説明

エッチング液組成物

【課題】臭気の発生及び装置や被エッチング基材等の腐食劣化の問題が抑制された、特に酸化インジウム系被膜に対し、充分なエッチング速度とエッチングの選択性を示すエッチング液組成物を提供すること。
【解決手段】(A)2−ヒドロキシエタンスルホン酸又はその塩を、2−ヒドロキシエタンスルホン酸換算で5〜20質量%と、(B)フッ化水素、フッ化アンモニウム、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム及びフッ化リチウムから選ばれる少なくとも1種類のフッ化化合物0.05〜5質量%とを含む水溶液からなることを特徴とする金属酸化物被膜のエッチング液組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物被膜のエッチング液組成物に関し、特に、インジウム−スズ酸化物(以下ITOと略す)、インジウム−亜鉛酸化物(以下IZOと略す)等の酸化インジウムを含有する酸化インジウム系被膜の加工に適したエッチング液に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜等に使用される酸化インジウム系被膜のウエットエッチングに関する技術は、種々知られているが、安価でエッチング速度が良好であることから、塩酸を含む水溶液がエッチング液組成物として多く使用されている。しかし、塩酸は、塩化水素の揮発と強い腐食性のため、臭気の発生及び装置や被エッチング基材等の腐食劣化が問題となる。また、これに加えて、酸化インジウム系被膜と、基材や他の層とにおけるエッチングの選択性を得るのが難しいという問題を有している。
【0003】
塩酸を含有しない酸化インジウム系被膜のエッチング液組成物は、種々報告されている。例えば、特許文献1には、銀又は銀合金からなる金属膜と、透明導電膜とを一液でエッチングするための銅イオン、硝酸、フッ素化合物を必須成分として含む組成物が開示されている。必須成分のフッ化化合物として、フッ化アンモニウムが例示されており、任意成分として、ギ酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸等のカルボン酸が開示されている。
【0004】
特許文献2には、多価カルボン酸とフッ化水素酸塩を含有するITOエッチング液組成物が開示されている。多価カルボン酸としては、シュウ酸、クエン酸が例示されており、フッ化物塩としては、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化アンモニウムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−206462号公報
【特許文献2】特開2010−67823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記に開示されたエッチング液組成物は、エッチング速度が遅く、エッチング選択性も充分なものではなかった。
【0007】
したがって、本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、臭気の発生及び装置や被エッチング基材等の腐食劣化が抑制された、特に酸化インジウム系被膜に対して、充分なエッチング速度とエッチングの選択性を示すエッチング液組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記問題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、2−ヒドロキシエタンスルホン酸とフッ化化合物を特定の割合で併用することにより、上記問題を解決し得ることを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、(A)2−ヒドロキシエタンスルホン酸又はその塩を、2−ヒドロキシエタンスルホン酸換算で5〜20質量%と、(B)フッ化水素、フッ化アンモニウム、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム及びフッ化リチウムから選ばれる少なくとも1種類のフッ化化合物0.05〜5質量%とを含む水溶液からなることを特徴とする金属酸化物被膜のエッチング液組成物である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、酸化インジウム系被膜に対して、充分なエッチング速度とエッチングの選択性を有するエッチング液組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の金属酸化物被膜のエッチング液組成物(以下、単にエッチング液組成物ということもある)は、(A)2−ヒドロキシエタンスルホン酸又はその塩を、2−ヒドロキシエタンスルホン酸換算で5〜20質量%と、(B)フッ化水素、フッ化アンモニウム、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム及びフッ化リチウムから選ばれる少なくとも1種類のフッ化化合物0.05〜5質量%を必須成分として含み、必要に応じて、本発明の効果を阻害しない範囲で、添加剤を含有してもよい。本発明のエッチング液組成物は、上記(A)、(B)の成分及び必要に応じて使用される添加剤を含有し、残分は水である。
【0012】
本発明のエッチング液組成物における(A)成分の2−ヒドロキシエタンスルホン酸の塩の例としては、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、アンモニウム塩等の水溶性の塩が挙げられる。通常(A)成分としては、2−ヒドロキシエタンスルホン酸を使用すればよい。その含有量は、2−ヒドロキシエタンスルホン酸換算で5〜20質量%、好ましくは、5〜15質量%である。(A)成分の含有量が下限よりも少ないと、充分なエッチング速度が得られない。一方、(A)成分の含有量を上限よりも多くしてもエッチング速度の向上は図られず、却って装置部材への腐食等の不具合を生じる。
【0013】
本発明のエッチング液組成物における(B)成分のフッ化化合物は、フッ化水素、フッ化アンモニウム、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化リチウムから選ばれ、これらは1種類でもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。中でも、フッ化カリウムが、安全性、衛生性の観点から好ましい。(B)の含有量は、0.05〜5質量%、好ましくは0.1〜2質量%である。また、(B)の含有量が下限よりも少ないと、充分なエッチング速度が得られない。一方、(B)の含有量が上限よりも多いと、装置や基材に対する腐食性が大きくなる不具合が生じる。
【0014】
また、本発明のエッチング液組成物には、上記(A)成分及び(B)成分のほかに、本発明の効果を阻害することのない範囲で、周知の添加剤を配合させることができる。当該添加剤としては、エッチング液組成物の安定化剤、各成分の可溶化剤、消泡剤、pH調整剤、比重調整剤、粘度調整剤、濡れ性改善剤、キレート剤、界面活性剤等が挙げられ、これらを使用する場合の濃度は、一般的に、0.001質量%〜10質量%の範囲である。
【0015】
本発明のエッチング液組成物は、金属酸化物被膜をエッチングする際に使用される。エッチングされる対象の金属酸化物としては、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化イットリウム、酸化インジウム、ITO、IZO、アルミニウム−亜鉛酸化物(AZO)等が挙げられる。これらの中でも特に、酸化インジウム、ITO、IZO等の酸化インジウムを含有する酸化インジウム系被膜に対して、良好なエッチング速度を示す。また、これらの酸化インジウム系被膜に対して、特に良好なエッチング選択性を示す。
【0016】
本発明のエッチング液組成物は、上記特性を有するので、太陽電池、表示素子、タッチパネル、照明器具等に使用される透明導電膜であるITO被膜や、IZO被膜のエッチングに適している。
【0017】
本発明のエッチング液組成物を用いて被膜を除去するには、被加工基材を上記本発明のエッチング液組成物に浸漬させるか、被加工基材に本発明のエッチング液組成物をスプレー等すればよい。浸漬条件は、部材の形状や膜厚などによって異なるので、これらに応じて適宜選択すればよいが、例えば、温度が低温であるとエッチングの効率が悪くなるので、好ましくは、10〜80℃、より好ましくは20〜60℃で行うのがよい。
【0018】
上記浸漬、スプレー等によるエッチング時間は、特に限定されるものではなく、被膜が除去されるまでの時間行えばよい。被膜が、通常用いられる被膜の厚さである、膜厚0.01〜500μmであれば、エッチングは、数秒〜十数分行えばよい。尚、本発明のエッチング液組成物は、エッチング選択性が良好であるため、被膜のエッチングが終了して尚、過剰な時間の処理をしても基材等の腐食化といった問題がない。特に、酸化インジウム系被膜に対して、より良好なエッチング選択性を示す。
【実施例】
【0019】
以下、実施例及び比較例により本発明を詳細に説明するが、これらによって本発明が限定されるものではない。
【0020】
[実施例1]
表1に記載した濃度の2−ヒドロキシエタンスルホン酸と、表1に記載のフッ化化合物をカッコ内に記載した濃度で含むエッチング液組成物No.1〜No.10を調製した。なお、残量は全て水である。30℃に調温したそれぞれのエッチング液に、PETフィルム上にスパッタリングにより膜厚125μmのITO膜を成膜した基材を浸漬し、ITO膜が除去されるまでの時間を測定した。
【0021】

【0022】
[比較例1]
表2に記載の溶質を溶解させた水溶液からなる比較用エッチング液組成物A〜Lを調製した。上記実施例と同様の操作を行い、ITO膜が除去されるまでの時間を測定した。
【0023】

【0024】
エッチング液No.1〜10と、比較用エッチング組成物Aとの比較から、本発明のエッチング液は、塩酸と同等以上のITOエッチング速度を得ることができることが確認された。また、エッチング液No.1、4、10と、エッチング液C、Dとの比較から、本発明のエッチング液は、2−ヒドロキシエタンスルホン酸を、硫酸、硝酸に変えたものと比べて、同等以上のITOエッチング速度を与えることが明らかである。これらの結果から、本発明のエッチング液は、従来のエッチング液で問題となってきた、臭気の発生、装置や被エッチング基材等に対する腐食劣化、エッチング選択性の問題を改善でき、しかもエッチング速度に優れたエッチング液であることが確認できる。
【0025】
また、エッチング液No.6と、比較用エッチング液E、F、Gとの比較から、本発明のエッチング液は、2−ヒドロキシエタンスルホン酸を他の有機酸に変えたものと比べて、同等以上のITOエッチング速度を与えることが確認できる。
【0026】
また、エッチング液No.1〜10と、比較用エッチング液H、I、J、K、Lとの比較(例えば、No.3とIとの比較)から、本発明のエッチング液は、フッ化化合物を塩化化合物に変えたものと比べて、優れたエッチング速度を与えることが確認できる。
【0027】
[実施例2、比較例2]
上記実施例1に記載のエッチング液No.6と比較例1に記載のエッチング液Fについて、アルミニウムおよびチタニウムに対する腐食試験を行った。腐食試験は、各基材のテストピース(5cm×2.5cm×厚さ1mm)を40℃のエッチング液に7時間浸漬し、浸漬後の質量減少で評価した。結果を表3に示す。
【0028】

【0029】
上記より、本発明のエッチング液No.6は、2−ヒドロキシエタンスルホン酸をシュウ酸に変えたものと比べて、アルミニウムおよびチタニウムに対する腐食性が小さいことが確認できた。
【0030】
[実施例3]
上記、実施例1に記載のエッチング液No.6及びNo.7を使用して、50nmの酸化イットリウム膜、30nmの酸化珪素膜の各被膜についてエッチング試験を行った。具体的には、それぞれの膜基材を45℃のエッチング液浸漬し、15分浸漬した。この結果、それぞれの膜が除去したことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)2−ヒドロキシエタンスルホン酸又はその塩を、2−ヒドロキシエタンスルホン酸換算で5〜20質量%と、(B)フッ化水素、フッ化アンモニウム、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム及びフッ化リチウムから選ばれる少なくとも1種類のフッ化化合物0.05〜5質量%とを含む水溶液からなることを特徴とする金属酸化物被膜のエッチング液組成物。
【請求項2】
前記(B)フッ化化合物が、フッ化カリウムである請求項1に記載のエッチング液組成物。
【請求項3】
前記金属酸化物被膜が、酸化インジウム系被膜である請求項1又は2に記載のエッチング液組成物。
【請求項4】
前記酸化インジウム系被膜が、酸化インジウム被膜、インジウム−スズ酸化物被膜又はインジウム−亜鉛酸化物被膜のいずれかである請求項3に記載のエッチング液組成物。

【公開番号】特開2012−129346(P2012−129346A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279129(P2010−279129)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】