説明

エチレン系樹脂射出発泡成形体

【課題】 射出成形性、高発泡性に優れる溶融張力の高いエチレン系重合体からなり、機械的特性、特に剛性と低温衝撃強度のバランスに優れ、かつ、熱安定性に優れるエチレン系樹脂射出発泡成形体を提供する。
【解決手段】 エチレンから導かれる繰り返し単位、またはエチレンから導かれる繰り返し単位と炭素数3〜8のα−オレフィンから導かれる繰り返し単位からなり、下記(A)及び(B)を満足するエチレン系重合体と発泡剤とからなる樹脂組成物を、容積が拡大縮小可能な金型キャビティに充填する金型に充填した後、金型キャビティを拡大することによって発泡成形させて得られる、発泡倍率が2倍以上15倍以下であるエチレン系樹脂射出発泡成形体。
(A)JIS K6760に準拠して密度勾配管法により測定した密度(d)が930kg/m以上960kg/m以下である。
(B)160℃で測定した溶融張力(MS160(mN))と190℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)の関係が、下記式(1)を満足する。
MS160>150−100×log(MFR) (1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶融張力が高いエチレン系重合体からなる射出発泡成形体に関するものであり、さらに詳細には、従来知られているポリプロピレン系重合体製射出発泡成形体に比べて、射出成形性、高発泡性に優れる溶融張力の高いエチレン系重合体からなり、機械的特性、特に剛性と低温衝撃強度のバランスに優れ、かつ、熱安定性に優れる射出発泡成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン樹脂からなる発泡体は、軽量性、良好な物性及び成形性を有しており、また、環境にやさしい材料としてさまざまな用途で使用されている。特に、近年、自動車部品等では、軽量で剛性に優れたポリプロピレン系樹脂を使用した射出発泡成形体が使用されつつある。
【0003】
そして、以前より、各種のポリオレフィン樹脂においては、軽量化、コストダウン、成形体の反り・ヒケ防止を目的に射出発泡成形が行われ、発泡倍率が1.5倍以下の低発泡倍率のものではあるが樹脂製パレット等として実用化されている。また、最近になって、さらなる高発泡成形を目的として、型開き可能に保持された金型の空間内に発泡剤を含む樹脂を射出成形した後、金型を開くことにより前記空間を拡大して樹脂を発泡させるいわゆるコアバック法が開発され、発泡倍率が1.5倍を超える発泡成形が可能となりつつある(例えば特許文献1参照。)。
【0004】
一方、樹脂の面からの改良としては、例えばポリプロピレン系樹脂の場合、通常のポリプロピレンは結晶性で溶融張力が低く、射出発泡成形時にガスを保持することができず、気泡が破壊されやすい。その結果、成形体表面にシルバーストリークと呼ばれる外観不良が発生しやすく、また、発泡体の内部に巨大気泡(巣)が発生しやすく、コアバック法を用いても発泡倍率を高くすることが困難であった。また、気泡が不均一で大きいために得られた成形体の剛性、製品強度の均一性も十分でなかった。そこで、ポリプロピレンの溶融張力を改良する方法として、1)架橋剤の反応による微架橋処理やシラングラフト熱可塑性樹脂を添加してポリプロピレン系樹脂の溶融張力を高める方法が提案されている(例えば特許文献2、特許文献3参照。)。2)無架橋のポリプロピレン系樹脂に発泡性を付与する方法として、放射線照射により長鎖分岐を導入する方法(例えば特許文献4参照。)やポリプロピレン系樹脂とイソプレン単量体とラジカル重合開始剤とを溶融混練してポリプロピレン系樹脂を改質する方法(例えば特許文献5参照。)、ポリオレフィン系樹脂とジオキシム化合物を溶融混練してポリプロピレン系樹脂を改質する方法(例えば特許文献6参照。)、等が提案されている。これらの方法を単独または複合化することで、発泡倍率2倍以下の発泡性を有するポリプロピレン系樹脂が得られている。
【0005】
しかし、自動車部品用途においては、剛性が高く、かつ、高い耐衝撃性が求められることが多く、ポリプロピレンは衝撃強度、特に低温での衝撃強度が乏しいことに課題を有している。このため、耐衝撃性を改良する方法として、ポリプロピレン樹脂に非晶性のゴム状物質を、ブレンドあるいは多段重合等によって加える方法が提案されている(例えば特許文献7〜9参照。)。
【0006】
また、ポリエチレン系樹脂の射出成形では、主にチーグラーナッタ触媒により製造されたポリエチレン樹脂が好適に用いられてきた。しかし、このポリエチレン系樹脂を用いて射出発泡成形しようとすると種々の問題が発生する。例えば該ポリエチレン樹脂に射出成形に必要な高流動性をもたせると溶融張力が低下してしまい、発泡ガスの保持が困難となることから、得られた射出発泡成形体の発泡倍率は低く、衝撃強度が不十分となる。また、ガスの保持を目的に分子量を増加させると、流動性が不十分で射出成形が困難となる。そして、最近メタロセン触媒から製造されたポリエチレン系樹脂を射出成形体に応用する試みが提案されている(例えば特許文献10〜12参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−281698号公報
【特許文献2】特開昭61−152754号公報
【特許文献3】特開平7−109372号公報
【特許文献4】特開昭62−121704号公報
【特許文献5】特開平9−188774号公報
【特許文献6】特開平11−228722号公報
【特許文献7】特開2001−81251号公報
【特許文献8】特開2002−11748号公報
【特許文献9】特開11−309737号公報
【特許文献10】特開平10−193377号公報
【特許文献11】特開平11−193379号公報
【特許文献12】特開平12−278229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献7〜9に提案された方法により得られたポリプロピレン樹脂は、耐衝撃性は高くなるものの、樹脂の発泡性が十分でなく、2倍以上の高発泡倍率の発泡成形体を得ることはできなかった。また、原料コストが上昇するため、改良が求められていた。特許文献10に提案されたメタロセン触媒により得られたポリエチレン樹脂を用いた射出成形品は、成形体の剛性が不十分であり、成形時の流動性においても満足のいくものではない。また、樹脂の溶融張力も小さいことから、発泡成形は困難であると予想される。特許文献11ではメタロセン触媒を用いたポリエチレン系樹脂組成物を射出成形品とした際に高剛性を示すことが開示されているが、この場合にも流動性においては満足のできるレベルではなく、発泡成形もできなかった。特許文献12には分子量分布の狭いポリエチレン系樹脂製射出成形体が開示されているが、この場合にも使用されるポリエチレン系樹脂は薄肉または大型の金型での成形ができるような十分な流動性を有しておらず、溶融張力も小さいため発泡成形もできないものであった。
【0009】
そこで、本発明は上記の課題を解決するものであり、特定の特性を有するエチレン単独重合体、又はエチレンとα−オレフィンとの共重合体と発泡剤とからなる樹脂組成物を、容積が拡大縮小可能な金型キャビティに充填する金型に充填した後、金型キャビティを拡大することによって発泡成形させて得られる、発泡倍率が2倍以上15倍以下である射出発泡成形体を提供するものであり、さらに詳細には、高剛性で且つ高衝撃特性、特に低温での耐衝撃特性を有する射出成形発泡体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者は、上記課題に関し鋭意検討した結果、特定のポリエチレン系樹脂が優れた射出発泡性を有し、これより得られた射出発泡成形体が高発泡、高剛性であり、衝撃特性にも優れることを見出し、本発明の完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、エチレンから導かれる繰り返し単位、またはエチレンから導かれる繰り返し単位と炭素数3〜8のα−オレフィンから導かれる繰り返し単位からなり、下記(A)及び(B)を満足するエチレン系重合体と発泡剤とからなる樹脂組成物を、容積が拡大縮小可能な金型キャビティに充填する金型に充填した後、金型キャビティを拡大することによって発泡成形させて得られる、発泡倍率が2倍以上15倍以下であることを特徴とするエチレン系樹脂射出発泡成形体に関するものである。
【0012】
(A)JIS K6760に準拠して密度勾配管法により測定した密度(d)が930kg/m以上960kg/m以下である。
(B)160℃で測定した溶融張力(MS160(mN))と190℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)の関係が、下記式(1)を満足する。
【0013】
MS160>150−100×log(MFR) (1)
【0014】
以下、本発明に関し詳細に説明する。
【0015】
本発明で用いられるエチレン系重合体は、エチレンから導かれる繰り返し単位、またはエチレンから導かれる繰り返し単位と炭素数3〜8のα−オレフィンから導かれる繰り返し単位からなり、上記(A)及び(B)を満足するエチレン系重合体である。
【0016】
該エチレン系重合体としては、エチレンから導かれる繰り返し単位からなるエチレン単独重合体、またはエチレンから導かれる繰り返し単位と炭素数3〜8のα−オレフィンから導かれる繰り返し単位からなるエチレン−α−オレフィン共重合体が挙げられる。ここで、炭素数3〜8のα−オレフィンから導かれる繰り返し単位とは、単量体である炭素数3〜8のα−オレフィンから誘導され、エチレン−α−オレフィン共重合体に含有される単位であり、炭素数3〜8のα−オレフィンとしては、例えばプロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン等が挙げられる。これら炭素数3〜8のα−オレフィンの少なくとも2種類を併用してもよい。そして、α−オレフィンの炭素数が8を越える場合、エチレン系重合体の融点、結晶性が低くなるために射出発泡成形体の耐熱性、剛性が劣るものとなる。
【0017】
本発明の射出発泡成形体を構成するエチレン系重合体は、(A)JIS K6760に準拠して密度勾配管法により測定した密度(d)が、930kg/m以上960kg/m以下のものであり、好ましくは940kg/m以上955kg/m以下である。ここで、密度(d)が930kg/m未満の場合、エチレン系重合体の融解温度が低くなり耐熱性に乏しい射出発泡成形体となる。一方、960kg/mを超える場合、射出発泡成形体の耐熱性、剛性は優れるが、衝撃強度が劣るものとなる。
【0018】
また、該エチレン系重合体は、(B)160℃で測定した溶融張力(以下、MS160と記す。)と190℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(以下、MFRと記す。)の関係が下記式(1)を満足するものであり、好ましくは下記式(4)を満足するものである。ここで、下記式(1)を満足しないエチレン系重合体である場合、エチレン系重合体が発泡性に劣ることから満足な射出成形発泡体を得ることが困難となる。
【0019】
MS160>150−100×log(MFR) (1)
MS160>150−90×log(MFR) (4)
【0020】
なお、本発明におけるMS160は、長さが8mm,直径が2.095mmであるダイスを用い、流入角90°で、せん断速度10.8s−1、延伸比47、測定温度160℃の条件下で測定した値であり、最大延伸比が47未満の場合は、破断しない最高の延伸比で測定した値をMS160とした。
【0021】
また、該エチレン系重合体は、射出発泡成形体とする際の生産性に優れ、高い発泡倍率を有する射出成形発泡体となることから、(C)MFRが、2g/10分以上20g/10分以下のものであることが好ましい。
【0022】
該エチレン系重合体としては、射出発泡成形体とする際の成形加工時に熱劣化等が発生し難く、得られる射出発泡成形体に黄変等が生じ難くなることから、(D)末端ビニル数が1000炭素原子当たり0.2個以下であることが好ましく、特に0.1個以下であることが好ましい。ここで、末端ビニル数の測定法としては、エチレン系重合体を熱プレスした後、氷冷して調製したフィルムをフーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)により4000cm−1〜400cm−1の範囲で測定し、下式により算出した。
【0023】
1000炭素原子当たりの末端ビニル数(個/1000C)=a×A/L/d
【0024】
(式中、aは吸光光度係数、Aは末端ビニルに帰属される909cm−1の吸光度、Lはフィルムの厚み、dは密度を示す。なお、aは、H−NMR測定より、1000炭素原子当たりの末端ビニル数を確認したサンプルを用いて作成した検量線から求めた。H−NMR測定は、NMR測定装置(日本電子社製、(商品名)GSX400)を用い、重水素化ベンゼンとo−ジクロロベンゼンの混合溶媒中、130℃において実施した。1000炭素原子当たりの末端ビニル数は、メチレンに帰属されるピークと末端ビニルに帰属されるピークの積分比から算出した。各ピークは、テトラメチルシランを基準(0ppm)として、化学シフトが1.3ppmのピークをメチレン、4.8〜5.0ppmのピークを末端ビニルと帰属した。)
【0025】
該エチレン系重合体は、温度による溶融張力の変化が少ないことから、射出発泡成形体とする際の成形加工温度の厳密な調節が不要となり、成形可能範囲を広くすることが可能となる上に、寸法が精度良く制御された射出発泡成形体を得ることができることから、(E)190℃で測定した溶融張力(以下、MS190と記す。)とMS160の関係が下記式(2)を満足するものであることが好ましく、特に下記式(5)を満足するものであることが好ましい。
【0026】
MS160/MS190<1.8 (2)
MS160/MS190<1.7 (5)
【0027】
なお、本発明におけるMS190は、長さが8mm,直径が2.095mmであるダイスを用い、流入角90°で、せん断速度10.8s−1、延伸比47、測定温度190℃の条件下で測定した値であり、最大延伸比が47未満の場合は、破断しない最高の延伸比で測定した値をMS190とした。
【0028】
該エチレン系重合体は、射出発泡成形体とする際の加工性に優れたものとなることから(F)流動の活性化エネルギー(kJ/mol)(以下、Eと記す。)と密度との関係が、下記式(3)を満足するものであることが好ましく、特に下記式(6)を満足するものであることが好ましい。
【0029】
127−0.107d<E<90−0.060d (3)
127−0.107d<E<87−0.060d (6)
【0030】
なお、本発明におけるEは、160℃〜230℃の温度範囲における動的粘弾性測定を行い、得られるシフトファクターをアレニウス式に代入することにより求めることができる。
【0031】
該エチレン系重合体は、機械強度に優れる射出発泡成形体となることから重量平均分子量/数平均分子量(以下、M/Mと記す。)が2以上6以下であることが好ましく、さらに2以上5以下であることが好ましい。なお、M/Mは、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって標準ポリエチレン換算値である重量平均分子量(M)と数平均分子量(M)を測定することにより算出することが可能である。
【0032】
本発明の射出発泡成形体を構成する上記(A)及び(B)を満足するエチレン系重合体としては、該エチレン系重合体の範疇に属するものであれば如何なるものでもよく、如何なる方法により得られたものであってもよく、例えばチーグラーナッタ触媒、クロム系触媒、メタロセン触媒等により得られたエチレン系重合体を挙げることができ、例えばポリエチレン系マクロモノマーとエチレンとの共重合により得られる長鎖分岐型エチレン系重合体、エチレン系重合体を過酸化物、シランカップリング剤等の架橋剤と反応させたり、エチレン系重合体に放射線照射したりして得られる微架橋エチレン系重合体を挙げることができる。また、後述する本願実施例の製造条件そのもの、あるいは条件因子の微調整によって任意に作り分けることが可能である。
【0033】
より具体的には、例えばメタロセン化合物として、2つのシクロペンタジエニル基が2種類以上の原子の連鎖からなる架橋基で架橋されているか、もしくは2個以上の原子の連鎖からなる架橋基で架橋されている架橋型ビスシクロペンタジエニルジルコニウム錯体(以下、成分(a)と記す。)と、架橋型(シクロペンタジエニル)(フルオレニル)ジルコニウム錯体および/または架橋型(インデニル)(フルオレニル)ジルコニウム錯体(以下、成分(b)と記す。)を用いたメタロセン触媒の存在下に、エチレンを重合する、またはエチレンと炭素数3〜8のα−オレフィンを共重合する方法を用いることができる。
【0034】
成分(a)の具体例としては、例えば1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン−1,3−ジイル−ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド、1,1−ジメチル−1−シラエタン−1,2−ジイル−ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド、プロパン−1,3−ジイル−ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド、ブタン−1,4−ジイル−ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド、シス−2−ブテン−1,4−ジイル−ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド、1,1,2,2−テトラメチルジシラン−1,2−ジイル−ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド等のジクロライドおよび上記遷移金属化合物のジメチル体、ジエチル体、ジヒドロ体、ジフェニル体、ジベンジル体を例示することができる。
【0035】
成分(b)の具体例としては、例えばジフェニルメチレン(1−シクロペンタジエニル)(9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン(2−トリメチルシリル−1−シクロペンタジエニル)(9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン(1−シクロペンタジエニル)(2,7−ジメチル−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン(1−シクロペンタジエニル)(2,7−ジ−t−ブチル−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、イソプロピリデン(1−シクロペンタジエニル)(9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、イソプロピリデン(1−シクロペンタジエニル)(2,7−ジ−t−ブチル−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルシランジイル(1−シクロペンタジエニル)(9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシランジイル(1−シクロペンタジエニル)(9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン(1−インデニル)(9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン(2−フェニル−1−インデニル)(9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン(2−フェニル−1−インデニル)(2,7−ジ−t−ブチル−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド等のジクロライドおよび上記遷移金属化合物のジメチル体、ジエチル体、ジヒドロ体、ジフェニル体、ジベンジル体を例示することができる。また上記遷移金属化合物のジルコニウム原子をチタン原子またはハフニウム原子に置換した化合物も例示することもできる。
【0036】
また、成分(a)に対する成分(b)の量は、特に制限はなく、0.0001〜100倍モルであることが好ましく、特に好ましくは0.001〜10倍モルである。
【0037】
そして、成分(a)と成分(b)を用いたメタロセン触媒としては、例えば成分(a)と成分(b)と有機アルミニウム化合物(以下、成分(c)と記す。)からなる触媒;成分(a)と成分(b)とアルミノオキサン(以下、成分(d)と記す。)からなる触媒;さらに成分(c)を含んでなる触媒;成分(a)と成分(b)とプロトン酸塩(以下、成分(e)と記す。)、ルイス酸塩(以下、成分(f)と記す。)または金属塩(以下、成分(g)と記す。)から選ばれる少なくとも1種類の塩からなる触媒;さらに成分(c)を含んでなる触媒;、成分(a)と成分(b)と成分(d)と無機酸化物(以下、成分(h)と記す。)からなる触媒;成分(a)と成分(b)と成分(h)と成分(e)、成分(f)、成分(g)から選ばれる少なくとも1種類の塩からなる触媒;さらに成分(c)を含んでなる触媒;成分(a)と成分(b)と粘土鉱物(以下、成分(i)と記す。)と成分(c)からなる触媒;成分(a)と成分(b)と有機化合物で処理された粘土鉱物(以下、成分(j)と記す。)からなる触媒を例示することができ、好ましくは成分(a)と成分(b)と成分(j)からなる触媒を用いることができる。
【0038】
ここで、成分(i)および成分(j)として用いることが可能な粘土鉱物としては、微結晶状のケイ酸塩を主成分とする微粒子を挙げることができ、粘土鉱物の大部分は、その構造上の特色として層状構造を成しており、層の中に種々の大きさの負電荷を有することが挙げられる。この点で、シリカやアルミナのような三次元構造を持つ金属酸化物と大きく異なる。これらの粘土鉱物は、一般に層電荷の大きさで、パイロフィライト、カオリナイト、ディッカイトおよびタルク群(化学式当たりの負電荷がおよそ0)、スメクタイト群(化学式当たりの負電荷がおよそ0.25から0.6)、バーミキュライト群(化学式当たりの負電荷がおよそ0.6から0.9)、雲母群(化学式当たりの負電荷がおよそ1)、脆雲母群(化学式当たりの負電荷がおよそ2)に分類されている。ここで示した各群には、それぞれ種々の粘土鉱物が含まれるが、スメクタイト群に属する粘土鉱物としては、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト等が挙げられる。また、上記粘土鉱物は複数混合して用いることもできる。
【0039】
成分(j)における有機化合物処理とは、粘土鉱物層間に有機イオンを導入し、イオン複合体を形成することをいう。有機化合物処理で用いられる有機化合物としては、N,N−ジメチル−n−オクタデシルアミン塩酸塩、N,N−ジメチル−n−エイコシルアミン塩酸塩、N,N−ジメチル−n−ドコシルアミン塩酸塩、N,N−ジメチルオレイルアミン塩酸塩、N,N−ジメチルベヘニルアミン塩酸塩、N−メチル−ビス(n−オクタデシル)アミン塩酸塩、N−メチル−ビス(n−エイコシル)アミン塩酸塩、N−メチル−ジオレイルアミン塩酸塩、N−メチル−ジベヘニルアミン塩酸塩、N,N−ジメチルアニリン塩酸塩を例示することができる。
【0040】
成分(a)と成分(b)と成分(j)からなる触媒は、有機溶媒中、成分(a)と成分(b)と成分(j)を接触させることによって得ることが可能であり、成分(a)と成分(j)の接触生成物に成分(b)を添加する方法;成分(b)と成分(j)の接触生成物に成分(a)を添加する方法;成分(a)と成分(b)の接触生成物に成分(j)を添加する方法;成分(j)に成分(a)と成分(b)の接触生成物を添加する方法を例示することができる。
【0041】
接触溶媒としては、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロペンタンもしくはシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエンもしくはキシレン等の芳香族炭化水素類、エチルエーテルもしくはn−ブチルエーテル等のエーテル類;塩化メチレンもしくはクロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、1,4−ジオキサン、アセトニトリルまたはテトラヒドロフランを例示することができる。
【0042】
接触温度については、0〜200℃の間で選択して処理を行うことが好ましい。
【0043】
各成分の使用量は、成分(j)1gあたり成分(a)が、0.0001〜100mmol、好ましくは0.001〜10mmolである。
【0044】
このようにして調製された成分(a)と成分(b)と成分(j)の接触生成物は、洗浄せずに用いても良く、また洗浄した後に用いても良い。また、成分(a)または成分(b)がジハロゲン体の時、さらに成分(c)を添加することが好ましい。また、成分(j)、重合溶媒およびオレフィン中の不純物を除去することを目的に成分(c)を添加することができる。
【0045】
エチレン系重合体を製造する際には、重合温度−100〜120℃で行うことが好ましく、特に生産性を考慮すると20〜120℃が好ましく、さらには60〜120℃の範囲で行うことが好ましい。また、重合時間は10秒〜20時間の範囲が好ましく、重合圧力は常圧〜300MPaの範囲で行うことが好ましい。重合性単量体としては、エチレン単独又はエチレンと炭素数3〜8のα−オレフィンであり、エチレンと炭素数3〜8のα−オレフィンである場合、エチレンと炭素数3〜8のα−オレフィンの供給割合として、エチレン/炭素数3〜8のα−オレフィン(モル比)が、1〜200、好ましくは3〜100、さらに好ましくは5〜50の供給割合を用いることができる。また、重合時に水素などを用いて分子量の調節を行うことも可能である。重合はバッチ式、半連続式、連続式のいずれの方法でも行うことが可能であり、重合条件を変えて2段階以上に分けて行うことも可能である。また、エチレン系共重合体は、重合終了後に従来既知の方法により重合溶媒から分離回収され、乾燥して得ることができる。
【0046】
重合はスラリー状態、溶液状態または気相状態で実施することができ、特に、重合をスラリー状態で行う場合にはパウダー粒子形状の整ったエチレン系共重合体を効率よく、安定的に生産することができる。また、重合に用いる溶媒は一般に用いられる有機溶媒であればいずれでもよく、具体的には例えばベンゼン、トルエン、キシレン、プロパン、イソブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、ガソリン等が挙げられ、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン等のオレフィン自身を溶媒として用いることもできる。
【0047】
本発明の射出発泡成形体は、発泡倍率が2倍以上15倍以下の射出発泡成形体である。ここで、発泡倍率が2倍未満である場合、発泡倍率が低いことから発泡体としての特性を有しないばかりか、製品重量が重くなる。一方、発泡倍率が15倍を越える場合、強度、耐衝撃性に課題を有する場合が生じる。
【0048】
また、本発明の射出発泡成形体は、発泡体として優れた特性を有し、発泡層内の気泡の保持に優れたものとなることから、平均気泡径が1000μm以下、好ましくは500μm以下の発泡層と、該発泡層の少なくとも片面の表面に形成される厚み100μm以上1000μm以下、好ましくは300μm以上500μm以下の非発泡層を有する射出発泡成形体であることが好ましい。発泡層の平均気泡径が1000μm以下で十分な製品軽量化が確保でき、さらに500μm以下だと軽量化と製品強度の両立が可能な発泡製品が得られる。発泡層の少なくとも片面の表面に形成される非発泡層の厚みは、製品形状保持と発泡層確保の観点から、300μm以上500μm以下が望ましい。なお、射出発泡成形体の構造は、射出発泡成形体を厚み方向に切断した断面の顕微鏡写真より観察することが可能である。
【0049】
本発明の射出発泡成形体は、前記エチレン系重合体と発泡剤とからなる樹脂組成物を、容積が拡大縮小可能な金型キャビティに充填する金型に充填した後、金型キャビティを拡大することによって発泡成形させる射出発泡成形方法を用いて得られる。
【0050】
本発明で用いられる発泡剤は、化学発泡剤、物理発泡剤など射出発泡成形に通常使用できるものであればとくに制限はなく、化学発泡剤は、エチレン系重合体と予め混合してから射出成形機に供給され、シリンダ内で分解して炭酸ガス等の気体を発生するものである。該化学発泡剤としては、例えば重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム等の無機系化学発泡剤や、アゾジカルボンアミド、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン等の有機系化学発泡剤があげられる。物理発泡剤は、成形機のシリンダ内の溶融エチレン系重合体にガス状または超臨界流体として注入され、分散または溶解されるもので、金型内に射出後、圧力開放されることによって発泡剤として機能するものである。該物理発泡剤としては、例えばプロパン、ブタン等の脂肪族炭化水素類;シクロブタン、シクロペンタン等の脂環式炭化水素類;クロロジフルオロメタン、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素類;窒素、炭酸ガス、空気等の無機ガスがあげられる。これらは単独または2種以上混合して使用してよい。そして、その中でも特にその取り扱い性に優れることから無機系化学発泡剤及び有機系化学発泡剤および/または二酸化炭素及び窒素及び圧縮空気のうちいずれか1つ以上であることが好ましい。さらに、通常の射出成形機が安全に使用でき、均一微細な気泡が得られやすいものとして、化学発泡剤としては無機系化学発泡剤、物理発泡剤としては窒素、炭酸ガス、空気等の無機ガスが好ましい。これらの発泡剤には、射出発泡成形体の気泡を安定的に均一微細にするために必要に応じて、例えばクエン酸のような有機酸等の発泡助剤やタルク、炭酸リチウムのような無機微粒子等の造核剤を添加してもよい。通常、上記無機系化学発泡剤は取扱性、貯蔵安定性、エチレン系重合体への分散性の点から、10〜50重量%濃度のエチレン系重合体のマスターバッチとして使用されるのが好ましい。
【0051】
上記発泡剤の使用量は、最終製品の発泡倍率と発泡剤の種類や成形時の樹脂温度によって適宜設定すればよい。例えば、通常無機系化学発泡剤の場合は、経済性に優れ、且つ均一微細気泡の射出発泡成形体が得られることから該エチレン系重合体100重量部に対し、0.5重量部以上20重量部以下であることが好ましく、さらに1重量部以上10重量部以下の範囲使用する事が好ましい。
【0052】
本発明の射出発泡成形体は、本発明の目的を逸脱しないことを限度に各種目的に応じて他の任意の配合成分を配合していてもよく、それらの付加的配合成分としては、通常のポリオレフィン用添加剤や配合材等として用いられるものでよく、例えば結晶化核剤、酸化防止剤、中和剤、耐候性改良剤、分散剤、帯電防止剤、滑剤、分子量調整剤(過酸化物等)、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、潤滑剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、難燃剤、導電性付与剤、架橋剤、架橋助剤、金属不活性化剤、防菌剤、蛍光増白剤等の各種助剤、他の各種樹脂及びエラストマー、フィラー、着色剤等を挙げることができる。
【0053】
また、これら成分の配合方法としては、射出発泡成形体を製造する際に配合してもかまわないが、一般的には射出発泡成形体とする前に該エチレン系重合体と配合することが好ましく、その方法としては、例えば添加剤をドライブレンドする方法;予め添加剤を高濃度にしたマスターバッチペレットを使用する方法などがある。上記機械的混合或いは溶融混練に用いられる混合機或いは混練機としては、例えばヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、Vブレンダー、タンブラーミキサー、リボンブレンダー、バンバリーミキサー、ニーダーブレンダー、ブラベンダープラストグラフ、ロール、一軸スクリュー押出造粒機、二軸スクリュー押出造粒機等を挙げることができる。また、溶融混練温度は一般に100〜300℃で行われる。
【0054】
次に射出発泡成形の製造方法について具体的に説明する。本発明の射出発泡成形体は、前記エチレン系重合体と発泡剤とからなる樹脂組成物を、射出成形機の金型内に形成されたキャビティ空間に射出し、直ちに、或いは所定時間が経過した後、可動型、或いは可動型に内設された可動コアを所定の速度で所定位置まで後退させ、キャビティ空間を拡大することにより発泡させる、所謂、コアバック方式の射出成形法によって発泡成形体を得ることができる。金型の温度は、通常、射出される際の組成物の温度より相当に低いため、キャビティの表面に接して形成される発泡成形体の表面には、ほとんど発泡していない緻密なスキン層が形成される。
【0055】
この射出発泡成形法では、可動型の後退速度、或いは可動型に内設して設けられた可動コアの後退速度、即ち、型開速度は、0.01〜100mm/秒である。この型開速度は、好ましくは、0.1〜50mm/秒、更に好ましくは、1〜10mm/秒である。このような型開速度とすることにより、平均セル径が200μm以下、特に50〜150μmと適度に微細かつ均質な発泡成形体とすることができる。なお型開速度は1回の動作で行っても良く、必要に応じて数回の動作に分けて行っても良い。
また、エチレン系樹脂の場合は、樹脂温度170〜220℃、金型温度10〜80℃、成形サイクル20秒〜10分、射出速度10〜300mm/秒、射出圧10〜200MPa等の条件で行われる。
【発明の効果】
【0056】
本発明の射出発泡成形体は、高発泡倍率であるがために軽量性に優れ、かつ、剛性および耐衝撃性(常温および低温)のバランスが良好である。
【実施例】
【0057】
以下実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0058】
変性ヘクトライトの調製、ポリエチレン系マクロモノマー製造用触媒の調製、ポリエチレン系マクロモノマーの製造、エチレン系重合体の製造および溶媒精製は、全て不活性ガス雰囲気下で行った。変性ヘクトライトの調製、ポリエチレン系マクロモノマー製造用触媒の調製、ポリエチレン系マクロモノマーの製造、エチレン系重合体の製造に用いた溶媒等は、全て予め公知の方法で精製、乾燥、脱酸素を行ったものを用いた。ジフェニルメチレン(1−インデニル)(9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン(1−シクロペンタジエニル)(2,7−ジ−t−ブチル−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリドは公知の方法により合成、同定したものを用いた。ジルコノセンジクロリドは和光純薬工業(株)製を用いた。トリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液(0.714mol/l)、メチルアルモキサンのトルエン溶液((商品名)PMAO;Al:2.4mol/l)およびトリイソブチルアルミニウムのトルエン溶液(0.848mol/l)は東ソー・ファインケム(株)製を用いた。
【0059】
さらに、実施例および比較例におけるエチレン系重合体および射出発泡成形体の諸物性は、以下に示す方法により測定した。
【0060】
〜分子量および分子量分布〜
重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって測定した。GPC装置としては東ソー(株)製 (商品名)HLC−8121GPC/HTを用い、カラムとしては東ソー(株)製 (商品名)TSKgel GMHhr−H(20)HTを用い、カラム温度を140℃に設定し、溶離液として1,2,4−トリクロロベンゼンを用いて測定した。測定試料は1.0mg/mlの濃度で調製し、0.3ml注入して測定した。分子量の検量線は、分子量既知のポリエチレン試料を用いて校正されている。なお、MwおよびMnは直鎖状ポリエチレン換算の値として求めた。
【0061】
〜密度〜
密度は、JIS K6922−1に準拠して密度勾配管法で測定した。
【0062】
〜MFR〜
MFRは、JIS K6922−1に準拠して190℃、2.16kg荷重で測定した。
【0063】
〜溶融張力(MS)〜
エチレン系重合体に予め耐熱安定剤として(商品名)イルガノックス1010TM(チバスペシャリティケミカルズ社製)1,500ppm、(商品名)イルガフォス168TM(チバスペシャリティケミカルズ社製)1,500ppmを添加したものを、インターナルミキサー(東洋精機製作所製、(商品名)ラボプラストミル)を用いて、窒素気流下、160℃、回転数30rpmで3分間混練した。溶融張力(MS)は、バレル直径9.55mmの毛管粘度計(東洋精機製作所、(商品名)キャピログラフ)に、長さ(L)が8mm,直径(D)が2.095mmのダイを流入角が90°になるように装着し測定した。MSは、温度を160℃または190℃に設定し、ピストン降下速度を10mm/分、引き取り速度を10m/分に設定し、引き取りに必要な荷重(mN)をMSとした。
【0064】
〜射出発泡成形〜
宇部興産機械(株)製の射出発泡成形機((商品名)MD450S−IV)のホッパーに、エチレン系重合体と化学発泡剤マスターバッチ(永和化成工業製、(商品名)ポリスレンEE275、分解ガス量40ml/g)を3%ブレンド後に投入、混練して可塑化し、エチレン系重合体可塑化物を調製した後、このエチレン系重合体可塑化物を、初期基準金型クリアランスが1.5mm、表面温度が60℃の金型に、210℃、350MPaで、0.5秒間射出して金型の成形部に充填した。なお、射出時間は射出開始からエチレン系重合体可塑化物の全量を射出し終わるまでの時間とした。充填完了後から1.5秒後に成形部の厚み(クリアランス)を3.3mmへと拡大し、縦45cm、横90cm、厚さ約3mmの自動車用内装部品(射出発泡成形体)を得た。
【0065】
〜射出発泡成形性〜
連続して20ショット射出発泡成形したときにショートショットになった個数(不良個数)を求めて、次の3段階で評価した。
【0066】
不良個数が0個・・・・・・・○
不良個数が1〜2個・・・・・△
不良個数が3個以上・・・・・×
〜表面平滑性〜
発泡成形体の表面凹凸の程度を次の3段階で評価した。
【0067】
表面凹凸のほとんどないもの・・・○
表面凹凸が若干あるもの・・・・・△
表面凹凸が多いもの・・・・・・・×
【0068】
〜発泡倍率〜
発泡成形体の底面部から表面の非発泡層も含めた試片を切り出し、別途作製した肉厚1.5mmの非発泡成形体の底面部との比重の比から求めた。
【0069】
〜平均気泡径、非発泡層厚み〜
発泡成形体の底面部を厚み方向に切断した断面の顕微鏡写真より求めた。
【0070】
〜巨大気泡(巣)の観察〜
発泡成形体の底面部を厚み方向に切断した断面を観察し、発泡層中の大きさ1mm以上の巨大気泡の有無をしらべた。
【0071】
巨大気泡がほとんどないもの・・・・・○
有るもの・・・・・・・・・・・・・・×
【0072】
〜剛性〜
曲げ特性をもって剛性を評価した。JIS−K6911を参考にして試片の長手方向が樹脂流れ方向に直角になるように、発泡成形体の底面部から40mm×25mmに切り出した試片をスパン間距離30mmで、試験片上面より1mm/minの速度で荷重を加え、常温(23℃)での弾性率(MPa)で表す。
【0073】
〜耐衝撃性〜
落錘型衝撃試験(JIS−K7211)に準拠して、試験片(成形体底面から4cm角試片を切り出したもの)の、常温(23℃)および低温(−10℃)における50%破壊エネルギーE50を求めた。
【0074】
実施例1
(変性ヘクトライトの調製)
水60mlにエタノール60mlと37%濃塩酸2.0mlを加えた後、得られた溶液にN,N−ジメチルベヘニルアミン7.78g(0.022mol)を添加し、60℃に加熱することによって、N,N−ジメチルベヘニルアミン塩酸塩溶液を調製した。この溶液にヘクトライト20gを加えた。この懸濁液を60℃で3時間撹拌し、上澄液を除去した後、60℃の水1lで洗浄した。その後、60℃、10−3torrで24時間乾燥し、ジェットミルで粉砕することによって、平均粒径5.2μmの変性ヘクトライトを得た。元素分析の結果、変性ヘクトライト1g当たりのイオン量は0.85mmolであった。
【0075】
(ポリエチレン系マクロモノマー製造用触媒の調製)
上記変性ヘクトライト8.0gをヘキサン29mlに懸濁させ、トリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液(0.714mol/l)46mlを添加し、室温で1時間攪拌することにより、変性ヘクトライトとトリイソブチルアルミニウムの接触生成物を得た。一方、ジフェニルシランジイルビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド151mg(320μmol)をトルエンに溶解させたものを添加し、室温で一晩攪拌することにより、触媒スラリー(100g/l)を得た。
【0076】
(ポリエチレン系マクロモノマーの製造)
10lオートクレーブに、ヘキサン6,000mlとトリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液(0.714mol/l)5.0mlを導入し、オートクレーブの内温を85℃に昇温した。このオートクレーブに、上記触媒スラリー0.88mlを添加し、エチレンを分圧が1.2MPaになるまで導入して重合を開始した。重合中、分圧が1.2MPaに保たれるようにエチレンを連続的に導入した。また、重合温度を85℃に制御した。重合開始90分後に、内温を50℃まで降温してオートクレーブの内圧を0.1MPaまで脱圧した後、オートクレーブに窒素を0.6MPaになるまで導入して脱圧、窒素置換した。この操作を5回繰り返した。このオートクレーブから抜き出したポリエチレン系マクロモノマーのMn=14,400、Mw/Mn=3.0であり、NMRによりポリエチレン系マクロモノマーの末端構造を解析したところ、ビニル末端数と飽和末端数の比(Z)はZ=0.65であった。また、13C−NMRにおいてメチル分岐が1000炭素原子当たり0.41個、エチル分岐が1000炭素原子当たり0.96個検出された。さらに、13C−NMRにおいて長鎖分岐は検出されなかった。
【0077】
(エチレン系重合体の製造)
上記で製造したポリエチレン系マクロモノマーが含まれる10lオートクレーブに、トリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液(0.714mol/l)1.4mlとジフェニルメチレン(1−シクロペンタジエニル)(2,7−ジ−t−ブチル−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド7μmolを導入し、オートクレーブの内温を60℃に昇温後、30分間攪拌した。続いてオートクレーブの内温を90℃に昇温後、エチレン/水素混合ガス(水素2,000ppm)を分圧が0.3MPaになるまで導入して重合を開始した。重合中、分圧が0.3MPaに保たれるようにエチレン/水素混合ガスを連続的に導入した。また、重合温度を90℃に制御した。重合開始173分後に、オートクレーブの内圧を脱圧した後、内容物を吸引ろ過した。乾燥後、865gのエチレン系重合体が得られた。得られたエチレン系重合体のMFRは4.3g/10分、密度は950kg/m、Mwは9.6×10、Mw/Mnは6.6、長鎖分岐数は0.03個/1000炭素、示差走査型熱量計による昇温測定において得られる吸熱曲線のピークが1つであった。得られたエチレン系重合体の物性を表1〜3に示す。
【0078】
得られたエチレン系重合体を上記した射出発泡成形に供し、射出発泡成形体(自動車内装用部品)を得た。得られた射出発泡成形体の評価結果を表4に示す。該エチレン系重合体は流動性に優れていることから、射出充填時の金型キャビティ・クリアランスが2mm以下においても、連続成形時のショートショットが起こりにくく、射出発泡成形性が良好であり安定的に射出発泡成形体を得ることが可能であった。また、得られた射出発泡成形体は、表面凹凸がほとんどなく表面平滑性に優れたものであり、発泡倍率3倍(底面部)であり、高発泡倍率のものである。平均気泡径は200μmで200μmの非発泡層(スキン層)を有しており、成形体内部のボイドもなかった。剛性と耐衝撃性のバランスも良好であった。
【0079】
実施例2
(エチレン系重合体の製造)
実施例1と同様の方法により得られたポリエチレン系マクロモノマーを含んだ10lオートクレーブに、トリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液(0.714mol/l)1.4mlとジフェニルメチレン(1−シクロペンタジエニル)(2,7−ジ−t−ブチル−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド7μmolのを導入し、オートクレーブの内温を85℃に昇温後、60分間攪拌した。続いてオートクレーブの内温を90℃に昇温後、エチレン/水素混合ガス(水素3,000ppm)を分圧が0.3MPaになるまで導入して重合を開始した。重合中、分圧が0.3MPaに保たれるようにエチレン/水素混合ガスを連続的に導入した。また、重合温度を90℃に制御した。重合開始194分後に、オートクレーブの内圧を脱圧した後、内容物を吸引ろ過した。乾燥後、870gのエチレン系重合体を得た。得られたエチレン系重合体のMFRは6.1g/10分、密度は955kg/m、Mwは9.7×10、Mw/Mnは7.2、長鎖分岐数は0.03個/1000炭素、示差走査型熱量計による昇温測定において得られる吸熱曲線のピークが1つであった。得られたエチレン系重合体の物性を表1〜3に示す。
【0080】
得られたエチレン系重合体を上記した射出発泡成形に供し、射出発泡成形体(自動車内装用部品)を得た。得られた射出発泡成形体の評価結果を表4に示す。該エチレン系重合体は流動性に優れていることから、射出充填時の金型キャビティ・クリアランスが2mm以下においても、連続成形時のショートショットが起こりにくく、射出発泡成形性が良好であり安定的に射出発泡成形体を得ることが可能であった。また、得られた射出発泡成形体は、表面凹凸がほとんどなく表面平滑性に優れたものであり、発泡倍率3倍(底面部)であり、高発泡倍率のものである。平均気泡径は約200μmで200μmの非発泡層(スキン層)を有しており、成形体内部のボイドもなかった。剛性と耐衝撃性のバランスも良好であった。
【0081】
実施例3
(エチレン系重合体の製造)
実施例1と同様の方法により得られたポリエチレン系マクロモノマーを含んだ10lオートクレーブに、トリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液(0.714mol/l)1.4mlとジフェニルメチレン(1−シクロペンタジエニル)(2,7−ジ−t−ブチル−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド7μmolのを導入し、オートクレーブの内温を90℃に昇温後、エチレン/水素混合ガス(水素2,500ppm)を分圧が0.3MPaになるまで導入して重合を開始した。重合中、分圧が0.3MPaに保たれるようにエチレン/水素混合ガスを連続的に導入した。また、重合温度を90℃に制御した。重合開始126分後に、オートクレーブの内圧を脱圧した後、内容物を吸引ろ過した。乾燥後、665gのエチレン系重合体が得られた。得られたエチレン系重合体のMFRは8.0g/10分、密度は960kg/m、Mwは8.6×10、Mw/Mnは6.4、長鎖分岐数は0.03個/1000炭素、示差走査型熱量計による昇温測定において得られる吸熱曲線のピークが1つであった。得られたエチレン系重合体の物性を表1〜3に示す。
【0082】
得られたエチレン系重合体を上記した射出発泡成形に供し、射出発泡成形体(自動車内装用部品)を得た。得られた射出発泡成形体の評価結果を表4に示す。該エチレン系重合体は流動性に優れていることから、射出充填時の金型キャビティ・クリアランスが2mm以下においても、連続成形時のショートショットが起こりにくく、射出発泡成形性が良好であり安定的に射出発泡成形体を得ることが可能であった。また、得られた射出発泡成形体は、表面凹凸がほとんどなく表面平滑性に優れたものであり、発泡倍率3倍(底面部)であり、高発泡倍率のものである。平均気泡径は約200μmで200μmの非発泡層(スキン層)を有しており、成形体内部のボイドもなかった。剛性と耐衝撃性のバランスも良好であった。
【0083】
比較例1
示差走査型熱量計による昇温測定において得られる吸熱曲線のピークが1つである市販の高密度ポリエチレン(東ソー(株)製、(商品名)ニポロンハード#2000;MFR=15g/10分、密度960kg/m、物性を表1〜3に示す。上記式(1)の関係を満足しない。)を用い、上記した射出発泡成形を試みたが、流動性が不十分であり、発泡倍率が1.7倍の射出発泡成形体しか得られなかった。得られた射出発泡成形体の評価結果を表4に示す。得られた射出発泡成形体は、成形体表面に未溶融物による非発泡部が観察され表面外観に劣るものであった。
【0084】
比較例2
示差走査型熱量計による昇温測定において得られる吸熱曲線のピークが1つである、市販の高密度ポリエチレン(東ソー(株)製、(商品名)ニポロンハード#2500;MFR=8g/10分、密度961kg/m、物性を表1〜3に示す。上記式(1)の関係を満足しない。)を使用し、上記した射出成形を試みたが、流動性が不十分であり、発泡倍率が1.7倍の射出発泡成形体しか得られなかった。得られた射出発泡成形体の評価結果を表4に示す。得られた射出発泡成形体は、成形体表面に未溶融物による非発泡部が観察され表面外観に劣るものであった。
【0085】
比較例3
示差走査型熱量計による昇温測定において得られる吸熱曲線のピークが1つである、市販の低密度ポリエチレン(東ソー(株)製、(商品名)ペトロセン203;MFR=8g/10分、密度919kg/m、物性を表1〜3に示す。上記式(1)の関係を満足しない。)を用い、上記した射出成形を試みたが、流動性は十分であるものの、発泡倍率が1.5倍の射出発泡成形体しか得られなかった。得られた射出発泡成形体の評価結果を表4に示す。得られた射出発泡成形体は剛性が不十分であった。
【0086】
比較例4
示差走査型熱量計による昇温測定において得られる吸熱曲線のピークが1つである、市販のメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン(ダウケミカル社製、(商品名)アフィニティPT1450;MFR=7.5g/10分、密度902kg/m、物性を表1〜3に示す。上記式(1)の関係を満足しない。)を用い、上記した射出成形を試みたが、流動性不十分であり、発泡倍率が1.4倍の射出発泡成形体しか得られなかった。得られた射出発泡成形体の評価結果を表4に示す。得られた射出発泡成形体は、成形体表面に未溶融物による非発泡部が観察され表面外観に劣るものであり、剛性が不十分であった。
【0087】
【表1】

【0088】
【表2】

【0089】
【表3】

【0090】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の射出発泡成形体は、溶融時の流動性が高く、且つ、溶融張力も高い特定のエチレン系重合体を用いることにより、大幅な軽量化に必要な薄肉射出充填が可能であり、また、高発泡倍率を有することから軽量性に優れ、剛性および耐衝撃性のバランスが良好である。本発明の射出発泡成形体は、ラゲージボックス、コンソールボックス、ツールボックス等の自動車内装材をはじめ、食品包装用容器、家電ハウジング、日用雑貨品のボックス類等に広く使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンから導かれる繰り返し単位、またはエチレンから導かれる繰り返し単位と炭素数3〜8のα−オレフィンから導かれる繰り返し単位からなり、下記(A)及び(B)を満足するエチレン系重合体と発泡剤とからなる樹脂組成物を金型内キャビティ空間に射出した後、金型を開くことによりキャビティ空間を拡大することで発泡成形体とするコアバック型射出発泡成形して得られる、発泡倍率が2倍以上15倍以下であることを特徴とするエチレン系樹脂射出発泡成形体。
(A)JIS K6760に準拠して密度勾配管法により測定した密度(d)が930kg/m以上960kg/m以下である。
(B)160℃で測定した溶融張力(MS160(mN))と190℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)の関係が、下記式(1)を満足する。
MS160>150−100×log(MFR) (1)
【請求項2】
エチレン系重合体が下記(C)〜(F)をも満足するエチレン系重合体であることを特徴とする請求項1に記載のエチレン系樹脂射出発泡成形体。
(C)190℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)が2g/10分以上20g/10分以下である。
(D)末端ビニル数が1,000炭素原子当たり0.2個以下である。
(E)190℃で測定した溶融張力(MS190(mN))とMS160の関係が、下記式(2)を満足する。
MS160/MS190<1.8 (2)
(F)流動の活性化エネルギー[E(kJ/mol)]と密度の関係が、下記式(3)を満足する。
127−0.107d<E<90−0.060d (3)
【請求項3】
エチレン系重合体が下記(A’)を満足するエチレン系重合体であることを特徴とする請求項1又は2に記載のエチレン系樹脂射出発泡成形体。
(A’)JIS K6760に準拠して密度勾配管法により測定した密度(d)が940kg/m以上955kg/m以下である。
【請求項4】
平均気泡径が1000μm以下の発泡層と、該発泡層の少なくとも片面の表面に形成される厚み100μm以上1000μm以下の非発泡層を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のエチレン系樹脂射出発泡成形体。
【請求項5】
発泡剤が無機系化学発泡剤及び有機系化学発泡剤および/または二酸化炭素及び窒素及び圧縮空気のうちいずれか1つ以上であることを特長とする請求項1〜4のいずれかに記載のエチレン系樹脂射出成形体。

【公開番号】特開2011−52141(P2011−52141A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−203397(P2009−203397)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【出願人】(300041192)宇部興産機械株式会社 (268)
【Fターム(参考)】