説明

エネルギー線硬化型樹脂組成物及びそれを用いた塗料

【課題】 靴墨、毛染め液等の除去し難い汚れでもアルコールだけで除去することが可能な塗膜を与える塗料、及びこれに用いられるエネルギー線硬化型樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 脂環構造を有するポリイソシアネート(A)と、分子内に1個以上の水酸基を含有する(メタ)アクリレート系化合物(B)とを反応させて得られるウレタンアクリレートを含有するものとする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、エネルギー線の照射によって硬化可能なエネルギー線硬化型樹脂組成物及びそれを用いた塗料に関する。
【0002】
【従来の技術】従来の床や壁に代表される建材用途や、各種構造物、成型物は、基材を保護し、美観を保つために、塗料でコーティングするのが一般的である。
【0003】塗料としては、従来は合成樹脂を溶剤で溶解させた溶剤タイプが一般的であったが、作業環境の改善や、火気に対する危険防止等の点から、エネルギー線照射によって硬化可能な樹脂を用いたエネルギー線硬化型の塗料が種々開発され、化粧板のコーティング、木工塗料、紙コーティング、レジスト用材料、接着剤等の幅広い分野で実用化されている。
【0004】かかるコーティング用途に対する重要な要求性能の一つに耐汚染性が挙げられ、エネルギー線硬化型塗料においても、付着した汚れを除去し易くするため、フッ素系表面改質剤を併用するもの(特開平11−269287号)、紫外線硬化型シリコーン樹脂を併用するもの(特開平11−29720号)、特定の構造を有する化合物を使用するもの(特開2000−34334号、特開平8−217840号)等、様々なタイプの塗料が提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このようなエネルギー線硬化型の塗料による塗膜においては、油性インキ等の比較的落ち易い汚染物質の除去は可能であったが、靴墨、毛染め液等の落ち難い汚染物質の除去は困難であった。また、特開平8−259644号で開示されているものは、靴墨による汚染に対しても対応可能であるが、その除去にはアルコール、石油、ベンゼンで順次処理する必要があり、その性能は十分ではなかった。そこで、靴墨、毛染め液等の塗膜に浸透し易く、除去し難い汚染物質をアルコールだけで簡単に除去できる塗膜を与える、エネルギー線硬化型塗料が望まれているのが実状である。
【0006】本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、靴墨、毛染め液等の落ち難い汚れでもアルコールだけで除去することが可能な塗膜を与える塗料、及びこれに用いられるエネルギー線硬化型樹脂組成物を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】請求項1のエネルギー線硬化型樹脂組成物は、上記の課題を解決するために、脂環構造を有するポリイソシアネート(A)と、分子内に1個以上の水酸基を含有する(メタ)アクリレート系化合物(B)とを反応させて得られるウレタンアクリレートを含有するものとする。
【0008】上記エネルギー線硬化型樹脂組成物において、ウレタンアクリレートは、前記(A)成分と(B)成分とを、(A)成分中のイソシアネート基と(B)成分中の水酸基のモル比が1.00/1.00〜1.00/1.20の範囲となる割合で反応させたものであることが好ましい(請求項2)。
【0009】上記エネルギー線硬化型樹脂組成物は、光重合開始剤をさらに含有するものとすることができる(請求項3)。
【0010】本発明の塗料は、上記いずれかのエネルギー線硬化型樹脂組成物を用いてなるものとする(請求項4)。
【0011】
【発明の実施の形態】本発明で用いる、脂環構造を有するポリイソシアネート(A)の例としては、水添ジフェニルメタンジイソシアナート(水添MDI)、イソホロンジイソシアネート等が挙げられ、これらは単独で使用してもよく、複数種併用することもできる。
【0012】また、水酸基含有(メタ)アクリレート(B)の好適な例としては、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、カプロラクトン変性2−ヒドロキシエチルアクリレート、ポリエチレングリコールモノアクリル酸エステル、ポリプロピレングリコールモノアクリル酸エステル、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートが挙げられる。中でも、2−ヒドロキシエチルアクリレート及び2−ヒドロキシプロピルアクリレートが好適に用いられる。これらは単独で使用してもよく、複数種併用することもできる。
【0013】上記(A)成分と(B)成分は、(A)成分中のイソシアネート基と(B)成分中の水酸基とのモル比(NCO/OH)が1.00/1.00〜1.00/1.20の範囲、好ましくは、1.00/1.00〜1.00/1.05の範囲となる割合で反応させる。水酸基のモル比がイソシアネート基のモル比に対して1.00未満の場合は、残存するイソシアネートが耐汚染性を阻害し、一方、水酸基のモル比がイソシアネートのモル比に対して1.20より大きい場合は、過剰な水酸基が耐汚染性を阻害する。
【0014】上記ウレタンアクリレートは、公知の方法で合成することが可能であり、例えば、所定量の(A)成分と(B)成分を一括で仕込み、ハイドロキノンモノメチルエーテル等の重合開始剤の存在下、70〜80℃で遊離イソシアネートがなくなるまで加温・撹拌することにより得られる。
【0015】また、本発明の樹脂組成物を塗料化する場合は、酢酸エチル、メチルエチルケトン等の有機溶剤及びモノマー類で希釈することができ、モノマーで希釈する場合は、ウレタンアクリレートとモノマーの総和中のウレタンアクリレートの含有率を50重量%以上にすることが好ましい。
【0016】希釈に用いるモノマー類としては、公知慣用のものが使用可能であるが、中でも代表的なものとして、2−エチルへキシルアクリレート、スチレン、メチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、EO変性ビスフェノールジ(メタ)アクリレート、PO変性ビスフェノールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリス((メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。
【0017】本発明のエネルギー線硬化型樹脂組成物には、必要に応じて光重合開始剤を添加する。
【0018】光重合開始剤の種類は特に限定されず、公知のものが使用可能であるが、代表的な例としては、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾフェノン等が挙げられる。これらを単独で用いても、複数種併用してもよい。
【0019】また、光重合開始剤を使用する場合のその添加量は、ウレタンアクリレートと上記必要に応じて用いられるモノマーとの総和に対し、1〜10重量%程度であり、約3〜5重量%が好ましい。
【0020】さらに、本発明のエネルギー線硬化型樹脂組成物には、必要に応じて、光安定剤、紫外線吸収剤、触媒、着色剤、帯電防止剤、滑剤、レベリング剤、消泡剤、重合促進剤、酸化防止剤、難燃剤、赤外線吸収剤、界面活性剤、表面改質剤等を添加することができる。
【0021】なお、本発明のエネルギー線硬化型樹脂組成物を硬化させるエネルギー線源は特に限定されないが、例としては、高圧水銀灯、電子線、γ線、カーボンアーク灯、キセノン灯、メタルハライド灯が挙げられる。
【0022】
【実施例】以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下において、配合比率及び「%」は、特に断らない限り、すべて重量基準であるものとする。
【0023】[合成例1]フラスコにイソホロンジイソシアネート222g(1モル)、2−ヒドロキシプロピルアクリレート286g(2.2モル)、及びハイドロキノンモノメチルエーテル0.25gを仕込み、70〜80℃の条件にて残存イソシアネート濃度が0.1%になるまで反応させ、ウレタンアクリレートCを得た。
【0024】[合成例2]フラスコに水添MDI262g(1モル)、2−ヒドロキシエチルアクリレート243.6g(2.1モル)及びハイドロキノンモノメチルエーテル0.25gを仕込み、合成例1と同様にして反応させ、ウレタンアクリレートDを得た。
【0025】[比較合成例1]フラスコにヘキサメチレンジイソシアネート168g(1モル)、2−ヒドロキシプロピルアクリレート267.8g(2.06モル)及びハイドロキノンモノメチルエーテル0.22gを仕込み、合成例1と同様にして反応させ、ウレタンアクリレートEを得た。
【0026】[比較合成例2]フラスコにポリプロピレングリコール(分子量:2000)500g(0.25モル)及びイソホロンジイソシアネート111g(0.5モル)を仕込み、70〜80℃の条件にて残存イソシアネート濃度が3.4%になるまで反応させ、2−ヒドロキシプロピルアクリレート67.6g(0.52モル)及びハイドロキノンモノメチルエーテル0.34gを添加後、さらに70〜80℃の条件にて残存イソシアネート濃度が0.1%になるまで反応させ、ウレタンアクリレートFを得た。
【0027】以上の合成例及び比較合成例の、(A)成分及び(B)成分の種類とNCO/OH比を表1に示す。
【0028】
【表1】


【0029】[実施例1,2、比較例1,2]上記合成例及び比較合成例で得られたウレタンアクリレート、光重合開始剤としての1−ヒドロキシシクロへキシルフェニルケトン(イルガキュア184、チバガイギー社製)、及び希釈溶剤としての酢酸エチルを表2に示す比率で配合して均一に溶解させ、計4種の樹脂組成物を調製した。
【0030】得られた樹脂組成物について、以下の要領で硬化性及び耐汚染性を調べた。結果を表2に併記する。
【0031】・硬化性各樹脂組成物をガラス板上に100μのアプリケータで塗布し、80℃のオーブンにて30分間乾燥したものを供試体とし、80W/cmの高圧水銀灯を用いて、塗膜の表面タックが無くなるまでに要する積算照度(mJ/cm)を求めた。
【0032】・耐汚染性各樹脂組成物をガラス板上に100μのアプリケータで塗布し、80℃のオーブンにて30分間乾燥したものを、80W/cmの高圧水銀灯を用いて、200mJ/cmの積算照度で硬化させたものを供試体とし、4種の汚染物質(油性インキ(黒、赤)、靴墨、毛染め液)にて硬化塗膜表面を汚染させ、24時間放置後、エタノールにて拭き取り、表面状態を目視にて観察した。汚染がほぼ除去されているものを○、汚染の残存が著しいものを×とした。
【0033】
【表2】


【0034】表2から分かるように、実施例1,2のものが硬化性及び耐汚染性に優れた塗膜を与えるのに対し、脂環式ポリイソシアネートを用いていないもの(比較例1)の塗膜では、油性インキのような除去し易い汚染物質は除去可能であるが、靴墨、毛染め液の除去は困難であった。また、脂環式ポリイソシアネートを用いていてもウレタンアクリレート骨格中に水酸基含有(メタ)アクリレート以外のポリオールを併用したもの(比較例2)は、耐汚染性だけでなく硬化性も劣っていた。
【0035】
【発明の効果】本発明のエネルギー線硬化型樹脂組成物によれば、硬化性に優れ、かつ、靴墨、毛染め液のような除去し難い汚染でもアルコールのみで簡単に除去できる塗膜を与える塗料が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】脂環構造を有するポリイソシアネート(A)と、分子内に1個以上の水酸基を含有する(メタ)アクリレート系化合物(B)とを反応させて得られるウレタンアクリレートを含有する、エネルギー線硬化型樹脂組成物。
【請求項2】前記ウレタンアクリレートが、前記(A)成分と(B)成分とを、(A)成分中のイソシアネート基と(B)成分中の水酸基のモル比が1.00/1.00〜1.00/1.20の範囲となる割合で反応させたものであることを特徴とする、請求項1に記載のエネルギー線硬化型樹脂組成物。
【請求項3】光重合開始剤をさらに含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のエネルギー線硬化型樹脂組成物。
【請求項4】請求項1〜3のいずれか1項に記載のエネルギー線硬化型樹脂組成物を用いてなる塗料。

【公開番号】特開2002−226519(P2002−226519A)
【公開日】平成14年8月14日(2002.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−27414(P2001−27414)
【出願日】平成13年2月2日(2001.2.2)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】