説明

エネルギープラントの最適運用システムと方法、およびプログラム

【課題】精度の高い機器特性モデルを構築可能とし、安定した最適運用解を算出可能なエネルギープラントの最適運用システムと方法、およびプログラムを提供する。
【解決手段】冷却水温度入力部112により、プラント外部の冷却媒体温度を入力してBTGプラント100の各タービン復水器の冷却水温度を推定する。補正量算出部121により、BTGプラント100の各種プロセス量とタービン復水器の冷却水温度に基づき、復水器性能の変化による電力出力補正量を算出する。モデル構築・更新部122により、各種プロセス量と電力出力補正量に基づき、各機器の特性をモデル化して機器特性モデルを構築する。最適運用解算出部124により、各種プロセス量と、電力出力補正量、および機器特性モデルに基づき、BTGプラント100のボイラの蒸気生成量と各タービンの蒸気配分量および抽気蒸気量の最適運用解を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラ・タービン・発電機を組み合わせたエネルギープラントにおいて、トータルエネルギーコストを最小とする最適運用を行うための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ボイラ・タービン・発電機を組み合わせたエネルギープラントにおいては、複数台のボイラから発生した蒸気によって複数台のタービンを運転し、各タービンに結合した発電機を駆動して電力を発生することで、発生した電力を、外部からの購入電力と合わせて電力負荷に供給する一方、各タービンから抽気される蒸気を蒸気負荷に供給している。このようなエネルギープラントの最適運用を行う最適運用システムにおいては、各ボイラの蒸気生成量と各タービンの蒸気配分量や抽気蒸気量が、例えば、トータルエネルギーコストが最小になるように決定される。
【0003】
このようなボイラ・タービン・発電機を組み合わせたエネルギープラントの最適運用システムの基本的なシステムとして、例えば、特許文献1においては、ボイラやタービン(発電機含む)のモデル(機器特性、運転制約、機器内蒸気バランスなど)、モデルの作成・編集機能、トータルエネルギーコスト最小化演算機能などから構成されたシステムが提案されている。
【0004】
また、特許文献2においては、各機器における蒸気の温度、圧力、流量情報をプロセス量として入力し、マスバランスとエネルギーバランスの関係式やタービンへの蒸気流入量制御弁における圧力損失特性を考慮した詳細モデル化により最適運用を行うシステムが提案されている。
【0005】
一方、特許文献3においては、ボイラ壁の汚れなどに起因するボイラ効率の変化を経時的に評価することで、経年変化の影響を低減するボイラ・タービン・発電機の最適運用システムが提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開平8−95604
【特許文献2】特開2000−97001
【特許文献3】特開2004−332623
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した従来技術においては、対象となるボイラ・タービン・発電機を組み合わせたエネルギープラント(以下、BTG系と略称)の最適運用において、個々の機器の特性を、予め数式関係としてモデリングし、その機器特性モデルに基づき、最適な運用状態として、例えば、トータルエネルギーコストが最小となるような運用状態を数値計算によって求めている。
【0008】
しかし、そのような従来技術の機器特性モデル化においては、タービン復水器性能に影響する冷却水温度(通常、海水温度など)が機器特性モデルに陽に盛り込まれていないため、モデル化が行われた時期(例えば夏季)の機器モデルを別の時期(例えば冬季)に適用した場合には、復水器性能が大きく異なってしまい、最適運用解は実質的に最適なものではなくなってしまう可能性があった。
【0009】
このような冷却水温度の影響を低減するために、例えば、最低一年間のデータを用いてモデル化を図ることなどが行われているが、結果的に得られる機器モデルは、年間の海水温度の変動を無視し、平均的な特性として合わせ混む形になるため、逆にどの時期でも変動誤差が残ることとなり、最適化の結果も常にずれるという課題があった。
【0010】
特に、特許文献2では、前述したように、各機器における蒸気温度・圧力・流量を全て考慮することで、質量・エネルギー双方のバランス関係や圧損などを考慮した詳細モデル化を図り、最適運用を行うシステムが提案されているが、このように構成された機器モデル群は全体に非線形性が強いものとなる。そのため、最適化計算において最適解に到達しない、最適化計算に時間がかかる、モデルのメンテナンス負荷が高すぎる、などの弊害があり、継続的な利用において、非常に大きな課題となっていた。
【0011】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的は、タービン復水器性能に影響する冷却水温度を陽に取り込むことにより、精度の高い機器特性モデルを構築可能とし、安定した最適運用解を算出可能なエネルギープラントの最適運用システムと方法、およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記の目的を達成するために、復水器の冷却水温度に起因する復水器性能の変化による電力出力補正量を算出して、この電力出力補正量に基づき機器特性モデルを構築することにより、精度の高い機器特性モデルを構築可能とし、安定した最適運用解を算出可能としたものである。
【0013】
本発明におけるエネルギープラントの最適運用システムは、複数台のボイラから発生した蒸気によって複数台のタービンを運転し、各タービンに結合した発電機を駆動して電力を発生することで、発生した電力を電力負荷に供給する一方、各タービンから抽気される蒸気を蒸気負荷に供給するエネルギープラント中で、各ボイラの蒸気生成量と各タービンの蒸気配分量および抽気蒸気量を、各機器の特性モデルに基づいてトータルエネルギーコストを最小とするように決定する最適運用システムにおいて、プロセス量入力手段、冷却水温度入力手段、補正量算出手段、モデル構築・更新手段、最適運用解算出手段を有する。
【0014】
ここで、プロセス量入力手段は、エネルギープラントの各種プロセス量を入力する手段であり、冷却水温度入力手段は、各タービンの復水器の冷却水温度を計測量として入力するかまたは冷却源の温度から推定する手段である。補正量算出手段は、エネルギープラントの各種プロセス量と復水器の冷却水温度に基づき、復水器性能の変化による電力出力補正量を算出する手段である。モデル構築・更新手段は、エネルギープラントの各種プロセス量と電力出力補正量に基づき、エネルギープラントを構成する各機器の特性をモデル化して機器特性モデルを構築する手段である。最適運用解算出手段は、エネルギープラントの各種プロセス量と、電力出力補正量、および機器特性モデルに基づき、エネルギープラントのボイラの蒸気生成量と各タービンの蒸気配分量および抽気蒸気量の最適運用解を算出する手段である。
【0015】
なお、本発明におけるエネルギープラントの最適運用方法および最適運用プログラムは、上記システムの特徴を、方法およびコンピュータプログラムの観点からそれぞれ把握したものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、タービン復水器性能に影響する冷却水温度を陽に取り込むことにより、精度の高い機器特性モデルを構築可能とし、安定した最適運用解を算出可能なエネルギープラントの最適運用システムと方法、およびプログラムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下には、本発明によるエネルギープラントの最適運用システムの実施形態について、図面を参照して具体的に説明する。
【0018】
[第1の実施形態]
[構成]
図1は、本発明を適用した第1の実施形態に係るエネルギープラントの最適運用システムを示すブロック図である。
【0019】
この図1に示すように、最適運用システムはまず、運用対象エネルギープラントであるボイラ・タービン・発電機プラント(BTGプラント)100の最適運用を行う最適制御装置101、BTGプラント100の各種プロセス量を計測するプロセス量計測装置102、最適制御装置101で設定された最適運用解に基づき、BTGプラント100を制御するプラント制御装置103、を備えている。
【0020】
これらの装置101〜103からなるシステム構成は、特に、最適制御装置101の構成や機能内容を除けば、基本的に従来存在する構成である。本実施形態においては、これらの装置101〜103に加えて、本発明の特徴であるタービン復水器の冷却水温度に関するデータを得るために、BTGプラント100のタービン復水器の冷却源温度を計測する冷却源温度計測装置104が追加されている。本実施形態において、この冷却源温度計測装置104は、冷却水として用いられるプラント外部の冷却媒体温度を計測するものとする。なお、変形例として、冷却源温度計測装置104により冷却水温度を直接計測することも可能である。
【0021】
また、最適制御装置101は、データ入力部110、演算部120、記憶部130、最適運用解設定部140等から構成されている。この最適制御装置101の各部の詳細は次の通りである。
【0022】
データ入力部110は、プロセス量入力部111と冷却水温度入力部112を備えている。ここで、プロセス量入力部111は、プロセス量計測装置102で計測されたBTGプラント100の蒸気流量、温度、圧力などの各種プロセス量を入力して演算用のデータとして演算部120に渡す部分であり、従来の最適運用システムに既存の構成である。これに対して、冷却水温度入力部112は、本発明の特徴であるタービン復水器の冷却水温度に関するデータを得るために、冷却源温度計測装置104で計測されたプラント外部の冷却媒体温度を入力して、入力した冷却媒体温度から冷却水温度を推定し、演算用のデータとして演算部120に渡す部分である。
【0023】
このようなデータ入力部110の具体的な構成は、プロセス量計測装置102や冷却源温度計測装置104から取得するデータに応じて異なる。例えば、プロセス量計測装置102や冷却源温度計測装置104から入力するデータがディジタルデータである場合には、コンピュータの有する通常の通信制御装置や入力機能により実現可能であるが、アナログデータである場合には、アナログ通信装置やA/D変換回路などにより実現可能である。
【0024】
また、冷却水温度入力部112における冷却水温度の推定は、ディジタルデータを入力する場合には、コンピュータの有する演算機能により実現可能であるが、アナログデータを入力する場合には、推定回路などを用いて実現可能である。
【0025】
演算部120は、補正量算出部121、モデル構築・更新部122、制約条件設定部123、最適運用解算出部124を備えている。
【0026】
ここで、補正量算出部121は、本発明の特徴であるところの、タービン復水器の性能変化による電力出力補正量を算出する部分であり、プロセス量入力部111で入力された各種プロセス量、および、冷却水温度入力部112で推定されたタービン復水器の冷却水温度に基づき、復水器の冷却水温度変化による性能変動としての電力出力補正量を算出する。
【0027】
また、モデル構築・更新部122は、本発明の特徴であるところの、タービン復水器の性能変化による電力出力補正量を機器特性モデルに反映させる部分であり、プロセス量入力部111で入力された各種プロセス量、および、補正量算出部121で算出された電力出力補正量に基づき、BTGプラント100を構成する各機器の特性をモデル化して、モデルの構造、パラメータ値などのモデル情報を保持する機器特性モデルを構築する。
【0028】
本実施形態において、このモデル構築・更新部122においては、プロセス量から機器特性モデルを、一例として、データフィッティングにより決定するものとする。そして、モデル構築・更新部122は、補正量算出部121により出力される電気出力補正量を反映させたデータフィッティングを行うことで、主に季節間の冷却水温度(海水温度などの外部冷却媒体の温度によりほぼ近似される)の差によるタービン復水器の性能変動を陽に取り込んだ機器特性モデルを構築する。
【0029】
制約条件設定部123は、プロセス量入力部111で入力された各種プロセス量に基づき、BTGプラント100の運用上の制約条件を設定する部分である。このような制約条件の設定は既存の技術であり、本発明の特徴ではないため、これ以上の説明は省略する。
【0030】
最適運用解算出部124は、プロセス量入力部111で入力された各種プロセス量、補正量算出部121で算出された電力出力補正量、および、モデル構築・更新部122で構築された機器特性モデルに基づき、BTGプラント100のボイラの蒸気生成量と各タービンの蒸気配分量および抽気蒸気量の最適運用解を算出する部分である。
【0031】
このような演算部120は、コンピュータの有するCPUなどの演算用ハードウェアと、最適制御用として特化されたプログラムの組み合わせにより実現可能である。
【0032】
記憶部130は、モデル構築・更新部122で構築された機器特性モデルを格納するモデル格納部131と、制約条件設定部123で設定された運用上の制約条件を格納する制約条件格納部132を備えている。このような記憶部130は、コンピュータの有するメモリや補助記憶装置により実現可能である。
【0033】
最適運用解設定部140は、最適運用解算出部124で算出された最適運用解に関するデータをプラント制御装置103に送信してその最適運用解の設定を行わせる部分である。このような最適運用解設定部140は、コンピュータの有するCPUなどの演算用ハードウェアと、最適運用解設定用として特化されたプログラムの組み合わせ、および通信制御装置などにより実現可能である。
【0034】
[動作]
図2は、以上のような第1の実施形態に係るエネルギープラントの最適運用システムにおける最適制御装置101の動作概略を示すフローチャートである。
【0035】
この図2に示すように、最適制御装置101はまず、プロセス量入力部111により、プロセス量計測装置102からBTGプラント100の各種プロセス量を入力するプロセス量入力処理(S201)と、冷却水温度入力部112により、冷却源温度計測装置104からのプラント外部の冷却媒体温度を入力してBTGプラント100の各タービン復水器の冷却水温度を推定する冷却水温度入力処理(S202)を行う。
【0036】
最適制御装置101は次に、補正量算出部121により、BTGプラント100の各種プロセス量とタービン復水器の冷却水温度に基づき、復水器性能の変化による電力出力補正量を算出する補正量算出処理(S203)を行う。そして、モデル構築・更新部122により、BTGプラント100の各種プロセス量と電力出力補正量に基づき、BTGプラント100を構成する各機器の特性をモデル化して、モデルの構造、パラメータ値などのモデル情報を保持する機器特性モデルを構築し、モデル格納部131に格納するモデル構築・更新処理(S204)を行う。
【0037】
また、制約条件設定部123により、BTGプラント100の各種プロセス量に基づき、BTGプラント100の運用上の制約条件を設定し、制約条件格納部132に格納する制約条件設定処理(S205)を行う。
【0038】
最適制御装置101は続いて、最適運用解算出部124により、BTGプラント100の各種プロセス量と、電力出力補正量、および機器特性モデルに基づき、BTGプラント100のボイラの蒸気生成量と各タービンの蒸気配分量および抽気蒸気量の最適運用解を算出する最適運用解算出処理(S206)を行う。そして、最適運用解設定部140により、最適運用解に関するデータをプラント制御装置103に送信してその最適運用解の設定を行わせる最適運用解設定処理(S207)を行うことにより、プラント制御装置103によりBTGプラント100の最適運用を実施する。
【0039】
[処理の詳細]
以下には、以上のような最適制御装置101の動作のうち、本発明に係る特徴的な処理であるところの、補正量算出処理(S203)およびモデル構築・更新処理(S204)の詳細についてより具体的に説明する。
【0040】
[補正量算出処理]
本実施形態において、補正量算出部121による補正量算出処理(S203)は、図3に示すような手順で行われる。すなわち、出力補正量は、タービン復水器の真空度と出力負荷(%)の関数として定義され、さらに、真空度は、タービン復水器の冷却水温度と交換熱量(%)の関数として定義される。
【0041】
このうち、タービン復水器の冷却水温度は、冷却水温度入力部112による冷却水温度入力処理により、冷却水として用いられるプラント外部の冷却媒体温度から推定される。ここでは、便宜上、冷却水として海水を使用し、その温度が海水温度でほぼ代替できるものとするが、外部冷却媒体の取り込み経路などによっては、冷却媒体温度にバイアス補正をするなどの、必要に応じた処理が、冷却水温度入力処理の一部として行われる。
【0042】
一方、交換熱量(%)は、タービン復水器への流入蒸気量の定格流量比として、以下の式1に示すように、各タービンに対して算出され、真空度と出力補正量の関係は、さらに、以下の式2で表される。
【0043】
【数1】

【0044】
【数2】

【0045】
実際の出力補正では、連続的な出力負荷に対する関数が用意されている訳ではなく、代表的な動作点(出力負荷(%))における真空度との関係が、設計仕様などとして計算されているケースが一般的である。例えば、仮に、100%負荷と75%負荷のそれぞれにおいて、真空度との関係が与えられているとすると、以下の式3に示すように、それぞれの関係に対して構成された補正関数の内分関数として、75〜100%の負荷帯域出力補正関数を構成し、これを出力補正関数とするなどの近似的な構成が考えられる。
【0046】
【数3】

【0047】
なお、3点以上の補正情報が与えられる場合には、2次以上の高次曲線で近似するなどの構成が考えられる。以下の式4には、真空度や各動作点での補正関数の近似構成例を示す。
【0048】
【数4】

【0049】
[モデル構築・更新処理]
本実施形態において、モデル構築・更新部122によるモデル構築・更新処理(S204)においては、前述したように、各種プロセス量と電力出力補正量に基づき、各機器特性のモデル化が行われる。
【0050】
特に、タービン・発電機の出力特性を表す蒸気消費量関数(曲線)の場合、前述の復水器冷却水温度の違いに起因する出力変化を考慮するために、その特性モデルの構築においては、そのような出力変化を除去した標準化蒸気消費量曲線として、フィッティング構築が行われる。以下には、この点について説明する。
【0051】
一般に計測されるプロセス量は、例えば、図4に示すように年間での計測を考えた場合、様々な復水器の冷却水温度(海水温度)によるタービン・発電機の性能変化の影響が加わっているため、実際にタービン・発電機の機器特性を定める場合には、これらの季節変動要因と基本的な蒸気消費量による特性とを区別してモデル化する必要がある。
【0052】
そのため、タービン・発電機の出力特性を表す蒸気消費量曲線については、以下の式5に示すように、当該データが計測された時の海水温度によるタービン復水器性能の変動特性を個別に詳細モデル化し、タービン・発電機の出力特性を示す元データに対して出力補正を行うことで、季節変動要因を排除した基本的な特性のみを、データフィッティングにより標準モデル化して(標準化)蒸気消費量曲線を構成する。
【0053】
【数5】

【0054】
[効果]
以上のように、第1の実施形態によれば、タービン復水器性能に影響する冷却水温度を機器特性モデルに陽に取り込むことにより、タービン復水器の冷却水温度の変動による出力変化の影響と、タービン・発電機が本来の機器特性として持っている流入蒸気に対する出力寄与を正確に評価することができる。したがって、従来に比べて精度の高い機器特性モデルを構築可能で、安定した最適運用解を算出可能な最適運用システムを提供することができる。
【0055】
特に、図3に示すように、電力出力補正量を、タービン復水器の冷却水温度の関数として明確に定義することにより、タービン復水器の冷却水温度を機器特性モデルに確実に取り込むことができるため、冷却水温度の変化によるタービン復水器性能の変動特性の詳細モデル化を精度よく行うことができる。
【0056】
また、冷却水温度の変化によるタービン復水器性能の変動特性を個別に詳細モデル化し、その影響を排除した基本的なタービン・発電機特性のみを、データフィッティングにより標準モデル化することにより、機器特性モデルの冗長化を回避できるため、最適運用解の算出時間の短縮や、モデルのメンテナンス負荷の低減が図れるという効果も得られる。
【0057】
[第2の実施形態]
図5は、本発明を適用した第2の実施形態に係るエネルギープラントの最適運用システムを示すブロック図である。本実施形態は、第1の実施形態における最適制御装置101において、演算部120にモデル精度監視部125を追加したものである。このモデル精度監視部125は、モデル構築・更新部122で構築された機器特性モデルの推定精度を監視して、推定精度が予め設定された管理精度を超える場合には、モデル構築・更新部122に機器特性モデルの更新を行わせる部分である。なお、他の部分の構成は、図1に示した第1の実施形態の構成と同様である。
【0058】
図6は、以上のような第2の実施形態に係るエネルギープラントの最適運用システムにおける最適制御装置101の動作概略を示すフローチャートである。この図6に示すように、本実施形態において、モデル構築・更新部122によるモデル構築・更新処理(S204)に続いて、モデル精度監視部125とモデル構築・更新部122によるモデル精度監視・更新処理(S211)を行う点以外は、図2に示した第1の実施形態の動作概略と同様である。
【0059】
このモデル精度監視・更新処理(S211)において、最適制御装置101は、モデル精度監視部125により、プロセス量と機器特性モデル3が保持するモデル情報に基づき、現在、最適運用解の演算に供与されている機器特性モデルの予測出力を実績データと比較し、仮にそれが所定の許容限界精度(管理精度)を超えている場合には、モデル構築・更新部122に指示を出すことで、機器特性モデルの更新を行わせる。
【0060】
すなわち、機器特性は、機器自身の更新以外に、経年変化等によって変わることが予想されるが、本実施形態においては、そのような経年劣化等の特性変化が生じた際に、モデル精度監視部125により機器特性モデルの精度、すなわち、実際の機器特性との差分を監視して、差分が許容限界を超えた場合に、実際の機器特性に応じた機器特性モデルに更新する。
【0061】
このようなモデル精度監視・更新処理を行うことにより、機器特性モデルの精度を監視して常に一定以上の精度に維持することができるため、最適運用解算出部124により算出される最適運用解の実質的な最適性を長期に亘って維持することが可能となる。
【0062】
したがって、第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果が得られることに加えて、より長期に亘って安定した最適運用解を算出可能な最適運用システムを提供することができる。
【0063】
[第3の実施形態]
図7は、本発明を適用した第3の実施形態に係るエネルギープラントの最適運用システムにおけるモデル構築・更新部122の構成を示す図である。この図7に示すように、本実施形態は、第1の実施形態におけるモデル構築・更新部122の機能を拡張して、モデル構造を選択する機能を持たせたものである。このような機能拡張を実現するために、本実施形態のモデル構築・更新部122は、一例として、モデル構造選択部1221、データフィッテング部1222、モデル精度評価部1223を保持している。
【0064】
本実施形態において、このモデル構築・更新部122は、各機器の機器特性モデルを構築する際に、モデル構造選択部1221により、当該機器に関するデータの精度に応じて、モデル構造を、2次以上の多項式特性、弁転特性、および線形特性の中から選択可能であり、選択したモデル構造を用いてモデル化を行う。このモデル構築・更新部122は、モデル構造選択部1221によるモデル構造の選択、データフィッテング部1222によるモデル同定用に用意されたデータへのデータフィッテング、およびモデル精度評価部1223によるモデル精度(誤算分散)の評価、を繰り返しつつ、最適なモデル構造を比較・選択的に決定する。
【0065】
すなわち、図7に示すように、タービン特性の詳細なモデル構造としては、弁の切り替えによる出力変化を精密に表現した弁転特性モデルを適用することか考えられるが、本実施形態においては、弁転特性モデルの適用だけでなく、より簡易な線形一次式での表現モデルの適用も可能である。
【0066】
例えば、一般産業工場の自家発電プラントの場合には、実際の計測データから弁転特性を精度良く同定することは非常に難しいケースが多く、弁転特性モデルに固執した場合に、かえって特性モデルとしての推定精度が大幅に劣化することも起こり得る。本実施形態においては、このような場合に、最適なモデル構造を比較・選択することにより、モデル構築に使用するデータの精度に応じて柔軟にモデル構造を選択して、機器特性モデルの詳細化を精度よく行うことができる。
【0067】
したがって、第3の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果が得られることに加えて、機器特性モデルの詳細化をモデル構築に用いるデータ品質に応じて実行することができるため、より安定した最適運用解を算出可能な最適運用システムを提供することができる。
【0068】
[第4の実施形態]
図8は、本発明を適用した第4の実施形態に係るエネルギープラントの最適運用システムにおける冷却水温度入力部112の構成を示す図である。この図8に示すように、本実施形態は、第1の実施形態における冷却水温度入力部112に、平滑化フィルタ1121を持たせたものである。
【0069】
この平滑化フィルタ1121を有することにより、本実施形態の冷却水温度入力部112は、計測量を入力する場合に、瞬時値ではなく、予め設定された過去の時間範囲のデータに対して平滑化処理を行った後の値を入力データとする。
【0070】
すなわち、本実施形態において、図8に示すように、冷却水温度入力部112は、冷却水として使用する海水温度の実測海水温度データを入力するが、この場合に、瞬時値ではなく、予め設定された過去の時間範囲の実測海水温度データを入力し、平滑化フィルタ1121により平滑化処理を行った後の平滑化処理後海水温度データを、補正量算出用の冷却水温度データとして、補正量算出部121に渡す。
【0071】
本実施形態では、このように、冷却水温度データとして、平滑化処理後のデータを使用することにより、計測に使用されている機器の性能に関わらず、タービン復水器の性能の推定値を精度よく算出することができる。すなわち、海水温度の計測において利用されているセンサは、一般的に、あまり高性能でない場合が多いため、そのようなセンサで計測された瞬時値データを用いた場合には、大きなノイズ・外乱がデータに直接的に重畳し、結果として正確な復水器性能の推定値を大きく乱す可能性がある。
【0072】
本実施形態においては、冷却水温度入力部112内に、図8に示すような平滑化フィルタ部1121を用意して、ノイズ要因の低減を図ると共に、さらに所定の過去時間範囲で平均値計算を行ってそれを現在値とみなすなどの全般的な平滑化処理を行うことにより、このような計測センサ側の性能を補うことができる。
【0073】
したがって、第4の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果が得られることに加えて、一定温度範囲の実測温度データの平滑化処理を行うことで計測側の性能に関わらず、タービン復水器の性能の推定値を精度よく算出して、タービン復水器の性能変動を安定して予測できるため、より安定した最適運用解を算出可能な最適運用システムを提供することができる。
【0074】
なお、第4の実施形態の変形例として、プロセス量入力部111において、プロセス量の計測量を入力する場合に、瞬時値ではなく、予め設定された過去の時間範囲のデータに対して平滑化処理を行った後の値を入力データとしてもよい。この場合にも、プロセス量の計測性能に関わらず、補正量の算出や機器特性モデルの構築を精度よく行うことができるため、より安定した最適運用解を算出可能な最適運用システムを提供することができる。
【0075】
[他の実施形態]
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で他にも多種多様な変形例が実施可能である。まず、図面に示したシステム構成、装置構成やフローチャート、機器特性モデル構成は、一例にすぎず、具体的な構成、動作手順や各処理の詳細、機器特性モデル構成などは適宜選択可能である。
【0076】
例えば、最適運用システムを構成する最適制御装置や計測装置、プラント制御装置などの具体的な構成は自由に選択可能であり、これらの装置を適宜複合化してもよい。あるいは逆に、最適制御装置を複数の装置から構成してもよい。また、前記実施形態においては、エネルギープラントの冷却水として海水を使用し、冷却源温度である海水温度を実測する場合について説明したが、プラント内の冷却水温度を直接計測してもよい。
【0077】
一方、本発明が対象とするボイラ・タービン・発電機を組合せてなるエネルギープラントの具体的な構成も、自由に選択可能である。例えば、エネルギープラントで具体的に使用する冷却水または冷却源は、海水に限定されるものではなく、自由に選択可能である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明を適用した第1の実施形態に係るエネルギープラントの最適運用システムを示すブロック図。
【図2】第1の実施形態に係るエネルギープラントの最適運用システムにおける最適制御装置の動作概略を示すフローチャート。
【図3】第1の実施形態に係るエネルギープラントの最適運用システムにおける補正量算出部による補正量算出処理手順を示す図。
【図4】海水温度の変動に対するタービン復水器の性能と出力特性変化を示す概念図。
【図5】本発明を適用した第2の実施形態に係るエネルギープラントの最適運用システムを示すブロック図。
【図6】第2の実施形態に係るエネルギープラントの最適運用システムにおける最適制御装置の動作概略を示すフローチャート。
【図7】本発明を適用した第3の実施形態に係るエネルギープラントの最適運用システムにおけるモデル構築・更新部の構成を示す図。
【図8】本発明を適用した第4の実施形態に係るエネルギープラントの最適運用システムにおける冷却水温度入力部の構成を示す図。
【符号の説明】
【0079】
100…ボイラ・タービン・発電機プラント(BTGプラント)
101…最適制御装置
102…プロセス量計測装置
103…プラント制御装置
104…冷却源温度計測装置
110…データ入力部
111…冷却水温度入力部
112…プロセス量入力部
120…演算部
121…補正量算出部
122…モデル構築・更新部
123…制約条件設定部
124…最適運用解算出部
125…モデル精度監視部
130…記憶部
131…モデル格納部
132…制約条件格納部
140…最適運用解設定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数台のボイラから発生した蒸気によって複数台のタービンを運転し、各タービンに結合した発電機を駆動して電力を発生することで、発生した電力を電力負荷に供給する一方、各タービンから抽気される蒸気を蒸気負荷に供給するエネルギープラント中で、各ボイラの蒸気生成量と各タービンの蒸気配分量および抽気蒸気量を、各機器の特性モデルに基づいてトータルエネルギーコストを最小とするように決定する最適運用システムにおいて、
前記エネルギープラントの各種プロセス量を入力するプロセス量入力手段と、
前記各タービンの復水器の冷却水温度を計測量として入力するかまたは冷却源の温度から推定する冷却水温度入力手段と、
前記エネルギープラントの各種プロセス量と前記復水器の冷却水温度に基づき、復水器性能の変化による電力出力補正量を算出する補正量算出手段と、
前記エネルギープラントの各種プロセス量と前記電力出力補正量に基づき、前記エネルギープラントを構成する各機器の特性をモデル化して機器特性モデルを構築するモデル構築・更新手段と、
前記エネルギープラントの各種プロセス量と、前記電力出力補正量、および前記機器特性モデルに基づき、前記エネルギープラントの前記ボイラの蒸気生成量と各タービンの蒸気配分量および抽気蒸気量の最適運用解を算出する最適運用解算出手段
を有することを特徴とするエネルギープラントの最適運用システム。
【請求項2】
前記電気出力補正量は、前記復水器の真空度と出力負荷(%)の関数として定義され、真空度は、復水器の冷却水温度と交換熱量(%)の関数として定義される
ことを特徴とする請求項1に記載のエネルギープラントの最適運用システム。
【請求項3】
前記モデル構築・更新手段は、前記電力出力補正量に基づき前記復水器性能の変動特性を個別に詳細モデル化し、前記タービンおよび発電機の出力特性を示す元データから復水器性能の変動特性の影響を排除した基本的な特性のみを、データフィッティングにより標準モデル化するように構成される
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のエネルギープラントの最適運用システム。
【請求項4】
機器特性モデルの推定精度を監視して、推定精度が予め設定された管理精度を超える場合には、前記モデル構築・更新手段に機器特性モデルの更新を行わせるモデル精度監視手段を有する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のエネルギープラントの最適運用システム。
【請求項5】
前記モデル構築・更新手段は、各機器の機器特性モデルを構築する際に、当該機器に関するデータの精度に応じて、モデル構造を、2次以上の多項式特性、弁転特性、および線形特性の中から選択し、モデル化を行うように構成される
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のエネルギープラントの最適運用システム。
【請求項6】
前記冷却水温度入力手段または前記プロセス量入力手段は、計測量を入力する場合に、瞬時値ではなく、予め設定された過去の時間範囲のデータに対して平滑化処理を行った後の値を入力データとするように構成される
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のエネルギープラントの最適運用システム。
【請求項7】
複数台のボイラから発生した蒸気によって複数台のタービンを運転し、各タービンに結合した発電機を駆動して電力を発生することで、発生した電力を電力負荷に供給する一方、各タービンから抽気される蒸気を蒸気負荷に供給するエネルギープラント中で、各ボイラの蒸気生成量と各タービンの蒸気配分量および抽気蒸気量を、各機器の特性モデルに基づいてトータルエネルギーコストを最小とするように決定する最適運用方法において、
データ入力部と演算部および記憶部を有する最適制御装置を用いて、
前記データ入力部により、
前記エネルギープラントの各種プロセス量を入力するプロセス量入力処理と、
前記各タービンの復水器の冷却水温度を計測量として入力するかまたは冷却源の温度から推定する冷却水温度入力処理を行い、
前記演算部により、
前記エネルギープラントの各種プロセス量と前記復水器の冷却水温度に基づき、復水器性能の変化による電力出力補正量を算出する補正量算出処理と、
前記エネルギープラントの各種プロセス量と前記電力出力補正量に基づき、前記エネルギープラントを構成する各機器の特性をモデル化して機器特性モデルを構築し前記記憶部に格納するモデル構築・更新処理と、
前記エネルギープラントの各種プロセス量と、前記電力出力補正量、および前記機器特性モデルに基づき、前記エネルギープラントの前記ボイラの蒸気生成量と各タービンの蒸気配分量および抽気蒸気量の最適運用解を算出する最適運用解算出処理を行う
ことを特徴とするエネルギープラントの最適運用方法。
【請求項8】
複数台のボイラから発生した蒸気によって複数台のタービンを運転し、各タービンに結合した発電機を駆動して電力を発生することで、発生した電力を電力負荷に供給する一方、各タービンから抽気される蒸気を蒸気負荷に供給するエネルギープラント中で、各ボイラの蒸気生成量と各タービンの蒸気配分量および抽気蒸気量を、各機器の特性モデルに基づいてトータルエネルギーコストを最小とするように決定する最適運用システムを、コンピュータを用いて実現する最適運用プログラムにおいて、
前記最適運用システムにより、前記エネルギープラントの各種プロセス量を入力し、前記各タービンの復水器の冷却水温度を計測量として入力するかまたは冷却源の温度から推定する場合に、
前記コンピュータに、
前記エネルギープラントの各種プロセス量と前記復水器の冷却水温度に基づき、復水器性能の変化による電力出力補正量を算出する補正量算出機能と、
前記エネルギープラントの各種プロセス量と前記電力出力補正量に基づき、前記エネルギープラントを構成する各機器の特性をモデル化して機器特性モデルを構築するモデル構築・更新機能と、
前記エネルギープラントの各種プロセス量と、前記電力出力補正量、および前記機器特性モデルに基づき、前記エネルギープラントの前記ボイラの蒸気生成量と各タービンの蒸気配分量および抽気蒸気量の最適運用解を算出する最適運用解算出機能
を実現させることを特徴とするエネルギープラントの最適運用プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−255198(P2007−255198A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−76858(P2006−76858)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】