説明

エトフェナマート含有外用貼付剤

本発明は、薬剤の優れた皮膚透過性と、優れた治療効果を有し、且つ低刺激性を兼ね備えた貼付剤を提供する。支持体上に粘着基剤及び薬物を含有する粘着剤層が積層された貼付剤であって、該粘着基剤が合成ゴム系高分子5〜50重量%、粘着付与樹脂10〜60重量%、流動パラフィン25〜60重量%を基剤成分とし、薬物としてエトフェナマートを配合してなる外用貼付剤である。本発明によれば、薬剤の優れた皮膚透過性と、優れた治療効果を有し、且つ低刺激性を兼ね備えた貼付剤を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は支持体上に粘着基剤及び薬物を含有する粘着剤層が積層された外用貼付剤に関する。
【背景技術】
【0002】
非ステロイド系消炎鎮痛薬であるエトフェナマートは、軟膏剤やゲル製剤として、肩こり、筋肉疲労に伴う痛み、打撲、捻挫等に対する治療薬として用いられている。しかし、軟膏剤やゲル製剤は、投与量の調節が難しく、それらの製剤中には溶解剤として揮発性のアルコールが配合されているため、皮膚刺激や特異な臭気が問題となっている。また、使用時、手や衣服を汚すという欠点がある。
【0003】
軟膏剤やゲル製剤のこのような欠点を補うため、合成ゴム系粘着剤を用いた貼付剤が報告されている。たとえば、特開昭63−246327号には、薬剤としてエトフェナマート、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SISブロック共重合体)、粘着付与樹脂、流動パラフィン、液状ゴム及び酸化防止剤を含有した貼付剤が開示されているが、該貼付剤におけるエトフェナマートの皮膚透過性や皮膚刺激の面で改良の余地がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、エトフェナマートの皮膚透過性に優れ、優れた抗炎症作用を有し、且つ皮膚に対して極めて刺激性が低い外用貼付剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、これらの問題点を解決すべく鋭意研究した結果、合成ゴム系高分子5〜50重量%、粘着付与樹脂10〜60重量%、流動パラフィン25〜60重量%を含む粘着基剤中にエトフェナマートを含有させることにより、上記目的にかなった貼付剤を作製しうることを見出した。
即ち、本発明は支持体上に粘着基剤及び薬物を含有する粘着剤層が積層された貼付剤であって、該粘着基剤が合成ゴム系高分子5〜50重量%、粘着付与樹脂10〜60重量%、流動パラフィン25〜60重量%を基剤成分とし、薬物としてエトフェナマートを配合してなる外用貼付剤に関する。
【0006】
本発明の経皮吸収貼付剤に用いる合成ゴム系高分子としてはスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SISブロック共重合体)、ポリイソブチレン、イソプレンゴム、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、シリコンゴム等があげられる。これらの合成ゴム系高分子は1種または2種以上を組み合わせて用いてもよいが、薬物の皮膚透過性と製剤物性を考慮するとSISブロック共重合体が特に好ましい。
【0007】
合成ゴム系高分子の配合量は、5〜50重量%、好ましくは5〜40重量%、より好ましくは10〜25重量%である。5重量%以下では基剤が凝集せず、皮膚から剥がすとき、粘着剤の一部が皮膚に残るという問題が起き、また50重量%を超えると、凝集力が高くなりすぎて粘着力が低下し、従って、製造時、粘着剤の高い粘度により基剤の塗工工程が非常に困難になる。
【0008】
粘着付与樹脂は、通常貼付剤の皮膚への粘着性を与えるものであり、ロジン樹脂及びその誘導体(ロジン、ロジンエステル類、水添ロジン、水添ロジンエステル類)、石油系樹脂(脂環族系炭化水素樹脂、脂肪族系炭化水素樹脂)、テルペン系樹脂などが用いられる。本発明においては石油系樹脂が好ましく、特に、脂環族飽和炭化水素樹脂が経皮吸収性と皮膚粘着性の点において好ましい。
粘着付与樹脂の配合量は、10〜60重量%、好ましくは15〜50重量%、更に好ましくは20〜40重量%である。10重量%未満では、貼付剤の粘着力が極端に低下し、また60重量%を超えると粘着力が強くなりすぎ、皮膚から剥がすとき、物理的な皮膚刺激を生じ、また、粘着剤の粘度が高くなりすぎる。
【0009】
流動パラフィンは、粘着剤を柔らかくし、貼付時に皮膚への密着性を改善させると同時に、皮膚への粘着力を調整し、物理的な皮膚刺激を軽減する性質を有する。
流動パラフィンの配合量は、本発明の製剤において極めて重要な役割を持つ。
流動パラフィンの配合量は、25〜60重量%、好ましくは25〜50重量%、更に好ましくは30〜40重量%である。25重量%未満では粘着力が強くなりすぎ、皮膚から剥がすとき、物理的な皮膚刺激を生じる。更に薬剤の皮膚透過性が極端に減少する(図1参照)。60重量%を超えると十分な粘着力が得られず、更に粘着剤の凝集力が低下し、従って皮膚に粘着剤残りが生じる可能性がある。
【0010】
本発明の製剤において、更に粘着基剤に可塑剤を添加することにより薬剤の皮膚透過性を高めることができることも見出した。
本発明に使用される可塑剤として、トリアセチン、クロタミトン、脂肪酸エステル類(セバシン酸ジエチル、クエン酸トリエチル、ミリスチン酸イソプロピル等)、N-メチルピロリドン等があげられる。
可塑剤の配合量は、通常0.5〜20重量%、好ましくは1〜10重量%、更に好ましくは3〜7重量%である。可塑剤は1種または2種以上組合せて用いてもよい。本発明に使用される可塑剤として、クロタミトンとミリスチン酸イソプロピルの組合せが特に好ましい。
クロタミトンの配合量は、0.5〜5重量%が好ましい。0.5重量%未満では、その効果が低減され、5重量%を超えると粘着剤の凝集破壊が生じ、剥離時、皮膚に粘着剤残りが生じる。ミリスチン酸イソプロピルの配合量は、0.5〜15重量%が好ましい。0.5重量%未満では、その効果が低減され、15重量%を超えると粘着剤の凝集破壊が生じ、剥離時、皮膚に粘着剤残りが生じる。クロタミトンとミリスチン酸イソプロピルを組合せる時の配合比は1:1〜1:3が好ましい。
【0011】
本発明に使用されるエトフェナマートの配合量は通常1〜10重量%、好ましくは2〜8重量%、更に好ましくは3〜6重量%である。1重量%未満では薬物放出量が低いため、期待される薬効が得られない可能性が高く、また、10重量%を超えると他の基剤成分との関係で製造が困難になる。
【0012】
本発明の貼付剤は、通常貼付剤によく用いられる抗酸化剤、充填剤、防腐剤、軟化剤等の他の成分を適宜添加してもよい。
抗酸化剤としては、ジブチルヒドロキシトルエン及びその誘導体、トコフェロール、及びその誘導体、アスコルビン酸及びその誘導体などがあげられる。充填剤としては炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、ケイ酸類またはその塩(二酸化ケイ素、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、軽質無水ケイ酸等)等が用いられる。防腐剤としてはパラベン類(パラオキシ安息香酸エステル類)等が用いられる。軟化剤としては、石油系オイル(パラフィン系油、芳香族系油等)、シリコン油、液状ゴム(ボリブテン、液状イソプレンゴム等)、高級脂肪酸類、高級脂肪酸エステル類、多価アルコール(ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、シクロプロピレングリコール、グリセリン、サリチル酸グリコール等)、植物油(オリーブ油、ユーカリ油)等が挙げられる。
【0013】
本発明の貼付剤の粘着剤層の厚みは、特に限定されるものではないが、薄くなりすぎると粘着力が低下し、また、厚くなりすぎると衣服との擦れなどにより著しく剥がれ易くなるため、20〜500μmが好ましい。より好ましくは70〜300μmである。
【0014】
本発明に使用される支持体は、柔軟性に富んだものが好ましく、各種の織布、不織布、塩化ビニルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリウレタンフィルム等、或いはそれらのフィルムをラミネートした複合フィルムが用いられる。
【0015】
本発明に使用される剥離ライナーは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等のフィルムが用いられ、剥離力を至適にするため必要に応じてシリコン処理される。
【0016】
本発明の貼付剤は、以下のようにして製造することができる。
即ち、合成ゴム系高分子、粘着付与樹脂、流動パラフィン、軟化剤、抗酸化剤及び充填剤等を加熱溶解した後、冷却して粘着剤温度を下げ、エトフェナマート、必要に応じて可塑剤を添加し、攪拌錬合する。得られた膏体をシリコン処理したPETフィルム上に塗工した後、支持体としてポリエステル製織布をラミネートし、適当な大きさに切断して、本発明の経皮吸収製剤を得ることができる。
【実施例】
【0017】
次に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の「部」は特にことわらない限り「重量部」である。
【0018】
上記の製造法に基づき以下に示す処方の実施例1〜実施例5の経皮吸収製剤を作製した。また、実施例5のエトフェナマート5.0部の代わりに、流動パラフィン5.0部に置き換えた組成を有する製剤(貼付剤)をコントロールとして作製した。
【0019】

【0020】

【0021】

【0022】

【0023】

【0024】
SISブロック共重合体、水素添加テルペン樹脂、流動パラフィン、ポリブテン、抗酸化剤を加熱攪拌した後、粘着剤温度を下げ、エトフェナマートを添加し、攪拌錬合する。得られた膏体をシリコン処理したPETフィルム上に塗工した後、支持体としてポリエステル製織布をラミネートし、適当な大きさに切断して、比較例1の組成を有する貼付剤を作製した。
【0025】

【0026】
エトフェナマートをアクリル系高分子に加え、塗工時の粘度を調整するために適量の酢酸エチルを添加してアクリル系粘着液を作製した。アクリル系粘着液をPETフィルム上に塗工し、溶剤を乾燥除去して作製した粘着剤層をPET不織布とPETフィルムをラミネートした製支持体に貼り合わせて比較例2の組成を有する貼付剤を作製した。
【0027】

【0028】
エトフェナマート、ミリスチン酸イソプロピルをアクリル系高分子に加え、比較例2と同様の製法で比較例3の組成を有する貼付剤を作製した。

【0029】
エトフェナマート、クロタミトンをアクリル系高分子に加え、比較例2と同様の製法で比較例4の組成を有する貼付剤を作製した。

【0030】
エトフェナマート、ミリスチン酸イソプロピル、クロタミトンをアクリル系高分子に加え、比較例2と同様の製法で比較例5の組成を有する貼付剤を作製した。

【0031】
試験1:インビトロでの皮膚透過性試験
エトフェナマートの皮膚透過性を検討するため、実施例1、2、3、4、5及び比較例1、2、3、4、5の各製剤を用いて、ラットでの皮膚透過性試験(in vitro)を行った。除毛したラット腹部摘出皮膚をフランツ型拡散セルにセットし、その内側にはレセプター液としてリン酸緩衝生理食塩水を満たし、セルの外部のウオータージャケットには37℃の温水を還流した。各製剤は直径2.5cmに打ち抜き、セル上のラット摘出皮膚に貼付し、経時的にレセプター液をサンプリングし、液体クロマトグラフィーにより、エトフェナマートの透過量を測定した。
結果を図−1に示した。アクリル系貼付剤より合成ゴム系貼付剤の方がエトフェナマートの皮膚透過性が高く、更に合成ゴム系貼付剤に流動パラフィンを25%以上含有させることによりエトフェナマートの皮膚透過性が上昇し、クロタミトン及びミリスチン酸イソプロピルの添加により更に上昇した。
【0032】
試験2:カラゲニン足蹠浮腫抑制試験
実施例2、実施例3、実施例4、実施例5、比較例1及び比較例2の各製剤を3cm×4cmに切断し、カラゲニン投与の4時間前に右後肢足蹠に貼付した。1%カラゲニン生理食塩液0.1mLをラットの右後肢足蹠に皮下投与し、足蹠浮腫を惹起させ、投与前と投与後4時間の足容積を測定した。以下に示す計算式に従い浮腫率の抑制率を算出した。
計算式:
浮腫率(%)={(惹起4時間後の足容積(mL)−惹起前の足容積(mL))/惹起前の足容積(mL)}×100
抑制率(%)={1−試験製剤の浮腫率(%)/未処置群の浮腫率(%)}×100
結果を表−1に示した。本試験に用いた実施例すべてについて浮腫抑制効果があり、特にクロタミトン及びミリスチン酸イソプロピルを添加した製剤においてはコントロール製剤に対して統計学的に有意な浮腫抑制効果(Student’s t-test,p<0.01)が示された。
【0033】

【0034】
試験3:粘着力試験
JIS Z0237 14:傾斜式ボールタック法に準拠して各製剤の粘着力を測定した。実施例1、実施例2、実施例5、比較例1、比較例2及び比較例5の各製剤を10cm×5cmに切断した。測定装置の傾斜角は30度、傾斜板はアクリル板、助走路及び測定部は10cmとした。測定は各製剤につき3回ずつ行い、測定部に5秒以上停止したボール中で最大のボールナンバーを測定値とした。
結果を表−2に示した。アクリル系貼付剤より合成ゴム系貼付剤の方が粘着力が高く、更に流動パラフィンを25%以上含有させることにより粘着力がより改善された。
【0035】

【0036】
試験4:ウサギ皮膚一次刺激性試験
日本白色雌性ウサギ8匹を用いて試験を行った。ウサギの背部被毛を除毛後、1匹当たり左右2ヶ所ずつ、計4ヶ所を貼付部位とした。右側2ヶ所を健常部位とし、左2ヶ所を損傷部位とした。損傷部位は注射針で#型に損傷させた。直径2.5cmに打ち抜いたコントロール、実施例2、実施例5、比較例1、比較例2及び比較例5の各製剤(n=6)を貼付し、絆創膏で固定後、更に保護衣を装着して貼付剤の移動を防止した。貼付24時間後に各貼付剤を取り除き、その後1時間、24時間及び48時間目に皮膚反応を観察した。
【0037】
判定は、表−3に記載するDraizeの判定基準に従って行い、貼付剤除去後1及び48時間の判定から皮膚一次刺激指数(P.I.I)を算出した。
その結果を表−4に示した。本試験に用いた実施例ではすべて低刺激性であった。
【0038】

【0039】

【0040】
本発明の活性成分としてエトフェナマートを含有する経皮吸収製剤はエトフェナマートの優れた皮膚透過性と優れた治療効果に加え、低刺激性で安全性の高い貼付剤であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】種々の貼付剤におけるエトフェナマートの累積透過量を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に粘着基剤及び薬物を含有する粘着剤層が積層された貼付剤であって、該粘着基剤が合成ゴム系高分子5〜50重量%、粘着付与樹脂10〜60重量%、流動パラフィン25〜60重量%を基剤成分とし、薬物としてエトフェナマートを配合してなる外用貼付剤。
【請求項2】
合成ゴム系高分子がスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体である請求項1に記載の外用貼付剤。
【請求項3】
粘着付与樹脂が脂環族飽和炭化水素樹脂である請求項1に記載の外用貼付剤。
【請求項4】
粘着剤層中に更に可塑剤を含有する請求項1〜3のうちいずれか一項に記載の外用貼付剤。
【請求項5】
可塑剤がクロタミトン又はミリスチン酸イソプロピルである請求項4に記載の外用貼付剤。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2008−522957(P2008−522957A)
【公表日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−529287(P2007−529287)
【出願日】平成16年12月15日(2004.12.15)
【国際出願番号】PCT/JP2004/019143
【国際公開番号】WO2006/064576
【国際公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(000215958)帝國製薬株式会社 (44)
【出願人】(507196457)ドロッサファルム・アクチェンゲゼルシャフト (1)
【氏名又は名称原語表記】DROSSAPHARM AG
【Fターム(参考)】