説明

エピジェネティック方法

【課題】生物の半数体状態におけるエピジェネティックな特性を調べるための方法を提供すること。
【解決手段】倍数体の被験体のエピジェネティックな情報を得るための方法であって、該被験体から(i)少なくとも一種の父系由来のDNA分子及び/又はそれと結合しているタンパク質及び/若しくは(ii)少なくとも一種の母系由来のDNA分子及び/若しくはそれと結合しているタンパク質を含む生体試料を得る段階と、父系由来又は母系由来のDNA分子又はそれと結合しているタンパク質のいずれか一種以上を修飾の有無について分析する段階とを含み、前記分析段階は任意の二ヶ所の修飾が1個の染色体上にcisで存在するのか又は2個の姉妹染色体に亘りtransで存在するのかを決定する、倍数体の被験体のエピジェネティックな情報を得るための方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遺伝学の分野に関し、より具体的にはエピジェネティックスに関する。本発明は詳細には、生物の半数体状態におけるエピジェネティックな特性を調べるための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エピジェネティック遺伝は、単細胞生物又は多細胞生物から子孫に、遺伝子塩基配列へのコード化を伴うことなく情報を伝達することである。エピジェネティック遺伝の一形態はDNAメチル化であり、これは多くのヒトの疾患に関与することが知られている。例えば、DNAメチル化プロファイルの変化は、癌やベックウイズ・ヴィーデマン(Beckwith-Wiedemann)症候群、プラダー・ウィリ(Prader-Willi)症候群、エンジェルマン(Angelman)症候群等の疾患によく見られる。DNAメチル化はヒトの発生過程における遺伝子発現の調節に関与することも知られている。プロモーター領域の高度のメチル化は転写のダウンレギュレーションにおいて重要であり、遺伝子発現の「スイッチ」を提供するとされている。
【0003】
DNAメチル化は、通常CpGサイト(即ち、DNA配列においてシトシンの後に直接グアニンが続く場所)において起きるエピジェネティックな修飾である。このメチル化によってシトシンが5−メチルシトシンに変化する。Me−CpGの生成には酵素DNAメチルトランスフェラーゼが触媒となる。CpGサイトは脊椎動物のゲノムにはあまり見られないが、CpGアイランドと総称される脊椎動物の遺伝子プロモーター付近には高密度で存在することが多い。これらCpGサイトのメチル化の状態は遺伝子の活性及び/又は発現に大きな影響を及ぼし得る。
【0004】
メチル化のパターンは最近重要な研究トピックとなりつつある。例えば、DNA低メチル化(メチル化の減少)とDNA高メチル化(メチル化の増加)の双方が、正常組織と癌組織の間で差別的にメチル化される遺伝子を調べる研究に関連付けられてきた。メチル化の変化と関連づけられている癌関連遺伝子には、細胞周期調節、DNA修復、RASシグナリング、侵襲に関連する遺伝子が含まれる。これまでの研究により、正常組織において遺伝子のメチル化は主としてCpGの少ないコード化領域に局在することが分かっている。一方、遺伝子のプロモーター領域は、CpGアイランドが高密度なのにもかかわらずメチル化されていない。
【0005】
メチル化の程度は遺伝子調節においても重要であろう。癌においては、エピジェネティックに媒介される遺伝子サイレンシングが徐々に起こる。このサイレンシングは転写のわずかな減少から始まり、隣接ヘテロクロマチンの広がりからCpGアイランドの保護の低減が促進され、アイランドでのメチル化が促進される。このロスにより個々のCpGサイトが徐々に増加するが、各細胞の同一遺伝子のコピー間で異なる。
【0006】
エピジェネティック遺伝の他の形態は、DNA結合タンパク質の影響によって生じる。例えば、ヒストンのアセチル化の状態は、それが結合する遺伝子の発現に影響を及ぼすことが知られている。ある種のヒストンのアセチル化は、クロマチン構造中のDNAの高充填密度のため遺伝子サイレンシングを起こすと考えられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術において、DNA及びそれと結合しているタンパク質のエピジェネティックな修飾と表現型との間の関連が開示されているが、その相互作用は複雑であり、未だ完全には解明されていない。従来技術の問題を克服又は緩和するための本発明の一側面は、DNA及びそれと結合しているタンパク質のエピジェネティックな修飾パターンを利用し、従来可能と思われていたよりも表現型を生物体に帰する方法を提供することにある。
【0008】
文献、行為、材料、装置、物品等についての考察は、単に本発明の文脈を提供する目的のみで本明細書に記載されるものである。それらの内容のいずれか又は全てが先行技術の基礎の一部を構成するとか、本出願の各請求項の優先日より前に存在したがゆえに本発明に関連する分野における共通の一般的な知識であるとかいうことを示唆又は意味するものではない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明はその第一の側面において、倍数体の被験体のエピジェネティックな情報を得るための方法であって、該被験体から(i)少なくとも一種の父系由来のDNA分子及び/若しくはそれと結合しているタンパク質、並びに/又は(ii)少なくとも一種の母系由来のDNA分子及び/若しくはそれと結合しているタンパク質を含む生体試料を得る段階と、父系由来又は母系由来のDNA分子又はそれと結合しているタンパク質のいずれか一種以上を修飾の有無について分析する段階とを含み、前記分析段階は任意の二ヶ所の修飾が1個の染色体上にcisで存在するのか、又は2個の姉妹染色体に亘りtransで存在するのかを決定する、倍数体の被験体のエピジェネティックな情報を得るための方法を提供する。
【0010】
本出願人は、エピジェネティック分析で母系由来のDNA(及びそれと結合しているタンパク質)と父系由来のDNA(及びそれと結合しているタンパク質)を別々に考えることを提案する。この方法により、被験体の絶対的なエピジェネティック特性を決定することが可能であり、この特性化により例えば被験体の疾患とエピジェネティックな状態との間の新たな関連性を提供する。一方、従来技術の方法は母系由来及び父系由来のDNA及びそれと結合しているタンパク質のエピジェネティックな修飾を合算するものであり、「平均的」な結果を提供する。
【0011】
本方法の一形態においては、分析段階は、修飾が、父系由来のDNA及び/又はそれと結合しているタンパク質に帰すのか、或いは母系由来のDNA及び/又はそれと結合しているタンパク質に帰すのかを決定する。他の実施形態においては、修飾の有無によってインビボにおけるDNA分子の発現を調節できる。
【0012】
本方法の一形態においては、分析段階は、物理的方法を利用して、母系由来のDNA及び/又はそれと結合しているタンパク質から、父系由来のDNA及び/又はそれと結合しているタンパク質を実質的に単離することを含む。この物理的方法としては、母系由来のDNA及び/又はそれと結合しているタンパク質から、父系由来のDNA及び/又はそれと結合しているタンパク質をレーザーダイセクションすることがある。
【0013】
分析段階は、父系由来のDNA及び/又はそれと結合しているタンパク質を、母系由来のDNA及び/又はそれと結合しているタンパク質と比較して、選択的に分析可能なin situ方法を含むこともできる。このin situ方法により、倍数体材料のプロービングによって絶対的な半数体エピジェネティック情報を提供することが可能となり、母系DNA分子と父系DNA分子とを物理的に分離する必要がなくなる。
【0014】
本方法の他の形態においては、DNA分子又はそれと結合しているタンパク質は二倍体細胞中に存在するか、或いは二倍体細胞から得られる。配偶子は半数体情報を含んでいるが、これら細胞は臨床的に得ることが難しく、及び/又は体細胞中に存在するエピジェネティックな修飾に関する不正確な情報を提供する。
【0015】
分析段階をDNAに関して行う本発明の他の形態においては、修飾はメチル化である。この分析は適切な方法のいずれによっても実施することができる。通常、一以上のサイトのメチル化の有無を分析する段階には、亜硫酸水素塩処理を利用するDNA配列決定、制限ランドマークゲノムスキャンニング、メチル化感受性任意プライム化PCR、メチル化感受性制限酵素を用いるサザン分析、メチル化特異的PCR、亜硫酸水素塩変換DNAから増幅されたPCR産物の制限酵素消化及びこれらの組み合わせからなる群から選択される方法が含まれる。分析をタンパク質に関して行う場合、そのタンパク質はヒストンとすることができ、修飾はアセチル化とすることができる。
【0016】
本発明の方法により提供されるエピジェネティックな情報は、疾患、病態又は障害の有無;疾患、病態又は障害の素因;潜在的治療分子に対する反応能力又は反応無能力;外部抗原又は自己抗原に対して免疫応答を開始する能力又は無能力;アレルギーの有無;又はアレルギーの素因等の被験体の表現型情報を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明はその第一の側面において、倍数体の被験体のエピジェネティックな情報を得るための方法であって、該被験体から(i)少なくとも一種の父系由来のDNA分子及び/又はそれと結合しているタンパク質、並びに/又は(ii)少なくとも一種の母系由来のDNA分子及び/又はそれと結合しているタンパク質を含む生体試料を得る段階と、父系由来又は母系由来のDNA分子又はそれと結合しているタンパク質のいずれか一種以上を修飾の有無について分析する段階とを含み、前記分析段階は任意の二ヶ所の修飾が1個の染色体上にcisで存在するのか或いは2個の姉妹染色体に亘りtransで存在するのかを決定する方法を提供する。
【0018】
本出願人の知る限りにおいて、本明細書に開示する発明は、エピジェネティック遺伝をDNA及びタンパク質の修飾によって研究する場合に、「フェーズ」の重要性が認識された最初のケースである。DNAのメチル化やDNAと結合しているタンパク質のアセチル化等のエピジェネティック現象に関するフェーズ特異的な情報を得る初めてのケースである。従って本発明は、二ヶ所のエピジェネティック修飾が同一の染色体上に存在する(即ち、cisの関係)か、或いは一ケ所が父系由来の染色体上に存在し且つもう一ケ所が母系由来の姉妹染色体に存在する(即ち、transの関係)かを識別する能力を提供する。本出願人は、現在認められている、母系由来のDNAと父系由来のDNAの両者を用いるエピジェネティック分析方法は「平均的」な結果を提供するゆえ、情報不足を招くと考えている。この不足する情報はとりわけ個体及び集団におけるフェーズ特異的なエピジェネティック効果を特定するのに重要である。
【0019】
エピジェネティックスの分野は遺伝学の分野においては比較的新しく、生物のDNA中の特定の塩基配列に依存しないゲノム機能の変化の研究を指す。エピジェネティックスは、ある細胞世代から次世代へ受け継がれる影響が胚形態形成、再生、細胞の正常ターンオーバー、腫瘍、細胞培養、又は単細胞生物の複製において起こるかという研究を含む。エピジェネティックプロセスの具体例としては、擬似突然変異、ブックマーキング、遺伝子サイレンシング、X染色体不活性化、位置効果、リプログラミング、トランスベクション、刷り込み、母系効果、癌発生の促進、種々の催奇形因子の効果及びヒストン修飾調節とヘテロクロマチンの調節が挙げられる。
【0020】
本発明の一形態においては、分析段階は、修飾が父系由来のDNA及び/又はそれと結合しているタンパク質に帰すのか、或いは母系由来のDNA及び/又はそれと結合しているタンパク質に帰するのかを決定する。このような決定は、任意の二ヶ所の修飾の存在がcisであるかtransであるかだけが必要な情報である場合には、必ずしも必要ではない。
【0021】
本方法の他の実施形態においては、修飾の有無は、インビボにおけるDNA分子の発現を調節し得るものである。当業者によく知られているように、遺伝子の発現は、DNAメチル化等のエピジェネティックな修飾によって少なくともある程度制御されている。DNAメチル化は、真核生物において共通とされているDNAのエピジェネティック修飾の一種である。ヒトにおいては、約1%のDNA塩基がDNAメチル化を受ける。成人の体組織において、DNAメチル化は通常CpGジヌクレオチド環境で起こり、非CpGメチル化は一般に胚幹細胞で起こる。植物においては、シトシンが対称(CpG又はCpNpG)及び非対称(CpNpNp)にメチル化される(Nは任意のヌクレオチドとなり得る)。
【0022】
哺乳動物においては、全CpGの60〜70%がメチル化される。未メチル化CpGは、多くの遺伝子の5’制御領域に存在する「CpGアイランド」と呼ばれるクラスターに集合している。癌等種々の疾患の過程において、遺伝子プロモーターCpGアイランドは異常な高メチル化を受けることにより、遺伝可能な転写サイレンシングとなる。転写サイレンシング状態は、メチル化CpGに結合可能なタンパク質を媒介として強化される。これらタンパク質はメチル−CpG結合タンパク質と呼ばれ、ヒストンデアセチラーゼ及びヒストンを修飾可能な他のクロマチンリモデリングタンパク質を活性化し、ヘテロクロマチンと称されるコンパクトで、不活性なクロマチンを生成する。このクロマチンの構造変化を経由するDNAメチル化とタンパク質との関係は、種々の表現型の出現に関連づけられる。例えば、メチル−CpG−結合タンパク質2(MeCP2)の消失はレット(Rett)症候群と関連づけられ、メチル−CpG結合ドメインタンパク質2(MBD2)は癌における高メチル化遺伝子の転写サイレンシングを媒介する。DNAに結合しているタンパク質とメチル化の間には相互作用があり得るが、本発明はDNAメチル化と関係ないDNAと結合しているタンパク質の分析を含むと理解されよう。
【0023】
前述のように、DNAに結合しているタンパク質は遺伝子発現の調節に関与することができる。例えば、DNAの物理的構造はクロマチンに詰め込まれて存在するが、転写調節タンパク質(転写因子とも言う)とRNAポリメラーゼの能力に影響を及ぼすことができ、特定遺伝子へ接近し且つそれら遺伝子からの転写を活性化する。
【0024】
クロマチン(染色質)とは、DNAが細胞内に存在している構造体を指す用語である。クロマチンの構造は、DNAとDNA結合タンパク質との相互作用によって決定され安定化される。DNA結合タンパク質には2種のクラスがある。ヒストンはクロマチンのコンパクトな構造維持に関与するDNA結合タンパク質の主たるクラスである。5種の異なるヒストンタンパク質H1、H2A、H2B、H3及びH4が同定されている。
【0025】
DNA結合タンパク質の他のクラスは、単に非ヒストンタンパク質と称される広範な群のタンパク質である。このクラスのタンパク質には、種々の転写因子、ポリメラーゼ、ホルモン受容体、他の核酵素が含まれる。特定の細胞のいずれにも、1000種を超える種々のDNA結合非ヒストンタンパク質が存在する。
【0026】
DNAがヒストンと結合すると、ヌクレオソームと呼ばれる構造体が発生する。ヌクレオソームの核は、それぞれH2A、H2B、H3及びH4からなるサブユニット2個からなるオクタマータンパク質構造体を含む。ヒストンH1はヌクレオソーム間のDNAを占有し、リンカーヒストンとして同定されている。ヌクレオソーム核は約150bpのDNAを含む。各ヌクレオソーム間のリンカーDNAは20〜200bp超とすることができる。これらのヌクレオソーム核構造体は、DNAを線状に引っ張り伸ばしたとすれば、紐上のビーズの様に見えよう。
ヌクレオソーム核自身はソレノイド状に丸くなり、これが更に丸くなりDNAを圧縮する。これら最終的なコイルは圧縮されて更に核型分析にスプレッドに見られる特異的クロマチンとなる。クロマチンのタンパク質−DNA構造は、核マトリックスと呼ばれる非ヒストンタンパク質の足場(scaffold)付着することにより安定化される。
【0027】
本発明には、DNAと結合してタンパク質のいずれかへの修飾であって、そのタンパク質が結合している遺伝子の発現の調節を可能とする修飾が含まれる。例えば、ヒストン翻訳後修飾(PTMs)は正及び負の翻訳状態に関連する。これらPTMsの役割の典型的モデルは、転写因子への細胞質シグナリングに応じて、DNA結合アクティベーターとRNAポリメラーゼにより正のPTMsがプロモーター及びオープンリーディングフレームに亘って確立されることである。負のマークは、ゲノムのヘテロクロマチン領域に亘るDNA結合リプレッサー活性化による抑制の間に遺伝子に造られる。これら修飾の両セットは、続いて調節タンパク質コンプレックスを活性化するヌクレオソーム表面を改変する。
【0028】
本明細書において、ヒストンのPTMsにはヒストン3(H3)、ヒストン4(H4)、ヒストン2A(H2A)、ヒストン2B(H2B)のアセチル化;H3、H2A及びH2Bのリン酸化;H3及びH4のアルギニンメチル化;H3及びH4のリシンメチル化;H2A及びH2Bのリシンユビキチル化;H2A及びH2Bのリシンスモイル化;H3中のプロリン異性化;及びADP−リボシル化脱イミノ化(アルギニンからシトルリンへの変換)が含まれるが、これらに限定されない。ヒストン変種のH2AX、H3.1、H3.3及びHzt1もPTMsを受ける。
【0029】
このヒストンPTMsのレパートリーは「ヒストンコード」として知られ、特異的相互作用ドメインを含むエフェクタータンパク質の結合のための結合表面として役立つ。例えば、アセチル化はブロモドメインに認識され、メチル化はロイヤルファミリー(クロモ、テューダー、MBT)のクロモ様ドメインと非関連PHDドメインに認識され、リン酸化は14−3−3タンパク質中のドメインに認識される。
【0030】
ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HATs)には、GNAT[GCN5(アミノ酸合成5の一般的コントロール)関連アセチルトランスフェラーゼ]ファミリー、CBP/P300(CREB結合タンパク質)ファミリー及びMYST(MOZ、YBF2/SAS3、SAS2、TIP60タンパク質)ファミリーが含まれる。これらのHATs、更には転写因子及び核−ホルモン関連ヒストンアセチルトランスフェラーゼには、GCN5、PCAF(P300/CREB結合タンパク質−結合因子)、GCN5L(アミノ酸合成5様2の一般コントロール)、ELP3、P300(e1a結合タンパク質p300)、CBP(CREB結合タンパク質)、TIP60、MOF/MYST1、MOZ(単球白血病亜鉛フィンガータンパク質)/MYST3、MORF(MOZ関連因子)/MYST4、HB01(ORCに結合するヒストンアセチルトランスフェラーゼ)/MYST2、ATF2、TAF1(TATAボックス結合因子1)、GTF3C4(一般転写因子3c、ポリペプチド4)、ACTR(アクチビン受容体、SRC−1(ステロイド受容体コアクチベーター1)/NCOA1/2(核受容体コアクチベーター1)、ACTR(アクチビン受容体)、SRC−1(ステロイド受容体コアクチベーター1)、CDYL及びHAT1(ヒストンアセチルトランスフェラーゼ1)が更に含まれる。
【0031】
ヒストンデアセチラーゼ(HDACs)には、クラスI及びクラスIlのHDACs(HDACs1〜8及びHDACs10等)及びサーファミリーのクラスIIINAD依存酵素(SirT2等)が含まれる。
【0032】
ヒストンメチルトランスフェラーゼ(HMTs)には、タイプI及びタイプIlのアルギニンHMTs(PRMT1、PRMT4、PRMT5、PRMT7等)及びリシンHMTsが含まれる。リシンHMTには、MLL(混合血統白血病)−1〜5、酵母Set1タンパク質に相同性を有するセット1ファミリー(SET1A及びSET1Bを含む)、SET2、SYMD2、Pr−SET7/8、CLL8、NSD1、DOT1、SUV42H1/2、EZH2、RIZ1、SUV39H1/2、EuHMTアーゼ、GLP、ESET、SETDB1及びG9aが含まれる。
【0033】
アルギニンデメチラーゼ及びリシンデメチラーゼには、タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(PMRT4、PRMT5及びCARM1)、LSD1、JHDMIa、JHDMIb、JHDM2a、JHDM2b、JMJD2A/JHDM3A、JMJD2B、JMJD2C及びJMJD2Dが含まれる。
【0034】
脱イミノ化、リン酸化、スモイル化、ユビキチル化等、他のヒストンPTMsを媒介する酵素は、PADI4、Bmi/Ring1A、RNF20/RNF40及びUbcH6;モノADP−リボシルトランスフェラーゼ及びポリADP−リボースポリメラーゼ;プロリンイソメラーゼ;及びハプシン、MSK1/2、CKII及びMst1等のキナーゼである。更に、メチル−CpG結合ドメイン(MBD)タンパク質等のメチル化DNAに結合するタンパク質には、MeCP2、MBD1−4、MBD3L−1及びMBD3L−2が含まれる。
【0035】
更に、昆虫、植物及び菌類においてRNAiがヘテロクロマチン生成に関与することや、最近の研究により脊椎動物にこのメカニズムが存在することが示唆されたことにより、本発明はRNAiによるクロマチンの修飾を含む。
【0036】
当業者はDNAと結合しているタンパク質を単離する方法については習熟している。DNAの5−メチルシトシン全含有量又はヒストンPTMsは、高速キャピラリー電気泳動、高速液体クロマトグラフィー又はマススペクトロメトリーにより調べることができる。制限ランドマークゲノムスキャンニング等のエピジェネティックな分析を利用して半数体遺伝子材料を調べることができる。しかしながら、目的配列の増幅(通常ポリメラーゼ連鎖反応)を利用する方法、例えばインターメチル化サイトの増幅(AIMS)又はディファレンシャルメチル化ハイブリダイゼーション(DMH)は特に興味深い。ハイブリダイゼーションターゲットのローリングサークル増幅を容易とするP−LISA(後に触れる)を検出すること等、検出用シグナルの増幅を利用する方法は更に興味深い。
【0037】
単一染色体のメチル化の分析を小型化するために、ゼプトモル量(40x10-21mol)のタンパク質を検出できるプロキシミティリゲーションin situアッセイ(P−LISA)等の技法を利用することが可能である(フレドリクソンS.ら、(2002)、「プロキシミティ依存DNAリゲーションアッセイを利用するタンパク質検出」.Nat Biotechnol. 20(5):473〜7)。この方法は目標タンパク質に対する抗体(一例として、メチル化タンパク質に対する抗体)を利用するものであり、この方法により、抗体を標的タンパク質に結合させて接近させた場合、酵素的リゲーションに際してローリングサークル増幅のテンプレートとなる共役オリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションが可能になる。標的タンパク質の検出には独立した2回の認識が必要であるから、検出は非常に特異的であり、且つ個々のタンパク質コンプレックスを検出することができる(ソルダーベルクO.、(2006)、「プロキシミティリゲーションによる個々の内因性タンパク質コンプレックスのin situ直接観察」、Nat Methods. 2006 3(12):995〜1000)。この方法はタンパク質−DNA相互作用の研究に利用され、局所検出のためのDNA−タンパク質相互作用のin situ分析を可能ならしめている(グスタフスドッティヤーS.M.ら、(2007)、「プロキシミティリゲーションによるDNA−タンパク質相互作用のin vitro分析」、Proc Natl Acad Sci USA. 104(9):3067〜72).
【0038】
クロマチン免疫沈澱をジーンアレイ技術と組み合わせる(チップオンチップ(ChIP on chip))。この方法においては、翻訳後修飾DNA結合タンパク質に対する抗体を用いて、修飾タンパク質と標的DNAの両者を免疫沈澱させる。即ち、クロスリンキングを利用してDNA結合タンパク質をDNAに固定し、DNAフラグメンテ−ションの後、免疫沈澱を利用し、用いた抗体により決定された特異性を有するタンパク質−DNAフラグメントを精製する。加水分解してクロスリンキングを戻した後、DNAの増幅とラベルを行う。このDNAを更にマイクロアレイにハイブリダイズし、DNA結合タンパク質が結合している領域を分析して特定する。或いは、遺伝子を遺伝子特異的オリゴヌクレオチドを用いるPCRで調べることができる(単一遺伝子ChIPとして知られている)。
【0039】
ディファレンシャルメチル化ハイブリダイゼーションを利用してメチル化DNAを同定することもできる。この方法においては、クローン化したCpGアイランドを含む特殊なDNAマイクロアレイを用いる。本発明においては、比較されるDNAサンプル(2個の半数体DNAサンプル(染色体、クロマチド等))はそれぞれメチル化感受性制限酵素で消化され、各サンプルから誘導されたポリメラーゼ連鎖反応アンプリコンをCpGアイランドアレイにハイブリダイズする。いずれかのサンプルにおいて強いハイブリダイゼーションシグナルを有するアレイ要素は、メチル化感受性制限酵素による切断から保護され、従って、サンプル中でPCRによって増幅されたディファレンシャル高メチル化CpGアイランドを示す。
【0040】
エピジェネティックな分析の更なる利点は、DNAメチル化等のエピジェネティックマークを少量のDNAを用いて調べることができることである。DNAメチル化の分析に関し、MBD2/MBD3L1コンプレックスのメチル化DNAに対する高いアフィニティに基づくメチル化CpGアイランドリカバリーアッセイ(MIRA)を利用してメチル化DNAを精製することができる。即ち、超音波処理したDNAを、MBD3L−1(メチル化DNAに対するMBD2のアフィニティを向上させるMBD2の結合パートナー)の存在下、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)−MBD2bを含むマトリックス中でインキュベートする。特異的に結合したDNAはマトリックスから溶離され、遺伝子特異的PCR反応を行いCpGアイランドのメチル化を検出する。或いは、結合DNAはマイクロアレイを利用して調べることができる。この方法によれば1ngのDNAを用いてメチル化を検出できる。エピジェネシスに伴う他のタンパク質のGSTフュージョンはこのような「プルダウン」方法により利用することができ、ビオチンを伴うフュージョンはプルダウンマトリックスに対するアフィニティを向上させるために利用することができる。MethyLight、Pryosequencing等の定量的なメチル化分析の利点は、亜硫酸水素塩配列決定と組み合わせた場合、非常に少量のメチル化DNAの検出が可能なことである。一例として、HeavyMethylの場合、30pgのメチル化DNAの検出が可能である。
【0041】
更に、トッププダウンプロテオミクス(前もってペプチドに消化せずに未処理のタンパク質を分析)における最近の進歩により、ヌクレオソーム中の種々のヒストンの未処理修飾パターンを調べることが可能である。
【0042】
エピジェネシスのメカニズムについて多くの研究がなされているが、従来技術において、母系由来のDNA分子又はタンパク質のエピジェネティックな修飾と同時に父系由来のDNA分子又はタンパク質のエピジェネティックな修飾を考慮する複雑な影響については十分に解明されていない。これは、従来技術の方法が二倍体材料を用いてエピジェネティックな修飾を分析しているためである。
【0043】
本出願人は、被験体のエピジェネティックな状態の絶対的な特性化は、DNA及びそれと結合しているタンパク質のエピジェネティック修飾を、半数体の状態で別々に分析することによってのみ可能であると考えている。例えば、エピジェネティックな修飾がメチル化である場合、半数体材料を用いると、ヘテロ接合性の現象の認識のためのフェーズ特異的な効果が解明され、且つ単一のCpGサイトにおける変異であっても(単位的機能の)「アイランド」を含む多数のCpGサイトに亘って定量的な変異分析が提供される。この絶対的特性化によって、個体におけるある種の疾患の存在及び/又は素因、個体におけるある種の治療分子に対する反応能力等、表現型の情報をより正確に得ることができる。
【0044】
より具体的な例を考えてみると、DNAメチル化は発癌に関与すると考えられているエピジェネティックな特徴である。次の表にメチル化感受性の癌関連遺伝子を記載する。
【0045】
【表1−1】

【0046】
【表1−2】

【0047】
【表1−3】

【0048】
【表1−4】

【0049】
表からわかるように、従来技術においてはメチル化が発癌において重要であることは考慮されているものの、これまで二倍体材料しか使用されていない。本出願人は、従来技術の方法が正確さに欠ける情報を提供しやすいと考えている。例えば、腫瘍試料のあるプロモーターのプロファイリングに際し中程度のメチル化度が認められるかもしれない。実際には腫瘍は当然二倍体であるので、測定されたメチル化度は母系由来のプロモーター配列のメチル化と父系由来のプロモーター配列のメチル化の平均である。この平均的な結果は場合によっては(母系父系両者由来のプロモーターがある程度メチル化されているため)正しいが、普遍的に正しいとは言えないであろう。例えば、母系のプロモーター配列は完全に非メチル化状態であってもよく、父系のプロモーター配列は高度にメチル化されていてもよい。仮に母系由来の配列が父系の配列にプロモーター活性の点で優勢であるなら、母系の配列及び父系の配列を別々に分析することの重要さは明白となる。
【0050】
前述のように、細胞の半数体状態に関して、エピジェネティック修飾の有無を分析していることがわかるであろう。従って、検討中のあるDNAサイトにおけるメチル化の有無は、どこで母系由来のエピジェネティックな特徴が、相手方の父系由来のエピジェネティックな特徴から実質的に分離されているかを決定することができる。このように、母系由来のエピジェネティックな特徴の影響は、父系由来のエピジェネティックな特徴の非存在下で確認することができる(その逆も可能)。本出願人は、二倍体材料を分析する場合に提供される潜在的に不正確な(又は少なくとも完全に正確ではないこと)結果を排除することにより、より正確なメチル化マップが得られると考えている。
【0051】
当業界の技術者は、本発明がゲノム刷り込みの自然プロセスと区別され、ある種の遺伝子の発現レベルが母系ゲノム又は父系ゲノムから受け継がれたか否かに依存することを認識するであろう。例えば、インスリン様成長因子−2(IGF2)は、その発現が胎児の正常な発生及び成長に必要な遺伝子である。IGF2の発現は遺伝子の父系のコピーからのみ起こる。刷り込み遺伝子はメチル化の状態によって「マーク」される。IGF2の場合、インシュレーター要素と呼ばれる父系の遺伝子座の要素がメチル化されて、その機能がブロックされる。メチル化されないインシュレーターの機能は、結合時にIGF2の発現活性化をブロックするタンパク質を結合することである。メチル化された場合、このタンパク質はインシュレーターに結合できず、離れたエンハンサー要素がIGF2遺伝子の発現を起こすことを可能にする。母系ゲノムにおいてはインシュレーターはメチル化されないのでタンパク質が結合して、離れたエンハンサー要素の作用をブロックする。一方、本発明は、メチル化についてのフェーズ特異的な情報を提供することにより、母系DNA、父系DNA又はその両者の絶対的な半数体メチル化の帰属を提供することに関する。
【0052】
「絶対的」とは、あるエピジェネティック修飾パターンをある表現型に帰属する際に、推定、推測、或いは類似性又は見込みの決定を伴わないことを意味する。従来技術に記載されるエピジェネティック修飾を分析する方法は、父系修飾と母系修飾が組み合わされて存在することによって混乱を伴っている。従って、例えば非半数体材料を分析する場合、あるアルゴリズムを用いてメチル化パターンの表現型へのもっともらしい帰属を推定又は推測できるが、その帰属は必然的に無効となるであろう。メチル化パターンを表現型に帰属する際にしばしば認められる混乱は、少なくとも部分的には二倍体材料が与える混乱の影響から生じると考えられる。
【0053】
本発明の方法によれば、DNA及び/又はそれと結合しているタンパク質は被験体の生体試料から得る。生体試料はDNA及び/又はそれと結合しているタンパク質を含む限りいかなるものでもよく、全血、血清、血液細胞、皮膚細胞、唾液、尿、毛髪、爪、涙、爪等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0054】
分析段階は母系由来のDNAから父系由来のDNAの実質的な単離を含むが、当業の技術者は知られている適切な方法のいずれかを利用することができる。実質的な単離を達成するための手段は本発明の範囲において制約を受けず、父系由来又は母系由来のDNA及び/又はそれと結合しているタンパク質を実質的に単離する段階の一形態は物理的手段によるものと理解されたい。物理的手段によってもたらされる利点は、非物理的手段(二倍体材料の選択的プロービング等)に比べて、父系由来の材料と母系由来の材料とを識別することに関連する問題を回避できることである。例えば、選択的プローブを使用する場合、クロスハイブリダイゼ−ションが問題となり、曖昧な結果を導くことがあり得る。クロスハイブリダイゼ−ションを制限するためにハイブリダイゼ−ションの条件を変更することができるが、このためには更なる実験を行う必要がある。
【0055】
本発明の一形態において、父系由来のDNA又は母系由来のDNAを専ら含む半数体DNAを提供するための物理的方法は、染色体マイクロダイセクションである。半数体DNAは、完全材料、父系染色体、クロマチド又はクロマチドのフラグメントであることができる。簡便に、染色体中のカットは、動原体より遠位で、p(短)腕及びq(長)腕に分離することができる。それぞれは半数体DNA分子に存在している。当業者は、染色体中の物理的領域を特定することができ、二倍体、三倍体、四倍体又はより高い倍数性を有する他の試料のいずれかから半数体DNAを単離する適切な方法を採用することができる。
【0056】
マイクロマニピュレーションに使用するプラットフォーム及び道具は当業者にはよく知られている。マイクロダイセクションは技術的には正確さを要するが、日常的に行うことができる。装置としては、マイクロマニピュレーター及び回転ステージを供える顕微鏡(直立又は倒立)及びピペットプルラー(マイクロニードル用)が要求される。顕微鏡には振動単離が推奨される。特段のクリーンルームは必要とされないが、マイクロダイセクトされた染色体フラグメントはわずかフェムトグラム量のDNAを含むので、外部DNAによる汚染は制御しなければならない。
【0057】
本発明の一形態においては、半数体DNA分子を単離するための非接触方法を利用することができる。この方法の一例はレーザーマイクロビームである。レーザーマイクロビームマイクロダイセクションは、顕微鏡をインターフェースとする高ビーム品質パルスUVレーザーを用いることができる。レーザービームマイクロダイセクションは、例えばロボットマイクロビーム(P.A.L.M.〔商標〕(商品名)、P.A.L.M.ゲーエムベーハー、ベルンリ−ト、ドイツ)を用いて行うことができる。レーザー光はゲノムセグメントにダメージを与えない又はゲノムセグメントを破壊しない波長を有することが好ましく、例えばDNA等の核酸の最大吸収波長から離れた337nmが好ましい。
【0058】
染色体のレーザーマイクロダイセクションに便利な他のシステムは、レイカ(Leica)レーザーマイクロダイセクション顕微鏡である。このシステムが用いるのはDMLA直立顕微鏡であり、モーター付きノーズピース、モーター付きステージ、xyz−コントロール要素の他に、新型DMLA顕微鏡の長所を有する。用いられるレーザーは波長337nmのUVレーザーである。カット中は光学的に動くが、ステージは固定されている。対象領域はモニター上でマークすることができ、PC制御でカットする。試料は外力を加えることなくPCR管に落下する。カットの結果は自動検査モードで容易にチェックできる。
【0059】
半数体DNA分子の単離は例えば、PALMレーザーを用いる染色体セグメントのレーザーカタパルティング(射出)を利用するマイクロダイセクションによって行うことができる。この場合非接触プロセスは、標的染色体要素の周りをレーザーアブレーションすることと、次の一本腕DNAの分析のために、定義された要素をマイクロ遠心管キャップ等のチューブキャップにレーザー力によりカタパルティングすることを含む。
【0060】
単離された半数体DNA分子はレーザー圧カタパルティングを利用して回収することができる。レーザー圧カタパルティングは、レーザーマイクロビームを例えば目的の半数体ゲノムセグメントに集光させ、必要な半数体材料を不要なゲノムセグメントからカタパルトさせる力を高フォトン密度により発生させることにより達成することができる。試料はフォトン波の頂上を移動し、回収管にカタパルトされる。好ましい回収管は当業者には知られおり、通常のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)反応管やマイクロ遠心管等のチューブが挙げられる。
【0061】
父系由来又は母系由来のDNAは、父系DNAと母系DNAを区別可能なプローブを用いるプレパラティブフローサイトメトリーによって実質的に単離することができる。他の方法は放射線ハイブリッドを用いる方法であって、二倍体材料の調製に各染色体対の一方のみにヒト染色体を用いる方法である。他の方策はGMPテクノロジー社(GMP Technologies Inc.)によって開発された「コンバージョンテクノロジー」の利用である。GMPコンバージョンテクノロジー(GMP Conversion Technology〔商標〕)は染色体対を単一の染色体に分離するプロセスを利用する。分離された場合、遺伝子配列を特定する遺伝子プローブを用いて対立遺伝子を個々に分析することができる。この技法は遺伝子、染色体又はヒト全ゲノムに応用できる。
【0062】
本発明の他の形態においては、汚染性遺伝子材料を、汚染性遺伝子材料としての機能をもはや発揮させないように不活性化又は焼灼する。例えば、母系由来のDNAを単離したい場合、父系の寄与を不活性化又は焼灼することができる。これは、例えば注意深く向けられたレーザービームを用いて相同染色体を破壊することにより達成することができる。
【0063】
父系由来又は母系由来のDNA分子を選択的分析する他の方法は、半数体DNAのコピー数が汚染性のDNAコピー数を大幅に上回るように、PCRにより半数体配列を選択的に増幅することである。DNA分子混合物は、実質的に全部の汚染性DNAが消化され、且つ少量の半数体DNAが残存するように、ヌクレアーゼを用いて部分的に消化することもできる。
【0064】
半数体DNAを選択的に増幅する他の可能性としては、タグを含むプライマーを用いるロングPCRと、そのタグを用いてコピーを分離することである。
【0065】
一旦父系由来又は母系由来のDNAが実質的に単離されると、分析によってエピジェネティック修飾の有無を決定する。
【0066】
エピジェネティック修飾がDNAメチル化である場合、シトシンピリミジン環の5位の炭素にメチル基が有るか否かを分析することによってメチル化を検出することができる。
【0067】
この方法は適切な方法論のいずれを利用しても実施することができる。通常、一以上のサイトのメチル化の有無を分析する方法には、亜硫酸水素塩処理を利用するDNA配列決定、制限ランドマークゲノムスキャンニング、メチル化感受性任意プライム化PCR、メチル化感受性制限酵素を用いるサザン分析、メチル化特異的PCR、亜硫酸水素塩変換DNAから増幅されたPCR産物の制限酵素消化及びこれらの組み合わせからなる群から選択される方法が含まれる。
【0068】
亜硫酸水素塩配列決定は、一本鎖DNAと亜硫酸水素ナトリウムとの反応を含む。亜硫酸ナトリウムは選択的にシトシンを脱アミノ化してウラシルとするが、メチルシトシンとは反応しない。亜硫酸水素塩反応で製造された修飾DNA配列はPCRによって増幅し、その後増幅DNAをクローンニングと配列決定のためにプラスミドベクターにリゲートする。DNAの配列が決定されると、変化していないメチル化シトシン残基のみがシトシンとして増幅される。
【0069】
亜硫酸水素塩配列決定は100未満の細胞から単離されたDNAを用いて行うことができる。通常腫瘍検体は非常に小さいので、このことはツールの主たる一利点である。亜硫酸水素塩配列決定の他の利点は、ゲノムの長いストレッチを分析してDNA中のメチル化パターンを非常に明確に決定する能力である。この能力により5−メチルシトシン残基が定量的でポジティブに表示される。
【0070】
MSPはメチル化スクリ−ニングのための迅速且つ高感度の技法である。MSPは、亜硫酸水素ナトリウムを用いて実施され、DNAを修飾し且つ未メチル化シトシンをウラシルに変換する。未メチル化DNAに対しメチル化DNAに特異的なプライマーを用いて後続の増幅を行い、単純ゲル電気泳動により分析する。メチルライト(MethyLight)は次世代のMSPアッセイである。試料の処理及びアッセイの前提は同一である。メチルライトは進歩した方法である。即ち、標準的MSPによって提供される非常に高い感度は維持されつつ、アッセイはより定量的に行われ、リアルタイム「TaqMan」PCRフォーマットと組み合わせればより労力低減となる。
【0071】
メチル化特異的PCRの特異性に影響を及ぼす最重要パラメータはプライマーのデザインによって決定される。実際に、単に一本鎖、最も普通にはセンス鎖を処理することが好ましいことが多い。この方法の一形態において、プライマーは20〜30bp長の領域を増幅するようにデザインされ、且つ未修飾DNAが該プライマーのテンプレートとならないことを確実にするために元の配列中に十分な量のシトシンを含むべきである。更に、CpGジヌクレオチド内のシトシンの数と位置によって、メチル化テンプレート又は未メチル化テンプレートに対するプライマーの特異性が決定される。通常、各プライマーに1〜3のCpGサイトが含まれ、各プライマーの3’領域に集中される。これにより最適な特異性が提供され、ミスプリンティングによる偽ポジティブが低減される。同一サーモサイクラー中の遺伝子のUとMとの反応の同時分析を容易とするため、本発明者らはプライマーの長さを調節して、ほぼ等しい溶融/アニール温度を得る。通常これにより、M生成物よりも少数塩基対分長いU生成物が得られ、電気泳動後の各レーンを認識する簡便な方法が提供される。
【0072】
メチル化特異的PCRは、メチル化サイトと未メチル化サイトとを差別化するために特異的なプライマー認識を利用するため、増幅のためにストリンジェントな条件を維持することが好ましい。このことは、アニール温度をアニーリングと後続の増幅を可能ならしめる最高温度に近づけるべきであることを意味する。実際、新しいプライマーは通常、計算された溶融温度より5〜8度低い初期アニール温度でテストされる。非特異性はアニール温度を若干上昇させることにより改善でき、PCR産物が無いことや少ないことは1〜3℃下げることにより改善することができる。全てのPCRプロトコールについて、テンプレートDNA及び試薬類が外因性のDNA又はPCR産物によって汚染されないことを確実とする注意が必要である。
【0073】
MSPは、亜硫酸水素ナトリウム処理の後でメチル化対立遺伝子と未メチル化対立遺伝子の間に起こる配列の違いを利用する。CpG中のCpGサイトの数(frequency)はこの配列の違いを亢進する。亜硫酸水素塩修飾DNAにおける未メチル化DNAとメチル化DNAを区別する、ある遺伝子座に対するプライマーをデザインする。この区別はPCR増幅の一部であるため、特異性を維持しつつ、非常に高い感度(通常0.1%の対立遺伝子の検出)を達成することができる。PCR増幅及びゲル電気泳動後、更なる制限又は配列決定をする必要なしに直ちに結果が得られる。また、MSPはパラフィン包埋、マイクロディセクション試料を含む非常に少量の試料の分析を可能とする。
【0074】
本発明の他の形態において、一以上のサイトのメチル化分析の有無を分析する段階は、 (a)半数体DNA試料を亜硫酸水素ナトリウムと反応させて、5−メチルシトシン残基をいずれも変化させずに亜硫酸水素塩変換DNA試料に特異的なプライマーの結合サイトを有する露出した亜硫酸水素塩変換DNA試料を創出しつつ、未メチル化シトシン残基をウラシル残基に変換することと、
(b)トップ鎖及び/又ボトム鎖特異的プライマーを用いてPCR増幅手続きを行うことと、
(c)PCR増幅生成物を単離することと、
(d)Ms−SNuPEプライマー、当該Ms−SNuPEプライマーは、亜硫酸水素塩変換DNA試料に相補的であり、且つアッセイされる一以上のCpGジヌクレオチド配列のシトシン残基の5’で直ちに停止するような、約15−mer長〜約22−mer長のプライマー配列を含むものである;dNTP;及びTaqポリメラーゼを用いて、プライマー伸長反応を行うことと、
(f)第一のプライマー伸長塩基の同一性を決定することにより一以上のCpGジヌクレオチド配列のメチル化状態を決定することと、を含む。
【0075】
メチル化分析は、潜在的メチル化サイトを特定するための高スループット方法を利用することによって容易とすることができる。スクリーニングに利用可能な手法としては、制限ランドマークゲノムスキャンニング(RLGS)、及びアザシチジンのようなDNAメチルトランスフェラーゼインヒビターに曝露した後どの遺伝子が発現されたかをみるための代用物として利用できる遺伝子発現アレイが挙げられる。
【0076】
当業界において高パラレルゲノム−ワイドアッセイが多数知られており、ファンらが開示している(Nat Rev Genet 2006、7(8)、632〜44;この記載内容全体を本明細書の一部を構成するとしてここに援用する)。当業者はこのような方法の多くを契約サービスとして利用可能であり、一例としては例えばイルミナ社(サンディエゴ、CA)が提供する「ゴールデンゲートメチル化溶液」が挙げられる。このイルミナのシステムは、96試料に亘る数百を超える遺伝子に亘るシングルサイト分解において1,536個までのCpGサイトを分析することができる。従って、このシステムは一回のアッセイ当たり147,456の定量的なDNAメチル化測定結果を提供することができる。
【0077】
本発明には、ヒトCpGアイランドライブラリーを得て、配列させることも含まれる。データベースの構築は得られたままのクロマトグラムから開始する。重複を除去した後、6,800のエレメント全てを高スループットゲノム及びnrDNA配列データベース(カリフォルニア大学、サンタクルス)に対してベーシックローカルアラインメントサーチツール(BLAST)分析し、配列決定する。このCpGアイランドデータベースにおいて、それぞれのクローンにIDナンバーが付けられ、染色体の位置、プロモーターであるか5′隣接領域に存在するかどうか、GC含有量、及びクローン中にどのような制限サイトが存在するか等の特性がリストに記載される。最後の情報は、実際の配列同様、制限酵素分析の有用性を決定するのに役立つ。
【0078】
CGIマイクロアレイ技術も本発明の方法において有用なものとして含まれる。この技術は一チップ上の何千もの潜在的標的DNAメチル化の同時帰属を可能にする。この技術は、CpGアイランドクローンをスライドガラス上に配列させることと、標的試料のアンプリコンを調製することと、得られたアンプリコンをCGIマイクロアレイにハイブリダイズすることを含む。一例として、CpGアイランドの外を直ちに切断する制限酵素(Mse1)を用いて得られた腫瘍由来ゲノムDNA試料を用いてこの技術を行うことができる。次に、PCRプライマー配列を有するキャッチリンカーをMse1フラグメントに添加する。この試料を、ゲノム増幅がいかに上手くいったかを決定するためのデノミネーターとして働くレファレンス分と、McrBC及び領域がメチル化されていた場合DNAのみ消化するメチル化感受性制限酵素によって消化されるテスト分とに分割する。これら二部分をPCRで増幅し、DNAをCy5レッド(テスト)又はCy3グリーン(レファレンス)蛍光染料で直接ラベルする。試験試料中でMcrBCで消化されなかったDNAフラグメントは、Cy5−ラベルPCR産物を与えるが、McrBCによって消化されたメチル化フラグメントがあれば非ラベルPCR産物は得られない。ラベルされたテストPCR産物とレファレンスのPCR産物を混合し、スライドガラスにスポットする。ハイブリダイズが起こったスライドガラスをスキャンして、得られたイメージを分析し、メチル化シグナルを特定する。
【0079】
当業者に認識されるように、本発明は生物学、特に医学の分野において多くの用途がある。前述のように、癌はエピジェネティックであると考えらえる。実際、エピジェネティックな変化、特にDNAメチル化は容易に変化を受けるので、ある環境因子がいかに癌のリスクを増加させ得るかを説明するための良い候補である。メチル化の精密な構成及びクロマチンは、遺伝子発現パターンの正常の細胞ホメオスタシスを制御するが、これは癌細胞において認識不可能となる。形質転換細胞のゲノムは、全体的なゲノム低メチル化と、遺伝子制御領域に結合するCpGアイランドの高密度の高メチル化を同時に受けることがあり得る。この劇的な変化は、染色体不安定、内在性寄生配列の活性化、刷り込みの消失、不規則な発現、異数性及び突然変異を引き起こすことができ、腫瘍抑制遺伝子の転写サイレンシングの一因となり得る。高メチル化に関連する不活性化は、DNA修復(hMLH1、BRCA1、MGMT、emリーダー)、細胞周期(p16(INK4a)、p14(ARF)、p15(INK4b))及びアポトーシス(DAPK、APAF−1)等の細胞ネットワークにおける経路の多くに影響を及ぼし得る。変則的なCpGアイランドメチル化は、悪性細胞のバイオマーカー及びそれらの挙動のプレディクターとしても利用することができる。
【0080】
本発明の一形態において、半数体DNAは二倍体細胞に存在するか、或いは二倍体細胞から得られる。この方法においては、体細胞の常染色体を用いることができる。「常染色体」とは、性染色体を除く正常な体細胞又は生殖細胞の存在するいずれかの細胞を意味する。例えば,ヒト染色体においては1〜22が常染色体である。本出願人は、メチル化等のエピジェネティック修飾は少なくとも部分的に消去され、完全に消去されることも多いという理由で、自然半数体材料(精子や卵子に含まれる)を避けることが有利であると考えている。これは、メチル化のパターンは通常減数分裂の際にリセットされるからである。従って、精細胞又は卵細胞の分析は、被験体の表現型の定義を可能とする有用な情報を提供しないであろう。
【0081】
精細胞又は卵等の自然半数体材料の使用は、臨床において性細胞を取得のあたっての問題からも避けられるべきである。卵の取得はどの年代の女性にとっても侵襲的であり、また、小児男性からの精細胞の採取も医学的介入を必要とする。
【0082】
減数分裂−再結合のプロセスの際に、cisに結合していた遺伝子座がtrans結合になる現象が起こり得ると考えられる場合、エピジェネティックなハプロタイピングにおいて性細胞を避けることは更に有利である。従って、配偶子のエピジェネティックなハプロタイプを分析すると、二倍体細胞から得られる半数体DNAのハプロタイプ情報と異なった(即ち、間違った)ハプロタイプ情報が得られるであろう。
【0083】
本方法の一形態においては、父系由来及び母系由来両者のDNA及び/又はそれと結合しているタンパク質のエピジェネティックな修飾を分析する。(例えば)母系DNAか父系DNAのいずれかのメチル化パターンを調査すれば情報が得られるが、両ソースからのDNA分子のメチル化を分析すれば更なる情報が得られるであろう。
【0084】
本発明の一実施形態においては、同一のDNA分子の二以上のサイトのメチル化を分析する。本方法のこの形態は、二ヶ所のメチル化サイトが細胞中のDNA分子上にcis或いはtransとして自然に存在するのか決定する際に有用である。これは、単一の染色体(母系又は父系由来のいずれか)上のメチル化サイトのみ考慮することにより、例えば、二ヶ所のメチル化サイトが同一の染色体上に現れることからcisとして存在することを示すことにより達成することができる。二ヶ所のメチル化サイトがtransとして存在することを示すためには、母系染色体及び父系染色体を分析することも必要であろう。
【0085】
或いは、本方法は、DNA及び/又はそれと結合しているタンパク質が、父系由来及び母系由来の要素に物理的に分離されていない状態で実施することもできる。In situ方法によれば、父系DNA又は母系DNAを物理的に二分子に分離する必要なしに選択的にプローブすることが可能となろう。このように、二倍体材料を用いて細胞の半数体状態における情報を提供することができる。母系又は父系のDNAを選択的に特定することにより母系又は父系の染色体に対するエピジェネティック修飾のローカリゼーションを可能にする点から、プライムドin situラベリング(PRINS)等の方法は有用である。この方法では、染色体に特異的なプライマーと中期及び間期の核両者を用いることができた(ヒンドゥクジャーら、Methods Mol Biol.、1994;33:95〜107)。
【0086】
PNAプローブを染色体のin situ特定化に用いることができることも、本発明に含まれる。PNA化学は、小分子オリゴマーの作成に利用することができる。これらオリゴマーは染料でラベルされた際、良好なプローブとなり、従来の核酸類と異なる利点を提供する。通常、PNAプローブは非常に小さく(12〜20mer)、強いシグナルと非常に低いバックグラウンドを示す。PNAプローブは、蛍光in situハイブリダイゼーション(PNA−FISH)の環境において、中期及び間期の染色体に基づいて染色体構造を調べるための強力な技術として用いることができる。PNA−FISHは、小さいPNAオリゴマープローブを用いて配列特異的に染色体をラベルすることにより、特定の染色体における基本的な配列を特定化する方法である。PNA−FISHの方法は、シュトラウス2002(FISH技術における「PNA−FISH」、ラウテンシュトラウス/リーアー編、シュプリンガー・フェアラーク、ハイデルベルク)に開示されている。
【0087】
本明細書に開示される方法は、メチル化の影響及びタンパク質の修飾を遺伝子発現と関連して考慮しなければならない生物学のどんな領域にも利用することができる。これらの用途は動物(ヒト又は他の動物)に限られず、植物にも応用できる。
【0088】
本発明の方法により得られる表現型情報は、疾患、病態又は障害の有無、疾患、病態又は障害の素因、治療分子に対する反応能力又は反応無能力、外部抗原又は自己抗原に対して免疫応答を開始する能力又は無能力、アレルギーの有無、及びアレルギーの素因を含む。
【0089】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものとは解釈されない。
【実施例1】
【0090】
半数体DNAのメチル化特異的PCR
組織の調製
ヒト被験体から得られた末梢血細胞の中期スプレッドを、標準核型決定法によりPENスライド膜上に調製する。標準ギムザ染色液を調製し、これを用いて調製物中の染色体を特定化する。
【0091】
染色の手続き
段階 プロセス 時間
1. リン酸バッファー(pH:6.8) 1分
2. 0.025%トリプシン/リン酸バッファー(pH:6.8) 2分
3. リン酸バッファー(pH:6.8) 1分
4. ギムザ染色、作用液 15分
5. 蒸留水 2〜3ディップ
【0092】
余剰の水はスライドから振り切り、裏側をキムワイプで乾かし、空気中で乾燥する。
【0093】
レーザーマイクロダイセクション
PALMTMマイクロダイセクションシステム(P.A.L.M.マイクロレーザーテクノロジーズ・ゲーエムベーハー、ドイツ)を用いる。中期スプレッド(前述のように調製)を用いてP.A.L.M顕微鏡(x100対物レンズ)下でレーザー捕捉する。標準P.A.L.M顕微鏡プロトコールに従って、単一染色体を含む姉妹染色体から空間的に分離された単一中期染色体を、6μLの0.1%(v/v)Triton−X−100を含むカップ(200μL、ウルトラフラックスフラットカップPCRチューブ)中にカタパルトする。メチル化分析のため、カタパルトされた材料を遠心分離にてチューブの底に移送した。母系由来及び父系由来両者のDNA試料が得られる。
【0094】
DNA抽出
カップシュアマクロLCMカップ上でマイクロダイセクトされた染色体フラグメントから得られたDNAを、ピコピュアDNA抽出キット(アークトゥスラス社、CA)を用い、キットのプロトコールに従って抽出する。
【0095】
メチル化の検出
DNAを亜硫酸水素ナトリウム処理にて修飾し、未メチル化(メチル化ではなく)シトシンをウラシルに変換する。亜硫酸水素塩を除去し、化学的変換が終了した後、この修飾DNAをPCRのテンプレートとして用いる。それぞれのDNA試料についてPCR反応を二回行う。一方は目的遺伝子のためにメチル化してあるDNAに対してであり、他方は未メチル化のままのDNAに対してである。PCR産物は6〜8%非変性ポリアクリルアミドゲル上で分離し、各バンドを臭化エチジウムで染色して視覚化する。適切な分子量のバンドの存在は、原試料に未メチル化及び/又はメチル化対立遺伝子が存在することを示す。
【0096】
混合物調製のため、10xPCRバッファー、NTP及びプライマーを解凍する。分析すべき試料の数を決定する。試料には、未メチル化反応及びメチル化反応に対する陽性コントロールと水コントロールが含まれる。各PCR反応(メチル化及び未メチル化)用に混合物のマスターを作る。各50μLの反応混合物に次に示す量を使用する。
【0097】
10xPCRバッファー:5μL
25mM4NTPミックス:2.5μL
センスプライマー(300ng/μL):1μL
アンチセンスプライマー(300ng/μL):1μL
蒸留無菌水:28.5μL
【0098】
38μLのPCRミックスを、各試料用にラベルされた個々のPCRチューブに分注する(0.5 mLチューブ又はストリップ)。分注に先立ち、内容物をよく混合する。
【0099】
2μLの亜硫酸水素塩修飾DNAテンプレートを各チューブに添加する。未メチル化反応物及びメチル化反応物を、陽性コントロール及びDNAフリーコントロールとして各試料に含ませる。
【0100】
サーモサイクラーに入れる前に1、2滴の鉱物油(約25〜50μL)を各チューブに添加する。この鉱物油は反応液の表面を完全に覆うことによって蒸発を防ぐ。
【0101】
続いてサーマルサイクラーにてPCR産物を増幅する。PCRは95℃、5分間の変性で開始する。最初の変性の後、Taqポリメラーゼを加える(1.25ユニットのTaqポリメラーゼ、無菌蒸留水で10μLに希釈)。この10μLを40μLの先の油と、ピペットを上下しながら穏やかに混合する。増幅は次にしめすパラメータに従って35サイクル継続する。
【0102】
30秒、95℃(変性)
30秒、プライマー特異的(アニーリング)
30秒、72℃(伸長)
最終ステップ:4分、72℃(伸長)
保存40℃、分析まで
【0103】
PCR産物を次のようにゲル電気泳動にて分析する。
【0104】
6〜8%の非変性ポリアクリルアミドゲルを調製する。1xTBEはより良い緩衝能と、産物分割のためのよりシャープバンドを提供する。通常MSP分析で得られる産物の大きさは80〜200bpの範囲であり、アクリルアミドゲルはサイズ分割にもっとも適している。高パーセンテ−ジ水平アガロースゲルも代替的に使用できる。
【0105】
各試料から得られた反応物を一緒に泳動させると、未メチル化対立遺伝子及びメチル化対立遺伝子間の直接比較が可能となる。陽性及び陰性コントロールも含まれる。垂直ゲルは10V/cmにおいて1〜2時間泳動する。ゲルを臭化エチジウムで染色し、UV光下で視覚化する。特定のDNA領域における、母系由来のDNA及び父系由来のDNAのメチル化状態の比較がなされる。
【0106】
最後に、種々の他の変更及び/又は改変は明細書に概述した本発明の精神を逸脱しないで可能であると理解されたい。
【0107】
本願に基づき優先権を主張してのオーストラリア又は他の国に更なる特許出願がなされる可能性があるが、ここに掲げる暫定的クレームは例としてのみ提供され、更なる出願のいずれかにおいてクレームされる範囲を限定することは意図されないことが理解されよう。後の日付において発明を更に定義又は再定義するため、これら暫定的クレームに特徴を追加したり、仮のクレームから特徴を除くこともありうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
倍数体の被験体のエピジェネティックな情報を得るための方法であって、
該被験体から
(i)少なくとも一種の父系由来のDNA分子及び/又はそれと結合しているタンパク質、並びに/又は
(ii)少なくとも一種の母系由来のDNA分子及び/又はそれと結合しているタンパク質を含む生体試料を得る段階と、
父系由来若しくは母系由来のDNA分子又はそれと結合しているタンパク質のいずれか一種以上を修飾の有無について分析する段階と、を含み、
前記分析段階は任意の二ヶ所の修飾が1個の染色体上にcisで存在するのか、又は2個の姉妹染色体に亘りtransで存在するのかを決定する、倍数体の被験体のエピジェネティックな情報を得るための方法。
【請求項2】
前記分析段階は、修飾が父系由来のDNA及び/若しくはそれと結合しているタンパク質に帰すのか、又は母系由来のDNA及び/若しくはそれと結合しているタンパク質に帰すのかを決定する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
修飾の有無は、インビボにおけるDNA分子の発現を調節し得ることである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記分析段階は、物理的方法を利用して、母系由来のDNA及び/又はそれと結合しているタンパク質から、父系由来のDNA及び/又はそれと結合しているタンパク質を実質的に単離することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記物理的方法は、母系由来のDNA分子及び/又はそれと結合しているタンパク質から父系由来のDNA分子及び/又はそれと結合しているタンパク質をレーザーダイセクションすることを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記分析段階は、父系由来のDNA及び/又はそれと結合しているタンパク質を、母系由来のDNA及び/又はそれと結合しているタンパク質と比較して選択的に分析可能なin situ方法を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記DNA分子又はそれと結合しているタンパク質は、二倍体細胞中に存在するか、又は二倍体細胞から得られる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記分析段階をDNAに関して行う場合、前記修飾はメチル化である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記分析は、ジヌクレオチドCpGのメチル化を決定することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記分析は、亜硫酸水素塩処理を利用するDNA配列決定、制限ランドマークゲノムスキャンニング、メチル化感受性任意プライム化PCR、メチル化感受性制限酵素を用いるサザン分析、メチル化特異的PCR、亜硫酸水素塩変換DNAから増幅されたPCR産物の制限酵素消化及びこれらの組み合わせからなる群から選択される方法を含む、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記分析が亜硫酸水素塩処理を利用するDNA配列決定を含む場合、前記分析は、(a)前記DNA試料を亜硫酸水素ナトリウムと反応させて、5−メチルシトシン残基をいずれも変化させずに亜硫酸水素塩変換DNA試料に特異的なプライマーの結合サイトを有する露出した亜硫酸水素塩変換DNA試料を創出しつつ、未メチル化シトシン残基をウラシル残基に変換することと、(b)トップ鎖及び/又ボトム鎖特異的プライマーを用いてPCR増幅手続きを行うことと、(c)PCR増幅生成物を単離することと、(d)亜硫酸水素塩変換DNA試料に相補的であり且つアッセイされる一以上のCpGジヌクレオチド配列のシトシン残基の5’で直ちに停止する、約15−mer長〜約22−mer長のプライマー配列を含むMs−SNuPEプライマー、dNTP及びTaqポリメラーゼを用いてプライマー伸長反応を行うことと、(f)第一のプライマー伸長塩基の同一性を決定することにより一以上のCpGジヌクレオチド配列のメチル化状態を決定することとを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
dNTPはラベルされ、且つ第一のプライマー伸長塩基の同一性の決定はラベル化dNTPを組み込むことにより測定される、請求項11の方法。
【請求項13】
前記分析をタンパク質に関して行う場合、前記タンパク質はヒストンであり、前記修飾はアセチル化である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記エピジェネティックな情報は、被験体の表現型情報を提供し得るものである、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記表現型情報は、疾患、病態又は障害の有無;疾患、病態又は障害の素因、潜在的治療分子に対する反応能力又は反応無能力;外部抗原又は自己抗原に対して免疫応答を開始する能力又は無能力;アレルギーの有無;及びアレルギーの素因からなる群から選択される、請求項14に記載の方法。

【公表番号】特表2010−528628(P2010−528628A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−510612(P2010−510612)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【国際出願番号】PCT/AU2008/000806
【国際公開番号】WO2008/148159
【国際公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(508151895)シモンズ ハプロミクス リミテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】SIMONS HAPLOMICS LIMITED
【Fターム(参考)】