説明

エッチング性に優れた回路形成用銅箔、この銅箔を使用した銅張積層板及びプリント配線板

【課題】エッチング性を改善し、ファインパターン化に対応可能な回路形成用銅箔、更にはこの銅箔を使用した銅張積層板及びプリント配線板を提供する。
【解決手段】〔001〕方向、〔101〕方向および〔111〕方向のいずれかの方向と厚み方向とのなす角度が10°以内である結晶粒の面積率が30%以下であり、平均結晶粒径が0.5〜5μmであり、全結晶粒界長さに占める、隣り合う結晶粒の方位差が30°以上の粒界の長さの比率が90%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファインパターン化に対応可能な回路形成用銅箔、更にはこの銅箔を使用した銅張積層板及びプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
エッチング性を改善した回路形成用銅箔として、例えば特許文献1に示されるものがある。
特許文献1には、構造がX線回折においてランダム配向であり、かつX線回折における結晶粒子径が400Å以下である銅電析皮膜を用いた回路用基板が開示されている。この回路用基板は、銅電析皮膜をエッチングすると、非常にシャープなエッジおよび良好なエッチング方向性を得ることが可能となり、エッチングファクターの高い値が得られ、その結果、現在の回路幅微細化の要求に対応することが可能となる。具体的な構造として、ガラスエポキシFR−4基板に、厚さが35μmで、X線回折による結晶粒子径270Å、配向性を示すオリエンテイションインデックスが0.97とほぼランダム配向の電解銅箔を加熱圧着している。そして、80μmピッチとなるように巾40μmのパターンを印刷後、エッチング液中で3分間エッチングしたサンプル10個を作成した結果、エッチング性が非常に良く、上底が28μm、下底が42μmとなり、エッチングファクターは5.0となったと記載されている。
【0003】
また、このようなエッチング処理に好適なエッチング液として、特許文献2に示されるものが提案されている。
この特許文献2に記載のエッチング液は、(A)第二銅イオン及び第二鉄イオンから選ばれる少なくとも1つの酸化剤成分0.1〜15質量%、(B)1個の水酸基を有するグリコールエーテル類化合物0.001〜5質量%、(C)エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドの少なくとも1つを(ポリ)アミン類化合物の活性水素に付加した化合物0.001〜5質量%、(D)リン酸及びリン酸塩から選ばれる少なくとも1つのリン酸成分0.1〜5質量%、並びに(E)塩酸及び硫酸から選ばれる少なくとも1つの無機酸0.1〜10質量%を必須成分とする水溶液からなることを特徴とする銅含有材料用エッチング剤組成物とするエッチング液である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−268344号公報
【特許文献2】特開2009−167459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、特許文献2に示す添加剤を含むエッチング液が登場し、エッチングの欠点であったサイドエッチを抑制することが可能となり、エッチングファクターが劇的に向上し、なおかつ微細配線パターン回路配線の形状不良を防止し、ショート発生のないプリント配線を製造できるようになった。
しかし、被エッチング材である銅箔の成膜方法等によりエッチング速度や回路形成形状が影響を受けることがあり、回路の直進性が損なわれる場合があった。このため、エッチングによる微細回路形成に最適な銅箔が求められている。
【0006】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたものであって、エッチング性を改善し、ファインパターン化に対応可能な回路形成用銅箔、更にはこの銅箔を使用した銅張積層板及びプリント配線板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、エッチング速度に影響を与える因子として、銅の結晶方位に着目し、その結晶方位について鋭意研究した結果、特許文献1のように単純に結晶粒径を制御しても、結晶方位のそろった結晶粒が寄り集まることがあり、この場合、寄り集まりの集団ごとにエッチング速度に差が生じ、あたかも肥大な結晶粒が存在するかのようになるため、回路の直進性が損なわれることがあることを見出した。
そして、ミラー指数が(001),(101),(111)以外の高指数面、例えば(311)面や(611)面のエッチング速度が速く、この高指数面の占有面積が高い銅箔を用いると、エッチング時に深堀できるため、エッチングファクターが向上することを見出した。
【0008】
このような知見の下、本発明の回路形成用銅箔は、〔001〕方向、〔101〕方向および〔111〕方向のいずれかの方向と厚み方向とのなす角度が10°以内である結晶粒の面積率が30%以下であることを特徴とする。
これらの方向のいずれかの方向と厚み方向とのなす角度が10°以内である結晶粒の面積率が30%以下であると、銅箔のエッチング速度が速くなり、エッチング時に深堀できるためエッチングファクターが向上する。
【0009】
本発明の回路形成用銅箔において、平均結晶粒径が0.5〜5μmであり、全結晶粒界長さに占める、隣り合う結晶粒の方位差が30°以上の粒界の長さの比率が90%以上であるとよい。
結晶粒径が5μm以下であると、それぞれの結晶粒の結晶方位の違いによるエッチング速度の影響が少なくなるため、回路形成時に直進性の良い回路が得られる。しかし、結晶粒径が0.5μm未満であると、銅箔の靭性が乏しくなり、積層プレス時にフォイルクラック不良が発生しやすくなるため、平均結晶粒径は0.5〜5μmが好ましい。
また、全粒界長さに占める隣り合う結晶粒の方位差が30°以上の粒界の長さの比率が90%未満と小さいと、互いの方位差が小さい結晶粒が寄り集まり易く、その場合、結晶粒が大きい場合と同様に、その寄り集まりの集団ごとにエッチングレートが大きく異なってしまうために、回路の直進性が悪化する。このため、隣り合う結晶粒の方位差が30°以上の結晶粒界が全粒界の中に占める長さの比率が90%以上であることが望ましい。
【0010】
そして、本発明の回路形成用銅箔の製造方法は、少なくとも、ビス(3−スルホプロピル)ジサルファイド又は3−メルカプトスルホプロピルスルホネートのいずれかと、ポリエチレングリコールと、塩化物イオンとを含む硫酸銅浴を用いてPRパルス電解で製箔し、さらに製箔後60分以内に120〜180℃で5〜60分の熱処理を行うことを特徴とする。
【0011】
上記三成分を含む硫酸銅浴を用いて製箔することにより、熱処理後に全粒界長さに占める、隣り合う結晶粒の方位差が30°以上の粒界の比率が90%以上で、なおかつ結晶粒径も0.5〜5μmの結晶を持つ電解銅箔が得られる。
その製箔方法としてPRパルス電解で製箔することにより、熱処理後に〔001〕方向、〔101〕方向、〔111〕方向のいずれかの方向と厚み方向とのなす角度が10°以内である結晶粒の面積率が小さくなる。
【0012】
この場合、電析直後の銅の結晶構造は不安定で非常に再結晶しやすい状態であり、製箔後できるだけ速やかに特定の温度で熱処理を実施すると、〔001〕方向、〔101〕方向、〔111〕方向のいずれかの方向と厚み方向とのなす角度が10°以内である結晶粒の面積率が少ない電解銅箔を得ることができる。熱処理温度が120℃未満であると〔001〕方向の結晶粒の占有面積が大きくなり、180℃を超えると〔101〕方向の結晶粒の占有面積が大きくなってしまい、〔001〕方向、〔101〕方向、〔111〕方向のいずれかの方向と厚み方向とのなす角度が10°以内である結晶粒の面積率が30%を超えてしまう。熱処理時間が5分未満では再結晶が不十分なため、室温で再結晶が進行し〔101〕方向の結晶粒の面積率が大きくなるため、所望の面積率が得られない。また熱処理時間が60分を超えると、再結晶が進行しすぎて〔101〕方向の結晶粒の面積率が大きくなり、所望の面積率が得られない。
【0013】
そして、本発明の銅張積層板は、絶縁基板の上に本発明の回路形成用銅箔が積層されてなるものであり、その銅箔をエッチングにより回路形成することによりプリント配線板が得られる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、エッチングファクターが向上し、回路の形状不良を防ぐことが可能な銅箔この銅箔を使用した銅張積層板及びプリント配線板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例1のEBSDによる粒界マップを示す。
【図2】図1の実施例の隣り合う結晶粒の方位差の分布を示すグラフである。
【図3】図1の実施例についてエッチングにより回路形成した後の表面顕微鏡写真である。
【図4】本発明の比較例1のEBSDによる粒界マップを示す。
【図5】図4の比較例の隣り合う結晶粒の方位差の分布を示すグラフである。
【図6】図4の比較例についてエッチングにより回路形成した後の表面顕微鏡写真である。
【図7】電解研磨後の圧延銅板のEBSDによる粒界マップを示す。
【図8】図7の試料の電解研磨後、エッチング10秒後、エッチング30秒後のそれぞれのSPM測定ラインのプロファイルの変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
一実施形態の回路形成用銅箔は、電解めっきにより製造された電解銅箔であり、〔001〕方向、〔101〕方向および〔111〕方向のいずれかの方向と厚み方向とのなす角度が10°以内である結晶粒の面積率が30%以下であり、平均結晶粒径が0.5〜5μmであり、全結晶粒界長さに占める、隣り合う結晶粒の方位差が30°以上の粒界の長さの比率が90%以上である。
これらの数値範囲の限定理由は以下の通りである。
(1)〔001〕方向、〔101〕方向、〔111〕方向のいずれかの方向と厚み方向とのなす角度が10°以内である結晶粒の面積率が30%以下
エッチング速度が速い高指数面の占有面積が高い銅箔とするためであり、これらのいずれかの方向と厚み方向とのなす角度が10°以内である結晶粒の占有面積が30%以下であると、銅箔のエッチング速度が速くなり、エッチング時に深堀できるためエッチングファクターが向上する。
【0017】
(2)平均結晶粒径が0.5〜5μm
結晶粒径が5μm以下であると、それぞれの結晶粒の結晶方位の違いによるエッチング速度の影響が少なくなるため、回路形成時に直進性の良い回路が得られる。しかし、結晶粒径が0.5μm未満であると、銅箔の靭性が乏しくなり、積層プレス時にフォイルクラック不良が発生しやすくなるからである。
(3)全粒界長さに占める、隣り合う結晶粒の方位差が30°以上の粒界の長さの比率が90%以上
全粒界長さに占める隣り合う結晶粒の方位差が30°以上の粒界の比率が90%未満と小さいと、互いの方位差が小さい結晶粒が寄り集まり易く、その場合、結晶粒が大きい場合と同様に、その寄り集まりの集団ごとにエッチングレートが大きく異なってしまうために、回路の直進性が悪化する。このため、隣り合う結晶粒の方位差が30°以上の結晶粒界が全粒界の中に占める比率が90%以上であることが望ましい。
【0018】
この回路形成用銅箔の製造方法は、少なくとも、ビス(3−スルホプロピル)ジサルファイド又は3−メルカプトスルホプロピルスルホネートのいずれかと、ポリエチレングリコールと、塩化物イオンとを含む硫酸銅浴を用いてPRパルス電解で製箔し、さらに製箔後60分以内に120〜180℃で5〜60分の熱処理を行う。
【0019】
上記三成分を含む硫酸銅浴を用いて製箔することにより、熱処理後に全粒界長さに占める、隣り合う結晶粒の方位差が30°以上の粒界の比率が90%以上で、なおかつ結晶粒径も0.5〜5μmの結晶を持つ電解銅箔が得られる。
PRパルス電解法は、一定時間通電してめっきを行った後、逆方向の電流を短時間通電することを繰り返す方法であり、このPRパルス電解で製箔することにより、熱処理後に〔001〕方向、〔101〕方向、〔111〕方向のいずれかの方向と厚み方向とのなす角度が10°以内である結晶粒の面積率が小さくなる。PRパルス電解条件としては、例えば、正電解の電流密度40A/dm、その電解時間1000m秒、逆電解の電流密度80A/dm、その電解時間50m秒が好適である。
【0020】
また、電析直後できるだけ速やかに熱処理を実施することが重要であり、製箔後60分以内に特定の熱処理を実施することにより、〔001〕方向、〔101〕方向、〔111〕方向のいずれかの方向と厚み方向とのなす角度が10°以内である結晶粒の面積率が少ない電解銅箔を得ることができる。
熱処理温度が120℃未満であると〔001〕方向の結晶粒の占有面積が大きくなり、180℃を超えると〔101〕方向の結晶粒の占有面積が大きくなってしまい、〔001〕方向、〔101〕方向、〔111〕方向のいずれかの方向と厚み方向とのなす角度が10°以内である結晶粒の面積率が30%を超えてしまう。熱処理時間が5分未満では再結晶が不十分なため、室温で再結晶が進行し〔101〕方向の結晶粒の面積率が大きくなるため、所望の面積率が得られない。また熱処理時間が60分を超えると、再結晶が進行しすぎて〔101〕方向の結晶粒の面積率が大きくなり、所望の面積率が得られない。
【0021】
好適な製造条件の一例を挙げると、硫酸濃度50g/L、流酸銅濃度200g/L、塩化物イオン濃度30mg/L、ビス(3−スルホプロピル)ジサルファイド濃度2mg/L、分子量6000のポリエチレングリコール濃度80mg/L、45℃の電解液を用いて、カソード電流密度40A/dm、カソード電解時間1000msec、アノード電流密度80A/dm、アノード電解時間50msecのPRパルス電解条件で製箔を実施し、例えば厚み9μmの電解銅箔を得る。これを製箔30分後に150℃で30分間の熱処理を実施する。
この製造条件で作製した試料をEBSDで分析した結果、〔100〕方向、〔101〕方向、〔111〕方向のいずれかの方向と厚み方向とのなす角度が10°以内である結晶粒の面積率が21%、平均結晶粒径は2.1μm、全粒界長さに占める隣り合う結晶粒の方位差が30°以上の粒界の長さの比率が96%の電解銅箔であった。
【0022】
そして、この電解銅箔を絶縁基板の上に積層することにより銅張積層板が得られ、この銅張積層板の電解銅箔をペルオキソ二硫酸アンモニウム水溶液等のエッチング液によりエッチングして、所定パターンの回路を形成することによりプリント配線板が得られる。このプリント配線板は、回路がシャープなエッジで直進性に優れているため、ファインパターンに対応することができる。
【実施例】
【0023】
まず、銅の結晶構造がエッチング性に与える因子を明らかにすることを目的として、次のような予備実験を行った。
無酸素銅の圧延板C1020と、このC1020上に電解めっきにて100μm厚のめっき層を形成したものとを作製して、エッチング速度を比較した。電解めっき銅としては、添加剤を含まない硫酸銅浴から電析したもの(AFとする)、スルーホールめっきに用いられるハイスロー浴を模してビス(3−スルホプロピル)ジサルファイド、分子量2000のポリエチレングリコール、Clを添加した硫酸銅浴から電析したもの(HTとする)、(220)面への強配向膜が得られるエチレンジアミン錯体浴から電析したもの(EDとする)を作製した。
【0024】
これらを攪拌槽中で20分間エッチングし、その際の質量変化からエッチング速度を求めた。エッチング液としては、1mol/dmのペルオキソ二硫酸アンモニウム水溶液を用い、浴温は25℃とした。また、各サンプルをEBSD法にて結晶粒径を測定した。
その結果、平均結晶粒径が比較的大きいC1020のエッチング速度が飛びぬけて速く、平均結晶粒径が比較的小さいAF、HT、EDの各めっきサンプルではエッチング速度は小さく、また平均結晶粒径とエッチング速度との間に明確な相関は見られなかった。
【0025】
表1に(100)、(110)、(111)単結晶のエッチング速度と、上述の実験で作製したC1020、AF、HTのエッチング速度の測定結果を示す。各単結晶のエッチング速度はほぼ等しい結果となった。作製した多結晶体サンプルと単結晶のエッチング速度を比較すると、各単結晶のエッチング速度はAF,HTといった(100)面や(101)面へ強く配向しているめっき材のエッチング速度に近い値であった。
【0026】
【表1】

【0027】
次に、サンプルは無酸素銅板C1020を用い、前処理として85%リン酸中で電解研磨を実施し加工変質層を取り除くと共に表面を平滑化した後、EBSD測定により個々の結晶粒の方位を同定した。そのサンプルをエスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製走査型プローブ顕微鏡(SPM Nano Cute)を用いてEBSD測定と同視野でSPM測定を実施し、エッチング前の三次元形状像を得た。その後マグネチックスターラーで攪拌している25℃、1mol/dmペルオキソ二硫酸アンモニウム水溶液(エッチング液)中にサンプルを10秒間浸漬、水洗、乾燥した後、EBSD測定と同視野のSPM像を測定した。さらに30秒間上記と同様の条件でエッチングし、その後にSPM測定を行った。
【0028】
図7にEBSDで測定したサンプルの粒界マップを示す。この図の実線が結晶粒界である。エッチング進行時に図7において破線で示したラインをSPM測定にて表面形状変化を測定した結果を図2に示す。図8は、横軸が図7のプロファイル測定ライン上の距離、縦軸が凹凸の高さを示しており、「0sec.」がエッチング前、「10sec.」がエッチング液に10秒間浸漬したもの、「30sec.」が30秒間浸漬したものを示す。
エッチング前のサンプルは、電解研磨されているため、数nmオーダーの凹凸しかない非常に平滑な表面形状である。このサンプルをエッチングすると各結晶粒のエッチング速度差に起因する凹凸が現れてくる。
ここで、特にエッチング速度が遅い面は(100)面であり、(111)面と(101)面も溶け残る傾向がみられた。一方で、特に溶解が早かった面は(311)面や(211)面といった、高いミラー指数を持つ高指数面であった。また、結晶粒界の優先溶解は認められなかった。
【0029】
この実験において結晶方位により明確にエッチング速度が異なり、粒界の優先エッチングがみられなかったことから、結晶方位がエッチング速度に強い影響を与えているものと考えられる。このような結晶方位によるエッチング速度の違いが、多結晶体のエッチング速度にも大きな影響を与えているものと考えられる。特定の面への強い配向がみられないC1020はエッチング速度が速く、(100)、(101)、(111)単結晶や低指数面への配向が強いAFやHTといったサンプルはエッチング速度がC1020の半分と大幅に遅くなっている。このことから低指数面への配向が強いCuはエッチング性が低指数面の単結晶に近くなるためエッチング速度が遅くなり、逆に低指数面への配向性が弱いCuは、エッチング速度の速い高指数面の占める割合が多くなるため、エッチング速度が速くなったのではないかと考えられる。
【0030】
以上の予備実験結果により次の結論を得た。ペルオキソ二硫酸アンモニウム中におけるCuのエッチング速度は結晶配向性に依存する。(100)面、(101)面、(111)面といった低指数面は遅く、(311)面や(221)面といった高指数面は速い。多結晶体のCuにおいて低指数面に優先配向しているとエッチング速度が遅くなり、明確な低指数面への配向がみられないものはエッチング速度が速い。
【0031】
次に、予備実験の結果を踏まえて、以下の試料を作製して、エッチング試験を実施した。
電解液の主成分として表2に示す組成のものを用意し、これに種々の添加剤を加え、表3に示すPR電解と直流電解との両方の電解条件にて製箔し、製箔後に熱処理を経て、表4に示す各種の電解銅箔を得た。電解銅箔の厚みは9μmとした。
表4中、添加剤A〜Dは以下の通りである。
A:ビス(3−スルホプロピル)ジサルファイド(2mg/L)
B:3−メルカプトスルホプロピルスルホネート(5mg/L)
C:分子量6000のポリエチレングリコール(80mg/L)
D:塩化物イオン(30mg/L)
表中、二種類以上添加したものについては、それらを並べて表記した。
【0032】
【表2】

【0033】
【表3】

【0034】
【表4】

【0035】
上記実施例及び比較例で得た厚み9μmの電解銅箔を85%リン酸水溶液中で電解研磨後、TSL社製後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡日本電子製JSM−7001FAによるEBSD法にて試料のシャイニー面を観察した。観察条件は加速電圧15kV、測定面積は100μm×100μmとした。ステップサイズ0.2μmにて、測定面積範囲内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界とみなして、〔100〕方向、〔101〕方向、〔111〕方向のいずれかの方向と厚み方向とのなす角度が10°以内である結晶粒の面積率、平均結晶粒径、全結晶粒界長さのうち、方位差が30°以上の粒界長さの割合をそれぞれ測定した。
【0036】
〔100〕方向、〔101〕方向、〔111〕方向のいずれかの方向と厚み方向とのなす角度が10°以内である結晶粒の面積率は、TSL社製結晶解析ツールOIM (Orientation Imaging Microscopy)により算出した。
また、平均結晶粒径は、測定領域中に存在する結晶粒の大きさをその結晶粒が銅箔表面に存在する面積の割合で規格化してTSL社製のOIMにより算出した。
さらに、測定面積範囲内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界とみなし、ここで決定した全結晶粒界長さのうち、方位差が30°以上の粒界長さの割合をTSL社製のOIMにより算出した。
【0037】
次に、実施例及び比較例で得た厚み9μmの電解銅箔を熱可塑性ポリイミドフィルムにラミネートしCOF(Chip On Film)テープ基材とし、液レジストとして東京応化株式会社製PMER−Pを塗布して乾燥させた後、露光装置にて、ピッチ20μmのレジストパターンを形成した。次に、表5のエッチング剤組成物を用いて、温度45℃、圧力0.05MPaの条件でスプレイエッチングして、所定形状の銅回路を得た。
【0038】
【表5】

【0039】
得られた銅回路の形状について次項の評価を行った。
(1)エッチングファクター
エッチングファクターは、以下の式を用いて算出した。
エッチングファクター=T/((W−V)/2)
上記式中、Tは電解銅箔の厚み(μm)、Vはエッチング溝のトップ幅(μm)、Wはボトム幅(μm)を表す。なお、トップ幅及びボトム幅は、レーザー顕微鏡像から測定した。
(2)直進性
直進性は、株式会社キーエンス製レーザー顕微鏡による観察により評価した。この評価では、線幅のブレが1μm未満のものを「5」とし、1μm以上1.7μm未満のものを「4」、1.7μm以上2.4μm未満のものを「3」、2.4μm以上3μm未満のものを「2」、3μm以上のものを「1」とする5段階評価を用いた。
上記EBSDによる測定結果、上記(1)(2)の評価結果を表6に示す。
【0040】
【表6】

【0041】
この表6から明らかなように、実施例の電解銅箔は、エッチングファクターが大きい。その中でも、全粒界長さに占める、隣り合う結晶粒の方位差が30°以上の粒界の比率が90%以上であると、直進性にも優れている。
図1は実施例1のEBSDによる粒界マップ、図4は比較例1の粒界マップを示す。これらの図を比較してわかるように、実施例1は、比較例1に比べて結晶粒が微細であり、その方位もランダムである。
また、図2は実施例1の隣り合う結晶粒の方位差の分布を示しており、図5は比較例1についての方位差分布を示す。比較例1では方位差が30°以上の割合が82%しかないが、実施例1では96%であった。
これら実施例1及び比較例1の試料をエッチングして回路形成したところ、比較例1では図6に示すようにエッチングによる腐食部分が粗く、凹凸が大きいが、実施例1では図3に示すように凹凸が極めて小さく、きれいな直線にエッチングされている。
【0042】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることは可能である。
例えば、エッチング液としては、実施形態で挙げたものの他、以下に示すプリント配線板の製造工程で用いられる代表的なエッチング液を適用することができる。
塩化第二鉄系エッチング液(FeClとHCl)
塩化第二銅系エッチング液(CuClとHCl)
アルカリエッチング液(NHOH、NHCl、Cu2+
硫酸-過酸化水素系エッチング液(HとHSO
ペルオキソ二硫酸アンモニウム系エッチング液((NHとNHOH)
ペルオキソ二硫酸-硫酸系エッチング液(S2−とHSO
有機酸系エッチング液(HCOOHとCu2+
また、それぞれのエッチング液には特許文献2で述べられているような添加剤を含んでもよい。
また、実施形態では電解銅箔により説明したが、圧延銅箔に適用してもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
〔001〕方向、〔101〕方向および〔111〕方向のいずれかの方向と厚み方向とのなす角度が10°以内である結晶粒の面積率が30%以下であることを特徴とする回路形成用銅箔。
【請求項2】
平均結晶粒径が0.5〜5μmであり、全結晶粒界長さに占める、隣り合う結晶粒の方位差が30°以上の粒界の長さの比率が90%以上であることを特徴とする請求項1記載の回路形成用銅箔。
【請求項3】
請求項1又は2記載の回路形成用銅箔を製造する方法であって、少なくとも、ビス(3−スルホプロピル)ジサルファイド又は3−メルカプトスルホプロピルスルホネートのいずれかと、ポリエチレングリコールと、塩化物イオンとを含む硫酸銅浴を用いてPRパルス電解で製箔し、さらに製箔後60分以内に120〜180℃で5〜60分の熱処理を行うことを特徴とする回路形成用銅箔の製造方法。
【請求項4】
絶縁基板の上に請求項1又は請求項2記載の回路形成用銅箔が積層されてなる銅張積層板。
【請求項5】
絶縁基板の上に請求項1又は請求項2記載の回路形成用銅箔が積層されるとともに、該回路形成用銅箔がエッチングにより回路形成されているプリント配線板。

【図2】
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【図5】
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【図8】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−53362(P2013−53362A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194247(P2011−194247)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】