説明

エネルギーコスト予測システム

【課題】データの抽出条件を適切に変更することが可能な技術を提供することを目的とする。
【解決手段】エネルギーコスト予測システムは、エネルギーコスト解析部1により解析されたエネルギーコストに係る走行条件を解析する走行条件解析部2と、エネルギーコスト解析部1により解析されたエネルギーコストと、走行条件解析部2により解析された走行条件との組を、一の車両のコスト実績値として収集するエネルギーコスト収集部4と、各車両のコスト実績値を集約するエネルギーコスト集約部5とを備える。そして、当該システムは、自車両の走行条件と、自車両及び各車両のコスト実績値とに基づいてコスト実績値の第1抽出条件を決定し、かつ、自車両の所望の走行条件と、自車両及び各車両のコスト実績値とに基づいてコスト実績値の第2抽出条件を決定する抽出条件決定部6を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のエネルギーコストを予測するエネルギーコスト予測システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
エコルート探索、電気自動車の到達可能エリアの提示など、車両のエネルギーの消費、つまり、エネルギーコストを道路ごとに予測する要求が増している。エネルギーコストの予測方法として、例えば、特許文献1に開示されているように、サーバにおいて集約された各車両のエネルギーコスト実績値と、一の車両の車載装置において収集された実績値とに基づいて、その車両の目標経路におけるエネルギーコストを予測する方法が知られている。この予測方法では、エネルギーコストを増減する要因(コスト要因)ごとに、各車両の実績値の統計値に対する、一の車両の実績値の統計値のずれ(分散値、補償値)を算出し、そのずれた分だけ補正することにより、所望の走行条件下における当該一の車両のエネルギーコストを予測する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−250930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上のような予測方法においては、サーバに集められたデータ量が少ない段階では、条件からある程度離れたデータを使って予測することが多いが、データ量が多くなると、条件に近いデータを使って予測することができ、予測精度が向上していくと考えられる。また、それらデータから予測に用いるデータを抽出するための条件を厳しくすることでデータを減らし、計算量や通信量を抑制することができると考えられる。
【0005】
しかしながら、抽出条件を厳しい条件で固定すると、データ量が少ない場合には、その場合に得られる予測値が統計的な信頼性に欠けたものとなるとともに、なかなか抽出条件を満たすデータを取得することができないことから予測値もなかなか取得できなくなる。つまり、抽出条件を厳しい条件で固定すると、適当に予測できないことがあるという問題がある。一方、抽出条件を緩い条件で固定すると、所望の条件と異なる条件の下にあるデータを予測に使用することになるため、予測精度が低下する。また、抽出条件の影響は、状況に応じて大きく変動することから、抽出条件をどのようにすべきかを理論的に導出することができないという問題があった。
【0006】
また、実際に消費するエネルギー量は、車両や運転者(ドライバ)の特性が大きく影響する。したがって、多くの車両から集めた実績値だけに基づいて一般的なデータマイニング手法で予測した場合には、高精度に予測することができないという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、上記のような問題点を鑑みてなされたものであり、データの抽出条件を適切に変更することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るエネルギーコスト予測システムは、車両のエネルギーコストを予測するエネルギーコスト予測システムであって、一の前記車両が走行時に消費したエネルギーコストを解析するエネルギーコスト解析部と、前記エネルギーコスト解析部により解析された前記エネルギーコストに係る走行条件を解析する走行条件解析部とを備える。また、前記システムは、前記エネルギーコスト解析部により解析された前記エネルギーコストと、前記走行条件解析部により解析された前記走行条件との組を、前記一の車両のコスト実績値として収集するエネルギーコスト収集部と、各前記車両の前記コスト実績値を集約するエネルギーコスト集約部と、所望の走行条件が入力される予測条件入力部とを備える。また、前記システムは、前記走行条件解析部により解析された前記一の車両の走行条件と、前記一の車両の前記コスト実績値または前記エネルギーコストと、前記各車両の前記コスト実績値とに基づいて前記コスト実績値の第1抽出条件を決定し、かつ、前記予測条件入力部に入力された前記一の車両の所望の走行条件と、前記一の車両及び前記各車両の前記コスト実績値とに基づいて前記コスト実績値の第2抽出条件を決定する抽出条件決定部を備える。また、前記システムは、前記第1抽出条件を満たす前記一の車両及び前記各車両の前記コスト実績値に基づいて、前記一の車両及び前記各車両の第1コスト統計値を算出し、かつ、前記第2抽出条件を満たす前記各車両の前記コスト実績値に基づいて、前記各車両の第2コスト統計値を算出するコスト実績値抽出部と、前記コスト実績値抽出部により算出された前記一の車両及び前記各車両の前記第1コスト統計値に基づいて前記一の車両の固有特性を算出する固有特性評価部とを備える。また、前記システムは、前記第2抽出条件に基づいて、前記固有特性評価部により算出された前記固有特性から一つの前記固有特性を抽出する固有特性抽出部と、前記コスト実績値抽出部により算出された前記各車両の前記第2コスト統計値と、前記固有特性抽出部により抽出された前記固有特性とに基づいて、前記一の車両のエネルギーコストを予測するエネルギーコスト予測部とを備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、第1抽出条件を走行条件及びコスト実績値に基づいて決定し、第2抽出条件を所望の走行条件及びコスト実績値に基づいて決定することから、第1及び第2抽出条件が適切となるようにそれらを動的に変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施の形態1に係るエネルギーコスト予測システムの構成を機能ごとに示すブロック図である。
【図2】実施の形態1に係るエネルギーコスト予測システムのハードウェア構成の一例を示す図である。
【図3】実施の形態1に係るエネルギーコスト予測システムの処理を示すフローチャートである。
【図4】実施の形態1に係るエネルギーコスト予測システムの処理を示すフローチャートである。
【図5】実施の形態1に係るエネルギーコスト予測システムの処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施の形態1>
図1は、本発明の実施の形態1に係るエネルギーコスト予測システムの構成を機能ごと示すブロック図である。
【0012】
図1に示すように、本エネルギーコスト予測システムは、一の車両(以下、着目する一の車両を「自車両」と呼ぶ)が走行時に消費したエネルギーコストを解析するエネルギーコスト解析部1と、エネルギーコスト解析部1により解析されたエネルギーコストに係る走行条件を解析する走行条件解析部2とを備える。そして、本エネルギーコスト予測システムは、エネルギーコスト解析部1により解析されたエネルギーコストと、走行条件解析部2により解析された走行条件との組を自車両の「コスト実績値」として収集するエネルギーコスト収集部3と、各車両のコスト実績値を集約するエネルギーコスト集約部4とを備える。なお、本実施の形態においては、各車両は、自車両、及び、それ以外の複数の車両(以下「他車両」と呼ぶこともある)の両者を含むものとして説明するが、これに限ったものではなく、各車両は、他車両だけを含むものであってもよい。
【0013】
本エネルギーコスト予測システムは、所望の走行条件が「予測条件」として入力される予測条件入力部5を備える。そして、本エネルギーコスト予測システムは、走行条件解析部2により解析された自車両の走行条件と、自車両及び各車両のコスト実績値とに基づいてコスト実績値の「第1抽出条件」を決定し、かつ、予測条件入力部5に入力された自車両の予測条件(所望の走行条件)と、自車両及び各車両のコスト実績値とに基づいてコスト実績値の「第2抽出条件」を決定する抽出条件決定部6を備える。
【0014】
本エネルギーコスト予測システムは、第1抽出条件を満たす自車両及び各車両のコスト実績値に基づいて自車両及び各車両の「第1コスト統計値」を算出し、かつ、第2抽出条件を満たす各車両のコスト実績値に基づいて各車両の「第2コスト統計値」を算出するコスト実績値抽出部7を備える。
【0015】
本エネルギーコスト予測システムは、コスト実績値抽出部7により算出された自車両及び各車両の第1コスト統計値に基づいて自車両の「固有特性」を算出する固有特性評価部8と、第2抽出条件に基づいて、固有特性評価部8により算出された固有特性から一つの固有特性を抽出する固有特性抽出部9とを備える。そして、本エネルギーコスト予測システムは、コスト実績値抽出部7により算出された各車両の第2コスト統計値と、固有特性抽出部9により抽出された固有特性とに基づいて自車両のエネルギーコストを予測するエネルギーコスト予測部10を備えている。
【0016】
図2は、本実施の形態に係るエネルギーコスト予測システムのハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【0017】
図2に示すように、エネルギーコスト予測システムは、自車両に搭載される車載装置110と、上述の他車両に搭載される、車載装置110または車載装置110と同様の機能を持つ車載装置nn0と、これらと通信可能なサーバ装置100とを備える。
【0018】
車載装置110は、内部DB(データベース)111と、通信装置112と、センサ群113と、地図DB114と、入力装置115とを有している。サーバ装置100は、内部DB101と、通信装置112と通信可能な通信装置102とを有している。
【0019】
図3及び図4は、本実施の形態に係るエネルギーコスト予測システムの処理を示すフローチャートである。このエネルギーコスト予測システムでの処理は、全体的な処理の流れとして、図3に示される自車両の固有特性の算出処理と、図4に示される自車両のエネルギーコストの予測処理との2つの段階を有している。
【0020】
まず、図3を用いて、自車両の固有特性の算出処理について説明する。
【0021】
ステップS1−1では、エネルギーコスト解析部1が、自車両の走行時に消費したエネルギーコストを解析する。本実施の形態では、エネルギーコスト解析部1は、センサ群113を使用して、自車両の走行時に消費したエネルギーコストを解析する。ここでは、ハードウェア構成に応じた解析を行うこととする。例えば、自車両が、保持しているエネルギー量を計測するセンサを持っている場合には、それを用いて自車両のエネルギーコストを計測してもよいし、そうでない場合には、他のセンサの値を総合的に勘案して自車両のエネルギーコストを推測してもよい。
【0022】
なお、エネルギーコスト解析部1での解析は、複数の時点で行われる。解析のタイミングは、運転者が所望のタイミングを入力装置115に入力することによって決定されてもよいし、走行距離や走行時間が所定の設定値に達したタイミングなどであってもよい。
【0023】
ステップS1−2では、走行条件解析部2が、エネルギーコスト解析部1により解析されたエネルギーコストに係る走行条件、例えば、エネルギーコストの元となる各種データなどを解析する。本実施の形態では、走行条件解析部2は、通信装置112、センサ群113及び地図DB114を使用して、当該走行条件を解析する。
【0024】
ここで、走行条件は、例えば、道路情報、時間情報、周辺状況、車両状況及び運転者状況を含んでいるものとする。道路情報は、走行した経路の静的な情報であり、リンクID、道路幅、車線数、曲率、勾配、高度、信号数、右左折、合流などの情報を含んでいる。時間情報は、走行した時間の情報であり、時刻(時間帯)、日付(季節)、曜日(平日、休日)などの情報を含んでいる。車両状況は、走行時における自車両の状態を示す情報であり、車両ID、エネルギー種別、排気量、重量、電装品の使用、タイヤの消耗、積載重量(乗車人数)などの情報を含んでいる。周辺状況は、走行時における自車両周辺の状態を示す情報であり、天気、気温、湿度、地震、渋滞、交通規制、イベントなどの情報を含んでいる。運転者状況は、走行時における運転者の状態を示す情報であり、運転者ID、通勤・送迎・観光などの目的、体調、運転習熟度などの情報を含んでいる。
【0025】
ステップS1−3では、エネルギーコスト収集部3が、エネルギーコスト解析部1により解析されたエネルギーコストと、走行条件解析部2により解析された走行条件との組を自車両のコスト実績値として収集する。本実施の形態では、自車両のエネルギーコスト収集部3は、収集した自車両のコスト実績値を内部DB111に保存するとともに、通信装置112を介してサーバ装置100に送信する。他車両の車載装置nn0も同様に、他車両のコスト実績値をサーバ装置100に送信する。
【0026】
ステップS1−4では、エネルギーコスト集約部4が、各車両のコスト実績値を集約する。本実施の形態では、エネルギーコスト集約部4は、通信装置102を介して、自車両の車載装置110から送信されたコスト実績値、及び、他車両の車載装置nn0から送信されたコスト実績値を、各車両のコスト実績値として集約し、内部DB101に保存する。そして、エネルギーコスト集約部4は、内部DB101に保存されたコスト実績値を、各車両のコスト実績値として抽出条件決定部6に送信する。
【0027】
ステップS1−5では、抽出条件決定部6が、走行条件解析部2により解析された走行条件と、自車両及び各車両のコスト実績値とに基づいて、第1抽出条件を決定する。この第1抽出条件は、車載装置110の内部DB111に格納された自車両のコスト実績値、及び、サーバ装置100の内部DB101に格納された各車両のコスト実績値のうち、固有特性の算出に用いられるべき自車両及び各車両のコスト実績値を抽出するための条件である。
【0028】
本実施の形態においては、この第1抽出条件が、走行条件及びコスト実績値に基づいて動的に変更される。したがって、例えば、データ(コスト実績値)が多い場合には余分なデータを減らすことから、計算量を抑制したり、予測精度を高めたりすることができ、その一方で、データ(コスト実績値)が少ない場合にはデータをあまり減らさないことから、予測精度を適当に行うことができるものとなっている。なお、抽出条件決定部6が、第1抽出条件を決定する処理については、後で図5に示されるフローチャートを用いて詳細に説明する。
【0029】
ステップS1−6では、コスト実績値抽出部7が、内部DB111に格納された自車両のコスト実績値、及び、内部DB101に格納された各車両のコスト実績値から、第1抽出条件を満たす自車両のコスト実績値及び各車両のコスト実績値をそれぞれ抽出する。
【0030】
ステップS1−7では、コスト実績値抽出部7が、ステップS1−6で抽出した自車両及び各車両のコスト実績値に基づいて、自車両及び各車両の第1コスト統計値をそれぞれ算出する。本実施の形態では、コスト実績値抽出部7は、ステップS1−6で抽出した自車両のコスト実績値を平均する統計処理を行うことにより自車両の第1コスト統計値を算出し、ステップS1−6で抽出した各車両のコスト実績値を平均する統計処理行うことにより各車両の第1コスト統計値を算出する。なお、ここではコスト実績値の平均値を第1コスト統計値としているが、これに限ったものではなく、例えば、コスト実績値の最頻値を第1コスト統計値としてもよい。
【0031】
ステップS1−8では、固有特性評価部8が、コスト実績値抽出部7により算出された自車両及び各車両の第1コスト統計値に基づいて、自車両の固有特性を算出(評価)する。本実施の形態では、固有特性評価部8は、自車両の第1コスト統計値と、各車両の第1コスト統計値との比を、自車両の固有特性とする。なお、ここでは、当該比を自車両の固有特性としているが、これに限ったものではなく、例えば、各車両のコスト実績値の分布に対する自車両のコスト実績値の平均値の位置を、自車両の固有特性としてもよい。
【0032】
次に、図4を用いて、自車両のエネルギーコストを予測する予測処理について説明する。
【0033】
ステップS2−1では、予測条件入力部5に、予測条件(所望の走行条件)が入力される。本実施の形態では、運転者により入力装置115に入力された案内経路及び操作時刻、センサ群113が取得したセンサデータ、地図DB114のデータ、通信装置112で取得した外部システムのデータに関する条件を、予測条件とする。
【0034】
ステップS2−2では、抽出条件決定部6が、予測条件入力部5に入力された予測条件(所望の走行条件)と、自車両及び各車両のコスト実績値とに基づいて、第2抽出条件を決定する。この第2抽出条件は、内部DB101に格納された各車両のコスト実績値のうち、自車両のエネルギーコストの予測に用いられるべき各車両のコスト実績値を抽出するための条件である。
【0035】
本実施の形態においては、この第2抽出条件が、予測条件及びコスト実績値に基づいて動的に変更される。したがって、例えば、データ(コスト実績値)が多い場合には余分なデータを減らすことから、計算量を抑制したり、予測精度を高めたりすることができ、その一方で、データ(コスト実績値)が少ない場合にはデータをあまり減らさないことから、予測精度を適当に行うことができるものとなっている。なお、抽出条件決定部6が、第2抽出条件を決定する処理については、後で図5に示されるフローチャートを用いて詳細に説明する。
【0036】
ステップS2−3では、コスト実績値抽出部7が、内部DB101に格納された各車両のコスト実績値から、第2抽出条件を満たす各車両のコスト実績値を抽出する。
【0037】
ステップS2−4では、コスト実績値抽出部7が、ステップS2−3で抽出した各車両のコスト実績値に基づいて、各車両の第2コスト統計値を算出する。なお、第2コスト統計値の算出は、ステップS1−7で説明した算出と同様である。
【0038】
ステップS2−5では、固有特性抽出部9が、第2抽出条件に基づいて、固有特性評価部8により算出された固有特性から一つの固有特性を抽出する。例えば、固有特性抽出部9は、第2抽出条件に最も類似する第1抽出条件に対応する一つの固有特性を抽出する。
【0039】
ステップS2−6では、エネルギーコスト予測部10が、コスト実績値抽出部7により算出された各車両の第2コスト統計値と、固有特性抽出部9により抽出された固有特定とに基づいて、予測条件(所望の走行条件)下における自車両のエネルギーコストを予測する。本実施の形態のように、自車両の第1コスト統計値と、各車両の第1コスト統計値との比を自車両の固有特性としている場合、エネルギーコスト予測部10は、各車両の第2コスト統計値(コスト実績値の平均値)に対して、当該比を反映することにより、自車両のエネルギーコストの予測値を算出する。
【0040】
つまり、エネルギーコスト予測部10は、自車両の第1コスト統計値が各車両の第1コスト統計値からずれている分だけ、各車両の第2統計値からずらして得られる値を、エネルギー予測値として取得する。なお、エネルギーコスト予測部10での算出方法は、固有特性評価部8での固有特性の算出方法に適切に対応させればよい。
【0041】
図5は、本実施の形態に係る抽出条件決定部6による抽出条件(第1及び第2抽出条件)の決定処理の一例を示すフローチャートである。以下、この図5を用いて、抽出条件決定部6の決定処理について詳細に説明する。
【0042】
ステップS3−1では、抽出条件決定部6は、走行条件解析部2により解析された走行条件が与えられた場合には、当該走行条件に基づいて第1抽出条件となる第1の所定抽出条件を初期設定する。あるいは、抽出条件決定部6は、予測条件入力部5に入力された予測条件(所望の走行条件)が与えられた場合には、当該予測条件に基づいて第2抽出条件となる第2の所定抽出条件を初期設定する。
【0043】
ここでは、抽出条件決定部6は、与えられた走行条件に基づき、エネルギーコストを増減する要因であるコスト要因の全てについて所定抽出条件(第1または第2の所定抽出条件)の範囲レベルを0とする(最も条件を厳しくする)。つまり、ステップS3−1では、所定抽出条件の初期値の設定が行われる。なお、コスト要因には、例えば、走行条件で説明した項目の少なくともいずれか一つが該当する。
【0044】
ステップS3−2では、抽出条件決定部6は、その時点での所定抽出条件を満たすデータセット(自車両及び各車両のコスト実績値)を抽出する。なお、データセットに含まれる自車両のコスト実績値の抽出元は、エネルギーコスト収集部3で収集された自車両のコスト実績値であり、同データセットに含まれる各車両のコスト実績値の抽出元は、エネルギーコスト集約部4で集約された各車両のコスト実績値である。また、「その時点での所定抽出条件」とは、ステップS3−1からステップS3−2に移行された場合には、ステップS3−1において初期化された所定抽出条件を意味し、ステップS3−6からステップS3−2に移行された場合には、ステップS3−6において変更された後の所定抽出条件を意味する。
【0045】
ステップS3−3では、まず、抽出条件決定部6は、第1の所定抽出条件を満たす自車両及び各車両のコスト実績値(データセット)に基づいて、エネルギーコストの予測に関するコスト実績値の信頼度を求める。あるいは、抽出条件決定部6は、第2の所定抽出条件を満たす自車両及び各車両のコスト実績値(データセット)に基づいて、同様の信頼度を求める。
【0046】
本実施の形態では、信頼度は、データ量に対して単調増加する値であり、次式(1)により求められる。
C=k1×A+k2×ΣBi ・・・(1)
ここで、Aはデータ量(ここでは抽出されたデータセットの数)、Bi(i=1〜A)はデータiの条件一致度である。条件一致度Bは、ステップS3−2で抽出されたデータセット中の各データiについて、与えられた走行条件とずれが小さければ高くなる評価値であり、例えば、各データの各コスト要因について、コスト要因の重要度、及び、基準値とのずれを考慮して計算した値を総合したものが適用される。式(1)においてΣBiは、i=1からi=Aまでデータiの条件一致度についての和をとることを意味する。また、k1及びk2はデータ量及び条件一致度それぞれに係る所定のパラメータであり、データ量Aを重視するか、条件一致度Bを重視するかを決定する。
【0047】
本実施の形態においては、信頼度Cは、式(1)に示されるように、上述の所定のパラメータk1,k2として有している。この所定のパラメータk1,k2は、予めシミュレーションや理論値などで求めておいて、内部DB111に設定として予め保持されていてもよいし、自車両についての、エネルギーコスト予測部10により予測されたエネルギーコストと、コスト実績値との差分がフィードバックされてチューニングされるものであってもよい。
【0048】
同ステップS3−3にて、抽出条件決定部6は、求めた信頼度が十分であるかを判定する。なお、本実施の形態では、抽出条件決定部6は、信頼度Cが閾値を超えた場合には信頼度が十分であると判定し、そうでない場合には信頼度が十分でないと判定するものとする。なお、信頼度の判定はこれに限ったものではなく、例えば、データ量A及び条件一致度Bとのずれがともにそれぞれの閾値以上であれば信頼度が十分であると判定するようにしてもよい。
【0049】
求めた信頼度が十分でないと判定した場合には、ステップS3−4に進む。
【0050】
一方、十分であると判定した場合には、その時点の第1の所定抽出条件を第1抽出条件として決定して、図5に示す処理を終了する。あるいは、その時点の第2の所定抽出条件を第2抽出条件として決定して、図5に示す処理を終了する。
【0051】
ステップS3−4では、抽出条件決定部6は、コスト要因を順に重要度の算出対象とし、全てのコスト要因に対して算出済みでなければ、ステップS3−5に進み、全てのコスト要因に対して算出済みであればステップS3−6に進む。つまり、全てのコスト要因に対して重要度を算出するまでステップS3−5を繰り返し、全てのコスト要因に対して算出済みであればステップS3−6に進む。
【0052】
ステップS3−5では、抽出条件決定部6は、算出対象としているコスト要因について、重要度を算出する。ここでいうコスト要因の重要度とは、その時点での所定抽出条件の下で、当該コスト要因がエネルギーコスト(エネルギーコスト予測部10での予測値)に影響を与える度合いである。このような重要度としては、例えば、算出対象としているコスト要因とエネルギーコスト(予測値)との相関の絶対値、あるいは分散が適用される。
【0053】
ステップS3−6では、抽出条件決定部6は、ステップS3−4〜S3−5の処理で最も高い重要度に対応するコスト要因について範囲レベルを1下げることにより、その時点の所定抽出条件を緩くするように、当該所定抽出条件を変更する。その後、ステップS3−2に戻る。
【0054】
以上の処理により、本実施の形態に係るエネルギーコスト予測システムによれば、第1抽出条件を走行条件及びコスト実績値に基づいて決定し、第2抽出条件を予測条件及びコスト実績値に基づいて決定することから、第1及び第2抽出条件が適切となるようにそれらを動的に変更することができる。
【0055】
また、本実施の形態では、抽出条件決定部6は、信頼度が閾値より高い場合には、その時点での第1の所定抽出条件を第1抽出条件として決定し、信頼度が閾値よりも低い場合には、その時点での第1の所定抽出条件を緩くする。これにより、信頼度が高い(データ量Aが多く、条件一致度Bが高い)場合には、余分なデータ量を減らすことができる。したがって、計算量を抑制することができ、また、集められたデータの偏り、自車両及び運転者の特性を考慮して条件を厳しくすることができることから、予測精度を高めたりすることができる。その一方で、信頼度が低い(データ量Aが少なく、条件一致度Bが低い)場合には、なるべくデータ量を維持することから、抽出条件を満たすデータを取得する可能性を高めることができ、その結果、適当な予測を行うことができる。なお、本実施の形態では、同様に、抽出条件決定部6は、信頼度が閾値より高い場合には、その時点での第2の所定抽出条件を第2抽出条件として決定し、信頼度が閾値よりも低い場合には、その時点での第2の所定抽出条件を緩くすることから、以上の効果を高めることができる。
【0056】
なお、コスト要因のなかには、予測値にほとんど影響せず、抽出条件を厳しくする必要がないものもあれば、予測値に強く影響し、抽出条件を厳しくする必要が有るものもある。そこで、本実施の形態では、抽出条件決定部6は、重要度に応じて範囲レベルをコスト要因ごとに変更する。つまり、抽出条件決定部6は、第1及び第2抽出条件をコスト要因ごとに決定する。これにより、上述の効果を高めることができる。
【0057】
また、本実施の形態に係るエネルギーコスト予測システムによれば、エネルギーコスト予測部10により予測されたエネルギーコストと、コスト実績値との差分が、所定のパラメータk1,k2にフィードバックされる。したがって、エネルギーコストの予測精度をより高めることができる。
【0058】
なお、以上の説明では、抽出条件決定部6は、走行条件解析部2により解析された自車両の走行条件と、自車両及び他車両のコスト実績値とに基づいて、第1抽出条件を決定した。しかし、コスト実績値は、エネルギーコスト及び走行条件を含んでいることから、抽出条件決定部6は、自車両の走行条件と、自車両のエネルギーコストと、他車両のコスト実績値とに基づいて、第1抽出条件を決定するものであってもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 エネルギーコスト解析部、2 走行条件解析部、3 エネルギーコスト収集部、4 エネルギーコスト集約部、5 予測条件入力部、6 抽出条件決定部、7 コスト実績値抽出部、8 固有特性評価部、9 固有特性抽出部、10 エネルギーコスト予測部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のエネルギーコストを予測するエネルギーコスト予測システムであって、
一の前記車両が走行時に消費したエネルギーコストを解析するエネルギーコスト解析部と、
前記エネルギーコスト解析部により解析された前記エネルギーコストに係る走行条件を解析する走行条件解析部と、
前記エネルギーコスト解析部により解析された前記エネルギーコストと、前記走行条件解析部により解析された前記走行条件との組を、前記一の車両のコスト実績値として収集するエネルギーコスト収集部と、
各前記車両の前記コスト実績値を集約するエネルギーコスト集約部と、
所望の走行条件が入力される予測条件入力部と、
前記走行条件解析部により解析された前記一の車両の走行条件と、前記一の車両の前記コスト実績値または前記エネルギーコストと、前記各車両の前記コスト実績値とに基づいて前記コスト実績値の第1抽出条件を決定し、かつ、前記予測条件入力部に入力された前記一の車両の所望の走行条件と、前記一の車両及び前記各車両の前記コスト実績値とに基づいて前記コスト実績値の第2抽出条件を決定する抽出条件決定部と、
前記第1抽出条件を満たす前記一の車両及び前記各車両の前記コスト実績値に基づいて、前記一の車両及び前記各車両の第1コスト統計値を算出し、かつ、前記第2抽出条件を満たす前記各車両の前記コスト実績値に基づいて、前記各車両の第2コスト統計値を算出するコスト実績値抽出部と、
前記コスト実績値抽出部により算出された前記一の車両及び前記各車両の前記第1コスト統計値に基づいて前記一の車両の固有特性を算出する固有特性評価部と、
前記第2抽出条件に基づいて、前記固有特性評価部により算出された前記固有特性から一つの前記固有特性を抽出する固有特性抽出部と、
前記コスト実績値抽出部により算出された前記各車両の前記第2コスト統計値と、前記固有特性抽出部により抽出された前記固有特性とに基づいて、前記一の車両のエネルギーコストを予測するエネルギーコスト予測部と
を備えるエネルギーコスト予測システム。
【請求項2】
請求項1に記載のエネルギーコスト予測システムであって、
前記抽出条件決定部は、
前記第1及び第2抽出条件を、前記エネルギーコストを増減する要因であるコスト要因ごとに決定する、エネルギーコスト予測システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のエネルギーコスト予測システムであって、
前記抽出条件決定部は、
前記走行条件解析部により解析された前記走行条件に基づいて第1の所定抽出条件を設定し、
前記第1の所定抽出条件を満たす前記一の車両及び前記各車両の前記コスト実績値に基づいて、前記エネルギーコストの予測に関する当該コスト実績値の信頼度を求め、
前記信頼度が閾値より高い場合には前記第1の所定抽出条件を前記第1抽出条件として決定し、前記信頼度が前記閾値より低い場合には前記第1の所定抽出条件を緩くする、エネルギーコスト予測システム。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のエネルギーコスト予測システムであって、
前記抽出条件決定部は、
前記予測条件入力部に入力された前記所望の走行条件に基づいて第2の所定抽出条件を設定し、
前記第2の所定抽出条件を満たす前記一の車両及び前記各車両の前記コスト実績値に基づいて、前記エネルギーコストの予測に対する当該コスト実績値の信頼度を求め、
前記信頼度が閾値より高い場合には前記第2の所定抽出条件を前記第2抽出条件として決定し、前記信頼度が前記閾値より低い場合には前記第2の所定抽出条件を緩くする、エネルギーコスト予測システム。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載のエネルギーコスト予測システムであって、
前記信頼度は所定のパラメータを有し、
前記一の車両に関する、前記エネルギーコスト予測部により予測された前記エネルギーコストと、前記コスト実績値との差分が、前記所定のパラメータにフィードバックされる、エネルギーコスト予測システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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