説明

エネルギー分散型X線検出器

【課題】 エネルギー分散型X線検出器において、試料上への電子線照射により発生したX線の検出効率を上げるとともに、S/Nの良いX線信号検出することを目的とする。
【解決手段】X線を検出する半導体検出素子と、前記半導体検出素子を収容し、真空雰囲気に保持するための検出器チャンバと、検出器チャンバのX線導入するための開口部を封止するように配置されるX線を透過する薄膜と、前記薄膜を検出器チャンバ内側から支持する補強部材からなる検出器において、前記補強部材は、間隔を置いて平行配置された複数のリブ状部材から構成される間隙を持つと共に、前期複数のリブ状部材に永久磁石を組み込むことにより、又はリブ状部材を永久磁石で構成することにより前記複数のリブ状部材間に磁場を発生させるようにしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡及び電子プローブマイクロアナライザー装置等に用いられるエネルギー分散型X線検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー分散型X線検出器は、試料上に電子線を照射し、試料から発生した特性X線を、放射線透過窓を通して半導体検出素子で検出するものである。得られた検出信号を多重波高分析器にて波高分析することにより、エネルギースペクトルを得ることができる。
【0003】
この半導体検出素子は、電子線入射点(X線発生点)から半導体検出素子を見込んだ立体角が大きいほど、効率良く多くのX線を検出することができる。また、エネルギー分散型X線検出器では、試料から半導体検出素子への反射電子(後方散乱電子)の入射を防止することにより、S/N比の良いエネルギースペクトルを得ることができる。
【0004】
図1は、従来のエネルギー分散型X線検出器の一構成例の垂直方向の断面図を、図2は水平方向の断面図を、図3は、図1に示すA−Aの断面図を示す。
1は、試料で、電子線EBが照射された試料1からは、X線3と反射電子4が発生する。5は、X線3を検出するため、検出面を試料1に向けて配置された半導検出素子であり、例えばSi(Li)X線検出素子が用いられ、検出器チャンバ7内に収容されている。
【0005】
6は、真空圧力にされた検出器チャンバ7と外界を遮断するために検出器チャンバ7の開口部を封止するように取り付けられた薄膜であり、低エネルギーのX線を良く透過する材質で作られている。
【0006】
そして薄膜6は、検出器チャンバ7の内部と外部の真空圧力差に耐えうる強度を持たせるために、等間隔に平行配置された複数のリブ状部材とそれを支持するリング状の外枠より構成される補強部材8に貼り付けられる。薄膜6を支持した補強部材8は、補強部材8が半導体検出素子5側に配置され、薄膜6が試料1に面するように支持部材9を介して検出器チャンバ7の開口部にはめ込まれる。
【0007】
薄膜6により外部と仕切られた検出器チャンバ7の内部は排気され、検出器チャンバ7内部に配置された半導体検出素子5は、熱ノイズを避けるために冷却される。図2及び図3に示される磁石13a,13bは、試料1から半導体検出素子5に至るX線の通路Lを挟むように対向して設けられた1対の磁石である。磁石の内側、すなわち通路L側の磁石内壁には、非磁性のパイプ状の導電体12が、通路Lを囲うように取り付けられている。
【0008】
前記磁石13a,13b及び導電体12は、パイプ状の磁石支持体11の試料側先端部の内側に一体化してはめ込まれ、固定される。そして、磁石支持体11が、検出器チャンバ7側端部及び開口部に被せられることにより、磁石が検出器の試料側端部に配置される。
【0009】
このような構造を持つX線検出器において、検出器前面の磁石13a、13bにより挟まれた通路Lには、X線の進行方向と直交する方向に磁場Hが形成されている。
【0010】
試料1から発生し半導体検出素子5に向かうX線3は、磁場による影響を受けないため、そのまま直進して検出素子に入射する。
【0011】
しかし、X線と共に半導体検出素子5に向かい通路Lに沿って入射してきた反射電子4は、電荷を帯びているために磁場Hにより、フレミングの左手の法則に従って、図1において4’の矢印に示されるように上方に偏向され、導電体12に吸収される。
【0012】
このように、試料から発生した反射電子4は、半導体検出素子5の手前で磁石により軌道を曲げられ、半導体検出素子5へ入射しなくなるため、反射電子によるノイズ成分が少なくS/Nの良いエネルギースペクトルが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開昭56−103379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
電子線を試料に照射し、試料から発生する特性X線を検出するエネルギー分散型X線検出器は、試料上の電子線入射点から検出器を見込んだ立体角が大きいほど多くのX線を検出することができ、検出効率が高くなり、検出感度も高くなる。
【0015】
立体角Ωは、(1)式で定義され、この(1)式から分かるように、試料上のX線発生点Oと半導体検出素子の距離dを小さくするか、あるいは、半導体検出素子5のX線検出面積Sを拡大すると、大きくすることができる。
【0016】
Ω=S/d・・・・・・・(1)
Ω:立体角, S:半導体検出素子のX線検出面積,
d:X線発生点から半導体検出素子のX線検出面までの距離
しかし、従来の検出器の構造では、検出器前面に、反射電子除去用の磁場を作る磁石13a,13bがあり、dを小さくするためにX線検出器を試料1に近づけようとしても、限界がある。
【0017】
一方、図4に示すように半導体検出素子5の直径をraからrbに広げてX線検出面積を大きくすると、立体角は、θaからθbに広がる。しかし、半導体検出素子5へのX線入射の立体角を妨げないように、X線発生源Oと半導体検出素子の間にある磁石13aと13bの間の距離は、rcからrdに広げなければならないことになる。このため、磁石は、13a’,13b’の位置に配置しなければならない。
【0018】
磁石13aと13bの距離rと磁場の強さの関係は、一般的に(2)式で表わされる。
H=(1/4πμ)×(q/r)・・・・・・・(2)
H:磁場の強さ
μ:真空の透磁率,q:点磁化,
r:磁石間の距離
(2)式で示されるように、磁石間の距離rが大きくなると、磁石間に発生する磁場の強さFは、弱くなってしまう。そして、反射電子の軌道を曲げる力も弱くなるため、半導体検出素子に検出される反射電子は完全に除去できなくなる。
【0019】
このため、立体角を大きく取るためには、点磁化qをより大きな値にするか、反射電子が磁場内を通過する距離を長く取り、反射電子を曲げる時間を長くする必要がある。
【0020】
しかし、点磁化qをより大きな値にすることは、磁石の種類や素材に大きく依存し、従来よりも点磁化の大きい磁石は期待できない。
【0021】
また、反射電子が磁場内を通過する距離を長く取ることは磁石が長くなることになり、反射電子が半導体検出器に入らない位置に曲がるように、半導体検出素子の位置をX線発生点Oから離さなければならない。このため、半導体検出素子のX線検出面積を大きくしても、立体角を大きくとることは、期待できない。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、X線を検出する半導体検出素子と、前記半導体検出素子を収容し、真空雰囲気に保持するための検出器チャンバと、検出器チャンバのX線導入するための開口部を封止するように配置されるX線を透過する薄膜と、前記薄膜を検出器チャンバ内側から支持する補強部材からなる検出器において、前記補強部材は、間隔を置いて平行配置された複数のリブ状部材から構成される間隙を持つと共に、前期複数のリブ状部材に永久磁石を組み込むことにより、又はリブ状部材を永久磁石で構成することにより前記複数のリブ状部材間に磁場を発生させるようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、永久磁石が組み込まれ、間隙をもって平行配置された複数のリブ状部材で構成される反射電子除去のための補強部材を、外界を遮断するために検出器チャンバ7に取り付けた薄膜と半導体検出素子の間に配置することで、検出器の前面から磁石が無くなった分検出器を近づけて、半導体検出素子と試料間の距離を近づけられるので、X線発生点から半導体検出素子を見込むX線入射立体角を大きくでき、X線検出効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】従来のエネルギー分散型検出器の一構成例の垂直方向の断面図を示したものである。
【図2】従来のエネルギー分散型検出器の一構成例の水平方向の断面図を示したものである。
【図3】図1に示すA−Aの断面図を示したものである。
【図4】半導体検出素子のX線検出面積を広くした場合の一実施例を示したものである。
【図5】本発明のエネルギー分散型検出器の一構成例の垂直方向の断面図を示したものである。
【図6】本発明のエネルギー分散型検出器の一構成例の水平方向の断面図を示したものである。
【図7】図6の断面図の一定間隔で並べたリブ状部材の一部を拡大したものである。
【図8】図5に示すB−Bの断面図を示したものである。
【図9】試料上の電子線照射位置と半導体検出素子面との距離と立体角を説明するための図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図5に本発明のエネルギー分散型X線検出器の一構成例の垂直方向の断面図を、図6、7bは水平方向の断面図及び断面の拡大図を、図8は、図5に示すB−Bの断面図を示す。なお、図5、図6、図7、図8において図1と同一の構成要素には同一番号が付されている。
【0026】
1は、試料で、電子線EBが照射された試料1からは、X線3と反射電子4が発生する。5は、X線3を検出するため、試料1に向けて配置された半導体検出素子5で、例えばSi(Li)X線検出素子が用いられ、真空排気される検出器チャンバ7内に収容されている。
【0027】
薄膜6は、真空圧力にされた検出器チャンバ7と外界を遮断するためにX線を導入する開口部を封止するように配置され、低エネルギーのX線を良く透過する材質で作られると共に、帯電防止用のコーティングが施されている。
【0028】
そして、薄膜6は、真空である検出器チャンバ7の内部と外部の圧力差に耐えうる強度を持たせるために、等間隔に平行配置された複数のリブ状部材15とそれを支持する環状の支持部材16の試料側の面に貼り付けられる。この構造により、薄膜6は真空である検出器チャンバ7の内部と外部の圧力差に耐えうる強度を持たせられる。
【0029】
前記支持部材16は、環状の導電性を持つ材質で作られ、リブ状部材15の両端部をはめ合いで支持する固定溝18を有している。
【0030】
図5及び図8に示されるように、環状の支持部材16内側に刻まれた一定間隔の固定溝18に平板状の複数のリブ状部材15がはめ合いにより等間隔に並べて取り付けられている。
【0031】
半導体検出素子5は、真空圧力を保持できる検出器チャンバ7内部に、X線検出面を試料側に向けて配置され、薄膜6を張り付けたリブ状部材15と支持部材16を固定板17で固定することで、真空封入される。
【0032】
薄膜6をはめ込んだ検出器チャンバ7の内部は排気され、検出器チャンバ7内部に配置された半導体検出素子5は、熱ノイズを避けるために冷却される。ここでは、リブ状部材15を組み込んだ支持部材16を検出器チャンバ7にはめ込んだ例を示したが、支持部材16及び固定板17は、圧力を保持できる固定方法であれば良い。
【0033】
図7にリブ状部材15の断面を拡大した図を示す。図7に示されるように、リブ状部材内部には、ネオジウム磁石などの磁力の強い永久磁石19aが組み込まれ、永久磁石19aは、透磁率が低く導電性の材質を持つ薄膜状の外殻19bで覆われている。
【0034】
このリブ状部材15の間隙21に面するリブ状部材15の側面20aにS極を、リブ状部材側面20bにN極を臨ませており、図8にも示すようにたがいに隣り合うリブ状部材15のN極とS極との間に間隙を横断する磁場Hが形成される。
【0035】
ここで、このような構造を持つ検出器の動作を説明する。
【0036】
電子銃より放出された電子線EBを試料1上に照射すると、試料1からは、電子線EBにより励起されたX線3が発生する。図6に示すように、試料1から発生したX線は、薄膜6に入射し、補強磁石部材15を通過して半導体検出素子5に入射する。
【0037】
一方、試料1から発生した反射電子4は、X線と同様に薄膜6に入射し、リブ状部材15に進む。リブ状部材15のそれぞれの間隙21には、その間隙21を横断する磁場Hが形成されているため、入射してきた反射電子4は、フレミングの左手の法則に従い、磁場Hの磁力線方向に対して直交方向、すなわち図5に示すようにリブ状部材15に平行な面内で上方向に軌道が偏向される。
【0038】
偏向された反射電子4’は、半導体検出素子5に向かう軌道から外れ、導電性を持つ支持部材16の支持面16a、16bに衝突して吸収され、半導体検出素子5には入射しなくなる。
【0039】
X線は、リブ状部材15の磁場の影響を受けないため、間隙21を直進し、半導体検出素子5に入射する。半導体検出素子5に入射した各種エネルギーのX線は、図示しない多重波高分析器でエネルギースペクトルに変換される。
【0040】
図7に示すリブ状部材18の間隙21は、固定値である永久磁石18の材質に伴う点磁化q+q−の値から、前記(2)式により反射電子が半導体検出素子5に入射しない角度に偏向できる磁場が間隙に形成される距離に設定されている。
【0041】
具体的なリブ状部材15の寸法の例を挙げれば、リブ状部材15の奥行き方向の長さG1は概ね数百μmから数mm、リブ状部材15の幅の厚さG2は数十μmから数百μm、リブ状部材15の間隔G3は、数百μmである。
検出器の前面に一対配置された従来の磁石の間隙に比べて磁石の間隙が狭くなるため、磁石間には、より大きな磁場を得ることができる。このため、リブ状部材15の奥行き方向の長さG1も従来の補強部材8と同じ程度の寸法に収めることができる。
【0042】
このように、永久磁石19aを組み込んだリブ状部材15を薄膜6と半導体検出素子5の間に配置することで、邪魔になる検出器前面の磁石が無くなるため、図9に示すように試料1と半導体検出素子5の距離を、daからdeに短くすることができ、半導体検出素子5をX線発生点Oに近づけられる。そして、電子線入射点から検出器を見込んだ立体角は、リブ状部材15の間隙21の磁場により反射電子を効率良く除去できる条件の下で、θaからθeに大きく取ることができる。
【0043】
従って、反射電子によるノイズ成分が少なく、S/N比の良いエネルギースペクトルを得ることができるエネルギー分散型X線検出器が実現できる。
【符号の説明】
【0044】
1:試料, 3:X線, 4:反射電子, 5:半導体検出素子
6:薄膜, 7:検出器チャンバ, 8:窓材支持台
11:磁石支持体, 12:導電体, 15:リブ状部材,
16:支持部材, 19a:永久磁石, 19b:外殻,
21:間隙, EB:電子線, O:試料上の電子線照射位置,
H:磁場, S:磁石S極, N:磁石N極,

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線を検出する半導体検出素子と、前記半導体検出素子を収容し、真空雰囲気に保持するための検出器チャンバと、検出器チャンバのX線導入するための開口部を封止するように配置されるX線を透過する薄膜と、前記薄膜を検出器チャンバ内側から支持する補強部材からなる検出器において、前記補強部材は、間隔を置いて平行配置された複数のリブ状部材から構成される間隙を持つと共に、前期複数のリブ状部材に永久磁石を組み込むことにより、又はリブ状部材を永久磁石で構成することにより前記複数のリブ状部材間に磁場を発生させるようにしたことを特徴とするエネルギー分散型X線検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−96968(P2013−96968A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243209(P2011−243209)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】