説明

エピタキシャル有機層状構造物および製造方法

本発明は、異方性の結晶種層がその上のエピタキシャル有機層の結晶構造を制御している層状有機構造物に関する。前記構造物は、順に、基材と、3.4±0.3Åの分子間間隔を有する全体的に秩序のある結晶種層と、有機化合物の少なくとも一つのエピタキシャル層とを有する。前記種層は、共役p系を有する少なくとも一つの多環式有機化合物のディスク状分子を有する。有機化合物の少なくとも一つの層は、前記種層上にエピタキシャルに堆積されている。本発明はさらに、層状有機構造物の製造方法を提供する。前記方法は、全体的に秩序のある異方性の結晶種層を基材上にカスケード結晶化プロセスにより形成することを含む。前記種層は、3.4±0.3Åの分子間間隔を有し、かつそれは、共役p系を有する少なくとも一つの多環式有機化合物のディスク状分子を有する棒状超分子によって形成される。層状有機構造物を得るよう、気相または液相から前記種層上に一つのエピタキシャル有機層をエピタキシャルに堆積させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異方性の結晶種層がそれに続くエピタキシャル有機層の結晶構造を制御している有機層状構造物に関する。本発明のもう一つの局面において、そのような層状有機構造物の製造方法が提供される。
【背景技術】
【0002】
製膜技術としてエピタキシャル成長が知られている。エピタキシー(ギリシア語の「エピ(epi)」は「オン(on)」を意味し、タキシス(taxis)は「秩序のある配置」を意味する)は、基板表面での所定材料層の秩序ある成長を指し、それにより成長する層の結晶構造および配向は、基板の結晶構造および配向を再現するものである。無機基板上での無機材料からなる単結晶層のエピタキシャル成長は、現代の半導体技術に広く用いられている。次の二つの基本的に異なるプロセスがある。(i)気相エピタキシーまたは蒸気相エピタキシー(VPE)(それにより、気体または蒸気の混合物から基板上に薄層を堆積させる)、および(ii)液相エピタキシー(LPE)(それにより、液体溶液または融液から成長が進む)。前者のプロセス(VPE)において、堆積させるべき無機材料の原子は、真空中または緩衝ガス(バッファガス)雰囲気中で気化され、高温源からより冷たい基板への温度勾配により駆動される対流または拡散によって運ばれ、薄層の形態でそこに堆積される。無機堆積物の原子は、活性な表面中心において最小エネルギーの特性となる位置を占めるまで、基板表面を移動する。そのような活性中心の役割は、特に、表面構造の種々の凹凸やむらが担うことができる。エピタキシャル層の成長過程において、新たなむら、および、従って活性中心が、生じ得る。一方、過飽和状態が臨界レベルを超えると、原子は、液相への濃縮を示すか、基板において温度のより低い領域の気相中で結晶化する。この場合、液滴または固体の微結晶の形態である原子の集合体が基板表面に堆積される。十分に小さい微結晶は、表面において配向することができ、一方、大きな結晶は、ある任意の配向に落ち着く。後者の場合、系は、配向していない多結晶層の成長を示す。留意すべきことであるが、エピタキシャル成長には、成長する結晶薄層のものに合う結晶単位格子パラメータの結晶基板を用いることが必要である。この場合、成長する結晶構造は、基板の結晶構造を繰り返すことになる。エピタキシャル層(エピ層)の秩序が基板によって誘導されることは、いずれの系も最小の自由エネルギーを有する傾向にあることによって説明される。この傾向は、エピタキシャル層の核が最小の自由エネルギーに相当する配向をとることで現れ、それは、隣接する結晶面において原子の配列間である一定の一致があるときに可能である。
【0003】
無機基板上に大きな異方性有機分子からなる薄層をエピタキシャル成長させるための方法が知られている。無機半導体表面(例えばSi(111)ウェハ)上に有機薄膜(ペリレンテトラカルボン酸二無水物およびペリレン)をエピタキシャル成長させる一つの方法が、U.Zimmermann,G.Schnitzler et al.,[Epitaxial Growth and Characterization of Organic Thin Films on Silicon,Thin Solid Films 174,85-88(1989)]に記載されている。そのような有機材料(3,4,9,10-ペリレン-テトラカルボン酸二無水物(PTCDA))が蒸発させられ、Ag(111)基板上に高度な秩序をもった薄膜を形成した例が、L. Chkoda, M. Schneider et al. [Temperature-Dependent Morphology and Structure of Ordered 3,4,9,10-Perylenetetracarboxylic Acid Dianhydride Thin Films on Ag(111),Chem.Phys.Lett.371,548-552(2003)]によって明らかにされた。In終端化InAs(001)上での有機分子半導体PTCDA膜の初期成長段階の研究結果が、C.Kendrick and A.Kahn[Epitaxial Growth and Phase Transition in Multilayers of the Organic Semiconductor PTCDA on InAs(001),J.Crystal Growth 181, 181-192(1977)]によって報告された。
【0004】
真空中の分子線蒸着によりグラファイト上に秩序のある銅フタロシアニン(CuPc)膜を製造する方法が知られている[Wataru Mizutani,Youichi Sakakibara et al.,"Measurements of Copper Phthalocyanine Ultrathin Films by Scanning Tunneling Microscopy and Spectroscopy",Japanese Journal of Applied Physics,Vol.28,No.8,August,1989,pp.L14660-L1463]。この方法において、蒸着の前および間の真空チャンバにおける圧力はそれぞれ10-10Torrおよび2×10-8Torrのレベルに維持される。膜の成長速度は約0.5nm/分に維持される。蒸着の間、基板の温度は15℃に保持される。グラファイト上の分子の配向はX線回折によって測定される。CuPc分子は、主に、基板にほぼ平行な分子面を有するよう配列されるが、基板に垂直な分子の存在を示す弱い回折ピークが存在する。CuPc膜の平均厚みは、0.4nm(約一つの層)から20nmまで変動する。その厚みが約20nmに相当する膜においては、結晶粒構造が見られる。グラファイト上にフタロシアニンを単分子層で蒸着させる場合、分子は、室温で熱により活性化され、安定部位にアイランドを形成する。一層より多い層で基板を覆う場合、熱による活性化運動は、隣り合う分子間の相互作用により抑制され、その結果、アイランドが膜の表面に形成される。膜の形成過程において、蒸着むらが、ちり、基板の欠陥などによって生じ得る。それらの不均一はアイランドまたは結晶粒の核となる。膜の厚みが増加すれば、それらの不均一性も増え、基板上に垂直な分子配列をもたらす。従って、この既知の方法は、全体的に秩序がある異方性フィルムの形成を可能にしない。
【0005】
無機単結晶に固有のいくつかの欠点があり、それは、エピタキシャル成長にそのような結晶を基板として用いる可能性を制限している。特に、エピタキシャル成長に適する単結晶材料の数は、結晶表面が、反応性であり得、かつ/または、酸化物で被覆され得、かつ/または吸着水分子を含み得るため、かなり限られている。基板は、不透明であることがあり、不要な電子的および/または熱的特性などを有することもある。主な制約は、基板と成長する結晶層との結晶格子が合致(一致またはサイズ(寸法)が共通)する必要があることに基づいている。
【0006】
異方性の光学特性を有するエピタキシャル層が必要な光学的用途が多く存在する。このことは、基板も同様に異方性を有する必要があることを意味する。本発明は、上述した先行技術によるエピタキシャル成長層の形成方法が有する短所の多くを克服する方法および構造に関する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一つの目的は、層状有機構造物の製造方法を提供することである。
【0008】
この方法による手順は、いつくかの工程を有する。第一工程は基材の準備である。第二工程は、全体的に秩序のある異方性の結晶種層を前記基材上にカスケード結晶化プロセスにより形成することである。前記種層は3.4±0.3Åの分子間間隔を有する。前記種層は、共役π系を有する少なくとも一つの多環式有機化合物のディスク状分子を有する棒状超分子によって形成される。第三工程は、有機層状構造物が得られるように、前記種層上に少なくとも一つのエピタキシャル有機層をエピタキシャルに堆積させることであり、そこにおいて、少なくとも一つの付加する層は、前記種層上でのエピタキシャル成長により得られる。
【0009】
本発明のもう一つの目的は、層状有機構造物を提供することである。前記層状有機構造物は、順に、基材と、全体的に秩序のある結晶種層と、前記種層上にエピタキシャルに堆積された有機化合物からなる少なくとも一つの層とを有する。前記種層は、3.4±0.3Åの分子間間隔を有し、かつ、共役π系を有する少なくとも一つの多環式有機化合物のディスク状分子を有する棒状超分子によって形成されている。
【0010】
本発明は、以上で概観した既知のエピタキシー法のいくつかの欠点を解消することを目標とする。本開示の方法は、有機化合物に基づいて、異方性で全体的に秩序のあるエピタキシャル層状構造物を形成することを可能にする。本開示の方法は、基材と成長する膜の結晶格子が合致する必要性について制約がない。従って、本発明は、基材の材料と堆積に適する化合物が狭い範囲に限定されない。
【0011】
好ましい態様において、本発明は、順に、基材と、3.4±0.3Åの分子間間隔を有する全体的に秩序のある結晶種層と、有機化合物からなる少なくとも一つのエピタキシャル層とを有する層状有機構造物を提供する。前記種層は、共役π系を有する少なくとも一つの多環式有機化合物のディスク状分子を有する棒状超分子によって形成されている。少なくとも一つの有機化合物のエピタキシャル層は、前記種層上にエピタキシャルに堆積されている。
【0012】
本発明の他の目的および効果は、以下に説明する図面を参照して、以下の発明の詳細な説明および添付の請求の範囲を読むことにより、明らかとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の第一の態様において、層状有機構造物の製造方法が提供される。この方法はいくつかの工程からなる。第一の工程は基材を準備することである。第二の工程は、カスケード結晶化プロセスによって前記基材上に全体的に秩序のある異方性の結晶種層を形成することである。前記種層は3.4±0.3Åの分子間間隔を有する。前記種層は、共役π系を有する少なくとも一つの多環式有機化合物のディスク状分子を有する棒状超分子によって形成される。第三の工程は、前記種層の上に少なくとも一つのエピタキシャル有機層を堆積させて層状有機構造物をもたらすことであり、そこにおいて、少なくとも一つの追加の層は、前記種層に対してエピタキシャルである。本開示の方法において、少なくとも一つのエピタキシャル有機層は、気相または液相から堆積される。
【0014】
一態様において、基材は、プラスチック、ガラス、セラミックス、金属とセラミックの複合材料、および金属からなる群のいずれかの材料から構成される。他の態様において、基材は可撓性の材料からなる。本開示の方法のさらなる態様において、基材は剛性の材料からなり、そこにおいて基材の表面は、平坦、凸状、凹状であり、あるいは、それらの形態を合わせた幾何学的形状を有する。さらに他の態様において、基材表面の少なくとも一部は、特定の化学結合により生じた異方性を有する。本開示の方法の一例において、基材の少なくとも一部は凹凸表面を有し、そこにおいて、表面の凹凸は、表面のテクスチャー(組織)、地形、形状、またはレリーフを含む群に属するものである。本開示の方法の他の例において、前記表面の凹凸は、基材の材料からなる。本開示の方法のさらに他の例において、前記表面の凹凸は、基材の材料と異なる材料からなる。本開示の方法の他の態様において、前記種層を形成する工程の前に、前記基材上に一つの配向層を形成する工程がさらに設けられる。配向層は、気相(蒸気相)から材料を斜めに堆積させる方法により基材上に形成される。特に、この方法は、二酸化シリコンを配向層のための材料として用いることができる。本開示の方法の他の態様において、配向層は、所定の方向のラビングよって配向された高分子材料からなる。他の好ましい態様において、本開示の発明は、偏光への暴露によって配向された感光性高分子材料を使用する。
【0015】
結晶学的秩序および異方性を含むすべての必要な物理的性質を有する堆積種層は、特に、カスケード結晶化プロセスによって得ることができる。
【0016】
薄い結晶層を製造するためのこの方法は、オプティバ−プロセス(Optiva-process)として記述されている(米国特許第5,739,296号および第6,049,428号ならびに以下の刊行物:P.Lazarev et al.,"X-ray Diffraction by Large Area Organic Crystalline Nanofilms",Molecular Materials,14(4),303-311(2001)およびY.Bobrov,"Spectral properties of Thin Crystal Film Polarizers"Molecular Materials,14(3),191-203(2001)参照)。このプロセスは、化学修飾工程と4つの秩序化の工程とを、結晶層形成時に含む。以下、この多段階プロセスを「カスケード結晶化プロセス」と呼ぶ。第一工程は化学的修飾工程であり、これは、両親媒性を分子に付与するため、親水性基を前記分子の周辺部に導入する。両親媒性分子は互いに積み重なって超分子を形成する。これが秩序化の第一工程である。その特定の濃度を選ぶことによって、超分子は液晶状態となり、リオトロピック液晶(LLC)を形成する。これが秩序化の第二工程である。せん断力(またはメニスカス力)の作用下においてリオトロピック液晶を基材上に堆積させる。これにより、せん断力(またはメニスカス)の方向によって、得られる固体結晶層の結晶軸方向が決まってくる。このせん断力に支援された方向づけ堆積が、秩序化の第三工程である。カスケード結晶化プロセスの最後の第四の秩序化工程は、乾燥/結晶化であり、これにより、リオトロピック液晶は固体結晶層に変換される。
【0017】
カスケード結晶化プロセスは、簡便でかつ経済的に有効な方法である。この方法は、最終的な層の高度な異方性および結晶性を保証し、任意の形状の薄い結晶層(曲面上の多層コーティングを含む)を得ることを実現可能にし、そして、生態学的に安全であり、労力およびエネルギー消費が少ない。
【0018】
より具体的に、カスケード結晶化プロセスは、以下の順序の技術的操作を特徴とする。
(1)化合物の化学的修飾および超分子の形成(秩序化の第一工程)、
(2)リオトロピック液晶の形成(秩序化の第二工程)、
(3)少なくとも一種の有機化合物からなるリオトロピック液晶の基材への付与、
(4)前記リオトロピック液晶に外からの液化作用を付与してその粘度を下げること、
(5)前記リオトロピック液晶に外からの配向作用を付与して、そのコロイド溶液の粒子に、支配的な配向を付与すること(秩序化の第三工程)、
(6)前記リオトロピック液晶の粘度を少なくとも初期のレベルに戻すよう、外からの液化作用を停止しかつ/またはさらなる外からの作用を付与すること、および
(7)乾燥(秩序化の第四工程)。
【0019】
以下に、カスケード結晶化プロセスのいくつかの段階をさらに詳細に説明する。
【0020】
リオトロピック液晶中の超分子集合体の形成および構造は、分子の濃度および形状によって決まってくる。特に、分子は合わさって、層状、ディスク状もしくは棒状のミセル、または非対称の集合体となる。リオトロピック液晶は、通常、水中において、棒状の界面活性分子で構成される秩序づけられた相として生じる。これらの非対称(異方性)の集合体は、キラルでないまたはキラルな(コレステリック相の)性質のネマチック液晶またはスメクチック柱状相を形成する。
【0021】
そのような液晶分子が超分子複合体に分子的に自己集合する主なメカニズムは、複数の芳香族核のπ−π相互作用である。分子の周辺部に存在する親水性のイオン基は、そのような有機分子を水溶性にする。近年、液晶表示装置において内部偏光子として利用が可能なことから、これらの材料は非常に詳細な研究がなされてきた。(T.Sergan,et al.,Liquid Crystals,5,567-572(2000))。液晶ダイレクターが異方性層の面内にあるようなホモジニアス配向の材料を用いることにより、液晶の技術的利用分野を広げることができる。
【0022】
リオトロピック液晶への外部からの液化作用(粘度を下げることを目的とする)およびリオトロピック液晶への外部からの配向作用(ある支配的な配向を粒子に付与することを目的とする)は、同時に施すことができ、あるいは、リオトロピック液晶への外部からの配向作用は、外部からの液化作用の過程で施すことができる。
【0023】
リオトロピック液晶への外部からの液化作用は、結晶膜が形成されている側と反対の側から基材を部分的かつ/または全体的に加熱することにより施すことができ、かつ/または、異方性結晶層が形成される側からコロイド溶液層および/または基材を部分的かつ/または全体的に加熱することにより施すことができる。
【0024】
前記層への外部からの液化作用は、基材上のリオトロピック液晶層に機械的因子(例えば剪断による)を付与することにより、施すことができる。この場合、リオトロピック液晶のいわゆるチキソトロピー性を利用する。チキソトロピーの概念は、剪断応力の条件下で粘度を下げることができ、そして、剪断をやめた後に最初の粘度を回復することができる材料の能力を表す。高度にチキソトロピー性のリオトロピック液晶は、剪断応力を解放した後すみやかに最初の粘度を回復する能力を有する。従って、チキソトロピー性材料の粘度は、剪断応力または剪断速度の関数となる。チキソトロピー性材料の粘度は、剪断応力(または剪断速度)が増加するとき、減少する。
【0025】
液晶の配向に使用されるいくつかの方法がある。サーモトロピック液晶を配向させるプロセスは、基礎的課題および応用の両方の観点から詳細に研究されてきた。概して、配向技術は、液晶材料に接触するかまたは液晶容積を制限するプレート(基板)の特別な一方向処理を利用する。外部からの配向作用は、異方性を有する特別に調製した基板または特別な配向層で被覆されている特別に調製した基板とリオトロピック液晶とを相互作用させることにより、達成することができる。既知の方法によれば、望ましい配向作用を得るため、上述した基板は、特別なポリマー(例えばポリイミド)または界面活性層で被覆される。このポリマー層をラビングすることにより、配向作用を生じさせることが可能になる。
【0026】
ラビングの方向(すなわち、サーモトロピック液晶の望ましい配向の方向)は、基板に隣接する液晶層の分子と配向フィルムとの間の異方性分子相互作用によって、液晶フィルム中の分子に伝えられる。液晶における好ましい方向は、液晶ダイレクターと呼ばれる単位ベクトルnによって決まる。異方性の(例えばラビングされた)基板の液晶への配向作用は、「アンカリング」と呼ばれる現象に基づいている。アンカリングは、サーモトロピック液晶をベースとするディスプレイにおいて、フィルムを配向させる標準的な手段である。対応する配向技術は、サーモトロピック液晶についてよく知られている。しかし、これらの方法は、これら二種類の液晶系は顕著に異なるからため、リオトロピック液晶に適用できない可能性がある。
【0027】
リオトロピック液晶をアンカリングによって配向させるのは、サーモトロピック液晶よりもかなり困難である。これは、前者のタイプの液晶の多くが、水または油のいずれにも溶解する両親媒性の物質(界面活性物質)をベースとしていることに関係する。両親媒性分子は、極性(親水性)の頭部と、非極性(疎水性)脂肪族の尾部を有する。界面活性分子が基材と接触するとき、一般的な場合、この両親媒性の特性によって基材表面に垂直に界面活性分子が配向するようになる。極性で親水性の頭部と非極性で疎水性の尾部の両方が配向のプロセスに関与し、それが、基材表面に対して分子の垂直な配向をもたらす。この配向(ホメオトロピックと呼ばれる)は、好ましい方向(基材表面に垂直)を特徴とし、それはまた、液晶の光軸となる。
【0028】
塗布されたコロイド溶液の表面への外部配向作用は、少なくとも一つの配向用具の方向づけられた機械的運動によってもたらすことができる。配向用具は、典型的に、ナイフ、および/または、円筒ワイパー、および/または、フラットプレートであり、塗布層表面に平行にまたは前記表面にある角度で向けられ、それにより、必要な厚みの結晶フィルムが得られるよう基材表面から配向用具の端部までの距離が予め設定される。配向用具の表面には、所定のレリーフを設けることができる。配向は、加熱装置を用いて行うことができる。
【0029】
リオトロピック液晶への外部配向作用は、所定の配向をコロイド溶液に付与するため、圧力下、前記液晶を紡糸口金を通過させることにより、施すことができる。
【0030】
前記層の粘度の回復(少なくともその初期レベルへの回復)は、配向の過程において、または、配向の直後に、液化作用をやめることにより達成することができる。リオトロピック液晶の粘度を初期レベルに回復した後、前記系へのさらなる配向作用を、配向の主段階と同じ方向にもたらすことができる。
【0031】
乾燥は、室温で50%以上の湿度において行うことが望ましい。乾燥段階で、溶媒の約10%が通常、異方性結晶層によって保持される。本開示の方法に従って次の段階を行う前に、前記層中の溶媒の含有量をさらなるアニーリングによって2〜3%まで減らすことが望ましい。
【0032】
上記操作が終了したとき、カスケード結晶化プロセスは、全体的に秩序のある結晶構造を有する異方性の結晶層をもたらし、それは、光軸の一つに沿った3.4±0.3Åの分子間間隔を特徴とする。
【0033】
カスケード結晶化プロセスの主な利点は、フィルムの表面欠陥に対する依存性が弱いことである。この弱い依存性は、リオトロピック液晶の粘性および弾性に起因する。液晶の弾性層は、欠陥領域の発達を妨げ、堆積された層の大きな部分に欠陥が侵入するのを抑制する。リオトロピック液晶の弾性は、欠陥領域の作用下での分子の再配向に抵抗して作用する。堆積された材料の分子は、まとめられ、拡散または移動の自由が制限された横に広がる超分子となる。
【0034】
この方法によって生成された異方性の結晶層は全体的な秩序を有する。言い換えれば、そのような層は全体的に秩序のある結晶構造を有する。この全体的な秩序は、層表面全体または基材表面全体にわたって異方性結晶層の結晶学的な軸の方向が、堆積プロセスによって制御されていることを意味する。形成された異方性結晶層に付与される外部作用は、この層の全体的な秩序を乱すものではない。従って、この異方性結晶層は、個々の結晶粒の内部に均一な結晶構造が形成されている多結晶層とは異なるものである。そのような粒の四角形は、層表面または基材のものよりもかなり小さい。異方性結晶層の結晶構造に対する基材表面の影響は限られている。異方性結晶層は、系デザインの必要条件に応じて、基材表面の一部に形成してもよいし、表面全体に形成してもよい。いずれの場合においても、異方性結晶層は全体的な秩序を特徴とする。
【0035】
本開示の方法によれば、エピタキシャルに堆積される有機層は、一般式、
{K}{M}n
(式中、Kは共役π系を有する多環式有機化合物であり、Mは修飾官能基であり、かつnは官能基の数である)の少なくとも一つの修飾された有機化合物からなる。
【0036】
本開示の方法の可能な一態様において、前記有機層は、超分子のリオトロピック液晶相を形成することができる、少なくとも一つの多環式有機芳香族共役化合物またはそのような有機芳香族共役化合物の誘導体を有する。本開示の方法の態様の他の可能な例において、有機化合物は、超分子のリオトロピック液晶相を形成することができる、前記多環式有機芳香族共役化合物の少なくとも一つの誘導体を有する。
【0037】
本開示の方法の他の好ましい態様において、有機層は、インダントロン(バット・ブルー4)、1,4,5,8-ペリレンテトラカルボン酸ジベンゾイミダゾール(バット・レッド14)、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸ジベンゾイミダゾール、キナクリドン(ピグメント・バイオレット19)、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物(PTCDA)、ビス-(1,2,5-チアジアゾロ)-p-キノビス-(1,3-ジチオール)(BTQBT)、およびトリス(8-ヒドロキシキノリン)アルミニウム(Alq3)からなる群より選ばれる一つの材料をベースとする。
【0038】
異方性フィルムを用いる種々の態様が可能であり、それによれば、前記有機層は、無金属フタロシアニン(H2Pc)、Li2Pc、MgPcおよび一価または二価の金属を有する他のフタロシアニン類;AlClPc、AlOHPcおよび金属ハロゲン化物または金属水酸化物を有する他のフタロシアニン類;TiOPc、SiCl2Pc、Si(OH)2Pcおよび四価の金属を有する他のフタロシアニン類;中心金属イオンがスルホン酸(またはそのアミド)、カルボン酸、アルキル、アリール、ハロゲン化物、ニトロまたは他のフタロシアニン環で置換されたフタロシアニン類;VOPc、CrPc、FePc、CoPc、NiPc、CuPc、ZnPc、SnCl2Pc、PbPc、Ge(OH)2Pc、InBrPc;またはその他の何らかのフタロシアニン類からなる群より選ばれるいずれかのフタロシアニン(Pc)またはそれらの混合物をベースとする。
【0039】
本開示の方法の他の態様において、前記有機層は、3,3´-ジクロロベンジジン、2,7-ジアミノフルオレノン、2,6-ジアミノアントラキノン、2,7-ジアミノアントラキノン、(p‐アミノフェニル)フェニルアミン、トリス(p‐アミノフェニル)アミン、2,7-ジアミノジベンゾチオフェンスルホン、2,7-ジアミノジベンゾチオフェン、2-(p‐アミノフェニル)-6-アミノベンゾキサゾール、ビス(p‐アミノフェニル)アミン、N‐メチルビス(p‐アミノフェニル)アミン、2,5-ビス(p‐アミノフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール、1,6-ジアミノピレン、1,5-ジアミノナフタレン、およびその他の何らかの類似有機化合物からなる群より選ばれる一つの有機化合物またはそれらの混合物をベースとする。一態様において、前記種層上に少なくとも一つの追加の有機層を緩衝ガス雰囲気中で堆積させる。本開示の方法に従って、気相または蒸気相のエピタキシャル組成物に使用される緩衝ガスは、He、Ar、Xe、および他の不活性ガス、N2、CO2、および他の任意の非反応性ガスからなる群より選ばれるいずれかのガスとすることができる。
【0040】
他の好ましい態様において、本開示の発明は層状の有機構造物を提供する。前記構造物は、順に、基材、全体的に秩序のある3.4±0.3Åの分子間間隔を有する結晶種層、および有機化合物の少なくとも一つの層を有する。前記種層は、共役π系を有する少なくとも一つの多環式有機化合物のディスク状分子を有する棒状超分子によって形成されている。有機化合物からなる次の層は、前記種層上にエピタキシャルに堆積されている。
【0041】
前記層状有機構造物の他の態様において、基材は、プラスチック、ガラス、セラミックス、金属とセラミックの複合材料、および金属からなる群のいずれかの材料から構成される。
【0042】
本発明のさらに他の態様において、基材は可撓性の材料からなる。他の態様において、基材は剛性の材料からなる。この発明において、平坦、凸形状、凹形状、およびそれらの形態を合わせた幾何学的形状からなる群より選ばれる種々の形態の基材を用いることが可能である。
【0043】
さらなる態様において、層状有機構造物は、紫外線および/または赤外線を吸収する少なくとも一つの追加の層をさらに備え、それは、前記層状有機構造物の上部に形成される。他の態様において、層状有機構造物は、前記層状有機構造物の上部に形成される少なくとも一つの追加の反射防止層をさらに有する。
【0044】
さらに異なる態様が可能であり、その場合、前記層状有機構造物は、前記層状有機構造物の上部に形成される少なくとも一つの追加の保護層を有する。さらに一態様において、前記層状有機構造物は、前記層状有機構造物の上部に形成される少なくとも一つの追加の接着剤層を有する。
【0045】
本開示の層状有機構造物によれば、有機層は、一般式、
{K}{M}n
(式中、Kは共役π系を有する多環式有機化合物であり、Mは修飾官能基であり、かつnは官能基の数である)の少なくとも一つの修飾された有機化合物からなる。
【0046】
本開示の層状有機構造物の可能な一態様において、有機層は、超分子のリオトロピック液晶相を形成することができる、少なくとも一つの多環式有機芳香族共役化合物またはそのような有機芳香族共役化合物の誘導体を有する。
【0047】
本開示の層状有機構造物の他の好ましい態様において、有機層は、インダントロン(バット・ブルー4)、1,4,5,8-ペリレンテトラカルボン酸ジベンゾイミダゾール(バット・レッド14)、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸ジベンゾイミダゾール、キナクリドン(ピグメント・バイオレット19)、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物(PTCDA)、ビス-(1,2,5-チアジアゾロ)-p-キノビス-(1,3-ジチオール)(BTQBT)、およびトリス(8-ヒドロキシキノリン)アルミニウム(Alq3)からなる群より選ばれる少なくとも一つの材料をベースとする。
【0048】
本開示の層状有機構造物の他の態様において、有機層は、無金属フタロシアニン(H2Pc)、Li2Pc、MgPcおよび一価または二価の金属を有する他のフタロシアニン類;AlClPc、AlOHPcおよび金属ハロゲン化物または金属水酸化物を有する他のフタロシアニン類;TiOPc、SiCl2Pc、Si(OH)2Pcおよび四価の金属を有する他のフタロシアニン類;中心金属イオンがスルホン酸(またはそのアミド)、カルボン酸、アルキル、アリール、ハロゲン化物、ニトロまたは他のフタロシアニン環で置換されたフタロシアニン類;VOPc、CrPc、FePc、CoPc、NiPc、CuPc、ZnPc、SnCl2Pc、PbPc、Ge(OH)2Pc、InBrPc、またはその他の何らかのフタロシアニンからなる群より選ばれるいずれかのフタロシアニン(Pc)またはそれらの混合物をベースとする。
【0049】
本発明のさらに他の態様において、有機層は、3,3´-ジクロロベンジジン、2,7-ジアミノフルオレノン、2,6-ジアミノアントラキノン、2,7-ジアミノアントラキノン、(p‐アミノフェニル)フェニルアミン、トリス(p‐アミノフェニル)アミン、2,7-ジアミノジベンゾチオフェンスルホン、2,7-ジアミノジベンゾチオフェン、2-(p‐アミノフェニル)-6-アミノベンゾキサゾール、ビス(p‐アミノフェニル)アミン、N‐メチルビス(p‐アミノフェニル)アミン、2,5-ビス(p‐アミノフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール、1,6-ジアミノピレン、1,5-ジアミノナフタレン、およびその他の何らかの類似有機化合物からなる群より選ばれる一つの有機化合物またはそれらの混合物をベースとする。
【0050】
層状有機構造物のさらなる態様において、少なくとも一つの有機層の堆積は、緩衝ガス雰囲気中において行われる。
【0051】
前記層状有機構造物、異なる基材(例えばプラスチック、ガラスまたはセラミック)上での成長は、ともにユニークであり、そして、光学部品工学にとって効果的な技術である。そのような層状構造物は、屈折率および吸収率の高い光学的異方性を示す。それらの構造物は、電場ベクトルの一成分を透過し、そして、他の成分を吸収する。この効果は二色性として知られる。
【0052】
他の応用に加えて、層状有機構造物を利用する一つの可能な方法は、E型偏光子を形成することである。E型偏光子において、異常波は透過される一方、正常波は強い減衰を受ける。前記層状有機構造物は、向上した視野角特性を示す。
【0053】
図1は、上述したように作製された層状有機構造物の一つを示す。前記構造物は、基材1、全体的に秩序のある結晶種層2およびエピタキシャル有機層3からなる。
【0054】
図2は、基材1上に設けられた全体的に秩序のある異方性結晶種層2の構造を示す模式図である。前記種層は、共役π系を有する少なくとも一つの多環式有機化合物のディスク状分子を有する棒状超分子4によって形成されている。
【0055】
図3は、層状有機構造物の上部に形成された保護層5を有する層状有機構造物の模式図である。
【実施例】
【0056】
本発明の方法および系に従って、いくつかの実験を行った。以下に記載する実験は、単に例示を目的とするものであり、いかなる意味においても、本発明の技術的範囲を限定しようとするものではない。
【0057】
一例として、一つの層状有機構造物の調製を説明する。厚みが0.5mmのガラス板を基材として用いた。カスケード結晶化プロセスにより、前記基材上に、全体的に秩序のある異方性の結晶種層を形成した。種層の材料は、共役π系を有する少なくとも一つの多環式有機化合物のディスク状分子を有する棒状超分子によって構成されていた。インダントロンスルホン酸塩の9.5%水溶液を用いて、室温で六方晶相を形成した。溶液中の染料分子からなるこの形成された超分子複合体およびそれらの複合体は、種層の結晶構造の基礎となった。表面を清浄にした後、前記材料の開始ペーストを前記基材に塗布した。ペーストを塗布する方法にはスピリングとスミアリングが含まれる。両方の技法は、ほぼ同じ結果をもたらした。後の配向に対して液晶の粘度を下げるため、リオトロピック液晶を外部作用に供した。この場合、溶液は、ネマチック相、またはネマチック相と六方晶相の混合物を形成した。系の粘度は、1780から250mPa・sに減少した。系の粘度を下げる予備的希釈作用の条件下において、高品質の異方性結晶層が得られた。所定の例において、この外部からの希釈作用は、基材ホルダーの側面から塗布された層を加熱することにより施された。インダントロンのペーストからなる塗布層の温度が56℃になるように、基材ホルダーを加熱した。電磁放射を用いて塗布層を加熱するか、あるいは、他の手段によっても、良好な結果を得ることができる。この希釈作用の特殊な例として、加熱したマイヤーロッドの使用があった。これは、結晶層の粘度の低下を実現すると同時に配向も行うものである。
【0058】
次の操作は、リオトロピック液晶の超分子の配向であった。必要な外部からの配向作用を施すため、種々の配向用具を用いることができる。この例では、ワイヤーが巻きつけられた配向用の円筒マイヤーロッドNo.4を用いた。これは、9.5mmの湿潤層の厚みを規定した。配向作用をもたらすため、マイヤーロッドの移動速度を13mm/秒とした。マイヤーロッドによる作用下で生じた剪断ひずみにより、系の粘度はさらに低下した。配向の後、基材ホルダーの加熱をやめ、加熱マイヤーロッドを取り外した。
【0059】
種層形成における次の操作は、乾燥であった。溶媒は、層の構造のこれまで得られた配向を乱さないようにゆっくり除去することが望ましい。ここに記載する例では、乾燥は、室温で60%の相対湿度において行った。
【0060】
その結果、0.3〜0.4ミクロンの厚みで高い異方性の光学特性を有する種層が得られた。その二色比は、透過率T=40%で、Kd=28であった(通常の方法では、Kdは20を超えなかった)。そのパラメータの再現性は、層の表面にわたって、そして、一連の試料間で、良好であった。得られた種層の結晶構造の完全さは、光学的方法およびX線回折法により評価した。前記種層のX線回折解析により、上記技術操作の結果形成された層は、光軸の一つの方向において3.4±0.3Åの分子間間隔を有することが明らかになった。
【0061】
層状有機構造体の形成において次の工程は、気相または液相から少なくとも一つのエピタキシャル有機層を前記種層上に堆積させることであった。この例では、三つのペリレン化合物を、順に、前記種層上にエピタキシャルに堆積させた。ここで使用したペリレン誘導体は、ペリレン-3,4,9,10-ビス(カルボン酸)ジイミド(H‐PTC)、N,N´-ジメチルペリレン-3,4,9,10-ビス(ジカルボキシミド)(Me-PTC)およびN,N´-ビス(3,5-キシリル)ペリレン-3,4,9,10-ビス(ジカルボキシミド)(Ph2-PTC)であった。堆積速度は約2nm/分に調節した。エピタキシャル有機層の形態および分子配向を、透過電子顕微鏡法(TEM)および原子間力顕微鏡法(AFM)によって観測した(K.Matsushige,T Hamano,and T.Horiuchi,"Atomic Force Microscopy Observation of the Epitaxial Growth of Organic Molecules",J.Crystal Growth,146,641-644(1995)参照)。透過電子顕微鏡法(TEM)および原子間力顕微鏡(AFM)を利用して行った解析により、層状構造物の上面は非常に平滑であることがわかった。スペクトル線の線プロフィル解析により、種層上に形成されたエピタキシャル有機層の分子は、基材に垂直な状態にあることがわかった。これらの分子は、種層のディスク状分子と同様に配向している。AFM像から、種層上に堆積されたエピタキシャル有機層は結晶構造を有することを確かめることができ、それは、種層の結晶構造を保持している。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】全体的に秩序のある結晶種層がその上に形成された基材を備え、前記種層がエピタキシャル有機層によって被覆されている層状有機構造物の模式図である。
【図2】基材上に設けられた全体的に秩序のある異方性結晶種層の構造を示す模式図である。
【図3】層状有機構造物の上部に保護層を有する層状有機構造物の模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)基材を用意する工程、
(b)全体的に秩序のある異方性の結晶種層を前記基材上にカスケード結晶化プロセスにより形成する工程(ここで、前記種層は、3.4±0.3Åの分子間間隔を有し、かつ前記種層は、共役π系を有する少なくとも一つの多環式有機化合物のディスク状分子を有する棒状超分子によって形成される)、および
(c)前記種層上に少なくとも一つのエピタキシャル有機層をエピタキシャルに堆積させる工程、を有する、層状有機構造物の製造方法。
【請求項2】
少なくとも一つのエピタキシャル有機層を気相から堆積させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも一つのエピタキシャル有機層を液相から堆積させる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記基材は、プラスチック、ガラス、セラミックス、金属とセラミックの複合材料、および金属からなる群の一つまたは複数の材料からなる、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記基材は、可撓性の材料からなる、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記基材は、剛性の材料からなる、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記基材の表面が、平坦、凸状、凹状であるか、またはそれらの形態を合わせた幾何学的形状を有する、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記基材の表面の少なくとも一部が、特定の化学結合によって生じた異方性を有する、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記基材の少なくとも一部が凹凸表面を有し、そこにおいて、表面の凹凸は、表面のテクスチャー、地形、形状、およびレリーフを含む群に属するものである、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記表面の凹凸は、前記基材の材料からなるものである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記表面の凹凸は、前記基材の材料と異なる材料からなるものである、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記種層の形成の工程の前に前記基材上に少なくとも一つの配向層を形成する工程をさらに有する、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記配向層は、気相(蒸気相)から特定の材料を斜めに堆積させる方法により前記基材上に形成される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記特定の材料は二酸化シリコンである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも一つの配向層は、所定の方向のラビングにより配向された高分子材料からなる、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
少なくとも一つの前記配向層は、偏光への暴露により配向された感光性高分子材料からなる、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記有機層は、一般式、
{K}{M}n
(式中、Kは共役π系を有する多環式有機化合物であり、Mは修飾官能基であり、かつnは官能基の数である)の少なくとも一つの修飾された有機化合物を含む、請求項1〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記有機層は、超分子のリオトロピック液晶相を形成することができる少なくとも一つの多環式有機芳香族共役化合物を含む、請求項1〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記有機層は、超分子のリオトロピック液晶相を形成することができる、前記多環式有機芳香族共役化合物の少なくとも一つの誘導体を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記有機層は、インダントロン(バット・ブルー4)、1,4,5,8-ペリレンテトラカルボン酸ジベンゾイミダゾール(バット・レッド14)、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸ジベンゾイミダゾール、キナクリドン(ピグメント・バイオレット19)、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物(PTCDA)、ビス-(1,2,5-チアジアゾロ)-p-キノビス-(1,3-ジチオール)(BTQBT)、およびトリス(8-ヒドロキシキノリン)アルミニウム(Alq3)からなる群より選ばれる少なくとも一つの材料を含む、請求項1〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記有機層は、無金属フタロシアニン(HPc)、Li2Pc、MgPcおよび一価または二価の金属を有する他のフタロシアニン類;AlClPc、AlOHPcおよび金属ハロゲン化物または金属水酸化物を有する他のフタロシアニン類;TiOPc、SiCl2Pc、Si(OH)2Pcおよび四価の金属を有する他のフタロシアニン類;中心金属イオンがスルホン酸(またはそのアミド)、カルボン酸、アルキル、アリール、ハロゲン化物、ニトロまたは他のフタロシアニン環で置換されたフタロシアニン類、VOPc、CrPc、FePc、CoPc、NiPc、CuPc、ZnPc、SnCl2Pc、PbPc、Ge(OH)2Pc、InBrPc、またはその他の何らかのフタロシアニン類からなる群より選ばれるいずれかのフタロシアニン(Pc)またはそれらの混合物を含む、請求項1〜20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記有機層は、3,3´-ジクロロベンジジン、2,7-ジアミノフルオレノン、2,6-ジアミノアントラキノン、2,7-ジアミノアントラキノン、(p‐アミノフェニル)フェニルアミン、トリス(p‐アミノフェニル)アミン、2,7-ジアミノジベンゾチオフェンスルホン、2,7-ジアミノジベンゾチオフェン、2-(p‐アミノフェニル)-6-アミノベンゾキサゾール、ビス(p‐アミノフェニル)アミン、N‐メチルビス(p‐アミノフェニル)アミン、2,5-ビス(p‐アミノフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール、1,6-ジアミノピレン、1,5-ジアミノナフタレン、およびその他の何らかの類似有機化合物からなる群より選ばれる一つの有機化合物またはそれらの混合物を含む、請求項1〜21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
少なくとも一つの有機層の前記堆積を緩衝ガス雰囲気中で行われる、請求項1〜22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
前記緩衝ガスは、He、Ar、Xeおよび他の任意の不活性ガス、N2、CO2および他の任意の非反応性ガスからなる群より選ばれるいずれかのガスである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
基材、
共役π系を有する少なくとも一つの多環式有機化合物のディスク状分子を有する棒状超分子によって形成されている、3.4±0.3Åの分子間間隔を有する全体的に秩序のある結晶種層、および
前記種層上にエピタキシャルに堆積されている有機化合物からなる少なくとも一つの有機層を順に有する、層状有機構造物。
【請求項26】
前記基材は、プラスチック、ガラス、セラミックス、金属とセラミックの複合材料、および金属からなる群の一つまたは複数の材料からなる、請求項25に記載の層状有機構造物。
【請求項27】
前記基材は、可撓性の材料からなる、請求項25に記載の層状有機構造物。
【請求項28】
前記基材は、剛性の材料からなる、請求項25または26に記載の層状有機構造物。
【請求項29】
前記基材の表面が、平坦、凸形状、凹形状、およびそれらの形態を合わせた幾何学的形状からなる群より選ばれる形態を有する、請求項25〜28のいずれかに記載の層状有機構造物。
【請求項30】
前記層状有機構造物の上部に形成されている、紫外線および/または赤外線を吸収する少なくとも一つの追加の層をさらに有する、請求項25〜29のいずれかに記載の層状有機構造物。
【請求項31】
前記層状有機構造物の上部に形成されている少なくとも一つの追加の反射防止層をさらに有する、請求項25〜30のいずれかに記載の層状有機構造物。
【請求項32】
前記層状有機構造物の上部に形成されている少なくとも一つの追加の保護層をさらに有する、請求項25〜31のいずれかに記載の層状有機構造物。
【請求項33】
前記層状有機構造物の上部に形成されている少なくとも一つの追加の接着剤層をさらに有する、請求項25〜32のいずれかに記載の層状有機構造物。
【請求項34】
前記有機層は、一般式、
{K}{M}n
(式中、Kは共役π系を有する多環式有機化合物であり、Mは修飾官能基であり、かつnは官能基の数である)の少なくとも一つの修飾された有機化合物を含む、請求項25〜33のいずれかに記載の層状有機構造物。
【請求項35】
前記有機層は、超分子のリオトロピック液晶相を形成することができる、少なくとも一つの多環式有機芳香族共役化合物またはそのような有機芳香族共役化合物の誘導体からなる、請求項25〜34のいずれかに記載の層状有機構造物。
【請求項36】
前記有機層は、インダントロン(バット・ブルー4)、1,4,5,8-ペリレンテトラカルボン酸ジベンゾイミダゾール(バット・レッド14)、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸ジベンゾイミダゾール、キナクリドン(ピグメント・バイオレット19)、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物(PTCDA)、ビス-(1,2,5-チアジアゾロ)-p-キノビス-(1,3-ジチオール)(BTQBT)、およびトリス(8-ヒドロキシキノリン)アルミニウム(Alq3)からなる群より選ばれる少なくとも一つの材料を含む、請求項25〜35のいずれかに記載の層状有機構造物。
【請求項37】
前記有機層は、無金属フタロシアニン(H2Pc)、Li2Pc、MgPcおよび一価または二価の金属を有する他のフタロシアニン類;AlClPc、AlOHPcおよび金属ハロゲン化物または金属水酸化物を有する他のフタロシアニン類;TiOPc、SiCl2Pc、Si(OH)2Pcおよび四価の金属を有する他のフタロシアニン類;中心金属イオンがスルホン酸(またはそのアミド)、カルボン酸、アルキル、アリール、ハロゲン化物、ニトロまたは他のフタロシアニン環で置換されたフタロシアニン類;VOPc、CrPc、FePc、CoPc、NiPc、CuPc、ZnPc、SnCl2Pc、PbPc、Ge(OH)2Pc、InBrPc、またはその他の何らかのフタロシアニン類からなる群より選ばれるいずれかのフタロシアニン(Pc)またはそれらの混合物を含む、請求項25〜36のいずれかに記載の層状有機構造物。
【請求項38】
前記有機層は、3,3´-ジクロロベンジジン、2,7-ジアミノフルオレノン、2,6-ジアミノアントラキノン、2,7-ジアミノアントラキノン、(p‐アミノフェニル)フェニルアミン、トリス(p‐アミノフェニル)アミン、2,7-ジアミノジベンゾチオフェンスルホン、2,7-ジアミノジベンゾチオフェン、2-(p‐アミノフェニル)-6-アミノベンゾキサゾール、ビス(p‐アミノフェニル)アミン、N‐メチルビス(p‐アミノフェニル)アミン、2,5-ビス(p‐アミノフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール、1,6-ジアミノピレン、1,5-ジアミノナフタレン、およびその他の何らかの類似有機化合物からなる群より選ばれる一つの有機化合物またはそれらの混合物を有する、請求項25〜37のいずれかに記載の層状有機構造物。
【請求項39】
少なくとも一つの有機層の前記堆積が、緩衝ガス雰囲気中で行われる、請求項25〜38のいずれかに記載の層状有機構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−504305(P2007−504305A)
【公表日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−524966(P2006−524966)
【出願日】平成16年9月23日(2004.9.23)
【国際出願番号】PCT/US2004/031305
【国際公開番号】WO2005/032217
【国際公開日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】