説明

エピクロルヒドリン系ゴム−フッ素樹脂積層体、積層ホース、および積層体の製法

【課題】 フッ素樹脂層とエピクロルヒドリン系ゴム組成物層とが強固に加硫接着された加硫ゴム積層体、および積層ホースを提供する。
【解決手段】 大気圧プラズマ処理法により表面処理されたフッ素樹脂層の処理面とエピクロルヒドリン系ゴム組成物層とが加硫接着されてなるエピクロルヒドリン系ゴム−フッ素樹脂積層体において、エピクロルヒドリン系ゴム組成物が、2,3−ジメルカプトキノキサリンまたは6−メチルキノキサリン−2,3−ジチオカーボネート等のその誘導体を加硫剤として含有する積層体。および前記積層体からなり、フッ素樹脂を内層とし、エピクロルヒドリン系ゴム組成物を外層とする積層ホース。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエピクロルヒドリン系ゴム−フッ素樹脂積層体に係わり、更に詳しくは大気圧プラズマ法により処理されたフッ素系樹脂層と、特定のエピクロルヒドリン系ゴム組成物層とが強固に加硫接着されてなる積層体、積層ホースおよび積層体の製法に関する。エピクロルヒドリン系ゴムは、耐熱性、耐油性、耐寒性、耐候性、耐オゾン性、耐摩耗性、耐薬品性に優れ、このような積層体やホースは例えば車両用燃料油系ホース、化学工場用ケミカルホース、水道水用ホースなどに用いられる。
【背景技術】
【0002】
従来、ガソリン等の燃料油に使用されるホースや、酸、アルカリ、有機溶剤等に使用されるケミカルホースは、最内層材に化学薬品や有機溶剤に耐性の高いフッ素ゴム加硫物からなる層を配し、それに直接積層される層にエピクロルヒドリン系ゴム加硫物からなる層を配した多層ホースが好適に用いられてきた。特に、耐サワーガソリン性、耐ガソリン透過性が要求される自動車用燃料系ホースの場合には、最内材にフッ素ゴム加硫物からなる層を配し、それに直接積層される層にエピクロロヒドリン系ゴム加硫物からなる層を配した多層ホースが好適に用いられてきた。しかしながら、近年、蒸散規制等のため、燃料油系ホースの使用ゴム材料として、耐ガソリン透過性を併せ持つ材料が要求されるようになってきており、フッ素ゴム加硫物に代わり燃料不透過性が更に優れたフッ素樹脂の使用が望まれるようになっている。
【0003】
多層ホースの場合、異種ゴム間および/またはゴム−樹脂間の接着性が最も重要な課題である。フッ素ゴムもしくはフッ素樹脂とエピクロルヒドリン系ゴムは、これらをそのまま加硫接着しようとしても接着性が乏しいことが知られている。フッ素ゴムもしくはフッ素樹脂とエピクロルヒドリン系ゴムの接着性を改良する手段としては、例えばエピクロルヒドリン系ゴムとしてエピクロロヒドリン系ゴムに1,8−ジアザビシクロ−(5,4,0)−ウンデセン−7(以下DBUと記す)、あるいはその誘導体のような添加剤を配合しておき、加硫接着する手段が提案されている。他方、フッ素系部材の表面を処理して接着性を向上させる方法も種々試みられている。フッ素系部材の処理方法としては、部材表面の機械的な粗面化、化学的エッチング、さらにプラズマ、コロナなどの放電処理方法が知られている。このうちプラズマ放電処理方法による表面処理は、クリーンでかつ表面改質の自由度が大きいことから、フッ素系部材の表面処理方法として注目されている。
【特許文献1】特開平9−85898号
【特許文献2】特開平10−264314号
【特許文献3】特開平2001−107013号
【特許文献4】特開平04−145139号
【特許文献5】特開平07−178875号
【特許文献6】特開平08−118546号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、エピクロロヒドリン系ゴムに特定の添加剤を配合しておき、加硫接着する方法では、フッ素ゴムとの接着性は比較的良好なものの、特にフッ素樹脂との接着性が十分に得られないため更なる接着性の改善が求められている。
【0005】
また、フッ素系部材をプラズマ放電処理方法により親水化し接着に適する表面に改質する場合のプラズマ処理方法は、酸素、アルゴン、窒素やこれらを含む気体雰囲気下で行われており、特に、酸素/四フッ化炭素混合ガスを用いる方法がよく知られている。しかしながら、フッ素系部材とエピクロルヒドリン系ゴム組成物層との接着性は十分ではなく、更なる改良が求められている。
【0006】
本発明の目的は、フッ素樹脂とエピクロルヒドリン系ゴムの接着性に関する上記のような問題点を解消し、フッ素樹脂層とエピクロルヒドリン系ゴム組成物層とが強固に加硫接着された加硫ゴム積層体、および積層ホースを提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく種々検討を重ね、大気圧プラズマ法により処理されたフッ素系樹脂層と、特定のエピクロルヒドリン系ゴム組成物層を積層し、加熱することにより、強固に加硫接着された積層体が得られることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0008】
すなわち本発明は、
1)大気圧プラズマ処理法により表面処理されたフッ素樹脂層の処理面とエピクロルヒドリン系ゴム組成物層とが加硫接着されてなるエピクロルヒドリン系ゴム−フッ素樹脂積層体において、エピクロルヒドリン系ゴム組成物が、2,3−ジメルカプトキノキサリンまたはその誘導体を加硫剤として含有する積層体、
2)エピクロルヒドリン系ゴム組成物が更に1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7誘導体の塩および/または1,5−ジアザビシクロ(4,3,0)ノネン−5誘導体の塩を含有する1)項に記載の積層体、
3)大気圧プラズマ処理法が、少なくともアルゴンおよび/またはヘリウムのガス雰囲気で行なわれる1)項または2)項に記載の積層体、
4)フッ素樹脂層の表面が、下記(a)、(b)、(c)の少なくとも1つを満たすことを特徴とする、1)項〜3)項のいずれかに記載の積層体、
(a)未処理状態でフッ素原子数Fと炭素原子数CのF/C比が1.6を超える、(b)大気圧プラズマ処理後のフッ素原子数Fと炭素原子数CのF/C比が1.12を超える、(c)大気圧プラズマ処理後の酸素原子数Oと炭素原子数CのO/C比が0.08未満である。
5)大気圧プラズマ処理法により表面処理されたフッ素樹脂からなる内層の処理面と、エピクロルヒドリン系ゴム組成物からなる外層とが加硫接着されてなる積層構造を、少なくとも含むエピクロルヒドリン系ゴム−フッ素樹脂積層ホースにおいて、エピクロルヒドリン系ゴム組成物が、少なくとも2,3−ジメルカプトキノキサリン系加硫剤を含有し、更に必要により1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7誘導体の塩および/または1,5−ジアザビシクロ(4,3,0)ノネン−5誘導体の塩を含有する積層ホース、
6)フッ素樹脂層の表面が、下記(a)、(b)、(c)の少なくとも1つを満たす、5)項に記載の積層ホース、
(a)未処理状態でフッ素原子数Fと炭素原子数Cの、F/C比が1.6を超える、(b)大気圧プラズマ処理後のフッ素原子数Fと炭素原子数Cの、F/C比が1.12を超える、(c)大気圧プラズマ処理後の酸素原子数Oと炭素原子数Cの、O/C比が0.08未満である。
7)大気圧プラズマ処理法により表面処理されたフッ素樹脂層の処理面とエピクロルヒドリン系ゴム層とを加硫接着するエピクロルヒドリン系ゴム−フッ素樹脂積層体の製造方法において、
エピクロルヒドリン系ゴム組成物が2,3−ジメルカプトキノキサリン系加硫剤を含有する、積層体の製造方法、
および、8)大気圧プラズマ処理法が、少なくともアルゴンおよび/またはヘリウムのガス雰囲気で行なわれる7)項に記載の積層体の製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により強固に加硫接着されてなるエピクロルヒドリン系ゴム−フッ素樹脂積層体が得られ、該フッ素樹脂を内層とする積層体からなる積層ホースは耐熱性、耐候性、耐寒性、耐酸敗ガソリン性、耐アルコール含有ガソリン性、耐ガソリン透過性、耐薬品性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の構成につき詳細に説明する。本発明に用いられるフッ素樹脂は当該技術分野で通常用いられているフッ素樹脂であり、例えばビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロペン二元共重合体、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロペン-テトラフルオロエチレン三元共重合体、ビニリデンフルオライド-トリフルオロクロロエチレン二元共重合体、ビニリデンフルオライド-フルオロメチルビニルエーテル-テトラフルオロエチレン三元共重合体、テトラフルオロエチレン-プロピレン二元共重合体、ビニリデンフルオライド-テトラフルオロエチレン-テトラフルオロエチレン三元共重合体、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロペン−テトラフルオロエチレン三元共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン二元共重合体、ヘキサフルオロプロペン−テトラフルオロエチレン二元共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられ、なかでも好ましくはエチレン−テトラフルオロエチレン二元共重合体(ETFE)が挙げられる。上記フッ素樹脂は必要に応じて通常この分野で使用される充填剤を含むものであっても良い。
【0011】
本発明において、フッ素樹脂はエピクロルヒドリン系ゴムと加硫接着する前に、下記大気圧プラズマ法により、表面処理を行う。一般に、大気圧プラズマ処理は、例えば、大気圧プラズマ処理装置として、チャンバー内に空間を介して対向する高圧電極と低圧電極を設けたものを用いて行うことができる。高圧電極、低圧電極は通常金属で作られており、これらの対向電極の少なくとも一方は、放電を安定な状態で持続させるために誘電体にする必要がある。高圧電極、低圧電極を形成する金属は、銀、白金、ステンレス、アルミニウム、鉄等の汎用の金属が使用でき、誘電体は通常金属に被覆することにより設けられ、その材料としては、ケイ酸塩系ガラス、ホウ酸塩系ガラス、リン酸塩系ガラス、ゲルマン酸塩系ガラス、亜テルル酸塩ガラス、アルミン酸塩ガラス、バナジン酸塩ガラス等を用いることができる。上記電極の間に、フィルムを配置するとともに、チャンバー内に大気圧プラズマに用いるガスを供給した後、上記電極の間に電圧を印加して大気圧プラズマを発生させる。図1に大気圧プラズマ処理装置の例を示す。電極は、図1では双方とも平板電極で描かれているが、一方もしくは双方の電極を円筒状電極、角柱状電極、ロール状電極を用いてもよい。
【0012】
上記大気圧プラズマ処理において、通常行われる条件を以下に示す。電極の間に印加する電圧は、通常、1〜10KVの範囲である。また、その電源の周波数は、1kHz〜150MHzの範囲であるが、それよりも高いGHz帯であってもよい。ただし、被処理物の熱の影響を考慮すれば、1kHz〜500kHzの範囲が好ましい。処理時のプラズマエネルギー密度(単位:J/cm2)は、電極間に加わる放電電力(単位:w)に処理時間(単位:s)を掛けて算出するプラズマエネルギー(単位:J)を電極面積(単位:cm2)で割って算出すされるが、通常、10μJ/cm2〜200J/cm2の範囲に設定される。
【0013】
また上記大気圧プラズマ処理において用いられる雰囲気ガスとしては、大気圧プラズマが発生すれば、特に限定されるものではないが、通常、ヘリウム(以下Heと略す)、ネオン、アルゴン(以下Arと略す)クリプトン、キセノン、ラドン及び窒素からなる不活性ガス群から選ばれた少なくとも1種のガスが用いられる。本発明に用いられるフッ素樹脂は上記のような大気圧プラズマ処理条件で処理されればよく、特に処理条件は限定されない。例えばアルゴンおよび/またはヘリウムのガス雰囲気で行なうことが可能である。また雰囲気ガスに水素ガスを添加することができる。
【0014】
本発明においては、フッ素樹脂層の表面が、下記(a)、(b)、(c)の少なくとも1つを満たす、フッ素樹脂とエピクロルヒドリン系ゴムとの積層体を製造することも可能である。(a)未処理状態でフッ素原子数Fと炭素原子数Cの、F/C比が1.6を超える、(b)大気圧プラズマ処理後のフッ素原子数Fと炭素原子数Cの、F/C比が1.12を超える、(c)大気圧プラズマ処理法後の酸素原子数Oと炭素原子数Cの、O/C比が0.08未満である。ここで言う、フッ素樹脂表面のフッ素原子数、炭素原子数、酸素原子数とは、ESCAにより測定した値である。
【0015】
本発明で用いられるエピクロルヒドリン系ゴムとは、エピクロルヒドリン単独重合体またはエピクロルヒドリンと共重合可能な他のエポキシド、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、アリルグリシジルエーテル等との共重合体をいう。これらを例示すれば、エピクロルヒドリン単独重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド共重合体、エピクロルヒドリン−プロピレンオキサイド共重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル四元共重合体、等を挙げることができる。好ましくはエピクロルヒドリン単独重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド共重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体であり、さらに好ましくはエピクロルヒドリン−エチレンオキサイド共重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体である。
【0016】
本発明でエピクロルヒドリン系ゴムの加硫剤として使用される、2,3−ジメルカプトキノキサリンまたはその誘導体は、下記一般式(I)で表される。
【化1】

[式中、R、R、R及びRは夫々同一でも異なっていても良く、水素又は炭素数1〜4のアルキル基である]
【0017】
2,3−ジメルカプトキノキサリン系加硫剤の例としては、2,3−ジメルカプトキノキサリン、キノキサリン−2,3−ジチオカーボネート、6−メチルキノキサリン−2,3−ジチオカーボネート、5,8−ジメチルキノキサリン−2,3−ジチカーボネート等が挙げられる。
【0018】
加硫剤の配合量は、エピクロルヒドリン系ゴム100重量部に対して0.1〜10重量部、好ましくは0.3〜5重量部である。
【0019】
また、通常これらの加硫剤と共に用いられる公知の促進剤(即ち、加硫促進剤)、遅延剤等を本発明の加硫用ゴム組成物にもそのまま用いることができる。促進剤の例としては、硫黄、チウラムスフィド類、モルホリンスルフィド類、アミン類、アミンの弱酸塩類、塩基性シリカ、四級アンモニウム塩類、四級ホスホニウム塩類、多官能ビニル化合物、メルカプトベンゾチアゾール類、スルフェンアミド類、ジメチオカーバメート類等を挙げることができる。遅延剤の例としてはN−シクロヘキサンチオフタルイミド等を挙げることができる。促進剤または遅延剤の配合量は、エピクロルヒドリン系ゴム100重量部に対して0〜10重量部、例えば0.1〜5重量部である。
【0020】
また、接着賦与剤としては、下記一般式(II)で表される1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7誘導体の塩および/または下記一般式(III)で表される1,5−ジアザビシクロ(4,3,0)ノネン−5誘導体の塩が好ましく用いられる。式(II)または式(III)で表される誘導体の塩としては、弱酸塩が好ましく、特にフェノール樹脂塩、ナフトエ酸塩、2−メルカプトベンズイミダゾール塩が好ましく用いられる。
【化2】

【化3】

[式(II)中、R1およびR2は、同一であっても互いに異なっていてもよく、水素原子、アミノ基、アルキル基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、シクロアルキルアミノ基、ジシクロアルキルアミノ基、アリールアミノ基およびアラルキル基からなる群から選ばれる基である。また、式(III)中、R3は、アミノ基、アルキル基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、シクロアルキルアミノ基、ジシクロアルキルアミノ基、アリールアミノ基およびアラルキル基からなる群から選ばれる基である。]
【0021】
これらの接着賦与剤の配合量は、エピクロルヒドリン系ゴム100重量部に対し、上記例示した。接着付与剤を基準として、通常0.1〜5.0重量部、好ましくは0.2〜3.0重量部である。これらの接着賦与剤の配合量が少なすぎると、エピクロルヒドリン系ゴム加硫組成物層の加硫速度が低下すし、多すぎるとエピクロルヒドリン系ゴム加硫組成物層のスコーチが速くなり、また、エピクロルヒドリン系ゴム加硫組成物層が剛直になりすぎて期待される物性が得られなくなる嫌いがある。
【0022】
本発明においては、加硫剤に応じて公知の受酸剤を使用できるが、好ましくは金属化合物および/または無機マイクロポーラス・クリスタルである。金属化合物としては、周期表第II族(2族および12族)金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、カルボン酸塩、ケイ酸塩、ホウ酸塩、亜リン酸塩、周期表第III族(3族および13族)金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、カルボン酸塩、ケイ酸塩、ホウ酸塩、亜リン酸塩、周期表第IV族(4族および14族)金属の酸化物、塩基性炭酸塩、塩基性カルボン酸塩、塩基性亜リン酸塩、塩基性亜硫酸塩、三塩基性硫酸塩等の金属化合物が挙げられる。
【0023】
無機マイクロポーラス・クリスタルとは、結晶性の多孔体を言い、無定型の多孔体、例えばシリカゲル、アルミナ等とは明瞭に区別できるものである。このような無機マイクロポーラス・クリスタルの例としては、ゼオライト類、アルミノホスフェート型モレキュラーシーブ、層状ケイ酸塩、合成ハイドロタルサイト、チタン酸アルカリ金属塩等が挙げられる。特に好ましい受酸剤としては、合成ハイドロタルサイトが挙げられる。
【0024】
受酸剤の配合量は、エピクロルヒドリン系100重量部に対して0.2〜50重量部、例えば0.5〜50重量部、特に1〜20重量部である。
【0025】
本発明による上記加硫接着用組成物には加硫剤の他、ゴム加工分野において通常用いられる各種配合剤である充填剤、補強剤、可塑剤、受酸剤、老化防止剤、滑剤、接着賦与剤、安定剤、粘性賦与剤、顔料、難燃剤、紫外線吸収剤、発泡剤、消泡剤、加硫調整剤等を適宜添加することができる。また、強度、剛性を向上させるため短繊維等の添加も可能である。これら加硫剤や他の添加剤の種類、および添加量は、用いられるゴム材料、求められる特性に応じて適宜設定される。
【0026】
エピクロルヒドリン系ゴム加硫接着用組成物の作成方法としては、通常ゴム加工分野において利用されている任意の手段、例えばミキシングロ−ル、バンバリ−ミキサ−、各種ニ−ダ−類等を用いる方法を適用することができる。
【0027】
本発明において積層体を製造する方法としては、同時押出成形、逐次押出成形により、エピクロルヒドリン系ゴム未加硫組成物層とフッ素樹脂層を積層せしめ、次いで積層物を加熱加硫もしくは加熱加硫成型する方法、金型を用いてエピクロルヒドリン系ゴム未加硫組成物層とフッ素樹脂層を積層すると同時に加熱加硫成型する方法等がある。また未加硫ゴムを型崩れしない程度に弱く加熱加硫した後に両者を積層して十分に加熱加硫成形せしめる方法も採用できる。いずれの方法においても、大気圧プラズマ処理されたフッ素樹脂面がエピクロルヒドリン系ゴム加硫用組成物層と接触するように積層して加熱加硫成型する。上記押出成形により積層された積層体を加熱加硫成型する方法としては金型による加圧成型のほか、スチ−ム缶、エア−バス、赤外線、マイクロウエ−ブ、被鉛加硫等の公知の方法が任意に採用できる。加硫条件としては、用いられるエピクロルヒドリン系ゴム、および用いられる加硫剤に応じて適宜設定されるが、加硫温度は通常100〜200℃であり、加熱時間は温度によって異なるが0.5〜300分間の範囲内にある。
【0028】
本発明の積層体を燃料油系ホースに適応する場合の態様としては、図2に示すように、フッ素樹脂からなる層を内層(1)に、エピクロルヒドリン系ゴムからなる層を外層(2)にそれぞれ配してなる2層ホース、図3に示すように、2層ホースの外側に編組材料を編組補強層(3)を配してなる3層ホース、更には、図4に示すように、3層ホースの外側にゴムからなる最外層(4)を配してなる4層ホース等を代表的に挙げることができる。上記3層ホースまたは4層ホース等に用いられる編組材料としては、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ガラス繊維、ビニロン繊維、綿、ワイヤー等の編組したものが例示される。また上記4層ホースの最外層(4)の材料としては、エピクロロヒドリン系ゴムのほか、アクリルゴム、エチレン−アクリルゴム、クロロプレンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム等の耐老化性、耐候性、耐油性等のある合成ゴムが通常用いられる。また、図5に示すように、内層がフッ素樹脂層だけでは柔軟性が乏しく接合パイプとの密着性が弱い場合、更にその内側にゴム弾性を有し燃料油性に優れたゴム層(5)を配したホースも使用可能である。ゴム層(5)に用いられるゴムの例としては、エピクロロヒドリン系ゴム、ニトリルブタジエンゴム、ニトリルブタジエンゴムとポリ塩化ビニルのブレンド物、水素添加ニトリルブタジエンゴム、フッ素ゴムなどが例示される。
【実施例】
【0029】
本発明を実施するための具体的な形態を以下に実施例を挙げて説明する。但し、本発明はその要旨を逸脱しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1〜13、比較例1〜14)
【0030】
(1)積層体の作成
(実施例1〜10、比較例1〜11)
表1に示す組成のエピクロルヒドリン系ゴム組成物を7インチロールにて70〜80℃で15〜20分間混練し、厚さ2mmの未加硫シートS1〜S7を作製した。
フッ素樹脂(ダイキン工業(株)社製ネオフロンETFE EP-610:エチレン−テトラフルオロエチレン二元共重合体)のペレットを240℃に保持された金型で、20〜25kg/cm2で4分間加圧し、厚さ0.3mmのシートAを得た。
【0031】
上記シートAを図1に示す大気圧プラズマ処理機により、高圧電極と低圧電極の極間を3mmに設定し、周波数5kHzの交流電源を用い、2.2kVの電圧を印加し、Ar/He(vol)比、水素濃度((vol)%)、プラズマエネルギー密度(J/cm2)は表2〜表4に示す条件でプラズマ処理を行い、シートB〜Iを得た。
【0032】
(実施例11〜13、比較例12〜14)
フッ素樹脂(ミネソタ・マイニング・アンド・マニュファクチャリング・カンパニー社製3M THV フルオロプラティック 500G:テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフルオライド三元共重合体)のペレットを185℃に保持された金型で、25kg/cm2で4分間加圧し、厚さ0.3mmのシートJを得た。
【0033】
上記シートJを、Ar/He(vol)比=50/50、水素濃度2(vol)%、プラズマエネルギー密度0.6J/cm2で行った以外は、上記シートB〜Iと同様にしてプラズマ処理を行いシートKを得た。
【0034】
シートA、B、Cについて、表面原子組成をESCAで、下記測定条件にて測定した。
測定装置:島津製作所製 ESCA-3300
励起X線:MgKα
X線出力:8kV,30mA
温度 : 20℃
真空度 :1×10−5Pa
【0035】
上記未加硫塩素含有ゴム組成物からなるシートS1〜S7とフッ素系樹脂シートA〜Kを貼り合わせ、170℃、25kg/cmで15分間加圧し、厚さ2mmの加硫ゴム積層体を得た。
【0036】
(2)性能試験
上記加硫エピクロルヒドリン系ゴム組成物−フッ素樹脂積層体について、下記試験方法により接着性の評価試験をした。
【0037】
接着性評価試験:
ゴム−ゴム積層体およびゴム−樹脂積層体をそれぞれ2.5cm幅×10cmの短冊状に切断して接着試験用試験片を作製し、この試験片について、JIS−K−6256(加硫ゴムの接着試験方法)に記載の方法に準拠し、25℃において50mm/minの引張速度で剥離試験を行った。
得られた実施例及び比較例の試験結果を表2〜6に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【0041】
【表4】

【0042】
【表5】

【0043】
【表6】

【0044】
表2〜6より明らかなように、実施例の加硫接着用組成物および加硫ゴム積層体はいずれの項目においても良好な結果を示し、本発明によりフッ素樹脂からなる層とエピクロルヒドリン系ゴム組成物からなる層とが強固に接着された加硫ゴム積層体または積層ホースを提供することができることがわかる。
また本発明は、接着強度が強いため、比較的穏やかな大気圧プラズマ処理条件、
例えば、フッ素樹脂層の表面が、下記(a)、(b)、(c)の少なくとも1つを満たす程度の処理条件でも、強固な積層体を製造することが可能である。
(a)未処理状態のフッ素原子数Fと炭素原子数CのF/C比が1.6を超える、(b)大気圧プラズマ処理法後のフッ素原子数Fと炭素原子数CのF/C比が1.12を超える、(c)大気圧プラズマ処理法後の酸素原子数Oと炭素原子数CのO/C比が0.08未満である。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の積層体は車両用燃料油系ホース、化学工場用ケミカルホース、水道水用ホースなど、耐熱性、耐候性、耐寒性、耐酸敗ガソリン性、耐アルコール含有ガソリン性、耐ガソリン透過性、耐薬品性が要求される分野で好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】大気圧プラズマ処理機の構成を示す図である。
【図2】2層ホースを示す斜視図である。
【図3】3層ホースを示す斜視図である。
【図4】4層ホースを示す斜視図である。
【図5】最内層を有する積層ホースを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0047】
(図1の符号の説明)
1:高圧電極
2:低圧電極
3:ガス導入口
4:ガス排出口
5:フィルム
【0048】
(図2〜図5の符号の説明)
1:内層
2:外層
3:編組補強層
4:最外層
5:最内層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気圧プラズマ処理法により表面処理されたフッ素樹脂層の処理面とエピクロルヒドリン系ゴム組成物層とが加硫接着されてなるエピクロルヒドリン系ゴム−フッ素樹脂積層体において、エピクロルヒドリン系ゴム組成物が、2,3−ジメルカプトキノキサリンまたはその誘導体を加硫剤として含有する積層体。
【請求項2】
エピクロルヒドリン系ゴム組成物が更に1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7誘導体の塩および/または1,5−ジアザビシクロ(4,3,0)ノネン−5誘導体の塩を含有する請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
大気圧プラズマ処理法が、少なくともアルゴンおよび/またはヘリウムのガス雰囲気で行なわれる請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
フッ素樹脂層の表面が、下記(a)、(b)、(c)の少なくとも1つを満たす、請求項1〜3のいずれかに記載の積層体。
(a)未処理状態でフッ素原子数Fと炭素原子数CのF/C比が1.6を超える、(b)大気圧プラズマ処理後のフッ素原子数Fと炭素原子数CのF/C比が1.12を超える、(c)大気圧プラズマ処理後の酸素原子数Oと炭素原子数CのO/C比が0.08未満である。
【請求項5】
大気圧プラズマ処理法により表面処理されたフッ素樹脂からなる内層の処理面と、エピクロルヒドリン系ゴム組成物からなる外層とが加硫接着されてなる積層構造を、少なくとも含むエピクロルヒドリン系ゴム−フッ素樹脂積層ホースにおいて、エピクロルヒドリン系ゴム組成物が、少なくとも2,3−ジメルカプトキノキサリン系加硫剤を含有し、更に必要により1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7誘導体の塩および/または1,5−ジアザビシクロ(4,3,0)ノネン−5誘導体の塩を含有する積層ホース。
【請求項6】
フッ素樹脂層の表面が、下記(a)、(b)、(c)の少なくとも1つを満たす、請求項5に記載の積層ホース。
(a)未処理状態でフッ素原子数Fと炭素原子数Cの、F/C比が1.6を超える、(b)大気圧プラズマ処理後のフッ素原子数Fと炭素原子数Cの、F/C比が1.12を超える、(c)大気圧プラズマ処理後の酸素原子数Oと炭素原子数Cの、O/C比が0.08未満である。
【請求項7】
大気圧プラズマ処理法により表面処理されたフッ素樹脂層の処理面とエピクロルヒドリン系ゴム層とを加硫接着するエピクロルヒドリン系ゴム−フッ素樹脂積層体の製造方法において、エピクロルヒドリン系ゴム組成物が2,3−ジメルカプトキノキサリン系加硫剤を含有する、積層体の製造方法。
【請求項8】
大気圧プラズマ処理法が、少なくともアルゴンおよび/またはヘリウムのガス雰囲気で行なわれる請求項7に記載の積層体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−272741(P2006−272741A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−95078(P2005−95078)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000108993)ダイソー株式会社 (229)
【出願人】(000126115)エア・ウォーター株式会社 (254)
【Fターム(参考)】