説明

エッジカバー塗料とそれを用いた鋼材エッジへの厚膜塗膜形成方法

【課題】磁性体金属基材のエッジ、特に機械的に切断されて生じる鋼材のシャープエッジなどに対して、防食性等を向上できるよう、厚膜塗膜を効率的に形成するための手段を提供する。
【解決手段】磁性体粉末を固形分中に所定の割合(3〜40重量%)で含有するエッジカバー塗料を使用し、この塗料を塗布する際、または塗布後であって塗料が固化する(流動性を失う)前に、鋼材等の被塗物を磁場中に置くことにより、エッジとその付近平面部の磁化特性差を利用して、エッジに厚膜を形成させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エッジを有する鋼材等の塗装に関する。より詳しくは、本発明は、防食作用などの上で十分な膜厚を有する塗膜を鋼材等のエッジに形成するための塗料、およびその塗料を用いた厚膜塗膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
新造船などの鋼構造物に用いられる鋼板の表面には、発錆を防止することを目的として、防食塗料が塗布されることが多い。しかし、鋼板のエッジ、特に機械的に切断されたシャープエッジは鋭く、これらの被塗部には塗料が塗着しにくく、そのためこの部分からまずさびが発生する。従来、そのような鋼板のエッジにおいて防食効果の上での十分な膜厚を確保するために、塗装に先立ちグラインダーなどで角を落とす処理(エッジ処理)や、薄膜部が形成された後にタッチアップ(補修塗り)により増し塗りする工程が行われている。近年では、造船工程の短縮が望まれており、それらの工程を短縮する、あるいはなくすための手段が各方面で検討されているが、現状では上記エッジ処理以外に、エッジに厚膜を施すための有効な手段がない。
【0003】
なお、磁性体粉末を含有した塗料またはそれを磁場中で塗布する方法は、これまでの発明においても見られる。例えば、特開平5−255617号公報(特許文献1)には、磁性材料からなる薄片状の顔料、またはその偏平面にほぼ平行な磁性材料からなる薄層を有する薄片状の顔料を含有する塗料を、ステンレス鋼などの金属部材の塗布面に対しほぼ垂直な磁場中で塗布することで、ラビリンス効果による優れた防食効果を有する塗膜を形成できることが記載されている。特開平7−90203号公報(特許文献2)には、台車誘導用の軌道である磁気塗膜を鋼板に形成する方法として、樹脂塗料に粉末状の磁性体材料(フェライト粉)を配合した塗料を塗布した後、着磁することが記載されている。特開平7−330948号公報(特許文献3)には、ヘマタイト型構造を有する鱗片状の酸化鉄系光沢含量を含む樹脂組成物を用いた塗膜または成形体を製造する際に、外部磁場を印加することにより、得られる塗膜または成形体の色調が変化することが記載されている。
【0004】
しかし、これらの特許文献に記載された発明は、鋼材エッジを対象に、厚膜塗膜を形成させることを目的としたものではなく、また鋼材エッジに厚膜塗膜が形成可能であることを示唆する記載も見られない。
【特許文献1】特開平5−255617号公報
【特許文献2】特開平7−90203号公報
【特許文献3】特開平7−330948号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、鋼材等のエッジ、特にグラインダー処理などが施されていないフリーエッジに対して、効率的に厚膜塗膜を形成させることのできる塗料およびその塗料を用いた塗装方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、従来の塗料に磁性体粉末を混合して得られたエッジカバー塗料を使用し、この塗料を塗布する際、または塗布後であって塗料が固化する(流動性を失う)前に、鋼材被塗物を磁場中に置くことにより、エッジとその付近平面部の磁化特性差を利用して、エッジに厚膜を形成させることが可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明に係るエッジカバー塗料は、磁性体粉末を塗料固形分中に3〜40重量%含有することを特徴とする。この磁性体粉末は、マグネタイト、フェライトまたはこれらの混合物からなることが好ましい。
【0008】
本発明に係るエッジカバー塗料はとりわけ、鋼材の防食塗料として用いられることが好ましい。そのため、磁性体粉末に加えて、アルキド樹脂、塩化ゴム、ビニル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、または無機系樹脂を含有することが好ましい。
【0009】
また、本発明に係る鋼材エッジへの厚膜塗膜形成方法は、磁場において、本発明に係るエッジカバー塗料を鋼材エッジに塗布する工程、または本発明に係るエッジカバー塗料を鋼材エッジに塗布したのち磁場中に静置する工程、あるいはこれら両方の工程を含むことを特徴とする。磁場による鋼材エッジの表面磁束密度は、5ミリテスラ(mT)以上であることが好ましい。
【0010】
本発明に係るエッジカバー塗料およびそれを用いた厚膜塗膜形成方法により、船舶、水中・水上構造物および陸上構造物における鋼材等のエッジに対して、十分な膜厚を有する塗膜を形成することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、鋼材のフリーエッジにおいても十分な膜厚が確保され、薄膜の形成を抑制できるため、従来行われていたエッジ処理の軽減または省略、タッチアップ回数の低減などが可能となり、工程期間の短縮化につながる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、エッジカバー塗料に含有される磁性体粉末、樹脂、顔料等の各種の成分および磁性体粉末の含有量、ならびに磁場を利用してこのエッジカバー塗料からなる塗膜を鋼材エッジに形成する方法などについて、順次説明する。
【0013】
エッジカバー塗料
本発明に係る「エッジカバー塗料」とは、磁性体粉末および公知の塗料に含有される各種の成分からなる組成物、換言すれば、公知の塗料(以下「ベース塗料」とよぶ。)にさらに磁性体粉末が添加された態様の塗料であり、磁場を利用することで鋼材等のエッジに十分な厚膜を形成しうる塗料のことをいう。本発明においては、防食塗料に代表される、一般的に下塗りとして鋼材の金属基材に直接塗布される態様で用いられている塗料を、上記ベース塗料とすることが好適である。
【0014】
なお、ベース塗料の成分や好ましい態様等は、当業者であれば適宜選択、調整し、磁性体粉末と組み合わせて本発明のエッジカバー塗料において使用することが可能であり、本明細書における例示に何ら限定されるものではない。
【0015】
<磁性体粉末>
「磁性体粉末」は、酸化鉄系の物質に代表される、磁場中で磁性を帯びる金属(磁性体)の粉末であり、本発明においては公知の各種の磁性体粉末を使用できる。例えば、マグネタイト(Fe34)またはフェライト(MO・6Fe23:MはSr、Ba、Co、Ni、Mg、Cu等の金属の2価のイオンを表す。)からなる磁性体粉末、あるいはこれらの混合物は、入手が容易であり、飽和磁化が強く、かつ残留磁化が少ないことなどから好適である。なお、上記マグネタイトは黒色顔料としても知られている。
【0016】
上述のような磁性体粉末は上市されており、例えば、商品名「トダカラーKN-320」(戸
田工業(株)社製)、「TAROX BL-100」(チタン工業(株)社製)などを本発明においても使用できる。
【0017】
本発明のエッジカバー塗料において、磁性体粉末は、塗料中の固形分(溶剤等の揮発性成分を除いた、硬化塗膜を形成する成分、不揮発分ともいう。)中に所定の割合で配合されることが望ましい。塗布工程における作業性や、後述するような磁場におけるエッジへの付着性などの点からは、エッジカバー塗料の固形分中の上記磁性体粉末の含有量は、3〜40重量%が好ましく、5〜30重量%がより好ましい。このような磁性体粉末の含有量は、エッジカバー塗料の粘度や印加する磁場に応じて、上記範囲内で適宜調節することが可能である。
【0018】
<樹脂組成物>
本発明において、前述したベース塗料の性質は基本的にエッジカバー塗料に引き継がれるので、エッジカバー塗料の用途に応じて好適な態様のベース塗料を選択し、そこに含まれる樹脂組成物の成分をエッジカバー塗料に配合すればよい。
【0019】
例えば、防食塗料に用いられている樹脂組成物を配合することにより、本発明のエッジカバー塗料も防食塗料用の塗料として好適に使用できる。このような樹脂組成物としては、防食塗料などに一般的に使用されている、アルキド樹脂、塩化ゴム、ビニル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、または無機系樹脂と、必要に応じてそれぞれの樹脂に対応する硬化剤およびその他の成分とを含有するものが好適である。これらの樹脂は変性物等であってもよく、公知の各種の態様のものを利用できる。
【0020】
上述した樹脂類は単独で用いることも、複数を組み合わせて用いることもできる。また、上述のような樹脂組成物の主剤および硬化剤の種類、性状、化学的指標値(例えばエポキシ系樹脂組成物におけるエポキシ当量、アミン価など)、主剤および硬化剤の配合比等の態様は、所望の性能にあわせて適宜調整することができる。さらに、必要に応じて、性能を向上させるためその他、石油系重合樹脂や石炭系重合樹脂化合物などを上記樹脂組成物とともに防食塗料に配合することもできる。例えば、エッジカバー塗料から形成される塗膜と、そこに上塗り塗装される塗膜(防汚塗膜など)との付着性を向上させるために、熱可塑性樹脂やエステル系可塑剤を配合することが挙げられる。
【0021】
<顔料>
本発明のエッジカバー塗料には、以下のような体質顔料、着色顔料または防錆塗料が含有されていてもよい。
【0022】
体質顔料としては、例えば、タルク、硫酸バリウム、マイカ、酸化チタン、シリカ、クレー、炭酸カルシウム、カオリン、アルミナホワイト、ホワイトカーボン、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウムなどが挙げられる。
【0023】
着色顔料としては、例えば、ナフトールレッド、フタロシアニンブルーなどの有機系着色顔料、およびカーボンブラック、弁柄、チタン白、バライト粉、白亜、黄色酸化鉄、コバルトブルーなどの無機系着色顔料が挙げられる。
【0024】
防錆塗料としては、例えば、酸化亜鉛、亜鉛末、リン酸亜鉛、トリポリリン酸亜鉛などが挙げられる。
これらの顔料は、樹脂等の成分に応じて適切なものを、単独で用いても、複数を組み合わせて用いてもよい。また、顔料の配合量も適宜調整することが可能であり、例えば体質
顔料の配合量は、塗料に含有される樹脂の種類、分子量などに応じて、粘度調整、作業性の改良などの点で好ましいものとすればよい。
【0025】
<溶剤およびその他の成分>
本発明のエッジカバー塗料は、使用する樹脂の種類等に応じて、溶剤型、無溶剤型または水系(エマルジョン)などの形態とすることが可能である。溶剤型の塗料とする場合は、従来用いられている一般的な溶剤、例えば、ヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶剤;キシレン、トルエン等の芳香族系溶剤;メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMAC)等のエーテル系溶剤;酢酸エチル等のエステル系溶剤;イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤を、単独でまたは組み合わせて用いることができる。このような溶剤は、エッジカバー塗料の粘度が塗工性などの点で好適となるよう、適量を配合して用いることができる。
【0026】
その他、例えばチクソトロピー性付与剤、無機脱水剤(安定剤)、タレ止め剤(増粘剤)、沈降防止剤、殺菌剤、防黴剤、老化防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、熱伝導改良剤、消泡剤など、ベースとなる塗料に一般的に配合して用いられている各種の添加物を、本発明のエッジカバー塗料に必要に応じて配合することができる。
【0027】
<塗料の調製>
本発明のエッジカバー塗料の粘度は、特に制限されるものではないが、塗布工程における(刷毛塗り、ローラー塗り、スプレー塗装)作業性などの面から、通常は0.5〜50Pa・s程度とされる。このような粘度は、例えば樹脂組成物の種類や分子量などに応じ、
用いる溶剤、体質顔料の量、増粘剤、レベリング剤などを選択することなどにより、適宜調節することが可能である。
【0028】
以上のようなエッジカバー塗料は、前述した磁性体粉末、樹脂組成物、顔料、溶剤などの各成分を、常法に従って混合、分散、攪拌することにより製造できる。ベース塗料をあらかじめ別途調製しておき、これに磁性体粉末を添加してエッジカバー塗料を製造してもよい。ベース塗料が2液型である場合は、少なくともその一方の組成物中に磁性体粉末を配合しておき、使用時には従来の2液型塗料の調製方法と同様に混合して用いればよい。すなわち、本発明のエッジカバー塗料は、ベース塗料の態様に応じて適宜、1液型、2液型またはそれ以上の多液型の塗料とすることが可能である。
【0029】
厚膜塗膜形成方法
<被塗物>
本発明におけるエッジカバー塗料の被塗物は、代表的には、水中・水上構造物、船舶、および陸上構造物(建築物、橋梁など)等の製造に用いられる鋼材であるが、表面(被塗面)に所定の磁束密度の磁場が印加されうるその他の磁性体金属基材を対象とすることも可能である。
【0030】
本発明の塗膜形成方法によれば、磁場を利用することにより、そのような鋼材等にあるエッジに対して、十分な膜厚(例えば周辺の平面部と同程度)が確保されるよう塗装することができる。なお、本発明における「エッジ」とは、鋼材等の端部、穴部、突起部等において略鋭角をなしている部分(例えば角材を機械的に切断することで生じる直角部など)であって、通常の塗装方法では塗膜に十分な厚みを持たせにくい部分を指す。
【0031】
本発明において塗装の対象とするエッジは、グラインダー、サンドブラスト等を用いたエッジ処理を施さないままのシャープエッジであってもよく、後述する方法により十分な厚膜塗膜を形成できるが、必要に応じて上記エッジ処理が施されていてもよく、その場合
は理想的な厚膜塗膜が形成できる。また、基材の表面に錆、油脂、水分、塵埃、スライム、塩分などが付着している場合は、エッジカバー塗料の塗装に先立ち清掃・除去しておくことが望ましい。
【0032】
<磁場の印加>
本発明に係る塗膜形成方法は、磁場において、前述のようなエッジカバー塗料で鋼材等の被塗物を塗布する工程、および/またはエッジカバー塗料で被塗物を塗布した後、該塗料が固化する(流動性を失う)前に、塗布された被塗物を磁場中に静置する工程を含む。エッジカバー塗料の塗布および該塗料の固化までの静置は一貫して磁場中で行うことが効率的であるが、エッジカバー塗料を磁場のない状況下で塗布した後であっても、塗料が流動性を失う前に磁場中に置くことにより、同様にエッジに厚膜を形成することが可能である。
【0033】
磁場においては、磁化特性によって鋼材の各部所で表面磁束密度が異なり、エッジや突起箇所ほど、そのきわ平面部より磁束密度が高くなる。このため、磁性体粉末を含有する塗料は磁束密度が高いエッジなどの方に多く引きつけられ、そこに厚膜が形成される。
【0034】
エッジに引きつけられる塗料の量は、塗料の粘度や磁性体の含有量などによっても変動するが、エッジ表面の磁束密度が高いほど多くなる傾向にあり、逆に磁束密度が低いと塗料を引きつける効果は弱くなる。本発明では、粘度および磁性体粉末の含有量が前述の所定の範囲にある各種の塗料を十分に引きつけるために、エッジ表面の磁束密度は5ミリテスラ(mT)以上とすることが好ましく、30〜300mTとすることがより好ましい。
【0035】
鋼材などの被塗面への磁場の印加は、磁石(永久磁石)、電磁石などを用いて行うことができる。例えば、鋼材を磁石の上方に配置して被塗面に磁場を印加し、この状態でエッジカバー塗料を塗布し、そのまま静置すればよい。磁石と対象被塗面の距離を調節する、または電磁石の強度を調節することなどにより、磁束密度を所望の範囲の値にすることが可能である。
【0036】
鋼材および磁石の配置方法などについても、鋼材やエッジの形状等に応じて適宜調整すればよい。鋼材エッジにより理想的な塗膜を形成させるためには、例えば、板状の磁石を水平に配置し、鋼材エッジの角度の二等分線が垂直になるような状態で配置することが望ましい。しかし本発明においては、必ずしも上述のような態様で配置しなくとも、鋼材エッジに十分な厚膜塗膜を形成することが可能である。
【0037】
<施工方法>
本発明のエッジカバー塗料を構造物等の全エッジに塗布する場合は、構造物組み立て前や大ブロック組み立て前であって、部材または小単位の組み立ての段階で施工しておくことが、磁場の印加が容易であり、また塗布もしやすいことから、効率的である。
【0038】
また、実際の施工時において、長い距離のエッジを塗装する際など、対象となるエッジ全体に磁場を印加することが困難な場合には、磁石または電磁石をキャスター等でエッジ近傍を移動させつつ、塗布箇所に適切な磁場を印加しながら塗布すればよい。また、それとは逆に、磁石や電磁石を固定して、部材を移動させながら塗布してもよい。
【0039】
もちろん、施工方法はこの限りではなく、構造物全体が組み立てられた後でエッジに磁場を印加して塗布してもよい。
<塗布および乾燥>
エッジカバー塗料を鋼材等に塗布する手段は特に限定されるものではなく、工場や現場で一般的に使用されている手段、例えば刷毛塗り、ローラー塗り、スプレー塗りなどの常
法に従って塗布することができる。用いられる塗料の成分、粘度、必要とされる乾燥膜厚などに応じて、塗装装置の移動速度、塗料の送り圧、塗料吹きつけ空気圧、塗布量などの条件は適宜調節すればよい。
【0040】
前述のように、磁場においてエッジカバー塗料を塗布し、固化させた後は、常法に従ってベース塗料の態様に応じた必要な期間をかけ、乾燥等により塗膜を硬化させればよい。これにより、エッジにおいても防食作用などの上で十分な膜厚が確保された厚膜塗膜が形成される。
【実施例】
【0041】
次に、実施例に基づいて本発明の効果等をさらに詳細に説明する。ただし、以下の実施例は本発明の態様の例示にすぎず、本発明がこれらによって制限されるものではない。
塗料の配合組成および塗布工程における対象被塗面磁束密度を変更しながら、実施例1〜12、参考例1および比較例1〜2を行った。これらの実施例等の要項は表1〜15に示すとおりである。なお、配合組成を示す表中の数値はいずれも重量部である。
【0042】
実施例1〜4の塗料には、溶剤型および無溶剤型エポキシ樹脂、塩化ゴム、アクリル樹脂など異なる種類の樹脂が用いられているが、いずれもマグネタイト磁性体粉末が配合されており、塗布工程における対象被塗面磁束密度も同一(100±5mT)である。実施例1および5〜7は、いずれもハイソリッド変性エポキシ樹脂系塗料であるが、マグネタイト磁性体粉末の配合量が異なっている。実施例1および8〜9の間では磁性体粉末の種類を変更し、実施例10では実施例1とは異なるメーカーのマグネタイト磁性体粉末を使用している。実施例11,12および参考例1では、実施例1と同じ、本発明に係るハイソリッド変性エポキシ樹脂系塗料(二液型)が用いられているが、対象被塗面磁束密度を変更しており、特に参考例1では本発明に係る塗装方法によらず、磁場を印加せずに塗布している。また、比較例1および2で用いられた塗料には磁性体粉末が配合されていないが、その他の成分(ワニス、硬化剤などの種類)はそれぞれ実施例1および3の塗料と同一である。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
【表4】

【0047】
【表5】

【0048】
【表6】

【0049】
【表7】

【0050】
【表8】

【0051】
【表9】

【0052】
【表10】

【0053】
【表11】

【0054】
【表12】

【0055】
【表13】

【0056】
【表14】

【0057】
【表15】

[塗料および試験体の準備]
表1〜15に示す配合に従って、実施例1〜12、参考例1および比較例1〜2で用いた塗料を調製した。二液型の塗料は、主剤および硬化剤を表中に示す所定の割合で混合して使用した。これらの顔料が入った成分はあらかじめペイントシェーカーで分散させ、JIS K5600-2-5に準じて、分散度が50μm以下である塗料にした。
【0058】
さらに、表中の成分に加えて、スプレー作業性のため水系塗料には水道水を、溶剤系塗料には専用シンナーをそれぞれ5〜15%添加して希釈し、各塗料の粘度を0.6〜1.5Pa・sに調整した。無溶剤系塗料は、40度に加熱して粘度を上記範囲に調整した。
【0059】
一方、塗料を塗布する試験体としては、材質:SS-400軟鋼、大きさ:20×20×500mm、1角(対象エッジ)の角度が90度である角棒に表面処理(#180ペーパーで磨いた後、溶剤で脱脂)を施したものを使用した。
【0060】
[塗装方法]
板状磁石の上に溝の付いた鋼板台を置き、試験体を溝に固定した(図1参照)。試験体の対象エッジの表面磁束密度は、マグナ社製ガウスメーター「MG−601」を用い、エッジ表面に接してプローブを垂直に設置した状態で磁束密度を測定しながら、磁石と鋼板台の設置距離を調節し、表1〜15に示した所定の値に調整した。なお、参考例1ならびに比較例1および2では、板状磁石を鋼板台の下に配置しないようにした。
【0061】
続いて、エアスプレーを用いて、試験体の真上および両サイドからそれぞれ2パスずつスプレー塗装した。塗装後5分間、そのまま磁界中に放置したのち、鋼板台から試験体を取り外し、室内で3日間放置乾燥させた。このように乾燥養生させた塗装試験体を試験片として供試した。
【0062】
[評価方法および結果]
切断機により、上記試験片の中央部3箇所を切断サンプリングした。それぞれの対象断面を100倍で観察し、エッジ(頂点)およびエッジから10mm位置両サイドの膜厚を測定した。そして、下記式に基づき3箇所のエッジの膜厚保持率を計算し、さらにそれらの平均(3点平均)を求めた。
【0063】
結果を表16に示す。従来の塗料および塗装方法を用いた場合(比較例1および2)と
比較し、本発明により、磁性体粉末を配合したエッジカバー塗料を使用し、鋼材被塗物を磁場中に置き塗布した場合、エッジに十分な膜厚を付けることができることが示されている。
【0064】
【数1】

【0065】
【表16】

[各種エッジへの対応]
本発明を利用すれば、様々な形状をした各種のエッジに対しても、効率的に厚膜塗膜を形成できる。実施例14〜17では、試験体の対象エッジに下記のような各種の処理を施し、そのほかは実施例1と同一塗料、同一条件によって試験片を作製した;
実施例14:対象エッジにグラインダーを1回あてた(カエリ処理なし)、
実施例15:対象エッジにグラインダーを1回あてた(カエリ処理あり)、
実施例16:対象エッジにグラインダーを3回あてた、
実施例17:対象エッジをサンドブラスト処理した。
【0066】
実施例14〜17による試験片の切断面の拡大写真、ならびに対照となる比較例1の試験片の切断面の拡大写真を、図2〜6に示す。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】実施例等における塗装方法を示すモデル図。
【図2】実施例14におけるエッジ(グラインダー1回、カエリ処理なし)断面の拡大写真。カエリの突起部にも厚膜が形成されたことが示されている。
【図3】実施例15におけるエッジ(グラインダー1回、カエリ処理あり)断面の拡大写真。角部に厚膜が形成されたことが示されている。
【図4】実施例16におけるエッジ(グラインダー3回)断面の拡大写真。角突起部の形状に沿って厚膜が形成されたことが示されている。
【図5】実施例17におけるエッジ(サンドブラスト処理)断面の拡大写真。角部に理想的な厚膜が形成されたことが示されている。
【図6】比較例1におけるエッジ断面の拡大写真。従来の一般的な塗料を用いて塗装した場合、エッジには塗膜が付きにくく、薄くなることが示されている。
【符号の説明】
【0068】
1:磁石
2:鋼板台
3:試験体(表面処理した鋼材)
4:エアスプレー
5:対象エッジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体粉末を塗料固形分中に3〜40重量%含有する、鋼材エッジの防食用であるエッジカバー塗料。
【請求項2】
前記磁性体粉末が、マグネタイト、フェライトまたはこれらの混合物からなることを特徴とする請求項1に記載のエッジカバー塗料。
【請求項3】
前記磁性体粉末に加えて、アルキド樹脂、塩化ゴム、ビニル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、または無機系樹脂を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のエッジカバー塗料。
【請求項4】
磁場において請求項1〜3のいずれかに記載のエッジカバー塗料を鋼材エッジに塗布する工程、または請求項1〜3のいずれかに記載のエッジカバー塗料を鋼材エッジに塗布したのち磁場中に静置する工程、あるいはこれら両方の工程を含むことを特徴とする、鋼材エッジへの厚膜塗膜形成方法。
【請求項5】
磁場による前記エッジの表面磁束密度が5ミリテスラ(mT)以上であることを特徴とする請求項4に記載の厚膜塗膜形成方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載の厚膜塗膜形成方法により塗装された船舶、水中・水上構造物または陸上構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−314763(P2007−314763A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−69245(P2007−69245)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(390033628)中国塗料株式会社 (57)
【Fターム(参考)】