説明

エフェクタT細胞または制御性T細胞に選択的に結合する分子およびその使用方法

【課題】免疫システム全体を調節することなく、免疫システムのエフェクタまたは制御部分を選択的に調節する物質を含有する組成物の提供。
【解決手段】対象におけるエフェクタT細胞機能に対する制御性T細胞のバランスを調節することから利点が得られる症状を有する対象を治療する方法であって、当該方法がJagged-1、GPR-32、CD83、CD84、CD89、セロトニンR、BY55、セロトニンR2C、GPR63、ヒスタミンR-H4、GPR58、EPO-R、PSG-1、PSG-3、PSG-6、PSG-9、PDE-4d、およびPI-3-関連キナーゼからなるグループから選択される分子の発現または活性を調節する物質を、そのような治療が生じるように前記対象に投与するステップを含む方法。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の分野
本願明細書は、2002年10月9日に提出された米国仮出願第 60/417,102号、表題“Surface Markers for TH1 and/or TH2 Cells and Reduction of Immune
Responses”、 2002年10月18日に提出された米国仮出願第 60/419,575号、表題“Secreted Proteins of TH1 and/or TH2 Cells and Regulation of Immune
Responses”、2002年11月8日に提出された米国仮出願第60/424,777号表題“Intracellular Proteins of TH1 and Regulation of Immune Responses”、2002年10月9日に提出された米国仮出願第 60/417,103号、表題 “Surface Markers for Treg Cells and Method for
Increasing Immunogenic Reactions”、2002年11月8日に提出された米国仮出願第60/424,881号、表題“Intracellular
Proteins of Treg Cells and Regulation of Immune Responses”、および2002年10月9日に提出された米国仮出願第 60/417,243号、表題“Secreted Proteins of Treg Cells and Regulation of
Immune Responses”の利益を主張する。これらの各出願の内容全体は、引用をもって本願明細書に援用するものとする。
【0002】
免疫システムは、微生物、ウイルス、ならびに異物として認識されるおよび有害な可能性があるものと認識される物質に対して、人体が自己を認識および定義するための手段である。古典的な免疫応答は、抗原提示細胞が抗原をCD4+ Tヘルパー (Th)リンパ細胞に提示し、その結果T細胞の活性化、増殖、およびエフェクタTリンパ細胞の分化が生じる場合に始まる。未分化T細胞は、感染症または外来組織の移植などで生じる抗原への曝露のあと、異なる機能を持つThlおよびTh2細胞に分化する。 Thl 細胞はインターフェロンγ(IFN-γ)およびインターロイキン2(IL-2)(いずれも細胞媒介免疫応答に付随する)を産生する。Thl細胞は、一般に外来組織移植片の拒絶反応および数多くの自己免疫疾患に関与する免疫応答において役割を担っている。Th2細胞はインターロイキン-4(IL-4)などのサイトカインを産生し、一般にアレルギーならびにアレルギー性鼻炎および喘息などのアレルギー性炎症性応答などに関与する、抗体媒介免疫応答に関連する。Th2細胞はまた、外来移植片の拒絶反応にも寄与している。この免疫応答は、たとえば細菌またはウイルス感染に対する防御、および癌細胞の増殖の阻止などの多くの状況において望ましい。しかし、その他の状況下では、たとえば移植片レシピエントなどにおいては、そのようなエフェクタT細胞は望ましくない。
【0003】
免疫システムが抗原によって活性化されるか寛容化されるかは、Tエフェクタ細胞の活性化およびT制御細胞の活性化のバランスによって決まる。T制御細胞は、免疫学的寛容性の導入および維持に主要な役割を果たしている。このような細胞は、少量のIL-2、IL-4、IL-5および IL-12を産生するT細胞である。制御性T細胞は、エフェクタT細胞よりも少量ではあるが、TNFa、TGFb、IFN-g、およびIL-10を産生する。TGF?は制御性T細胞によって産生される主要なサイトカインであるが、前記サイトカインは、Th1またはTh2細胞よりも少量、たとえばTh1またはTh2細胞よりも1桁小さい量、産生される。制御性T細胞は CD4+CD25+細胞群において見つけることができる(たとえばWaldmann and Cobbold. 2001. Immunity.
14:399参照)。制御性T細胞は、培養物中で活性化シグナル(たとえば、抗原および抗原提示細胞、またはたとえば抗CD3抗体プラス抗CD-28抗原などMHCの文脈における抗原を模倣するシグナル)によって刺激されるTh1、Th2または未分化T細胞の増殖およびサイトカイン産生を抑制する。
【0004】
現在まで、望ましくない免疫応答は免疫抑制剤で治療されている。この医薬品は免疫システム全体、つまり望ましい免疫応答と望ましくない免疫応答の両方を阻害する。一般的な免疫抑制剤は長期間投与しなければならないことが多く、数多くの有害な副作用がある。これらの医薬品を中断すると、一般に疾患が再発する結果となる。したがって、免疫システム全体を調節することなく、免疫システムのエフェクタまたは制御部分を選択的に調節する物質が必要である。
【発明の概要】
【0005】
本願発明は、エフェクタT細胞または制御性T細胞に選択的に結合するある分子の発見に、少なくとも部分的に基づく。したがって、細胞の異なるサブセットによる免疫応答は選択的に調節することができる。本願発明は、たとえば制御性T細胞およびエフェクタT細胞の活性化のバランスを調節(たとえば上方調節または下方調節)し、免疫応答の調節とそれらの応答の調節に有用な組成物を生じる方法に関連する。本願発明はまた、対象における制御性T細胞の機能に対するエフェクタT細胞の調節、またはエフェクタT細胞の機能に対する制御性T細胞の機能の調節から利益を得られる症状の診断、治療、または予防に有用な方法にも関連する。本願方法は、症状に関連する抗原に対してのエフェクタT細胞の激しすぎる応答によって特徴づけられる症状の診断、治療または予防、症状に関連する抗原に対してのエフェクタT細胞の弱い応答によって特徴づけられる症状の診断、治療または予防、症状に関連する抗原に対しての制御性T細胞の激しすぎる応答によって特徴づけられる症状の診断、治療または予防、症状に関連する抗原に対してのエフェクタT細胞の弱い応答によって特徴づけられる症状の診断、治療または予防に特に有用である。
【0006】
ある局面では、本願発明は、対象におけるエフェクタT細胞機能に対する制御性T細胞のバランスを調節することから利点が得られる症状を有する対象を治療する方法であって、当該方法がPTGER2およびTGFβ1からなるグループから選択される分子の発現または活性を調節する物質を、そのような治療が生じるように前記対象に投与するステップを含む方法に関与する。
【0007】
ある局面では、本願発明は、対象におけるエフェクタT細胞機能に対する制御性T細胞のバランスを調節することから利点が得られる症状を有する対象を治療する方法であって、当該方法がJagged-1、GPR-32、CD83、CD84、CD89、セロトニンR、BY55、セロトニンR2C、GPR63、ヒスタミンR-H4、GPR58、EPO-R、PSG-1、PSG-3、PSG-6、PSG-9、PDE-4d、およびPI-3-関連キナーゼ からなるグループから選択される分子の発現または活性を調節する物質を、そのような治療が生じるように前記対象に投与するステップを含む方法を特徴とする。
【0008】
本願発明の別の局面では、エフェクタT細胞と制御性T細胞を含む免疫細胞の個体群におけるエフェクタT細胞の機能に対する制御性T細胞の機能を調節する方法は、前記細胞の個体群を前記免疫細胞の少なくとも一部分の中のPTGER2およびTGFβ1からなるグループから選択された分子の発現または活性を調節する物質と接触させ治療を生じさせるステップを特徴とする。
【0009】
さらに別の局面では、エフェクタT細胞と制御性T細胞を含む免疫細胞の個体群における制御性T細胞の機能に対するエフェクタT細胞の機能を調節する方法は、前記細胞の個体群を前記免疫細胞の少なくとも一部分の中のJagged-1、GPR-32、CD83、CD84、CD89、セロトニンR、BY55、セロトニンR2C、GPR63、ヒスタミンR-H4、GPR58、EPO-R、PSG-1、PSG-3、PSG-6、PSG-9、PDE-4d、およびPI-3-関連キナーゼ からなるグループから選択された分子の発現または活性を調節する物質と接触させ治療を生じさせるステップを特徴とする。
【0010】
ある実施態様では、前記分子は遺伝子であって、その遺伝子の発現は下方調節されている。別の実施態様では、前記分子はポリペプチドであって、そのポリペプチドの活性は下方調節されている。さらに別の実施態様では、前記分子は遺伝子であって、その遺伝子の発現は上方調節されている。別の実施態様では、前記分子はポリペプチドであって、そのポリペプチドの活性は上方調節されている。
【0011】
ある実施態様では、前記対象において、制御性T細胞の機能に対するエフェクタT細胞の機能が阻害される。ある実施態様では、前記対象において、制御性T細胞の機能に対するエフェクタT細胞の機能が刺激される。
【0012】
ある実施態様では、前記症状は移植、アレルギー応答、および自己免疫疾患からなるグループから選択される。別の実施態様では、前記症状はウイルス感染症、細菌感染症、寄生虫感染症および腫瘍からなるグループから選択される。
【0013】
本願発明のある局面では、あるアッセイは、PTGER2およびTGFβ1からなるグループから選択されるポリペプチドを含む指示組成物をテスト化合物のライブラリの各メンバと接触させるステップと、前記テスト化合物の能力を決定して前記ポリペプチドの活性を調節するステップであって当該ステップにおいて前記ポリペプチドの活性の調節が前記テスト化合物が少なくとも1つのエフェクタT細胞の機能に対する少なくとも1つの制御性T細胞の機能を調節することを示すステップと、目的の化合物を前記ライブラリから選択するステップと、を含む、少なくとも1つのエフェクタT細胞の機能の調節に対する少なくとも1つの制御性T細胞の機能を調節する化合物を同定することを特徴とする。
【0014】
別の局面では、本願発明は、Jagged-1、GPR-32、CD83、CD84、CD89、セロトニンR、BY55、セロトニンR2C、GPR63、ヒスタミンR-H4、GPR58、EPO-R、PSG-1、PSG-3、PSG-6、PSG-9、PDE-4d、およびPI-3関連キナーゼ からなるグループから選択されるポリペプチドを含む指示組成物をテスト化合物と接触させるステップと、前記テスト化合物の能力を決定して前記ポリペプチドの活性を調節するステップであって当該ステップにおいて前記ポリペプチドの活性の調節が前記テスト化合物が少なくとも1つの制御性T細胞の機能に対する少なくとも1つのエフェクタT細胞の機能を調節することを示すステップと、目的の化合物を前記ライブラリから選択するステップと、を含む、少なくとも1つの制御性T細胞の機能の調節に対する少なくとも1つのエフェクタT細胞の機能を調節する化合物を同定することを特徴とする。
【0015】
ある実施態様では、前記アッセイにはさらにin vitro またはin vivoアッセイにおける少なくとも1つのT制御性細胞の機能および少なくとも1つのTエフェクタ細胞の機能への本願発明の化合物の効果を決定するステップが含まれる。
【0016】
別の実施態様では、前記指示組成物は前記ポリペプチドを発現する細胞である。別の実施態様では、前記細胞は、前記ポリペプチドをコードする発現ベクトルを前記細胞に導入することによって前記ポリペプチドを発現するように操作されている。さらなる実施態様では、前記指示組成物は、前記ポリペプチドおよび標的分子を発現する細胞であって、前記ポリペプチドと前記標的分子の相互作用を調節するテスト化合物の能力がモニターされる。
【0017】
別の実施態様では、前記指示組成物は、指示細胞であって当該細胞は前記ポリペプチドおよび前記ポリペプチドの活性に感受性のあるレポータ遺伝子を含む、指示細胞を含む。
【0018】
ある実施態様では、前記指示組成物は無細胞組成物である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】リアルタイムPCRによって決定した、抗CD3/抗CD28刺激性末梢血液リンパ球における、転写因子GATA3、Tbox21およびFOXP3の発現へのTGFβ1の作用を示す代表的なデータをグラフに示す。
【図2A】図2A乃至2Cは、リアルタイムPCRによって決定した、末梢血液リンパ球における、転写因子FOXP3 (2A)、Tbox21 (2B)およびGATA3 (2C) の発現への各種濃度のAH6809 (プロスタグランジンE1およびE2のアンタゴニスト) の作用を示す代表的なデータをグラフに示す。
【図2B】図2A乃至2Cは、リアルタイムPCRによって決定した、末梢血液リンパ球における、転写因子FOXP3 (2A)、Tbox21 (2B)およびGATA3 (2C) の発現への各種濃度のAH6809 (プロスタグランジンE1およびE2のアンタゴニスト) の作用を示す代表的なデータをグラフに示す。
【図2C】図2A乃至2Cは、リアルタイムPCRによって決定した、末梢血液リンパ球における、転写因子FOXP3 (2A)、Tbox21 (2B)およびGATA3 (2C) の発現への各種濃度のAH6809 (プロスタグランジンE1およびE2のアンタゴニスト) の作用を示す代表的なデータをグラフに示す。
【図3A】図3A乃至3Cは、リアルタイムPCRによって決定した、抗CD3/抗CD28刺激性末梢血液リンパ球における、転写因子FOXP3 (2A)、Tbox21 (2B)およびGATA3 (2C) の発現量への各種濃度のヒスタミンH3およびH4レセプタのアンタゴニストである チオペラミドの作用を示す代表的なデータをグラフに示す。
【図3B】図3A乃至3Cは、リアルタイムPCRによって決定した、抗CD3/抗CD28刺激性末梢血液リンパ球における、転写因子FOXP3 (2A)、Tbox21 (2B)およびGATA3 (2C) の発現量への各種濃度のヒスタミンH3およびH4レセプタのアンタゴニストである チオペラミドの作用を示す代表的なデータをグラフに示す。
【図3C】図3A乃至3Cは、リアルタイムPCRによって決定した、抗CD3/抗CD28刺激性末梢血液リンパ球における、転写因子FOXP3 (2A)、Tbox21 (2B)およびGATA3 (2C) の発現量への各種濃度のヒスタミンH3およびH4レセプタのアンタゴニストである チオペラミドの作用を示す代表的なデータをグラフに示す。
【図4A】図4A乃至4Cは、分化したTh1 (4A)、Th2 (4B)およびTGFb1由来Treg細胞(4C)における既知のサイトカインの産生への、各種濃度のヒスタミンH3およびH4レセプタであるチオペラミドの作用を示す代表的なデータをグラフにして示す。
【図4B】図4A乃至4Cは、分化したTh1 (4A)、Th2 (4B)およびTGFb1由来Treg細胞(4C)における既知のサイトカインの産生への、各種濃度のヒスタミンH3およびH4レセプタであるチオペラミドの作用を示す代表的なデータをグラフにして示す。
【図4C】図4A乃至4Cは、分化したTh1 (4A)、Th2 (4B)およびTGFb1由来Treg細胞(4C)における既知のサイトカインの産生への、各種濃度のヒスタミンH3およびH4レセプタであるチオペラミドの作用を示す代表的なデータをグラフにして示す。
【図5A】図5A乃至5Cは、リアルタイムPCRによって決定した、抗CD3/抗CD28刺激性末梢血液リンパ球における、転写因子FOXP3 (5A)、Tbox21 (5B)およびGATA3 (5C) の発現量への各種濃度のセロトニンの作用を示す代表的なデータをグラフに示す。
【図5B】図5A乃至5Cは、リアルタイムPCRによって決定した、抗CD3/抗CD28刺激性末梢血液リンパ球における、転写因子FOXP3 (5A)、Tbox21 (5B)およびGATA3 (5C) の発現量への各種濃度のセロトニンの作用を示す代表的なデータをグラフに示す。
【図5C】図5A乃至5Cは、リアルタイムPCRによって決定した、抗CD3/抗CD28刺激性末梢血液リンパ球における、転写因子FOXP3 (5A)、Tbox21 (5B)およびGATA3 (5C) の発現量への各種濃度のセロトニンの作用を示す代表的なデータをグラフに示す。
【図6】分化したTh1、Th2、およびTGFβ1由来のTreg細胞の増殖への、各種濃度のセロトニンの作用を示す代表的なデータをグラフに示す。
【図7A】図7A乃至7Cは、分化したTh1 (7A)、Th2 (7B)およびTGFβ1由来Treg細胞(7C)における既知のサイトカインの産生への、各種濃度のセロトニンの作用を示す代表的なデータをグラフにして示す。
【図7B】図7A乃至7Cは、分化したTh1 (7A)、Th2 (7B)およびTGFβ1由来Treg細胞(7C)における既知のサイトカインの産生への、各種濃度のセロトニンの作用を示す代表的なデータをグラフにして示す。
【図7C】図7A乃至7Cは、分化したTh1 (7A)、Th2 (7B)およびTGFβ1由来Treg細胞(7C)における既知のサイトカインの産生への、各種濃度のセロトニンの作用を示す代表的なデータをグラフにして示す。
【図8A】図8A乃至8Cは、リアルタイムPCRによって決定した、抗CD3/抗CD28刺激性末梢血液リンパ球における、転写因子FOXP3 (8A)、Tbox21 (8B)およびGATA3 (8C) の発現量への各種濃度のPDE4阻害性作用薬であるロリプラムの作用を示す代表的なデータをグラフにして示す。
【図8B】図8A乃至8Cは、リアルタイムPCRによって決定した、抗CD3/抗CD28刺激性末梢血液リンパ球における、転写因子FOXP3 (8A)、Tbox21 (8B)およびGATA3 (8C) の発現量への各種濃度のPDE4阻害性作用薬であるロリプラムの作用を示す代表的なデータをグラフにして示す。
【図8C】図8A乃至8Cは、リアルタイムPCRによって決定した、抗CD3/抗CD28刺激性末梢血液リンパ球における、転写因子FOXP3 (8A)、Tbox21 (8B)およびGATA3 (8C) の発現量への各種濃度のPDE4阻害性作用薬であるロリプラムの作用を示す代表的なデータをグラフにして示す。
【図9A】図9A乃至9Cは、リアルタイムPCRによって決定した、抗CD3/抗CD28刺激性末梢血液リンパ球における、転写因子FOXP3 (9A)、Tbox21 (9B)およびGATA3 (9C) の発現量への各種濃度のPDE4D阻害性作用薬であるザルダベリンの作用を示す代表的なデータをグラフにして示す。
【図9B】図9A乃至9Cは、リアルタイムPCRによって決定した、抗CD3/抗CD28刺激性末梢血液リンパ球における、転写因子FOXP3 (9A)、Tbox21 (9B)およびGATA3 (9C) の発現量への各種濃度のPDE4D阻害性作用薬であるザルダベリンの作用を示す代表的なデータをグラフにして示す。
【図9C】図9A乃至9Cは、リアルタイムPCRによって決定した、抗CD3/抗CD28刺激性末梢血液リンパ球における、転写因子FOXP3 (9A)、Tbox21 (9B)およびGATA3 (9C) の発現量への各種濃度のPDE4D阻害性作用薬であるザルダベリンの作用を示す代表的なデータをグラフにして示す。
【図10A】図10A乃至10Bは、分化したTh1、Th2、およびTGFβ1由来のTreg細胞の増殖への、各種濃度のPDE4 阻害性作用薬ロリプラム(10A)およびPDE4D阻害性作用薬ザルダベリン(10B)の作用を示す代表的なデータをグラフに示す。
【図10B】図10A乃至10Bは、分化したTh1、Th2、およびTGFβ1由来のTreg細胞の増殖への、各種濃度のPDE4 阻害性作用薬ロリプラム(10A)およびPDE4D阻害性作用薬ザルダベリン(10B)の作用を示す代表的なデータをグラフに示す。
【図11A】図11A乃至11Cは、分化したTh1 (11A)、Th2 (11B)およびTGFβ1由来Treg細胞(11C)における既知のサイトカインの産生への、各種濃度のPDE4阻害性作用薬ロリプラムの作用を示す代表的なデータをグラフに示す。
【図11B】図11A乃至11Cは、分化したTh1 (11A)、Th2 (11B)およびTGFβ1由来Treg細胞(11C)における既知のサイトカインの産生への、各種濃度のPDE4阻害性作用薬ロリプラムの作用を示す代表的なデータをグラフに示す。
【図11C】図11A乃至11Cは、分化したTh1 (11A)、Th2 (11B)およびTGFβ1由来Treg細胞(11C)における既知のサイトカインの産生への、各種濃度のPDE4阻害性作用薬ロリプラムの作用を示す代表的なデータをグラフに示す。
【図12A】図12A乃至12Cは、分化したTh1 (12A)、Th2 (12B)およびTGFβ1由来Treg細胞(12C)における既知のサイトカインの産生への、各種濃度のPDE4D阻害性作用薬ザルダベリンの作用を示す代表的なデータをグラフに示す。
【図12B】図12A乃至12Cは、分化したTh1 (12A)、Th2 (12B)およびTGFβ1由来Treg細胞(12C)における既知のサイトカインの産生への、各種濃度のPDE4D阻害性作用薬ザルダベリンの作用を示す代表的なデータをグラフに示す。
【図12C】図12A乃至12Cは、分化したTh1 (12A)、Th2 (12B)およびTGFβ1由来Treg細胞(12C)における既知のサイトカインの産生への、各種濃度のPDE4D阻害性作用薬ザルダベリンの作用を示す代表的なデータをグラフに示す。
【図13】図13A乃至13Bは、特定の経路を阻害する作用薬の存在下および欠如下において成長させたTh1、Th2およびTGFβ1由来Treg細胞におけるタンパク質チロシンリン酸化のウェスタンブロット解析の定量を示す代表的なデータをグラフに示す。
【図14】図14AはTH1、TH2およびTreg細胞への[3H]チミジン取り込みへの、特異的PI3キナーゼ阻害性作用薬LY 294002の作用を示す代表的なデータをグラフに示し、図14BはTH2およびTreg細胞への[3H]チミジン取り込みへの、AKT特異的阻害性作用薬SH-6の作用を示す代表的なデータをグラフに示す。
【図15】得られたT細胞および阻害性作用薬処理細胞と比較した、ヒトTH1、TH2およびTregにおける個別のチロシンリン酸化を示す代表的なデータを示すウェスタンブロット解析である。
【図16】見かけ分子量が53kDaの主要なリン酸化タンパク質がタンパク質チロシンキナーゼのLck Src ファミリとして同定されたことを示す代表的なデータを示す。
【図17】図17A乃至17Cは、TCR活性化から5分後(図17A)、15分後(図17B)、30分後(図17C)におけるTh1、Th2およびTreg細胞内のLckタンパク質のチロシンリン酸化の統合OD値の比較を示す代表的なデータをグラフに示す。
【図18】特定の経路を阻害する作用薬の存在下および欠如下において成長させたTh1、Th2およびTGFβ1由来Treg細胞におけるタンパク質チロシンリン酸化のウェスタンブロット解析において観測されたリン酸化バンドの定量を示す代表的なデータを示す。
【図19】TCR (+stim) (図19)の完全活性化から5分後、15分後、および30分後における、または阻害性作用薬LY 294002およびSH-6の存在下(それぞれ図20および21)における、Th1、Th2およびTreg細胞の選択されたリン酸化バンドの活性化および阻害パターンを示す代表的なデータをグラフに示す。各バンドについてのデータは正規化され、TCR (+stim)の完全活性化下で得られた対照値との比で表現した。
【図20】TCR (+stim) (図19)の完全活性化から5分後、15分後、および30分後における、または阻害性作用薬LY 294002およびSH-6の存在下(それぞれ図20および21)における、Th1、Th2およびTreg細胞の選択されたリン酸化バンドの活性化および阻害パターンを示す代表的なデータをグラフに示す。各バンドについてのデータは正規化され、TCR (+stim)の完全活性化下で得られた対照値との比で表現した。
【図21】TCR (+stim) (図19)の完全活性化から5分後、15分後、および30分後における、または阻害性作用薬LY 294002およびSH-6の存在下(それぞれ図20および21)における、Th1、Th2およびTreg細胞の選択されたリン酸化バンドの活性化および阻害パターンを示す代表的なデータをグラフに示す。各バンドについてのデータは正規化され、TCR (+stim)の完全活性化下で得られた対照値との比で表現した。
【図22】各バンドをLY 294002について正規化した場合と同一のデータを示す代表的なデータをグラフに示す。
【図23A】図23A乃至23Cおよび図24A乃至24Cは、リアルタイムPCRによって決定した、末梢血液リンパ球における、転写因子FOXP3 (23Aおよび24A)、Tbox21 (23Bおよび24B)およびGATA3 (23Cおよび24C) の発現への各種濃度のLY 294002 (図23A乃至23C)およびSH-6 (24A乃至24C) の作用を示す代表的なデータをグラフに示す。
【図23B】図23A乃至23Cおよび図24A乃至24Cは、リアルタイムPCRによって決定した、末梢血液リンパ球における、転写因子FOXP3 (23Aおよび24A)、Tbox21 (23Bおよび24B)およびGATA3 (23Cおよび24C) の発現への各種濃度のLY 294002 (図23A乃至23C)およびSH-6 (24A乃至24C) の作用を示す代表的なデータをグラフに示す。
【図23C】図23A乃至23Cおよび図24A乃至24Cは、リアルタイムPCRによって決定した、末梢血液リンパ球における、転写因子FOXP3 (23Aおよび24A)、Tbox21 (23Bおよび24B)およびGATA3 (23Cおよび24C) の発現への各種濃度のLY 294002 (図23A乃至23C)およびSH-6 (24A乃至24C) の作用を示す代表的なデータをグラフに示す。
【図24A】図23A乃至23Cおよび図24A乃至24Cは、リアルタイムPCRによって決定した、末梢血液リンパ球における、転写因子FOXP3 (23Aおよび24A)、Tbox21 (23Bおよび24B)およびGATA3 (23Cおよび24C) の発現への各種濃度のLY 294002 (図23A乃至23C)およびSH-6 (24A乃至24C) の作用を示す代表的なデータをグラフに示す。
【図24B】図23A乃至23Cおよび図24A乃至24Cは、リアルタイムPCRによって決定した、末梢血液リンパ球における、転写因子FOXP3 (23Aおよび24A)、Tbox21 (23Bおよび24B)およびGATA3 (23Cおよび24C) の発現への各種濃度のLY 294002 (図23A乃至23C)およびSH-6 (24A乃至24C) の作用を示す代表的なデータをグラフに示す。
【図24C】図23A乃至23Cおよび図24A乃至24Cは、リアルタイムPCRによって決定した、末梢血液リンパ球における、転写因子FOXP3 (23Aおよび24A)、Tbox21 (23Bおよび24B)およびGATA3 (23Cおよび24C) の発現への各種濃度のLY 294002 (図23A乃至23C)およびSH-6 (24A乃至24C) の作用を示す代表的なデータをグラフに示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
古典的な免疫応答では、エフェクタT細胞(Teff)の応答がT制御性細胞(Treg)の応答を支配し、抗原を除去する。寛容性は古典的な活性化経路(つまり抗原提示およびT細胞活性化)と同様のステップで開始するが、大量の抗原、T細胞に提示される手段、およびCD4+ 細胞の支援の相対的な可用性を含むがそれらに限定されない要因が、独特な種類である制御性T細胞と呼ばれるリンパ細胞の増殖を引き起こす。エフェクタT細胞が古典的な免疫応答を媒介するのと同じように、制御性T細胞は寛容性原性の応答を媒介する。しかし、アレルギー、自己免疫疾患、臓器拒絶反応、および慢性の治療用タンパク質の投与などに関連する望ましくないまたは方向性が誤っている免疫応答は、体に、望ましくない、および時には致命的であることが明らかな症状を引き起こすことがある。制御性T細胞とエフェクタT細胞のバランスが制御性T細胞の方にうつる、または制御性T細胞が支配するようになると、抗原提示と免疫学的寛容性が生じる。
【0021】
本願発明は、エフェクタT細胞(Th1およびTh2)と制御性T細胞を区別して発現する遺伝子の同定に、少なくとも部分的に基づく。エフェクタT細胞によって区別されて発現する遺伝子には、表1に記載のプロスタグランジンR2 (ジェンバンク参照配列:NM_000956; GI 受諾番号:31881630; SEQ ID No:37 および38)、およびTGFβ1 (ジェンバンク参照配列.:000660; GI 受諾番号.:10863872; SEQ ID No:39および40)遺伝子がある。制御性T細胞によって区別されて発現する遺伝子には、表2に記載のJagged-1 (ジェンバンク参照配列:NM_000214、GI 受諾番号:4557678、SEQ ID Nos.:1 および 2)、GPR-32 (ジェンバンク参照配列:NM_001506、GI 受諾番号:4504092、SEQ ID Nos.:3 および 4)、CD83 (ジェンバンク参照配列:NM_004233、GI 受諾番号: 24475618、SEQ ID Nos.: 5 および 6)、CD84 (ジェンバンク参照配列:AF054815、GI 受諾番号: 6650105、SEQ ID Nos.: 6 および 7)、CD89 (ジェンバンク参照配列:NM_133274、GI 受諾番号: 19743864、SEQ ID Nos.: 9 および 10)、セロトニン R(ジェンバンク参照配列:NM_000869、GI 受諾番号: 4504542、SEQ ID Nos.:
11 および 12)、BY55 (ジェンバンク参照配列:NM_007053、GI 受諾番号: 5901909、SEQ ID Nos.: 13 および 14)、セロトニン R2C (ジェンバンク参照配列:NM_000868、GI 受諾番号: 4504540、SEQ ID Nos.:
15 および 16)、GPR63 (ジェンバンク参照配列:NM_030784、GI 受諾番号: 13540556、SEQ ID Nos.: 17 および 18)、ヒスタミンR-H4 (ジェンバンク参照配列:NM_021624、GI 受諾番号: 14251204、SEQ ID Nos.:
19 および 20)、GPR58 (GI 受諾番号: 7657141、SEQ ID Nos.:
21 および 22)、EPO-R (ジェンバンク参照配列:NM_000121、GI 受諾番号: 4557561、SEQ ID Nos.: 23 および 24)、PSG-1 (ジェンバンク参照配列:NM_006905、GI 受諾番号: 21361391、SEQ ID Nos.: 25 および 26)、PSG-3 (ジェンバンク参照配列:NM_021016、GI 受諾番号: 11036637、SEQ ID Nos.: 27 および 28)、PSG-6 (ジェンバンク参照配列:NM_002782、GI 受諾番号: 7524013、SEQ ID Nos.: 29 および 30)、PSG-9 (ジェンバンク参照配列:NM_002784、GI 受諾番号: 21314634、SEQ ID Nos.: 31 および 32)、PDE-4D (ジェンバンク参照配列:NM_006203、GI 受諾番号: 32306512、SEQ ID Nos.: 35 および 36)、ならびに PI-3-関連キナーゼ (ジェンバンク参照配列:NM_015092、GI 受諾番号: 18765738、配列番号.: 33 および 34)である。これらの遺伝子の少なくとも1つは本願発明の方法に従って調節することができる。
【0022】
これらの遺伝子の核酸分子またはタンパク質産生物を用いて、免疫応答を調節したり、または免疫応答を調節できる物質を特定することができる。たとえば、ある実施態様では、少なくとも1つのエフェクタT細胞の応答は、たとえば少なくとも1つの制御性T細胞の応答を調節すること(またはたとえばさらなる物質またはプロトコルを用いることによって、そのような応答を調節すること)なく、選択的に調節することができる。別の実施態様では、少なくとも1つの制御性T細胞の応答は、たとえば少なくとも1つのエフェクタT細胞の応答を調節すること(またはたとえばさらなる物質またはプロトコルを用いることによって、そのような応答を調節すること)なく、選択的に調節することができる。そのような調節の結果、寛容性と活性化のバランスの移動や変化、および免疫応答全体の調節が生じる。
【0023】
本願発明はまた、対象における少なくとも1つの制御性T細胞の機能に対する少なくとも1つのエフェクタT細胞の調節、または少なくとも1つのエフェクタT細胞の機能に対する少なくとも1つの制御性T細胞の機能の調節から利益を得られる症状の診断、治療、または予防に有用な方法にも関連する。
【0024】
本願発明の方法および組成物は、特に、正常かまたは正常よりも低い制御性T細胞の応答に付随する抗原への激しすぎるエフェクタT細胞の応答によって特徴づけられる症状、正常かまたは正常よりも低いエフェクタT細胞の応答に付随する抗原への激しすぎる制御性T細胞の応答によって特徴づけられる症状、正常かまたは正常よりも高い制御性T細胞の応答に付随する抗原への弱いエフェクタT細胞の応答によって特徴づけられる症状、正常かまたは正常よりも高いエフェクタT細胞の応答に付随する抗原への弱い制御性T細胞の応答によって特徴づけられる症状の診断、治療または予防に有用である。
【0025】
本願発明のある実施態様では、たとえば表1および/または表2に記載の分子をそれらに限定せずに含む、制御性T細胞またはエフェクタT細胞によって選択的に発現された少なくとも1つの分子は、例えばこれらのタンパク質の機能を上方調節(模倣またはアゴナイズ)または下方調節(アンタゴナイズ)など調節する化合物を同定するためのハイスループットスクリーニングアッセイなど、スクリーニングアッセイにおいて発現され用いられてもよい。前記タンパク質が選択的に発現する細胞の種類により、および前記タンパク質の発現またはどの活性化のアンタゴニストまたはアゴニストが選択されるかによって、これらの化合物は、たとえばさらなる薬物治療がない状態で免疫応答を機能させ最終的には制御するための免疫応答の制御部分を許可しながらエフェクタT細胞の応答を低減することによって、または抗原を消滅させるための免疫システムのエフェクタ部分を許容しながら制御性T細胞の応答を区別的に増加することによって、不必要な免疫応答(たとえば移植片拒絶反応など)を減少させるのに有用である。
【0026】
ある実施態様では、少なくとも1つのエフェクタT細胞の応答を選択的に下方調節するために、エフェクタT細胞に選択的に結合する分子(たとえば表1に記載の通り)の発現および/または活性化を、本願発明の阻害化合物を用いて減少させる。別の実施態様では、少なくとも1つのエフェクタT細胞の応答を選択的に下方調節するために、制御性T細胞に選択的に結合する分子(たとえば表2に記載の通り)の発現および/または活性化を、本願発明の刺激化合物を用いて増加させる。別の実施態様では、これら両方の方法をおこなって、エフェクタT細胞と制御性T細胞のバランスをさらに移動させることができる。
【0027】
たとえば、免疫不全、癌、または病原体への感染などの場合、少なくとも1つのTエフェクタ細胞の応答を選択的に刺激または促進することが望ましい場合もある。たとえば、対象が腫瘍特異的抗原などの自己抗原への著しい免疫応答を増やせないような抗原に対する免疫応答は、Tエフェクタ細胞の機能を上方調節して誘導することができる。したがって、本願発明の化合物はTエフェクタ細胞の応答の機能を許容しながら、少なくとも1つのT制御細胞の応答を選択的に減少させることによって、またはTエフェクタ細胞を選択的に増加することによって、免疫応答(たとえば病原体または癌細胞に対する)を増加する場合に有用な場合もある。免疫応答を上方調節するために、ある実施例では、選択的にTエフェクタ細胞に結合する分子(たとえば表1に示されている)の発現および/または活性を、本願発明の刺激化合物を用いて増加させる。別の実施態様では、免疫応答を上方調節するために、選択的にT制御細胞に結合する分子(たとえば表2に示されている)の発現および/または活性を、本願発明の阻害化合物を用いて減少させる。さらに別の実施態様では、これら両方の方法をおこなって、Tエフェクタ細胞とT制御細胞のバランスをさらに移動させる。
【0028】
Tエフェクタ細胞とT制御細胞の機能のバランスは抗体応答を制御するようにも働くため、病原性B細胞の活性化は、治療(たとえば重症筋無力症、多発性硬化症、全身性紅斑症、または炎症性腸症候群などの治療)を行う本願発明の方法を用いて減少させることもでき、または免疫不全症の場合は本願発明の方法を用いて促進させることもできる。
【0029】
本願発明のある実施態様では、本願明細書に記載の調節性組成物は、免疫抑制剤などの現在使用されている免疫調節剤とは異なり、望ましくない免疫応答を制御するために、中程度の投与期間、または長期の投与期間よりは、短期の投与期間に投与される必要しかない。なぜなら、前記組成物は恒常性免疫制御メカニズム、つまり制御性T細胞とエフェクタT細胞の活性のバランスをリセットするためのメカニズムの発生が促進されるためである。得られた免疫制御が天然のT細胞メカニズムによって媒介されるため、エフェクタT細胞と制御性T細胞の平衡が一度確立されれば、免疫制御の維持のための薬物は必要ない。免疫抑制剤による長期間、または一生涯の治療をなくすことによって、たとえば自己免疫および臓器移植片の治療に現在伴う副作用の、すべてとはいえないが多くがなくなるだろう。
【0030】
本願発明のさらなる説明の前に、簡便性のために特定の用語について以下に説明する。
【0031】
I. 定義
本願明細書に記載の、「エフェクタT細胞」という用語には、抗原を除去するように働く(たとえば、その他の細胞の活性化を調節するサイトカインを産生することによって、または細胞毒性活性によって)T細胞が含まれる。「エフェクタT細胞」という用語には、Tヘルパー細胞(たとえばTh1およびTh2細胞)ならびに細胞毒性T細胞が含まれる。Th1 細胞は遅延型過感受性およびマクロファージ活性化を媒介し、Th2細胞はB細胞に援助を提供し、アレルギー反応において重要である(Mosmann and Coffman, 1989, Annu. Rev. Immunol. 7, 145-173、Paul and
Seder, 1994, Cell 76, 241-251、Arthur and Mason, 1986, J.
Exp. Med. 163, 774-786、Paliard et al., 1988, J. Immunol.
141, 849-855、Finkelman et al., 1988, J. Immunol. 141,
2335-2341)本願明細書に記載の「Tヘルパー1型応答」(Th1応答)という用語は、IFN-γ、IL-2、TNFおよびリンホトキシン
(LT)、ならびにTh2ではなくTh1細胞によって選択的または独占的に産生されるその他のサイトカインから選択される1つ以上のサイトカインの産生によって特徴づけられる応答を意味する。本願明細書に記載の「Tヘルパー2型応答」(Th2応答)という用語は、IL-4、IL-5、IL-6およびIL-10から選択される1つ以上のサイトカインの産生によって特徴づけられ、ならびにTh2によって提供される効率的なB細胞「援助」(たとえばIgG1および/またはIgE産生の促進など)に関連するCD4+
T 細胞による応答を意味する。
【0032】
本願明細書に記載の「制御性T細胞」という用語には、少量のIL-2、IL-4、IL-5および IL-12を産生するT細胞が含まれる。制御性T細胞は、エフェクタT細胞よりも少量ではあるが、TNFα、TGFβ、IFN-γ、およびIL-10を産生する。TGF? は制御性T細胞によって産生される主要なサイトカインであるが、前記サイトカインは、たとえばTh1またはTh2細胞よりも1桁小さい量などの、Th1またはTh2細胞以下の量、産生される。制御性T細胞は
CD4+CD25+細胞群において見つけることができる(たとえばWaldmann and Cobbold.
2001. Immunity. 14:399参照)。制御性T細胞は、培養物中で活性化シグナル(たとえば、抗原および抗原提示細胞、またはたとえば抗CD3抗体プラス抗CD-28抗原などMHCの文脈における抗原を模倣するシグナル)によって刺激されるTh1、Th2または未分化T細胞の増殖およびサイトカイン産生を抑制する。
【0033】
本願明細書に記載の「エフェクタT細胞の機能に対する制御性T細胞の機能のバランスの調節」または「エフェクタT細胞の機能に対する制御性T細胞の機能の調節」という文言には、Tエフェクタ/T制御性細胞の活性のバランスが、治療前のバランスと比較して移動するように、少なくとも1つの制御性T細胞(Tエフェクタ細胞およびT制御性細胞の両方を含む細胞の個体群における)の機能を選択的に変化させるステップが含まれる。
【0034】
本願明細書に記載の「制御性T細胞の機能に対するエフェクタT細胞の機能のバランスの調節」または「制御性T細胞の機能に対するエフェクタT細胞の機能の調節」という文言には、Tエフェクタ/T制御性細胞の活性のバランスが、治療前のバランスと比較して移動するように、少なくとも1つのエフェクタT細胞(Tエフェクタ細胞およびT制御性細胞の両方を含む細胞の個体群における)の機能を選択的に変化させるステップが含まれる。
【0035】
本願明細書に記載の「作用薬(agent)」という用語には、本願発明の分子の発現および/または活性を、たとえば上方調節もしくは刺激、および下方調節もしくは阻害など、調節する化合物が含まれる。 本願明細書に記載の「阻害性作用薬(inhibitor)」または「阻害性作用薬(inhibitory agent)」という用語には、本願発明の分子の発現および/または活性を阻害する物質が含まれる。例示的な阻害物質には、抗体、RNAi、RNAiを媒介する化合物(たとえばsiRNA)、アンチセンスRNA、本願発明の分子の優性/陰性突然変異体、ペプチド、および/またはペプチド模倣体が含まれる。
【0036】
本願明細書に記載の、「刺激性作用薬(stimulator)」または「刺激性作用薬(stimulatory agent)」という用語には、本願発明の分子の発現および/または活性を増加させる、たとえばアゴニストなどの物質が含まれる。例示的な刺激性作用薬には、活性タンパク質および核酸分子、ペプチドならびに本願発明の分子のペプチド模倣体が含まれる。 本願発明の物質は、本願発明の分子の発現および/または活性の、たとえば増加または減少などの調節を直接することができる。例示的な物質は、本願明細書に説明されるか、または以下の詳述の通り、そのような化合物を選択するスクリーニングアッセイを用いて同定することができる。
【0037】
本願発明のスクリーニングアッセイのために、好ましくは、スクリーニングされる「テスト化合物または作用薬」には、たとえばT制御性細胞の相対活性と比較したTエフェクタ細胞の相対活性、またはその反対など、T細胞活性のバランスを調節する当業に知られていない分子が含まれる。好ましくは、本願発明の方法を用いて複数の作用薬をテストする。
【0038】
ある実施態様では、本願発明のスクリーニングアッセイは、活性化作用薬の存在下において行うことができる。 本願明細書に記載の、「活性化作用薬」という用語には、T細胞活性を刺激する1つ以上の物質(例えば標的細胞のサイトカイン産生、増殖および/または溶解などのエフェクター機能)が含まれる。例示的な活性化作用薬は、当業に知られており、たとえば分裂促進因子(たとえば植物性血球凝集素またはコンカナバリンA)、T細胞レセプタまたはCD3と反応する抗体(抗原提示細胞またはCD28と反応する抗体と合わさった場合もある)、または抗原プラス抗原提示細胞が、それらに限定されずに含まれる。
【0039】
好ましくは、本願発明の調節性作用薬は、長期間の治療ではなく短期間の治療に用いる。本願明細書に記載の「短期間の治療」という用語には、治療される疾患の経過と比較して相対的に短期間である投与計画が含まれる。たとえば、短期間の治療は、約1週間乃至約8週間であってよい。これに対し、「中程度の期間の治療」には、短期間の治療よりも長い期間の投与計画が含まれる。たとえば、中程度の期間の治療は、2ヶ月超乃至約4ヶ月(たとえば約8乃至16週間)続けることができる。「長期間の治療」には、約4ヶ月超、たとえば約5ヶ月など続ける投与計画が含まれる。たとえば、長期間の治療は、約6ヶ月乃至疾患が続く限り続けることもある。任意の個人についての上述の1つ以上の治療経過の適切性は、当業者が容易に決定することができる。さらに、対象に適切な治療は、時間の経過とともに必要に応じて変更してもよい。
【0040】
本願明細書に記載の「寛容性」という用語にはレセプタ媒介刺激の活性化についての屈折度が含まれる。、そのような屈折度は、一般に、抗原特異的であって、寛容化抗原への曝露が停止したあとにも持続する。たとえば、寛容性は、例えばIL-2などのサイトカイン産生の欠如によって特徴づけられる。寛容性は自己抗原または外来抗原にも生じうる。
【0041】
本願明細書に記載の「T細胞」(つまりTリンパ細胞)は、哺乳類(たとえばヒトなど)の胸腺細胞、未熟T細胞、および成熟T細胞などを含む、T細胞系統に属するすべての細胞を含むことを意図する。好ましくは、T細胞は成熟T細胞であって、CD4またはCD8の両方ではなくいずれか、およびT細胞レセプタを発現する成熟T細胞である。本願明細書に記載の各種T細胞個体群は、サイトカインプロフィールおよびその機能に基づいて定義することができる。
【0042】
本願明細書に記載の「未分化T細胞」という用語には、同属の抗原に曝露されておらず活性化されていないか記憶細胞ではないT細胞が含まれる。未分化T細胞は循環しておらず、ヒト未分化T細胞はCD45RA+である。未分化T細胞が抗原を認識し、抗原の量、投与経路、および投与のタイミングに限定されないがそれらに依存するさらなるシグナルを受け取る場合、増殖してたとえばエフェクタT細胞などのT細胞のさまざまなサブセットに分化することもある。
【0043】
本願明細書に記載の「記憶T細胞」という用語には、抗原への曝露後、機能的に休止状態となり、抗原が存在しなくても長期間生存し続けることができるリンパ球が含まれる。ヒト記憶T細胞はCD45RA-である。
【0044】
「本願発明の分子」(たとえば核酸またはポリペプチド分子)は、たとえばエフェクタT細胞または制御性T細胞などの特定の細胞種に選択的に発現する(および/またはTエフェクタ細胞細胞およびT制御細胞のバランスの調節において選択的に活性である)。そのような分子は前記細胞種の分化を引き起こすプロセスに必要かもしれず、前記細胞種への分化の初期段階、またはその前に発現するかもしれない。そのような分子は前記細胞によって分泌されるか、細胞外で細胞によって分泌(細胞表面上に発現)されるか、または細胞内に発現されてよく、分化を引き起こすシグナル伝達経路に関与していることもある。本願発明のモジュレータ分子には、本願発明の分子とともに、本願発明の分子の発現を調節する分子(たとえば薬物)が含まれる。
【0045】
本願明細書に記載の「T制御性(Treg)分子」には、制御性T細胞において選択的に発現しおよび/または活性である分子が含まれる。
【0046】
たとえば、ある実施態様では、T制御性分子は分泌タンパク質である。例示的な分泌タンパク質は、妊娠特異的β-1-糖タンパク質1(配列番号:25 および26)、妊娠特異的β-1-糖タンパク質3(配列番号:27 および28)、妊娠特異的β-1-糖タンパク質6(配列番号:29および30)、妊娠特異的β-1-糖タンパク質9(配列番号:31および32)である。ヒトにおける妊娠特異的糖タンパク質(PSG)は、密接に関連した11の糖タンパク質のファミリーであって、免疫グロブリンスーパーファミリ、CEAサブファミリに属するファミリを構成する。その機能は未知であるが、胎盤により大量に産生される。
【0047】
別の実施態様では、T制御分子は細胞外タンパク質である。例示的な細胞外タンパク質は、Jagged-1 (配列番号:1 および 2)、GPR32 (配列番号:3 および 4)、CD83 (配列番号:5 および 6)、CD84 (配列番号:7 および 8)、CD89 (配列番号:9 および 10)、セロトニンレセプタ 3A (配列番号:11 および 12)、ナチュラルキラー細胞レセプタBY55 (配列番号:13 および 14)、セロトニンレセプタ2C (配列番号:15 および 16)、GPR63 (配列番号:17 および 18)、ヒスタミンレセプタ H4 (配列番号:19 および 20)、GPR58 (配列番号:21 および 22)、エリスロポエチンレセプタ (配列番号:23 および 24)である。Jagged-1はショウジョウバエjaggedタンパク質のヒト相同体であって、そのレセプタのリガンドはNotch 1である。jagged 1 タンパク質を変化させる突然変異は、アラジル症候群を引き起こす。Notch 1 によるJagged 1シグナル伝達は、血球新生において役割を担うことが証明されている。GPR32はオーファンGタンパク質結合レセプタである。CD83は白血球分化抗原であって免疫グロブリンスーパーファミリのメンバである。CD83はB細胞のNF-κBシグナル伝達経路の標的であって、可溶性の細胞外ドメインは樹状細胞媒介T細胞増殖を阻害することが証明されている(Lechmann,M., et al. (2002) Trends
Immunol. 23 (6), 273-275)。CD84は白血球分化抗原であって免疫グロブリンスーパーファミリのメンバである。CD84は急速にチロシンリン酸化した後に活性化したT細胞にレセプタがライゲートし、CD84へのライゲーションが抗CD3 mAb刺激ヒトT細胞の増殖を促進することがわかっている(Tangye SG, et al.(2003)
J Immunol.171(5):2485-95)。CD89は白血球分化抗原であって免疫グロブリンスーパーファミリのメンバである。それはIgAのFc領域のレセプタをコードする。前記レセプタは、好中球、単球、マクロファージおよび好酸球などの骨髄系細胞の表面に提示される膜貫通糖タンパク質であって、病原体への免疫学的応答を媒介する。前記レセプタはIgAオプソニン化標的と相互作用し、食作用、抗体依存細胞毒性、および炎症媒介物放出の刺激を含む、数種類の免疫防御プロセスを誘発する。セロトニンレセプタ3Aは、神経伝達物質、ホルモン、および分裂促進因子として機能する生体ホルモンである。前記レセプタは、活性化されるとニューロン中で迅速な脱分極性応答を引き起こす、リガンド作動性イオンチャンネルである。ナチュラルキラー細胞レセプタBY55は、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)固着細胞表面分子であって、CD28を発現しない細胞毒性エフェクタTリンパ細胞の循環におけるT細胞レセプタシグナル伝達のためのコレセプタとして機能する分子である(Nikolova M, et al.(2002)
Int Immunol.14(5):445-51)。セロトニンレセプタ2Cは、神経伝達物質、ホルモン、および分裂促進因子として機能する生体ホルモンである。このレセプタは、その作用を、ホスパチジルイノシトールカルシウム2次メッセンジャシステムを活性化させるGタンパク質との結合によって媒介する。GPR63はオーファンGタンパク質結合レセプタである。ヒスタミンレセプタH4はGタンパク結合レセプタファミリに属する。HRH4転写物は、炎症応答に関連する末梢組織に高度に発現することが明らかになった(Coge F, et al.(2001)
Biochem Biophys Res Commun.284(2):301-9)。GPR58はオーファンGタンパク質結合レセプタである。エリスロポエチンレセプタエリスロポエチンレセプタは、サイトカインレセプタファミリのメンバである。エリスロポエチンが結合すると、エリスロポエチンレセプタは、Ras/MAP キナーゼ、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ、およびSTAT転写因子を含む、さまざまな細胞内経路を活性化するJak2チロシンキナーゼを活性化する。刺激されたエリスロポエチンレセプタは赤血球細胞の生存に関与するらしい。
【0048】
さらなる別の実施態様では、T制御性分子は細胞内タンパク質である。好ましい細胞内分子は、ホスホジエステラーゼ4D(配列番号:35および36)ならびにPI-3-キナーゼ関連キナーゼ(配列番号:33および34)である。ホスホジエステラーゼ4Dは環状ヌクレオチドホスホジエステラーゼに属し、ショウジョウバエdunceに相同である。PDE4Dは、cAMPの加水分解の触媒による気道平滑筋の弛緩の制御に関与している。PI-3-キナーゼ関連キナーゼは、mRNA監視複合体の一部分としてナンセンス媒介mRNA分解(nonsense-mediated mRNA decay (NMD))に関与する。前記タンパク質はキナーゼ活性を有し、ナンセンス転写物1タンパク質の調節因子をリン酸化することによってNMDで機能すると考えられている。
【0049】
本願明細書に記載の「Tエフェクタ細胞(Treg)分子」には、エフェクタT細胞において選択的に発現しおよび/または活性である分子が含まれる。たとえば、ある実施態様では、TエフェクタT細胞分子は分泌型タンパク質である。分泌タンパク質は前記細胞によって活発に分泌されるか、または前記細胞の表面から排出もしくは前記膜から切断されることによって分泌されてもよい。例示的な分泌タンパク質は、トランスフォーミング成長因子β1(TGFβ1)(配列番号:39および40)である。TGFβ1は、正常および形質転換上皮細胞、内皮細胞、線維芽細胞、神経細胞、リンパ細胞、およびその他の造血細胞種、肝細胞、ならびにケラチン生成細胞の強力な成長阻害物質である。TGFβ1は、選択的にIL-2媒介増殖シグナルを下方調節することによって、Tリンパ細胞の増殖を阻害する。さらに、in
vivoにおけるナチュラルキラー細胞の成長を阻害し、マクロファージを不活性化する。TGFβ1 はin vivoにおいてIL-2によって媒介され、リンホカインで活性化されたリンパ細胞、または腫瘍浸潤リンパ細胞を転移させる抗腫瘍活性を遮断する。
【0050】
別の実施態様では、Tエフェクタ細胞分子は細胞外タンパク質である。例示的な細胞外タンパク質は、プロスタグランジンE2レセプタ、EP2サブタイプ(PTGER2)(配列番号:37および38)である。PTGER2は脾および胸腺の代替転写物とともに末梢白血球において発現する、Gタンパク質結合レセプタスーパーファミリのメンバである。PTGER2はプロスタグランジンE2のレセプタである。このレセプタの活性は、アデニル酸シクラーゼを刺激してcAMP量を増やすG-Sタンパク質によって媒介される。
【0051】
さらなる別の実施態様では、Tエフェクタ細胞分子は細胞内タンパク質である。
【0052】
本願明細書に記載の「本願発明の分泌分子」という文言は、たとえばポリペプチド1本鎖からなるタンパク質などのタンパク質分子、またはたとえばホモマーまたはヘテロマーなどのオリゴマータンパク質を意味し、細胞の内側で産生されてからその細胞の外へ輸送される。
【0053】
本願明細書に記載の「本願発明の細胞外分子」という文言は、たとえばポリペプチド1本鎖からなるタンパク質などのタンパク質分子、またはたとえばホモマーまたはヘテロマーなどのオリゴマータンパク質を意味し、細胞の原形質膜に組み込まれるかまたはまたがっている。
【0054】
本願明細書に記載の「本願発明の細胞内分子」という文言は、たとえばポリペプチド1本鎖からなるタンパク質などのタンパク質分子、またはたとえばホモマーまたはヘテロマーなどのオリゴマータンパク質を意味し、細胞質または核質の中にある。
【0055】
ある実施態様では、低分子をテスト化合物として用いてもよい。「低分子」という用語は、当業用語であって、約1000分子量未満、または約500分子量未満の分子を含む。ある実施態様では、低分子はペプチド結合のみを含まない。別の実施態様では、低分子はオリゴマーではない。活性についてスクリーニングできる例示的な低分子化合物には、ペプチド、ペプチド模倣体、核酸、炭水化物、有機低分子(たとえばポリケチド)(Cane et al.1998.Science
282:63)および天然産生物抽出物のライブラリが、それらに限定されずに含まれる。別の実施態様では、前記化合物は、有機非ペプチド低分子化合物である。さらなる実施態様では、低分子は生合成性ではない。
【0056】
本願明細書に記載の「オリゴヌクレオチド」には、結合(たとえばホスホジエステル結合)またはその代わりの結合によって相互に共有結合した2つ以上のヌクレオチドが含まれる。
【0057】
本願明細書に記載の「ペプチド」という用語には、ペプチド結合によって連結されたアミノ酸の比較的短い鎖が含まれる。「ペプチド模倣体」という用語には、ペプチドを模倣またはアンタゴナイズすることができる非ペプチド性構成要素を含有する化合物が含まれる。
【0058】
本願明細書に記載の「レポータ遺伝子」は検出可能な遺伝子産生物を発現する遺伝子を含み、それはRNAまたはタンパク質であってよい。好ましいレポータ遺伝子は、容易に検出できるものである。前記レポータ遺伝子はまた、望ましい転写調節配列を含むか、またはその他の望ましい特性を示す遺伝子との融合遺伝子の形状の作製物に含まれてよい。レポータ遺伝子の例には、CAT (クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ) (Alton and
Vapnek (1979), Nature 282:864-869) ルシラーゼ、および、βガラクトシダーゼ、ホタルルシフェラーゼ(deWet et al.(1987), Mol
Cell.Biol.7:725-737)、細菌ルシフェラーゼ、(Engebrecht
and Silverman (1984), Proc.Natl.Acad Sci., USA 1:4154-4158; Baldwin et
al.(1984), Biochemistry 23:3663-3667)、アルカリホスファターゼ(Toh et al.(1989) Eur.J.Biochem.182:231-238,
Hall et al.(1983) J.Mol.Appl.Gen. 2:101)、ヒト胎盤分泌アルカリホスファターゼ(Cullen and Malim (1992) Methods
in Enzymol.216:362-368)、および緑色蛍光タンパク質(米国特許第5,491,084号、WO 96/23898号)などのその他の酵素検出システムが、それらに限定されずに含まれる。
【0059】
II 調節性作用薬
A 刺激性作用薬
本願発明の調節方法によると、細胞の本願発明の分子の発現および/または活性を、前記細胞を刺激性作用薬と接触することによって刺激する。そのような作用薬の例には、前記細胞における本願発明の分子の発現および/活性を増やすために前記細胞に導入された活性タンパク質および核酸分子が含まれる。
【0060】
好ましい刺激性作用薬は、本願発明の分子のタンパク質産生物をコードする核酸分子であって、当該核酸分子が前記細胞における本願発明の分子の活性タンパク質の発現に好適な状態の前記細胞に導入される、核酸分子である。細胞にタンパク質を発現させるために、典型的には、最初に本願発明のポリペプチドをコードする核酸分子を、たとえば本願明細書に記載の通りの標準的な分子生物学的技術を用いて組換え発現ベクターに導入する。本願発明のポリペプチドをコードする核酸分子は、たとえば本願発明の分子のヌクレオチド配列に基づくプライマを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて増幅することによって得ることができる。本願発明のポリペプチドをコードする核酸分子の単離または増幅に続いて、本願明細書に記載の標準方法によって、DNA断片を発現ベクターに導入し、標的細胞に形質移入する。
【0061】
生物学的活性を保持するポリペプチドをコードする本願明細書に記載のヌクレオチド配列の変異体も、本願発明に包含される。たとえば、ストリンジェンシーの高い条件下で本願明細書に開示された核酸分子とハイブリダイズする核酸分子である。本願明細書に記載の「ストリンジェンシーの高い条件下でハイブリダイズする」という用語は、相互に実質的な相同性を有するヌクレオチド配列が相互に安定なハイブリダイゼーションを維持するような、ハイブリダイゼーションおよび洗浄のための条件を記述することを意図する。ストリンジェンシーの高い条件の好ましいが限定的ではない例は、数時間乃至一晩、約45℃の温度で、6X 塩化ナトリウム/ クエン酸ナトリウム (SSC)を含むハイブリダイゼーションバッファ中でハイブリダイズし、その後、約50乃至65℃の温度で0.2 X SSC、0.1% SDSを含有する洗浄用バッファ中で1回以上洗浄する、ハイブリダイゼーションである。
【0062】
本願発明の別の局面は、融合タンパク質の作成に好適なポリペプチド断片を含む、本願発明の分子の生物学的に活性なタンパク質(つまり生物学的に活性な断片)を特徴とする。
【0063】
ある実施態様では、本願発明の分子またはその生物活性断片は、標準タンパク質精製技術を用いた適切な生成スキームによって、細胞または組織ソースから得ることができる。別の実施態様では、本願発明の分子、免疫原、または生物活性断片は、組換えDNA技術によって産生される。組換え発現に代わる方法として、本願発明の分子または生物活性断片を、標準的なペプチド合成技術を用いて化学的に合成することができる。以下の技術は特定の例を提供することもあるが、その教唆は、本願明細書に記載の通り本願発明のその他の分子にも適用することができることが意図される。
【0064】
本願明細書に記載のポリペプチド、生物活性断片、または融合タンパク質は、好ましくは「単離」または「精製」される。「単離された」および「精製された」という用語は、本願明細書では同義的に用いられる。「単離された」または「精製された」は、前記ポリペプチド、生物活性断片、または融合タンパク質が、細胞物質、または前記ポリペプチドが由来する細胞または組織ソースからのその他の汚染タンパク質を実質的に含まないか、たとえば消化混合物中の望ましくない断片などのその他のタンパク質断片を実質的に含まないか、または化学的に合成された場合には化学前駆体またはその他の化学物質を実質的に含まないことを意味する。「細胞物質を実質的に含まない」という文言には、前記ポリペプチドが、前記細胞のその他の成分であって、当該成分が単離されたまたは組換え的に産生された、前記細胞のその他の成分から分離する、調製を含む。ある実施態様では、「細胞物質を実質的に含まない」という文言には、汚染タンパク質を約30%未満しか有しないポリペプチド、より好ましくは汚染タンパク質を約20%未満しか有しないポリペプチド、さらにより好ましくは汚染タンパク質を約10%未満しか有しないポリペプチド、および最も好ましくは汚染タンパク質を約5%未満しか有しないポリペプチドが含まれる。ポリペプチドが組換え的に産生される場合、好ましくは培養培地を実質的に含まない、つまり溶媒値が調製物の体積の約20%未満、より好ましくは約10%、および最も好ましくは約5%未満である。ポリペプチドがたとえば単離されたまたは精製されたタンパク質から化学的または酵素的にプロセシングされることによって精製される場合、その調製物は好ましくは酵素反応成分または化学反応成分を含まず、望ましくない断片を含まない、すなわち望ましいポリペプチドが前記調製物の少なくとも75%(乾燥重量)、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、およびよりさらに好ましくは少なくとも90%、95%、99%、またはそれ以上である。
【0065】
「化学前駆体またはその他の化学物質を実質的に含まない」という文言には、ポリペプチドが、前記ポリペプチドの合成に関与する化学前駆体またはその他の化学物質から分離される、前記ポリペプチドの調製を含む。ある実施態様では、「化学前駆体またはその他の化学物質を実質的に含まない」という文言には、化学前駆体または試薬を約30%未満(乾燥重量)しか有さない調製物、より好ましくは化学前駆体または試薬を約20%未満しか有さない調製物、さらにより好ましくは化学前駆体または試薬を約10%未満しか有さない調製物、および最も好ましくは化学前駆体または試薬を約5%未満しか有さない調製物が含まれる。
【0066】
本願発明のポリペプチドの生物活性断片には、本願発明のポリペプチドのアミノ酸配列と十分に同一の、またはそれに由来するアミノ酸配列であって、完全長タンパク質よりも短いアミノ酸を含み、完全長タンパク質の生物学的活性を少なくとも1つ示す、ポリペプチドが含まれる。典型的には、生物学的に活性なタンパク質は、完全長タンパク質の少なくとも1つの活性を有するドメインまたはモチーフを含む。本願発明のポリペプチドの生物学的に活性な部分は、たとえば、長さが10、20、30、40、50、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000アミノ酸またはそれ以上である、ポリペプチドであってよい。さらに、その他の生物学的に活性なタンパク質であって、当該タンパク質のその他の領域は欠失しているタンパク質は、組換え技術によって調製することができ、未変性タンパク質の1つ以上の機能的活性について評価することができる。突然変異体を、たとえば本願明細書に記載の活性アッセイの1つにしたがって同定した、減少、増強またはその他の点を変更した生物学的特性を有する突然変異体などのアッセイ試薬として用いることもできる。
【0067】
生物学的活性を保持する本願発明のポリペプチド分子の変異体も本願発明に包含される。ある実施態様では、そのような変異ポリペプチドは、同一性を少なくとも約80%、85%、90%、95%、98%有する。
【0068】
二つのアミノ酸配列(または2つのヌクレオチドもしくはアミノ酸配列)の同一性の割合を決定するために、その配列を最適な比較の目的のためにアラインメントする(たとえば最適なアラインメントのために第1の配列または第2の配列にギャップを導入してもよい)。それから、対応するアミノ酸の位置またはヌクレオチドの位置にあるアミノ酸残基またはヌクレオチドを比較する。第1の配列のある位置が第2の配列の対応する位置と同一の残基によって占められていれば、その分子はその位置において同一である。2つの配列間の同一性の割合は、配列が共有する同一位置の数の関数(すなわち 同一性% = 同一の位置の数/位置の合計数 x 100)であって、任意で、導入されたギャップの数および/または導入されたギャップの長さのスコアをペナルティとして課す。
【0069】
配列の比較と2つの配列間の同一性の割合の決定は、数学的アルゴリズムを用いて行うことができる。ある実施態様では、アラインメントは、十分な同一性を有するアラインメントされた配列のある部分、または低い同一性を有する部分(つまり局部アラインメント)について行われた。配列の比較に用いられた局所アラインメントアルゴリズムの好ましいが限定されない例は、Karlin
and Altschul (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-68,
modified as in Karlin and Altschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA
90:5873-77のアルゴリズムである。そのようなアルゴリズムは、BLAST
programs (version 2.0) of Altschul, et al.(1990) J.Mol.Biol.215:403-10に組み込まれる。BLASTアラインメントは、本願発明のポリペプチドの配列またはその部分をクエリとして用い、スコア=50、ワード長=3を用いたBLASTタンパク質探索(たとえばXBLASTプログラム)を用いて作成され、同一性の割合を計算することができる。
【0070】
別の実施態様では、前記アラインメントは適切なギャップを導入することによって最適化され、アラインメントされた配列の長さについて同一性の割合を決定する(即ちギャップアラインメント)。比較目的のためのギャップアラインメントを得るために、ギャップBLASTをAltschul et al., (1997) Nucleic
Acids Research 25(17):3389-3402に記載のように用いることができる。別の実施態様では、前記アラインメントは適切なギャップを導入することによって最適化され、アラインメントされた配列の全体の長さについて同一性の割合を決定する(つまり包括的アラインメント)。配列の包括的な比較のために用いられる数学的アルゴリズムの好ましいが制限されない例は、Myers and
Miller, CABIOS (1989)のアルゴリズムである。そのようなアルゴリズムはGCG配列アラインメントソフトウェアパッケージの一部分であるALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み込まれている。アミノ酸配列の比較のためにALIGNを用いる場合、PAM120重量残基表、ギャップ長ペナルティ12、およびギャップペナルティ4を用いることができる。
【0071】
本願発明はまた、本願発明の分子のキメラまたは融合タンパク質も提供する。本願明細書に記載の「キメラタンパク質」または「融合タンパク質」は、異なるポリペプチドに作動的に連結された本願発明のポリペプチドを含む。融合タンパク質の中には、本願発明のポリペプチド全体が存在することもでき、または前記ポリペプチドの生物活性部分が存在することもできる。そのような融合タンパク質を用いて、本願発明の分子の活性を変更することができる。
【0072】
好ましくは、本願発明のキメラまたは融合タンパク質は、標準的な組換えDNA技術によって産生される。たとえば、ライゲーション用の平滑末端またはねじれ末端、適切な末端を提供するための制限酵素切断、適宜行う付着末端の穴埋め、望ましくない結合を避けるためのアルカリリン酸処理、および酵素ライゲーションを用いるなどの従来の技術にしたがって、さまざまなポリペプチド配列をコードするDNA断片をインフレームでライゲートする。別の実施態様では、融合遺伝子の合成は、自動化DNA合成装置を含む従来技術によって行うことができる。代替的には、遺伝子断片のPCR増幅は、2つの連続する遺伝子の間の相補的な突出部をつくるアンカープライマを用い、その後、アニーリングおよび最増幅してキメラ遺伝子配列を作製して実施することができる(たとえば Current Protocols in
Molecular Biology, eds. Ausubel et al. John
Wiley & Sons:1992参照)。さらに、すでに融合部分をコードしているたくさんの発現ベクターが市販されている。本願発明のポリペプチドをコードする核酸分子を、前記融合部分がインフレームで本願発明のポリペプチドに結合するように、そのような発現ベクターにクローニングすることができる。
【0073】
本願発明のタンパク質の分子の活性を刺激するために用いることができるその他の刺激性作用薬は、本願発明の分子のタンパク質産生物を直接刺激する化合物、および本願発明の分子のタンパク質産生物と基質または標的DNA結合部位の間の相互作用を促進する化合物など、細胞中の本願発明の分子の発現または活性を刺激する化学化合物である。そのような化合物は、以下の詳述の通り、そのような化合物を選択するスクリーニングアッセイを用いて同定することができる。
【0074】
B. 阻害物質
本願発明の阻害物質は、たとえば、本願発明の分子の発現または活性を阻害するように働く細胞内結合物質であってよい。細胞内で発現する分子のために、細胞内結合分子を用いて発現および/または活性を調節することができる。本願明細書に記載の「細胞内結合分子」という用語は、タンパク質そのもの、タンパク質をコードする核酸(たとえばmRNA分子)、またはタンパク質が正常に相互作用する標的(たとえばマーカーが結合するDNA標的配列)に結合することによってタンパク質の発現または活性を阻害するように細胞内で働く分子が含まれることを意図する。細胞内結合分子の例には、以下にさらに詳述するが、アンチセンスマーカー核酸分子(たとえばmRNAの翻訳を阻害する)、細胞内抗体(たとえばタンパク質の活性を阻害する)、および前記マーカータンパク質の顕性の陰性突然変異が含まれる。細胞表面に分泌または発現する分子の場合、細胞内結合分子による阻害(たとえばアンチセンス核酸分子またはRNAiを媒介する分子)に加えて、そのような分子の活性は、たとえばリガンドと抗体などのそのレセプタの間の結合を阻害するように細胞外で働く物質を用いて阻害することができる。
【0075】
ある実施態様では、本願発明の阻害物質は本願発明の分子をコードする遺伝子、もしくは前記遺伝子の一部分に相補的なアンチセンス核酸分子、または前記アンチセンス核酸分子をコードする組換え発現ベクターである。細胞内のあるタンパク質の発現を下方調節するためのアンチセンス核酸の使用は、当業に公知である(たとえば、 Weintraub, H. et al.,
Antisense RNA as a molecular tool for genetic analysis, Reviews - Trends in
Genetics, Vol. 1(1) 1986、Askari, F.K.
and McDonnell, W.M. (1996) N. Eng. J. Med. 334:316-318; Bennett, M.R.
and Schwartz, S.M. (1995) Circulation 92:1981-1993、Mercola, D. and Cohen, J.S. (1995) Cancer
Gene Ther.2:47-59、Rossi,
J.J.(1995) Br.Med.Bull.51:217-225、Wagner, R.W.(1994) Nature 372:333-335を参照)。アンチセンス核酸分子は、別の核酸分子のコード鎖に相補的で(たとえばmRNA配列)、したがってその他の核酸分子のコードさに水素結合することができるヌクレオチド配列を含む。mRNAの配列に相補的なアンチセンス配列は、前記mRNAのコード領域、mRNAの5’もしくは3’未翻訳領域またはコード領域と未翻訳領域を架橋する領域(たとえば5’未翻訳領域とコード領域の接合部)に認められる配列に相補的であってよい。さらに、アンチセンス核酸は、たとえば転写開始配列または制御要素などのmRNAをコードする遺伝子の制御領域に相補的な配列であってもよい。好ましくは、アンチセンス核酸はコード鎖上の開始コドンの前もしくは全域にわたる領域、またはmRNAの3’未翻訳領域中の領域に相補的であるようにデザインされる。細胞中での前記タンパク質の発現を阻害するためのアンチセンス核酸分子は、ワトソン・クリック塩基対の規則に従って作製されるタンパク質をコードするヌクレオチド配列に基づいてデザインすることができる。
【0076】
アンチセンス核酸分子はさまざまな異なる形態で存在することができる。たとえば、前記アンチセンス核酸分子は、ある遺伝子のある部分にだけ相補的なオリゴヌクレオチドであってもよい。アンチセンスオリゴヌクレオチドは当業に知られる化学合成の手順を用いて作製することができる。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、天然に存在するヌクレオチドか、または前記分子の生物学的安定性を増すように、もしくはアンチセンスおよびセンス核酸の間に形成される2本鎖の物理的な安定性を増すようにデザインされた各種修飾ヌクレオチドを用いて化学的に合成することができ、たとえばホスホチオエート誘導体およびアクリジン置換ヌクレオチドを用いることができる。培養物における細胞の発現を阻害するために、典型的にはオリゴヌクレオチド約200μg/mlの1種類以上のアンチセンスオリゴヌクレオチドを培養培地中の細胞に加えることができる。
【0077】
代替的には、アンチセンス核酸分子は、核酸がアンチセンス配向にサブクローニングされている(つまり、挿入された核酸から転写された核酸が標的核酸に対してアンチセンスの配向になる)発現ベクターを用いて、生物学的に作製することができる。アンチセンス配向にクローニングされた核酸に作動的に連結した制御配列は、目的の細胞中のアンチセンスRNA分子の発現を方向付けるものを選択することができ、たとえば、プロモータおよび/またはエンハンサ、またはその他の制御配列は、アンチセンスRNAの連続的、組織特異的、または誘導性の発現を方向付けるものを選択することができる。たとえば、アンチセンスRNAの誘導性発現には、Tetシステムなどの真核生物の誘導性制御システム(たとえば Gossen, M. and Bujard, H. (1992) Proc.
Natl. Acad. Sci. USA 89:5547-5551、Gossen, M. et al.(1995) Science 268:1766-1769、PCT公開番号第WO 94/29442号、およびPCT公開番号第WO 96/01313号に記載)を用いることができる。前記アンチセンス発現ベクターは、cDNA(またはその部分)がそのベクターにアンチセンス配向にクローニングされているものをのぞいて、組換え発現ベクターについて以下に説明の通り調製する。前記アンチセンス発現ベクターは、たとえば組換えプラスミド、ファージミドまたは弱毒ウイルスの形状であってよい。前記アンチセンス発現ベクターは、組換え発現ベクターについて本願明細書に記載の標準的なトランスフェクション技術を用いて、細胞に導入する。
【0078】
別の実施態様では、RNAiを媒介する化合物を用いて本願発明の分子を阻害することができる。RNA干渉は転写後標的遺伝子サイレンシング技術であって、二本鎖RNA(dsRNA)を用いて、そのdsRNAと同一の配列を含むメッセンジャRNA(mRNA)を分解する技術である(Sharp, P.A. and Zamore,
P.D. 287, 2431-2432 (2000)、Zamore, P.D., et
al.Cell 101, 25-33 (2000)、Tuschl, T. et al.Genes Dev.13, 3191-3197 (1999))。そのプロセスは、内因性リボヌクレアーゼが、長いdsRNAを、低分子干渉RNAまたはsiRNAと呼ばれる短い21または22ヌクレオチド長のRNAに分解する際に生じる。この小さいRNAセグメントは、標的mRNAの分解を媒介する。RNAi合成用のキットは、たとえばNew England Biolabs社およびAmbion社などから市販されている。ある実施態様では、アンチセンスRNAに用いられる上述の1つ以上の化学を用いることができる。
【0079】
別の実施態様では、阻害物質として用いるアンチセンス核酸はリボザイムである。リボザイムはリボヌクレアーゼ活性を有する触媒RNA分子であって、mRNAなどの一本鎖核酸を切断することができ、相補的な領域を有する触媒RNA分子である。本願発明の分子のmRNAに特異性を有するリボザイムは、本願発明のcDNA配列の分子のヌクレオチド配列に基づいてデザインすることができる。たとえば、テトラヒメナL-19
IVS RNAの誘導体は、前記活性物質の塩基配列が、本願発明の分子のmRNAにおける切断される塩基配列に相補的になるように作製することができる。たとえば、いずれもCech et al.による米国特許第4,987,071号および第5,116,742号を参照。代替的には、本願発明のmRNAの分子を用いて、RNA分子のプールから、特異的リボヌクレアーゼ活性を有する触媒RNAを選択することができる。たとえば、Bartel, D. and Szostak,
J.W. (1993) Science 261: 1411-1418を参照。
【0080】
本願発明のポリペプチド分子または本願発明の分子の一部分もしくは断片を免疫源として用いて、本願発明の分子に結合する抗体、またはポリクローナルおよびモノクローナル抗体調製のための標準的な技術を用いた本願発明の分子の結合を阻害する抗体を作製することもできる。好ましくは、本願発明の分子は、本願発明の分泌分子または本願発明の細胞外分子である。別の実施態様では、前記ポリペプチドが細胞内に発現される場合、細胞内抗体を以下に詳述のとおり調製することができる。
【0081】
抗体の作製のために、完全長ポリペプチドを用いることができ、または本願発明は免疫源として用いるための抗原ペプチド断片を提供する。好ましくは、抗原断片は、本願発明のポリペプチドのアミノ酸配列の少なくとも8アミノ酸残基を含み、前記ペプチドに対する抗体が本願発明のポリペプチドと特異的免疫複合体を形成するような前記ポリペプチドのエピトープを包含する。好ましくは、前記抗原ペプチドは、少なくとも10アミノ酸残基、さらに好ましくは少なくとも15アミノ酸残基、よりさらに好ましくは少なくとも20アミノ酸残基、および最も好ましくは少なくとも30アミノ酸残基を含む。前記抗原ペプチドに包含される好ましいエピトープは、たとえば親水性領域などのタンパク質の表面上に位置するポリペプチドの領域である。そのような領域は、当業に認識される方法を用いて容易に同定することができる。
【0082】
典型的には、免疫原を用いて、その免疫原で好適な対象を免疫化することによって抗体を調製する。適切な免疫原性調製物は、たとえば組換え的に発現させたポリペプチド、または化学的に合成したポリペプチドを含んでもよい。前記調製物はさらに、フロインド完全または不完全アジュバントなどのアジュバント、または類似の免疫刺激物質を含むことができる。好適な対象の免疫原性調製物による免疫によって、それぞれポリクローナル抗体応答を誘導される。
【0083】
ある実施態様では、本願発明の阻害性化合物は抗体または修飾抗体分子である。本願明細書に用いられる「抗体」という用語は、免疫グロブリン分子、および免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分、つまり抗原に特異的に結合する抗原結合部位を含む分子を意味する。免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分の例には、子前記抗体をペプシンなどの酵素で処理することによってつくることができるF(ab) and
F(ab')2断片、および抗体分子からクローニングしてミニ抗体(minibody)または二重特異性抗体(diabody)などの修飾された抗原結合分子をつくるために用いることができるVHおよびVLドメインが含まれる。
【0084】
本願発明は、ポリクローナルおよびモノクローナル抗体を提供する。本願明細書に用いられる「モノクローナル抗体」または「モノクローナル抗体組成物」という用語は、抗原の特定のエピトープと免疫反応することができる抗原結合部位の1種だけを含む抗体分子群を意味する。モノクローナル抗体組成物は、したがって典型的には免疫応答する特定の抗原またはポリペプチドへの単一の結合親和性を示す。
【0085】
ポリクローナル抗体は、上述の通り、好適な対象を免疫原で免疫することによって調製することができる。免役された対象における抗体価は、固定抗原を用いた酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)などの標準的な技術によって、経時的に監視することができる。望ましい場合には、前記抗体分子は哺乳類(たとえば血液)から単離することができ、さらに、IgG画分を得るためのタンパク質Aクロマトグラフィなどの公知の技術によって精製することができる。たとえば前記抗体価の最高時など、免疫から好適な時間が経過した時点で、抗体産生細胞を前記対象から採取し、これを用いてKohler and
Milstein (1975) Nature 256:495-497) (さらに Brown et al.(1981) J. Immunol.127:539-46; Brown et
al.(1980) J. Biol. Chem .255:4980-83; Yeh et al.(1976) PNAS
76:2927-31; and Yeh et al.(1982) Int. J. Cancer 29:269-75を参照)に最初に記載されたハイブリドーマ技術、さらに最近のB細胞ハイブリドーマ技術(Kozbor et
al.(1983) Immunol Today 4:72)、EBV-ハイブリドーマ技術(Cole et
al.(1985), Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss,
Inc., pp.77-96)またはトリオーマ技術などの標準的な技術によってモノクローナル抗体を調製することができる。モノクローナル抗体ハイブリドーマをつくるための技術は公知である(一般的には R. H. Kenneth, in Monoclonal
Antibodies:A New Dimension In Biological Analyses, Plenum Publishing Corp.,
New York, New York (1980)、E. A. Lerner
(1981) Yale J. Biol.Med., 54:387-402、M. L. Gefter et al.(1977) Somatic Cell Genet.3:231-36を参照)。簡単に説明すると、不死化細胞株(典型的には骨髄腫)を上述の免疫原で免疫した哺乳類のリンパ細胞(典型的には脾細胞)に融合し、得られたハイブリドーマ細胞の培養上清液をスクリーニングして、前記抗原に結合するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを同定する。
【0086】
リンパ細胞と不死化細胞株を融合させるために用いる数多くの公知のプロトコルのいずれかを、モノクローナル抗体を作製する目的のために適用することができる(たとえば G. Galfre et al. (1977) Nature
266:550-52、Gefter et al. Somatic
Cell Genet., cited supra、Lerner, Yale J. Biol. Med., cited supra、Kenneth, Monoclonal Antibodies,
cited supraを参照)。さらに、当業者は、有用であろうそのような方法の数多くのバリエーションがあることを理解するだろう。典型的には、不死化細胞株(たとえば骨髄腫細胞株)はリンパ細胞と同一の哺乳類種に由来している。たとえば、マウスハイブリドーマは、本願発明の免疫原性調製物で免疫したマウスから得たリンパ細胞と不死化マウス細胞株を融合することによってつくることができる。好ましい不死化細胞株は、ハイポキサンチン、アミノプテリン、およびチミジンを含有する培養培地(HAT培地)に感受性のあるマウス骨髄腫細胞株である。標準的な技術にしたがって、例えばP3-NS1/1-Ag4-1,
P3-x63-Ag8.653 or Sp2/O-Ag14 骨髄腫株など、多数の骨髄腫細胞株のいずれかを融合パートナとして用いることができる。これらの骨髄腫株はATCCから入手することができる。典型的には、ポリエチレングリコール(PEG)を用いて、HAT感受性マウス骨髄腫細胞をマウス脾細胞に融合する。それから、その融合の結果得られたハイブリドーマ細胞を、未融合および非生産的にに融合した骨髄腫細胞を死滅させる(未融合の脾細胞は形質転換しないために数日後に死滅する)HAT培地を用いて選択する。たとえば標準的なELISAアッセイを用いて、前記抗原に結合する抗体の有無についてハイブリドーマ培養上清液をスクリーニングすることによって、本願発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞を検出する。
【0087】
モノクローナル抗体分泌ハイブリドーマの調製の代わりに、組換えコンビナトリアル免疫グロブリンライブラリを抗原でスクリーニングし、前記抗原に結合する免疫グロブリンライブラリメンバを単離することによって、モノクローナル抗体を同定、単離することができる。ファージディスプレイライブラリの作成およびスクリーニングのためのキットは市販されている(たとえばファルマシア社製Recombinant
Phage Antibody System、カタログ番号27-9400-01、およびストラタジーン社製SurfZAP(登録商標)
Phage Display Kit、カタログ番号240612)。さらに、抗体ディスプレイライブラリの作成およびスクリーニングに特に使用できる方法および試薬の例は、たとえば Ladner et al. 米国特許第5,223,409号、Kang et al. PCT国際公開番号第WO 92/18619号、Dower et al. PCT国際公開番号第WO 91/17271号、Winter et al. PCT国際公開番号第WO 92/20791号、Markland et al.
PCT国際公開番号第WO 92/15679号、Breitling et al. PCT国際公開番号第WO 93/01288号、McCafferty et al.
PCT国際公開番号第WO
92/01047号、Garrard et
al. PCT国際公開番号第WO 92/09690号、Ladner et al. PCT国際公開番号第WO 90/02809号、Fuchs et al.
(1991) Bio/Technology 9:1370-1372、Hay et al. (1992) Hum.
Antibod. Hybridomas 3:81-85、Huse et al. (1989)
Science 246:1275-1281、Griffiths et al.
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PNAS 89:3576-3580、Garrad et al.
(1991) Bio/Technology 9:1373-1377、Hoogenboom et al.
(1991) Nuc. Acid Res. 19:4133-4137、Barbas et al.
(1991) PNAS 88:7978-7982、and McCafferty et al. Nature (1990) 348:552-554に見いだすことができる。
【0088】
細胞における本願発明の分子の発現および/または活性を阻害するために用いることができる阻害物質の別のタイプは、本願発明の分子に特異的な細胞内抗体、好ましくは本願発明の細胞内分子である。細胞におけるタンパク質機能を阻害するための細胞内抗体の使用は、当業に知られている (例えばCarlson, J. R. (1988) Mol.
Cell. Biol. 8:2638-2646、Biocca, S. et al.
(1990) EMBO J. 9:101-108、Werge, T.M. et al.
(1990) FEBS Letters 274:193-198、Carlson, J.R. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA
90:7427-7428、Marasco, W.A. et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:7889-7893、Biocca, S. et al.
(1994) Bio/Technology 12:396-399、Chen, S-Y. et al.
(1994) Human Gene Therapy 5:595-601、Duan, L et al.
(1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:5075-5079、Chen, S-Y. et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA
91:5932-5936、Beerli,
R.R. et al. (1994) J.
Biol. Chem. 269:23931-23936、Beerli, R.R. et al. (1994) Biochem. Biophys. Res. Commun. 204:666-672、Mhashilkar, A.M. et al. (1995) EMBO J. 14:1542-1551、Richardson, J.H. et al. (1995) Proc. Natl. Acad. Sci. USA
92:3137-3141、PCT 公開番号第WO 94/02610号 by Marasco et al.、and PCT 公開番号第WO 95/03832号 by Duan et al.を参照)。
【0089】
細胞内抗体を用いて活性を阻害するために、組換え発現ベクターであって、そのベクターを細胞に導入してから抗体鎖が前記細胞の細胞内コンパートメントにおいて機能的抗体として発現するような抗体鎖をコードする組換え発現ベクターを調製する。本願発明の阻害方法による本願発明の分子の活性の阻害のために、本願発明の分子のタンパク質産生物に特異的に結合する細胞内抗体が前記細胞の原形質中に発現する。細胞内抗体発現ベクターを調製するために、目的の標的タンパク質に特異的な抗体鎖をコードする抗体の軽鎖および重鎖cDNAを、典型的には本願発明の分子に特異的なモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマから単離する。本願発明のモノクローナル抗体、または組換えモノクローナル抗体の抗分子を分泌するハイブリドーマは、後述の通り調製することができる。マーカータンパク質に特異的なモノクローナル抗体がいったん同定されたら(たとえばハイブリドーマ由来モノクローナル抗体またはコンビナトリアルライブラリからの組換え抗体)、前記モノクローナル抗体の軽鎖および重鎖をコードするDNAを標準的な分子生物学的技術によって単離する。ハイブリドーマに由来する抗体のために、軽鎖および重鎖cDNAを、たとえばPCR増幅、またはcDNAライブラリスクリーニングによって得ることができる。ファージディスプレイライブラリなどから得た組換え抗体のために、前記軽鎖および重鎖をコードするcDNAは、前記ライブラリスクリーニングプロセスの間に単離されたディスプレイパッケージ(たとえばファージ)から回収することができる。PCRプライマまたはcDNAライブラリプローブを調製することができる抗体重鎖および軽鎖遺伝子のヌクレオチド配列は当業に知られている。たとえば、数多くのそのような配列がKabat, E.A., et
al.(1991) Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition,
米国保健社会福祉省NIH 公開番号第91-3242号および"Vbase"ヒト生殖系列配列データベースに開示されている。
【0090】
ひとたび得られたら、前記抗体軽鎖および重鎖配列は、標準的な方法を用いて組換え発現ベクターにクローニングされる。前記軽鎖および重鎖の細胞質発現を可能にするために、前記軽鎖および重鎖の疎水性リーダーをコードするヌクレオチド配列を除去する。細胞内抗体発現ベクターは、いくつかの異なる形態のうちの1つの形態の細胞内抗体をコードすることができる。たとえば、ある実施態様では、前記ベクターは、完全長抗体が細胞内に発現するように完全長抗体軽鎖および重鎖をコードする。別の実施態様では、前記ベクターは完全長軽鎖をコードするが、Fab断片が細胞内で発現するように、前記重鎖のVH/CH1領域だけをコードする。最も好ましい実施態様では、前記ベクターは一本鎖抗体(scFv)であって、当該一本鎖抗体において、前記軽鎖および重鎖の可変領域がフレキシブルなペプチドリンカーによって連結され、一本鎖分子として発現される、一本鎖抗体をコードする。細胞において本願発明の分子の活性を阻害するために、細胞内抗体をコードする発現ベクターを、上述のとおり、標準的なトランスフェクション方法によって前記細胞に導入する。
【0091】
本願発明の阻害物質のさらに別の形態は、たとえば顕性の陰性阻害物質など、本願発明のポリペプチド分子の阻害形態である。たとえば、ある実施態様では、活性部位(たとえば酵素活性部位またはDNA結合ドメイン)は変異導入することができる。そのような顕性の陰性タンパク質は、前記タンパク質をコードする組換え発現ベクターであって、標準的なトランスフェクション方法によって前記細胞に導入される組換え発現ベクターを用いて細胞内で発現させることができる。
【0092】
マーカータンパク質の活性を阻害するために用いることができるその他の阻害物質は、マーカーの活性を直接阻害する、または前記マーカーと標的DNAまたは別のタンパク質の間の相互作用を阻害する化学化合物である。そのような化合物は、以下の詳述の通り、そのような化合物を選択するスクリーニングアッセイを用いて同定することができる。
【0093】
III スクリーニングアッセイ
本願発明は、制御性T細胞と比較したエフェクタT細胞、またはエフェクタT細胞と比較した制御性T細胞における、本願発明の分子、好ましくは本願発明の分泌分子、本願発明の細胞内分子、または本願発明の細胞外分子に調節効果のあるモジュレータ、つまり候補物質またはテスト化合物または作用薬(たとえばペプチド、ペプチド模倣体、低分子またはその他の薬物)を同定するための方法(本願明細書では「スクリーニングアッセイ」ともいう)を提供する。
【0094】
A 無細胞アッセイ
ある実施態様では、前記スクリーニングアッセイは無細胞の様式で行うことができる。たとえばTGFβ1などの本願発明の分泌分子などの本願発明の分子を宿主細胞において組換え方法によって発現させ、そのポリペプチドは、たとえばイオン交換クロマトグラフィ、ゲルろ過クロマトグラフィ、超ろ過法、電気穿孔法、および/または本願発明の分子に特異的な抗体を用いた免疫アフィニティ精製法 などの標準のポリペプチド精製法を用いて宿主細胞培養培地から単離して、無細胞組成物中で用いることができるタンパク質を生成することができる。代替的には、本願発明の分子または本願発明の分子を発現する細胞の抽出物を調製し、無細胞組成物として使用することができる。
【0095】
その後、本願発明の分子をテスト化合物と接触させて、そのテスト化合物が本願発明の分子または生物活性なその断片に結合する能力を決定する。本願発明の分子へのテスト化合物の結合は、たとえばテスト化合物または本願発明の分子(たとえばポリペプチドまたはその断片)と酵素または放射性標識とを、前記テスト化合物と本願発明の分子の結合を、複合体において本願発明の標識された化合物または分子を検出することによって決定することができるように結合させることによって実施することができる。たとえば、本願発明のテスト化合物または分子(たとえばポリペプチド)は、125I、35S、14C、または3Hで、直接または間接的に標識することができ、その放射性同位体の検出は直接的な放射線の計数、またはシンチレーション計数によって検出することができる。たとえば、本願発明のテスト化合物または分子(たとえばポリペプチド)は、125I、35S、14C、または3Hで、直接または間接的に標識することができ、その放射性同位体の検出は直接的な放射線の計数、またはシンチレーション計数によって検出することができる。
【0096】
前記テスト化合物の本願発明の分子への結合もまた、リアルタイム生物分子相互作用解析(Biomolecular Interaction Analysis(BIA))などの技術を用いて行うことができる。 Sjolander,
S. and Urbaniczky, C. (1991) Anal. Chem. 63:2338-2345 and Szabo et
al. (1995) Curr. Opin. Struct. Biol. 5:699-705. 本願明細書に記載の通り、「BIA」は相互作用物(たとえばBIAcoreTM)のいずれにもラベルせずに、リアルタイムで生物特異的な相互作用を研究するための技術である。表面プラズモン共鳴(SRP)の光学的現象の変化を、生物学的分子間のリアルタイムな反応の表示として用いることができる。好ましい実施態様では、前記アッセイには、本願発明のポリペプチド分子または生物学的に活性なその部分を本願発明の標的分子と接触させアッセイ混合物をつくるステップと、前記アッセイ混合物をテスト化合物と接触させるステップと、前記テスト化合物が本願発明のポリペプチド分子と相互作用する能力を決定するステップであって、当該ステップにおいて、前記テスト化合物が本願発明のポリペプチド分子と相互作用する能力を決定するステップが、前記テスト化合物が対象分子と比較して、本願発明の分子または生物活性的なその部分と選択的に結合する能力を決定するステップを含むステップと、が含まれる。別の実施態様では、前記アッセイには、本願発明のポリペプチド分子または生物学的に活性なその部分を本願発明の標的分子と接触させアッセイ混合物をつくるステップと、前記アッセイ混合物をテスト化合物と接触させるステップと、本願発明のポリペプチド分子と前記ポリペプチドの既知のモジュレータの間の結合を調節するテスト化合物の能力を決定するステップと、が含まれる。
【0097】
別の実施態様では、本願発明の分子の結合パートナがたとえばTGFB1レセプタ、Notch1、Jak2、EPOなど既知の場合、その結合パートナをモジュレータ化合物を同定するためのスクリーニングアッセイに用いることができる。
【0098】
別の実施態様では、前記アッセイは本願発明のポリペプチド分子または生物活性的なその部分をテスト化合物と接触させ、前記テスト化合物が本願発明のポリペプチド分子または生物活性的なその部分を調節する能力を決定する無細胞アッセイである。本願発明のこの実施態様は、本願発明の分子が細胞内分子であって、その活性を無細胞システムで測定することができる場合に、特に有用である。
【0099】
さらに別の実施態様では、前記無細胞アッセイには、本願発明のポリペプチド分子または生物学的に活性なその部分を本願発明の分子と結合する分子(たとえば既知の結合パートナ)と接触させアッセイ混合物をつくるステップと、前記アッセイ混合物をテスト化合物と接触させるステップと、本願発明の分子の活性を調節するテスト化合物の能力を対象化合物と比較して決定するステップと、が含まれる。前記標的分子の活性は、たとえば、前記標的の細胞性2次メッセンジャ(すなわち細胞内Ca2+、ジアシルグリセロール、およびIP3など)の誘導を検出するステップ、適切な基質を用いて前記標的の触媒/酵素活性を検出するステップ、レポータ遺伝子(たとえばフシフェラーゼなど、検出マーカーをコードした核酸に作動的に連結した標的応答性制御要素を含む)の誘導を検出するステップ、または標的制御された細胞応答を検出するステップによって決定することができる。たとえば、PTGER2はPGE2のレセプタで、化合物が結合を調節する能力を用いてモジュレータ化合物を同定することもできる。同様に、I型、II型、III型、および IV型レセプタ、TGFβR, ならびにキナーゼなどのアクチビンレセプタをそれらに限定されずに含む任意の天然レセプタへのTGFβ1の結合に作用するモジュレータの能力をもちいることができ、jagged1 Notch-1の結合に作用する調節物質の能力をアッセイでき、エリスロポエチン、JAK2および/またはSTAT5のEPORへの結合を用いて結合を評価することもできる。
【0100】
ある実施態様では、前記テスト化合物が本願発明の分子の結合を促進する化合物として同定される場合、テスト化合物の存在下における本願発明の分子の標的分子への結合量は、前記テスト化合物の欠如下における本願発明の分子の標的分子への結合量よりも多い。 別の実施態様では、前記テスト化合物が本願発明の分子の結合を阻害する化合物として同定される場合、テスト化合物の存在下における本願発明の分子の標的分子への結合量は、前記テスト化合物の欠如下における本願発明の分子の標的分子への結合量より少ない。
【0101】
前記テスト化合物の本願発明のポリペプチドへの結合は、上述の通り、直接的または間接的に決定することができる。
本願発明のポリペプチド分子と標的分子の間の相互作用を調節するテスト化合物を同定するための本願発明の方法において、本願発明の完全長ポリペプチド分子は本願発明で用いられてよく、または代替的には本願発明の分子の部分だけが用いられてもよい。本願発明のポリペプチド分子と前記標的分子の間の相互作用の程度は、たとえば、検出可能な物質で前記ポリペプチドの一つを標識し、標識していないポリペプチドを単離して、標識していないポリペプチドに付随している検出可能な物質の量を定量化することによって決定することができる。前記アッセイを用いて、本願発明のタンパク質の分子と標的分子の間の相互作用を刺激または阻害するテスト化合物を同定することができる。たとえばアゴニストなどの、本願発明のポリペプチド分子と標的分子の間の相互作用を刺激するテスト化合物は、テスト化合物の欠如下における相互作用の程度と比較した、本願発明のポリペプチド分子と標的分子の間の相互作用の程度を増加させる能力に基づいて同定される。たとえばアンタゴニストなどの、本願発明のポリペプチド分子と標的分子の間の相互作用を阻害するテスト化合物は、テスト化合物の欠如下における相互作用の程度と比較した、本願発明のポリペプチド分子と標的分子の間の相互作用の程度を減少させる能力に基づいて同定される。
【0102】
本願発明のアッセイの1つ以上の実施態様では、たとえば、1つまたは両方の前記ポリペプチドの複合体化していない形状からの、複合体化した形状の分離を容易にするため、または前記アッセイの自動化を調整するために、本願発明の分子または本願発明の標的分子の分子のいずれかを固定化することが望ましい場合もある。本願発明のポリペプチド分子へのテスト化合物の結合、またはテスト化合物の存在下および欠如下における本願発明のポリペプチド分子と本願発明の標的分子の分子との相互作用は、反応物を入れるために好適な任意の容器で実施することができる。そのような容器の例には、マイクロタイタープレート、試験管、および微量遠心管が含まれる。ある実施態様では、1つまたは両方の前記ポリペプチドを基質に結合させることができるドメインを付加する融合タンパク質を提供することができる。たとえば、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ/本願発明の融合タンパク質の分子、またはグルタチオン-S-トランスフェラーゼ/標的融合タンパク質を、グルタチオンセファロースビーズ(シグマケミカル社、ミズーリ州セントルイス)またはグルタチオン誘導体化マイクロタイタープレートに吸着させてから、前記テスト化合物または前記テスト化合物および前記の吸着されていない標的ポリペプチドもしくは本願発明のポリペプチド分子のいずれかと混合して、複合体形成を促進する条件下(たとえば塩およびpHが生理学的条件下である)において前記混合物をインキュベートすることができる。インキュベーション後、そのビーズまたはマイクロタイタープレートのウェルを洗浄し、結合しなかった成分をいずれも除去し、ビーズの場合には前記基質を固定化して、たとえば上述の通り、直接的または間接的に複合体の形成を決定する。代替的には、前記複合体を前記基質から引き離し、従来技術を用いて本願発明の分子の結合または活性のレベルを決定することもできる。
【0103】
ポリペプチドを基質に固定化するその他の技術も、本願発明のスクリーニングアッセイに用いることができる。たとえば、本願発明のポリペプチド分子または本願発明の標的分子の分子のいずれかを、ビオチンとストレプタビジンの複合体化を用いて固定することができる。本願発明のビオチン化ポリペプチド分子または標的分子は、ビオチン-NHS (N-ヒドロキシ-スクシニミド)から、当業に用いられる技術(たとえばビオチン化キット、ピアースケミカルズ社、イリノイ州ロックフォード)を用いて調製し、ストレプタビジンコーティング96穴プレート(ピアースケミカル社)のウェルに固定化することができる。代替的には、本願発明のポリペプチド分子または標的分子と反応性であるが本願発明のポリペプチド分子のその標的分子への結合を阻害しない抗体を前記プレートのウェルに誘導体化することができ、結合していない本願発明の標的またはポリペプチド分子を抗体結合によって前記ウェルにトラップする。そのような複合体の検出方法には、上述のGST固定化複合体に加えて、本願発明のポリペプチド分子または標的分子と反応性の抗体を用いた複合体の免疫検出法、および本願発明のポリペプチド分子または標的分子に関連する酵素活性の検出に依存する酵素結合アッセイ法が含まれる。
【0104】
B 細胞アッセイ
ある実施態様では、本願発明の分子を自然に発現する細胞、または、たとえば前記細胞への前記ポリペプチドをコードする発現ベクターの導入による、本願発明の分子を発現するように組み換えられた細胞を、本願発明のスクリーニング方法に使用する。代替的には、本願発明のポリペプチド分子(たとえば、本願発明の発現細胞の分子からの細胞抽出物、または本願発明の精製された分子を含む組成物であって、天然または組換えのいずれか)を用いることができる。
【0105】
本願発明の分子(またはほんがんはつめいの分子の上流または下流に作用する分子)の発現および/または活性を調節する化合物を、さまざまな「読み取り法」を用いて同定することができる。本願発明の分子の発現および/または発現プロフィールにおける変化を検出する方法は当業に知られており、たとえばディファレンシャルディスプレイ法、ノーザンブロット解析法、定量的RT-PCR、ウェスタンブロット解析法などが含まれる。
【0106】
「読み取り法」の例は、発現ベクターで形質転換できて、テスト化合物の存在下および欠如下でインキュベートできる指示細胞の使用で、前記化合物の前記分子の発現への作用または調節される生物学的応答への作用を決定することができる。前記生物学的な活性には、本願発明の各分子のための標準技術にしたがった、in
vivo、またはin
vitroにおいて決定された活性が含まれる。生物学的活性は、直接的な活性または間接的な活性であってよい。そのような活性の例には、PTGER2によるアデニル化シクラーゼおよびcAMP産生の刺激、TGFB1によって刺激されたIL-2の産生、CD83による樹状細胞媒介T細胞増殖の阻害、CD89による抗体依存性細胞媒介細胞毒性、およびPDE4DによるcAMPの加水分解が含まれる。 アデニル化シクラーゼ活性は、たとえばストラタジーン社(カリフォルニア州ラホーヤ)から市販されているキットを使用した酵素免疫アッセイによって測定する。IL-2はたとえばフローサイトメトリによって測定する(McNerlan, SE, et al.(2002)
Exp Gerontol 37(2-3):227-34を参照)。
【0107】
ある実施態様では、本願発明の分子の1つの生物学的活性が、たとえば細胞内2次メッセンジャの産生またはサイトカイン産生などを調節する。別の実施態様では、本願発明の分子の2つの生物学的活性が、たとえばサイトカイン産生または細胞内2次メッセンジャの産生などを調節する。
【0108】
テスト化合物が本願発明の分子の標的分子への結合を調節する能力、またはそれ自体へ結合する能力も決定することができる。前記テスト化合物が本願発明の分子の標的分子への結合(たとえばPTGER2へのPGE2、 I型、II型、III型、およびIV型レセプタなどの結合パートナ、またはTGFβ1へのキナーゼ、Jagged 1へのNotch1などのアクチビンレセプタ、およびエリスロポエチンレセプタへのエリスロポエチン結合など)を調節する能力の決定は、上述の通り、本願発明の標的分子を放射性同位体、酵素標識または蛍光標識を、本願発明のテスト化合物の結合を複合体にける本願発明の標的分子の標識された分子を検出することによって決定できるように、結合させることによって実行することができる。
【0109】
別の実施態様では、本願発明の分子が関与する経路の上流またな下流に作用する異なる分子(すなわち本願発明の分子ではない分子)を、スクリーニングアッセイに使用する肘組成物に含むことができる。上流または下流表示物質として用いることもできる分子の制限されない例には、CD83のNF-κBシグナル伝達経路、およびエリスロポエチンレセプタのSTAT5のメンバが含まれる。そのような分子を用いるスクリーニングアッセイにおいて同定される化合物は、間接的ではあるが本願発明の分子の活性を調節するのにも有用であろう。
【0110】
当該アッセイに用いられる細胞は、原核細胞由来または真核細胞由来であってよい。
【0111】
前記指示細胞中の本願発明の分子の上流および下流に作用する本願発明のポリペプチドまたは非ポリペプチド分子の発現に用いることができる組換え発現ベクターは当業に知られている。ある実施態様では、発現ベクター内において、コード配列は前記指示細胞におけるポリペプチドの誘導的または連続的発現を可能にする制御配列に作動的に連結している(たとえば、サイトメガロウイルスプロモータ/エンハンサなどのウイルス性制御配列を用いることができる)。前記指示細胞においてポリペプチドの誘導的または連続的発現を可能にする組換え発現ベクターを使用するのは、本願発明の分子の活性を促進または阻害する化合物の同定に好ましい。代替的な実施態様では、前記発現ベクター内において、前記コード配列は内因性遺伝子の制御配列(すなわち、本願発明の遺伝子の内因生分子に由来するプロモータ制御領域)に作動的に連結している。発現が内因性制御配列によって制御されている組換え発現ベクターを使用するのは、本願発明の分子の転写発現を促進または阻害する化合物の同定に好ましい。
【0112】
ある実施態様では、アッセイは本願発明の分子を発現する細胞をテスト化合物と接触させ、前記テスト化合物が前記成分の活性を調節する能力を決定する細胞アッセイである。たとえば、その細胞は哺乳類由来または酵母細胞であってよい。たとえば、前記成分(たとえば本願発明のポリペプチド、または生物学的に活性なその部分)は、非相同的に発現されるか、または前記細胞に由来するものであってよい。前記テスト化合物が前記成分の活性を調節する能力の決定は、本願明細書に記載の通り、本願発明の分子の任意の活性をアッセイすることによって実施することができる。
【0113】
たとえば、前記テスト化合物が本願発明のポリペプチドの活性を調節する能力の決定は、たとえば、本願発明の分子またはその標的分子の活性をアッセイすることによって実施することができる。 別の実施態様では、前記テスト化合物がポリペプチドまたは生物学的に活性なその部分の活性を調節する能力の決定は、標的分子または生物学的に活性なその部分に結合する能力をアッセイすることによって実施することができる。好ましい実施態様では、ポリペプチドまたは生物学的に活性なその部分を発現する細胞は、さらに標的分子または生物学的に活性なその部分を発現する。別の好ましい実施態様では、前記細胞は本願発明の2つを超える分子または生物学的に活性なその部分を発現する。
【0114】
本願発明の細胞アッセイによると、ポリペプチドまたは生物学的に活性なその部分の活性を調節する能力の決定は、ポリペプチドの分子の任意の未変性活性のアッセイか、または上述の通り、たとえばPTGER2の場合の細胞媒介性細胞毒性または血管透過性のアッセイなどのような、ポリペプチドの活性と同時に生じる間接的な活性のアッセイ、または応答要素を有する遺伝子によってコードされたタンパク質の活性のアッセイによって決定することができる。
【0115】
同様に、TGFβ1の場合、間接的な活性には、未変性T細胞の制御性T細胞への分化、または寛容性の誘導が、それらに限定されずに含まれる。
【0116】
本願発明の分子のその他の間接的な活性には、たとえば、JAG1による筋芽細胞分化の阻害、FCARによるFcεRIγ2レセプタのリン酸化、PDE4Dによる気道平滑筋の緩和などが、それらに限定されずに含まれる。
【0117】
さらに、前記テスト化合物がポリペプチドまたは生物学的に活性なその部分の活性を調節する能力の決定は、前記ポリペプチドに由来しない活性のアッセイによって決定することができるが、前記細胞は組換え操作されたものである。たとえば、前記細胞を本願発明のポリペプチドによって制御された遺伝子に作動的に連結されているレポータタンパク質をコードするDNAを含む、レポータ遺伝子作製物を発現するように操作することができる。また、好ましい実施態様では、本願発明の細胞アッセイが、前記化合物を本願発明の分子の活性のモジュレータとして同定する最終ステップを含むことが意図される。
【0118】
本願明細書では交換可能に用いられている、「作動的に(operably)連結される」および「作動的に(operatively)連結される」という文言は、前記ヌクレオチド配列が宿主細胞のヌクレオチド配列の発現が可能になるように(または細胞抽出物によって)制御配列に連結されることを意味する。制御配列は当業に認識されており、適切な宿主細胞における望ましいポリペプチドの発現を方向付けるように選択することができる。制御配列という用語には、プロモータ、エンハンサ、ポリアデニル化シグナル、およびその他の発現制御要素が含まれることが意図される。そのような制御配列は当業者に知られており、Goeddel; Gene
Expression Technology:Methods in Enzymology 185, Academic Press, San
Diego, CA (1990)に記載されている。前記発現ベクターのデザインは、トランスフェクトされる宿主細胞の選択条件、および/または発現が望ましいポリペプチドのタイプおよび/または量などの因子に依存してよいと理解されなければならない。
【0119】
さまざまなレポータ遺伝子が当業に知られており、本願発明のスクリーニングアッセイに用いるのに好適である。好適なレポータ遺伝子の例には、クロラムフェニコール・アセチルトランスフェラーゼ、βガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼ、またはルシフェラーゼをコードするものが含まれる。これらの遺伝子産生物の活性を測定するための標準方法は当業に知られている。
【0120】
本願発明のさらに別の局面では、本願発明のポリペプチドは2ハイブリッドアッセイまたは3ハイブリッドアッセイにおいて「ベイトタンパク質」として用いられ(たとえば米国特許第5,283,317号、 Zervos et al.(1993) Cell
72:223-232; Madura et al.(1993) J. Biol. Chem. 268:12046-12054;
Bartel et al. (1993) Biotechniques
14:920-924; Iwabuchi et al.(1993) Oncogene 8:1693-1696; および Brent WO94/10300参照)、本願発明の分子に結合またはその分子と相互作用し、本願発明の分子の活性に関与するその他のタンパク質を同定することができる。そのような本願発明の分子-標的分子は、本願発明のポリペプチド分子によって調節される細胞活性の制御に関与する可能性も高い。
【0121】
少なくとも1つの例示的な2ハイブリッドシステムは、別々のDNA結合および活性化ドメインからなる、大半の転写因子のモジュラーの性質に基づいている。簡単に説明すると、前記アッセイは2つの異なるDNA作製物を用いる。ある作製物では、本願発明のポリペプチド分子をコードする遺伝子を、既知の転写因子のDNA結合ドメインをコードする遺伝子(たとえばGAL-4)に融合させる。別の作製物では、DNA配列のライブラリから選択された未同定のタンパク質(「プレイ」または「サンプル」)をコードするDNA配列を、既知の転写因子の活性化ドメインをコードする遺伝子に融合させる。「ベイト」および「プレイ」タンパク質は、in
vivoにおいて、本願発明の分子に依存する複合体を形成して相互作用することができ、前記転写因子のDNA結合および活性化ドメインが接近する。この接近により、前記転写因子に応答する転写制御部位に作動的に連結するレポータ遺伝子(たとえば LacZ)の転写が可能になる。
前記レポータ遺伝子の発現は検出可能で、機能的転写因子を含む細胞コロニーを単離して、本願発明のポリペプチド分子と相互作用するタンパク質をコードするクローン遺伝子を得るために用いることができる。
【0122】
当業でCytoTra(登録商標) とよばれる別の例示的な2ハイブリッドシステムは、Rasシグナル伝達カスケードの分子のモジュラーとしての性質に基づいている。簡単に説明すると、前記アッセイは「ベイト」タンパク質およびSon-of-Sevenless
(SOS)を含む融合タンパク質、ならびにミニストイル化標的タンパク質をコードするベクターの中にある未同定のタンパク質(「プレイ」)のcDNAを特徴とする。適切なベイト-プレイの組み合わせの発現によって、Rasを活性化させる、SOSの細胞膜への転位が生じる。Rasシグナル伝達経路の細胞質の再構成によって、たとえば本願発明のタンパク質の分子などの目的のベイトタンパク質と相互作用するタンパク質を同定することができる。さらなる哺乳類の2ハイブリッドシステムも当業に知られており、本願発明の分子と相互作用するタンパク質を同定するために用いることができる。
【0123】
別の局面では、本願発明は、本願発明に記載の2つ以上のアッセイの組み合わせに関連する。たとえば、調節性作用薬は、細胞または無細胞アッセイを用いて同定することができ、本願発明のタンパク質の分子の活性および/または発現を調節する物質の能力は、たとえば細胞培養物中などのin
vitroシステム、またはたとえば炎症の動物モデルなどの動物などin
vivoにおいて、当業の技術を用いて、または本願明細書に記載の通り確認することができる。
【0124】
本願発明のスクリーニングアッセイのある実施態様では、ひとたびテスト化合物が本願発明の分子を調節するものとして同定されれば、前記テスト化合物の作用をT制御細胞機能と比較したエフェクタT細胞機能を調節する能力についてアッセイすることができ、たとえば、in
vitro (たとえば細胞株または対象に由来する細胞を用いて)もしくはin
vivo(たとえば動物モデルを用いて)のいずれかにおいて、免疫細胞における作用の測定に基づいて、エフェクタT細胞モジュレータとして確認することができる。したがって、本願発明のスクリーニング方法は、少なくとも1つのTエフェクタ細胞の活性および/または少なくとも1つのT制御活性に基づいて前記化合物の作用を決定し、その結果、化合物が望ましい作用を有することを確認するステップをさらに含むことができる。
【0125】
ある実施態様では、化合物を、たとえばTエフェクタ細胞による増殖もしくはサイトカイン産生、または細胞毒性などの、Tエフェクタ細胞に関連する活性を調節する能力についてさらにアッセイする。さらなる実施態様では、化合物の能力は、たとえばTエフェクタ細胞による増殖もしくはサイトカイン産生などのT制御細胞に関連する活性を調節する能力、Tエフェクタ細胞を下方調節する能力、または寛容性を誘導する能力について、さらにアッセイされる。たとえば、テスト化合物が寛容性を調節する能力の決定は、2次T細胞応答をアッセイすることによって決定することができる。前記T細胞が、IL-2合成および/またはT細胞増殖によって決定されるように、それに続く活性化の試みに応答しない場合、たとえばT制御細胞が活性化されているように、寛容性の状態が誘導されている。代替的には、IL-2合成およびT細胞増殖が刺激される場合、Tエフェクタ細胞が活性化されている。たとえば、本願発明にしたがったアッセイの基礎として用いることができるアッセイシステムについては、Gimmi, C.D. et
al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90, 6586-6590、およびSchwartz (1990) Science, 248,
1349-1356を参照。T細胞増殖は、たとえば[3H]チミジン取り込みのアッセイ、およびMAPキナーゼカスケードのメンバーのタンパク質量、またはAP-1複合体の活性化を測定する方法によって測定することができる。サイトカインレベルは、ストラタジーン社製(カリフォルニア州ラホーヤ)をそれに限定せずに含む、任意の数の免疫アッセイ用の市販キットによってアッセイすることができる。寛容化させたT細胞は、刺激されたT細胞と比較した場合、IL-2産生を減少させるだろう。寛容化されたT細胞の低下した活性を測定するその他の方法には、細胞内カルシウム移動の測定、MAPキナーゼカスケードのメンバーのタンパク質量の測定、および/またはT細胞レセプタが関与した上でのT細胞における転写因子のAP-1複合体の活性の測定が、それらに限定されずに含まれる。
【0126】
別の実施態様では、本願明細書に記載の技術または当業に既知の技術を用いて、1つまたはそれ以外の細胞群に関連するマーカーを発現する細胞を検出することによって、T制御細胞群および/またはTエフェクタ細胞群の増殖についてのアッセイである。
【0127】
代替的には、本願発明の記載の通り同定された本願発明の分子のモジュレータを動物モデルに用い、そのようなモジュレータの作用機序を決定することができる。たとえば、当業に認識されているヒト疾患の動物モデル(たとえば、多発性硬化症のモデルであるEAE、および糖尿病モデルであるNODマウスなど)、または欲特徴づけられているヒト自己免疫製疾患のその他の動物モデルにおいて、作用薬をテストすることができる。そのような動物モデルには、紅斑性狼瘡のモデルのmrl/lpr/lprマウス、関節リウマチのモデルのコラーゲン誘発関節炎マウス、実験用重症筋無力症マウス(Paul ed., Fundamental
Immunology, Raven Press, New York, 1989, pp. 840-856)が含まれる。本願発明の調節性(すなわち刺激または阻害)作用薬を、動物をテストするために投与することができ、前記テスト動物における疾患の経過は、使用されている特定のモデルの標準的な方法を用いてモニターすることができる。調節性作用薬の有効性は、未処理動物(または対象作用薬で処理された動物)と比較した、前記作用薬で処理された動物の症状の回復によって証明される。
【0128】
薬学的組成物(上述の)としてのそのような化合物は、それを細胞と接触させる前に調製することが望ましい場合があるということは理解されよう。
【0129】
ある局面では、本願明細書に記載の細胞システムを用いて、T制御細胞の機能に対してエフェクタT細胞の機能を調節するように作用する場合がある作用薬を同定することもできる。たとえば、そのような細胞システムを、十分な濃度と、曝露された細胞における応答を誘発するのに十分な時間後に、T制御細胞の機能に対するエフェクタT細胞の機能を調節する能力を示す疑いのある作用薬に曝露することもできる。曝露後、前記細胞を調べて1つ以上の応答が変化したかどうかを決定する。
【0130】
さらに、ある実施態様では、エフェクタT細胞マーカーを調節する化合物および/またはエフェクタT細胞マーカーの能力を測定することができる。
【0131】
さらに、本願明細書に記載されているような動物システムを用いて、T制御細胞の機能に対するエフェクタT細胞の機能を調節することができる作用薬を同定することもできる。そのような動物モデルは、T制御細胞の機能に対するエフェクタT細胞の機能を調節するのに有効であると考えられる薬物、医薬品、治療法および介入法を同定するためのテスト基質として用いることもできる。さらに、本願明細書に記載の通り同定された作用薬を動物モデルに用い、そのような作用薬による治療の効果、毒性、または副作用を決定することができる。代替的には、本願明細書に記載の通り同定された作用薬を動物モデルに用い、そのような作用薬の作用機序を決定することができる。
【0132】
さらに、遺伝子発現パターンを用いて、作用薬がT制御細胞の機能に対するエフェクタT細胞の機能を調節する能力を評価することもできる。たとえば、1つ以上の遺伝子の発現パターンは、そのような評価に用いることもできる「発現プロフィール」または「転写プロフィール」の一部分を形成することもできる。本願明細書に記載の「遺伝子発現プロフィール」または「転写プロフィール」には、特定の1セットの条件下において特定の組織または細胞型について得られたmRNA発現のパターンが含まれる。遺伝子発現プロフィールは、たとえば、ディファレンシャルディスプレイ法、ノーザン解析法、および/またはRT-PCRを使用して作成してもよい。
【0133】
ある実施態様では、本願発明の分子の配列を、そのような遺伝子発現のプロフィールの作成および実証のために、プローブおよび/またはPCRプライマとして用いてもよい。
【0134】
遺伝子発現プロフィールは、前記細胞または動物モデルシステム内の既知の状態に特徴づけられていてもよい。次いで、これらの既知の遺伝子発現プロフィールを比較して、そのような発現プロフィールを変更し、プロフィールをより望ましいプロフィールに近づけるための、テスト物質が有する作用を確認してもよい。
【0135】
さらに、本願発明は、本願明細書に記載の治療のための上述のスクリーニングアッセイによって同定された新規作用薬の使用に関連する。
【0136】
VI. 組換え発現ベクタ
本発明の別の局面は、本発明のタンパク質試薬(例えば融合タンパク質試薬)を作製したり、又は、本発明の分子を患者の細胞内など、in vitro又はin
vivoなどの細胞で発現させるための、ベクタ、好ましくは発現ベクタに関する。ここで用いる用語「ベクタ」とは、連結された先の別の核酸を輸送できる核酸分子を言う。好適なベクタは、付加的なDNAセグメントを連結できる環状の二本鎖DNAループを言う「プラスミド」である。プラスミドが最も一般的に用いられている形のベクタであるため、本明細書において、「プラスミド」及び「ベクタ」は交換可能に用いられている場合がある。好適なタンパク質試薬には、本発明の分子のポリペプチド又はその生物活性フラグメントが含まれる。以下の教示では、ポリペプチド及び/又はそのフラグメントが例示されているが、本教示はさらに、本発明の他の分子や、又はここで定義された通りのそのフラグメントにも適用されるものと、意図されている。
【0137】
本発明の組換え発現ベクタは、本発明のポリペプチドをコードする核酸を、宿主細胞内で本核酸が発現するために適した形で含むものであるが、このことは、本組換え発現ベクタには、発現に用いられる宿主細胞に基づいて選択され、発現させようとする核酸配列に作動的に連結された一つ以上の調節配列を含むことを意味する。組換え発現ベクタ内において、「作動的に連結された」とは、目的のヌクレオチド配列が、本ヌクレオチド配列の発現が可能な態様で調節配列に連結されていることを意味するものと、意図されている(例えばin vitro 転写/翻訳系で、又は、ベクタを宿主細胞内に導入する場合には宿主細胞内に)。用語「調節配列」には、プロモータ、エンハンサ及び他の発現制御因子(例えばポリアデニレーション・シグナル)が含まれるものと、意図されている。当該の発現ベクタは宿主細胞内への導入が可能であり、それにより、融合タンパク質又はペプチドを含むタンパク質を産生させることができる。代替的には、本発明のタンパク質を発現させるために、レトロウィルス発現ベクタ及び/又はアデノウィルス発現ベクタを利用することもできる。
【0138】
本発明の組換え発現ベクタは、原核もしくは真核細胞でポリペプチドが発現するようにデザインすることができる。例えばポリペプチドをE. coliなどの細菌細胞、昆虫細胞(バキュロウィルス発現ベクタを用いて)酵母細胞又は哺乳動物細胞で発現させることができる。適した宿主細胞はGoeddel, Gene
Expression Technology: Methods in
Enzymology 185, Academic Press, San Diego, CA (1990)にさらに論じられている。
【0139】
原核生物でのタンパク質発現は、融合もしくは非融合タンパク質の発現を命令する構成的又は誘導性プロモータを含有するベクタで、E. coli内で最も多く行われている。融合ベクタは、数多くのアミノ酸を、それにコードされたタンパク質に、通常は当該組換えタンパク質のアミノ末端で付加する。このような融合ベクタは、典型的には、3つの目的:1)組換えタンパク質の発現を増加させる;2)組換えタンパク質の可溶性を増加させる;及び3)親和性精製においてリガンドとして作用することで、組換えタンパク質の精製に役立つ。しばしば、融合発現ベクタにおいては、タンパク質分解による切断部位を、融合部分と当該組換えタンパク質との接合部分に導入して、当該融合タンパク質の精製後に、融合部分から当該タンパク質を分離できるようにする。精製済みの融合タンパク質は、本発明の無細胞アッセイ法において特に有用である。
【0140】
さらに別の実施態様では、例えばここで解説する細胞ベースのアッセイで用いるなどのために、本発明のポリペプチドをコードする核酸分子を、哺乳動物細胞内で発現させる。哺乳動物細胞で用いられる場合、発現ベクタの制御機能は、しばしば、ウィルス調節因子に提供させる。別の実施態様では、本組換え哺乳動物発現ベクタは、特定の細胞種において選択的に当該核酸の発現を命令することができる(例えば組織特異的調節配列を用いて当該核酸を発現させる)。
【0141】
本発明の別の局面は、組換え発現ベクタが導入されているアッセイ細胞に関する。アッセイ細胞は、原核性でも、又は真核性でもよいが、好ましくは真核性である、好適なアッセイ細胞は、例えばヒトT細胞などのT細胞である。T細胞は、ヒトの血液から得ることができ、本発明のアッセイで用いる前にex vivo で増殖させることができる。ベクタDNAは、従来の形質転換法又はトランスフェクション技術により、原核又は真核細胞に導入することができる。宿主細胞を形質転換又はトランスフェクトするために適した方法は、 Sambrook, et
al. (Molecular Cloning: A
Laboratory Manual. 2nd, ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor
Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989)、及び他の研究室用手引きに見ることができる。
【0142】
VII. 本発明の方法
A. 使用の方法
本発明の調節法は、 in vitro(例えば細胞を当該作用薬と一緒に培養したり、又は、作用薬を培養細胞に導入するなどにより) で行うことも、あるいは代替的には、in vivo (例えば作用薬を対象に投与したり、又は、遺伝子治療などにより作用薬を対象の細胞に導入するなどにより)で行うこともできる。
【0143】
ある実施態様では、対象は、本発明の分子を調節する処理の前に、TエフェクタとT制御性細胞との間の均衡の調節を行っておくと有益であると特定されている。例えば、ある実施態様では、T調節性及びTエフェクタ細胞の相対的活性を測定することができる。別の実施態様では、Tエフェクタ細胞及びT制御性細胞の相対的数を計算することができる。別の実施態様では、Tエフェクタ及びT制御性細胞の存在を、移植部位などの特定の部位で検出することができる。
【0144】
ある実施態様では、Tエフェクタ又はT制御性細胞を調節すると有益であろう対象を特定するために、対象の細胞を、(ここで解説された通りに同定された)本発明の分子のモジュレータによる治療の前に、本発明の分子のうちの1つ以上の活性及び/又は発現について、アッセイする。
【0145】
別の実施態様では、従来の免疫調節性試薬による治療後に対象を観察して、当該患者にとって、TエフェクタとT制御性細胞との間の均衡を調節すると有益であるかどうかを判定することができる。
【0146】
別の実施態様では、例えばVIII因子処理など、抗原への曝露前、又は、抗原への曝露と同時に、本発明の分子のモジュレータを対象にin vivo 又はin
vitroで投与する。
【0147】
本調節法をin
vitroで実施するには、細胞内で本発明の分子の活性を調節するために、細胞を対象から標準的な方法で得、in vitroで本発明の調節薬と一緒にインキュベート(即ち培養)することができる。例えば末梢血単核細胞(PBMC)を対象から得、フィッコール/ハイパックなどによる密度勾配遠心分離で単離することができる。特定の細胞集団は、標準的な方法を用いて枯渇又は濃縮することができる。例えば、T細胞は、細胞を特異的一次モノクローナル抗体(mAb)と一緒にインキュベートした後、この一次mAbに結合する二次抗体で被覆した磁気ビーズを用いて、このmAbに結合する細胞を単離するなどにより、T細胞表面マーカに対する抗体を用いた正の選抜などにより、濃縮することができる。また特定の細胞集団は、標準的な方法による蛍光活性化セル・ソーティング法によっても、単離することができる。必要に応じ、in vitro で本発明の調節性作用薬で処理した細胞を、対象に再投与することができる。対象への投与にあたっては、最初に細胞から培養時の残余物質を取り除いてから、それらを対象に投与することが好ましいであろう。これは、例えば細胞のフィッコール/ハイパック勾配遠心分離法によって行うことができる。細胞をex vivo で遺伝子修飾した後、対象に再投与する方法に関する議論については、さらにW.F. Anderson et al.による米国特許第5,399,346 号も参照されたい。
【0148】
対象において本調節法をin vivoで実施するためには、対象の細胞内での本発明の分子の活性が調節されるように、本調節性作用薬を対象に投与することができる。用語「対象」には、免疫応答を惹起することのできる生きた生物が包含されるものと、意図されている。好適な対象は哺乳動物である。対象の例にはヒト、サル、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウシ、ウマ、ヤギ及びヒツジがある。
【0149】
(マーカタンパク質、アンチセンスRNA、細胞内抗体又は顕性の陰性阻害剤をコードする組換え発現ベクタを含め)核酸を含む刺激性又は阻害性作用薬の場合、本作用薬は、対象の細胞内に、核酸(例えばDNA)をin
vivoの細胞に導入するための当業で公知の方法を用いて導入することができる。このような方法の例は、以下を含め、非ウィルス法及びウィルス法の両方を包含する:
直接的な注射:裸のDNAをin
vivoの細胞内に、DNAを細胞に直接注射することにより、導入することができる(例えば Acsadi et al. (1991)
Nature 332:815-818; Wolff et al. (1990) Science 247:1465-1468を参照されたい)。例えば、DNAをin vivoの細胞内に注射する送達器具(例えば「遺伝子ガン」)を用いることができる。このような器具は(例えばBioRad社から)市販されている。
陽イオン性脂質:裸のDNAをin vivoの細胞内に、DNAを陽イオン性脂質と複合体形成させたり、又は、DNAを陽イオン性リポソーム内に封入することにより、導入することができる。適した陽イオン性脂質調合物の例には、N-[-1-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロピル]N,N,N-トリエチルアンモニウムクロリド (DOTMA) 及び1:1のモル比の1,2-ジミリストイルオキシ-プロピル-3-ジメチルヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DMRIE)及びジオレオイルホスファチジルエタノールアミン (DOPE) (例えばLogan,
J.J. et al. (1995) Gene Therapy 2:38-49; San, H. et al. (1993) Human Gene
Therapy 4:781-788を参照されたい)がある。
受容体媒介性DNA
取り込み:裸のDNAはまた、in
vivoの細胞内に、細胞表面受容体に対するリガンドに結合させたポリリジンなどの陽イオンにDNAを複合体形成させることにより、導入することもできる(例えばWu, G. and Wu, C.H. (1988) J. Biol. Chem. 263:14621; Wilson
et al. (1992) J. Biol. Chem. 267:963-967; 及び米国特許第5,166,320号を参照されたい)。DNA−リガンド複合体を受容体に結合させると、受容体媒介性エンドサイトーシスによるDNAの取り込みが容易となる。エンドソームを天然で破壊して物質を細胞室内に放出するアデノウィルス・カプシドに連結したDNA−リガンド複合体を用いると、細胞内ライソソームによる複合体の分解を避けることができる(例えば、Curiel et al. (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:8850; Cristiano et al. (1993) Proc.
Natl. Acad.
Sci. USA 90:2122-2126を参照されたい)。
レトロウィルス: 欠陥レトロウィルスは、遺伝子治療目的のために遺伝子輸送のための使用に関して、良く特徴付けられている(レビューに関してはMiller, A.D.
(1990) Blood 76:271を参照されたい)。目的のヌクレオチド配列をレトロウィルス・ゲノムに導入して有する組換えレトロウィルスを構築することができる。加えて、レトロウィルス・ゲノムの数部分を除去して、レトロウィルスを複製欠陥性にすることができる。次にこの複製欠陥レトロウィルスをビリオンに梱包すると、このビリオンを用いて、標準的な技術によりヘルパ・ウィルスの利用を通じて標的細胞を感染させることができる。組換えレトロウィルスを作製するためのプロトコルや、in vitro 又は
in vivo の細胞をこのようなウィルスに感染させるためのプロトコルは、Current Protocols
in Molecular Biology, Ausubel, F.M. et al. (eds.) Greene Publishing Associates,
(1989), Sections 9.10-9.14 及び他の標準的な研究室用手引きに見ることができる。適したレトロウィルスの例には、当業者に公知のpLJ、pZIP、pWE
及びpEM がある。適した梱包ウィルス系の例には、ψCrip、ψCre、ψ2及びψAm
がある。レトロウィルスは、in vitro及び/又はin
vivoの表皮細胞、内皮細胞、リンパ球、筋原細胞、肝細胞、骨髄細胞を含め、数多くの様々な細胞種に多種の遺伝子を導入するために用いられてきた(例えば Eglitis, et
al. (1985) Science 230:1395-1398; Danos and Mulligan (1988) Proc. Natl. Acad.
Sci. USA 85:6460-6464; Wilson et al. (1988)
Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:3014-3018; Armentano et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA
87:6141-6145; Huber et al. (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:8039-8043;
Ferry et al. (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:8377-8381; Chowdhury et al.
(1991) Science 254:1802-1805; van Beusechem et al. (1992) Proc. Natl. Acad.
Sci. USA 89:7640-7644; Kay et al. (1992) Human Gene Therapy 3:641-647; Dai et al. (1992) Proc. Natl. Acad.
Sci. USA 89:10892-10895; Hwu et al. (1993) J. Immunol. 150:4104-4115; 米国特許第4,868,116号;米国特許第4,980,286号;PCT出願
WO 89/07136; PCT 出願 WO 89/02468; PCT 出願
WO 89/05345; 及びPCT 出願
WO 92/07573を参照されたい)。レトロウィルス・ベクタは、レトロウィルス・ゲノム(そしてそれに挿入された外来の核酸)を宿主ゲノムに組み込ませて核酸を宿主細胞に安定に導入するために、標的細胞の分裂が必要である。従って、標的細胞の複製を刺激する必要がある場合がある。
アデノウィルス:アデノウィルスのゲノムは、それが目的の遺伝子産物をコードすると共に発現させはするが、通常の溶解によるウィルス生命周期でのその複製能という点で不活化されているように操作することができる。例えばBerkner et al.
(1988) BioTechniques 6:616; Rosenfeld et
al. (1991) Science 252:431-434; and Rosenfeld et al. (1992) Cell 68:143-155を参照されたい。アデノウィルス株Ad 型 5 dl324 又は他のアデノウィルス株(例えばAd2、Ad3、及びAd7等)を由来とする適したアデノウィルス・ベクタは当業者に公知である。組換えアデノウィルスは、それらが、効果的な遺伝子送達伝播体とするためにも分裂細胞を必要とせず、また気道上皮(上に引用したRosenfeld et
al. (1992) )、内皮細胞 (Lemarchand et al. (1992)
Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:6482-6486)、肝細胞 (Herz and Gerard
(1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:2812-2816) 及び筋細胞
(Quantin et al. (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:2581-2584)を含め、幅広い細胞種を感染させるために用いることができるという点で有利である。加えて、導入されたアデノウィルスDNA(及びそれに含まれた外来のDNA)は宿主細胞のゲノムに組み込まれず、エピソームのまま留まるため、導入されたDNAが宿主・ゲノム(例えばレトロウィルスDNA)に組み込まれた場合に起き得る挿入的変異誘発の結果生じかねない潜在的な問題を避けることができる。さらに、外来のDNAにとってのアデノウィルス・ゲノムの運搬能力は、他の遺伝子送達ベクタに比較して大きい(最高8キロベース)
(上に引用したBerkner et al. ;Haj-Ahmand and
Graham (1986) J. Virol. 57:267)。現在用いられている大半の複製欠陥アデノウィルス・ベクタは、ウィルスE1及びE3遺伝子の全部又は一部を欠失させてあるが、アデノウィルス遺伝物質の80%もが残っている。
アデノ随伴ウィルス:アデノ随伴ウィルス(AAV)は、アデノウィルス又は疱疹ウィルスなどの別のウィルスを、効率的な複製及び増殖生命周期のためのヘルパ・ウィルスとして必要とする天然の欠陥ウィルスである。(レビューについてはMuzyczka et al.
Curr. Topics in Micro. and Immunol. (1992) 158:97-129)。さらにそれは、そのDNAを非分裂細胞に組み込ませ、高頻度で安定な組込みを示す数少ないウィルスのうちの1つでもある(例えば Flotte et al.
(1992) Am. J. Respir. Cell. Mol. Biol. 7:349-356; Samulski et al. (1989) J.
Virol. 63:3822-3828; and McLaughlin et al.
(1989) J. Virol. 62:1963-1973を参照されたい)。300塩基対という小さなAAVを含有するベクタを梱包し、組み込ませることができる。外因性のDNAのためのスペースは約4.5
kbに限られている。Tratschin et al. (1985) Mol. Cell. Biol. 5:3251-3260 に解説されたものなどのAAVベクタを用いてDNAを細胞に導入することができる。多種の核酸が様々な細胞種にAAV ベクタを用いて導入されてきた(例えばHermonat et al. (1984) Proc. Natl. Acad. Sci. USA
81:6466-6470; Tratschin et al. (1985) Mol. Cell. Biol. 4:2072-2081; Wondisford
et al. (1988) Mol. Endocrinol. 2:32-39; Tratschin et al. (1984) J. Virol.
51:611-619; 及びFlotte et al.
(1993) J. Biol. Chem. 268:3781-3790を参照されたい)。
【0150】
特定の発現ベクタ系や、細胞に核酸を導入する方法の効果は、当業で慣例的に用いられている標準的なアプローチにより評価することができる。例えば細胞内に導入されたDNAはフィルタ・ハイブリダイゼーション技術(例えばサザン・ブロット法)により検出が可能であり、そして導入されたDNAの転写により産生したRNAは、例えばノーザン・ブロット法、RNase保護法又はリバース・トランスクリプターゼ−ポリメラーゼ連鎖反応法(RT-PCR)により検出が可能である。当該の遺伝子産物は、適したアッセイ法、例えば産生したタンパク質を、例えば特異的抗体などにより免疫学的に検出したり、又は遺伝子産物の機能的活性を検出する機能アッセイ法など、適当なアッセイ法により、検出することができる。
【0151】
ある実施態様では、マーカをコードするレトロウィルス発現ベクタを用いて、in vivoの細胞内でマーカタンパク質を発現させることで、in vivoでのマーカタンパク質の発現又は活性を刺激する。このようなレトロウィルス・ベクタは、(例えば上述したような)当業で公知の標準的な方法に従って調製することができる。
【0152】
化合物などの調節性作用薬を、対象に医薬組成物として投与することができる。このような組成物は、典型的には、調節性作用薬と薬学的に許容可能な担体とを含む。ここで用いる用語「薬学的に許容可能な担体」には、医薬投与に適合性あるあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤及び抗カビ剤、等張剤及び吸収遅延剤等が含まれるものと、意図されている。このような媒質及び薬剤の、薬学的に活性な物質のための使用は当業で公知である。従来の媒質又は薬剤が当該活性化合物にとって不適合でない限り、組成物中のその使用は考察されたところである。補助的な活性化合物も、本組成物中に組み込むことができる。医薬組成物は下記のように調製することができる。
【0153】
B. 治療の方法
優勢なエフェクタT細胞機能に関連する数多くの疾患状態が公知であり、該疾患状態にある個体に生じる応答の種類を調節すると有益であろう。本方法に、このような治療を必要とする対象に、調節性作用薬を直接投与したり、あるいは、対象から得た細胞を作用薬でex vivo処理した後に、細胞を対象に再投与することを含めることができる。本治療は、さらに、他の免疫調節性作用薬を投与することにより向上させられよう。本発明の免疫調節方法のこのような疾患への適用を以下にさらに詳述する。
【0154】
数多くの自己免疫異常は、Tエフェクタ細胞が不適切又は不要に活性化して、当該疾患の病理に関与するサイトカインや自己抗体が産生することが原因である。加えて、Tエフェクタ細胞機能は移植片拒絶にも関係する。アレルギーもまた、Tエフェクタ細胞によって媒介される。従って、エフェクタT細胞又は抗体応答を低下させたい場合、本発明の方法を用いて、Tエフェクタ細胞に選択的に結合する分子の発現及び/又は活性を下方調節することができ、例えば少なくとも1つのTエフェクタ細胞機能を、少なくとも1つのT制御性細胞機能に対して下方調節する。別の実施態様では、例えば少なくとも1つのT制御性細胞機能を、少なくとも1つのTエフェクタ細胞機能に対して上方調節するなど、T制御性細胞に選択的に結合する分子の発現及び/又は活性を上方調節することにより、このような異常を改善することができる。
【0155】
対照的に、Tエフェクタ細胞の少なくとも1つの活性を高める、及び/又は、T制御性細胞の少なくとも1つの活性を下方調節する、と、有益であろう状態がある。例えば、免疫エフェクタ細胞はしばしば、ガン細胞と効果的に反応できない。従って、エフェクタT細胞又は抗体応答を高めたい場合、本発明の方法を用いて、Tエフェクタ細胞と選択的に結合する分子の発現及び/又は活性を上方調節することで、例えば少なくとも1つのTエフェクタ細胞機能を、少なくとも1つのT制御性細胞機能に対して上方調節するなどすることができる。別の実施態様では、このような異常は、T制御性細胞に選択的に結合する分子の発現及び/又は活性を下方調節することで、例えば少なくとも1つのT制御性細胞機能を、少なくとも1つのTエフェクタ細胞機能に対して下方調節するなどにより、改善することができる。
【0156】
ある実施態様では、これらの調節法を抗原と組み合わせて用いて、該抗原に対する免疫応答を高める又は減らすことができる。例えば、ワクチン製剤中のTエフェクタ細胞応答を高めたり、又は、例えばVIII因子など、対象に長期にわたって投与する必要のある治療的タンパク質に対するエフェクタ細胞応答を減らすために、減らすことができる。
【0157】
より具体的には、対象において、制御性T細胞機能の少なくとも1つの活性を調節することとは相対的に、エフェクタT細胞の少なくとも1つの活性を選択的に下方調節することが、例えば組織、皮膚及び臓器移植の場合、移植片対宿主疾患(GVHD)の場合、又は、全身性エリテマトーデス及び多発性硬化症などの自己免疫疾患の場合などにおいて、有用である。例えば、制御性T細胞機能を選択的に促進する、及び/又は、エフェクタT細胞機能を選択的に減らすと、組織移植における組織破壊が減少する。典型的には組織移植において、移植片の拒絶は、免疫細胞によってそれが異物であると認識されることが始まりであり、続いてその組織片を破壊する免疫反応がある。ここで解説した通りの作用薬又はモジュレータを、単独で、又は、別の免疫調節性作用薬と組み合わせて、移植前又は移植時に投与すると、対象のエフェクタT細胞機能や、制御性T細胞機能を調節することができる。
【0158】
数多くの自己免疫異常は、自己組織に対して反応性であり、疾患の病理に関与するサイトカイン及び自己抗体の産生を促進する免疫細胞の不適切な活性化が原因である。自己反応性免疫細胞の活性化を妨げると、疾患の症状が軽減又は消失するであろう。自己免疫異常を防止又は軽減する上での試薬の効果は、ヒト自己免疫疾患の、よく特徴付けられた数多くの動物モデルを用いて判定することができる。例には、マウス実験的自己免疫脳炎、MRL/lpr/lpr マウス又はNZBハイブリッド・マウスの全身性エリテマトーデス、マウス自己免疫コラーゲン関節炎、NODマウス及びBBラットの糖尿病、及びマウス実験的重症筋無力症(Paul ed., Fundamental Immunology, Raven Press, New York,
1989, pp. 840-856を参照されたい)がある。
【0159】
ここで用いる場合の用語「自己免疫」とは、対象の免疫系(例えばT及びB細胞)が、彼又は彼女自身の組織に対する反応を始める状態を言う。本発明に従って治療できると思われる、自己免疫成分を有する自己免疫疾患及び異常の非限定的な例には、1型糖尿病、関節炎(リウマチ性関節炎、若年性リウマチ性関節炎、乾癬性関節炎を含む)、多発性硬化症、重症筋無力症、全身性エリテマトーデス、自己免疫性甲状腺炎、皮膚炎(アトピー性皮膚炎及び湿疹性皮膚炎を含む)、乾癬、シェーグレン症候群に続発する乾性角結膜炎を含むシェーグレン症候群、円形脱毛症、節足動物の咬創反応を原因とするアレルギー性応答、クローン病、虹彩炎、結膜炎、角結膜炎、潰瘍性大腸炎、喘息、アレルギー喘息、皮膚性エリテマトーデス、強皮症、薬疹、らい反転反応、らい性結節性紅斑、自己免疫ブドウ膜炎、アレルギー性脳脊髄炎、急性壊死性出血性脳症、特発性両側性進行性感覚神経性聴力損失、再生不良性貧血、真正赤血球性貧血、特発性血小板減少症、多発性軟骨線、ヴェグナー肉芽腫症、慢性急性肝炎、スティーベンス−ジョンソン症候群、特発性スプルー、扁平苔癬、クローン病、グレーブズ眼症、サルコイドーシス、原発性胆汁性肝硬変、後部ブドウ膜炎、及び間質性肺線維症、がある。
【0160】
好ましくは、エフェクタ細胞機能の阻害が、例えばIgE産生を阻害するなどにより、アレルギ及びアレルギ性反応の治療において治療上、有用であるとよい。エフェクタT細胞機能の阻害、及び/又は、制御性T細胞機能の促進には、適したMHC分子と一緒のアレルゲンへの曝露を伴わせることができる。アレルギー性反応は、アレルゲンの進入経路や、マスト細胞又は好塩基球上のIgEの付着パターンに応じて、天然状態で全身性であったり、局所性であったりする。このように、エフェクタT細胞媒介性アレルギ応答の阻害は、作用薬又は阻害剤の投与により、局所的に起きたり、又は全身的に起き得る。
【0161】
好ましくは、少なくとも1つのエフェクタT細胞機能の阻害が、免疫細胞のウィルス感染においても、治療上重要であるとよい。例えば、後天性免疫不全症候群(AIDS)の場合、ウィルスの複製が免疫細胞活性化により刺激される。エフェクタT細胞機能を阻害すると、ウィルス複製が阻害されることで、AIDSの経過が改善するであろう。
【0162】
Tエフェクタ細胞を上方調節することは治療においても有用である。少なくとも1つのTエフェクタ活性の上方調節は、既存の免疫応答を高めたり、又は、最初の免疫応答を惹起する上で、有用であろう。例えば、好ましくは、エフェクタT細胞内で本発明の分子を刺激する作用薬を用いて少なくとも1つのTエフェクタ細胞活性を増加させることは、例えば細菌、ウィルス、又は寄生生物など、微生物感染の場合に有用である。これらには、このような作用薬を皮膚に局所的に送達することができる疱疹又は帯状疱疹などのウィルス性皮膚疾患が含まれよう。加えて、インフルエンザ、通常の風邪、及び脳炎などの全身性ウィルス性疾患は、このような作用薬を全身投与することにより、軽減されるであろう。別の実施態様では、T制御性細胞に関連する本発明の少なくとも1つの分子の発現及び/又は活性を下方調節することができる。
【0163】
ウィルスなどの病原体に対する免疫性は、ウィルスタンパク質を、エフェクタT細胞機能を活性化する作用薬と一緒に適当なアジュバントに入れたものでワクチン接種することにより、誘導することができる。核酸ワクチンは、例えば注射など、多種の手段により投与することができる(例えばDNAで被覆された金粒子を表皮に、粒子加速器又は加圧ガスを用いる遺伝子ガンで筋肉内、皮内、又はバイオリスティック(原語:biolistic)注射して、皮膚内にこの粒子を注入するなど) (Haynes et al. 1996. J. Biotechnol. 44:37))。代替的には、核酸ワクチンを非侵襲的手段により投与することができる。例えば、純粋な又は脂質調合されたDNAを呼吸系又は標的決定された他の箇所に、例えばDNAの経口送達によるPeyersパッチ
(Schubbert. 1997. Proc. Natl.
Acad. Sci. USA 94:961)で送達することができる。弱毒化した微生物を、粘膜表面への送達に用いることができる。 (Sizemore et
al. (1995) Science. 270:29)。ワクチンが有用であろう病原体には、B型肝炎、C型肝炎、エプスタイン−バー・ウィルス、サイトメガロウィルス、HIV-1、HIV-2、結核、マラリア及び住血吸虫症、がある。
【0164】
別の用途では、少なくとも1つのエフェクタT細胞機能の選択的な上方調節又は促進が、腫瘍免疫性の誘導において有用である。別の実施態様では、免疫応答を、活性化シグナルの伝達により、刺激することができる。例えば、腫瘍特異抗原などの自己由来抗原など、対象が有意な免疫応答を生じられない抗原に対する免疫応答をこの方法で誘導することができる。
【0165】
本発明は、少なくとも1つのエフェクタT細胞機能を選択的に調節しつつ、T調節性応答にはほとんど作用を与えないと、そして逆を行うと、有益であるような異常の危険性がある(又は易罹患性の)対象、あるいは、そのような疾患、異常又は状態を有する対象を、治療する予防的及び治療的の両方の方法を提供するものである。予防薬の投与は症状の発現前に行って、疾患又は異常が防がれるか、又はその進行が遅らされるようにすることができる。
【0166】
これらの作用薬はin
vitroで(例えば細胞を作用薬に接触させるなどにより)投与することも、あるいは選択的にはin vivoで(例えば作用薬を対象に投与するなどにより)投与することもできる。従って、本発明は、Tエフェクタ細胞又は制御性T細胞の上方もしくは下方調節を、他方のサブセットには作用せずに行うと有益であろう疾患又は異常に罹患した個体を治療する方法を提供するものである。
【0167】
本発明の調節性作用薬は、単独で投与することも、又は、1つ以上の付加的な作用薬と組み合わせて投与することもできる。例えば、ある実施態様では、ここで解説された2つの作用薬を対象に投与することができる。別の実施態様では、ここで解説された作用薬を他の免疫調節性作用薬と組み合わせて投与することができる。他の免疫調節性試薬の例には、(例えばCD28、ICOSに対する)共刺激シグナルを遮断する抗体、CTLA4を介して阻害シグナルを活性化する抗体、及び/又は、(例えばCD40、CD40
リガンド、又はサイトカインに対する)他の免疫細胞マーカに対する抗体、融合タンパク質(例えばCTLA4-Fc、PD-1-Fc)、及び免疫抑制剤(例えばラパマイシン、シクロスポリンA 又はFK506)、がある。いくつかの場合、免疫応答を惹起又は増強するために、例えばT細胞活性化シグナルを送達する作用薬など、免疫応答を上方調節する他の作用薬をさらに投与することが好ましいであろう。
【0168】
現在の免疫抑制剤とは異なり、ここで解説したような作用薬又は阻害剤は、恒常性による免疫調節機序の発生を促進することから、不要な免疫応答を制御するためには、長期間の治療ではなく短期間投与(例えば数週間から数ヶ月の期間)を要するであろう。本作用薬又は阻害剤による、あるいは一般的な免疫抑制剤による長期の治療は、対象が、当該の状態に関連する抗原(例えばドナー抗原、自己抗原)に対して強固な制御性T細胞応答を生じるために不要である。結果的な免疫調節が天然のT細胞機序により媒介されるため、いったんドミナント制御性T細胞応答が確立されれば、免疫調節を維持するためにも薬物は必要ではないであろう。免疫抑制剤による一生涯にわたる治療をなくせば、自己免疫治療及び臓器移植に現在伴う副作用を、すべてではないにしてもその多くを、無くすことができるであろう。
【0169】
ある実施態様では、感染患者における免疫応答は、この患者から免疫細胞を取り出し、免疫細胞をin vitroで、エフェクタT細胞機能を活性化する作用薬に接触させ、このin vitroで刺激された免疫細胞を患者に再導入することにより、促進することができる。
【0170】
VIII. 医薬組成物
ここで解説したような阻害性もしくは刺激性の作用薬などの調節性作用薬を、投与に適した医薬組成物に導入することができる。このような組成物は、典型的に、本作用薬と、薬学的に許容可能な担体とを含む。ここで用いる言語「薬学的に許容可能な担体」には、薬剤投与に適合性あるあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤及び抗カビ剤、等張剤及び吸収遅延剤等が含まれる。このような媒質及び薬剤の、薬学的に活性な物質のための使用は当業で公知である。従来の媒質又は薬剤が当該活性化合物にとって不適合でない限り、当該組成物中のその使用は考察されたところである。補助的な活性化合物も、本組成物中に組み込むことができる。
【0171】
本発明の医薬組成物は、それに意図された投与経路に適合性あるように調合される。投与経路の例には、非経口、例えば静脈内、皮内、皮下、経口(例えば吸入)、経皮(局所)、経粘膜及び直腸投与がある。非経口、皮内、又は皮下適用に用いられる溶液又は懸濁液には、以下の成分を含めることができる:無菌の希釈剤、例えば注射用の水、生理食塩水溶液、非揮発性の油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール又は他の合成溶媒;抗菌剤、例えばベンジルアルコール又はメチルパラベン;抗酸化剤、例えばアスコルビン酸又は亜硫酸水素ナトリウム;キレート剤、例えばエチレンジアミン四酢酸;緩衝剤、例えば酢酸塩、クエン酸塩又はリン酸塩、及び塩化ナトリウム又はデキストロースなどの張性を調節するための薬剤。pHは、塩酸又は水酸化ナトリウムなどの酸又は塩基で調節することができる。非経口用の製剤は、ガラス製又はプラスチック製のアンプル、使い捨てシリンジ又は多人数用バイアルに封入することができる。
【0172】
注射用用途に適した医薬組成物には、無菌の水溶液(水溶性の場合)又は分散液や、無菌の注射用溶液又は分散液の即時調製用の無菌粉末がある。静脈内投与の場合、適した担体には、生理食塩水、静菌水、Cremophor ELTM(ニュージャージー州パーシパニー、BASF社)又はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)がある。いずれの場合も、組成物は無菌でなければならず、また注射筒への注入が容易な程度に流動性でなければならない。またそれは製造及び保管条件下で安定でなければならず、細菌及びカビなどの微生物の汚染作用から保護されていなければならない。当該の担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコール等)、及びこれらの適した混合物などを含有する溶媒又は分散媒であってよい。適正な流動性は、例えばレシチンなどのコーティングを用いたり、分散液の場合には必要な粒子の大きさを維持したり、そして界面活性剤を使用するなどにより、維持できる。多くの場合、例えば糖類、マンニトール、ソルビトールなどの多価アルコール、及び塩化ナトリウムなどの等張剤を組成物中に含めることが好ましい。注射用組成物の吸収を長引かせるには、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンなど、吸収を遅らせる薬剤を組成物中に含めることにより、可能である。微生物の活動を抑えるには、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサール等の多種の抗菌剤及び抗カビ剤により、可能である。多くの場合、糖類、マンニトールなどの多価アルコール、ソルビトール、及び塩化ナトリウムなどの等張剤を組成物に含めることが好ましい。注射用組成物の吸収を長引かせるには、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンなど、吸収を遅らせる薬剤を組成物中に含めることにより、可能である。
【0173】
無菌の注射用溶液は、必要量の活性化合物を適した溶媒に、必要に応じて上に列挙した成分の1つ又は組み合わせと一緒に 加えた後、濾過滅菌を行うことにより、調製できる。分散液は一般的には、塩基性の分散媒と、上に列挙したものの中で必要な他の成分とを含有する無菌の賦形剤に当該活性化合物を取り入れることで、調製されている。無菌の注射用溶液の調製用の無菌粉末の場合、好適な調製法は真空乾燥及び凍結乾燥であり、その結果、活性成分及び付加的な所望の成分の粉末が、予め殺菌濾過されたその溶液から生じる。
【0174】
経口用組成物は、一般に、不活性の希釈剤又は食用の担体を含む。これらをゼラチン・カプセルに封入することも、又は圧縮して錠剤にすることも可能である。経口による治療的投与の目的のためには、活性化合物を医薬品添加物と一緒に導入することができ、錠剤、トローチ、又はカプセルの形で用いることができる。経口用組成物は、さらに、口内洗浄剤として用いるために流動性の担体を用いて調製でき、この場合、当該の流動性の担体中の化合物は経口により用いられ、さっと口に入れ、喀出されるか又は飲み込まれる。薬学的に適合性ある結合剤、及び/又は、アジュバント材料を組成物の一部として含めることができる。錠剤、丸剤、カプセル、トローチ等には以下の成分、又は同様の性質の化合物のうちのいずれかを含めることができる:微結晶セルロース、トラガカントゴム又はゼラチンなどの結合剤;でんぷん又はラクトースなどの医薬品添加物、アルギン酸、Primogel、又はコーンスターチなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム又はSterotesなどの潤滑剤;コロイド状二酸化珪素などの推進剤;ショ糖又はサッカリンなどの甘味料;又はペパーミント、サリチル酸メチル、又はオレンジ着香料などの着香料。
【0175】
吸入による投与の場合、本化合物を、例えば二酸化炭素などのガスなど、適した推進剤を含有する加圧式の容器又はディスペンサ、あるいはネブライザからのエーロゾル噴霧の形で送達する。
【0176】
全身投与は、経粘膜又は経皮手段によってもよい。経粘膜又は経皮投与の場合、透過させようとする障壁に適した浸透剤を調合物中に用いる。このような浸透剤は当業で広く公知であり、その中には、例えば、経粘膜投与の場合、界面活性剤、胆汁酸塩、及びフシジン酸誘導体がある。経粘膜投与は、鼻孔用スプレー又は座薬を用いて行うことができる。経皮投与の場合、当該の活性化合物を軟膏、軟膏剤、ゲル、又はクリームに当業で広く公知のように調合する。
【0177】
さらに本化合物を座薬(例えばココアバター及び他のグリセリドなどの従来の座薬用基材と一緒に)又は直腸送達用の停留浣腸剤の形で調製することもできる。
【0178】
ある実施態様では、調節性作用薬を、インプラント及びマイクロ封入送達系を含め、制御放出調合物などとして、身体から化合物が急速に失われないように保護する担体と一緒に調製する。酢酸エチレンビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、及びポリ乳酸などの生分解性で生体適合性あるポリマを用いることができる。このような調合物の調製法は当業者には明白なはずである。さらに当該の材料はアルザ・コーポレーション及びノヴァ・ファーマシューティカルズ社から市販のものを入手できる。リポソーム懸濁液も、薬学的に許容可能な担体として用いることができる。これらは、例えば米国特許第4,522,811号に解説された通りに、当業者に公知の方法に従って調製することができる。
【0179】
投与の容易さ及び投薬量の均一性のためには、経口用又は非経口用組成物を単位剤形で調合することが特に有利である。ここで用いる単位剤形とは、治療しようとする対象にとって単位型の投薬量として調整された物理的に別個の単位を言う。各単位は、必要な薬品用担体との関連から所望の治療効果を生ずるよう計算された所定量の活性化合物を含有する。本発明の単位剤形の詳細は、活性化合物の固有の特徴、及び、達成しようとする特定の治療効果、及び(b)このような活性化合物を、個体の治療に向けて配合する技術に内在する限界、によって決定され、またこれらに直接依存する。
【0180】
このような化合物の毒性及び治療上の効験は、例えばLD50(集団の50%にとって致命的な用量)及びED50(集団の50%において治療上有効な用量)を判定するためなど、細胞培養又は実験動物における標準的薬学的手法により決定することができる。毒性及び治療上の効果の間の用量比が治療指数であり、それは比LD50/ED50で表すことができる。大きな治療指数を示す化合物が好ましい。毒性の副作用を示す化合物を用いることもできるが、非罹患細胞への潜在的損傷を抑え、ひいては副作用を減らすためには、罹患組織の部位にこのような化合物を標的決定する送達系をデザインするように注意が必要である。
【0181】
細胞培養アッセイ及び動物実験で得たデータを、ヒトで用いる投薬量範囲を処方する際に用いることができる。このような化合物の投薬量は、好ましくは、毒性が少ないか、又は全くないような、ED50を含む血中濃度範囲内であるとよい。投薬量は、用いる投薬量及び用いる投与経路に応じてこの範囲内で様々であろう。本発明の方法において用いられるいずれの化合物でも、治療上の有効量はまず細胞培養アッセイから推定することができる。細胞培養で判定された通りのIC50(即ち、症状の半分−最大の阻害を達成する検査化合物の濃度)を含む循環血漿濃度範囲を達成するために動物モデルで用量を調合することができる。このような情報は、ヒトで有用な用量をより精確に決定するために用いることができる。血漿中レベルは、例えば高速液体クロマトグラフィで測定することができる。
【0182】
本医薬組成物は、容器、パック、又はディスペンサ内に、投与に関する指示と一緒に含めることができる。
【0183】
IX. 調節性作用薬の投与
本発明の調節性作用薬は、in vivoでの薬剤投与に適した生物学的適合形で対象に投与される。「in vivo投与に適した生物学的適合形」とは、いずれかの毒性効果よりも当該作用薬の治療的効果の方が大きいような、投与される作用薬の形であると意図されている。
【0184】
本発明の治療用組成物の治療上の有効量の投与とは、所望の結果を達成するために必要な投薬量及び期間で有効な量であると定義しておく。例えば作用薬の治療上有効量は、個体の疾患の状態、年齢、性別、及び体重といった因子や、当該個体で所望の応答を惹起する上での作用薬の能力に応じて様々であろう。投薬養生法は、最適な治療的応答が得られるように調節することができる。例えば、複数に分割した用量を毎日投与することも、あるいは、治療の状態の緊急度を指標として用量を比率的に減らすこともできる。
【0185】
当該の作用薬は、注射(皮下、静脈内等)、経口投与、吸入、経皮投与、又は直腸投与などの便利な方法で投与することができる。投与経路に応じ、当該化合物を失活させかねない酵素、酸及び他の天然条件の作用から当該化合物を保護する物質で被覆することができる。例えば、非経口投与以外により本作用薬を投与するには、本作用薬を、その失活から保護する物質で被覆又は同時投与することが好ましいであろう。
【0186】
作用薬を、酵素阻害剤と一緒に、又はリポソームなどの適した担体に入れて同時投与することができる。薬学的に許容可能な希釈剤には、生理食塩水及び水性の緩衝液がある。アジュバントは、その最も広い意味で用いられ、インターフェロンなどの免疫刺激性化合物を包含する。ここで考察されるアジュバントには、レゾルシノール、ポリオキシエチレンオレイルエーテル及びn-ヘキサデシルポリエチレンエーテルなどの非イオン性界面活性剤がある。酵素阻害剤には、膵臓トリプシン阻害剤、ジイソプロピルフルオロホスフェート(DEEP)及びトラジロールがある。リポソームには、水中油中乳濁液や、従来のリポソームがある (Sterna et al. (1984) J.
Neuroimmunol. 7:27)。
【0187】
さらに有効化合物を非経口又は腹腔内投与してもよい。分散液をグリセロール、液体ポリエチレングリコール、及びこれらの混合物に入れたり、油脂類に入れて調製することもできる。普通の保管及び使用条件下では、これらの製剤は、微生物の成長を防ぐ保存剤を含有していてもよい。
【0188】
上述したように、活性化合物が適宜保護されていれば、本作用薬を、例えば不活性の希釈剤又は同和可能な食用担体などと一緒に経口投与することができる。ここで用いる「薬学的に許容可能な担体」には、薬剤投与に適合性あるあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤及び抗カビ剤、等張剤及び吸収遅延剤等が含まれる。このような媒質及び薬剤の、薬学的に活性な物質のための使用は当業で公知である。従来の媒質又は薬剤が当該活性化合物にとって不適合でない限り、治療用組成物中へのその使用は考察されたところである。補助的な活性化合物も、本組成物中に組み込むことができる。
【0189】
以下の実施例により本発明をさらに解説するが、以下の実施例を限定的なものと捉えられてはならない。本出願全体を通じて引用された全参考文献、特許及び公開済み特許出願の内容や図面を、引用をもってここに援用することとする。
【実施例1】
【0190】
実施例
実施例1:Tエフェクタ細胞又はT制御性細胞で選択的に発現する遺伝子の、AffymetrixTM遺伝子チップを用いた同定
方法
T細胞株の培養
分化細胞株を、ヒト臍帯血又は末梢血CD4+CD45RA+非刺激T細胞から、フローサイトメトリ及び磁気ビーズ分離法を含む多種の方法により調製された細胞から作製した。開始集団の純度は>95%だった。次に細胞を、10%FCS及び1%ヒトAB血清と、サイトカイン及び抗サイトカイン中和化抗体との規定された混合液を含むCD3 及びCD28抗体のRPMI
1640 溶液で刺激して、分化細胞種を作製した。Th1細胞をIL12(62U/ml) 及び抗IL4(0.2ug/ml)との培養で産生させ;Th2細胞を、IL4(145U/ml) 及び抗IL12(10ug/ml) 及び抗IFNγ(10ug/ml)中での培養で産生させ;そして制御性T細胞をTGFβ(32U/ml)、IL9(42U/ml)、抗IL4(10ug/ml)及び抗IL12(10ug/ml)及び抗IFNγ(10ug/ml)中での培養で産生させた。(注:抗IL12はすべての実験で用いられた訳ではない)。培養物すべてに、IL2 (65U/ml) 及びIL15
(4500U/ml)を添加した。細胞を、細胞分裂で可能な場合に、より大型の培養皿に分け取った。一回目の細胞分化(7乃至12日目)の終わりに、細胞を採集して、遺伝子チップ実験で用いる全RNAの調製に向けた。
【0191】
AffymetrixTM遺伝子チップ実験
各細胞種からのRNAをQiagenTM RNeasyキットをメーカの解説通りに用いて調製した。高品質の全RNAを各細胞種から単離後、このRNAをビオチン標識し、AffymetrixTMが推奨する通りにAffymetrixTM遺伝子チップで用いるためにフラグメント化した。簡単に説明すると、SuperscriptTM II ポリメラーゼ及びT7
プライマを用いてRNAのコピーをcDNAに写し取った。次にその相補鎖をE. coli DNA ポリメラーゼIを用いて合成した。その産物であるdsDNAをフェノール/クロロホルム抽出し、エタノール沈殿させた。次に、ビオチン化ヌクレオチドを用いたin vitro転写を行って増幅し、このRNAを、ENZOTMバイオアレイ高収率 RNA転写産物標識キットを用いて標識した。この標識済み産物を、Qiagen RNeasy キットに解説された清浄法を用いて清浄した。標識済みRNAを、200mM
Trisアセテート、500mM 酢酸カリウム及び150mM酢酸マグネシウム中でのインキュベーションでフラグメント化し、推奨された量をAffymetrixTM Hu133 遺伝子アレイのチップA及びBに付着させた。AffymetrixTM チップをメーカの推奨通りにハイブリダイズさせ、AffymetrixTM 自動化チップ洗浄器中で推奨された通りに洗浄した。ビオチン化したRNAフラグメントを洗浄及び蛍光色素で標識した後、チップをAffymetrixTMチップ読み取り器で読み取った。合計ほぼ34,000個のヒト遺伝子を表す各細胞種及び各チップの全プローブ・セットを、チップのセンス及び非センス部分上の蛍光シグナルの統計学的解析に基づき、AffymetrixTM Microarray Suite
ソフトウェアを用いて「有り」又は「無し」で採点した。これらの「有り」及び「無し」には、各プローブセットが、シグナル強度と一緒に Microsoft(登録商標) Access データベースに盛り込まれることが必要である。クエリーを用いて、各細胞種に関して「有り」と採点されたすべての遺伝子のデータファイルを作製した。すべての細胞種について「有り」と採点された遺伝子を、クエリーを用いた更なる研究から取り除いた。細胞種に固有の遺伝子のデータファイルをクエリーを用いて作製して、Th1、Th2
又は制御性T細胞上で「有り」のみと採点された遺伝子を選抜した。加えて、エフェクタ(Th1及びTh2)細胞中にのみ存在し、制御性T細胞には存在しないか、あるいは制御性T細胞にのみ存在し、エフェクタT細胞には存在しない遺伝子のデータファイルも作製した。
【0192】
これらの遺伝子リストを調べたところ、エフェクタT細胞を特異的に標的決定し、制御性T細胞には少ししか作用しないか、もしくは全く作用しない、あるいはその反対の化合物の同定及び開発に有用であろう分子をコードする数多くの遺伝子が同定された。これらのリストをさらに調べたところ、本発明の調節性作用薬として有用であり、またスクリーニングアッセイ法を通じた更なる調節性作用薬の同定に有用な分子をコードする数多くの遺伝子が同定された。制御性T細胞よりもエフェクタT細胞で選択的に発現する遺伝子の中に、表1にリストされた遺伝子があるが、これに見られるものに限らない。エフェクタT細胞よりも制御性T細胞で選択的に発現する遺伝子の中に、表2にリストされた遺伝子があるが、これに見られるものに限らない。
【実施例2】
【0193】
実施例2: 活性化ヒト末梢血リンパ球(PBL)の転写因子発現に対するTGBβ1の作用
本実施例では、抗CD3/抗CD28で刺激されたPBLにおけるTbox
21、GATA3及びFOXP3の発現の発現レベルに対するTGFβ1の作用を解説する。リアルタイムPCRを用いてTGFβ1の存在下及び欠如下で転写因子mRNAのレベルを定量した。
【0194】
PBLを72時間、抗CD3/抗CD28で、TGFβ1の存在下及び欠如下で刺激し、全RNAをQiganRNeasy ミニ・キットをメーカの指示に従って用いて抽出した。RNAをマイナス80℃で保存した。
【0195】
cDNAは、RNAから、メーカの指示に従ってアプライド・バイオシステムズ高能力cDNA Archive Kitを用いて調製された。
【0196】
1μgのcDNAをアプライド・バイオシステムズAssays-on-DemandTM遺伝子発現プロダクツ(即ちマーカ特異的プライマを含むTaqMan Universal PCR Mastermix 及びAssay-on-Demand
溶液)を以下のプロトコルに従い、メーカの指示に従って増幅した。FOXP3、GATA3及びTbox21のプローブ・プライマ試薬はアプライド・バイオシステムズ社から Assay on Demand プログラムを通じて入手された。
【0197】
QPCR反応については、2.5μlのAssay
on Demand 試薬(アプライド・バイオシステムズ社)を25μlのTaqMan
Master MixTMに加え、試料を無RNAse水で総体積50μlにした。PCR反応は以下の条件下で行わせた:50℃で1分間、95℃で10分間、及び、40サイクルの95℃を15秒間 に続き60℃を1分間。18sRNA 又はβ-アクチンを各アッセイで対照として行わせた;2.5μlのプライマ/プローブ・ミックス、25μlのTaqMan
MasterMixTM、22.5μlの無RNAse水。反応物をアプライド・バイオシステムズQPCR装置(即ち、ABI プログラム7000
SDS 配列検出システム)を用いて検出した。TGFβ1で処理された及び処理していない刺激されたPBLの両方の転写因子の相対的発現を判定した。データを図1に提供する。相対的発現を、サイトカイン添加のない状態の被刺激PBL中の転写因子mRNAのレベルを100%と想定して計算した。
【0198】
図1に示すように、TGFβ1はFOXP3発現を未処理対照に比較してほぼ2.5倍に上方調節し、GATA3を未処理対照に比較してほぼ2倍に上方調節する。
【実施例3】
【0199】
実施例3: 活性化ヒトPBLの転写因子発現に対するプロスタグランジンE1/E2受容体のアンタゴニストであるAH6809の作用
本実施例では、抗CD3/抗CD29で刺激したPBL中の転写因子TBX
21、GATA3及びFOXP3の発現レベルに対するプロスタグランジンE1/E2受容体のアンタゴニストであるAH6809の作用を解説する。
【0200】
リアルタイムPCRを用いて、AH6809の存在下及び欠如下における転写因子mRNAのレベルを定量した。
【0201】
細胞、RNA及びcDNAを実施例2で解説した通りに調製したが、例外として細胞は、 0.1μM、1.0μM及び10μMのAH6809の存在下で、又は0.1%
DMSOの存在下(対照)で成長させた。QPCRは実施例2で解説した通りに行われ、AH6809の各濃度での転写因子の相対的発現を判定した。データは図2A、2B及び2Cに表されている。相対的発現を、DMSOの存在下での被刺激PBL中の転写因子mRNAのレベルを100%と想定して計算した。
【0202】
図2Aは、AH6809の存在下では、FOXP3発現の増加に向かう傾向を、0.1μMのAH6809で処理した細胞に見られる相対的最大発現で示す。図2Bは、AH6809は0.1μMなどでTbox21の発現を調節でき、Tbox21のAH6809発現は、未処理対照に比較して増加しており、10μMのAH6809では減少していることを示し、図2Cは、GATA3が、検査したAH6809のすべての濃度で変化が無かったことを実証するものである。
【実施例4】
【0203】
実施例4: 活性化ヒトPBLの転写因子発現に対するヒスタミンH3及びH4受容体のアンタゴニストであるチオペルアミドの作用
本実施例では、抗CD3/抗CD28刺激PBLにおける転写因子TBX21、GATA3及びFOXP3の発現レベルに対するヒスタミンH3及びH4受容体のアンタゴニストであるチオペルアミドの作用を解説する。
【0204】
リアルタイムPCRを用いて、チオペルアミドの存在下及び欠如下での転写因子mRNAのレベルを定量した。
【0205】
細胞、RNA及びcDNAを、実施例2で解説した通りに調製したが、例外として細胞は0.1μM、1.0μM及び10μMのチオペルアミド又は0.1%のDMSO(対照)の存在下で成長させた。QPCRを実施例2で解説した通りに行い、各濃度のチオペルアミドの転写因子の相対的発現を判定した。データを図3A、3B及び3Cで提供する。相対的発現は、チオペルアミドの欠如下での被刺激PBL中の転写因子mRNAのレベルを100%と想定して計算された。
【0206】
図3A及び3Cは、10μMのチオペルアミドでは、FOXOP3及びGATA3発現に中程度の増加があったことを示す。図3Bは、TBX21は、検査したチオペルアミドのすべての濃度で相対的に変化しなかったことを示す。
【実施例5】
【0207】
実施例5: 分化細胞種(Th1、Th2及びTGFB1由来Treg細胞)におけるサイトカイン産生に対するヒスタミンH3及びH4受容体のアンタゴニストであるチオペルアミドの作用
この実施例では、 分化T細胞、具体的にはTh1、Th2及びTGFβ1由来Treg細胞における公知のサイトカインの産生に対するチオペルアミドの作用を解説する。
分化細胞は、実施例1で解説した通りに調製された。多様な濃度(0.1μM、1.0μM及び10μM)のチオペルアミドをプレーティング時に加えた。一回目の細胞分化の終わり(7乃至12日目)に、細胞をサイトカインIL-2、IL-4、IL-5、IL-10、IL-12-p70、IL-13、IFN-γ、TNF-アルファ、及びTGFβ1の産生について、ピアース・バイオテクノロジー社から市販の化学発光酵素結合免疫吸着アッセイ法(ELISA)によりメーカの指示に従って、Searchlight (登録商標)技術によりアッセイした。
【0208】
これらの実験の結果を図4A、4B、及び4Cに示す。データは、チオペルアミドの欠如下で被刺激分化細胞中のサイトカイン産生のレベルを100%と想定して、対照(未処理)のパーセントで作表されている。
【0209】
図4Aは、チオペルアミドはTh1細胞によるIFN-ガンマ及びTNF-アルファの産生を有意に誘導することができるが、IL-13の産生は有意に減少させることができることを実証するものである。図4Bは、チオペルアミドがTh2 細胞中でのIL-4、IL-5、IL-13の産生を有意に増加させ、IL-10の産生を有意に減少させることを実証している。図4Cに示すように、Treg細胞では、チオペルアミドは、IL-2、IL-10、IFN-ガンマ、及びTGFβ1の産生を有意に増加させたが、チオペルアミドは、IL-4の産生を有意に減少させた。
【実施例6】
【0210】
実施例6: 活性化ヒトPBLにおける転写因子発現に対するセロトニンの作用
本実施例では、抗CD3/抗CD28被刺激PBLにおける転写因子TBX21、GATA3及びFOXP3の発現レベルに対するセロトニンの作用を解説する。
【0211】
リアルタイムPCRを用いて、セロトニンの存在下及び欠如下における転写因子mRNAのレベルを定量した。
【0212】
細胞、RNA及びcDNAを、実施例2で解説した通りに調製したが、例外として細胞は1.0μM、10.0μM及び100μMのセロトニンの存在下又はセロトニンの欠如下で成長させた。QPCRを実施例2で解説した通りに行い、各濃度のセロトニンの転写因子の相対的発現を判定した。データを図5A、5B及び5Cで提供する。相対的発現は、セロトニンの欠如下での被刺激PBL中の転写因子mRNAのレベルを100%と想定して計算された。
【0213】
セロトニンは、未処理の対照に比較して各転写因子の発現を増加させることができた。各転写因子はセロトニンにより誘導されたが、様々なレベルのセロトニンは、個々の転写因子のレベルに対して様々な作用を有していた。例えば、FOXP3は、10.0μM及び1.0μMのセロトニンでは最大に発現し、他方、Tbox 21は、1.0μMで最大に誘導され、そしてGATA3は10.0μMのセロトニンで最大に誘導された。
【実施例7】
【0214】
実施例7: 分化細胞種の増殖に対するセロトニンの作用
本実施例では、多様な濃度のセロトニンが、多様なT細胞種、具体的にはTh1、Th2及びTGFβ1由来Treg細胞の増殖に及ぼす作用を解説する。
【0215】
分化細胞種を実施例1で解説したように調製してから、抗CD3及び抗CD28の存在下で7日間、培養した。次に細胞を抗CD3及び抗CD28で、1、10及び100μMのセロトニンを添加して3日間、再刺激し終えた時点で細胞を計数し、データを対照(未処理細胞)のパーセントでプロットした。
【0216】
図6は、セロトニンが、検査した各濃度において、未処理の対照細胞に比較してTh2細胞の増殖を50%、増加させ、Th1及びTreg細胞には何の増殖効果もなかったことを示す。
【実施例8】
【0217】
実施例8: 分化細胞種(Th1、Th2及びTGFβ1由来Treg細胞)におけるサイトカイン産生に対するセロトニンの作用
本実施例では、分化T細胞、具体的にはTh1、Th2及びTGFβ1由来Treg細胞における公知のサイトカインの産生に対するセロトニンの作用を解説する。
【0218】
分化細胞を実施例1で解説した通りに調製した。多様な濃度(1.0μM、10.0μM及び100μM)のセロトニンをプレーティングの時点で加えた。一回目の細胞分化の終わり(7乃至12日目)に、細胞をサイトカインIL-2、IL-4、IL-5、IL-10、IL-12-p70、IL-13、IFN-γ、TNF-α、及びTGFβ1の産生について、実施例5で解説したELISAにより、アッセイした。
【0219】
これらの実験の結果を図7A、7B、及び7Cに示す。データを、セロトニンの欠如下における被刺激PBL中のサイトカインの産生のレベルを100%と想定して対照(未処理)のパーセントとして作表した。
【0220】
図7Aは、セロトニンが、Th1細胞におけるIL-2、IL-10、IL-12 IFN-ガンマ、及びTNF-アルファの産生を有意に減少させたことを実証するものである。セロトニンはTh2細胞でIL-4、IL-5及びIL-13
の産生を有意に減少させ、IL10 産生(図7B)には何の作用もなく、そして図7Cに示すように、セロトニンは、TGFβ1由来Treg細胞においてIL-2、IFN-ガンマ及びTGFβ1の産生を有意に減少させた。
【実施例9】
【0221】
実施例9: 活性化ヒトPBLにおける転写因子発現に対するPDE4阻害剤であるロリプラム、及びPDE4D阻害剤であるザルダベリンの作用
本実施例では、抗CD3/抗CD28被刺激PBLにおける転写因子Tbox21、GATA3及びFOXP3の発現レベルに対するPDE4阻害剤であるロリプラム、及びPDE4D阻害剤であるザルダベリンの作用を解説する。
【0222】
実施例2に解説した通りのリアルタイムPCRを用いて、ロリプラム及びザルダベリンの存在下及び欠如下における転写因子mRNAのレベルを定量した。
【0223】
細胞、RNA及びcDNAを、実施例2で解説した通りに調製したが、例外として細胞は0.1μM、1.0μM、及び10μMのロリプラムの存在下、又は0.1%のDMSO(対照)の存在下か、あるいは、0.1μM、1.0μM、及び10.0μMのザルダベリンの存在下、又は0.1%のDMSO(対照)の存在下か、又はセロトニンの欠如下で成長させた。QPCRを実施例2で解説した通りに行い、各濃度のロリプラム(図8A、8b、及び8C)又はザルダベリン(図9A、9B、及び9C)の転写因子の相対的発現を判定した。相対的発現は、DMSOのみの存在下での被刺激PBL中の転写因子mRNAのレベルを100%と想定して計算された。
【0224】
ロリプラム又はザルダベリンによる処理の結果、FOXOP3及びGATA3 (図8A、8C、9A、及び9C)の発現が増加したが、これらの阻害剤のいずれも、Tbox21の転写に対して中程度の作用以上の作用は及ぼさなかった(図8B及び9B)。
【実施例10】
【0225】
実施例10: 分化細胞種の増殖に対するPDE4阻害剤であるロリプラム及びPDE4D阻害剤であるザルダベリンの作用
本実施例では、多種のT細胞種、具体的にはTh1、Th2及びTGFβ1由来Treg細胞の増殖に対する多様な濃度のPDE4阻害剤であるロリプラム及びPDE4D阻害剤であるザルダベリンの作用を解説する。
【0226】
分化細胞種を実施例1で解説した通りに調製した後、抗CD3及び抗CD28の存在下で7日間、培養した。次に細胞を抗CD3及び抗CD28(実施例7で解説した通り)で、0.1μM、1.0μM及び10μMのロリプラム又はザルダベリンを添加して3日間、再刺激し終えた時点で、細胞を計数し、データを対照のパーセントとして作表した(未処理細胞)。
【0227】
図10A及び10Bは、ロリプラム及びザルダベリンの両方とも、Th1、Th2及びTGFβ1由来Treg細胞の増殖を減少させられたことと共に、TGFβ1由来Treg細胞の増殖は、より強く作用を受けたことを示している。
【実施例11】
【0228】
実施例11: 分化細胞種(Th1、Th2及びTGFβ1由来Treg細胞)におけるサイトカイン産生に対するPDE4阻害剤であるロリプラム及びPDE4D阻害剤であるザルダベリンの作用
本実施例では、分化T細胞、具体的にはTh1、Th2及びTGFβ1由来Treg細胞における公知のサイトカインの産生に対するPDE4阻害剤であるロリプラム及びPDE4D阻害剤であるザルダベリンの作用を解説する。
【0229】
分化細胞を実施例1で解説した通りに調製した。多様な濃度(0.1μM、1.0μM及び10.0μM)のロリプラム又はザルダベリンをプレーティング時に加えた。一回目の細胞分化(7−12日目)の終わりに、細胞をサイトカインIL-2、IL-4、IL-5、IL-10、IL-12-p70、IL-13、IFN-γ、TNFα、及びTGFβ1の産生について実施例5で解説した通りにELISAでアッセイした。
【0230】
サイトカイン産生に対するロリプラムの作用の結果を図11A、11B、及び11Cに示し、サイトカイン産生に対するザルダベリンの作用の結果を図12A、12B、及び12Cに示す。データは、ロリプラム又はザルダベリンの欠如下の被刺激PBL中のサイトカイン産生のレベルを100%と想定して対照(未処理)のパーセントとして作表されている。
【0231】
図11Aは、ロリプラムが、Th1細胞におけるIL-10の産生を有意に減少させたことを示す。
【0232】
ロリプラムは、Th2細胞におけるIL-4、IL-5、IL-13(図11B);及びTGFβ1由来Treg細胞におけるTGFβ1の産生を有意に増加させた(図11C)。
【0233】
図12Aは、ザルダベリンがTh1細胞においてIL-10及びTNF-アルファ;Th2においてIL-10(図12B);及びTGFβ1由来Treg細胞においてIL-10(図12C)、の産生を減少させたことを示す。ザルダベリンは、Th1細胞においてIFN-ガンマ(図12A);Th2細胞においてIL-4、IL-5及びIL-13(図12B);及びTGFβ1由来Treg細胞においてIL-2及びTGFβ1(図12C)、の産生を増加させた。
【実施例12】
【0234】
実施例12: T細胞の分化に関与する顕性シグナリング経路の同定
本実施例では、限定はしないがエフェクタ及び制御性T細胞を含むT細胞サブセットの分化を命令することによる免疫寛容のモジュレータとしてのPI-3キナーゼ及びPI-3キナーゼ関連遺伝子と、それらのシグナリング経路の特定に関する。
【0235】
CD4+T細胞のいくつかの機能的サブタイプは、例えばTH1、TH2及びTreg細胞など、表現型で区別することができる。しかしながら、T細胞のこれら様々なサブタイプ内の多形質発現性T細胞活性化応答に対する各シグナリング経路の精確な寄与度を定義するためには、経路指向性治療法を開発する上で大きな課題がある。
【0236】
材料及び方法
細胞培養
臍帯血由来ヒトCD4+/CD45RA+を、AllCell、LLC(カタログ番号、CB02020-4F)から購入し、実施例1で解説した通りに分化T細胞(TH1、TH2及びTreg)を産生する条件下でin
vitroで分化させた。
【0237】
[3H]チミジン取り込みの評価
休止期の完全に分化したTH1、TH2及びTregを抗CD3及びCD28で被覆した96ウェル・プレート上に接種した。細胞(1ウェル当たり200,000個)を経路特異的阻害剤の存在下又は欠如下で48時間、成長させてから、[3H]チミジンを添加した。次に細胞を[3H]チミジン(0.5μCi/ウェル)と一緒にさらに17時間、インキュベートしてから採集した。[3H]チミジン取り込みを液体シンチレーション計数で判定した。
【0238】
ウェスタン・ブロット分析
TH1、TH2及びTreg細胞を、抗CD3及びCD28で被覆した6ウェル・プレート上に接種した。細胞(1ウェル当たり10×106)を経路特異的阻害剤の存在下又は欠如下で5分、15分及び30分間、37℃でインキュベートした。細胞は全細胞溶解緩衝液(50 mM Tris-HCl、pH7.2、0.15mM
NaCl、50 mM EDTA、10
mM Na3VO4、5mM PMSF、0.115
mM NaF 及び1 ug/ml アプロテニン)中に溶解させた。
【0239】
合計5乃至9μgの細胞ライセートタンパク質を4-20% SDS-PAGE上に泳動させ、該タンパク質をフッ化ポリビニリジン・メンブレン(マサチューセッツ州ベッドフォード、ミリポア社)上に移した。ブロットを、ホスホチロシン(4G10)に特異的な抗体でプローブした。メンブレンを剥がし、Lckに対する抗体で再ブロットした。タンパク質をECLシステム(パーキンエルマー)を用いて視覚化してから、メンブレンを2°抗体結合HRP(アマーシャム・ファルマシア・バイオテック)と一緒にインキュベートした。
【0240】
ウェスタン・ブロット定量
バンドの輝度をヒストグラム定量法で評価し、ODの変化か、又は、比として表した。いくつかの対照を泳動させて、充填したタンパク質量、グレースケール、及び検出の時点の両方について、検出の線形範囲を判定した。タンパク質チロシンリン酸化を、それぞれ図13A(1時間の露出)及び13B(4時間の露出)で表して、3時間目の付近で4.5-8μg内で検出した。
【0241】
結果
増殖: PI3-キナーゼ経路
PI3-キナーゼは、分化ヒトT細胞における増殖シグナルの媒介物質として同定されている。特異的PI-キナーゼ阻害剤LY294002の存在下で細胞をインキュベートすると、TH1、TH2及びTregへの[3H]チミジン取り込みが有意に減少した(図14A)。最も深遠な用量依存的効果はTreg下位集団で観察された。
【0242】
PI3-キナーゼの下流のエフェクタの1つはセリン/スレオニンキナーゼAKTである。AKT特異的阻害剤であるSH-6も、やはり[3H]チミジン取り込みに対するその効果について評価された。図14Bで実証するように、50μMは、分析した3つの細胞群全てで増殖を阻害したが、TH2群が最も影響を受けた。
【0243】
TCR活性化: PI3-キナーゼ経路
T細胞受容体(TCR)活性化に当たって、細胞内タンパク質のチロシンリン酸化を抗ホスホチロシン・ウェスタン・ブロット分析で分析した。スキャンニング・デンシトメトリを用いて、目的のバンドの見かけの分子量及び積分ODを判定した。
【0244】
図15に示すように、明瞭なチロシンリン酸化プロファイルが、休止期T細胞及び阻害剤処理細胞に比較して、ヒトTH1、TH2及びTregで観察された。
【0245】
主要なリン酸化バンドの同定
タンパク質バンドのいくつかを更に同定した。最初のリン−チロシン・ブロットを、抗Lck抗体でストリッピング及び再プローブすると、53kDaの見かけの分子量を持つバンドが、タンパク質チロシンキナーゼのSrcファミリであるLckとして、同定できた(図16)。
【0246】
CD4及びCD8とのLckの高度化学量論的結合は、T細胞におけるその機能にとって重要である。図17A、17B、及び17Cでは、TCR活性化から5(図17A)、15(図15(図17B)、及び30(図17C)分後のTH1、TH2及びTreg細胞内のLckタンパク質のチロシンリン酸化に関する積分OD値を比較する。Treg細胞内のLckのリン酸化の基礎レベルは、TH1又はTH2細胞でよりも有意に高かった。
【0247】
LY294002及びSH6は、Tregに関して15分目でのLckリン酸化の程度を有意に弱めた(図17B)。この阻害効果はTreg細胞に特異的だった。
【0248】
チロシンリン酸化の比較分析
図15に示すように、いくつかのタンパク質バンドは、リン酸化事象の主題である。更なる比較分析に関しては、見かけの分子量143、111、53、35、19及び15(kDa)のバンド3、4、6、11、14及び15を、活性化及び阻害のパターンを比較するために更なる分析(図18)のために選び出した。各バンドに関するデータを正規化し、TCRの完全活性化状態(+stim)(図19)で得られた、又は、阻害剤(それぞれ図20及び21)の存在下で得られた対照値に対する比で表した。提供するデータは、PI3-キナーゼ経路の重要性や、T細胞の各サブセットへのその様々なインプットを強調するものである。ほぼ同一の傾向が、PI-3キナーゼのAKT下流の阻害剤であるSH-6の存在下で観察された(図22)。
【0249】
転写因子の発現に対するPI3-キナーゼ阻害剤の作用
経路特異的阻害剤の影響を詳細に分析するために、転写因子の発現の変化を評価した。示すように、LY294002(図23A、23B、及び23C)
及びSH-6(図24A、24B、及び24C)の存在下で成長させたPBLは、特異的T細胞転写因子:FOXP3 (図23A及び24A)、Tbox21(図23B及び24B)及びGATA3(図23C及び24C)の有意な上方調節を示した。重要なことに、変化の大きさは両方の阻害剤について同一であった。
【0250】
本データは、PI-3キナーゼは、増殖アッセイ法で評価したところ制御性T細胞にとって顕性な経路であることを示している。加えて、TCRシグナリングにとってのイニシエータであるLckのチロシンリン酸化は、両方の阻害剤にとって感受性であるが、Treg下位集団内のみである(THl及びTH2細胞ではない)。
【0251】
該データはさらに、TCR活性化があると、LY294002及びSH-6の影響を受けたチロシンリン酸化プロフィールは異なるが、各T細胞亜集団は一致することも示す。FOXP3, Tbox21及びGATA3
転写因子の発現は、LY294002及びSH-6の存在下でヒトPBL培養株において有意に向上する。
【0252】
等価物
当業者であれば、慣例的な実験によって、ここに解説した本発明の具体的な実施態様の均等物を数多く、認識し、又は確認できることであろう。このような等価物は以下の請求の範囲の包含するところと、意図されている。
【0253】
【表1】

【0254】
【表2】












【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象におけるエフェクタT細胞機能に対する制御性T細胞のバランスを調節することから利点が得られる症状を有する対象を治療する組成物であって、当該組成物がJagged-1、GPR-32、CD83、CD84、CD89、セロトニンR、BY55、セロトニンR2C、GPR63、ヒスタミンR-H4、GPR58、EPO-R、PSG-1、PSG-3、PSG-6、PSG-9、PDE-4d、およびPI-3-関連キナーゼ
からなるグループから選択される分子の発現または活性を調節する物質を含む組成物
【請求項2】
請求項1に記載の組成物であって、当該組成物において、前記分子は遺伝子であって、前記遺伝子の発現は下方調節されている、組成物
【請求項3】
請求項1に記載の組成物であって、当該組成物において、前記分子はポリペプチドであって、前記ポリペプチドは下方調節されている、組成物
【請求項4】
請求項1に記載の組成物であって、当該組成物において、前記分子は遺伝子であって、前記遺伝子の発現は上方調節されている、組成物
【請求項5】
請求項1に記載の組成物であって、当該組成物において、前記分子はポリペプチドであって、前記ポリペプチドは上方調節されている、組成物
【請求項6】
請求項1に記載の組成物であって、当該組成物において、前記対象において、制御性T細胞の機能に対してエフェクタT細胞の機能が阻害される、組成物
【請求項7】
請求項に記載の組成物であって、当該組成物において、前記症状が、移植、アレルギー応答、および自己免疫疾患からなるグループから選択される、組成物
【請求項8】
請求項1に記載の組成物であって、当該組成物において、前記対象において、制御性T細胞の機能に対してエフェクタT細胞の機能が刺激される、組成物
【請求項9】
請求項に記載の組成物であって、当該組成物において、前記症状はウイルス感染症、細菌感染症、寄生虫感染症および腫瘍からなるグループから選択される、組成物
【請求項10】
エフェクタT細胞と制御性T細胞を含む免疫細胞の個体群における制御性T細胞の機能に対するエフェクタT細胞の機能を調節する組成物は、前記細胞の個体群を前記免疫細胞の少なくとも一部分の中のJagged-1、GPR-32、CD83、CD84、CD89、セロトニンR、BY55、セロトニンR2C、GPR63、ヒスタミンR-H4、GPR58、EPO-R、PSG-1、PSG-3、PSG-6、PSG-9、PDE-4d、およびPI-3-関連キナーゼ
からなるグループから選択された分子の発現または活性を調節する物質を含む組成物
【請求項11】
請求項10に記載の組成物であって、当該組成物において、前記分子は遺伝子であって、前記遺伝子の発現は下方調節されている、組成物
【請求項12】
請求項10に記載の組成物であって、当該組成物において、前記分子はポリペプチドであって、前記ポリペプチドは下方調節されている、組成物
【請求項13】
請求項10に記載の組成物であって、当該組成物において、前記分子は遺伝子であって、前記遺伝子の発現は上方調節されている、組成物
【請求項14】
請求項10に記載の組成物であって、当該組成物において、前記分子はポリペプチドであって、前記ポリペプチドは上方調節されている、組成物
【請求項15】
請求項10に記載の組成物であって、当該組成物において、前記対象において、制御性T細胞の機能に対するエフェクタT細胞の機能が阻害される、組成物
【請求項16】
請求項15に記載の組成物であって、当該組成物において、前記症状が、移植、アレルギー応答、および自己免疫疾患からなるグループから選択される、組成物
【請求項17】
請求項10に記載の組成物であって、当該組成物において、前記対象において、制御性T細胞の機能に対してエフェクタT細胞の機能が刺される、組成物
【請求項18】
請求項17に記載の組成物であって、当該組成物において、前記症状はウイルス感染症、細菌感染症、寄生虫感染症および腫瘍からなるグループから選択される、組成物

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23A】
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【図23B】
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【図23C】
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【図24A】
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【図24B】
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【図24C】
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【公開番号】特開2010−215649(P2010−215649A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125765(P2010−125765)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【分割の表示】特願2005−501146(P2005−501146)の分割
【原出願日】平成15年10月9日(2003.10.9)
【出願人】(505131946)トレラクス, インク. (6)
【氏名又は名称原語表記】Tolerx,Inc.
【住所又は居所原語表記】300 Technology Square,Cambridge, MA 02139 (US).
【Fターム(参考)】