説明

エネルギー代謝亢進剤

【課題】発芽玄米に含有されるステロール配糖体に着目し、その新しい作用機序について、明らかにする。
【解決手段】発芽玄米由来のステロール配糖体を有効成分とするエネルギー代謝亢進剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー代謝亢進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満は万病の元と謂われるように防止することが重要である。とくに、肥満のひとつとして、近年メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)が健康を害する指標として注目されている。メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)は、内臓脂肪型肥満に加えて、高血糖、高血圧、脂質異常のうちいずれか2つ以上をあわせもった状態をいう。内臓脂肪が過剰にたまっていると、糖尿病や高血圧症、高脂血症といった生活習慣病を併発しやすくなってしまう。しかも、「血糖値がちょっと高め」「血圧がちょっと高め」といった、まだ病気とは診断されない予備群でも、併発することで、動脈硬化が急速に進行する。
経済の高度成長期を境に食が豊かになると、感染症や脳卒中は減少したものの、逆に肥満、高血圧、脂質異常症、糖尿病に罹る割合が激増し、これら疾患がもたらす心筋梗塞、脳梗塞などといった重篤な心血管系疾患が、死因の上位を占める構造に変化した。特に内臓脂肪蓄積型肥満をきっかけにした心血管系疾患は働き盛りの世代で発症し、最悪の場合死亡することもあり、命を取りとめることができても重度の障害をもたらし、生活に不自由を強いられる場合がある。少子高齢化といわれるなか、働き盛りの世代の生命に危機がもたらさせることは、社会にとって大きな損失と問題視されており、代謝障害から発展する慢性疾病予防の有効な手段が希求されており、医学、栄養学、農学の様々な分野の研究者がその課題解決に取り組んでいるが、複数の代謝障害を解決する有効な手段は発見されていない。糖尿病は、様々な疾病を引き起こす。糖尿病の対処及び予防として血糖値の上昇を抑え、コントロールする対策が取られている。
また、運動不足は、過食と並ぶエネルギー代謝異常の主要要因である。一方、習慣的な運動はインスリン感受性を高め、血中の糖・脂質プロファイルに様々な好影響を与える。運動は、骨格筋におけるグルコースの取り込みや脂肪酸の燃焼を促進することによって、直接的に糖尿病や高脂質症を改善する。また、肥満(特に、内臓肥満)に伴う脂肪毒性を解除してインスリン抵抗性を改善することも、よく知られた運動の効用である。
【0003】
本出願人、本発明者等は、発芽玄米に着目して、研究開発を続けており、発芽玄米そのものの開発及び発芽玄米に含まれている成分の機能に関する発明など多数の提案をしている。機能成分に着目した提案として、例えば、特許文献1(特開2008−266326号公報)は、発芽玄米全脂質画分を有効成分とする神経障害若しくは糖尿病性神経障害予防若しくは改善剤を提案している。特許文献2(特開2006−316018号公報)は、発芽玄米の糠から抽出したアリラトースBを含有するグルココルチコイド受容体拮抗剤、アドレナリンβ3受容体作動剤が提案されている。特許文献3(特開2006−316016号公報)は、発芽玄米の糠から抽出した特定の化学構造のリゾホスファチジルコリンを含有するインスリン受容体作動剤が提案されている。
エネルギー代謝改善に関して特許文献4(特開2006−223224号公報)、特許文献5(特開2007−161638号公報)、特許文献6(特開2004−149494号公報)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−266326号公報
【特許文献2】特開2006−316018号公報
【特許文献3】特開2006−316016号公報
【特許文献4】特開2006−223224号公報
【特許文献5】特開2007−161638号公報
【特許文献6】特開2004−149494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、発芽玄米に含有されるステロール配糖体画分に着目し、その新しい作用機序について、明らかにすることを本発明の課題とする。特に、エネルギー代謝亢進作用について明らかにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明の主な構成は、次のとおりである。
1.発芽玄米糠由来のステロール配糖体を有効成分とするエネルギー代謝亢進剤。
2. 1.に記載されたエネルギー代謝亢進剤を含有する飲食品(発芽玄米を除く)。
3. 1.に記載されたエネルギー代謝亢進を含有するペットフード(発芽玄米を除く)。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、発芽玄米由来のステロール配糖体にエネルギー代謝亢進作用があることを明らかにした。この発芽玄米由来のステロール配糖体を医薬、飲食品等の形態で摂取することにより、エネルギー代謝亢進を図ることができる。これは、ペット用としても活用できる。発芽玄米由来であるので、安全性が高く、ごくわずかの摂取量でエネルギー代謝亢進作用を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】呼気分析(酸素消費量)
【図2】自発運動量比較グラフ
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に使用する発芽玄米から抽出されたステロール配糖体画分(以下「ASG」と称する場合がある)は、発芽玄米から得た糠をヘキサンで中性脂質を除去し、得られた残渣をさらに有機溶媒にて抽出した脂質画分に含まれ、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分離・濃縮することが出来る。
本発明は、この発芽玄米由来のステロール配糖体を有効成分とするエネルギー代謝亢進剤である。摂取方法は、経口、注射により行うことができ、医薬、飲食品、食品添加剤、ペット用の医薬剤、ペット用飼料の添加剤として活用することができる。通常食用にしている発芽玄米由来の成分であるので、安全性が高い。
ASGは、発芽玄米の糠成分から極微量抽出される成分であるので、ASGを医薬あるいは飲食品、ペット用医薬や飼料に応用する場合は、抽出されたASGそのものを使用するのであって、発芽玄米そのものあるいは発芽玄米の粉末などASGを抽出する前の状態で使用することは想定されていない。
【0010】
本発明は、エネルギー代謝亢進剤、 食品添加物、食品およびペットフード、動物用医薬として利用することができる。剤型は、公知の方法により助剤とともに任意の形態に製剤化して、経口摂取(投与)することができる。カプセル剤又は錠剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、液状として摂取(投与)できる。
摂取(投与)量は、摂取(投与)方法と、対象者の年齢、病状や一般状態等によって変化し得るが、動物試験の結果より成人では体重1kg当たり通常、1日当たり有効成分として0.4〜600mgが適当である。
【0011】
本発明のエネルギー代謝亢進剤は、一般食品や健康食品に配合することができ、また、食品添加物の成分とすることもできる。配合する食品は特に限定されず、例えば食パン、菓子パン、パイ、デニッシュ、ドーナツ、ケーキ等のベーカリー食品、うどん、そば、中華麺、焼きそば、パスタ等の麺類、天ぷら、コロッケ等のフライ類、カレー、シチュー、ドレッシング等のソース類、ふりかけ類、かまぼこ等の練り製品、ジュース等の飲料、スナック菓子、米菓、飴、ガム等の菓子類を挙げることができる。
ペットには、犬、猫、ハムスター、リス等の哺乳類の飼料として適している。本発明のペットフードの形態は特に限定されるものではなく、例えばドライタイプ、ウェットタイプ、セミモイストタイプ、ビスケットタイプ、ソーセージタイプ、ジャーキータイプ、粉末、顆粒、カプセルなどが挙げられる。
【0012】
<発芽玄米由来のステロール配糖体>
1.糠成分を採取する発芽玄米は、公知の方法により調製することができる。本出願人は、発芽玄米について多数の提案をしており、例えば、特許第3423927号公報、特許第3611804号公報、特許第3738025号公報等に開示された発芽玄米の製法によって得ることができる。
発芽玄米を5〜15%程度搗精して糠成分を採取する。この糠成分を最初に、ヘキサンにて脱脂する。この脱脂工程は、一般の糠を脱脂して米糠油を採取する方法と同様である。本発明では、この脱脂糠を原料として、さらに、有機溶媒をもちいてステロール配糖体画分を抽出する。
【0013】
2.本出願人は、先に、発芽玄米から抽出した式(1)に示すステロール配糖体を特願2008−56730号として提案した。本願発明で使用するASGは、このステロール配糖体を含んでいることが判明している。このステロール配糖体をASGと略称する。このASGは、神経障害予防及び改善作用があることを解明した。
【0014】
【化1】

(i) 一般式(1)中のXは以下の群から選択され、かつ、Yは5α-cholest-8(14)-en3β-olである
パルミチン酸(16:0)、
ステアリン酸(18:0)、
2-ヒドロキシ-オクタデカン酸(18:0 (2h))、
オレイン酸(18:1)、
リノール酸(18:2)、又は、
リグノセリン酸(24:0)
(ii) 一般式(1)中のXは2-ヒドロキシ-オクタデカン酸(18:0 (2h))であり、かつ、Yは以下の群から選択される
Campesterol、
Stigmasterol、
5α-cholest-8(14)-en-3β-ol、又は、
β-Sitosterol

【0015】
[C57BL/6j マウスを用いた評価]
発芽玄米に含有されるステロール配糖体画分(ASG)に着目し、高脂肪食をマウスに投与し、エネルギー代謝への影響について検討した。
【0016】
<ASGの調製例>
発芽玄米糠をヘキサンで脂質成分中の中性脂質を除去後、それぞれの残渣につき、ヘキサン、クロロホルム及びメタノールを用いてASGの粗抽出液を調製した。このASG粗抽出液からクロロホルム:メタノール(2:1)混合液で抽出し、シリカゲル担体カラムクロマトグラフィーによって、ASGの調製を行った。
試験に用いたASGの抽出は発芽玄米約2,000kgを搗精して得られた糠200kg(搗精度10%)を用いて行った。
米糠(500g)が浸る量のヘキサンを加え十分に撹拌した後ガーゼでろ過を行い、脱脂糠を得た。その後、ヘキサンを揮発させた脱脂糠を1.5 kgに対してクロロホルム:メタノール2:1を(3L)加えて総脂質画分を抽出し、抽出液をエバポレーターで乾固させ乾固物を得た。
【0017】
乾固物は300mlのクロロホルム:ヘキサン=1:1に溶解し、クロロホルムで膨潤させた直径 10cm×長さ 100cm (メルク社製シリカゲル60を80cm充填)のカラムに全溶解液をアプライした。溶液がイアトロビーズに全てしみ込んだ後、クロロホルム:ヘキサン=1:1(7,840ml)、クロロホルム(20,160ml)、クロロホルム:メタノール=9:1(10,080ml)の順でそれぞれを通液した。クロロホルム:メタノール=9:1の通液により分離した暗緑色の溶液だけを全て採取した。
採取した暗緑色の溶液はエバポレーターで乾固させ試験に供した。表1に各ポイントでの収量を示す。
【0018】
【表1】

【0019】
[ASG分析]
抽出したASGの分析は以下の条件で行った。この分析の結果、最終乾固物には、ASGが72.6%含まれていることが判明した。
分析条件
検出器 :CoronaTM CADTM Charged Aerosol Detector
カラム :LiChrospher Si 60(5μm,125×4mm i.d.,Merck)
カラム温度:40度
流 速 :1mL/min.
注入量 :10μL
サンプル溶媒:クロロホルム:メタノール(2:1,vol/vol)
検量線濃度 :10,20,40,60及び80μg/mL
移動相、グラジェント条件(表2参照)

【0020】
【表2】

【0021】
[動物試験・飼料]
試験には7週齢の雄性C57BL/6j マウスを用いた。被験飼料は、上述の方法で分取したASGを30%脂肪食に0.079%及び0.794%を添加し、重量調整はいずれもβスターチで行った。
被験飼料の組成を表3に示す。
【0022】
【表3】

【0023】
[投与・試料採取]
群分けは、高脂肪飼料を4週間自由摂取させ肥満モデルとした後、各群の平均体重に差がないよう無作為に3群(高脂肪飼料群、低ASG飼料群及び高ASG飼料群)に振り分け実施した。飼料は粉末給餌とし、群分け後から、それぞれの被験飼料を66日間自由摂取させた。一般状態は毎日観察した。摂餌量は一週間毎の摂餌量が算出できるよう可能な限り行った。体重は1週間おきに測定した。採血は投与終了翌日に4時間絶食の後、エーテル麻酔下でヘパリンNa加注射筒により実施した。剖検は採血終了後に脇下動脈切断により放血致死させた後に実施し、副睾丸や腎臓の周囲にある脂肪等の重量を測定した(表5)。呼気分析は投与終了日に行った。また、投与終了日に運動量を3時間観察し、運動量は移動総計距離をセンチメートル示す(図2)。
【0024】
[測定]
呼気分析は、OXYMAX(バイオリサーチセンター)を用い、24時間の呼気ガスを採取し、酸素消費量を計測した(図1)。
表4に呼気検査および内臓脂肪重量を示す。
(統計解析)
各評価項目は、一元配置分散分析後、有意差があった場合には、多重比較検定としてTukey検定を実施した。各群間の有意水準はP<0.05とした。
【0025】
【表4】

【0026】
[測定結果]
マウスの酸素消費量は、高脂肪食群に比較して、ASG食群で高くなり、エネルギー代謝の亢進が確認された。その裏づけとして、内臓脂肪量を反映する副睾丸脂肪重量及び腎周囲脂肪重量は、高脂肪食群と比較してASG食群で低値を示した。
特に、酸素消費量は、図1に示されるよう高脂肪飼料群よりも低ASG飼料群、高ASG群とも増加しており、高濃度添加量の方が大きくなっている。高脂肪飼料群を100%とすると低ASG飼料群は109%、高ASG群は116%となる。また、自発運動量も、図2に示されるように高脂肪飼料群よりも低ASG飼料群、高ASG群とも増加しており、高濃度添加量の方が大きくなっている。高脂肪飼料群を100%とすると低ASG飼料群は153%、高ASG群は177%となる。したがって、濃度依存的にエネルギー代謝が亢進されることが分かる。
発芽玄米中のステロール配糖体は、高脂肪食による代謝状態を改善し、エネルギー代謝を亢進させることが分かった。
【0027】
以下に本発明のASGを用いた処方例を示す。

処方例1
[カプセル剤]
組成
ASG …100mg
ミツロウ … 10mg
ぶどう種子オイル …110mg
上記成分を混合し、ゼラチンおよびグリセリンを混合したカプセル基剤中に充填し、軟カプセルを得た。

【0028】
処方例2
[錠剤]
組成
ASG乾固物 …150mg
セルロース … 80mg
デンプン … 20mg
ショ糖脂肪酸エステル … 2mg
上記成分を混合、打錠し、錠剤を得た。

【0029】
処方例3
[飲料]
(組 成) (配合;質量%)
果糖ブトウ糖液糖 5.00
クエン酸 10.4
L−アスコルビン酸 0.20
香料 0.02
色素 0.10
ASG乾固物 1.00
水 82.28

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発芽玄米糠由来のステロール配糖体を有効成分とするエネルギー代謝亢進剤。
【請求項2】
請求項1に記載されたエネルギー代謝亢進剤を含有する飲食品(発芽玄米を除く)。
【請求項3】
請求項1に記載されたエネルギー代謝亢進剤を含有するペットフード(発芽玄米を除く)。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−57599(P2011−57599A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207630(P2009−207630)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【Fターム(参考)】