説明

エチレンオキシド製造用触媒およびその触媒を用いたエチレンオキシドの製造方法

【課題】担体に触媒成分として銀および少なくともレニウムを含むエチレンオキシド製造用触媒およびエチレンオキシドの製造方法において、高選択率でエチレンオキシドを製造しうる触媒およびこの触媒を用いたエチレンオキシドの製造方法を提供する。
【解決手段】担体に、触媒成分を担持させてなる、エチレンオキシド製造用触媒において、前記担体として、α−アルミナを主成分とし、NH3−TPD法によってもとめた酸量が0.01から0.09mmol/gの範囲に存在する担体を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、担体に触媒成分として銀および少なくともレニウムを含むエチレンオキシド製造用触媒(以下、単に「銀触媒」と称する場合もある)およびエチレンオキシドの製造方法に関する。詳細には、本発明は、エチレンオキシド選択性に優れ、高い選択率でエチレンオキシドを製造しうる触媒およびこの触媒を用いたエチレンオキシドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレンを銀触媒の存在下で分子状酸素含有ガスにより接触気相酸化してエチレンオキシドを製造することは工業的に広く行われている。この接触気相酸化に用いる銀触媒については、その担体、担持方法、反応促進剤などに関し、多くの技術が提案されている。
【0003】
触媒を構成する担体に関してその化学的な性質を開示した特許文献としては、例えば、特許文献1にはアルミナ、シリカ、及びチタニアの合計含有量が99質量%以上であり、周期律表のVa、VIa、VIIa、VIII、Ib及びIIbの各族の金属の含有量が金属酸化物合計量として0.1質量%未満であり、かつpKaが+4.8のメチルレッドにより酸性色を呈しない非酸性担体が開示され、この担体に銀及び必要に応じてさらにアルカリ金属成分又はアルカリ土類成分を担持してなる銀触媒が開示されている。
【0004】
一方、特許文献2には、主としてα−アルミナよりなり、特定の表面積、吸水率、平均細孔径、シリカ含量、およびナトリウム含量を持ち、pKa+4.8の指示薬によって検知しうる酸性を示す担体が開示されている。特許文献3にはアルミニウム、ケイ素およびチタンを含み、その合計量が酸化物(Al23+SiO2+TiO2)換算で少なくとも99重量%であり、かつpKa+4.8指示薬のメチルレッドにより酸性色を呈するセラミックス体の成形体に触媒成分として銀とセシウムを担持した酸化エチレン製造用触媒が開示されている。
【0005】
特許文献4には、炭素数3以上の不飽和炭化水素を部分酸化して対応のエポキシドを製造する際に好適な触媒として、支持体として酸化ケイ素等にチタン、または、ジルコニウムの少なくとも一方を含有する酸化物を含んでなる担体を用い、これに金微粒子が固定されてなり、NH −TPD法にてもとめた触媒の有する酸量が0.1mmol/g以下であるエポキシド製造用金触媒が開示されている。
【0006】
銀触媒の触媒活性、選択性および触媒寿命はすでに高いレベルに達しているが、エチレンオキシドの生産規模は大きいことから、選択率が僅か1%向上するだけでも、原料エチレンの使用量が著しく節約され、その経済的効果は大きいことから、より優れた触媒性能を有する銀触媒の開発が当該技術分野の研究者の継続的なテーマとなっている。
【0007】
しかしながら、上述の通り、不飽和炭化水素の部分酸化に用いられる触媒は対象となる不飽和炭化水素の種類によって活性種となる金属やその他の触媒組成がまったく異なっているため、例えば、炭素数3の不飽和炭化水素のエポキシ化触媒である金触媒の技術をエチレンのエポキシ化用の銀触媒に応用することは容易ではなかった。また、エチレンの部分酸化に用いられる銀触媒においても、さまざまな酸性を有する担体が提案されているとおり、どのような担体が銀触媒用の担体として有用であるかについては検討の余地があった。
【0008】
【特許文献1】特開昭55−145677号公報
【特許文献2】特開昭63−116743号公報
【特許文献3】特開2001−213665号公報
【特許文献4】特開2001−232194号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は、高選択率でエチレンオキシドを製造しうる触媒およびこの触媒を用いたエチレンオキシドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上述した課題を解決すべく鋭意研究を行った。その結果、触媒を構成する担体として、α−アルミナを主成分とし、比表面積が2m/g未満であり、かつNH−TPD法によってもとめた酸量が0.01から0.09mmol/gの範囲に存在する担体を用いることで、エチレンオキシドを高選択率で製造可能なエチレンオキシド製造用触媒が提供されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、α−アルミナを主成分とし、比表面積が2m/g未満であり、かつNH−TPD法によってもとめた酸量が0.01から0.09mmol/gの範囲に存在する担体に、触媒成分を担持させてなる、エチレンオキシド製造用触媒およびこの触媒を用いたエチレンオキシドの製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、優れた触媒性能を有し、長期に亘って(優れた触媒寿命で)高選択率でエチレンオキシドを製造しうる触媒およびこの触媒を用いたエチレンオキシドの製造方法が提供されうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0014】
本発明は、α−アルミナを主成分とし、比表面積が2m/g未満であり、かつNH−TPD法によってもとめた酸量が0.01から0.09mmol/gの範囲に存在する担体に、触媒成分を担持させてなるエチレンオキシド製造用触媒およびこの触媒を用いたエチレンオキシドの製造方法である。はじめに、本発明における担体の有する「酸量」の定義及び測定方法について説明を行う。
【0015】
酸量の測定は、BEL−CAT(日本ベル社製の商品名)を測定装置として使用し、次の要領で行った。はじめに、酸量測定の対象物(以下、被測定体と称する)約0.5gを正確にはかり採り、被測定体を該測定装置内に導入した。続いて、この測定装置内に流量50ml/分でヘリウムガスを流通させながら300℃で60分間保持し、被測定体に吸着している水を取り除いた。その後、測定装置内の温度を100℃まで下げ、100℃、0.1Mpa(1atm)の条件下で、アンモニア/ヘリウム=10%/90%の混合ガスを50ml/分で30分間流通させ、アンモニアを被測定体に吸着させた。続いて、流量50ml/分でヘリウムガスを流通させながら測定装置内の温度を10℃/分の昇温速度で100℃から600℃まで昇温し、その間に脱離するアンモニアをTCD(熱伝導度検出器)にて定量した。測定の際、TCDの感度はHiに設定した。本発明における「酸量」とは、昇温中100℃から300℃の温度範囲内に脱離ピークを有する脱離アンモニアのモル数(mmol)を被測定体の重量(g)で除した値をさすものとする。なお、上記説明のアンモニア脱離量の測定方法を、以下、NH3 −TPD法と称する場合もある。
【0016】
上記α−アルミナを主成分とする担体の酸量が0.01から0.09mmol/gの場合には、エチレンの部分酸化反応に対する触媒活性が高く、エチレンオキシドを高収率かつ高選択率で製造することが可能である。加えて良好な触媒活性が従来担体と比較して長期間維持される。
【0017】
一方、上記α−アルミナを主成分とする担体の酸量が0.01mmol/g未満の場合は、触媒調製の再現性が著しく低下し、0.09mmol/gを超える場合には、触媒活性が低くなるだけでなく、エチレンオキシドの選択率が著しく低下する。
【0018】
なお、銀触媒の活性発現やエポキシド選択性の度合いは、上記説明のように、その酸点の性質の中でも酸量に特に大きく影響されるが、酸点の性質の他の尺度である「酸点の強度」にも影響される。具体的には、上記NH3 −TPD法において、脱離してくるアンモニアの脱離ピーク温度が300℃以下であることがより好ましい。このピーク温度が300℃を超えると酸点の強度が強くなり過ぎるため生成したエポキシドの異性化や燃焼が起こりやすくなる。
【0019】
担体の組成については、α−アルミナを主成分とすること以外は特に制限されない。ここで、担体が「α−アルミナを主成分とする」とは、担体におけるα−アルミナの含有量が、担体の全質量100質量%に対して90質量%以上であることを意味する。担体におけるα−アルミナの含有量は、好ましくは95質量%以上であり、より好ましくは98質量%以上である。α−アルミナを主成分とするものであればその他の組成は特に制限されないが、担体は、例えばアルカリ金属またはアルカリ土類金属の酸化物や遷移金属の酸化物を含有しうる。アルカリ金属またはアルカリ土類金属の酸化物の含有量は、酸化物換算で好ましくは0〜5質量%であり、より好ましくは0.01〜4質量%である。また、遷移金属の酸化物の含有量は、酸化物換算で好ましくは0〜5質量%であり、より好ましくは0.01〜3質量%である。
【0020】
担体はまた、シリカ(二酸化ケイ素)を通常含有する。担体におけるシリカの含有量についても特に制限はないが、好ましくは0.01〜10.0質量%であり、より好ましくは0.1〜5.0質量%であり、さらに好ましくは0.2〜3.0質量%である。
【0021】
なお、上述した担体の組成や各成分の含有量は、蛍光X線分析法を用いて決定されうる。
【0022】
担体の形状は特に制限されず、リング状、球状、円柱状、ペレット状のほか、従来公知の知見が適宜参照されうる。また、担体のサイズ(平均相当直径)についても特に制限はなく、好ましくは3〜20mmであり、より好ましくは5〜10mmである。
【0023】
担体原料であるα−アルミナ粉体の一次粒子径は、好ましくは0.01〜100μmであり、より好ましくは0.1〜20μmであり、さらに好ましくは0.5〜10μmであり、特に好ましくは1〜5μmである。また、α−アルミナ粉体の二次粒子径は、好ましくは0.1〜1,000μmであり、より好ましくは1〜500μmであり、さらに好ましくは10〜200μmであり、特に好ましくは30〜100μmである。
【0024】
担体の比表面積は、本発明の効果を得るために重要な因子であり、0.1〜5.0m/gであることが好ましい。α−アルミナの表面やα−アルミナと非晶質のアルミナおよび/またはシリカとの界面などに微弱な酸点が存在していると考えられ、比表面積と酸量のバランスは重要である。比表面積が0.1m/gより小さいと選択性が低下し、5.0m/gより大きいと極端な選択率の低下が起こる。さらに、担体の比表面積が0.1m/g以上であれば、必要な量の触媒成分の担持も可能となり、担体の比表面積が大きいほど触媒成分の高分散担持が容易になる。また、触媒反応の活性部位である触媒成分表面の面積が大きくなるので、好ましい。一方、担体の比表面積が5.0m/g以下であれば、担体の細孔径がある程度大きい値に維持され、製造された触媒を用いたエチレンオキシド製造時のエチレンオキシドの逐次酸化が抑制されうる。担体の比表面積は、より好ましくは0.5〜5.0m/gであり、さらに好ましくは0.8〜2.0m/gである。なお、担体の比表面積の値としては、後述する実施例に記載の手法により得られる値を採用するものとする。
【0025】
担体の細孔容積は特に制限されないが、好ましくは0.2〜0.6cm/gであり、より好ましくは0.3〜0.5cm/gであり、さらに好ましくは0.35〜0.45cm/gである。担体の細孔容積が0.2cm/g以上であれば、触媒成分の担持が容易となるという点で好ましい。一方、担体の細孔容積が0.6cm/g以下であれば、担体の強度が実用的な程度に確保されうるという点で好ましい。なお、担体の細孔容積の値としては、後述する実施例に記載の手法により得られる値を採用するものとする。
【0026】
上述した担体の細孔容積のうち、所定の細孔直径を有する細孔の容積の割合が所定の範囲内の値であると、より触媒性能に優れるエチレンオキシド製造用触媒が提供されうる。具体的には、0.1〜1.0μmの範囲の細孔直径を有する細孔が、全細孔容積の合計の、好ましくは5〜50容積%であり、より好ましくは10〜45容積%であり、さらに好ましくは15〜35容積%、特に好ましくは15〜30容積%である。
【0027】
担体の平均細孔直径は、0.1〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.2〜4.0μmであり、さらに好ましくは0.3〜3.0μmであり、特に好ましくは0.4〜1.5μmである。平均細孔直径が0.1μm以上であれば、エチレンオキシド製造時の生成ガスの滞留に伴うエチレンオキシドの逐次酸化が抑制されうる。一方、平均細孔直径が10μm以下であれば、担体の強度が実用的な程度に確保されうる。なお、平均細孔直径の値としては、後述する実施例に記載の手法により得られる値を採用するものとする。
【0028】
担体の吸水率についても特に制限はないが、好ましくは10〜70%であり、より好ましくは20〜60%であり、さらに好ましくは30〜50%である。担体の吸水率が10%以上であれば、触媒成分の担持が容易となる。一方、担体の吸水率が70%以下であれば、担体の強度が実用的な程度に確保されうる。なお、担体の吸水率の値としては、後述する実施例に記載の手法により得られる値を採用するものとする。
【0029】
本発明の担体の調製方法は特に制限はなく、α−アルミナ粉体を主骨剤とし、これにアルミニウム化合物、ケイ素化合物および有機結合剤を加え、必要によりアルカリ金属化合物を添加した後、所定の形状および寸法に成形し、1200〜2000℃の温度で焼成すればよい。具体的には、例えば、α−アルミナにアルミニウム化合物、ケイ素化合物および有機結合剤を添加し、さらに必要に応じて水を加えてニーダなどの混練機を用いて十分に混合した後、押出成形等により、造粒し、乾燥し、1200〜2000℃、好ましくは1400〜1800℃、より好ましくは1450〜1700℃の温度で焼成する。上記押出成形は湿式でも乾式でもよいが、通常、湿式の押出成形を行う。また、上記乾燥は、通常、80〜900℃、好ましくは120〜850℃の範囲で行うが、省略してもよい。
【0030】
本発明の特徴である酸量の発現には、α−アルミナ担体の外表面およびその気孔の内表面上に形成された非晶質アルミナの被覆層が関与していると考えられている。α−アルミナ粉体、アルミニウム化合物および/またはケイ素化合物、および有機結合剤の混合順序には特に制限はなく、例えば(a)これら化合物を同時に混合した後、成形、乾燥、焼成する方法、(b)α−アルミナと有機結合剤とを混合し、乾燥した後、アルミニウム化合物および/またはケイ素化合物を混合して、成形、乾燥、焼成する方法、(c)α−アルミナ、アルミニウム化合物および有機結合剤を同時に混合し、乾燥した後、ケイ素化合物を混合して、成形、乾燥、焼成する方法、(d)α−アルミナ、ケイ素化合物および有機結合剤を同時に混合し、乾燥した後、アルミニウム化合物を混合して、成形、乾燥、焼成する方法などを適宜用いることができる。得られた焼成物をアルミニウム化合物および/またはケイ素化合物で修飾する場合、得られた焼成物にアルミニウム化合物および/またはケイ素化合物を含浸し、80〜500℃の温度で乾燥し、必要に応じて300〜900℃、好ましくは400〜800℃、さらに好ましくは500〜700℃の温度で焼成する。上記含浸は公知の方法で実施でき、必要に応じて減圧、加熱、スプレー吹付けなどを併せ行う。
【0031】
なお、有機結合剤とともに、桃、杏、クルミなどの殻、種子などを均一粒径に揃えたもの、あるいは粒子径が均一で焼成により消失する物質などを気孔形成剤として一緒に用いてもよい。
【0032】
上記アルミニウム化合物としては、焼成することによりアルミナの非晶質層を形成し得るものであればいずれも使用することができる。その代表例としては、アルミニウム水和物、アルミニウム酸化物(γ−またはθ−アルミナ)などを挙げることができる。これらは単独でも、あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、合成品でも、あるいは天然物であってもよい。アルミニウム化合物の形態についても特に制限はなく、粉体、ゾル、水溶液などの任意の形態で添加することができる。アルミニウム化合物粉体の場合、1〜300nm、好ましくは1〜20nmの範囲の粒径を有するものが好適に用いられる。これらはアルミニウム化合物のなかでも、1〜300nm、好ましくは1〜20nmの粒径を有するコロイド状のアルミナが好適に用いられる。このコロイド状のアルミナはアルミナゾルとして用いるのが分散の容易さから好ましい。このアルミナゾルはアルミニウム塩を加水分解する方法、アルミニウム塩水溶液をアルカリで中和して一旦ゲルとした後、解膠する方法などによって得ることができる。
【0033】
上記ケイ素化合物としては、シリカ、長石、粘土、窒化ケイ素、炭化ケイ素、シラン、ケイ酸塩などを挙げることができる。そのほか、シリカ−アルミナ、アルミノケイ酸塩なども用いることができる。これらは単独でも、あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、合成品でも、天然物でもよい。ケイ素化合物の形態についても特に制限はなく、粉体、ゾル、溶液などのいずれの形態で添加してもよい。これらケイ素化合物粉体の場合、1〜300nm、好ましくは1〜20nmの粒径を有するケイ素化合物が好適に用いられる。これらケイ素化合物のなかでも、1〜300nm、好ましくは1〜20nmの粒径を有するコロイド状のシリカが好適に用いられる。このコロイド状のシリカは水溶液として用いるのが分散の容易さから好ましい。コロイド状のシリカは、ケイ酸ナトリウム水溶液を酸で中和して一旦ゲルとした後、解膠する方法、ケイ酸ナトリウム水溶液をイオン交換により脱ナトリウム化する方法によって得ることができる。
【0034】
上記アルカリ金属化合物のアルカリ金属種としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムのいずれでもよく、これらは単独でも組み合わせて使用してもよい。代表例としては、アルカリ金属の塩、酸化物、水酸化物などを挙げることができる。なお、塩の場合、アニオン種が存在するため、焼成時に望ましくない融剤効果を示すことによって物性の制御が困難になり、または焼成後も不純物として残存して担体、ひいては触媒の性能に悪影響を及ぼす場合もあるので、塩のなかでも、比較的低温で酸化物の形態をとり得る有機酸塩などが好適に用いられる。なかでも、アルカリ金属の酸化物および水酸化物が好適に用いられる。その代表例としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、酸化リチウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化ルビジウムなどを挙げることができる。
【0035】
上記有機結合剤としては、酸化エチレン製造用触媒の担体の調製に一般に用いられている有機結合剤を用いることができる。その代表例としては、アラビアゴム、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチなどを挙げることができる。これらのうち、メチルセルロースおよびコーンスターチが焼成操作後の灰分が少ないので好適に用いられる。
【0036】
本発明の触媒は、上述した担体に触媒成分が担持されてなる構成を有する。触媒成分の具体的な形態については特に制限されず、従来公知の知見が適宜参照されうるが、触媒成分として銀を必須に含有することが好ましい。また、銀のほかに、一般に反応促進剤として用いられる触媒成分が担体に担持されてもよい。反応促進剤の代表例としては、アルカリ金属、具体的にはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムが挙げられる。アルカリ金属のほかには、タリウム、硫黄、クロム、モリブデン、タングステン、レニウムなどもまた、反応促進剤として用いられうる。これらの反応促進剤は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。これらのうち、反応促進剤としてはセシウム(Cs)、レニウム(Re)が好適に用いられる。
【0037】
銀や反応促進剤の担持量については特に制限はなく、エチレンオキシドの製造に有効な量で担持すればよい。例えば、銀の場合、その担持量はエチレンオキシド製造用触媒の質量基準で1〜30質量%であり、好ましくは5〜20質量%である。また、反応促進剤の担持量は、エチレンオキシド製造用触媒の質量基準で、通常10〜5000質量ppmであり、好ましくは50〜4000質量ppmであり、より好ましくは100〜3000質量ppmである。
【0038】
特に、反応促進剤の最適な担持量は、担体物性の違いや反応促進剤の組み合わせなどにより異なる。このため、予め反応促進剤の担持量の異なる触媒を調製し、当該触媒について性能を評価した後、最高性能を示す反応促進剤の担持量を決定し、このような最高性能を示す量の反応促進剤量を担持して触媒を調製することが好ましい。なお、下記実施例及び比較例では、このように予め最高性能を示す反応促進剤の担持量を決定した後、触媒を調製した。
【0039】
本発明のエチレンオキシド製造用触媒は、上述した担体を使用する点を除けば、従来公知のエチレンオキシド製造用触媒の製造方法に従って調製されうる。
【0040】
以下、上述した担体を用いて本発明のエチレンオキシド製造用触媒を製造する手法の一例を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、下記の手法のみに限定されるわけではない。
【0041】
まず、担体を準備する。担体の調製方法については上述した通りであるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0042】
一方、担体に銀を担持させるための溶液を調製する。具体的には、銀化合物を単独で、または銀錯体を形成するための錯化剤もしくは必要に応じて反応促進剤を、水などの溶媒に添加する。
【0043】
ここで、銀化合物としては、例えば、硝酸銀、炭酸銀、シュウ酸銀、酢酸銀、プロピオン酸銀、乳酸銀、クエン酸銀、ネオデカン酸銀などが挙げられる。また、錯化剤としては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミンなどが挙げられる。これらの銀化合物や錯化剤は、それぞれ、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0044】
次いで、上記で得られた溶液を、同じく上記で準備した担体に含浸させる。この際、反応促進剤は、担体に溶液を含浸させる前段階において溶液に溶解させて同時に含浸させてもよいし、銀を担持した後に担持してもよい。
【0045】
続いて、これを乾燥し、焼成する。乾燥は、空気、酸素、または不活性ガス(例えば、窒素)の雰囲気中で、80〜120℃の温度で行うことが好ましい。また、焼成は、空気、酸素、または不活性ガス(例えば、窒素)の雰囲気中で、150〜700℃の温度で、好ましくは200〜600℃の温度で行うことが好ましい。なお、焼成は、1段階のみ行われてもよいし、2段階以上行われてもよい。好ましい焼成条件としては、1段階目の焼成を空気雰囲気中で150〜250℃にて0.1〜10時間行い、2段階目の焼成を空気雰囲気中で250〜450℃にて0.1〜10時間行う条件が挙げられる。さらに好ましくは、かような2段階焼成後にさらに、不活性ガス(例えば、窒素、ヘリウム、アルゴンなど)雰囲気中で450〜700℃にて0.1〜10時間、3段階目の焼成を行うとよい。
【0046】
本発明の第2は、本発明の第1のエチレンオキシド製造用触媒の存在下で、エチレンを分子状酸素含有ガスにより気相酸化する段階を有する、エチレンオキシドの製造方法である。
本発明の第2のエチレンオキシドの製造方法は、触媒として本発明の第1のエチレンオキシド製造用触媒を使用する点を除けば、常法に従って行われうる。
例えば、工業的製造規模における一般的な条件、すなわち反応温度150〜350℃、好ましくは180〜320℃、反応圧力0.1〜4.0MPa、好ましくは1.0〜3.0MPa、空間速度1,000〜30,000hr−1(STP)、好ましくは3,000〜8,000hr−1(STP)が採用される。触媒に接触させる原料ガスとしては、エチレン0.5〜40容量%、酸素3〜10容量%、炭酸ガス1〜20容量%、残部の窒素、アルゴン、水蒸気等の不活性ガスおよびメタン、エタン等の低級炭化水素類からなり、さらに反応抑制剤としての二塩化エチレン、塩化ジフェニル等のハロゲン化物を0.1〜10容量ppm含有するものが挙げられる。本発明の製造方法において使用される分子状酸素含有ガスとしては、空気、酸素および富化空気が挙げられる。
【実施例】
【0047】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、本実施例において、各種パラメータの測定は以下の手法により行われた。
<担体の細孔分布/細孔容積/平均細孔直径の測定>
水銀圧入法により測定した。具体的には、200℃にて少なくとも30分間脱気した担体をサンプルとし、測定装置としてオートポアIII9420W(株式会社島津製作所製)を用い、1.0〜60,000psiaの圧力範囲及び60個の測定ポイントで細孔分布、細孔容積、および平均細孔直径を得た。
<担体中のシリカ含有量の測定>
後述する蛍光X線分析法により測定した。
<担体の比表面積の測定>
担体を粉砕した後、0.85〜1.2mmの粒径に分級したもの約0.2gを正確に秤量した。秤量したサンプルを200℃にて少なくとも30分間脱気し、BET(Brunauer−Emmet−Teller)法により測定した。
<担体の吸水率の測定>
日本工業規格(JIS R 2205(1998年度))に記載の方法に準拠して、以下の手法により測定した。
a)破砕前の担体を、120℃に保温した乾燥機中に入れ、恒量に達した際の質量を秤量した(乾燥質量:W1(g))。
b)上記a)で秤量した担体を水中に沈めて30分間以上煮沸した後、室温の水中にて冷却し、飽水サンプルとした。
c)上記b)で得た飽水サンプルを水中から取り出し、湿布ですばやく表面を拭い、水滴を除去した後に秤量した(飽水サンプル質量:W2(g))。
d)上記で得られたW1およびW2を用い、下記数式1に従って、吸水率を算出した。
[数式1]
吸水率(%)=[(W2−W1)/W1]×100
<アルカリ金属、レニウム、銀の担持率の測定>
蛍光X線分析法を用いて行った。測定装置としてRIGAKU製RIX2000を用い、ファンダメンタルパラメータ法(FP法)にて測定した。
(実施例1)
α−アルミナ担体(A)52.2g(比表面積0.93m/g、SiO2含有率0.7質量%、吸水率40.1%、平均細孔直径2.1μm、NH−TPD法によってもとめた酸量0.039mmol/g)にシュウ酸銀20g、エチレンジアミン6.8ml、硝酸セシウム0.1282g、過レニウム酸アンモニウム0.0359g、および水10gからなる銀含有液を含浸させた後、90℃で減圧乾燥した。これを空気気流中300℃で0.25時間熱処理した後、窒素気流中570℃で3時間熱処理して触媒(A1)を得た。触媒(A1)の銀含有率は14.8%、セシウム含有率は1460質量ppm、レニウム含有率は370質量ppmであった。
(実施例2)
実施例1において硝酸セシウム0.1282gを0.1495gに変更したこと以外は、上記の実施例1と同様の手法に従って触媒(A2)を得た。触媒(A2)の銀含有率は14.7%、セシウム含有率は1700質量ppm、レニウム含有率は370質量ppmであった。
(実施例3)
実施例1おいて過レニウム酸アンモニウム0.0359gを0.0467gに変更したこと以外は、上記の実施例1と同様の手法に従って触媒(A3)を得た。触媒(A3)の銀含有率は14.7%、セシウム含有率は1460質量ppm、レニウム含有率は480質量ppmであった。
(実施例4)
実施例3において硝酸セシウム0.1282gを0.1495gに変更したこと以外は、上記の実施例3と同様の手法に従って触媒(A4)を得た。触媒(A4)の銀含有率は14.7%、セシウム含有率は1700質量ppm、レニウム含有率は480質量ppmであった。
(実施例5)
α−アルミナ担体(B)52.2g(比表面積0.84m/g、SiO2含有率2.2質量%、吸水率39.1%、平均細孔直径2.3μm、NH−TPD法によってもとめた酸量0.036mmol/g)にシュウ酸銀20g、エチレンジアミン6.8ml、硝酸セシウム0.2137g、過レニウム酸アンモニウム0.0359g、および水10gからなる銀含有液を含浸させた後、90℃で減圧乾燥した。これを空気気流中300℃で0.25時間熱処理した後、窒素気流中570℃で3時間熱処理して触媒(B1)を得た。触媒(B1)の銀含有率は14.8%、セシウム含有率は2430質量ppm、レニウム含有率は370質量ppmであった。
(実施例6)
20質量%アルミナゾル(日産化学製、アルミナゾル−520)0.4gを水40mlと混合した溶液を担体(A)100gに減圧下で含浸し、減圧に保ったまま90℃で乾燥した。これを空気気流中300℃で0.25時間熱処理した後、空気気流中570℃で3時間熱処理して担体(C)を得た。NH−TPD法によってもとめた担体(C)の酸量は0.076mmol/gであった。得られた担体(C)52.2gにシュウ酸銀20g、エチレンジアミン6.8ml、硝酸セシウム0.1282g、過レニウム酸アンモニウム0.0359g、および水10gからなる銀含有液を含浸させた後、90℃で減圧乾燥した。これを空気気流中300℃で0.25時間熱処理した後、窒素気流中570℃で3時間熱処理して触媒(C1)を得た。触媒(C1)の銀含有率は14.8%、セシウム含有率は1460質量ppm、レニウム含有率は370質量ppmであった。
(実施例7)
20質量%アルミナゾル(日産化学製、アルミナゾル−520)0.4gを水40mlと混合した溶液を担体(A)100gに減圧下で含浸し、減圧に保ったまま90℃で乾燥した。これを空気気流中300℃で0.25時間熱処理して担体(D)を得た。NH−TPD法によってもとめた担体(D)の酸量は0.076mmol/gであった。得られた担体(D)52.2gにシュウ酸銀20g、エチレンジアミン6.8ml、硝酸セシウム0.1282g、過レニウム酸アンモニウム0.0359g、および水10gからなる銀含有液を含浸させた後、90℃で減圧乾燥した。これを空気気流中300℃で0.25時間熱処理した後、窒素気流中570℃で3時間熱処理して触媒(D1)を得た。触媒(D1)の銀含有率は14.8%、セシウム含有率は1460質量ppm、レニウム含有率は370質量ppmであった。
(実施例8)
実施例7において硝酸セシウムを0.1282gから0.1709gに変更したこと以外は、上記の実施例7と同様の手法に従って触媒(D2)を得た。触媒(D2)の銀含有率は14.8%、セシウム含有率は1940質量ppm、レニウム含有率は370質量ppmであった。
(実施例9)
実施例7において硝酸セシウムを0.1282gから0.1923gに変更したこと以外は、上記の実施例7と同様の手法に従って触媒(D3)を得た。触媒(D3)の銀含有率は14.8%、セシウム含有率は2180質量ppm、レニウム含有率は370質量ppmであった。
(実施例10)
実施例7において硝酸セシウムを0.1282gから0.1495gに、過レニウム酸アンモニウムを0.0359gから0.0467gに変更したこと以外は、上記の実施例6と同様の手法に従って触媒(D4)を得た。触媒(D4)の銀含有率は14.8%、セシウム含有率は1700質量ppm、レニウム含有率は480質量ppmであった。
(実施例11)
実施例10において硝酸セシウムを0.1495gから0.1709gに変更したこと以外は、上記の実施例10と同様の手法に従って触媒(D5)を得た。触媒(D5)の銀含有率は14.8%、セシウム含有率は1940質量ppm、レニウム含有率は480質量ppmであった。
(実施例12)
実施例10において硝酸セシウムを0.1495gから0.1923gに変更したこと以外は、上記の実施例9と同様の手法に従って触媒(D6)を得た。触媒(D6)の銀含有率は14.8%、セシウム含有率は2180質量ppm、レニウム含有率は480質量ppmであった。
(比較例1)
α−アルミナ担体(E)52.2g(サンゴバン−ノープロ製、SA5502、比表面積0.90m/g、SiO2含有率0.04質量%、吸水率28.1%、平均細孔直径1.2μm、NH−TPD法によってもとめた酸量0.229mmol/g)にシュウ酸銀20g、エチレンジアミン6.8ml、硝酸セシウム0.1282g、過レニウム酸アンモニウム0.0359g、および水10gからなる銀含有液を含浸させた後、90℃で減圧乾燥した。これを空気気流中300℃で0.25時間熱処理した後、窒素気流中565℃で3時間熱処理して触媒(E1)を得た。触媒(E1)の銀含有率は14.8%、セシウム含有率は1460質量ppm、レニウム含有率は370質量ppmであった。
(比較例2)
20質量%アルミナゾル(日産化学製、アルミナゾル−520)0.4gを水40mlと混合した溶液を担体(A)100gに含浸し、90℃で減圧乾燥した。これを空気気流中300℃で0.25時間熱処理した後、空気気流中570℃で3時間熱処理して担体(F)を得た。NH−TPD法によってもとめた担体(F)の酸量は0.098mmol/gであった。得られた担体(F)52.2gにシュウ酸銀20g、エチレンジアミン6.8ml、硝酸セシウム0.1282g、過レニウム酸アンモニウム0.0359g、および水10gからなる銀含有液を含浸させた後、90℃で減圧乾燥した。これを空気気流中300℃で0.25時間熱処理した後、窒素気流中570℃で3時間熱処理して触媒(F1)を得た。触媒(F1)の銀含有率は14.8%、セシウム含有率は1460質量ppm、レニウム含有率は370質量ppmであった。
(比較例3)
20質量%アルミナゾル(日産化学製、アルミナゾル−520)2gを水40mlと混合した溶液を担体(A)100gに含浸し、90℃で減圧乾燥した。これを空気気流中300℃で0.25時間熱処理した後、空気気流中570℃で3時間熱処理して担体(G)を得た。NH−TPD法によってもとめた担体(G)の酸量は0.022mmol/gであった。得られた担体(G)52.2gにシュウ酸銀20g、エチレンジアミン6.8ml、硝酸セシウム0.1282g、過レニウム酸アンモニウム0.0359g、および水10gからなる銀含有液を含浸させた後、90℃で減圧乾燥した。これを空気気流中300℃で0.25時間熱処理した後、窒素気流中570℃で3時間熱処理して触媒(G1)を得た。触媒(G1)の銀含有率は14.8%、セシウム含有率は1460質量ppm、レニウム含有率は370質量ppmであった。
【0048】
触媒(A1)〜(G1)をそれぞれ850〜1180μmに破砕した。破砕した触媒3.00gをそれぞれ内径7mm、管長300mmの外部が加熱式の二重管式ステンレス製反応器に充填し、この充填層にエチレン23.0容量%、酸素7.6容量%、二酸化炭素6.0容量%、二塩化エチレン3.2ppm、残余がメタン、窒素、アルゴンおよびエタンからなるガスを導入し、0.1MPaで空間速度5500Hr−1の条件で、エチレン転化率が8.5容量%となるようにして反応を行った。下記数式2および数式3に従って、エチレンオキシド製造時の転化率(数式2)および選択率(数式3)を算出した。結果を表1に示す。
[数式2]
転化率(%)=[(反応したエチレンのモル数)/(原料ガス中のエチレンのモル数)]×100
[数式3]
選択率(%)=[(エチレンオキシドに変化したエチレンのモル数)/(反応したエチレンのモル数)×100
【0049】
【表1】

【0050】
上記表1に示す結果から、本発明によれば、選択性の優れたエチレンオキシド製造用触媒が提供されうる。そして、当該触媒を用いたエチレンオキシドの製造方法によれば高選択率でエチレンオキシドを製造することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明にかかるエチレンオキシド製造用触媒およびこの触媒を用いたエチレンオキシドの製造方法によれば高効率にエチレンオキシドを製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−アルミナを主成分とし、比表面積が2m/g未満であり、かつNH−TPD法によってもとめた酸量が0.01から0.09mmol/gの範囲に存在する担体に、触媒成分を担持させてなる、エチレンオキシド製造用触媒。
【請求項2】
請求項1に記載のエチレンオキシド製造用触媒の存在下で、エチレンを分子状酸素含有ガスにより気相酸化する段階を有する、エチレンオキシドの製造方法。

【公開番号】特開2010−82515(P2010−82515A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−252248(P2008−252248)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】