エネルギー付与用キャピラリー、エネルギー付与装置、およびエネルギー付与用キャピラリーの製造方法
【課題】荷電粒子によるエネルギー付与を三次元的に、より正確に行うことを可能とするエネルギー付与用キャピラリーを提供する。
【解決手段】標的に対し荷電粒子によるエネルギーを付与するためのエネルギー付与用キャピラリー1であって、筒状の側壁に囲まれ、キャピラリー軸方向に荷電粒子が通る中空部を有するキャピラリー本体部3と、キャピラリー本体部の先端部において中空部の開放端を塞ぐ蓋体部2と、を備え、蓋体部2によってキャピラリー本体部3内に閉空間として形成される中空部4は、真空状態に維持可能であり、蓋体部2の厚さは、該蓋体部の外表面から所定距離の位置までの領域で、標的に対し荷電粒子によるエネルギー付与がなされるように決定されている。
【解決手段】標的に対し荷電粒子によるエネルギーを付与するためのエネルギー付与用キャピラリー1であって、筒状の側壁に囲まれ、キャピラリー軸方向に荷電粒子が通る中空部を有するキャピラリー本体部3と、キャピラリー本体部の先端部において中空部の開放端を塞ぐ蓋体部2と、を備え、蓋体部2によってキャピラリー本体部3内に閉空間として形成される中空部4は、真空状態に維持可能であり、蓋体部2の厚さは、該蓋体部の外表面から所定距離の位置までの領域で、標的に対し荷電粒子によるエネルギー付与がなされるように決定されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子によるエネルギーを標的に付与するためのエネルギー付与用キャピラリーと、それを利用したエネルギー付与装置、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、癌に対する放射線治療において、癌の腫瘍に対して陽子線、α線、重粒子線等の荷電粒子による線エネルギーの付与(LET:Linear Energy Transfer)を行うことで、癌細胞を破壊する治療が行われている。この治療においては、余計な被曝を回避するためにも線エネルギーを患部に正確に与えることが重要であるため、X線吸収部材を用いた被検体の位置決めに関する技術が公開されている(例えば、特許文献1を参照。)。また、癌治療の具体例として、炭素イオン(重粒子線)のブラッグピークが患部に位置するように線エネルギー付与が行われており、患者の余計な被爆を避けるためにも、患部への正確な荷電粒子の照射は必要とされる。
【特許文献1】特開2005−304909号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
生物の細胞内の葉緑体やゴルジ体等の大きさは概ね1μmのオーダーで、それぞれが三次元的にネットワークを形成している。そのため、これらの細胞内器官に対してブラッグピークの広がりを考慮して荷電粒子によるエネルギー付与を行うには、荷電粒子と標的との相対位置関係を、三次元的に1μmのオーダーで制御できるのが好ましい。
【0004】
しかし、従来においては、荷電粒子ビームを生成するための加速器や荷電粒子のビームラインの真空保持、更には標的である細胞のハンドリングを考慮すると、荷電粒子の出射口と標的との間には10mm程度の距離が必要である。この場合、出射口から出射された荷電粒子は空気層により散乱されて、エネルギー付与が為される領域(以下、「エネルギー付与領域」とも言う。)が大きく広がってしまう。例えば、空気中の飛程が8mmの500keVの陽子線の場合、飛程の広がりは半値で300μm程度にもなる。このことは、特定の標的に正確に荷電粒子によるエネルギー付与を行うことを困難とさせ、エネルギー付与の不必要な標的に対してはダメージを与えることを意味する。
【0005】
また、荷電粒子ビームのエネルギーを小さくすることで、出射口と標的との距離を短くし空気層による影響を可及的に小さくすることも可能ではあるが、それでも空気層による散乱を受ける可能性は残り、また標的が人体内部等の深い位置に位置する場合、標的にエネルギーを与えることが困難となる。一方で、荷電粒子ビームのエネルギーが大きくなると、荷電粒子が標的を貫通し、標的の前方だけではなくその後ろの正常な細胞等にダメージを与えてしまう虞がある。
【0006】
本発明では、上記した問題に鑑み、標的に対して、荷電粒子によるエネルギー付与を三次元的に、より正確に行うことを可能とするエネルギー付与用キャピラリーと、それを利用したエネルギー付与装置、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、上記した課題を解決するために、荷電粒子によるエネルギーを標的に付与するためのエネルギー付与用キャピラリーにおいて、荷電粒子が通るために真空状態にされる部位が、可及的に標的に近接した位置にまで到達することが可能となる構造を採用し
た。このようにすることで、標的と荷電粒子の出射口との間に空気層が介在することを回避し、荷電粒子の散乱を抑制して、以てエネルギー付与領域の広がりを抑制することが可能となる。
【0008】
詳細には、本発明は、標的に対し荷電粒子によるエネルギーを付与するためのエネルギー付与用キャピラリーであって、筒状の側壁に囲まれ、キャピラリー軸方向に荷電粒子が通る中空部を有するキャピラリー本体部と、前記キャピラリー本体部の先端部において前記中空部の開放端を塞ぐ蓋体部と、を備え、前記蓋体部によって前記キャピラリー本体部内に閉空間として形成される前記中空部は、真空状態に維持可能であり、前記蓋体部の厚さは、該蓋体部の外表面から所定距離の位置までの領域で、前記標的に対し荷電粒子によるエネルギー付与がなされるように決定されている。
【0009】
また、本発明は、標的に対し荷電粒子によるエネルギーを付与するためのエネルギー付与用キャピラリーであって、筒状の側壁に囲まれ、キャピラリー軸方向に荷電粒子が通る中空部を有するキャピラリー本体部と、前記キャピラリー本体の先端部において前記中空部の開放端を塞ぎ、該中空部を真空状態に維持可能とする蓋体部と、を備えることを特徴とするエネルギー付与用キャピラリーであってもよい。
【0010】
上記のエネルギー付与用キャピラリーにおいては、キャピラリー本体部が有する中空部内を、荷電粒子が通る。ここで、中空部は、その開放端、即ち、中空部内に荷電粒子を供給する端部とは反対側の端部が、蓋体部によって塞がれるため、そこに閉空間が形成される。そして、その閉空間は真空状態となるため、荷電粒子は散乱することなく、蓋体部まで到達することが可能である。そして、その到達した荷電粒子は、蓋体部を通過して、標的が存在するキャピラリー外部へ出射されることになる。即ち、蓋体部の外表面は、荷電粒子の出射口として機能することになる。
【0011】
尚、該出射口の径は、標的の大きさに応じて適宜設定される。即ち、その使用用途において細胞等の極小の標的に対して使用する場合、エネルギー付与用キャピラリーの出射口の径は、荷電粒子を該標的に向けるために、該標的の大きさと同等程度が好ましい。
【0012】
ここで、本発明に係るエネルギー付与用キャピラリーは、上述したように、キャピラリー本体部と蓋体部とで閉空間が形成され、その閉空間が真空状態に維持されることが可能であるため、この蓋体部の外表面を標的に近づけることで、蓋体部から出射された荷電粒子は、空気層から受ける影響を可及的に小さくして標的に照射されることが可能となる。従って、標的の位置や大きさに応じて本発明に係るエネルギー付与用キャピラリーの標的に対する位置を制御することで、荷電粒子を標的の近くまで運ぶことが可能となり、以て荷電粒子によるエネルギー付与を、より正確に行うことが可能となる。
【0013】
換言すると、標的の直近まで荷電粒子の出射口を近づけることが可能となるため、荷電粒子によるエネルギー付与領域を、荷電粒子の出射口である蓋体部の外表面から所定距離の位置までの間に調整して、その領域内に標的を位置させることが容易に行い得る。これにより、より正確に、荷電粒子によるエネルギー付与が可能となる。また、出射口と標的との間の空気層の影響を可及的に排除されるため、比較的低いエネルギーの荷電粒子によっても標的へのエネルギー付与が可能となる。荷電粒子のエネルギーが低くなることで、当然にその飛程は短くなるが、一方でエネルギー付与領域の広がりは抑制される。従って、本発明に係るエネルギー付与用キャピラリーは、低エネルギーの荷電粒子による標的への正確なエネルギー付与に資する。
【0014】
ここで、真空状態とされる閉空間としての中空部では、荷電粒子エネルギーの減衰は生じないが、荷電粒子が蓋体部を通過する際、その蓋体部の材質および蓋体部の厚さ(中空
部側から外表面側までの厚さ)によって荷電粒子のエネルギーは減衰する。この点を踏まえると、蓋体部の厚さを調整することで、蓋体部の外表面から出射される荷電粒子のエネルギーを制御することが可能となる。このことは、荷電粒子のブラッグピークの出現位置を、蓋体部の厚さで制御することが可能であり、更には、荷電粒子の出射口としての蓋体部の外表面から外部に形成されるエネルギー付与領域を、蓋体部の厚さで制御することが可能であることを意味する。そこで、本発明に係るエネルギー付与用キャピラリーでは、蓋体部の厚さは、該蓋体部の外表面から所定距離の位置までの領域で、標的に対し荷電粒子によるエネルギー付与がなされるように決定される。このように蓋体部の厚さが調整されることで、標的に対するエネルギー付与がより正確に行われ得る。
【0015】
上述までのエネルギー付与用キャピラリーにおいて、前記中空部は、前記キャピラリー軸方向において先端部側に進むに従い、該中空部の断面積が小さくなるようにテーパ形状を有するようにしてもよい。
【0016】
即ち、先端部が細くなるようなテーパ形状とすることで、中空部を通る荷電粒子の一部がキャピラリー本体部の側壁内に入射されるため、蓋体部の外表面から出射される荷電粒子の量が少なくなる。これにより、エネルギー付与用キャピラリーから最終的に照射される荷電粒子量を細かく制御することができる。尚、側壁内に入射された荷電粒子は、側壁に対して比較的浅い角度で入射されるので、側壁内で減衰して外部に漏れ出すことは抑制される。
【0017】
この側壁について付言すると、前記筒状の側壁は、荷電粒子の該側壁への入射角度に基づいて、該荷電粒子の該側壁からの漏出防止を可能とする厚さを有するようにしてもよい。即ち、キャピラリー本体部の側壁の厚さは、荷電粒子が側壁側から漏出して、側壁周囲の標的(本来の標的ではない標的)に対しエネルギー付与をするのを防止する程度の厚さであることが好ましい。
【0018】
上述までのエネルギー付与用キャピラリーにおいて、前記キャピラリー本体部と前記蓋体部の材質は、同一の材質であってもよい。キャピラリー本体部と蓋体部とを同一の材質で構成することで、蓋体部によって閉空間として形成される中空部内の真空状態を、より良好に維持することが可能となる。
【0019】
また、上述までのエネルギー付与用キャピラリーにおいて、前記キャピラリー本体の先端側における前記中空部の内径は、直径で0.2μm〜25μmとしてもよい。即ち、エネルギー付与用キャピラリーの荷電粒子の出射口径を規定するものである。標的を細胞内の細胞器官としたとき、その細胞器官の大きさが上記範囲以内に含まれることを考慮すると、出射口径をこのようにすることで、出射口から出射された荷電粒子をより確実に標的に対して照射することが可能となる。
【0020】
また、前記キャピラリー本体の先端側における前記中空部の内径について別の側面から捉えると、その内径を直径で0.08μm〜1μmとしてもよい。本発明に係るエネルギー付与用キャピラリーを生体の細胞へのエネルギー付与のために利用する場合、細胞への無用な損傷を抑えるためには、上記寸法であることが好ましい。
【0021】
ここで、本発明を、上述までのエネルギー付与用キャピラリーを用いて前記標的に荷電粒子によるエネルギーを付与するエネルギー付与装置の側面からも捉えることが可能である。即ち、上記エネルギー付与用キャピラリー用いたエネルギー付与装置であって、前記エネルギー付与用キャピラリーの中空部内を真空状態に保持する真空保持手段と、前記エネルギー付与用キャピラリーに荷電粒子を供給する荷電粒子供給手段と、前記エネルギー付与用キャピラリーからの荷電粒子の照射方向であるZ軸方向において、前記エネルギー
付与用キャピラリーと前記標的との相対位置を調整するZ軸方向位置調整手段と、前記Z軸方向と垂直な面であるXY面において、前記エネルギー付与用キャピラリーと前記標的との相対位置を調整するXY面位置調整手段と、を備える。
【0022】
即ち、本発明に係るエネルギー付与装置は、Z軸方向位置調整手段とXY面位置調整手段によって、エネルギー付与用キャピラリーと標的との相対位置関係を、三次元的に制御することを可能とする。
【0023】
尚、Z軸方向は、換言すると、荷電粒子ビームのビーム軸であるが、このZ軸とキャピラリー軸がずれていると荷電粒子による標的へのエネルギー付与を行うことが困難となる。即ち、Z軸とキャピラリー軸のずれは、標的に対するエネルギー付与領域の相対位置に影響を及ぼす可能性がある。そこで、前記Z軸方向と前記キャピラリー軸方向との相対角を調整するZ軸角調整手段を、更に備えるようにしてもよい。
【0024】
ここで、上記エネルギー付与装置において、前記標的が時間経過とともに前記エネルギー付与用キャピラリーに対する相対位置を変化させるとき、前記Z軸方向位置調整手段および/または前記XY面位置調整手段によって該エネルギー付与用キャピラリーの該標的に対する相対位置を、該標的の動きに追従させる追従手段を、更に備えるようにしてもよい。
【0025】
この追従手段を備えることで、エネルギー付与用キャピラリーと標的との相対位置関係を、荷電粒子によるエネルギー付与に適した状態に維持することが可能となる。これは、標的が流動性のあるもの、即ち時間経過とともにエネルギー付与用キャピラリーに対する相対位置を変化させるものであるとき、特に有用である。
【0026】
ここで、上記エネルギー付与装置において、標的に対して荷電粒子によるエネルギー付与を行う場合、前記エネルギー付与用キャピラリーの蓋体部の外表面と前記標的との間に空気層が介在しない状態で、該標的に対して荷電粒子によるエネルギー付与を行うのが好ましい。このようにすることで、空気層による散乱を回避して、標的に対してより正確にエネルギー付与を行うことが可能となる。
【0027】
また、上記エネルギー付与装置によるエネルギーの付与のより具体的な形態としては、前記標的が生体の細胞である場合、前記Z軸方向位置調整手段および/または前記XY面位置調整手段による位置調整によって、前記エネルギー付与用キャピラリーの蓋体部の外表面が前記細胞の外表部に接触した状態で、または該蓋体部の外表面が該細胞の内部に挿入された状態で、即ち、標的である細胞と外表面との間に空気層が介在しない状態で、該細胞内の所定部位に荷電粒子によるエネルギー付与を行ってもよい。
【0028】
ここで、本発明を上記エネルギー付与用キャピラリーの製造方法の側面からも捉えることが可能である。詳細には、標的に対し荷電粒子によるエネルギーを付与するためのエネルギー付与用キャピラリーを製造する方法であって、管状体を加熱しながら引き伸ばして暫定キャピラリーを作成する第一ステップと、前記第一ステップによって作成された暫定キャピラリーを切断し、所定の内径の開口部を形成する第二ステップと、前記第二ステップによって切断された暫定キャピラリーの前記開口部側を加熱して溶融させて、該開口部を塞ぐ第三ステップと、を備える。
【0029】
第一ステップでは、管状体を引き伸ばすことで、その内径部が上記中空部に相当する暫定キャピラリーが作成される。従って、この暫定キャピラリーとは、上記キャピラリー本体部の基礎となるものである。そして、暫定キャピラリーに対して第二ステップが実行されることで、上記キャピラリー本体部が形成される。ここで、所定の内径とは、最終的に
キャピラリーから荷電粒子が出射される出射口の口径であり、その寸法は標的の大きさ等に応じて適宜設定される。
【0030】
その後、第三ステップで開口部近傍の加熱により開口部が塞がれることで、暫定キャピラリー内の内径部が閉空間となり、そこを真空状態に維持することが可能となる。従って、上記製造方法によって、本発明にかかる上述のエネルギー付与用キャピラリーを製造することが可能となる。
【0031】
更に、上記エネルギー付与用キャピラリーの製造方法において、前記第二ステップで形成された開口部に、該開口部を塞ぐ蓋体を嵌め込む嵌め込みステップを、更に備え、前記第三ステップは、前記嵌め込みステップによって前記蓋体が嵌め込まれた開口部を加熱して溶融させて、該蓋体を該暫定キャピラリーと一体化させることで前記開口部を塞ぐようにしてもよい。この嵌め込みステップで開口部が蓋体で塞がれて、第三ステップで蓋体と暫定キャピラリーとが一体化されることで、上記蓋体部が形成されることになる。この一体化により、暫定キャピラリー内の内径部が閉空間となり、そこを真空状態に維持することが可能となる。
【0032】
ここで上記製造方法において、前記第三ステップで塞がれた開口部を切断し、該塞がれた開口部の厚さを、その外表面から所定距離の位置までの領域で前記標的に対し荷電粒子によるエネルギー付与がなされる厚さとする第四ステップを、更に備えるようにしてもよい。ここで言う所定距離とは、上述の所定距離と同義である。即ち、第四ステップによって蓋体の厚さを調整することで、荷電粒子によるエネルギー付与領域を調整することが可能となり、これは、標的に対してより正確なエネルギー付与を可能とするキャピラリーの製造に資することになる。
【0033】
ここで、前記管状体および前記蓋体は、可視光透過性を有する材質によって形成される場合、前記第四ステップは、前記塞がれた開口部又は前記暫定キャピラリーに基準となる基準マークを付し、光学顕微鏡によって該基準マークと該塞がれた開口部の内表面との位置に基づいて該塞がれた開口部を切断する位置を決定し、該塞がれた開口部の一部を切断するようにしてもよい。管状体および蓋体が可視光透過性を有するため、光学顕微鏡による位置の確認を行いながら蓋体の厚さの調整が可能である。蓋体の内表面は、蓋体の厚さを決定する要素の一つであり、もう一つの要素である蓋体の外表面は、上記基準マークと蓋体の内表面とに基づくことで、蓋体の厚さを所定の厚さとすべく、第四ステップによって、その位置が決定され、蓋体の切断が行われる。
【発明の効果】
【0034】
標的に対して、荷電粒子によるエネルギー付与を三次元的に、より正確に行うことを可能とするエネルギー付与用キャピラリーと、それを利用したエネルギー付与装置、およびその製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
ここで本発明に係るエネルギー付与用キャピラリー、それを利用したエネルギー付与装置、およびその製造方法の実施の形態について図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0036】
図1は、本発明に係るエネルギー付与用キャピラリー(以下、単に「キャピラリー」という。)1の概略構造を示す図である。キャピラリー1は、材質がボロシリケイトによるガラスで構成されている。尚、キャピラリー1の製造方法については後述する。
【0037】
キャピラリー1は、厚さTsの側壁を有する管状のキャピラリー本体部3を有する。こ
のキャピラリー本体部3の中央部分には、中空の中空部4が形成されている。そして、この中空部4の先端側には、該中空部2の開放端を塞ぐように位置する蓋体部2が設けられる。このキャピラリー本体部3と蓋体部2は、最終的には一体化した状態であるが、本実施例においてはその製造工程では、それぞれは当初、別部材により構成され、後に一体化される工程を経る。従って、キャピラリー本体部3の側壁と蓋体部2とによって、中空部4は閉空間に形成される。尚、キャピラリー本体部3の基端側(蓋体部2が設けられた反対側の端部)は、キャピラリー1内を真空状態とする真空ポンプ15やキャピラリー1にα線を供給する加速器14に接続されている(図4参照)。
【0038】
また、蓋体部2の形成については、後述するように、キャピラリー本体部3と蓋体部2とを別部材により構成する以外にも、同一部材で構成する場合もある。このような場合でも、最終的に中空部4は閉空間とされ、その閉空間の先端側の部分が蓋体部2となり、その基端側は加速器14に接続される。
【0039】
更に、キャピラリー1の詳細について説明する。中空部4は、キャピラリー1の軸方向において先端側に進むに従い、その断面積が小さくなるようなテーパ形状を有している。これは、キャピラリー1の製造工程に起因するものである。このように、中空部4が先細りのテーパ形状を有することで、最終的にキャピラリー1に供給されたα線は、蓋体部2を通過して、キャピラリー1の外部に位置する標的Tgに照射されることになる。
【0040】
ここで、本実施例に係るキャピラリー1の寸法について述べると、蓋体部2の内側(中空部4側)の内径は、直径1.5μmであり、蓋体部2の厚さ(内側と外側との間の距離)Tmは、8μmである。更に、キャピラリー本体部3の側壁の厚さTsは、5〜6μmである。これらの寸法は例示に過ぎず、本発明に係るキャピラリーは、この寸法で示されるものに限定されるわけではない。
【0041】
加速器14から供給されたα線は、真空状態に維持された中空部4内を進む。その過程で、一部のα線は蓋体部2まで到達せずにキャピラリー本体部3の側壁に入射され(本実施例では、入射角θで入射されたα線を図1に例示している。)、残りは蓋体部2に入射される(本実施例では、入射角が蓋体部の内側にほぼ垂直に入射しているα線を例示している。)。ここで、蓋体部2に入射されたα線は、蓋体部2を構成する部材(本実施例では、ガラス部材)によるエネルギー減衰を受け、蓋体部2の外表面に到達したときは、エネルギー減衰に応じた分だけ低下したα線となる。その後、蓋体部2の外表面から出射されたα線は、標的Tgに対して照射されることになる。
【0042】
一方で、キャピラリー本体部3の側壁に入射されたα線も、蓋体部2に入射されたα線と同様に側壁を構成する部材(ガラス部材)によるエネルギー減衰を受ける。ここで、本実施例では、側壁の厚さTsは、蓋体部2の厚さTmより若干薄い。しかし、側壁に対してα線は、照射角θで入射されるため、α線の進路方向における側壁の実質的な厚さは、Tsをsinθで除した厚さとなる。中空部4のテーパ形状は、キャピラリー軸とほぼ平行に近い程度のテーパであるため、Tsをsinθで除した厚さは、厚さTmの数百倍程度に至る。そのため、側壁に入射されたα線は、一部が中空部4に戻るとともに残りが側壁内でほぼ完全に減衰してしまい、側壁に接するキャピラリー1の外部には出射されない。そのため、側壁近傍に位置する物(本来の標的ではない物)に対しては、α線によるエネルギー付与は行われないことになり、これは、キャピラリー1によるエネルギー付与の安全性を高める上で非常に重要である。
【0043】
以上をまとめると、本発明に係るキャピラリー1を用いると、キャピラリー1に供給されたα線は、蓋体部2の外表面からのみ標的Tgに対して、α線によるエネルギー付与を行うことになる。即ち、キャピラリー1を用いたエネルギー付与の特徴点の一つとして、
この蓋体部2の外表面からのみα線が標的に対して照射されることである。換言すると、加速器14からキャピラリー1に対して供給されたα線は、途中真空状態に維持された中空部4を経て、内径が1.5μmの蓋体部2から標的に照射される。即ち、キャピラリー1が、α線をその供給源から標的まで、真空状態に維持された中空部4を介して確実に導く。その結果、標的Tgに対して、α線をより確実に照射することが可能となる。
【0044】
次に、中空部4から蓋体部2へ入射し、その後標的Tgに照射されるα線によるエネルギー付与について説明する。蓋体部2に入射したα線はその内部でエネルギー減衰を受け、その後標的Tg内を、α線が有するエネルギーに応じた距離だけ進んでいく。この過程において、α線の線エネルギー付与におけるブラッグピークが出現するとともに、蓋体部2の外表面からα線が止まる位置までの図1中所定距離Leで示される領域(エネルギー付与領域)内において、α線によるエネルギー付与が行われることになる。尚、このブラッグピークの出現位置は、蓋体部2の厚さ等によって、蓋体部2内または標的Tg内で生じる。従って、この所定距離Leで表されるエネルギー付与領域内に標的Tgを配置させることで、特定の標的Tgに対するエネルギー付与が確実に行われる。更には、標的Tg内の特定部位Tgpに対して、ブラッグピークにおけるエネルギー付与を行いたい場合は、特定部位Tgpが、蓋体部2の外表面からブラッグピークが出現する距離だけ離れた位置に位置すればよい。
【0045】
このことから、蓋体部2の厚さによるα線のエネルギー減衰を利用して、所定距離Leで表されるエネルギー付与領域を、蓋体部2の厚さTmを調整することで調整してもよい。例えば、加速器14からα線に与えられたエネルギーが5MeVであるとき、ボロシリケイト製のガラス内でのα線の飛程は20μmである。そこで、蓋体部2の厚さをこの20μmより薄く設定すると、その厚さに応じたエネルギー減衰を受けたα線が蓋体部2の外表面から出射される。そこで、この出射されるα線のエネルギーが、所望するエネルギー付与領域が形成されるように蓋体部2の厚さを調整すればよい。
【0046】
この点を、図2に基づいてより具体的に説明する。図2は、キャピラリー1の蓋体部2の厚さと、距離Leで表されるエネルギー付与領域の関係を示す。図2(a)は蓋体部2の厚さが8μmのキャピラリーに、図2(b)は蓋体部2の厚さが5μmのキャピラリーに、図2(c)は蓋体部2の厚さが1μmのキャピラリーに、それぞれ対応している。ここで、3MeVのα線が蓋体部2に入射したとき、図2(a)の場合は、8μmの厚さに応じたエネルギー減衰を受けた結果、距離Leが3μmで表されるエネルギー付与領域が標的Tg内に形成される。尚、このとき、ブラッグピークは蓋体部2内で迎えているため、標的Tgに対してはブラッグピークにおけるエネルギー付与は為されない。また、図2(b)の場合は、5μmの厚さに応じたエネルギー減衰を受けた結果、距離Leが8μmで表されるエネルギー付与領域が標的Tg内に形成される。尚、このとき、ブラッグピークを蓋体部2の外表面から5μm先の位置で迎えている。更に、図2(c)の場合は、1μmの厚さに応じたエネルギー減衰を受けた結果、距離Leが16μmで表されるエネルギー付与領域が標的Tg内に形成される。尚、このとき、ブラッグピークを蓋体部2の外表面から13μm先の位置で迎えている。
【0047】
このように、蓋体部2の厚さを変えることでエネルギー付与領域を調整することが可能となり、このエネルギー付与領域内にエネルギーが付与されるべき標的Tg内の特定部位Tgp等が位置することで、所望のエネルギー付与が行われることになる。
【0048】
ここで、本発明に係るキャピラリー1は、上述したように、標的Tgの直近まで真空状態を維持した空間内において、α線を導くことが可能である。そして、そのα線は蓋体部2の外表面から直接標的に対して照射される。その結果、空気層によるα線の散乱を受ける可能性が極めて低くなり、距離Leで表されるエネルギー付与領域をより正確にコント
ロールすることが可能である。従って、蓋体部2の厚さTmの調整は、正確なエネルギー付与に大きく寄与し得る。また、このように標的Tgの直近まで真空状態が維持されていることで、エネルギー付与の過程においてブラッグピークが出現しない程度の低エネルギーのα線等の荷電粒子を利用することも可能である。荷電粒子が低エネルギーとなるに従い、エネルギー付与領域の広がりを抑えることが可能となり、以てより正確な荷電粒子によるエネルギー付与が可能となる。
【0049】
ここで、本実施例に係るキャピラリー1の寸法は上述したとおりであるが、標的Tgとして生体の細胞または細胞内器官を想定する場合、上記以外の寸法もキャピラリー1に適用可能である。「理科年表」によると、ヒトの卵細胞の直径は140μm、肝細胞の直径は20〜35μmである。更に、細胞内器官である核、核小体、葉緑体、ゴルジ体の直径や長さは、それぞれ、5〜25μm、1〜4μm、4〜8μm、0.2〜5.5μmである。キャピラリー1のα線の出射口径である中空部4の先端側の内径は、標的Tgの大きさに適合させるのが好ましい。中空部4の先端側の内径が標的に対して過度に大きすぎたり小さすぎたりすると、α線が標的に対して適切に照射されない可能性があるからである。そこで、細胞内器官を標的Tgとするときは、中空部4の先端側の内径を、標的の大きさに応じて0.2μm〜25μmとするのが好ましい。
【0050】
また、後述するように本発明に係るキャピラリー1は、生体の細胞内に挿入してその細胞内器官に対してエネルギー付与を行うことも可能である。このとき、細胞への余計なダメージを抑制するためにキャピラリー1の先端側の内径は、0.08μm〜1μmの範囲内であるのが好ましい。
【0051】
ここで、図3に本発明に係るキャピラリー1の性能確認試験の結果を示す。図3(a)は、性能確認試験のための装置構成を示す図である。性能確認試験では、キャピラリー1の先端部分(α線の出射口である蓋体部2の部分)を覆うように、液体シンチレータ20をキャピラリー1に塗布した。この状態で、キャピラリー1の中空部4内を真空状態として、そこに加速器14からα線を供給した。このとき、蓋体部2の外表面から放出されたα線は、液体シンチレータ内を進み、そのときα線によりエネルギー付与された領域が発光部位EP(図3中の斜線部)となって現れる。そして、発光部位EPのビーム軸に沿った長さLeは、α線の液体シンチレータ20内での飛程および該ビーム軸方向の広がりが反映されでおり、発行部位EPの幅方向の直径Deは、キャピラリー1の内径および幅方向の広がりが反映されている。
【0052】
図3(a)に示す性能確認試験の結果を図3(b)に示す。α線のビームエネルギーが4MeVのとき、α線のビーム軸方向の距離Leが13μm、幅方向の発光部位EPの直径Deが5μmであり、α線のビームエネルギーが3MeVのとき、Leが6μm、Deが4μmである。このように、本発明に係るキャピラリー1を用いると、標的に対して、比較的低い広がりの程度で、α線によるエネルギー付与を行うことが可能となる。
【0053】
ここで、改めて、キャピラリー1を用いた標的Tgへのエネルギー付与を可能とするエネルギー付与装置の全体の構成について、図4に基づいて説明する。キャピラリー1は、真空ポンプ15によって、中空部4内を真空にされた状態で、加速器14からα線の供給を受ける。そのα線が標的Tgに対して照射されるが、この照射に際して、キャピラリー1と標的Tgとの相対位置関係を調整する、調整装置11、12、13が、本発明に係るエネルギー付与装置には設けられている。
【0054】
調整装置11は、キャピラリー1と標的Tgとの相対位置を、Z軸方向に調整する。Z軸方向はα線のビーム軸方向であり、調整装置11によりα線の進行方向に沿った位置調整が可能となる。また、調整装置12は、キャピラリー1と標的Tgとの相対位置を、X
、Y軸方向に調整する。このX、Y軸で構成されるXY面は、Z軸に直交する面であり、調整装置12によりXY面内の二次元の位置調整が可能となる。更に、調整装置13は、調整装置11上に設けられ、Z軸方向とキャピラリー1の軸方向との相対角を調整する。これにより、α線のビームラインをキャピラリー1の出射口である蓋体部2の外表面に垂直な方向に合わせることが可能となり、以て調整装置11、12との連動により、標的に対するエネルギー付与をより正確に行うことが可能となる。尚、本実施例では、調整装置11、12はキャピラリー1側に設けられているが、これに代えて標的Tg側に設けるようにしてもよい。
【0055】
図5に、図4に示すエネルギー付与装置を用いた標的へのα線の照射の、より具体的な例を示す。図5(a)は、標的を細胞自体とするときのα線の照射の様子を示す。このとき、調整装置11、12、13によって、キャピラリー1の蓋体部2の外表面が標的である細胞の外壁(細胞壁)に接触した状態とされた上で、標的に対してα線の照射が行われる。その結果、標的に対して、α線によるエネルギー付与が行われる。この場合、標的である細胞が時間経過とともにその位置を変動させる流動性を有している場合、調整装置11、12、13によって、キャピラリー1の位置を調整することで、キャピラリー1と標的である細胞との相対関係を一定に保って、該細胞に対してエネルギー付与を連続して行うことが可能となる。即ち、調整装置11、12、13は、キャピラリー1を標的である細胞に対して追従させる機能を有する。
【0056】
また、図5(b)には、標的を細胞内器官とするときのα線の照射の様子を示す。この場合、キャピラリー1の先端部(α線の出射口である蓋体部2の外表面を含む)を標的である細胞内に挿入する。細胞内は、一般に水で満たされているが、このようにキャピラリー1の先端部を細胞内に挿入しても、蓋体部2の存在により、標的である細胞内器官の近傍までは、キャピラリー1内に真空状態である中空部4を存在させることが可能となる。これは、標的の近くまでα線を散乱させない状態で運ぶことが可能であることを意味する。従って、図5(b)に示すような場合でも、標的に対してより正確なα線によるエネルギー付与を行うことが可能となる。
【0057】
<キャピラリーの製造工程>
次に、図6および図7A〜図7Kに基づいて、キャピラリー1の製造工程の説明を行う。図6はキャピラリー1の製造工程の流れを示すフローチャートであり、図7A〜図7Kは、該フローチャートに対応した製造のための各処理を示す図である。先ず、S101に示すように、キャピラリー1の基本部分となるキャピラリー本体部を作成する。このステップに対応する図は、図7Aおよび図7Bである。キャピラリー本体部となる細管の作成には、一般のPuller装置を利用する。当該装置は、中空の管状のガラス管30を固定し、その中心部分をヒータで暖めながら引っ張る装置である。この装置によって細く引っ張られたガラス管を、図7A、図7Bに示すように、ヒータによって温度制御が可能なガラス球31を用いてキャピラリー本体部が作成される。
【0058】
細く引き伸ばされたガラス管30は、ガラス球31によって加熱されながらガラス球31に接着させられる。その後、ガラス管30に応力を加えることで、キャピラリー本体部となるガラス管30aが作成される。尚、ガラス管30のうち残りの部分30bについては、キャピラリー1の製造には不要である。このガラス管30aは、その一端が開口している。この開口部の内径が、上述のキャピラリー1の先端側における中空部4の内径に相当する。従って、この内径を所望の値(本実施例においては、この内径が直径で1.5μmである)とする必要がある場合、このガラス管30の切断箇所を適宜選択しなければならない。
【0059】
次に、S102に進み、上記ガラス管30aの開口部に嵌め込まれる蓋体部の作成が行
われる、このステップに対応する図は、図7Cおよび図7Dである。図7Cに示すように、新たなガラス管により作成された新たなキャピラリー32の先端を、ガラス球31によって加熱して、その先端部に開口部が存在しないようにする。その後、図7Dに示すように、キャピラリー32の開口部が存在しない部分32bを、ガラス球31に押し付けてキャピラリー32の本体側32aから切り離す。このとき、ガラス球31に残った部分32bにおいては、キャピラリー本体部となるガラス管30aの開口部径より一回り小さい太さを有する部分(図7D中、角状の部分)が作成される。この角状の部分が、蓋体部となる。
【0060】
次に、S103に進み、S102で作成された蓋体部を、S101で作成されたキャピラリー本体部の開口部に嵌め込む。このステップに対応する図は、図7Eと図7Fである。図7Eに示すように、ガラス球31に貼り付いている部分32の一部である角状の部分を、ガラス管30aの開口部に嵌め込む。そして、この状態に応力を加えて、図7Fに示すように、角状の部分を切り離し、蓋体部30cとしてガラス管30aの中に嵌め込まれた状態とする。この角状の部分の切り離しに際しては、ガラス管30aが折れないように細心の注意を払うとともに、ガラス球31により加熱を行いながら応力を加えるようにしてもよい。
【0061】
次に、S104に進み、蓋体部30cとガラス管30aとの一体化を行う。このステップに対応する図は、図7Gである。この一体化においては、ガラス球31によって、図7Fに示すガラス管30aと蓋体部30cを加熱する。この結果、ガラス管30内に、上記中空部に相当する閉空間30dが形成される。
【0062】
次に、S105に進み、蓋体部30cとガラス管30aが一体化した状態において、ガラス管30aに基準マーク30eを刻印する。このステップに対応する図は、図7Hである。この刻印は、FIB(Focused Ion Beam)装置によって行われ、基準マーク30eが光学顕微鏡でその形状、位置が確認できる大きさになるように為される。尚、基準マーク30eの位置、数、形状は任意でよい。本実施例では、図7Hに示すように、基準マーク30eの数は一個である。
【0063】
次に、S106に進み、上記基準マーク30eを基準として、ガラス管30aに一体化した蓋体部30cの一部を切断して、蓋体部30cの厚さを調整する。このステップに対応する図は、図7I、図7J、図7Kである。先ず、図7Iに示すように、光学顕微鏡を用いて、基準マーク30eと中空部となる閉空間30dの端部の位置との関係を確認する。即ち、この基準マーク30eは、最終的にガラス管30aに残る蓋体部30cの厚さを確認するためのものである。例えば、図7Iで示す場合、基準マーク30eの左端で蓋体部30cを切断すると蓋体部の厚さは10μmとなり、基準マーク30eの右端で蓋体部30cを切断すると蓋体部の厚さは3μmとなる。これは、キャピラリーの微細加工を行う際に用いるFIB装置では、キャピラリーの外観は確認できるが、その内部に存在する中空部(閉空間30d)の位置を確認することはできない。そこで、ガラス管30aを形成するガラス部材は可視光透過性があることを利用して、図7Iに示すように、基準マーク30eと閉空間30dの相対的な位置関係を確認した上で、FIB装置による蓋体部30cの切断を行う(図7Jを参照。)。
【0064】
図7Jには、FIB装置によって蓋体部30cの一部が切断されたガラス管30aが示されている。図7Jの左側の図は、切断後のガラス管30aの側面図を、右側の図は、切断後のガラス管30aを下斜め45度から見た図である。本実施例においては、基準マーク30eの左側端部よりやや右側の部位を、FIB装置によって切断した。この時点で留意しなければならに事は、蓋体部30cの切断によって、ガラス管30aの先端部に過って穴を開けてしまわないことである。
【0065】
その後、図7Kに示すように、再度光学顕微鏡を用いて、切断後のガラス管30aにおいて、蓋体部30cの厚さが所望の厚さとなっているか否かを確認する。本実施例においては、蓋体部30cの厚さが所望の厚さである5μmより若干、厚くなっているので、再びFIB装置によって蓋体部30cの切断が行われる。これを繰り返すことで、所望の厚さを有する蓋体部を持つ、本発明に係るキャピラリーを製造することが可能となる。
【0066】
<キャピラリーのその他の製造工程>
上記のキャピラリーの製造方法に代えて、利用可能な製造方法を以下に示す。本製造方法では、図6に示すS102からS104の処理に代えて、S101で作成された開口部を有するキャピラリー本体部であるガラス管30aに対して、ガラス球31を介して加熱処理を行う。その結果、ガラス管30aを溶融させることで、ガラス管30aの開口部を塞ぐ。この場合、上述したS103での開口部に嵌め込まれる物体が存在しないため、ガラス管30aの開口部を塞ぐに十分な加熱を行う必要がある。尚、ガラス管30aを溶融させることでその開口部を塞ぐ部位は、上記の蓋体部30cと同等の機能を発揮し、上述のS105、S106の処理を行うことで、その厚さがエネルギー付与に適した厚さに調整される。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の実施例に係るエネルギー付与用キャピラリーの構成を示す図である。
【図2】本発明の実施例に係るエネルギー付与用キャピラリーの蓋体部の厚さと、距離Leで表されるエネルギー付与領域の関係を示す図である。
【図3】本発明の実施例に係るエネルギー付与用キャピラリーの性能試験結果を示す図である。
【図4】本発明の実施例に係るエネルギー付与用キャピラリーを用いた、エネルギー付与装置の概略構成を示す図である。
【図5】本発明の実施例に係るエネルギー付与装置を利用して、標的である細胞に対してエネルギー付与を行う際の、エネルギー付与用キャピラリーの位置の調整について説明する図である。
【図6】本発明の実施例に係るエネルギー付与用キャピラリーを製造するための工程の流れを示すフローチャートである。
【図7A】本発明の実施例に係るエネルギー付与用キャピラリーの製造工程において、キャピラリー本体部を作成する工程を説明する第一の図である。
【図7B】本発明の実施例に係るエネルギー付与用キャピラリーの製造工程において、キャピラリー本体部を作成する工程を説明する第二の図である。
【図7C】本発明の実施例に係るエネルギー付与用キャピラリーの製造工程において、蓋体部を作成する工程を説明する第一の図である。
【図7D】本発明の実施例に係るエネルギー付与用キャピラリーの製造工程において、蓋体部を作成する工程を説明する第二の図である。
【図7E】本発明の実施例に係るエネルギー付与用キャピラリーの製造工程において、蓋体部をキャピラリー本体部の開口部に嵌め込む工程を説明する第一の図である。
【図7F】本発明の実施例に係るエネルギー付与用キャピラリーの製造工程において、蓋体部をキャピラリー本体部の開口部に嵌め込む工程を説明する第二の図である。
【図7G】本発明の実施例に係るエネルギー付与用キャピラリーの製造工程において、キャピラリー本体部の開口部に嵌め込まれた蓋体部を一体化させる工程を説明する図である。
【図7H】本発明の実施例に係るエネルギー付与用キャピラリーの製造工程において、ガラス管に基準マークを刻印する工程を説明する図である。
【図7I】本発明の実施例に係るエネルギー付与用キャピラリーの製造工程において、ガラス管に一体化された蓋体部の厚さを調整する工程を説明する第一の図である。
【図7J】本発明の実施例に係るエネルギー付与用キャピラリーの製造工程において、ガラス管に一体化された蓋体部の厚さを調整する工程を説明する第二の図である。
【図7K】本発明の実施例に係るエネルギー付与用キャピラリーの製造工程において、ガラス管に一体化された蓋体部の厚さを調整する工程を説明する第三の図である。
【符号の説明】
【0068】
1・・・・エネルギー付与用キャピラリー
2・・・・蓋体部
3・・・・キャピラリー本体部
4・・・・中空部
11、12、13・・・・調整装置
14・・・・加速器
15・・・・真空ポンプ
30a・・・・ガラス管
30c・・・・蓋体部
30d・・・・閉空間
30e・・・・基準マーク
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子によるエネルギーを標的に付与するためのエネルギー付与用キャピラリーと、それを利用したエネルギー付与装置、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、癌に対する放射線治療において、癌の腫瘍に対して陽子線、α線、重粒子線等の荷電粒子による線エネルギーの付与(LET:Linear Energy Transfer)を行うことで、癌細胞を破壊する治療が行われている。この治療においては、余計な被曝を回避するためにも線エネルギーを患部に正確に与えることが重要であるため、X線吸収部材を用いた被検体の位置決めに関する技術が公開されている(例えば、特許文献1を参照。)。また、癌治療の具体例として、炭素イオン(重粒子線)のブラッグピークが患部に位置するように線エネルギー付与が行われており、患者の余計な被爆を避けるためにも、患部への正確な荷電粒子の照射は必要とされる。
【特許文献1】特開2005−304909号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
生物の細胞内の葉緑体やゴルジ体等の大きさは概ね1μmのオーダーで、それぞれが三次元的にネットワークを形成している。そのため、これらの細胞内器官に対してブラッグピークの広がりを考慮して荷電粒子によるエネルギー付与を行うには、荷電粒子と標的との相対位置関係を、三次元的に1μmのオーダーで制御できるのが好ましい。
【0004】
しかし、従来においては、荷電粒子ビームを生成するための加速器や荷電粒子のビームラインの真空保持、更には標的である細胞のハンドリングを考慮すると、荷電粒子の出射口と標的との間には10mm程度の距離が必要である。この場合、出射口から出射された荷電粒子は空気層により散乱されて、エネルギー付与が為される領域(以下、「エネルギー付与領域」とも言う。)が大きく広がってしまう。例えば、空気中の飛程が8mmの500keVの陽子線の場合、飛程の広がりは半値で300μm程度にもなる。このことは、特定の標的に正確に荷電粒子によるエネルギー付与を行うことを困難とさせ、エネルギー付与の不必要な標的に対してはダメージを与えることを意味する。
【0005】
また、荷電粒子ビームのエネルギーを小さくすることで、出射口と標的との距離を短くし空気層による影響を可及的に小さくすることも可能ではあるが、それでも空気層による散乱を受ける可能性は残り、また標的が人体内部等の深い位置に位置する場合、標的にエネルギーを与えることが困難となる。一方で、荷電粒子ビームのエネルギーが大きくなると、荷電粒子が標的を貫通し、標的の前方だけではなくその後ろの正常な細胞等にダメージを与えてしまう虞がある。
【0006】
本発明では、上記した問題に鑑み、標的に対して、荷電粒子によるエネルギー付与を三次元的に、より正確に行うことを可能とするエネルギー付与用キャピラリーと、それを利用したエネルギー付与装置、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、上記した課題を解決するために、荷電粒子によるエネルギーを標的に付与するためのエネルギー付与用キャピラリーにおいて、荷電粒子が通るために真空状態にされる部位が、可及的に標的に近接した位置にまで到達することが可能となる構造を採用し
た。このようにすることで、標的と荷電粒子の出射口との間に空気層が介在することを回避し、荷電粒子の散乱を抑制して、以てエネルギー付与領域の広がりを抑制することが可能となる。
【0008】
詳細には、本発明は、標的に対し荷電粒子によるエネルギーを付与するためのエネルギー付与用キャピラリーであって、筒状の側壁に囲まれ、キャピラリー軸方向に荷電粒子が通る中空部を有するキャピラリー本体部と、前記キャピラリー本体部の先端部において前記中空部の開放端を塞ぐ蓋体部と、を備え、前記蓋体部によって前記キャピラリー本体部内に閉空間として形成される前記中空部は、真空状態に維持可能であり、前記蓋体部の厚さは、該蓋体部の外表面から所定距離の位置までの領域で、前記標的に対し荷電粒子によるエネルギー付与がなされるように決定されている。
【0009】
また、本発明は、標的に対し荷電粒子によるエネルギーを付与するためのエネルギー付与用キャピラリーであって、筒状の側壁に囲まれ、キャピラリー軸方向に荷電粒子が通る中空部を有するキャピラリー本体部と、前記キャピラリー本体の先端部において前記中空部の開放端を塞ぎ、該中空部を真空状態に維持可能とする蓋体部と、を備えることを特徴とするエネルギー付与用キャピラリーであってもよい。
【0010】
上記のエネルギー付与用キャピラリーにおいては、キャピラリー本体部が有する中空部内を、荷電粒子が通る。ここで、中空部は、その開放端、即ち、中空部内に荷電粒子を供給する端部とは反対側の端部が、蓋体部によって塞がれるため、そこに閉空間が形成される。そして、その閉空間は真空状態となるため、荷電粒子は散乱することなく、蓋体部まで到達することが可能である。そして、その到達した荷電粒子は、蓋体部を通過して、標的が存在するキャピラリー外部へ出射されることになる。即ち、蓋体部の外表面は、荷電粒子の出射口として機能することになる。
【0011】
尚、該出射口の径は、標的の大きさに応じて適宜設定される。即ち、その使用用途において細胞等の極小の標的に対して使用する場合、エネルギー付与用キャピラリーの出射口の径は、荷電粒子を該標的に向けるために、該標的の大きさと同等程度が好ましい。
【0012】
ここで、本発明に係るエネルギー付与用キャピラリーは、上述したように、キャピラリー本体部と蓋体部とで閉空間が形成され、その閉空間が真空状態に維持されることが可能であるため、この蓋体部の外表面を標的に近づけることで、蓋体部から出射された荷電粒子は、空気層から受ける影響を可及的に小さくして標的に照射されることが可能となる。従って、標的の位置や大きさに応じて本発明に係るエネルギー付与用キャピラリーの標的に対する位置を制御することで、荷電粒子を標的の近くまで運ぶことが可能となり、以て荷電粒子によるエネルギー付与を、より正確に行うことが可能となる。
【0013】
換言すると、標的の直近まで荷電粒子の出射口を近づけることが可能となるため、荷電粒子によるエネルギー付与領域を、荷電粒子の出射口である蓋体部の外表面から所定距離の位置までの間に調整して、その領域内に標的を位置させることが容易に行い得る。これにより、より正確に、荷電粒子によるエネルギー付与が可能となる。また、出射口と標的との間の空気層の影響を可及的に排除されるため、比較的低いエネルギーの荷電粒子によっても標的へのエネルギー付与が可能となる。荷電粒子のエネルギーが低くなることで、当然にその飛程は短くなるが、一方でエネルギー付与領域の広がりは抑制される。従って、本発明に係るエネルギー付与用キャピラリーは、低エネルギーの荷電粒子による標的への正確なエネルギー付与に資する。
【0014】
ここで、真空状態とされる閉空間としての中空部では、荷電粒子エネルギーの減衰は生じないが、荷電粒子が蓋体部を通過する際、その蓋体部の材質および蓋体部の厚さ(中空
部側から外表面側までの厚さ)によって荷電粒子のエネルギーは減衰する。この点を踏まえると、蓋体部の厚さを調整することで、蓋体部の外表面から出射される荷電粒子のエネルギーを制御することが可能となる。このことは、荷電粒子のブラッグピークの出現位置を、蓋体部の厚さで制御することが可能であり、更には、荷電粒子の出射口としての蓋体部の外表面から外部に形成されるエネルギー付与領域を、蓋体部の厚さで制御することが可能であることを意味する。そこで、本発明に係るエネルギー付与用キャピラリーでは、蓋体部の厚さは、該蓋体部の外表面から所定距離の位置までの領域で、標的に対し荷電粒子によるエネルギー付与がなされるように決定される。このように蓋体部の厚さが調整されることで、標的に対するエネルギー付与がより正確に行われ得る。
【0015】
上述までのエネルギー付与用キャピラリーにおいて、前記中空部は、前記キャピラリー軸方向において先端部側に進むに従い、該中空部の断面積が小さくなるようにテーパ形状を有するようにしてもよい。
【0016】
即ち、先端部が細くなるようなテーパ形状とすることで、中空部を通る荷電粒子の一部がキャピラリー本体部の側壁内に入射されるため、蓋体部の外表面から出射される荷電粒子の量が少なくなる。これにより、エネルギー付与用キャピラリーから最終的に照射される荷電粒子量を細かく制御することができる。尚、側壁内に入射された荷電粒子は、側壁に対して比較的浅い角度で入射されるので、側壁内で減衰して外部に漏れ出すことは抑制される。
【0017】
この側壁について付言すると、前記筒状の側壁は、荷電粒子の該側壁への入射角度に基づいて、該荷電粒子の該側壁からの漏出防止を可能とする厚さを有するようにしてもよい。即ち、キャピラリー本体部の側壁の厚さは、荷電粒子が側壁側から漏出して、側壁周囲の標的(本来の標的ではない標的)に対しエネルギー付与をするのを防止する程度の厚さであることが好ましい。
【0018】
上述までのエネルギー付与用キャピラリーにおいて、前記キャピラリー本体部と前記蓋体部の材質は、同一の材質であってもよい。キャピラリー本体部と蓋体部とを同一の材質で構成することで、蓋体部によって閉空間として形成される中空部内の真空状態を、より良好に維持することが可能となる。
【0019】
また、上述までのエネルギー付与用キャピラリーにおいて、前記キャピラリー本体の先端側における前記中空部の内径は、直径で0.2μm〜25μmとしてもよい。即ち、エネルギー付与用キャピラリーの荷電粒子の出射口径を規定するものである。標的を細胞内の細胞器官としたとき、その細胞器官の大きさが上記範囲以内に含まれることを考慮すると、出射口径をこのようにすることで、出射口から出射された荷電粒子をより確実に標的に対して照射することが可能となる。
【0020】
また、前記キャピラリー本体の先端側における前記中空部の内径について別の側面から捉えると、その内径を直径で0.08μm〜1μmとしてもよい。本発明に係るエネルギー付与用キャピラリーを生体の細胞へのエネルギー付与のために利用する場合、細胞への無用な損傷を抑えるためには、上記寸法であることが好ましい。
【0021】
ここで、本発明を、上述までのエネルギー付与用キャピラリーを用いて前記標的に荷電粒子によるエネルギーを付与するエネルギー付与装置の側面からも捉えることが可能である。即ち、上記エネルギー付与用キャピラリー用いたエネルギー付与装置であって、前記エネルギー付与用キャピラリーの中空部内を真空状態に保持する真空保持手段と、前記エネルギー付与用キャピラリーに荷電粒子を供給する荷電粒子供給手段と、前記エネルギー付与用キャピラリーからの荷電粒子の照射方向であるZ軸方向において、前記エネルギー
付与用キャピラリーと前記標的との相対位置を調整するZ軸方向位置調整手段と、前記Z軸方向と垂直な面であるXY面において、前記エネルギー付与用キャピラリーと前記標的との相対位置を調整するXY面位置調整手段と、を備える。
【0022】
即ち、本発明に係るエネルギー付与装置は、Z軸方向位置調整手段とXY面位置調整手段によって、エネルギー付与用キャピラリーと標的との相対位置関係を、三次元的に制御することを可能とする。
【0023】
尚、Z軸方向は、換言すると、荷電粒子ビームのビーム軸であるが、このZ軸とキャピラリー軸がずれていると荷電粒子による標的へのエネルギー付与を行うことが困難となる。即ち、Z軸とキャピラリー軸のずれは、標的に対するエネルギー付与領域の相対位置に影響を及ぼす可能性がある。そこで、前記Z軸方向と前記キャピラリー軸方向との相対角を調整するZ軸角調整手段を、更に備えるようにしてもよい。
【0024】
ここで、上記エネルギー付与装置において、前記標的が時間経過とともに前記エネルギー付与用キャピラリーに対する相対位置を変化させるとき、前記Z軸方向位置調整手段および/または前記XY面位置調整手段によって該エネルギー付与用キャピラリーの該標的に対する相対位置を、該標的の動きに追従させる追従手段を、更に備えるようにしてもよい。
【0025】
この追従手段を備えることで、エネルギー付与用キャピラリーと標的との相対位置関係を、荷電粒子によるエネルギー付与に適した状態に維持することが可能となる。これは、標的が流動性のあるもの、即ち時間経過とともにエネルギー付与用キャピラリーに対する相対位置を変化させるものであるとき、特に有用である。
【0026】
ここで、上記エネルギー付与装置において、標的に対して荷電粒子によるエネルギー付与を行う場合、前記エネルギー付与用キャピラリーの蓋体部の外表面と前記標的との間に空気層が介在しない状態で、該標的に対して荷電粒子によるエネルギー付与を行うのが好ましい。このようにすることで、空気層による散乱を回避して、標的に対してより正確にエネルギー付与を行うことが可能となる。
【0027】
また、上記エネルギー付与装置によるエネルギーの付与のより具体的な形態としては、前記標的が生体の細胞である場合、前記Z軸方向位置調整手段および/または前記XY面位置調整手段による位置調整によって、前記エネルギー付与用キャピラリーの蓋体部の外表面が前記細胞の外表部に接触した状態で、または該蓋体部の外表面が該細胞の内部に挿入された状態で、即ち、標的である細胞と外表面との間に空気層が介在しない状態で、該細胞内の所定部位に荷電粒子によるエネルギー付与を行ってもよい。
【0028】
ここで、本発明を上記エネルギー付与用キャピラリーの製造方法の側面からも捉えることが可能である。詳細には、標的に対し荷電粒子によるエネルギーを付与するためのエネルギー付与用キャピラリーを製造する方法であって、管状体を加熱しながら引き伸ばして暫定キャピラリーを作成する第一ステップと、前記第一ステップによって作成された暫定キャピラリーを切断し、所定の内径の開口部を形成する第二ステップと、前記第二ステップによって切断された暫定キャピラリーの前記開口部側を加熱して溶融させて、該開口部を塞ぐ第三ステップと、を備える。
【0029】
第一ステップでは、管状体を引き伸ばすことで、その内径部が上記中空部に相当する暫定キャピラリーが作成される。従って、この暫定キャピラリーとは、上記キャピラリー本体部の基礎となるものである。そして、暫定キャピラリーに対して第二ステップが実行されることで、上記キャピラリー本体部が形成される。ここで、所定の内径とは、最終的に
キャピラリーから荷電粒子が出射される出射口の口径であり、その寸法は標的の大きさ等に応じて適宜設定される。
【0030】
その後、第三ステップで開口部近傍の加熱により開口部が塞がれることで、暫定キャピラリー内の内径部が閉空間となり、そこを真空状態に維持することが可能となる。従って、上記製造方法によって、本発明にかかる上述のエネルギー付与用キャピラリーを製造することが可能となる。
【0031】
更に、上記エネルギー付与用キャピラリーの製造方法において、前記第二ステップで形成された開口部に、該開口部を塞ぐ蓋体を嵌め込む嵌め込みステップを、更に備え、前記第三ステップは、前記嵌め込みステップによって前記蓋体が嵌め込まれた開口部を加熱して溶融させて、該蓋体を該暫定キャピラリーと一体化させることで前記開口部を塞ぐようにしてもよい。この嵌め込みステップで開口部が蓋体で塞がれて、第三ステップで蓋体と暫定キャピラリーとが一体化されることで、上記蓋体部が形成されることになる。この一体化により、暫定キャピラリー内の内径部が閉空間となり、そこを真空状態に維持することが可能となる。
【0032】
ここで上記製造方法において、前記第三ステップで塞がれた開口部を切断し、該塞がれた開口部の厚さを、その外表面から所定距離の位置までの領域で前記標的に対し荷電粒子によるエネルギー付与がなされる厚さとする第四ステップを、更に備えるようにしてもよい。ここで言う所定距離とは、上述の所定距離と同義である。即ち、第四ステップによって蓋体の厚さを調整することで、荷電粒子によるエネルギー付与領域を調整することが可能となり、これは、標的に対してより正確なエネルギー付与を可能とするキャピラリーの製造に資することになる。
【0033】
ここで、前記管状体および前記蓋体は、可視光透過性を有する材質によって形成される場合、前記第四ステップは、前記塞がれた開口部又は前記暫定キャピラリーに基準となる基準マークを付し、光学顕微鏡によって該基準マークと該塞がれた開口部の内表面との位置に基づいて該塞がれた開口部を切断する位置を決定し、該塞がれた開口部の一部を切断するようにしてもよい。管状体および蓋体が可視光透過性を有するため、光学顕微鏡による位置の確認を行いながら蓋体の厚さの調整が可能である。蓋体の内表面は、蓋体の厚さを決定する要素の一つであり、もう一つの要素である蓋体の外表面は、上記基準マークと蓋体の内表面とに基づくことで、蓋体の厚さを所定の厚さとすべく、第四ステップによって、その位置が決定され、蓋体の切断が行われる。
【発明の効果】
【0034】
標的に対して、荷電粒子によるエネルギー付与を三次元的に、より正確に行うことを可能とするエネルギー付与用キャピラリーと、それを利用したエネルギー付与装置、およびその製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
ここで本発明に係るエネルギー付与用キャピラリー、それを利用したエネルギー付与装置、およびその製造方法の実施の形態について図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0036】
図1は、本発明に係るエネルギー付与用キャピラリー(以下、単に「キャピラリー」という。)1の概略構造を示す図である。キャピラリー1は、材質がボロシリケイトによるガラスで構成されている。尚、キャピラリー1の製造方法については後述する。
【0037】
キャピラリー1は、厚さTsの側壁を有する管状のキャピラリー本体部3を有する。こ
のキャピラリー本体部3の中央部分には、中空の中空部4が形成されている。そして、この中空部4の先端側には、該中空部2の開放端を塞ぐように位置する蓋体部2が設けられる。このキャピラリー本体部3と蓋体部2は、最終的には一体化した状態であるが、本実施例においてはその製造工程では、それぞれは当初、別部材により構成され、後に一体化される工程を経る。従って、キャピラリー本体部3の側壁と蓋体部2とによって、中空部4は閉空間に形成される。尚、キャピラリー本体部3の基端側(蓋体部2が設けられた反対側の端部)は、キャピラリー1内を真空状態とする真空ポンプ15やキャピラリー1にα線を供給する加速器14に接続されている(図4参照)。
【0038】
また、蓋体部2の形成については、後述するように、キャピラリー本体部3と蓋体部2とを別部材により構成する以外にも、同一部材で構成する場合もある。このような場合でも、最終的に中空部4は閉空間とされ、その閉空間の先端側の部分が蓋体部2となり、その基端側は加速器14に接続される。
【0039】
更に、キャピラリー1の詳細について説明する。中空部4は、キャピラリー1の軸方向において先端側に進むに従い、その断面積が小さくなるようなテーパ形状を有している。これは、キャピラリー1の製造工程に起因するものである。このように、中空部4が先細りのテーパ形状を有することで、最終的にキャピラリー1に供給されたα線は、蓋体部2を通過して、キャピラリー1の外部に位置する標的Tgに照射されることになる。
【0040】
ここで、本実施例に係るキャピラリー1の寸法について述べると、蓋体部2の内側(中空部4側)の内径は、直径1.5μmであり、蓋体部2の厚さ(内側と外側との間の距離)Tmは、8μmである。更に、キャピラリー本体部3の側壁の厚さTsは、5〜6μmである。これらの寸法は例示に過ぎず、本発明に係るキャピラリーは、この寸法で示されるものに限定されるわけではない。
【0041】
加速器14から供給されたα線は、真空状態に維持された中空部4内を進む。その過程で、一部のα線は蓋体部2まで到達せずにキャピラリー本体部3の側壁に入射され(本実施例では、入射角θで入射されたα線を図1に例示している。)、残りは蓋体部2に入射される(本実施例では、入射角が蓋体部の内側にほぼ垂直に入射しているα線を例示している。)。ここで、蓋体部2に入射されたα線は、蓋体部2を構成する部材(本実施例では、ガラス部材)によるエネルギー減衰を受け、蓋体部2の外表面に到達したときは、エネルギー減衰に応じた分だけ低下したα線となる。その後、蓋体部2の外表面から出射されたα線は、標的Tgに対して照射されることになる。
【0042】
一方で、キャピラリー本体部3の側壁に入射されたα線も、蓋体部2に入射されたα線と同様に側壁を構成する部材(ガラス部材)によるエネルギー減衰を受ける。ここで、本実施例では、側壁の厚さTsは、蓋体部2の厚さTmより若干薄い。しかし、側壁に対してα線は、照射角θで入射されるため、α線の進路方向における側壁の実質的な厚さは、Tsをsinθで除した厚さとなる。中空部4のテーパ形状は、キャピラリー軸とほぼ平行に近い程度のテーパであるため、Tsをsinθで除した厚さは、厚さTmの数百倍程度に至る。そのため、側壁に入射されたα線は、一部が中空部4に戻るとともに残りが側壁内でほぼ完全に減衰してしまい、側壁に接するキャピラリー1の外部には出射されない。そのため、側壁近傍に位置する物(本来の標的ではない物)に対しては、α線によるエネルギー付与は行われないことになり、これは、キャピラリー1によるエネルギー付与の安全性を高める上で非常に重要である。
【0043】
以上をまとめると、本発明に係るキャピラリー1を用いると、キャピラリー1に供給されたα線は、蓋体部2の外表面からのみ標的Tgに対して、α線によるエネルギー付与を行うことになる。即ち、キャピラリー1を用いたエネルギー付与の特徴点の一つとして、
この蓋体部2の外表面からのみα線が標的に対して照射されることである。換言すると、加速器14からキャピラリー1に対して供給されたα線は、途中真空状態に維持された中空部4を経て、内径が1.5μmの蓋体部2から標的に照射される。即ち、キャピラリー1が、α線をその供給源から標的まで、真空状態に維持された中空部4を介して確実に導く。その結果、標的Tgに対して、α線をより確実に照射することが可能となる。
【0044】
次に、中空部4から蓋体部2へ入射し、その後標的Tgに照射されるα線によるエネルギー付与について説明する。蓋体部2に入射したα線はその内部でエネルギー減衰を受け、その後標的Tg内を、α線が有するエネルギーに応じた距離だけ進んでいく。この過程において、α線の線エネルギー付与におけるブラッグピークが出現するとともに、蓋体部2の外表面からα線が止まる位置までの図1中所定距離Leで示される領域(エネルギー付与領域)内において、α線によるエネルギー付与が行われることになる。尚、このブラッグピークの出現位置は、蓋体部2の厚さ等によって、蓋体部2内または標的Tg内で生じる。従って、この所定距離Leで表されるエネルギー付与領域内に標的Tgを配置させることで、特定の標的Tgに対するエネルギー付与が確実に行われる。更には、標的Tg内の特定部位Tgpに対して、ブラッグピークにおけるエネルギー付与を行いたい場合は、特定部位Tgpが、蓋体部2の外表面からブラッグピークが出現する距離だけ離れた位置に位置すればよい。
【0045】
このことから、蓋体部2の厚さによるα線のエネルギー減衰を利用して、所定距離Leで表されるエネルギー付与領域を、蓋体部2の厚さTmを調整することで調整してもよい。例えば、加速器14からα線に与えられたエネルギーが5MeVであるとき、ボロシリケイト製のガラス内でのα線の飛程は20μmである。そこで、蓋体部2の厚さをこの20μmより薄く設定すると、その厚さに応じたエネルギー減衰を受けたα線が蓋体部2の外表面から出射される。そこで、この出射されるα線のエネルギーが、所望するエネルギー付与領域が形成されるように蓋体部2の厚さを調整すればよい。
【0046】
この点を、図2に基づいてより具体的に説明する。図2は、キャピラリー1の蓋体部2の厚さと、距離Leで表されるエネルギー付与領域の関係を示す。図2(a)は蓋体部2の厚さが8μmのキャピラリーに、図2(b)は蓋体部2の厚さが5μmのキャピラリーに、図2(c)は蓋体部2の厚さが1μmのキャピラリーに、それぞれ対応している。ここで、3MeVのα線が蓋体部2に入射したとき、図2(a)の場合は、8μmの厚さに応じたエネルギー減衰を受けた結果、距離Leが3μmで表されるエネルギー付与領域が標的Tg内に形成される。尚、このとき、ブラッグピークは蓋体部2内で迎えているため、標的Tgに対してはブラッグピークにおけるエネルギー付与は為されない。また、図2(b)の場合は、5μmの厚さに応じたエネルギー減衰を受けた結果、距離Leが8μmで表されるエネルギー付与領域が標的Tg内に形成される。尚、このとき、ブラッグピークを蓋体部2の外表面から5μm先の位置で迎えている。更に、図2(c)の場合は、1μmの厚さに応じたエネルギー減衰を受けた結果、距離Leが16μmで表されるエネルギー付与領域が標的Tg内に形成される。尚、このとき、ブラッグピークを蓋体部2の外表面から13μm先の位置で迎えている。
【0047】
このように、蓋体部2の厚さを変えることでエネルギー付与領域を調整することが可能となり、このエネルギー付与領域内にエネルギーが付与されるべき標的Tg内の特定部位Tgp等が位置することで、所望のエネルギー付与が行われることになる。
【0048】
ここで、本発明に係るキャピラリー1は、上述したように、標的Tgの直近まで真空状態を維持した空間内において、α線を導くことが可能である。そして、そのα線は蓋体部2の外表面から直接標的に対して照射される。その結果、空気層によるα線の散乱を受ける可能性が極めて低くなり、距離Leで表されるエネルギー付与領域をより正確にコント
ロールすることが可能である。従って、蓋体部2の厚さTmの調整は、正確なエネルギー付与に大きく寄与し得る。また、このように標的Tgの直近まで真空状態が維持されていることで、エネルギー付与の過程においてブラッグピークが出現しない程度の低エネルギーのα線等の荷電粒子を利用することも可能である。荷電粒子が低エネルギーとなるに従い、エネルギー付与領域の広がりを抑えることが可能となり、以てより正確な荷電粒子によるエネルギー付与が可能となる。
【0049】
ここで、本実施例に係るキャピラリー1の寸法は上述したとおりであるが、標的Tgとして生体の細胞または細胞内器官を想定する場合、上記以外の寸法もキャピラリー1に適用可能である。「理科年表」によると、ヒトの卵細胞の直径は140μm、肝細胞の直径は20〜35μmである。更に、細胞内器官である核、核小体、葉緑体、ゴルジ体の直径や長さは、それぞれ、5〜25μm、1〜4μm、4〜8μm、0.2〜5.5μmである。キャピラリー1のα線の出射口径である中空部4の先端側の内径は、標的Tgの大きさに適合させるのが好ましい。中空部4の先端側の内径が標的に対して過度に大きすぎたり小さすぎたりすると、α線が標的に対して適切に照射されない可能性があるからである。そこで、細胞内器官を標的Tgとするときは、中空部4の先端側の内径を、標的の大きさに応じて0.2μm〜25μmとするのが好ましい。
【0050】
また、後述するように本発明に係るキャピラリー1は、生体の細胞内に挿入してその細胞内器官に対してエネルギー付与を行うことも可能である。このとき、細胞への余計なダメージを抑制するためにキャピラリー1の先端側の内径は、0.08μm〜1μmの範囲内であるのが好ましい。
【0051】
ここで、図3に本発明に係るキャピラリー1の性能確認試験の結果を示す。図3(a)は、性能確認試験のための装置構成を示す図である。性能確認試験では、キャピラリー1の先端部分(α線の出射口である蓋体部2の部分)を覆うように、液体シンチレータ20をキャピラリー1に塗布した。この状態で、キャピラリー1の中空部4内を真空状態として、そこに加速器14からα線を供給した。このとき、蓋体部2の外表面から放出されたα線は、液体シンチレータ内を進み、そのときα線によりエネルギー付与された領域が発光部位EP(図3中の斜線部)となって現れる。そして、発光部位EPのビーム軸に沿った長さLeは、α線の液体シンチレータ20内での飛程および該ビーム軸方向の広がりが反映されでおり、発行部位EPの幅方向の直径Deは、キャピラリー1の内径および幅方向の広がりが反映されている。
【0052】
図3(a)に示す性能確認試験の結果を図3(b)に示す。α線のビームエネルギーが4MeVのとき、α線のビーム軸方向の距離Leが13μm、幅方向の発光部位EPの直径Deが5μmであり、α線のビームエネルギーが3MeVのとき、Leが6μm、Deが4μmである。このように、本発明に係るキャピラリー1を用いると、標的に対して、比較的低い広がりの程度で、α線によるエネルギー付与を行うことが可能となる。
【0053】
ここで、改めて、キャピラリー1を用いた標的Tgへのエネルギー付与を可能とするエネルギー付与装置の全体の構成について、図4に基づいて説明する。キャピラリー1は、真空ポンプ15によって、中空部4内を真空にされた状態で、加速器14からα線の供給を受ける。そのα線が標的Tgに対して照射されるが、この照射に際して、キャピラリー1と標的Tgとの相対位置関係を調整する、調整装置11、12、13が、本発明に係るエネルギー付与装置には設けられている。
【0054】
調整装置11は、キャピラリー1と標的Tgとの相対位置を、Z軸方向に調整する。Z軸方向はα線のビーム軸方向であり、調整装置11によりα線の進行方向に沿った位置調整が可能となる。また、調整装置12は、キャピラリー1と標的Tgとの相対位置を、X
、Y軸方向に調整する。このX、Y軸で構成されるXY面は、Z軸に直交する面であり、調整装置12によりXY面内の二次元の位置調整が可能となる。更に、調整装置13は、調整装置11上に設けられ、Z軸方向とキャピラリー1の軸方向との相対角を調整する。これにより、α線のビームラインをキャピラリー1の出射口である蓋体部2の外表面に垂直な方向に合わせることが可能となり、以て調整装置11、12との連動により、標的に対するエネルギー付与をより正確に行うことが可能となる。尚、本実施例では、調整装置11、12はキャピラリー1側に設けられているが、これに代えて標的Tg側に設けるようにしてもよい。
【0055】
図5に、図4に示すエネルギー付与装置を用いた標的へのα線の照射の、より具体的な例を示す。図5(a)は、標的を細胞自体とするときのα線の照射の様子を示す。このとき、調整装置11、12、13によって、キャピラリー1の蓋体部2の外表面が標的である細胞の外壁(細胞壁)に接触した状態とされた上で、標的に対してα線の照射が行われる。その結果、標的に対して、α線によるエネルギー付与が行われる。この場合、標的である細胞が時間経過とともにその位置を変動させる流動性を有している場合、調整装置11、12、13によって、キャピラリー1の位置を調整することで、キャピラリー1と標的である細胞との相対関係を一定に保って、該細胞に対してエネルギー付与を連続して行うことが可能となる。即ち、調整装置11、12、13は、キャピラリー1を標的である細胞に対して追従させる機能を有する。
【0056】
また、図5(b)には、標的を細胞内器官とするときのα線の照射の様子を示す。この場合、キャピラリー1の先端部(α線の出射口である蓋体部2の外表面を含む)を標的である細胞内に挿入する。細胞内は、一般に水で満たされているが、このようにキャピラリー1の先端部を細胞内に挿入しても、蓋体部2の存在により、標的である細胞内器官の近傍までは、キャピラリー1内に真空状態である中空部4を存在させることが可能となる。これは、標的の近くまでα線を散乱させない状態で運ぶことが可能であることを意味する。従って、図5(b)に示すような場合でも、標的に対してより正確なα線によるエネルギー付与を行うことが可能となる。
【0057】
<キャピラリーの製造工程>
次に、図6および図7A〜図7Kに基づいて、キャピラリー1の製造工程の説明を行う。図6はキャピラリー1の製造工程の流れを示すフローチャートであり、図7A〜図7Kは、該フローチャートに対応した製造のための各処理を示す図である。先ず、S101に示すように、キャピラリー1の基本部分となるキャピラリー本体部を作成する。このステップに対応する図は、図7Aおよび図7Bである。キャピラリー本体部となる細管の作成には、一般のPuller装置を利用する。当該装置は、中空の管状のガラス管30を固定し、その中心部分をヒータで暖めながら引っ張る装置である。この装置によって細く引っ張られたガラス管を、図7A、図7Bに示すように、ヒータによって温度制御が可能なガラス球31を用いてキャピラリー本体部が作成される。
【0058】
細く引き伸ばされたガラス管30は、ガラス球31によって加熱されながらガラス球31に接着させられる。その後、ガラス管30に応力を加えることで、キャピラリー本体部となるガラス管30aが作成される。尚、ガラス管30のうち残りの部分30bについては、キャピラリー1の製造には不要である。このガラス管30aは、その一端が開口している。この開口部の内径が、上述のキャピラリー1の先端側における中空部4の内径に相当する。従って、この内径を所望の値(本実施例においては、この内径が直径で1.5μmである)とする必要がある場合、このガラス管30の切断箇所を適宜選択しなければならない。
【0059】
次に、S102に進み、上記ガラス管30aの開口部に嵌め込まれる蓋体部の作成が行
われる、このステップに対応する図は、図7Cおよび図7Dである。図7Cに示すように、新たなガラス管により作成された新たなキャピラリー32の先端を、ガラス球31によって加熱して、その先端部に開口部が存在しないようにする。その後、図7Dに示すように、キャピラリー32の開口部が存在しない部分32bを、ガラス球31に押し付けてキャピラリー32の本体側32aから切り離す。このとき、ガラス球31に残った部分32bにおいては、キャピラリー本体部となるガラス管30aの開口部径より一回り小さい太さを有する部分(図7D中、角状の部分)が作成される。この角状の部分が、蓋体部となる。
【0060】
次に、S103に進み、S102で作成された蓋体部を、S101で作成されたキャピラリー本体部の開口部に嵌め込む。このステップに対応する図は、図7Eと図7Fである。図7Eに示すように、ガラス球31に貼り付いている部分32の一部である角状の部分を、ガラス管30aの開口部に嵌め込む。そして、この状態に応力を加えて、図7Fに示すように、角状の部分を切り離し、蓋体部30cとしてガラス管30aの中に嵌め込まれた状態とする。この角状の部分の切り離しに際しては、ガラス管30aが折れないように細心の注意を払うとともに、ガラス球31により加熱を行いながら応力を加えるようにしてもよい。
【0061】
次に、S104に進み、蓋体部30cとガラス管30aとの一体化を行う。このステップに対応する図は、図7Gである。この一体化においては、ガラス球31によって、図7Fに示すガラス管30aと蓋体部30cを加熱する。この結果、ガラス管30内に、上記中空部に相当する閉空間30dが形成される。
【0062】
次に、S105に進み、蓋体部30cとガラス管30aが一体化した状態において、ガラス管30aに基準マーク30eを刻印する。このステップに対応する図は、図7Hである。この刻印は、FIB(Focused Ion Beam)装置によって行われ、基準マーク30eが光学顕微鏡でその形状、位置が確認できる大きさになるように為される。尚、基準マーク30eの位置、数、形状は任意でよい。本実施例では、図7Hに示すように、基準マーク30eの数は一個である。
【0063】
次に、S106に進み、上記基準マーク30eを基準として、ガラス管30aに一体化した蓋体部30cの一部を切断して、蓋体部30cの厚さを調整する。このステップに対応する図は、図7I、図7J、図7Kである。先ず、図7Iに示すように、光学顕微鏡を用いて、基準マーク30eと中空部となる閉空間30dの端部の位置との関係を確認する。即ち、この基準マーク30eは、最終的にガラス管30aに残る蓋体部30cの厚さを確認するためのものである。例えば、図7Iで示す場合、基準マーク30eの左端で蓋体部30cを切断すると蓋体部の厚さは10μmとなり、基準マーク30eの右端で蓋体部30cを切断すると蓋体部の厚さは3μmとなる。これは、キャピラリーの微細加工を行う際に用いるFIB装置では、キャピラリーの外観は確認できるが、その内部に存在する中空部(閉空間30d)の位置を確認することはできない。そこで、ガラス管30aを形成するガラス部材は可視光透過性があることを利用して、図7Iに示すように、基準マーク30eと閉空間30dの相対的な位置関係を確認した上で、FIB装置による蓋体部30cの切断を行う(図7Jを参照。)。
【0064】
図7Jには、FIB装置によって蓋体部30cの一部が切断されたガラス管30aが示されている。図7Jの左側の図は、切断後のガラス管30aの側面図を、右側の図は、切断後のガラス管30aを下斜め45度から見た図である。本実施例においては、基準マーク30eの左側端部よりやや右側の部位を、FIB装置によって切断した。この時点で留意しなければならに事は、蓋体部30cの切断によって、ガラス管30aの先端部に過って穴を開けてしまわないことである。
【0065】
その後、図7Kに示すように、再度光学顕微鏡を用いて、切断後のガラス管30aにおいて、蓋体部30cの厚さが所望の厚さとなっているか否かを確認する。本実施例においては、蓋体部30cの厚さが所望の厚さである5μmより若干、厚くなっているので、再びFIB装置によって蓋体部30cの切断が行われる。これを繰り返すことで、所望の厚さを有する蓋体部を持つ、本発明に係るキャピラリーを製造することが可能となる。
【0066】
<キャピラリーのその他の製造工程>
上記のキャピラリーの製造方法に代えて、利用可能な製造方法を以下に示す。本製造方法では、図6に示すS102からS104の処理に代えて、S101で作成された開口部を有するキャピラリー本体部であるガラス管30aに対して、ガラス球31を介して加熱処理を行う。その結果、ガラス管30aを溶融させることで、ガラス管30aの開口部を塞ぐ。この場合、上述したS103での開口部に嵌め込まれる物体が存在しないため、ガラス管30aの開口部を塞ぐに十分な加熱を行う必要がある。尚、ガラス管30aを溶融させることでその開口部を塞ぐ部位は、上記の蓋体部30cと同等の機能を発揮し、上述のS105、S106の処理を行うことで、その厚さがエネルギー付与に適した厚さに調整される。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の実施例に係るエネルギー付与用キャピラリーの構成を示す図である。
【図2】本発明の実施例に係るエネルギー付与用キャピラリーの蓋体部の厚さと、距離Leで表されるエネルギー付与領域の関係を示す図である。
【図3】本発明の実施例に係るエネルギー付与用キャピラリーの性能試験結果を示す図である。
【図4】本発明の実施例に係るエネルギー付与用キャピラリーを用いた、エネルギー付与装置の概略構成を示す図である。
【図5】本発明の実施例に係るエネルギー付与装置を利用して、標的である細胞に対してエネルギー付与を行う際の、エネルギー付与用キャピラリーの位置の調整について説明する図である。
【図6】本発明の実施例に係るエネルギー付与用キャピラリーを製造するための工程の流れを示すフローチャートである。
【図7A】本発明の実施例に係るエネルギー付与用キャピラリーの製造工程において、キャピラリー本体部を作成する工程を説明する第一の図である。
【図7B】本発明の実施例に係るエネルギー付与用キャピラリーの製造工程において、キャピラリー本体部を作成する工程を説明する第二の図である。
【図7C】本発明の実施例に係るエネルギー付与用キャピラリーの製造工程において、蓋体部を作成する工程を説明する第一の図である。
【図7D】本発明の実施例に係るエネルギー付与用キャピラリーの製造工程において、蓋体部を作成する工程を説明する第二の図である。
【図7E】本発明の実施例に係るエネルギー付与用キャピラリーの製造工程において、蓋体部をキャピラリー本体部の開口部に嵌め込む工程を説明する第一の図である。
【図7F】本発明の実施例に係るエネルギー付与用キャピラリーの製造工程において、蓋体部をキャピラリー本体部の開口部に嵌め込む工程を説明する第二の図である。
【図7G】本発明の実施例に係るエネルギー付与用キャピラリーの製造工程において、キャピラリー本体部の開口部に嵌め込まれた蓋体部を一体化させる工程を説明する図である。
【図7H】本発明の実施例に係るエネルギー付与用キャピラリーの製造工程において、ガラス管に基準マークを刻印する工程を説明する図である。
【図7I】本発明の実施例に係るエネルギー付与用キャピラリーの製造工程において、ガラス管に一体化された蓋体部の厚さを調整する工程を説明する第一の図である。
【図7J】本発明の実施例に係るエネルギー付与用キャピラリーの製造工程において、ガラス管に一体化された蓋体部の厚さを調整する工程を説明する第二の図である。
【図7K】本発明の実施例に係るエネルギー付与用キャピラリーの製造工程において、ガラス管に一体化された蓋体部の厚さを調整する工程を説明する第三の図である。
【符号の説明】
【0068】
1・・・・エネルギー付与用キャピラリー
2・・・・蓋体部
3・・・・キャピラリー本体部
4・・・・中空部
11、12、13・・・・調整装置
14・・・・加速器
15・・・・真空ポンプ
30a・・・・ガラス管
30c・・・・蓋体部
30d・・・・閉空間
30e・・・・基準マーク
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的に対し荷電粒子によるエネルギーを付与するためのエネルギー付与用キャピラリーであって、
筒状の側壁に囲まれ、キャピラリー軸方向に荷電粒子が通る中空部を有するキャピラリー本体部と、
前記キャピラリー本体部の先端部において前記中空部の開放端を塞ぐ蓋体部と、を備え、
前記蓋体部によって前記キャピラリー本体部内に閉空間として形成される前記中空部は、真空状態に維持可能であり、
前記蓋体部の厚さは、該蓋体部の外表面から所定距離の位置までの領域で、前記標的に対し荷電粒子によるエネルギー付与がなされるように決定されている
ことを特徴とするエネルギー付与用キャピラリー。
【請求項2】
標的に対し荷電粒子によるエネルギーを付与するためのエネルギー付与用キャピラリーであって、
筒状の側壁に囲まれ、キャピラリー軸方向に荷電粒子が通る中空部を有するキャピラリー本体部と、
前記キャピラリー本体の先端部において前記中空部の開放端を塞ぎ、該中空部を真空状態に維持可能とする蓋体部と、
を備えることを特徴とするエネルギー付与用キャピラリー。
【請求項3】
前記中空部は、前記キャピラリー軸方向において先端部側に進むに従い、該中空部の断面積が小さくなるようにテーパ形状を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエネルギー付与用キャピラリー。
【請求項4】
前記筒状の側壁は、荷電粒子の該側壁への入射角度に基づいて、該荷電粒子の該側壁からの漏出防止を可能とする厚さを有することを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載のエネルギー付与用キャピラリー。
【請求項5】
前記キャピラリー本体部と前記蓋体部の材質は、同一の材質であることを特徴とする請求項1から請求項4の何れかに記載のエネルギー付与用キャピラリー。
【請求項6】
前記キャピラリー本体の先端側における前記中空部の内径は、直径で0.2μm〜25μmであることを特徴とする請求項1から請求項5の何れかに記載のエネルギー付与用キャピラリー。
【請求項7】
前記キャピラリー本体の先端側における前記中空部の内径は、直径で0.08μm〜1μmであることを特徴とする請求項1から請求項5の何れかに記載のエネルギー付与用キャピラリー。
【請求項8】
請求項1から請求項7の何れかに記載のエネルギー付与用キャピラリーを用いて前記標的に荷電粒子によるエネルギーを付与するエネルギー付与装置であって、
前記エネルギー付与用キャピラリーの中空部内を真空状態に保持する真空保持手段と、
前記エネルギー付与用キャピラリーに荷電粒子を供給する荷電粒子供給手段と、
前記エネルギー付与用キャピラリーからの荷電粒子の照射方向であるZ軸方向において、前記エネルギー付与用キャピラリーと前記標的との相対位置を調整するZ軸方向位置調整手段と、
前記Z軸方向と垂直な面であるXY面において、前記エネルギー付与用キャピラリーと前記標的との相対位置を調整するXY面位置調整手段と、
を備えることを特徴とするエネルギー付与装置。
【請求項9】
前記Z軸方向と前記キャピラリー軸方向との相対角を調整するZ軸角調整手段を、更に備えることを特徴とする請求項8に記載のエネルギー付与装置。
【請求項10】
前記標的が時間経過とともに前記エネルギー付与用キャピラリーに対する相対位置を変化させるとき、前記Z軸方向位置調整手段および/または前記XY面位置調整手段によって該エネルギー付与用キャピラリーの該標的に対する相対位置を、該標的の動きに追従させる追従手段を、更に備えることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載のエネルギー付与装置。
【請求項11】
前記エネルギー付与用キャピラリーの蓋体部の外表面と前記標的との間に空気層が介在しない状態で、該標的に対して荷電粒子によるエネルギー付与を行う請求項8から請求項10の何れかに記載のエネルギー付与装置。
【請求項12】
前記標的は、生体の細胞であって、
前記Z軸方向位置調整手段および/または前記XY面位置調整手段による位置調整によって、前記エネルギー付与用キャピラリーの蓋体部の外表面が前記細胞の外表部に接触した状態で、または該蓋体部の外表面が該細胞の内部に挿入された状態で、該細胞内の所定部位に荷電粒子によるエネルギー付与を行うことを特徴とする請求項8から請求項10の何れかに記載のエネルギー付与装置。
【請求項13】
標的に対し荷電粒子によるエネルギーを付与するためのエネルギー付与用キャピラリーを製造する方法であって、
管状体を加熱しながら引き伸ばして暫定キャピラリーを作成する第一ステップと、
前記第一ステップによって作成された暫定キャピラリーを切断し、所定の内径の開口部を形成する第二ステップと、
前記第二ステップによって切断された暫定キャピラリーの前記開口部側を加熱して溶融させて、該開口部を塞ぐ第三ステップと、
を備えることを特徴とするエネルギー付与用キャピラリーの製造方法。
【請求項14】
前記第二ステップで形成された開口部に、該開口部を塞ぐ蓋体を嵌め込む嵌め込みステップを、更に備え、
前記第三ステップは、前記嵌め込みステップによって前記蓋体が嵌め込まれた開口部を加熱して溶融させて、該蓋体を該暫定キャピラリーと一体化させることで前記開口部を塞ぐことを特徴とする請求項13に記載のエネルギー付与用キャピラリーの製造方法。
【請求項15】
前記第三ステップで塞がれた開口部を切断し、該塞がれた開口部の厚さを、その外表面から所定距離の位置までの領域で前記標的に対し荷電粒子によるエネルギー付与がなされる厚さとする第四ステップを、更に備えることを特徴とする請求項13又は請求項14に記載のエネルギー付与用キャピラリーの製造方法。
【請求項16】
前記管状体および前記蓋体は、可視光透過性を有する材質によって形成され、
前記第四ステップは、前記塞がれた開口部又は前記暫定キャピラリーに基準となる基準マークを付し、光学顕微鏡によって該基準マークと該塞がれた開口部の内表面との位置に基づいて該塞がれた開口部を切断する位置を決定し、該該塞がれた開口部の一部を切断することを特徴とする請求項15に記載のエネルギー付与用キャピラリーの製造方法。
【請求項1】
標的に対し荷電粒子によるエネルギーを付与するためのエネルギー付与用キャピラリーであって、
筒状の側壁に囲まれ、キャピラリー軸方向に荷電粒子が通る中空部を有するキャピラリー本体部と、
前記キャピラリー本体部の先端部において前記中空部の開放端を塞ぐ蓋体部と、を備え、
前記蓋体部によって前記キャピラリー本体部内に閉空間として形成される前記中空部は、真空状態に維持可能であり、
前記蓋体部の厚さは、該蓋体部の外表面から所定距離の位置までの領域で、前記標的に対し荷電粒子によるエネルギー付与がなされるように決定されている
ことを特徴とするエネルギー付与用キャピラリー。
【請求項2】
標的に対し荷電粒子によるエネルギーを付与するためのエネルギー付与用キャピラリーであって、
筒状の側壁に囲まれ、キャピラリー軸方向に荷電粒子が通る中空部を有するキャピラリー本体部と、
前記キャピラリー本体の先端部において前記中空部の開放端を塞ぎ、該中空部を真空状態に維持可能とする蓋体部と、
を備えることを特徴とするエネルギー付与用キャピラリー。
【請求項3】
前記中空部は、前記キャピラリー軸方向において先端部側に進むに従い、該中空部の断面積が小さくなるようにテーパ形状を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエネルギー付与用キャピラリー。
【請求項4】
前記筒状の側壁は、荷電粒子の該側壁への入射角度に基づいて、該荷電粒子の該側壁からの漏出防止を可能とする厚さを有することを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載のエネルギー付与用キャピラリー。
【請求項5】
前記キャピラリー本体部と前記蓋体部の材質は、同一の材質であることを特徴とする請求項1から請求項4の何れかに記載のエネルギー付与用キャピラリー。
【請求項6】
前記キャピラリー本体の先端側における前記中空部の内径は、直径で0.2μm〜25μmであることを特徴とする請求項1から請求項5の何れかに記載のエネルギー付与用キャピラリー。
【請求項7】
前記キャピラリー本体の先端側における前記中空部の内径は、直径で0.08μm〜1μmであることを特徴とする請求項1から請求項5の何れかに記載のエネルギー付与用キャピラリー。
【請求項8】
請求項1から請求項7の何れかに記載のエネルギー付与用キャピラリーを用いて前記標的に荷電粒子によるエネルギーを付与するエネルギー付与装置であって、
前記エネルギー付与用キャピラリーの中空部内を真空状態に保持する真空保持手段と、
前記エネルギー付与用キャピラリーに荷電粒子を供給する荷電粒子供給手段と、
前記エネルギー付与用キャピラリーからの荷電粒子の照射方向であるZ軸方向において、前記エネルギー付与用キャピラリーと前記標的との相対位置を調整するZ軸方向位置調整手段と、
前記Z軸方向と垂直な面であるXY面において、前記エネルギー付与用キャピラリーと前記標的との相対位置を調整するXY面位置調整手段と、
を備えることを特徴とするエネルギー付与装置。
【請求項9】
前記Z軸方向と前記キャピラリー軸方向との相対角を調整するZ軸角調整手段を、更に備えることを特徴とする請求項8に記載のエネルギー付与装置。
【請求項10】
前記標的が時間経過とともに前記エネルギー付与用キャピラリーに対する相対位置を変化させるとき、前記Z軸方向位置調整手段および/または前記XY面位置調整手段によって該エネルギー付与用キャピラリーの該標的に対する相対位置を、該標的の動きに追従させる追従手段を、更に備えることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載のエネルギー付与装置。
【請求項11】
前記エネルギー付与用キャピラリーの蓋体部の外表面と前記標的との間に空気層が介在しない状態で、該標的に対して荷電粒子によるエネルギー付与を行う請求項8から請求項10の何れかに記載のエネルギー付与装置。
【請求項12】
前記標的は、生体の細胞であって、
前記Z軸方向位置調整手段および/または前記XY面位置調整手段による位置調整によって、前記エネルギー付与用キャピラリーの蓋体部の外表面が前記細胞の外表部に接触した状態で、または該蓋体部の外表面が該細胞の内部に挿入された状態で、該細胞内の所定部位に荷電粒子によるエネルギー付与を行うことを特徴とする請求項8から請求項10の何れかに記載のエネルギー付与装置。
【請求項13】
標的に対し荷電粒子によるエネルギーを付与するためのエネルギー付与用キャピラリーを製造する方法であって、
管状体を加熱しながら引き伸ばして暫定キャピラリーを作成する第一ステップと、
前記第一ステップによって作成された暫定キャピラリーを切断し、所定の内径の開口部を形成する第二ステップと、
前記第二ステップによって切断された暫定キャピラリーの前記開口部側を加熱して溶融させて、該開口部を塞ぐ第三ステップと、
を備えることを特徴とするエネルギー付与用キャピラリーの製造方法。
【請求項14】
前記第二ステップで形成された開口部に、該開口部を塞ぐ蓋体を嵌め込む嵌め込みステップを、更に備え、
前記第三ステップは、前記嵌め込みステップによって前記蓋体が嵌め込まれた開口部を加熱して溶融させて、該蓋体を該暫定キャピラリーと一体化させることで前記開口部を塞ぐことを特徴とする請求項13に記載のエネルギー付与用キャピラリーの製造方法。
【請求項15】
前記第三ステップで塞がれた開口部を切断し、該塞がれた開口部の厚さを、その外表面から所定距離の位置までの領域で前記標的に対し荷電粒子によるエネルギー付与がなされる厚さとする第四ステップを、更に備えることを特徴とする請求項13又は請求項14に記載のエネルギー付与用キャピラリーの製造方法。
【請求項16】
前記管状体および前記蓋体は、可視光透過性を有する材質によって形成され、
前記第四ステップは、前記塞がれた開口部又は前記暫定キャピラリーに基準となる基準マークを付し、光学顕微鏡によって該基準マークと該塞がれた開口部の内表面との位置に基づいて該塞がれた開口部を切断する位置を決定し、該該塞がれた開口部の一部を切断することを特徴とする請求項15に記載のエネルギー付与用キャピラリーの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図7E】
【図7F】
【図7G】
【図7H】
【図7I】
【図7J】
【図7K】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図7E】
【図7F】
【図7G】
【図7H】
【図7I】
【図7J】
【図7K】
【公開番号】特開2008−22991(P2008−22991A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−197291(P2006−197291)
【出願日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】
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