説明

エトラビリンとニコチンアミドの共結晶

エトラビリン(TMC125)とニコチンアミド共結晶、その調製およびHIV感染の処置のための使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エトラビリン(TMC125)とニコチンアミドの共結晶、その調製およびHIV感染の処置における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
後天性免疫不全症候群(AIDS)の原因として一般に認識されているヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染の処置には依然として大きな医学的課題が存在する。現在利用できるHIV阻害剤にはヌクレオシド逆転写酵素阻害剤(NRTI)、非−ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤(NNRTI)、ヌクレオチド逆転写酵素阻害剤(NtRTI)、HIV−プロテアーゼ阻害剤(PI)、融合阻害剤ならびにさらに最近ではCCR5およびインテグラーゼ阻害剤がある。
【0003】
現在の標準的手当は、異なる活性プロファイルを持つ数種の抗HIV剤の併用療法(combination therapy)に基づく。この組み合わせに使用されるHIV剤の1クラスはNNRTIのクラスであり、この多くが現在市販されている一方で、他のクラスは開発の様々な段階にある。市販されているNNRTIは、化合物4−[[6−アミノ−5−ブロモ−2−[(4−シアノフェニル)アミノ]−4−ピリミジニル]オキシ]−3,5−ジメチルベンゾニトリルであり、エトラビリンまたはTMC125とも呼ばれる。使用する国が増える中で、エトラビリンは商用名“Intelence(商標)”で市販されている。この化合物は野生型HIVに対して明白な活性を示すだけでなく、多くの突然変異したHIV株に対しても活性を示す。エトラビリンのその薬理学的活性、ならびにそれを調製するための多くの手順が特許文献1に記載された。
【0004】
エトラビリンは水溶性媒質に大変不溶性であり、したがって大変低いバイオアベイラビリティという欠点を持つ。従来の製剤は血漿レベルがゼロかまたは大変低かった。特許文献2および特許文献3は、この化合物の水溶性ポリマー中の固体分散物が、特に噴霧乾燥により調製された粉末状態の場合に改善されたバイオアベイラビリティを提供することを開示する。Intelence(商標)は、HPMC中に噴霧乾燥により得られたTMC125の固体分散物を含む錠剤として入手することができる。エトラビリンの現在の投薬処方は、200mgを1日2回(b.i.d)であり、それぞれが100mgを含有する2錠の錠剤として一度に、好ましくは朝に2錠、および1日の終わりに2錠投与される。これらの投薬要件およびエトラビリンが比較的大量の水溶性ポリマー中に分散されているという事実から、この薬剤の剤形は必然的に寸法が大きい。これが所謂「錠剤負荷量(pill−burden)」に貢献し、この用語は薬剤摂取に伴うすべての不都合、例えば頻繁な毎日の投薬、特別な投与要件、例えば食事前または後、大きな剤形、またはこれら因子の組み合わせといったそこここに現れる。大きな剤形は子供や老人といった飲み込むことが困難な患者には問題となる。頻繁な投薬および特別な投与要件は、薬剤の摂取を忘れず、そして正しい時期に摂取するという重い負担を患者に負わせることになる。これらのすべての因子は患者が全用量の薬剤を摂取しなくなる危険性の要因となり、これにより処方された投薬計画に従わなくなる。これは処置の効果を下げると共に、投与された薬剤に対してウイルスが耐性となることを導く可能性もある。高い錠剤負荷量に伴う問題は、患者が抗HIV療法のような多数の異なる種類の薬剤の組み合わせを摂取しなければならない場合に増幅される。
【0005】
溶解性がよくない活性剤のバイオアベイラビリティを改善するための1つの方法は、活性剤を無定形に転換することよる。一般的に薬剤の結晶度が高いほどそのバイオアベイラ
ビリティは低い。しかし無定形は調製が難しく、しかも熱力学的により安定な結晶形に素早く転換する。活性剤は固体の分散マトリックス中に取り込まれることにより安定化でき、このマトリックスは薬剤の場合、一般に水溶性ポリマーである。安定な固体分散物を得るためには比較的大量のマトリックス材料が必要となるので、結果として大容量の剤形が生じる。
【0006】
結晶状態の薬剤物質は、比較的容易な単離、結晶化工程中の不純物の除去により、ならびに結晶固体が一般に提供する物理化学的安定性により好ましい。これらの利点は、結晶状態の不利な特徴、例えばよくない溶解性、吸湿性、溶解速度および他の関連する性能特性により相殺されることが多い。
【0007】
共結晶状態での薬剤物質の供給は、薬剤物質の物理化学的特性を修飾または制御するための別の取り組みを提供することができる。この取り組みは付随する問題がある無定形状態への転換、または塩形への転換に対する選択肢を提供することができ、これらは多くの場合、望ましい物理化学的特性を提供しない。また共結晶化は製造中に薬剤物質を単離または精製するために使用することができる。
【0008】
製薬学的共結晶は、薬剤物質を同じ結晶構造中に存在する追加分子と一緒に含む結晶分子複合体である。追加の分子または客分子(guest)は、共結晶形成物と文献に説明されてきた。このように共結晶は、薬剤物質および共結晶形成物が三次元的反復構造中に配置された多成分結晶と見ることができ、ここで水素結合、パイ−スタッキングおよびファンデルワールス相互作用のような非共有および非イオン対相互作用が薬剤物質と共結晶形成物との間に存在する。共結晶形成物は、薬剤物質単独と比べて異なる物理化学的特性を示し、それらには融点、化学的反応性、見かけの溶解性、溶解速度、光学的および機械的特性、蒸気圧および密度を含む。これらの特性は、薬剤物質および対応する最終的な剤形を処置し、および/または製造する能力に直接的効果を有し、ならびに薬剤製品の安定性、溶解およびバイオアベイラビリティにも効果を有する。このように共結晶は薬剤物質の品質、安全性および効力に影響を与えることができる。
【0009】
共結晶の形成および共結晶形の特性は、薬剤物質および共結晶形成物の既知の特性に基づき予想することはできない。
【0010】
薬剤物質の共結晶形は、例えば粉末X線回折、顕微鏡、熱解析(例えば示差走査熱量測定、熱重量分析および高温顕微鏡観察)、分光法(例えば赤外線(IR)および近赤外線(NIR)、ラマン、固相核磁気共鳴(ssNMR))、および特に単結晶X線回折を含む多くの方法により特性決定することができる。
【0011】
ここで今、エトラビリンとニコチンアミドが、エトラビリン単独に比べて改善された特性を示す共結晶を形成することが分かった。この共結晶は、インビトロの実験でエトラビリンの改善された溶解プロファイルを表す。特に固体分散物からエトラビリン有効成分の水性媒体(刺激した胃流体)中での溶解速度が上昇そして長期化し(prolonged)、より高濃度の薬剤を生じる。これはより高い血漿レベルおよびエトラビリン有効成分のより迅速な開始を生じることができる。これによりさらに小型の剤形が可能となり、これは次いで錠剤負荷量に付随する問題を克服するために役立つ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第00/27825号パンフレット
【特許文献2】国際公開第01/23362号パンフレット
【特許文献3】国際公開第01/22938号パンフレット
【発明の概要】
【0013】
発明の説明
本発明はエトラビリンとニコチンアミドとの共結晶、ならびにその調製または製造に関する。該共結晶は、その物理化学的特性、例えばこれから実施例の章で記載する特性により特徴付けられる。この共結晶は、1:1(モル)比で存在する。
【0014】
本発明の共結晶は、技術的に既知のエトラビリンに基づく製品に比べて有利な特性を提供する薬剤製品の配合および開発に使用することができる。これらの薬剤製品は、有効成分が望ましい固有の特性を有する、より低エネルギー状態の結晶形で存在するので、現在市販されているエトラビリン形態とは異なる。共結晶はより良い流動特性を有し、調製が容易で、より良い物理的安定性を表し、そして現在の無定形薬剤製品に匹敵する溶解プロファイルを有する。
【0015】
また本発明は、エトラビリン/ニコチンアミド共結晶を調製する方法に関する。この方法では、エトラビリンおよびニコチンアミドを溶媒に溶解し、所望により完全に溶解させるために混合物を温めることによる。両成分は同じ溶媒中で一緒にまたは別々に、あるいは異なる溶媒中で別々に溶解することができる。両成分が別々に溶解される場合、この二溶液を混合する。使用できる溶媒は、ハロゲン化炭化水素、例えばクロロホルム、または双極性の非プロトン性溶媒、例えばDMFまたはDMAを含んでなる。共結晶の沈殿は、エトラビリンおよびニコチンアミドの溶液の冷却で起こり、これは例えばより高温溶液を室温に放冷し、所望により例えば不活性ガス流の導入により溶媒を蒸発させる。一つの態様では、エトラビリンを溶媒に溶解し、ここにニコチンアミドを加える。全体を例えば約60℃に、完全な溶解が観察されるまで温める。溶液を放冷して室温に戻すと、共結晶が沈殿する。蒸発を介する溶媒の除去を行って収率を上げることができる。形成された共結晶は濾取することができ、そして場合により洗浄し、そして乾燥する。
【0016】
さらに別の観点では、1もしくは複数のエトラビリン/ニコチンアミド共結晶および担体を含んでなる製薬学的製剤が提供され、この担体は1もしくは複数の製薬学的に許容され得る賦形剤を含んでなることができる。1もしくは複数のエトラビリン/ニコチンアミド共結晶は、これから特定する抗−HIV有効量で存在する。賦形剤には表面活性剤、可溶化剤、崩壊剤、例えば微晶質セルロース、澱粉、グリコール酸ナトリウム澱粉および架橋化カルボキシメチルセルロースナトリウム、架橋化PVP、顔料、香料、充填剤、潤滑剤、造粒剤、保存剤、増粘剤、緩衝剤およびpH調整剤を含む。一般的な表面活性剤には、ラウリル硫酸ナトリウム、Cremophor RH 40(商標)、ビタミンE TPGSおよびポリソルベート、例えばTween20(商標)を含む。一般的なpH調整剤は酸、例えばクエン酸またはコハク酸、塩基または緩衝剤である。製剤は特に固体状態であるが、分散物の状態でもよい。製薬学的製剤は、好ましくは固体の単位剤形、例えば錠剤、カプセル、小袋、丸薬、粉剤小包、座薬等に変換される。この製薬学的製剤は、約30%〜約90%、または約50%〜約80%、または約60%〜約75%のエトラビリン/ニコチンアミド共結晶、および約70%〜約10%、または約50%〜約20%、または約40%〜約25%の担体を含むことができ、ここで各百分率は重量/重量(w/w)である。
【0017】
さらなる観点では、本発明は薬剤、特にHIV感染またはHIV感染に関連する状態を処置する薬剤として使用するための本発明のエトラビリン/ニコチンアミド共結晶(1もしくは複数)に関する。あるいは本発明はHIVを阻害するための、すなわちHIVに感染した患者を処置するための薬剤を製造するための本発明によるエトラビリン/ニコチンアミド共結晶(1もしくは複数)の使用に関する。さらなる観点では、HIVに感染した患者のHIVを抑制する方法、すなわちHIVに感染しているか、またはHIV感染に伴
う状態に罹っている患者の処置法が提供され、この方法は抗−HIVに有効な量のエトラビリン/ニコチンアミド共結晶(1もしくは複数)を投与することを含んでなる。この文脈での抗−HIVに有効な量とは、ウイルス負荷量を減少する量を指す。
【0018】
用語「抗−HIVに有効な量」とは、HIVのウイルス負荷量(特定容量の血清中のウイルスRNAのコピー数として表される)の減少、またはCD4カウントの増加、または両方をもたらすエトラビリンの量を指す。好ましくはウイルス負荷量は、できるかぎり低レベル、例えば約200コピー/ml未満、特に約100コピー/ml未満、より特別には50コピー/ml未満、可能ならばウイルス検出限界未満まで減少させるべきである。1、2またはさらに3桁の規模でのウイルス負荷量の減少(例えば約10から約10、またはさらに約10のような桁での減少)が処置の効力を示す。抗−HIV処置の効果を測る別のパラメーターはCD4カウントであり、これは正常な成人では500から1500細胞/μlの範囲である。低下したCD4カウントはHIV感染を示しており、そして一旦約200細胞/μl未満になると、AIDSが発症する恐れがある。CD4カウントの増加、例えば約50、100、200以上の細胞/μlの増加も抗−HIV処置の効力を示している。特にCD4カウントは約200細胞/μlより高いレベル、または約350細胞/μlより高いレベルまで増加すべきである。ウイルス負荷量またはCD4カウント、あるいはそれら双方をHIV感染の程度を診断するために使用することができる。
【0019】
HIV感染に関連する状態には、インフルエンザまたは感染の初期段階で起こる急性HIV感染とも呼ばれる単核細胞症様の病気があり、中でも最も多い症状には、発熱、リンパ節症、咽頭炎、発疹、筋肉痛、倦怠感、口および食道潰瘍が含まれ、そしてまたそれほど多くはないが頭痛、悪心および吐き気、腫張した肝臓/脾臓、体重減少、ツグミ口瘡、および神経学的症状も含むことができる。CD4T細胞数が200細胞/μLの臨界レベル未満に下がった時、細胞型免疫は失われ、そして種々の日和見細菌による感染が現れる。最初の症状には穏やかな、または説明できない体重減少、再発性の気道感染(例えば静脈洞炎、気管支炎、中耳炎、咽頭炎)、前立腺炎、皮膚発疹および口腔潰瘍を含むことが多い。多くは口腔カンジダ種およびヒト型結核菌(Mycobacterium tuberculosis)に対する耐性が早い段階で失われ、これにより口腔カンジダ症(ツグミ)および結核に対する感受性が増す。後に潜在的ヘルペスウイルスの再活性化が単純ヘルペス発疹、帯状疱疹、エプスタイン−バーウイルス誘導型B細胞リンパ腫、またはカポジ肉腫の再発を悪化させる恐れがある。真菌ニューモシスチス ジロヴェチ(Pneumocystis jirovecii)により引き起こされる肺炎が一般的で、そしてしばしば致命的である。AIDSの最終段階では、サイトメガロウイルス(別のヘルペスウイルス)またはマイコバクテリウム アビウム コンプレックスによる感染がより顕著である。
【0020】
本発明の共結晶(1もしくは複数)は、約250mg〜約900mg、または約350mg〜約700mg、または約450mg〜約550mgの範囲、特に約500mg、例えば512mgの量で毎日投与することができ、各量はエトラビリン/ニコチンアミドの共結晶(1もしくは複数)の量を指す。これらの量は1日1回、または好適ならば1日2回、投与することができる。
【0021】
エトラビリンの溶解(または溶媒化)プロファイルは、特定の成分が本発明のエトラビリン/ニコチンアミド共結晶(1もしくは複数)に加えられた場合に改善され得ることが分かった。これらの溶解改善成分は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース フタレート(HPMCP)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ビニルピロリドンとビニルアセテートのコポリマー(PVPcoVA)、およびニコチンアミドから選択され、それらの混合物も含む。このようにさらなる観点では、本発明は本発明による1もしくは複数のエトラビリン/ニコチンアミド共結晶、お
よび上記の1もしくは複数の溶解改善成分を含んでなる製薬学的組み合わせ物に関する。一つの態様では、このような組み合わせ物中の1もしくは複数のエトラビリン/ニコチンアミド共結晶と該溶解改善成分との間の重量/重量(w/w)比が、約4:1〜約1:2、または約2:1〜約1:2の範囲である。特定の態様では、該比率は約1:1である。該組み合わせ物は約75%〜約25%、または約66%〜約33%、または約50%のエトラビリン/ニコチンアミド共結晶(1もしくは複数)、そして約75%〜約25%、または約66%〜約33%、または約50%の1もしくは複数の溶解改善成分を含むことができ、ここで各百分率は重量/重量(w/w)である。
【0022】
上記組み合わせ物またはそれらから誘導される組成物に使用するためのHPMCは、好ましくはそれを水溶性にするために十分なヒドロキシプロピルおよびメトキシ基を含む。約0.8〜約2.5のメトキシ置換度および約0.05〜約3.0のヒドロキシプロピルモル置換を有するHPMCは一般に水溶性である。メトキシ置換度とは、セルロース分子中の無水グルコース単位あたりに存在するメチルエーテル基の平均数を指す。ヒドロキシプロピルモル置換とは、セルロース分子中の各無水グルコース単位と反応したプロピレンオキシドの平均モル数を指す。ヒドロキシプロピルメチルセルロースはヒプロメロースの米国一般名である。本発明の組み合わせ物に使用できるHPMCの種類は、ヒプロメロース 2910またはヒプロメロース 2208である。4桁の数字「2910」または「2208」において、最初の2つの数字はメトキシ基の大体の百分率を示し、そして第3および第4番目の数字はヒドロキシプロポキシル基の大体の百分率を示す。HPMCは20℃で2(重量/容量)%の水溶液の時、約1〜約100mPa.s、約1〜約50mPa.s、約3〜約20mPa.s、約3〜約15mPa.sの見掛粘度を有することができる。好適なHPMCにはヒプロメロース2910 5mPa.sおよびヒプロメロース2910 15mPa.sがある。15mPa.s(または15Cps)または5mPa.s(または5Cps)は、20℃で2%のポリマー水溶液の見掛粘度を示す値である。使用できる市販のHPMCの等級は、ヒプロメロース2910E3(2.4〜3.6mPa.sからの2%粘度)、ヒプロメロース2910E5(4〜6mPa.sからの2%粘度)、ヒプロメロース2910E6(5〜7mPa.sからの2%粘度)、およびヒプロメロース2910E15(12〜18mPa.sからの2%粘度)である。これらの等級は例えばDow ChemicalからMethocel(商標)の商用名で入手可能である。同じ見掛粘度を有するヒプロメロース2208を使用することもできる。
【0023】
使用することができるポリビニルピロリドン(PVP)はポビドンとして知られており、Kollidon(商標)という商用名で販売されている。それらは約30kD〜約360kDの範囲の分子量を有する。例はPVP K12(BASF、MW2000−3000)、PVP K17(BASF、MW=7000−11000)、PVP K25(BASF、MW=28000−34000)、PVP K29−32、PVP K30(BASF、MW=44000−54000)、およびPVP K90(BASF、MW=1,000,000−1,500,000)である。
【0024】
使用できるビニルピロリドンとビニルアセテートのコポリマーには、ビニルアセテートに対するビニルピロリドンのモノマーの分子比が約1.2、またはビニルアセテートに対するビニルピロリドンのモノマーの質量比が約3:2であるコポリマーを含む。そのようなコポリマーは市販されており、そしてコポビドンまたはコポリビドンとして知られており、PVPcoVA(例えばPVPco VA64)とも呼ばれ、商用名Kolima(商標)またはKollidon(例えばKollidonVA64(商標))として販売されている。これらポリマーの平均分子量は、約45〜約70kDの範囲であることができる。平均分子量に関連するK−値は、約25〜約35の範囲であることができ、特にK値は約28であることができる。
【0025】
ヒプロメロースアセテートとも呼ばれるヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)は、メチル、ヒドロキシプロピル、およびフタリル基をそのセルロース骨格に含むセルロースである。それらは通常、5〜10%のヒドロキシプロピル含量、18〜24%のメトキシ含量、および21〜35%のフタリル含量を有し、平均分子量が20,000−200,000、特に80,000−130,000の範囲である。数種のヒプロメロースフタレートが市販されており、例えば商用名HP50で知られている製品は6−10%のヒドロキシプロピル含量、20−24%のメトキシ含量、21−27%のフタリル含量、約84,000ダルトンの分子量を有し、そして商用名HP55で知られている製品は、ヒドロキシプロピル含量、メトキシ含量、およびフタリル含量がそれぞれ5−9%、18−22%および27−35%、および78,000ダルトンの分子量を有し、双方とも日本の東京のShin−Etsu Chemical Co.Ltd.から入手可能である。さらに別の種類はHP−55Sであり、HP55と同様のヒドロキシプロピル、メトキシおよびフタリル含量を有するが、より高粘度である。
【0026】
一つの態様は、本発明による1もしくは複数のエトラビリン/ニコチンアミド共結晶、およびヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を含んでなる組み合わせ物に関する。特にHPMCはHPMC2910 E5 mPa.sまたはHPMC2910 E15 mPa.sである。別の態様は、1もしくは複数のエトラビリン/ニコチンアミド共結晶およびPVPを含んでなる組み合わせ物;または1もしくは複数のエトラビリン/ニコチンアミド共結晶およびPVPおよびHPMCを含んでなる組み合わせ物;または1もしくは複数のエトラビリン/ニコチンアミド共結晶、PVPおよびニコチンアミドを含んでなる組み合わせ物;または1もしくは複数のエトラビリン/ニコチンアミド共結晶およびニコチンアミドを含んでなる組み合わせ物;または1もしくは複数のエトラビリン/ニコチンアミド共結晶、ニコチンアミド、およびPVP、HPMCおよびPVPcoVAから選択される1、2もしくは3種の成分を含んでなる組み合わせ物に関し、ここでこれらの成分は例えばHPMC2910 E5またはE15のような本明細書に挙げた任意の具体的な成分でよい。溶解改善成分(1もしくは複数)に対する1もしくは複数の共結晶の重量/重量比は上に特定した比であることができ、そして例えば約1:1である。組み合わせ物の例は、例えば特に約1:1の比の1もしくは複数のエトラビリン/ニコチンアミド共結晶、およびHPMC、PVPおよびニコチンアミドから選択される成分;または約1:1の比の1もしくは複数のエトラビリン/ニコチンアミド共結晶およびHPMC、特にHPMC E5 mPa.sもしくはHPMC E15 mPa.s;または約1:1の比の1もしくは複数のエトラビリン/ニコチンアミド共結晶およびPVP;または特に約1:1:1/2の比、もしくは約1:2:1の比の1もしくは複数のエトラビリン/ニコチンアミド共結晶、PVPおよびHPMC;または特に約1:1:1:1/2の比の1もしくは複数のエトラビリン/ニコチンアミド共結晶、ニコチンアミド、PVPおよびHPMCである。
【0027】
本発明の組み合わせ物は、さらに賦形剤を加えずそのまま投与することができる。それらはカプセル、例えば硬質ゼラチンまたはHPMCカプセルに充填することができる。
【0028】
さらなる観点では、本発明は本明細書に定義する組み合わせ物および担体を含んでなる製薬学的組成物を提供し、この担体は上に挙げた1もしくは複数の製薬学的に許容され得る賦形剤を含んでよい。一つの態様では、該製薬学的組成物は、約30〜約90%、または約50%〜約80%、または約60%〜約75%の該組み合わせ物、および約70%〜約10%、または約50%〜約20%、または約40%〜約25%の担体を含んでなり、ここで各百分率は重量/重量(w/w)である。好適であるのは、固体組成物である。これらの組成物は好ましくは錠剤またはカプセル、例えば硬質ゼラチンもしくはHPMCカプセルのような固体の単位剤形に転換される。
【0029】
本発明の組成物は、現在市販されてい1:3重量/重量比のエトラビリンおよびHPMCの噴霧乾燥した固体分散物であるエトラビリン製剤よりも小型で、調製し易い。結果として実践的理由から、HPMCの存在で必要とされる200mg用量を1つの剤形に配合することができず、むしろ100mgの剤形として配合され、これにより2錠の摂取が必要となる。本発明の共結晶(1もしくは複数)は、許容され得る寸法の200mg剤形に配合することができる。
【0030】
本明細書で数値に関連して使用する用語「約」とは、数値の文脈においてその通常の意味を有する。必要な場合には、用語「約」は数値±10%、または±5%、または±2%、または±1%に置き換えてもよい。
【0031】
本明細書に引用するすべての文献は、参照により全部編入する。単数形は複数形を含み、また逆に複数形は単数形を含む。例えば用語「共結晶」には「共結晶(複数)」を含み、そして用語「共結晶(複数)」は「共結晶」を含む。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施例2における粉末X線回折(PXRD)パターンの特徴的ピークを示す。
【図2】実施例2における示差走査熱量測定(DSC)分析の結果を示す。
【図3】実施例2における熱重量分析の結果を示す。
【図4】実施例2における結晶構造中の共結晶の空間配置および分子のパッキング状態を表す。
【図5】実施例2における結晶構造中の共結晶の空間配置および分子のパッキング状態を表す。
【図6】TMC125とニコチンアミドの結晶構造中で観察される共結晶の一次水素結合の相互作用を示す。
【図7】実施例3における共結晶に関する溶解実験の結果を示す。
【0033】
実施例
【実施例1】
【0034】
TMC125.ニコチンアミド共結晶の調製
TMC125(10.0g)の遊離塩基を、クロロホルム(900mL)中のニコチンアミド(3.0g)に溶解した。この混合物を穏やかに60℃で1分間加熱して残る固体を溶解した。一旦完全な溶解が観察されたら、溶液を放冷して室温に戻し、その間に溶液から共結晶が沈殿した。一旦室温で平衡化したら、Nガスをフラスコに穏やかに吹き込み、溶液の容量を100mlに減らした。生成物は室温で真空濾過により集め、そして乾燥した。
【実施例2】
【0035】
TMC125.ニコチンアミド共結晶C2621BrNの特性決定
【0036】
【化1】

【0037】
PXRDパターンは図1に表す特徴的ピークを有する。ピークは2−シータの角度で見ることができる。特徴的ピークは以下の2−シータ角度に位置するものである:10.19、11.30、12.40、14.52、17.06、18.43、20.45、24.04。
【0038】
DSC分析の結果を図2に表す。この分析に関して、集めた0.844mgのサンプルを、カバー付きのアルミニウムDSCクリンプパンの上に置いた。加熱中、50ml/分で窒素パージガスを使用した。DSC自記温度記録の結果(図6)は、サンプルの融解に相当する185.18℃で吸熱反応を表す。TGA分析の結果も図6に示す。この分析に関して、集めた8.040mgのサンプルを白金TGAパンの上に置いた。TGAの結果(図3)は、22.50%の重量損失が100℃〜210℃で始まったことを示した。これは1モル当量のニコチンアミドが融解し、そしてサンプルから漏出したことに相当する。
【0039】
およそ0.09mm x 0.21mm x 0.38mmの寸法のC2621BrNの透明板をX線結晶学分析に使用した。X線強度データは100(2)Kで、黒鉛モノクロメーターおよびMoKαファイン−フォーカス密封管(λ=0.71073Å)を備えたBruker KAPPA APEX−II CCD(商標)面積検出システムを1.5kWの出力(50kV、30mA)で操作して測定した。検出器は結晶から4.0cm離して配置した。
【0040】
全部で1384フレームを、ωおよびφで0.5゜の走査幅および20秒/フレームの露光時間で集めた。全データ収集時間は8時間であった。フレームはBruker SAINT(商標)ソフトウェアパッケージで、ナローフレイム積分法を使用して積分した。単斜晶格子(Monoclinic cell)を使用したデータの積分では、36.89゜(0.594Å分解)の最大θ角度に対して全部で40173の反射を生じ、その中の11331が独立しており(多重度3.50)、完全性=88.0%、Rint=3.56%、Rsig=4.66%)、そして8328(73.5%)が2シグマ(I)σ(F)より大きかった。a=8.1720(4)Å、b=9.0125(4)Å、c=34.7072(14)Å、α=90゜、β=94.918(3)゜、γ=90゜、容量=2546.8(2)Åの最終的な格子定数(cell constant)は、4.712゜<2θ<71.207゜で20σ(I)より上の7161反射のXYZ重心の精密化に基づく。データの分析ではデータ収集中に無視できる崩壊(decay)が示された。データはマルチスキャン技術(SADABS)を使用して吸収効果について補正された。最小対最大の見掛け透過比は、0.663であった。算出された最小および最大透過係数(結晶サイズに基づく)は0.5721および0.8627であった。
【0041】
この構造を溶解し、そしてBruker SHELXTL(商標)(バージョン6.1
)ソフトウェアパッケージを使用して、空間群P2(1)/cを使用し、式単位C2621BrNについてZ=4を用いて精密化した。Fについて418の変数を用いた最終的な異方性完全行列最小二乗法精密化は、観察されたデータについてR1=4.84%で、そしてすべてのデータについてwR2=10.70%で収束した。適合度は1.053であった。最終的な相違(difference)電子密度合成での最大ピークは1.283e/Åであり、そして最大ホールは−1.407e/Å(0.085e/ÅのRMS偏差)であった。この最終モデルに基づき、計算された密度は1.454g/cmおよびF(000)、1136eであった。
【0042】
図4〜5は結晶構造中の共結晶の空間配置および分子パッキングを表す。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
【表4】

【0047】
【表5】

【0048】
【表6】

【0049】
【表7−1】

【0050】
【表7−2】

【0051】
【表8】

【0052】
【表9】

【実施例3】
【0053】
TMC125/ニコチンアミド共結晶を用いた溶解実験
この溶解実験は、共結晶とTMC125遊離塩基との間で、そのままの、およびHPMC E5 Cpsと混合した両方について差異を見ることに焦点をあてた。
薬量は:
A:100mgの共結晶:100mgのHPMC E5 Cps(粉末ブレンド)
B:100mgの共結晶(粉末)
C:78mgの遊離塩基:100mgのHPMC E5 Cps(粉末ブレンド)
D:78mgの遊離塩基(粉末)
粉末を20mLのバイアルに分配し、そして1%TPGS(d−アルファ−トコフェリル ポリエチレングリコール1000スクシネート)を含む20mLの10mM HClを各バイアルに加えた。各バイアルは、撹拌棒を介して500rpmで37℃で撹拌し、そして500μLのアリコートを5、10、20、40および60分で取り、0.45μmのナイロンフィルターを通して遠心により濾過し、そして溶質を半分に希釈し、そしてTMC125の濃度についてHPLCにより分析した。
【0054】
結果を以下の表に列挙する。
【0055】
【表10】

【実施例4】
【0056】
組成物
TMC125とニコチンアミドの共結晶 256mg
珪化微晶質セルロース 225.28mg
クロスポビドンK64 9.85mg
ステアリン酸Mg 1.15mg
Opadry(商標) 19.16mg

TMC125とニコチンアミドの共結晶 256mg
HPMC 2910 E5 256mg
珪化微晶質セルロース 225.28mg
クロスポビドンK64 9.85mg
ステアリン酸Mg 1.15mg
Opadry(商標) 19.16mg

TMC125とニコチンアミドの共結晶 256mg
HPMC 2910 E5 128mg
ニコチンアミド 256mg
珪化微晶質セルロース 225.28mg
クロスポビドンK64 9.85mg
ステアリン酸Mg 1.15mg
Opadry(商標) 19.16mg

TMC125とニコチンアミドの共結晶 256mg
HPMC 2910 E5 128mg
ニコチンアミド 256mg
PVP 256mg
珪化微晶質セルロース 225.28mg
クロスポビドンK64 9.85mg
ステアリン酸Mg 1.15mg
Opadry(商標) 19.16mg

上に挙げた成分を混合し、そして標準的方法を使用して錠剤に加工する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エトラビリンとニコチンアミドの共結晶。
【請求項2】
エトラビリンとニコチンアミドが1:1のモル比で存在する請求項1に記載の共結晶。
【請求項3】
エトラビリンおよびニコチンアミドを溶媒に溶解し、所望により完全に溶解するために混合物を温め;溶媒を除去して蒸発により結晶化を誘導し;そして混合物を室温に放冷し、ここで共結晶を沈殿させることを含んでなる請求項1または2に記載の共結晶の調製法。
【請求項4】
エトラビリンを溶媒に溶解し、ここでニコチンアミドを加え;完全に溶解するまで全体を温め;混合物を室温に放冷すると同時に、溶媒を不活性ガス流による蒸発により除去し;形成された共結晶を濾取し、そして場合により洗浄し、そして乾燥する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
溶媒がハロゲン化炭化水素または極性の非プロトン性溶媒である請求項3に記載の方法。
【請求項6】
溶媒が不活性ガス流の導入により除去される請求項3または4に記載の方法。
【請求項7】
抗−HIVに有効な量の請求項1または2に記載のエトラビリンとニコチンアミドの共結晶および担体を含んでなる製薬学的組成物。
【請求項8】
請求項1または2に記載のエトラビリンとニコチンアミドの共結晶、およびヒドロキシプロピル メチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース フタレート(HPMCP)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ビニルピロリドンとビニルアセテートのコポリマー(PVPcoVA)およびニコチンアミド、ならびにその混合物から選択される1もしくは複数の溶解改善成分を含んでなる組み合わせ物。
【請求項9】
エトラビリンとニコチンアミドの共結晶および1もしく複数の溶解改善成分の総量との間の重量/重量比が1:1である請求項8に記載の組み合わせ物。
【請求項10】
1もしくは複数の溶解改善成分が、HPMC、PVPおよびニコチンアミドから選択される請求項8または9に記載の組み合わせ物。
【請求項11】
組み合わせ物が請求項1または2に記載のエトラビリンとニコチンアミドとの共結晶、および溶解改善成分PVP、ニコチンアミドおよびHPMCを1:1:1:1/2の重量/重量比で含んでなる請求項8ないし10のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
HPMCがHPMC2910 E5である請求項8ないし10のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
請求項8ないし11に記載の組み合わせ物および担体を含んでなる製薬学的組成物。
【請求項14】
薬剤として使用するための請求項1または2に記載の共結晶。
【請求項15】
HIV−阻害薬として使用するための請求項1または2に記載の共結晶。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公表番号】特表2012−522026(P2012−522026A)
【公表日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−502595(P2012−502595)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【国際出願番号】PCT/EP2010/053970
【国際公開番号】WO2010/112411
【国際公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(504347371)テイボテク・フアーマシユーチカルズ (94)
【氏名又は名称原語表記】Tibotec Pharmaceuticals
【Fターム(参考)】