説明

エッチング装置、エッチング方法及びプログラム

【課題】良好に任意の形状に加工することが可能なエッチング装置、エッチング方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】エッチング装置10は、イオンガン11とXYステージ12と制御部13とPC15とを備える。予め測定されたエッチングが施される基板21の厚みの分布から、升目状に区分された基板21の各領域の被エッチング総量を算出し、この被エッチング総量に達するようにPC15は各領域におけるエッチング時間を判別する。制御部13は、このPC15によって判別されたエッチング時間に基づき、XYステージ12及びイオンガン11を制御する。イオンガン11とXYステージ12との間にはマスク等の遮蔽物が設けられていないためエッチング可能領域を遮ることがなく、良好に任意の形状に加工することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品の製造に利用されるエッチング装置、エッチング方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体、電子部品製造の分野では基板上に薄膜を形成し、デバイスとする技術が一般に用いられている。例えば圧電素子を例に挙げると、圧電材料からなるウエハ又は基板上に電極膜を成膜し、数十〜数千個の複数の素子を形成した後、個々の素子に切り分けることにより、圧電素子が製造される。
【0003】
圧電素子は、利用する振動モードによっても異なるが、例えば厚みすべり振動を利用した振動素子では、その基板の厚み、電極膜の厚みによって周波数が決まるため、これらの厚みの精度によって周波数精度が決まる。なお、表面弾性波素子でも、その電極膜の厚みの精度によって周波数精度が決まる。従って、これらの素子で所望の周波数精度を得るためには、基板、電極膜の厚みを制御することが重要である。
【0004】
しかし、現在基板に用いられる研磨技術の精度は十分でなく、基板内での厚みの分布が生じる。更にスパッタ蒸着で成膜された電極膜にも厚み分布が生ずるため、同一基板内に形成された素子は周波数特性にばらつきが生ずる問題がある。
【0005】
そこで、基板内の厚みのばらつきを抑制するため、基板を研磨した後、基板の厚み分布を測定し、もしくは電極膜を成膜した後に個々の周波数分布を測定し、それぞれのエリアをマスクを介して選択的にエッチングし、基板又は電極膜の厚みのばらつきを小さくする方法が用いられている(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特開2001−36370号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に開示されているように厚み分布のばらつきを減らすため、マスクを介してエッチングする場合、エッチングの際に基板もしくは薄膜のみならずマスク表面も消耗されるため、マスクの交換が不可欠である。また、マスク表面の消耗により発生したパーティクルは、素子を汚染する原因ともなり、素子の不良の原因となる。また、エッチング可能領域の一部のみしかエッチングすることができないため、所定のエッチング量を得るために要する時間が増加し、製造効率が悪く、コストが増加する問題がある。
【0007】
そこで、素子の不良の原因となるマスク等の消耗部品が必要なく、エッチング源とエッチングが施される基板との間に遮蔽物を設けず効率よく任意の形状に加工することが可能なエッチング装置、エッチング方法及びプログラムが求められている。
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、良好に任意の形状に加工することが可能なエッチング装置、エッチング方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係るエッチング装置は、
所定のエッチング分布を有するエッチング源と、
エッチング対象物を載置するステージと、
前記エッチング源と前記ステージとの相対位置を調整する相対位置調整手段と、
前記エッチング対象物の被エッチング量の分布と、前記エッチング源のエッチング分布とに基づいて、前記エッチング対象物の各位置におけるエッチング総量が被エッチング量に対応するように、前記相対位置調整手段と前記エッチング源との少なくとも一方を制御する制御手段と、
を備える、ことを特徴とする。
【0010】
前記エッチング源は、前記エッチング対象物にエッチング用の粒子ビームを照射し、
前記制御手段は、例えば、前記エッチング源と前記相対位置調整手段とを制御して、前記エッチング対象物の各位置での前記エッチング源からの粒子ビームの照射時間を制御する。
【0011】
前記制御手段は、
前記エッチング源を制御して、前記粒子ビームを連続的に照射させ、
前記相対位置調整手段を制御して、前記エッチング対象物を前記エッチング源に対してピッチ送りで移動させ、各ピッチ位置での停止時間を調節することによって、各ピッチ位置でのエッチング源からの前記粒子ビームの照射時間を制御する。
【0012】
前記制御手段は、例えば、前記相対位置調整手段を制御して前記エッチング対象物を前記エッチング源に対して所定ピッチで移動させ、前記エッチング源を制御して、各ピッチ位置での前記エッチング源からの粒子ビームの照射時間を制御する。
【0013】
前記制御手段は、例えば、前記相対位置調整手段を制御して、前記エッチング対象物の移動速度を制御する。これにより、各位置におけるエッチング総量を制御できる。
【0014】
前記制御手段は、例えば、前記エッチング源により生成されるエッチング用粒子の強度を制御する。これにより、各位置におけるエッチング総量を制御できる。
【0015】
前記制御手段は、前記エッチング対象物の各位置において、前記エッチング源により生成されるエッチング用粒子の強度の積分値が、前記被エッチング量の分布に一致するように、前記相対位置調節手段を制御する。
【0016】
前記制御手段は、例えば、前記エッチング対象物の各位置において、前記エッチング源により生成されるエッチング用粒子の強度の積分値が、前記被エッチング量の分布に一致するように、前記エッチング源から照射される粒子の強度を制御する。
【0017】
前記制御手段は、例えば、前記相対位置調整手段を制御して、前記エッチング対象物のエッチング対象エリアの周囲を含む所定エリアを前記エッチング用粒子により走査する。
【0018】
例えば、前記エッチング分布は、ガウス分布又は三角関数の単一波形で表される。
【0019】
前記エッチング源によってエッチングが施される領域の厚みを測定する厚み測定部を、更に配置してもよい。
【0020】
前記被エッチング量の分布を求める手段と、前記被エッチング量の分布と、前記エッチング源のエッチング分布とから、前記エッチング源と前記相対位置制御手段とを制御する制御パターンを計算する演算手段と、を更に配置してもよい。
【0021】
上記目的を達成するため、本発明の第2の観点に係るエッチング方法は、
既知のエッチング分布を有するエッチング源によりエッチング対象物のエッチング対象エリアにエッチング用粒子を生成すると共に前記エッチング源と前記エッチング対象物との相対位置を移動させることにより、前記エッチング対象エリアをエッチングするエッチング方法であって、
前記エッチング対象エリアの各位置において、前記エッチング用粒子の強度の積分値が被エッチング量の分布に一致するように、前記エッチング源と、前記エッチング源と前記エッチング対象との相対位置と、を制御する、ことを特徴とする。
【0022】
上記目的を達成するため、本発明の第3の観点に係るプログラムは、
既知のエッチング分布を有するエッチング源によりエッチング対象物のエッチング対象エリアにエッチング用粒子を生成すると共に前記エッチング源と前記エッチング対象物との相対位置を移動させることにより、前記エッチング対象エリアをエッチングするエッチング方法を制御するために、前記エッチング対象エリアの各位置において、前記エッチング用粒子の強度の積分値が被エッチング量の分布に一致するように、前記エッチング源と、前記エッチング源と前記エッチング対象との相対位置と、の制御をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、エッチング対象の各位置に照射される粒子の照射量を被エッチング量の分布に対応するように制御することにより、良好なエッチングが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の実施の形態に係るエッチング装置、エッチング方法及びプログラムについて図面を参照して説明する。
【0025】
本発明の実施の形態に係るエッチング装置10の構成を図1に示す。また図2に本実施の形態のエッチング装置10によってエッチングされる基板21を模式的に示す。
【0026】
図1に示すようにエッチング装置10は、イオンガン11と、XYステージ12と、制御部13と、真空槽14と、PC15と、を備える。イオンガン11とXYステージ12とは、真空槽14内に設置され、真空槽14によって大気から遮断されている。
【0027】
イオンガン11は、イオンビーム、即ち、イオン粒子を生成する装置である。イオンガン11のチャンバ内には例えばArが導入され、チャンバ内でアノードとフィラメントの間に直流電圧を印加し、直流熱陰極放電を起こすことによりArプラズマを発生させる。続いてArの正イオンを加速器によって加速させ、引き出し孔からイオンビームとして取り出す。イオンビームの電流密度、即ち、イオン密度は、引き出し孔の数、形状等により変化する。
また、これらの引き出し孔を用いた場合の電流密度分布を図4及び図5に示す。図4(a)の電流密度分布は図3(a)の引き出し孔を用いた場合に対応し、図5(b)は図3(b)、図5(c)は図3(c)に対応する。なお、点は実測値であり、図4(a)及び図5(b)に示す線はガウス分布による近似である。
なお、いずれのグラフも、イオンガン11とエッチング対象の基板21とを対向して配置して、基板21のイオンガン11の中心と対向する位置を原点としたときの原点からの距離と照射されるイオンビームの電流密度との関係を示すものである。
【0028】
詳細に後述するように、本実施の形態ではイオンガン11から照射されるイオンビームの電流密度分布をガウス分布で近似し、エッチングレートを算出することによりエッチング時間を算出する。従って、電流密度分布は、図4(a)又は図5(b)に示すようにガウス分布で近似することができることが好ましい。このため、本実施の形態では図3(a)、(b)のようにほぼ同径の孔が形成された引き出し孔を用いるのが好ましい。また、図4(a)及び図5(b)から明らかなように孔の数を増やすと電流密度分布は横に広がる傾向を示す。従って、実施するエッチングの細密さ等に応じて孔の数を調節すると良い。また、電流密度分布は、孔の形状、数、配置、放電電流、エッチング源とエッチング対象との距離等を調節することにより制御できるため、ガウス分布、三角関数等で演算する場合は、所望の分布を得ることができるように、予めこれらの条件を調整しておけばよい。なお、電流密度分布は必ずしもガウス分布、三角関数等を用いた波形として表す必要はなく実測値を用いることも可能である。この場合、図3(c)のように径の異なる孔が形成された引き出し孔を用いることができる。
【0029】
XYステージ12は、載置台12a、シーケンサ等からなるステージ制御部、モータ等から構成されるステージ駆動部等を備える。図1に示すように載置台12aのイオンガン11に対向する面上には、エッチングが施される基板21が設置される。
XYステージ12のステージ駆動部は、ステージ制御部によって制御され、更にステージ制御部は制御部13によって制御される。
ステージ駆動部によって載置台12aはX軸及びY軸方向(図1の水平面)に移動する。XYステージ12の移動形態は、ピッチ送り(一定距離だけ移動して一旦停止する動作を繰り返す処理)でも、等速又は速度を変動させながら連続的に移動させる形態も可能である。本実施の形態ではエッチング源であるイオンガン11が固定されているため、このXYステージ12の移動によって、基板21とイオンガン11との相対位置を調節する。
【0030】
制御部13は、例えばマイクロプロセッサ等から構成され、PC15によって算出されたエッチング時間等のエッチング条件に沿ってイオンガン11と、XYステージ12とを制御する。
【0031】
PC15は、パーソナルコンピュータ等から構成される。PC15は、詳細に後述するように、予めエッチング装置10とは独立して設けられたFTIR(フーリエ変換赤外分光計)等の測定装置によって測定された基板21の厚み分布を基に、基板21のエッチング対象領域で必要となる被エッチング量の分布を判別する。さらに、PC15は、この被エッチング量の分布、エッチングビームの電流密度分布(エッチング分布)、XYステージ12の移動速度等から、基板21の各領域にエッチングを施す時間等を算出する。
【0032】
次に、上述した構成を採るエッチング装置10の動作を図及び数式を用いて説明する。
【0033】
まず、エッチングを施す基板21を用意する。基板21は図2に点線で示すように複数の素子を形成することができる面積を備える。
【0034】
次に、基板21の厚みの分布を例えば、FTIR(フーリエ変換赤外分光計)等によって測定する。また、図4(a)、図5(b)に示すようなイオンガン11の電流密度分布を予め得ておく。
【0035】
続いて、測定装置等で測定された基板21の厚み分布に基づき、PC15は、基板21上に仮想的に形成したメッシュの各領域で必要な被エッチング量を算出する。さらにPC15は、以下に示す数式に従って、各領域で必要な被エッチング量と、イオンビームの電流密度分布(エッチング分布)等から、エッチング処理の制御パターンを算出する。
【0036】
理解を容易にするため、まず一次元のモデルを用いて説明する。図6に示すように、エッチングが施される対象は、一定のピッチpで、ピッチpと同じ辺を備える正方形状の領域がN個一列に並んだ構成であると仮定する。なお、ピッチpはイオンガン11と基板21との移動ピッチに相当する。本実施の形態ではピッチpはイオンガン11の電流密度分布の標準偏差σから、p=2σと設定する。なお、ピッチpの設定は任意であって、製造する素子のサイズに設定することも可能である。
【0037】
エッチング装置10は、XYステージ12を制御して、図7に示すように、イオンガン11のイオンビームの中心位置を、エッチング対象の各矩形領域の停止位置に順々に停止させ、イオンビームを適当な時間照射する。それぞれの位置で停止した際にエッチングされる総量が各領域のエッチング総量となる。
【0038】
ここでエッチングビームの中心の停止位置をPとおく。なおビームの停止位置は、それぞれの端の領域が十分にエッチングされるよう各領域の端からいくつか多く設定される。従って、ビームの停止位置は図6に示すようにP−i,…,P−2,P−1、P,P,P…,P,…,P,PN+1…,PN+iとなる。次に、それぞれの停止位置でエッチングを施す時間をTとすると、各停止位置でのエッチング時間は、T−i,…,T−2,T−1、T,T,T…,T,…,T,TN+1…,TN+iとで示される。また、各領域のエッチング総量をE,E…,E,…,Eとする。なお、本実施の形態ではピッチ送りの際の移動距離は一定であり、各領域の停止位置で停止する時間は、各領域ごとに設定される。従って、エッチング時間Tとは、停止位置Pにおけるビームの停止時間を示す。
【0039】
また、一般にエッチング量Eは、以下に示す数式1で与えられる。なお、式1のTはイオンガン11によるエッチング時間であり、Cは、スパッタ率S、分子量M、アボガドロ数NA、密度D、電子の素電荷e等で決まる比例定数である。
(数式1)

【0040】
また、上述したようにイオンビーム11の電流密度分布は既知であり、この分布はガウス分布により下記数式2に示すように近似することが可能である。なお、数式2のAはガウス分布における曲線と基線の間の全面積であり、wは標準偏差σの2倍である。
(数式2)

【0041】
次に、図8(a)に示すようにイオンビームの中心がある停止位置Pにあるとき、イオンビームの中心に相当する領域のエッチングレートaを、a=Ibd・Cとする。このとき停止位置Pの周辺領域のエッチングレートa,a,a,…,a及びa−1,a−2,…,a−mは、数式2のxにエッチング中心からの離間する距離pmを代入することにより、下記数式3のように示すことができる。
(数式3)

【0042】
以上から、イオンビームが停止位置Pにあって照射時間がTである場合の各領域のエッチング量は、それぞれの停止位置ごとに下記数式4のように示すことができる。なお、イオンビームが停止位置Pに位置する際、停止位置Pのエッチングレートに対する各領域のエッチングレートの比を予め求めておき、図10(a)に示すようにテーブルとしておくと、エッチングレートaを更に容易に算出することができ、好ましい。例えば、図10(a)に示す例では、停止位置の1つ隣の領域は0.8、2つ隣の領域は0.6であるため、エッチングレートa、aはそれぞれ、a=0.8・a、a=0.6・aとaを用いて表すことができる。
(数式4)

n−2;a−2
n−1;a−1
;a
n+1;a
n+2;a

【0043】
また、図8(b)に示すようにイオンビームの中心が停止位置Pn+1にあって、照射時間がTn+1である場合、それぞれの領域のエッチング量は、下記数式5に示される。
(数式5)

n−2;a−3n+1
n−1;a−2n+1
;a−1n+1
n+1;an+1
n+2;an+1

【0044】
更に、図8(c)に示すようにイオンビームの中心が停止位置Pn−1にあって、照射時間がTn−1である場合、それぞれの領域のエッチング量は、下記数式6に示される。
(数式6)

n−2;a−1n−1
n−1;an−1
;an−1
n+1;an−1
n+2;an−1

【0045】
以上を全ての停止位置(P−i,…,P−2,P−1、P,P,P…,P,…,P,PN+1…,PN+i)に応用することによって、基板21の各領域の全エッチング量は下記数式7に示され、更にこれを行列式で示す下記数式8で示すことができる。
(数式7)

n−2;En−2=an−m−2+…+a−1n−1+a−3n+1+…+a−mn+m−2
n−1;En−1=an−m−1+…+an−1 +a−2n+1+…+a−mn+m−1
;E=an−m +…+an−1 +a−1n+1+…+a−mn+m
n+1;En+1=an−m+1+…+an−1 +an+1 +…+a−mn+m+1
n+2;En+2=an−m+2+…+an−1 +an+1 +…+a−mn+m+2

(数式8)

【0046】
ここで、上述するようにエッチングレートaはイオンガン11の中心からの距離が定まれば定数として与えられるものであるから、数式7及び数式8はエッチング時間Tの多元連立一次方程式に相当する。従って、ガウス・ジョルダンの消去法、LU分解法、ガウス・ザウデルの反復法等、既知の解法によって十分な近似解を得ることが可能である。このようにして各停止位置Pにおけるエッチング時間Tを求めることができる。
【0047】
次に、以上の一次元のモデルを二次元に応用する。まず、図9に示すようにエッチングを施す基板21を升目状に区切り、一辺がピッチpの複数の正方形状の領域に区分する。次に基板21の領域上および基板21の周辺領域上のイオンガン11の停止位置をPと設定し、一次元の場合と同様に1行1列の領域の停止位置をP(1,1)、1行2列をP(1,2)…n行n列をP(n,n)と設定する。エッチングの際には基板21の周辺領域を良好にエッチングできるよう、基板21より広い領域に停止位置を設けるため、例えば図9に示すように上下左右にそれぞれ行及び列が増加する。
【0048】
次に、イオンガン11が所定の停止位置にある場合のそれぞれの領域のエッチングレートを数式2及び数式3を用いて求める。一次元モデルでは、数式3のみでピッチの間隔pと停止位置からのピッチ数mを用いてビームからの距離をpmで表記することができたが、二次元モデルではこのような表記ができるのはイオンガンの停止位置の同行もしくは同列のみである。従って、停止位置に対して同列もしくは同行にない領域のエッチングレートは、数式2のxに停止位置からの距離(例えば各領域間の中心の距離)を代入することにより、エッチングレートを求める。なお、イオンガン11が所定の停止位置P(n,n)にある際、停止位置の中心におけるエッチングレートa(n,n)に対する周辺領域のエッチングレートa(m,m)の比を、予め図10(b)に示すようにテーブルとして算出しておくと、各領域のエッチングレートの算出が容易となって好ましい。例えば、図10に示す例では、イオンガン11の停止する領域の強度が1であり、停止位置に隣接する上下、左右の領域の強度が0.8、斜め上、下の各領域の強度が0.6である。これを用いると、P(n,n)に隣接するP(n−1,n)のエッチングレートは、a(n−1,n)=0.8・a(n,n)のようにa(n,n)を用いて表すことができる。
【0049】
次に、それぞれの領域のエッチング時間をTとし、数式8と同様の式を立てる。一次元と二次元では項の数が増加するのみで、二次元モデルでも一次元モデルと同様に多元一次連立方程式がたつ。従って、ガウス・ジョルダンの消去法、LU分解法、ガウス・ザウデルの反復法等、既知の解法によって十分な近似解を得ることが可能である。このようにして二次元モデルでも基板21の各領域のエッチング時間を算出することができる。
【0050】
なお、上述した二次元モデルでは領域の分割の仕方、ピッチ送りの移動距離等の設定によって、多元連立一次方程式は数十〜数千の次元となるが、次数は一次であるため、PC15を構成するパーソナルコンピュータの処理能力で十分近似解を求めることが可能である。この際、エッチング源(イオンガン11)の分布としては、単純な偶関数の方が計算が容易であり、ガウス分布、三角関数で表される分布が好ましい。
【0051】
このようにして、PC15は各停止位置Pにおけるエッチング時間Tを算出する。
PC15は、このようにして求めた各停止位置Pとその位置でのエッチング時間Tとを対応付ける情報(制御パターン情報)を、制御部13に送信する。制御部13は、制御パターン情報を用いてXYステージ12及びイオンガン11を制御し、各領域に所定のエッチングを施す。
具体的には、制御部13は、i)XYステージ12を制御して、エッチング対象の基板21を所定ピッチpで移動する動作、ii)ピッチ送り完了後、XYステージ12を制御して所定の停止時間Tだけ停止し、基板21にイオンビームを照射する、という制御を繰り返す。なお、イオンビームはエッチング開始から終了まで連続的に照射される。
XYステージ12の移動パターンとしては、例えば、図に示すP(−i,−i)からP(−i,N+i)へと順番に移動し、続いてP(−i+1,N+i)からP(−i+1,−i)に移動する、というように各列を移動する動作を全ての行について行えばよい。なお、エッチングを施す方向、順序等は任意である。
【0052】
このように、本実施の形態によれば、イオンガン11から出射されるイオンがほぼ全体を基板21に照射し、基板21上の各位置での総エッチング量(照射量の積分値)が、その位置の被エッチング量(期待値)に一致するように、イオンガン11と基板21との相対位置及び各相対位置での停止時間、換言すればイオンガン11からのイオンビームの照射時間を制御する。従って、イオンガン11から出射されるイオンビームを効率良くエッチングに利用でき、遮蔽マスクを使用する場合などと比較して、処理時間を短縮し、エネルギー効率を高めることができる。また、各位置でのビーム照射量(エッチング総量)がその位置の被エッチング量(期待値)に一致するように各位置での停止時間(つまり照射時間)Tを制御するので、希望するエッチング量の分布を得ることができる。
【0053】
本発明は上述した実施の形態に限られず様々な変形及び応用が可能である。
例えば、イオンガン11から出射されるイオンビームの電流密度(イオン密度)の分布は、図4乃至図5に示すものに限定されず、より急峻な勾配或いはより穏やかな勾配でもよく、さらには、より狭い照射範囲でもより広い照射範囲でもよい。さらに、電流密度のピーク値もより大きくても或いは小さくてもよい。ただし、エッチング性能を有することが前提となる。
【0054】
また、上記実施の形態では、XYステージ12により、基板21を一定のピッチで移動し、各停止位置における停止時間を変化させイオンビームの照射時間を変化させる動作例を説明した。ただし、この制御パターンに限定されず、例えば、基板21を連続的な速度vで移動させつつ、イオンガン11を制御しイオンビームを照射する時間Tを各領域ごとに変化させることにより、全体として所望のエッチング量の分布を得るようにしてもよい。この場合、例えば所定の領域内にエッチング中心がある場合、その領域の中心を停止位置と仮定し、各領域内にエッチング中心が存在する時間を、上述した実施の形態のピッチ送り間隔と考えることにより、上述した数式を用いてイオンガンによるエッチング時間を算出することができる。また、イオンガン11をエッチング開始から終了まで連続的に照射させ、エッチング対象である基板21を速度vで移動させ、この速度vを変化させることにより、全体として所望のエッチング量の分布を得るようにしてもよい。
【0055】
また、上述した実施の形態では、XYステージ12を移動させる移動距離を一定とし、停止時間を制御しイオンガン11からイオンビームを照射する時間を制御させたが、これに限られず、XYステージ12の移動速度、もしくはピッチ送りの時間間隔を一定にし、イオンガン11による照射時間を変化させ、エッチング時間を調節することもできる。
例えば、制御部13は、i)XYステージ12を制御して、エッチング対象の基板21を所定ピッチpで移動する動作、ii)ピッチ送り完了後、一定の時間XYステージを停止し、イオンガン11を制御して、基板21にイオンビームを各停止位置に応じた時間Tだけ照射するという制御を繰り返す。
【0056】
また、XYステージ12の移動速度もしくはピッチ送りの間隔(移動距離、停止時間)を一定とし、それぞれの領域でイオンガン11から照射されるイオンビームの電流密度を制御すること、即ち、エッチング強度を変化させる構成を採ることも可能である。
この場合も、エッチング対象の基板21の各位置に照射されるイオンビームの総量(粒子量)がエッチング予定量に一致するように、イオンガン11から出射されるイオンビームの強度を制御する。
【0057】
なお、基板21とXYステージ12との相対位置の移動速度、イオンガン11によるエッチング時間、エッチング強度は、必ずしも2つを一定にする必要はなく、これらのうちいずれか2つを変化させても良いし、全てを変化させても良い。
【0058】
また、PC15による制御パターンの計算手法も上述の手法に限定されず、任意である。即ち、エッチング工程の開始か全体のエッチングが終了するまでの間に、エッチング対象である基板21の各位置(仮想メッシュ上の各点)に照射されるエッチング用粒子(ただし、エッチングに寄与できるレベルのエネルギーを有するもの)の総量(時間積分値)が予め求められている被エッチング量(期待値)に全体として(ほぼ)一致するように、移動速度、送り速度、照射時間、照射強度、電流密度分布などの時系列パターンを求めればよい。そして、制御部13は、この制御パターンにあわせて制御を行えばよい。
【0059】
また、上述した実施の形態では、基板21の厚み、基板21上に形成された薄膜の厚みをエッチング装置外に設けられた装置で測定する場合を例に挙げたが、これに限られず、エッチング装置内に測定器を設けてもよい。エッチング装置内に測定器を設けることによって、エッチング処理後、基板等の厚みを再測定し、更に処理を重ねることによって精度を高めることができる。また、エッチング処理と同時に厚みを測定することによって精度の向上を図ることができ、更に、処理時間の短縮を図ることができる。また、前記測定器をエッチング処理前の被エッチング量の算出に利用することもできる。
【0060】
また、上述した実施の形態では、PC15によって算出されたエッチング時間に基づき、制御部13がXYステージのステージ制御部及びイオンガン11を制御する場合を例に挙げたが、XYステージ12及びイオンガン11の制御方法はこれに限られない。例えば、シーケンサからなるステージ制御部を介さず、制御部13によってXYステージ12を制御することも可能であるし、PC15に制御部13の機能を持たせることも可能である。また、XYステージ12の移動量を制御部13もしくはPC15にフィードバックさせてもよい。
【0061】
また、上述した実施の形態ではエッチング源としてイオンガンを例に挙げて説明したが、イオン粒子などのエッチング用粒子を生成するものであればこれに限られずプラズマ等のエッチング源、電子ビーム、反応性プラズマエッチングなどを用いることが可能である。
【0062】
以上説明した実施の形態のエッチング方法によれば、エッチング対象物が、隣接する領域は不連続であって全体としてみれば連続的であるような準連続的に形状が変化しているものに対しても所望の形状を得ることが可能である。また基板の平面形状も方形の基板21を例に挙げたがこれに限られず、例えば円形、楕円形、多角形等であっても良い。更に連続的に形状が変化するものであれば、平板状に限られず曲面状であってもよい。
【0063】
更に上述した実施の形態では、エッチング源であるイオンガン11を固定して、基板21が設置されたXYステージ12を移動させてエッチング領域を調節する構成を例に挙げて説明したが、基板21を固定しエッチング源を移動させることも可能であるし、エッチング源及び基板21の双方を移動させ、相対位置を移動させることも可能である。
【0064】
また、エッチングの対象として半導体ウエハなどの基板21を例示したが、エッチングの対象は任意であり、半導体ウエハ、該ウエハ上に形成された任意の材質の膜、任意の材質の基体、その上に形成された層、等、任意である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施の形態に係るエッチング装置の構成例を模式的に示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るエッチング装置によってエッチングされる基板を模式的に示す図である。
【図3】図3(a)〜(c)はイオンガンの引き出し孔のノズルを示す図である。
【図4】(a)は、図3(a)に示す引き出し孔を用いた際の電流密度分布を示す図である。
【図5】図5(b)は図3(b)に示す引き出し孔を用いた際の電流密度分布を示す図であり、図5(c)は、図3(c)に示す引き出し孔を用いた際の電流密度分布を示す図である。
【図6】エッチング源が一次元方向のみに移動しエッチングが施される場合の基板を示す図である。
【図7】イオンガンの各停止位置における電流密度分布を示す図である。
【図8】(a)は停止位置Pnにおける電流密度分布を示す図である。(b)は停止位置Pn+1における電流密度分布を示す図である。(c)は停止位置Pn-1における電流密度分布を示す図である。
【図9】エッチング源が二次元方向に移動しエッチングが施される場合の基板を示す図である。
【図10】(a)はエッチング源が一次元方向にのみ移動する際のエッチングレートの比のテーブルを模式的に示す図であり、(b)はエッチング源が二次元方向に移動する際のエッチングレートの比のテーブルを模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0066】
10 エッチング装置
11 イオンガン(エッチング源)
12 XYステージ
13 制御部
14 真空槽
15 PC
21 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のエッチング分布を有するエッチング源と、
エッチング対象物を載置するステージと、
前記エッチング源と前記ステージとの相対位置を調整する相対位置調整手段と、
前記エッチング対象物の被エッチング量の分布と、前記エッチング源のエッチング分布とに基づいて、前記エッチング対象物の各位置におけるエッチング総量が被エッチング量に対応するように、前記相対位置調整手段と前記エッチング源との少なくとも一方を制御する制御手段と、
を備える、ことを特徴とするエッチング装置。
【請求項2】
前記エッチング源は、前記エッチング対象物にエッチング用の粒子ビームを照射し、
前記制御手段は、前記エッチング源と前記相対位置調整手段とを制御して、前記エッチング対象物の各位置での前記エッチング源からの粒子ビームの照射時間を制御する、ことを特徴とする請求項1に記載のエッチング装置。
【請求項3】
前記制御手段は、
前記エッチング源を制御して、前記粒子ビームを連続的に照射させ、
前記相対位置調整手段を制御して、前記エッチング対象物を前記エッチング源に対してピッチ送りで移動させ、各ピッチ位置での停止時間を調節することによって、各ピッチ位置での前記粒子ビームの照射時間を制御する、ことを特徴とする請求項2に記載のエッチング装置。
【請求項4】
前記制御手段は、
前記相対位置調整手段を制御して前記エッチング対象物を前記エッチング源に対して所定ピッチで移動させ、
前記エッチング源を制御して、各ピッチ位置での前記エッチング源からの粒子ビームの照射時間を制御する、ことを特徴とする請求項2に記載のエッチング装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記相対位置調整手段を制御して、前記エッチング対象物の移動速度を制御する、ことを特徴とする請求項1に記載のエッチング装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記エッチング源により生成されるエッチング用粒子の強度を制御する、ことを特徴とする請求項1に記載のエッチング装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記エッチング対象物の各位置において、前記エッチング源により生成されるエッチング用粒子の強度の積分値が、前記被エッチング量の分布に一致するように、前記相対位置調節手段を制御する、ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のエッチング装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記エッチング対象物の各位置において、前記エッチング源により生成されるエッチング用粒子の強度の積分値が、前記被エッチング量の分布に一致するように、前記エッチング用粒子の強度を制御する、ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のエッチング装置。
【請求項9】
前記制御手段は、前記相対位置調整手段を制御して、前記エッチング対象物のエッチング対象エリアの周囲を含む所定エリアを前記エッチング用粒子により走査する、ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載のエッチング装置。
【請求項10】
前記エッチング分布が、ガウス分布又は三角関数の単一波形で表されることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載のエッチング装置。
【請求項11】
前記エッチング源によってエッチングが施される領域の厚みを測定する厚み測定部を、更に備えることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載のエッチング装置。
【請求項12】
前記被エッチング量の分布を求める手段と、
前記被エッチング量の分布と、前記エッチング源のエッチング分布とから、前記エッチング源と前記相対位置制御手段とを制御する制御パターンを計算する演算手段と、
を更に備えることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載のエッチング装置。
【請求項13】
既知のエッチング分布を有するエッチング源によりエッチング対象物のエッチング対象エリアにエッチング用粒子を生成すると共に前記エッチング源と前記エッチング対象物との相対位置を移動させることにより、前記エッチング対象エリアをエッチングするエッチング方法において、
前記エッチング対象エリアの各位置において、前記エッチング用粒子の強度の積分値が被エッチング量の分布に一致するように、前記エッチング源と、前記エッチング源と前記エッチング対象との相対位置と、を制御する、ことを特徴とするエッチング方法。
【請求項14】
既知のエッチング分布を有するエッチング源によりエッチング対象物のエッチング対象エリアにエッチング用粒子を生成すると共に前記エッチング源と前記エッチング対象物との相対位置を移動させることにより、前記エッチング対象エリアをエッチングするエッチング方法を制御するために、
前記エッチング対象エリアの各位置において、前記エッチング用粒子の強度の積分値が被エッチング量の分布に一致するように、前記エッチング源と、前記エッチング源と前記エッチング対象との相対位置と、の制御、
をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−214215(P2007−214215A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−30344(P2006−30344)
【出願日】平成18年2月7日(2006.2.7)
【出願人】(000146009)株式会社昭和真空 (72)
【Fターム(参考)】