA判定であった。
【0059】
比較例1
実施例1において工程2を省略した以外は、実施例1と同様にしてEVOHペレットを得た。なお、工程1を終了したときのEVAcのケン化度は2.1モル%であり、EVAc溶液中に酢酸ビニルは検出されなかった(0モル/l)。EVOHペレットのケン化度は99.6モル%であり、MIは2.0g/10分(190℃、2160g荷重下)であった。また、アルデヒド類の含有量は52ppmであり、単層製膜後の耐着色性評価の判定結果はB判定であった。
【0060】
比較例2
実施例1において、工程1における水酸化ナトリウム濃度を0.1モル/lとした以外は、実施例1と同様にしてEVOHペレットを得た。なお、工程2を終了したときのEVAcのケン化度は10.2mol%であり、EVAc溶液中に酢酸ビニルは検出されなかった(0モル/l)。EVOHペレットのケン化度は99.6モル%であり、MIは2.1g/10分(190℃、2160g荷重下)であった。また、アルデヒド類の含有量は65ppmであり、単層製膜後の耐着色性評価の判定結果はC判定であった。
【0061】
比較例3
実施例5において工程2を省略した以外は、実施例5と同様にしてEVOHペレットを得た。なお、工程1を終了したときのEVAcのケン化度は0.5モル%であり、EVAc溶液中に酢酸ビニルは検出されなかった(0モル/l)。EVOHペレットのケン化度は99.9モル%であり、MIは2.0g/10分(190℃、2160g荷重下)であった。また、アルデヒド類の含有量は40ppmであり、単層製膜後の耐着色性評価の判定結果はB判定であった。
【0062】
比較例4
実施例6において工程1および工程2を省略した以外は、実施例6と同様にしてEVOHペレットを得た。EVOHペレットのケン化度は99.9モル%であり、MIは2.0g/10分(190℃、2160g荷重下)であった。また、アルデヒド類の含有量は42ppmであり、単層製膜後の耐着色性評価の判定結果はB判定であった。
【0063】
実施例1〜6および比較例1〜4の条件および評価結果を表1にまとめて示した。実施例において、着色が抑制されたEVOHが得られることがわかる。
【0064】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(工程1)エチレン−酢酸ビニル共重合体のアルコール溶液に、該溶液に対して0.0001〜0.03モル/lの範囲でアルカリ触媒を加えて混合した後;
(工程2)前記エチレン−酢酸ビニル共重合体のアルコール溶液をアセタール化触媒に接触させ;
(工程3)前記工程2でアセタール化触媒に接触を終えた後のエチレン−酢酸ビニル共重合体のアルコール溶液を、アルカリ触媒を用いてケン化すること;
を特徴とするエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物の製造方法。
【請求項2】
前記工程1で用いるエチレン−酢酸ビニル共重合体のアルコール溶液中の酢酸ビニルの含有量が0.015モル/l以下である請求項1に記載のエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物の製造方法。
【請求項3】
前記アルコールがメタノールである請求項1または2に記載のエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物の製造方法。
【請求項4】
前記アセタール化触媒が、無機酸、有機スルホン酸、カルボン酸、ルイス酸または酸性陽イオン交換樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれかに記載のエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物の製造方法。
【請求項5】
工程2に付した後のエチレン−酢酸ビニル共重合体のケン化度が5モル%以下である請求項1〜4のいずれかに記載のエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物の製造方法。
【請求項6】
前記工程3において、前記工程2でアセタール化触媒に接触を終えた後のエチレン−酢酸ビニル共重合体のアルコール溶液を塔式反応器の塔上部に供給し、塔下部からアルコール溶媒を蒸気として供給して、塔頂部からアルコール溶媒および酢酸エステルを蒸気として排出するとともに、塔内にアルカリ触媒を供給してエチレン−酢酸ビニル共重合体をケン化することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物の製造方法。

【公開番号】特開2010−77352(P2010−77352A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−250362(P2008−250362)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】