説明

エネルギー吸収成形品

【課題】自動車衝突時に衝撃を吸収するほか、破壊した成形品をそのまま、周辺に廃棄できる、エネルギー吸収成形品を提供する。
【解決手段】無機物粉体又は天然繊維と、植物由来熱硬化性樹脂とを含む組成物を硬化してなる、エネルギー吸収成形品。植物由来熱硬化性樹脂が、リグニン由来エポキシ樹脂である、前記のエネルギー吸収成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の衝突時の衝撃を吸収するためのエネルギー吸収成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
悲惨な自動車事故が後を絶たない。特に高速で中央分離帯や側壁等に衝突し、その後はね返った自動車が後続車とさらに衝突し、大事故に至ることがしばしば見られる。自動車にも安全装備が設けられているが、衝撃の吸収を十分の吸収することは困難である。このような状況で、側壁等への衝突時の跳ね返りや、衝撃を低減することが求められており、道路周辺に安全設備を設けることが考えられているが、普及しているとは言えない。特に今後の自動車専用道路の高速化により、衝撃エネルギーは、従来の2倍以上になると考えられ、衝撃吸収部材を道路の必要箇所あるいは全域に渡り配置することが求められている。
【0003】
一般に衝撃緩衝装置は、衝撃緩衝材をプラスチック等の外枠で内包した構造であって、衝撃緩衝材としては特許文献1に示すように水等が用いられていたが、最近では更に衝撃緩衝効果の高い材質が開発され、例えば特許文献2に示すようなエチレン−スチレン共重合体等からなり表皮を有する樹脂発泡体からなる衝撃緩衝材、また特許文献3のようにゴム材料からなる衝撃緩衝材を用いたものをあげることができる。更に特許文献4には衝撃緩衝材の充填材として、セメント等の水和水硬性の結合材、炭酸カルシウム、骨材、水、発泡剤等を混ぜ合わせて発泡させつつ硬化させたものを用いることが開示されている。
これまで、衝撃吸収部材としては、発泡コンクリート、発泡モルタル等があったが、これらは、未だエネルギー吸収能が十分とは言えず、また、廃棄時に産業廃棄物となるため、環境負荷が大きい等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−178924号公報
【特許文献2】特開平8−142243号公報
【特許文献3】特開平7−233513号公報
【特許文献4】特開2000−120743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、自動車衝突時に衝撃を吸収するほか、破壊した成形品をそのまま、周辺に廃棄できる、エネルギー吸収成形品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の通りである。
(1) 無機物粉体又は天然繊維と、植物由来熱硬化性樹脂とを含む組成物を硬化してなる、エネルギー吸収成形品。
(2) 植物由来熱硬化性樹脂が、リグニン由来エポキシ樹脂である、(1)記載のエネルギー吸収成形品。
【発明の効果】
【0007】
本発明のエネルギー吸収成形品は、自動車衝突時に衝撃を吸収するほか、砂、土、石等の無機物粉体又は天然繊維と、植物由来熱硬化性樹脂とを、含む組成物を用いており、破壊した成形品をそのまま、周辺に廃棄できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、無機物粉体又は天然繊維と、植物由来熱硬化性樹脂とを含む組成物を硬化してなる、エネルギー吸収成形品である。
本発明に用いる無機物粉体としては、砂、土、石等が挙げられ、例えば、珪砂、ジルコン砂、クロマイト砂、オリビン砂等の使用済みの鋳物砂等を用いると、従来処理に要した環境負荷を低減できる点で好ましい。
エネルギー吸収性と移動時の破壊防止を目的に、組成物に、繊維を加えても良く、繊維としては、ポリエステル、ナイロン等の合成繊維の他、麻(ヘンプ、フラックス、ラミー、ジュート、ケナフ、サイザル等)、木綿、竹等の天然繊維を用いることが、環境負荷を低減できる点で好ましい。
【0009】
繊維は、長繊維状で直径:0.01〜5mmが好ましい。この範囲であれば生産性が良好で、かつ機械的強度に優れる。形態としては、解繊状、不織布、織布等が挙げられるが、織布状にあることが好ましい。ここで、織布の作製方法及び種類は特に限定されない。織布の織り方としては平織、綾織、朱子織等が挙げられるが、これらのいずれでもよく限定されない。
また編み方としては、平編、リブ編、パール編、両面編、デンビー編、アトラス編、コード編、チェーン編等が挙げられるが、これらのいずれでもよく、限定されない。不織布状長繊維セルロースは、布内での繊維の分布に偏りが無いため機械的強度の均一性に優れる。
【0010】
天然繊維(植物繊維)を繊維強化材とする樹脂複合材料は、以前より検討されてきた。天然繊維(植物繊維)である、植物由来材料は、主にセルロースにより構成され、セルロースではその分子構造に起因して分子内、及び分子間に強固な水素結合が形成されるため、高い結晶性が保たれている。よって繊維材料としてのセルロースには優れた機械的強度や耐熱性といった特徴があり、エネルギー吸収成形品の強化材として好ましい。
【0011】
環境負荷低減の観点から、組成物には、植物由来熱硬化性樹脂(天然熱硬化性樹脂)が含まれる。組成物に含まれる植物由来熱硬化性樹脂としては、リグニン樹脂、リグノフェノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ化大豆油、不飽和油、リグニン由来エポキシ樹脂等が挙げられ、特にリグニン由来エポキシ樹脂が好ましい。リグニン由来エポキシ樹脂は、例えば、植物より得た抽出リグニンのフェノール性水酸基を、エピクロルヒドリンで変性し、得ることができる。
抽出リグニンを取得する方法として、水を用いた分離技術を用いた方法があり、例えば、セルロース成分、ヘミセルロース成分から分離し、有機溶媒に溶解させることにより、抽出リグニンが得られる。そして、リグニンをセルロース成分、ヘミセルロース成分から分離する方法としては、水蒸気爆砕法があり、例えば、高温高圧の水蒸気による加水分解と、圧力を瞬時に開放することによる物理的破砕効果により、植物を短時間に破砕する方法である。また、植物原料としては、リグニンが抽出できれば特に限定しないが、例えば、スギ、竹、稲わら、麦わら、ひのき、アカシア、ヤナギ、ポプラ、バガス、とうもろこし、サトウキビ、米穀、ユーカリ、エリアンサス等が挙げられる。
【0012】
さらに、組成物は、熱硬化性樹脂として、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、レゾール型、ノボラック型、ベンジリックエーテル型等のフェノール樹脂、イソシアネート化合物、アミンポリオール樹脂、ポリエーテルポリオール樹脂等を含んでいてもよい。これらに硬化剤として、イソシアネート化合物、有機エステル類、ヘキサメチレンテトラミン等を、硬化触媒として第三級アミン、ピリジン誘導体、有機スルホン酸、イミダゾール等をそれぞれ配合し、熱硬化性にして使用することができる。
なお、熱硬化性樹脂(植物由来熱硬化性樹脂も含む)は、組成物中において、一般的に、無機物粉体又は天然繊維に対する、結着剤として、配合される。また、組成物中の植物由来熱硬化性樹脂の配合量は、通常、無機物粉体と天然繊維の総量100質量部に対し、5〜50質量部である。この範囲とすることにより、機械的強度の均一性に優れ、また、衝撃の吸収性にも優れ、好ましい。
【0013】
フェノール樹脂を用いる場合、フェノール樹脂は、フェノール類とホルムアルデヒド類を反応触媒の存在下で反応させることによって製造することができる。
ここでフェノール類は、フェノール及びフェノールの誘導体を意味するものであり、例えばフェノールの他に、m−クレゾール、レゾルシノール、3,5−キシレノール等の3官能性のもの、ビスフェノールA、ジヒドロキシジフェニルメタン等の4官能性のもの、o−クレゾール、p−クレゾール、p−ter−ブチルフェノール、p−フェニルフェノール、p−クミルフェノール、p−ノニルフェノール、2,4又は2,6−キシレノール等の2官能性のo−又はp−置換のフェノール類を挙げることができ、さらに塩素又は臭素で置換されたハロゲン化フェノール等も用いることができる。勿論、これらから1種を選択して用いる他、複数種のものを混合して用いることもできる。
またホルムアルデヒド類としては、水溶液の形態であるホルマリンが好ましいが、パラホルムアルデヒドやアセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、トリオキサン、テトラオキサンのような形態のものを用いることもでき、その他、ホルムアルデヒドの一部をフルフラールやフルフリルアルコールに置き換えて使用することも可能である。
上記のフェノール類とホルムアルデヒド類との配合比率は、フェノール類とホルムアルデヒドのモル比が1:0.6〜1:3.5の範囲になるように設定するのが好ましい。
【0014】
また反応触媒としては、ノボラック型フェノール樹脂を調製する場合は、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸、あるいはシュウ酸、パラトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、キシレンスルホン酸等の有機酸、さらに酢酸亜鉛等を用いることができる。
またレゾール型フェノール樹脂を調製する場合は、アルカリ土類金属の酸化物や水酸化物を用いることができ、さらにジメチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、ジエチレントリアミン、ジシアンジアミド等の脂肪族の第一級、第二級、第三級アミン、N,N−ジメチルベンジルアミン等の芳香環を有する脂肪族アミン、アニリン、1,5−ナフタレンジアミン等の芳香族アミン、アンモニア、ヘキサメチレンテトラミン等や、その他二価金属のナフテン酸や二価金属の水酸化物等を用いることもできる。
【0015】
また、植物由来熱硬化性樹脂を成分とする結着剤を、希釈して使用する場合、希釈用の溶剤としてはアルコール類、ケトン類、エステル類、多価アルコール等を用いることができるほか、水溶性の樹脂を用いれば水を使用することができる。環境負荷低減の観点から水が好ましい。
【0016】
また、本発明のエネルギー吸収成形品を得るには、例えば、砂、土、石等の無機物粉体及び/又は天然繊維に、硬化剤、硬化触媒、植物由来熱硬化性樹脂を成分とする結着剤を添加し、組成物(混合物)とし、これを混練ミキサー、スピードミキサー等の撹拌装置中で、80〜180℃に加熱し、結着剤と、無機物粉体、天然繊維がほぼ均一に分散し、無機物粉体表面を結着剤で溶融被覆した後、金型に充填し、100〜250℃で加熱硬化、あるいは室温(25℃)置により硬化し、その後、金型から取り出すことで、本発明のエネルギー吸収成形品を製造する。
【実施例】
【0017】
(実施例1)
爆砕法により杉廃材より得た抽出リグニンのフェノール性水酸基を、エピクロルヒドリンで変性し、リグニン由来エポキシ樹脂を得た。天然繊維として木綿くず:1kgと、植物由来熱硬化性樹脂として、前記リグニン由来エポキシ樹脂:30kgを、100℃の容器中で撹拌混練し、よく混合した。木綿くずは、ほぼ均一に分散していた。そこに、硬化触媒としてイミダゾール(四国化成工業株式会社製;2PZ−CN):30gを混練し、さらに無機物粉体として使用済みの微細鋳物砂(廃砂):300kgを投入し、廃砂にリグニン由来エポキシ樹脂をまぶすように良く撹拌した。
得られた組成物(混合物)を、ワックスを塗布した金型(寸法:500mm×500mm×200mm)内に入れて、30MPaの圧力を加えながら、170℃で5分間硬化し、エネルギー吸収成形品を得た。前記成形品を金型から取り出した後、冷却した。この成形品の質量は、78kgであった。
このようにして得たエネルギー吸収成形品は、廃砂同士がリグニン由来エポキシ樹脂(植物由来熱硬化性樹脂)を介して結合しており、500mm×500mmの面を床に接するように置いた状態の成形品の中央部に、20kgの鉄球を高さ1mから落しても、落下部が50mmほど陥没し、変形するだけで、端部には割れが生じなかった。
【0018】
以上のように、本発明のエネルギー吸収成形品は、衝撃部が破壊され、エネルギーを吸収する一方、全体に割れが生じることもなく、衝撃を吸収しながらも、形状を保持できることが分かった。
本発明のエネルギー吸収成形品は、衝突時に衝撃を吸収するほか、砂、土、石等の無機物粉体又は天然繊維と、植物由来熱硬化性樹脂を成分とする結着剤を用いているため、破壊した成形品をそのまま、周辺に廃棄できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機物粉体又は天然繊維と、植物由来熱硬化性樹脂とを含む組成物を硬化してなる、エネルギー吸収成形品。
【請求項2】
植物由来熱硬化性樹脂が、リグニン由来エポキシ樹脂である、請求項1記載のエネルギー吸収成形品。

【公開番号】特開2012−180695(P2012−180695A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45026(P2011−45026)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】