説明

エッチング剤、エッチング方法及びエッチング剤調製液

【課題】半導体基板上のタングステン(W)系金属膜をエッチングし得る半導体基板用エッチング剤、当該エッチング剤を用いるエッチング方法、並びにエッチング剤調製液を提供する。
【解決手段】(A)過酸化水素、(B)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤、(C)塩基性化合物及び(D−2)無機酸由来のアニオン種並びに炭酸イオン、モノカルボン酸イオン、ヒドロキシトリカルボン酸イオン及びヒドロキシカルボン酸イオンから選ばれる有機酸由来のアニオン種から選ばれる2種以上のアニオン種0.01重量%〜3重量%を含む溶液からなる、タングステン(W)系金属膜上部にタングステンよりもイオン化傾向の低い金属バンプ又は金属配線が形成された半導体基板用エッチング剤、該エッチング剤を用いるW系金属膜のエッチング方法、並びに上記(B)、(C)及び(D−2)を含む溶液からなる、半導体基板用エッチング剤調製液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン(Ti)系金属膜が形成された半導体基板の加工、特に銅(Cu)配線が施された半導体基板の加工に関するものであり、主としてTi膜やチタン−タングステン(TiW)合金膜などのTi系金属膜用のエッチング剤及びエッチング方法に関する。また、本発明は、タングステンよりもイオン化傾向の低い金属バンプ又は金属配線が形成された半導体基板の加工、特にタングステン(W)系金属膜が施された半導体基板の加工に関するものであり、主としてW膜やTiW合金膜などのW系金属膜用のエッチング剤及びエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Ti膜やTiW合金膜等のTi系金属膜のエッチング液としては、例えば過酸化水素エッチング液、例えばフッ酸−過酸化水素混合液、リン酸−過酸化水素混合液等の酸性エッチング液等が知られている。
【0003】
しかしながら、過酸化水素溶液では、例えば銅、銀、金等の金属を含有すると過酸化水素の分解が促進され、エッチング液の寿命が短くなるばかりでなく、エッチング液中の過酸化水素濃度をコントロールするのが困難である、エッチング速度が遅い等の問題を有している。
【0004】
また、例えばフッ酸−過酸化水素混合液では、例えばエッチング速度が遅い、下地金属や基板上の金属の腐食が大きい等の問題を有し、リン酸−過酸化水素混合液では、例えばエッチング残渣が発生する、下地金属や基板上の金属の腐食が大きい等の問題を有している。
【0005】
このような状況下、エッチング残渣を発生せずにTi膜やTiW合金膜等のTi系金属膜をエッチングする方法として、過酸化水素とキレート剤を含有する溶液を用いて半導体基板上のTi系膜をエッチングする方法が提案されている(特許文献1)。
【0006】
しかしながら、下地金属や半導体基板上金属の種類によっては、例えば他の金属の腐食が生じるためエッチング選択比が悪い、例えば過酸化水素の分解が促進されるためエッチング液の寿命が短くなり、エッチング速度が遅くなる等の問題が生じる。
【0007】
また、はんだを変色させずにTi、TiW合金をエッチングすることを目的として、例えば過酸化水素、ホスホン酸系化合物等を含有するエッチング液が開示されている(特許文献2)。しかしながら、ホスホン酸系化合物としては窒素含有ホスホン酸しか開示されていないが、このようなホスホン酸系化合物は、例えばその溶液が強く着色しており、半導体基板用エッチング剤に使用するには金属不純物が多いため、過酸化水素含有溶液に添加した場合、安定性が懸念される等の問題を有していた。
【0008】
このような状況下、Cu配線が施された半導体基板、また鉛(Pb)フリーはんだバンプ形成に有用な半導体基板の加工に於いて、Ti系金属膜のエッチング選択比を向上させたエッチング方法及びTi系金属膜の選択的エッチングに使用されるエッチング液の開発が望まれている。
【0009】
一方、従来から金、銀等のイオン化傾向の低い金属を用いた被膜は電気伝導性が良好である、熱圧着性が良好である等の物理的特性ばかりでなく、耐酸化性、耐化学薬品性等の化学的特性にも優れているため、半導体基板上のバンプ形成や配線形成等に好適に用いられている(例えば特許文献3等)。
【0010】
また、他方ではこのような良導電性を有する金属の存在下、タングステン(W)及び/又はチタン−タングステン(TiW)合金をエッチングするための、例えば少なくとも過酸化水素水とアルカリ成分を含有し、pHが7以下であることを特徴とするエッチング液等が知られている(例えば特許文献4等)。しかしながら、配線等の精密性が求められている今般では、このようなエッチング液では、W、TiW合金等のサイドエッチングを抑制するには不十分であるという問題点を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−155382号公報
【特許文献2】特開2003−328159号公報
【特許文献3】特開2007−100130号公報
【特許文献4】特開2004−31791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記した如き状況に鑑み本発明が解決しようとする課題は、半導体基板上のTi系金属膜のエッチングを行う方法、特にCu配線が施された半導体基板上のTi系金属膜の選択的エッチングを行う方法並びにそれに用いられるエッチング液を提供することである。
【0013】
また、本発明者らは、先に完成した本発明のCu配線が形成された半導体基板上のTi系金属膜用エッチング剤を金バンプ等のタングステンよりもイオン化傾向の低い金属バンプ又は金属配線が形成された半導体基板上のW系金属膜用のエッチング剤として適用しようとしたところ、当該金属バンプ又は金属配線直下のW系金属膜がエッチングされるという、いわゆるサイドエッチングが起こり、このサイドエッチングはタングステンと金、銀等のタングステンよりもイオン化傾向の低い金属(低イオン化傾向金属)との異種金属接触腐食(Galvanic腐食)に起因することを見出した。そこで、本発明者らは、Ti系金属膜用エッチング剤に改良を重ね、異種金属接触腐食(Galvanic腐食)を抑制できるエッチング剤を開発し、金、銀等のイオン化傾向の低い金属バンプ又は金属配線が形成されている、W系金属膜敷設の半導体基板に適用できるエッチング剤を提供できるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、(A)過酸化水素、(B)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤及び(C)塩基性化合物と、(D−1)銅防食剤又は/及び(D−2)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤以外の酸化力を有さない2種以上のアニオン種0.01重量%〜3重量%を含む溶液からなる半導体基板用エッチング剤に関する発明である。
【0015】
また、本発明は、当該半導体基板用エッチング剤を用いて半導体基板上のTi系金属膜の選択的なエッチングを行うことを特徴とする、エッチング方法に関する発明である。
【0016】
更に、本発明は、当該半導体基板用エッチング剤を用いて半導体基板上のW系金属膜をエッチングすることを特徴とする、エッチング方法に関する発明である。
【0017】
更にまた、本発明は、(B)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤及び(C)塩基性化合物と、(D−1)銅防食剤又は/及び(D−2)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤以外の酸化力を有さない2種以上のアニオン種を含む溶液からなる半導体基板用エッチング剤調製液に関する発明である。
【発明の効果】
【0018】
本発明のエッチング剤のなかでも(A)過酸化水素、(B)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤、(C)塩基性化合物のなかでも(c−1)無機アルカリ及び(D−1)銅防食剤を含む溶液からなる半導体基板用エッチング剤を用いて、半導体基板上のTi系金属膜、特にその上部にCu配線が施された基板上のTi系金属膜を選択的にエッチングすることにより、従来法に比べて、例えば下地金属や基板上金属の腐食を抑制する、エッチング剤への金属溶出量が減少してエッチング剤の寿命が増大する、Ti系金属膜のエッチング選択比の向上により残渣を有することなくエッチングが可能となる等の効果を奏する。
【0019】
また、半導体基板上のTi系金属膜、特にCu配線が施された基板上のTi系金属膜を選択的にエッチングする際に、本発明の半導体基板用エッチング剤調製液と過酸化水素とを使用時に混合したものを用いることにより、例えば過酸化水素の分解に起因するエッチング剤の性能の低下を更に抑制することができる、アルカリとの共存による過酸化水素の不安定性を回避できる、当該エッチング剤調製液と過酸化水素との混合比によりTi系金属膜のエッチング速度を適宜調整することが可能となる等の効果を奏する。
【0020】
本発明のエッチング剤のなかでも(A)過酸化水素、(B)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤、(C)塩基性化合物及び(D−2)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤以外の酸化力を有さない2種以上のアニオン種0.01重量%〜3重量%を含む溶液からなる半導体基板用エッチング剤を用いて、例えば金、銀、パラジウム、スズ又はこれらの合金等のタングステンよりもイオン化傾向の低い金属(低イオン化傾向金属)バンプ或いは配線が施された半導体基板上のW系金属膜をエッチングすることにより、W系金属と上記タングステンよりもイオン化傾向の低い金属とによる異種金属接触腐食(Galvanic腐食)を抑制し、ひいては当該腐食によるサイドエッチングを抑制することが可能となる等の効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に於いて、Ti系金属膜とは、Ti又はTiW等のTi合金により基板上に形成されたTi系金属の膜のことをいう。(以下、「Ti系膜」と略記する場合がある。)
【0022】
本発明に於いて、W系金属膜とは、W又はTiW合金等のW合金により基板上に形成されたW系金属の膜のことをいう。(以下、「W系膜」と略記する場合がある。)
【0023】
本発明のエッチング剤に係る(A)過酸化水素は、Ti膜、W膜やTiW合金膜などを酸化し、例えば無機アルカリ、有機アミン等の塩基性化合物(アルカリ化合物)による溶解反応を容易とする目的で用いられる。
【0024】
本発明のエッチング剤のなかでも、銅配線が形成された半導体基板上のTi系金属膜用エッチング剤(以下、本発明〈1〉に係るエッチング剤と略記する場合がある。)に於ける(A)過酸化水素の使用濃度は、同エッチング剤中の濃度として、通常10〜35重量%、好ましくは15〜30重量%、より好ましくは15〜26重量%、更に好ましくは20〜26重量%である。
【0025】
本発明のエッチング剤のなかでも、タングステンよりもイオン化傾向の低い金属バンプ又は金属配線が形成された半導体基板上のW系金属膜用エッチング剤(以下、本発明〈2〉に係るエッチング剤と略記する場合がある。)に於ける(A)過酸化水素の使用濃度は、同エッチング剤中の濃度として、通常10重量%〜35重量%、好ましくは15重量%〜35重量%、より好ましくは20重量%〜35重量%、更に好ましくは24重量%〜32重量%である。
【0026】
上記(A)過酸化水素は市販のものを適宜用いればよく、具体的には、例えば市販の過酸化水素を蒸留水、精製水、イオン交換水、超純水等により適切な濃度に希釈して用いればよい。
【0027】
本発明のエッチング剤に係る(B)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤は、過酸化水素の分解を防止して酸化力の維持や過酸化水素とともにTi或いはWに配位して水溶性の錯体を形成し、Ti膜、W膜やTiW合金膜を溶解させる作用を有するものが用いられる。
【0028】
当該(B)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤としては、例えば1-ヒドロキシエチリデン-1,1'-ジホスホン酸(HEDPO)、1-ヒドロキシプロピリデン-1,1'-ジホスホン酸、1-ヒドロキシブチリデン-1,1'-ジホスホン酸等のヒドロキシル基を有するアルカンポリホスホン酸類等が挙げられ、中でも1-ヒドロキシエチリデン-1,1'-ジホスホン酸(HEDPO)が特に好ましい。これらホスホン酸系キレート剤は、過酸化水素、Ti系或いはW系金属の酸化物や、Cuの存在下に於けるキレートの溶解性が良好であるため、エッチング残渣やエッチング基板上の未溶解物の発生が抑えられる等の効果を示す。
【0029】
本発明〈1〉に係るエッチング剤に於ける(B)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤の使用濃度は、同エッチング剤中の濃度として、通常0.1〜3重量%、好ましくは0.2〜2重量%、より好ましくは0.3〜1重量%、更に好ましくは0.4〜0.8重量%である。
【0030】
本発明〈2〉に係るエッチング剤に於ける(B)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤の使用濃度は、同エッチング剤中の濃度として、通常0.1重量%〜3重量%、好ましくは0.1重量%〜2重量%、より好ましくは0.15重量%〜1重量%、更に好ましくは0.2重量%〜0.6重量%である。
【0031】
尚、これらの(B)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤は、市販のものを用いれば足りる。
【0032】
本発明のエッチング剤に係る(C)塩基性化合物は、(c−1)無機アルカリ及び(c−2)有機アミンから選ばれるものを意味するが、本発明〈1〉に係るエッチング剤に於いては、当該塩基性化合物は、無機アルカリであることが求められる。当該無機アルカリは、溶液のpHを所定の範囲に維持すると共に過酸化水素で酸化されたTi膜、W膜やTiW合金膜等の酸化物を溶解させる目的のために用いられるものである。本発明〈1〉に係るエッチング剤に於ける(c−1)無機アルカリの具体例としては、例えばアンモニア、例えば水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物等が挙げられ、中でもアルカリ金属水酸化物が好ましく、就中水酸化カリウムがより好ましい。
【0033】
一方、本発明〈2〉に係るエッチング剤に於ける(c−1)無機アルカリの具体例としては、例えばアンモニア、例えば水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物等が挙げられ、中でもアルカリ金属水酸化物が好ましく、その中でも水酸化ナトリウムがより好ましい。
【0034】
本発明のエッチング剤に係る(c−2)有機アミンは、本発明〈2〉に係るエッチング剤のみに用いられ、上記(c−1)無機アルカリと同様に溶液のpHを所定の範囲に維持すると共に過酸化水素で酸化されたW膜やTiW合金膜等の酸化物を溶解させる目的のために用いられるものである。当該有機アミンの具体例としては、例えばテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、水酸化コリン等が挙げられ、中でもテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)が好ましい。
【0035】
本発明〈2〉に係るエッチング剤に於いては、上記(c−1)無機アルカリ及び(c−2)有機アミンから選ばれる少なくとも1種以上の塩基性化合物であればよいが、中でも水酸化ナトリウム及びテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)から選ばれる少なくとも1種以上の塩基性化合物が好ましく、その中でも水酸化ナトリウム又はテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)の何れかを単独で用いることがより好ましい。水酸化ナトリウムやテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)は、水溶液中でナトリウムイオン又は4級アンモニウムイオンのようなモル電気伝導度の小さい(水和半径の大きい)イオンが発生し、当該イオンがタングステンよりもイオン化傾向の低い金属(低イオン化傾向金属)に接触することにより、当該金属表面での水素イオンへの電子の受渡が抑制され、ひいてはタングステンの溶解(Galvanic腐食)が抑制され易くなるという点で好ましい。
【0036】
本発明〈1〉に係るエッチング剤に於ける(c−1)無機アルカリの使用濃度は、使用する無機アルカリの種類、(B)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤、後述する(D−1)銅防食剤の種類と添加量により異なるが、同エッチング剤中の濃度として、通常0.2〜12重量%、好ましくは0.5〜10重量%、より好ましくは0.8〜4重量%である。
【0037】
本発明〈2〉に係るエッチング剤に於ける(c−1)無機アルカリの使用濃度は、使用する無機アルカリの種類、(B)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤及び後述する(D−2)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤以外の酸化力を有さない2種以上のアニオン種の種類並びに添加量、溶液のpH等により異なるが、同エッチング剤中の濃度として、通常0.1重量%〜5重量%、好ましくは0.2重量%〜4重量%、より好ましくは0.2重量%〜2重量%である。
【0038】
本発明〈1〉に係るエッチング剤に於ける(D−1)銅防食剤は、本発明のエッチング剤のなかでも、本発明〈1〉に係るエッチング剤に好ましく用いられ、当該銅防食剤としては、この分野で通常用いられるものであればよく、例えばエピハロヒドリン変性ポリアミド、ベンゾトリアゾール化合物、ヒドロキシカルボン酸、含窒素環化合物等が挙げられる。
【0039】
(D−1)銅防食剤として挙げられるエピハロヒドリン変性ポリアミドとしては、例えばジアミノアルキルアミンとジカルボン酸とを反応させることにより得られる重縮合物に於ける主鎖中に存在する−NH−基の水素原子の一部又は全部が、下記一般式[1]

【0040】
(式中、Xはハロゲン原子を表す。)で示される基とグリシジル基の何れか一方又は両方で置換されたもの等が挙げられる。
【0041】
当該重縮合物としては、例えば一般式[2]

【0042】
{式中、Rは炭素数1〜6のアルキレン基、アリーレン基又は一般式[3]

【0043】
(式中、Rは炭素数1〜6のアルキレン基を表す。)で示される基を表し、R及びRは夫々独立して、炭素数1〜6のアルキレン基を表す。}で示される繰り返し単位を有するもの等が挙げられる。
【0044】
(D−1)銅防食剤として挙げられるエピハロヒドリン変性ポリアミドの具体例としては、例えば一般式[4]

【0045】
(式中、R、R、R及びXは上記に同じ。)で示される繰り返し単位と一般式[5]

【0046】
(式中、R、R、R及びXは上記に同じ。)で示される繰り返し単位の何れか一方又は両方、或いはこれらと上記一般式[2]で示される繰り返し単位の組み合わせからなるもの等が挙げられる。尚、上記一般式[4]で示される繰り返し単位は、例えば加熱処理等により互変異性され、一般式[6]

【0047】
(式中、R、R、R及びXは上記に同じ。)で示される繰り返し単位の構造をとる場合もあるため、単に一般式[4]で示される繰り返し単位と記載した場合でも、これと一般式[6]で示される繰り返し単位が混在する場合を含んでいる。
【0048】
一般式[1]及び[4]に於いて、Xで示されるハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、中でも塩素原子が好ましい。
【0049】
一般式[2]及び[4]〜[5]に於いて、R、R及びRで示される炭素数1〜6のアルキレン基としては、直鎖状、分枝状或いは環状の何れでもよく、通常炭素数1〜6のものが挙げられ、具体的には、例えばメチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等の直鎖状アルキレン基、例えばプロピレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチルメチレン基、メチルエチレン基、メチルテトラメチレン基、エチルテトラメチレン基等の分枝状アルキレン基、例えばシクロプロピレン基、シクロペンチレン基、シクロへキシレン基等の環状アルキレン基等が挙げられ、中でもテトラメチレン基が好ましい。
【0050】
で示されるアリーレン基としては、通常炭素数6〜10のものが挙げられ、例えばフェニレン基、ナフチレン基等が挙げられる。
【0051】
一般式[3]に於いて、Rで示される炭素数1〜6のアルキレン基としては、直鎖状、分枝状或いは環状の何れでもよく、通常炭素数1〜6、好ましくは1〜3のものが挙げられ、具体的には、例えばメチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等の直鎖状アルキレン基、例えばプロピレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチルメチレン基、メチルエチレン基、メチルテトラメチレン基、エチルテトラメチレン基等の分枝状アルキレン基、例えばシクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロへキシレン基等の環状アルキレン基等が挙げられ、中でも、例えばメチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、ジメチルメチレン基等の炭素数1〜3のものが好ましい。
【0052】
(D−1)銅防食剤として挙げられるエピハロヒドリン変性ポリアミドは、市販品を用いても常法により適宜合成してもよいが、例えば対応するジカルボン酸又はその誘導体とジアミノアルキルアミン又はその誘導体と反応させることにより得られる繰り返し単位を有する高分子ポリアミドに例えばエピクロロヒドリン等のエピハロヒドリンを反応させることによって製造することができる。
【0053】
当該エピハロヒドリン変性ポリアミドの市販品としては、例えばエピハロヒドリン変性ポリアミドを含有する水溶液である、ユーラミンP−5500〔商品名:三井化学(株)社製〕(分子量4,000〜5,000のエピハロヒドリン変性ポリアミドを12.5重量%含有する水溶液)、ユーラミンP−5600〔商品名:三井化学(株)社製〕(分子量2,000〜3,000のエピハロヒドリン変性ポリアミドを30.0重量%含有する水溶液)、WS−4020〔商品名:星光PMC(株)社製〕(分子量400,000〜600,000のエピハロヒドリン変性ポリアミドを25重量%含有する水溶液)等が挙げられる。
【0054】
(D−1)銅防食剤として挙げられるエピハロヒドリン変性ポリアミドの分子量は、通常約2,000〜1,000,000、好ましくは2,000〜800,000、より好ましくは3,000〜600,000である。
【0055】
本発明〈1〉に係るエッチング剤に於ける(D−1)銅防食剤として挙げられるベンゾトリアゾール化合物としては、ベンゾトリアゾール及びその誘導体が挙げられる。ベンゾトリアゾール誘導体としては、ベンゾトリアゾール環に、例えばカルボキシル基、例えばメチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜3のアルキル基、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子等の置換基を有するものが挙げられ、具体的には、例えば4-カルボキシベンゾトリアゾール、5-カルボキシベンゾトリアゾール、5-メチルベンゾトリアゾール、5-クロロベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0056】
本発明〈1〉に係るエッチング剤に於ける(D−1)銅防食剤として挙げられるヒドロキシカルボン酸としては、例えばクエン酸、イソクエン酸等のヒドロキシトリカルボン酸、例えばグリコール酸、乳酸、グリセリン酸、タルトロン酸、リンゴ酸、酒石酸、メバロン酸、パントイン酸等のヒドロキシカルボン酸等が挙げられる。
【0057】
本発明〈1〉に係るエッチング剤に於ける(D−1)銅防食剤として挙げられる含窒素環化合物としては、例えば核酸塩基が挙げられ、具体的には、例えばアデニン、グアニン、2-アミノプリン、グアノシン等のプリン誘導体、例えばシトシン、チミン、ウラシル、6-メチルウラシル、5-エチルウラシル等のピリミジン誘導体、例えばキナルジン酸等のヘテロ環含有カルボン酸類、例えばシステアミン塩酸塩等のアミノ酸類、ビピリジル等が挙げられる。尚、これらの銅防食剤は2種以上を適宜混合して用いてもよい。
【0058】
これら(D−1)銅防食剤の中でも、例えばエピハロヒドリン変性ポリアミド、ベンゾトリアゾール(BTA)、クエン酸、アデニン等が好ましい。
【0059】
本発明〈1〉に係るエッチング剤に於ける(D−1)銅防食剤の使用濃度は、銅防食剤として使用し得る濃度以上であれば特に問題はないが、具体的には、同エッチング剤中の濃度として、通常0.05〜5重量%、好ましくは0.05〜2重量%、より好ましくは0.08〜1.5重量%である。
【0060】
本発明〈2〉に係るエッチング剤に於ける(D−2)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤以外の酸化力を有さない2種以上のアニオン種0.01重量%〜3重量%は、本発明のエッチング剤のなかでも、タングステンよりもイオン化傾向の低い金属バンプ又は金属配線が形成された半導体基板上のW系金属膜用エッチング剤に用いられる。当該アニオン種は、水溶液中でカチオンとアニオンとに解離し得る化合物に由来するアニオン種を意味し、より具体的には無機酸或いは有機酸が水溶液中で解離した際に生じるアニオン、すなわち、無機酸或いは有機酸由来のアニオン種を意味する。尚、ここでいうアニオン種には、(C)(c−1)無機アルカリ及び(c−2)有機アミンから選ばれる少なくとも1種以上の塩基性化合物から発生する水酸化物イオンは含まれない。
【0061】
当該無機酸由来のアニオン種としては、具体的には、例えば硫酸イオン、亜硫酸イオン、塩化物イオン、リン酸イオン、亜リン酸イオン、次亜リン酸イオン等が挙げられ、中でも硫酸イオン、塩化物イオン、リン酸イオンが好ましい。
【0062】
当該有機酸由来のアニオン種としては、具体的には、例えば炭酸イオン、例えば酢酸イオン等のモノカルボン酸イオン、例えばクエン酸イオン、イソクエン酸イオン等のヒドロキシトリカルボン酸イオン、例えばグリコール酸イオン、乳酸イオン、グリセリン酸イオン、タルトロン酸イオン、リンゴ酸イオン、酒石酸イオン、メバロン酸イオン、パントイン酸イオン等のヒドロキシカルボン酸イオン等が挙げられ、中でも炭酸イオン、酢酸イオン、クエン酸イオン、リンゴ酸イオンが好ましく、その中でもクエン酸イオン、リンゴ酸イオンがより好ましい。
【0063】
(D−2)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤以外の酸化力を有さない2種以上のアニオン種の使用濃度は、本発明〈2〉に係るエッチング剤中の濃度として、0.01重量%〜3重量%であることが求められるが、中でも0.02重量%〜1重量%が好ましく、その中でも0.03重量%〜0.5重量%がより好ましく、更にその中でも0.03重量%〜0.3重量%が特に好ましい。特にアニオン種の使用濃度を0.3重量%以下に抑えることにより、本発明の目的とする効果がより確実に得られる。
【0064】
(D−2)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤以外の酸化力を有さない2種以上のアニオン種は、本発明〈2〉に係るエッチング剤に於ける溶液(水溶液)のpHを一定に保つ、いわゆる緩衝剤としての作用と本発明の目的とする効果の一つであるGalvanic腐食を抑制できるという2つの作用を有する。この緩衝剤としての作用とGalvanic腐食を抑制する作用を奏するには、本発明〈2〉に係るエッチング剤の水溶液中に於けるアニオン種の総重量%が重要となり、あまりに少なすぎると緩衝剤としての機能を奏さず、一方、あまりに多すぎると逆にGalvanic腐食を促進するので、上でも少し述べたように、当該アニオン種の使用濃度は、少なくとも0.01重量%〜3重量%であることが求められる。
【0065】
(D−2)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤以外の酸化力を有さない2種以上のアニオン種0.01重量%〜3重量%の中でも、硫酸イオン、亜硫酸イオン、塩化物イオン、リン酸イオン、亜リン酸イオン及び次亜リン酸イオンから選ばれる少なくとも1種以上の無機酸由来のアニオン種0.0001重量%〜0.5重量%と、クエン酸イオン及びリンゴ酸イオンから選ばれる少なくとも1種以上の有機酸由来のアニオン種0.0099重量%〜2.5重量%との組み合わせ、炭酸イオン、酢酸イオン、クエン酸イオン及びリンゴ酸イオンから選ばれる何れか1種の有機酸由来のアニオン種0.0001重量%〜0.5重量%と、上記選択の有機酸由来のアニオン種以外のものであって、かつクエン酸イオン又はリンゴ酸イオンから選ばれる有機酸由来のアニオン種0.0099重量%〜2.5重量%との組み合わせや、硫酸イオン、亜硫酸イオン及び塩化物イオンから選ばれる少なくとも1種以上の無機酸由来のアニオン種0.0001重量%〜0.5重量%と、リン酸イオン、亜リン酸イオン及び次亜リン酸イオンから選ばれる少なくとも1種以上の無機酸由来のアニオン種0.0099重量%〜2.5重量%との組み合わせ等が好適に用いられる。
【0066】
本発明〈2〉に係るエッチング剤に於いては、異なる2種以上のアニオン種が、少なくとも1種は異種金属接触腐食(Galvanic腐食)を抑制する作用を有するアニオン種と、更に少なくとも1種は緩衝剤として作用するアニオン種とを組み合わせて用いることで本発明の目的とする効果の1つである異種金属接触腐食(Galvanic腐食)をより確実に抑制することができる。尚、異種金属接触腐食(Galvanic腐食)を抑制する作用を有するアニオン種としては、硫酸イオン、亜硫酸イオン、塩化物イオン、リン酸イオン、亜リン酸イオン及び次亜リン酸イオンから選ばれる少なくとも1種以上の無機酸由来のアニオン種、並びに炭酸イオン、酢酸イオン、クエン酸イオン及びリンゴ酸イオンから選ばれる少なくとも1種以上の有機酸由来のアニオン種を好ましく挙げることができ、緩衝剤として作用するアニオン種としては、リン酸イオン、亜リン酸イオン及び次亜リン酸イオンから選ばれる少なくとも1種以上の無機酸由来のアニオン種、並びにクエン酸イオン及びリンゴ酸イオンから選ばれる少なくとも1種以上の有機酸由来のアニオン種を好ましく挙げることができる。また、何れの目的にも使用可能なものとして、リン酸イオン、亜リン酸イオン、次亜リン酸イオン、クエン酸イオン、リンゴ酸イオンを好ましく挙げることができる。
【0067】
当該異種金属接触腐食(Galvanic腐食)を抑制する作用として働くアニオン種は、少量である必要があり、具体的な使用濃度は、本発明〈2〉に係るエッチング剤中の濃度として、通常0.0001重量%〜0.5重量%、好ましくは0.001重量%〜0.2重量%、より好ましくは0.002重量%〜0.2重量%である。0.5重量%を超える量を用いると、エッチング剤中の電解質濃度が高くなりすぎて電子の受渡が起こり易くなる環境となり、逆に異種金属接触腐食(Galvanic腐食)を促進することになるので好ましくない。このようなアニオン種は、水酸化物イオンによるW系金属膜表面に形成される電気二重層を維持しつつ電気的な影響を広範囲に分散させることができる作用を奏する。
【0068】
一方、緩衝剤として作用するアニオン種の具体的な使用濃度は、本発明〈2〉に係るエッチング剤中の濃度として、通常0.0099重量%〜2.5重量%、好ましくは0.019重量%〜0.8重量%、より好ましくは0.028重量%〜0.3重量%、更に好ましくは0.028重量%〜0.1重量%である。これら緩衝剤として作用するアニオン種と上記異種金属接触腐食(Galvanic腐食)を抑制する作用として働くアニオン種の合算値が、上記ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤以外の酸化力を有さない2種以上のアニオン種の使用濃度となる。上でも少し述べたように異種金属接触腐食(Galvanic腐食)を抑制する作用として働くアニオン種の使用濃度を0.002重量%〜0.2重量%とし、緩衝作用として働くアニオン種の使用濃度を極力抑え、0.028重量%〜0.1重量%の範囲内とすれば、緩衝作用を保たせつつ、より確実に異種金属接触腐食(Galvanic腐食)を抑制することができるのである。
【0069】
これらの(D−2)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤以外の酸化力を有さない2種以上のアニオン種の供給形態は、水溶液中で解離し当該アニオン種となるものであれば特に限定されず、例えば硫酸、亜硫酸、塩酸、リン酸、炭酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸等の無機酸或いは有機酸として供給してもよいし、硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム等の無機酸或いは有機酸の塩の形態で供給しても差し支えないが、本発明〈2〉に係るエッチング剤に於いては、エッチング剤中のカチオン種の種類が重要となってくる場合があるため、塩で供給する場合には、ナトリウム塩又は4級アンモニウム塩の形態で供給するのが好ましい。
【0070】
本発明〈1〉に係るエッチング剤に添加される「銅防食剤」である、クエン酸やリンゴ酸等は、本発明〈2〉に係るエッチング剤に於ける「ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤以外の酸化力を有さない2種以上のアニオン種」に含まれるが、これらを「銅防食剤」として用いる場合には「銅防食剤」として作用し得る濃度範囲で添加され、「ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤以外の酸化力を有さない2種以上のアニオン種」として用いる場合には、「異種金属接触腐食(Galvanic腐食)抑制作用」と「緩衝剤」として作用し得る濃度範囲で添加されている。そのため、本発明〈1〉及び〈2〉に係るエッチング剤に於いては、クエン酸やリンゴ酸等は、その添加量によっては、「銅防食剤」と「ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤以外の酸化力を有さない2種以上のアニオン種」としての作用を呈する場合もある。このように双方の目的のためにこれらクエン酸やリンゴ酸等を添加することは排除されるものではない。すなわち、本発明〈1〉に係るエッチング剤に於いて、「銅防食剤」に加えて「ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤以外の酸化力を有さない2種以上のアニオン種」のうちのクエン酸等のヒドロキシトリカルボン酸やリンゴ酸等のヒドロキシカルボン酸を併用してもよいが、「銅防食剤」と当該ヒドロキシトリカルボン酸やヒドロキシカルボン酸との合計の使用濃度が、上で述べたような「銅防食剤」の濃度範囲に設定することが望ましい。一方、本発明〈2〉に係るエッチング剤に於いて、「ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤以外の酸化力を有さない2種以上のアニオン種」に加えて「銅防食剤」を併用してもよいが、後述するように、銅防食剤としての「水溶液中で解離して当該アニオン種を発生するような化合物」は使用しないことが望ましく、使用する場合であっても、アニオン種の総重量%が上記範囲内となるような濃度に設定する必要がある。
【0071】
ここまで述べてきたように、本発明〈1〉に係るエッチング剤は、少なくとも(A)過酸化水素、(B)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤、(c−1)無機アルカリ及び(D−1)銅防食剤を含む溶液からなる半導体基板用エッチング剤であり、一方、本発明〈2〉に係るエッチング剤は、(A)過酸化水素、(B)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤、(C)(c−1)無機アルカリ及び(c−2)有機アミンから選ばれる少なくとも1種以上の塩基性化合物並びに(D−2)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤以外の酸化力を有さない2種以上のアニオン種0.01重量%〜3重量%を含んでなる溶液からなる半導体基板用エッチング剤である。
【0072】
本発明〈1〉に係るエッチング剤は、少なくとも(A)過酸化水素、(B)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤、(c−1)無機アルカリ及び(D−1)銅防食剤を含むものであり、当該溶液は、通常pHが7〜10、好ましくは8〜9.5、より好ましくは8.5〜9.2の範囲になるように調整・維持される。
【0073】
当該溶液のpHが高過ぎる場合には、例えば過酸化水素の安定性の低下、周辺金属(Al等)及び半導体基板(Si等)の腐食の増加等の問題を引き起こし、またpHが低過ぎる場合には、例えばTiエッチング速度の低下、キレート剤の錯形成能の低下、TiW合金のTi及びWのエッチング速度のバランス悪化、エッチング残渣の発生、サイドエッチの増加等の問題を引き起こすため、上記の如き範囲のpHに調整・維持するのが好ましい。
【0074】
必要に応じて、本発明に係る溶液を上記pHの範囲に維持する目的のために、通常この分野で用いられるpH調整剤を用いてもよい。上記無機アルカリの他に更に必要に応じて、例えば溶液の安定性を向上させる目的として、pH調整剤を用いてもよい。
【0075】
当該pH調整剤としては、例えばホウ酸、硝酸、塩酸、硫酸、フッ酸等が挙げられる。尚、これらのpH調整剤は2種以上を適宜混合して用いてもよい。また、当該pH調整剤の使用濃度は、本発明〈1〉に係るエッチング剤中の濃度として、通常0.05〜4重量%、好ましくは0.2〜3重量%、より好ましくは1〜2重量%である。
【0076】
本発明〈2〉に係るエッチング剤は、少なくとも(A)過酸化水素、(B)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤、(C)(c−1)無機アルカリ及び(c−2)有機アミンから選ばれる少なくとも1種以上の塩基性化合物並びに(D−2)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤以外の酸化力を有さない2種以上のアニオン種0.01重量%〜3重量%を含むものであり、当該溶液は、通常pHが6〜10、好ましくは6〜9、より好ましくは7〜8.5の範囲になるように調整・維持される。
【0077】
当該溶液のpHが高過ぎる場合には、例えば過酸化水素の安定性の低下、周辺金属(Al等)及び半導体基板(Si等)の腐食の増加等の問題を引き起こし、またpHが低過ぎる場合には、例えばWエッチング速度の低下、ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤の錯形成能の低下、TiW合金のTi及びWのエッチング速度のバランス悪化、エッチング残渣の発生、サイドエッチの増加等の問題を引き起こすため、上記の如き範囲のpHに調整・維持するのが好ましい。
【0078】
本発明〈2〉に係るエッチング剤に於いては、溶液中のアニオン種の総重量%が重要となるため、上記(C)(c−1)無機アルカリ及び(c−2)有機アミンから選ばれる少なくとも1種以上の塩基性化合物や(D−2)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤以外の酸化力を有さない2種以上のアニオン種の濃度範囲が0.01重量%〜3重量%の範囲内でpHを上記の如き範囲に調整・維持するのが好ましい。すなわち、本発明〈2〉に係るエッチング剤に於いては、アニオン種の濃度範囲が重要となるので、(D−2)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤以外の酸化力を有さない2種以上のアニオン種以外の、水溶液中で解離して当該アニオン種を発生するような化合物等は使用しないことが望ましい。
【0079】
本発明に係るエッチング剤は、(A)過酸化水素、(B)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤及び(C)塩基性化合物と、(D−1)銅防食剤又は/及び(D−2)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤以外の酸化力を有さない2種以上のアニオン種0.01重量%〜3重量%を上記した如き濃度となるように、水に混合溶解することにより調製することができる。尚、各成分は適宜の順序で水に順次添加混合しても、全ての成分を添加した後、水に溶解させてもよい。このようにして調製した本発明のエッチング剤は使用前に濾過処理等を行うのが好ましい。また、ここで用いられる水は、蒸留、イオン交換処理等により精製された蒸留水、精製水、イオン交換水、超純水等であればよい。
【0080】
本発明〈1〉に係るエッチング剤に於いては、(A)過酸化水素、(B)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤、(c−1)無機アルカリ及び(D−1)銅防食剤を用いる以外は、自体公知のエッチング方法で通常用いられる試薬類を使用することができる。
【0081】
このような試薬類としては、例えば、溶液の表面張力を低減させて半導体表面への濡れ性を改善する目的で用いられるノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤等の界面活性剤等が挙げられ、中でもNCW1002(ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、和光純薬工業(株)社製)等のノニオン性界面活性剤が特に好ましい。これら界面活性剤は、通常この分野で使用される濃度範囲で用いればよく、本発明〈1〉に係るエッチング剤中の濃度として、通常0.001〜1重量%、好ましくは0.01〜0.5重量%である。
【0082】
一方、本発明〈2〉に係るエッチング剤に於いては、(A)過酸化水素、(B)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤、(C)(c−1)無機アルカリ及び(c−2)有機アミンから選ばれる少なくとも1種以上の塩基性化合物並びに(D−2)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤以外の酸化力を有さない2種以上のアニオン種0.01重量%〜3重量%を用いる以外に、界面活性剤等を使用することも可能ではあるが、上でも少し述べたように、当該エッチング剤に於ける溶液中でのアニオン種の総重量%が重要となるため、この重量%に影響を及ぼすような他の成分を含有させない方が望ましい。
【0083】
本発明〈2〉に係るエッチング剤に於いて要すれば使用される界面活性剤としては、例えば、溶液の表面張力を低減させて半導体表面への濡れ性を改善する目的で用いられるノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤等の界面活性剤等が挙げられるが、これらの界面活性剤のうち、水溶液中で解離せずアニオン種を発生しない化合物を用いることが好ましいことは言うまでもない。また、これら界面活性剤の使用量としては、本発明〈2〉に係るエッチング剤中の濃度として、通常0.001重量%〜1重量%、好ましくは0.01重量%〜0.5重量%である。
【0084】
本発明のエッチング剤は、上記したように、(A)過酸化水素、(B)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤及び(C)塩基性化合物と、(D−1)銅防食剤又は/及び(D−2)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤以外の酸化力を有さない2種以上のアニオン種0.01重量%〜3重量%を、その主要成分として用いて調製されたものであり、1液系或いは2液系等の多液系等種々の形態で供給される。尚、当該エッチング剤を使用するに当たっては、1液系の場合には、そのまま用いればよく、また、2液系等の多液系の場合には、使用前に全ての溶液を適宜混合して上記した如き成分を全て含む溶液を調製し、これを用いればよい。
【0085】
なかでも、輸送中や保存中等に於ける安全性或いは溶液の安定性等の問題から、2液系以上の多液系、特に安定性・簡便性の点から2液系が好ましく、具体的には、例えば過酸化水素の分解によるエッチング液の性能低下の抑制、塩基性化合物(アルカリ化合物)と共存させることによる過酸化水素の不安定性を回避する観点から、(1)過酸化水素を含有する溶液と、(2)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤及び塩基性化合物と、銅防食剤又は/及びヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤以外の酸化力を有さない2種以上のアニオン種を含む溶液からなるエッチング剤調製液(以下、「本発明に係るエッチング剤調製液」と略記する場合がある。)とからなる、2液系のものが好ましい。
【0086】
上記した如き2液系等の多液系の各溶液中の各成分の使用濃度は、全ての溶液を適宜混合して調製された、当該成分を全て含む溶液中の濃度、すなわち、最終濃度が、前述した如き濃度範囲となるように適宜選択して、各溶液中に含有させればよい。すなわち、例えば本発明〈1〉に係るエッチング剤を2液系とする場合には、過酸化水素10〜50重量%、好ましくは15〜30重量%、より好ましくは15〜26重量%、更に好ましくは20〜26重量%を含んでなる溶液(第1液)と、ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤0.1〜3重量%、好ましくは0.2〜2重量%、より好ましくは0.3〜1重量%、更に好ましくは0.4〜0.8重量%、無機アルカリ0.2〜12重量%、好ましくは0.5〜10重量%、より好ましくは0.8〜4重量%及び銅防食剤0.05〜5重量%、好ましくは0.05〜2重量%、より好ましくは0.08〜1.5重量%を含む溶液からなるエッチング剤調製液(第2液)を、混合比(重量比)〔第1液:第2液〕が通常1:9〜98:2、好ましくは4:6〜9:1、より好ましくは6:4〜8:2となるように適宜混合させ、調製された当該成分を全て含む溶液中の濃度、すなわち、最終濃度が、過酸化水素が、通常10〜35重量%、好ましくは15〜30重量%、より好ましくは15〜26重量%、更に好ましくは20〜26重量%、ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤が、通常0.1〜3重量%、好ましくは0.2〜2重量%、より好ましくは0.3〜1重量%、更に好ましくは0.4〜0.8重量%、無機アルカリが、通常0.2〜12重量%、好ましくは0.5〜10重量%、より好ましくは0.8〜4重量%、銅防食剤が、通常0.05〜5重量%、好ましくは0.05〜2重量%、より好ましくは0.08〜1.5重量%となるように、2つの溶液を夫々調製すればよい。
【0087】
また、本発明〈2〉に係るエッチング剤を2液系とする場合には、過酸化水素10重量%〜35重量%、好ましくは20重量%〜35重量%、より好ましくは24重量%〜35重量%、更に好ましくは30重量%〜35重量%を含んでなる溶液(第1液)と、ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤0.1重量%〜30重量%、好ましくは0.1重量%〜20重量%、より好ましくは0.15重量%〜10重量%、更に好ましくは0.2重量%〜6重量%、無機アルカリ及び有機アミンから選ばれる少なくとも1種以上の塩基性化合物0.1重量%〜48重量%、好ましくは0.1重量%〜30重量%、より好ましくは0.1重量%〜20重量%、並びにヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤以外の酸化力を有さない2種以上のアニオン種0.01重量%〜6重量%、好ましくは0.02〜2重量%、より好ましくは0.03〜1重量%、更に好ましくは0.03〜0.6重量%を含む溶液からなるエッチング剤調製液(第2液)を、混合比(重量比)〔第1液:第2液〕が通常30:70〜99:1、好ましくは60:40〜95:5、より好ましくは80:20〜95:5となるように適宜混合させ、調製された当該成分を全て含む溶液中の濃度、すなわち、最終濃度が、過酸化水素が、通常10重量%〜35重量%、好ましくは15重量%〜35重量%、より好ましくは20重量%〜35重量%、更に好ましくは24重量%〜32重量%、ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤が、通常0.1重量%〜3重量%、好ましくは0.1重量%〜2重量%、より好ましくは0.15重量%〜1重量%、更に好ましくは0.2〜0.6重量%、無機アルカリ及び有機アミンから選ばれる少なくとも1種以上の塩基性化合物が、通常0.1重量%〜5重量%、好ましくは0.2重量%〜4重量%、より好ましくは0.2重量%〜2重量%、並びにヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤以外の酸化力を有さない2種以上のアニオン種が、通常0.01重量%〜3重量%、好ましくは0.02〜1重量%、より好ましくは0.03〜0.5重量%、更に好ましくは0.03重量%〜0.3重量%となるように、2つの溶液を夫々調製すればよい。
【0088】
また、同様に上記した如き2液系に於ける各溶液のpHも特に限定されず、全ての溶液を適宜混合して調製された上記した如き成分を全て含む溶液のpH、すなわち、最終pHが、前述した如きpHの範囲となるように、各溶液のpHを調整すればよい。言い換えれば、例えば上記した如き2液系の場合には、2液を混合した際の最終pHが、本発明〈1〉に係るエッチング剤に於いては、通常pH7〜10、好ましくはpH8〜9.5、より好ましくはpH8.5〜9.2となるように、夫々の溶液のpHを調整すればよく、本発明〈2〉に係るエッチング剤に於いては、通常pH6〜10、好ましくはpH6〜9、より好ましくはpH7〜8.5となるように、夫々の溶液のpHを調整すればよい。
【0089】
本発明〈1〉に係るエッチング剤に於けるエッチング方法は、少なくとも(A)過酸化水素、(B)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤、(c−1)無機アルカリ及び(D−1)銅防食剤を含む溶液からなるエッチング剤と半導体基板上のTi系金属膜を接触させる等により、当該基板を本発明〈1〉に係るエッチング剤で処理すればよい。
【0090】
本発明〈2〉に係るエッチング剤に於けるエッチング方法は、少なくとも(A)過酸化水素、(B)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤、(C)(c−1)無機アルカリ及び(c−2)有機アミンから選ばれる少なくとも1種以上の塩基性化合物並びに(D−2)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤以外の酸化力を有さない2種以上のアニオン種0.01重量%〜3重量%を含む溶液からなるエッチング剤と半導体基板上のW系金属膜を接触させる等により、当該基板を本発明〈2〉に係るエッチング剤で処理すればよい。
【0091】
すなわち、本発明のエッチング方法は、上記した如き本発明に係るエッチング剤を用いて基板をエッチングする以外は、自体公知のエッチング方法であるディップ法やスプレーエッチ法等に準じてこれを行えばよい。
【0092】
また、本発明のエッチング方法に於いては、本発明のエッチング剤調製液(すなわち、ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤及び塩基性化合物と、銅防食剤又は/及びヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤以外の酸化力を有さない2種以上のアニオン種を含む溶液からなるエッチング剤調製液)を用いて、これと過酸化水素を含んでなる溶液とを、使用時に適宜混合して、上記した如き成分を全て含む溶液(エッチング剤)を調製して用いてもよい。
【0093】
自体公知のエッチング方法の具体例としては、例えば(1)Ti系金属膜或いはW系金属膜を形成させた半導体基板をエッチング剤に浸漬させる方法、(2)Ti系金属膜或いはW系金属膜を形成させた半導体基板をエッチング剤に浸漬させた状態で該溶液を機械的手段で攪拌する方法、(3)Ti系金属膜或いはW系金属膜を形成させた半導体基板をエッチング剤に浸漬させた状態で超音波等にて該溶液を振動させ攪拌する方法、(4)エッチング剤をTi系金属膜或いはW系金属膜を形成させた半導体基板に吹き付ける方法等が挙げられる。
【0094】
尚、本発明の方法に於いて、上記した如きエッチングを行う際には、必要に応じてTi系金属膜或いはW系金属膜を形成させた半導体基板を揺動させてもよい。
【0095】
また、本発明の方法に於いて、エッチング方式は特に限定されず、例えばバッチ式、枚葉式等が使用できる。
【0096】
本発明〈1〉に係るエッチング剤及びエッチング方法が適用されるTi系金属膜を形成させた半導体基板としては、例えば当該Ti系金属膜を形成させた半導体基板上にCu配線が施された基板等が挙げられる。
【0097】
本発明〈1〉に係るエッチング剤を用いる工程に係るPbフリーはんだを構成する金属としては、スズ(Sn)を主成分とするSn合金であり、例えば銀(Ag)、ビスマス(Bi)、インジウム(In)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、アンチモン(Sb)、金(Au)等から選ばれる1種以上の金属とSnからなる合金が挙げられる。Pbフリーはんだの具体例としては、例えばSn−Ag系、Sn−Ag−Bi−In系、Sn−Ag−Bi系、Sn−Cu系、Sn−Cu−Ag系、Sn−Ag−Bi−Cu系、Sn−Cu−Ni系、Sn−Zn系、Sn−Zn−Bi系、Sn−Zn−Al系、Sn−Zn−In系、Sn−Bi系、Sn−Bi−In系、Sn−Sb系、Sn−In系、Sn−Au系等が挙げられ、中でもSn−Cu系、Sn−Ag系、Sn−Cu−Ag系等が好ましく、就中Sn−Cu系がより好ましい。
【0098】
本発明〈1〉に係るエッチング剤及びエッチング方法は、本発明に係る半導体基板、すなわち、Ti系金属膜を形成させた半導体基板、特に当該Ti系膜上にCu配線が施された半導体基板上に、Pbフリーはんだバンプを製造させる基板の工程に好適に使用される。
【0099】
Pbフリーはんだバンプを形成する方法としては、通常この分野で用いられる方法により行えばよく、例えば本発明に係る半導体基板、すなわち、Ti系金属膜を形成させた半導体基板上に、必要に応じてレジストの塗布などによりパターンを形成させた後、Pbフリーはんだを構成する金属から選ばれる1種以上の金属膜を積層させ、その後Pbフリーはんだを構成する金属をめっき処理し、更に加熱等の当分野に於ける常法に従って処理すればよい。
【0100】
また、当該Ti系金属膜上に更にCu配線が施されている基板を用いる場合は、Cu配線とPbフリーはんだバンプを構成するSn合金との接着性を高めるためにCu配線上に例えばNi膜、Cr膜等が形成されていてもよい。
【0101】
一方、本発明〈2〉に係るエッチング剤及びエッチング方法が適用されるW系金属膜を形成させた半導体基板としては、例えば当該W系金属膜を形成させた半導体基板の上部にタングステンよりもイオン化傾向の低い金属バンプ又は金属配線が施された基板等が挙げられる。
【0102】
本発明〈2〉に係るエッチング剤を用いる工程に係るタングステンよりもイオン化傾向の低い金属バンプ又は金属配線を構成する金属としては、金(Au)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、スズ(Sn)又はこれらの合金或いは、これらの金属を主成分とする合金であり、タングステンよりもイオン化傾向が低いため、異種金属接触腐食(Galvanic腐食)の原因となる金属バンプ又は金属配線を構成するものである。また、これらの金属バンプ又は金属配線のなかでも、金(Au)バンプ又は金(Au)配線が好ましい。
【0103】
当該金属バンプ又は金属配線を形成する方法としては、通常この分野で実施される方法により行えばよく、具体的には、例えば本発明に用いられる半導体基板、すなわち、W系金属膜を形成させた半導体基板上に、レジスト等で回路を形成後、鍍金、化学気相蒸着等で処理すればよい。
【0104】
尚、当該W系金属膜上に、例えば金バンプが形成された基板を用いる場合には、W系金属膜と当該バンプとの接着性を高めるためにこれらの間に、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、銅(Cu)膜等の導体・接着部位が存在していてもよい。
【0105】
本発明に用いられる半導体基板としては、例えばシリコン、非晶性シリコン、ポリシリコン、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜等のシリコン材料、ガリウム−砒素、ガリウム−リン、インジウム−リン等の化合物半導体等からなるものが挙げられる。中でも、本発明のエッチング剤及びエッチング方法は、シリコン系材料からなる半導体基板に好適に使用される。
【0106】
銅配線が形成された半導体基板上のTi系金属膜用エッチング剤、すなわち、本発明〈1〉に係るエッチング剤を用いたエッチングは、加温すると常温時に比較してより短時間で終了するが、処理温度が高いと過酸化水素の分解が激しくなり、エッチング液の寿命が短くなる。エッチング時の温度としては、下限が、通常室温以上、好ましくは20℃以上、より好ましくは25℃以上であり、上限は通常60℃以下、好ましくは50℃以下、より好ましくは40℃以下である。すなわち、本発明のエッチング液の温度を上記した如き温度範囲となるようにし、これと基板とを接触させればよい。
【0107】
タングステンよりもイオン化傾向の低い金属バンプ又は金属配線が形成された半導体基板上のW系金属膜用エッチング剤、すなわち、本発明〈2〉に係るエッチング剤を用いたエッチングは、加温すると常温時に比較してより短時間で終了するばかりでなく、同エッチング剤によるエッチングが起こる部分と、異種金属接触腐食(Galvanic腐食)とによるエッチングが平行して起こる部分とのエッチング速度の差が相対的に少なくなり、エッチング剤と金属の接触する処理時間が短くなり、サイドエッチングが抑制されるため、処理温度を室温よりも高めに設定して行うことが好ましい。具体的には、例えば10℃〜70℃、好ましくは20℃〜60℃、より好ましくは30℃〜60℃の温度範囲に設定し、これと基板とを接触させればよい。
【0108】
エッチング処理時間としては、被処理物の表面状態や形状が一定でないため制限できないが、実用的には、通常1分〜1時間、好ましくは1〜30分、より好ましくは1〜15分である。
【0109】
本発明に係る銅配線が形成された半導体基板上のTi系金属膜用エッチング剤、すなわち、本発明〈1〉に係るエッチング剤を用いてTi系金属膜を形成させた半導体基板のエッチング処理を行えば、Ti系膜を選択的にエッチングすることができる。特に、当該エッチング剤を、当該Ti系膜上にCu配線が施された基板に用いる場合には、Cuに対するTiエッチング選択比を向上させることができる。また、Cuの溶解量を抑えることで、過剰なサイドエッチングが発生せず、更にはCuに由来する過酸化水素の分解も抑制できるため、エッチング剤の寿命が向上し、プロセスマージンを大きくすることができる。
【0110】
また、本発明に係る銅配線が形成された半導体基板上のTi系金属膜用エッチング剤、すなわち、本発明〈1〉に係るエッチング剤は、Pbフリーはんだバンプ形成工程に好適に用いることができる。
【0111】
本発明に係るタングステンよりもイオン化傾向の低い金属バンプ又は金属配線が形成された半導体基板上のW系金属膜用エッチング剤、すなわち、本発明〈2〉に係るエッチング剤を用いてW系金属膜を形成させた半導体基板のエッチング処理を行えば、W系金属膜を迅速にエッチングできるばかりでなく、当該金属バンプ又は金属配線直下のW系金属膜のエッチング、いわゆるタングステンよりもイオン化傾向の低い金属バンプ又は金属配線とタングステンとによる異種金属接触腐食(Galvanic腐食)に起因するサイドエッチングを抑制することができる。
【0112】
本発明に係るタングステンよりもイオン化傾向の低い金属バンプ又は金属配線が形成された半導体基板上のW系金属膜用エッチング剤、すなわち、本発明〈2〉に係るエッチング剤に於いては、特に(C)(c−1)無機アルカリ及び(c−2)有機アミンから選ばれる少なくとも1種以上の塩基性化合物として、水酸化ナトリウム又はテトラメチルアンモニウムヒドロキシドを用いることにより、これらから生ずるナトリウムイオンや4級アンモニウムイオン等のカチオン種が異種金属接触腐食(Galvanic腐食)の原因の1つとなる電子移動が抑制され、また、硫酸イオン、クエン酸イオン等の少量の特定のアニオン種が存在することにより、電気二重層を維持しつつ電気的な影響を広範囲に分散させることができるので、異種金属接触腐食(Galvanic腐食)を抑制できる等の利点を有する。
【0113】
更に、本発明のエッチング剤調製液を用いれば、これと過酸化水素を含んでなる溶液とを使用時に適宜混合してエッチング剤として用いることができるため、例えば過酸化水素の分解によるエッチング剤の性能低下を抑制できる、塩基性化合物(アルカリ化合物)と共存させることによる過酸化水素の不安定性を回避できる、過酸化水素と当該エッチング剤調製液とを任意の割合で混合できるため、例えばTi系金属膜或いはW系金属膜のエッチング速度を適宜調整可能である等の利点を有する。
【0114】
本発明〈1〉に係るエッチング剤に於けるエッチング剤調製液のpH調整として水酸化アルカリ及びアンモニア、特に水酸化アルカリを用いれば、これと過酸化水素を含んでなる溶液を混合したエッチング剤でTi系金属膜のエッチング処理を行った場合には、例えばテトラメチルアンモニウムヒドロキシド等の有機アルカリを用いてpH調整を行った場合よりも、例えばTi/Cuの選択比が向上する、Ti溶解速度が高く、高いスループットが期待できる等の効果を奏する。
【0115】
以下に実施例及び比較例等を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0116】
実施例1
(1)本発明〈1〉に係るエッチング剤の調製
下記組成からなるエッチング剤を調製した。
過酸化水素 24.5重量%
ホスホン酸系キレート剤(HEDPO) 0.5重量%
銅防食剤(ベンゾトリアゾール) 0.1重量%
無機アルカリ(水酸化カリウム) 2.0重量%
水 72.9重量%
pH 9.0
※HEDPO=1-ヒドロキシエチリデン-1,1'-ジホスホン酸
(2)エッチング
上記(1)のエッチング剤に、表面積と重量を予め測定したTi板並びにCu板を、室温で10分間浸漬しエッチング処理を行った。
(3)結果
上記(2)で得られたエッチング後のエッチング剤を適量取り、0.1mol/L硝酸溶液で希釈した後、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(商品名「SPS3000 ICP発光分光分析装置」、エスアイアイナノテクノロジー(株)社製)を用いて、溶解したTi及びCu量を測定した。得られた金属量を単位面積当たりの溶解量に概算し、溶解速度(nm/min)を算出した。その結果及びTi/Cuの溶解速度比を併せて表1に示す。
【0117】
実施例2〜5
(1)本発明〈1〉に係るエッチング剤の調製
エッチング剤中の各成分を下記表1に示す所定量用いた以外は、実施例1と同様に調製した。
(2)エッチング
実施例1と同様に行った。
(3)結果
実施例1と同様に、エッチングされたCu板及びTi板表面の金属量を測定した。結果を表1に併せて示す。尚、表1では各エッチング液の水分量は省略する。
【0118】
【表1】

【0119】
※BTA=ベンゾトリアゾール、EPA=エピクロロヒドリン変性ポリアミド樹脂
【0120】
比較例1〜4
(1)エッチング剤の調製
エッチング剤の各成分を下記表2に示す所定量用いた以外は、実施例1と同様に調製した。
(2)エッチング
実施例1と同様に行った。
(3)結果
実施例1と同様に、エッチングされたCu板及びTi板表面の金属量を測定した。結果を表2に併せて示す。
【0121】
【表2】

【0122】
※EDTA=エチレンジアミン四酢酸、DEPPO=ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、TMAH=テトラメチルアンモニウムヒドロキシド
【0123】
実施例1〜5の結果から明らかなように、本発明〈1〉に係るエッチング剤を用いると、Cuを殆どエッチングすることなく、Tiを効率よくエッチングすることができる。
【0124】
一方、比較例1〜3の結果から明らかなように、銅防食剤を含有しないエッチング剤を用いた場合には、Cuがエッチングされやすくなり、Tiを効率よくエッチングすることができなかった。
【0125】
また、実施例1と比較例4の結果から明らかなように、アルカリとして有機アミン(TMAH)を用いた場合には、Cuは全くエッチングされず、更にTiも殆どエッチングされなかったが、アルカリとして本発明〈1〉に係るエッチング剤に於ける無機アルカリ(KOH)を用いた場合は、Tiを選択的にエッチングできること、すなわち、Cuが殆どエッチングされることなく、Tiを効率よくエッチングすることが分かった。
【0126】
更に、実施例2と5の結果から明らかなように、水酸化カリウムをアルカリとして用いた場合の方が、アンモニアを用いる場合よりも、Ti/Cu溶解速度比が向上する、すなわち、Tiを選択的にエッチングできることが分かった。
【0127】
実施例6
(1)本発明〈1〉に係るエッチング剤の調製
下記組成からなるエッチング剤を調製した。
過酸化水素 24.5重量%
ホスホン酸系キレート剤(60%HEDPO溶液)
0.8重量% 〔HEDPO含有量:約0.5重量%〕
銅防食剤(ベンゾトリアゾール) 0.1重量%
無機アルカリ(水酸化カリウム) 2.0重量%
水 72.6重量%
pH 9.0
※HEDPO:商品名「DEQEST2010」(ソルーシアジャパン(株)社製)を用いた。
(2)エッチング
上記(1)に於けるエッチング剤に、Ti板並びにCu板を、室温で30分間、60分間、90分間それぞれ浸漬しエッチング処理を行った。
(3)結果
エッチング前後のエッチング剤中の過酸化水素濃度を酸化還元滴定により測定し、エッチング前後の過酸化水素の分解率を下記式により概算した。その結果を表3に示す。
過酸化水素分解率(%)=(エッチング前過酸化水素濃度−エッチング後過酸化水素濃度)×100/(エッチング前過酸化水素濃度)
【0128】
比較例5
(1)エッチング剤の調製
下記組成からなるエッチング剤を調製した。
過酸化水素 24.5重量%
窒素(N)含有ホスホン酸系キレート剤 2.0重量%
(25%DEPPO七ナトリウム塩水溶液)〔DEPPO含有量:0.5重量%〕
銅防食剤(ベンゾトリアゾール) 0.1重量%
無機アルカリ(水酸化カリウム) 1.7重量%
水 71.7重量%
pH 9.0
※DEPPO:商品名「DEQEST2066」(ソルーシアジャパン(株)社製)を用いた。
(2)エッチング
実施例6と同様にエッチング処理を行った。
(3)結果
実施例6と同様に過酸化水素濃度を測定した。結果を表3に併せて示す。
【0129】
【表3】

【0130】
表3の結果から明らかなように、窒素(N)含有ホスホン酸系キレート剤を用いた場合には、過酸化水素の分解率が高く、エッチング剤の寿命が短くなってしまうのに対して、本発明に係るホスホン酸系キレート剤(HEDPO)を用いた場合は、過酸化水素の分解率が低いため、エッチング剤の寿命が長いことが分かった。
【0131】
実施例7
(1)本発明〈1〉に係るエッチング剤の調製
表1に記載の実施例2と同様の組成からなるエッチング剤を調製した。
(2)エッチング
上記(1)に於けるエッチング剤に、Ti板並びにCu板を、40℃で10分間、20分間及び30分間それぞれ浸漬してエッチング処理を行った。
(3)結果
エッチング前後のエッチング剤中の過酸化水素濃度を酸化還元滴定により測定し、エッチング前後の過酸化水素の分解率を下記式により概算した。その結果を表4に示す。
過酸化水素分解率(%)=(エッチング前過酸化水素濃度−エッチング後過酸化水素濃度)×100/(エッチング前過酸化水素濃度)
【0132】
実施例8
(1)本発明〈1〉に係るエッチング剤の調製
下記組成からなるエッチング剤を調製した。
過酸化水素 25.0重量%
ホスホン酸系キレート剤(HEDPO) 0.5重量%
銅防食剤(EPA) 1.0重量%
無機アルカリ(アンモニア) 0.9重量%
水 72.6重量%
pH 8.5
(2)エッチング
実施例7と同様にエッチング処理を行った。
(3)結果
実施例7と同様に過酸化水素濃度を測定した。その結果を表4に併せて示す。
【0133】
【表4】

【0134】
pHが高いと過酸化水素の安定性が低下することは知られているが、表4の結果から明らかなように、無機アルカリにアンモニアを用いた場合(実施例8、pH8.5)には、水酸化カリウムを用いた場合(実施例7、pH9.0)に比べて、pHが低いにもかかわらず過酸化水素分解率が高く、エッチング剤の寿命が短いことが分かった。以上の記載から、本発明に用いられる無機アルカリとしては、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物が好ましいことが分かる。
【0135】
参考例1及び実施例9〜実施例14
(1)エッチング剤の調製
下記組成からなるエッチング剤を調製した(成分の詳細については表5に記載)。
過酸化水素 28.0重量%
ホスホン酸系キレート剤(HEDPO)0.34重量%
塩基性化合物(水酸化ナトリウム) 0.58重量%
クエン酸(緩衝剤) 0.07重量%
硫酸ナトリウム 0.0〜0.2重量%
水 残部
pH 7.8
※HEDPO=1-ヒドロキシエチリデン-1,1'-ジホスホン酸
(2)エッチング
上記(1)の参考例及び実施例各々に於けるエッチング剤に、金(Au)バンプをチタン−タングステン(TiW)合金膜上に有するシリコンウェハを室温で浸漬し、ウェハ表面のTiW合金膜がなくなった状態をエッチングの終了時とした。エッチング終了後にウェハを純水で洗浄し、金エッチング剤(商品名「Au−Etchant」、和光純薬工業(株)製)に浸漬させ、金バンプを溶解させた。
(3)結果
上記(2)で得られたウェハ上にある、金バンプでマスクされ、矩形に残ったTiW合金膜の上面の辺の長さを走査型電子顕微鏡(商品名「S−4800」、日立ハイテクノロジーズ社製)で観察、測定した。硫酸ナトリウムを添加しないエッチング剤(参考例1)でのTiW合金膜の辺の長さを100とした場合に於ける、各実施例でエッチング後の矩形に残ったTiW合金膜の辺の長さの相対長(%)を算出する事により、サイドエッチングを比較した。その結果を表5に示す。
【0136】
【表5】

【0137】
比較例6
(1)エッチング剤の調製
下記組成からなるエッチング剤を調製した。
過酸化水素 28.0重量%
ホスホン酸系キレート剤(HEDPO)0.34重量%
無機アルカリ(水酸化ナトリウム) 0.58重量%
クエン酸(緩衝剤) 0.07重量%
硫酸ナトリウム 1.0重量%
水 70.0重量%
pH 7.8
(2)エッチング
参考例1と同様に行った。
(3)結果
参考例1と同様に測定し、参考例1でのTiW合金膜の辺の長さを100とした場合に於ける、矩形に残ったTiW合金膜の辺の長さの相対長(%)を算出する事により、サイドエッチングを比較した。その結果を表6に示す。
【0138】
【表6】

【0139】
表5及び表6の結果から明らかなように、エッチング剤中に水溶液中で硫酸イオンとなる硫酸ナトリウムを適当量含有させることにより、無添加のエッチング剤(参考例1)と比較して、サイドエッチングを抑制できることが判った。また、逆に水溶液中で硫酸イオンとなる硫酸ナトリウムを過剰量用いるとサイドエッチングが促進されてしまうことから、本発明〈2〉に係るエッチング剤は、溶液中でのアニオン種の重量%が重要であることが判った。
【0140】
実施例15〜21
(1)本発明〈2〉に係るエッチング剤の調製
硫酸ナトリウムの代わりに、塩化ナトリウム又はリン酸水素ナトリウムを所定量用いた以外は、実施例9と同様にしてエッチング剤を調製した。当該エッチング剤中のアニオン2の成分を表7及び表8に示す。
(2)エッチング
参考例1と同様に行った。
(3)結果
参考例1と同様に測定し、参考例1でのTiW合金膜の辺の長さを100とした場合に於ける、矩形に残ったTiW合金膜の辺の長さの相対長(%)を算出する事により、サイドエッチングを比較した。その結果をエッチング剤中のアニオン2の成分と併せて表7及び表8に示す。
【0141】
【表7】

【0142】
【表8】

【0143】
表7及び表8の結果から明らかなように、水溶液中で硫酸イオンとなる硫酸ナトリウムと同様に、水溶液中で塩化物イオンとなる塩化ナトリウムや同じく水溶液中でリン酸イオンとなるリン酸水素ナトリウムでも、エッチング剤中に適当量含有させることにより、サイドエッチングを抑制できることが判った。
【0144】
実施例22〜25及び比較例7
(1)エッチング剤の調製
硫酸ナトリウムの代わりに、水溶液中で特定の無機酸又は有機酸由来のアニオン種となる塩を所定量用いた以外は、実施例9と同様にしてエッチング剤を調製した。当該エッチング剤中のアニオン2の成分を表9に示す。
(2)エッチング
参考例1と同様に行った。
(3)結果
参考例1と同様に測定し、参考例1でのTiW合金膜の辺の長さを100とした場合に於ける、矩形に残ったTiW合金膜の辺の長さの相対長(%)を算出する事により、サイドエッチングを比較した。その結果をエッチング剤中のアニオン2の成分と併せて表9に示す。
【0145】
【表9】

【0146】
表9の結果から明らかなように、実施例22の亜硫酸イオンのような還元力を有するアニオン種、有機酸由来のアニオン種である酢酸イオン、更にキレート能を有するアニオン種であるリンゴ酸イオンでもサイドエッチングを抑制できることが判った。その一方で、硝酸ナトリウムのような水溶液中で硝酸イオンとなる酸化力を有するアニオン種の場合には、サイドエッチングが抑制できないことが判った。
【0147】
実施例26〜27及び比較例8
(1)エッチング剤の調製
実施例26では、クエン酸の代わりにリンゴ酸を所定量用いて、更に硫酸ナトリウムの重量%を変え、実施例27では、クエン酸の代わりにリンゴ酸を所定量用いて、更に硫酸ナトリウムの代わりに、水溶液中で特定の有機酸由来のアニオン種となる塩を所定量用いた以外は、実施例9と同様にしてエッチング剤を調製した。また、比較例8では、硫酸ナトリウムの代わりに、クエン酸ナトリウムを所定量用いた以外は、実施例9と同様にしてエッチング剤を調製した。これらのエッチング剤中の各成分を表10に示す。
(2)エッチング
参考例1と同様に行った。
(3)結果
参考例1と同様に測定し、参考例1でのTiW合金膜の辺の長さを100とした場合に於ける、矩形に残ったTiW合金膜の辺の長さの相対長(%)を算出する事により、サイドエッチングを比較した。その結果をエッチング剤中の各成分と併せて表10に示す。
【0148】
【表10】

【0149】
表10の結果から明らかなように、エッチング剤中に所定量の異なるアニオン種を2種以上含有させることにより、サイドエッチングの抑制効果が得られることが判った。また、アニオン種の一方は、クエン酸以外のアニオン種であってもよいことが判った。
【0150】
参考例2及び実施例28
(1)エッチング剤の調製
参考例2では、塩基性化合物として無機アルカリであるNaOHの代わりに、有機アミンであるテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)を所定量用いた以外は、参考例1と同様にしてエッチング剤を調製し、実施例28では、参考例2と同様に塩基性化合物として無機アルカリであるNaOHの代わりに、有機アミンであるテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)を所定量用いた以外は、実施例9と同様にしてエッチング剤を調製した。これらのエッチング剤中の各成分を表11に示す。
(2)エッチング
参考例1と同様に行った。
(3)結果
参考例1と同様に測定し、参考例2でのTiW合金膜の辺の長さを100とした場合に於ける、矩形に残ったTiW合金膜の辺の長さの相対長(%)を算出する事により、サイドエッチングを比較した。その結果をエッチング剤中の各成分と併せて表11に示す。
【0151】
【表11】

【0152】
※TMAH=テトラメチルアンモニウムヒドロキシド
【0153】
表11の結果から明らかなように、塩基性化合物を無機アルカリであるNaOHから有機アミンであるTMAHに代えても、サイドエッチングの抑制効果があることが判った。
【0154】
参考例3〜5
(1)エッチング剤の調製
表12で示される組成からなるエッチング剤を調製した。
(2)エッチング
参考例1と同様に行った。
(3)結果
参考例1と同様に測定し、参考例1でのTiW合金膜の辺の長さを100とした場合に於ける、矩形に残ったTiW合金膜の辺の長さの相対長(%)を算出する事により、サイドエッチングを比較した。その結果をエッチング剤中の各成分と併せて表12に示す。
【0155】
【表12】

【0156】
表12の結果から明らかなように、エッチング剤中のアルカリ濃度が高く、また、2種以上のアニオン種を用いない場合には、サイドエッチングが抑制できず、金バンプでマスクされたTiW合金膜がすべて削られてしまいバンプが剥離してしまうことが判った。
【0157】
本発明〈2〉に係るエッチング剤に於いては、W系金属膜を溶解させる水酸化物イオン及びヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤以外の、溶解に関与しないアニオン種をエッチング剤中に所定量含有させることにより、タングステンとタングステンよりもイオン化傾向の低い金属(低イオン化傾向金属)との接触による異種金属電池効果のため、水酸化物イオンによりW系金属膜表面に形成される電気二重層を、タングステン、タングステンよりもイオン化傾向の低い金属及びエッチング剤(電解液)の3つが接触する界面近傍に局在しないよう分散させ、異種金属接触腐食を低減することを目的としている。実施例9〜28の結果から明らかなように、エッチング剤中に含まれるアニオン種としては、酸化力を有さず水溶液中に安定して存在できるものが望ましく、アニオン種の濃度が、電気二重層を金属接触界面から分散させ、膜表面における電子の授受を強くなりすぎない範囲に調整する必要があることが明らかとなった。一方、塩基性化合物に含まれるカチオン種は、当該タングステンよりもイオン化傾向の低い金属表面上での電子の授受が起きにくいほど、異種金属接触腐食によるサイドエッチングが小さくなることが予想される。また、参考例3〜5の結果から明らかなように、塩基性化合物に含まれるカチオン種として、カリウムイオンよりもモル伝導度が小さいナトリウムイオンや有機アミンであるTMAHの4級アンモニウムイオンの方がカリウムイオンと比較して電子の授受が起きにくいために、異種金属接触腐食によるサイドエッチングが抑制されることが明らかとなった。更にその濃度範囲も限定されることが示唆された。これらの結果から、本発明〈2〉に係るエッチング剤とエッチング方法を用いることにより、W系金属膜とタングステンよりもイオン化傾向の低い金属からなる積層膜を処理した際に生じる異種金属接触腐食によるサイドエッチングを低減或いは抑制できることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明のエッチング剤のなかでも(A)過酸化水素、(B)ホスホン酸系キレート剤、(c−1)無機アルカリ及び(D−1)銅防食剤を含む溶液からなる半導体基板用エッチング剤、すなわち、本発明〈1〉に係るエッチング剤を用いて、半導体基板上のTi系金属膜、特にCu配線が施された基板上のTi系金属膜を選択的にエッチングすることにより、従来法に比べて、例えば下地金属や基板上金属の腐食を抑制する、エッチング剤への金属溶出量が減少し、エッチング剤の寿命が増大する、Ti系金属膜のエッチング選択比の向上により残渣を有することなくエッチングが可能となる等の効果を奏する。
【0159】
本発明のエッチング剤のなかでも(A)過酸化水素、(B)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤、(C)塩基性化合物及び(D−2)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤以外の酸化力を有さない2種以上のアニオン種0.01重量%〜3重量%を含む溶液からなる半導体基板用エッチング剤、すなわち、本発明〈2〉に係るエッチング剤を用いて、例えば金(Au)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、スズ(Sn)又はこれらの合金等のタングステンよりもイオン化傾向の低い金属(低イオン化傾向金属)バンプ或いは配線が施された半導体基板上のW系金属膜をエッチングすることにより、W系金属と上記タングステンよりもイオン化傾向の低い金属とによる異種金属接触腐食(Galvanic腐食)を抑制し、ひいては当該腐食によるサイドエッチングを抑制することが可能となる等の効果を奏する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも以下の(A)、(B)、(C)及び(D−2)を含む溶液からなる、タングステン(W)系金属膜上部にタングステンよりもイオン化傾向の低い金属バンプ又は金属配線が形成された半導体基板用エッチング剤。
(A)過酸化水素
(B)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤
(C)塩基性化合物
(D−2)無機酸由来のアニオン種並びに炭酸イオン、モノカルボン酸イオン、ヒドロキシトリカルボン酸イオン及びヒドロキシカルボン酸イオンから選ばれる有機酸由来のアニオン種から選ばれる2種以上のアニオン種0.01重量%〜3重量%
【請求項2】
前記(D−2)に於ける無機酸由来のアニオン種が、硫酸イオン、亜硫酸イオン、塩化物イオン、リン酸イオン、亜リン酸イオン及び次亜リン酸イオンから選ばれるものである、請求項1に記載のエッチング剤。
【請求項3】
前記タングステンよりもイオン化傾向の低い金属バンプ又は金属配線が、金、銀、パラジウム、スズ又はこれらの合金からなるものである、請求項1に記載のエッチング剤。
【請求項4】
前記タングステンよりもイオン化傾向の低い金属バンプ又は金属配線が、金属バンプであって、当該金属バンプと前記W系金属膜との間に銅配線が形成されているものである、請求項1に記載のエッチング剤。
【請求項5】
前記W系金属膜が、チタン−タングステン(TiW)合金膜である、請求項1に記載のエッチング剤。
【請求項6】
前記溶液のpHが6〜10である、請求項1に記載のエッチング剤。
【請求項7】
前記(B)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤が、1-ヒドロキシエチリデン-1,1'-ジホスホン酸、1-ヒドロキシプロピリデン-1,1'-ジホスホン酸及び1-ヒドロキシブチリデン-1,1'-ジホスホン酸から選ばれる少なくとも1種以上のものである、請求項1に記載のエッチング剤。
【請求項8】
前記(C)塩基性化合物が、無機アルカリ及び有機アミンから選ばれる少なくとも1種以上のものである、請求項1に記載のエッチング剤。
【請求項9】
前記(C)塩基性化合物が、水酸化ナトリウム又はテトラメチルアンモニウムヒドロキシドの何れかである、請求項1に記載のエッチング剤。
【請求項10】
前記(D−2)無機酸由来のアニオン種並びに炭酸イオン、モノカルボン酸イオン、ヒドロキシトリカルボン酸イオン及びヒドロキシカルボン酸イオンから選ばれる有機酸由来のアニオン種から選ばれる2種以上のアニオン種0.01重量%〜3重量%が、硫酸イオン、亜硫酸イオン、塩化物イオン、リン酸イオン、亜リン酸イオン及び次亜リン酸イオンから選ばれる少なくとも1種以上の無機酸由来のアニオン種0.0001重量%〜0.5重量%と、クエン酸イオン及びリンゴ酸イオンから選ばれる少なくとも1種以上の有機酸由来のアニオン種0.0099重量%〜2.5重量%との組み合わせである、請求項1に記載のエッチング剤。
【請求項11】
前記(D−2)無機酸由来のアニオン種並びに炭酸イオン、モノカルボン酸イオン、ヒドロキシトリカルボン酸イオン及びヒドロキシカルボン酸イオンから選ばれる有機酸由来のアニオン種から選ばれる2種以上のアニオン種0.01重量%〜3重量%が、硫酸イオン、亜硫酸イオン、塩化物イオン及びリン酸イオンから選ばれる何れか1種の無機酸由来のアニオン種0.0001重量%〜0.5重量%と、クエン酸イオン及びリンゴ酸イオンから選ばれる何れか1種の有機酸由来のアニオン種0.0099重量%〜2.5重量%との組み合わせである、請求項1に記載のエッチング剤。
【請求項12】
前記(D−2)無機酸由来のアニオン種並びに炭酸イオン、モノカルボン酸イオン、ヒドロキシトリカルボン酸イオン及びヒドロキシカルボン酸イオンから選ばれる有機酸由来のアニオン種から選ばれる2種以上のアニオン種0.01重量%〜3重量%が、炭酸イオン、酢酸イオン、クエン酸イオン及びリンゴ酸イオンから選ばれる何れか1種の有機酸由来のアニオン種0.0001重量%〜0.5重量%と、上記選択の有機酸由来のアニオン種以外のクエン酸イオン及びリンゴ酸イオンから選ばれる有機酸由来のアニオン種0.0099重量%〜2.5重量%との組み合わせである、請求項1に記載のエッチング剤。
【請求項13】
前記(D−2)無機酸由来のアニオン種並びに炭酸イオン、モノカルボン酸イオン、ヒドロキシトリカルボン酸イオン及びヒドロキシカルボン酸イオンから選ばれる有機酸由来のアニオン種から選ばれる2種以上のアニオン種0.01重量%〜3重量%が、硫酸イオン、亜硫酸イオン及び塩化物イオンから選ばれる少なくとも1種以上の無機酸由来のアニオン種0.0001重量%〜0.5重量%と、リン酸イオン、亜リン酸イオン及び次亜リン酸イオンから選ばれる少なくとも1種以上の無機酸由来のアニオン種0.0099重量%〜2.5重量%との組み合わせである、請求項1に記載のエッチング剤。
【請求項14】
(A)過酸化水素10重量%〜35重量%、(B)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤0.1重量%〜3重量%、(C)塩基性化合物0.1重量%〜5重量%、並びに(D−2)無機酸由来のアニオン種並びに炭酸イオン、モノカルボン酸イオン、ヒドロキシトリカルボン酸イオン及びヒドロキシカルボン酸イオンから選ばれる有機酸由来のアニオン種から選ばれる2種以上のアニオン種0.01重量%〜3重量%を含むものである、請求項1に記載のエッチング剤。
【請求項15】
過酸化水素を含んでなる溶液と、ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤、塩基性化合物、並びに無機酸由来のアニオン種並びに炭酸イオン、モノカルボン酸イオン、ヒドロキシトリカルボン酸イオン及びヒドロキシカルボン酸イオンから選ばれる有機酸由来のアニオン種から選ばれる2種以上のアニオン種を含む溶液からなるエッチング剤調製液から調製される、請求項1に記載のエッチング剤。
【請求項16】
請求項1に記載のエッチング剤を用いて半導体基板上のW系金属膜をエッチングすることを特徴とする、エッチング方法。
【請求項17】
エッチング剤が、過酸化水素を含んでなる溶液と、ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤、塩基性化合物、並びに無機酸由来のアニオン種並びに炭酸イオン、モノカルボン酸イオン、ヒドロキシトリカルボン酸イオン及びヒドロキシカルボン酸イオンから選ばれる有機酸由来のアニオン種から選ばれる2種以上のアニオン種を含む溶液からなるエッチング剤調製液とを混合して調製される、請求項16に記載のエッチング方法。
【請求項18】
過酸化水素を含んでなる溶液と前記エッチング剤調製液との混合比が30:70〜99:1である、請求項17に記載のエッチング方法。
【請求項19】
少なくとも以下の(B)、(C)及び(D−2)を含む溶液からなる、タングステン(W)系金属膜上部にタングステンよりもイオン化傾向の低い金属バンプ又は金属配線が形成された半導体基板用エッチング剤調製液。
(B)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤
(C)塩基性化合物
(D−2)無機酸由来のアニオン種並びに炭酸イオン、モノカルボン酸イオン、ヒドロキシトリカルボン酸イオン及びヒドロキシカルボン酸イオンから選ばれる有機酸由来のアニオン種から選ばれる2種以上のアニオン種
【請求項20】
過酸化水素を含んでなる溶液と混合してエッチング剤を調製するために用いられる、請求項19に記載のエッチング剤調製液。
【請求項21】
過酸化水素を含んでなる溶液と前記エッチング剤調製液との混合比が30:70〜99:1である、請求項20に記載のエッチング剤調製液。
【請求項22】
過酸化水素を含んでなる溶液と混合したものに於ける最終pHが6〜10の範囲となるように調整された、請求項20に記載のエッチング剤調製液。
【請求項23】
過酸化水素を含んでなる溶液と混合したものに於ける最終濃度が、(A)過酸化水素10重量%〜35重量%、(B)ヒドロキシル基を有するホスホン酸系キレート剤0.1重量%〜3重量%、(C)塩基性化合物0.1重量%〜5重量%、並びに(D−2)無機酸由来のアニオン種並びに炭酸イオン、モノカルボン酸イオン、ヒドロキシトリカルボン酸イオン及びヒドロキシカルボン酸イオンから選ばれる有機酸由来のアニオン種から選ばれる2種以上のアニオン種0.01重量%〜3重量%となるエッチング剤を調製するために用いられる、請求項20に記載のエッチング剤調製液。

【公開番号】特開2012−80128(P2012−80128A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−3786(P2012−3786)
【出願日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【分割の表示】特願2009−547087(P2009−547087)の分割
【原出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000252300)和光純薬工業株式会社 (105)
【Fターム(参考)】