説明

エノンレダクターゼ遺伝子およびレボディオンの微生物産生

エノンレダクターゼ活性を有する酵素をコードするヌクレオチド配列を含む単離されたDNAが開示され、ここで、この酵素は以下の物理化学的特性によって特徴付けられる:(a)分子量:61,300±5,000Da(ゲル濾過を用いて推定;1つのサブユニットからなる);(b)補因子:NADPHおよびNADH;(c)基質特異性:α,β-不飽和ケトンに対して活性;(d)最適温度:pH 7.4で55℃〜60℃;および(e)最適pH:pH 4.5〜pH 8.5。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エノンレダクターゼをコードするDNA、そのDNAを含む発現ベクター、そのDNAが導入された微生物、およびその微生物を使用して2,6,6-トリメチル-2-シクロヘキセン-1,4-ジオン(以降、ケトイソフォロンと呼ぶ)から(6R)-2,2,6-トリメチル-1,4-シクロヘキサンジオン(以降、レボディオン(levodione)と呼ぶ)を産生するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レボディオンは、ゼアキサンチンのような光学活性カロテノイドの合成において有用な中間体である。ケトイソフォロンからレボディオンを産生する微生物学的方法が知られている(米国特許第4,156,100号)。ケトイソフォロンに作用してレボディオンを産生するエノンレダクターゼが、カンジダ・ケフィル(Candida kefyr)から単離され、2002年2月22日に出願された欧州特許出願第02003967.3号において記載された。この酵素は以下の物理化学的特性によって特徴付けられる。
(a)分子量:61,300±5,000Da(ゲル濾過を用いて推定;1つのサブユニットからなる)
(b)補因子:NADPHおよびNADH
(c)基質特異性:α,β-不飽和ケトンに対して活性
(d)最適温度:pH 7.4で55℃〜60℃
(e)最適pH:pH 4.5〜pH 8.5
【0003】
本明細書で使用される「エノンレダクターゼ」という用語は、Nomenclature Committee of the International Union of Biochemistry and Molecular Biology (NC-IUBMB) によって提供される酵素命名法に従って、カルボニル活性化された二重結合の酵素的還元を触媒するタンパク質を含む。この用語はまた、エノンレダクターゼの上述の活性を有するタンパク質に関し、このタンパク質は好ましくはケトイソフォロンのレボディオンへの転換を触媒する。レボディオンの生合成に関与するエノンレダクターゼの遺伝子は、微生物によるレボディオン産生性の改善のために非常に有用と考えられる。
【発明の開示】
【0004】
本発明は、エノンレダクターゼをコードする単離されたDNA配列を提供する。
【0005】
単離されたDNA配列は、以下の点においてより具体的に特徴付けられ得る:(a)SEQ ID NO:2に記載されるアミノ酸配列を有する酵素をコードする;または(b)(i)対立遺伝子変異体ならびに(ii)1つもしくは複数のアミノ酸の付加、挿入、欠失、および/もしくは置換を有しかつ所定の酵素活性を有する酵素から選択される酵素の変異体をコードする。
【0006】
より詳細には、本発明は、Candida kefyr(カンジダ・マケドニエンシス(Candida macedoniensis))IFO 0960の遺伝子に由来する単離されたDNA配列であって、(i)SEQ ID NO:1に示されるDNA配列、(ii)SEQ ID NO:1に示されるDNA配列のイソコード(isocoding)または対立遺伝子変異体、(iii)1つまたは複数のヌクレオチドの付加、挿入、欠失、および/または置換を有し、かつ酵素活性を有するポリペプチドをコードする、SEQ ID NO:1に示されるDNA配列の誘導体、(iv)ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で(i)または(ii)のヌクレオチド配列の相補物にハイブリダイズし、かつ酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA配列、ならびに(v)(i)のヌクレオチド配列に少なくとも80%同一であり、かつ酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA配列から選択される単離されたDNA配列を提供する。
【0007】
Candida kefyr(Candida macedoniensis)IFO 0960株は、財団法人発酵研究所(Institute for Fermentation Osaka(IFO))(日本国、532-8686、大阪市淀川区十三本町2-17-85)から公的に利用可能である。
【0008】
ハイブリダイゼーションによってDNA配列を同定するための手順は当業者に周知である。ハイブリダイゼーションはストリンジェントな条件下で行われ得、プローブと標的配列、すなわちプローブで処理されたポリヌクレオチドが少なくとも70%同一であるハイブリッドのみが形成される。洗浄工程を含む、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーは、緩衝液組成、温度、および塩濃度を変化させることによって影響され、または決定されることが知られている。ハイブリダイゼーション反応は、好ましくは、洗浄工程と比較して相対的に低いストリンジェンシー下で実行される。
【0009】
例えば約50℃〜68℃の5×SSC緩衝液が、ハイブリダイゼーション反応のために利用され得る。ここでプローブは、プローブ配列との同一性が70%未満であるポリヌクレオチドともハイブリダイズし得る。このようなハイブリッドは安定性が低く、ストリンジェントな条件下における洗浄によって除去される。これは、例えば、約50℃〜68℃に確立された温度において塩濃度を2×SSCまで下げ、続いて0.5×SSCまで下げることによって達成され得る。必要に応じて塩濃度を0.1×SSCまで下げることが可能である。利用されるプローブの配列に対して、例えば少なくとも70%または少なくとも80%、または少なくとも90%から95%同一であるポリヌクレオチド断片が、ハイブリダイゼーション温度を約1℃〜2℃ずつ段階的に増加させることによって単離され得る。
【0010】
本発明の文脈において「ストリンジェントな条件」とは、例えば、5×SSC、0.1%(w/v)N-ラウロイルサルコシン、0.02%(w/v)SDS、1%ブロッキング試薬(Roche Diagnostics、カタログ番号1096 176)からなる緩衝液中、50℃で一晩のハイブリダイゼーション、および、ハイブリダイゼーションの洗浄工程における、2×SSC、0.1%(w/v)SDS中、室温で5分間の洗浄2回、続いて、0.1×SSC、0.1%(w/v)SDS中、68℃で15分間の洗浄2回を意味する。
【0011】
DNA配列は、C. kefyr(C. macedoniensis)IFO 0960株または別のもしくは関連する生物からクローニングされ得、従って、例えば、DNA配列のエノンレダクターゼコード領域の対立遺伝子または種の変異体であり得る。同じまたは機能的に等価なレボディオンレダクターゼをコードするポリペプチドをもたらす異なるヌクレオチドの付加、挿入、欠失、および/または置換を有するDNA配列の誘導体もまた、本発明の範囲内に含まれる。コードされるタンパク質はまた、サイレント変化を生じかつ機能的に等価なエノンレダクターゼをもたらす、アミノ酸残基の付加、欠失、挿入、および/または置換を含み得る。
【0012】
本発明のDNAはまた、関心対象の遺伝子の発現に関与するプロモーターおよびターミネーターのような調節配列を含むゲノムDNA、ならびに、その5'非翻訳領域および3'非翻訳領域中の短い断片間に隣接するオープンリーディングフレームのみを含むcDNAも意味する。
【0013】
本発明において利用されるエノンレダクターゼ遺伝子、組換え発現ベクター、および組換え生物は、以下の工程によって得られ得る:
-本発明のエノンレダクターゼを提供し得る微生物から染色体DNAを単離し、染色体DNAを用いて遺伝子ライブラリーを構築する工程;
-コロニーハイブリダイゼーションまたはプラークハイブリダイゼーション、PCRクローニング、サザンブロットハイブリダイゼーションなどによって、染色体DNAからエノンレダクターゼ遺伝子をクローニングする工程;
-通常の方法によって上記のように得られたエノンレダクターゼ遺伝子のヌクレオチド配列を決定し、エノンレダクターゼ遺伝子を含みかつ効率的に発現する組換え発現ベクターを構築する工程;
-形質転換、形質導入、トランスコンジュゲーション、またはエレクトロポレーションによって、組換え発現ベクターまたは染色体上にエノンレダクターゼ遺伝子を有する組換え生物を構築する工程。
【0014】
本発明のエノンレダクターゼをコードするDNAを単離しまたはクローニングするために使用される技術は当技術分野で公知であり、ゲノムDNAからの単離を含む。このようなゲノムDNAに由来する本発明のDNA配列のクローニングは、縮重ポリメラーゼ連鎖反応(以降PCRと呼ぶ)を使用することによりもたらされ得る。
【0015】
部分アミノ酸配列に関する情報に基づいて、PCRのためのプライマーとしてのオリゴヌクレオチドが合成され得る。PCRによるエノンレダクターゼ遺伝子のクローニングのために使用されるプライマーは、Candidaおよびチゴサッカロミセス(Zygosaccharomyces)を含むがこれらに限定されない属から、および最も好ましい態様においては、C. kefyr(C. macedoniensis)IFO 0960から精製されたエノンレダクターゼのペプチド断片のアミノ酸配列に基づき得る。エノンレダクターゼのDNA断片(部分DNA配列)は、例えば、プライマーおよびC. kefyr染色体DNA鋳型を用いるPCR増幅によって生成される。増幅されたDNA断片は、エノンレダクターゼ全体をコードするゲノム断片をクローニングするためのプローブとして使用され得る。そのコード領域およびその調節領域(例えば、プロモーターまたはターミネーター)を含む全体遺伝子は、例えば、配列決定された後に得られるDNA断片の配列の一部に基づくプライマーを使用する逆PCR法により、または適切な宿主におけるファージベクターもしくはプラスミドベクター中で構築されるゲノムライブラリーのスクリーニングにより、上述のPCRによって得られる部分DNA断片を標識プローブとして使用することによって、染色体からクローニングされ得る。
【0016】
一般的に、宿主株としての大腸菌(E. coli)およびE. coliベクター、λベクターのようなファージベクター、プラスミドベクター、または酵母ベクターが、ライブラリーの構築、およびその後の遺伝子操作(例えば、配列決定、制限酵素消化、ライゲーションなど)において使用されることが多い。コード領域ならびに調節領域を含む全体遺伝子のすべての必要な部分の単離後、得られた断片は、エノンレダクターゼの全体遺伝子の配列決定および構築のために便利に使用され得る、適切なプラスミドベクターにサブクローニングされた。本発明において、挿入断片はpUC18ベクターにサブクローニングされた。ヌクレオチド配列は、ジデオキシ鎖停止法のような周知の方法によって決定され得る。
【0017】
本発明の単離されたDNA配列は、当技術分野において周知の方法に従って、異なる属または種の他の株由来のエノンレダクターゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNAを同定およびクローニングするために使用され得る。
【0018】
本発明はまた、組換えDNA、好ましくは、エノンレダクターゼをコードする配列を含むベクターおよび/またはプラスミドに関する。組換えDNAベクターおよび/またはプラスミドは、プロモーターおよびターミネーターのような調節領域、ならびにエノンレダクターゼ遺伝子のオープンリーディングフレームを含み得る。当業者に周知の方法が、エノンレダクターゼをコードするヌクレオチド配列、ならびに適切な転写および翻訳の調節エレメント(ヌクレオチド配列のコード配列の発現のために必要なまたは有利なすべての構成要素を含む)を含む発現ベクターを構築するために使用され得る。特定の開始シグナルおよび終結シグナルはまた、エノンレダクターゼをコードする配列のより効率的な翻訳を達成するために使用され得る。エノンレダクターゼをコードする単離されたDNA配列は、ポリペプチドの発現を提供するための種々の様式で操作され得る。エノンレダクターゼをコードするヌクレオチド配列をベクター挿入する前に操作することは、発現ベクターによって、望ましいかまたは必要である。クローニング方法を利用するヌクレオチド配列を改変するための技術は当技術分野において周知である。種々の発現ベクター/宿主系が、エノンレダクターゼをコードする配列を含みかつ発現するために利用され得る。
【0019】
本発明はまた、宿主生物を形質転換するための組換えDNAの使用を提供する。組換えDNAの便利な形態がベクターであり得る。組換えDNAを用いて形質転換された宿主生物は、エノンレダクターゼのポリペプチドの産生において有用であり得、かつまた、レボディオンの産生方法の改善においても有用であり得る。従って、本発明はまた、このような形質転換された宿主細胞(組換え微生物)、および組換えDNAにコードされるポリペプチドを提供する。
【0020】
本発明はまた、酵素の発現および細胞培養物からのポリペプチドの回収のために適切な条件下で、形質転換された宿主細胞を培養する工程を包含する、組換えDNAにコードされるポリペプチドの産生のための方法を提供する。組換え微生物の培養は、好気的または嫌気的に、4.0から9.0のpH値で、10℃から60℃の温度範囲で、15分間から72時間、好ましくは、5.0から8.0のpH値で、20℃から40℃の温度範囲で、30分間から48時間、実行され得る。組換え細胞によって産生されるエノンレダクターゼは、使用される配列および/またはベクターによって、細胞内に分泌され得るかまたは含まれ得る。次いで、エノンレダクターゼは、従来的な手順によって培地または組換え細胞から単離され得る。
【0021】
本発明はさらに、ケトイソフォロンをエノンレダクターゼポリペプチドと接触させる工程を包含する、レボディオン産生の方法を提供する。
【0022】
本発明のエノンレダクターゼは、式

に従って、補因子、NADHまたはNADPHの存在下で、ケトイソフォロンのレボディオンへの還元を触媒する。
【0023】
この反応は、Tris-HCl緩衝液およびリン酸緩衝液のような溶媒中で行うことができる。
【0024】
この反応のための好ましい条件とは、4.5から8.5、より好ましくは5.0から8.0のpH値、10℃から60℃、より好ましくは20℃から60℃の温度範囲、5分間から72時間、より好ましくは15分間から48時間である。
【0025】
本発明はまた、レボディオンの生物学的産生のための方法であって、基質としてのケトイソフォロンの存在下での組換え微生物の培養物を含む、上述の組換え微生物とケトイソフォロンを、レボディオンの産生に適した条件下で接触させる工程、および、得られるレボディオンを反応混合液から単離する工程を包含する方法を提供する。
【0026】
組換え微生物の、成長細胞培養物もしくは静止細胞培養物、または固定化細胞、または無細胞抽出物などのいずれかを、レボディオンの産生のために使用してもよい。
【0027】
成長細胞培養物は、炭素源としての、グルコースもしくはショ糖などの糖類、エタノールもしくはグリセロールなどのアルコール、オレイン酸およびステアリン酸もしくはそのエステルなどの脂肪酸、または、ナタネ油もしくはダイズ油などの油;窒素源としての、硫酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、ペプトン、アミノ酸、コーン浸漬酒(corn steep liquor)、ブラン、酵母抽出物など;無機塩源としての、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸一水素カリウム、リン酸二水素カリウムなど;ならびに、他の栄養源としての、麦芽抽出物、肉抽出物などを含む栄養培地中で、組換え微生物を培養することによって得られる。組換え微生物の培養は、好気的または嫌気的に、4.0から9.0のpH値で、10℃から60℃の温度範囲で、15分間から72時間、好ましくは、5.0から8.0のpH値で、20℃から40℃の温度範囲で、30分間から48時間、実行され得る。培養の間の培養物の適切な混合が、細胞増殖または反応のために好ましい。
【0028】
得られた成長細胞培養物を使用して、静止細胞培養物または固定化細胞または無細胞抽出物を、当技術分野において公知である任意の手段によって調製することができる。
【0029】
レボディオンの産生のための好ましい条件とは、4.0から9.0のpH値、および10℃から60℃の温度範囲で、15分間から72時間である。
【0030】
レボディオンの産生のためのより好ましい条件とは、5.0から8.0のpH値、および20℃から60℃の温度範囲で、30分間から48時間である。
【0031】
反応混合液中のケトイソフォロンの濃度は、他の反応条件に応じて変化し得るが、一般的には、0.1g/lから300g/lの間、好ましくは、1g/lから30g/lの間である。
【0032】
上記のように反応混合液中で酵素的または生物学的に産生されたレボディオンは、酢酸エチル、n-ヘキサン、トルエン、またはn-ブチルのような有機溶媒によって抽出され得る。抽出物は、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、またはペーパークロマトグラフィーなどの公知の方法によって分析され得る。ガスクロマトグラフィーの場合、以下の条件が一例として適用され得る:カラム:ULBON HR-20M(Shinwa, Japan)0.25mm×30m;カラム温度:160℃(一定);インジェクター温度:250℃;キャリアガス:He(約1ml/分)。
【0033】
反応後、反応混合液中のレボディオンは、例えば、レボディオンを容易に可溶化する水不混和性有機溶媒(例えば、酢酸エチル、n-ヘキサン、トルエン、または酢酸ブチル)を用いる抽出によって回収され得る。レボディオンのさらなる精製は、抽出物を濃縮してレボディオンを直接結晶化することによって、または、様々な種類のクロマトグラフィー、例えば、薄層クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、もしくは高速液体クロマトグラフィーの組み合わせによってもたらされ得る。
【0034】
以下の実施例は本発明をさらに例証する。
【0035】
実施例1:C. kefyr(C. macedoniensis)IFO 0960のエノンレダクターゼの部分アミノ酸配列
C. kefyrの凍結乾燥された精製エノンレダクターゼ(2002年2月22日に出願された欧州特許出願第02003967.3号に記載)をリシルエンドペプチダーゼで消化し、得られた消化物をSmartシステムによって分離した。すなわち、1nmolの精製酵素を、8M尿素を含む50mM Tris-HCl緩衝液(pH 8.6)25μlに溶解し、37℃で1時間インキュベートした。その後、25μlの50mM Tris-HCl緩衝液(pH 8.6)を加えて濃度4Mの尿素を作製した。次いで、0.5μlの12nmol/mlリシルエンドペプチダーゼ(Wako, Japan, 0.006nmol, E/S=1/167)を加え、30℃で6時間インキュベートした。得られたペプチドを、以下の条件を使用してSmartシステムによって分離した:カラム:μRPC C2/C18 SC2.1/10 (Amersham Bioscience/Buckinghamshire, England);流速:100μl/分;液相A:0.1% TFA;液相B:0.1% TFA+80% CH3CN;グラジエント:100% A (0分〜15分);100% A→100% B (15分〜75分);カラム温度;室温:検出:214nm, 280nm。
【0036】
ペプチド(K-15、K-25.1、K-6.1、K-6.2、K30、K13.2、K-1.1、K-1.2、K-33、K-25.2、K-20、K-17、K-22、K-4.1、K-13.1、およびK-9)を単離し、これらのペプチドのアミノ酸配列を、タンパク質シーケンサーを用いて、すなわち、491HT型パルス液体タンパク質シーケンサー(Applied Biosystems, Foster City, California)を用いる自動化Edman分解によって、分析し、ペプチドK-15:SEQ ID NO:3;ペプチドK-25.1:SEQ ID NO:4;ペプチドK-6.1:SEQ ID NO:5;ペプチドK-6.2:SEQ ID NO:6;ペプチドK-30:SEQ ID NO:7;ペプチドK-13.2:SEQ ID NO:8;ペプチドK-1.1:SEQ ID NO:9;ペプチドK-1.2:SEQ ID NO:10;ペプチドK-33:SEQ ID NO:11;ペプチドK-25.2:SEQ ID NO:12;ペプチドK-20:SEQ ID NO:13;ペプチドK-17:SEQ ID NO:14;ペプチドK-22:SEQ ID NO:15;ペプチドK-4.1:SEQ ID NO:16;ペプチドK-13.1:SEQ ID NO:17;およびペプチドK-9:SEQ ID NO:18とした。
【0037】
得られた部分アミノ酸配列を、SWISS-PROT(リリース37.0+/06-14、99年6月)、PIR(リリース60.0、99年3月)、およびPRF(リリース99-05、99年5月)のタンパク質データベース中に保存されているタンパク質の配列と比較した。配列アラインメントを、Blastプログラム(J. Mol. Biol., 215, 403-410, 1990)およびFasta(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85, 2444-2448, 1988)プログラムを使用することにより実行した。その結果、公知の旧黄色酵素(Old Yellow Enzyme)との高い相同性が見い出された。
【0038】
実施例2:C. kefyr(C. macedoniensis)IFO 0960の染色体DNAの調製
C. kefyr(C. macedoniensis)IFO 0960の細胞を200ml培地中で培養した。細胞を遠心分離によって収集し、10ml TES緩衝液に懸濁した。3mlの0.5M EDTA、0.5mlのZymolyase溶液、および0.5mlのプロテイナーゼK溶液を細胞懸濁液に加えた。穏やかに混合しながら37℃で0.5時間インキュベーションした後、2mlの10% SDSを加えて混合した。H2Oを添加して、容量を20mlにした後、10mlのTE飽和フェノールおよび10mlのクロロホルムを加えて混合した。遠心分離後に上層を収集し、等量のフェノール/クロロホルムを加えて混合した。遠心分離後に上層を収集し、0.1×容量の3M酢酸ナトリウムおよび2.5×容量のエタノールを加えた。屈曲(winding)ガラス棒を使用して、DNA沈殿物を収集し、70%、80%、および90%のエタノールで濯ぎ、乾燥させ、10μlの5mg/ml RNase Aを含むTE緩衝液5mlに再懸濁した。DNAを4℃で一晩穏やかに混合することによって完全に溶解させた。10μlの5mg/ml RNase Aを再度加え、DNA溶液を37℃で2時間インキュベートした。フェノール/クロロホルムで処理した後、水層を回収し、DNAをエタノール沈殿し、続いて遠心分離した。ペレットを50mlのTE緩衝液に再懸濁した。得られたゲノムDNAの濃度は88ng/μlであった。
【0039】
実施例3:C. kefyr(C. macedoniensis)IFO 0960の部分エノンレダクターゼ遺伝子のクローニング
調製したゲノムDNAを鋳型として使用して、エノンレダクターゼ遺伝子の部分配列を、サーマルサイクラー(Perkin-Elmer Cetus Instruments, USA)を用いた縮重PCR増幅によって得た。縮重PCRプライマーを実施例1において得た部分アミノ酸配列(K-15、K-13.1、およびK-9)に基づいて以下のように設計した。

【0040】
PCR反応(50μl)を、鋳型としての176ngの染色体DNA(実施例2において得られた)、150pmolの各縮重プライマー、それぞれ2.5nmolのdATP、dCTP、dGTP、およびdTTP、1.5ユニットのEx Taqポリメラーゼ(Takara Shuzo, Kyoto, Japan)、ならびに5μlのEx Taq緩衝液(Takara Shuzo)を使用して、実行した。最初の鋳型変性段階は、94℃で4分間とした。94℃で1分間、50℃で1分間、および72℃で1.5分間の増幅サイクルを、35回反復した。72℃で10分間のさらなる反応後、部分エノンレダクターゼ遺伝子を含むDNA断片(約1kb)を増幅した。この断片を、配列決定ベクターにクローニングし、DNA配列をジデオキシ鎖停止法によって決定した。Taq色素プライマー配列決定キットを、自動シーケンサー(DNA Sequencer 373A, Applied Biosystems)とともに使用した。エノンレダクターゼについて得られた部分DNA配列および推定アミノ酸配列を、SEQ ID NO:21およびSEQ ID NO:22にそれぞれ示す。
【0041】
実施例4. C. kefyr(C. macedoniensis)IFO 0960の完全エノンレダクターゼ遺伝子のクローニング
逆PCRを使用して、実施例3において得られた部分エノンレダクターゼDNA配列に隣接する上流配列と下流配列の両方をクローニングした。
【0042】
1μgのC. kefyr(C. macedoniensis)IFO 0960のゲノムDNA(実施例2において得られた)を、0.01% BSAを含む50μlのK-緩衝液中で、10ユニットのNcoI(Takara Shuzo, Kyoto, Japan)を用いて消化した。37℃で一晩反応させた後、反応混合液をフェノール/クロロホルムで処理し、水層を回収し、DNAをエタノール沈殿させ、続いて遠心分離した。DNAペレットを、700ユニットのT4 DNAリガーゼ(Takara Shuzo)を含む1mlのT4 DNAリガーゼ緩衝液に再懸濁した。15℃で一晩反応させた後、反応混合液をフェノール/クロロホルムで処理し、水層を回収し、DNAをエタノール沈殿させ、続いて遠心分離した。DNAペレットをTE緩衝液に再懸濁し、PCRのための鋳型として使用した。PCRプライマーを、実施例3において得られた部分エノンレダクターゼ遺伝子配列に基づいて以下のように設計した:IA1(上流領域のためのアンチセンスプライマー)=SEQ ID NO:23およびIS1(下流領域のためのセンスプライマー)=SEQ ID NO:24。
【0043】
PCR反応(50μl)を、250ngの鋳型DNA、5pmolの各プライマー、それぞれ2.5nmolのdATP、dCTP、dGTP、およびdTTP、2.5ユニットのEx Taqポリメラーゼ(Takara Shuzo)、ならびに5μlのEx Taq緩衝液(Takara Shuzo)を使用して実行した。最初の鋳型変性段階は、94℃で4分間とした。94℃で1分間、60℃で1分間、および72℃で4分間の増幅サイクルを30回反復した。72℃で10分間のさらなる反応後、エノンレダクターゼ遺伝子の上流配列および下流配列を含むDNA断片(約4kb)を増幅した。この断片を、配列決定ベクターにクローニングし、DNA配列を決定した。
【0044】
得られた配列を、実施例3において得られた部分エノンレダクターゼDNA配列と組み合わせることによって、コード領域ならびに調節領域(例えば、プロモーターまたはターミネーター)を含む、推定全体遺伝子配列を得た。エノンレダクターゼについて得られた推定全体DNA配列を、SEQ ID NO:25に示すが、これは、コード領域ならびにその上流および下流の領域を含む(推定のORFは148-1359である)。
【0045】
次に、コード領域ならびに隣接する上流および下流の領域を含むエノンレダクターゼ遺伝子の実際の全体配列を、以下のようにしてPCRによって得た。
【0046】
C. kefyr(C. macedoniensis)IFO 0960のゲノムDNA(実施例2において得た)を鋳型として使用した。PCRプライマーを、上記で得られた推定エノンレダクターゼ遺伝子配列(SEQ ID NO:25)に基づいて設計し、SEQ ID NO:26(センス)およびSEQ ID NO:27(アンチセンス)に示した。
【0047】
PCR反応(50μl)を、900ngの鋳型DNA、10pmolの各プライマー、それぞれ2.5nmolのdATP、dCTP、dGTP、およびdTTP、100nmolのMgCl2、1.5ユニットのLA Taqポリメラーゼ(Takara Shuzo)、ならびに5μlのLA Taq緩衝液(Takara Shuzo)を使用して実行した。最初の鋳型変性段階は94℃で2分間からなった。94℃で1分間、60℃で1分間、および74℃で1.5分間の増幅サイクルを23回反復した。74℃で7分間のさらなる反応の後、エノンレダクターゼ遺伝子の全体配列を含むDNA断片(約1.3kb)を増幅した。この断片を、配列決定ベクターにクローニングし、DNA配列を決定した。
【0048】
コード領域ならびに隣接する上流および下流の領域を含むエノンレダクターゼについて得られた全体DNA配列を、SEQ ID NO:28に示す(ORFは55〜1266である)。
【0049】
実施例5:C. kefyrのエノンレダクターゼ遺伝子を有するE. coliを用いた、エノンレダクターゼ遺伝子の発現およびレボディオン産生
エノンレダクターゼ遺伝子のORF(1212bp)のみを含むDNA断片をPCR増幅によって得た。PCRは、ExSプライマー(SEQ ID NO:29)およびExAプライマー(SEQ ID NO:30)を用いて実行した。
【0050】
エノンレダクターゼ遺伝子の全体配列を有するベクター(実施例4において得られた)を鋳型として使用した。PCR反応(50μl)を、250ngの鋳型DNA、10pmolの各プライマー、それぞれ2.5nmolのdATP、dCTP、dGTP、およびdTTP、1.5ユニットのPyrobest DNAポリメラーゼ(Takara Shuzo)、ならびに5μlのPyrobest緩衝液(Takara Shuzo)を使用して実行した。最初の鋳型変性段階は、94℃で1分間とした。94℃で0.5分間、60℃で1分間、および75℃で1.5分間の増幅サイクルを15回反復した。75℃で5分間のさらなる反応の後、エノンレダクターゼ遺伝子のORFのみを含むDNA断片(約1.2kb)を増幅した。
【0051】
このエノンレダクターゼの増幅断片を、製造業者の作成した取扱説明書に従って、pET Directional TOPO(登録商標)発現キット(Invitrogen Corporation, USA)を使用して、ベクターpET101/D-TOPOにクローニングした。得られたエノンレダクターゼ遺伝子を有するベクター(pET101/D-TOPO-ER)をE. coli BL21(DE3)に導入し、自動配列分析装置(DNA Sequencer 373A, Applied Biosystems)を使用する配列分析のために、いくつかのクローンを選択した。それらのクローンのうちの1つであり、C. kefyrのエノンレダクターゼ配列と完全に同じ配列を示したE. coli BL21(DE3)[pET101/D-TOPO-ER] を、さらなる実験のために選択した。E. coli BL21(DE3)株[pET101/D-TOPO] もまた、対照として調製した。
【0052】
E. coli BL21(DE3)[pET101/D-TOPO-ER]およびE. coli BL21(DE3)[pET101/D-TOPO]の株をそれぞれ、0.05mg/mlのアンピシリンおよび2%(W/V)のカザミノ酸(Difco laboratories, USA)を含むM9最少培地(チューブ中5ml)に接種し、37℃で培養した。610nmでの吸光度が0.4に達したときに、IPTG(イソプロピルβ-D-チオガラクトピラノシド)を培地に加えて濃度0.01mMとし、培養をさらに8時間〜10時間継続した。次いで、細胞を遠心分離によって収集し、細胞の一部をSDS-PAGE分析のために使用した。その結果、45kDaと推定されるIPTG誘導タンパク質バンドが、組換え株E. coli BL21(DE3)[pET101/D-TOPO-ER]が使用された場合のみに観察された。
【0053】
収集された細胞の残りを、2mlの100mMリン酸カリウム緩衝液(pH 7.0)に再懸濁した。懸濁液を、ケトイソフォロンからレボディオンを産生する活性を確認するために使用した。この懸濁液を2つの部分に分け(各1ml)、0.37mM(最終濃度;以降f.c.と略す)のNAD+、15ユニット/ml(f.c.)のグルコースデヒドロゲナーゼを含むまたは含まない、33mM(f.c.)のケトイソフォロンおよび280mM(f.c.)のD-グルコースを加えることにより、反応を開始した。反応を30℃で一晩実行した。反応混合液を酢酸エチルで抽出し、酢酸エチル層中にレボディオンを回収した。抽出物をガスクロマトグラフィーによって分析した。その結果、レボディオンは、組換え株E. coli BL21(DE3)[pET101/D-TOPO-ER]を使用した場合のみに検出された。
【配列表】

















【特許請求の範囲】
【請求項1】
エノンレダクターゼ活性を有する酵素をコードするヌクレオチド配列を含む単離されたDNAであって、酵素が、以下の物理化学的特性によって特徴付けられる、単離されたDNA:
(a)分子量:61,300±5,000Da(ゲル濾過を使用して見積もられた;1つのサブユニットからなる);
(b)補因子:NADPHおよびNADH;
(c)基質特異性:α,β-不飽和ケトンに対して活性;
(d)最適温度:pH 7.4で55℃〜60℃;ならびに
(e)最適pH:pH 4.5〜pH 8.5。
【請求項2】
ヌクレオチド配列が、以下からなる群より選択される、請求項1記載の単離されたDNA:
(a)SEQ ID NO:2に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列;
(b)SEQ ID NO:2に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドの対立遺伝子変異体をコードするヌクレオチド配列;ならびに
(c)SEQ ID NO:2に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列であって、1つまたは複数のアミノ酸が付加、挿入、欠失、および/または置換されているがエノンレダクターゼ活性を有する、ヌクレオチド配列。
【請求項3】
ヌクレオチド配列が、以下からなる群より選択される、請求項1記載の単離されたDNA:
(a)SEQ ID NO:1に示されるヌクレオチド配列;
(b)SEQ ID NO:1に示されるヌクレオチド配列にコードされるアミノ酸配列を有するエノンレダクターゼをコードするヌクレオチド配列;
(c)ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、(a)または(b)のヌクレオチド配列の相補物にハイブリダイズするヌクレオチド配列;および
(d)(a)のヌクレオチド配列に少なくとも80%同一であるヌクレオチド配列。
【請求項4】
請求項1記載のDNAを含む、ベクターまたはプラスミド。
【請求項5】
請求項1記載のDNAまたは請求項4記載のベクターもしくはプラスミドによって、形質転換またはトランスフェクトされた宿主細胞。
【請求項6】
請求項1記載のDNAにコードされるポリペプチド。
【請求項7】
レボディオン(levodione)の産生のための方法であって、以下の工程を含む方法:
レボディオンの産生に適した条件下、例えば、4.5から8.5のpH値および10℃から60℃の温度範囲で5分間から72時間の条件下、または、5.0から8.0のpH値および20℃から60℃の温度範囲で15分間から48時間の条件下で、ケトイソフォロンを請求項6記載のポリペプチドと接触させる工程。
【請求項8】
レボディオンの産生のための方法であって、以下の工程を含む方法:
レボディオンの産生に適した条件下、例えば、4.0から9.0のpH値および10℃から60℃の温度範囲で15分間から72時間の条件下、または、5.0から8.0のpH値および20℃から60℃の温度範囲で30分間から48時間の条件下で、ケトイソフォロンを請求項5記載の宿主細胞またはその無細胞抽出物と接触させる工程を包含する、方法。

【公表番号】特表2006−500018(P2006−500018A)
【公表日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−537136(P2004−537136)
【出願日】平成15年9月19日(2003.9.19)
【国際出願番号】PCT/EP2003/010473
【国際公開番号】WO2004/027065
【国際公開日】平成16年4月1日(2004.4.1)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】