説明

エチレン処理することを特徴とする植物の増殖方法

【課題】培養槽を用いた植物培養において増殖効率を向上させるための手段を提供すること。
【解決手段】植物材料の作製・維持工程と、茎葉増殖工程および/または発根・球根類形成工程とを含む植物の増殖方法であって、植物材料の作製・維持工程において植物材料をエチレン処理することを特徴とする、上記植物の増殖方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な植物の増殖方法、詳しくは植物材料の作製・維持工程においてエチレン処理することを特徴とする植物の増殖方法に関する。
【背景技術】
【0002】
組織培養による増殖は、様々な植物で研究されており(非特許文献1および非特許文献2)、栄養繁殖性植物でのウイルスフリー個体、優性不稔または自家不和合性植物、あるいは遺伝的に固定していない植物などの増殖に用いられている。組織培養では比較的小さな容器を使用して、培養作業者がメスの刃で切り分けた植物の外植片を植え付けて増殖することが一般的に行われており、機械化がされておらず効率的ではない。一方、植物を大量に増殖できるために、液体培地を入れた培養槽を利用する方法についても種々の検討がなされている(非特許文献3)。
【0003】
培養槽での植物の培養は、培養槽に植え付ける材料となる植物を作製・維持する「植物材料の作製・維持工程」と、培養槽に材料を植え付けた後に茎葉を増殖させる「茎葉増殖工程」により行われる。茎葉増殖工程で終了する場合、培養槽の中で増殖させた植物体を培養槽から取り出し、適当な大きさに切断するなどして挿し穂や苗を作製する。また、発根や球根類の発生を伴う植物に対しては、茎葉増殖工程の終了後、さらに、茎葉からの発根を促して幼植物体を作製する「発根工程」や球根類発生を伴う茎葉や幼植物体を形成する「球根類形成工程」を行う。例えば、塊茎を形成する馬鈴署の場合、茎葉増殖終了時の液体培地をマイクロチューバー作製用の培地と交換して、さらに培養を継続することでマイクロチューバーを作製する。
【0004】
植物材料の作製・維持工程は、培養槽に植物材料を植え付けて茎葉を増殖させる「茎葉増殖工程」に先だち、例えば培養槽への植付け材料となる植物体を得る目的で行われるが、一般的には、伸長した植物体を節ごとに切って、各節を固体または液体培地に置床するという方法にて植物材料を作製・維持することで行われる。培養槽を用いた植物培養は、大規模化、自動化により人件費を抑えられる反面、多額の設備費を必要とするため、増殖効率の向上のためにこれまでさまざまな試みがなされているが、その多くは、茎葉増殖工程以降における培養槽の形状、培地、培養条件(温度、攪拌条件、通気条件等)などを検討したものである(非特許文献4、非特許文献5)。これに対し、植物材料の作製・維持工程を改良することにより増殖効率の向上に結びつけた例は殆ど見られない。例えば、馬鈴薯のマイクロチューバーの作製例として秋田と高山(非特許文献6〜8)や岡(特許文献1)の報告があるが、秋田と高山では、植物材料の作製・維持にあたる工程で節位、植物生長調節物質の使用を検討したがマイクロチューバーを増量させる結果は得られていない。また、岡は、エチレン存在下での培養によってマイクロチューバーの増量を試みているが、エチレン処理は茎葉増殖工程においてある程度生長した植物体に対して行っている。また、リン酸などの培地成分を高める、あるいは新たに添加することにより培養効率を改良した例(非特許文献9、非特許文献10)もあるが、分枝性を高めた材料で検討した例は無い。
【0005】
【非特許文献1】George, E. F. and Sherrington, P. D. (1984) Plant propagation by tissue culture: Handbook and directory of commercial laboratories, Exegetics Ltd., Eversley.
【非特許文献2】Debergh, P. C. and Zimmerman, R. H. (1991) Micropropagation: Technology and application, Kluwer Academic Publishers, Dordrecht.
【非特許文献3】Vasil, I. K. (1991) Scale-up and automation in plant propagation, Academic Press Inc.
【非特許文献4】Takayama, S., Swedlund, B., and Miwa, Y. (1991) In: Vasil, I. K. (ed.), Scale-up and automation in plant propagation, 111-131, Academic Press Inc.
【非特許文献5】McCown and Joyce, (1991) In: Vasil, I. K. (ed.), Scale-up and automation in plant propagation, 95-109, Academic Press Inc.
【非特許文献6】秋田、高山 (1987a) 園芸学雑誌 別冊2、264-265.
【非特許文献7】秋田、高山 (1987b) 園芸学雑誌 別冊2、266-267.
【非特許文献8】秋田、高山 (1988) 園芸学雑誌 別冊1、228-229.
【非特許文献9】稲垣ら (2000) 研究成果情報 果樹・野菜―花き・茶業・蚕糸関東東海農業 Vol.1999:550-551.
【非特許文献10】勤ら (2004) 近畿作物研究 49:21-23.
【特許文献1】岡 (1997) 再公表特許 WO96/31114
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、培養槽を用いた植物培養において増殖効率をさらに向上させるための手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、植物材料の作製・維持工程において植物材料にエチレン処理をすることにより、分枝を促進させた材料が得られることを見出した。また、その分枝を促進させた材料を培養槽に植え付けてその後の茎葉増殖工程および/または発根・球根類形成工程の培養を行うと、茎葉増殖および/または発根・球根類形成もまた促進されること、さらには、茎葉増殖工程および/または発根・球根類形成工程における培地中の特定成分の量を調整することによりさらにその効果が増大することを見出した。本発明はかかる知見により完成されたものである。
【0008】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1) 植物材料の作製・維持工程と、茎葉増殖工程および/または発根・球根類形成工程とを含む植物の増殖方法であって、植物材料の作製・維持工程において植物材料をエチレン処理することを特徴とする、上記植物の増殖方法。
(2) 茎葉増殖工程および/または発根・球根類形成工程において、培地中のリン酸、カルシウム、またはカリウムの少なくとも一つの成分の濃度を基本培地での標準使用濃度の1.25〜8倍にすることを特徴とする、(1)に記載の植物の増殖方法。
(3) 発根・球根類形成工程において、培地中のチッソ成分の濃度を基本培地での標準使用濃度の1/2〜1/8倍にすることを特徴とする、(1)または(2)に記載の植物の増殖方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法によれば、従来法に比べて、大量にかつ効率よく、培養槽当たりの植物体を増殖させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.植物材料の作製・維持工程(工程1)
本発明において「植物材料の作製・維持工程」とは、無菌培養が可能となった植物材料を切り分けて培地に置床して生育させ、例えば培養槽に植え付けるための植物体を得る工程をいう。本発明は、この「植物材料の作製・維持工程」(以下、「工程1」という)において、植物材料にエチレン処理を行うことを特徴し、この処理により当該材料の分枝が促進される。
【0011】
植物材料としては、例えば、節ごとに切断した後に培養した苗、等を用いることができる。植物材料は、ウイルスフリーであることが好ましく、ウイルスフリー化のための方法は、特に限定はされないが、例えば、生長点培養法などが挙げられる。
【0012】
工程1における植物材料の培養には、MS培地(Murashige, T. and Skoog, F. (1962) Physiol. Plant.15, 473-497.)等、通常組織培養で用いられる基本培地を用いることができるが、その他、White培地、B5(Gamborg)培地、Nitsch培地、Heller培地、Shenk&Hildebrandt培地、Nitsch&Nitsch培地、LS(RM−1965)培地、Kohlenbach&Schmidt培地、Knop培地、Knudson C培地、Hyponex培地(種々のN:P:K比率のもの)等を用いてもよい。これらの基本培地には糖源を添加し、必要に応じて植物生長調節物質を添加することができる。糖源としては、ショ糖を0.5〜6%、好ましくは1〜4%を添加するが、グルコース、フラクトース、糖蜜等を単独またはショ糖と組み合わせて添加してもよい。植物生長調節物質としては、サイトカイニン類、オーキシン類、ジベレリン酸(例えばGA等)、アブシジン酸、ブラシノステロイド、アンシミドール等が挙げられる。植物生長調節物質の濃度は0.01〜5mg/Lが好ましく、適宜一種類以上を培地に添加して用いる。培地は、調製後オートクレーブ前に塩酸等の酸や水酸化カリウム等のアルカリを用いてpHを通常5.2〜6.4に調整する。また、固体培地とする場合は、通常上記pH調整を行った後に固化剤として寒天を0.7〜1.0%、またはゲルライト(和光純薬工業)を0.1〜0.3%添加してからオートクレーブする。また、本工程において培養容器は、実施例にも記載している内容積約300mlのプラントボックス(旭テクノグラス社製)、あるいはガラス壜、フラスコ類等を用いることができる。
【0013】
工程1における植物材料の培養は、通常、日長が12時間/日以上、好ましくは12〜18時間/日の明所で行うが、暗所培養も可能である。培養時の光量子束密度は、0〜120μmol/m/s、好ましくは0〜80μmol/m/sとする。培養温度としては、通常15〜30℃が用いられるが、対象となる植物に応じて適する温度帯に適宜変更してもよい。培養期間は、植物の種類、品種、あるいは植付け材料によって異なるが14日〜56日である。
【0014】
工程1における植物材料に対するエチレン処理の方法として、気体(エチレンガス)を培養容器に注入する方法(気体処理法)、エチレン発生剤による処理法(エチレン発生剤処理法)のいずれであってもよい。
【0015】
気体処理法は、通気口を持つ培養容器の場合、濃度を調整したエチレンガスを通常の空気の替わりに培養容器内に送る方法により行う。また、通気口を持たない容器の場合は、培養容器を開封してエチレンガスを満たす、またはエチレンガスが満たされたチャンバー中に入れるなどの方法により行う。
【0016】
一方、エチレン発生剤処理法は、例えば、エチレン発生剤である2−クロルエチルホスホン酸(商品名エスレル)を培地に混合する、あるいは外植片を2−クロルエチルホスホン酸(商品名エスレル)の液体中に一定時間浸漬処理する、などにより行うことができる。
【0017】
より具体的には、(i) 培地をオートクレーブする前に、他の各種成分とともに2−クロルエチルホスホン酸(商品名エスレル)を、例えば10〜1000ppmの濃度となるように培地に添加する方法、(ii) 固体または液体培地をオートクレーブした後、クリーンベンチ内にて培地温度が下がってから(但し固体培地の場合には固化する前に)、フィルター滅菌により所定濃度となるように2−クロルエチルホスホン酸(商品名エスレル)を添加する方法、あるいは(iii) 外植片を2−クロルエチルホスホン酸(商品名エスレル)の液体にある一定時間、例えば1秒〜1時間、浸漬処理する方法、例えば、後記実施例のように当該液体で湿らせたろ紙上に例えば1秒〜1時間置いて穏やかに浸潤させる方法などにより行うことができる。これらの各処理法は、それぞれ単独でまたは2種類以上の方法を適宜組み合わせて行ってもよい。
【0018】
2.茎葉増殖工程(工程2)
本発明において「茎葉増殖工程」(以下、「工程2」という)とは、上記工程1において分枝を促進した植物材料を例えば培養槽に植え付け、茎葉を増殖させる工程をいう。
【0019】
工程2における培地は、工程1と同様のものを使用することができるが、培養槽を使用するために液体培地を使用するのが好ましい。培養槽は市販されている一般の植物組織培養用の培養槽(柴田ハリオ硝子社製等)を用いることができる。培養槽の種類としては、例えば、ガラス製の円筒型培養槽(底面積約300cm2、高さ約24cm、内容積約8リットル)やプラスチック製の培養槽(底面積約190cm2、高さ45cm、内容積6リットル)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。通気量は、0.005〜0.3vvm、好ましくは0.02〜0.05vvmとする。茎葉の増殖は、明所に限られるものではないが、通常12時間/日以上、好ましくは12〜18時間/日の日長条件で行う。培養時の光量子束密度は、0〜100μmol/m/s、好ましくは30〜60μmol/m/sとする。
【0020】
工程2の培養期間としては14日〜56日が好ましく、培養温度は通常15〜30℃であるが、植物の種類によって適宜変更してもよい。培地には植物生長調節物質を添加してもよく、例えば、サイトカニン類、好適には6−ベンジルアデニン(BA)を好ましくは0.01〜5mg/L培地に添加する。また、BA以外のサイトカニン類としては、ゼアチン、カイネチン、2−イソペンテニルアデニン、チジアズロン等が挙げられ、同様に用いることができる。植物生長調節物質としては、サイトカニン類のほか、オーキシン類(例えば、インドール−3−酢酸、インドール−3−酪酸、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸、2,4,5−トリクロロフェノキシ酢酸、1−ナフタレン酢酸等)、ジベレリン酸(例えばGA等)、アブシジン酸、ブラシノステロイド、アンシミドール等)も同様に用いることができ、上記同様の濃度で、それぞれ単独でまたは適宜二種類以上を組み合わせて培地に添加すればよい。
【0021】
また、工程1においてエチレン処理した植物材料を使用して工程2において茎葉増殖させるにあたり、基本培地中の無機塩成分、例えばリン酸、カルシウム、またはカリウムの少なくとも一つの成分の濃度を増加させると、さらに高い茎葉増殖効果が得られる。上記の成分を含む具体的な化合物としては、リン酸の場合、KHPO、KHPO、NaHPO・HO、NaHPOO、NHPO等;カルシウムの場合、CaCl・2HO、Ca(NO・4HO等;カリウムの場合、KCl、KHPO、KHPO、KI等がそれぞれ挙げられる。
【0022】
具体的には、工程2で使用する培地は、リン酸、カルシウム、またはカリウムの少なくとも一つの成分の濃度を、各種の基本培地での標準使用濃度(原田&駒嶺 編集 植物細胞組織培養 実際・応用・展望 付表I,p390−391 理工学社 1984 第5版;R.L.M. PIERIK eds. In Vitro Culture of Higher Plants p64 Martinus Nijhoff Publishers 1987の記載参照)の1.25〜8倍、好ましくは、1.25〜5倍の濃度に調整する。例えば、使用する基本培地がMS培地の場合、リン酸イオン濃度(標準使用濃度1.25mM)は1.56〜10mM、好ましくは1.56〜6.25mM、カルシウムイオン濃度(標準使用濃度3mM)は3.75〜24mM、好ましくは3.75〜15mM、カリウムイオン濃度(標準使用濃度20mM)は25〜160mM、好ましくは25〜100mMとすればよい。
【0023】
また、元々基本培地の成分に含まれていないために新たに添加する成分が無機塩である場合は、培地の調製時に粉末の試薬として加えても、あるいはあらかじめ濃度を高めたストック溶液を作製しておいてもよい。このような成分の例として、例えばMS培地の場合、塩化カリウム等が挙げられる。本工程終了時に得られた植物は、培養槽から取り出して必要に応じて切断して土等に順化し、苗を育成することができる。
【0024】
3.発根・球根類形成工程(工程3)
本発明において「発根・球根類形成工程」(以下、「工程3」という)とは、幼植物体および/または球根類発生を伴う茎葉や幼植物体を得る工程をいう。例えば馬鈴署等の塊茎を有する球根類植物では小塊茎、いわゆるマイクロチューバーを作製する工程をいう。発根工程では、植物生長調節物質としてオーキシン類を単独で添加することもあるが、それ以外は基本的に工程1または2と同じ条件を使用することが好ましい。また、球根類形成工程では、培地の糖濃度、光条件、植物生長調節物質の種類以外は工程1および工程2と基本的に同様の条件を使用することが好ましい。培地の糖濃度として、例えばショ糖を6〜15%、好ましくは8〜10%添加する。光条件は、例えば、日長を0〜12時間/日、好ましくは0〜6時間/日、暗所を含む弱光下、即ち光合成光量子束密度(例えば、日立製の白色蛍光灯)が0〜22.8μmol/m/s、好ましくは0〜5.7μmol/m/sで培養される。植物生長調節物質として、サイトカイニン類、好ましくはベンジルアデニン(BA)を0〜5ppmの範囲で添加する。
【0025】
また、工程3においては、工程2と同様、リン酸、カルシウム、またはカリウムの少なくとも一つの成分の濃度を増加させることが好ましい。また、工程3では、チッソの濃度を減少させることが好ましく、チッソの濃度の減少は単独でもよく、また前記リン酸、カルシウム、またはカリウムの濃度の増加に併用してもよい。これら培地中の特定成分の濃度の調整により、さらに高い発根能力および/または球根類発生能力を具備し、かつその後の馴化等に十分耐え得るような質の高い幼植物体を得ることができる。
【0026】
チッソを含む具体的な化合物としては、NHPO、Ca(NO・4HO、NHNO、KNO等が挙げられるが、工程2と同様、上記の原田&駒嶺(1984)やPIERIK(1987)に記載されている各種の基本培地に含まれるチッソを含む化合物であれば対象として使用できる。チッソの濃度を減少させる場合は、各種の基本培地での標準使用濃度の1/2〜1/8倍、好ましくは1/2〜1/5倍の濃度に調整する。例えば、使用する基本培地がMS培地の場合、チッソ濃度(標準使用濃度60mM)は30〜7.5mM、好ましくは30〜12mMとする。
【0027】
本発明の植物の増殖方法は、発根のみが観察され、球根類を有しない非球根類植物、鱗茎・球茎・塊茎・根茎または地下茎・塊根のいずれかを有する球根類植物のいずれにも用いることができる。非球根類植物としては、例えば、キク、バラ、カーネーション、トマト、ペチュニア、サルビア、宿根性カスミソウ、オキザリス、リアトリス、ロドヒポキシス等の宿根草等が挙げられる。また、球根類植物としては、例えば、鱗茎を有する植物(例えば、チューリップ、スイセン、ヒアシンス、球根アイリス、アマリリス、リコリス、オーニソガラム、シラー、タマネギ、ラッキョウ、ユリ、フリチラリア、カルディオクリナム等)、球茎を有する植物(例えば、グラジオラス、フリージア、クロッカス、イキシア、スパラキシス、バビアナ、トリトニア、ワトソニア、アシダンセラ、コルチカム等)、塊茎を有する植物(例えば、カラジウム、カラー、熱帯スイレン、アネモネ、ラナンキュラス、シクラメン、カブ、ダイコン、サトイモ、馬鈴薯等)、根茎または地下茎を有する植物(例えば、バイカカラマツ、カンナ、ジンジャーリリー、耐寒性スイレン、ハス等)、塊根を有する植物(例えば、サツマイモ、ダリア等)が挙げられる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0029】
(実施例1) エチレン処理が分枝数に及ぼす影響
定法に従い生長点培養によって得られた馬鈴署品種「ジャガキッズ パープル 90」(日本国農林水産省 品種登録第4054号)の培養苗を材料として用いた。エチレン処理は、継代培養する培養苗(材料)を節ごとに切り、得られた切片を2−クロロエチルホスホン酸(エセフォン、商品名エスレル 石原産業(株)製)25mg/L溶液(4000倍希釈液)で湿らせた滅菌紙に約10分間浸漬処理することにより行った。一方、上記培養苗を同様に切断し、滅菌蒸留水で湿らせた滅菌紙に約10分間浸漬処理したものをコントロール苗とした。
【0030】
エチレン処理苗とコントロール苗とを作製・維持するために、寒天培地(MS培地にショ糖3%、寒天0.8%を添加しpHを5.8に調整した固体培地)上に生長点を含む節切片を置床(6片/培養容器)し、培養した(工程1)。培養容器として内容積約300mlのプラントボックス、旭テクノグラス社製を使用し、培養は、明所(光量子束密度65〜77μmol/m/s、16時間日長)、20±2℃の条件下にて行った。28日間培養後に分枝数を調査したところ、下記表1に示すとおり、エチレン処理苗はコントロール苗に比べて1%水準で有意に分枝数の増加(約2倍)が確認された。
【0031】
【表1】

【0032】
(実施例2) エチレン処理が茎葉増殖量に及ぼす影響
実施例1で得られたエチレン処理苗、コントロール苗を培養槽への植付け材料として用いた。茎葉増殖用液体培地には、MS培地成分のKHPOを510mg/L(標準使用濃度の3倍)、CaCl・2HOを1760mg/L(標準使用濃度の4倍)とし、KClを新たに1g/L添加したMS改変培地にショ糖10g/LとBA0.02mg/Lを加え、pHを5.8に調整した培地を用いた。エチレン処理苗、コントロール苗を、上記の茎葉増殖用液体培地を4L加えた培養槽(総容量10L)に置床(6本/培養槽)し、液相部に300mL/分のエアレーションを行い、20℃、16時間日長(光量子束密度50〜55μmol/m/s)にて43日間培養した(工程2)。培養後、茎葉増殖量を測定した結果を下記表2の上段に示す。エチレン処理苗(エチレン処理ありで、培地のリン酸、カルシウム濃度を上げ、塩化カリウムを添加したもの)は、コントロール苗(エチレン処理なしで、培地のリン酸、カルシウム濃度を上げ、塩化カリウムを添加したもの)に比べて、茎葉重量が1%水準で有意に増加した(約1.4倍)。
【0033】
(実施例3) エチレン処理がマイクロチューバー収穫個数に及ぼす影響
実施例2の培養後、エチレン処理苗、コントロール苗の各培養槽中の液体培地を捨て、MS培地成分のKHPOを510mg/L(標準使用濃度の3倍)、CaCl・2HOを1760mg/L(標準使用濃度の4倍)、KNOを950mg/L(標準使用濃度の1/2倍)、NHNOを825mg/L(標準使用濃度の1/2倍)とし、KClを1g/L添加したMS改変培地にショ糖を100g/LとBAを2mg/Lを加え、pHを5.8に調整したマイクロチューバー作製用液体培地を新たに2L加えた。液相部に200mL/分、気相部に800mL/分のエアレーションを行いつつ、20℃暗所で40日間培養し、マイクロチューバーの収穫を行った(工程3)。0.3g以上のマイクロチューバーを計数した結果を下記表2の下段に示す。エチレン処理苗(エチレン処理ありで、工程2以降の培地のリン酸、カルシウム濃度を上げ、塩化カリウムを添加したもの)は、コントロール苗(エチレン処理なしで、工程2以降の培地のリン酸、カルシウム濃度を上げ、塩化カリウムを添加したもの)に比べて、マイクロチューバー収穫数も1%水準で有意に増加した(約1.4倍)。なお、データ取得にあたり、0.3g以下のものは保存中に萎むものも多いが、0.3g以上であればこのような保存中の質低下はないために、0.3g以上のものを計数した。
【0034】
【表2】

【0035】
(実施例4)
馬鈴署品種「シンシア」(日本国農林水産省 品種登録第10971号)を使用して、実施例1〜3と同様の実験を実施した。茎葉増殖時の培地量が5Lで増殖期間が44日間、マイクロチューバー作製期間が48日間である以外の条件は実施例1〜3と全く同じである。茎葉増殖工程終了時の茎葉重量および0.3g以上のマイクロチューバーを計数した結果を下記表3に示す。エチレン処理苗(エチレン処理ありで、工程2以降の培地のリン酸、カルシウム濃度を上げ、塩化カリウムを添加したもの)は、コントロール苗(エチレン処理なしで、工程2以降の培地のリン酸、カルシウム濃度を上げ、塩化カリウムを添加したもの)に比べて、茎葉重量およびマイクロチューバー収穫数が共に1%水準で有意に増加した(いずれも約1.4倍ずつ)。
【0036】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物材料の作製・維持工程と、茎葉増殖工程および/または発根・球根類形成工程とを含む植物の増殖方法であって、植物材料の作製・維持工程において植物材料をエチレン処理することを特徴とする、上記植物の増殖方法。
【請求項2】
茎葉増殖工程および/または発根・球根類形成工程において、培地中のリン酸、カルシウム、またはカリウムの少なくとも一つの成分の濃度を基本培地での標準使用濃度の1.25〜8倍にすることを特徴とする、請求項1に記載の植物の増殖方法。
【請求項3】
発根・球根類形成工程において、培地中のチッソ成分の濃度を基本培地での標準使用濃度の1/2〜1/8倍にすることを特徴とする、請求項1または2に記載の植物の増殖方法。

【公開番号】特開2007−259749(P2007−259749A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−88464(P2006−88464)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(507107501)キリンアグリバイオ株式会社 (3)
【Fターム(参考)】