説明

エッチング用組成物及びエッチング方法

【課題】リン酸系の窒化ケイ素のエッチング用組成物では、酸化ケイ素に対する窒化ケイ素の選択エッチング性及び酸化ケイ素の再析出のないものがなかった。
【解決手段】リン酸、可溶性ケイ素化合物、硝酸及び/又は硝酸塩、水を含んでなり、しかもフッ酸を含有しない窒化ケイ素のエッチング用組成物では、酸化ケイ素に対する窒化ケイ素のエッチング選択比が高く、なおかつバッチ処理を繰り返した場合における酸化ケイ素の再析出の問題がない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は窒化ケイ素のエッチング用組成物に関する。更には、半導体デバイスやフラットパネルディスプレー等の絶縁膜に使用される窒化ケイ素をエッチングできる組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
窒化ケイ素は、セラミックス材料、半導体用材料として非常に重要な化合物である。半導体の製造工程には、酸化ケイ素にダメージを与えることなく、窒化ケイ素のみ選択的にエッチングすることが必要な工程がある。現在、この工程には高純度リン酸が主に使用されている。しかし高純度リン酸では150℃以上という高温で使用した場合、酸化ケイ素のダメージが大きいという問題があった。
【0003】
酸化ケイ素のダメージを抑制する方法としてケイ素を溶解した高純度リン酸、又はヘキサフルオロケイ酸を添加したリン酸が提案されている(特許文献1〜3参照)。しかし、ヘキサフルオロケイ酸を添加した場合、エッチング液から不溶性のケイ素化合物の析出が早まるため、酸化ケイ素のダメージを充分減らすほどヘキサフルオロケイ酸を添加することができず、工業的に使用するには問題があった。
【0004】
100℃以下の温度で窒化ケイ素をエッチングする方法としてリン酸、フッ化水素酸、硝酸からなるエッチング液にフルオロケイ酸又はフルオロケイ酸塩を添加する方法が開示されている。しかし、リン酸にフッ化水素酸及び硝酸を添加したエッチング用組成物では他の半導体材料である酸化ケイ素のダメージが大きく、半導体プロセスに用いるには問題があった。特にリン酸にフッ化水素酸及び硝酸を加えた混酸は、高温で用いた場合には悪影響がさらに顕著であった。
【0005】
このように、これまで酸化ケイ素にダメージを与えることなく、窒化ケイ素を選択的にエッチングできる工業的に満足できるエッチング用組成物はなかった。
【0006】
【特許文献1】特開平6−349808号公報
【特許文献2】特開2000−133631号公報
【特許文献3】特開平8−64574号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記の課題に鑑みて、酸化ケイ素にダメージを与えることなく、窒化ケイ素を選択的にエッチングできる組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、窒化ケイ素のエッチングについて鋭意検討した結果、リン酸、可溶性ケイ素化合物と水に、さらに硝酸及び/又は硝酸塩水を含んでなり、なおかつフッ酸を含有しない窒化ケイ素のエッチング用組成物では、酸化ケイ素にダメージを与えることなく、窒化ケイ素を高速かつ選択的にエッチング除去でき、さらに処理バッチを繰り返して用いる場合において酸化ケイ素の再析出の問題が著しく改善されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明はリン酸、可溶性ケイ素化合物、硝酸及び水を含んでなり、しかもフッ酸を含有しない窒化ケイ素のエッチング用組成物並びに窒化ケイ素のエッチング方法である。
【0010】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
【0011】
本発明のエッチング用組成物は、リン酸、可溶性ケイ素化合物、硝酸及び水を含んでなる組成物である。
【0012】
本発明のエッチング用組成物におけるリン酸に特に制限は無く、一般に流通しているものを使用することができる。
【0013】
本発明のエッチング用組成物には、可溶性ケイ素化合物を含有する。可溶性ケイ素化合物は、シリコン酸化膜へのダメージを低減することができる。可溶性ケイ素化合物としては、ケイ酸、ケイ酸塩、ヘキサフルオロケイ酸、ヘキサフルオロケイ酸塩、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシランなどのアルコキシシラン類、メチルトリメトキシシランなどのアルキルシラン類が特に好ましいが、それ以外の可溶性ケイ素化合物を使用するこもできる。ケイ酸塩、ヘキサフルオロケイ酸塩としては、アンモニウム塩が好ましい。ケイ酸、ケイ酸塩は、ケイ素酸化物などを硫酸や燐酸に添加し、加熱して溶解させたものを使用しても良い。ヘキサフルオロケイ酸、ヘキサフルオロケイ酸塩は、工業的に流通しているものを使用しても良いし、ケイ酸にフッ化水素酸を反応させ、さらにこれを塩にしても良い。本発明のエッチング用組成物における可溶性ケイ素化合物の濃度は、0.001〜0.5重量%、特に0.001〜0.2重量%、さらに0.01〜0.1重量%が好ましい。0.5重量%以上添加すると、ケイ素酸化物が析出するおそれがある。
【0014】
本発明のエッチング用組成物は硝酸及び/又は硝酸塩を含有する。これらの硝酸成分は、シリコン酸化膜へのダメージを低減することができる。硝酸塩としては、例えばアルカリ金属を含まない硝酸アンモニウムが好ましい。
【0015】
本発明のエッチング用組成物における硝酸の濃度は、0.0001〜20重量%が好ましく、特に0.01〜1重量%、さらには0.01〜0.2重量%が好ましい。特に0.01〜0.1重量%の範囲では高い窒化ケイ素のエッチング速度と選択比が達成される。一方、20重量%以上添加すると、窒化ケイ素のエッチング速度が低下し易い。
【0016】
本発明のエッチング用組成物には、フッ酸を含まない。フッ酸は窒化ケイ素のエッチング速度を高めるが、酸化シリコンへのダメージが無視できないほど増大し、エッチングの選択性が得られない。
【0017】
本発明のエッチング用組成物は、窒化ケイ素のエッチング、特に半導体デバイス、フラットパネルディスプレーの絶縁膜として使用される窒化ケイ素のエッチングに利用において優れた性能を発揮する。半導体デバイスにおいて、窒化ケイ素は、半導体基板上にCVD法(化学気相成長)などで成膜されるが、素子、回路を形成するためには、エッチングで不要な部分を取り除く必要がある。本発明のエッチング用組成物を使用すれば、窒化ケイ素を選択的にエッチングすることができる。
【0018】
本発明のエッチング用組成物を使用する時の温度は、120〜180℃、好ましくは130〜170℃である。180℃を超える温度では、窒化ケイ素以外の半導体材料に対してダメージが発生し易く、120℃未満の温度では、工業的に満足できる速度で窒化ケイ素をエッチングすることが難しい。
【0019】
またバッチ処理を繰り返す場合には、本発明のエッチング組成物の一部の成分が消費、或いは揮発し、本発明の効果が低下する場合があるため、本発明のエッチング組成物中のリン酸、可溶性ケイ素化合物、硝酸及び/又は硝酸塩、水のいずれか一種以上の成分を適宜追加しながら用いてもよい。
【0020】
本発明のエッチング用組成物を使用し、窒化ケイ素をエッチングする際、超音波などを使用し、エッチングを促進しても良い。
【発明の効果】
【0021】
本発明のエッチング用組成物では、窒化ケイ素のエッチングに対する選択性が高く、処理バッチを繰り返して用いる場合に酸化ケイ素の再析出の問題がないため、半導体回路を形成するのに有用である。
【実施例】
【0022】
本発明を以下の実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0023】
実施例1〜7
ヘキサフルオロケイ酸0.04%、水3.75%、表1に記載の硝酸、残部85%リン酸からなるエッチング組成物100gに、SiNをCVD法により300nmの厚みに成膜したシリコンウエハ(15mm角の正方形)及び熱酸化膜1000nmの厚みに成膜したシリコンウエハ(15mm角の正方形)を155℃で30分間浸漬した。ウエハを取り出し、水洗、乾燥の後、光干渉式膜厚計でSiN、及び熱酸化膜の膜厚を測定した。窒化ケイ素のエッチング速度、酸化ケイ素のエッチング速度、選択比率(窒化ケイ素/酸化ケイ素)を表1及び図1に示した。
【0024】
硝酸を添加すると添加量が少ない領域においてエッチング速度の低下が見られ、従来は硝酸の添加は悪いことが知られていたが、図1から明らかな様に、特定の硝酸濃度の範囲ではエッチング速度と選択比を著しく高める組成範囲があることが見出された。
【0025】
比較例1
硝酸を添加しない以外は実施例1〜7と同じ方法で実施した。結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

実施例8〜10
実施例1において硝酸のかわりに硝酸アンモニウムを添加した以外は同様な条件でエッチングを実施した。窒化ケイ素のエッチング速度、酸化ケイ素のエッチング速度、選択比率(窒化ケイ素/酸化ケイ素)を表2に記載した。
【0027】
【表2】

比較例2
フッ酸を1%添加した以外は、実施例7と同じ方法で実施した。その結果、酸化ケイ素のエッチング速度は15.47nm/minとなり、選択比は0.71まで低下した。
【0028】
実施例11
ヘキサフルオロケイ酸0.03%、水2.5%、硝酸0.1%、残部85%リン酸からなるエッチング組成物100gに、SiNをCVD法により300nmの厚みに成膜したシリコンウエハ(15mm角の正方形)及び熱酸化膜1000nmの厚みに成膜したシリコンウエハ(15mm角の正方形)を150℃で30分間浸漬するバッチ処理を繰り返し実施した。バッチ毎に0.1%ヘキサフルオロケイ酸を4%づつ逐次追加しながら行った。レファレンスとして、硝酸を加えない以外は同じ組成でバッチ処理を繰り返した。結果を図2に示す。
【0029】
硝酸を加えない場合、バッチ処理数が増えるに従って酸化ケイ素のエッチング速度が負(即ち酸化ケイ素の再析出)が見られたが、硝酸を加えた場合には酸化ケイ素の再析出が著しく抑制された。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例1〜7の硝酸の添加量と窒化ケイ素のエッチング速度の関係を示す。(図中の横線は硝酸未添加の速度を示す。)
【図2】繰り返しバッチ処理使用時における酸化ケイ素の再析出を示す。(実施例11)エッチング速度が負の場合が酸化ケイ素の析出を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸、可溶性ケイ素化合物、硝酸及び/又は硝酸塩、及び水を含んでなり、なおかつフッ酸を含有しない窒化ケイ素のエッチング用組成物。
【請求項2】
可溶性ケイ素化合物が、ハロゲン化ケイ素、ヘキサフルオロケイ酸塩、アルコキシシラン類、アルキルシラン類から成る群より選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載のエッチング用組成物。
【請求項3】
可溶性ケイ素化合物が、ケイ酸、ケイ酸塩、フッ化ケイ素、塩化ケイ素、ヘキサフルオロケイ酸、ヘキサフルオロケイ酸アンモニウム、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシランから成る群より選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載のエッチング用組成物。
【請求項4】
硝酸塩が硝酸アンモニウムである請求項1〜3のいずれかに記載のエッチング用組成物。
【請求項5】
可溶性ケイ素化合物が0.001〜0.5重量%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のエッチング用組成物。
【請求項6】
硝酸及び/又は硝酸塩が、0.0001〜10重量%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のエッチング用組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のエッチング組成物を使用し、120℃以上180℃以下でエッチングすることを特徴とする窒化ケイ素のエッチング方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載のエッチング組成物を使用して窒化ケイ素をエッチングする方法において、リン酸、可溶性ケイ素化合物、硝酸及び/又は硝酸塩の群から選ばれる少なくとも一種の成分を追加添加して用いることを特徴とするエッチング方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−311436(P2008−311436A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−157974(P2007−157974)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】