説明

エバスチン経口投与用製剤

【課題】溶出性の改善効果が高く、製剤の生産性に優れた、エバスチンを主薬とする経口投与用製剤の提供を目的とする。
【解決手段】本発明に係るエバスチン経口投与用製剤は、エバスチンを溶媒に溶解し、これに不活性な担体を分散又は溶解した混合液を製剤用添加剤にスプレー及び乾燥させることにより得られることを特徴とする。
不活性な担体としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース又はポリビニルピロリドンの親水性高分子結合剤がよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エバスチンを主薬とする持続性選択H受容体拮抗剤に関する。
特に溶出性を改善したエバスチン経口投与用製剤に係る。
【背景技術】
【0002】
エバスチン(ebastine;4−ジフェニルメトキシ−1−[3−(4−tert−ブチルベンゾイル)プロピル]ピペリジンは持続性選択H受容体拮抗剤であり、呼吸、アレルギー性又は心臓血管疾患を治療するのに有効であるとされている。
しかし、経口投与用に用いた場合には水性媒質に対する溶解性が低いために、胃器官系内で充分に溶出しないという技術的課題があった。
【0003】
特許第3518601号公報には、エバスチンの粗結晶を微細粉粒化することで溶出性を改善する方法を開示する。
しかし、エバスチンの融点は84〜87℃と低いため、粉砕工程中に発生する熱により融解し、粉砕機内に固着する恐れがあった。
また、一部融解すると製造ロット内あるいは製造ロット間で粒子径にバラツキが生じ、溶出速度が不安定になる恐れもあった。
【0004】
【特許文献1】特許第3518601号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、溶出性の改善効果が高く、製剤の生産性に優れた、エバスチンを主薬とする経口投与用製剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るエバスチン経口投与用製剤は、エバスチンを溶媒に溶解し、これに不活性な担体を分散又は溶解した混合液を製剤用添加剤にスプレー及び乾燥させることにより得られることを特徴とする。
【0007】
ここで、製剤用添加剤とは、医薬の製剤化に用いられる添加剤をいい、賦形剤、崩壊剤等をいう。
賦形剤の例としては、通常広く使用されている乳糖、D−マンニトール、デンプン類、白糖、結晶セルロース、リン酸水素カルシウム、クエン酸カルシウム等が挙げられる。
崩壊剤の例としては、カルメロースカルシウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスカルメロースナトリウム等が挙げられる。
【0008】
本発明者はエバスチンを溶媒に溶解し、これに不活性な担体を分散又は溶解した混合液を賦形剤又は/及び崩壊剤等の製剤用添加剤にスプレーし、乾燥させることでエバスチンが少なくとも一部が非晶質化し、不活性な担体の種類によっては完全に非晶質化し、固溶体化することで溶出性が改善されることを見い出したものである。
従って、エバスチンを溶媒に溶解し、これに不活性な担体を分散又は溶解した混合液を賦形剤等の製剤用添加剤にスプレーし、そのまま造粒乾燥してもよい。
【0009】
不活性な担体は、高分子結合剤であるのが良く、特にヒドロキシプロピルメチルセルロース又はポリビニルピロリドン等の親水性高分子結合剤をエバスチン溶解液に添加混合すると、賦形剤等に付着乾燥する際にエバスチンの少なくとも一部が非晶質化するとともに、エバスチンの表面が親水化され、溶出性が改善する。
【0010】
エバスチンを溶解する溶媒としては、エバスチンが溶解できればよく、メタノール、エタノール、エーテル類、アセトニトリル、氷酢酸等が例として挙げられる。
例えば溶媒としてメタノールを用いると、ヒドロキシプロピルメチルセルロースは分散状態になり、ポリビニルピロリドンは溶解する。
いずれにしても、スプレー噴霧できる粘性に調整できることを考慮して、溶媒及び高分子結合剤が選択使用される。
【0011】
主薬エバスチンの非晶質の割合が高い方が溶解速度が速くなるが、部分的に非晶質化することでも溶解速度が速くなる。
【0012】
本発明にて得られた造粒物を用いて必要に応じて、さらに賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動化剤等を加えて錠剤、顆粒剤、細粒剤、カプセル剤等にすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、エバスチンを溶媒に溶解後にエバスチンに対して不活性な担体とともに、製剤用添加剤にスプレー及び乾燥することでエバスチンの少なくとも一部を非晶質化でき、溶出性が改善できる。
特に、ヒドロキシプロピルメチルセルロース又はポリビニルピロリドン等の親水性高分子結合剤をエバスチン溶解液に添加混合し、賦形剤等にスプレーするとエバスチンが少なくとも一部が非晶質化するとともに、親水化され、溶出性の改善効果が大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のエバスチン溶出性改善効果を実施例と従来の比較例に基づいて以下説明する。
【実施例1】
【0015】
エバスチン(平均粒径約200μm)5部をメタノール175部に溶解し、そこにヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)(TC−5RW、信越化学工業株式会社製)5部を加えて分散した。
乳糖(ダイラクトーズR、フロイント産業株式会社製)28.6部、結晶セルロース(アビセルPH−302、旭化成ケミカルズ株式会社製)22部、カルメロースカルシウム(E.C.G−505、ニチリン化学工業株式会社製)3.5部を流動層造粒機FL−mini(フロイント産業株式会社製)に投入し、そこに上記液をスプレーして流動層造粒した。
造粒が完了したらそのまま流動層乾燥し、さらにそれを30メッシュの篩で整粒した。
得られた造粒物64.1部に乳糖(ダイラクトーズR、フロイント産業株式会社製)13.7部、カルメロースカルシウム(E.C.G−505、ニチリン化学工業株式会社製)1部、ステアリン酸マグネシウム(日本油脂株式会社製)1部、軽質無水ケイ酸(アエロジル、日本アエロジル株式会社製)0.2部を添加・混合し、打錠用顆粒を得た。
この打錠用顆粒を打錠して、重量80mg、径6mmの標準R型を有する錠剤を製造した。
【実施例2】
【0016】
実施例1で得られた造粒物64.1部に乳糖(ダイラクトーズR、フロイント産業株式会社製)9.2部、カルメロースカルシウム(E.C.G−505、ニチリン化学工業株式会社製)5.5部、ステアリン酸マグネシウム(日本油脂株式会社製)1部、軽質無水ケイ酸(アエロジル、日本アエロジル株式会社製)0.2部を添加・混合し、打錠用顆粒を得た。
この打錠用顆粒を打錠して、重量80mg、径6mmの標準R型を有する錠剤を製造した。
【実施例3】
【0017】
エバスチン(平均粒径約200μm)5部とポリビニルピロリドン(ポビドン)(プラスドンK29/32、ISPテクノロジー社製)25部をメタノール175部に溶解した。
結晶セルロース(アビセルPH−101、旭化成ケミカルズ株式会社製)24.1部、カルメロースカルシウム(E.C.G−505、ニチリン化学工業株式会社製)10部を流動層造粒機FL−mini(フロイント産業株式会社製)に投入し、そこに上記液をスプレーして流動層造粒した。
造粒が完了したらそのまま流動層乾燥し、さらにそれを30メッシュの篩で整粒した。
得られた造粒物64.1部に結晶セルロース(アビセルPH−302、旭化成ケミカルズ株式会社製)14.7部、ステアリン酸マグネシウム(日本油脂株式会社製)1部、軽質無水ケイ酸(アエロジル、日本アエロジル株式会社製)0.2部を添加・混合し、カプセル充填用顆粒を得た。
このカプセル充填用顆粒80mgを4号カプセルに充填し、カプセル剤を製造した。
【0018】
(比較例1)
エバスチン(平均粒径約60μm)5部、乳糖(ダイラクトーズR、フロイント産業株式会社製)47.3部、結晶セルロース(アビセルPH−302、旭化成ケミカルズ株式会社製)32部、カルメロースカルシウム(E.C.G−505、ニチリン化学工業株式会社製)4.5部、ステアリン酸マグネシウム(日本油脂株式会社製)1部、軽質無水ケイ酸(アエロジル、日本アエロジル株式会社製)0.2部を混合し、打錠用顆粒を得た。
この打錠用顆粒を打錠して、重量90mg、径6mmの標準R型を有する錠剤を製造した。
【0019】
(比較例2)
エバスチン(平均粒径約15μm)を用いて、比較例1と同様の製剤処方および製法で錠剤を製造した。
【0020】
(比較例3)
エバスチン(平均粒径約200μm)5部、乳糖(乳糖200、DMV社製)33.6部、結晶セルロース(アビセルPH−101、旭化成ケミカルズ株式会社製)22部、カルメロースカルシウム(E.C.G−505、ニチリン化学工業株式会社製)3.5部をステンレスビーカー内で115℃に加熱しながら攪拌し、エバスチンを溶融させることによって溶融造粒した。
造粒が完了したらそのまま室温になるまで冷却し、さらにそれを30メッシュの篩で整粒した。
得られた造粒物64.1部に乳糖(ダイラクトーズR、フロイント産業株式会社製)13.7部、カルメロースカルシウム(E.C.G−505、ニチリン化学工業株式会社製)1部、ステアリン酸マグネシウム(日本油脂株式会社製)1部、軽質無水ケイ酸(アエロジル、日本アエロジル株式会社製)0.2部を添加・混合し、打錠用顆粒を得た。
この打錠用顆粒を打錠して、重量80mg、径6mmの標準R型を有する錠剤を製造した。
【0021】
(比較例4)
エバスチン(平均粒径約200μm)5部とヒドロキシプロピルセルロース(HPC−L、日本曹達株式会社製)0.1部をメタノール200部に溶解した。
乳糖(ダイラクトーズR、フロイント産業株式会社製)33.5部、結晶セルロース(アビセルPH−302、旭化成ケミカルズ株式会社製)22部、カルメロースカルシウム(E.C.G−505、ニチリン化学工業株式会社製)3.5部を流動層造粒機FL−mini(フロイント産業株式会社製)に投入し、そこに上記液をスプレーして流動層造粒した。
造粒が完了したらそのまま流動層乾燥し、さらにそれを30メッシュの篩で整粒した。
得られた造粒物64.1部に乳糖(ダイラクトーズR、フロイント産業株式会社製)13.7部、カルメロースカルシウム(E.C.G−505、ニチリン化学工業株式会社製)1部、ステアリン酸マグネシウム(日本油脂株式会社製)1部、軽質無水ケイ酸(アエロジル、日本アエロジル株式会社製)0.2部を添加・混合し、打錠用顆粒を得た。
この打錠用顆粒を打錠して、重量80mg、径6mmの標準R型を有する錠剤を製造した。
【0022】
なお、製剤条件を図3〜図5に表1〜表3としてまとめて示した。
【0023】
(試験例1)
実施例1〜3および比較例1〜4で得た製剤について、第14改正日本薬局方に規定のパドル法により、50rpmの条件で、pH5.0の薄めたMcIlvaine緩衝液(0.05mol/Lリン酸1水素ナトリウムと0.025mol/Lクエン酸を用いてpHを調整)900mlに対する溶出試験を行った。
その結果を図1に示す。実施例1〜3で示した本発明製剤は、比較例1〜4で示した製剤に比べ、すみやかな溶出を示すことが明らかになった。
特に本発明による製剤においては、エバスチンを溶媒に溶解して使用するので粗結晶でよく、使用原末の粒径に影響を受けないので大きい平均粒径のものを使用することもできる特徴を有する。
これにより、製剤の生産性が向上する。
【0024】
(試験例2)
実施例2の打錠用顆粒、実施例3の造粒物、エバスチン原末(結晶)を熱分析計により示差走査熱量(DSC)を測定した。
この結果を図2に示す。実施例2の打錠用顆粒では、エバスチンの溶液にヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を分散させたことにより、エバスチン結晶の融点ピークが低温側にシフトし、またピーク面積から結晶性も低下していることを確認できた。
一方、実施例3の造粒物では、エバスチンの溶液にポリビニルピロリドン(ポビドン)を溶解したことにより、エバスチン結晶の融点ピークが消失し、非晶質を示しており、固溶体が形成されたことを確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】溶出試験結果を示す。
【図2】熱分析結果を示す。
【図3】溶媒にエバスチンを溶解し、流動層造粒して得られた造粒物を用いて製剤した製造例を示す。
【図4】溶融造粒法による製造例を示す。
【図5】直接打錠法による製造例を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エバスチンを溶媒に溶解し、これに不活性な担体を分散又は溶解した混合液を製剤用添加剤にスプレー及び乾燥させることにより得られることを特徴とするエバスチン経口投与用製剤。
【請求項2】
エバスチンを溶媒に溶解し、これに不活性な担体を分散又は溶解した混合液を製剤用添加剤にスプレーし、造粒して得られることを特徴とするエバスチン経口投与用製剤。
【請求項3】
不活性な担体は、高分子結合剤であることを特徴とする請求項1又は2記載のエバスチン経口投与用製剤。
【請求項4】
高分子結合剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース又はポリビニルピロリドンであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載のエバスチン経口投与用製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−117535(P2006−117535A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−303616(P2004−303616)
【出願日】平成16年10月19日(2004.10.19)
【出願人】(592073695)日医工株式会社 (21)
【Fターム(参考)】