説明

エネルギー吸収型フロントアンダランプロテクタ、及び、これを備えた車両

【課題】エネルギー吸収型のフロントアンダランプロテクタを備えた大型車と乗用車との正面衝突において、乗用車側のキャビンを潰さず、かつ最大限のエネルギー吸収を行うことができ、乗用車側の乗員の被害を低減するのに最適なエネルギー吸収荷重の範囲を持つエネルギー吸収型フロントアンダランプロテクタ、及び、これを備えた車両を提供する。
【解決手段】車両に搭載したエネルギー吸収型フロントアンダランプロテクタにおいて、乗用車とのフルラップ正面衝突(相対速度55km/h)の際には、前記エネルギー吸収型フロントアンダランプロテクタ10の潰れ荷重の範囲を400(kN)以上で、且つ、500(kN)以下とし、乗用車との50%オフセット正面衝突(相対速度64km/h)の際には、前記エネルギー吸収型フロントアンダランプロテクタ10の潰れ荷重の範囲を200(kN)以上で、且つ、250(kN)以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型トラック等の大型車の前部に設けられるエネルギー吸収型フロントアンダランプロテクタ、及び、これを備えた車両に関し、詳細にはエネルギー吸収型フロントアンダランプロテクタの潰れ荷重の最適な範囲に関する。
【背景技術】
【0002】
大型トラック等の大型車の衝突安全対策には、大型車の乗員保護対策と共に、乗用車等の衝突相手の車両に対する加害性低減策が求められている。特に、ボンネット型乗用車との正面衝突(前面衝突)では、乗用車が大型車の前部の下に潜り込み、乗用車が本来備えている衝突安全性能を発揮できずに、乗用車乗員が重傷や死亡に至る場合がある。
【0003】
この安全対策として、フロントアンダランプロテクタ(FUP)を大型車の前部、例えば、バンパの裏側に取り付けて、大型車が乗用車と正面衝突したときに、乗用車の潜り込みを防止する方法が採られている。このフロントアンダランプロテクタは、正面衝突時に乗用車の強度部材を受け止めることにより、乗用車に備わっている衝突安全性能を発揮させて、乗用車乗員の被害を低減するものである。この対策を取り始めた初期では、このフロントアンダランプロテクタは、一般に大型車の車体のフレームに強固に結合されている。つまり、このフロントアンダランプロテクタは、エネルギー吸収(EA)機構を備えておらず、フレームからブラケットを介し、リジッドに固定されている。
【0004】
例えば、被結合部材(ナット)を固定したプロテクタ取り付け補強部材をプロテクタ部材の内部に挿入して、この被結合部材(ナット)に結合部材(ボルト)を単に挿入結合させる簡単な作業のみで、プロテクタ部材をステーに容易に固定することができるように構成したフロントアンダランプロテクタが提案されている(例えば、特許文献1、2、3参照)。
【0005】
しかしながら、上記のように、大型車のフレームに剛に取り付けられたフロントアンダランプロテクタを採用した場合でも、車格が大きく違うため、相変わらず乗用車側が、特に小型車が甚大な被害を受けている。
【0006】
そのため、更に、衝突時にプレートの衝突検知面が押されると、案内ピンの破損が生じて一対の展開板が展開されてプロテクタの衝突面積を上下に拡張すると共に、プロテクタの軸穴を案内ピンで押し広げる変形により衝突エネルギーを吸収したりする(例えば、特許文献4参照)構成、すなわち、エネルギー吸収型のフロントアンダランプロテクタ(EA−FUP)が提案された。
【0007】
また、アンダランプロテクタビームとフロントクロスメンバーの両側とを一対の内クラッシュボックスを介して接合すると共に、アンダランプロテクタビームの両端近傍を一対の外クラッシュボックスとブラケットを介して接合した構成が提案されている(例えば、特許文献5参照)。この構成では、衝突時に、内クラッシュボックス又は外クラッシュボックスのいずれかまたは両方が軸方向に圧縮変形することで衝撃エネルギーを吸収して、乗用車側の著しい変形を防止している。
【0008】
しかしながら、エネルギー吸収型フロントアンダランプロテクタに、エネルギー吸収機能を持たせる場合に、乗用車側の被害を低減するためにはエネルギー吸収型フロントアンダランプロテクタの潰れ荷重を果たしてどの範囲に設定すれば良いかが不明であり、適切な潰れ荷重の範囲を持つフロントアンダランプロテクタ、及び、これを備えた車両を得ることが重要な課題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−72590号公報
【特許文献2】特開2003−276536号公報
【特許文献3】特開2008−230502号公報
【特許文献4】特開平9−267706号公報
【特許文献5】特開2008−230502号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の状況を鑑みてなされたものであり、その目的はエネルギー吸収型フロントアンダランプロテクタ、及び、これを備えた車両において、エネルギー吸収型のフロントアンダランプロテクタを備えた大型車と乗用車との正面衝突において、乗用車側のキャビンを潰さず、かつ、乗用車側のクラッシャブルゾーン(衝突時に壊れて衝撃を吸収し、乗員や荷物・機械を保護するための空間)における衝突エネルギーの吸収効果を利用しながら、エネルギー吸収体で衝突エネルギーを吸収することができ、乗用車側の乗員の被害を低減するのに最適な潰れ荷重の範囲を持つエネルギー吸収型フロントアンダランプロテクタ、及び、これを備えた車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するためのエネルギー吸収型フロントアンダランプロテクタは、車両に搭載したエネルギー吸収型フロントアンダランプロテクタにおいて、乗用車とのフルラップ正面衝突(相対速度55km/h)の際には、前記エネルギー吸収型フロントアンダランプロテクタの潰れ荷重の範囲を400(kN)以上で、且つ、500(kN)以下とし、乗用車との50%オフセット正面衝突(相対速度64km/h)の際には、前記エネルギー吸収型フロントアンダランプロテクタの潰れ荷重の範囲を200(kN)以上で、且つ、250(kN)以下とするように構成される。
【0012】
また、上記の目的を達成するための車両は、上記のエネルギー吸収型フロントアンダランプロテクタを備えて構成される。
【0013】
トラックと乗用車の55km/hフルラップ正面衝突において、乗用車の乗員の生存空間を確保するためには、トラック側のエネルギー吸収型フロントアンダランプロテクタの潰れ荷重を乗用車のキャビンが潰れる強度よりも低く設定する必要がある。
【0014】
全ての乗用車のキャビン強度を知ることは、非常に多くの実験を伴うため困難である。そこで、乗用車のキャビンが正常な状態に保たれている55km/hフルラップバリア試験の結果での、最大発生荷重を上限値とすることにした。この試験で、殆どの乗用車が発生した最大荷重は500(kN)以上であったので、エネルギー吸収型フロントアンダランプロテクタの潰れ荷重の上限を500(kN)とする。
【0015】
一方、衝突速度の低い領域では、乗用車側の高度に設計されたクラッシャブルゾーンを使用することが効果的であるので、トラック側のエネルギー吸収体は衝突速度の高い領域で、乗用車側では吸収しきれない衝突エネルギーを吸収するために用いる。
【0016】
乗用車の55km/hフルラップバリア試験によれば、乗用車のクラッシャブルゾーンの平均的な潰れ荷重は概ね200(kN)〜400(kN)の範囲にある。従って、エネルギー吸収型フロントアンダランプロテクの潰れ荷重の下限を400(kN)とする。
【0017】
また、トラックと乗用車の64km/h50%オフセット正面衝突においても、乗用車の乗員の生存空間を確保するためには、トラック側のエネルギー吸収型フロントアンダランプロテクタの潰れ荷重を乗用車のキャビンが潰れる強度よりも低く設定する必要がある。
【0018】
全ての乗用車のキャビン強度を知ることは、非常に多くの実験を伴うため困難である。そこで、乗用車のキャビンが正常な状態に保たれている64km/h50%オフセットバリア試験の結果での、最大発生荷重を上限値とすることにした。この試験で、殆どの乗用車が発生した最大荷重は250(kN)以上であったので、エネルギー吸収型フロントアンダランプロテクタの潰れ荷重の上限を250(kN)とする。
【0019】
一方、衝突速度の低い領域では、乗用車側の高度に設計されたクラッシャブルゾーンを使用することが効果的であるので、トラック側のエネルギー吸収体は衝突速度の高い領域で、乗用車側では吸収しきれない衝突エネルギーを吸収するために用いる。
【0020】
乗用車の64km/h50%オフセットバリア試験によれば、乗用車のクラッシャブルゾーンの平均的な潰れ荷重は概ね70(kN)〜200(kN)の範囲にある。従って、エネルギー吸収型フロントアンダランプロテクタの潰れ荷重の下限を200(kN)とする。
【0021】
なお、この「潰れ荷重」とは、エネルギー吸収体が荷重を受けた時に、座屈を開始する等してエネルギー吸収体が潰れ始め、衝突エネルギーを吸収し始める時の荷重の大きさを言う。
【発明の効果】
【0022】
本発明のエネルギー吸収型フロントアンダランプロテクタ、及び、これを備えた車両によれば、エネルギー吸収型のフロントアンダランプロテクタとエネルギー吸収体全体の潰れ荷重を最適な範囲内に設定することで、大型車と乗用車との正面衝突において、乗用車側のキャビンを潰さず、かつ、乗用車側のクラッシャブルゾーンにおける衝突エネルギーの吸収効果を利用しながら、エネルギー吸収体で衝突エネルギーを吸収することができ、乗用車側の乗員の被害を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る実施の形態のエネルギー吸収型フロントアンダランプロテクタと荷重点を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る実施の形態のエネルギー吸収型フロントアンダランプロテクタ、及び、これを備えた車両について、図面を参照しながら説明する。
【0025】
図1に示すように、本発明に係るエネルギー吸収型フロントアンダランプロテクタ(FUP)10は、フロントアンダランプロテクタバー(FUPバー)11とエネルギー吸収体(EA体)12とブラケット13を有して構成される。このフロントアンダランプロテクタバー11は複数本(図1では2本)のエネルギー吸収体12を介してブラケット13により、大型車の車体のフレーム20に固定支持される。このエネルギー吸収体12としては、特に限定しないが、例えば、スチール製のクラッシュボックスや発泡アルミニウムを使用したエネルギー吸収体等を使用できるが、これに限定されず、別のものも使用できる。
【0026】
エネルギー吸収型フロントアンダランプロテクタ10を搭載した車両における、乗用車とのフルラップ正面衝突で、このエネルギー吸収体12全体の潰れ荷重Wfullを、400(kN)〜500(kN)とする。
【0027】
55km/hフルラップバリア試験の結果で殆どの乗用車が発生した最大荷重が500(kN)以上であったので、この値を潰れ荷重の上限とし、55km/hフルラップバリア試験での乗用車のクラッシャブルゾーンの平均的な潰れ荷重の上限である400(kN)を潰れ荷重の下限とした。
【0028】
また、大型トラックと乗用車の50%オフセット正面衝突の際には、乗用車との64km/h50%オフセットバリア試験の結果を考慮して、エネルギー吸収体12全体の潰れ荷重Woffsetを、200(kN)以上で、かつ、250(kN)以下とした。つまり、殆どの乗用車が発生した最大荷重が250(kN)以上であったので、この値を潰れ荷重の上限とし、64km/h50%オフセットバリア試験での乗用車のクラッシャブルゾーンの平均的な潰れ荷重の上限である200(kN)を潰れ荷重の下限とした。
【0029】
この55km/hフルラップ正面衝突では、エネルギー吸収型フロントアンダランプロテクタ10側の潰れ荷重(EA荷重)を400(kN)〜500(kN)前後に設定すれば、乗用車のキャビンを潰すことなく、乗用車のクラッシャブルゾーンにおける衝突エネルギーの吸収を最大限に利用することが可能となる。また、乗用車側で吸収しきれなかった余剰エネルギーをトラック側のエネルギー吸収体で吸収することができる。
【0030】
なお、64km/h50%オフセットバリア試験の結果でも、同様の理由で200(kN)〜250(kN)に設定すれば、乗用車のキャビンを潰すことなく、乗用車のクラッシャブルゾーンにおける衝突エネルギーの吸収を最大限利用することが可能となり、乗用車側で吸収しきれなかった余剰エネルギーをトラック側のエネルギー吸収体で吸収することができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のエネルギー吸収型フロントアンダランプロテクタ、及び、これを備えた車両によれば、大型車と乗用車との正面衝突において、乗用車側のキャビンを潰さず、かつ、乗用車側のクラッシャブルゾーンにおける衝突エネルギーの吸収効果を利用しながら、エネルギー吸収体で衝突エネルギーを吸収することができ、乗用車側の乗員の被害を低減することができるので、これらのエネルギー吸収型フロントアンダランプロテクタ、及び、これを備えた車両は、大型トラックやバス等の大型車両に利用できる。
【符号の説明】
【0032】
10 エネルギー吸収型フロントアンダランプロテクタ
11 フロントアンダランプロテクタバー
12 エネルギー吸収体
13 ブラケット
20 大型車のフレーム(車体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載したエネルギー吸収型フロントアンダランプロテクタにおいて、
乗用車とのフルラップ正面衝突(相対速度55km/h)の際には、前記エネルギー吸収型フロントアンダランプロテクタの潰れ荷重の範囲を400(kN)以上で、且つ、500(kN)以下とし、乗用車との50%オフセット正面衝突(相対速度64km/h)の際には、前記エネルギー吸収型フロントアンダランプロテクタの潰れ荷重の範囲を200(kN)以上で、且つ、250(kN)以下とすることを特徴とするエネルギー吸収型フロントアンダランプロテクタ。
【請求項2】
請求項1に記載のエネルギー吸収型フロントアンダランプロテクタを備えたことを特徴とする車両。

【図1】
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【公開番号】特開2013−79004(P2013−79004A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220297(P2011−220297)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)