説明

エネルギー線硬化型インク組成物

【課題】カーボンブラック顔料を有するエネルギー線硬化型インク組成物であって、長期保存後でもインクジェットプリンタでのノズル目詰まりが少なく、安定なインクジェット印刷を行うことができるエネルギー線硬化型インク組成物を提供する。
【解決手段】カーボンブラック顔料、重合性化合物、分散剤、重合開始剤を少なくとも含むエネルギー線硬化型インク組成物において、アルカリ金属とアルカリ土類金属との合計のインク中の濃度が18ppm以下であり、かつ、硫黄元素のインク中の濃度が160ppm以下であるエネルギー線硬化型インク組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンブラック顔料、重合性化合物を少なくとも含むエネルギー線硬化型インク組成物に関し、特にインクジェット記録方式に好適に用いられるエネルギー線硬化型インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、圧力、熱、電界などを駆動源として用いることにより、液状のインクをノズルから記録媒体に向けて吐出させて印刷する記録方式である。このような記録方式は、ランニングコストが低く、高画質化が可能であり、また用途に合わせて各種のインクを印字できることから、近年、市場を拡大している。
【0003】
従来、インクジェット記録方式に適用されるインク組成物としては、色材として染料・顔料を溶媒として水を主成分とする水性インクや有機溶剤を主成分とする油性インクが用いられてきた。
【0004】
例えば、顔料と、水及びエタノールに対する溶解度が25℃で3質量%未満である高分子化合物と、有機溶媒として、(ポリ)アルキレングリコール誘導体を30〜90質量%及び含窒素複素環化合物を1〜30質量%含有する油性顔料インク組成物を用いることにより、耐候性や定着性を向上した油性顔料インクが提案されている(例えば、特許文献1)。また、上記のような油性顔料インクは水性染料インクと異なり、インク中で顔料が溶解していないため、吐出不良が生じやすい。そのため、有機溶媒中での顔料の分散安定性を改善することを目的として、顔料と、バインダー樹脂と、顔料分散剤と、グリコールエーテルアセテートの少なくとも1種、並びにシクロヘキサノン及びイソホロンからなる群から選ばれる少なくとも1種からなる有機溶媒とを含有する油性顔料インクが提案されている(例えば、特許文献2)。
さらに、近年、揮発性の有機溶剤を少なくすることができ、環境対応型のインクとしてエネルギー線(例えば、紫外線)の照射によりインクを硬化させるエネルギー線硬化型インクジェットインク組成物が注目されている。
【特許文献1】特開2005−60716号公報
【特許文献2】特開2006−56991号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のようなエネルギー線硬化型インクジェットインクに用いられる顔料は、酸化チタンなどの無機顔料と、カーボンブラック、アゾ系、アゾメチン系、フタロシアニン系などの有機顔料とに大別される。インクジェット用インクとしてエネルギー線硬化型インクジェットインクを使用する場合、これらの顔料の中から所望の特性に応じてシアン、マゼンダ、イエロー、白色、及び黒色の各色相を呈する顔料を選定し、各顔料を用いて調製されたエネルギー線硬化型インクジェットインク(以下エネルギー線硬化型インクという)を充填したインクタンクを組み合わせたインクセットの形態でインクジェット印刷に用いられている。
【0006】
しかしながら、上記のようなエネルギー線硬化型インクの顔料としてカーボンブラック顔料を使用した場合、インクを長期保存したり、連続印刷などでプリントヘッドからインクを長期間吐出し続けたりすると、ノズル目詰まりが頻発し、インクジェットプリンタによる吐出が困難になるという問題が明らかとなった。特に、近年開発されてきたノズル径がΦ25μm以下の高精細ヘッドを用いたインクジェットプリンタでは、目詰まりが起こりやすく、インク滴が曲がったり吐出しなかったりという問題を抱えていた。
【0007】
この原因について調査したところ、インクジェットプリンタヘッドのノズル部分において、カーボンブラック顔料自体とは異なる固形の析出物が付着しており、それによって目詰まりを起こしていることが確認された。インク調製時にはインク中に析出物は生じていなかったことから、この析出物は連続印刷や長期間保存することにより発生したと考えられた
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、色材としてカーボンブラック顔料を有するエネルギー線硬化型インク組成物において、連続印刷や長期間の保存でもインクジェットプリンタでのノズル目詰まりが少なく、安定なインクジェット印刷を行うことができるエネルギー線硬化型インク組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、カーボンブラック顔料、重合性化合物を少なくとも含むエネルギー線硬化型インク組成物であって、アルカリ金属とアルカリ土類金属合計とのインク中の濃度が18ppm以下であり、かつ、硫黄元素のインク中の濃度が160ppm以下であるエネルギー線硬化型インク組成物である。
【0010】
上記エネルギー線硬化型インク組成物によれば、アルカリ金属とアルカリ土類金属との合計のインク中の濃度が18ppm以下であるため、長期保存後でも、目詰まりの原因となるカーボンブラック顔料に由来する析出物の発生を抑えることができる。すなわち、アルカリ金属とアルカリ土類金属は原材料の不純物として存在し、インク中に混在する水分やプリンタの使用環境にて湿度が高い場合など、水分の介在により容易にイオン化して溶出しやすい。特に、1価の陽イオンの中でも、ナトリウムイオンやカリウムイオンは析出物を形成しやすいことから、これらの合計濃度がインク中18ppm以下であることが好ましい。
【0011】
また、上記エネルギー線硬化型インク組成物によれば、硫黄元素のインク中の濃度が160ppm以下であることが必要である。特に、硫黄元素を含む化学物質の中でも、硫酸イオンは析出物を形成しやすいことから、含有量はインク中160ppm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、カーボンブラック顔料に由来する析出物の発生の少ないエネルギー線硬化型インク組成物を提供することができる。これにより、インクを長期保存した場合でも、ノズル目詰まりが少なく、安定な吐出が可能なインクジェット用インクを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
インク組成物中で析出物を形成しうる成分について検討した結果、カーボンブラック顔料中に含まれる陽イオンと陰イオンといったイオン性不純物が、連続印刷や長期間保存によってインク中に溶出し、塩を生成することが析出物の原因であると推測された。すなわち、カーボンブラック顔料の製造工程においては、イオン性不純物の混入が伴う。例えばファーネス法は、密閉された耐火レンガ製の燃焼炉の中に、イオウ成分などの不純物を含む原料であるオイルや天然ガスを噴霧し、不完全燃焼を起こさせる。カーボンブラック顔料の一次粒子径の制御は、火炎温度や冷却水の噴霧によって調整され、バグフィルターによって回収される。尚、カーボンブラック顔料のストラクチャーの制御は、ナトリウムやカリウムといったアルカリ金属類を用いて行う。
【0014】
このようなアルカリ金属とアルカリ土類金属のイオン性不純物を含有するカーボンブラック顔料を有機溶媒中に分散させたインクを連続印刷に用いた場合、ノズル内部と外気の界面において、環境湿度による水分の吸着が起こり、陽イオンと陰イオンといったイオン性不純物は水分に溶解して塩を形成し、不可逆的にインク溶媒には溶解しない析出物が発生したものと考えられる。また、長期間の保存も同様であり、有機溶媒などに含まれていた微量の水分により上記のような析出物が発生したものと考えられる。
【0015】
さらに、析出物中の金属成分について詳細に分析した結果、析出物はマグネシウムやカルシウムなどの2価のアルカリ土類金属よりも、ナトリウムやカリウムなどの1価のアルカリ金属を主たる金属成分として含んでいたことから、連続印刷や長期間保存時に析出物を生成するのは、上記のカーボンブラック製造の際に混入する無機塩中の1価の陽イオンが主であると考えられた。また、析出物の陰イオンは硫黄元素を含んでおり、カーボンブラック製造の際に混入する陰イオンや、顔料の結晶抑制や分散性向上のため用いる顔料誘導体の陰イオンが主であると考えられた。従って、このような析出物を生成する主要因となる1価の陽イオン、及び陰イオンの少なくともいずれか一方を低減したインク組成物であれば、析出物の発生が抑えられると期待できた。
【0016】
以上の知見に基づき、本発明者等は、インク組成物中のカーボンブラック顔料のアルカリ金属とアルカリ土類金属(以下アルカリ金属類という)に着目し、該インク中の濃度を低減するための検討を行った。カーボンブラック顔料のアルカリ金属類の濃度のみならず、硫黄元素の濃度を、ICP発光分析や原子吸光分析などの定量分析法によって分析可能なことを利用して、アルカリ金属類の濃度、さらに、硫黄元素の濃度が一定値以下であれば、これらの含有に依存して、連続印刷や長期間の保存でも、析出物の発生の少ないインクが得られることを見出した。すなわち、アルカリ金属類のインク中の濃度は18ppm以下が好ましく、10ppm以下であればより好ましい。また、硫黄元素のインク中の濃度は160ppm以下が好ましく、100ppm以下であればより好ましい。これにより、インクを長期保存した後でも析出物の発生が抑えられ、連続印刷性と保存安定性に優れるインクが得られる。特に、ナトリウムイオンやカリウムイオンと硫酸イオンとの塩によって生成する硫酸ナトリウム、硫酸カリウムの発生が、顕著に抑えられることを見出した。
【0017】
硫黄元素については、特許第3538660号で、遊離硫黄の含有量を10ppm以下にするという発明が開示されている。しかし、課題が、インクヘッドにおいてインクの気泡の発生を抑制することを目的としたもので、本発明の課題であるノズルに発生する析出物のための目詰まりについては何らの示唆もなされていない。さらに、該発明は10ppm以下ではあるが、遊離硫黄を含有させるというのが本質的思想であって、本発明の硫黄含有量をできるだけ少なくするという思想と異なるものである。
【0018】
本実施の形態のエネルギー線硬化型インク組成物において、インク組成物中のアルカリ金属類の含有量と硫黄元素の含有量を上記範囲に調整するにあたっては、析出物発生の主たる原因と考えられるカーボンブラック顔料にイオン性不純物の少ないものを使用することが好ましい。特に、インクジェット用インクとして使用する場合、カーボンブラック顔料の含有量の範囲においては、カーボンブラック顔料を蒸留水やイオン交換水で洗浄したものを使用する方法が挙げられる。なお、カーボンブラック顔料の含有量が多い場合、水相中の1価陽イオンの合計濃度、及び水相の比伝導度が増加するため、可能な限りアルカリ金属類の含有量や硫黄元素の含有量の低いカーボンブラック顔料を使用することが好ましい。この場合、カーボンブラックの灰分値(JIS−K−6218記載)が、アルカリ金属類元素や硫黄元素量を示す指標となりうる。例えば、灰分値が0.3質量%以下が好ましく、特に、0.1質量%以下がより好ましい。
【0019】
また、本発明者等はエネルギー線硬化型インク組成物中のイオンを純水に転相したとき、水相の比伝導度が一定値以下であれば、さらに析出物の生成が少ないことも見出した。すなわち、析出物は1価の陽イオンを含む塩であると考えられることから、その析出量は陰イオンの量にも影響される。また、上記したようにカルシウムなどの2価の陽イオンを含む析出物は少ないが、析出物中にある程度カルシウムなどのアルカリ土類金属の塩も含まれている。従って、析出物の発生を抑えるためには陰イオンやカルシウムなどの2価の陽イオンも低減することが好ましい。このため、インク組成物全体におけるイオン性不純物の含有量を低下させれば、析出物の発生がさらに抑えられると期待できるが、インク中、これらのイオン性物質のイオン量は比伝導度に影響する。上記観点から検討した結果、水相の比伝導度が好ましくは150μS/cm以下、より好ましくは100μS/cm以下であれば、析出物の発生が極めて少ないことも見出された。
【0020】
本実施の形態のエネルギー線硬化型インク組成物において、インク組成物中、イオンのイオン元素の含有率を上記範囲に調整するにあたっては、析出物発生の主たる原因と考えられるカーボンブラック顔料にイオン性不純物の少ないものを使用することが好ましい。特に、インクジェット用インクとして使用する場合、カーボンブラック顔料の含有量の範囲においては、比伝導度が80μS/cm以下、より好ましくは60μS/cm以下のフタロシアニン系顔料を使用することにより析出物の発生が抑えられる。
【0021】
イオン性不純物の少ないカーボンブラック顔料を得る方法としては、例えば市販のカーボンブラック顔料を蒸留水やイオン交換水で洗浄する方法が挙げられる。なお、カーボンブラック顔料の含有量が多い場合、水相中の1価の陽イオンの合計濃度、及び水相の比伝導度が増加するため、可能な限り比伝導度の低いカーボンブラック顔料を使用することが好ましい。
【0022】
次に、本実施の形態のエネルギー線硬化型インク組成物に用いられる各成分について具体的に説明する。
【0023】
本実施の形態で用いられるカーボンブラック顔料としては、製造方法で分類されるサーマルブラック、ファーネスフラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ランプブラック、カーボンチューブなど、また、表面官能基で分類される酸性カーボンブラック、中性カーボンブラック、塩基性カーボンブラックが挙げられる。具体的には、三菱化学社製のHCF、MCF、RCF、LFF、SCF、キャボット社製のモナーク、リーガル、デグサ・ヒュルス社製のカラーブラック、スペシャルブラック、プリンテックス、東海カーボン社製のトーカブラック、コロンビア社製のラヴェンなどが挙げられる。これらの中でも、三菱化学社製のHCF#2650、HCF#2600、HCF#2350、HCF#2300、MCF#1000、MCF#980、MCF#970、MCF#960、MCF88、LFFMA7、MA8、MA11、MA77、MA100、デグサジャパン社製のプリンテックス95、プリンテックス85、プリンテックス75、プリンテックス55、プリンテックス45、プリンテックス25、プリンテックスU、プリンテックスV、ColorBlackS160、ColorBlackS170、ColorBlackFW1、ColorBlackFW18、SpecialBlack4、SpecialBlack5、SpecialBlack6からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。これらは単独でも複数混合して使用してもよい。
【0024】
インク組成物中のカーボンブラック顔料の含有量としては、特に限定されるものではないが、インクジェットプリンタ用のインクとして使用する場合、インク組成物全体に対して、0.1〜10質量部が好ましく、0.5〜7質量部がより好ましい。
【0025】
カーボンブラック顔料の色調の制御や濃度の向上において、補色用顔料を含有してもよい。例えば、有機顔料としては、アゾ系、アゾメチン系、ポリアゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アンスラキノン系、インジゴ系、チオインジゴ系、キノフタロン系、ベンツイミダゾロン系、イソインドリン系、イソインドリノン系、ジアセトアセトアリライド系などが挙げられる。また、無機顔料としては、酸化チタン、亜鉛華、酸化亜鉛、トリポン、酸化鉄、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、カオリナイト、モンモリロナイト、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、カドミウムレッド、べんがら、モリブデンレッド、クロムバーミリオン、モリブデートオレンジ、黄鉛、クロムイエロー、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、チタンイエロー、酸化クロム、ピリジアン、コバルトグリーン、チタンコバルトグリーン、コバルトクロムグリーン、群青、ウルトラマリンブルー、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルー、マンガンバイオレット、コバルトバイオレット、マイカなどが用いられる。これらの顔料は、単独でも複数混合して使用してもよい。
【0026】
カーボンブラック顔料や補色用顔料の分散性向上のために、顔料誘導体を含有してもよい。例えば、顔料誘導体の種類としては、不溶性アゾ系、アゾレーキ系、縮合アゾ系などのアゾ系顔料誘導体や、アントラキノン系、フタロシアニン系、キナクリドン系、イソインドリノン系、ジオキサジン系、ペリレン系、ペリノン系、チオインジゴ系、ピロコリン系、フルオルビン系、キノフタロン系、ジケトピロロピロール系、アントラピリミジン系、アンサンスロン系、インダンスロン系、フラバンスロン系などの多環式顔料誘導体などが挙げられる。本実施の形態において、顔料誘導体とは、エネルギー線硬化型インクの製造に一般に用いられる通常のものを意味し、顔料分子または染料分子を母核とし、この母核に酸性基や塩基性基などの極性を有する官能基あるいは有機溶剤との親和性を向上する官能基を導入して得られる誘導体型の化合物を意味する。顔料誘導体に導入される官能基としては、塩素基、スルホン酸基、スルホン酸アミド基、カルボン酸基、カルボン酸アミド基、アミノ基、アミノメチル基、イミド基、イミドメチル基、フタルイミド基、フタルイミドメチル基、ニトロ基、シアノ基、リン酸基などが挙げられる。これらの官能基は単独でまたは複数含有されていてもよい。インク最終組成における顔料誘導体の含有量は、顔料や有機溶剤の種類、分散条件などにより異なるが、顔料100質量部に対して、0.1〜200質量部が好ましく、0.5〜200質量部がより好ましい。中でも、硫黄元素を含む誘導体については、インク中、硫黄元素の濃度を160ppm以下にすることが好ましい。
【0027】
重合性化合物には、その反応機構によりラジカル重合型とカチオン重合型があるが、それぞれの特徴と利用目的によって適宜、使い分ける事ができる。特にエチレン性二重結合を有する化合物が好ましい。
【0028】
ラジカル重合型のエネルギー線硬化性化合物に使用できる単官能(メタ) アクリレートとして例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、アミル、2 − エチルヘキシル、オクチル、ノニル、ドデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、シクロヘキシル、ベンジル、メトキシエチル、ブトキシエチル、フェノキシエチル、ノニルフェノキシエチル、グリシジル、ジメチルアミノエチル、ジエチルアミノエチル、イソボルニル、ジシクロペンタニル、ジシクロペンテニル、ジシクロペンテニロキシエチルなどの置換基を有する(メタ) アクリレートなどが挙げられる。
【0029】
また、多官能(メタ) アクリレートとしては例えば、1.3−ブチレングリコール、1.4−ブタンジオール、1.5−ペンタンジオール、3−メチル−1.5−ペンタンジオール、1.6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1.8−オクタンジオール、1.9−ノナンジオール、トリシクロデカンジメタノール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等のジ(メタ) アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール1モルに4モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA 1モルに2モルのエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン1モルに3 モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たトリオールのジまたはトリ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA 1モルに4モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールのポリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性リン酸(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性アルキルリン酸(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0030】
本発明のインク組成物に優れた硬化性を付与するためには、重合性化合物としてポリウレタン(メタ)アクリレートを含有させることが好ましい。ポリウレタン(メタ)アクリレートを含有する重合性化合物が良好な硬化性を示す理由は、一般的な(メタ)アクリレートの末端二重結合に比べて、ポリウレタン(メタ)アクリレートの末端二重結合は近傍にウレタン結合が在るために開裂しやすいためであると考えられる。また、ポリウレタンの特性に由来して耐摩耗性が良好となる。
【0031】
インクジェット用として使用するポリウレタン(メタ)アクリレートは、低粘度であるか、又は結晶性などでポリウレタン(メタ)アクリレート自体の粘度は高くとも、(メタ)アクリレートや有機溶剤で希釈されることによって容易に低粘度化することが必要である。このためには、長鎖ポリエーテル、ポリエステルなどのポリオールを使用せず、ポリイソシアネートとモノヒドロキシ(メタ)アクリレートを反応させたポリウレタン(メタ)アクリレートを用いることが望ましい。
【0032】
ポリウレタン(メタ)アクリレートは、本発明のジェットインク組成物の粘度、硬化性の点から、重合性化合物の総量に対して、2〜40%の範囲で用いることが好ましい。
本発明に使用するラジカル重合性ジェットインク用光重合開始剤は、用いる重合性化合物を硬化できる公知慣用のものがいずれも使用できるが、特に好適に使用することができる開始剤として、分子開裂型または水素引き抜き型の光重合開始剤がある。
【0033】
本発明に使用する光重合開始剤として、ベンゾインイソブチルエーテル、2.4−ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、ベンジル、2.4.6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル) −ブタン−1−オン、ビス(2 、6−ジメトキシベンゾイル)−2.4.4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシドなどが好適に用いられ、さらにこれら以外の分子開裂型のものとして、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1− オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オンおよび2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1− オンなどを併用しても良いし、更に水素引き抜き型光重合開始剤である、ベンゾフェノン、4−フェニルベンゾフェノン、イソフタルフェノン、4−ベンゾイル−4'−メチル−ジフェニルスルフィドなども併用できる。
【0034】
また上記光重合開始剤に対し、増感剤として例えば、トリメチルアミン、メチルジメタノールアミン、トリエタノールアミン、p−ジエチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、N.N−ジメチルベンジルアミンおよび4.4'−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンなどの、前述重合性成分と付加反応を起こさないアミン類を併用することもできる。もちろん、上記光重合開始剤や増感剤は、重合性化合物あるいはこれらよりなる組成物への溶解性に優れ、紫外線透過性を阻害しないものを選択して用いることが好ましい。 光重合開始剤と増感剤は重合性化合物総量に対して0.1〜20質量% 、好ましくは、7〜14質量%の範囲で用いる。
【0035】
本発明に使用するカチオン重合性化合物としては、各種公知のカチオン重合性のモノマーを使用することができる。例えば、エポキシ化合物、ビニルエーテル化合物、オキセタン化合物などが挙げられる。
【0036】
芳香族エポキシドとして好ましいものは、例えばビスフェノールA あるいはそのアルキレンオキサイド付加体のジまたはポリグリシジルエーテル、水素添加ビスフェノールA あるいはそのアルキレンオキサイド付加体のジまたはポリグリシジルエーテル、ならびにノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0037】
脂肪族エポキシドとしては、例えばエチレングリコールのジグリシジルエーテル、プロピレングリコールのジグリシジルエーテルまたは1 , 6−ヘキサンジオールのジグリシジルエーテル等のアルキレングリコールのジグリシジルエーテル、グリセリンあるいはそのアルキレンオキサイド付加体のジまたはトリグリシジルエーテル等の多価アルコールのポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールあるいはそのアルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールあるいはそのアルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテル等のポリアルキレングリコールのジグリシジルエーテル等が挙げられる。ここでアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイド等が挙げられる。
【0038】
ビニルエーテル化合物としては、例えばエチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル等のジ又はトリビニルエーテル化合物、エチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、イソプロペニルエーテル−O−プロピレンカーボネート、ドデシルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル等のモノビニルエーテル化合物等が挙げられる。
【0039】
オキセタン化合物としては、例えばオキセタン環を有する化合物のことであり、3−ヒドロキシメチル−3−メチルオキセタン、3−ヒドロキシメチル−3−エチルオキセタン、3−ヒドロキシメチル−3−プロピルオキセタン、3−ヒドロキシメチル−3−ノルマルブチルオキセタン、3−ヒドロキシメチル−3−フェニルオキセタン、3−ヒドロキシメチル−3−ベンジルオキセタン、3−ヒドロキシエチル−3−メチルオキセタン、3−ヒドロキシエチル−3−エチルオキセタン、3−ヒドロキシエチル−3−プロピルオキセタン、3−ヒドロキシエチル−3−フェニルオキセタン、3−ヒドロキシプロピル−3−メチルオキセタン、3−ヒドロキシプロピル−3−エチルオキセタン、3−ヒドロキシプロピル−3−プロピルオキセタン、3−ヒドロキシプロピル−3−フェニルオキセタン、3−ヒドロキシブチル−3−メチルオキセタンなどを挙げることができる。
【0040】
本発明において、反応性や、塗膜の収縮、粘度調整の観点から、光重合性化合物として少なくとも1 種のオキセタン化合物と、エポキシ化合物及びビニルエーテル化合物から選ばれる少なくとも1 種の化合物とを含有することが好ましい。
【0041】
本発明に使用できる光カチオン重合開始剤としては、従来より知られている化合物であれば特に限定することなく使用できるが、例えば芳香族ヨードニウム錯塩や芳香族スルホニウム錯塩などを挙げることができ、これらの1種を単独で使用してもよいが、2 種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。またその添加量は、エネルギー線硬化性カチオンモノマーの総重量に対して例えば0.01〜20重量% 、特に0.1〜10重量%の範囲で使用するのが好ましい。
【0042】
芳香族ヨードニウムの具体例としては、ジフェニルヨードニウム、4−メトキシジフェニルヨードニウム、ビス( 4−メチルフェニル) ヨードニウム、ビス( 4−t e r t−ブチルフェニル)ヨードニウム、ビス( ドデシルフェニル)ヨードニウム等が挙げられる。また、芳香族スルホニウムの具体例としては、トリフェニルスルホニウム、ジフェニル−4−チオフェノキシフェニルスルホニウム、ビス[ 4−(ジフェニルスルフォニオ)−フェニル] スルフィド、ビス[ 4−(ジ(4−(2−ヒドロキシエチル)フェニル)スルホニオ)−フェニル]スルフィド、η5−2,4−(シクロペンタジェニル)[1,2,3,4,5,6−η]−(メチルエチル)−ベンゼン]−鉄(1+)等が挙げられる。
【0043】
錯塩を形成するカウンタアニオンの具体例としては、テトラフルオロボレート(BF4-)、ヘキサフルオロホスフェート(PF6-)、ヘキサフルオロアンチモネート(SbF6-) 、ヘキサフルオロアルセネート(AsF6-)、ヘキサクロロアンチモネート(SbCl6-)などが挙げられる。
【0044】
(ゲル化防止剤)
本発明のインク組成物は、ゲル化防止剤の少なくとも一種を含有することができる。
前記ゲル化防止剤としては、フェノール系水酸基含有化合物、およびキノン類、N −オキシド化合物類、ピペリジン−1−オキシルフリーラジカル化合物類、ピロリジン−1−オキシルフリーラジカル化合物類、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン類、およびカチオン染料類からなる群より選択される化合物が好適に挙げられる。
【0045】
具体的には、ハロイドキノン、p−メトキシフェノール、ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ピロガロール、レゾルシノール、カテコール、t − ブチルカテコール、ハイドロキノンモノアルキルエーテル( 例えば、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ハイドロキノンモノブチルエーテル等) 、ベンゾキノン、4,4−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール) 、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2,6,6−テトラメチルピペリジンおよびその誘導体、ジ−t−ブチルニトロキシド、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシドおよびその誘導体等、ピペリジン 1−オキシルフリーラジカル、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン− オキシルフリーラジカル、4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン 1−オキシルフリーラジカル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン 1−オキシルフリーラジカル、4−アセトアミド−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン 1−オキシルフリーラジカル、4−マレイミド−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン 1−オキシルフリーラジカル、4−ホスホノキシ− 2,2,6,6−テトラメチルピペリジン 1−オキシルフリーラジカル、3−カルボキシ−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン 1−オキシルフリーラジカル、N− ニトロソフェニルヒドロキシルアミン第一セリウム塩、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩、クリスタルバイオレット、メチルバイオレット、エチルバイオレット、およびビクトリアピュアブルーBOH 等が挙げられる。
【0046】
また、本実施の形態において、インク組成物は、ゲル化防止剤として、2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル基を有するヒンダードアミン系化合物を含有する。高硬化感度の重合性化合物及び光重合開始剤とともに、上記ヒンダードアミン系化合物をゲル化防止剤として使用すれば、インク組成物の硬化感度を低下させることなく、保存安定性に優れたインク組成物を得ることができる。上記ゲル化防止剤としては、具体的には、例えば、ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニ−4−イル)セバケート、デカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル−1−(オクチルオキシ)−4−ピペリジニル)エステルなどが挙げられ、これらの中でも、1−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル基を有するビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニ−4−イル)セバケートが好ましい。市場で入手可能なゲル化防止剤としては、チバ社製のIRGASTAB UV−10、TINUVIN 123などが挙げられる。
【0047】
インク組成物中の上記ゲル化防止剤の量は、特に限定されるものではないが、組成物全体に対して、0.01〜3質量%が好ましく、0.05〜2質量%がより好ましい。ゲル化防止剤の量が0.01質量%未満では、保存時に発生するラジカルを十分に捕捉することができず、保存安定性が低下する傾向がある。一方、ゲル化防止剤の量が3質量%より多い場合、ラジカルを捕捉する効果が飽和するとともに、エネルギー線照射時の重合反応が阻害される傾向がある。
【0048】
エネルギー線硬化型インク組成物は、他のヒンダードアミン系安定化剤や、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、ハイドロキノンモノアルキルエーテルなどの従来公知のゲル化防止剤をさらに含有してもよい。このようなゲル化防止剤としては、具体的には、例えば、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ハイドロキノン、t−ブチルカテコール、ピロガロール、チバ社製のTINUVIN 111 FDL、TINUVIN 144、TINUVIN 292、TINUVIN XP40、TINUVIN XP60などが挙げられる。インク組成物中のこれらゲル化防止剤の量は、特に限定されるものではないが、組成物全体に対して、0.1〜4質量%が好ましい。
【0049】
顔料分散剤としては、イオン性または非イオン性の界面活性剤や、アニオン性、カチオン性またはノニオン性の高分子化合物が好ましく用いられる。これらの中でも、分散安定性、耐水性、耐搾過性などの観点から、カチオン性基またはアニオン性基を有する高分子化合物がより好ましい。上記のような顔料分散剤としては、具体的には、例えば、日本ルーブリゾール社製のSOLSPERSE、ビックケミー社製のDISPERBYK、エフカアディティブズ社製のEFKAなどが挙げられる。
【0050】
本実施の形態のエネルギー線硬化型インク組成物は、カーボンブラック顔料、重合性化合物のほかに、必要により、任意成分として、有機溶媒、顔料分散剤、定着性樹脂、界面活性剤、表面調整剤、レベリング剤、消泡剤、酸化防止剤、pH調整剤、電荷付与剤、殺菌剤、防腐剤、防臭剤、電荷調整剤、湿潤剤、皮はり防止剤、紫外線吸収剤、香料、顔料誘導体など、公知の添加剤を配合してもよい。
【0051】
本実施の形態のエネルギー線硬化型インク組成物を調製する方法としては、従来公知の方法を使用することができる。好ましい調製方法としては、以下の調製方法が挙げられる。
【0052】
<エネルギー線硬化型インク組成物の調整方法>
まず、カーボンブラック顔料と、高分子化合物(顔料分散剤)と、重合性化合物、重合性禁止剤の一部と、必要により他の任意成分とを、分散して顔料分散体を調製する。分散機としては、ボールミル、遠心ミル、遊星ボールミル、ペイントシェイカーなどの容器駆動媒体ミル;サンドミルなどの高速回転ミル;撹拌槽型ミルなどの媒体撹拌ミル;ディスパーなどが挙げられる。エネルギー線硬化型インク顔料分散体の顔料濃度は、特に限定されるものではないが、10〜50質量%が好ましい。
【0053】
次に、得られた顔料分散体に、さらに残りの重合性化合物、重合性禁止剤、重合性開始剤とを添加し、撹拌機を用いて均一に混合する。撹拌機としては、具体的には、例えば、スリーワンモーター、マグネチックスターラー、ディスパー、ホモジナイザーなどが挙げられる。また、ラインミキサーなどの混合機を用いてもよい。さらに、インク組成物中の粒子をより微細化する目的で、ビーズミルや高圧噴射ミルなどの分散機を用いてもよい。さらに、混合後、顔料の粗大粒子を除去する目的で、遠心分離機、フィルタ、クロスフローなどの分級処理を行ってもよい。
【0054】
このようにして調製されるエネルギー線硬化型インク組成物は、20〜40mN/m(25℃)の表面張力を有することが好ましく、また5〜40mPa・s(25℃)の粘度を有することが好ましい。表面張力及び粘度を上記範囲内に設定すると、インクジェット用インクとして用いた場合、ジェット曲がりなどが少ない優れた噴射性が得られるとともに、普通紙、マット紙などの基材に印字した際の滲みを抑えることができる。また、エネルギー線硬化型インク組成物中のカーボンブラック顔料の分散平均粒子径は20〜250nmが好ましく、50〜160nmがより好ましい。分散平均粒子径が20nm未満となると、粒子が細かいために、印字物の耐光性が低下する場合がある。一方、分散平均粒子径が 250nmを超えると、印字物の精細さが低下する場合がある。さらに、目詰まりを防止するため、最大分散粒子径は、1,000nm以下が好ましい。なお、上記した表面張力、粘度、分散平均粒子径、及び最大分散粒子径は、各成分の種類及び含有量を変更することにより容易に調整することができる。
【0055】
以下実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものでない。以下において、「部」とあるのは「質量部」を意味する。なお、下記実施例で使用した器具は、イオン性物質の影響を除外するため全て純水により予め洗浄したものを用いた。
【実施例】
【0056】
<カーボンブラック顔料の調製>
市販のカーボンブラック顔料(三菱化学(株)製MA8、灰分1.8質量%)100部と、純水(イオン濃度:0ppm)1000部とを、3,000ccのプラスチック製ディスポカップに投入し、これをディスパーにより室温(25℃)で10分間撹拌し、混合液をろ紙(孔径:1μm)を用いて吸引ろ過、脱水、乾燥、粉砕する洗浄方法と、種々のイオン交換方法にて調整し、洗浄工程の異なるカーボンブラック顔料(a)〜(h)を調製した。尚、(i)は未洗浄品である。
【0057】
上記のようにして得られた各カーボンブラック顔料中のアルカリ金属類および硫黄元素の濃度は、以下により測定した。表1はこの結果を示す。
【0058】
<カーボンブラック顔料中のアルカリ金属類および硫黄元素の濃度>
カーボンブラック顔料の試料0.3gを精秤し、混酸10ml入れる。これを加熱して乾固手前まで煮沸した後、純水5mlを加えて再溶解加熱する。その後冷却、ろ過したものを25mlメスフラスコに所定量採って、原子吸光分光光度計(日立Z-8100)で測定した。
【0059】
【表1】

【0060】
<インクの調製>
(実施例1)
250ccのプラスチック製ビンに、下記表2に示す配合量で各成分を計り取り、これにジルコニアビーズ(直径:0.3mmφ)100部を加えてペイントコンディショナー(東洋精機社製)により、4時間分散して顔料分散体(1)を調製した。
【0061】
【表2】

【0062】
次に、100ccのプラスチック製ビンに、下記表3に示す配合量で各成分を計り取り、溶媒をマグネチックスターラーにより30分間撹拌した後、グラスフィルタ(桐山製作所製)を用いて吸引ろ過を行い、インクを調製した(カーボンブラック顔料の含有量:4部)。
【0063】
【表3】

【0064】
(実施例2)
実施例1において、顔料としてカーボンブラック顔料(b)を用いた以外は、実施例1と同様にして顔料分散体(2)を調製した。この顔料分散体(2)を用いた以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した(カーボンブラック顔料の含有量:4部)。
【0065】
(実施例3)
実施例1において、顔料としてカーボンブラック顔料(c)を用いた以外は、実施例1と同様にして顔料分散体(3)を調製した。この顔料分散体(3)を用いた以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した(カーボンブラック顔料の含有量:4部)。
【0066】
(実施例4)
実施例1において、顔料としてカーボンブラック顔料(a)を30部用いた以外は、実施例1と同様にして顔料分散体(4)を調製した。この顔料分散体(4)を用いた以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した(カーボンブラック顔料の含有量:8.6部)。
【0067】
(実施例5)
実施例1において、顔料としてカーボンブラック顔料(d)を用いた以外は、実施例1と同様にして顔料分散体(5)を調製した。この顔料分散体(5)を用いた以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した(カーボンブラック顔料の含有量:4部)。
【0068】
(実施例6)
実施例1において、顔料としてカーボンブラック顔料(三菱化学(株)製MCF#970、灰分0.25質量%)を10部用いた以外は、実施例1と同様にして顔料分散体(6)を調製した。この顔料分散体(6)を用いた以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した(カーボンブラック顔料の含有量:4部)。
【0069】
(実施例7)
実施例1において、顔料としてカーボンブラック顔料(デグサジャパン社製ColorBlackS170、灰分0.02質量%)を10部用いた以外は、実施例1と同様にして顔料分散体(7)を調製した。この顔料分散体(7)を用いた以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した(カーボンブラック顔料の含有量:4部)。
【0070】
(実施例8)
実施例1において、顔料誘導体(日本ルーブリゾール社製、SOLSPERSE5000)を0.5部追加した以外は、実施例1と同様にして顔料分散体(8)を調製した。この顔料分散体(8)を用いた以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した(カーボンブラック顔料の含有量:4部)。
【0071】
(比較例1)
実施例1において、顔料としてカーボンブラック顔料(e)を用いた以外は、実施例1と同様にして顔料分散体(9)を調製した。この顔料分散体(9)を用いた以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した(カーボンブラック顔料の含有量:4部)。
【0072】
(比較例2)
実施例1において、顔料としてカーボンブラック顔料(f)を用いた以外は、実施例1と同様にして顔料分散体(10)を調製した。この顔料分散体(10)を用いた以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した(カーボンブラック顔料の含有量:4部)。
【0073】
(比較例3)
実施例1において、顔料としてカーボンブラック顔料(g)を用いた以外は、実施例1と同様にして顔料分散体(11)を調製した。この顔料分散体(11)を用いた以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した(カーボンブラック顔料の含有量:4部)。
【0074】
(比較例4)
実施例1において、顔料としてカーボンブラック顔料(h)を用いた以外は、実施例1と同様にして顔料分散体(12)を調製した。この顔料分散体(12)を用いた以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した(カーボンブラック顔料の含有量:4部)。
【0075】
(比較例5)
実施例1において、顔料としてカーボンブラック顔料(i)を用いた以外は、実施例1と同様にして顔料分散体(13)を調製した。この顔料分散体(13)を用いた以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した(カーボンブラック顔料の含有量:4部)。
以上のようにして調製した実施例及び比較例の各インクについて以下の評価を行った。
【0076】
<インクのアルカリ金属類および硫黄元素の濃度>
各インクをスポイトでアルミ箔製の試料皿に滴下して、岩崎電気(株)製UV照射装置を用いて紫外線を500mJ/cm(365nm感度ピークの照度計にて測定時)の積算光量で照射して塗膜を硬化させた。硬化後の塗膜を試料皿から剥離して0.3gを精秤する。これを前述した方法で含有量を測定した。得られた各インク中のアルカリ金属類および硫黄元素の濃度を、下記表4に示す。
【0077】
【表4】

【0078】
<保存安定性>
インクを30ccのガラスビンに充填し、これを60℃の恒温槽に28日間保存する高温加速試験を行った。保存後、インク中析出物の発生の有無について、グラスファイバー製のろ紙GFP(桐山製作所社製,捕捉粒子:0.8μm)を用いてインクを吸引ろ過し、ろ紙上の残留物の状態を目視により観察し、以下の基準により保存安定性を評価した。
◎:残留物なし
○:わずかに残留物あり
△:残留物あり
×:多量の残留物あり
【0079】
<プリンタ連続印刷性>
インクジェットプリンタDMP−2831(富士フィルム(株)製)を用いて、製造直後のインクの吐出性を確認するため、インクタンクにインクを充填してA4サイズのPETシートに100枚連続で全面に印字し、連続印刷試験を行った。次に、長期保存後のインクの吐出性を確認するため、インクタンクに上記の保存安定性の評価を行ったエネルギー線硬化型インクを充填して、同様にして連続印刷試験を行った。
各試験における連続印刷中のインクの吐出状態を確認し、以下の基準によりプリンタ運転性を評価した。
◎:吐出不良が全くなく、極めて安定した吐出状態である
○:わずかにサテライト滴が発生するが、安定した吐出状態である
△:サテライト滴が発生し、やや不安定な状態である
×:印字抜けやサテライト滴が多発し、不安定な状態である
【0080】
下記表5に各実施例及び比較例で使用したカーボンブラック顔料の種類と、評価結果を併せて示す。
【0081】
【表5】

【0082】
上記表5に示すように、エネルギー線硬化型インクにおいて、アルカリ金属とアルカリ土類金属との合計のインク中の濃度が18ppm以下であり、かつ、硫黄元素のインク中の濃度が160ppm以下であるインクは、保存後でも析出物の生成がなく、連続印刷でも安定して吐出可能なインクであることが分かる。これは、インク中に析出物を発生させるナトリウムイオンおよびカリウムイオンなど陽イオンが少なく、また硫黄元素を含む陰イオンも少なく、インク全体におけるイオン性物質の量が少ないため、造塩反応による析出物発生が少ないためと考えられる。また、カーボンブラック顔料の含有量が多くても、アルカリ金属とアルカリ土類金属との合計のインク中の濃度が18ppm以下であれば、析出物の発生が抑えられていることが分かる。
【0083】
これに対して、アルカリ金属とアルカリ土類金属との合計のインク中の濃度が18ppmより多く含有する比較例のインク、および/または硫黄元素のインク中の濃度が160ppmより多く含有する比較例のインクは、析出物が発生し、保存安定性、プリンタ連続印刷性に劣ることが分かる。このため、これらのインクは保存後に大孔径のフィルタに対しても、目詰まりが生じることが分かる。また、カーボンブラック顔料の洗浄を行い、インク中のナトリウムイオン及びカリウムイオンの濃度を低下させても、これらの合計濃度が18ppmを超える場合、析出物が発生することが分かる。さらに、同じカーボンブラック顔料を用い、含有量を少なくしても、アルカリ金属とアルカリ土類金属の合計含有量が18ppmより多いと、析出物が発生することが分かる。なお、従来の保存安定性を改善したインクでも、アルカリ金属とアルカリ土類金属の合計が高い場合、同様に析出物が発生し、保存安定性に劣ることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラック顔料、重合性化合物、分散剤、重合開始剤を少なくとも含むエネルギー線硬化型インク組成物において、アルカリ金属とアルカリ土類金属との合計のインク中の濃度が18ppm以下であり、かつ、硫黄元素のインク中の濃度が160ppm以下であるエネルギー線硬化型インク組成物。

【公開番号】特開2011−195596(P2011−195596A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60243(P2010−60243)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】