説明

エッチング方法及びこれに用いられるエッチング液、これを用いた半導体素子の製造方法

【課題】Ti等の特定の金属材料からなる層を優先的に溶解する選択的なウエットエッチングを可能とし、しかもエッチング・アッシング等により生じる残渣をも効果的に洗浄除去することができるエッチング方法及びこれに用いるエッチング液、これを用いた半導体素子の製造方法を提供する。
【解決手段】Ti、Mo、Ag、V、Al、及びGeの少なくとも1種を含む金属材料層と、SiC、SiOC、及びSiONの少なくとも1種を含むケイ素化合物層とを有する半導体基板にエッチング液を適用し、前記金属材料層を選択的に溶解するエッチング方法であって、前記エッチング液として、フッ素化合物と、炭素数が8以上の疎水性基と1つ以上の親水性基とを有する特定有機化合物とを含み、pHを3〜7に調整したものを使用するエッチング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の金属材料を選択的に溶解するエッチング方法及びこれに用いられるエッチング液、これを用いた半導体素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の微細化・多様化が益々進み、その加工方法も素子構造や製造工程ごとに多岐にわたっている。基板のエッチングについてみても、ドライエッチング及びウエットエッチングの双方において、基板の材料の種類や構造に応じ、様々な化学種及び加工条件等が提案され、さらに精力的に研究開発が進められている。
【0003】
中でも、CMOSやDRAM等の素子構造を精密にエッチングして形成する技術が重要であり、その1つとして薬液を利用したウエットエッチングが挙げられる。たとえば、微細トランジスタ回路における回路配線やメタル電極材料、あるいは上述したDRAMのキャパシタ構造における電極構造の精密なエッチング加工が求められる。しかしながら、メタル電極などに適用される金属材料層を選択的にエッチングする条件や薬液については、未だ十分な研究がなされていない。
【0004】
素子基板を構成するシリコン酸化物をエッチングする薬液については、検討された例がある。例えば、特許文献1には、フッ酸及びフッ化アンモニウムを用いて、シリコンウエハの熱酸化膜を効率的にエッチングする方法が提案されている。しかしながら、ケイ素酸化物膜以外のエッチングに効果があるのか、さらには、これを選択的なエッチングに適用しうるものか否かについては不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−177998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、特定の金属材料層の選択的なエッチングを可能とする薬液及びこれを用いたエッチング方法を探索した。しかも、それだけではなく、そのウエットエッチング工程で、半導体製造において行われるプラズマエッチングやアッシング等により生じる残渣をも同時に洗浄除去し、製造効率を大幅に改善しうるエッチング方法及びこれに用いる薬液の開発を技術課題とした。
すなわち、本発明は、Ti等の特定の金属材料からなる層を優先的に溶解する選択的なウエットエッチングを可能とし、しかもエッチング・アッシング等により生じる残渣をも効果的に洗浄除去することができるエッチング方法及びこれに用いるエッチング液、これを用いた半導体素子の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題は以下の手段により解決された。
<1>Ti、Mo、Ag、V、Al、及びGeの少なくとも1種を含む金属材料層と、SiC、SiOC、及びSiONの少なくとも1種を含むケイ素化合物層とを有する半導体基板にエッチング液を適用し、前記金属材料層を選択的に溶解するエッチング方法であって、
前記エッチング液として、フッ素化合物と、炭素数が8以上の疎水性基と1つ以上の親水性基とを有する特定有機化合物とを含み、pHを3〜7に調整したものを使用するエッチング方法。
<2>前記金属材料層とケイ素化合物層のエッチング選択比(金属材料層のエッチングレート[R]/ケイ素化合物層のエッチングレート[RSi])が50以上である<1>に記載のエッチング方法。
<3>前記フッ素化合物が、HF、NHF、(NH)HF2、及びTMAF(テトラメチルアンモニウムフルオリド)から選ばれる<1>又は<2>に記載のエッチング方法。
<4>前記フッ素化合物の濃度が1質量%〜10質量%である<1>〜<3>のいずれかに記載のエッチング方法。
<5>前記特定有機化合物の濃度が0.001質量%〜5質量%である<1>〜<4>のいずれかに記載のエッチング方法。
<6>前記エッチング液のpHを、硫酸、塩酸、硝酸、アンモニア、水酸化第四級アンモニウム化合物、又は水酸化カリウムからなるpH調整剤で調整する<1>〜<5>のいずれかに記載のエッチング方法。
<7>Ti、Mo、Ag、V、Al、及びGeの少なくとも1種を含む金属材料層と、SiC、SiOC、及びSiONの少なくとも1種を含むケイ素化合物層とを有する半導体基板に適用して、前記金属材料層を選択的に溶解するエッチング液であり、フッ素化合物と、炭素数が8以上の疎水性基と1つ以上の親水性基を有する特定有機化合物とを含み、pHが3〜7に調整されたエッチング液。
<8>前記特定有機化合物は、疎水性基の総炭素数が14以上であり、エチレンオキサイド基もしくはプロピレンオキサイド基からなる繰り返し単位を6つ以上もつ非イオン性界面活性剤である<7>に記載のエッチング液。
<9>シリコンウエハ上に、Ti、Mo、Ag、V、Al、及びGeの少なくとも1種を含む金属材料層と、SiC、SiOC、及びSiONの少なくとも1種を含むケイ素化合物層とを少なくとも形成した半導体基板とする工程と、
前記半導体基板にエッチング液を適用し、前記金属材料層を選択的にエッチングする工程とを有する半導体素子の製造方法であって、
前記エッチング液として、フッ素化合物と、炭素数が8以上の疎水性基と1つ以上の親水性基を有する特定有機化合物とを含み、pHを3〜7に調整したものを使用する半導体素子の製造方法。
<10>前記エッチング工程の前に、半導体基板に対しプラズマエッチング及び/又はアッシングを行い、その工程において生じた残渣を、前記エッチング液の適用により併せて除去する<9>に記載の半導体素子の製造方法。
<11><9>又は<10>に記載の製造方法により製造された半導体素子。
【発明の効果】
【0008】
本発明のエッチング方法及びエッチング液によれば、Ti等の特定の金属材料からなる層を優先的に溶解する選択的なウエットエッチングを可能とし、しかもエッチング・アッシング等により生じる残渣をも効果的に洗浄除去することができる。
本発明の半導体素子の製造方法によれば、金属材料層に対する上記の優れたエッチング選択性を利用してそれに基づく特定の構造を有する半導体素子を製造することができる。さらに残渣の除去工程を省略することができ、極めて効率的な半導体素子の製造を可能とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態における半導体基板の作製工程例(エッチング前)を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態における半導体基板の作製工程例(エッチング後)を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のエッチング方法においては、特定の金属材料層と特定のケイ素化合物層とを有する半導体基板に特定のエッチング液を適用し、前記金属材料層を優先的に溶解することができる。このとき、上記選択的なエッチングと同時に基板上の残渣をも洗浄除去することができる。すなわち、半導体基板における選択的エッチングと基板の表面の洗浄とを同時に達成することができ、素子の製品品質の向上とともに、製造効率の改善にも大いに資するものである。このような優れた効果を奏する理由は未解明の点を含むが以下のように考えられる。
本発明に必須のものとして適用されるフッ素化合物は、Ti、Mo、Ag、V、Al、及びGeの少なくとも1種を含む特定の金属材料層に対して、高い溶解性を発揮する。また、フッ素化合物のもつ高い反応性が残渣等にも作用し、高い洗浄性を発揮する。一方、同様に必須のものとして採用された特定の有機化合物が、SiC、SiOC、及びSiONの少なくとも1種を含む特定のシリコン化合物層の表面を保護し、フッ素化合物によるエッチングを抑制・防止したものと考えられる。そして、上記フッ素化合物と特定有機化合物とが所定のpH環境に調整されて機能することにより、両者の相互作用により、選択的エッチング効果と、残渣洗浄効果とが、高いレベルで発揮されたものと考えられる。以下に、本発明についてその好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
【0011】
[エッチング工程]
まず、本発明に係るエッチング工程の好ましい実施形態について、図1、図2に基づき説明する。
【0012】
図1はエッチング前の半導体基板を示した図である。本実施形態の製造例においては、シリコンウエハ(図示せず)の上に、特定のケイ素化合物層として、SiOC層3、SiON層2を配し、その上側にTiN層1を形成したものを用いている。このとき、上記複合層にはすでにビア5が形成されており、当該ビア5の底部にはCu層4が形成されている。この状態の基板10に本実施形態におけるエッチング液(図示せず)を適用して、TiN層を除去する。このエッチング液はプラズマエッチング・アッシング等により生じる残渣Gの除去洗浄性も有しており、この残渣Gも効果的に除去することができる。結果として、図2に示したように、TiN膜と残渣Gが除去された状態の基板20を得ることができる。言うまでもないが、本発明においては、図示したようなエッチング・洗浄状態が理想的ではあるが、TiN層や残渣の残り、あるいはケイ素化合物層の多少の腐食は、製造される半導体素子の要求品質等に応じて適宜許容されるものであり、本発明がこの説明により限定して解釈されるものではない。なお、シリコン基板ないし半導体基板とは、シリコンウエハのみではなくそこに回路構造が施された基板構造体全体を含む意味で用いる。基板の部材とは、上記で定義されるシリコン基板を構成する部材を指し1つの材料からなっていても複数の材料からなっていてもよい。基板の向きについては、特に断らない限り、図1で言うと、シリコンウエハと反対側(TiN側)を「上」もしくは「天」といい、シリコンウエハ側(SiOC側)を「下」もしくは「底」という。
【0013】
[シリコンエッチング液]
次に、本発明のシリコンエッチング液の好ましい実施形態について説明する。本実施形態のエッチング液は特定のフッ素化合物及び特定有機化合物を含有する。以下、任意のものを含め、各成分について説明する。なお、本明細書において、特定の成分を含む液とは、当該成分を含有する液組成物を意味するほか、使用前にそれぞれの成分ないしそれを含有する液・粉末等を混合して用いるキットとしての意味を包含するものである。
【0014】
(フッ素化合物)
フッ素化合物としては、HF、NHF、(NH)HF2、及びTMAF(テトラメチルアンモニウムフルオリド)が挙げられる。中でも、良好な選択性を達成するという観点から、HF、NHFが好ましい。フッ素化合物は分子中にフッ素原子を有す化合物を意味し、水溶液中でフッ素イオンを生成する化合物が好ましい。
【0015】
フッ素化合物は、本実施形態のエッチング液の全質量に対して、1〜10質量%の範囲内で含有させることが好ましく、2〜10質量%含有させることがより好ましく、2〜6質量%含有させることがさらに好ましい。上記上限値以下とすることで、ケイ素化合物層を過剰なエッチングをより抑制できるため好ましい。上記下限値以上とすることが、十分な速度で金属材料層をエッチングする観点で好ましい。
なお、本明細書において「化合物」という語を末尾に付して呼ぶときには、当該化合物そのものに加え、その塩、錯体、そのイオンを含む意味に用いる。また、所望の効果を奏する範囲で、所定の置換基を伴ったり一部を化学修飾したりした誘導体を含む意味である。
【0016】
(特定有機化合物)
特定有機化合物は、炭素数が8以上の疎水性基と1つ以上の親水性基を有する。疎水性基として好ましくは、炭素数14以上のアルキル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、複素環基、及びこれらの基を2以上組み合わせてなる基から選ばれるものである。親水性基としては、1つ以上のO、N、S原子を含むものが好ましい。さらに親水性基の好ましいものとして、エチレンオキサイド基もしくはプロピレンオキサイド基を有するものが挙げられ、前記両基からなる繰り返し単位を合計で6つ以上(好ましくは6以上100以下)もつ親水性基を有する非イオン性界面活性剤が挙げられる。このとき、疎水性基の炭素数は14〜50であることが好ましく、16〜30であることがより好ましい。エチレンオキサイド基又はプロピレンオキサイド基の炭素数の合計は、12〜1000の整数であることが好ましく、12〜200の整数であることがより好ましい。
【0017】
特定有機化合物は、下記の一般式で表されるものであることも好ましい。
式(A) R−(CHCHO)
式(B) R−(CHCHCHO)
式(C) R−(CHCHO)(CHCHCHO)
Rは炭素数10以上の直鎖又は分岐のある炭化水素基、n,mは1以上の整数を表す。
【0018】
Rとしては、直鎖、分枝鎖、または環式の、置換もしくは非置換アルキル基(好ましくは炭素数10〜30)、アルキニル基(好ましくは10〜30)、シクロアルキル基(好ましくは10〜30)、アリール基(好ましくは10〜30)、複素環基(好ましくは10〜30)、又はこれらの基を2以上組み合わせてなる基が挙げられ、直鎖及び分岐アルキル基が特に好ましい。なお、本明細書において置換基に関して「基」という語を末尾に付して呼ぶときには、その基に任意の置換基を有していてもよい意味である。
【0019】
nは6〜500の整数であることが好ましく、6〜100の整数であることがより好ましい。
【0020】
mは6〜500の整数であることが好ましく、6〜100の整数であることがより好ましい。
【0021】
特定有機化合物は、本実施形態のエッチング液の全質量に対して、0.001〜5質量%の範囲内で含有させることが好ましく、0.01〜3質量%含有させることがより好ましく、0.05〜1質量%含有させることがさらに好ましい。上記上限値以下とすることが、特定有機化合物自体が金属層のエッチングを阻害してしまう問題を避ける観点で好ましい。上記下限値以上とすることが、十分にケイ素化合物層のエッチングを抑制できる観点から好ましい。逆に、上記下限値を割り込む微量の有機化合物が混入するような態様は、効果が低下するのみならず、かえってエッチング性能を悪化させることがあるため、上記下限値以上の量で含有させることが特に好ましい。
【0022】
フッ素化合物との関係でいうと、フッ素化合物100質量部に対して、特定有機化合物を0.5〜50質量部で用いることが好ましく、5〜30質量部で用いることがより好ましい。この両者の量を適正な関係で使用することにより、良好なエッチング性及び残渣除去性を実現し、かつ高いエッチング選択性を併せて達成することができる。
【0023】
(その他の成分)
・pH調整剤
本実施形態においては、エッチング液のpHを3〜7の範囲に調節するが、この調整にpH調整剤を用いることが好ましい。pH調整剤としては、硫酸、塩酸、硝酸、アンモニア、水酸化第四級アンモニウム化合物、又は水酸化カリウムからなるものが挙げられ、中でも、良好な選択性を達成する観点から、アンモニア、硝酸、硫酸、塩酸を用いることが好ましい。水酸化第四級アンモニウム化合物としては、TMAH、TEAH、TPAH、TBAH、コリンなどが挙げられる。
【0024】
pH調整剤の使用量は特に限定されず、pHを3〜7の範囲に調整するために必要な量で用いればよい。調整後のpHは上記範囲であれば特に限定されないが、4〜6.5であることが好ましく、4.5〜6であることがより好ましい。なお、本発明においてはpHは特に断らない限り、実施例で測定した装置及び条件によるものとする。
【0025】
・有機溶剤の添加
本発明のシリコンエッチング液においては、さらに水溶性有機溶剤を添加してもよい。これにより、ウエハの面内における均一なエッチング性を更に向上しうる点で有効である。水溶性有機溶剤は、アルコール類(例えば、エチレングリコール、グリセリン、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、プロピレングリコール、フルフリルアルコール、2−メチルー2,4-ペンタンジオール)、グリコール類(例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピレングリコール)、ジメチルスルホキシド、エーテル類(例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル)が好ましい。添加量はエッチング液全量に対して0.1〜20質量%であることが好ましく、1〜15質量%であることがより好ましい。この量が上記下限値以上であることで、上記のエッチングの均一性の向上を効果的に実現することができる。一方、上記上限値以下であることで、多結晶シリコン膜またはアモルファスシリコン膜、その他金属膜に対しての濡れ性を確保するとすることができる。
【0026】
[エッチング条件]
本実施形態においてエッチングを行う条件は特に限定されないが、スプレー式(枚葉式)のエッチングであってもバッチ式(浸漬式)のエッチングであってもよい。スプレー式のエッチングにおいては、半導体基板を所定の方向に搬送もしくは回転させ、その空間にエッチング液を噴射して前記半導体基板に前記エッチング液を接触させる。他方、バッチ式のエッチングにおいては、エッチング液からなる液浴に半導体基板を浸漬させ、前記液浴内で半導体基板とエッチング液とを接触させる。これらのエッチング方式は素子の構造や材料等により適宜使い分けられればよい。
【0027】
エッチングを行う環境温度は、スプレー式の場合、噴射空間を15〜100℃とすることが好ましく、20〜80℃とすることがより好ましい。エッチング液の方は20〜80℃とすることが好ましく、30〜70℃とすることがより好ましい。上記下限値以上とすることにより、金属層に対する十分なエッチング速度を確保することができ好ましい。上記上限値以下とすることにより、エッチングの選択性を確保することができ好ましい。エッチング液の供給速度は特に限定されないが、0.05〜1L/minとすることが好ましく、0.1〜0.5L/minとすることがより好ましい。上記下限値以上とすることにより、エッチングの面内の均一性を確保することができ好ましい。上記上限値以下とすることにより、連続処理時に安定した選択性を確保でき好ましい。半導体基板を回転させるときには、その大きさ等にもよるが、上記と同様の観点から、50〜400rpmで回転させることが好ましい。
【0028】
バッチ式の場合、液浴を20〜80℃とすることが好ましく、30〜70℃とすることがより好ましい。上記下限値以上とすることにより、エッチング速度を確保することができ好ましい。上記上限値以下とすることにより、エッチングの選択性を確保することができ好ましい。半導体基板の浸漬時間は特に限定されないが、0.5〜30分とすることが好ましい、1〜10分とすることがより好ましい。上記下限値以上とすることにより、エッチングの面内の均一性を確保することができ好ましい。上記上限値以下とすることにより、連続処理時に安定した選択性を確保でき好ましい。
【0029】
[残渣]
半導体素子の製造プロセスにおいては、レジストパターン等をマスクとして用いたプラズマエッチングにより半導体基板上の金属層等をエッチングする工程がある。具体的には、金属層、半導体層、絶縁層などをエッチングし、金属層や半導体層をパターニングしたり、絶縁層にビアホールや配線溝等の開口部を形成したりすることが行われる。上記プラズマエッチングにおいては、マスクとして用いたレジストや、エッチングされる金属層、半導体層、絶縁層に由来する残渣が半導体基板上に生じる。本発明においては、このようにプラズマエッチングにより生じた残渣を「プラズマエッチング残渣」と称する。
【0030】
また、マスクとして用いたレジストパターンは、エッチング後に除去される。レジストパターンの除去には、上述のように、ストリッパー溶液を使用する湿式の方法、又は例えばプラズマ、オゾンなどを用いたアッシングによる乾式の方法が用いられる。上記アッシングにおいては、プラズマエッチングにより生じたプラズマエッチング残渣が変質した残渣や、除去されるレジストに由来する残渣が半導体基板上に生じる。本発明においては、このようにアッシングにより生じた残渣を「アッシング残渣」と称する。また、プラズマエッチング残渣及びアッシング残渣等の半導体基板上に生じた洗浄除去されるべきものの総称として、単に「残渣」ということがある。
【0031】
このようなエッチング後の残渣(Post Etch Residue)であるプラズマエッチング残渣やアッシング残渣は、洗浄組成物を用いて洗浄除去されることが好ましい。本実施形態のエッチング液は、プラズマエッチング残渣及び/又はアッシング残渣を除去するための洗浄液としても適用することができる。なかでも、プラズマエッチングに引き続いて行われるプラズマアッシング後において、プラズマエッチング残渣及びアッシング残渣を除去するために使用することが好ましい。
【0032】
[被加工物]
本実施形態のエッチング液を適用することによりエッチングされる材料はどのようなものでもよいが、Ti、Mo、Ag、V、Al、及びGeの少なくとも1種を含む金属材料層と、SiC、SiOC、及びSiONの少なくとも1種を含むケイ素化合物層とを有する半導体基板に適用されることを要件とする。
【0033】
・金属材料層
金属材料層は高いエッチングレートでエッチングされることが好ましく、中でも、Ti、Al、Geを含むことが好ましく、Tiを含むことがより好ましく、TiNであることが特に好ましい。金属材料層の厚さは特に限定されないが、通常の素子の構成を考慮したとき、0.005〜0.3μm程度であることが実際的である。金属材料層のエッチングレート[R]は、特に限定されないが、生産効率を考慮し、50〜500Å/minであることが好ましい。
【0034】
・ケイ素化合物層
ケイ素化合物層は低いエッチングレートに抑えられることが好ましい。ケイ素化合物層の厚さは特に限定されないが、通常の素子の構成を考慮したとき、0.005〜0.5μm程度であることが実際的である。ケイ素化合物層のエッチングレート[RSi]は、特に限定されないが、生産効率を考慮し、0.001〜10Å/minであることが好ましい。
【0035】
金属材料層の選択的エッチングにおいて、そのエッチングレート比([R]/[RSi])は特に限定されないが、高い選択性を必要とする素子を前提に言うと、10以上であることが好ましく、10〜5000であることがより好ましく、30〜3000であることがさらに好ましく、50〜2500であることが特に好ましい。
【0036】
[半導体素子の製造]
本実施形態においては、シリコンウエハ上に、前記金属材料層とケイ素化合物層とを形成した半導体基板とする工程と、前記半導体基板にエッチング液を適用し、前記金属材料層を選択的に溶解する工程とを介して、所望の構造を有する半導体素子を製造することが好ましい。このとき、前記エッチング液として、フッ素化合物と、炭素数が8以上の疎水性基と1つ以上の親水性基を有する特定有機化合物とを含み、pHを3〜7に調整したものを使用する。前記エッチング工程の前に、半導体基板に対しドライエッチングもしくはドライアッシングを行い、当該工程において生じた残渣を除去することが好ましい。このことは、すでに説明してきたところであるが、半導体素子の製造における各工程には、通常、この種の製品に適用される各加工方法を適用することができる。
【実施例】
【0037】
<実施例1、比較例1>
以下の表1に示す成分を同表に示した組成(質量%)で含有させてエッチング液を調液した。なお、pH調整剤は表中に記載のpHになる量で添加したことを意味する。
【0038】
<エッチング試験>
試験ウエハ:シリコンウエハ上に、TiN層とSiOC層とを、試験評価用に、並べた状態で配置した半導体基板(試験体)を準備した。これに対して、枚葉式装置(SPS-Europe B.V.社製、POLOS(商品名)))にて下記の条件でエッチングを行い評価試験を実施した。
・薬液温度:80℃
・吐出量:1L/min.
・ウエハ回転数500rpm
【0039】
[配線の洗浄性]
エッチング後のウエハの表面をSEMで観察し、残渣(プラズマエッチング残渣及びアッシング残渣)の除去性について評価を行った。
AA:フォトレジスト及び残渣が完全に除去された。
A:フォトレジスト及び残渣がほぼ完全に除去された。
B:フォトレジスト及び残渣の溶解不良物が残存していた。
C:フォトレジスト及び残渣がほとんど除去されていなかった。
【0040】
[pHの測定]
表中のpHは室温(25℃)においてHORIBA社製、F−51(商品名)で測定した値である。
【0041】
【表1】

【0042】
【化1】

W5:a〜eの合計数は15
【0043】
【化2】

W6:a〜cの合計数は6
W6は上記2種の化合物の混合物である
RはC1225である。
【0044】
上表に示したとおり、比較例のものでは(試験c11〜c14)、TiNの選択的なエッチングと洗浄性との両立はできなかった。本発明のシリコンエッチング液によれば(試験100〜122)、TiNに対して高いエッチング速度を示し、一方でSiOCに対してはダメージを与えないという高いエッチング選択性を示した。しかも、ドライエッチング残渣の除去性に優れ、特定の構造の半導体基板の製造品質とともに、製造効率(生産性)をも大幅に改善しうるものであることが分かる。
【0045】
<実施例2>
TiN及びSiOC以外に、表2に示した金属層及びシリコン化合物層を配設した基板を準備して、上記試験102と同様にして、エッチングを行った(試験202)。結果を表2の上表に示すとともに、上記TiN/SiOCの結果とあわせてエッチング選択比を表2の下表にまとめて示した。SiOxについては参考である。
【0046】
【表2】

上表に示したとおり、本発明によれば、TiN/SiOC以外においても良好なエッチング速度とその選択性が得られることが分かる。SiOxに対しては選択性が得られないことを確認した。
【符号の説明】
【0047】
1 TiN層
2 SiON層
3 SiOC層
4 Cu層
5 ビア
G 残渣

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ti、Mo、Ag、V、Al、及びGeの少なくとも1種を含む金属材料層と、SiC、SiOC、及びSiONの少なくとも1種を含むケイ素化合物層とを有する半導体基板にエッチング液を適用し、前記金属材料層を選択的に溶解するエッチング方法であって、
前記エッチング液として、フッ素化合物と、炭素数が8以上の疎水性基と1つ以上の親水性基とを有する特定有機化合物とを含み、pHを3〜7に調整したものを使用することを特徴とするエッチング方法。
【請求項2】
前記金属材料層とケイ素化合物層のエッチング選択比(金属材料層のエッチングレート[R]/ケイ素化合物層のエッチングレート[RSi])が50以上であることを特徴とする請求項1に記載のエッチング方法。
【請求項3】
前記フッ素化合物が、HF、NHF、(NH)HF2、及びTMAF(テトラメチルアンモニウムフルオリド)から選ばれることを特徴とする請求項1又は2に記載のエッチング方法。
【請求項4】
前記フッ素化合物の濃度が1質量%〜10質量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のエッチング方法。
【請求項5】
前記特定有機化合物の濃度が0.001質量%〜5質量%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のエッチング方法。
【請求項6】
前記エッチング液のpHを、硫酸、塩酸、硝酸、アンモニア、水酸化第四級アンモニウム化合物、又は水酸化カリウムからなるpH調整剤で調整することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のエッチング方法。
【請求項7】
Ti、Mo、Ag、V、Al、及びGeの少なくとも1種を含む金属材料層と、SiC、SiOC、及びSiONの少なくとも1種を含むケイ素化合物層とを有する半導体基板に適用して、前記金属材料層を選択的に溶解するエッチング液であり、フッ素化合物と、炭素数が8以上の疎水性基と1つ以上の親水性基を有する特定有機化合物とを含み、pHが3〜7に調整されたことを特徴とするエッチング液。
【請求項8】
前記特定有機化合物は、疎水性基の炭素数が14以上であり、エチレンオキサイド基もしくはプロピレンオキサイド基からなる繰り返し単位を6つ以上もつ非イオン性界面活性剤であることを特徴とする請求項7に記載のエッチング液。
【請求項9】
シリコンウエハ上に、Ti、Mo、Ag、V、Al、及びGeの少なくとも1種を含む金属材料層と、SiC、SiOC、及びSiONの少なくとも1種を含むケイ素化合物層とを少なくとも形成した半導体基板とする工程と、
前記半導体基板にエッチング液を適用し、前記金属材料層を選択的にエッチングする工程とを有する半導体素子の製造方法であって、
前記エッチング液として、フッ素化合物と、炭素数が8以上の疎水性基と1つ以上の親水性基を有する特定有機化合物とを含み、pHを3〜7に調整したものを使用することを特徴とする半導体素子の製造方法。
【請求項10】
前記エッチング工程の前に、半導体基板に対しプラズマエッチング及び/又はアッシングを行い、その工程において生じた残渣を、前記エッチング液の適用により併せて除去することを特徴とする請求項9に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の製造方法により製造された半導体素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−256876(P2012−256876A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−110968(P2012−110968)
【出願日】平成24年5月14日(2012.5.14)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】